(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005047
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】岩盤評価方法及び岩盤評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20240110BHJP
G01N 21/954 20060101ALI20240110BHJP
E21D 9/093 20060101ALI20240110BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240110BHJP
G06V 10/40 20220101ALI20240110BHJP
【FI】
G01N21/88 J
G01N21/954 A
E21D9/093 F
G06T7/00 300F
G06V10/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105028
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸邉 勇人
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 保幸
(72)【発明者】
【氏名】山下 慧
【テーマコード(参考)】
2D054
2G051
5L096
【Fターム(参考)】
2D054AB07
2D054AC20
2D054GA10
2D054GA15
2D054GA17
2G051AA90
2G051AB03
2G051CA04
2G051EA11
2G051EA16
2G051EC02
2G051ED04
5L096BA03
5L096CA02
5L096FA17
5L096FA32
5L096FA52
5L096FA66
5L096GA19
5L096JA11
5L096JA22
(57)【要約】
【課題】岩盤全体の評価を定量的に行う。
【解決手段】岩盤評価方法は、評価対象となる岩盤の範囲の画像Pを、亀裂が生じている部分を示す亀裂画素と、亀裂が生じていない部分を示す非亀裂画素と、に区分するステップと、画像Pを複数の領域Rに分割するステップと、領域R内において生じている亀裂の間隔を領域R毎に算出するステップと、算出された間隔に応じて複数の領域Rを複数の階級のうち該当する階級へとそれぞれ振り分けるステップと、各階級に振り分けられた領域Rの数に基づいて、岩盤全体に生じている亀裂の傾向を示す亀裂間隔傾向曲線を求めるステップと、亀裂間隔傾向曲線から岩盤全体に生じている亀裂の間隔を代表する代表亀裂間隔Iを求めるステップと、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤に生じている亀裂の状態を評価する岩盤評価方法であって、
評価対象となる前記岩盤の範囲の画像を取得し、前記画像を、亀裂が生じている部分を示す亀裂画素と、亀裂が生じていない部分を示す非亀裂画素と、に区分するステップと、
前記画像を複数の領域に分割するステップと、
前記領域内において生じている亀裂の間隔を前記領域毎に算出するステップと、
前記間隔の大きさを複数の階級に区分し、算出された前記間隔に応じて複数の前記領域を前記複数の階級のうち該当する階級へとそれぞれ振り分けるステップと、
各階級に振り分けられた前記領域の数に基づいて、前記岩盤全体に生じている亀裂の傾向を示す亀裂間隔傾向曲線を求めるステップと、
前記亀裂間隔傾向曲線から前記岩盤全体に生じている亀裂の間隔を代表する代表亀裂間隔を求めるステップと、を含む、
岩盤評価方法。
【請求項2】
前記亀裂間隔傾向曲線は、
横軸を亀裂間隔、縦軸を前記岩盤全体に対して前記領域が占める割合としたグラフにおいて、
算出された前記間隔が前記横軸に示される前記亀裂間隔以下となっている前記領域が、評価対象となる前記岩盤全体に対してどの程度の割合で存在しているかを示す曲線である、
