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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050410
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240403BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240403BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240403BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/00 301F
C22C38/00 301H
C22C38/38
C22C38/60
C21D8/02 D
C21D8/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111228
(22)【出願日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2022156105
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】三浦 進一
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 和彦
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA09
4K032AA10
4K032AA12
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA15
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA38
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC03
4K032CC04
4K032CD01
4K032CD02
4K032CD03
4K032CD05
4K032CD06
4K032CF03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐腐食摩耗性および靭性に優れた鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.10%以上0.24%未満、Si:0.05%以上1.00%以下、Mn:0.10%以上2.00%以下、P:0.030%以下(0%を除く)、S:0.0300%以下(0%を除く)、Al:0.005%以上0.100%以下、Cr:3.00%以上11.50%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、表面硬さがブリネル硬さHBW10/3000で370以上475以下であることを特徴とする鋼板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.10%以上0.24%未満、
Si:0.05%以上1.00%以下、
Mn:0.10%以上2.00%以下、
P:0.030%以下(0%を除く)、
S:0.0300%以下(0%を除く)、
Al:0.005%以上0.100%以下、
Cr:3.00%以上11.50%以下を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
表面硬さがブリネル硬さHBW10/3000で370以上475以下、
であることを特徴とする鋼板。
【請求項2】
さらに、質量%で、
Mo:1.000%以下、
Nb:0.100%以下、
Ti:0.100%以下、
V:0.200%以下、
Zr:0.100%以下、
Sn:0.200%以下、
Sb:0.200%以下、
Cu:2.00%以下、
Ni:2.00%以下、
Co:2.00%以下、
W:1.000%以下、
B:0.0030%以下、
REM:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下、
から選ばれる一種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板に関する。本発明は、特に、産業機械、運搬機器等で耐摩耗性が要求される部材用に用いられる鋼板に関し、なかでも、石炭採掘環境などの酸性の腐食環境において耐腐食摩耗性に優れる鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーショベル、ブルドーザー、ホッパー、バケット、ダンプトラック、コンベアなど産業機械、運搬機器等の部材は、土砂や鉱石、石炭などとの接触により摩耗が生じる。このため、部材の寿命延長を目的に耐摩耗性に優れた厚鋼板が用いられている。産業機械、運搬機器等の実際の使用環境は、乾燥、湿潤など種々の状態にあり、湿潤状態で使用される場合は腐食性物質を含むことが多い。そのような環境下における腐食摩耗は非常に激しいことが知られている。特に、石炭採掘環境では、石炭からの浸出液が酸性を示す場合があり、そのような場合は一層腐食摩耗が激しくなる。そのため、耐食性と耐摩耗性を併せ持つ耐腐食摩耗性に優れた鋼板が求められていた。
