(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050351
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】電動式建設機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/24 20060101AFI20240403BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157186
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】今村 翔太
(72)【発明者】
【氏名】津村 浩志
【テーマコード(参考)】
2D015
【Fターム(参考)】
2D015GA03
2D015GB03
2D015GB07
(57)【要約】
【課題】車体が転倒した場合に、リチウムイオンバッテリまたは周辺機器の電気回路上の故障を防ぐことが可能な電動式建設機械を提供する。
【解決手段】電動式建設機械は、走行体1または旋回体2の傾斜角を検出する傾斜センサ31と、リチウムイオンバッテリ20とインバータ22とを導通または遮断する遮断リレー23と、傾斜センサ31の値が所定の閾値を超えた場合に、リチウムイオンバッテリ20とインバータ22とを接続する電力供給回路21が遮断されるように遮断リレー23を切り替えるコントローラ30とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、
前記走行体に旋回可能に取り付けられ、前記走行体とともに車体を構成する旋回体と、
前記旋回体に回動可能に取り付けられた作業装置と、
前記走行体、前記旋回体、および前記作業装置を駆動する複数のアクチュエータと、
前記複数のアクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動する電動モータと、
リチウムイオンバッテリと、
前記リチウムイオンバッテリに電力供給回路を介して接続され、前記リチウムイオンバッテリの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに供給するインバータとを備えた電動式建設機械において、
前記走行体または前記旋回体の傾斜角を検出する傾斜センサと、
前記電力供給回路を導通または遮断する遮断リレーと、
前記傾斜センサの値が所定の第1閾値を超えた場合に、前記電力供給回路が遮断されるように前記遮断リレーを切り替えるコントローラとを備える
ことを特徴とする電動式建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の電動式建設機械において、
前記走行体は、左クローラと、右クローラとを有し、
前記複数のアクチュエータは、前記左クローラを駆動する走行左モータと、前記右クローラを駆動する走行右モータとを含み、
前記コントローラは、
前記コントローラが起動した直後、または前記走行左モータおよび前記走行右モータが停止した直後の前記傾斜センサの値を基準傾斜角として記憶し、
前記走行体がジャッキアップされておらず、かつ前記走行左モータおよび前記走行右モータが停止した状態で、前記傾斜センサの値と前記基準傾斜角との差分が所定の第2閾値を超えた場合に、前記電力供給回路が遮断されるように前記遮断リレーを切り替える
ことを特徴とする電動式建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の電動式建設機械において、
前記走行体は、左クローラと、右クローラとを有し、
前記複数のアクチュエータは、前記左クローラを駆動する走行左モータと、前記右クローラを駆動する走行右モータとを含み、
前記コントローラは、前記走行体がジャッキアップされていない状態で、前記走行左モータまたは前記走行右モータが空転した場合に、前記電力供給回路が遮断されるように前記遮断リレーを切り替える
ことを特徴とする電動式建設機械。
【請求項4】
請求項2または3に記載の電動式建設機械において、
前記作業装置は、前記旋回体に回動可能に取り付けられたブームを有し、
前記複数のアクチュエータは、前記ブームを駆動するブームシリンダを含み、
前記電動式建設機械は、前記ブームシリンダのロッド側圧力を検出するブームロッド圧センサを備え、
前記コントローラは、
前記ブームロッド圧センサの値に基づき前記走行体がジャッキアップされているか否かを判定する
ことを特徴とする電動式建設機械。
【請求項5】
請求項3に記載の電動式建設機械において、
前記走行左モータのパイロット圧を検出する走行左パイロット圧センサと、
