(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005038
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ヘモグロビンの安定化方法、及びヘモグロビン保存溶液
(51)【国際特許分類】
G01N 33/72 20060101AFI20240110BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N33/72 A
G01N33/50 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105015
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】北島 幸恵
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB30
2G045DA51
2G045FA14
2G045HA10
(57)【要約】
【課題】一態様において、溶液中においてヘモグロビンを安定に保存可能な新たな方法、及びヘモグロビンを安定に保存可能な保存溶液を提供する。
【解決手段】 本開示は、一態様として、ヘモグロビンを含む溶液に、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方を共存させることを含む、溶液中のヘモグロビンを安定化するための方法に関する。本開示は、その他の態様として、ヘモグロビンとアセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方とを含むヘモグロビンの保存溶液に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中のヘモグロビンを安定化するための方法であって、
前記ヘモグロビンを含む溶液に、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方を共存させることを含む、方法。
【請求項2】
前記溶液は、品質管理試薬溶液である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記溶液中のアセチルアセトンの濃度が、10mg/dL~200mg/dLである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記溶液中の尿酸の濃度が、1mg/dL~20mg/dLである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記溶液に、アセチルアセトン及び尿酸を共存させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記溶液中のアセチルアセトンの濃度が、10mg/dL~200mg/dLであり、及び/又は
前記溶液中の尿酸の濃度が、1mg/dL~20mg/dLである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記溶液が、リン酸緩衝液をさらに含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記溶液のpHは、7~9である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記ヘモグロビンと、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方とを含む溶液を、一定期間保存することを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記溶液が、クレアチニン、グルコース、アルブミン、エラスターゼ、及び亜硝酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一つをさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記溶液は、生体尿を含まない、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ヘモグロビンの保存溶液であって、
ヘモグロビンと、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方とを含む、保存溶液。
【請求項13】
前記溶液は、品質管理試薬溶液である、請求項12記載の保存溶液。
【請求項14】
前記溶液が、ヘモグロビン、アセチルアセトン及び尿酸を含む、請求項12記載の保存溶液。
【請求項15】
前記溶液中のアセチルアセトンの濃度が、10mg/dL~200mg/dLである、請求項12から14のいずれかに記載の保存溶液。
【請求項16】
前記溶液中の尿酸の濃度が、1mg/dL~20mg/dLである、請求項12から14のいずれかに記載の保存溶液。
【請求項17】
前記溶液中のアセチルアセトンの濃度が、10mg/dL~200mg/dLであり、及び/又は、
前記溶液中の尿酸の濃度が、1mg/dL~20mg/dLである、請求項14記載の保存溶液。
【請求項18】
前記溶液が、
リン酸緩衝液、及び/又は、
クレアチニン、グルコース、アルブミン、エラスターゼ
、及び亜硝酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一つを、
さらに含む、請求項12から14及び17のいずれかに記載の保存溶液。