【0003】
このような要望に対して、例えば、特許文献1では、質量%で、C:0.18~0.25%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.10~2.00%、P:0.020%以下、S:0.0050%以下、Al:0.005~0.100%、Cr:0.05~2.00%、Nb:0.005~0.100%、Ti:0.005~0.100%、W:0.05~1.00%、必要に応じて、Mo、Cu、Ni、V、B、REM、Ca、Mgの1種または2種以上を含む組成の腐食環境における耐摩耗性に優れる厚鋼板が開示されている。なお、特許文献1では、腐食環境としてNaCl水溶液を用いて耐摩耗性を評価している。
【0004】
また、特許文献2では、質量%で、C:0.20%超え0.35%以下、Si:0.02~1.00%、Mn:0.1~2.0%、P:0.020%以下、S:0.005%以下、Al:0.005~0.100%、Sb:0.005~0.20%、B:0.0003~0.0030%を含み、更に、Cr:0.05~2.0%、Mo:0.05~1.0%のうちから選ばれた1種以上を含み、かつ0.05≦(Crsol+2.5Mosol)≦2.0(ここで、Crsol:鋼中固溶Cr量(質量%)、Mosol:鋼中固溶Mo量(質量%))を満足する組成の耐腐食摩耗性に優れる耐摩耗鋼板が開示されている。なお、特許文献2では、腐食環境としてNaCl水溶液を用いて耐摩耗性を評価している。
【0005】
また、特許文献3では、C:0.01~0.25%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.1~2.0%、P:0.035%以下、S:0.035%以下、Al:0.003~0.10%、Cu:0.05~0.35%、Ni:0.02~0.40%、Sb:0.01~0.2%、W:0.005~0.5%、Nb:0.003~0.025%、Cr:0.1%以下、N:0.0010~0.0080%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、かつ表面から深さ方向に2mmの位置のビッカース硬度が140以上であることで、特定環境下に置いて優れた耐食性、耐磨耗性、高靭性を示す耐食鋼が開示されている。
【0006】
また、特許文献4では、質量%で、C:0.10~0.35%、Si:1.00%超、2.00%以下、Mn:0.10~2.00%、P:0.0200%以下、S:0.0100%以下、Cr:0.05%超、2.00%以下、Al:0.010~0.100%、N:0.0020~0.0100%、B:0.0003~0.0030%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、H≧235+706[C](1-0.3[C])(式中、Hは前記耐食性耐摩耗鋼板の表層部硬度(HV)を表し、[C]は前記Cの含有量(質量%)を表す)を満足することで靭性に優れ、かつ耐食性と耐摩耗性とを両立する耐食性耐摩耗鋼板が開示されている。なお、特許文献4では、腐食環境として人工海水を用いて耐摩耗性を評価している。
【0007】
また、特許文献5では、質量%で、C:0.01~0.15%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.10~2.00%、Cr:0.05%超、3.00%以下、Al:0.01~0.10%、B:0.0003~0.0020%、N:0.0020~0.0100%を含有し、次式(Ceq(%)=[C]+[Mn]/6+[Si]/24+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/4)(式中、[X]は、元素Xの質量%での含有量を表す)によって求められる炭素当量Ceq(%)が0.20%以上であり、表層部のラス状組織の面積率が90%以上であり、前記ラス状組織に存在するセメンタイトの長軸/短軸比の平均値が2.00以上である金属組織を有し、表層部硬度が200以上(HV5)であることで、石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉に好適な、耐食性及び耐摩耗性に優れた鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-193873号公報
【特許文献2】特開2016-222969号公報
【特許文献3】特開2017-128762号公報
【特許文献4】特開2020-007589号公報
【特許文献5】特開2020-132994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2および4では、耐食性の改善対象とする腐食環境がNaCl水溶液や人工海水であるため、石炭採掘環境などのような酸性環境における耐腐食摩耗性を改善できていない、という問題点があった。また、特許文献3、5は、鋼材の硬さがビッカース硬度で365以下と低く、耐摩耗性が低いため、産業機械や運搬機器等には適さないという問題点があった。また、産業機械や運搬機器等にはその使用環境の過酷さから適切な靭性を有する必要がある。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑み、耐腐食摩耗性および靭性に優れた鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、耐腐食摩耗性の観点から各種要因の影響について鋭意検討した。その結果、鋼材の耐摩耗性と耐食性を同時に向上させるために下記の(1)と(2)を同時に満たすことで、石炭採掘環境のような酸性環境における耐腐食摩耗性が向上するとの知見を得た。