前記走行右モータのパイロット圧を検出する走行右パイロット圧センサと、
前記走行左モータの駆動圧を検出する走行左駆動圧センサと、
前記走行右モータの駆動圧を検出する走行右駆動圧センサとを備え、
前記コントローラは、
前記走行左パイロット圧センサの値と前記走行左駆動圧センサの値とに基づいて前記左クローラが空転していると判定し、
前記走行右パイロット圧センサの値と前記走行右駆動圧センサの値とに基づいて前記右クローラが空転していると判定する
ことを特徴とする電動式建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の電動式建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械が運用される環境は、斜面や不安定な足場も含まれ、機械が転倒してしまう可能性がある。転倒の可能性をオペレータに報知する手段も存在するが、オペレータが対応することができないまま転倒に至るケースも存在する。そのため、転倒しても大事に至らないための方策も重要である。例えば特許文献1では、電動式建設機械のリチウムイオンバッテリを保護構造で囲い、転倒時の衝撃による破損を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動式建設機械に使われるリチウムイオンバッテリは、極端に傾けた状態で使い続けることは推奨されていない。特許文献1の方策によれば、転倒時の衝撃によるリチウムイオンバッテリの物理的な破損(外傷等)を防止することができるものの、車体が転倒した状態でリチウムイオンバッテリの通電を継続した場合に、リチウムイオンバッテリまたは周辺機器に電気回路上の故障が生じる可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、車体が転倒した場合に、リチウムイオンバッテリまたは周辺機器の電気回路上の故障を防ぐことが可能な電動式建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、走行体と、前記走行体に旋回可能に取り付けられ、前記走行体とともに車体を構成する旋回体と、前記旋回体に回動可能に取り付けられた作業装置と、前記走行体、前記旋回体、および前記作業装置を駆動する複数のアクチュエータと、前記複数のアクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動する電動モータと、リチウムイオンバッテリと、前記リチウムイオンバッテリに電力供給回路を介して接続され、前記リチウムイオンバッテリの直流電力を交流電力に変換して前記電動モータに供給するインバータとを備えた電動式建設機械において、前記走行体または前記旋回体の傾斜角を検出する傾斜センサと、前記電力供給回路を導通または遮断する遮断リレーと、前記傾斜センサの値が所定の第1閾値を超えた場合に、前記電力供給回路が遮断されるように前記遮断リレーを切り替えるコントローラとを備えるものとする。
【0007】
以上のように構成した本発明によれば、走行体または旋回体が大きく傾斜した場合に、リチウムイオンバッテリとインバータとを接続する電力供給回路が遮断されるため、車体が転倒した状態で通電を継続することによるリチウムイオンバッテリまたは周辺機器の電気回路上の故障を防ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電動式建設機械によれば、車体が転倒した状態でリチウムイオンバッテリの通電を継続することによるリチウムイオンバッテリまたは周辺機器の電気回路上の故障を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態における油圧ショベルの外観図
【
図2】本発明の実施形態における油圧システムの構成図
【
図3】本発明の実施形態における電力システムの電気回路図
【
図4】本発明の実施形態における基準傾斜角の記憶に関わる車体の状態遷移図
【
図5】本発明の実施形態におけるリチウムイオンバッテリの状態遷移図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る電動式建設機械の実施形態について、油圧ショベルを例に挙げ、図面を参照して説明する。なお、各図中、同等の要素には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【0011】
図1は、本発明における油圧ショベルの外観図である。
