(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005042
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】地盤注入工法および地盤注入装置
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105020
(22)【出願日】2022-06-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000162652
【氏名又は名称】強化土エンジニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】角田 百合花
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆光
(72)【発明者】
【氏名】田井 智大
(72)【発明者】
【氏名】木嶋 正
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AA04
2D040AB01
2D040CA01
2D040CA02
2D040CA10
2D040CB03
2D040CC01
2D040DC02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】軟弱地盤などにおける複雑な地盤状況に応じて、全体的に一体化された、均質で、止水の完全な、しかも高強度な固結地盤を形成する地盤注入工法を提供する。
【解決手段】ゲルタイムを連続的に変化させた非アルカリシリカグラウトを用いて地盤注入を行うことにより、複雑な地盤状況にある軟弱地盤を固結する。非アルカリシリカグラウトのゲルタイムはpHによって急激に変動するが、例えば、注入地盤が複数の異なる土層からなる場合において、各土層毎に地盤状況に合わせて、非アルカリシリカグラウトとしてのA液とB液の合流液の毎分吐出量、瞬結・緩結の配合比率、ステージ数、シリカ濃度を固定又は連続的に変化させ、ゲルタイムを連続的に変化させて管理しながら注入することで、全体的に均質で高強度な固結地盤を得ることができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に注入管を挿入し、非アルカリシリカグラウトを注入する地盤注入工法において、ゲルタイムを連続的に変化させたグラウトを用いて地盤を固結することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項2】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記非アルカリシリカグラウトとして、複数の異なるゲルタイムを有するグラウトを用いることを特徴とする地盤注入工法。
【請求項3】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記非アルカリシリカグラウトとして、ゲルタイムは連続的に変化するが、シリカ濃度は固定したグラウトを用いることを特徴とする地盤注入工法。
【請求項4】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記非アルカリシリカグラウトとして、ゲルタイムとシリカ濃度を連続的に変化させたグラウトを用いることを特徴とする地盤注入工法。
【請求項5】
請求項1~4記載の地盤注入工法において、地盤中に注入管を挿入し、少なくともA液とB液の2液を混合してゲルタイムの異なる注入液を注入する地盤注入工法であって、前記A液と前記B液はいずれもシリカ溶液を含有し、かつ前記A液は酸性シリカ溶液であって、前記B液はアルカリ性シリカ溶液であって、前記A液と前記B液の混合比率を連続的に変化させることにより、異なるゲルタイムのグラウトを地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項6】
請求項5記載の地盤注入工法において、前記A液と前記B液のシリカ含有量を同一にすることにより、注入液のゲルタイムを連続的に可変として、グラウトのシリカ濃度がほぼ同一のグラウトを注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項7】
請求項5記載の地盤注入工法において、前記A液と前記B液の混合比率を連続的に変化させることにより、注入液のゲルタイムを地盤状況、注入状況に応じて連続的に可変として注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項8】
請求項5記載の地盤注入工法において、異なるシリカ濃度のグラウトを連続して可変として地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項9】
請求項1記載の地盤注入工法において、ゲルタイムの短いグラウトとゲルタイムの長いグラウトを連続して地盤に注入するものとし、前記ゲルタイムの短いグラウトは地盤に粗結注入する一次注入材として注入し、前記ゲルタイムの長いグラウトは2次注入材として浸透注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項10】
請求項9記載の地盤注入工法において、前記ゲルタイムの短いグラウトは前記ゲルタイムの長い注入液が地表面に逸脱することを防ぐために注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項11】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記グラウトを異なる複数の土層からなる地盤に注入場合に、同一土層毎にほぼ同一シリカ濃度のグラウトを用いることを特徴とする地盤注入工法。
【請求項12】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記グラウトとして、注入ステージごとに地盤状況に対応したゲルタイムとシリカ濃度が得られるグラウトを注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項13】
請求項5記載の地盤注入工法において、前記A液と前記B液の混合液について、中性~アルカリ性のゲルタイムの短いシリカグラウトと、酸性のゲルタイムの長いシリカグラウトが連続的に変化するようにして地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項14】