【0012】
耐摩耗性を向上させるためには、
(1)硬さを上昇させる。
酸性環境での耐食性を向上させるためには、
(2)酸性の腐食環境において、アノード反応によりイオンとして溶出し、インヒビター効果により腐食を抑制することで、耐腐食摩耗性を向上させるのに有効であるCrを添加する。
【0013】
すなわち、前記課題を解決するためには、耐摩耗性と耐食性が同時に向上するように硬さを上昇させつつ、Crを添加する、ことが必要であると知見した。
【0014】
本発明の要旨は、次の通りである。
[1]質量%で、
C:0.10%以上0.24%未満、
Si:0.05%以上1.00%以下、
Mn:0.10%以上2.00%以下、
P:0.030%以下(0%を除く)、
S:0.0300%以下(0%を除く)、
Al:0.005%以上0.100%以下、
Cr:3.00%以上11.50%以下を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
表面硬さがブリネル硬さHBW10/3000で370以上475以下
であることを特徴とする鋼板。
[2]さらに、質量%で、
Mo:1.000%以下、
Nb:0.100%以下、
Ti:0.100%以下、
V:0.200%以下、
Zr:0.100%以下、
Sn:0.200%以下、
Sb:0.200%以下、
Cu:2.00%以下、
Ni:2.00%以下、
Co:2.00%以下、
W:1.000%以下、
B:0.0030%以下、
REM:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下、
から選ばれる一種以上を含有することを特徴とする[1]に記載の鋼板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐腐食摩耗性および靭性に優れた鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。なお、成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
【0017】
C:0.10%以上0.24%未満
Cは、鋼の硬さを高める元素である。所望の硬さを確保するため、0.10%以上のCを含有する必要がある。C含有量が、0.10%未満であると、所望の表面硬さが得られなくなり、十分な耐腐食摩耗性が得られなくなる。一方、0.24%以上では硬さが高くなりすぎ、目標の表面硬さを確保することが出来なくなる。したがって、C含有量は、0.10%以上0.24%未満とする。好ましくは、0.11%以上、0.22%以下である。より好ましくは0.12%以上、0.21%以下である。
【0018】
Si:0.05%以上1.00%以下
Siは、溶鋼の脱酸剤として作用する有効な元素である。このような効果を確保するためには、0.05%以上のSiの含有を必要とする。一方、Siを1.00%を超えて多量に含有すると、延性が低下し、また介在物が増加する。したがって、Si含有量は0.05%以上1.00%以下とする。好ましくは0.10%以上0.40%以下である。
【0019】
Mn:0.10%以上2.00%以下
Mnは焼入れ性を向上させる元素であり、所望の硬さを確保するために0.10%以上のMnを含有する必要がある。Mn含有量が、0.10%未満であると、所望の表面硬さが得られなくなり、十分な耐腐食摩耗性が得られなくなる。一方、2.00%を超えて過剰に含有すると溶接性が劣化する。したがって、Mn含有量は0.10%以上2.00%以下とする。好ましくは0.15%以上1.80%以下である.より好ましくは0.20%以上1.80%以下である。
【0020】
P:0.030%以下(0%を除く)
Pは、鋼中に多量に含有すると溶接性を劣化させる。そのため、0.030%を上限とする。P含有量は、できるだけ低減することが望ましく、好ましくは0.015%以下である。しかしながら、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、P含有量は0.001%以上が好ましい。
【0021】
S:0.0300%以下(0%を除く)
Sは、鋼中に多量に含まれるとMnSとして析出し、ガス切断性劣化を招くため、できるだけ低減することが望ましく、0.0300%以下とする必要がある。ただし、過度の低減は精錬コストの増大を招くため、S含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。
【0022】
Al:0.005%以上0.100%以下
Alは、製鋼時の脱酸に必要な元素であり、窒化物を形成しオーステナイト粒径を小さくし靭性を向上する効果を有する。これらの効果を得るため、Al含有量として0.005%以上含有する必要がある。一方、0.100%を超えると鋼素材や鋼板の清浄度が低下し、その結果、靭性が低下する。したがって、Al含有量は0.005%以上0.100%以下とする。好ましくは0.070%以下であり、より好ましくは0.050%以下である。好ましくは0.010%以上である。
