IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フクビ化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050465
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】反射防止ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20240403BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20240403BHJP
   C03B 23/023 20060101ALI20240403BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240403BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240403BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C03C17/34 A
C03C21/00 101
C03B23/023
B32B9/00 A
B32B7/023
B32B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023152270
(22)【出願日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2022156684
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 翔一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 友輔
(72)【発明者】
【氏名】石川 翔一
(72)【発明者】
【氏名】中島 大
【テーマコード(参考)】
4F100
4G015
4G059
【Fターム(参考)】
4F100AA19C
4F100AA19D
4F100AA20B
4F100AA20D
4F100AA20E
4F100AA21C
4F100AA27C
4F100AG00A
4F100AH06B
4F100AH08C
4F100AK52B
4F100BA05
4F100BA07
4F100DE04D
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EH46D
4F100EH46E
4F100EJ423
4F100JB01
4F100JK01
4F100JK04
4F100JK09E
4F100JK17
4F100JL09
4F100JN06B
4F100JN18B
4F100JN18C
4F100JN18D
4F100JN18E
4F100YY00E
4G015AA03
4G015AB01
4G015CB01
4G059AA01
4G059AC04
4G059DA08
4G059DA09
4G059GA02
4G059GA04
4G059GA15
(57)【要約】
【課題】反射防止強化ガラスの製造に使用される反射防止ガラスであって、曲げ加工処理に適し且つ高度の反射防止能を有する反射防止ガラスを提供する。
【解決手段】ガラス基板、反射防止膜及び保護層をこの順に有してなる反射防止ガラスであって、前記反射防止膜は、前記ガラス基板側から順に、
屈折率が1.67~1.87で、層厚が35~120nmの中屈折率層と、
屈折率が1.90~2.05で、層厚が30~115nmの高屈折率層と、
屈折率が1.34~1.45で、層厚が45~115nmの低屈折率層と
を備え、前記保護層は、屈折率が1.42~1.48で、層厚が5~50nmであり、前記高屈折率層は、金属アルコキシドオリゴマーを含む硬化性組成物の硬化物からなり、両面の視感平均反射率が0.6%以下であり、且つ、ガラス表面の伸長率が5%以下の曲げにおいて保護層および反射防止膜の各層にクラックが発生しないことを特徴とする反射防止ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板、反射防止膜及び保護層をこの順に有してなる反射防止ガラスであって、
前記反射防止膜は、前記ガラス基板側から順に、
屈折率が1.67~1.87で、層厚が35~120nmの中屈折率層と、
屈折率が1.90~2.05で、層厚が30~115nmの高屈折率層と、
屈折率が1.34~1.45で、層厚が45~120nmの低屈折率層と
を備え、
前記保護層は、屈折率が1.42~1.48で、層厚が5~50nmであり、
前記高屈折率層は、金属アルコキシドオリゴマー(金属はチタニウム原子またはジルコニウム原子である)を含む硬化性組成物の硬化物からなり、
両面の視感平均反射率が0.6%以下であり、且つ、ガラス表面の伸長率が5%以下の曲げにおいて、保護層および反射防止膜の各層にクラックが発生しないことを特徴とする反射防止ガラス。
【請求項2】
前記中屈折率層は、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物からなるバインダー成分100質量部に対して、金属酸化物粒子を25~70質量部を含有する硬化性組成物の硬化物からなることを特徴とする請求項1に記載の反射防止ガラス。
-Si(OR4-n (1)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基またはアルコキシアルキル基であり、Rはアルキル基、アルコキシアルキル基またはハロゲン原子であり、nは0、1または2の整数である。)
【請求項3】
前記低屈折率層は、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物からなるバインダー成分100質量部に対して、中空シリカ粒子を1~15質量部、およびアルミニウム塩水和物を1~10質量部含有する硬化性組成物の硬化物からなることを特徴とする請求項1に記載の反射防止ガラス。
-Si(OR4-n (1)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基またはアルコキシアルキル基であり、Rはアルキル基、アルコキシアルキル基またはハロゲン原子であり、nは0、1または2の整数である。)
【請求項4】
前記保護層は、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物からなるバインダー成分100質量部に対して、金属キレート化合物を1~25質量部、およびアルミニウム塩水和物を1~20質量部含有する硬化性組成物の硬化物からなることを特徴とする請求項1に記載の反射防止ガラス。
