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特開2024-50344マスタロータ、不釣合い測定装置および不釣合いの補正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050344
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】マスタロータ、不釣合い測定装置および不釣合いの補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 1/30 20060101AFI20240403BHJP
   G01M 1/16 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
G01M1/30
G01M1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157167
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000150729
【氏名又は名称】株式会社長浜製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久松 正典
(72)【発明者】
【氏名】永池 啓貴
【テーマコード(参考)】
2G021
【Fターム(参考)】
2G021AC03
2G021AC10
2G021AF08
2G021AG01
2G021AM08
(57)【要約】
【課題】偏重心量が零の状態と偏重心量がある状態とを、全体の質量を変化させることなく切り換えることができるマスタロータを提供する。打ち消し用偏重心量が零の状態と、打ち消し用偏重心量がある状態とを、駆動ユニット全体の質量を変化させることなく切り換えることができる不釣合い測定装置を提供する。不釣合いを精度良く補正できる不釣合いの補正方法を提供する。
【解決手段】マスタロータ1は、ロータ本体2と、補償ウェイト3とを備えている。ロータ本体2の第1取り付け位置P1に補償ウェイト3を取り付けかつ第2取り付け位置P2に補償ウェイト3を取り付けない状態(図(A)参照)で、マスタロータ1の偏重心量が零になる。ロータ本体2の第2取り付け位置P2に補償ウェイト3を取り付けかつ第1取り付け位置P1に補償ウェイト3を取り付けない状態(図(B)参照)では、マスタロータ1の偏重心量Uは、予め定める偏重心量になる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ本体と補償ウェイトとを含むマスタロータであって、
前記ロータ本体の回転軸線から半径方向に同じ距離隔てられかつ位相が互いに180°異なる第1取り付け位置および第2取り付け位置に、前記補償ウェイトを取り付け可能であって、
前記第1取り付け位置に前記補償ウェイトを取り付けかつ前記第2取り付け位置に前記補償ウェイトを取り付けない第1状態で、前記マスタロータの偏重心量が零になり、
前記第2取り付け位置に前記補償ウェイトを取り付けかつ前記第1取り付け位置に前記補償ウェイトを取り付けない第2状態で、前記マスタロータの偏重心量が零ではない予め定める量になる、マスタロータ。
【請求項2】
請求項1に記載のマスタロータを用いた、不釣合い測定装置における不釣合いの補正方法であって、
前記第1状態の前記マスタロータを、前記不釣合い測定装置によって測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づいて較正および偏心補償の少なくとも一方を行う処理工程と、
前記第2状態の前記マスタロータを、前記不釣合い測定装置によって測定し、その測定結果に基づいて、不釣合いが零になるように前記不釣合い測定装置を調整するマスタ補正工程と、を含む、補正方法。
【請求項3】
ロータを支持して所定の回転軸線まわりに回転させるスピンドルを有する駆動ユニットと、
前記駆動ユニットを振動可能に支持する支持部と、
前記駆動ユニットの振動を検出して、前記ロータの不釣合いを測定する測定部と、
前記ロータの不釣合いを打ち消す打ち消し用偏重心量を、前記支持部に支持されている前記駆動ユニットに発生させるためのダミーウェイトと、を含み、
前記ダミーウェイトが、互いに同じ重量を有する2つの個別ウェイトを含み、
前記回転軸線から半径方向に同じ距離隔てられかつ位相が互いに180°異なる第1配置位置および第2配置位置に、前記個別ウェイトを配置可能であって、