図1において、油圧ショベルは、走行体1と、走行体1上に旋回可能に取り付けられ、走行体1とともに車体を構成する旋回体2と、旋回体2の前側に回動可能に取り付けられた作業装置3とを備える。旋回体2は、旋回モータ(図示せず)によって駆動される。
【0012】
作業装置3は、旋回体2に上下方向に回動可能に連結されたブーム4と、ブーム4の先端に上下方向に回動可能に連結されたアーム5とを有する。アーム5の先端には、作業内容に応じて必要なアタッチメント(本実施形態ではバケット6)が上下方向に回動可能に連結される。ブーム4はブームシリンダ7によって駆動され、アーム5はアームシリンダ8によって駆動され、バケット6はバケットシリンダ9によって駆動される。走行体1は、左クローラ10a、右クローラ10b、左クローラ10aを回転させる走行左モータ11a、右クローラ10bを回転させる走行右モータ11b(
図2に示す)とを有している。走行体1は、左クローラ10aおよび右クローラ10bの回転方向を独立して変えることで、前後進または旋回を行うことができる。
【0013】
図2は、
図1に示す油圧ショベルに搭載された油圧システムの構成図である。電動モータ12により発生した動力は、ギヤポンプ13とメインポンプ14を駆動する。ギヤポンプ13は、パイロットバルブ15に油圧を供給する。パイロットバルブ15は、オペレータの操作に応じてギヤポンプ13から供給された油圧を減圧し、コントロールバルブ16に入力されるパイロット圧を生成する。メインポンプ14は、コントロールバルブ16に油圧を供給する。コントロールバルブ16は、パイロットバルブ15から入力されたパイロット圧に応じて、アクチュエータ(ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、走行左モータ11a、走行右モータ11b、および旋回モータ)に油圧を供給する。アクチュエータが動作することで、ブーム4、アーム5、バケット6、左クローラ10a、および右クローラ10bが動作し、旋回体2が回動する。
【0014】
図3は、
図1に示す油圧ショベルに搭載された電力システムの電気回路図である。リチウムイオンバッテリ20は、電力供給回路21を介してインバータ22に接続されている。電力供給回路21には、遮断リレー23が設けられている。遮断リレー23のスイッチ側回路23aはリチウムイオンバッテリ20に接続され、ノーマルクローズ側接点23bはインバータ22に接続されている。インバータ22は、リチウムイオンバッテリ20の直流電力を、電動モータ12を所望の回転数で回転させるのに必要な交流電力に変換し、電動モータ12に供給する。
【0015】
鉛蓄電池24は、キースイッチ25のB端子に接続されている。キースイッチ25は、OFF、KEY_ON、START位置の3つの位置に切替可能であり、OFF位置にあるときはB端子をK端子およびS端子のいずれにも導通させず、KEY_ON位置にあるときはB端子をK端子にのみ導通させ、START位置にあるときはB端子をK端子およびS端子に導通させる。キースイッチ25のK端子は、コントローラ30に接続され、S端子はインバータ22に接続されている。インバータ22は、キースイッチ25がSTART位置になったのを認識すると、電動モータ12を動作させる。コントローラ30は、CPU等の演算装置、メモリ等の記憶装置30a、外部機器からの信号を入力する入力端子30b、外部機器への信号を出力する出力端子30cを有する。
【0016】
コントローラ30の入力端子30bには、旋回体2の水平面に対する傾斜角(ロール角、ピッチ角)を測定する傾斜センサ31、走行左モータ11aのパイロット圧を測定する走行左パイロット圧センサ32a、走行右モータ11bの走行パイロット圧を測定する走行右パイロット圧センサ32b、ブームシリンダ7のロッド側圧力を測定するブームロッド圧センサ33、走行左モータ11aの駆動圧を測定する走行左駆動圧センサ34a、および走行右モータ11bの駆動圧を測定する走行右駆動圧センサ34bが接続されている。
【0017】
コントローラ30の出力端子30cは、保護ダイオード35を介して自己保持リレー36のコイル側回路36aが接続されている。自己保持リレー36のスイッチ側回路36bは、鉛蓄電池24と接続され、反対側は遮断リレー23のコイル側回路36a、および解除スイッチ37を介して、自己保持リレー36のコイル側回路36aへと至る回路に合流している。解除スイッチ37は、オルタネートタイプのプッシュボタンスイッチである。
【0018】
コントローラ30は、キースイッチ25がKEY_ON位置に切り替わると鉛蓄電池24より給電され起動する。この時、出力端子30cはLOW状態であり、自己保持リレー36は開状態である。
【0019】
