(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050381
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】測量機および測量システム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
G01C15/00 103D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028160
(22)【出願日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2022157178
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 由希
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 彰信
(72)【発明者】
【氏名】西田 信幸
(57)【要約】
【課題】太陽対策を備えた追尾機能を有する測量機を提供する。
【解決手段】追尾部および測距部の光学系を格納する鏡筒部と、鏡筒部を回転駆動させる駆動部と、鏡筒部の前方を撮像する撮像装置と、二つのフィルタのいずれか一方が、撮像装置の光軸上に、選択的に配置されるように切替えるフィルタ切替装置と、撮像装置が、送光器から送光される追尾ガイド光を含んだ画像を取得すると、画像を解析して、追尾ガイド光の到来方向を演算し、鏡筒部の視準軸が追尾ガイド光の到来方向に向けられるように、駆動部を制御する制御部とを備え、二つのフィルタのうち、一方のフィルタは追尾ガイド光の波長を中心とした所定範囲の波長のみを透過させる追尾ガイド光用フィルタであり、フィルタ切替装置は、撮像装置が画像を取得する際に、追尾ガイド光用フィルタを撮像装置の光軸上に配置させる測量機を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
追尾部および測距部の光学系を格納する鏡筒部と、
前記鏡筒部を回転駆動させる駆動部と、
前記鏡筒部の前方を撮像する撮像装置と、
二つのフィルタのいずれか一方が、前記撮像装置の光軸上に、選択的に配置されるように切替えるフィルタ切替装置と、
前記撮像装置が、送光器から送光される追尾ガイド光を含んだ画像を取得すると、前記画像を解析して、前記追尾ガイド光の到来方向を演算し、前記鏡筒部の視準軸が前記追尾ガイド光の到来方向に向けられるように、前記駆動部を制御する制御部と、
を備え、
前記二つのフィルタのうち、一方のフィルタは前記追尾ガイド光の波長を中心とした所定範囲の波長のみを透過させる追尾ガイド光用フィルタであり、前記フィルタ切替装置は、前記撮像装置が前記画像を取得する際に、前記追尾ガイド光用フィルタを前記撮像装置の光軸上に配置させる、
ことを特徴とする測量機。
【請求項2】
前記追尾ガイド光は非可視光であり、
前記二つのフィルタのうち、前記一方のフィルタは非可視光のみを透過させるフィルタであり、他方のフィルタは可視光のみを透過させるフィルタである、
ことを特徴とする請求項1に記載の測量機。
【請求項3】
前記追尾部でターゲットを追尾中に、前記ターゲットをロストした場合、自動で前記フィルタ切替装置は、前記追尾ガイド光用フィルタを前記撮像装置の光軸上に配置させる、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の測量機。
【請求項4】
前記撮像装置が撮像中、取得した画像に含まれる飽和画素が、所定の数を超えた場合、前記フィルタ切替装置は、前記追尾ガイド光用フィルタを、前記撮像装置の光軸上に配置させる、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の測量機。
【請求項5】
前記二つのフィルタは、同一の基板に設けられる、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の測量機。
【請求項6】
追尾ガイド光を送光する送光器、およびプリズムを有するターゲットユニット、
および、
追尾部および測距部の光学系を格納する鏡筒部と、
前記鏡筒部を回転駆動させる駆動部と、
前記鏡筒部の前方の風景の画像を取得する撮像装置と、
二つのフィルタのいずれか一方が、前記撮像装置の光軸上に、選択的に配置されるように切替えるフィルタ切替装置と、
前記撮像装置が撮像した、前記送光器から送光される前記追尾ガイド光を含んだ画像を解析して、前記追尾ガイド光の到来方向を演算し、前記鏡筒部の視準軸が前記追尾ガイド光の到来方向に向けられるように、前記駆動部を制御する制御部とを有する測量機を備え、
前記二つのフィルタのうち、一方のフィルタは前記追尾ガイド光の波長を中心とした所定範囲の波長のみを透過させる追尾ガイド光用フィルタであり、前記フィルタ切替装置は、前記撮像装置が画像を取得する際に、前記追尾ガイド光用フィルタを前記撮像装置の光軸上に配置させる、
ことを特徴とする測量システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、太陽対策を備えた追尾機能を有する測量機に関する。
【背景技術】
【0002】
追尾機能を有する測量機において、追尾時に太陽が視準の視野に入ってしまうことがある。太陽が視準の視野内に入ってしまうと、追尾部の受光素子回路に過大電流が流れ、追尾ができない。これを回避するため、特許文献1では、太陽が入る方位角および高度角に禁止エリアを設け、太陽光を遮蔽している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記方法では、例えば太陽を避けることはできるが、禁止エリアにターゲットが入ってしまった場合、追尾することができないという問題がある。
【0005】
本件は、このような問題に鑑みてなされたものであり、太陽対策を備えた追尾機能を有する測量機、および測量システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本発明の第1の態様の測量機においては、追尾部および測距部の光学系を格納する鏡筒部と、前記鏡筒部を回転駆動させる駆動部と、前記鏡筒部の前方を撮像する撮像装置と、二つのフィルタのいずれか一方が、前記撮像装置の光軸上に、選択的に配置されるように切替えるフィルタ切替装置と、前記撮像装置が、送光器から送光される追尾ガイド光を含んだ画像を取得すると、前記画像を解析して、前記追尾ガイド光の到来方向を演算し、前記鏡筒部の視準軸が前記追尾ガイド光の到来方向に向けられるように、前記駆動部を制御する制御部と、を備え、前記二つのフィルタのうち、一方のフィルタは前記追尾ガイド光の波長を中心とした所定範囲の波長のみを透過させる追尾ガイド光用フィルタであり、前記フィルタ切替装置は、前記撮像装置が前記画像を取得する際に、前記追尾ガイド光用フィルタを前記撮像装置の光軸上に配置させるように測量機を構成した。
