(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050450
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】無線機器およびそれを含む無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H01Q 7/00 20060101AFI20240403BHJP
H01Q 1/24 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01Q7/00
H01Q1/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146619
(22)【出願日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2022156188
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀井 新司
(72)【発明者】
【氏名】野口 健太
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 清一郎
【テーマコード(参考)】
5J047
【Fターム(参考)】
5J047AA04
5J047AB11
5J047FC06
(57)【要約】
【課題】コイル状のアンテナを含む無線機器において、電力ロスを低減し、電力効率が高い無線機器およびそれを含む無線通信システムを提供すること。
【解決手段】基材と、コイル状のアンテナと、回路と、を備える無線機器であって、前記アンテナは、その少なくとも一部が絶縁膜を介して上下で交差する交差部を有し、前記交差部におけるアンテナの線幅が、前記交差部以外の部分におけるアンテナの少なくとも一部の線幅よりも細いことを特徴とする、無線機器。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、コイル状のアンテナと、回路と、を備える無線機器であって、
前記アンテナは、その少なくとも一部が絶縁膜を介して上下で交差する交差部を有し、
前記交差部におけるアンテナの線幅が、前記交差部以外の部分におけるアンテナの少なくとも一部の線幅よりも細いことを特徴とする、無線機器。
【請求項2】
前記絶縁膜の厚みが1μm以下である、請求項1に記載の無線機器。
【請求項3】
前記アンテナの交差していない部分における前記アンテナの線幅が100μmより大きく2000μmより小さい、請求項1に記載の無線機器。
【請求項4】
前記交差部における前記アンテナの線幅が10μmより大きく500μmより小さい、請求項1に記載の無線機器。
【請求項5】
前記回路部の少なくとも一部は、コイル状に形成された前記アンテナ部の内側に配置されてなる、請求項1に記載の無線機器。
【請求項6】
前記交差部における前記アンテナの厚みが上下で異なる、請求項1に記載の無線機器。
【請求項7】
前記交差部における前記アンテナの材料が上下で異なる、請求項1に記載の無線機器。
【請求項8】
前記回路内の素子に含まれる絶縁膜の少なくとも一つは、前記交差部における絶縁膜と共有される、請求項1に記載の無線機器。
【請求項9】
請求項1に記載の無線機器であって、偽造防止用途に使用される無線機器。
【請求項10】
請求項1に記載の無線機器であって、前記回路と接続されるセンシング部をさらに備える、無線機器。
【請求項11】
請求項9に記載の無線機器であって、前記センシング部は、コイル状に形成された前記アンテナ部の外側に配置される、無線機器。
【請求項12】
請求項9~11のいずれかに記載の無線機器と、前記無線機器への電力の供給および前記無線機器との無線通信が可能な無線通信機と、を含む、無線通信システム。
【請求項13】
請求項10または11に記載の無線機器と、前記無線機器への電力の供給および前記無線機器との無線通信が可能な無線通信機と、を含み、前記センシング部は水分を検知する、水分検知システム。
【請求項14】
請求項10または11に記載の無線機器と、前記無線機器への電力の供給および前記無線機器との無線通信が可能な無線通信機と、を含み、前記センシング部は梱包材の開封の有無を検知する、開封検知システム。
【請求項15】