【請求項19】
尿検査用コントロールとして使用するための、請求項12から14及び17のいずれかに記載の保存溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶液中のヘモグロビンの安定化方法、及びヘモグロビンを含有する保存溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料を検体とする検体検査の測定値は健康状態の把握、疾病の診断・治療に関する重要な指標である。そのため、測定値の信頼性を担保するために、検査システムの精度管理が必要である。精度管理に用いるコントロール試薬として、生体試料中成分やその疑似物質を含んだコントロール試薬が利用されている。またコントロール試薬は経時変化が少ない安定性の高い試薬が求められ、安定化を実現する手法が検討されている(特許文献1及び2)。
特許文献1は、尿中の測定対象物の内、不安定な物質は凍結乾燥させ、安定なものは溶液中で保存する精度管理用のキットを開示する。特許文献2は、ヘモグロビンの安定化のために2-ケトグルタル酸等を利用することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6514190号
【特許文献2】特開2003-14768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、溶液中においてヘモグロビンを安定に保存可能な新たな方法、及びヘモグロビンを安定に保存可能なヘモグロビンを含有する保存溶液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、一態様として、溶液中のヘモグロビンを安定化するための方法であって、ヘモグロビンを含む溶液に、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方を共存させることを含む方法に関する。
【0006】
本開示は、その他の態様として、ヘモグロビンの保存溶液であって、ヘモグロビンとアセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方とを含む保存溶液に関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、一態様において、溶液中のヘモグロビンを安定に保存可能な方法及びヘモグロビン含有保存溶液を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、溶液中でヘモグロビンを30℃で13日間保存したヘモグロビンの安定性確認試験の結果の一例を示すグラフである。
【
図2】
図2は、溶液中でヘモグロビンを30℃で27日間保存したヘモグロビンの安定性確認試験の結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
検体検査における測定方法としては、液状試薬と生体試料とを混合して測定する方法や、試薬をろ紙などに含ませ乾燥させたドライ試験紙を用いて測定する方法がある。試験紙を用いた測定は、操作が簡便であること、及び複数の項目を同時に測定できること等の理由から、スクリーニング検査として広く行われている。検体検査を行うにあたり施設によって頻度が異なるものの、コントロール試薬を用いた精度管理が少なくとも1日1回行われている。コントロール試薬としては、液状のコントロール試薬、及び用時調製する凍結乾燥粉末のコントロール試薬がある。
凍結乾燥粉末のコントロール試薬の場合、用時調製が必要となるため作業が煩雑になるという問題がある。また、液状のコントロール試薬の場合、コントロール試薬に含まれる成分(測定項目)を安定に保存する必要がある。
生体試料、例えば、尿、便、血液又は唾液などの測定項目の一つとしてヘモグロビン(潜血、BLD)がある。このため、ヘモグロビンを含むコントロール試薬が用いられている。しかしながら、ヘモグロビンは溶液中において保存安定性が低く、例えば、保存温度といった保存条件によって変性することや、場合によっては分解されることがある。その結果、ヘモグロビンの立体構造が破壊される場合があり、コントロール試薬が精度管理として正しく機能しないという問題が生じうる。
【0010】
上記問題に鑑み、本開示は、ヘモグロビンを含有する溶液、例えば、生体試料の検体検査の精度管理を実施するために使用される品質管理試薬溶液において、ヘモグロビンを安定に保存可能な方法を提供する。本開示における生体試料の検体検査としては、一又は複数の実施形態において、尿検査、血液検査、便検査、及び唾液検査等が挙げられる。
本発明者は、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方を、ヘモグロビンを含む溶液に共存させることにより、溶液中におけるヘモグロビンの保存安定性を向上できることを見出した。本開示によれば、一又は複数の実施形態において、ヘモグロビンを含む溶液においてヘモグロビン(例えば、ヒトヘモグロビン)を安定に保存することができうる。
【0011】
本開示における「ヘモグロビンを含む溶液」は、一又は複数の実施形態において、ヘモグロビンの濃度が0.06~2.0mg/dLである溶液をいう。溶液中のヘモグロビンの濃度は、一又は複数の実施形態において、ヘモグロビン接触活性法、シアンメトヘモグロビン法、又はヘモグロビン抗体を利用した免疫学的検出法等により測定できる。
【0012】