請求項1記載の地盤注入工法において、注入対象地盤の採取土と気中ゲルタイム(GT0)と気中pH(PH0)を呈する注入液と混合した土中ゲルタイム(GTS)または、並びに土中pH(PHS)のデータに基づき、注入過程の浸透状況から想定する注入領域に浸透しうる気中ゲルタイム(GT0)または並びに気中pH(PH0)配合を調整したグラウトを地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項15】
請求項5記載の地盤注入工法において、以下の1)~8)のいずれかの注入方法により、前記A液、前記B液を地上で注入管に混合して地盤に注入するか、または地中で注入管に混合して地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
1)ロッド注入工法
2)ダブルパッカ工法
3)点注入工法
4)多点同時注入工法
5)柱状注入工法
6)瞬結・緩結複合注入工法
7)多ステージ同時注入工法
8)多注入孔同時注入工法
【請求項16】
地盤注入材の原料液を複数、個別に貯蔵する複数の原料液貯蔵タンクと、注入地点の地盤に埋設される注入管と、各原料液貯蔵タンクから地盤に注入する複数の原料液圧送ポンプと、当該複数の原料液圧送ポンプをそれぞれ駆動する複数の駆動装置を備え、前記原料液圧送ポンプと駆動装置はそれぞれ一台ずつで一ユニットを構成し、当該ユニットを複数ユニット備え、かつ当該複数ユニットを一括および/または個々に制御する制御装置を備え、前記複数の原料液の配合、混合および注入を同時に連続して行うように構成されてなる地盤注入装置において、前記複数の原料液圧送ポンプの流量と流量比率を連動して可変制御して吐出量と速度を制御することにより、前記複数の原料液を混合して地盤に注入するように構成されてなることを特徴とする地盤注入装置。
【請求項17】
請求項16記載の地盤注入装置を用いる地盤注入工法であって、前記制御装置によって原料液の選択と、各原料液圧送ポンプの吐出量と流量比率を連動して連続的に可変制御することにより、地盤状況に応じて選択された複数の原料液を設定された吐出量と配合比率で注入管に送り込むとともに、注入管内または注入管の吐出口付近で合流させて地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項18】
請求項5記載の地盤注入工法に用いる地盤注入装置であって、少なくともA液とB液の2液の配合液を送液する吐出量の比率を連続的に可変とすることによって、前記A液と前記B液の合流液のゲルタイムを連続的に可変としたことを特徴とする地盤注入装置。
【請求項19】
請求項5記載の地盤注入工法に用いる地盤注入装置であって、A液製造槽とB液製造槽で製造された注入システムA液とB液を吐出する2連ポンプを備え、該2連ポンプはそれぞれインバータと圧力・流量・検出器を備え、これらを制御するコントローラを備えてなることを特徴とする地盤注入装置。
【請求項20】
請求項19記載の地盤注入装置において、前記コントローラは流量計とそれらの情報に基づき前記インバータの回転数を制御して、前記A液とB液の混合比率または並びに前記A液とB液の混合における吐出量を変化させるようにしてあることを特徴とする地盤注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非アルカリシリカグラウトを用いた軟弱地盤の注入固結法に関し、詳細には軟弱あるいは漏水地盤を地盤状況に合わせて連続的にゲルタイムを可変として、均質に、強固に固結あるいは止水する地盤注入工法に関する。
【0002】
軟弱地盤は通常、粗粒土層と細粒土層とが相互になって形成された軟弱な地盤であるが、これは該地盤内に固結剤を注入して均質に固結することが必要である。
【背景技術】
【0003】
近年の地震の多発化や掘削工事の大規模化に伴う工事の長期化や複雑な地盤条件における安全施工が要求される工事が増大するにつれ、薬液注入において、長期耐久性にすぐれ、かつ地下水面下における浸透固結性にすぐれた注入技術が要求されるようになってきた。
【0004】
この要望に応えるため、本出願人は既に非アルカリシリカグラウト(
図1)を開発し、実用化している。非アルカリシリカグラウトは、
図2に示すように、水ガラスのアルカリを酸で中和したpHが1~8付近の中・酸性系シリカグラウト(シリカゾルグラウト)や水ガラスのアルカリをイオン交換法で除去して増粒して弱アルカリ性で安定したコロイドと水ガラスと酸からなるpHが1~10を示すシリカグラウト(活性複合シリカグラウト)がある。
【0005】
その他に金属シリカや地熱水由来のシリカを含む非アルカリシリカグラウトがある。これらは、いずれも長期耐久性にすぐれ、地下水面下に注入して地下水に希釈されてシリカ濃度が薄まっても確実に固結するという特性をもつ(
図2)。
【0006】
しかし、このグラウトは、
図1、
図2から判るように、pHが中性付近ではゲルタイムが短く、pHが2付近ではゲルタイムが大幅に長く、その領域では安定したゲルタイムを示すが、その中間であるpH領域ではゲルタイムが急激に変化するため、所定のpHに対応したゲルタイムを有するグラウトを注入することが不可能であった。このため実際の注入においては、瞬結グラウトを注入するか、極めて長いゲルタイムの注入液を注入するか或いは、これを組み合わせた複合注入を適用する他なかった。また軟弱地盤の固結法として、従来の次の方法が公知である。
【0007】
(1)ロッド注入方法
この方法は固結材として反応剤の水溶液あるいはセメント物質を含む懸濁液(A液)と、水ガラス水溶液(B液)とを用い、これらをY字管を用いて合流させながら地盤中に圧入する方法であるが、ボーリングロッドと地盤との間に隙間が生じ、この隙間から固結材が地表に噴出したり、また粗い層を通して注入液が逸脱してしまうため、細粒土層部分への固結や所定固結範囲の固結が困難である。
【0008】
(2)二重管注入工法
これはA液として水ガラスを、B液としてゲル化反応剤を用いて、地盤中に設置された二重管の先端部で合流して、短いゲルタイムでも固結する配合のグラウトを注入する方法である。この工法によればゲルタイムが短いためロッド周辺に沿ってグラウトが地上部に噴出することは防止できるが、ゲルタイムが短いため粗い層を脈状にしか固結し得ず、土粒子間に浸透させることはできない。このため掘削にあたって、湧水土砂の崩壊が生じやすい。