請求項10または11に記載の無線機器と、前記無線機器への電力の供給および前記無線機器との無線通信が可能な無線通信機と、を含み、前記センシング部は温度を検知する、温度検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線機器およびそれを含む無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線を用いて通信や電力供給を行うシステムが知られている。例えば、13.56MHzの無線信号を用いて無線通信を行う非接触ICカード(例えば、特許文献1参照)や、給電用コイルアンテナと受電用コイルアンテナとを磁界結合させることで、ワイヤレス電力供給を可能にしたシステム(例えば、特許文献2参照)などである。
【0003】
また、特許文献3には、ループ導電配線とジャンパ線とを備えるループアンテナにおいて、第1スルーホールと第2スルーホールを有する絶縁層を介してループ導電配線とジャンパ線が、ループ導電配線の屈曲部で交差し、ノイズの影響低減したアンテナが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-220016号公報
【特許文献2】WO2017/126419号
【特許文献3】WO2019/175995号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に示されたアンテナでは、アンテナ形状の対称性が向上するため、ノイズの影響を低減することが可能である。しかしながら、ループ導電配線とジャンパ線の交差部においては、それぞれの交差点において絶縁層を介した容量が形成され、電力ロスの要因となる課題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コイル状のアンテナを含む無線機器において、電力ロスを低減し、電力効率が高い無線機器およびそれを含む無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は以下の構成をとる。
[1]基材と、コイル状のアンテナと、回路と、を備える無線機器であって、前記アンテナは、その少なくとも一部が絶縁膜を介して上下で交差する交差部を有し、前記交差部におけるアンテナの線幅が、前記交差部以外の部分におけるアンテナの少なくとも一部の線幅よりも細いことを特徴とする、無線機器。
[2]前記絶縁膜の厚みが1μm以下である、[1]に記載の無線機器。
[3]前記アンテナの交差していない部分における前記アンテナの線幅が100μmより大きく2000μmより小さい、[1]または[2]に記載の無線機器。
[4]前記交差部における前記アンテナの線幅が10μmより大きく500μmより小さい、[1]~[3]のいずれかに記載の無線機器。
[5]前記回路部の少なくとも一部は、コイル状に形成された前記アンテナ部の内側に配置されてなる、[1]~[4]のいずれかに記載の無線機器。
[6]前記交差部における前記アンテナの厚みが上下で異なる、[1]~[5]のいずれかに記載の無線機器。
[7]前記交差部における前記アンテナの材料が上下で異なる、[1]~[6]のいずれかに記載の無線機器。
[8]前記回路内の素子に含まれる絶縁膜の少なくとも一つは、前記交差部における絶縁膜と共有される、[1]~[7]のいずれかに記載の無線機器。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の無線機器であって、偽造防止用途に使用される無線機器。
[10][1]~[9]のいずれかに記載の無線機器であって、前記回路と接続されるセンシング部をさらに備える、無線機器。
[11][10]に記載の無線機器であって、前記センシング部は、コイル状に形成された前記アンテナ部の外側に配置される、無線機器。
[12][9]~[11]のいずれかに記載の無線機器と、前記無線機器への電力の供給および前記無線機器との無線通信が可能な無線通信機と、を含む、無線通信システム。
[13][10]または[11]に記載の無線機器と、前記無線機器への電力の供給および前記無線機器との無線通信が可能な無線通信機と、を含み、前記センシング部は水分を検知する、水分検知システム。
[14][10]または[11]に記載の無線機器と、前記無線機器への電力の供給および前記無線機器との無線通信が可能な無線通信機と、を含み、前記センシング部は梱包材の開封の有無を検知する、開封検知システム。
