(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050475
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】1つ又は複数の電解生成物を製造するための方法及び設備
(51)【国際特許分類】
C25B 15/00 20060101AFI20240403BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240403BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240403BHJP
【FI】
C25B15/00 302Z
C25B1/04
C25B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023157995
(22)【出願日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】22020472
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519288685
【氏名又は名称】リンデ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Linde GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.-Carl-von-Linde-Str. 6-14, 82049 Pullach i. Isartal, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ、アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェレンホーファー、アントン
(72)【発明者】
【氏名】フルーマン、クリスチアン
(72)【発明者】
【氏名】ラウフナー、ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】ディリッグ、マリウス
(72)【発明者】
【氏名】カラコヴァ、マリヤナ
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー-トルヴァルト、オレ
(72)【発明者】
【氏名】ビルク、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ヘルツォグ、ロベルト
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC04
4K021CA09
4K021CA11
4K021DB31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】1つ又は複数の電解生成物を製造するための方法及び設備を提供する。
【解決手段】プロトン交換膜を有する1つ又は複数の電解セルが利用され、1つ又は複数の電解セルからカソード側で水素リッチなカソード取出ガスが取り出され、1つ又は複数の電解セルからアノード側でアノード取出ガス3が取り出され、1つ又は複数の電解セルのアノード取出ガス3は2相流1の一部として取り出され、2相流1はアノード取出ガス3と水相2とを有し、2相流1又はその一部はセパレータ構造体20でアノード取出ガス3と水相2とに分離される。セパレータ構造体20として、第1のガス室21a及び第1の液体室21bを有する第1の区域21と、第2のガス室22a及び第2の液体室22bを有する第2の区域22とを有するセパレータ構造体20が利用される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の電解生成物を製造するための方法であって、1つ又は複数の電解セル(10)が利用され、1つ又は複数の前記電解セル(10)からカソード側で水素リッチなカソード取出ガスが取り出され、1つ又は複数の前記電解セル(10)からアノード側でアノード取出ガス(3)が取り出され、1つ又は複数の前記電解セル(10)のアノード取出ガス(3)は2相流(1)の一部として取り出され、2相流(1)はアノード取出ガス(3)と水相(2)とを有し、2相流(1)又はその一部はセパレータ構造体(20)でアノード取出ガス(3)と水相(2)とに分離される、方法において、前記セパレータ構造体(20)として、第1のガス室(21a)及び第1の液体室(21b)を有する第1の区域(21)と、第2のガス室(22a)及び第2の液体室(22b)を有する第2の区域(22)とを有するセパレータ構造体(20)が利用され、前記セパレータ構造体(20)は、前記第1の液体室(21b)と前記第2の液体室(22b)が充填されているときに、前記第1のガス室(21a)と前記第2のガス室(22a)との間のガス接触を阻止する液体閉鎖部(23)が形成され、特に追加的に前記第2の区域(22)で相応にコントロールされる液体水面によって前記第1の液体室(21b)と前記第2の液体室(22b)との間の液体接触が前記第2のガス室(22a)により防止されるように構成されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