前記第1配置位置に1つの前記個別ウェイトを配置し、かつ前記第2配置位置に1つの前記個別ウェイトを配置した状態で、前記駆動ユニットに生じる前記打ち消し用偏重心量が零になり、
前記第1配置位置に2つの前記個別ウェイトを配置し、かつ前記第2配置位置に前記個別ウェイトを配置しない状態で、前記駆動ユニットに生じる前記打ち消し用偏重心量が零ではない予め定める量になる、不釣合い測定装置。
【請求項4】
ロータを支持して所定の回転軸線まわりに回転させるスピンドルを有する駆動ユニットと、前記駆動ユニットを振動可能に支持する支持部と、前記駆動ユニットの振動を検出して、前記ロータの不釣合いを測定する測定部と、前記ロータの不釣合いを打ち消す打ち消し用偏重心量を、前記支持部に支持されている前記駆動ユニットに発生させるためのダミーウェイトであって、互いに同じ重量を有する2つの個別ウェイトを含むダミーウェイトと、を含む不釣合い測定装置における不釣合いの補正方法であって、
前記駆動ユニットに生じる前記打ち消し用偏重心量を零にするために、前記回転軸線から半径方向に隔てられた所定の第1配置位置に1つの前記個別ウェイトを配置し、かつ前記回転軸線から前記第1配置位置と半径方向に同じ距離隔てられかつ前記第1配置位置と位相が180°異なる第2配置位置に1つの前記個別ウェイトを配置する工程と、
前記駆動ユニットに生じる前記打ち消し用偏重心量を零ではない予め定める量にするために、前記第2配置位置に前記個別ウェイトを配置せずに前記第1配置位置に2つの前記個別ウェイトを配置する工程と、を含む、補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マスタロータ、不釣合い測定装置および不釣合い測定装置における不釣合いの補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非対称のロータを把持して不釣合い測定装置によって測定するとき、不釣合い測定装置に、ロータの偏重心量を機械的に補償する必要がある。このような場合として、ロータが、許容値に比べてはるかに大きな偏重心量(例えば、許容値が10g・cmに対して偏重心量が4000g・cm)を有している場合が挙げられる。このような場合には、不釣合い測定装置においてロータの偏重心量を補正(不釣合いを補正)するために、不釣合い測定装置の機械側にダミーウェイトが取り付けられる。ダミーウェイトの調整は、マスタ補正によって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-37200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マスタ補正において用いられるマスタロータ101は、図9に示すように、円盤状のロータ本体102と、偏重心量に相当する補償ウェイト103とを備えている。ロータ本体102は、偏重心量が零である。そのため、図9(A)に示す、補償ウェイト103をロータ本体102から取り外した状態では、マスタロータ101の偏重心量が零である。このような偏重心量が零のマスタロータ101の状態を第1状態とする。以下、第1状態のマスタロータ101を、「マスタロータ101A」という場合がある。
【0005】
マスタ補正では、この第1状態のマスタロータ101Aを不釣合い測定装置にセットして最初の測定が行われ、その測定結果に基づいて所定処理(目盛較正および偏心補償)が行われる。この所定処理は、偏重心量が零の第1状態のマスタロータ101Aに対して行う必要がある。
【0006】
その後、図9(B)に示すように、第1状態のマスタロータ101Aのロータ本体102に対し、予め定める偏重心量Uに相当する補償ウェイト103が、マスタロータ101の回転軸線Jから離れた位置に取り付けられる。このような偏重心量Uの不釣合いがあるマスタロータ101の状態を第2状態とする。
【0007】
以下、第2状態のマスタロータ101を、「マスタロータ101B」という場合がある。第2状態のマスタロータ101Bを不釣合い測定装置に取り付け、かつこの偏重心量Uを打ち消すようなダミーウェイトを不釣合い測定装置の機械側に取り付ける。具体的には、第2状態のマスタロータ101Bを不釣合い測定装置にセットして、不釣合い測定装置において不釣合い測定が行われ、その測定結果が零になるように、ダミーウェイトの重さや位置等を調整して、ロータの偏重心量を補正する(マスタ補正工程)。
【0008】