[15][10]または[11]に記載の無線機器と、前記無線機器への電力の供給および前記無線機器との無線通信が可能な無線通信機と、を含み、前記センシング部は温度を検知する、温度検知システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コイル状のアンテナを含む無線機器において、電力ロスを低減し、電力効率が高い無線機器及びそれを含む無線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る無線機器を示す概略平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態1に係る無線機器を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態1における回路を示す概略ブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態2に係る無線機器を示す概略平面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態2に係る無線機器を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態2における回路の一部を示す概略断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態3に係る無線機器を示す概略平面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態3における回路を示す概略ブロック図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態4に係る無線通信システムを示す模式図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施の形態5に係る水分検知システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。ただし、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。また、各実施の形態において説明される各要素は、本発明の効果を損なわない範囲で他の任意の実施の形態においても適用しうる。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る無線機器の構成を示す概略平面図であり、
図2は
図1のX-X’面での概略断面図である。
図1および
図2に示す無線機器100は、基材10と、コイル状のアンテナ20と、回路30と、を備える。
【0012】
基材10は、電気的な絶縁性を有し、アンテナ20と回路30とが形成可能な構成であれば、その材料組成や製造方法などは特に限定しない。基材10の材質は、例えば、ガラスや樹脂が好ましく、基材10の形状は、板状、フィルム状などが好ましい。様々な用途への適用という観点からは、基材10はフレシキブル性を備えるフィルムが好ましく、その具体例としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PP(ポリプロピレン)フィルム、PVC(ポリ塩化ビニル)フィルムや、それらの積層体などが挙げられる。また、フレキシブル性の観点から、基材10は極力薄い方が好ましく、例えば厚さが10μm~1mmであることが好ましい。
【0013】
アンテナ20は、少なくとも1回以上の渦巻き(以下「ループ」という)形状を有し、同一平面上に形成された導電体からなるループ部201と、ループ部201が存在する面とは異なる平面上に形成された導電体からなるジャンパー部202とを有する。以下の説明では、ループ部201におけるアンテナをループ線、ジャンパー部202におけるアンテナをジャンパー線と呼ぶ。ループ部201とジャンパー部202は、電気的な絶縁性を有する絶縁膜250を介して配置される。すなわち、アンテナ20はループ線とジャンパー線とが絶縁膜250を介して上下で交差する交差部(以下、単に「交差部」という)204Aおよび204Bを有する。そして、ループ部201とジャンパー部202を接続するコンタクト203Aおよび203Bで電気的に接続される。
【0014】
図1には、ループ部の巻数が3巻である例を示したが、少なくとも1巻以上で、所望の特性を得られる限りにおいては、その巻数は限定しないものの、コイルアンテナとして利用する観点から、巻数は多い方が好ましく、3巻以上であることが好ましい。一方、巻数が多すぎるとループ部の面積が増大し、コストが増加するとの観点から、7巻以下となることが好ましい。
【0015】
ループ線、ジャンパー線およびコンタクト203A、203Bを構成する材料は、導電体であれば制限はないが、コイルアンテナとして利用する観点から導電性が高い材料が好ましい。このような材料としては、金、銅、銀、ニッケル、錫、ビスマス、鉛、亜鉛、パラジウム、白金、アルミニウム、タングステン、モリブデン等の金属、これらの金属および炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む無機物、上記無機物と有機物との混合物、導電性を有する有機物等が挙げられる。これらは単独で、または二種類以上の材料を組み合わせて用いられる。ループ線、ジャンパー線およびコンタクト203A、203Bを構成する材料は、互いに同じでも異なっていてもよい。