プロトン交換膜を有する1つ又は複数の電解セル(10)が利用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セパレータ構造体(20)は、前記第1の区域(21)の水相(2)が堰き止め高さ(26c)まで堰き止められ、液体閉鎖部(23)を経て前記第2の区域(22)へと流出するように構成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記セパレータ構造体(20)は第1の分離壁(24)と第2の分離壁(25)とを有し、前記液体閉鎖部(23)は前記第1の分離壁(24)と前記第2の分離壁(25)とによって形成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記セパレータ構造体(20)は前記液体閉鎖部(23)を形成するオーバーフローパイプ(29)を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の区域(21)は、円筒軸が水平方向を向く、その円筒軸に対して垂直に第1の直径を有する円筒状の容器によって形成される、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記円筒状の容器は1つ又は2つの球冠状又は球台状のターミナルキャップを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の区域(22)は別の円筒状の容器によって形成され、特に、前記第2の区域(22)の円筒軸は水平方向に向く、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の区域(22)は前記第1の直径よりも大きい第2の直径を円筒軸に対して垂直に有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の区域(21)の円筒軸によって定義される水平方向の平面よりも下方に位置する領域からはスタンドパイプ(31)が前記第1の区域(21)から導出され、このスタンドパイプがその後の過程で上方に向かって湾曲して前記第2の区域(22)に連通する、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
2相流(1)が、又は前記セパレータ構造体(20)に供給されるその一部が、前記第1の区域(21)に供給される、請求項1~10のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
アノード取出ガス(3)が前記第1のガス室(21a)から取り出される、請求項1~11のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
水相(2)が前記第2の区域(22)から取り出される、請求項1~12のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
アノード取出ガス(3)は4%を超える水素含有率と残りの残留酸素とを少なくとも一時的に有する、請求項1~13のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
1つ又は複数の電解セル(10)を有する、1つ又は複数の電解生成物を製造するための設備(100)であって、前記設備(100)は、1つ又は複数の前記電解セル(10)からカソード側で水素リッチなカソード取出ガスを取り出し、1つ又は複数の前記電解セル(10)からアノード側でアノード取出ガス(3)を取り出すためにセットアップされた手段を有し、アノード取出ガス(3)はアノード取出ガス(3)と水相(2)とを有する2相流(1)の一部であり、前記設備(100)は、2相流(1)又はその一部をアノード取出ガス(3)と水相(2)とに分離するためにセットアップされたセパレータ構造体(20)を有する、設備において、前記セパレータ構造体(20)は、第1のガス室(21a)及び第1の液体室(21b)を有する第1の区域(21)と、第2のガス室(22a)及び第2の液体室(22b)を有する第2の区域(22)とを備えるように構成され、前記セパレータ構造体(20)は、前記第1の液体室(21b)と前記第2の液体室(22b)が充填されているときに、前記第1のガス室(21a)と前記第2のガス室(22a)との間のガス接触を阻止する液体閉鎖部(23)が形成され、特に追加的に前記第2の区域(22)で相応にコントロールされる液体水面によって前記第1の液体室(21b)と前記第2の液体室(22b)との間の液体接触が前記第2のガス室(22a)により防止されるように構成されることを特徴とする、設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ又は複数の電解セル、特にプロトン交換膜を有する1つ又は複数の電解セルを利用して、1つ又は複数の電解生成物を、特に水素及び/又は酸素を、製造するための方法及び設備に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜(英語Proton Exchange Membrane,PEM)を有する電解セルを利用する水素の製造は、周知である。相応の電解セルでは、プロトンを導通し、生成物ガスを分離し、アノード側とカソード側とを互いに電気絶縁するための役目を果たすプロトン交換膜が、固体ポリマー電解質によって形成される。プロトン交換膜を有する電解セルを利用することで、部分負荷動作に関して、並びに、従来式のアルカリ電気分解で適用される可能な電流密度が低いことに関して、問題の一部を克服することができる。
【0003】
プロトン交換膜を有する電解セルの利用のもとで形成される水素の比較的高い圧力に基づき、消費部へ直接的に供給を行うことができる。適用可能な高い電流密度は比較的低い動作コストにつながり、それは特に、他の場合であればその出力ピークを活用することができない、風や太陽などのダイナミックな電気エネルギー源が利用されるケースである。ポリマー電解質は、たとえば約100から200μmの薄い膜の利用を、同時に高い圧力のもとで可能にする。このことは、膜を通るプロトンの導通と、圧力負荷を受ける水素の形成とによって主に引き起こされる、低い抵抗損失につながる。