請求項1に記載の岩盤評価方法。
【請求項3】
前記代表亀裂間隔は、前記岩盤全体に占める前記領域の割合を予め設定された代表割合とした場合に、前記亀裂間隔傾向曲線から得られる前記亀裂間隔である、
請求項2に記載の岩盤評価方法。
【請求項4】
前記亀裂間隔傾向曲線の形状に基づいて、前記岩盤全体の状態を判定するステップをさらに含む、
請求項1から3の何れか1つに記載の岩盤評価方法。
【請求項5】
岩盤に生じている亀裂の状態を評価する岩盤評価装置であって、
評価対象となる前記岩盤の範囲の画像を取得し、前記画像を、亀裂が生じている部分を示す亀裂画素と、亀裂が生じていない部分を示す非亀裂画素と、に区分する亀裂画素抽出部と、
前記画像を複数の領域に分割する画像分割部と、
前記領域内において生じている亀裂の間隔を前記領域毎に算出する亀裂間隔算出部と、
前記間隔の大きさを複数の階級に区分し、算出された前記間隔に応じて前記領域を複数の前記階級の何れかの階級に振り分ける領域振分部と、
各階級に振り分けられた前記領域の数に基づいて、前記岩盤全体に生じている亀裂の傾向を示す亀裂間隔傾向曲線を求める曲線算出部と、
前記亀裂間隔傾向曲線から前記岩盤全体に生じている亀裂の指標となる代表亀裂間隔を求める代表亀裂間隔算出部と、を備える、
岩盤評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤評価方法及び岩盤評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、岩盤に生じている亀裂の状態を解析し、亀裂が延びている方向を表示する亀裂解析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された亀裂解析方法によれば、亀裂が延びている方向を表示することにより、作業員に岩盤のどの部分にどのような亀裂が生じているかを直感的に把握させることが可能である。一方で、特許文献1に記載された亀裂解析方法では、岩盤全体の評価については示されないことから、岩盤全体の状態については依然として作業員が目視によって確認し、評価している。しかしながら、このような作業員の主観による評価は、個人差が生じやすいことから、岩盤全体への剥落対策等を検討するための指標としては適していない。
【0005】
本発明は、岩盤全体の評価を定量的に行うことが可能な方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、岩盤に生じている亀裂の状態を評価する岩盤評価方法であって、評価対象となる岩盤の範囲の画像を取得し、画像を、亀裂が生じている部分を示す亀裂画素と、亀裂が生じていない部分を示す非亀裂画素と、に区分するステップと、画像を複数の領域に分割するステップと、領域内において生じている亀裂の間隔を領域毎に算出するステップと、間隔の大きさを複数の階級に区分し、算出された間隔に応じて複数の領域を複数の階級のうち該当する階級へとそれぞれ振り分けるステップと、各階級に振り分けられた領域の数に基づいて、岩盤全体に生じている亀裂の傾向を示す亀裂間隔傾向曲線を求めるステップと、亀裂間隔傾向曲線から岩盤全体に生じている亀裂の間隔を代表する代表亀裂間隔を求めるステップと、を含む。
【0007】
また、本発明は、岩盤に生じている亀裂の状態を評価する岩盤評価装置であって、評価対象となる岩盤の範囲の画像を取得し、画像を、亀裂が生じている部分を示す亀裂画素と、亀裂が生じていない部分を示す非亀裂画素と、に区分する亀裂画素抽出部と、画像を複数の領域に分割する画像分割部と、領域内において生じている亀裂の間隔を領域毎に算出する亀裂間隔算出部と、間隔の大きさを複数の階級に区分し、算出された間隔に応じて領域を複数の階級の何れかの階級に振り分ける領域振分部と、各階級に振り分けられた領域の数に基づいて、岩盤全体に生じている亀裂の傾向を示す亀裂間隔傾向曲線を求める曲線算出部と、亀裂間隔傾向曲線から岩盤全体に生じている亀裂の指標となる代表亀裂間隔を求める代表亀裂間隔算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、岩盤全体の評価を定量的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る岩盤評価装置の評価対象となる岩盤の一例(切羽)を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る岩盤評価装置のブロック図である。