【0016】
ループ線、ジャンパー線およびコンタクト203A、203Bは、それぞれ、上記の材料からなる単一層であってもよいし、上記の材料からなる層が複数積層された積層体や、上記の材料からなる層とその他の材料からなる層とが各1層以上積層された積層体であってもよい。
【0017】
なお、ループ線、ジャンパー線それぞれに用いる材料は、それぞれの電気的な要求特性や形成に適した材料を選定することが好ましい。例えば、ループ線はアンテナとしての長さが比較的長くなることから、電気的な特性を向上させる観点から、導電率が高い材料を用いることが好ましい。また、平坦な基材10上に直接形成することが可能なことから、加工性が多少低くとも問題ない。一方、ジャンパー線は比較的短いものの、既にループ部や絶縁膜250を形成した後に形成することから、凹凸を有する材料の上に形成することになる。そのため、ジャンパー線には加工性に優れた材料を用いることが好ましい。このように、求められる特性に応じて、交差部におけるアンテナの材料がループ線とジャンパー線とで異なることが好ましい。
【0018】
回路30は、コイル状のアンテナ20と電気的に接続され、所望の特性を得られる限りにおいては、特にその機能や材料、組成、形成方法などは問わない。回路30は、アンテナ20が外部からの磁界や電磁界により生成する交流電力を、回路30内の各機能素子や各機能回路に伝送するための電力回路を含むことが好ましい。
【0019】
回路30とアンテナ20とは、本実施の形態1に示すように2箇所で接続されてもよいし、3箇所以上で接続されてもよい。また、本実施の形態1ではジャンパー線がコンタクト部203Bを介して一度ループ線を経由してから回路に接続しているが、ジャンパー線が直接回路30と接続する構成であってもよい。
【0020】
図3は、
図1に示す無線機器100における、アンテナ20と接続する回路30付近を模式的に示したブロック図である。アンテナ20と電力回路が接続され、電力回路はアンテナ20で生成された交流電力を機能回路に適した直流電力に変換し、機能回路は所望の機能を実現する。なお、
図3では、機能回路が1つの場合のみを示したが、所望の機能や特性を得るために、機能回路としては複数の回路や様々な素子の組み合わせを用いることができる。また、電力回路と機能回路の間は、2本の線で接続されているが、本接続は電源と基準電位(グラウンド電位)を模式的に示したものであり、その本数や各役割を特に限定するものではない。例えば、電力回路は複数の電源電圧を出力してもよく、アンテナ20で生成された交流電力を直流電力に変換する限りにおいては、その構成や機能は特に限定されない。
【0021】
回路30は、面積効率やアンテナとの接続容易性の観点から、コイル状に形成されたアンテナ20の内側に配置されることが好ましい。
【0022】
絶縁膜250は、電気的な絶縁性が得られる限りにおいてはその材料、組成、膜構成などに特に限定はない。ループ部とジャンパー部の電気的な絶縁性を確保する観点から、絶縁膜250の体積抵抗率は高い方が好ましく、例えば、1×105Ω・m以上が好ましく、より好ましくは1×107Ω・m以上である。また、信頼性の観点からは、絶縁破壊に至るまでの時間が長い方が好ましい。また、無線機器100全体を極力薄くし、またフレキシブル性を備えるためには、絶縁膜250は薄い方が好ましく、基材10よりも薄いことが好ましい。絶縁膜250の厚さは、好ましくは10μm以下であり、更に好ましくは1μm以下である。
【0023】
本実施の形態1において、交差部204Aおよび204Bにおけるループ線およびジャンパー線の線幅は、それらが交差していない部分における各線の線幅に比べて、ともに細い。このような構成にすることにより、ループ部201とジャンパー部202の交差部において、絶縁膜250を介して重なり合うループ線とジャンパー線との重なり面積が小さくなるため、交差部で形成される電気的な容量が小さくなり、電力のロスが低減する。
【0024】
なお、本実施の形態1では、交差部204Aおよび204Bにおいてループ線とジャンパー線の線幅がともに細い例を示したが、所望の特性が得られる限りにおいては、ループ線とジャンパー線のうち一方だけの線幅が細くなる構成でもよい。
【0025】
