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特開2024-50461ベルト及びベルトの状態情報取得システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050461
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ベルト及びベルトの状態情報取得システム
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/00 20060101AFI20240403BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20240403BHJP
   F16G 5/00 20060101ALI20240403BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20240403BHJP
   G06K 19/077 20060101ALI20240403BHJP
   G06K 19/07 20060101ALI20240403BHJP
   H01Q 1/24 20060101ALI20240403BHJP
   H01Q 9/26 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
F16G1/00 C
F16G5/06 A
F16G5/00 C
F16G5/20 B
G06K19/077 220
G06K19/077 280
G06K19/077 296
G06K19/07 160
G06K19/077 156
H01Q1/24 Z
H01Q9/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151650
(22)【出願日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2022156071
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】岸本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】平井 尚信
(72)【発明者】
【氏名】林 茂彦
【テーマコード(参考)】
5J047
【Fターム(参考)】
5J047AA06
5J047AB07
5J047AB11
5J047FC03
(57)【要約】
【課題】ベルトに備わるRFIDの耐久性を向上させて、ベルト走行時のセンシング機能の耐久性を向上させたベルトを提供する。
【解決手段】圧縮層11と、螺旋状に埋設された心線121を含む心線層12と、伸張層13と、上帆布14とが積層されたローエッジコグドVベルト1であって、上帆布14に設けられ、ローエッジコグドVベルト1の内部温度を測定する温度センサ151Aと、測定した温度データを記憶可能なメモリ151Cとを備えたICチップ151、及びアンテナ153を有するパッシブ型RFIDタグ15を備え、ICチップ151は共振アンテナ152と接続され、アンテナ153は、温度データをRFIDリーダライタ4に対して送受信可能なブースターアンテナ153Aと、共振アンテナ152に対して、電磁結合により無線接続可能なループアンテナ153Bとを有し、ICチップ151は、共振アンテナ152と共に保護層154で被覆されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面側に配置される背面層と、芯体を有する芯体層と、を含む積層体を備えたベルトであって、
前記積層体に設けられ、当該ベルトの状態を検知するセンサと、
前記積層体に設けられ、前記センサにより検知した、前記ベルトの状態に関する情報を記憶可能なICチップ、及び、アンテナを有するRFIDと、を備え、
前記ICチップは、
共振アンテナを有し、
前記アンテナは、
前記ベルトの状態に関する情報を外部に対して送受信可能なブースターアンテナと、
前記共振アンテナに対して、電磁結合により無線接続可能なループアンテナと、を有し、
前記ICチップは、前記共振アンテナと共に、弾性材料を使用した保護材で被覆されている、ベルト。
【請求項2】
前記アンテナは、導電線単体で形成されている、請求項1に記載のベルト。
【請求項3】
前記保護材は、前記ICチップ及び前記共振アンテナのみを被覆する、請求項1に記載のベルト。
【請求項4】
前記保護材は、前記ICチップ、前記共振アンテナ、及び、前記ループアンテナを被覆する、請求項1に記載のベルト。
【請求項5】
前記アンテナ及び前記ICチップは、前記背面層に設けられ、
前記アンテナは、前記ICチップよりも前記背面側に配置され、
前記ICチップは、前記アンテナと前記芯体との間に配置される、請求項1に記載のベルト。
【請求項6】
前記ループアンテナと前記共振アンテナとは、ベルト厚み方向において重ならない位置関係である、請求項1に記載のベルト。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載のベルトと、
前記ベルトの状態に関する情報を、前記RFIDの前記ブースターアンテナとの間で送受信するリーダと、を有する、ベルトの状態情報取得システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの状態を検知する機能を備えたベルト、及び、ベルトの状態情報を取得するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、伝動ベルトは外観性に優れ、摩耗屑を生じにくい等の理由により、一般産業用、精密機器用等の動力伝達用ベルトとして、幅広く使用されている。このような伝動ベルトは、プーリ間に張力をかけて巻き掛けられ、プーリの回転駆動により伝動ベルトがプーリ間を走行することによりプーリ間で動力を伝達させている。
【0003】
上記のように伝動ベルトがプーリ間を走行するに際して、伝動ベルトは、伝動ベルト自体にかけられた張力や、プーリの回転駆動により受ける推進力や、伝動ベルトがプーリの外周を走行するときに湾曲状に変形する力など、様々な外圧・内圧(外力・内力)を受け続ける。このような外圧・内圧の下で伝動ベルトを使用し続ければ、伝動ベルトにかかる圧力や、圧力に伴う内部温度の上昇や、更には摩擦熱等の影響により劣化することから伝動ベルトの交換が必要になる。