ロータ本体102の質量をMとし、補償ウェイト103の質量をmとすると、最初の測定(図9(A)参照)では、マスタロータ101の全体の質量はMである。一方、マスタ補正工程の測定(図9(B)参照)とでは、マスタロータ101の全体の質量が、「M+m」になる。
【0009】
つまり、最初の測定時(図9(A)参照)と、マスタ補正工程時(図9(B)参照)とでは、補償ウェイト103の質量mの分だけ、マスタロータ101の質量が変化する。マスタロータ101の全体の質量が、最初の測定時とマスタ補正工程時とで変化すると、不釣合い測定に影響を与える。とくに、補償ウェイト103の質量が大きい場合には、マスタ補正を精度良く行うことができない。
【0010】
また、マスタ補正工程では、偏重心量を打ち消すようなダミーウェイトを不釣合い測定装置の駆動ユニットに取り付けることにより、打ち消し用偏重心量を駆動ユニット(不釣合い測定装置の機械側)に生じさせる。このとき、打ち消し用偏重心量が駆動ユニットに生じている場合と、打ち消し用偏重心量が駆動ユニットに生じていない場合(ダミーウェイトが駆動ユニットから取り外されている状態)とで、駆動ユニットの全体の質量が変化する。打ち消し用偏重心量が生じている場合と生じていない場合とで駆動ユニットの全体の質量が変化するため、ロータの偏重心量の補正(不釣合いの補正)の精度を高めるには限界がある。
【0011】
以上により、この発明の目的は、偏重心量が零の状態と、偏重心量がある状態とを、全体の質量を変化させることなく切り換えることができるマスタロータを提供することである。
【0012】
また、この発明の目的は、打ち消し用偏重心量が零の状態と、打ち消し用偏重心量がある状態とを、駆動ユニット全体の質量を変化させることなく切り換えることができる不釣合い測定装置を提供することである。
【0013】
また、この発明の目的は、不釣合い測定装置における不釣合いの補正を精度良く行うことができる、不釣合いの補正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の一実施形態は、ロータ本体と補償ウェイトとを含むマスタロータを提供する。そして、前記マスタロータにおいて、前記ロータ本体の回転軸線から半径方向に同じ距離隔てられかつ位相が互いに180°異なる第1取り付け位置および第2取り付け位置に、前記補償ウェイトを取り付け可能である。そして、前記第1取り付け位置に前記補償ウェイトを取り付けかつ前記第2取り付け位置に前記補償ウェイトを取り付けない第1状態で、前記マスタロータの偏重心量が零になる。そして、前記第2取り付け位置に前記補償ウェイトを取り付けかつ前記第1取り付け位置に前記補償ウェイトを取り付けない第2状態で、前記マスタロータの偏重心量が零ではない予め定める量になる。
【0015】
この構成によれば、マスタロータにおける補償ウェイトの取り付け先を、第1取り付け位置と第2取り付け位置とに切り換えることにより、マスタロータの状態を、偏重心量が零の第1状態と、偏重心量がある第2状態との間で切り換えることができる。ロータ本体に対する補償ウェイトの取り付け位置が変わるだけであるので、マスタロータの第1状態とマスタロータの第2状態との間でマスタロータの全体の質量は変化しない。これにより、マスタロータにおいて、偏重心量が零の第1状態と、偏重心量がある第2状態とを、全体の質量を変化させることなく切り換えることができる。
【0016】
この発明の一実施形態は、前記マスタロータを用いた、不釣合い測定装置における不釣合いの補正方法を提供する。そして、この補正方法は、前記第1状態の前記マスタロータを、前記不釣合い測定装置によって測定する測定工程と、前記測定工程の測定結果に基づいて較正および偏心補償の少なくとも一方を行う処理工程と、前記第2状態の前記マスタロータを、前記不釣合い測定装置によって測定し、その測定結果に基づいて、不釣合いが零になるように前記不釣合い測定装置を調整するマスタ補正工程と、を含む。
【0017】
測定工程では、偏重心量が零の第1状態のマスタロータが不釣合い測定装置によって測定され、測定工程の測定結果に基づいて較正および偏心補償の少なくとも一方が行われる。また、マスタ補正工程では、偏重心量がある第2状態のマスタロータが不釣合い測定装置によって測定され、その測定結果に基づいてマスタ補正が行われる。補正用マスタロータの第1状態と補正用マスタロータの第2状態との間でマスタロータの全体の質量は変化しない。すなわち、測定工程時とマスタ補正工程時とでマスタロータの質量変化がない。これにより、不釣合い測定装置における不釣合いの補正を精度良く行うことができる。
【0018】