【0009】
上記問題を解決するために、従来より、まずゲルタイムの短い方の注入材で注入管と地盤との隙間を充填することによりパッカー効果のあるシールを形成するとともに、粗い層や層の境界面を填充した脈状の主体とする固結層を形成し、その後、ゲルタイムの長い方の注入材を上記シールを破ってゲルタイムの短い方の注入材が既に注入してある領域に注入する地盤注入工法が開発されている。この工法はゲルタイムの長い方の注入材は注入管周囲や粗い層から逸脱することがないので、注入対象を確実に浸透して固結することを目的としたものである。
【0010】
施工法は地盤中に内管および外管からなる二重管を挿入し、この二重管を移動して注入ステージを変化させながら二重管内の管路を通して、瞬結グラウトを一次注入した後、緩結グラウトを二次注入する方法である。
【0011】
特許文献1記載の発明は、注入材を形成するために主剤配合液に反応剤を合流するもので、主剤配合液として水ガラス配合液或いは水ガラスと反応剤の混合配合液を用い、それにセメント懸濁液或いはセメント急結剤を加えたセメント懸濁液を合流する。
【0012】
特許文献2記載の発明は、セメントや粘土を有効成分とする懸濁型グラウトや、セメントと水ガラスグラウトからなる懸濁物グラウトや溶液性水ガラスグラウトを用いる。水溶性水ガラスグラウトとしてはアルカリ領域、中性領域、酸性領域のグラウトを用いる。また、瞬結性水ガラスグラウトは水ガラスに瞬結用反応剤配合液を用い、浸透性水ガラスグラウトは水ガラスに浸透用反応剤配合液を用いる。
【0013】
具体的には水ガラスと反応剤を合流した瞬結グラウトを注入したあと、アルカリ性浸透グラウトからなる浸透性グラウトを注入する。或いは、酸性水ガラスに反応剤を合流して瞬結性グラウトを注入後、酸性水ガラスのみを注入する。主剤に対する反応剤の合流をオン、オフしながら瞬結グラウトを一次注入してから浸透性グラウトに切り替えて二次注入する(
図14参照)。この場合1次注入と2次注入のシリカ濃度が変わり一定の強度が得られない。
【0014】
また、酸性領域のシリカグラウトは所定のゲルタイムを配合して注入することが困難である。何故ならわずかなpHの違いで大幅にゲルタイムが変化するため、あらかじめ配合設定することが不可能である。
【0015】
特許文献3の発明は二重注入管を用い、この注入管内に構成された2つの管路を通して、それ自体ゲル化しうるアルカリ性水ガラス配合液をA液とし、それ自体ゲル化しうる酸性水ガラス配合液をB液とし、これら両液を合流して得られるゲルタイムが30秒以内のグラウトを地盤中に注入した後、それ自体ゲル化するゲルタイムの長いアルカリ性水ガラス配合の注入するものである。しかし、アルカリ領域の水ガラスグラウトはゲル化が不安定でまた、耐久性も得られない。
【0016】
特許文献3の工法は急結性反応剤としてセメントのような懸濁液を用いると、注入管吐出部において瞬結性懸濁物がつまりやすくなり、瞬結性グラウトと浸透性グラウトを交互に注入することが困難になりやすい。
【0017】
この場合、それ自体ゲル化しうるアルカリ性水ガラス配合液はpHがアルカリ側になるとゲルタイムが無限大になりゲル化しなくなるという問題があった。また酸性水ガラスに反応剤を合流して得られた瞬結グラウトはシリカ濃度が低くなり酸性水ガラスグラウトよりも強度が低下する。そこで酸性水ガラスに水ガラスを合流して瞬結グラウトを注入した後、酸性水ガラスのみ或いは酸性水ガラスに緩結性反応剤を加えて注入する過程をオン、オフしながら切り替えて注入すると瞬結グラウトが緩結グラウトよりもシリカ濃度が高く従って強度が高くなり一定の強度が得られない。
【0018】
特許文献4の発明は、A液として酸性水ガラスを用い、B液として水ガラスに難溶性アルカリ剤を加えてA液B液を合流して注入する方法である。この方法は、A液にB液として水ガラスを合流してもゲルタイムの調製が困難なため、水ガラスに難溶性アルカリ剤を加え、時間とともに難溶性アルカリ剤が溶解して酸と反応してA・B合流液の地盤中のpHが中性に近づくことを目的としたものである。この方法は非アルカリ領域のシリカグラウトは酸性領域で水ガラスのみでゲルタイムを調整することが不可能であることから水ガラスと難溶性アルカリ材を混合して用いたものである。
【0019】
特許文献5の発明は、少なくとも二種類の原料液を正確に合流させて注入する工法である。しかし、この工法は正確にA液、B液を合流して注入することを述べているが、本発明におけるA液の酸性水ガラス中の水ガラス濃度とB液の水ガラス濃度の比率を制御し、pHとゲルタイムを連続的に変化させて注入することにより、地盤状況、注入状況に応じて最適のゲルタイムと強度を得るという思想はない。
【0020】
このように、従来の注入工法は、瞬結と緩結の切り替えを地上プラントにて、酸性水ガラスに対して瞬結剤の合流をオン、オフで、あるいはサクションの切り替えで行っている(
図6参照)。このため、瞬結グラウトと緩結グラウトの切り替えは断続的でゲルタイムが安定している。瞬結(pH8付近)か、非常に長い緩結(pH2付近)かのいずれか(
図1参照)を用いることになり、その地盤条件に最適なゲルタイムを得ることが困難であった。また、ゲルタイムを瞬結から緩結に切り替えるとシリカ濃度が変わって強度も変わり瞬結グラウトと緩結グラウトを同じ強度にすることができなかった。
【0021】
このようにアルカリ系グラウトでは、硬化剤の量を多くすると瞬結グラウトになるが、緩結グラウトを得るために硬化剤の量を少なくすると瞬結グラウトに比べて緩結グラウトの強度が低くなり、またゲル化が不安定になり強度にばらつきが生じて均質な地盤改良が難しい。
【0022】
それに対し非アルカリシリカグラウトは水ガラスグラウトの劣化要因であるアルカリを酸で除去しているため耐久性に優れているが、瞬結グラウトの硬化剤に水ガラスを使用するとシリカ濃度が高くなり強度が緩結グラウトに比較して高くなる。
【0023】
また、シリカゾルグラウトはゲル化の安定領域はpHが2前後の領域とpHが7~8付近の領域であり、その中間はpHがわずかの違いで大幅にゲルタイムが変動するため、pHが7~8付近を瞬結領域とpHが2~3付近の非常に長いゲルタイムのいずれかを用い、地盤状況や注入状況に応じてその中間のpHのゲルタイムを用いることは困難であった(
図1参照)。
【0024】