【0004】
この点、伝動ベルトが受ける外圧・内圧は、伝動ベルトの使用に伴う経年劣化や損傷があると変化する。例えば、伝動ベルトの劣化・損傷により、伝動ベルト自体にかけられた張力が弱まったり、プーリの回転駆動により受ける推進力が弱まったり、伝動ベルトがプーリの外周を走行するときにかかる力が変化したりする。また、伝動ベルトが受ける外圧・内圧が変化すると伝動ベルトの内部温度も変化する。
【0005】
そこで、伝動ベルトや搬送ベルトなどのベルトにかかる圧力や温度などのベルトの状態を、検知・観測することにより、ベルトの状態を把握して交換時期を決める仕組みを取り入れることが考えられる。
【0006】
例えば、特許文献2では、ベルトの状態を検出するセンサとその検出結果を外部に送信するRFIDを装備したベルトにおいて、ベルトの状態を検知するセンサと、ICチップ及びアンテナを有し、センサが検知したベルトの状態情報を外部に送信するパッシブ型のRFIDタグを備えたベルトを開示している。
【0007】
上記RFIDタグには種々の構造が可能であるが、実用的な具体例として、図8に示すRFIDタグが用いられている。具体的には、アンテナを1本の銅撚線で形成し、ICチップを実装する部分にはアルミニウム薄膜(アルミ電極)を用い、この銅撚線と、ICチップを実装したアルミニウム薄膜を、接続導電線(銅単線)を介して接続したアンテナ構造となっている。このアンテナ構造では、接続導電線の各接続部(図8の赤丸)は、はんだで接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-109443号公報
【特許文献2】特開2020-118297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
伝動ベルトはプーリに巻き掛かって走行する際に、プーリへの巻き掛かり前後におけるベルトの屈曲変形と解放の一連の動作が連続的に繰り返される。詳しくは、プーリに巻き掛かって屈曲(湾曲)した状態のベルトには、屈曲変形に伴う屈曲応力が生じる。
この際、心線を中心に屈曲するので、屈曲応力として、心線より外周側では伸張変形に伴う伸張応力が生じ、心線より内周側では圧縮変形に伴う圧縮応力が生じた状態で歪む。そして、走行に伴ってプーリから離れるにつれて、歪みが解放される。
即ち、ベルト走行中において、この歪んだ状態(湾曲形状)と解放された状態(平面形状)とが繰り返されることになる。
【0010】
この一連の動作(屈曲変形と解放)による変形応力は、ベルトに埋設したRFIDタグにも伝わるため、繰り返しの変形応力によるストレスや疲労(以下、屈曲疲労)で、RFIDタグの脆弱な部分が破損し易くなる。
上記のRFIDタグの構造において、特にはんだでの接合部やICチップの実装部が、屈曲疲労に対し比較的脆弱であるため、この部位が屈曲疲労を受けて早期に破損して断線するため、ベルト走行時のセンシング機能の耐久性が十分でない場合があった。
【0011】
そこで、本発明は、ベルトに備わるRFIDの耐久性を向上させて、ベルト走行時のセンシング機能の耐久性を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、背面側に配置される背面層と、芯体を有する芯体層と、を含む積層体を備えたベルトであって、
前記積層体に設けられ、当該ベルトの状態を検知するセンサと、
前記積層体に設けられ、前記センサにより検知した、前記ベルトの状態に関する情報を記憶可能なICチップ、及び、アンテナを有するRFIDと、を備え、
前記ICチップは、
共振アンテナを有し、
前記アンテナは、
前記ベルトの状態に関する情報を外部に対して送受信可能なブースターアンテナと、
前記共振アンテナに対して、電磁結合により無線接続可能なループアンテナと、を有し、
前記ICチップは、前記共振アンテナと共に、弾性材料を使用した保護材で被覆されていることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、アンテナのブースターアンテナとICチップが有する共振アンテナとは、電磁結合により無線接続されることから、アンテナとICチップとを物理的に接続しない構成にすることができる(接続導電線(銅単線)を介しての接続不要)。
これにより、屈曲疲労に脆弱な、アンテナとICチップとの物理的な接続部分(はんだ接合部)を省くことができ、ベルトに備わるRFIDの耐久性を向上させることができる。
また、アンテナとICチップとを物理的に接続不要にすることにより、アンテナとICチップとを、独立して分離配置することができる。
これにより、アンテナ及びICチップの配置を、使用環境に応じて適宜選択することができる。
また、ICチップ及び共振アンテナは、弾性材料を使用した保護材で被覆されていることから、ベルトの屈曲変形に対して保護材が追随変形することにより、ICチップ及び共振アンテナを保護することができる。
【0014】
また、本発明は、上記ベルトにおいて、前記アンテナが、導電線単体で形成されていてもよい。
【0015】
上記構成によれば、アンテナは、導電線単体で形成されていることから、アンテナを基材(ベース)に配置せずとも、ベルトの積層体の中に平面配置することができる。
また、導電線は柔軟性を有することから、ベルトの屈曲変形に対して追随変形可能であることから、アンテナの耐久性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明は、上記ベルトにおいて、前記保護材が、前記ICチップ及び前記共振アンテナのみを被覆してもよい。
【0017】
上記構成によれば、屈曲疲労に特に脆弱なICチップ及び共振アンテナを保護することができる。
また、ICチップ及び共振アンテナのみを保護材で被覆することにより、1つの部品として扱うことができるため、ベルト製造時に、ICチップ及び共振アンテナをベルトに配置する工程での取扱性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明は、上記ベルトにおいて、前記保護材が、前記ICチップ、前記共振アンテナ、及び、前記ループアンテナを被覆してもよい。
【0019】
上記構成によれば、屈曲疲労に特に脆弱なICチップ及び共振アンテナを保護することができる。