【
図4】分割された画像の中の1つの領域を示す図である。
【
図5】岩盤評価装置において求められる亀裂間隔傾向曲線について説明するためのグラフである。
【
図6】亀裂間隔傾向曲線から把握される代表亀裂間隔について説明するためのグラフである。
【
図7】岩盤評価装置において行われる処理手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る岩盤評価装置10及び岩盤評価方法について説明する。
【0011】
本発明の実施形態に係る岩盤評価装置10は、岩盤の状態、具体的には、岩盤が剥落しやすい状態となっているか否かを定量的に評価する装置であり、例えば、
図1に示されるように、NATM工法によってトンネル1を構築する際に掘削面となる切羽2(岩盤)の状態を評価するものである。
【0012】
以下では、岩盤評価装置10が、
図1に示されるような切羽2(岩盤)の状態を評価するために用いられる場合について説明する。なお、岩盤評価装置10の評価対象となる岩盤は、切羽2に限定されず、掘削によって露出した岩盤であればよく、切羽2以外のトンネル1内の掘削面であってもよいし、切土法面であってもよい。
【0013】
山岳トンネル等の施工に主に用いられるNATM工法では、発破工程、ズリ出し工程、一次コンクリート吹付工程、支保工建込工程及び二次コンクリート吹付工程を1~3mごとに繰り返すことにより、
図1に示されるようなトンネル1が構築される。
【0014】
支保工建込工程以後の工程では、切羽2の近傍において作業員が作業を行うことがあることから、作業の安全性を高めるために、剥落するおそれがある切羽2に対して予めコンクリート材料を吹付けたりボルトを打込んだりすることにより、切羽2を安定させている。
【0015】
このように切羽2に対してコンクリート材料を吹付けたりボルトを打ち込んだりするにあたって、切羽2の状態、具体的には、切羽2が剥落しやすいか否かを全体的に評価する必要があるが、この評価は、一般的に作業員が切羽2に生じている亀裂の状態を目視により確認することによって行われる。しかしながら、このような作業員の主観による評価は、作業員の熟練度が高い場合であっても個人差が生じやすいことから、切羽2全体への剥落対策等を検討するための指標として適しているとは言えない。
【0016】
そこで本実施形態では、以下に示す岩盤評価装置10により、切羽2(岩盤)全体の評価を定量的に行うことを可能としている。
【0017】
岩盤評価装置10は、
図2に示すように、撮像部20によって撮像された画像を処理する画像処理部11と、処理された画像に基づいて後述の亀裂間隔傾向曲線等を算出する演算部12と、演算部12の算出結果に基づいて切羽2(岩盤)全体の状態を評価する評価部13と、演算部12及び評価部13で用いられる演算式や判定基準等が記憶されるとともに演算結果や評価結果が記憶される記憶部14と、を備える。
【0018】
岩盤評価装置10は、具体的には、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースは岩盤評価装置10に接続された撮像部20や表示部30、図示しない入力部との情報の入出力に使用される。RAM及びROMは記憶部14に相当する。なお、画像処理部11、演算部12及び評価部13は、岩盤評価装置10の各機能を、仮想的なユニットとして示したものであり、物理的に存在することを意味するものではない。
【0019】
撮像部20は、有線又は無線で岩盤評価装置10に接続されたデジタルカメラであり、撮像部20によって撮像された切羽2の画像P(