このように、耐久性と浸透性に優れた注入材は非アルカリ領域のシリカグラウトであるが、非アルカリシリカグラウトは、瞬結領域(pHが8付近)から超長結領域(pH3付近)の中間領域のゲルタイムを緩結グラウトとして最適のゲルタイムを設定して適用することが困難であった点と、ゲルタイムの瞬結グラウトと緩結グラウトの変換においてシリカ濃度が変わって、強度が大幅に変わるため地盤状況や注入状況に応じてゲルタイムや強度の変換を連続的に行うことが困難であった。また、シリカ濃度を変えることなく(強度を変えることなく)ゲルタイムを地盤状況や注入状況に合わせて連続的に可変することが困難であった。
【0025】
軟弱地盤の土壌は層状に堆積しており、異なる層または各層の厚さの中では各ステージでは最適のゲルタイムと最適の強度が一定に保たれる必要があり、それぞれの層または各層のステージ毎に異なる最適のゲルタイムを組合せても、同一の層において強度がほぼ一定であってはじめて注入目的に適合した均質な改良地盤が可能になる。また異なる土層においてそれぞれ最適のゲルタイムと強度を適用することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特公昭61-017970号公報
【特許文献2】特公昭58-024568号公報
【特許文献3】特公昭60-054996号公報
【特許文献4】特許第4753265号公報
【特許文献5】特許第5017488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
アルカリ領域は水ガラスグラウトのわずかのpHの違いや反応剤の量によってゲル化が不安定であって緩結領域ではゲル化しなかったり、またゲル化剤を少なくしてゲルタイムを長くするとゲル化が不完全で強度が得られなくなる問題があった。
【0028】
そこで本発明は浸透性グラウトとして非アルカリ領域のシリカグラウトを用いた注入工法並びに注入システムに関する発明を行ったものである。
【0029】
非アルカリシリカグラウトは水ガラスグラウトの劣化要因であるアルカリを酸で除去したシリカグラウトや、金属シリカ法や地熱水由来のシリカコロイドを含有するシリカグラウトがある。これらの非アルカリシリカグラウトは瞬結領域から緩結領域まで確実にゲル化する点と、シリカ濃度が濃い領域から薄い領域まで確実に固結することが優れているが、pHが酸性領域ではpHが少しの違いでゲルタイムが大幅に変動するためゲルタイムの調製が不可能で、実際にはゲルタイムが安定しているpHが1~3付近の数十時間の領域か、数秒~十数秒の瞬結領域しか使用できないという問題があった(
図1参照)。
【0030】
本発明は非アルカリシリカグラウトを用いてゲルタイムを連続的に変化させて地盤状況ならびに注入状況に応じて最適のゲルタイムと固結強度が得られる地盤注入工法ならびに注入システムを可能にしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
注入地盤は一般に異なった土層が堆積した軟弱地盤からなるため、土質別、目的別、工法別による注入材の注入率が適用される(
図8参照)。本発明はこのような複雑な粗粒土層および細粒土層をくまなく固結して、全体的に一体化された、均質で、止水の完全な、しかも高強度な固結地盤を形成する軟弱地盤の固結法を提供することにあり、従来用いられてきた上記方法の欠点を解決したものである。
本発明は以下の手法を用いることによって従来の注入工法では得られない効果を上げた。
【0032】
本発明は非アルカリシリカグラウトのゲルタイムはpHによって急激に変動するため、酸性領域でゲルタイムを設定することが不可能に近い。この問題を解決するために、
図3、
図4に示すような注入システムを用いて、pHを連続して変化させることを可能にし、非アルカリシリカグラウトを地盤状況、注入状況に応じて、ゲルタイムを連続的に変化させて管理しながら注入することを可能にし、かつ強度も変動することなく、或いは所定の強度を連続的に変化させることを可能にしたものである。
【0033】
特に軟弱な土層において、土層ごとに最適なゲルタイムと強度を設定できる地盤改良を可能にし、また同一土層においても、あるいは1ステージにおいて瞬結配合を一次注入してのち、ゲルタイムを最適に管理した緩結配合を2次注入することを連続して変化させ、しかも最適の強度を一定に保持し、あるいは最適な強度を連続的に変化させる地盤改良を可能にしたものである。
なお、ここでpHが中性領域とはpHがほぼ10以下をいう(
図1参照)。
【0034】
本発明注入システムの例を以下に示す(
図3、
図4、
図5参照)。材料配合部から注入製造部へ、さらに注入液送液部から圧力計・流量計を通して送液管から注入管部へ注入される。注入液送液部、圧力計・流量計、送液管から注入管理部へリアルタイムでデータが入力され、記録部にて記録され、地盤状況や注入状況に応じて注入製造部で配合などが調整される。
【0035】
次に
図4、
図5の注入システムにおいて、材料配合部には使用する材料を地盤状況や注入状況に応じて調整し、注入配合部でA液とB液に分けられる。材料配合部では反応剤を含む酸性シリカ液からなる主剤配合部のA液とシリカ溶液のB液が配置されている。添加剤はA液、B液のいずれか或いは酸に添加されても良い。
【0036】
注入液送液部では、インバータ、ポンプ、PQ(流量・圧力検出器)をそれぞれに配置し、コントローラにて調整され、注入液注入部にて地上合流または地中合流される。制御部のコントローラは材料配合部、注入送液部、インバータを制御し、記録部にデータを送信する。
【0037】
A液、B液の合流は
図3に示すように注入管の地上部で合流してもよいし、二重管先端部で合流してもよいし、また注入外管内の複数の管路から合流して注入してもよい。単管ロッド注入でも、表11に示すような各種注入方式に適用できる。
【0038】
図5は本発明を実施する注入システムの概略図の例を示すものであって、ダイヤフラム式二連グラウトポンプを用いた注入システムの例を示す(東陽商事株式会社製)。この注入システムを用いることによって、地盤状況や注入状況によって制御部(コントローラ)によって、A液ポンプならびにB液ポンプのそれぞれのインバータを連動して制御して、A液とB液の合流液の吐出量とそれぞれのポンプの流量比率を可変管理することにより、AB合流液の吐出量やA液・B液の吐出量の比率を連続的に変化させることができる。
また、材料配合部のA液、B液のシリカ濃度や反応剤の濃度を調整することができる。
【0039】