また、共振アンテナとループアンテナとを保護材により一体的に被覆することから、共振アンテナとループアンテナとの相対的な位置関係を予め固定することができ、電磁結合を安定化させることができる。
これにより、ベルト製造時に、ICチップ及びアンテナをベルトに配置する工程での取扱性を向上させることができる。
【0020】
また、本発明は、上記ベルトにおいて、前記アンテナ及び前記ICチップは、前記背面層に設けられ、
前記アンテナは、前記ICチップよりも前記背面側に配置され、
前記ICチップは、前記アンテナと前記芯体との間に配置されてもよい。
【0021】
上記構成によれば、アンテナは、ICチップ及び芯体よりも背面側に設けられていることから、外部とのベルトの状態に関する情報の送受信感度を良好にすることができる。
また、ベルトの屈曲変形に対し、芯体より背面側の部位には伸張応力が作用し、その応力は背面側ほど大きく、芯体に近い側ほど小さくなる。即ち、屈曲疲労は芯体に近い側ほど受けにくい。
そこで、アンテナに比べて脆弱なICチップは、伸張応力が作用しにくい芯体に近い側に配置し、一方、ICチップに比べて耐久性が高いアンテナは、外部との送受信感度を優先し、ICチップよりも背面側に配置した。
これにより、RFIDを備えたベルトの耐屈曲疲労性(センシング機能の耐久性)と通信性能との両面の性能を向上させることができる。
【0022】
また、本発明は、上記ベルトにおいて、前記ループアンテナと前記共振アンテナとは、ベルト厚み方向において重ならない位置関係であってもよい。
【0023】
上記構成によれば、外部との送受信感度(通信性能)を高めることができる。
【0024】
また、本発明は、上記ベルトと、前記ベルトの状態に関する情報を、前記RFIDの前記ブースターアンテナとの間で送受信するリーダと、を有する、ベルトの状態情報取得システムである。
【0025】
上記構成によれば、耐久性を向上させたRFIDを備えたベルトとリーダとの間で、ベルトの状態に関する情報を安定して送受信可能なシステムを構築することができる。
【発明の効果】
【0026】
ベルトに備わるRFIDの耐久性を向上させて、ベルト走行時のセンシング機能の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態に係るローエッジコグドVベルト及びローエッジコグドVベルトの温度データの取得システムの説明図である。
図2】本実施形態に係るローエッジコグドVベルトのA-A断面図である。
図3】(A)本実施形態に係るパッシブ型RFIDタグの写真である。(B)本実施形態に係るパッシブ型RFIDタグの上面図である。(C)本実施形態に係るパッシブ型RFIDタグの側面図である。
図4】(A)アンテナのループアンテナと共振アンテナとの離間距離の説明図である。(B)アンテナのループアンテナと共振アンテナとの離間距離の変更態様を示す説明図である。
図5】その他の実施形態に係るローエッジコグドVベルトの断面図である。
図6】ICチップ及び共振アンテナを保護層で被覆し1つの部品として扱った場合のアンテナに対する位置関係の説明図である。
図7】ループアンテナと共振アンテナとの離間距離を変更した場合の受信信号強度RSSIの値の測定結果を示すグラフである。
図8】比較例(従来)に係るパッシブ型RFIDタグの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施形態)
以下、図面を参照しつつ、本願発明の一態様に係るベルト及びベルトの状態情報取得システムについて説明する。
【0029】
(ローエッジコグドVベルト1の温度データの取得システム100)
図1に示すように、本実施形態のローエッジコグドVベルト1の温度データの取得システム100(ベルトの状態情報取得システムに相当)は、駆動プーリ2と従動プーリ3との間に巻き掛けられたローエッジコグドVベルト1(パッシブ型RFIDタグ15内臓)、及び、RFIDリーダライタ4を使用して、ローエッジコグドVベルト1の内部温度を測定することができる。
【0030】
本実施形態では、ローエッジコグドVベルト1をベルトの一例として説明する。
ローエッジコグドVベルト1は、Vベルトの一種であり、エンジン補機駆動システムなどの動力伝達機構(システム)において、例えば、駆動プーリ2と従動プーリ3との間に巻き掛けられて使用される(図1参照)。
ローエッジコグドVベルト1は、無端状で、その内周面側に複数のコグ1Aが設けられており、屈曲しやすくされている。また、ローエッジコグドVベルト1は、図2のローエッジコグドVベルト1の幅方向の断面図に示すように、コグ1A部分も含めて、所定の傾斜角度を有するV字状側面を有している。
【0031】
なお、本実施形態では、ローエッジコグドVベルト1を例に説明するが、例えば、ローエッジVベルト、ラップドVベルト、Vリブドベルト、平ベルト、歯付ベルトであってもよい。
【0032】
(ローエッジコグドVベルト1の構成)
ローエッジコグドVベルト1は、図1及び図2に示すように、ローエッジコグドVベルト1の内面側から背面側にかけて順番に、圧縮層11と、ローエッジコグドVベルト1の周長方向に沿って螺旋状に埋設された心線121を含む心線層12(芯体層に相当)と、伸張層13(背面層の1つに相当)と、4枚のゴム付き帆布が重ねられた上帆布14(背面層の1つに相当)とが積層された積層体であり、上帆布14において、内面側から1枚目のゴム付き帆布と2枚目のゴム付き帆布との間のローエッジコグドVベルト1の幅方向の中央部分に、長辺がローエッジコグドVベルト1の周長方向に沿うように、パッシブ型RFIDタグ15(RFIDに相当)が埋設された構成をしている。
【0033】
また、図2に示すように、ローエッジコグドVベルト1の幅方向の断面は、V字状断面であり、V字状断面の左右のV字状側面が、駆動プーリ2及び従動プーリ3に設けられたV溝の内壁面と接触する摩擦伝動面となる。
【0034】
(圧縮層11)