また、この発明の一実施形態は、ロータを支持して所定の回転軸線まわりに回転させるスピンドルを有する駆動ユニットと、前記駆動ユニットを振動可能に支持する支持部と、前記駆動ユニットの振動を検出して、前記ロータの不釣合いを測定する測定部と、前記ロータの不釣合いを打ち消す打ち消し用偏重心量を、前記支持部に支持されている前記駆動ユニットに発生させるためのダミーウェイトと、を含む不釣合い測定装置を提供する。前記ダミーウェイトが、互いに同じ重量を有する2つの個別ウェイトを含む。そして、前記不釣合い測定装置において、前記回転軸線から半径方向に同じ距離隔てられかつ位相が互いに180°異なる第1配置位置および第2配置位置に、前記ダミーウェイトを配置可能である。そして、前記第1配置位置に1つの前記個別ウェイトを配置し、かつ前記第2配置位置に1つの前記個別ウェイトを配置した状態で、前記ダミーウェイトにより生じる前記打ち消し用偏重心量が零になる。そして、前記第1配置位置に2つの前記個別ウェイトを配置し、かつ前記第2配置位置に前記個別ウェイトを配置しない状態で、前記ダミーウェイトにより生じる前記打ち消し用偏重心量が零ではない予め定める量になる。
【0019】
この構成によれば、ダミーウェイトにより生じる打ち消し用偏重心量を零にするときには、第1配置位置および第2配置位置に、同じ質量を有する個別ウェイトを1つずつ配置する。また、ダミーウェイトにより生じる打ち消し用偏重心量を零ではない予め定める量にするときには、第1配置位置に2つの個別ウェイトを配置し、かつ第2配置位置に個別ウェイトを配置しない。個別ウェイトの配置先を変更することにより、ダミーウェイトにより生じる打ち消し用偏重心量を、零と零ではない予め定める量との間で切り換えることができる。そのため、ダミーウェイトが取り付けられている駆動ユニット全体の質量を変化させることなく、ダミーウェイトにより生じる打ち消し用偏重心量を切り換えることができる。これにより、不釣合い測定装置における不釣合いの補正(ロータの偏重心量の補正)を精度良く行うことができる。
【0020】
また、この発明の一実施形態は、前記不釣合い測定装置における不釣合いの補正方法を提供する。前記補正方法は、前記駆動ユニットに生じる前記打ち消し用偏重心量を零にするために、前記回転軸線から半径方向に隔てられた所定の第1配置位置に1つの前記個別ウェイトを配置し、かつ前記回転軸線から前記第1配置位置と半径方向に同じ距離隔てられかつ前記第1配置位置と位相が180°異なる第2配置位置に1つの前記個別ウェイトを配置する工程と、前記駆動ユニットに生じる前記打ち消し用偏重心量を零ではない予め定める量にするために、前記第2配置位置に前記個別ウェイトを配置せずに前記第1配置位置に2つの前記個別ウェイトを配置する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る補正方法が実施される不釣合い測定装置の正面図である。
図2図2は、前記補正方法の一例としてのマスタ補正を説明するための流れ図である。
図3図3は、マスタロータのロータ本体の平面図である。
図4図4は、前記ロータ本体を説明するための図である。図(A)は、前記ロータ本体の側面図であり、図(B)は、図3を切断面線B-Bから見た拡大断面図である。
図5図5は、前記マスタロータを説明するための側面図である。図(A)は前記マスタロータの第1状態の図であり、図(B)は前記マスタロータの第2状態の図である。
図6図6は、この発明の変形例に係るマスタロータを説明するための図である。図(A)は、前記マスタロータのロータ本体の平面図であり、図(B)は、前記ロータ本体の側面図である。
図7図7は、この発明の他の実施形態(2面測定の実施形態)に係るマスタロータを説明するための側面図である。
図8図8は、この発明のさらに他の実施形態に係る不釣合い測定装置の要部を拡大して示す正面図である。