すなわち、A液を非アルカリシリカ溶液(水ガラス+酸或いはシリカ溶液+反応剤)、B液をシリカ溶液(水ガラス或いはシリカ溶液)とする。
図4で説明すれば、コントローラから材料配合部に指示してシリカ量を地盤状況に応じて可変とし、A液・B液の吐出量の比率を変えることにより、A・B液合流液のゲルタイムを連続的に変動させることができる。
【0040】
ここで、シリカ溶液とは水ガラス液あるいはコロイド液+水ガラス液またはコロイド液である。例えば、A液、B液の水ガラス濃度を同一にしておき、A液、B液の比率を変えれば、ゲルタイムは変動しながら強度は一定になる。一例として、表1の配合(あるいは表2の配合)を用いてA液、B液の流量比率をA液、B液のそれぞれインバータで制御することによりゲルタイムを連続的に可変することができる(表5参照)。
【0041】
なお、本発明の実施に用いる注入システムは、ダイヤフラムポンプ以外にもプランジャーポンプやピストンポンプも用いて、少なくともA液、B液を送液する多連式注入システムであって、A液、B液の合計流量とA液、B液の送液比率を連続的に可変とする制御システムを有する注入システムを用いることができる。
【0042】
例えば、表1のシリカ濃度7w/v%のA液、B液の配合を用いた場合、表5に示すように、400mlあたりA液が155~200ml/分、B液が245~200ml/分の吐出量の場合はα=A/B=0.6~1.0で瞬結配合になる。αが1よりも大きくなるにつれて、ゲルタイムは6秒~32秒を得てゲルタイムが長くなる。A液が215ml/分でB液が185ml/分の吐出量の場合はα=A/B=1.2であり緩結配合になりαが1.2~1.6になるとゲルタイムが15時間以上になる。また、表2のシリカ濃度8%も同様である。
【0043】
このように、Aポンプ、Bポンプのそれぞれのインバータを制御して、α=A/Bの比率を連続的に可変とすることにより、シリカ濃度を変えることなくゲルタイムを連続的に制御することができる。このようにして、非アルカリシリカグラウトはpHのわずかの違いによりゲルタイムが変動するため、所定のゲルタイムからなる配合液の調製が困難であった問題を現場で容易に解決することができる。
【0044】
このように、本発明はA液、B液の合計量と、A液とB液の比をコントロールして瞬結配合と緩結配合に切り替えることができ、しかも比率をインバータ制御によって連続的に可変とすることができ、緩結配合のゲルタイムを制御することができるため、設定した比率に対応したゲルタイムを設定することができる。
【0045】
現場で表1、表2の配合液を用いてインバータによるA液、B液の比率とゲルタイムをキャリブレーションしておけば、実際の注入にあたって所定のゲルタイムの配合液を注入できる。A液とB液の合計吐出量は常に一定量にすることも、連続的に変化させることもできる。
【0046】
図6は注入地盤のA層を2ステージで、ステージを移行して連続して注入する例を示す。ステージ1でA液、B液の比率を連続して変化させ、緩結注入(L1)して粗い部分を固結して、緩結注入(L2)して細かい部分を注入した後、ステージ2に注入管(或いは注入内管)を移動して同様に繰り返す。
【0047】
この場合、ゲルタイムは瞬結、緩結に可変としても、強度(シリカ濃度)は一定で、A層は均質に固結できる。表1、表3は、A液、B液の合計量は同じであるが、シリカ濃度が異なる濃度の配合液の例を示す。表6は表3の配合液を用いて配合比率を可変とした場合のゲルタイムとシリカ濃度の連続的変化を示す。
【0048】
図6は注入地盤が複数の異なる土層からなる場合、各土層毎に地盤状況に合わせてA・B合流液の毎分吐出量、瞬結・緩結の配合比率、ステージ数、シリカ濃度を連続的に可変として注入する例を示す。
【0049】
実施例58~70は表4の配合を用いてA液、B液の比率を可変とした場合の配合結果を示す。
この場合B液をA液の作液に用いているため、
図3の材料配合部の素材の配合槽が少なくて済む。A液のシリカ濃度がB液のシリカ濃度よりもわずかに少ないが、A・B液合流液のシリカ濃度はほとんど同じとなり、配合装置が少なくて済む。
【0050】
本発明は、A液:酸性シリカ溶液、B液;水ガラス溶液とし、A液、B液のポンプA、ポンプBのインバータを制御して、A液・B液の合計流量とA液、B液の流量の比率を管理することにより以下の特徴を得ることができる。
【0051】
〔特徴〕
(1) A液、B液の比率を連続的に変化させて、ゲルタイムを連続的に瞬結から長結まで可変とすることができる。
(2) A液、B液のシリカ濃度を固定して強度を一定にしたまま、ゲルタイムを瞬結から長結まで可変とすることができる。
(3) 同一土層内で瞬結、緩結の切り替えを、シリカ濃度を一定にして注入できる。
(4) 複数の異なる土層に応じて、最適のシリカ濃度とゲルタイムを連続的に可変とすることができる。
(5) 注入前にインバータ制御により、A液・B液の比率とゲルタイムの関係を把握しておくことにより、実注入において注入比率に対応して瞬結から長結までのゲルタイムを確認しながら注入できる。
(6) 注入対象外への逸脱を容易に防ぐことができる。
(7) 注入地盤のCa分が多い場合、或いはセメント一次注入材を注入している場合、二次注入材のゲル化や浸透が不安定になりやすいが、本発明によれば二次注入材の注入管理が容易である。
【0052】
〔本発明に用いるシリカグラウト〕
本発明に用いられる非アルカリシリカグラウトは、いずれもゲルタイムを数秒から数十時間に設定できるので、大量の注入液を作って置いてもゲル化の心配がないのみならず、大量の注入液を長時間かけて送液でき、かつ地盤中に注入した後、確実にゲル化し、さらに粘性が小さく、浸透性がよい利点がある(
図1参照)。
【0053】
本発明において、酸性溶液に用いる酸としては、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸、スルファミン酸等の無機酸、クエン酸などの有機酸および、これらの混酸やこれらの塩を用いることができ、pHを調整できる酸であれば限定されない。また、酸として作用する塩(例えば塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等)を用いることができる。また、任意の塩やアルカリやpH調整剤を添加剤としてゲルタイムを調整したり、強度を調整することができる。
【0054】
シリカ溶液としては、水ガラスや活性シリカ、コロイダルシリカ、金属シリカ、地熱水由来のシリカやこれらの一種または複数種を用いることが可能である。