【0007】
また、第2の態様の測量機は、第1の態様において、前記追尾ガイド光は非可視光であり、前記二つのフィルタのうち、前記一方のフィルタは非可視光のみを透過させるフィルタであり、他方のフィルタは可視光のみを透過させるフィルタであるように測量機を構成した。
【0008】
また、第3の態様の測量機は、第1または第2の態様において、前記追尾部でターゲットを追尾中に、前記ターゲットをロストした場合、自動で前記フィルタ切替装置は、前記追尾ガイド光用フィルタを前記撮像装置の光軸上に配置させるように構成した。
【0009】
また、ある態様においては、前記撮像装置が撮像中、取得した画像に含まれる飽和画素が、所定の数を超えた場合、前記フィルタ切替装置は、前記追尾ガイド光用フィルタを、前記撮像装置の光軸上に配置させるものとした。
【0010】
また、第4の態様の測量機は、第1~第3の態様において、前記撮像装置が撮像中、取得した画像に含まれる飽和画素数が、所定の数を超えた場合、前記フィルタ切替装置は、前記追尾ガイド光用フィルタを、前記撮像装置の光軸上に配置させるものとした。
【0011】
また、第5の態様の測量機は、第1~第4の態様において、前記二つのフィルタは、同一の基板に設けられるものとした。
【0012】
また、本発明の第1の態様の測量システムにおいては、追尾ガイド光を送光する送光器、およびプリズムを有するターゲットユニット、および、追尾部および測距部の光学系を格納する鏡筒部と、前記鏡筒部を回転駆動させる駆動部と、前記鏡筒部の前方の風景の画像を取得する撮像装置と、二つのフィルタのいずれか一方が、前記撮像装置の光軸上に、選択的に配置されるように切替えるフィルタ切替装置と、前記撮像装置が撮像した、前記送光器から送光される前記追尾ガイド光を含んだ画像を解析して、前記追尾ガイド光の到来方向を演算し、前記鏡筒部の視準軸が前記追尾ガイド光の到来方向に向けられるように、前記駆動部を制御する制御部とを有する測量機を備え、前記二つのフィルタのうち、一方のフィルタは前記追尾ガイド光の波長を中心とした所定範囲の波長のみを透過させる追尾ガイド光用フィルタであり、前記フィルタ切替装置は、前記撮像装置が画像を取得する際に、前記追尾ガイド光用フィルタを前記撮像装置の光軸上に配置させるように測量システムを構成した。
【発明の効果】
【0013】
以上の説明から明らかなように、太陽対策を備えた追尾機能を有する測量機、および測量システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の好適な実施形態に係る測量機を含む測量システムの概略構成を示す図である。
【
図3】測量機の内部構造を模式的に示す概略図である。
【
図6】フィルタ切替装置の正面図である。
図6(A)がフィルタ切替前の状態を示す。
図6(B)がフィルタ切替後の状態を示す。
【
図7】フィルタが透過する波長範囲の説明図である。
図7(A)が第1フィルタの透過範囲を示す。
図7(B)が第2フィルタの透過範囲を示す。
【
図8】フィルタ切替装置の効果を示す画像である。
図8(A)がフィルタ無しで撮像した画像である。
図8(B)が第2フィルタを介して撮像した画像である。いずれも太陽方向を撮像している。
【
図9】ターゲットユニットを示す。
図9(A)がターゲットユニットの側面図を示す。
図9(B)がターゲットユニットの平面図を示す。
【
図13】プリズムロックの前工程のイメージ図である。
【
図14】プリズムロックの本工程のイメージ図である。
【
図18】変形例の測量機を用いたプリズムロックの本工程のイメージ図である。
図14に対応する。
【
図19】変形例のフィルタ切替装置の正面図である。
図19(A)がフィルタ切替前の状態を示す。
図19(B)がフィルタ切替後の状態を示す。
図6に対応する。
【
図20】変形例のフィルタ切替装置における入射光の光路を示す。
図20(A)が、第1フィルタが撮像装置の光軸上に配置された状態を示す。
図20(B)が、第2フィルタが撮像装置の光軸上に配置された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。実施形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。また、以下の実施形態および変形例の説明において、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0016】
(測量システム)
図1は、本発明の好適な実施形態にかかる測量機10を含む測量システム1の概要構成を示す図である。
【0017】
測量システム1は、測量機10、ターゲットユニット70、およびコントローラ80を含んで構成される。
【0018】
測量機10は、測距・測角機能及び追尾機能を備えたトータルステーションである。さらに、測量機10は測量機10の前方の画像を取得する撮像部40も備える。
【0019】
ターゲットユニット70は、ポール71の上端に測量機10のターゲットである全周反射のプリズム72を有し、ポール71の下端を測定点に概ね鉛直に設置して使用される。
【0020】
ターゲットユニット70は、送光器73を有する。送光器73は、測量機10によるプリズム72のロック(追尾)が外れた場合に、水平方向の全周に赤外光の追尾ガイド光Lcを送光する。測量機10の撮像部40で追尾ガイド光Lcを捕えて到来方向を解析し、プリズム72を再びロック(視準)して、迅速に追尾を再開させることができる。
【0021】
プリズム72のサーチ時には、撮像部40の光軸上に、主として追尾ガイド光Lcのみを透過させるフィルタが配置されるため、太陽光によるサチュレーションを回避することができる。
【0022】
コントローラ80は、測量機10の遠隔操作を行うコントローラである。本実施形態においては、ターゲットユニット70の送光器73もコントローラ80で操作される。作業者はコントローラ80を腕に装着する、またはターゲットユニット70に取付けるなどして、ターゲットユニット70とともに、測量作業中は自身とともに持ち運ぶ。