図9図9は、従来のマスタロータを説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、この発明の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、この発明の一実施形態に係る補正方法が実施される不釣合い測定装置51の要部の正面図である。不釣合い測定装置51は、床面Yに固定される本体フレーム52と、本体フレーム52に固定された例えば板状の支持部53と、例えば垂直軸線を有する円柱状に形成されて支持部53を上下に貫通したスピンドル54と、を含む。スピンドル54と、スピンドル54を回転自在に支持する軸受部等(図示せず)とは、不釣合い測定装置51における駆動ユニット60を構成する。駆動ユニット60は、支持部53に設けられたバネ状の弾性支持部55によって振動可能に支持される。スピンドル54は、上下に延びる回転シャフト54aと、回転シャフト54aに一体回転する円盤部54bとを有している。回転シャフト54aの上端部には、被試験体である非対称のロータRが取り付けられる把持部61が結合している。把持部61は、例えばインナーコレットによって構成されている。スピンドル54は、その中心を通る垂直軸線を所定の回転軸線Jとして、回転軸線Jまわりに回転可能である。スピンドル54は、この実施形態のように縦に配置されるのに代えて、横に配置されてもよい。
【0024】
不釣合い測定装置51は、ダイレクトドライブやベルトドライブ等によってスピンドル54を回転させるモータ56と、モータ56の回転を制御する制御部58と、スピンドル54の回転中における駆動ユニット60の振動を検出する検出部57と、検出部57に電気的に接続された計測部59とをさらに含む。
【0025】
この実施形態では、モータ56は、駆動ユニット60に含まれる。検出部57として、公知の振動検出器を採用できる。制御部58および計測部59は、マイクロコンピュータやメモリ等によって構成されている。制御部58は、モータ56に対して電気的に接続されており、モータ56への印加電圧を制御することによって、モータ56の動作を制御する。駆動ユニット60の振動に関する検出部57の検出値は、計測部59に入力される。検出部57および計測部59によって、駆動ユニット60の振動を検出して、ロータRの不釣合いを測定する測定部62が構成される。
【0026】
スピンドル54の円盤部54bの例えば上面には、回転軸線Jから間隔を隔てた一箇所に、ダミーウェイト21が取り付けられている(配置されている)。すなわち、不釣合い測定装置51の機械側にダミーウェイト21が設けられている。ダミーウェイト21は、非対称のロータRの偏重心量を打ち消すダミーウェイトである。すなわち、ダミーウェイト21は、非対称のロータRの不釣合いを打ち消す打ち消し用偏重心量を、駆動ユニット60に発生させる。ダミーウェイト21は、例えば固定ウェイトである。
【0027】
不釣合い測定装置51では、ロータRの測定前に、ダミーウェイト21を調整して、ロータの偏重心量を補正するマスタ補正が実行される。不釣合い測定装置51のマスタ補正には、マスタロータ1が用いられる。
【0028】
図2は、前記補正方法の一例としてのマスタ補正を説明するための流れ図である。
【0029】
不釣合い測定装置51に対するマスタ補正では、まず、被試験体であるロータRに対応するマスタロータ1が、作業者によって把持部61に取り付けられる。把持部61に取り付けられたマスタロータ1は、把持部61によってチャックされた状態にあり、スピンドル54と一体回転可能である。
【0030】
次に、制御部58は、モータ56を制御して、マスタロータ1が取り付けられた状態にあるスピンドル54を所定回転数で定常回転させる。スピンドル54の回転中に駆動ユニット60に生じる振動は、検出部57によって検出され、計測部59は、検出部57の検出値に基づいて、マスタロータ1の不釣合いを測定する(測定工程S1)。このときのマスタロータ1は、偏重心量が零(すなわち、第1状態)のマスタロータである。偏重心量は、ベクトルであり、一般的な単位は、g・cmやg・mmである。
【0031】
次に、作業者は、補償ウェイト3の取り付け位置を変更することにより、マスタロータ1の状態を第1状態から第2状態に切り換える。第2状態のマスタロータ1は、予め定める偏重心量Uを有している。また、作業者は、ダミーウェイト21を、スピンドル54の円盤部54bに取り付ける。
【0032】
そして、制御部58は、第2状態のマスタロータ1が取り付けられた状態で、スピンドル54を回転させる。制御部58は、検出部57の検出値に基づいて、マスタロータ1の不釣合いを測定する。作業者は、不釣合いの測定結果が零になるように、ダミーウェイト21を調整する。具体的には、ダミーウェイト21の質量を調節する。これにより、マスタ補正が行われる(マスタ補正工程S4)。この実施形態では、ダミーウェイト21を固定ウェイトとしたが、可動ウェイトとしてもよい。その後、マスタ補正済みの不釣合い測定装置51を用いて、マスタロータ1の不釣合いが計測される。
【0033】
次に、図3図5を参照しながら、マスタロータ1の構成を詳細に説明する。
【0034】