本発明において、使用する水ガラスの種類や濃度、モル比も限定されない。
【発明の効果】
【0055】
以上により本発明は以下の効果を得ることが可能になった。
(1) 瞬結・緩結変換がタイムラグなくして連続して行える。
(2) 瞬結1次注入と浸透2次注入が連続して行える。
(3) 浸透2次注入が地上部に逸脱したら、瞬結1次注入により直ちに逸脱を防ぐことができる
(4) シリカA液とシリカB液のシリカ量を同一にすることにより、注入状況によりゲルタイムを変動してもシリカ量が一定なためほぼ同一強度を維持できる。
(5) 注入液のゲルタイムとシリカ濃度を地盤状況、注入状況に応じて連続的に変動させることができる。
(6) 複数の異なる土層からなる地盤への注入において、各土層毎に同一強度の地盤改良が可能となる
(7) 注入ステージ毎に地盤状況に対応したゲルタイムと強度からなる注入液の注入が可能になる。
(8) A液:酸性、B液アルカリ性とすることでA液・B液の混合液を瞬結;中性~アルカリ性、緩結・瞬結の変換がタイムラグなくして連続的に可能となる。
(9) 注入地盤の採取土と注入液を混合した土中ゲルタイムおよび/または土中pHのデ―タに基づき、注入過程の浸透状況から想定する注入範囲までの浸透しうる気中ゲルタイムGT0並びに気中PH0の配合を調整することができる。
(10) A液、B液を地上合流または地中合流することにより、例えば以下の1)~8)の全ての地盤注入工法に適用することができる。
1)ロッド注入工法
2)ダブルパッカ工法
3)点注入工法
4)多点同時注入工法
5)柱状注入工法
6)瞬結・緩結複合注入工法
7)多ステージ同時注入工法
8)多注入孔同時注入工法
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】非アルカリシリカグラウトのpHとゲルタイムとシリカ濃度の関係を示す図である。
【
図2】耐久性シリカグラウトのシリカ溶液のpHとゲルタイムの関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の注入システムの概要を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態における注入システムの詳細を示すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態における注入システムの詳細を概念的に示した図である。
【
図6】本発明における瞬結と緩結の切り替えのイメージを示した図である。
【
図7】連続可変合流比率αに対するpHとGTの関係を示すグラフである。
【
図8】非アルカリ性活性複合シリカグラウトのpHと気中ゲルタイムと土中ゲルタイムの関係を示すグラフである。
【
図9】シリカグラウトの浸透固結法に関する説明図である。
【
図11】シリカ濃度と固結豊浦砂(サンドゲル)の一軸圧縮強度の関係を示すグラフである。
【
図12】流量と注入圧力、土粒子間浸透限界注入速度と限界圧力等の関係を示すグラフである。
【
図13】地盤状況に応じて設定した注入率の例(垂直面)を示す説明図である。
【
図14】従来の瞬結・緩結注入工法の注入システムの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明の地盤注入工法の実施例及び実験例について説明する。
〔実験例〕
1)使用材料
3号水ガラス:比重1.41
75%硫酸:比重1.675
【0058】
2)2つの槽の配合をA液とB液とし、表1と2に示す(シリカ濃度は一例であって0.4~50w/v%まで任意に変えられる)。
【0059】
【0060】
【0061】
表3に、A液とB液のシリカ濃度が異なる場合(A液シリカ濃度6w/v%、B液シリカ濃度8w/v%)を示す。
【0062】
【0063】
表4に、A液のシリカゾルを、B液を用いて作液した場合を示す。
【0064】
【0065】
表5に、表1、表2のA液とB液の配合比率とpHとGT(ゲルタイム)を示す。
【0066】
【0067】
表6に、表3を用いた配合液の比率による配合結果を示す。なお、比率αは小数点以下1桁とし、簡略化した。
【0068】
【0069】
表7に、表4の配合液を用いてA液、B液の比率を変化させた配合結果を示す。
【0070】
【0071】
3)表1、表2の配合で用いた表5の実施例では、アルカリ領域から酸性領域まで配合比率を変動させた。シリカ濃度7%の実施例1~12では中性~アルカリ性を示し、GTは数秒から数十秒であった。
【0072】
実施例13~実施例19までは酸性領域を示し、GTは数時間以上まで連続的に変動する。現場に応じて任意にA液とB液の配合比率を変えることで、適切で最適なゲルタイムの配合を注入することができる。
【0073】
実施例20~38にはシリカ濃度8%の場合を示す。
図7はシリカ濃度7%と8%におけるA液、B液の比率の可変した場合のpHとゲルタイムを連続的に可変とする値を示す。
【0074】
4)表1、表2、表3、表4のA液、B液の配合を用いた配合比率を、表5、表6、表7に示す。現場施工において、
図3、
図4の注入システムを用いて、コントローラでインバータを制御してA液・B液の比率を変化させて、瞬結配合から緩結配合の酸性配合液まで連続的にゲルタイムを可変とすることによって、
図7の関係を確認することができる。
【0075】
この配合比率の関係をあらかじめ制御部のコンピューターにインプットしておけば、地盤状況に応じて最適のシリカ濃度、ゲルタイムの瞬結・緩結の比率を所定通りに注入することができる。
【0076】
図3、
図6は瞬結:中性~アルカリ性配合と緩結:酸性配合の切り替えイメージである。A液の量が少なければ中性~アルカリ性になり瞬結する。逆にA液を多くすれば酸性になり緩結配合となる。
【0077】
図7はA液、B液の比率に対するpHとゲルタイムの関係を示す。表1、表2の配合ではなだらかな曲線を描くが、表3の配合では凸凹な曲線と急激な曲線が合わさっている。
【0078】
5)実施例1~実施例19において、A液とB液のシリカ濃度が同じとなっているため、瞬結グラウトと緩結グラウトの28日強度(豊浦砂Dr60%)は320kN/m2であった。
【0079】
実施例20~27の28日強度(豊浦砂Dr60%)は530kN/m
2であった。なお、表5、表6、表7において酸性のpHの領域においてはゲルタイムが15時間以上でも確実にゲル化し(