【0023】
コントローラ80にはタッチパネル式の表示部82が設けられており、自身の位置情報や計測点などがリアルタイムに表示される。作業者は、表示部82で情報を確認しながら、適宜命令を入力して、測量機10を操作できる。測量機10で撮像された画像も表示部82に表示させることができる。
【0024】
コントローラ80にはGPS装置85が搭載されており、GPS装置85によりコントローラ80およびプリズム72を持つ作業者と、測量機10との位置関係が概略把握される。加えて、GPS装置85により測量機10の追尾が外れた場合も、測量機10はプリズム72のおおまかな方向を把握しており、迅速に追尾を再開させることができる。
【0025】
(測量機)
測量機10について、
図2~
図4を用いて説明する。
図2は、測量機10の正面図である。
図3は測量機10の内部構造を模式的に示す概略図である。
【0026】
図2及び
図3に示すように、測量機10は、基盤部13と、この基盤部13に対して水平方向に回転される回転台座14とからなる測量機本体15と、カバー部材16とを含んで構成されている。
【0027】
基盤部13は、三脚台2に固定される固定座13aと、整準ネジ(図示せず)を有する整準台13bと、回転台座14を鉛直軸V回りに水平方向に回転駆動する水平回転駆動部M1等の駆動機構を内蔵するケース13cとから概略構成されている。
【0028】
回転台座14には、一対の支持部材17aで構成される托架部17が立設している。一対の支持部材の間に測距光学系と追尾光学系の鏡筒部18が配置されている。鏡筒部18は、托架部17に設けられた水平軸Hにより、垂直方向に回転可能に支持されている。
【0029】
水平軸Hの一方の端部には、鏡筒部18を垂直方向に回転駆動する鉛直回転駆動部M2が固定され、他方の端部には、鏡筒部18の回転角度を検出するための鉛直角検出器22が設けられている。
【0030】
托架部17の上端部には、一対の支持部材にまたがって水平に配置される薄板の水平板19が固定されている。水平板19の上面には、測量機制御部29および撮像部40が、取付けられている。
【0031】
測量機制御部29は、制御回路基板をベースとして右方の托架部17の上部に配置されている。
【0032】
カバー部材16は、上面に突出する突出部16aを有し、突出部の前面は、カバー部の前面と面一となっている。撮像部40は、水平板19の中央で、突出部16aの内側となるように配置されている。
【0033】
カバー部材16の前面には、突出部16aの前面の設けられた撮像用窓16d、前面の中央に上下方向に伸びる鏡筒用窓16bの、二つの窓が設けられている。
【0034】
鏡筒用窓16bは鏡筒部18の光軸上に形成され、鏡筒部18に収納される測距部23および追尾部24の光学系の赤外レーザ光を透過する。撮像用窓16dは、撮像部40の前方に形成されており、撮像部40は、撮像用窓16d越しに、測量機10前方の画像を取得する。
【0035】
鏡筒用窓16bが赤外レーザ光の光軸と直交していると、鏡筒用窓16bで反射した赤外レーザ光がそのまま返ってきてしまい、測距・測角に悪影響を与えてしまうため、これを回避するよう、鏡筒用窓16bは赤外レーザ光の光軸とは直交せず、僅かに水平方向に傾けられて、反射による誤差が出ない配置とされている。
【0036】
回転台座14のカバー部材16との接点には、雨水などが侵入するのを防止するシール部材(図示を略す)が設けられている。
【0037】
カバー部材16と撮像部40、鏡筒部18との間には隙間が設けられている。これにより、カバー部材16の取付け、取り外しの際に、カバー部材16が撮像部40、鏡筒部18に接触するのを防止できる。カバー部材16は撮像部40、および鏡筒部18から離間してこれを被覆しており、カバー部材16を外してもそれぞれの光軸を調整する必要がない。
【0038】
(ブロック図)
図4は、測量機10の制御ブロック図である。測量機10は、水平角検出器21、鉛直角検出器22、水平回転駆動部M1、鉛直回転駆動部M2、測距部23、追尾部24、測量機通信部25、記憶部26、撮像部40、およびこれら全てが接続される測量機制御部29を有する。
【0039】
水平角検出器21と鉛直角検出器22は、回転円盤、スリット、発光ダイオード、イメージセンサを有するアブソリュートエンコーダまたはインクリメンタルエンコーダである。水平角検出器21は回転台座14の回転軸に設けられ、回転台座14の水平角を検出する。鉛直角検出器22は、鏡筒部18の水平軸Hに設けられ、鏡筒部18の鉛直角を検出する。
【0040】
水平回転駆動部M1と鉛直回転駆動部M2はモータである。測量機制御部29に制御され、水平回転駆動部M1は回転台座14の回転軸を動かし、鉛直回転駆動部M2は、鏡筒部18の水平軸Hを動かす。両駆動部の協働により、鏡筒部18の向きが変更される。水平角検出器21と鉛直角検出器22とで、測角部を構成する。水平回転駆動部M1および鉛直回転駆動部M2とで、駆動部を構成する。
【0041】
測距部23は、測距光を出射する光源を有する送光部と受光部を備え、ターゲットである全周反射のプリズム72を視準して、例えば赤外レーザ光等の測距光をプリズム72に射出してその反射光を受光部で受光し、測距光と内部参照光の位相から測距する。
【0042】
追尾部24は、測距光とは異なる波長の赤外レーザ光などの追尾光として出射する光源を有する追尾送光系と、CCDセンサまたはCMOSセンサなどのイメージセンサを有する追尾受光系を有する。追尾部24は、追尾光を含む風景画像と追尾光を除いた風景画像を取得し、両画像を測量機制御部29に送る。測量機制御部29は、両画像の差分からターゲット像の中心を求め、ターゲット位置として検出し、ターゲット像の中心と鏡筒部18の視軸中心からの隔たりが一定値以内に収まるように、常に鏡筒部18がターゲットの方向を向くように、自動追尾する。
【0043】
測量機通信部25は、外部ネットワークとの通信を可能にするものであり、例えば、インターネットプロトコル(TCP/IP)を用いてインターネットに接続し、ターゲットユニット70およびコントローラ80と情報の送受信を行う。無線通信はこれに制限されず、既知の無線通信を使用することができる。測量機10が測定(測距・測角)した測定結果は、測量機通信部25を介してコントローラ80へ送られる。測量機10の入力部はコントローラ80の入力部であるため、コントローラ80から入力された命令も測量機通信部25を介して測量機制御部29に入力される。撮像部40で取得された画像も測量機通信部25を介してコントローラ80へ送られる。
