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特開2024-50372波長多重光伝送システム及び波長多重光送信機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050372
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】波長多重光伝送システム及び波長多重光送信機
(51)【国際特許分類】
   H04J 14/02 20060101AFI20240403BHJP
   H04B 10/25 20130101ALI20240403BHJP
【FI】
H04J14/02
H04B10/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207203
(22)【出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2022156026
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 信彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 滋久
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA01
5K102AD01
5K102AH11
5K102AH24
5K102AH26
5K102AH27
5K102AH29
5K102KA05
5K102KA07
5K102KA42
5K102PA12
5K102PB11
5K102PH21
5K102PH22
5K102PH24
5K102PH31
5K102PH47
5K102PH48
5K102PH49
5K102RB02
(57)【要約】
【課題】従来のFWM光対策として用いられる波長・偏波配置法の問題点を解消する、簡易な光信号の波長・偏波配置を提供すること。
【解決手段】波長多重光伝送システムは、複数の光信号を発生させる光源部100aと、複数の光信号に基づいて波長多重光信号を生成し、出力する波長多重光信号生成部100bと、を含む。複数の光信号は周波数間隔がΔfの光周波数グリッド上に配置され、波長多重光信号は、少なくとも1の特定配置信号群を含み、特定配置信号群は、Q個(Qは1以上の整数)のS信号と、R個(Rは1以上の整数)のP信号を含み、特定配置信号群に含まれるS信号のいずれの対の周波数差もS信号の他の全ての対の周波数差及びP信号の全ての対の周波数差と異なり、特定配置信号群に含まれるP信号のいずれの対の周波数差も、S信号の全ての対の周波数差及びP信号の他の全ての対の周波数差と異なる。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が異なる複数の光信号を発生させる光源部と、
前記複数の光信号が入力され、入力された前記複数の光信号に基づいて波長多重光信号を生成し、前記波長多重光信号を出力する波長多重光信号生成部と、
を含み、
前記複数の光信号は周波数間隔がΔfの光周波数グリッド上に配置され、
前記波長多重光信号は、少なくとも1の特定配置信号群を含み、
前記特定配置信号群は、Q個(Qは1以上の整数)の第1の単一偏波状態の光信号と、R個(Rは1以上の整数)の前記第1の単一偏波状態と直交する第2の単一偏波状態の光信号を含み、
前記特定配置信号群に含まれる前記第1の単一偏波状態の光信号のいずれの対の周波数差も、前記第1の単一偏波状態の光信号の他の全ての対の周波数差及び前記第2の単一偏波状態の光信号の全ての対の周波数差と異なり、
前記特定配置信号群に含まれる前記第2の単一偏波状態の光信号のいずれの対の周波数差も、前記第1の単一偏波状態の光信号の全ての対の周波数差及び前記第2の単一偏波状態の光信号の他の全ての対の周波数差と異なる、
ことを特徴とする波長多重光伝送システム。
【請求項2】
前記特定配置信号群に含まれる、前記第1の単一偏波状態の光信号又は前記第2の単一偏波状態の光信号のいずれか少なくとも一方の数が3以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項3】
Q+R=4であり、
前記特定配置信号群に含まれる前記第1の単一偏波状態の光信号及び前記第2の単一偏波状態の光信号は、前記第1の単一偏波状態の光信号をS、前記第2の単一偏波状態の光信号をPと表記したとき、前記光周波数グリッドに、光周波数が低い方からSPSS又はSSPSのパターンに従って配置される、
ことを特徴とする請求項2に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項4】
前記複数の光信号は前記光周波数グリッド上の対象範囲に配置され、
前記対象範囲には、前記第1の単一偏波状態の光信号及び前記第2の単一偏波状態の光信号が配置されない少なくとも1つのガードグリッドが、前記対象範囲における最低周波数のグリッド及び最高周波数のグリッド以外に設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項5】
前記特定配置信号群に含まれる前記第1の単一偏波状態の光信号及び前記第2の単一偏波状態の光信号は、前記第1の単一偏波状態の光信号をS、前記第2の単一偏波状態の光信号をP、前記ガードグリッドをGと表記したとき、光周波数が低い方から、PSGSP、SGSPP又はPPSGSのいずれかのパターンに従って前記光周波数グリッドに配置される、
ことを特徴とする請求項4に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項6】
前記複数の光信号の数は5以上であり、
前記複数の光信号は、前記第1の単一偏波状態の光信号をS、前記第2の単一偏波状態の光信号をP、前記ガードグリッドをGと表記したとき、光周波数が低い方から、SPPSGを巡回させてなる1のパターンを複数連続させた連続パターンの、全体又はその一部を切り出したパターンに従って前記光周波数グリッドに配置される、
ことを特徴とする請求項4に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項7】
前記複数の光信号の数は8以上であり、
前記複数の光信号は、光周波数が低い方から、SPPSGSPPSのパターンに従って前記光周波数グリッドに配置される、
ことを特徴とする請求項6に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項8】
前記複数の光信号の数は8であり、
前記複数の光信号は、光周波数が低い方から、SPPSGSPPSのパターンに従って前記光周波数グリッドに配置される、
ことを特徴とする請求項7に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項9】
前記波長多重光信号を送信する光ファイバ伝送路を、さらに含み、
前記複数の光信号は前記光周波数グリッド上の対象範囲に配置され、
前記対象範囲の少なくとも一部が、前記光ファイバ伝送路の光ファイバの零分散波長の分布範囲に対応する光周波数範囲に含まれている、
ことを特徴とする請求項1に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項10】
前記対象範囲の全てが、前記光ファイバの零分散波長の分布範囲に対応する光周波数範囲に含まれ、
前記波長多重光信号は、前記特定配置信号群を複数含み、
前記複数の特定配置信号群のそれぞれは、当該特定配置信号群に含まれる最低光周波数の光信号から最高光周波数の光信号までの周波数グリッドの数をMとしたとき、次式の条件を満たし、
(数1)
M-1≦K
Kは前記光ファイバ伝送路の位相整合帯域の最悪値をBとしたときに次式を満たす、
(数2)
KΔf>B
ことを特徴とする請求項9に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項11】