図3参照)は、岩盤評価装置10の画像処理部11へと送られる。なお、撮像部20は、デジタルカメラに限定されず、切羽の画像Pを撮像可能な装置であればどのような装置であってもよい。
【0020】
表示部30は、演算部12で演算された結果や評価部13で評価された結果、撮像部20で撮像された画像P等を表示可能なディスプレイ装置である。
【0021】
このように岩盤評価装置10と、岩盤評価装置10に接続される機器により岩盤評価システム100が構築される。
【0022】
続いて、岩盤評価装置10の各部の機能について説明する。
【0023】
画像処理部11は、評価対象となる切羽2(岩盤)の範囲の画像Pを取得し、画像P内の画素を亀裂が生じている部分を示す亀裂画素と、亀裂が生じていない部分を示す非亀裂画素と、に区分する亀裂画素抽出部11aと、亀裂画素と非亀裂画素とに区分された画像Pを予め設定されたピクセル数を有する複数の領域Rに分割する画像分割部11bと、を有する。
【0024】
亀裂画素抽出部11aでは、撮像部20によって撮像された切羽2全体の画像Pをデジタルデータとして取り込む処理が行われるとともに、取り込まれた画像Pを白色と黒色との2階調に変換する二値化処理が行われる。また、亀裂画素抽出部11aでは、二値化処理された画像P中の白色画素を亀裂が生じている部分を示す亀裂画素として抽出し、黒色画素を亀裂が生じていない部分を示す非亀裂画素として抽出する抽出処理が行われる。なお、撮像部20によって撮像された画像内に評価対象となる切羽2以外の部分が写っている場合には、切羽2の外縁に相当する範囲内の画像が切羽2全体の画像Pとして抽出された後に亀裂画素抽出部11aに取り込まれる。
【0025】
画像分割部11bでは、亀裂画素抽出部11aによって二値化処理された画像Pを予め設定された間隔で複数に分割する処理が行われる。具体的には、例えば、
図3において点線で示されるような一定の間隔において切羽2全体の画像Pを正方形状に分割する。分割によって生成された各領域Rは、例えば、
図4に示すように、20×20のピクセルで構成される。なお、領域Rの形状は、
図4に示されるような正方形に限定されず、長方形であってもよいし、他の形状であってもよい。また、領域Rを構成するピクセル数も撮像部20の画素数に応じて任意の大きさに変更可能である。
【0026】
演算部12は、領域R内において生じている亀裂の間隔を領域R毎に算出する亀裂間隔算出部12aと、間隔の大きさを複数の階級に区分し、算出された間隔に応じて領域Rを複数の階級の何れかの階級に振り分ける領域振分部12bと、各階級に振り分けられた領域Rの数に基づいて、切羽2(岩盤)全体に生じている亀裂の傾向を示す亀裂間隔傾向曲線を求める曲線算出部12cと、亀裂間隔傾向曲線から切羽2(岩盤)全体に生じている亀裂の指標となる代表亀裂間隔Iを求める代表亀裂間隔算出部12dと、を有する。
【0027】
亀裂間隔算出部12aでは、
図4に示すように、水平方向に沿って延びる亀裂計測線L上に位置する亀裂画素(白色画素)の数をカウントし、亀裂計測線Lに沿う方向における領域Rの長さである領域サイズSをカウントされた亀裂画素の数で除することにより各領域Rの亀裂間隔を算出する処理が行われる。なお、亀裂計測線L上において白色画素が連続して存在している場合は、1つの亀裂としてカウントされる。したがって、
図4に示す例においてカウントされる亀裂数は4つであり、算出される亀裂間隔はS/4となる。亀裂間隔の算出に用いられる領域サイズSは、ピクセル数から推定される実際の切羽2における長さであるが、例えば領域サイズSが1mとなるように領域Rのピクセル数が設定されていてもよい。
【0028】
なお、亀裂計測線Lの位置は、領域Rの略中心を通る位置である必要はなく、各領域Rに対して同じ位置となるように設定されていれば、どのような位置であってもよい。また、亀裂計測線Lの数は、1本に限定されず、複数本であってもよく、この場合、各亀裂計測線Lにおいて算出された亀裂間隔の平均値または最大値が亀裂間隔として算出される。