【0044】
測量機制御部29は、例えばCPU,ROM、RAM等を集積回路に実走したマイクロコントローラであり、測量機10の機器がすべて接続され、これらを制御する。例えば、水平回転駆動部M1,鉛直回転駆動部M2の制御、測距部23および追尾部24の発光制御、プリズム72の自動追尾、自動視準、測距および測角、撮像部40のON/OFFやフィルタ切替、測量機通信部25を介した測定データや命令の送受信などである。また、測量機制御部29は、追尾が外れた際に、その旨をコントローラ80およびターゲットユニットに送信する。
【0045】
記憶部26は、例えばハードディスクドライブなどの記憶媒体であり、上記演算制御のためのプログラムが格納されている。取得した測定データも記憶される。
【0046】
(撮像部)
次に撮像部40について、
図5および
図6を用いて説明する。
図5は撮像部40の斜視図である。
【0047】
撮像部40は、撮像装置41とフィルタ切替装置42とを有する。撮像装置41は、例えばCCD、CMOS等の撮像素子を有し、動画像がリアルタイムで取得可能である。本実施形態の撮像装置41は、画角の広い、いわゆるワイドカメラである。撮像装置41は、鏡筒部18の上方で、水平方向に光軸同士が一致するように配置され、鏡筒部18の前方の風景を撮像する。撮像装置41で撮像された風景は、測量機通信部25を介してコントローラ80へ送られ、表示部82に表示される。測量システム1では、作業者一人(ワンマン)で測量作業を行うことを想定しており、測量機10から離れた場所にいる作業者は、測量機10前方の様子を、撮像装置41で撮像された画像で、リアルタイムに確認することができる。
【0048】
図6はフィルタ切替装置42の正面図である。
図6(A)がフィルタ切替前の状態を示す。
図6(B)がフィルタ切替後の状態を示す。なお、
図6においては、説明のために、二つのフィルタをそれぞれ異なる色で着色している。
図6は撮像装置41の光軸方向から見た図であり、撮像装置41、および撮像装置41の受光素子AR(撮像素子領域)も共に示す。
【0049】
フィルタ切替装置42は、撮像装置41の撮像(受光)の光軸上に選択的に配置される第1フィルタ43aおよび第2フィルタ43bを有している。第1フィルタ43aおよび第2フィルタ43bは、入射光のうち特定の波長範囲の光だけを透過し、それ以外の光を透過しない光学素子である。
【0050】
薄板であるベース体45に設けられた二つの開口部には、第1フィルタ43aおよび第2フィルタ43bが取付けられている。ベース体45は、ソレノイド44に連結されて回動可能に支持され、撮像装置41の光軸上、受光素子ARの前方で、受光素子ARを覆うように配置される。撮像装置41に入射した光は、第1フィルタ43aまたは第2フィルタ43bにいずれかのフィルタを通過して受光素子ARに受光される。
【0051】
図6(A)に示すように、ソレノイド44に通電されていない状態では、撮像装置41の光軸上であり、受光素子ARの前方で、受光素子ARを覆うようにして、第1フィルタ43aが配置される。
【0052】
ソレノイド44への通電により、ソレノイド44に連結されたベース体45が駆動されて、中心軸44Aを中心として所定角度だけ回転することで、撮像装置41の光軸上に配置されるフィルタが第2フィルタ43bへと切り替わる。
【0053】
図7は、第1フィルタ43a、および第2フィルタ43bが透過する波長範囲に関する説明図である。
図7(A)が第1フィルタ43aの透過範囲を示す。
図7(B)が第2フィルタ43bの透過範囲を示す。
【0054】
第1フィルタ43aは、主として測量機10の前方の風景を撮像する際に使用されるノーマルフィルタである。第1フィルタ43aは、可視光の範囲の光を透過させ、それ以外の光を遮蔽する。
【0055】
第2フィルタ43bは、送光器73の送光する追尾ガイド光Lcを受光するための追尾ガイド光用フィルタである。このため、第2フィルタ43bは、赤外光である追尾ガイド光Lcの波長fLcを中心として、その近傍の範囲の波長の光のみを透過させ、それ以外の波長の光を遮蔽する。
【0056】
通常、測量機10の前方を撮像する際には第1フィルタ43aが撮像装置41の光軸上に配置される。測量機10の追尾部24による追尾が外れると、ソレノイド44に給電されてベース体45が回転駆動されてフィルタが切り替わり、第2フィルタ43bが撮像装置41の光軸上に配置される。
【0057】
撮像装置41が、送光器73が送光する追尾ガイド光Lcを含む画像を撮像し、画像における追尾ガイド光Lcの位置を測量機制御部29が解析する。そして、追尾ガイド光Lcが画像の水平方向で中心となるように、即ち、鏡筒部18の光軸が追尾ガイド光の到来方向と水平方向に一致するように、測量機制御部29は水平回転駆動部M1を駆動させる。第2フィルタ43bが追尾ガイド光Lc以外の波長の光を遮蔽するうえ、撮像装置41は画角が広く、撮像される範囲が広いため、追尾ガイド光Lcを含んだ画像を取得して、追尾ガイド光Lcを検出しやすい構成となっている。また、通常の状態でも、第1フィルタ43aが可視光以外の光を遮蔽しているため、太陽光によるサチュレーションを抑制できる。
【0058】
追尾が外れた場合、フィルタ切替装置42は、自動で第2フィルタ43bを撮像装置41の光軸上に配置するように構成されている。また、撮像装置41が、第1フィルタ43aで撮像している際に、取得した画像に含まれる飽和画素数が、所定の数を超えた場合、フィルタ切替装置42は、第2フィルタ43bを、撮像装置41の光軸上に配置させる。これにより、撮像画像が飽和して真っ白となり、識別不能となることを回避できる。
【0059】
図8はフィルタの効果を説明する比較図である。
図8(A)がフィルタ無しで撮像した画像である。
図8(B)が第2フィルタ43bを介して撮像した画像である。いずれも太陽方向を撮像している。
【0060】
図8(A)に示すように、フィルタ無しで太陽方向を撮像した場合、太陽光が入り込んで、画像全体が白くなってしまっている。撮像部40は、自動で絞り値やシャッター速度を適切な値として露出補正や感度補正を行う。しかし、太陽光が強すぎるため、適切に撮像することができず、追尾ガイド光Lcどころか、被写体も識別することができない。
【0061】
これに対し、