また、本実施の形態1では、ループ線とジャンパー線の線幅が細くなっている領域(以下「細幅領域」という)は、交差部の直上だけでなくその前後も含めた、交差部より少し拡張した領域である。これは、製造のばらつきを考慮したものであり、その拡張量などは適宜製造者が自由に設定して問題ない。もちろん、細幅領域は交差部の直上だけであってもよい。なお、アンテナの抵抗成分を小さくするとの観点からは、細幅領域は拡張させすぎない方が好ましい。
【0026】
また、本実施の形態1では、交差部におけるループ線およびジャンパー線の線幅は、それらが交差していない部分の全てにおける各線の線幅に比べてともに細い例であるが、交差部以外の部分の一部に、交差部よりも線幅が細い箇所があっても、本発明の目的が達せられるならば特に問題ない。
【0027】
なお、交差部におけるループ線およびジャンパー線の線幅は、交差部で形成される電気的な容量と、その部分を流れる電流による抵抗やエレクトロマイグレーションの耐用期間、コイルアンテナとしてのQ値(Quality Factor、品質係数)などにより適宜所望な値にされる。交差部におけるループ線およびジャンパー線の線幅は、具体的には10μmより大きく500μmより小さいことが好ましく、30μmより大きく100μmより小さいことがより好ましい。また、交差部で形成される電気的な容量が、交差部1つあたり10ピコファラッド(pF)以下であることことが好ましく、2pF以下であることがより好ましい。
【0028】
交差部以外におけるループ線およびジャンパー線の線幅は、太い方が電気的抵抗を低減できることから好ましい。一方、線幅があまりに太い場合には、アンテナとしての面積が大きくなりコストの増加に繋がる。これらのことから、交差部以外におけるループ線およびジャンパー線の線幅は、100μmより大きく2000μmより小さいことが好ましく、300μmより大きく700μmより小さいことがより好ましい。
【0029】
ループ線とジャンパー線の線幅の関係については、
図1にてジャンパー線の方がループ線に比べて線幅が太い例を示したが、特にその関係性に限定されるものではない。すなわち、ループ線の方がジャンパー線の方が太くとも構わないし、同一の線幅であっても構わない。
【0030】
ループ線の厚みは、ジャンパー線の厚みより薄い方が、無線機器のフレキシブル性を向上させるとの観点から、好ましい。無線機器100を例えばウエアラブル用途などに用いる場合、そのフレシキブル性を向上させることが重要である。無線機器100内の占有面積が大きいループ部201においてループ配線の厚みを薄くすることで、フレシキブル性が向上する。一方、ジャンパー部202は、無線機器100内の占有面積が小さく無線機器100のフレシキブル性への寄与は小さいため、むしろある程度の厚みを保つことで、電気的特性への悪影響が抑制できる。つまり、ジャンパー線とループ線で形成される交差部におけるアンテナ厚みは、ループ線とジャンパー線とで異なることが好ましく、特にループ線の厚みがジャンパー線の厚みより薄いことが好ましい。
【0031】
なお、無線機器100をフレキシブル性を考慮しない用途に適用する場合、ループ部201やジャンパー部202は、電気的特性の観点から導電性が高い方が好ましく、そのためにはループ線やジャンパー線の厚みが厚い方が好ましい。
【0032】
以上説明した本実施の形態1に係る無線機器は、アンテナの一部であるループ線とジャンパー線とが絶縁膜を介して上下で交差する交差部を有し、当該交差部におけるループ線とジャンパー線との線幅が交差部以外の部分におけるそれらの線幅よりも細いことにより、電力ロスを低減し、電力効率が高いという特性を有する。
【0033】
なお、本実施の形態1では、回路30とアンテナ20のみで形成される無線機器を示したが、アンテナ20とLC共振回路を形成するための容量Cが追加されてもよく、また、コイル状のアンテナが複数配置されていてもよい。
【0034】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係る無線機器の構成を示す概略平面図であり、
図5は
図4のY-Y’面での概略断面図である。
図4および
図5に示す無線機器101は、基材11と、コイル状のアンテナ21と、回路31と、を備える。
【0035】
本実施の形態2に係る無線機器101の構成は、絶縁膜251が基材11上の略全面にわたって形成されている以外は、実施の形態1に係る無線機器100の構成と同様である。この構成では、回路31内の素子に含まれる絶縁膜の少なくとも一つは、絶縁膜251である。すなわち、回路内の素子に含まれる絶縁膜の少なくとも一つは、交差部における絶縁膜と共有される。
【0036】