図5に示すように、マスタロータ1は、円盤状のロータ本体2と、補償ウェイト3とを備えている。ロータ本体2は、円盤部4と、中心部において、回転軸線J方向の一方側(図4の右側)に延びる円筒状のボス部5とを備えている。ロータ本体2の円盤部4の中心は、回転軸線Jに一致している。円盤部4の反対側の主面4aには、円状の浅い溝6が形成されている。
【0035】
図3に示すように、ロータ本体2の主面4aには、周方向Sの2か所に、補償ウェイト3を取り付けるための第1取り付け位置P1および第2取り付け位置P2が設定されている。第1取り付け位置P1および第2取り付け位置P2は、ロータ本体2の回転軸線Jから半径方向に同じ距離隔てられかつ位相が互いに180°異なっている。
【0036】
図3に示すように、第1取り付け位置P1および第2取り付け位置P2には、ねじ穴7が形成されている。補償ウェイト3のねじ部(図示しない)が、第1取り付け位置P1のねじ穴7または第2取り付け位置P2のねじ穴7にねじ締結されることにより、補償ウェイト3がロータ本体2に取り付けられ、補償ウェイト3とロータ本体2とが結合される。補償ウェイト3とロータ本体2との結合が、ねじ結合以外の結合方法によって実現されていてもよい。
【0037】
図4(A)に示すように、マスタロータ1のロータ本体2は、半径方向に所定の偏重心量U1を有している。この偏重心量U1は、マスタロータ1の回転軸線Jから、第2取り付け位置P2(のねじ穴7)に向かう方向の偏重心量である。図3および図4(B)に示すように、ロータ本体2の円盤部4には、例えば一対の凹所10が形成されている。2つの凹所10は、互いに同じ形状および同じ大きさを有している。凹所10は、円盤部4を軸方向に貫通する穴である。凹所10を形成する前のロータ本体2において、回転軸線Jに対して回転対称であり、偏重心量は生じていない。一対の凹所10を形成することにより、ロータ本体2において、第2取り付け位置P2(のねじ穴7)に向かう方向に偏重心量U1が生じる。この偏重心量U1は、マスタロータ1の第2状態で、マスタロータ1に付与される偏重心量Uの1/2の偏重心量に設定されている。なお、凹所10が穴でなく、主面(主面4aや円盤部4の一方側の主面)に形成された溝であってもよい。
【0038】
図5(A)に示すマスタロータ1の第1状態では、ロータ本体2の第1取り付け位置P1に補償ウェイト3が取り付けられる。補償ウェイト3の質量は、mである。補償ウェイト3の質量は、取付半径が同じ場合、補償ウェイト103(図9(B)参照)の質量(質量m)の1/2になる。第1状態では、ロータ本体2の第2取り付け位置P2には、補償ウェイト3は取り付けられない。以下、第1状態のマスタロータ1を、「マスタロータ1A」という場合がある。
【0039】
図5(A)に示すように、第1取り付け位置P1に補償ウェイト3が取り付けられることにより、補償ウェイト3による偏重心量U2が発生する。偏重心量U2は、マスタロータ1に付与される偏重心量Uの1/2の大きさで位相が180°異なる偏重心量である。マスタロータ1の第1状態では、ロータ本体2の偏重心量U1と、補償ウェイト3による偏重心量U2とが、互いに反対方向に作用して互いに打ち消し合う。これにより、第1状態のマスタロータ1Aの偏重心量は、零になる。
【0040】
図5(B)に示すマスタロータ1の第2状態では、ロータ本体2の第2取り付け位置P2に補償ウェイト3が取り付けられる。第2状態では、ロータ本体2の第1取り付け位置P1には、補償ウェイトは取り付けられない。マスタロータ1の第1状態から、補償ウェイト3の取り付け先を、第1取り付け位置P1から第2取り付け位置P2に切り換えることにより、マスタロータ1を第2状態に切り換えることができる。以下、第2状態のマスタロータ1を、「マスタロータ1B」という場合がある。
【0041】
図5(B)に示すように、第2取り付け位置P2に補償ウェイト3が取り付けられることにより、マスタロータ1の第2状態では、補償ウェイト3による偏重心量U3が発生する。前述のように、第2取り付け位置P2は、第1取り付け位置P1と、ロータ本体2の回転軸線Jから半径方向に同じ距離隔てられかつ位相が互いに180°異なっている。そのため、偏重心量U3は、偏重心量U2と逆向きでかつ偏重心量U2と同じ大きさであり、偏重心量U3の大きさは、偏重心量Uの1/2の大きさである。マスタロータ1の第1状態では、ロータ本体2の偏重心量U1と、補償ウェイト3による偏重心量U3とが、互いに同じ方向を向いて互いに強め合う。これにより、第2状態のマスタロータ1Bの偏重心量は、U(=U1+U3)になる。