図8(B)に示すように、第2フィルタ43bを介して追尾ガイド光Lcの波長を中心とした所定範囲の波長のみを透過させることで、追尾ガイド光Lcを識別できる画像となっている。このように、追尾を開始または再開するためにサーチする場合、第2フィルタ43bに切替えることで、太陽光が視野に入り込んでしまう影響を抑制することができる。
【0062】
第1フィルタ43aのまま測量機10が追尾を開始または再開する場合、撮像装置41の撮像範囲の中に太陽光があると、太陽光が取得画像に入りこんでしまい、撮像装置41の受光素子ARの受光量は限界値に達し、サチュレーション(飽和)状態となってしまう。飽和状態になると、送光器73の送光する追尾ガイド光Lcを識別できず、追尾のためのサーチを実行することができない。追尾が外れた場合には、フィルタ切替装置42で、撮像装置41の光軸上に第2フィルタ43bを配置し、送光器73の追尾ガイド光Lcの波長範囲の光のみを透過させて、他の波長の光を遮蔽することで、太陽光が視野内に入り込んでも追尾ガイド光Lcを検知することができる。これにより太陽光の映り込みの影響を抑制して、追尾ガイド光Lcの方向を検知でき、プリズムサーチを続行できる。
【0063】
追尾ガイド光Lcを非可視光として、第2フィルタ43bを可視光のみ透過させ、第1フィルタ43aを非可視光のみ透過させるよう構成してもよい。
【0064】
また、二つのフィルタを切り替える機構は上記に限られず、駆動機構もソレノイドに限られない。モータやエアシリンダ、ピニオンなど、従来公知の構成を用いても問題ない。
【0065】
(ターゲットユニット)
次にターゲットユニット70について
図9と共に説明する。
図9は、ターゲットユニット70を示す。
図9(A)はターゲットユニット70の側面図である。
図9(B)は、ターゲットユニット70の平面図である。
図1のターゲットユニット70の斜視図も参照のこと。
【0066】
図9に示すように、ターゲットユニット70は、ポール71の上端にプリズム72が取付けられている。プリズム72の光学中心は、ポール71の中心軸を通過し、プリズム72の光学中心とポール71下端までの距離(取付高)は既知となっている。
【0067】
さらに、プリズム72の上部には、円柱形状の筐体76を持つ送光器73が、筐体76の中心軸をポール71の中心軸に一致させて、取付けられている。
【0068】
送光器73は、追尾ガイド光Lcを送光する。送光器73から送光される光は追尾ガイド光Lcであり、測距光や追尾光とも異なる波長の赤外光となっている。撮像部40が、送光された追尾ガイド光Lcを含む画像を撮像し、測量機制御部29で、画像解析されて追尾ガイド光Lcの位置が解析され、視準方向が追尾ガイド光Lcの到来方向へ向くように、水平回転駆動部M1、鉛直回転駆動部M2が駆動されて、鏡筒部18の向きが変更される。画像解析方法に関しては、公知の方法で構わず、説明は省略する。
【0069】
筐体76の外周側面には、複数(本実施形態においては6個)の追尾ガイド光Lcの送光口75が、同一水平面上に、ポール71の中心軸を中心とした等角度に設けられている。複数の送光口75からは、全て同じ波長の赤外光が、追尾ガイド光Lcとして外側へ出射される。
【0070】
送光器73は、コントローラ80からの命令を受信すると、全ての送光口75から追尾ガイド光Lcを送光する。これにより、筐体76から外方面へ、水平方向の全周にわたって、追尾ガイド光Lcが送光される。追尾ガイド光Lcは赤外光であるため、作業者が光を視認することはない。
【0071】
従来は、追尾が外れると、追尾ガイド光を測量機に送光するために、作業者は送光器を測量機に向けてスイッチを押す必要であり、作業者は作業を中断して送光作業をせねばならなかった。これに対し、送光器73は複数の送光口75から全周囲へ向かって追尾ガイド光Lcを送光するうえ、測量機10は画角の広いワイドカメラで追尾ガイド光Lcを受光するため、作業者が送光器を測量機に向ける動作は不要である。測量機10による追尾が外れてしまった場合、コントローラ80が自動で、送光器73から追尾ガイド光Lcに送光を命令するよう構成されているため、作業者が追尾ガイド光Lcを送光するため動作も不要となっている。
【0072】
(コントローラ80)
図10は、コントローラ80のブロック図である。コントローラ80は、測量機10を遠隔操作する操作端末である。さらに、コントローラ80は、送光器73へ追尾ガイド光Lcの送光の命令も可能に構成されている。
図10に示すように、コントローラ80は、入力部81、表示部82、記憶部83、コントローラ通信部84、GPS装置85、方位センサ86、コントローラ制御部89を備える。
【0073】
入力部81、表示部82は、コントローラ80のインターフェースである。作業者は、入力部81から、測量機10の操作や情報を入力できる。本実施形態においては、表示部82は、タッチパネル式の液晶画面であり、入力部81と一体となっている。
【0074】
コントローラ通信部84は、測量機通信部25と同等の構成を備え、測量機10と情報の送受信が可能となっている。コントローラ通信部84から、送光器73へ命令も送信される。
【0075】
GPS装置85は、GPS衛星から発信されるGPS信号を受信する装置であり、受信したGPS信号から、現在位置が把握される。本実施形態においては、GPS装置85は、単独測位のみ可能な装置でも問題ない。
【0076】
方位センサ86は、半導体を用いた電子コンパスである。南北の地磁気を検出して方角を算出する。MR素子を使用したものやGMR素子を使用したものなど、公知のものを使用し、種類は問わない。
【0077】
本実施形態においては、コントローラ80は、スマートフォンやタブレットなどを想定しており、これらに最初から搭載されているGPS装置や電子コンパス、もしくは3軸ジャイロを用いてよい。
【0078】
コントローラ80に搭載されるGPS装置85により、コントローラ80と測量機10との位置関係が概略把握される(後述)。作業者はコントローラ80とターゲットユニット70を保持して移動しているため、測量機10とプリズム72との位置関係も概略把握される。GPS装置85により測量機10の追尾が外れた際も、測量機10はGPS装置85により、プリズム72のおおまかな方向を把握することができ、鏡筒部18を水平方向にはGPS装置85へ向け、ついで鏡筒部18を鉛直方向に走査することで、迅速に再びプリズム72をロックすることができる。
【0079】