前記特定配置信号群は、前記光ファイバの零分散波長の分布範囲に対応する周波数範囲の周波数グリッド上に配置され、
前記特定配置信号群に含まれる最低光周波数の光信号から最高光周波数の光信号までの周波数グリッドの数をMとしたとき、Mは次式を満たし、
(数3)
M-1≦K
前記光ファイバ伝送路の位相整合帯域の最悪値をBとしたときにKは次式を満たす、
(数4)
KΔf>B
ことを特徴とする請求項9に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項12】
前記光源部と前記波長多重光信号生成部と、を含む波長多重光送信機を含み、
前記各光信号は、光源からの光の光強度、光電界振幅又は位相のいずれか少なくとも一つを情報信号によって変化させる、二値変調又は多値変調により生成される、
ことを特徴とする請求項1から11に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項13】
前記波長多重光送信機から送信される前記波長多重光信号を受信する波長多重光受信機を、さらに含み、
前記波長多重光受信機は、受信した前記波長多重光信号を複数の単一波長の光信号に分波し、
前記波長多重光受信機は、複数の光受信器を含み、
前記各光受信器は前記複数の単一波長の光信号のうちいずれかを受信する、
ことを特徴とする請求項12に記載の波長多重光伝送システム。
【請求項14】
周波数が異なる複数の光信号を発生させる光源部と、
前記複数の光信号が入力され、入力された前記複数の光信号から波長多重光信号を生成し、前記波長多重光信号を出力する波長多重光信号生成部と、
を含み、
前記複数の光信号は周波数間隔がΔfの光周波数グリッド上に配置され、
前記波長多重光信号は、少なくとも1の特定配置信号群を含み、
前記特定配置信号群は、Q個(Qは1以上の整数)の第1の単一偏波状態の光信号と、R個(Rは1以上の整数)の前記第1の単一偏波状態と直交する第2の単一偏波状態の光信号を含み、
前記特定配置信号群に含まれる前記第1の単一偏波状態の光信号のいずれの対の周波数差も、前記第1の単一偏波状態の光信号の他の全ての対の周波数差及び前記第2の単一偏波状態の光信号の全ての対の周波数差と異なり、
前記特定配置信号群に含まれる前記第2の単一偏波状態の光信号のいずれの対の周波数差も、前記第1の単一偏波状態の光信号の全ての対の周波数差及び前記第2の単一偏波状態の光信号の他の全ての対の周波数差と異なる、
ことを特徴とする波長多重光送信機。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長多重光伝送システム及び波長多重光送信機、特に、光ファイバを用いた光情報伝送に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
インターネットトラフィックの急増に伴い、データセンタ内やデータセンタ間を結ぶ、短中距離の光ファイバ通信(距離100m~数10km)の大容量化のニーズが急速に高まっている。このような短中距離領域は構造が簡素でコスト・消費電力の低い単一偏波の光信号の強度変調・直接受信(IM/DD)方式が広く利用されており、IEEE802.3やOIFなどの標準化機関の主導によって、光ファイバの種別・伝送距離・波長配置などのシステム仕様や、光送受信機(光トランシーバ、光インタフェース)の構造・サイズ・消費電力・変調方式などの規格化が進められている。光トランシーバ1台あたりの伝送容量も100Gbit/sから400Gbit/sと高速化が進み、現在ではさらに高速の800Gbit/s以上の大容量化が検討されている。このような高速化は、伝送速度の高速化(50GBaudや100GBaud変調)、多値化(4値強度変調)、波長多重(4~8波)などの技術によって実現されている。
【0003】
伝送距離数100m~数10kmの短距離光ファイバ伝送規格では、伝送媒体として主に普及度の高い標準シングルモードファイバ(standard single mode fiber, SMF)の利用を想定し、また高速光信号の波長分散による波形劣化を防ぐため、標準シングルモードファイバの波長分散がゼロとなる1.3μm帯(Oバンド)を利用する。
【0004】
その一方、高速化や多値化に伴う受信感度の低下(例:信号変調速度を4倍とすると受信感度は3dB低下、2値から4値に多値化すると受信感度はおよそ5dB低下)が顕在化しつつあり、これを補うために光トランシーバの光出力強度を高める必要が生じている。
【0005】
このような光信号強度の増大と光ファイバの零分散性により、光ファイバ非線形効果のひとつである四光波効果(FWM)によるFWM光の発生が大きな問題となっている。非特許文献1)においては、次世代の800ギガイーサ(800GbE)に向けた調査委員会IEEE802.3dfにおいて、FWMの影響が報告されている。本資料では1.3μm帯2km以上のLAN-WDM(周波数グリッド800GHz)伝送においては高光入力パワー時にFWM光発生のリスクがあること、光信号の偏波が揃った際に生じること、光ファイバのゼロ分散がFWM発生に関わる光信号(光チャネル)の中間にあるときに位相整合条件が成立し発生効率が高くなることなどが記載されている。
【0006】
以下、図1を用いて本発明の課題となるFWM光の発生原理について説明を行う。図1(a)は波長多重(Wavelength Multiplexing, WDM)伝送における光信号の配置例であり、光周波数軸上には一定周波数間隔(Δf)の光周波数グリッドが定められており、本図では光周波数f1(波長λ1)から光周波数f4(波長λ4)の連続する4つの周波数グリッド上にsig1~sig4の4つの光信号を配置している。なお以下、本明細書中では、各光信号を主として光周波数及び偏波状態によって特定するが、その光周波数に対応する波長及び偏波状態により同一の光信号を特定することができるのは明らかである。
【0007】
グリッドの周波数間隔ないしは波長間隔は伝送規格によって異なり、代表的な例としては短距離伝送のLAN-WDMでは800GHz間隔(波長間隔およそ4.5nm)、CWDMでは波長間隔20nm(およそ3.5THz間隔)などが用いられる。なお実際の光信号の周波数(波長)は指定のグリッドを中心にして誤差が許容されており、例えば400ギガイーサの伝送規格400GBASE-FR4はCWDMを用いており4信号の波長範囲は1264.5~1277.5nm、1284.5~1297.5nm、1304.5~1317.5nm、1324.5~1337.5nmと規定されている。本例では波長間隔20nmに対し許容誤差(全幅)は13nm(±6.5nm)となる。
【0008】
図1(b)の左図は波長の異なる2波の強い光信号pump1とpump2(本例では光周波数fp1とfp2)が光ファイバに同一偏波で入力され光ファイバの非線形効果によってFWM光を発生する場合(部分縮退時)の模式図を示している。光ファイバは微弱な3次の非線形効果(カー効果)を持つ伝送媒質であり、光信号の強度が強い場合には光ファイバ中で光信号電界の三乗に比例する新しい電界成分であるFWM光が生成される。周波数間隔Δfpの2波長伝送の場合、FWM光が発生する可能性があるのは周波数(fp1-fp2)+fp1=fp1-Δfp(図中のfwm2光)、(fp2-fp1)+fp2=fp2+Δfp(図中のfwm1光)の2箇所であり、2つの光信号が隣接する周波数グリッド上に配置されていれば両脇の周波数グリッド上となる。発生したFWM光と同じ周波数グリッド上に光信号が配置されている場合、FWM光がグリッド上の光信号に干渉して伝送品質が大きく劣化する。
【0009】
光ファイバは波長分散特性、すなわち光の伝搬速度が光信号の波長(周波数)によって大きく異なるため、多くのケースではFWM光は信号光との伝播速度差が大きく成長する前に消えてしまうが、光ファイバの波長分散が零に近い場合には光ファイバ伝播中に光ファイバの長さ方向の各部分で発生するFWM光の位相が合致する位相整合条件が成立し、FWM光が強く成長する場合がある。FWM光の発生・成長にはさらに様々な統計的要因が関係するため、信号劣化は必ず発生するわけではない。例えば伝送路の光ファイバの零分散波長が図中のpump1とpump2の光周波数の左右どちらかに偏って存在する場合にはfwm1とfwm2のどちらかのみが強く成長したり、零分散波長の揺らぎが大きく光ファイバの位相整合帯域が狭い場合にはどちらのFWM光も強く成長しない場合もある。また周波数グリッド上の光信号が周波数ずれを持つ場合には、発生したFWM光の周波数がずれて他の光信号と重ならず品質劣化を生じない場合もある。