本開示において「ヘモグロビンを安定に保存することができる」こととしては、一又は複数の実施形態において、ヘモグロビンのペルオキシダーゼ(POD)活性が維持されていることが挙げられる。ヘモグロビンのPOD活性は、一又は複数の実施形態において、試験紙のBLDパッドの反射率(波長570~660nm)を測定することにより確認できる。
ヘモグロビンを安定に保存することができることとしては、一又は複数の実施形態において、ヘモグロビンを含む溶液の調製直後と該溶液の保存後とにおけるヘモグロビンの測定値の差分(保存後-調製直後)が小さいことが挙げられる。ヘモグロビンの測定値としては、一又は複数の実施形態において、尿試験紙のBLDパッドの反射率(波長570~660nm)が挙げられる。本開示において「調製直後」とは、ヘモグロビンを含む溶液に、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方を添加してから(アセチルアセトン及び尿酸を混合する場合は、アセチルアセトン及び尿酸の両方を添加してから)60分以内を意味する。
「ヘモグロビンを安定に保存することができる」こととしては、一又は複数の実施形態において、尿試験紙のBLDパッドの反射率(波長570~660nm)において、ヘモグロビンを含む溶液の調製直後の反射率Rbefと、30℃で13日間保存後の反射率Raft13との差分(ΔR=Raft13-Rbef)が、50以下、45以下、25以下、20以下、15以下、10以下、8以下、7以下、5以下又は4以下であることが挙げられる。
また、「ヘモグロビンを安定に保存することができる」こととしては、一又は複数の実施形態において、尿試験紙のBLDパッドの反射率(波長570~660nm)において、ヘモグロビンを含む溶液の調製直後の反射率Rbefと、30℃で27日間保存後の反射率Raft27との差分(ΔR=Raft27-Rbef)が、80以下、70以下、55以下、50以下、45以下、40以下、35以下又は30以下であることが挙げられる。
反射率の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0013】
[安定化方法]
本開示は、一態様において、溶液中のヘモグロビンを安定化するための方法に関し、本開示の方法は、ヘモグロビンを含む溶液に、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方を共存させることを含む。本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、品質管理試薬溶液におけるヘモグロビンの安定化向上に好適に用いることができる。よって、本開示におけるヘモグロビンを含む溶液は、一又は複数の実施形態において、品質管理試薬溶液である。本開示における品質管理試薬溶液としては、一又は複数の実施形態において、尿検査用コントロール試薬、血液検査用コントロール試薬、便検査用コントロール試薬、及び唾液検査用コントロール試薬等が挙げられる。
【0014】
本開示の方法は、ヘモグロビンのさらなる安定性向上の点から、一又は複数の実施形態において、ヘモグロビンを含む溶液に、アセチルアセトン及び尿酸の両方を共存させることを含むことが好ましい。
【0015】
溶液中のアセチルアセトンの濃度としては、一又は複数の実施形態において、10mg/dL~200mg/dLである。溶液中のアセチルアセトンの濃度は、ヘモグロビンのさらなる安定性向上の点から、一又は複数の実施形態において、20mg/dL以上、30mg/dL以上、40mg/dL以上、50mg/dL以上、60mg/dL以上、70mg/dL以上、80mg/dL以上、90mg/dL以上、又は100mg/dL以上である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、190mg/dL以下、又は180mg/dL以下である。
【0016】
溶液中の尿酸の濃度としては、一又は複数の実施形態において、1mg/dL~20mg/dLである。溶液中の尿酸の濃度は、ヘモグロビンのさらなる安定性向上の点から、一又は複数の実施形態において、2mg/dL以上、3mg/dL以上、4mg/dL以上、5mg/dL以上、6mg/dL以上、7mg/dL以上、8mg/dL以上、9mg/dL以上、又は10mg/dL以上である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、19mg/dL以下、又は18mg/dL以下である。
【0017】
本開示の方法は、ヘモグロビンのさらなる安定性向上の点から、一又は複数の実施形態において、溶液中のアセチルアセトンの濃度が10mg/dL~200mg/dL、かつ溶液中の尿酸の濃度が1mg/dL~20mg/dLとなるように、アセチルアセトン及び尿酸をヘモグロビンを含む溶液に共存させることを含むことが好ましく、より好ましくはアセチルアセトンの濃度が40mg/dL~120mg/dL、かつ尿酸の濃度が5mg/dL~15mg/dLとなるように共存させることがより好ましい。特に限定されない一又は複数の実施形態において、アセチルアセトンの濃度が50mg/dL又は100mg/dL、かつ尿酸の濃度が10mg/dLとなるように、アセチルアセトン及び尿酸を、ヘモグロビンを含む溶液に共存させることが挙げられる。
【0018】