図11に測量作業の説明図、およびコントローラ80の表示画面を示す。記憶部83には、例えば入力された測量データ(設計データ)が収納される。表示部82は計測データに対応する測設地図を表示する機能を有する。コントローラ制御部89は、GPS装置85の位置情報、方位センサ86の方位信号と設計データとに基づいて、表示部82の画面に表示すべき地図を構築する機能を有する。
【0080】
コントローラ制御部89は、測量機10の現在位置と、測定点P1,P2,P3・・・Pnの設計データとを有しているので、各測定点に対する水平方向回動角度を演算できる。コントローラ制御部89は、コントローラ通信部84を介して命令を測量機に10送付し、水平回転駆動部M1を駆動させて鏡筒部18を、測定点Pnの水平方向に回動させる機能を有する。
【0081】
撮像部40が撮像した画像も、表示部82に表示される。表示部82に表示される撮像部40の映像と測設地図とは、自動または手動で切り替え可能に構成される。例えば、作業者の現在位置と測定点Pnとが、一定距離、例えば5m以下になると、表示画像は、測設地図の表示から、撮像部40の撮像する画像に自動で切替えられる。
【0082】
また、撮像部40が撮像する画像の視点を、現在の視点よりも左右のいずれかの方向に移動するように入力部81で命令することもできる。例えば、作業者が現在の画像より右側に視点を移して見たい場合、表示部82を右にフリックすることで、測量機10の水平回転駆動部M1を右に回動させて、回転台座14を右側に向けることで、撮像部40を現在よりも右方向に向けさせ、撮像部40が現在よりも右側を撮像するように構成される。
【0083】
コントローラ制御部89は、方位センサ86の取得する方位データに基づいて、方位をコンパスとして表示部82に表示させる。さらに、測量機10の測距・測角により求められた作業者の現在位置(測定点Pn)から、次の測定点Pn+1までの距離と角度を演算することで、作業者の現在地点から次の測定点までの距離と方向を表示させる機能、および進行方向表示を表示部82に表示させる機能を有する。
【0084】
作業者は、測設データに基づいて、表示される表示に従い、測定点P1,P2,P3・・・と、順に測定を行う。
【0085】
(プリズムロック機能)
測量機10は、追尾部24によるプリズム72の追尾を開始する場合、もしくは追尾が外れた場合、自動でプリズムを見つけ出してロックし、追尾する機能(プリズムロック機能)を有する。従来のプリズムロック機能においては、鏡筒から視準光を出射し、鏡筒が水平方向に回転しながら上下に回動を繰り返すことで、全方向を視準光で走査し、反射光を受光することでプリズムを見つけ出して視準していた。しかし、まったくプリズムの場所がわからずに走査するため、全方向を走査することもあることから、プリズムを見つけるのに時間がかかった。本実施形態においては、測量機10にまずは粗方向を向け、ついで精方向で走査を行うことで、プリズム72を迅速にロックすることができる。
【0086】
測量システム1におけるプリズムロックのフローを
図12~
図14を用いて説明する。
図12はプリズムロックのフローチャートである。
図13は、ステップS101~ステップS102のイメージ図である。
図14は、ステップS103~S107のイメージ図である。
【0087】
最初に、ステップS101で、前工程として、まず測量機10を任意の点P0(好ましくは既知点)に設置し、ついでコントローラ80と測量機10の位置合わせを行う。測量機10に位置合わせ用のコントローラ80の設置位置を設けてもよい。GPS装置85により、コントローラ80の緯度経度が取得され、測量機10の設置位置の緯度経度も取得される。
【0088】
次に、ステップS102に移行して、測量機10とコントローラ80との相対方向を取得可能にする。作業者はコントローラ80とターゲットユニット70を持ち、ある程度離れた任意の場所NP1に移動し、その場でGPS装置85にて緯度経度を取得するとともに、測量機10にプリズム72の測距・測角をさせる。さらに異なる任意の場所NP2に移動して、再びGPS装置85にて緯度経度を取得するとともに、測量機10にプリズム72の測距・測角をさせる。このとき、ターゲットユニット70の上面にコントローラ80を取付けて、測距・測角を行ってもよい。二つの場所NP1,NP2の方位角から、測量機10からみたコントローラ80の方向(相対方向)が把握される。この方法に限られず、作業者の持ったターゲットユニット70のプリズム72を追尾させ、作業者が移動しながら、随時測距・測距を実施することで、測量機10がコントローラ80の相対方向を検知できるよう校正を行うように構成してもよい。また、測量機10を既知点に設置し、基準点と基準方向を設定する、後方交会法を用いて、絶対三次元座標を取得してもよい。
【0089】
前工程のステップS101~ステップS102は、測量機10に、プリズム72とコントローラ80を持つ作業者の粗精度で方向を把握させるためである。このため、GPS装置85の位置情報の取得は単体測位で構わず、高精度な三次元情報の取得による厳密な相対方向の検出でなくても構わない。
【0090】
作業者は、作業中はターゲットユニット70およびコントローラ80を持って移動する。GPS装置85のGPS信号の取得は、移動中も随時行われているため、作業者が移動しても、また移動中であっても、GPS信号が取得可能である限り、測量機10に対するコントローラ80の方位角は、おおむね把握される。
【0091】
次に、本工程として、ステップS103~S108で、追尾部24による追尾開始、または追尾が外れた場合の追尾再開のためのプリズムロックについて説明する。
【0092】
ステップS103で、まず、GPS装置85の位置情報を基に、測量機10の鏡筒部18をGPS装置85の方向、即ち、ターゲットユニット70およびコントローラ80を持つ作業者の方向へ鏡筒部18を向かせる。現在の水平方向角と算出されたGPS装置85の方位角との差分を角度として算出し、水平回転駆動部M1を駆動させて、回転台座14を水平方向に回動させる。
【0093】
次に、ステップS104に移行して、送光器73に追尾ガイド光Lcを送光させる。フィルタ切替装置42で、追尾ガイド光用フィルタである第2フィルタ43bが撮像装置41の光軸上に配置されるようにフィルタが切替えられる。
【0094】
次に、ステップS105に移行して、第2フィルタ43bを介して撮像装置41により測量機10前方の画像が取得される。測量機制御部29は、取得画像を解析して、追尾ガイド光Lcを検出する。
【0095】