【0042】
ロータ本体2の質量をMとし、補償ウェイト3の質量をmとすると、マスタロータ1A(図5(A)参照)およびマスタロータ1B(図5(B)参照)の質量は、いずれも「M+m」になる。これらマスタロータ1A,1Bの質量(M+m)は、不釣合い測定装置51による不釣合い測定の対象になるロータRの質量であるMと同じである(M=M+m)。
【0043】
マスタロータ1の第1状態と、マスタロータ1の第2状態とでは、ロータ本体2に対する補償ウェイト3の取り付け位置が変わるだけであるので、第1状態と第2状態との間でマスタロータ1の全体の質量は変化しない。そのため、マスタロータ1において、偏重心量が零の第1状態と、偏重心量がある第2状態とを、全体の質量を変化させることなく切り換えることができる。
【0044】
図2に示すように、不釣合い測定装置51で実行される測定工程S1では、偏重心量が零の第1状態のマスタロータ1Aが測定され、測定工程S1の測定結果に基づいて、目盛較正(較正)S2および偏心補償S3が行われる。
【0045】
目盛較正S2は、不釣合い測定装置51において較正を行う処理である。具体的には、目盛較正S2では、目盛較正用試加ウェイトを用いて、較正係数が算出される。制御部58は、把持部61に把持されたマスタロータ1Aを駆動ユニット60によって測定回転数で回転させる。このときの検出部57の検出値に基づいて、計測部59が較正係数を算出する。
【0046】
偏心補償S3は、スピンドル54と把持部61との回転中心のずれを算出し、そのずれが不釣合い測定に影響を与えないように電気的に補償する処理である。上記のずれは、把持部61に応じて変化する。制御部58は、把持部61に把持されたマスタロータ1Aを駆動ユニット60によって測定回転数で回転させる。このときの検出部57の検出値に基づいて、計測部59が、偏心補償S3のための補正量を算出する。
【0047】
また、マスタ補正工程S4では、偏重心量Uがある第2状態のマスタロータ1Bが不釣合い測定装置51によって測定され、その測定結果に基づいてマスタ補正工程S4が行われる。測定工程S1時とマスタ補正工程S4時とでマスタロータ1の質量変化がない。これにより、不釣合い測定装置51において、マスタ補正を精度良く行うことができる。
【0048】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は他の形態で実施することもできる。
【0049】
図6は、この発明の変形例に係るマスタロータ201を説明するための図である。マスタロータ201が、マスタロータ1と相違する点は、ロータ本体2に代えて、ロータ本体202を用いた点にある。ロータ本体202は、ロータ本体2と同等の偏重心量U1を有している。ロータ本体202の円盤部4の反対側の主面4aには、溝6(図3等参照)に代えて溝206が形成されている。溝206は、溝6と同様に浅い円状の溝である。溝206は、回転軸線Jと一致しない中心Cを有している点で溝6と異なっている。ロータ本体202の円盤部4には、凹所10(図3等参照)は形成されていない。
【0050】
図7に示す実施形態のように、円盤状でなく、回転軸線J方向に厚みを有するマスタロータ301にも本発明を適用できる。この場合、マスタロータ301は、例えば略筒状のロータ本体302と、4つの補償ウェイト303とを備えている。ロータ本体302の質量は、Mbである。補償ウェイト303の質量は、いずれもmbである。ロータ本体302の一方面302aには、周方向Sの2か所に、補償ウェイト3を取り付けるための第1取り付け位置P11および第2取り付け位置P12が設定されている。第1取り付け位置P11および第2取り付け位置P12は、ロータ本体302の回転軸線Jから半径方向に同じ距離隔てられかつ位相が互いに180°異なっている。ロータ本体302の他方面302bには、周方向Sの2か所に、補償ウェイト3を取り付けるための第3取り付け位置P13および第4取り付け位置P14が設定されている。第1取り付け位置P11および第2取り付け位置P12は、ロータ本体302の回転軸線Jから半径方向に同じ距離隔てられかつ位相が互いに180°異なっている。第1取り付け位置P11および第3取り付け位置P13は、周方向Sの位相が互いに揃っており、第2取り付け位置P12および第4取り付け位置P14は、周方向Sの位相が互いに揃っている。
【0051】