【0010】
一方、図1(b)の右図は2波の光信号の偏波が互いに直交するように入力したケースであり、このようにポンプ光が直交するケースではFWM光が発生しない。なお以下本発明においては、直交する2波を示す場合には一方をS偏波と呼び上向き矢印で、他方をP偏波と呼び下向き矢印で表示する。つまり、S及びPの表記は直交する2波を表しているに過ぎないため、Sと表記した場合に、必ずしもS偏波を表すものではなく、P偏波を表してもよい。また、Pと表記した場合に、必ずしもP偏波を表すものではなく、S偏波を表してもよい。これはFWM光についても同様である。
【0011】
図1(c)は波長の異なる3つの光信号からFWM光が生成されるもっとも一般的な非縮退時であり、本例では3つの光信号を周波数の低い順にポンプ光1(pump1、周波数fp1)、ポンプ光2(pump2、周波数fp2)、アイドラー光(idler、周波数fi)と呼ぶ。FWM光の発生過程は下記の2段階で説明できる。
【0012】
(1)周波数ビートの発生:同一偏波で周波数の近接したポンプ光1、ポンプ光2によって光ファイバ中に両ポンプ光の差周波数(本例ではΔfp)が生成される。一般には、周波数ビートの強度はポンプ光1とポンプ光2の同一偏波成分によって決まり、両ポンプ光の偏波が互いに直交している場合には周波数ビートは発生しない。(2)第3の光信号であるアイドラー光が、周波数ビートによって位相変調を受けてfp2-fp1=+Δfp離れた場所にFWM光(fwm1)が発生する。また-Δfp離れた場所にもFWM光(fwm2)が発生する。この過程はアイドラー光の偏波状態にはおおむね無依存であり、発生するFWM光の偏波状態はアイドラー光と同一となり、また発生するFWM光の周波数は、f(fp2,fp1,fi) = fi+(fp2-fp1)およびfi-(fp2-fp1)となる。なお本表記においては関数fの3つの引数は先頭から順にポンプ光2、ポンプ光1、アイドラー光の光周波数である。
【0013】
なお光ファイバ中のFWM光の発生においては、発生に関与する各ポンプ光・アイドラー光の波長間に光ファイバの零分散波長が合致し、数kmの長さの光ファイバ伝送中に徐々に成長するFWM光の位相が一定に保たれる位相整合条件が成立していることが重要な条件となる。光ファイバの零分散波長は一定ではなくある波長範囲に統計的に分布しており、光ファイバの長手方向にも一定ではないため、位相整合条件の成立度合い、すなわちFWM光の発生効率は光ファイバごとに大きなばらつきを持つことになる。光ファイバの位相整合帯域は位相整合が成立する波長範囲であり、光ファイバの長手方向の零分散波長の揺らぎが少ないほど広帯域に、揺らぎが大きいほど狭帯域となることが知られている。この揺らぎは光ファイバの構造や製造方法・製造誤差・スプライス距離などに依っても左右されるため、光ファイバの種類やメーカーによっても大きく異なる値となる。非特許文献2には短距離伝送で広く用いられている1.3μm帯の標準分散ファイバ(SMF)における位相整合帯域の評価例が示されている。位相整合帯域の測定値は、FWM光の発生効率の低い光ファイバでは2nm以下である一方、FWM発生効率の高いワーストケースとなる光ファイバでは16nmと広く大きなばらつきを持つとともに、また光信号の間隔がこの帯域を越えるとFWM光の発生効率が急激に低下することが報告されている。
【0014】
なお短距離用光送信機の出力偏波状態については標準化の規定は無いが、集積化・小型化された光送信モジュールにおいては偏波が揃って出力されるケースが多く、この場合FWM光の発生効率は最大となる。一方、光ファイバ長が長いケースにおいては、光ファイバの持つわずかな複屈折性である偏波モード分散(PMD)によってわずかずつ光信号の直交性が崩れていく現象が知られている。
【0015】
図1(d)は隣接する周波数グリッドf1、f2、f3にsig1、sig2、sig3の3波の光信号を配置した3波長多重伝送におけるFWM光の発生を示す。前述の部分縮退FWM光はポンプ光の一方とアイドラー光が同一の光信号を兼ねる特別な例であり、雑音光となるFWM光は光信号2波に付きその両側等間隔な点に2個ずつとなるため、3波長の場合には図に示すように周波数f-1、f0、f1、f3、f4、f5の3x2=6個となり、このうちf1、f3に発生したFWM光がsig1、sig3に重なる可能性があり、伝送劣化要因となる。一方、非縮退FWM光はsig1、sig2、sig3をポンプ光1、ポンプ光2、アイドラー光に割り当てる組み合わせによって発生し、総数は3x2x1=6個、発生位置は周波数f0、f2、f4に2個ずつとなり、うち周波数f2に発生するFWM光がsig2の劣化要因となる。これらを合計すると発生するFWM光の総数は12個となる。このような組み合わせは波長数が増えると激増してしまうことが知られており、例えば4波長多重伝送の場合には部分縮退FWM光が4x3=12個、非縮退FWM光が4x3x2=24個の合計36個となる。なお前記の位相整合条件により実際に強く成長するFWM光はこのごく一部に限られる。
【0016】
図2はFWM光を緩和する従来の光信号配置の説明図である。図2(a)は4波の光信号を偏波インタリーブ配置した例であり、周波数グリッド上で隣接する光信号の偏波状態が互いに直交となるように配置するように交互に配置することでFWMの影響を低減できることが知られている。本発明ではこれをSPSP配置と呼称し、図中では偏波状態を前述のように上向き・下向き矢印を交互に並べて表示している。
【0017】
偏波インタリーブの効果としては、直交偏波の光信号が周波数ビートを生成しないことから光信号の周波数間隔が2倍とすることで位相整合条件を弱めてFWMの発生効果が下げること、偏波を利用してFWM光の発生する波長組み合わせを減らす点が上げられる。図中の下段には発生するFWM光の周波数と偏波状態を示しており、FWM光の総数は部分縮退4個、非縮退8個の計12個となり前述の1/3に削減される。
【0018】
一方、図2(b)は光周波数グリッド上に信号光を配置する際に、周波数の低い側から順に2Δf、Δf、3Δfの間隔とした不等間隔配置の例である。不等間隔配置は、全信号のうちどの2波を取っても周波数間隔が互いに異なるようにして発生したFWM光がいずれの光信号にも重ならないようにする手法であり、FWM光による品質劣化をほぼ完全に抑圧することが可能となる。
【0019】
また非特許文献3には、FWM光による劣化を避ける波長・偏波配置として図3の偏波配置が示されている。図3(a)は4波の配置例であり、外側2波の偏波状態をS偏波、内側2波の偏波状態をこれと直交するP偏波とする。図中の下段には発生するFWM光の光周波数と偏波状態を示しているが、本配置において発生するFWM光は12個あるが、これらのうち信号波長と重なるFWM光は信号光と偏波状態が直交しているため、FWM光による受信劣化を防ぐことが可能となる。FWM光の強度は一般に信号光より-20~-30dB(1/10~1/100)であるが、光信号とFWM光の偏波が合致して光の干渉条件が成立しうる場合にはその影響は強度の平方根となり-10~-15dB(1/3.3~1/10)と大きな劣化が生じてしまう。一方、FWM光と信号の偏波が直交する場合には両者が光の干渉を生じず波形への影響も-20~-30dBと極めて小さくなり、FWMの劣化を抑圧することが可能となる。非特許文献3)にはさらに8波長の場合の波長・偏波の配置例として、図3(b)のように4波長の場合の配置(SPPS)を連続して並べたSPPSSPPS配置が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】John Johnson, "FWM Analysis of PAM4 LR/ER PMDs," IEEE802.3df, Optical Ad hoc, Apr. 11, 2022