【0023】
Cr:3.00%以上11.50%以下
Crは、本発明において重要な要件であり、特に石炭採掘環境などの酸性の腐食環境における耐腐食摩耗性を著しく向上させる効果を有する。Crは、焼入れ性を向上させる元素であり、硬さを上昇させる効果を有する。また、石炭採掘環境などの酸性の腐食環境において、アノード反応によりCr酸イオンとして溶出し、インヒビター効果により腐食を抑制することで、耐腐食摩耗性を向上させる効果を有する。所望の表面硬さを確保し、かつ、石炭採掘環境などの酸性の腐食環境において十分な耐腐食摩耗性を得るためには、Crを3.00%以上含有する必要がある。一方、11.50%を超えて含有すると、溶接性が低下するとともに、製造コストが高騰する。さらに、硬さが高くなりすぎ、目標の表面硬さを確保することが出来なくなる。そのため、Cr含有量は、3.00%以上11.50%以下の範囲に限定した。なお、Cr含有量は、好ましくは5.00%超である。また、Crの含有量は、好ましくは11.00%以下であり、より好ましくは10.00%以下である。
【0024】
以上、本発明の鋼板における基本成分(必須成分)について説明した。本発明の鋼板における成分組成のうち、上記以外の成分(残部)はFeおよび不可避的不純物とすることができる。ここで不可避的不純物として、NとOについてはそれぞれ、N:0.0100%以下、O:0.0100%以下が許容できる。
【0025】
上記成分組成を有することで、本発明で目的とする特性が得られる。
【0026】
本発明の鋼板の成分組成は、さらに、必要に応じて選択元素として、下記の元素から選ばれる一種以上を、それぞれ下記含有量の範囲で含有することができる。
【0027】
Mo:1.000%以下
Moは、焼入れ性を向上させるために有効な元素であり、硬さを上昇させる効果を有する。このような効果を得るためには、Moを0.001%以上含有することが好ましい。一方、1.000%を超えるとMo消費量増加に伴うコスト上昇を招く。したがって、Moを含有する場合、Mo含有量は、1.000%以下とし、好ましくは0.800%以下とする。また、Moを含有する場合、Mo含有量は、好ましくは0.100%以上とする。
【0028】
Nb:0.100%以下
Nbは、強度を高めるために有効な元素である。この効果を充分に得るためには、Nbを0.001%以上含有することが好ましい。一方、0.100%を超えると効果は飽和する。したがって、Nbを含有する場合、Nb含有量は、0.100%以下とする。また、Nbを含有する場合、Nb含有量は、好ましくは0.001%以上とする。
【0029】
Ti:0.100%以下
Tiは、強度を高めるために有効な元素である。この効果を充分に得るためには、Tiを0.001%以上含有することが好ましい。一方、0.100%を超えると効果は飽和する。したがって、Tiを含有する場合、Ti含有量は0.100%以下とする。また、Tiを含有する場合、Ti含有量は、好ましくは0.001%以上とする。
【0030】
V:0.200%以下
Vは、強度を高めるために有効な元素である。この効果を充分に得るためには、Vを0.001%以上含有することが好ましい。一方、0.200%を超えると効果が飽和する。したがって、Vを含有する場合、V含有量は0.200%以下とする。また、Vを含有する場合、V含有量は、好ましくは0.001%以上とする。
【0031】
Zr:0.100%以下
Zrは、強度を高めるために有効な元素である。この効果を充分に得るためには、Zrを0.001%以上含有することが好ましい。一方、0.100%を超えると効果が飽和する。したがって、Zrを含有する場合、Zr含有量は0.100%以下とする。また、Zrを含有する場合、Zr含有量は、好ましくは0.001%以上とする。
【0032】
Sn:0.200%以下
Snは、石炭採掘環境などの酸性の腐食環境において、鋼材のアノード反応を抑制するとともに、カソード反応である水素発生反応を抑制することで鋼材の耐候性を向上させるために有効な元素である。このような効果を充分に得るためには、Snを0.001%以上含有することが好ましい。一方、Snを0.200%を超えて含有しても効果が飽和する。したがって、Snを含有する場合、Sn含有量は0.200%以下とする。また、Snを含有する場合、Sn含有量は、好ましくは0.001%以上とする。
【0033】
Sb:0.200%以下
Sbは、石炭採掘環境などの酸性の腐食環境において、鋼材のアノード反応を抑制するとともに、カソード反応である水素発生反応を抑制することで鋼材の耐候性を向上させるために有効な元素である。このような効果を充分に得るためには、Sbを0.001%以上含有することが好ましい。一方、Sbを0.200%を超えて含有しても効果が飽和する。したがって、Sbを含有する場合、Sb含有量は0.200%以下とする。また、Sbを含有する場合、Sb含有量は、好ましくは0.001%以上とする。
【0034】
Cu:2.00%以下