【0029】
また、亀裂計測線Lは、水平方向に沿って延びる線に限定されず、鉛直方向に沿って延びる線であってもよいし、水平方向に対して所定の角度で傾いて延びる線であってもよい。
図4に示すように亀裂計測線Lが水平方向に沿って延びている場合、亀裂間隔を算出する際に用いられる領域Rの長さは、水平方向における領域Rの一辺の長さ(領域サイズS)となるが、亀裂計測線Lが鉛直方向に沿って延びている場合、亀裂間隔を算出する際に用いられる領域Rの長さは、鉛直方向における領域Rの一辺の長さとなる。
【0030】
領域振分部12bは、各領域Rを亀裂間隔の大きさに応じて振り分けるために予め設定された複数の階級を有する。例えば、亀裂計測線Lに沿う方向における領域Rの長さが領域サイズSである場合、亀裂間隔が0以上0.1S未満を1番目の階級、亀裂間隔が0.1S以上0.2S未満を2番目の階級とし、亀裂間隔がS以上、すなわち、亀裂がカウントされなかった場合を11番目の階級とする11個の階級が予め設定される。なお、この階級設定は一例であり、階級数はこれよりも多くてもよいし少なくてもよい。但し、各階級における亀裂間隔の範囲は等しく設定されることが好ましい。
【0031】
領域振分部12bでは、このように予め設定された複数の階級の何れかへと、亀裂間隔算出部12aで算出された亀裂間隔に応じて各領域Rを振り分ける振分処理が行われる。これにより
図5に示すように横軸を階級(亀裂間隔)とし、縦軸(
図5中左側)を領域Rの数(度数)とするヒストグラム(度数分布表)が生成される。
【0032】
曲線算出部12cでは、領域振分部12bにおいて各階級に振り分けられた領域Rの数(度数)を基に、亀裂間隔が小さい階級(例えば、上述の1番目の階級)からの累積相対度数分布を生成した後、累積相対度数分布から
図5に示される累積相対度数曲線(累積相対度数分布折線)を亀裂間隔傾向曲線として求める処理が行われる。
【0033】
曲線算出部12cにより求められる亀裂間隔傾向曲線は、
図5に示すように横軸を亀裂間隔とし、縦軸(
図5中右側)を切羽2(岩盤)全体に占める領域Rの割合(累積相対度数)とする折れ線グラフとなる。なお、上述のようにして求められた折れ線グラフの近似曲線を亀裂間隔傾向曲線としてもよい。
【0034】
代表亀裂間隔算出部12dでは、曲線算出部12cによって求められた亀裂間隔傾向曲線において、予め設定された代表割合となるときの亀裂間隔を、切羽2(岩盤)全体に生じている亀裂の指標となる代表亀裂間隔Iとして求める処理が行われる。代表割合は、任意の割合であるが、例えば、30%前後の割合に設定される。
【0035】
このようにして求められた代表亀裂間隔Iから、切羽2(岩盤)全体において代表割合(例えば30%)の領域Rの亀裂間隔は、代表亀裂間隔I以下となっていること、換言すれば、代表亀裂間隔I以下の間隔の亀裂が生じている領域Rの割合は、切羽2(岩盤)全体に対して代表割合(例えば30%)となっていることが示される。また、代表割合を50%とした場合、代表亀裂間隔Iは、切羽2(岩盤)の平均的な亀裂間隔を示すことになる。
【0036】
以上のように演算部12により、切羽2(岩盤)全体の状態を定量化した代表亀裂間隔Iが求められる。
【0037】
評価部13は、上述のように演算部12によって算出された代表亀裂間隔Iや亀裂間隔傾向曲線の波形に基づいて、切羽2(岩盤)全体の亀裂の状態を評価する。
【0038】
例えば、
図6に示すように、3つの傾向を示す亀裂間隔傾向曲線(第1パターンA,第2パターンB,第3パターンC)があった場合、代表割合に対する代表亀裂間隔I1が最も小さい第1パターンAの切羽2(岩盤)は、細かい亀裂が多く、全体として比較的剥落しやすい状態にあるといえる一方、代表亀裂間隔I3が最も大きい第3パターンCの切羽2(岩盤)は、細かい亀裂が少なく、全体として比較的剥落しにくい状態にあるといえる。
【0039】