図6は、回路31を構成する機能素子の少なくとも1つが薄膜トランジスタからなる場合の概略断面図である。なお、
図6には、回路31を構成する機能素子を一つしか示さないが、回路31は複数の機能素子の集合体により、電気的な機能を実現するものであり、複数の薄膜トランジスタや、薄膜トランジスタ以外の機能素子を含んでもよい。
【0037】
図6に示した薄膜トランジスタ220は、無線機器101と共通の基材11上に、ゲート電極221と、絶縁膜251からなるゲート絶縁層と、ジャンパー線と同じ材料からなるソースおよびドレイン電極222と、半導体層300とからなる。
【0038】
ループ線とゲート電極221とを構成する材料は同じでも異なっていてもよいし、ジャンパー線とソースおよびドレイン電極222とを構成する材料も同じでも異なっていてもよい。
【0039】
この薄膜トランジスタ220は、半導体300がソース電極とドレイン電極の間の絶縁膜251上に存在する例であるが、薄膜トランジスタとして所望の特性が得られる限りにおいては、その構成は特に限定されない。薄膜トランジスタの他の構成としては、例えば、半導体300がソースおよびドレイン電極222の下部にまで拡がった、いわゆるトップコンタクト型の薄膜トランジスタ構造や、半導体300がソースおよびドレイン電極222の上部に拡がった、いわゆるボトムコンタクト型の薄膜トランジスタ構造が挙げられる。
【0040】
半導体層300の材料は、特に制限はないが、有機半導体やカーボンナノチューブ、グラフェンなどを単独、もしくは複合体として含むことが好ましい。特に、電気的な特性の観点から、半導体型のカーボンナノチューブを含むことが好ましく、特に金属型のカーボンナノチューブに対して、半導体型のカーボンナノチューブの比率が高い方が好ましい。具体的には、カーボンナノチューブの80%以上が半導体型であることが好ましく、90%以上が半導体型であることがより好ましい。また、半導体層300は、表面の少なくとも一部に共役系重合体が付着したカーボンナノチューブ複合体を含むことがいっそう好ましい。このようなカーボンナノチューブ複合体としては、例えば国際公開第2009/139339号に開示されているものが挙げられる。
【0041】
以上説明した本実施の形態2に係る無線機器は、回路31とアンテナ21とに用いられる絶縁膜が共通化されていることにより、製造コストに優れる。
【0042】
特に、ループ線とゲート電極221とを構成する材料、ならびにジャンパー線とソースおよびドレイン電極222とを構成する材料についても共通化されている場合には、その効果がより大きくなる。また、それに加えて、このような無線機器を製造する際には、回路31とアンテナ21を一括で製造することができるので、例えばシリコン半導体に代表されるIC(集積回路)をアンテナ基板に貼り合わせる必要がない。それゆえに、薄く、かつフレキシブル性に優れ、ICの剥がれなどがなく信頼性が高い無線機器を提供することが可能となる。
【0043】
なお、ループ線の材料とジャンパー線の材料については、それぞれ回路31を形成する薄膜トランジスタのゲート電極221とソースおよびドレイン電極222と同一とする場合、薄膜トランジスタの電気的特性や製造容易性の観点から、薄膜トランジスタに求められる材料や構成より決定されることが好ましい。例えば、ループ線の材料は、薄膜トランジスタのゲート電極221と半導体層300とから決まるフラットバンド特性において、所望のフラットバンド電圧を実現するための材料が選定されることが好ましい。また、ジャンパー線の材料は、薄膜トランジスタのソースおよびドレイン電極222と半導体300とのショットキー接合において、所望のショットキー障壁を実現するための材料が選定されることが好ましい。これらの観点から、ループ線の材料とジャンパー線の材料は互いに異なることが好ましい。
【0044】
(実施の形態3)
図7は、本発明の実施の形態3に係る無線機器の構成を示す概略平面図である。ここで、この無線機器102は、実施の形態1に係る無線機器の構成に加えて、さらに回路32と2本の配線400を介して接続されるセンシング部40を有する構成である。
【0045】
センシング部40としては、例えば、水分の有無を検知する水分検知センサ、湿度を検出する湿度センサ、温度を検出する温度センサなどが挙げられる。
【0046】
配線400の数は2本に限定されず、1本や3本以上などでも良く、所望のセンシングが可能な限りにおいては特に限定されない。配線400は、ループ線の上を、図示しない絶縁膜を介して横切っている。この図示しない絶縁層は、ループ線とジャンパー線との交差部に存在する絶縁膜250と共通していることが好ましい。