次に、ステップS106に移行して、測量機制御部29は、画像解析により追尾ガイド光Lcの到来方向を算出し、撮像画像の中心と追尾ガイド光Lcの到来方向を水平方向で合わせるために、水平回転駆動部M1を駆動させる。
【0096】
次に、ステップS107に移行して、鉛直回転駆動部M2により鏡筒部18を上下方向に駆動させて、追尾部24の追尾光を上下に走査させ、プリズム72を見つけ出す。このとき、前述の画像解析により、追尾ガイド光Lcの到来方向が、鉛直方向にも把握されており、鉛直方向の範囲も絞られ、より見つけやすい構成となっている。
【0097】
次に、ステップS108に移行して、プリズム72をロックし、送光器73は送光を停止し、フィルタ切替装置42は、配置するフィルタを第1フィルタ43aに戻し、フローは終了する。
【0098】
追尾が外れると、その旨が測量機10から送光器73へ送信され、直ちに送光器73はプリズムロックの本工程を実施する。
【0099】
ステップS103により測量機10に水平方向に粗方向を向かせ、ついでステップS104の広角の広い撮像部40で追尾ガイド光Lcを検出して水平方向に精方向を向かせる。そして追尾部24の追尾光を上下方向に走査させることで、プリズム72を探してロックする。
【0100】
従来は、全く手掛かりのない状態でも、全方向を追尾光で走査することで、プリズムをロックすることができるが、時間がかかるという問題があった。上記方法により、粗方向、精方向と順に鏡筒部18をプリズム72の方向に向けることができ、プリズム72をロックするまでの時間を短縮させることができる。
【0101】
また、撮像部40のフィルタ切替装置42を用いて、追尾ガイド光Lcのみを透過させて撮像することで、例え太陽が撮像装置41の視野内に入っても、太陽光の影響を抑制して追尾ガイド光Lcを検出できる。これは、追尾を行っているときも同様であり、追尾を行っている場合に、太陽光が入り込んだ場合、撮像部40のフィルタを第2フィルタ43bにすることで、太陽光が入り込むことによりプリズム72を見失うことが抑制される。作業者は撮像部40で測量機10の前方の風景を確認するため、追尾中でなくとも、許容量以上の光が撮像装置41に入り込んだ場合、自動でフィルタを第2フィルタ43bに切り替えるように構成してもよい。
【0102】
追尾が外れた際には、表示部82にその旨が表示され、自動で上記のステップS103~ステップS108が行われる。
【0103】
従来の測量機では、追尾部の送光部が追尾光を照射して、反射光を受光部で受光して、走査を行っていた。この場合、受光部が受光するのは反射光であるため、受光量は少ない。測量機10は、ターゲット側から送光される追尾ガイド光Lcを、ワイドカメラである撮像部40で受光するため、受光量も多く検出しやすい。このため、より迅速にプリズム72をロックすることができる。
【0104】
(作業フロー)
測量システム1の作業工程フローの一例を説明する。
図15は、測量システム1を用いた測量作業の工程フローである。
図11も参照のこと。
【0105】
まず、ステップS201で、前処理として、CADデータや測定点データなどを含む測量現場の情報をコントローラ80に入力する。入力された情報は、コントローラ80の記憶部83に収納される。
【0106】
次に、ステップS202に移行して、測量機10を既知点に設置し、後方交会法などにより三次元座標を取得する。
【0107】
次に、ステップS203で、コントローラ80と測量機10の位置合わせを行う。ステップS203は、前述のステップS101に相当する。
【0108】
次に、ステップS204に移行して、コントローラ80に対する測量機10が、コントローラ80の相対方向を取得可能にする。ステップS203は、前述のステップS102に相当する。
【0109】
次に、ステップS205に移行して、測定点P1,P2,P3・・・Pnの位置情報が演算され、表示部82には、入力データに対応する測設地図が表示されるとともに、測定するべき測定点Pnの位置情報が表示部82に表示される。
【0110】
次に、ステップS206に移行して、測量機10は水平回転駆動部M1を駆動させて測定点Pnに鏡筒部18を向ける。作業者は、表示部82の測設地図を確認しながら、測定点Pnの方向へ向かって移動する。測量機10は、その間、鏡筒部18を上下方向に駆動させて追尾光を走査させる。
【0111】
次に、ステップS207に移行して、作業者が測定点Pnと測量機10とを結ぶ直線上に到達すると、追尾部24がプリズム72をロックし、追尾を開始する。
【0112】
次に、ステップS208に移行して、作業者は、追尾による測定点Pnまでの具体的な距離を表示部82で確認しながら、測定点Pnまで移動する。
【0113】
次に、ステップS209に移行して、ステップS107の移動中に追尾が外れてしまった場合、ステップ210として追尾再開フローに移行する。具体的には、プリズムロックの本工程であるステップS103~ステップS108を実施し、プリズム72をロックして追尾を再開する。追尾が再開すると、ステップS208に戻る。追尾されたまま作業者が測定点Pnに到達すると、ステップS210に移行する。
【0114】
次に、ステップS211に移行して、作業者が測定点Pnにまで到達すると、ターゲットユニット70が測定点Pnに略鉛直に立てられ、測量機10は測定点Pnに立てられたプリズム72の測距・測角を行う。
【0115】
次に、ステップS212に移行して、次の測定点Pn+1がある場合、ステップS205に移行し、次の測定点Pn+1に対して、ステップS205~ステップS211を繰り返す。次の測定点がなくなると、測量は終了する。
【0116】
(変形例)
図16は、変形例に係る測量システム1A構成する、測量機10Aの模式的な外観斜視図である。
図17は、測量機10Aの構成ブロック図である。測量システム1Aは、測量機10に代えて測量機10Aを備える点を除いて同じ構成を有するので全体の詳細な説明は省略する。測量機10Aは、機能的には、測量機10と同等の構成であるが、外観上、以下の点で異なる。測量機10Aは、カバー部材16を備えない。また、基盤部13の上に設けられた回転台座14上に固定されて水平方向に回転可能な托架部17Aが、上方に開口するコの字形状を有する独立のケーシングを有して構成されている。
【0117】