-Si(OR4-n (1)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基またはアルコキシアルキル基であり、Rはアルキル基、アルコキシアルキル基またはハロゲン原子であり、nは0、1または2の整数である。)
【請求項5】
温度63℃、湿度50%RH(相対湿度)、試験時間2000時間の促進耐候性試験において、反射防止膜及び保護層の剥離がないことを特徴とする請求項1~4に記載の反射防止ガラス。
【請求項6】
前記反射防止ガラスが、化学強化用反射防止ガラスであることを特徴とする請求項1~4に記載の反射防止ガラス。
【請求項7】
請求項1~4に記載の反射防止ガラスを加熱して曲げ加工を行った後、イオン交換用金属塩融解液中で化学強化処理を行うことを特徴とする反射防止強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度の反射防止能が付与されている反射防止ガラスに関し、曲げ加工を行う反射防止強化ガラスの製造に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
ガラスの強度が高められた強化ガラスは、自動車や家屋の窓ガラスなどの用途に広く使用されている。更に、静電容量式タッチパネルの前面保護パネルや、デジタルカメラ、携帯電話などの各種モバイル機器のディスプレイなどの用途にも使用されている。
近年、自動車用のメーターパネルにおいても、意匠性や高級感に富むCID(Center Information Display)と称されるモニターとの一体型ガラスパネルが求められるようになり、メーターとCIDを曲面で繋ぐような仕様が求められ始めている。当該ガラスパネルは、通常のガラスでは事故等での破損の危険性があるため、必然的に強化ガラスであることが必要となる。
【0003】
上記自動車用のメーターパネルは、保護パネルや各種のディスプレイ同様に高い反射防止機能が要求されている。反射防止機能を付与するためには、ガラス表面に低屈折率層を含む反射防止膜を形成すればよい。
反射防止膜は、その反射防止能を向上させるために、低屈折率層のみの一層ではなく、低屈折率層とガラス基板の間に高屈折率層を設けた二層とする、更には、高屈折率層とガラス基板との間に中屈折率層を設けた三層とするなど高性能の多層反射防止膜が開発されている(特許文献1)。
ところが、上記高性能の反射防止機能を有する強化ガラスの場合は、曲げ加工の際に次の問題を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2021-135870号(WO2023/026670)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記高屈折率層や中屈折率層には、従来、所定の屈折率を発現させるために、シリカ粒子に比べて高屈折率の酸化ジルコニウム粒子や酸化チタニウム粒子等の金属酸化物粒子を含有していた。この為、これら従来品においては、ガラス強化前に反射防止膜が積層された反射防止ガラスを加熱して曲げ加工を行うと、反射防止膜にクラックが発生して不良品が生産されるという問題が生じた。
本発明者らは、曲げ加工時のクラックの発生について鋭意解析した結果、クラックの発生は、主として比較的多量の金属酸化物粒子を含有する高屈折率層において発生する傾向にあり、この金属酸化物粒子に代えて金属アルコキシドオリゴマーを使用することにより高屈折率を維持しながらもクラックの発生を防止できることを見出し、本発明を想到するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、ガラス基板、反射防止膜及び保護層をこの順に有してなる反射防止ガラスであって、
前記反射防止膜は、前記ガラス基板側から順に、
屈折率が1.67~1.87で、層厚が35~120nmの中屈折率層と、
屈折率が1.90~2.05で、層厚が30~115nmの高屈折率層と、
屈折率が1.34~1.45で、層厚が45~120nmの低屈折率層と
を備え、
前記保護層は、屈折率が1.42~1.48で、層厚が5~50nmであり、前記高屈折率層は、金属アルコキシドオリゴマー(金属はチタニウム原子またはジルコニウム原子である)を含む硬化性組成物の硬化物からなり、両面の視感平均反射率が0.6%以下であり、且つ、ガラス表面の伸長率が5%以下の曲げにおいて、保護層および反射防止膜の各層にクラックが発生しないことを特徴とする反射防止ガラスである。
【0007】
上記反射防止ガラスの発明において、
1)前記中屈折率層は、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物からなるバインダー成分100質量部に対して、金属酸化物粒子を25~70質量部を含有する硬化性組成物の硬化物からなること、
-Si(OR4-n (1)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基またはアルコキシアルキル基であり、Rはアルキル基、アルコキシアルキル基またはハロゲン原子であり、nは0、1または2の整数である。)
2)前記低屈折率層は、前記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物からなるバインダー成分100質量部に対して、中空シリカ粒子を1~15質量部、およびアルミニウム塩水和物を1~10質量部含有する硬化性組成物の硬化物からなること、
3)前記保護層は、前記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物からなるバインダー成分100質量部に対して、金属キレート化合物を1~25質量部、およびアルミニウム塩水和物を1~20質量部含有する硬化性組成物の硬化物からなること、
4)温度63℃、湿度50%RH、試験時間2000時間の促進耐候性試験において、反射防止膜及び保護層の剥離がないこと、
5)化学強化に使用される反射防止ガラスであること
が好適である。
【0008】
また本発明は、前記反射防止ガラスを加熱して曲げ加工を行った後、イオン交換用金属塩融解液中で化学強化処理を行うことを特徴とする反射防止強化ガラスの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により提供される反射防止ガラスは、曲げ加工が可能であり且つ高度の反射防止能を有する反射防止強化ガラスの製造に好適に使用される。
このような反射防止強化ガラス製品は、ガラス基板が薄い製品、例えば静電容量式タッチパネルの前面保護パネル、デジタルカメラ、携帯電話などの各種モバイル機器のディスプレイなどに加えて、大型で高級感、重量感のある一体型自動車用メーターパネルに好適に使用される。