図7(A)に示すマスタロータ301の第1状態(偏重心量が零)では、ロータ本体302の4つの取り付け位置P11,P12,P13,P14の全てに補償ウェイト303が1つずつ取り付けられる。ロータ本体302は、偏重心量が零である。4つの補償ウェイト303による偏重心量U2が、互いに反対方向に作用して互いに打ち消し合う。これにより、第1状態のマスタロータ301の偏重心量は、零になる。
【0052】
図7(B)に示すマスタロータ301の第2状態(偏重心量あり)では、ロータ本体2の第1取り付け位置P11および第4取り付け位置P14に補償ウェイト303が2つずつ取り付けられる。第2状態では、ロータ本体302の第2取り付け位置P12および第3取り付け位置P13には、補償ウェイトは取り付けられない。
【0053】
図8は、この発明のさらに他の実施形態に係る不釣合い測定装置451の要部を拡大して示す正面図である。不釣合い測定装置451は、ダミーウェイト21に代えてダミーウェイト421を設ける点で、図1図6の実施形態と相違している。
【0054】
ダミーウェイト421は、2つの個別ウェイト421a,421bを含む。2つの個別ウェイト421a,421bは、互いに同じ諸元を有している。すなわち、2つの個別ウェイト421a,421bは、互いに同形状であり、同じ大きさであり、同じ質量を有している。
【0055】
ダミーウェイト421による打ち消し用偏重心量を駆動ユニット60に発生させない(打ち消し用偏重心量を零にする)とき、すなわち上述の目盛較正(較正)S2および偏心補償S3の際には、図8(A)に示すように、第1配置位置P21に個別ウェイト421aを配置し、第2配置位置P22に個別ウェイト421bを配置する。第1配置位置P21および第2配置位置P22は、回転軸線Jから半径方向に同じ距離隔てられかつ位相が互いに180°異なる位置である。この状態では、第1配置位置P21に配置されている個別ウェイト421aにより発生する偏重心量と、第2配置位置P22に配置されている個別ウェイト421bにより発生する偏重心量とが互いに打ち消し合う。その結果、ダミーウェイト421による打ち消し用偏重心量が駆動ユニット60に発生しない。
【0056】
一方、ダミーウェイト421による打ち消し用偏重心量を駆動ユニット60に発生させるとき、すなわち上述のマスタ補正工程S4の際には、図8(B)に示すように、第1配置位置P21に、2つの個別ウェイト421a,421bを配置し、第2配置位置P22に個別ウェイトを配置しない。この状態で、ダミーウェイト421により生じる前記打ち消し用偏重心量が、零ではない予め定める量になる。
【0057】
この実施形態によれば、2つの個別ウェイト421a,421bの配置先を変更することにより、ダミーウェイト421により生じる打ち消し用偏重心量を、零と予め定める量との間で切り換えることができる。個別ウェイト421a,421bの配置先を変更するだけであるので、ダミーウェイト421が取り付けられている駆動ユニット60全体の質量を変化させることなく、ダミーウェイト421により生じる打ち消し用偏重心量を切り換えることができる。これにより、不釣合い測定装置451におけるロータRの偏重心量の補正(不釣合いの補正)を精度良く行うことができる。
【0058】
以上、この発明の3つの実施形態について説明したが、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。
【0059】
例えば、マスタ補正工程S4として、ダミーウェイト21,421を用いた機械的な調整を例に挙げて説明したが、マスタ補正工程S4として、機械的な調整に加えて、電気的な調整を行うようにしてもよい。
【0060】
また、不釣合い測定装置51,451に対するマスタ補正(図2参照)において、目盛較正S2および偏心補償S3の双方を行うとして説明したが、目盛較正S2および偏心補償S3の一方のみを行うものであってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 :マスタロータ
2 :ロータ本体
3 :補償ウェイト
51 :不釣合い測定装置
53 :支持部
54 :スピンドル
60 :駆動ユニット
62 :測定部
201 :マスタロータ
202 :ロータ本体
301 :マスタロータ
302 :ロータ本体
303 :補償ウェイト
421 :ダミーウェイト
421a,421b:個別ウェイト
P1 :第1取り付け位置
P2 :第2取り付け位置
P21 :第1配置位置
P22 :第2配置位置
R :ロータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9