圧縮層11を形成するゴム組成物のゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴムなど)、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。好ましいゴム成分は、エチレン-α-オレフィンエラストマー(エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)などのエチレン-α-オレフィン系ゴム)、クロロプレンゴムである。特に好ましいゴム成分は、クロロプレンゴムに対し耐久性に優れ、ハロゲンを含まないエチレン-α-オレフィンエラストマーである。EPDMのジエンモノマーの例としては、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどを挙げることができる。
【0035】
また、圧縮層11を形成するゴム組成物には、さらに必要に応じて、ゴムに通常配合される、カーボンブラック、シリカ、短繊維等の補強材、炭酸カルシウム、タルク等の充填材、硫黄、有機過酸化物等の架橋剤、N,N´-m-フェニレンジマレイミド、キノンジオキシム類等の共架橋剤、加硫促進剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤等を配合してもよい。短繊維としては、綿、ポリエステル(PET、PENなど)、ナイロン(6ナイロン、66ナイロン、46ナイロンなど)、アラミド(p-アラミド、m-アラミド)、ビニロン、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などを用いることができる。これらの短繊維は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0036】
(伸張層13)
伸張層13は、圧縮層11を形成するゴム組成物と同じもので形成されていてもよい。
【0037】
(心線層12)
心線層12は、心線121が、ゴム組成物に、ローエッジコグドVベルト1の周長方向に沿って螺旋状に埋設されている。なお、心線層12を構成するゴム組成物は、心線121との接着性や、心線121にかかる応力緩和の観点から、圧縮層11や伸張層13のゴム組成物よりも接着性・耐応力性を重視した配合組成が好ましい。これにより、螺旋状に埋設された心線121は、ローエッジコグドVベルト1の幅方向断面視で、幅方向に所定の間隔をあけた状態で配列される(図2参照)。
【0038】
心線121を構成する繊維としては、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレート等のC2-4アルキレンアリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維等)、アラミド繊維等の合成繊維、炭素繊維等の無機繊維が使用され、ポリエステル繊維やアラミド繊維が好ましい。これらの繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は2000~10000デニールとするとよく、好ましくは4000~8000デニールとするとよい。
【0039】
心線121としては、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(諸撚り、片撚り、ラング撚り等)を使用することが多く、心線121の平均線径(撚りコードの繊維径)は、0.5~3mmとするとよく、好ましくは0.6~2mm、さらに好ましくは0.7~1.5mmとするとよい。
【0040】
本実施形態では、1本で連なる心線121をローエッジコグドVベルト1の周長方向に螺旋状に巻き付けて埋設しているが、複数本束ねた心線121を、ローエッジコグドVベルト1の周長方向に螺旋状に巻き付けて埋設してもよい。
【0041】
(上帆布14)
上帆布14は、4枚のゴム付き帆布が積層されて構成されている。このゴム付き帆布は、例えば、綿、ポリエステル繊維、ナイロン等からなり、平織、綾織、朱子織等に製織した布で、経糸と緯糸との交差角を90°~120°程度に広角度化した織布に対して、圧縮層11を形成するゴム組成物と同じゴム組成物が、フリクション加工によりすり込まれ形成されている。
【0042】
(パッシブ型RFIDタグ15)
パッシブ型RFIDタグ15は、図3に示すように、温度センサ151A(不図示)と、制御回路151B(不図示)と、メモリ151C(不図示)とを有したICチップ151、ICチップ151を実装(接続)した共振アンテナ152、及び、ブースターアンテナ153Aと、共振アンテナ152に対して電磁結合により無線接続可能なループアンテナ153Bと、を有したアンテナ153を備えている。
また、本実施形態では、ICチップ151は、共振アンテナ152及びループアンテナ153Bと共に、弾性材料(保護材)を使用した保護層154により一体的に被覆されている。
【0043】
(ICチップ151)
ICチップ151は、温度センサ151Aにおいて測定されたローエッジコグドVベルト1の内部における温度データ(温度、識別IDなど:ベルトの状態に関する情報に相当)を、メモリ151Cに書き込み可能(記憶)とされている。また、ICチップ151は、メモリ151Cに書き込まれた温度データを、信号化して送信する機能をもつ。即ち、本実施形態では、ICチップ151が温度センサ機能も備えている。
【0044】
共振アンテナ152は、ICチップ151の実装性が良い、ペースト印刷、スパッタリング、レジストなどで形成した導電性の金属薄膜(アルミニウム薄膜など)で形成されている。そして、この金属薄膜を電極として、図3のように、金属薄膜上にICチップ151を実装している。
【0045】
(アンテナ153)
アンテナ153は、図3に示すように、銅撚線(導電性の線状物質)を折り曲げて、クランク状にしたメアンダライン形状のブースターアンテナ153Aと、ループ形状にしたループアンテナ153Bにより形成されたダイポールアンテナである。
ブースターアンテナ153Aは、メアンダライン形状の銅撚線が、ループアンテナ153Bから、伸張方向の一方側と他方側とに延びた左右対称形状をしている。
ループアンテナ153Bは、アンテナ153の中央に配置され、共振アンテナ152と電磁結合する部位とし、電磁結合を強めるためにループ形状をしている。なお、このループアンテナ153Bのループは、仕様により1回巻きでも複数巻きでもよい。
このように、アンテナ153は、他の部材との接続部を無くすことにより、脆弱部分を省いた。
【0046】