また、曲げ特性に加えて耐候性にも優れるので、球状の防犯カメラ外面カバー等の曲面を有する屋外製品に適用可能である。更に、反射防止ガラスをアルカリ洗浄した場合でも反射防止膜の劣化が起こりにくくなり耐アルカリ性に優れるという利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<反射防止ガラス>
本発明の反射防止ガラスは、ガラス基板、反射防止膜及び保護層をこの順に有してなる。
当該反射防止膜は、前記ガラス基板側から、
屈折率が1.67~1.87で、層厚が35~120nmの中屈折率層と、
屈折率が1.90~2.05で、層厚が30~115nmの高屈折率層と、
屈折率が1.34~1.45で、層厚が45~120nmの低屈折率層の順で構成されている。
当該保護層は、屈折率が1.42~1.48で、層厚が5~50nmである。
当該反射防止ガラスは両面の視感平均反射率が0.6%以下であるという光学特性を有している。
更に、当該反射防止ガラスは、ガラス表面の伸長率が5%以下の曲げにおいて、保護層および反射防止膜の各層にクラックが発生しないという特徴を有する。
【0011】
曲げ試験とは、曲げ型の上にガラス試験片をセットし電気炉加熱により試験片の余熱、曲げ成型加熱、および徐冷の1サイクルの工程を行う試験方法であり、自重曲げまたはプレスによる熱曲げが該当する。ガラス表面の伸長率が5%以下の曲げとは、当該試験方法を用いてガラス最表面の伸長率が5%並びにそれ以下である熱曲げのことである。
クラックが発生しないというのは、曲げた局部をレーザー顕微鏡で表面観察を行い、伸長方向に対して垂直方向に裂けたような模様が発生していないことを意味する。また、本発明の反射防止ガラスは耐候性に富み、ガラス基板と反射防止膜との剥離、各屈折率層間の層間剥離、反射防止膜と保護層との剥離が認められない。
【0012】
本発明の最大の特徴は、前記高屈折率層に屈折率調整剤として金属アルコキシドオリゴマー(金属はチタニウム原子またはジルコニウム原子である)を使用して、上記曲げ特性を発現したことにある。従来金属酸化物粒子を使用していた場合、曲げ処理した際に粒子の表面において界面剥離が生じクラックが発生する傾向にあったが、金属アルコキシドオリゴマーの使用によりそれが防止されたものと推察される。また、低屈折率層中の中空シリカ粒子含有量を低減したので、同様に粒子表面からのクラックの発生も減少したものと考える。
【0013】
本発明の反射防止ガラスは、上記光学特性および曲げ特性に加えて更に耐候性に富み、ガラス基板と反射防止膜との剥離、各屈折率層間の層間剥離、反射防止膜と保護層との剥離が認められない。具体的には、温度63℃、湿度50%RH(相対湿度)、試験時間2000時間の促進耐候性試験において、反射防止膜や保護層の剥離が認められない。
上記耐候特性の向上は、低屈折率層中の屈折率を高めに設定したため、層中に含まれる中空シリカ粒子含有量が減少したことに起因するものと推察される。中空シリカは内部に空洞を有するため、当該空洞中を紫外線が透過して反射防止膜各層の劣化を引き起こす。中空シリカ粒子含有量の減少により、空洞を透過する紫外線量が減少し、しかも減少した分だけバインダー成分が増加したので層の架橋密度が大きくなり紫外線が一層透過しにくくなる。更に、前記の通り、高屈折率層には金属酸化物粒子を使用しないので粒子間の隙間を介して紫外線が透過することを防止して、より一層耐候特性を向上させたものと考えられる。
【0014】
<ガラス基板>
ガラス基板は、化学処理で強化可能な組成を有するガラスであれば特に制限はないが、イオン半径がより小さいアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンを含むガラスが好適である。
具体的には、ソーダ石灰ガラス、アルカリケイ酸塩ガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラスなどが挙げられ、これらの中でもナトリウムイオンを含むものが好適であり、ナトリウムイオンを5重量%以上含むガラスが最も好適である。
カリウムイオンの置換量が多くてより深い強化層が得られること、並びに透明性が高いことから、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスが好適に使用される。
ガラス基板の厚みは、通常、2mm~8mmである。2mm未満であると強化ガラスとしての強度が不足する場合があり、イオン交換法による化学強化に向かない。基板の面積は特に制限なく、最終製品の大きさや製造工程の制約から任意に決定される。
【0015】
<反射防止膜>
前記ガラス基板上に、通常、反射防止膜が積層されるが、曲げ特性が劣化しない範囲において、帯電防止や防眩性、密着性向上、更には可視域光の無透過の目的で、ガラス基板と反射防止膜の間に、帯電防止層、シリカ粒子層、プライマー層、或いはスモーク層を設けても良い。
本発明における反射防止膜は、下記特性を有する三つの屈折率層から構成される多層反射防止膜である。
中屈折率層:屈折率が1.67~1.87で、層厚が35~120nm
高屈折率層:屈折率が1.90~2.05で、層厚が30~115nm
低屈折率層:屈折率が1.34~1.45で、層厚が45~120nm
上記三つの屈折率層は、ガラス基板側から、中屈折率層、高屈折率層、および低屈折率層の順に配置される。
上記三層の反射防止膜とすることにより、反射防止ガラス、並びに反射防止強化ガラスはいずれも、波長380~780nmにおける両面の視感平均反射率が0.6%以下、波長380~780nmにおける視感平均透過率は99%以上となり、高性能の反射防止品が得られる。
【0016】
<中屈折率層>
反射防止膜の最下層(ガラス基板側)に位置する屈折率層である。通常、ガラス基板上に積層されている。
中屈折率層の屈折率は1.67~1.87であり、層厚は35~120nmである。好ましくは、屈折率が1.70~1.76であり、層厚が80~100nmである。
【0017】
中屈折率層は、反射防止膜並びに保護層形成後に化学処理によってガラス強化をする必要があるため、下記成分を含んでなる中屈折率層形成用の硬化性組成物(中屈折率層形成用溶液)を用意し、当該溶液を被覆、乾燥、加熱して形成することが好適である。
具体的には、下記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物(以下、アルコキシシラン化合物等ともいう)からなるバインダー成分100質量部に対して、金属酸化物粒子を25~70質量部含む硬化性組成物である。