托架部17Aの下部17Abは、横長の直方体形状を有し、前面に、測量機10Aを直接操作するための入力部27と表示部28を備える。托架部17Aの上部17Acは左右一対の柱として上方へ延在し、その間に望遠鏡18Aを水平軸H回りに鉛直回転可能に支持する。また、望遠鏡18Aの上部には、撮像部40と同等の構成を有する撮像部40Aが設けられている。
【0118】
すなわち、測量機10と測量機10Aの主な違いは、測量機10では、撮像部40が、托架部17の上端に設けられ、水平方向にのみに回転するのに対して、測量機10Aでは、撮像部40Aが、望遠鏡18Aの上部に設けられ、望遠鏡18Aと共に水平方向および鉛直方向に回転可能である点である。
【0119】
一方、
図17に示す通り、機能的には、測量機10と測量機10Aは、測量機10Aが入力部27、表示部28を備える点を除いて同等の構成を有する。
【0120】
測量システム1Aを用いるプリズムロックのフローは、
図12に示すフローと概ね同じである。上記構成の相違点に基いて、本工程のステップS106,S107における動作が、
図18に示すように異なる。すなわち、ステップS106において、測量機制御部29は、画像解析の結果に基づいて追尾ガイド光Lcの到来方向を算出し、水平回転駆動部M1、および鉛直回転駆動部M12を駆動させて望遠鏡18Aを回転させ、望遠鏡18Aの視準軸を追尾ガイド光Lcの到来方向(プリズム72の精方向)に向ける。追尾ガイド光Lcの到来方向の算出により、回転すべき、水平角だけでなく、鉛直角度も把握できるからである。
【0121】
したがって、ステップS107では、追尾部24の追尾光を走査させ、プリズム72を捕捉する際には、現在の視準方向周辺を、鉛直方向および水平方向にわずかに走査するだけで、プリズム72を捕捉することができる。
【0122】
このように、望遠鏡18Aと共に回転可能な撮像部40をA有する測量機10Aでは、望遠鏡18Aを水平方向および鉛直方向に同時に回転してプリズム72の方向に精精度で向けるので、さらに迅速にプリズムを捕捉することが可能になる。
【0123】
(変形例2)
図19は、フィルタ切替装置42の変形例であるフィルタ切替装置142を示す。
【0124】
フィルタ切替装置42では、ベース体45に形成された二つの開口部に、第1フィルタ43aおよび第2フィルタ43bが取付けられていた。これに対し、フィルタ切替装置142では、形成された開口部に、第1フィルタ43aおよび第2フィルタ43bの両方が設けられた共通基板146が取り付けられている。フィルタ切替装置142は、ベース体45に代わりベース体145が用いられている以外は、フィルタ切替装置42と同等の構成を有する。
【0125】
共通基板146は、透光性樹脂部材またはガラス材などの光を透過する性質を有する部材で構成された、厚みが均一の平板であり、その表面には、膜状の第1フィルタ43aおよび第2フィルタ43bが設けられている。
【0126】
ベース体45と同様に、ベース体145は、ソレノイド44に連結されて回動可能に支持され、第1フィルタ43aおよび第2フィルタ43bは、ベース体145の回動により撮像装置41の光軸上に、選択的に配置される。ソレノイド44に通電されていない状態では、撮像装置41の光軸上であり、受光素子ARの前方で、受光素子ARを覆うようにして、第1フィルタ43aが配置される(
図19(A)参照)。ソレノイド44への通電により、ソレノイド44に連結されたベース体145が駆動されて、中心軸44Aを中心として所定角度だけ回転することで、撮像装置41の光軸上に配置されるフィルタが第2フィルタ43bへと切り替わる(
図19(B)参照)。
【0127】
図20は、フィルタ切替装置142の入射光の光路を示す光学図である。
図20(A)が、第1フィルタ43aが撮像装置41の光軸上に配置された状態、
図20(B)が、第2フィルタ43bが撮像装置41の光軸上に配置された状態を示す。
【0128】
撮像装置41は、撮影レンズ47、および受光素子ARを含むイメージセンサ48を有する。ベース体145は、撮影レンズ47の光軸上で、撮影レンズ47およびイメージセンサ48の間に、回動可能(移動可能)に配置される。ベース体145の回動により、共通基板46が上下方向に移動し、共通基板46に設けられた第1フィルタ43aと、第2フィルタ43bとが、撮影レンズ47の光軸上に選択的に配置される。撮像装置41に入射した光は、撮影レンズ47を通過して、第1フィルタ43aまたは第2フィルタ43bを通過して、イメージセンサ48に集光される。
【0129】
第1フィルタ43aおよび第2フィルタ43bは、厚さTの共通基板46に対して、非常に薄い膜状に構成されており、無視しても問題ない程度の厚さとなっている。
図20(A)に示すように、第1フィルタ43aが撮影レンズ47の光軸上に配置される場合、撮像装置41に入射した光は、厚さTの共通基板46を通過して、イメージセンサ48に集光される。
図20(B)に示すように、ソレノイド44によりベース体145が回動して、共通基板46が移動して、第2フィルタ43bが撮影レンズ47の光軸上に配置される場合、撮像装置41に入射した光は、厚さTの共通基板46を通過して、イメージセンサ48に集光される。いずれのフィルタが撮影レンズ47の光軸上に配置されても、撮像装置41に入射した光は厚さTの共通基板46を通過することから、フィルタを切り替えても、イメージセンサ48では同じ集光状態、すなわち、同じピントの状態で撮像することができる。
【0130】
第1フィルタ43aと、第2フィルタ43bを別々の基板に設けた場合、基板自体の厚さの違いや配置の違いから、フィルタの切替によって撮影レンズ47からイメージセンサ48までの光路長に違いが生じた場合には、ピント調整を行う。これに対し、第1フィルタ43aおよび第2フィルタ43bを同一の基板(共通基板146)に設けることで、入射光の光路長を同一にできるため、フィルタ切替によるピント調節を行う必要がなくなる。
【0131】
以上、本発明の好ましい実施の形態について述べたが、上記の実施の形態は本発明の一例であり、これらを当業者の知識に基づいて組み合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0132】
1 :測量システム
10 :測量機
17 :托架部
18 :鏡筒部
24 :追尾部
40 :撮像部
41 :撮像装置
42 :フィルタ切替装置
43a :第1フィルタ
43b :第2フィルタ
70 :ターゲットユニット
72 :プリズム
73 :送光器
146 :共通基板
L2 :光軸
M1 :水平回転駆動部
M2 :鉛直回転駆動部
H :水平軸
V :鉛直軸