また、代表亀裂間隔I2の大きさが第1パターンAと第3パターンCとの間である第2パターンBの切羽2(岩盤)は、細かい亀裂と粗い亀裂とが比較的均等に分布した状態にあるといえる。
【0040】
このため、評価部13は、演算部12によって算出された代表亀裂間隔Iと、予め設定された基準値と、を比較することにより切羽2(岩盤)全体の状態を評価している。
【0041】
具体的には、
図6に示すように、例えば、亀裂計測線Lに沿う方向における領域Rの長さが領域サイズSである場合、第1基準値を0.3S、第2基準値を0.7Sとし、演算部12によって算出された代表亀裂間隔Iが第1基準値以下である場合には、比較的剥落しやすい状態にあると判定し、演算部12によって算出された代表亀裂間隔Iが第2基準値以上である場合には、比較的剥落しにくい状態にあると判定し、演算部12によって算出された代表亀裂間隔Iが第1基準値よりも大きく第2基準値よりも小さい場合には、細かい亀裂と粗い亀裂とが比較的均等に分布した状態にあると判定する。なお、予め設定される基準値は2つに限定されず、1つであってもよいし、3つ以上設定されていてもよい。
【0042】
このように評価部13によって判定された結果は、演算部12によって算出された代表亀裂間隔Iとともに表示部30に表示される。これにより、作業員は定量的に評価された切羽2(岩盤)全体の状態を把握することができる。
【0043】
なお、評価部13による評価を行わず、演算部12によって算出された代表亀裂間隔Iのみを表示部30に表示するようにしてもよく、この場合も、作業員は切羽2(岩盤)全体の状態を定量化した代表亀裂間隔Iの大きさから切羽2全体の状態を把握することができる。また、切羽2(岩盤)全体の状態を作業員に対して視覚的に分かりやすくするためには、表示部30に、代表亀裂間隔Iとともに、
図5に示されるようなグラフを表示することが好ましい。
【0044】
また、
図6に示すように、比較的剥落しやすい状態にあると判定される第1パターンAは、亀裂間隔が比較的小さい領域での上昇率が大きくなる。このため、亀裂間隔傾向曲線の形状が、例えば、
図6に示す第1判定ラインを超える部分がある場合には、切羽2(岩盤)が比較的剥落しやすい状態にあると判定するようにしてもよい。
【0045】
一方で、
図6に示すように、比較的剥落しにくい状態にあると判定される第3パターンCは、亀裂間隔が比較的大きい領域に至るまで上昇率が小さくなる。このため、亀裂間隔傾向曲線の形状が、例えば、
図6に示す第2判定ラインを超える部分がある場合には、切羽2(岩盤)が比較的剥落しにくい状態にあると判定するようにしてもよい。
【0046】
また、第2パターンBのように、亀裂間隔傾向曲線の形状が第1判定ラインと第2判定ラインとの間にある場合、切羽2(岩盤)は細かい亀裂や粗い亀裂が比較的均等に分布していると判定するようにしてもよい。なお、第2パターンBは、
図5に示される亀裂間隔傾向曲線を多項式近似することにより求められた近似式である。近似方法は、多項式近似に限定されず、対数近似や指数近似であってもよい。
【0047】
このように切羽2(岩盤)の状態の評価は、演算部12で求められた亀裂間隔傾向曲線の形状に基づいて行うことも可能である。
【0048】
評価部13において判定に用いられる代表亀裂間隔Iの第1及び第2基準値や上述の第1及び第2判定ラインは、予め記憶部14に記憶される。また、演算部12において代表亀裂間隔Iを求める際に用いられる代表割合についても予め記憶部14に記憶される。なお、これら基準値等は、切羽2(岩盤)の評価を行う際に、図示しない入力部を介して作業員によりその都度入力されてもよい。
【0049】
次に、上記構成の岩盤評価装置10により行われる岩盤評価方法について、
図7のフローチャートを参酌して説明する。
【0050】
まず、ステップS10において、撮像部20によって撮像された切羽2(岩盤)の画像Pが画像処理部11の亀裂画素抽出部11aに評価対象の画像Pとして取り込まれる。
【0051】