-Si(OR4-n (1)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基またはアルコキシアルキル基であり、Rはアルキル基、アルコキシアルキル基またはハロゲン原子であり、nは0、1または2の整数である。)
【0018】
〔アルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物〕
ガラス基板に対して密着性が良好で且つ緻密で高強度の層を形成するためのバインダーの役目をなす成分であり、上記式(1)で表される。
式中Rは、アルキル基、アルケニル基またはアルコキシアルキル基である。
アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1~9、より好ましくは1~5である。アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
アルケニル基の炭素原子数は、好ましくは1~9、より好ましくは1~5である。アルケニル基として、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンニル基、ヘキセニル基などが挙げられる。
アルコキシアルキル基の炭素原子数は、好ましくは1~9、より好ましくは1~5である。アルコキシアルキル基のアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。アルコキシアルキル基のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
式中、Rはアルキル基、アルコキシアルキル基、またはハロゲン原子である。
アルキル基およびアルコキシアルキル基は、Rのそれらと同じである。
ハロゲン原子として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
具体的なアルコキシシラン化合物等としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0019】
〔金属酸化物粒子〕
中屈折率層には、前記所定の屈折率に制御するために金属酸化物粒子が配合される。
金属酸化物粒子としては、屈折率が1.50以上のものを用いることができる。例えば、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、五酸化ニオブ、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、酸化インジウム-酸化錫(ITO)、リンドープ酸化錫(PTO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)および五酸化アンチモンからなる群より選ばれる少なくとも一種の酸化物粒子であることが好ましい。
さらに具体的には、当該金属酸化物粒子として、酸化チタニウム粒子(屈折率=2.71)、酸化チタニウムと酸化ケイ素や酸化ジルコニウム等の他の酸化物とを分子レベルで複合化させて屈折率を調整した複合チタニウム金属酸化物粒子などが使用される。これらの金属酸化物粒子を適宜組み合わせて、所望の屈折率に調整する。このような粒子はそれ自体公知であり、市販されている。
【0020】
金属酸化物粒子の平均粒径は、好ましくは1~100nm、より好ましくは1~70nmである。金属酸化物粒子の屈折率は、好ましくは2.00~2.90、より好ましくは2.10~2.80である。なお、本発明において平均粒径とは、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布において、累積体積が50%の時の粒径をいう。
中屈率層組成物中の金属酸化物粒子の含有量は、アルコキシシラン化合物等100質量部に対して、25~70質量部、好ましくは、25~50質量部の範囲から、熱履歴によるアルコキシシラン化合物等の収縮に起因する屈折率変化などを考慮して前記所定の屈折率を満たすように適宜選択される。特に、中屈折率層の屈折率を高めに設計する目的と、高屈折率層との屈折率の変動バランスを保って層の収縮自体を抑制する目的で、屈折率の高い酸化チタニウム粒子が好適に使用される。
【0021】
〔中屈折率層形成用溶液〕
中屈折率層を構成する上記各成分は、必要に応じて任意成分と、粘度調整や易塗布性の目的で下記有機溶剤に溶解して中屈折率層を形成するための硬化性組成物(以下、中屈折率層形成用溶液ともいう)とする。当該溶液には、前記アルコキシシラン化合物の加水分解、縮合を促進させるために、塩酸水溶液等の酸水溶液を適宜の量で配合することができる。
【0022】
代表的な有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチルセロソルブ、エチレングリコール等のアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤が使用される。特にアルコール系溶剤が好ましく使用される。
なお、市販の金属酸化物粒子分散体を使用した時は、分散媒が中屈折率層形成用溶液中に必然的に混入することになる。当該溶液中の分散媒並びに別途配合される有機溶剤は、後工程の乾燥並びに熱硬化工程において除去される。
有機溶剤の使用量は、形成用溶液の粘度が垂れ等を生ぜず、コーティングに適した範囲となるような量であればよい。一般的には、全固形分濃度が全重量の0.1~20重量%になるような量で有機溶剤を使用すればよい。尚、当該有機溶剤量は、金属酸化物粒子分散体の分散媒の量を含めた値である。
【0023】
〔中屈折率層の形成〕
上記中屈折率層形成用溶液を、前記ガラス基板の上に塗布、乾燥し、次いで加熱して硬化させて中屈折率層を形成する。しかしながら、加熱による熱硬化工程は、後述する高屈折率層および低屈折率層を同様に塗布、乾燥まで実施した後に、一括して行うことが生産性並びに反射防止膜各層の密着性の観点から好ましい。更に、保護層まで同様に塗布、乾燥した後に、反射防止膜の全層並びに保護層を、一括して加熱して熱硬化を行うことが特に好ましい。
塗布方法は特に制限されず、ディップコート法、ロールコート法、ダイコート法、フローコート法、スプレー法等の方法が採用されるが、外観品位や層厚制御の観点からディップコート法が好適である。
乾燥は、通常、大気中70~100℃の温度で、0.25~1時間行う。熱硬化のための加熱は、通常、大気中300~500℃で0.5~2時間行う。
【0024】
<高屈折率層>
前記中屈折率層の上(視野側)に積層される屈折率層であり、中屈折率層の屈折率より高い屈折率を有する。