コントローラ30は、後述する条件が満たされたときに出力端子30cをHIGHにし、自己保持リレー36のコイル側回路36aに対し電圧を印加する。自己保持リレー36のスイッチ側回路36bは導通し、遮断リレー23のコイル側回路23cに鉛蓄電池24からの電圧が印加される。遮断リレー23のスイッチ側回路23aはノーマルオープン側接点23dに切り替わる。これにより、インバータ22への給電が停止し、リチウムイオンバッテリ20は回路から切り離された状態になる。また、自己保持リレー36は、コントローラ30からの電圧の印加がなくなったとしても、自己保持回路により、スイッチ側回路36bが閉じた状態を維持する。この状態で解除スイッチ29が押されると自己保持が解除され、スイッチ側回路36bが開状態となる。解除スイッチ37の状態を示す信号は、コントローラ30にも入力されている。
【0020】
コントローラ30は、オペレータがキースイッチ25をKEY_ON位置に操作した直後、または車体の走行を停止した直後の傾斜センサ31の値を基準傾斜角Bとして記憶する。オペレータがキースイッチ25をKEY_ON位置に操作した直後、または車体の走行を停止した直後は、車体はある程度安定した場所にあり、転倒はしていない。すなわち、基準傾斜角Bは、車体が転倒していないときの傾斜角であり、後に車体が転倒しているか否かを判定する際の基準の一つとして用いられる。
【0021】
図4は、基準傾斜角Bの記憶に関わる車体の状態遷移図である。システム停止状態でキースイッチ25がKEY_ON位置に操作されると、コントローラ30が起動し、走行停止状態へ遷移する。コントローラ30は、起動直後に傾斜センサ31の値を基準傾斜角Bとして記憶する(ステップS101)。
【0022】
走行停止状態において、コントローラ30は、走行左駆動圧センサ34aまたは走行右駆動圧センサ34bの値が所定の閾値E以上か否かを判定する(ステップS102)。閾値Eは、走行時の走行左モータ11aおよび走行右モータ11bの最小駆動圧である。ステップS102の判定結果がNOの場合は走行停止状態に留まり、ステップS102の判定結果がNOの場合は走行状態へ遷移する。
【0023】
走行状態において、コントローラ30は、走行左駆動圧センサ34aおよび走行右駆動圧センサ34bの値が所定の閾値F以下であるか否かを判定する(ステップS103)。閾値Fは、走行停止時の走行時の走行左モータ11aおよび走行右モータ11bの最大駆動圧である。ステップS103の判定結果がNOの場合は走行状態に留まり、ステップS103の判定結果がNOの場合は、傾斜センサ31の値を基準傾斜角Bとして記憶し(ステップS104)、走行停止状態へ遷移する。
【0024】
図5は、リチウムイオンバッテリ20の状態遷移図である。リチウムイオンバッテリ20が通電可能状態にあるとき、コントローラ30は、傾斜センサ31の値が所定の閾値Aよりも大きいか否かを判定する(ステップS201)。閾値Aは、作業装置3の姿勢や旋回体2の旋回角度に関わらず、車体が明らかに転倒しているとみなすことができる傾斜角である。
【0025】
ステップS201の判定結果がYESの場合は、出力端子30cをHIGHにする(ステップS202)。これにより、車体が明らかに転倒している場合は、無条件に遮断リレー23がONとなり、リチウムイオンバッテリ20は通電不能状態となる。
【0026】
ステップS201の判定結果がNOの場合は、走行左パイロット圧センサ32aまたは走行右パイロット圧センサ32bの値が所定の閾値C以上であるか否かを判定する(ステップS203)。閾値Cは、走行左モータ11aまたは走行右モータ11bが動き出すのに必要な最小限のパイロット圧である。
【0027】
ステップS203の判定結果がYESの場合は、走行左駆動圧センサ34aおよび走行右駆動圧センサ34bが所定の閾値D以下であるか否かを判定する(ステップS204)。閾値Dは、通常走行する際に必要な走行左モータ11a(または走行右モータ11b)の最小駆動圧(=閾値E)よりも小さく、走行体1を浮かせて左クローラ10a(または右クローラ10b)を空転させた際の走行左モータ11a(または走行右モータ11b)の駆動圧よりもわずかに大きい値である。
【0028】
ステップS204の判定結果がNOの場合は、リチウムイオンバッテリ20は通電可能状態に保たれる。すなわち、左クローラ10aおよび右クローラ10bの少なくとも一方が空転していなければ、遮断リレー23はONに切り替わらず、リチウムイオンバッテリ20は通電が可能な状態に保たれる。これにより、走行により異なる傾斜を持つ場所に移動した場合は、転倒とみなされず、リチウムイオンバッテリ20を継続して使用することができる。
【0029】