【非特許文献2】Xiang Zhou and Cedric Lam, "Four-Wave Mixing Penalty for WDM-based Ethernet PMDs in O-band," IEEE802.3df, May. 24, 2022
【非特許文献3】Xiang Liu, Qirui Fan, Tao Gui, Kechao Huang and Frank Chang, "Effective suppression of inter-channel FWM for 800G-LR4 and 1.6T-LR8 based on 200Gb/s PAM4 channels," IEEE802.3df, July. 14, 2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明で解決する課題は、従来のFWM光対策として用いられる波長・偏波配置法の問題点を解消する、簡易な光信号の波長・偏波配置を提供することである。
【0022】
従来のFWM抑圧方式である偏波インタリーブ法によるFWM抑制効果は完全ではなく、図2(a)に示すようにsig1~sig4の光信号と同じ周波数グリッド上には信号光と同一偏波の非縮退FWM光が発生する場合があり、これらのFWM光の干渉で大きな伝送劣化を生じる可能性がある。偏波インタリーブによる波長間隔の増大は、光ファイバ中の偏波変動や零分散波長の揺らぎなどにより統計的にFWMの影響を緩和する効果はあるものの、これらのばらつきの少ない光ファイバにおいては伝送不能となる可能性が残ってしまう。
【0023】
また不等間隔配置ではFWM光による劣化は抑圧できるものの、光波長帯域の増大と光源波長の高精度化が大きな課題となる。不等間隔配置で必要となる波長帯域は4波長で約2倍、8波長で約5倍となることが知られている。波長帯域が増大すると、波長帯域の両端で光信号の光損失が増加するとともに、光波長が光ファイバの零分散波長から遠ざかり光ファイバ伝送路の波長分散量が正負いずれかもしくは両方に増大し、伝送距離が短縮してしまう。
【0024】
また図2(c)は不等間隔配置における波長精度の影響を示している。FWM光の発生周波数は、発生に関与するポンプ光とアイドラー光の3波の加減算によって決まるため、FWM光の周波数誤差は最悪ケースでは3倍に拡大されてしまう。図2(c)中にはsig1とsig2の部分縮退FWM光のうち、波長f=f2-f1+f2に発生するfwm212光の位置を示している。本FWM光はsig2が-δ(負方向)、sig1が+δ(正方向)周波数誤差があると、-3δ(負方向)に移動してしまう。一方、sig3も正方向に+δの周波数誤差があると互いにぶつかってしまう可能性があるため、衝突を避けるには各信号の周波数誤差δ<グリッド間隔Δの1/4を満たす必要がある。例えば前述のΔ=20nmのCWMの場合、周波数誤差の許容度は±5nmに低減する必要が生じる。波長間隔の狭いLAN-WDMでは信号波長の帯域(~100GHz)も考慮する必要があり、この影響はさらに顕著となる。このように光源波長精度の許容度が小さくなるほど光源の温度制御範囲を狭くする必要が生じ、光トランシーバの重要な性能指標である電力が大幅に増大してしまうという課題がある。
【0025】
本発明の目的は、従来知られていない新たなFWM抑圧可能な波長・偏波配置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するために、本発明に係る波長多重光伝送システムは、周波数が異なる複数の光信号を発生させる光源部と、前記複数の光信号が入力され、入力された前記複数の光信号に基づいて波長多重光信号を生成し、前記波長多重光信号を出力する波長多重光信号生成部と、を含み、前記複数の光信号は周波数間隔がΔfの光周波数グリッド上に配置され、前記波長多重光信号は、少なくとも1の特定配置信号群を含み、前記特定配置信号群は、Q個(Qは1以上の整数)の第1の単一偏波状態の光信号と、R個(Rは1以上の整数)の前記第1の単一偏波状態と直交する第2の単一偏波状態の光信号を含み、前記特定配置信号群に含まれる前記第1の単一偏波状態の光信号のいずれの対の周波数差も、前記第1の単一偏波状態の光信号の他の全ての対の周波数差及び前記第2の単一偏波状態の光信号の全ての対の周波数差と異なり、前記特定配置信号群に含まれる前記第2の単一偏波状態の光信号のいずれの対の周波数差も、前記第1の単一偏波状態の光信号の全ての対の周波数差及び前記第2の単一偏波状態の光信号の他の全ての対の周波数差と異なる。
【0027】
本発明の一態様では、前記特定配置信号群に含まれる、前記第1の単一偏波状態の光信号又は前記第2の単一偏波状態の光信号のいずれか少なくとも一方の数が3以上である。
【0028】
この態様では、例えば、Q+R=4であってよい。前記特定配置信号群に含まれる前記第1の単一偏波状態の光信号及び前記第2の単一偏波状態の光信号は、前記第1の単一偏波状態の光信号をS、前記第2の単一偏波状態の光信号をPと表記したとき、前記光周波数グリッドに、光周波数が低い方からSPSS又はSSPSのパターンに従って配置されてもよい。
【0029】
本発明の一態様では、前記複数の光信号は前記光周波数グリッド上の対象範囲に配置され、前記対象範囲には、前記第1の単一偏波状態の光信号及び前記第2の単一偏波状態の光信号が配置されない少なくとも1つのガードグリッドが、前記対象範囲における最低周波数のグリッド及び最高周波数のグリッド以外に設けられる。
【0030】
この態様では、例えば、前記特定配置信号群に含まれる前記第1の単一偏波状態の光信号及び前記第2の単一偏波状態の光信号は、前記第1の単一偏波状態の光信号をS、前記第2の単一偏波状態の光信号をP、前記ガードグリッドをGと表記したとき、光周波数が低い方から、PSGSP、SGSPP又はPPSGSのいずれかのパターンに従って前記光周波数グリッドに配置されてよい。
【0031】
この態様では、例えば、前記複数の光信号の個数は5以上であってよい。前記複数の光信号は、前記第1の単一偏波状態の光信号をS、前記第2の単一偏波状態の光信号をP、前記ガードグリッドをGと表記したとき、光周波数が低い方から、SPPSGを巡回させてなる1のパターンを複数連続させた連続パターンの、全体又はその一部を切り出したパターンに従って前記光周波数グリッドに配置されてもよい。
【0032】
さらに、この態様では、例えば、前記複数の光信号の個数は8以上であってよい。前記複数の光信号は、光周波数が低い方から、SPPSGSPPSのパターンに従って前記光周波数グリッドに配置されてもよい。
【0033】
この態様では、例えば、前記複数の光信号の個数は8であってよい。前記複数の光信号は、光周波数が低い方から、SPPSGSPPSのパターンに従って前記光周波数グリッドに配置されてもよい。
【0034】
本発明の一態様では、前記波長多重光信号を送信する光ファイバ伝送路を、さらに含み、前記複数の光信号は前記光周波数グリッド上の対象範囲に配置され、前記対象範囲の少なくとも一部が、前記光ファイバ伝送路の光ファイバの零分散波長の分布範囲に対応する光周波数範囲に含まれている。
【0035】
この態様では、例えば、前記対象範囲の全てが、前記光ファイバの零分散波長の分布範囲に対応する光周波数範囲に含まれてよい。前記波長多重光信号は、前記特定配置信号群を複数含み、前記複数の特定配置信号群のそれぞれは、当該特定配置信号群に含まれる最低光周波数の光信号から最高光周波数の光信号までの周波数グリッドの数をMとしたとき、M-1≦Kの条件を満たし、Kは前記光ファイバ伝送路の位相整合帯域の最悪値をBとしたときにKΔf>Bを満たしてもよい。
【0036】
また、この態様では、例えば、前記特定配置信号群は、前記光ファイバの零分散波長の分布範囲に対応する周波数範囲の周波数グリッド上に配置されてよい。前記特定配置信号群に含まれる最低光周波数の光信号から最高光周波数の光信号までの周波数グリッドの数をMとしたとき、MはM-1≦Kを満たし、前記光ファイバ伝送路の位相整合帯域の最悪値をBとしたときにKはKΔf>Bを満たしてもよい。