高屈折率層の屈折率は1.90~2.05であり、層厚は30~115nmである。好ましくは、屈折率が1.95~2.03であり、層厚が45~100nmである。
【0025】
本発明においては、高い屈折率を発現し、しかも曲げ加工処理において各層にクラックを発生させないために、従来の金属酸化物粒子に代えて金属アルコキシドオリゴマーを使用することに特徴がある。当該金属アルコキシドオリゴマーを使用した場合、更に、より高い高屈折率を発現し、しかも高屈折率層形成用溶液の可使期間が長いと云う特徴もある。
金属アルコキシドオリゴマーとは、アルコキシジルコニウム化合物或いはアルコキシチタニウム化合物が部分加水分解を受けて縮合し、分子内に例えばチタノキサン結合を有するオリゴマーである。当該オリゴマーの製造方法については特開2015-3896号に詳しく説明されており、代表的にはテトラブトキシチタン等のアルコキシチタニウムをピラゾロン塩酸塩の存在下に加水分解して製造される。当該オリゴマーは市販され入手可能である。
なお、高屈折率層中には屈折率調整用の酸化物粒子を配合していないので粒子と粒子の隙間を透過する紫外線を防止でき耐候性が向上する。
【0026】
〔高屈折率層形成用溶液〕
高屈折率層の主成分となる前記金属アルコキシドオリゴマーは、必要に応じて配合される任意成分と、前記有機溶剤に溶解して高屈折率層を形成するための硬化性組成物(高屈折率層形成用溶液)とされる。
有機溶剤の使用量は、形成用溶液の粘度が垂れ等を生ぜず、コーティングに適した範囲となるような量であればよい。一般的には、金属アルコキシドオリゴマーが全重量の0.1~20重量%になるような量で有機溶剤を使用すればよい。尚、当該有機溶剤量は、市販の金属アルコキシドオリゴマーを使用した場合には金属アルコキシドオリゴマーを溶解したアルコールなどの溶剤の量を含めた値である。
【0027】
〔高屈折率層の形成〕
上記高屈折率層形成用溶液を、中屈折率層の上に塗布、乾燥し、次いで加熱して硬化させて高屈折率層を形成する。
塗布方法、乾燥条件、加熱条件等は、中屈折率層の形成方法に準じる。また、一括して全層を加熱して熱硬化を行うことが好ましい点も同様である。
【0028】
<低屈折率層>
反射防止膜の最外層(視野側)に位置する屈折率層であり、反射防止能に最も寄与する層である。
低屈折率層の屈折率は1.34~1.45であり、層厚は45~120nmである。好ましくは、屈折率が1.37~1.42であり、層厚が55~90nmである。
【0029】
低屈折率層は、反射防止膜並びに保護層形成後に化学処理によってガラス強化をする必要があるため、更に耐アルカリ性を発現するため、下記成分を含んでなる低屈率層を形成するための硬化性組成物(低屈率層形成用溶液)を用意し、当該溶液を被覆、乾燥、加熱して形成することが好適である。
具体的には、前記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物からなるバインダー成分100質量部に対して、中空シリカ粒子を1~15質量部、およびアルミニウム塩水和物を1~10質量部含む硬化性組成物である。
【0030】
〔アルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物〕
前記式(1)で表される化合物であり、中屈折率層の項で説明した通りである。中屈折率層の形成に用いられるアルコキシシラン化合物等が、同様の目的で同様に使用することができる。
【0031】
〔中空シリカ粒子〕
本発明の低屈折率層においては、屈折率を1.34~1.45に制御するために中空シリカ粒子が使用される。
中空シリカ粒子は、内部に空洞を有する二酸化珪素からなる粒子であり、通常その粒径が5~150nmで、外殻層の厚みが1~15nm程度の範囲にある微細な中空粒子である。その内部空洞を利用してイオン交換を行う。低屈折率層の屈折率を上記範囲に制御するために、屈折率が、1.20~1.38の範囲の中空シリカ粒子を選択することが好適である。
当該中空シリカ粒子は、例えば特開2001-233611号公報等により公知のものであるが、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールに分散させた分散液の状態で一般に市販されているので、市販品を入手して利用することが好ましい。
【0032】
中空シリカ粒子は、アルコキシシラン化合物等100質量部に対して、1~15質量部、好ましくは3~10質量部の範囲から、熱履歴による屈折率変化や中屈折率層や高屈折率層との屈折率バランスなどを考慮して、前記所定の屈折率を満たすように適宜選択して用いられる。
特に、含有量を比較的低めの上記範囲として屈折率を高めに設定することにより耐候特性が向上する。中空シリカ粒子含有量を減少させたため反射防止膜各層を劣化させる紫外線が透過する空洞が減少したこと、並びにその減少量に応じてバインダー成分が増加して層の架橋密度が上がり紫外線が透過しにくくなったためと考えられる。
【0033】
〔アルミニウム塩水和物〕
本発明の反射防止ガラスに高度の耐アルカリ性を付与するために、低屈折率層及び保護層にはアルミニウム塩水和物を含有させることが好ましい。
強化ガラスは、製品化後に強化ガラスが摺りガラス状化して透明性を失うことを防止する目的で(ヤケ防止)、アルカリ洗浄工程が必要とされる。更にまた、ガラス強化時に付着した不純物質等の除去など様々な目的で、アルカリ洗浄が行われる。
ヤケとしては、具体的には、空気中の水分浸食によるガラス表面のアルカリイオン欠乏現象である青ヤケと、ガラス表面のアルカリイオンを含む水分の乾燥濃縮及び炭酸ガスにより炭酸化合物などを生成する現象である白ヤケとがある。これらのヤケは、一度発生してしまうと物理的な表面研磨をしない限り修復が困難な現象である。
ところが、当該アルカリ洗浄を行うことにより、ガラス表面に形成した反射防止膜が損傷を受けてマダラ状になって不均一になったり膜厚が減少して、所望の反射防止能が発現しない、或いは色味が変化して製品価値を失うという問題が生じる場合がある。
【0034】
アルミニウム塩水和物とは、アルミニウム塩に水分子が結晶水や配位水等の形式で付加した水和化合物である。水和物でない場合は、他の成分との親和性が乏しいため混合時に凝集または沈降してしまう場合がある。特に吸湿の性質を持つ無水物塩の場合、後述する低屈折率形成用溶液が塗膜時に空気中の水分と反応してしまい均一になりにくく、低屈折率層の形成が困難である。また、他の金属塩水和物では耐アルカリ性の発現が乏しい。
アルミニウムは、前記バインダー成分が配位できる金属であり、しかも、アルカリに侵されにくい酸化アルミニウムが屈折率層中に生成するため、耐アルカリ性を発現するものと推察される。
【0035】