【0047】
なお、
図7の例においては、配線400の線幅は一定として示しているが、ループ線がループ線と配線400の交差による電気的な容量の影響を受け、無線通信特性が低下する可能性があることから、ループ線と配線400が交差する部分における配線400の線幅は、太くない方が良く、その交差する部分以外の部分における配線400の線幅と比べて細くすることが好ましい。また、配線400と交差する部分におけるループ線の線幅についても、他の部分に比べて細くすることで、配線400とループ線の交差部の電気的な容量の低減を図ってもよい。ここで、配線400の線幅が細くなっている領域は、上記交差部の直上だけでなくその前後も含めた、交差部より少し拡張した領域であってもよい。これは、製造のばらつきを考慮したものであり、その拡張量などは適宜製造者が自由に設定して問題ない。もちろん、配線400の線幅が細くなっている領域は交差部の直上だけであってもよい。
【0048】
配線400の材料としては、アンテナ20の材料と同様のものが挙げられる。製造コストの観点から、配線400は、ジャンパー線と同一の材料で、ジャンパー線の形成と同時形成されることが好ましい。
【0049】
配線400は、センシング部40にてセンシングされた情報がデジタル処理されたデジタル信号を伝達するものであってもよいし、センシング部40にてセンシングされたアナログ情報をそのまま伝達するものであってもよい。
【0050】
回路32は、センシング部40の仕様や特性に応じて、センシング部40でのセンシング結果を処理するセンシング処理部と、アンテナ20を通じて無線機器102の外部へセンシング結果を送信する無線送信部と、を備える。
【0051】
図8は、
図7に示す無線機器102における、アンテナ20と接続する回路32付近を模式的に示したブロック図である。センシング部40と接続されるセンシング処理部は、センシング部40で生成された信号を処理し、機能回路にセンシング結果をデジタル信号にて伝達する。機能回路は、センシング結果に応じた出力信号を生成し、無線送信部にその結果を伝達し、無線送信部はアンテナに接続された電力回路にその結果を伝達することで、電力回路からアンテナのインピーダンスを変化させ、外部へセンシング結果を通信する。
【0052】
なお、本実施の形態3では、無線送信部は電力回路に接続される例を示したが、無線送信部はアンテナに直接接続されていても良く、センシング部40でセンシングした結果を外部へ通信する限り、特にその構成や制御方法、接続は限定しない。また、外部にセンシング結果を通信する方式について、センシング結果が外部に無線で通信できる限りにおいては、そのプロトコルや周波数、通信方式、変調方式などは特に限定しない。さらに、
図8には、電力回路、機能回路、センシング処理部、無線送信部からなる回路32を示したが、それら以外の機能を有する回路や素子が含まれてもよく、所望の特性が得られる限りにおいて、その構成は特に限定されない。
【0053】
センシング部40は、コイル状のアンテナ20の外側に配置されることが好ましい。アンテナ20で決定される無線機器の特性に影響せず、機器にセンシング機能を付与できるからである。
【0054】
以上説明した本実施の形態3に係る無線機器は、低コストで、フレキシブル性に優れ、電源や電池不要になることにより携帯性が向上したセンシング機能を備える無線機器の実現が可能となる。
【0055】
(実施の形態4)
図9は、本発明の実施の形態4に係る無線通信システムを模式的に示す図である。
図9に示す無線通信システム500は、上述した実施の形態1に係る無線機器100と、無線機器100と無線通信可能な無線送受信機50およびアンテナ51と、を備える。
【0056】
ここで、無線機器100については、実施の形態1で示した無線機器のみでも構わないし、例えば、実施の形態1で示した無線機器に、非接触で電気的接続が可能なアンテナを貼り合わせて、無線通信を可能にした無線機器でも構わない。
【0057】
無線送受信機50は、無線機器100への電力の供給と無線通信が可能である。無線送受信機50の構成や構造は特に限定されないが、特定の周波数の無線を送信し、さらに、無線機器100からのバックスキャッタ通信による信号を受信できる機能を有することが好ましい。
【0058】
アンテナ51としては、電磁波を用いる通信用のアンテナまたは磁界を用いる通信用のコイルアンテナ等が例として挙げられるが、所望の通信を可能とする限りにおいては、アンテナの種類や大きさなどは特に限定しない。なお、
図9では、省略しているが、無線送受信機50は、装置の外部とネットワーク回線に接続されており、必要に応じて無線機器100との通信結果を外部に通信することができる。