【0037】
本発明の一態様では、前記光源部と前記波長多重光信号生成部と、を含む波長多重光送信機を含んでよい。前記各光信号は、光源からの光の光強度、光電界振幅又は位相のいずれか少なくとも一つを情報信号によって変化させる二値変調又は多値変調により生成されてもよい。
【0038】
この態様では、例えば、前記波長多重光送信機から送信される前記波長多重光信号を受信する波長多重光受信機を、さらに含んでもよい。前記波長多重光受信機は、受信した前記波長多重光信号を複数の単一波長の光信号に分波し、前記波長多重光受信機は、複数の光受信器を含み、前記各光受信器は前記複数の単一波長の光信号のうちいずれかを受信してもよい。
【0039】
また、本発明に係る波長多重光送信機は、周波数が異なる複数の光信号を発生させる光源部と、前記複数の光信号が入力され、入力された前記複数の光信号から波長多重光信号を生成し、前記波長多重光信号を出力する波長多重光信号生成部と、を含み、前記複数の光信号は周波数間隔がΔfの光周波数グリッド上に配置され、前記波長多重光信号は、少なくとも1の特定配置信号群を含み、前記特定配置信号群は、Q個(Qは1以上の整数)の第1の単一偏波状態の光信号と、R個(Rは1以上の整数)の前記第1の単一偏波状態と直交する第2の単一偏波状態の光信号を含み、前記特定配置信号群に含まれる前記第1の単一偏波状態の光信号のいずれの対の周波数差も、前記第1の単一偏波状態の光信号の他の全ての対の周波数差及び前記第2の単一偏波状態の光信号の全ての対の周波数差と異なり、前記特定配置信号群に含まれる前記第2の単一偏波状態の光信号のいずれの対の周波数差も、前記第1の単一偏波状態の光信号の全ての対の周波数差及び前記第2の単一偏波状態の光信号の他の全ての対の周波数差と異なる。
【0040】
本発明においては「部分光信号群内の光信号は互いに直交するQ個(Qは1以上)のS偏波の光信号とR個(Rは1以上、L=Q+R)のP偏波の光信号から構成され、全ての2つのS偏波の光信号間の周波数間隔が異なり、かつ全ての2つのP偏波の光信号の周波数間隔が異なり、かつS偏波の全ての2つの光信号の周波数間隔とP偏波の全ての2つの光信号の周波数間隔が異なる」というFWM抑圧規則に従って波長を配置することによって、周波数の連続した部分光信号群内において光信号と同じ光周波数に発生するFWM光を信号光と直交する偏波状態に限定し、FWM光の影響を大きく低減することが可能となる。Q及びRのいずれか一方が3以上である場合、より有用である。
【発明の効果】
【0041】
本発明では、信号に重なるFWM光の偏波状態が信号と直交するように、光信号の波長と偏波を配置することにより、光ファイバ内の偏波状態や波長分散の揺らぎの無いワーストケースにおいて、信号と重なるFWM光が発生しても劣化を抑圧できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の課題であるFWM光の発生原理の説明図である。
図2】FWM光を緩和する従来の光信号配置の第一の説明図である。
図3】FWM光を緩和する従来の光信号配置の第二の説明図である。
図4】本発明の第1の実施形態における波長・偏波の配置図である。
図5】本発明の第2の実施形態における波長・偏波の配置図である。
図6】本発明の第1の実施形態における波長多重光伝送システムの第一の構成図である。
図7】本発明の第1の実施形態における波長多重光伝送システムの第二の構成図である。
図8】本発明の第2の実施形態における波長多重送信モジュールの構成図である。
図9】本発明の第3の実施形態における波長・偏波の配置図である。
図10】本発明の第4の実施形態における波長・偏波の配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の幾つかの実施形態を図面を参照して説明する。
【0044】
以下本発明においては、周波数間隔Δfの等間隔の光周波数グリッド上に、N波(Nは4以上)の単一偏波の光信号を、互いに直交するS偏波とP偏波のいずれかの偏波状態で配置し、光ファイバを伝送路として情報伝送を行う波長多重光伝送システムを想定する。
【0045】
本発明におけるFWM抑圧規則とは、上記のうち、連続したM個(Mは4以上)の光周波数グリッド上に配置されたL個の光信号(4≦L≦N)よりなる部分光信号群を対象とするものであり、「部分光信号群内の光信号は、Q個(Qは1以上)のS偏波の光信号と、R個(Rは1以上、L=Q+R)のP偏波の光信号から構成され、全ての2つのS偏波の光信号間の周波数間隔が異なり、かつ全ての2つのP偏波の光信号の周波数間隔が異なり、かつS偏波の全ての2つの光信号の周波数間隔とP偏波の全ての2つの光信号の周波数間隔が異なる」である。本規則の一般性と妥当性については下記のように説明できる。
【0046】
1)S偏波の信号同士の相互作用で発生するFWM光は全てS偏波となる。S偏波の光信号が1波であればFWMは発生せず、2波であれば図1(b)の左図の部分縮退となるため、FWM光が信号光自身に重なることはなくFWMによる劣化は小となる。3波以上の場合、S偏波信号は不等間隔配置、すなわちどの2波の周波数間隔も不等間隔となるように配置されているため、いずれの2波が図1(c)のポンプ光として周波数ビートΔfpを生じた場合でも、FWM光の発生周波数は残る他のS偏波信号(アイドラー光)から周波数が上下にΔfp離れた位置であり、同じ周波数間隔ΔfpのS偏波の光信号は存在しないことからFWM劣化が抑圧できる。これはP偏波の信号同士でも同様である。
【0047】
2)S/P両偏波の光信号の相互作用で発生するFWM信号としては、まずS偏波の信号2波(周波数間隔Δfp)がポンプ光となり、P偏波の信号のいずれかがアイドラー光となる場合が考えられる。このケースではアイドラー光の上下にΔfp離れた周波数にP偏波のFWM光が発生するが、上記規則ではP偏波信号内には周波数間隔がΔfpと等しい2波は存在しないため、FWM劣化が生じない。これは残るP偏波の信号2波(周波数間隔δ)がポンプ光となり、S偏波の信号のいずれかがアイドラー光となるについても同様である。
【0048】
以上のように本FWM抑圧規則を満たすことで、対象とした部分光信号群の内部ではFWM劣化が生じないことを保証できる。波長多重光信号に1以上のFWM抑圧規則を満たす特定配置の部分光信号群を含むことで、波長多重光信号のFWM光の影響を低減することが可能である。こうしたFWM抑圧規則を満たす部分光信号群を特定配置信号群と呼ぶ。本明細書中では、単に部分光信号群とも称する。
【0049】
図3の波長・偏波配置においては(a)の4波長配置ではFWMによる劣化を防ぐことが可能であるものの、一方で図3(b)の8波長配置ではFWM劣化を完全に防止することはできない。例えば、図3(b)のうち光周波数f2~f5の部分では4波の光信号がSSPP、f4~f7の部分ではPPSSのように等間隔で配置されている部分があり、前述の偏波インタリーブの場合と同じ原理で信号に同じ偏波のFWM信号が重なってしまい信号劣化を生じてしまう。図3(b)の下段には光周波数グリッドf2~f5上に配置されたsig2~sig5の4波によって発生するFWM光を示しているが、信号sig2~sig5は全て同じ光周波数グリッドに同一偏波のFWM光が発生し大きな劣化を生じる可能性があることがわかる。
【0050】
このように4波の信号を等間隔で連続配置する場合についてはFWMによる劣化を抑圧可能な波長・偏波配置が一種類知られていたものの、より一般的なFWMを抑圧する偏波・波長配置の規則や、FWM劣化を抑圧しつつ信号数を5波以上に増やす方法は明らかでなかった。
【0051】