アンテナ153を構成する導電性の線状物質は、金属薄膜や金属線、繊維を金属でコーティングした導電性繊維、絶縁性繊維と金属線や金属箔などの導電性繊維からなる複合導電性繊維、又は、これら繊維のうち少なくとも一方を含む織物といった導電性線状物質を用いることが好ましい。本実施形態では、アンテナ153を構成する銅撚線は、フッ素処理(テフロン(登録商標)担持)されている。
【0047】
上記のように、アンテナ153は、銅撚線(導電線)単体で形成されていることから、アンテナ153を基材(ベース)に配置せずとも、ローエッジコグドVベルト1の積層体の中に平面配置することができる。
また、銅撚線は柔軟性を有することから、ローエッジコグドVベルト1の屈曲変形に対して追随変形可能であることから、アンテナ153の耐久性を向上させることができる。
【0048】
(保護層154)
保護層154には、保護材としてシリコーンゴム(信越化学工業株式会社製KE45T、一液縮合型RTVゴム、硬さ(タイプA)30、切断時伸び350%、引張強さ2.0MPa)を使用している。
具体的には、ICチップ151を実装した共振アンテナ152の表面に、シリコーンゴムを塗布し、厚み0.1mmの絶縁層を設けた。さらに、この絶縁層を設けた、ICチップ151を実装した共振アンテナ152全体、及び、アンテナ153のループアンテナ153Bを、同じ保護材であるシリコーンゴムで一体的に被覆し、保護層154を形成した(図3参照)。
【0049】
ここで、共振アンテナ152に対するループアンテナ153Bの配置関係について、図3(C)に示すように、共振アンテナ152の上面とループアンテナ153Bの下面とがベルト厚み方向において、0.1mmの離間距離D1を有するように配置される。
また、図3(B)に示すように、ループアンテナ153Bと共振アンテナ152とは、ベルト厚み方向において重ならない位置関係であることが好ましい。更には、図4(B)の(b)又は(d)に示すように、ベルト厚み方向から見て、ループアンテナ153Bの縁と共振アンテナ152の縁とが接した配置関係にあることが好ましい。
上記構成によれば、RFIDリーダライタ4とパッシブ型RFIDタグ15(アンテナ153)との送受信感度(通信性能)を良好にすることができる。
【0050】
本実施形態では、保護層154が、ICチップ151を実装した共振アンテナ152、及び、ループアンテナ153Bを被覆していることから、屈曲疲労に特に脆弱なICチップ151及び共振アンテナ152を保護することができる。
また、共振アンテナ152とループアンテナ153Bとを保護層154により一体的に被覆することから、共振アンテナ152とループアンテナ153Bとの相対的な位置関係を予め固定することができ、共振アンテナ152とループアンテナ153Bとの間の電磁結合を安定化させることができる。
これにより、ローエッジコグドVベルト1の製造時に、ICチップ151を実装した共振アンテナ152及びアンテナ153をローエッジコグドVベルト1に配置する工程での取扱性を向上させることができる。
【0051】
上記パッシブ型RFIDタグ15を備えたローエッジコグドVベルト1によれば、アンテナ153のブースターアンテナ153AとICチップ151を実装した共振アンテナ152とは、電磁結合により無線接続されることから、アンテナ153とICチップ151とを物理的に接続しない構成にすることができる。
これにより、屈曲疲労に脆弱な、アンテナ153とICチップ151との物理的な接続部分(はんだ接合部)を省くことができ、ローエッジコグドVベルト1に備わるパッシブ型RFIDタグ15の耐久性を向上させることができる。
また、アンテナ153とICチップ151とを物理的に接続不要にすることにより、アンテナ153とICチップ151とを、独立して分離配置することができる。
これにより、アンテナ153及びICチップ151の配置を、使用環境に応じて適宜選択することができる。
また、ICチップ151及び共振アンテナ152は、弾性材料を使用した保護層154で被覆されていることから、ローエッジコグドVベルト1の屈曲変形に対して保護層154が追随変形することにより、ICチップ151及び共振アンテナ152を保護することができる。
【0052】
(RFIDリーダライタ4)
RFIDリーダライタ4(リーダに相当)としては、例えば、携帯型のタブレット等などが挙げられる。RFIDリーダライタ4は、図1に示すように、ローエッジコグドVベルト1が備えるパッシブ型RFIDタグ15(ブースターアンテナ153A)に向けて電波信号を送信し、パッシブ型RFIDタグ15(ブースターアンテナ153A)から送信された温度データ(ベルトの状態に関する情報に相当)を受信する、アンテナ(不図示)を有し、温度データの受信後、プログラム制御により、記憶、解析、解析結果の表示ができる構成である。なお、RFIDリーダライタ4とパッシブ型RFIDタグ15との通信には、例えば、UHF帯電波(周波数帯:860~960MHz)が用いられるが、LF帯、HF帯、2.4GHz帯の周波数が用いられてもよい。
【0053】
なお、プログラム制御による解析では、ローエッジコグドVベルト1の内部の温度データを出力するだけでなく、パッシブ型RFIDタグ15から送信された、観測した温度データと、予め実測データを分析して得られた基準となる温度データとを比較することにより、ローエッジコグドVベルト1の劣化度合いを分析し、ローエッジコグドVベルト1の交換の有無や交換時期、その他の異常を、RFIDリーダライタ4等の表示画面に表示できるようにしてもよい。
【0054】
(RFIDリーダライタ4とパッシブ型RFIDタグ15とのデータの送受信方法)
次に、RFIDリーダライタ4とパッシブ型RFIDタグ15との通信について説明する。
まず、パッシブ型RFIDタグ15を備えたローエッジコグドVベルト1に対して、RFIDリーダライタ4(図1参照)が、電磁波(例えば、UHF帯電波、周波数帯:860~960MHz)を送信する。
そして、RFIDリーダライタ4から送信された電磁波を、ブースターアンテナ153Aが受信する。
そして、受信した電磁波を起因とした電磁誘導によりブースターアンテナ153Aを経由してループアンテナ153Bに電流が流れ、ループアンテナ153Bから電磁誘導により共振アンテナ152に電流が流れる。
これにより、共振アンテナ152上に実装したICチップ151に給電される。そして、温度センサ151Aにより測定され、ICチップ151のメモリ151Cに記憶された温度データ(温度、識別IDなど)が信号化される。