Cuは、腐食生成物を緻密にし、腐食促進因子である水、酸素、硫酸イオン、塩化物イオンなどの地鉄への透過を抑制することで、腐食反応を抑制する。この効果により、耐腐食摩耗性が向上する。このような効果を得るには、Cuを0.01%以上含有することが好ましい。一方、Cu含有量が2.00%を超えると熱間加工性が低下し、製造コストが増大する。したがって、Cuを含有する場合、Cu含有量は2.00%以下とし、好ましくは1.50%以下、さらにより好ましくは1.20%以下とする。また、Cuを含有する場合、Cu含有量は、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.10%以上、さらにより好ましくは0.60%以上とする。
【0035】
Ni:2.00%以下
Niは、焼入れ性を向上させるために有効な元素である。このような効果を得るためには、Niを0.01%以上含有することが好ましい。一方、2.00%を超える含有は、製造コストを上昇させる。そのため、Niを含有する場合には、Niの含有量は、2.00%以下に限定し、好ましくは1.50%以下、より好ましくは0.60%以下とする。また、Niを含有する場合、Niの含有量は、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.10%以上、さらにより好ましくは0.30%以上とする。
【0036】
Co:2.00%以下
Coは、焼入れ性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るためには、Coを0.01%以上含有することが好ましい。一方、2.00%を超える含有は、製造コストを上昇させる。そのため、Coを含有する場合には、Co含有量は、2.00%以下に限定する。また、Coを含有する場合、Co含有量は、好ましくは0.01%以上とする。
【0037】
W:1.000%以下
Wは、焼入れ性を向上させるために有効な元素であり、硬さを上昇させる効果を有する。このような効果を得るためには、Wを0.001%以上含有することが好ましい。一方、1.00%を超えるとW消費量増加に伴うコスト上昇を招く。したがって、Wを含有する場合、W含有量は、1.000%以下とし、好ましくは0.800%以下とする。また、Wを含有する場合、W含有量は、好ましくは0.001%以上、さらに好ましくは0.100%以上とする。
【0038】
B:0.0030%以下
Bは、焼入れ性を向上させるために有効な元素である。この効果を得るためには、Bを0.0001%以上含有することが好ましい。一方、0.0030%を超えると効果は飽和する。したがって、Bを含有する場合、B含有量は、0.0030%以下とする。また、Bを含有する場合、B含有量は、好ましくは0.0001%以上とする。
【0039】
REM:0.0100%以下
REMは、Sを固定し、割れの原因となるMnSの生成を抑制するために有効である。このような効果を得るためには、REMを0.0005%以上含有することが好ましい。一方、0.0100%を超えて含有すると鋼中介在物量が増加し、割れを招く。そのため、REMを含有する場合には、REM含有量は、0.0100%以下に限定し、好ましくは0.0035%以下、より好ましくは0.0020%以下とする。また、REMを含有する場合、REM含有量は、好ましくは0.0005%以上とする。なお、REMは、Sc、Yと、原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)までの15元素の総称であり、ここでいうREM含有量は、これらの元素の合計含有量である。
【0040】
Ca:0.0100%以下
Caは、鋼中のSを固定して溶接熱影響部の靭性向上に有効な元素である。この効果を十分に得るためには、Caを0.0001%以上含有することが好ましい。一方、0.0100%を超えると鋼中の介在物の量が増加し、割れの原因となる。したがって、Caを含有する場合、Ca含有量は0.0100%以下とする。また、Caを含有する場合、Ca含有量は、好ましくは0.0001%以上とする。
【0041】
Mg:0.0100%以下
Mgは、鋼中のSを固定して溶接熱影響部の靭性向上に有効な元素である。この効果を充分に得るためには、Mgを0.0001%以上含有することが好ましい。一方、0.0100%を超えると、鋼中の介在物の量が増加し割れの原因となる。したがって、Mgを含有する場合、Mg含有量は0.0100%以下とする。また、Mgを含有する場合、Mg含有量は、好ましくは0.0001%以上とする。
【0042】
また、本発明の鋼板は、ブリネル硬さHBW10/3000で370以上475以下の表面硬さを有する。ここでいう「表面硬さ」は、表面から板厚方向に0.5mmの位置で、JIS Z 2243(2008)の規定に準拠して測定した値(ブリネル硬さ)を言うものとする。
【0043】
表面硬さ:ブリネル硬さHBW10/3000で370以上475以下
表面硬さが、HBW10/3000で370未満では、表面硬さが低く、十分な耐腐食摩耗性を示さないため、石炭採掘環境などの酸性の腐食環境等、摩耗環境が厳しく、より高い耐腐食摩耗性が要求される場合に、所望の摩耗寿命を確保できない。このため、本発明の鋼板では、表面硬さをブリネル硬さHBW10/3000で370以上に限定した。一方、表面硬さがHBW10/3000で475を超えると、曲げ加工性が劣化してしまう。このため、表面硬さをブリネル硬さHBW10/3000で475以下とした。