ここで図4は、本発明の第1の実施形態における波長・偏波の配置図であり、sig1~sig4の4波の光信号を連続する4つの光周波数グリッドf1~f4に配置する場合に、本発明のFWM抑圧規則を満たす波長・偏波配置を示す。本配置では4波のうち外側2波と内側1波(本例ではsig1,sig3,sig4)を同一の偏波状態Sに、また残る内側1波(sig2)を直交する偏波状態PとしたSPSS配置であり、本配置は周波数軸及び偏波状態の対称性から、SSPS、PPSP、PSPP配置と表記しても等価である。本配置においてはS偏波の3波は互いに不等間隔配置であり、S偏波グループ中の任意の2波の周波数間隔はΔf、2Δf、3Δfの3通りで、これらはいずれも異なる値であり、またP偏波には1波しか存在しないことから本発明のFWM抑圧規則を満たしている。S偏波の光信号3波は不等間隔配置であるため発生するFWM光(S偏波)は他のS偏波の光信号に重なることはなく、P偏波のsig2に重なった場合でも偏波が直交しているため劣化を抑止することができる。一方、S偏波の任意の2波長が発生する周波数ビートが、アイドラー光としてP偏波のsig2を変調した際にはP偏波のFWM光が発生するが、これはS偏波の光信号sig1、sig3、sig4に重なっても偏波が直交しているため信号劣化を抑止できる。なお、本例の波長・周波数配置は、従来知られていない新規の配置である。
【0052】
4波の信号を連続する波長グリッドに並べるSPSS配置においては、FWMの抑制の効果に加えて、SPPS配置と比べて偏波変換に必要な光部品の数を節減できるという効果がある。
【0053】
なおSとPの2つの直交偏波の等価性と周波数の左右対称性を考慮すると、偏波状態SPを連続する4つの光周波数グリッド上の光信号に割り当てる組み合わせは、SSSS、SSSP、SSPS、SSPP、SPSP、SPPSの6通りが全てとなる。このうち公知のSPPS配置と、本発明のSSPSを除くと残りは4種となる。このうちSSSS及びSSSPはS偏波の4波長ないしは3波長が互いに等間隔(グリッド間隔Δf)、SSPP及びSPSPはS偏波2波とP偏波2波の周波数間隔が同一であるため、本発明のFWM抑圧規則を満たしておらず、FWM劣化を防止できない偏波配置となる。
【0054】
図5は本発明の第2の実施形態における波長・偏波の配置図であり、5つの連続する光周波数グリッド上に4波の光信号を配置する2つの例であり、どちらも中心グリッドを空きグリッド(以下ガードグリッド、Gと表記)としている。ガードグリッドは、複数の光信号が配置される対象範囲において、最低周波数のグリッド及び最高周波数のグリッド以外に設けられる、光信号が配置されないグリッドである。つまり、部分光信号群がガードグリッドを含むということは、連続した周波数グリッド内の信号間の周波数差が2Δf以上になりうるということである。5つ以上の周波数グリッドに光信号を配置する際にはガードグリッドを設けることでFWMが抑圧できるという効果がある。図5(a)はSPGSS配置であり、ガードグリッドがあってもSグループ内の2波の周波数間隔はΔf、3Δf、4Δfと全て異なることから本発明のFWM抑圧規則を満たす配置であり、図5(a)の下段に示すように信号光と同じ周波数に発生するFWM光は全て信号光と直交偏波となる。このように本発明のFWM抑圧規則は、光信号を配置しないガードグリッドを設ける場合にも有効であり、ガードグリッドを設けて波長間隔を広げFWM発生効率を下げることによってFWM抑圧効果をさらに高めることが可能となる。
【0055】
また図5(b)は本発明の一態様であるPSGSP配置であり、本配置もS偏波グループの2波の周波数間隔は2Δf、P偏波グループの2波の周波数間隔は4Δfで両者が異なり、本発明のFWM抑圧規則を満たす配置となっている。本配置の利点は、中央のガードグリッドの効果により公知のSPPS配置よりFWM抑制効果が大きく向上する点である。本例では最小周波数間隔をΔfから2倍の2Δfに拡大するとともに、図5(b)に示すように本配置では信号光の光周波数にFWM光が生じないようにすることができる。これらの光信号を波長分波して直接受信する際には、受信信号中には同偏波・直交偏波ともにFWM光の漏れこみがまったく生じなくなることから、信号光品質の劣化をさらに低減することが可能となる。また本配置においてはどの光信号にも隣接する周波数グリッド上に同一偏波のFWM光が発生せず、このため光源の周波数誤差に対する耐力も従来の不等間隔配置の2倍以上に向上するという効果がある。
【0056】
図6は本発明の第1の実施形態における波長多重光伝送システムの第一の構成図であり、図4のSPSS配置を実現する例である。本発明の一態様として、波長多重光伝送システムは波長多重光送信機100、光ファイバ伝送路106及び波長多重光受信機107を含む。波長多重光送信機は、周波数が異なる複数の光信号を発生させる光源部100aと、入力された複数の光信号から波長多重光信号を生成し、出力する波長多重光信号生成部100bを含む。一方、波長多重光受信機107は、受信した波長多重光を複数の単一波長の光信号に分波する波長分波器108と、分波された単一波長の光信号を受信する受信器109-1~4を含む。本発明の一態様として、波長多重光送信機の内部では光源からの光を情報信号によって二値変調又は多値変調して、それぞれ単一偏波の光信号を生成している。情報信号は、光強度、光電界振幅又は位相のいずれか少なくとも一つを変化させている。一方、光受信機ではこれらの光信号を直接受信ないしは前述の単一偏波成分を選択的に抽出するコヒーレント受信で受信すればよい。これによって直交偏波のFWM光の影響を抑制しつつ、単一偏波の光信号を用いた情報伝送が可能となる。本図では本発明の一態様として、波長多重光送信機100から出力された波長多重光信号が光ファイバ伝送路106を伝送された後に波長多重光受信機107で受信される波長多重光伝送システムを示す。本図では、光周波数の異なる4つの強度変調光源101が光源部100a、主に偏波保持波長合波器103及び偏波合成カプラ104が波長多重光信号生成部100bを構成する。波長多重光送信機100の内部には発振波長(光周波数)の異なる強度変調光源101-1(光周波数f1)、101-3(光周波数f3)、101-4(光周波数f4)、101-2(光周波数f2)が配置されており、それぞれ独立の情報信号で変調された単一直線偏波の強度2値ないしは多値変調光を出力する。強度変調光源101-1、101-3、101-4の出力光はそれぞれ偏波保持光ファイバ102-1、102-3、102-4を介して偏波状態を維持したまま偏波保持波長合波器103で合波され、偏波保持光ファイバ102-5を介して偏波合成カプラ104のS入力ポートに入力され、偏波状態Sとして光ファイバ伝送路106に出力される。一方、強度変調光源101-2の出力光も同様に偏波保持光ファイバ102-2に入力され偏波状態を維持したまま偏波合成カプラ104のP入力ポートに入力され、前述の偏波状態Sと直交する偏波状態Pとして光ファイバ伝送路106に出力される。本構成によって、周波数グリッドf1、f2、f3、f4の4光周波数のうち光周波数f1、f3、f4の3波がS偏波、光周波数f2の1波がP偏波となる図4のSPSS配置の波長多重光信号を生成することが可能となる。
【0057】
波長多重光受信機107の内部に、波長分波器108が配置されており、受信した波長多重光を複数の単一波長の光信号に分波する。その後、単一波長の光信号は、それぞれ直接受信方式の光受信器109-1、109-2、109-3及び109-4によって直接受信される。単一波長の光信号は、コヒーレント受信してもよい。なお光ファイバ伝送路106はわずかではあるがランダムな偏波モード分散(PMD)を持つため、光ファイバ中の波長の離れた光信号の直交性は光ファイバ中の伝送に伴って少しずつ崩れていくことが知られている。しかしながらFWMは光信号の強い光ファイバの入力部5~20km程度で強く発生するため、波長多重伝送に使用する波長帯域幅が10~数10nmの範囲であれば、ファイバ伝送路中でも近接した波長間の直交性は概ね保たれ、本発明のFWM抑圧効果が維持できる。
【0058】