そして、信号化された温度データが、電磁誘導により共振アンテナ152からループアンテナ153Bに送信され、さらに、ブースターアンテナ153AからRFIDリーダライタ4に送信される。
【0055】
ローエッジコグドVベルト1にかかる様々な外圧・内圧の下で使用し続ければ、圧力に伴う内部温度の上昇や、摩擦熱等の影響によるローエッジコグドVベルト1の内部温度の上昇、またはローエッジコグドVベルト1に歪が生じ得る。そこで、上記のように、ICチップ151に備わる温度センサ151Aにより、ローエッジコグドVベルト1の内部温度(ベルトの状態情報)を検知・観測し、観測した内部温度を外部(RFIDリーダライタ4)に送信することで、ローエッジコグドVベルト1の劣化や損傷を把握することができる。
【0056】
上記ローエッジコグドVベルト1の温度データの取得システム100によれば、耐久性を向上させたパッシブ型RFIDタグ15を備えたローエッジコグドVベルト1とRFIDリーダライタ4との間で温度データを安定して送受信可能なシステムを構築することができる。
【0057】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、保護層154が、ICチップ151を実装した共振アンテナ152、及び、ループアンテナ153Bを被覆しているが、保護層154は、ループアンテナ153Bを被覆せずに、ICチップ151を実装した共振アンテナ152のみを被覆する構成であってもよい。
【0058】
これにより、保護層154で被覆した、ICチップ151及び共振アンテナ152を、1つの部品として扱うことができるため、ローエッジコグドVベルトの製造時に、ICチップ151及び共振アンテナ152を配置する工程での取扱性を向上させることができる。
【0059】
また、ICチップ151及び共振アンテナ152を、1つの部品として扱うことができることから、アンテナ153のループアンテナ153Bと共振アンテナ152との相対的な位置関係を、ローエッジコグドVベルトの製造時に、ベルト厚み方向、水平方向に可変できる(図6参照)。そのため、ローエッジコグドVベルトの使用環境に応じて、通信に有利な配置を選択できる。例えば、ローエッジコグドVベルトの構成材料の層間などから、アンテナ153(ループアンテナ153B)と、ICチップ151を実装した共振アンテナ152とのそれぞれの配置部位を適宜選択できる(図6参照)。
【0060】
具体的には、図5に示すように、ローエッジコグドVベルト201の背面側に4枚のゴム付き帆布が積層された上帆布14の層間に、アンテナ153とICチップ151を実装した共振アンテナ152とを2枚のゴム付き帆布を介して別個に配置することができる。
【0061】
上記ローエッジコグドVベルト201では、アンテナ153及びICチップ151を実装した共振アンテナ152は、上帆布14(背面層)に設けられている。また、アンテナ153は、ICチップ151を実装した共振アンテナ152よりも背面側に配置されている。また、ICチップ151を実装した共振アンテナ152は、アンテナ153と心線121との間に配置されている。
【0062】
上記構成によれば、アンテナ153は、ICチップ151を実装した共振アンテナ152及び心線121よりも背面側に設けられていることから、RFIDリーダライタ4との温度データの送受信感度を良好にすることができる。
【0063】
また、ローエッジコグドVベルト1の屈曲変形に対し、心線121より背面側の部位には伸張応力が作用し、その応力は背面側ほど大きく、心線121に近い側ほど小さくなる。即ち、屈曲疲労は心線121に近い側ほど受けにくい。
そこで、アンテナ153に比べて脆弱なICチップ151は、伸張応力が作用しにくい心線121に近い側に配置し、一方、ICチップ151に比べて耐久性が高いアンテナ153は、RFIDリーダライタ4との送受信感度を優先し、ICチップ151よりも背面側に配置した。
これにより、パッシブ型RFIDタグ15を備えたローエッジコグドVベルト201の耐屈曲疲労性(センシング機能の耐久性)と通信性能との両面の性能を向上させることができる。
【0064】
また、上記実施形態では、ローエッジコグドVベルト1の状態(温度)を検知するセンサとして、温度センサ151Aを例示して説明したが、ローエッジコグドVベルト1の内部圧力(ベルトの状態に相当)を測定する圧力センサや、ローエッジコグドVベルト1の歪(ベルトの状態に相当)を検知する歪センサであってもよい。
【実施例0065】
(ループアンテナ153Bと共振アンテナ152との離間距離(水平方向)と通信性能の評価)
ローエッジコグドVベルト1に配置されるパッシブ型RFIDタグ15における、ループアンテナ153Bと共振アンテナ152との配置関係について、共振アンテナ152に実装(接続)されたICチップ151の位置を原点とし、ベルト厚み方向の離間距離D1(図6参照)は、0.1mmで一定とし、水平方向の離間距離D2(図4(A)参照)を変更したパッシブ型RFIDタグ15について、通信性能を評価した。
【0066】
具体的には、図4(A)に示すように、RFIDリーダライタ4(ハンディ型受信機(ATID社製 AT-R2000-J1))を、共振アンテナ152が接続されたICチップ151から、ループアンテナ153Bとは反対側に300mm離れた位置(-300mm)に配置し、RFIDリーダライタ4で受信信号強度RSSIを測定した(RSSIが高いほど通信性能は良い)。
【0067】
図4(B)の(c)に示すように、共振アンテナ152のRFIDリーダライタ4側の辺(詳細には実装されているICチップ151の位置)と、ループアンテナ153BのRFIDリーダライタ4側の辺とが、ベルト厚み方向に重なった位置関係にある場合、水平方向の離間距離D2を0とした。そして、ループアンテナ153Bが、水平方向の離間距離D2が0の位置を基準に、RFIDリーダライタ4から水平方向に遠ざかる場合の離間距離D2を正の値とし(図4(B)の(d)(e)参照)、一方、ループアンテナ153Bが、水平方向の離間距離D2が0の位置を基準に、RFIDリーダライタ4に水平方向に近づく場合の離間距離D2を負の値とした(図4(B)の(a)(b)参照)。
【0068】
ループアンテナ153Bと共振アンテナ152との離間距離D2を変更した場合の受信信号強度RSSIの値の測定結果を、図7に示す。