【0059】
以上説明した実施の形態4によれば、無線機器と無線送受信機とで通信を行い、無線機器に関する情報を外部に通信することが可能となる。
【0060】
また、本実施の形態4に係る無線機器は、製品に貼付け、その製品の偽造防止用途として使用できる。具体的には、無線機器100と無線送受信機50との無線通信により、製品が正規品か偽造品かを判定する。ここで、無線通信の方法は、偽造防止の機能を実現できる限りにおいては、特に限定しない。また、製品は特に限定しないが、例えば、比較的高価なブランド品や化粧品、薬など偽造防止効果が比較的高いと想定される製品への適用が好ましい。また、本無線機器は、製品そのものに貼付けてもよいし、その梱包材に貼付けてもよく、貼付け場所や貼付け方法も偽造防止の機能を実現できる限りにおいては、特に限定しない。
【0061】
(実施の形態5)
図10は、本発明の実施の形態5に係る無線通信システムである水分検知システムを模式的に示す図である。
図10に示す水分検知システム501は、上述した実施の形態3に係る無線機器102と、無線機器102と無線通信可能な無線送受信機60およびアンテナ61と、を備える。
【0062】
無線機器102については、実施の形態3で示した無線機器のみでも構わないし、例えば、実施の形態3で示した無線機器に、非接触で電気的接続が可能なアンテナを貼り合わせて、無線通信を可能にした無線機器でも構わない。
【0063】
ここで、無線機器102のセンシング部は、水分の検知を行う。例えば、センシング部に水分が付着することで電気的な特性、具体的には導電率や静電容量、インピーダンスなどが変化することを検知し、その結果を回路に伝達することで、水分の検知が可能になる。なお、水分の検知においては、水分のあり、なしの2段階を検出しても良いし、水分の量に応じた複数の状態を検出してもよい。
【0064】
以上説明した実施の形態5によれば、無線機器と無線送受信機とで通信を行い、無線機器が水分を検知したという結果を外部に通信することが可能な水分検知システムを提供できる。
【0065】
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6に係る無線通信システムは、実施の形態5に示した無線機器102のセンシング部が梱包材等の開封の有無を検知するものである以外は実施の形態5と同一の構成をとる、開封検知システムである。
【0066】
無線機器102のセンシング部は、梱包材等の開封により電気的な状態が変化する限りにおいてはその構成や材料などは特に限定しないが、例えば、梱包材等の開封により電気的に導通した状態から非道通の状態へ変化する構成をとることにより、実現できる。より具体的には、例えば、無線機器102中のセンシング部40が梱包材等の開封部をまたぐように配置され、開封時にセンシング部40内の配線が断線し、開封を検知できる。
【0067】
以上説明した実施の形態6によれば、無線機器と無線送受信機とで通信を行い、無線機器が開封を検知したという結果を外部に通信することが可能な開封検知システムを提供できる。
【0068】
(実施の形態7)
本発明の実施の形態7に係る無線通信システムは、実施の形態5に示した無線機器102のセンシング部が温度を検知するものである以外は実施の形態5と同一構成をとる、温度検知システムである。
【0069】
無線機器102のセンシング部は、温度の変化により電気的な状態が変化する限りにおいてはその構成や材料などは特に限定しないが、例えば、温度がかわると電気的な導電率が変化する構成および/または材料であることが好ましい。なお、ここで温度のセンシングは、温度そのものを検出してもよいし、一定の温度以上、もしくは一定の温度以下となった場合のみセンシング結果が変化する方式でもよい。
【0070】
以上説明した実施の形態7によれば、無線機器と無線送受信機とで通信を行い、無線機器が検知した温度に関する情報を外部に通信することが可能な温度検知システムを提供できる。
【符号の説明】
【0071】
10、11 基材
20、21 アンテナ
30~32 回路
40 センシング部
50、60 無線送受信機
51、61 アンテナ
100~102 無線機器
201、211 渦巻き(ループ)部
202、212 ジャンパー部
203A、203B、213A、213B コンタクト
204A、204B、214A、214B 交差部
220 薄膜トランジスタ
221 ゲート電極
222 ソースおよびドレイン電極
250、251 絶縁膜
300 半導体層
400 配線
500 無線通信装置
501 水分検知システム