図1)、その強度のほとんどシリカ濃度によってきまる(
図11参照)。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
以下に具体的な適用例を示す。非アルカリ性グラウトは液状化対策工等経済性を得るために大きな注入孔間隔(1.0~4.0m)で、数時間~十数時間の連続注入による広範囲浸透固結を行うため、(表9、表10、表11)それが可能な長いゲルタイムで、しかも長期耐久性を保持する溶液型シリカグラウトを用いなくてはならない(
図1、
図2参照)。
【0085】
また、掘削工事においても既存のコンクリート構造物周辺部、直下部の或いは今後コンクリート構造物を構築する予定の地盤の地盤改良において、長いゲル化による浸透性、長期耐久性と水中固結性に優れたシリカグラウトの適用が要求される。永年にわたる研究の結果、脱アルカリした非アルカリシリカ溶液が適合することが実証されている。脱アルカリにはイオン交換法や金属シリカ法などによるにコロイダル法と酸性中和剤で水ガラスのアルカリを中和除去する中和法(シリカゾル法)とがある(
図1、
図2)。
【0086】
非アルカリシリカグラウトは地盤中に注入すると土中pH(PH
s)が中性方向に移行し、土中ゲルタイム(GT
s)が短縮するという特性がある(
図1)。
土中ゲルタイム(GT
S)、土中pH(pH
S)といっても、地盤中における変化は測定しにくいが、注入液を現場土と混合した土中ゲルタイム(GT
S0)や土中pH(pH
S0)は測定できるので、配合液のpH(pH
0)やゲルタイム(GT
0)を基準として考える(
図8(a)(b)、
図9)。
【0087】
本出願人による室内実験並びに種々の注入方式を用いた現場試験による研究により、地盤に注入された非アルカリ性シリカ注入液のゲルタイムとその流動性の挙動は以下のことが判った。
【0088】
酸性シリカ溶液はpHの変化で急激に配合液のゲルタイムが変動する。しかも、地中に入ると、地盤のpHと反応成分と反応して注入中にpHが変動して、地中ゲルタイムが変動する(
図7)。このために酸性シリカ溶液を配合液の気中ゲルタイムで固結範囲を調整することは実質的に不可能であることが判った。
【0089】
まして、1.5~4mといった広範囲な領域を、あらかじめ設定した配合液のpHとゲルタイムで浸透固結させることは、さらに不可能である。このため、本発明者は注入時間(H)、土中ゲルタイム(GT
s0)を基本にして配合液を設定するというコンセプトにより、以下の手法によって注入した注入液が注入量に相当する固結体を形成することを可能にした(表9、10、11、
図8、9、10)。
【0090】
(1)比較的均質な地盤:このような酸性領域のシリカグラウトのゲル化特性の研究の結果、均質な地盤では所定量注入すれば、所定の注入液を注入した時点でゲル化していなくても注入液が地盤中で中性方向に移行し、遅かれ早かれその場所でゲル化する。これは酸性シリカ溶液がそれよりもpHが高い地盤中でゲル化が促進され、かつ酸性シリカ溶液中のシリカ分は、たとえ地下水で希釈されても全量が確実に析出されるという特性を利用したものである。
【0091】
(2)不均質な地盤の場合:地中におけるゲル化を進行させながら、半ゲル状態で乗り越えながら浸透させることによって逸脱を防ぐ。
【0092】
配合組成による逸脱防止を以下に説明する。
耐久性に優れた注入材を所定量地盤中に注入しても、注入液が注入領域外へ脈状に割裂して逸脱したり(
図10(a))、下方に流下してしまっては、耐久性地盤は形成されない(
図10(b))。所定の領域に注入が可能なためには、まず注入地盤が薬液注入の浸透可能な地盤でなくてはならない(
図12)。
【0093】
注入液が粗い土層を通して注入範囲外へ逸脱したり、注入速度が大きくて割裂して注入範囲外へ逸脱し続けた場合、
図10(a)のような現象が起こる。また所定注入量注入後にもゲル化に到っていなくて、かつ透水性の大きい地盤では下方に流下してしまい所定領域に固結していない現象が起こる(
図10(b))。このような場合、以下に本発明者による所定領域への逸脱を低減して浸透固結するための注入液の流動特性と注入方式に対応したゲル化の挙動を示す配合液を注入することが必要である(表9、表10、表11)。
【0094】
以上より酸性シリカ溶液はゲル化を十分長い配合液を用いて、
図8に示すように所定領域を固結する。
図8(a)はシリカ濃度6%の時の薬液pHとゲルタイムの関係を示す。図中●は薬液pHと気中ゲルタイム(GT
0)の関係を示す。それ以外は現場砂の薬液pHと土中ゲルタイム(GT
s)の関係を示す。
【0095】
本発明のA液・B液の比率を連続的に可変とすることにより、●のラインに沿った薬液pHと気中ゲルタイムを確認できる。また、あらかじめ薬液の気中pHと現場土の土中pHと土中ゲルタイムの関係は、
図8(a)のように知ることができる。
【0096】
注入中の流動特性が
図8(a)の範囲内なら、注入液は
図9の浸透メカニズムによって固結範囲を拡大しながら所定注入量に対応した固結体を形成する。したがって、地盤状況に合わせた浸透固結可能な(pH
s)とゲルタイム(GT
s)に対応した気中ゲルタイムを得るA液・B液の比率を現場における試験で、A液、B液のポンプのインバータA、インバータBによる数値を設定しておけば、地盤条件に最も適した所定のゲルタイムの配合液或いは瞬結と緩結の異なるゲルタイムの配合液を同一シリカ濃度(同一強度)で注入することができる(
図6)。
【0097】
あるいは、表3のA液、B液を用いて、表6のようにゲルタイムとシリカ濃度を連続的に可変として、表12に示すように地層のよって最適のゲルタイムとシリカ濃度を設定して注入することができる。
【0098】
【0099】
図10(a)(b)はシリカ濃度に対応した固結砂の一軸強度を示す。また
図10(c)は異なる現場砂における一軸強度を示す。
図10(c)(d)は地盤が逸脱しやすい状況にあるため、一次注入を行って均質化した上で2次注入を行う例を示す。
【0100】
表8は表9に示す注入方式別、注入目的別の土質別の注入材の注入率の例を示す。このように地盤状況、注入目的に応じて懸濁型の一次注入が行われ、溶液型の注入液の注入量も異なる。
【0101】
本発明は
図6の地盤状況において層各に或いはステージ毎に連続的に最も適した注入量、ゲルタイム、強度を可変して地盤改良をすることができる。
【0102】