図7に示すように、離間距離D2が-15mm以上、-4mm以下の範囲、及び、+2mm以上、+10mm以下の範囲でRSSIが検出され、通信が可能であった。
また、離間距離D2が-5mm(図4(B)の(b))の場合と、離間距離D2が+5mmの場合(図4(B)の(d))に、RSSIの値が最も高く、通信性能が良好となった。
即ち、ループアンテナ153Bと共振アンテナ152とが、ベルト厚み方向において重ならない位置関係であり、且つ、ベルト厚み方向から見て、ループアンテナ153Bの縁と共振アンテナ152の縁とが接した配置関係にある場合に、RFIDリーダライタ4とパッシブ型RFIDタグ15との送受信感度(通信性能)を良好にすることができることが分かった。
【0069】
(ループアンテナ153Bと共振アンテナ152との離間距離(ベルト厚み方向)と通信性能の評価)
ローエッジコグドVベルト1に配置されるパッシブ型RFIDタグ15における、ループアンテナ153Bと共振アンテナ152との配置関係について、共振アンテナ152に実装(接続)されたICチップ151の位置を原点とし、水平方向の離間距離D2は5mmで一定とし、ベルト厚み方向の離間距離D1を変更したパッシブ型RFIDタグ15について、通信性能を評価した。ループアンテナ153Bと共振アンテナ152とのベルト厚み方向の離間距離D1を変更した場合の受信信号強度RSSIの値の測定結果を、下記表1に示す。
なお、ループアンテナ153Bと共振アンテナ152とのベルト厚み方向の離間距離D1は、図6に示すように、ループアンテナ153Bの下面から共振アンテナ152(詳細には実装されているICチップ151の位置)までの直線距離であり、共振アンテナ152が153Bから垂直方向(ベルト厚み方向)下方に遠ざかる場合の離間距離D1を正の値としている。
【0070】
【表1】
【0071】
離間距離D1は0.1~0.5mm全ての場合でRSSIが検出され、通信が可能であった。また、離間距離D1が0.1mmの場合に、RSSIの値が最も高く、通信性能が良好となった。
【0072】
(耐久試験)
次に、上記実施形態のパッシブ型RFIDタグ15を備えたローエッジコグドVベルト1(実施例)と、従来のパッシブ型RFIDタグを備えたローエッジコグドVベルト(比較例)とを用いて走行試験を行った。
【0073】
(実施例のローエッジコグドVベルト)
実施例のローエッジコグドVベルト1は、背面側の幅方向の長さが22.3mm、ベルトの厚みが11.4mm、周長方向に沿った長さが1550mmである。ローエッジコグドVベルト1の構成は、図2に示すように、ローエッジコグドVベルト1の内面側から背面側にかけて順番に、圧縮層11と、ローエッジコグドVベルト1の周長方向に沿って螺旋状に埋設された心線121を含む心線層12と、伸張層13と、4枚のゴム付き帆布が重ねられた上帆布14とが積層された積層体であり、上帆布14において、内面側から1枚目のゴム付き帆布と2枚目のゴム付き帆布との間のローエッジコグドVベルト1の幅方向の中央部分にパッシブ型RFIDタグ15が埋設された構成をしている。また、図3に示すように、パッシブ型RFIDタグ15において、アンテナ153のループアンテナ153Bと共振アンテナ152との位置関係は、ベルト厚み方向の離間距離D1を0.1mm、水平方向の離間距離D2を5mmとした。
【0074】
表2に、実施例に係るローエッジコグドVベルト1の、圧縮層11を構成する圧縮ゴムの組成、伸張層13を構成する伸張ゴムの組成、及び、心線層12を構成する接着ゴムの組成を示す。
【0075】
【表2】
【0076】
CR(クロロプレンゴム):DENKA(株)製「PM-40」
アラミド短繊維:帝人(株)製「トワロン(登録商標)」、モジュラス88cN、繊度2.2dtex、繊維長3mm
ナフテン系オイル:出光興産(株)製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルNS-90S」
シリカ:エボニックジャパン(株)製、「ULTRASIL(登録商標)VN3」、BET比表面積175m2/g
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト(登録商標)3」
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック(登録商標)AD-F」
加硫促進剤TT:大内新興化学工業(株)製「ノクセラー(登録商標)TT」
【0077】
(上帆布14)
上帆布14には、綿の紡績糸を使用した平織帆布にRFL液で浸漬処理を施し、さらに当該帆布を150℃で2分間熱処理した後、上記表2の接着ゴム組成物をすり込むフリクション加工を行うことで形成されたゴム付帆布を使用した。
【0078】
(心線)
心線121には、1000デニールのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を2×3の撚り構成で、上撚り係数3.0、下撚り係数3.0で諸撚りしたトータルデニール6,000のコードに、接着処理を施したものを使用した。
【0079】
(パッシブ型RFIDタグ15)
パッシブ型RFIDタグ117は、ICチップ151を実装した共振アンテナ152の表面に、シリコーンゴムを塗布し、厚み0.1mmの絶縁層を設けた。さらに、この絶縁層を設けた、ICチップ151を実装した共振アンテナ152全体、及び、アンテナ153のループアンテナ153Bを、同じ保護材であるシリコーンゴムで一体的に被覆し、保護層154を形成した(図3参照)。また、アンテナ153は、ベースを有さない構成をしている。ICチップ151は、温度センサ151Aを備えたICチップであり、すなわち、パッシブ型RFIDタグ15は、温度センサ151Aと一体型である。アンテナ153は、銅撚線からなり、銅撚線の直径は0.51mm(0.18mm×7本撚り)であり、表面にテフロン(登録商標)粒子が担持されている。パッシブ型RFIDタグ15のサイズは、100mm×10mmである。パッシブ型RFIDタグ15は、上帆布14において、内面側から1枚目のゴム付き帆布と2枚目のゴム付き帆布との間のローエッジコグドVベルト1の幅方向の中央部分に、長辺がローエッジコグドVベルト1の周長方向に沿うように埋設されている。
【0080】
(実施例のローエッジコグドVベルトの製造方法)