アルミニウム塩水和物としては、代表的には、塩化アルミニウム三水塩、塩化アルミニウム六水塩、臭化アルミニウム六水塩、硝酸アルミニウム六水塩、硝酸アルミニウム九水塩、水酸化アルミニウム三水塩、酢酸アルミニウムn水塩、硫酸アルミニウムn水塩などが挙げられ、耐アルカリ性の発現や耐擦傷性の点で、塩化アルミニウム三水塩や塩化アルミニウム六水塩が特に好ましい。
低屈折率層において、アルミニウム塩水和物を含有させる場合は、前記アルコキシシラン化合物等100質量部に対して、1~10質量部とする。1質量部より低い場合はその効果が出ない。10質量部を超えると、前記アルコキシシラン化合物等に過剰に配位してアルコキシシラン化合物等自体の分子間の結合強度が低下し、層硬度の低下につながるので好ましくない。
【0036】
〔低屈折率層形成用溶液〕
低屈折率層を構成する上記各成分は、必要に応じて酸水溶液などの任意成分と、前出の有機溶剤に溶解して低屈折率層形成用溶液とする。
尚、使用する有機溶剤量は、市販の中空シリカ粒子分散液を使用した場合には、分散媒の量を含めた値である。
【0037】
〔低屈折率層の形成〕
上記低屈折率層形成用溶液を、高屈折率層の上に塗布、乾燥し、次いで加熱して硬化させて低屈折率層を形成する。
塗布方法、乾燥条件、加熱条件等は、中屈折率層の形成方法に準じる。また、一括して全層を加熱して熱硬化を行うことが好ましい点も同様である。
【0038】
<保護層>
反射防止膜の上(視野側)に、擦傷等の外部衝撃によって反射防止膜が損傷することを防ぐために、更に、化学強化時の反射防止膜へのイオン衝突によるダメージを防ぐために、保護層が設けられる。
保護層の屈折率は1.42~1.48で、層厚は5~50nmである。好ましくは、屈折率が1.42~1.46であり、層厚が10~30nmである。
【0039】
保護層は、前記式(1)で表されるアルコキシシラン化合物またはその部分加水分解物からなるバインダー成分100質量部に対して、金属キレート化合物を1~25質量部、およびアルミニウム塩水和物を1~20質量部含有する保護層を形成するための硬化性組成物(保護層形成用溶液)を用意し、当該溶液を被覆、乾燥、加熱して形成することが好適である。
【0040】
〔金属キレート化合物〕
架橋剤としての機能を有する成分であり、形成された層をより緻密なものとする。
該金属キレート化合物は、二座配位子を代表例とするキレート剤が、チタン、ジルコニウム、アルミニウムなどの金属に配位した化合物である。
具体的には、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトネート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトネート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトネート)チタン、テトラキス(アセチルアセトネート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトネート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトネート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトネート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等のチタンキレート化合物;
トリエトキシ・モノ(アセチルアセトネート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトネート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトネート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトネート)ジルコニウム、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ(アセチルアセトネート)トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ビス(アセチルアセトネート)ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリス(アセチルアセトネート)モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム等のジルコニウムキレート化合物;
ジエトキシ・モノ(アセチルアセトネート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトネート)アルミニウム、ジ-i-プロポキシ・モノ(アセチルアセトネート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトネート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物
などが挙げられる。
【0041】
上記金属キレート化合物は、アルコキシシラン化合物等100質量部に対して、1~25質量部、好ましくは5~20質量部使用される。25質量部を超えると、金属キレート化合物が、保護層中で結晶化し反射防止能の低下や外観不良を引き起こす。1質量部に満たない場合は、層の強度や硬度が低下して保護層として機能しない傾向にある。
【0042】
〔アルミニウム塩水和物〕
低屈折率層の形成に用いられるアルミニウム塩水和物が、同様の目的で同様に使用することができる。
当該アルミニウム塩水和物は、アルコキシシラン化合物等100質量部に対して、1~20質量部、好ましくは3~15質量部使用される。20質量部を超えると層硬度が低下する傾向にある。1質量部に満たない場合は、耐アルカリ性効果が発現しにくい。
【0043】
〔保護層形成用溶液〕
保護層を構成する上記各成分は、必要に応じて酸水溶液などの任意成分と、前記有機溶剤に溶解して保護層形成用溶液とする。
【0044】
〔保護層の形成〕
上記保護層形成用溶液を、低屈折率層の上に塗布、乾燥し、次いで加熱して硬化させて保護層を形成する。
塗布方法、乾燥条件、加熱条件等は、中屈折率層の形成方法に準じる。また、反射防止膜を含む全層を一括して加熱して熱硬化することが好ましい点も同様である。
【0045】
<化学処理によるガラス強化>
本発明の反射防止ガラスは、化学処理によってガラス強化がなされ反射防止強化ガラスとなる。