ステップS204の判定結果がYESの場合は、車体がジャッキアップされているか否かを判定する。具体的には、ブームロッド圧センサ33の値が所定の閾値(0MPa)以下であるか否かを判定する(ステップS205)。ジャッキアップは主にブーム4を下げる動作によって行われるが、その際にブームシリンダ7のロッド側に圧力が生じる。一方、作業装置3が宙に浮いているときは、重力によりブームシリンダ7のロッド側に圧力は生じない。なお、本実施形態では当該閾値を0MPaに設定しているが、油圧回路の特性により、作業装置3が宙に浮いている状態でもブームシリンダ7のロッド側に圧力が生じる場合は、その圧力より大きい値に設定する。
【0030】
ステップS205の判定結果がNOの場合は、リチウムイオンバッテリ20は通電可能状態に保たれる。これにより、車体がジャッキアップされた状態では、左クローラ10aまたは右クローラ10bが空転しても転倒とみなされず、リチウムイオンバッテリ20を継続して使用することができる。
【0031】
ステップS205の判定結果がYESの場合は、出力端子30cをHIGHにする(ステップS202)。これにより、車体をジャッキアップしていないにも関わらず操作した側のクローラが空転した場合(例えば走行中に横転した場合)は、遮断リレー23がONとなり、リチウムイオンバッテリ20は通電不能状態となる。
【0032】
ステップS203の判定結果がNOの場合は、傾斜センサ31の値が基準傾斜角Bから変動したか否かを判定する(ステップS206)。具体的には、傾斜センサ31の値と基準傾斜角Bの差分が所定の閾値(例えば傾斜センサ31の検出精度)を超えた場合に、傾斜センサ31の値が基準傾斜角Bから変動したと判定する。
【0033】
ステップS206の判定結果がNOの場合は、リチウムイオンバッテリ20は通電可能状態に保たれる。これにより、左クローラ10aおよび右クローラ10bが停止している状態で車体の傾斜角に変動がなければ、転倒とみなされず、リチウムイオンバッテリ20を継続して使用することができる。
【0034】
ステップS206の判定結果がNOの場合は、ブームロッド圧センサ33の値が所定の閾値(本実施形態では0MPa)以下であるか否かを判定する(ステップS205)。
【0035】
ステップS205の判定結果がYESの場合は、出力端子30cをHIGHにする(ステップS202)。これにより、車体をジャッキアップしていないにも関わらず車体の傾斜角が変動した場合は、遮断リレー23がONとなり、リチウムイオンバッテリ20は通電不能状態となる。
【0036】
なお、ステップS203~S206の各判定は、傾斜角が閾値Aに達する(ステップS201の判定結果がYESとなる)前に実行される。従って、車体が転倒して地面と衝突するよりも先に遮断リレー23が切り替えられる可能性が高い。その場合、転倒の衝撃でコントローラ30が故障したとしても、自己保持リレー36の作用により遮断リレー23が遮断状態に保持される。その後、クレーン等で車体を正常な姿勢に戻した場合や、復帰のために短時間だけ車体を動作させる場合は、解除スイッチ37を押すことで、リチウムイオンバッテリ20を通電可能状態に戻すことができる。
【0037】
(まとめ)
本実施形態では、走行体1と、走行体1に旋回可能に取り付けられ、走行体1とともに車体を構成する旋回体2と、旋回体2に回動可能に取り付けられた作業装置3と、走行体1、旋回体2、および作業装置3を駆動する複数のアクチュエータ7,8,9,11a,11bと、複数のアクチュエータ7,8,9,11a,11bに作動油を供給するメインポンプ14(油圧ポンプ)と、メインポンプ14を駆動する電動モータ12と、リチウムイオンバッテリ20と、リチウムイオンバッテリ20に電力供給回路21を介して接続され、リチウムイオンバッテリ20の直流電力を交流電力に変換して電動モータ12に供給するインバータ22とを備えた油圧ショベル(電動式建設機械)において、走行体1または旋回体2の傾斜角を検出する傾斜センサ31と、電力供給回路21を導通または遮断する遮断リレー23と、傾斜センサ31の値が所定の閾値A(第1閾値)を超えた場合に、電力供給回路21が遮断されるように遮断リレー23を切り替えるコントローラ30とを備える。
【0038】
以上のように構成した本実施形態によれば、走行体1または旋回体2が大きく傾斜した場合に、リチウムイオンバッテリ20とインバータ22とを接続する電力供給回路21が遮断されるため、車体が転倒した状態でリチウムイオンバッテリ20の通電を継続することによるリチウムイオンバッテリ20または周辺機器の電気回路上の故障を防ぐことが可能となる。
【0039】