本開示の方法によれば、一又は複数の実施形態において、8℃で1カ月以上、溶液中においてヘモグロビンを安定した状態で保存することができ、さらには、8℃で6カ月以上、8カ月以上、10カ月以上又は12カ月以上、溶液中においてヘモグロビンを安定に保存することができる。よって、本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、ヘモグロビンと、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方とを含む溶液を、一定期間保存することを含む。本開示の方法において一定期間保存することとしては、一又は複数の実施形態において、8℃で、1カ月以上、6カ月以上、8カ月以上、10カ月以上又は12カ月以上保存することが挙げられる。
本開示の方法によれば、一又は複数の実施形態において、30℃で10日以上、溶液中においてヘモグロビンを安定した状態で保存することができ、さらには30℃で15日以上、20日以上又は25日以上、溶液中においてヘモグロビンを安定に保存することができる。本開示の方法によれば、一又は複数の実施形態において、20℃で1.5カ月以上、溶液中においてヘモグロビンを安定した状態で保存することができ、さらには20℃で2カ月以上、2.5カ月以上又は3カ月以上、溶液中においてヘモグロビンを安定に保存することができる。また、本開示の方法によれば、一又は複数の実施形態において、4℃で13カ月以上、溶液中においてヘモグロビンを安定した状態で保存することができ、さらには4℃で15カ月以上、20カ月以上、25カ月以上又は27カ月以上、溶液中においてヘモグロビンを安定に保存することができる。
【0019】
ヘモグロビンを含む溶液は、一又は複数の実施形態において、緩衝剤を含んでいてもよい。緩衝剤としては、一又は複数の実施形態において、リン酸、N,N-Bis(2-hydroxyethyl)glycine(Bicine)、N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid(BES)、3-Morpholinopropanesulfonic acid(MOPS)、N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid(TES)、2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)、N-[Tris(hydroxymethyl)methyl]glycine(TRICINE)、Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid)(PIPES)、及びPiperazine-1,4-bis(2-hydroxy-3-propanesulfonic acid) dehydrate(POPSO)等が挙げられる。
【0020】
本開示においてヘモグロビンを含む溶液は、一又は複数の実施形態において、生体尿を含まない。
【0021】
ヘモグロビンを含む溶液のpHは、一又は複数の実施形態において、7~9である。本開示におけるヘモグロビンを含む溶液のpHは、25℃における値であって、pHメータを用いて測定できる。具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0022】
ヘモグロビンを含む溶液は、一又は複数の実施形態において、ヘモグロビン以外の成分を含んでいてもよい。ヘモグロビン以外の成分としては、一又は複数の実施形態において、クレアチニン、グルコース、アルブミン、エラスターゼ、グリシン、メチルクロロイソチアゾリノン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、アジ化ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、ゲンタマイシン硫酸、トブラマイシン、尿素、塩化ナトリウム及び塩化カリウム等が挙げられる。アルブミンとしては、一又は複数の実施形態において、ウシ血清アルブミン及びヒト血清アルブミン等が挙げられる。
ヘモグロビン以外の成分の一例として、塩化ナトリウム、尿素、クレアチニン、及び塩化カリウムの組み合わせが挙げられる。ヘモグロビン以外の成分のその他の組み合わせの例として、クレアチニン、グルコース、アルブミン、及びエラスターゼの組み合わせが挙げられる。これらの組み合わせを含有する処方(ヘモグロビンを含む溶液)は、一又は複数の実施形態において、ヘモグロビンコントロール試薬としてだけでなく、グルコース、タンパク質、クレアチニン、亜硝酸塩、及び/又は白血球のコントロール試薬としても利用可能である。
ヘモグロビンを含む溶液は、一又は複数の実施形態において、リン酸緩衝液と、クレアチニン、グルコース、アルブミン、エラスターゼ、グリシン、メチルクロロイソチアゾリノン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、アジ化ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、ゲンタマイシン硫酸、トブラマイシン、尿素、塩化ナトリウム及び塩化カリウム等からなる群から選択される少なくとも1又は2以上とを含んでいてもよい。
【0023】
[保存溶液]
本開示は、その他の態様として、ヘモグロビンの保存溶液に関する。本開示の保存溶液は、ヘモグロビンと、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方とを含む。本開示において「ヘモグロビンの保存溶液」とは、該溶液中のヘモグロビンを保存するためのヘモグロビン含有溶液をいい、一又は複数の実施形態において、コントロール又はキャリブレータとして使用されうるヘモグロビンを安定に保存するための又は安定に保存可能な、ヘモグロビン含有溶液をいう。