化学処理によって、ガラス中に含まれる小さなイオン半径の金属イオン(例えばナトリウムイオン)が、より大きなイオン半径の金属イオン(例えばカリウムイオン)で置換され強化が行われる。即ち、イオン半径の小さな金属イオンを、これよりも大きなイオン半径を有する金属イオンで置換することにより、ガラス表面には圧縮応力層を形成する。この結果、このガラスが破壊されるには、分子間の結合を破壊する力に加えて表面の圧縮応力を取り除く力も必要となり、通常のガラスに比して、その強度が著しく向上する。
化学処理方法としては、従来公知の方法で採用される。代表的には、未強化の反射防止ガラスを、硝酸カリウム等のカリウム塩の金属塩融液と、390℃~450℃の範囲で3~16時間接触させることにより、イオン半径の小さなナトリウムイオンをイオン半径の大きなカリウムイオンに置換して高強度の強化ガラスとする。
【0046】
<アルカリ洗浄>
上記ガラス強化工程の前工程或いは後工程で、ガラス表面に付着した有機・無機物質の除去目的、ガラスが摺りガラス状化して透明性を失うことを防止する目的(ヤケ防止)その他の理由で、アルカリ洗浄が行われる。
アルカリ洗浄は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの強アルカリ化合物や界面活性剤等をアルコール系溶剤や水に溶解したpH12~13程度のアルカリ洗浄液が市販されているので、アルカリ洗浄目的やアルカリ洗浄条件に合わせて、当該洗浄液を水等で適宜希釈して実施される。
アルカリ洗浄は、通常、室温~55℃で0.1~0.5時間程度実施され、その後水や有機溶媒で洗浄して、アルカリ洗浄液を洗い落す。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
以下の実施例及び比較例で用いた各種成分と略号、並びに試験方法は、次の通りである。
【0048】
〔アルミニウム塩水和物〕
AlCl・6HO:塩化アルミニウム六水塩
〔アルコキシシラン化合物等〕
TEOS:テトラエトキシシラン
〔金属キレート化合物〕
アルミD:モノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセトネート)アルミニウム
〔シリカ粒子〕
中空シリカ粒子:
平均粒径40nm、屈折率1.25、固形分20重量%、
分散溶媒 IPA
〔金属酸化物粒子〕
酸化チタニウム粒子:
平均粒径108.8nm、屈折率2.71、固形分15重量%、
分散溶媒 メタノール
〔金属アルコキシドオリゴマー〕
Tiオリゴマー:テトラ(n-ブトキシ)チタンを主原料として調製されたオリゴマー
溶剤 ノルマルブチルアルコール
〔有機溶剤〕
IPA:イソプロピルアルコール
BuOH:ノルマルブチルアルコール
エタコール:エチルアルコール/イソプロピルアルコール混合物
NPA:ノルマルプロピルアルコール
SBAC:酢酸s-ブチルエステル
〔加水分解触媒〕
HCl:0.05N塩酸
〔その他〕
TTB:テトラブトキシチタニウム(IV)
〔ガラス基板〕
ガラス1.1:ソーダ灰ガラス(50mm×88mm×1.1mm)
【0049】
〔各屈折率層の屈折率〕
各屈折率層の形成用溶液をガラス基板上に100nmの厚さで塗布、硬化させ各屈折率層或いは保護層を形成した。日本分光社製「分光光度計V-650」を用いて各層の反射率を測定し屈折率を算出した。
【0050】
〔両面の視感平均反射率〕
両面の視感平均反射率(以下、視感平均反射率ともいう)は、以下の方法で測定した。
日本分光社製「紫外可視分光光度計V-650」を使用し、380nm~780nmで測定し、JIS Z 8722に基づき重価係数を掛けることで算出した。測定対象品は、ガラス基板の両面に反射防止膜並びに保護層を形成した反射防止ガラスである。なお、これらの測定値は、ガラス強化前の反射防止ガラスの値であるが、ガラス強化後のこの値は、ほとんど変化しないことを確認した。
【0051】
〔視感平均透過率〕
視感平均透過率は、以下の方法で測定した。日本分光社製「紫外可視分光光度計V-650」を使用し、380nm~780nmで測定し、JIS Z 8722に基づき重価係数を掛けることで算出した。なお、これらの測定値は、ガラス強化前の反射防止ガラスの値であるが、ガラス強化後のこの値は、ほとんど変化しないことを確認した。
【0052】
〔曲げ特性〕
曲げ試験とは、曲げ型の上にガラス試験片をセットし電気炉加熱により試験片の与熱、曲げ成型加熱、および徐冷の1サイクルの工程を行う試験方法であり、自重曲げまたはプレスによる熱曲げが該当する。本試験ではソーダ石灰ガラスを使用して与熱、成型加熱は600℃±10℃で10~30分行い、ガラス表面の伸長率が5%になるように自重曲げを行った。
伸長率は以下の方法で測定・算出した。曲げたガラス最表面の弧の巾(w)、弧の高さ(h)を実測し、下記公知の式に従ってガラス最表面のR値を算出する。
【0053】
【数1】
【0054】
次いで、得られたR値、ガラスの厚み(t)、θ=90°(直角曲げ条件)を用い、下記式に従って伸長率を決定した。
【0055】
【数2】
【0056】
曲げた局部をレーザー顕微鏡で表面観察を行い、伸長方向に対して垂直方向に裂けたような模様(クラック)がないことを評価基準とした。
○:クラック無し
×:クラック発生
【0057】
〔耐候性:促進耐候性試験〕
サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験によって、BP63℃、湿度50%RH(相対湿度)、試験時間2000時間で耐侯性試験を行った。測定装置、条件、および方法はJIS B 7753に基づいた。碁盤目剥離テープ試験を行い反射防止膜及び保護層の剥離がないことを基準とし評価を行った。
○:膜剥がれ無し
×:膜剥がれ有り
【0058】
〔反射防止膜の耐アルカリ性〕
アルカリ洗浄による反射防止膜のアルカリ耐性を調べるために、下記方法でアルカリ洗浄し、アルカリ洗浄前とアルカリ洗浄後との反射防止強化ガラスの色の変化を肉眼で観察し、下記基準で評価した。
得られた反射防止ガラスを、横浜油脂工業社製「セミクリーンMG;pH=12.4」を水で5wt%希釈した希釈液に、超音波下に40℃で10分間浸漬してアルカリ洗浄し、その後温水およびIPAで洗浄液を洗い流した。次いで、硝酸カリウムの溶融液中に390℃で16時間浸漬して化学強化処理を行い反射防止強化ガラスとした。
反射防止ガラス(未強化)の色は無色透明である。評価は強化後の反射防止強化ガラスに対して行った。
「◎」と「〇」である場合は、反射防止膜がアルカリ洗浄によって光学的に変質してないことを示す。「×」は明らかに反射防止膜の剥がれが生じた。
◎:変化なし
○:色目の変化はみられるが剥がれ無し
×:膜剥がれ有り
【0059】
〔ガラス強度;圧縮応力値測定〕