また、本実施形態において、走行体1は、左クローラ10aと、右クローラ10bとを有し、複数のアクチュエータ7,8,9,11a,11bは、左クローラ10aを駆動する走行左モータ11aと、右クローラ10bを駆動する走行右モータ11bとを含み、コントローラ30は、コントローラ30が起動した直後、または走行左モータ11aおよび走行右モータ11bが停止した直後の傾斜センサ31の値を基準傾斜角Bとして記憶し、走行体1がジャッキアップされておらず、かつ走行左モータ11aおよび走行右モータ11bが停止した状態で、傾斜センサ31の値と基準傾斜角Bとの差分が例えば傾斜センサ31の検出精度(第2閾値)を超えた場合に、電力供給回路21が遮断されるように遮断リレー23を切り替える。これにより、オペレータの操作に応じて車体が傾斜した場合(走行時またはジャッキアップ時)に、リチウムイオンバッテリ20の通電が停止することを防ぐことが可能となる。
【0040】
また、本実施形態において、走行体1は、左クローラ10aと、右クローラ10bとを有し、複数のアクチュエータ7,8,9,11a,11bは、左クローラ10aを駆動する走行左モータ11aと、右クローラ10bを駆動する走行右モータ11bとを含み、コントローラ30は、走行体1がジャッキアップされていない状態で、走行左モータ11aまたは走行右モータ11bが空転した場合に、電力供給回路21が遮断されるように遮断リレー23を切り替える。これにより、斜面走行時またはジャッキアップ時でないにも関わらず車体が傾斜した場合に、リチウムイオンバッテリ20の通電を停止することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態において、作業装置3は、旋回体2に回動可能に取り付けられたブーム4を有し、複数のアクチュエータ7,8,9,11a,11bは、ブーム4を駆動するブームシリンダ7を含み、前記油圧ショベルは、ブームシリンダ7のロッド側圧力を検出するブームロッド圧センサ33を備え、コントローラ30は、ブームロッド圧センサ33の値に基づき走行体1がジャッキアップされているか否かを判定する。これにより、ブームシリンダ7のロッド側圧力に基づいて、走行体1がジャッキアップされている状態を検知することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態における油圧ショベルは、走行左モータ11aのパイロット圧を検出する走行左パイロット圧センサ32aと、走行右モータ11bのパイロット圧を検出する走行右パイロット圧センサ32bと、走行左モータ11aの駆動圧を検出する走行左駆動圧センサ34aと、走行右モータ11bの駆動圧を検出する走行右駆動圧センサ34bとを備え、コントローラ30は、走行左パイロット圧センサ32aの値と走行左駆動圧センサ34aの値とに基づいて左クローラ10aが空転していると判定し、走行右パイロット圧センサ32bの値と走行右駆動圧センサ34bの値とに基づいて右クローラ10bが空転していると判定する。これにより、走行左モータ11aのパイロット圧、走行右モータ11bのパイロット圧、走行右モータ11bの駆動圧、および走行左モータ11aの駆動圧に基づいて、左クローラ10aまたは右クローラ10bが空転している状態を検知することが可能となる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、本発明は必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0044】
1…走行体、2…旋回体、3…作業装置、4…ブーム、5…アーム、6…バケット、7…ブームシリンダ(アクチュエータ)、8…アームシリンダ(アクチュエータ)、9…バケットシリンダ(アクチュエータ)、10a…左クローラ、10b…右クローラ、11a…走行左モータ(アクチュエータ)、11b…走行右モータ(アクチュエータ)、12…電動モータ、13…ギヤポンプ、14…メインポンプ(油圧ポンプ)、15…パイロットバルブ、16…コントロールバルブ、20…リチウムイオンバッテリ、21…電力供給回路、22…インバータ、23…遮断リレー、23a…スイッチ側回路、23b…ノーマルクローズ側接点、23c…コイル側回路、23d…ノーマルオープン側接点、24…鉛蓄電池、25…キースイッチ、29…解除スイッチ、30…コントローラ、30a…記憶装置、30b…入力端子、30c…出力端子、31…傾斜センサ、32a…走行左パイロット圧センサ、32b…走行右パイロット圧センサ、33…ブームロッド圧センサ、34a…走行左駆動圧センサ、34b…走行右駆動圧センサ、35…保護ダイオード、36…自己保持リレー、36a…コイル側回路、36b…スイッチ側回路、37…解除スイッチ。