本開示の保存溶液は、一又は複数の実施形態において、品質管理試薬溶液といった、コントロール試薬におけるヘモグロビンの安定化向上に好適に用いることができる。よって、本開示の保存溶液は、一又は複数の実施形態において、コントロール又はキャリブレータとして使用することができ、好適には尿検査、血液検査、便検査、又は唾液検査用コントロールとして使用することができる。
【0024】
本開示の保存溶液におけるアセチルアセトンの濃度、尿酸の濃度、緩衝剤、pH及びその他の成分等は、上記の保存方法と同様である。
【0025】
本開示の保存溶液は、一又は複数の実施形態において、ヘモグロビン、アセチルアセトン及び/又は尿酸、並びに必要に応じて上記のその他の成分を混合することにより製造することができる。よって、本開示は、その他の態様として、ヘモグロビン、アセチルアセトン及び/又は尿酸、並びに必要に応じて上記のその他の成分を混合することを含む、ヘモグロビンの保存溶液の製造方法に関する。本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、溶液中のアセチルアセトン及び/又は尿酸の濃度が上記の範囲となるように調整することを含む。
【0026】
本開示は以下の限定されない一又は複数の実施形態に関しうる。
[1] 溶液中のヘモグロビンを安定化するための方法であって、
前記ヘモグロビンを含む溶液に、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方を共存させることを含む、方法。
[2] 前記溶液は、品質管理試薬溶液である、[1]記載の方法。
[3] 前記溶液中のアセチルアセトンの濃度が、10mg/dL~200mg/dLである、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記溶液中の尿酸の濃度が、1mg/dL~20mg/dLである、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記溶液に、アセチルアセトン及び尿酸を共存させることを含む、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記溶液中のアセチルアセトンの濃度が、10mg/dL~200mg/dLであり、及び/又は
前記溶液中の尿酸の濃度が、1mg/dL~20mg/dLである、[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記溶液が、リン酸緩衝液をさらに含む、[1]から[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記溶液のpHは、7~9である、[1]から[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記ヘモグロビンと、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方とを含む溶液を、一定期間保存することを含む、[1]から[8]のいずれかに記載の方法。
[10] 前記溶液が、クレアチニン、グルコース、アルブミン、エラスターゼ、及び亜硝酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一つをさらに含む、[1]から[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 前記溶液は、生体尿を含まない、[1]から[10]のいずれかに記載の方法。
[12] ヘモグロビンの保存溶液であって、
ヘモグロビンと、アセチルアセトン及び尿酸の少なくとも一方とを含む、保存溶液。
[13] 前記溶液は、品質管理試薬溶液である、[12]記載の保存溶液。
[14] 前記溶液が、ヘモグロビン、アセチルアセトン及び尿酸を含む、[12]又は[13]に記載の保存溶液。
[15] 前記溶液中のアセチルアセトンの濃度が、10mg/dL~200mg/dLである、[12]から[14]のいずれかに記載の保存溶液。
[16] 前記溶液中の尿酸の濃度が、1mg/dL~20mg/dLである、[12]から[15]のいずれかに記載の保存溶液。
[17] 前記溶液中のアセチルアセトンの濃度が、10mg/dL~200mg/dLであり、及び/又は、
前記溶液中の尿酸の濃度が、1mg/dL~20mg/dLである、[12]から[16]のいずれかに記載の保存溶液。
[18] 前記溶液が、
リン酸緩衝液、及び/又は、
クレアチニン、グルコース、アルブミン、エラスターゼ、及び亜硝酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一つを、
さらに含む、[12]から[17]のいずれかに記載の保存溶液。
[19] 尿検査用コントロールとして使用するための、[12]から[18]のいずれかに記載の保存溶液。
【0027】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例0028】
[ヘモグロビン含有溶液の調製]
下記ストック溶液を下記の配合量で配合し、精製水で総量が100mLとなるように混合し、下記<ヘモグロビン含有溶液>に示す組成のヘモグロビン含有溶液を調製した。各実施例及び比較例のヘモグロビン含有溶液における尿酸1ナトリウム及びアセチルアセトンの濃度は、下記表1及び2に示すとおりにした。