圧縮層11、伸張層13及び心線層12を形成するためのゴム組成物は、それぞれ、表2の配合にてバンバリーミキサーで混練りを行い、得られた混練りゴムをカレンダーロールに通して圧延して、未加硫ゴムシート(圧縮層用シート、伸張層用シート、心線層用シート)を作製した。なお、短繊維は、RFL液で接着処理し、固形分の付着率6質量%の短繊維を用いた。また、予め、所定厚みの圧縮層用シート(未加硫ゴム)にコグ形状を型付け成形したシート状のコグパッドを作製した。
更に、綿、ポリエステル繊維、ナイロン等からなり、平織、綾織、朱子織等に製織した布で、経糸と緯糸との交差角を90°~120°程度に広角度化した織布に対して、圧縮層11を形成するゴム組成物と同じゴム組成物をフリクション加工したゴム付き帆布を4枚作製した。
【0081】
次に、外周にコグ形状に対応する凸部と凹部とを交互に設けた円筒状の金型を用い、その外周のコグ形状に嵌合するように、予め作製したコグパッドを巻き付け、その外周に心線用シート(未加硫ゴム)を巻きつけた。その外周に、心線121を螺旋状にスピニングし、更に伸張層用シートを巻き付け、その外周に、1枚のゴム付き帆布を巻き付けて、その外周面の所定の位置に、パッシブ型RFIDタグ15を装着した。更に、その外周に、3枚のゴム付き帆布を巻き付けて成形体を作製した。
【0082】
その後、ベルト外周側にジャケットを被せた状態で、成形体を装着した金型を加硫缶に設置し、温度170℃、時間40分で加硫を行い、加硫ベルトスリーブを作製した。このスリーブをカッターでV字状に切断して、上帆布14にパッシブ型RFIDタグ15が埋設されたローエッジコグドVベルト1(サイズ:背面側の幅22.3mm、ベルト厚み11.4mm、ベルト周長1550mm)を作製した。
【0083】
(比較例のローエッジコグドVベルト)
比較例のローエッジコグドVベルトは、実施例のローエッジコグドVベルト1に埋設されたパッシブ型RFIDタグ15を、従来のパッシブ型RFIDタグに差し替えた構成をしている。
具体的には、図8に示すように、比較例に係る従来のパッシブ型RFIDタグは、アンテナを1本の銅撚線で形成し、ICチップを実装する部分にはアルミニウム薄膜(電極)を用い、この銅撚線で形成したアンテナと、ICチップを実装したアルミニウム薄膜(電極)を、接続導電線(銅単線)を介して接続したアンテナ構造となっている。このアンテナ構造では、それぞれの接続部(図8の一点鎖線の丸部分)は、はんだで接合されている。
なお、比較例のローエッジコグドVベルトのその他の構成は、実施例のローエッジコグドVベルト1と同様である。
【0084】
(ベルトの走行における内部温度のモニタリング)
実施例のローエッジコグドVベルト1及び比較例のローエッジコグドVベルトを用いて走行試験を行い、耐久走行性(温度センサ機能時間)を確認した。走行試験装置としては、φ150mmの駆動プーリと、φ150mmの従動プーリとに、実施例のローエッジコグドVベルト1又は比較例のローエッジコグドVベルトを架け渡した試験装置を使用した。
【0085】
走行試験においては、各ローエッジコグドVベルト内に埋設したパッシブ型RFIDタグにおける、ICチップ(温度センサ)で検出した各ローエッジコグドVベルトの内部温度の信号を、ハンディ型受信機(ATID社製 AT-R2000-J1)で受信して、パソコンに出力して温度変化をモニタリングした。実施例及び比較例の走行試験結果を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
(試験1)
実施例及び比較例の各ローエッジコグドVベルトを試験体として、駆動プーリの軸荷重を50kgf、回転数を2000rpmとし、雰囲気温度25℃にて走行させた。センサ機能については、内部温度の検出可否を10分ごとに確認しながら120分経過するまで継続した。
実施例のローエッジコグドVベルト1では、120分経過後でもパッシブ型RFIDタグ15に故障がなく、内部温度を検出できた(センサ機能が維持された)。
一方、比較例のローエッジコグドVベルトでは、30分経過時点で内部温度を検出できなくなっていた(センサ機能が消失した)。
【0088】
(試験2)
実施例及び比較例の各ローエッジコグドVベルトを試験体として、駆動プーリの軸荷重を80kgf、回転数を2000rpmとし、雰囲気温度25℃にて走行させた。センサ機能については、内部温度の検出可否を10分ごとに確認しながら200時間経過するまで継続した。
実施例のローエッジコグドVベルト1では、200時間経過後でもパッシブ型RFIDタグ15に故障がなく、内部温度を検出できた(センサ機能が維持された)。
一方、比較例のローエッジコグドVベルトでは、10分経過時点で内部温度を検出できなくなっていた(センサ機能が消失した)。
【0089】
(試験3)
実施例及び比較例の各ローエッジコグドVベルトを試験体として、駆動プーリの軸荷重を80kgf、回転数を3600rpmとし、雰囲気温度25℃にて走行させた。センサ機能については、内部温度の検出可否を10分ごとに確認しながら200時間経過するまで継続した。
実施例のローエッジコグドVベルト1では、200時間経過後でもパッシブ型RFIDタグ15に故障がなく、内部温度を検出できた(センサ機能が維持された)。
一方、比較例のローエッジコグドVベルトでは、10分経過時点で内部温度を検出できなくなっていた(センサ機能が消失した)。
【0090】
上記走行試験結果より、実施例に係るローエッジコグドVベルト1は、比較例に係るローエッジコグドVベルトに比べて、ローエッジコグドVベルトに備わるパッシブ型RFIDタグの耐久性を向上させることができ、ベルト走行時のセンシング機能の耐久性を向上させることができることを確認することができた。
【符号の説明】
【0091】
1 ローエッジコグドVベルト
2 駆動プーリ
3 従動プーリ
4 RFIDリーダライタ
11 圧縮層
12 心線層
121 心線
13 伸張層
14 上帆布
15 パッシブ型RFIDタグ
151 ICチップ
151A 温度センサ
152 共振アンテナ
153 アンテナ
153A ブースターアンテナ
153B ループアンテナ
154 保護層
100 ローエッジコグドVベルトの温度データの取得システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8