折原製作所社製「FSM-6000LE」を使用して、化学強化ガラス表面の屈折率差(イオン置換起因)による表面応力CS(MPa)及び応力層深さDOL(μm)を測定した。CS及びDOL値は大きいほど強化度が大きいことを示す。DOL値が10μm以上であれば十分強化ガラスとして機能する。
【0060】
〔中屈折率層形成用溶液の調製〕
表1に示す成分を、同表に示す配合量で混合し、中屈折率層形成用溶液(m-1~m-5)を調製した。
【0061】
【表1】
【0062】
〔高屈折率層形成用溶液の調製〕
表2に示す成分を、同表に示す配合量で混合し、高屈折率層形成用溶液(h-1~h-3)を調製した。
h-2は、金属アルコキシドオリゴマーに替えてテトラアルコキシ金属を配合した溶液である。h-3は、金属酸化物粒子を配合した溶液である。
【0063】
【表2】
【0064】
〔低屈折率層形成用溶液の調製〕
表3に示す成分を、同表に示す配合量で混合し、低屈折率層形成用溶液(l-1~l-9)を調製した。
l-9は、アルミニウム塩水和物を含まない溶液である。
【0065】
【表3】
【0066】
〔保護層形成用溶液の調製〕
表4に示す成分を、同表に示す配合量で混合し、保護層形成用溶液(cv-1~cv-8)を調製した。
cv-7は、アルミニウム塩水和物を含まない溶液であり、cv-8は、アルミニウム塩水和物を過剰に含む溶液である。
【0067】
【表4】
【0068】
実施例1
ガラス1.1(ガラス基板)を、中屈折率層形成用溶液(m-2)にディップした後100℃で15分間乾燥し、層厚が86nmの半硬化中屈折率層をガラス基板上に形成した。上記条件下の乾燥によって、中屈折率層は不十分な硬化状態(半硬化)になっているものと考えられ、以下の各層も同様である。なお、層厚は、ディップした中屈折率層形成用溶液からの引き上げ速度により調整した。以下の各層も同じである。
次いで、上記ガラス基板を、高屈折率層形成用溶液(h-1)にディップした後100℃で15分間乾燥し、層厚が51nmの半硬化高屈折率層を半硬化中屈折率層上に形成した。
次いで、上記ガラス基板を、低屈折率層形成用溶液(l-1)にディップした後100℃で15分間乾燥し、層厚が88nmの半硬化低屈折率層を半硬化高屈折率層上に形成した。
次いで上記ガラス基板を、保護層形成用溶液(cv-1)にディップした後、100℃で15分間乾燥し、層厚が10nmの半硬化保護層を半硬化低屈折率層上に形成した。
上記半硬化の反射防止膜と保護層とを積層したガラス基板を、300℃で30分間加熱して熱硬化を行い本発明の反射防止ガラスを作製した。
【0069】
得られた反射防止ガラスの視感平均反射率と視感平均透過率を、前述の方法に従って測定し、各層の層厚、屈折率と併せて表5に示した。
更に、以下の方法で、上記反射防止ガラスのアルカリ洗浄並びにガラス強化を行った。上記反射防止ガラスを、横浜油脂工業社製「セミクリーンMG;pH=12.4」を水で5wt%希釈した希釈液に、超音波下に40℃で10分間浸漬してアルカリ洗浄し、その後温水およびIPAで洗浄液を洗い流した。次いで、硝酸カリウムの溶融液中に390℃で16時間浸漬して化学強化処理を行い反射防止強化ガラスとした。
得られた反射防止強化ガラスの、曲げ特性、耐候性、ガラス強度、及び耐アルカリ性について、前述の方法に従って測定した。結果は表5に示した。
【0070】
実施例2~16
表5、6に示す組み合わせで、各屈折率層形成用溶液と保護層形成用溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、反射防止ガラスおよび反射防止強化ガラスを作製した。
得られた反射防止ガラスの視感平均反射率と視感平均透過率、各層の層厚、屈折率、更に、反射防止強化ガラスの曲げ特性、耐候性、ガラス強度、および耐アルカリ性を、表5、6に示した。
高屈折率層が、金属アルコキシドオリゴマーを含む硬化性組成物の硬化物からなる場合は、伸長率が5%の曲げにおいて、保護層および反射防止膜の各層にクラックが発生しなかった。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
比較例1~14、参考例1~6
表7、8に示す組み合わせで、各屈折率層形成用溶液と保護層形成用溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、反射防止ガラスおよび反射防止強化ガラスを作製した。
得られた反射防止ガラスの視感平均反射率と視感平均透過率、各層の層厚、屈折率、更に、反射防止強化ガラスの曲げ特性、耐候性、ガラス強度、および耐アルカリ性を、あわせて表7、8に示した。
【0074】
【表7】
【0075】
【表8】
【0076】
比較例1は、低屈折率層の屈折率が高い場合であり、比較例2は、低屈折率層の屈折率が低い場合であり、何れも反射防止能が劣った。
比較例3は、中屈折率層の屈折率が低い場合であり、比較例4は、中屈折率層の屈折率が高い場合であり、何れも反射防止能が劣った。
比較例5は、低屈折率層の層厚が薄い場合であり、比較例6は、低屈折率層の層厚が厚い場合であり、何れも反射防止能が劣った。
比較例7は、高屈折率層の層厚が薄い場合であり、比較例8は、高低屈折率層の層厚が厚い場合であり、何れも反射防止能が十分でなかった。
比較例9は、中屈折率層の層厚が薄い場合であり、比較例10は、中屈折率層の層厚が厚い場合であり、何れも反射防止能が十分でなかった。
比較例11は、高屈折率層に金属アルコキシドオリゴマーに替えてシランカップリング剤と酸化チタニウム粒子を使用した場合であり、反射防止能が十分でなかった。
比較例12は、高屈折率層に金属アルコキシドオリゴマーに替えてテトラアルコキシ金属を使用した場合であり、形成溶液の硬化が早く層厚にバラツキが生じしかも熱硬化時の屈折率のバラツキが大きくて制御できなかった。従って、反射防止能その他特性の測定はできなかった。
比較例13は、保護層の層厚が薄い場合であり、耐アルカリ性に劣り、比較例14は、保護層の層厚が厚い場合であり、視感平均反射率に劣った。
【0077】
参考例1は、保護層に金属キレート化合物を使用しなかった場合であり、耐アルカリ性に劣った。
参考例2は、保護層に金属キレート化合物を過剰に使用した場合であり、曲げ特性が劣った。
参考例3は、保護層にアルミニウム塩水和物を使用しなかった場合であり、耐アルカリ性が劣った。
参考例4は、保護層にアルミニウム塩水和物を過剰に使用した場合であり、保護層が白化して反射防止能が発現しなかった。
参考例5は、低屈折率層にアルミニウム塩水和物を過剰に使用した場合であり、低屈折率層が白化して反射防止能が発現しなかった。
参考例6は、低屈折率層にアルミニウム塩水和物を使用しなかった場合であり、十分な反射特性および曲げ特性を示すものの、耐アルカリ性に劣った。