続くステップS11において、取り込まれた画像Pは、亀裂画素抽出部11aによって二値化処理され、亀裂が生じている部分(亀裂画素)と亀裂が生じていない部分(非亀裂画素)とに区分される。
【0052】
二値化処理された画像Pは、続くステップS12において、画像分割部11bにより、予め設定された間隔で複数の領域Rに分割される。なお、ステップS12において行われる画像Pの分割は、二値化処理を行うステップS11の前に行われてもよい。
【0053】
次に、ステップS13において、演算部12の亀裂間隔算出部12aにより、複数に分割された各領域R内において生じている亀裂の間隔が上述の手順によって領域R毎にそれぞれ算出される。
【0054】
亀裂間隔の大きさが確定した領域Rは、続くステップS14において、演算部12の領域振分部12bにより、亀裂間隔の大きさに応じて複数の階級の何れかの階級へと振り分けられる。
【0055】
続くステップS15では、演算部12の曲線算出部12cにより、各階級に振り分けられた領域Rの数に基づいて、切羽2(岩盤)全体に生じている亀裂の傾向を示す亀裂間隔傾向曲線が上述の手順によって求められる。
【0056】
亀裂間隔傾向曲線が求められると、続くステップS16において、演算部12の代表亀裂間隔算出部12dにより、切羽2(岩盤)全体に生じている亀裂の指標となる代表亀裂間隔Iが上述の手順によって求められる。
【0057】
上記工程を経て切羽2(岩盤)全体の代表亀裂間隔Iが求められると、ステップS17に進み、評価部13により、代表亀裂間隔Iに基づいて切羽2(岩盤)全体の状態が上述の手順によって判定される。
【0058】
評価部13によって判定された結果は、演算部12によって算出された代表亀裂間隔Iとともに表示部30に表示される。これにより岩盤評価装置10により行われる岩盤評価方法が完了し、作業員は、表示部30に表示された内容を見ることによって、定量的に評価された切羽2(岩盤)全体の状態を把握することができる。なお、表示部30に表示される内容は、作業員が携帯する端末等に表示されてもよい。
【0059】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0060】
岩盤評価装置10では、領域R毎に亀裂の間隔を算出した後、算出された亀裂間隔に応じて領域Rを階級毎に振り分け、各階級に振り分けられた領域Rの数に基づいて切羽2(岩盤)全体に生じている亀裂の傾向を示す亀裂間隔傾向曲線が求められる。そして、この亀裂間隔傾向曲線から切羽2(岩盤)全体に生じている亀裂の間隔を代表する代表亀裂間隔Iが求められる。
【0061】
このように、切羽2(岩盤)全体の状態を定量化した代表亀裂間隔Iは、各領域R内において生じている亀裂の間隔が反映された亀裂間隔傾向曲線から求められたものであって、撮像部20を介して取得された画像Pから自動的に求められる。したがって、このように求められた代表亀裂間隔Iを指標とすることで、作業員の判断を介することなく、切羽2(岩盤)全体の評価を定量的に行うことができる。
【0062】
また、切羽2(岩盤)全体の状態が代表亀裂間隔Iという数値で表現されるため、切羽2全体への剥落対策等を検討するための指標として代表亀裂間隔Iを用いることにより、必要な対策を定量的に選定することが可能となり、過剰な対策を施すことが抑制されることで結果として対策コストを低減させることができる。
【0063】
また、切羽2(岩盤)全体の状態に応じて最適な対策を定量的に選定することが可能となることで剥落が生じることが未然に防止され、結果として作業員の安全性を向上させることができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0065】
10・・・岩盤評価装置
2・・・切羽(岩盤)
11・・・画像処理部
11a・・・亀裂画素抽出部
11b・・・画像分割部
12・・・演算部
12a・・・亀裂間隔算出部
12b・・・領域振分部
12c・・・曲線算出部
12d・・・代表亀裂間隔算出部
13・・・評価部
20・・・撮像部
30・・・表示部