<ストック溶液及び配合量>
125mM リン酸緩衝液 80mL
5000mg/dL クレアチニン 4.4mL
150mg/dL 尿酸1ナトリウム 0、0.67又は6.7mL
5000mg/dL グルコース 0.8mL
8000mg/dL BSA 2.5mL
100mg/dL ヒトヘモグロビン 1.5mL
8000mg/dL アセチルアセトン 0、0.63又は1.25mL
50mg/dL 亜硝酸ナトリウム 0.8mL
50mg/dL エラスターゼ 0.8mL
<ヘモグロビン含有溶液>
100mM リン酸緩衝液
220mg/dL クレアチニン
0、1又は10mg/dL 尿酸1ナトリウム
400mg/dL グルコース
200mg/dL BSA
1.5mg/dL ヒトヘモグロビン
0、50又は100mg/dL アセチルアセトン
0.4mg/dL 亜硝酸ナトリウム
0.4mg/dL エラスターゼ
pH:8
【0029】
上記pHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製)を用いて測定したヘモグロビン含有溶液の25℃における値であって、pHメータの電極を測定対象溶液に浸漬して1分後の値である。
【0030】
[安定性確認試験]
下記の手順で調製したヘモグロビン含有溶液の安定性を確認した。
(1)調製直後(混合から30分後)のヘモグロビン含有溶液に、自社尿試験紙(商品名:AUTIONSticks10PA、アークレイ社製)を浸し、BLD試験パッドの反射率(R
bef)(%)(ヘモグロビン測定値)をAUTION MAX AX-4060(測定波長:635nm)で測定した(N=6)。
(2)(1)の測定と並行して、調製したヘモグロビン含有溶液を30℃で13日又は27日間保存した。
(3)(2)での保存後に、自社尿試験紙(商品名:AUTIONSticks10PA、アークレイ社製)のBLD試験パッドの反射率(R
aft13又はR
aft27)(%)を(1)と同様にして測定した(N=6)。
(4)(3)及び(1)の測定結果の反射率の差分(ΔR=[保管後値((3)の反射率:R
aft13又はR
aft27)]-[初期値((1)の反射率:R
bef)])を算出した。
得られた結果を、下記表1及び2、並びに
図1及び2に示す。
なお、測定に使用した尿試験紙のBLD試験パッドは、ヘモグロビン接触活性法により、ヘモグロビンが有するペルオキシダーゼ(POD)様作用によって、試験紙が変色する反応を利用している。BLD試験パッドは、過酸化物であるクメンヒドロペルオキシド(CHP)と色原体である3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)とが含まれている。ヘモグロビン(Hb)を含む試料をBLD試験パッドに接触させると、HbのPOD様作用により、試験パッド中のクメンヒドロペルオキシドが分解され、酸素を生じ、この酸素は3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンの還元型を酸化し酸化型TMBZ(有色)に変化させることで発色を起こす。これにより試料中のHbに応じて、試験パッドが着色し、試料中のHb濃度を測定できる。
また、30℃で13日又は27日間の保存は、8℃で保存した場合にそれぞれ6.5カ月間又は13.5カ月間に相当するとされている(アレニウス解析に基づく推論)。
【0031】
【0032】
表1及び
図1が13日間保存した場合の安定性確認試験の結果の一例を示し、表2及び
図2が27日間保存した場合の安定性確認試験の結果の一例を示す。
図1及び
図2は、いずれも、比較例1又は2(尿酸1Na及びアセチルアセトンを含有しないヘモグロビン含有溶液)の反射率の差分(ΔR)を1とした場合の相対値(反射率の変化率)を示すグラフである。
表1に示すように、30℃で13日間保存した場合、実施例1~8(アセチルアセトン及び/又は尿酸1Naを含有)における初期値との差分がいずれも50以下であることから、ヘモグロビンのPOD活性が維持され、安定に保存できたといえる。
図1に示すとおり、30℃で13日間保存した場合、実施例1~8(アセチルアセトン及び/又は尿酸1Naを含有)の相対値(変化率)は0.7未満であり、いずれもヘモグロビンを安定に保存できた。中でもアセチルアセトン及び尿酸1Naの両方を含有する実施例5~8は0.17以下であり、特に、アセチルアセトンと10mg/dLの尿酸1Naとを含有する実施例6及び8の相対値(変化率)は0.06以下であり、ヘモグロビンをきわめて安定に保存できた。
【0033】
表2に示すように、30℃で27日間保存した場合、実施例9~12(アセチルアセトン及び/又は尿酸1Naを含有)における初期値との差分がいずれも55以下であることから、ヘモグロビンのPOD活性が維持され、安定に保存できたといえる。
図2に示すように、30℃で27日間保存した場合であっても、実施例9~12の相対値(変化率)はいずれも0.6以下であり、いずれもヘモグロビンを安定に保存できた。特に、アセチルアセトンと10mg/dLの尿酸1Naとを含有する実施例10及び12の相対値(変化率)は0.33以下であった。つまり、30℃で27日間保存した場合であっても、30℃で13日間保存した場合と同様に、アセチルアセトン及び/又は尿酸1Naを含有させることでヘモグロビンを安定に保存できた。