なお本発明の一態様におけるFWM信号の受信には単一偏波の光信号を、フォトダイオードなどを用いて直接電気信号に変化する直接受信の際に発揮されるため、一般的な2値や多値の強度直接信号の受信のみならずさらに広い範囲の変調信号に適用が可能である。このような例としてはアナログ光強度(振幅)変調、光(差動)位相変調、光周波数変調、光サブキャリア変調、OFDM変調、強度・位相変調の組み合わせなど多岐に亘り、いずれも光直接検波(遅延検波を含む)などが挙げられる。また偏波多重を用いない単一偏波伝送であれば光電界のコヒーレント受信方式を用いる場合でも本発明が適用可能となる。これは本発明の波長・偏波配置を適用すると、受信光と同じ周波数に発生するFWM光は情報伝送に利用しない直交偏波成分のみとなり信号品質に劣化を生じないためである。
【0059】
図7は本発明の第1の実施形態における光伝送システムの第二の構成図であり、本例では前述の図6と異なる波長・偏波合成によって本発明の波長・偏波配置を持つ光信号を生成している。本例では、光周波数の異なる4つの強度変調光送信光源201が光源部200a、主に1/2波長板210及び偏波保持波長合波器211が波長多重光信号生成部200bを構成する。本例では強度変調光送信光源201-1、201-2、201-3、201-4の出力光をそれぞれ偏波保持光ファイバ202-1、202-2、202-3、202-4で偏波保持波長合波器211に入力して4波長多重を行うが、その際に周波数f2の光信号の経路にのみ1/2波長板210を45°傾けて配置することで本信号を直交偏波に変換し、本発明のSPSS配置の波長・偏波配置の光信号を生成する。このためSPPS等の公知の波長配置に比べて、必要となる1/2波長板の数を削減することが可能となる。
【0060】
図6図7においては本発明の一態様として波長多重光伝送システムおよび波長多重光送信機の代表的な実現方法を示したが、その構成はこれらに限るものではなく、波長カプラの代わりに波長依存性の無い光カプラを用いたり、偏波回転させる光信号を入れ替えたり、光部品をバルク光学系で実現したり、導波路部品として集積実装するなど様々な実現方法が可能である。
【0061】
図8は本発明の第2の実施形態における波長多重送信モジュール(TOSA)120の構成図である。本例では、光周波数の異なる4波長多重集積光源121が光源部であり、主にコリメートレンズ122、反射鏡123、1/2波長板110、集光レンズ125及び出力ポート126が波長多重光信号生成部127を構成する。波長多重送信モジュール120の内部には光周波数の異なる4つ強度変調光送信光源101-1(光周波数f1)、101-5(光周波数f5)、101-2(光周波数f2)、101-4(光周波数f4)が搭載されている。これらの光源からは、情報信号で強度変調された2値ないしは多値変調光が空間光中に放散される。コリメートレンズ122は本拡散光を平行光に集光し、反射鏡123で方向を変えるとともに、波長合波器124-1、124-2、124-3によって他の光源の出力光と波長合波を行ない、集光レンズ125によって出力ポート126に結合・出力する。平行光の経路の途中には1/2波長板110が45°傾けられて配置されており、光周波数f1、f5の光信号はここを通過する際に偏波状態が直交変換されるため、本例では外側の光周波数f1、f5の光信号の偏波状態が内側の光周波数f2、f4の光信号と直交した波長・偏波配置が得られる。なお本例では光周波数f3は未使用のガードグリッドであり、出力光の波長・偏波配置は図5(b)のPSGSP配置と等価のSPGPS配置となる。
【0062】
本発明の一態様においては周波数グリッド上に任意の個数の空きグリッド、すなわちガードグリッドを設けることでその効果を増したり、光波長・偏波配置の自由度を高めることが可能となる。ガードグリッドを用いずに全ての光信号を隣接配置する場合、FWM抑圧規則が成立するのは4波(M=L=4、連続4周波数グリッド上に4波を配置)が上限であり、5波以上の配置は不可能である。しかしながら適宜ガードグリッドを設けることで、5波以上の光信号に対してこれまで知られていない直交偏波を利用したFWM抑圧配置が可能となる。
【0063】
図9は本発明の第3の実施形態における波長・偏波の配置図であり、連続する6つの周波数グリッド(M=6、f1~f6)上に、5波(L=5)の信号s1~s5をSSGPSPとなるように配置した例である。本配置では、(1)Sグループ内の任意の2波の周波数間隔はΔf、3Δf、4Δfは3通りですべて異なる、(2)Pグループ内の2波の周波数間隔は2Δfの1通り、(3)Sグループ内とPグループ内の周波数間隔はすべて異なる、と本発明のFWM抑圧規則を満たす波長・偏波配置となっていることがわかる。図中の下段にはs1~s5の5波の信号の相互作用で発生する全てのFWM光の光周波数と偏波状態を示しているが、信号s1~s5と同じ周波数に発生するFWM光はすべて信号と直交する偏波となっていることが確認できる。このように本発明においては、ガードグリッドを活用することによって光信号数Lが5を越える場合においてもFWMによる劣化を抑圧する信号配置が実現でき、伝送容量の増大、および周波数帯域の削減と波長分散の低減による伝送距離の延伸が可能となる。
【0064】
しかしながらさらに波長数を増大すると発生するFWM光の数が急増するため、全波長で本発明のFWM抑圧規則を厳密に満たすためには非常に多くのガードグリッドが必要になってしまう。ガードグリッドが増えると波長帯域の利用効率が低下し伝送容量が不足したり、波長帯域幅が大幅に拡大し光信号の損失や波長分散が増加し伝送距離が急減するなどの不具合が生じてしまう。
【0065】
これに対し本発明の一態様では、波長帯域の部分集合である連続したM個の光周波数グリッド上に配置されたL個の光信号よりなる部分光信号群に対して、局所的に本発明のFWM抑圧を保証する光信号配置を導入する。位相整合帯域を考慮して局所的にFWM抑圧規則を適用することで、必要な波長帯域を低減し伝送帯域を増加したり帯域利用効率を高めるとともに、波長分散の影響を低減し伝送距離を延ばす効果がある。これは現実の光ファイバでは、FWM発生に関与する信号光の波長間隔が離れるとFWMの発生効率が大きく低下するためである。前述のようにFWMの位相整合帯域は光ファイバの製造中のテンション状態などによって大きく変わるため一定ではなく、例えば非特許文献2における光ファイバの位相整合帯域は最小では2nm以下、一方FWMの発生しやすい最悪の光ファイバでは最大で16nmと大きくばらついている。周波数グリッドの幅をΔfとした場合、M個の連続する周波数グリッド上に配置された部分光信号群の帯域幅は(М―1)Δfであることから、局所的な部分光信号群のFWM抑圧の目安としては、伝送路の位相整合帯域の最悪値B<MΔfを満たすようにすればよい。FWMの発生効率は、光信号の波長間隔が光ファイバの位相整合帯域を越えると急激に低下するため、光ファイバ伝送路の位相整合帯域の最悪値<KΔfとなるような最小の整数Kに対して、前記全光信号の範囲でM≦Kの全ての部分光信号群において前記FWM抑圧規則を満たすようにすることで、波長帯域全体においてFWMの抑圧を保証することが可能となる。例えば1.3um帯におけるLAN-WDM規格の光周波数間隔Δfは800GHz(波長間隔はおよそ4.5nm)であり、M=5の場合に(М―1)Δf=18nmとなり、前記の最悪位相整合帯域B=16nmを上回ることから、本発明によってFWM抑制効果が得られることがわかる。
【0066】
光伝送に用いる波長域が光ファイバの零分散波長の分布範囲より広い場合には、光ファイバの零分散波長の分布範囲内の部分光信号群においてのみ本発明のFWM抑圧規則を満たす波長・偏波配置を用いればよい。
【0067】
図10は本発明の第4の実施形態における波長・偏波の配置図であり、8波(L=8)の光信号を9個の連続した周波数グリッド(M=9)上に配置している。本図の2つの例はどちらも、8波全体では本発明のFWM抑圧規則を満たすことはできないが、最大M=5個までの全ての連続する周波数グリッド上の部分光信号群についてそれぞれ局所的に本発明のFWM抑圧規則を満たす配置の例である。
【0068】