【0044】
[鋼板の製造方法]
上記した成分組成の溶鋼を、転炉、電気炉等の公知の方法で溶製し、連続鋳造法や造塊法等の公知の方法でスラブやビレット等の鋼素材とする。なお、溶鋼に、取鍋精錬や真空脱ガス等の処理を付加しても良いことは言うまでもない。熱間圧延においては、強度を確保するために、鋼素材の加熱温度および熱間圧延時の仕上終了温度および冷却速度を適正化することが好ましい。すなわち、熱間仕上圧延終了温度を確保する観点から、好ましくは1000~1250℃の温度に鋼素材を加熱したのち、所望の寸法形状に熱間圧延するか、あるいは鋼素材の温度が熱間圧延可能な程度に高温である場合には加熱することなく、あるいは均熱する程度で直ちに所望の寸法形状の鋼材に熱間圧延することが好ましい。
【0045】
なお、熱間圧延では、強度を確保するために、熱間仕上圧延終了温度および熱間圧延終了後の冷却速度を適正化することが好ましく、770℃以上の温度において熱間圧延を終了して、700℃以下まで空冷した後、850℃から1000℃に再加熱した後、その後直ちにあるいは若干の放置時間(例えば10~60sの放置時間)の後、750℃以上の冷却開始温度から冷却速度0.5℃/s以上、100℃/s以下の冷却(例えば、水冷)を実施し、冷却停止温度200℃以下で冷却を終了することが好ましい。また、熱間圧延終了後、直ちにあるいは若干の放置時間(例えば10~60sの放置時間)の後、750℃以上の冷却開始温度(水冷の場合は、水冷開始温度とする。)から冷却速度0.5℃/s以上、100℃/s以下の加速冷却(たとえば、水冷)を実施し、冷却停止温度200℃以下で加速冷却を終了してもよい。
【実施例0046】
表1に示す成分組成からなる鋼(残部はFeおよび不可避的不純物である)を真空溶解炉で溶製し、鋳型に鋳造し、鋼素材とした。ついでこれらの鋼素材を熱間圧延し、熱間圧延終了後ただちに空冷し、空冷後、さらに再加熱したのち水冷した。
得られた鋼板から試験片を採取し、表面硬さ試験、腐食摩耗試験、シャルピー試験を行った。
【0047】
(1)表面硬さ試験
得られた鋼板の表面から0.5mm位置が測定面となるように表面硬さ測定用試験片を採取し、JIS Z 2243(2018)の規定に準拠して、表面硬さHBW10/3000を測定した。硬さ測定は、10mmのタングステン硬球を使用し、荷重は3000kgfで行った。なお、表面から0.5mm位置で、3点測定することとし、得られた測定値の算術平均を求め、平均値を、当該鋼板の表面硬さとした。
【0048】
(2)腐食摩耗試験
得られた鋼板の板厚方向に1/4t部から(tは板厚を示す。)、摩耗試験片(大きさ:10mmφ×75mm長さ)を採取した。試験片を摩耗試験機に装着し、摩耗試験を実施した。
摩耗試験片は、試験機回転子の回転軸と平行に、回転軸から150mmの位置に120度の角度で3本取り付けたのち、試験片を試験槽へ入れ、内部に摩耗材を導入した。摩耗材は平均粒径0.7mmの硅砂およびpH2の希硫酸を、硅砂と希硫酸の重量比が5:3となるよう混合したものを用いた。
試験条件は、回転速度500rpm、回転数60000回とした。試験終了後、各試験片の重量を測定した。そして、試験後重量と初期重量との差(=重量減少量)を算出した。なお、従来例として一般構造用圧延鋼材SS400(JIS G3101)から採取した試験片ついて、同様に摩耗試験を実施し、試験片の重量減少量を求めた。
耐腐食摩耗性は、SS400の重量減少量に対する各試験片の重量減少量の比率で評価した。下記の基準で、〇もしくは◎であれば、十分な耐腐食摩耗性を有していると判定した。結果を表2に示す。
◎(合格、耐腐食摩耗性に特に優れる):重量減少量の比率が、0.60未満
○(合格、耐腐食摩耗性に優れる):重量減少量の比率が、0.60以上0.75以下
×(不合格):重量減少量の比率が、0.75超
発明例ではいずれも、優れた耐腐食摩耗性が得られた。さらに発明例のうち、Crを5.00%を超えて含有した鋼種1~2、4~8、10~12、14~16は、特に優れた耐腐食摩耗性が得られた(判定が◎)。
【0049】
(3)シャルピー試験
シャルピー試験(JIS Z 2242(2018))による靭性は、上記鋼板から採取したVノッチ標準試験片を用いて、-40℃において1セット(n=3)平均で27.0J以上の吸収エネルギーであれば良好と評価した。なお、吸収エネルギーは、30.0J以上がより好ましい。
【0050】
(1)および(2)の評価結果および(3)シャルピー試験により測定した靭性値を表2に併記する。
【0051】
表2に示したとおり、発明例はいずれも、所望の表面硬さと、優れた耐腐食摩耗性を兼ね備えている。さらに、靭性にも優れる。これに対し、比較例の鋼種18から22では、表面硬さまたは耐腐食摩耗性の少なくとも一つについて、十分な特性が得られていない。また、比較例の鋼種23および24では靭性について十分な特性が得られていない。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明したように、本発明によれば、産業機械、運搬機器等で耐摩耗性が要求される部材用に用いられる鋼板に関し、特に、石炭採掘環境などの酸性の腐食環境において耐腐食摩耗性に優れる鋼板を提供することができる。