図13は各層で土質の異なる地盤の地盤改良における各ステージの注入率の違いに対応した本発明の適用例を示したものである。
【0103】
各ステージ内で瞬結・緩結の比率を連続的に可変として最適の瞬結注入をした後、緩結注入をして、しかも同一強度を得ることができる。また、ステージ毎に最適の注入量と最適のゲルタイムと地盤に最適な強度を得ることができる。
図12は地盤状況に応じ、浸透注入可能な注入速度と注入圧力を示したものである。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に注入管を挿入し、非アルカリシリカグラウトを注入する地盤注入工法において、A液とB液を合流して該注入管より地盤に注入する地盤注入工法であって、前記A液は水ガラスと酸性反応剤を含む酸性シリカ溶液であって、前記B液は水ガラスを含むアルカリ性シリカ溶液であって、該A液とB液をそれぞれA液ポンプとB液ポンプで送液する複数の駆動装置とインバータおよび圧力・流量計を備え、かつ当該複数の駆動装置を一括監理する制御装置を備え、該制御装置は流量計・圧力計の情報に基づき、前記インバータを制御し、地盤状況に応じて前記A液と前記B液の合流液の流量と合流比率を連続的に可変制御することによって、前記A液と前記B液のゲルタイムを連続的に変化させて、所定のシリカ濃度とゲルタイムからなる非アルカリシリカ溶液を地盤に注入して地盤を固結させることを特徴とする地盤注入工法。
【請求項2】
請求項1記載の地盤注入工法において、予め前記A液と前記B液の合流液の流量と合流比率の連続的変化に対するゲルタイムの変化の関係を把握しておくことにより、注入時に該注入液のシリカ濃度とpH、並びにゲルタイムが所定の値になるように合流液の流量と合流比率を設定して地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項3】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記A液と前記B液の合流液の流量と合流比率を制御することにより、pHが1~10、ゲルタイムが瞬結~数十時間の間の任意のpH値とゲルタイムを設定して地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項4】
請求項1記載の地盤注入工法において、ゲルタイムとシリカ濃度を連続的に変化させたグラウトを注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項5】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記A液と前記B液の2液の配合液を送液する吐出量の比率を連続的に可変とすることによって、前記A液と前記B液の合流液のゲルタイムを連続的に可変とすることを特徴とする地盤注入工法。
【請求項6】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記A液と前記B液の合流比率を連続的に変化させることにより、注入液のシリカ濃度とゲルタイムを地盤状況、注入状況に応じて適合したシリカ濃度とゲルタイムの注入液を注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項7】
請求項1記載の地盤注入工法において、ゲルタイムの短いグラウトとゲルタイムの長いグラウトを連続して地盤に注入するものとし、前記ゲルタイムの短いグラウトは地盤に粗結注入する一次注入材として注入し、前記ゲルタイムの長いグラウトは2次注入材として浸透注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項8】
請求項7記載の地盤注入工法において、前記ゲルタイムの短いグラウトは前記ゲルタイムの長い注入液が地表面に逸脱することを防ぐために注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項9】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記グラウトを異なる複数の土層からなる地盤に注入するものとし、同一土層毎にほぼ同一シリカ濃度のグラウトを用いることを特徴とする地盤注入工法。
【請求項10】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記グラウトとして、注入ステージごとに地盤状況に対応したゲルタイムとシリカ濃度が得られるグラウトを注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項11】
請求項1記載の地盤注入工法において、前記A液と前記B液の合流液の注入は、中性~アルカリ性のゲルタイムの短いシリカグラウトと、酸性のゲルタイムの長いシリカグラウトが連続的に変化するようにして地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項12】
請求項1記載の地盤注入工法において、以下の1)~8)のいずれかの注入方法により、前記A液、前記B液の合流液を地盤に注入することを特徴とする地盤注入工法。
1)ロッド注入工法
2)ダブルパッカ工法
3)点注入工法
4)多点同時注入工法
5)柱状注入工法
6)瞬結・緩結複合注入工法
7)多ステージ同時注入工法
8)多注入孔同時注入工法
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0088
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0088】
酸性シリカ溶液はpHの変化で急激に配合液のゲルタイムが変動する。しかも、地中に入ると、地盤のpHと反応成分と反応して注入中にpHが変動して、地中ゲルタイムが変動する(
図8)。このために酸性シリカ溶液を配合液の気中ゲルタイムで固結範囲を調整することは実質的に不可能であることが判った。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0099
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0099】
図11(a)(b)はシリカ濃度に対応した固結砂の一軸強度を示す。また
図11(c)は異なる現場砂における一軸強度を示す。
図11(c)(d)は地盤が逸脱しやすい状況にあるため、一次注入を行って均質化した上で2次注入を行う例を示す。