図10(a)は8波をSPSSGPSPPと配置した例であり、8波全体では例えばSグループ・Pグループ内に周波数間隔Δfの信号配置SSとPPがある点から本発明のFWM抑圧規則は満たしていない。しかしながら、低周波数側から順に連続5グリッド上の波長偏波配置を抽出すると、SPSSG(周波数f1~f5)、PSSGP(周波数f2~f6)、SSGPS(周波数f3~f7)、SGPSP(周波数f4~f8)、GPSPP(周波数f5~f9)の5光信号群となり、これらはすべて本発明のFWM抑圧規則を満たしている。図の下段にはこれらの5光信号群で発生するFWM信号を示しているが、各群内の光信号と重なるFWM光はすべて信号光と直交していることが確認できる。
【0069】
なお本配置では連続6周波数グリッド(M=6)に対しては、FWM抑圧規則を満たしていない。M=6の光信号群の波長・偏波配置は低周波側から順に、SPSSGP、PSSGPS、SSGPSP、SGPSPPの4通りであり、このうち2番目のPSSGPSではS・P両グループ中に周波数間隔4Δfの2波が存在、4番目の光信号群ではS・P両グループ中に周波数間隔3Δfの2波が存在することから判断できる。このように本FWM抑圧規則は光信号の波長・偏波配置のFWMへの脆弱性の判断にも有用となる。
【0070】
また本配置においては部分光信号群内でのFWM抑圧は保証できるものの、その外部で発生したFWM光に対してはその限りではない。例えば、図10(a)において連続5周波数グリッドf1~f5上の光信号群SPSSGから発生するFWM光FWM(f1~f5)を見ると、周波数グリッドf7においては、光信号群外の信号光s6と同じ偏波状態の光信号f7が発生していることがわかる。
【0071】
一方、図10(b)は本発明の一態様として、8波をSPPSGSPPSと配置した例であり、本例もM=5の部分光信号群までは本発明のFWM抑圧規則を満たす波長・偏波配置例である。本例のM=5の部分光信号群は低周波側から順にSPPSG(周波数f1~f5)、PPSGS(周波数f2~f6)、PSGSP(周波数f3~f7)、SGSPP(周波数f4~f8)、GSPPS(周波数f5~f9)であるが、本配置の周波数対称性を考慮すると末尾の2組は先頭の2つと等価であり、残る先頭の3組の光信号群SPPSG、PPSGS、PSGSPはいずれもS偏波P偏波の信号を2波ずつ含み、かつS偏波の2波・P偏波の2波の間隔が異なることから本発明のFWM抑圧規則を満たすことが簡単に確認できる。なお本配置に含まれる5つの部分光信号群は、すべてSPPSGという5文字の巡回パターンで配置されている。ここで巡回パターンとは、光周波数グリッドの光周波数が低い方からSPPSGを巡回させてなる順序のいずれかのことをいう。具体的には、先頭の1文字を順に後ろに移動することによって得ることができ、SPPSG、PPSGS、PSGSP、SGSPP、GSPPSのパターンが該当する。SPPSG及びGSPPSのパターンは一番外側にGがあるためL=M=4の部分光信号群と実質的に同じ配置となるが、PPSGS、PSGSP及びSGSPPはL=4、M=5の特別な配置の部分光信号群となる。
【0072】
図10(b)の下部には上記3部分光信号群f1~f5、f2~f6、f3~f7の発生するFWM光の周波数・偏波状態を矢印で示している。本配置は下記の2点の特長から、特異的にFWM抑圧に有利な配置となっている。
【0073】
第一の特長は、本配置においてはどのM=5の部分光信号群の発生するFWM光も、部分光信号群の外側の光信号に対しても偏波状態が直交している点である。すなわち、周波数グリッドf1~f5の部分光信号群(SPPSG配置)の生成するFWM光は、本光信号群に属する信号光s1~s4の周波数f1~f4のみならず、信号光s6の周波数f7にも発生しているが、これは信号光s6に対して直交する偏波となる。同様に、光周波数グリッドf2~f6上の光信号群s2~s5の発生するFWM光は、これらの信号に加えて光周波数f1の信号光s1、光周波数f7,f8の信号光s6,s7にも発生しているが、同様に全て信号光に直交している。これはf3~f7の光信号群に対しても同様であり、これにより本配置では全てのM=5までの部分光信号群が発生するFWM光は光信号群の帯域外においても他の光信号と直交することが確認でき、本配置においては特にFWM光による劣化の抑圧効果が高いことがわかる。
【0074】
本配置の第二の特長は、SPPSGの配置パターンを前後にさらに繰り返し配置することで波長数を無制限に延長することができる点である。光信号の偏波状態が光周波数の低い方からSPPSG(又はPSSPG)を巡回させてなる1のパターンを複数連続させた連続パターンの、全体又はその一部を切り出したパターンとして延長することで、波長数を5波以上とした場合でも、連続5グリッド(M=5)までの全ての部分光信号群でFWM抑圧規則を満たすことが可能となる。複数連続させた連続パターンとは、例えばSPPSGを巡回させてなる1のパターンとした場合に、SPPSGのパターンを3回連続させた連続パターンはSPPSGSPPSGSPPSGである。この場合において連続パターンの全体を切り出したパターンとは、SPPSGSPPSGSPPSGのパターンである。連続パターンの一部を切り出したパターンとは、例えば、先頭や最後を含んで切り出したSPPSGSP及びPSGSPPSG、並びに任意の位置でパターンの中央部を切り出したSGSPPSGS等が当てはまる。全体又は一部を切り出したパターンは一例であり、他のパターンでもよい。このような延長の具体的な例としては、図10(b)において図中に配置した8波長の左側の光周波数f-2にP、f-1にS、f0にG、また右側に光周波数f10にG、f11にS、f12にP...と配置を行う。このような延長を行っても、図中の3組の部分光信号群の発生するFWM光は、延長部の光周波数f-2、f-1、f0、f10、f11、f12の信号光と直交(S偏波の信号光を配置する光周波数では下向き矢印のP偏波、P偏波の光信号を配置する光周波数では上向き矢印のS偏波)していることが確認できる。図10(b)では、光信号が8波の場合を図示したが、光信号が8波以上の場合であっても、SPPSGSPPSのパターンに従って配置される部分があることで、特に高いFWM光の抑圧効果を得ることができる。
【0075】
なお上記では、SPPSGSPPS配置を元に説明を行ったが、本配置はSPPSGの5文字単位の巡回性を持つため先頭はどこから開始することも可能であり、PPSGSPPSGS、PSGSPPSGSP、SGSPPSGSPP(SPは反転しても可)などの8波配置も上記とまったく同一の性質をもつ。ただし帯域利用効率の観点では、必要帯域を最小とすることができるため、ガードグリッドが1個のSPPSGSPPSがもっとも有利な配置となる。
【0076】
このような波長・偏波配置は、光ファイバの零分散波長の統計的な分布が広く、信号波長域の全体に亘ってFWMの発生が考えられるような場合に特に有効となる。またもし零分散波長の分布が波長光多重伝送に用いる波長域より狭い場合には、本発明をすべての波長に適用する必要はなく、零分散波長の分布領域内についてのみ各部分光信号群に本発明のFWM抑圧規則を適用すればよい。このような例としては、零分散波長の出現する9周波数グリッドにのみ、図10(a)や(b)の波長・偏波配置を行い、それ以外の波長域ではガードグリッドを除去するとともに信号光偏波状態を制御しない稠密な波長配置が可能である。
【符号の説明】
【0077】
100:波長多重光送信機、100a:光源部、100b:波長多重光信号生成部、101:強度変調光送信光源、102:偏波保持光ファイバ、103:偏波保持波長合波器、104:偏波合成光カプラ、106:光ファイバ伝送路、107:波長多重光受信機、108:波長分波器、109:光受信器、120:波長多重送信モジュール(TOSA)、121:4波長多重集積光源、122:コリメートレンズ、123:反射鏡、124:波長合波器、125:集光レンズ、126:出力ポート、127:波長多重光信号生成部、200波長多重光送信機、200a:光源部、200b:波長多重光信号生成部、201:強度変調光送信光源、202:偏波保持光ファイバ、210:1/2波長板、211:偏波保持波長合波器

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10