【0004】
ポリマー電解質膜は、その固体の構造に基づいて低いガス移行率を有しており、このことは非常に高い生成物ガス純度につながり得る。このことは特にタンク安全性にとって、及び、たとえば燃料電池での直接的な利用にとって、好ましいことがあり得る。
【0005】
相応の電解セルでの電圧損失は、特に内部電気抵抗、プロトン導通性、セルを通る質量輸送、及び触媒利用に基づいて発生し得る。
【0006】
プロトン交換膜を有する電解セルでのアノード反応は、一般に酸素発生反応(英語Oxygen Evolution Reaction,OER)と呼ばれる。アノードでは液体反応物が触媒に供給され、酸化されて酸素、プロトン、及び電子になる:
【0007】
【0008】
カソード反応は一般に水素発生反応(英語Hydrogen Evolution Reaction,HER)と呼ばれる。この場合には供給される電子が、膜を通って導通されるプロトンと組み合わされ、それによって気体水素が生成される:
【0009】
【0010】
カソード側からの水素のほか、相応の電解セルでアノード側に形成される酸素も利用することができる。本発明は、相応の電気分解のカソード側での水素の採取と、アノード側での酸素の採取とを対象とすることができる。
【0011】
本発明の課題は、特にプロトン交換膜を有する電解セルを利用したうえでの水素及び/又は酸素の製造を改良し、特に、いっそう安全かつ確実に構成することにある。
【発明の概要】
【0012】
以上を背景として本発明は、独立請求項の特徴を有する、1つ又は複数の電解生成物を、特に水素及び/又は酸素を、特にプロトン交換膜を有する電解セルを利用したうえで、製造するための方法及び設備を提案する。実施形態は、それぞれ従属請求項及び以下の説明の対象である。
【0013】
以下においては、プロトン交換膜が利用される電気分解を主に援用して本発明について説明するが、本発明の各実施形態は原則としてこれ以外の電解技術を利用して適用することもでき、それは特に、本発明で取り組む問題がそこで同様又は同等の形で発生している場合である。プロトン交換膜を用いる電気分解の援用は便宜上行っているにすぎず、本発明をこれに限定する意図ではない。
【0014】
ここで特に「1つの」プロトン交換膜を有する「1つの」電解セル(それぞれ単数形)という表現を使うとき、本発明の各実施形態が、典型的にはそのような複数のセルを用いて具体化されることは当然であり、相応のセルは、特に、このようなセルが複数で存在している周知の種類のセルスタック(Stacks)の一部であってよい。このような種類のスタックでは、プロトン交換膜を利用する電気分解のときに、それぞれアノードと、プロトン交換膜と、カソードとからなる多数の構造体が提供され、これらがそれぞれ分離装置と、給水ないしガス取出のための手段とによって互いに分離される。これらの手段は、スタック全体に供給を行う供給配管ないし集合配管と接続されていてよい。別の種類の電気分解でも、これに匹敵するスタック構造が設けられていてよく、その場合にも、相応の供給配管及び集合配管を利用することができる。
【0015】
したがって、本件において何らかの種類の電解セルの「アノード側」ないし「カソード側」という表現を使うとき、これらの概念は、相応のセルスタックの各セルのカソード側ないしアノード側も総体として指している。この/これらのカソード側から(全体として)取り出されるガスを、以下においては「カソード取出ガス」とも呼ぶ。アノード側でもこれに準じ、すなわち「アノード取出ガス」と呼ぶ。
【0016】
カソード取出ガスは水素リッチであり、アノード取出ガスは酸素リッチであるが、アノード取出ガスは典型的にはカソード取出ガスよりも多くの水素を有している。水素は典型的には、酸素がカソード側へ移行するよりも容易にアノード側へ移行するからである。プロトン交換膜を利用することで、前述したように高い生成物単位を得ることができ、それによりカソード取出ガスは非常に少ない酸素を含む。或いはこれ以外の電解技術においても水素リッチな、ないしは酸素リッチな、カソード取出ガスないしアノード取出ガスを形成することができ、これらはそれ以外のガスもいっそう僅少な割合でそれぞれ含む。ここでは「リッチな」という概念は、特に、容積ベース、量ベース、又はモルベースで90%、95%、99%、又は99.5%よりも多い含有率を表す。
【0017】
アノード取出ガスは、特にプロトン交換膜を用いる電気分解の場合、水とともにアノード側で取り出され、すなわち、アノード側からはまず2相流が行われる。気相と液相への分離の後、前者をたとえば酸素採取部に供給することができ、又は大気に放出することができる。
【0018】
酸素と水素を有する2相流に関わる主問題は、生じ得るその水素含有率から生じる。水素は、たとえばプロトン交換膜を介して圧力勾配により駆動されてこれを通過することができ、それは浸透によってであるが、不具合ないし亀裂の発生時にはこれが増強される。たとえば低負荷やスタンバイのシナリオで、ないしは不具合のもとで、場合によりこのような水素含有率が、酸素中の約4%の水素の爆発下限(UEG)に達することがある。水素の相応の移行は、原則としてその他の電解技術においても発生する。
【0019】
ガスの(下側の)爆発限界は、それを超えると、同時に十分な酸素含有率のもとで発火ないし爆発が起こり得る、ガス混合物中の含有率を表す。十分な酸素含有率は、酸素リッチなアノード取出ガスのケースでは、ないし上述した2相流のケースでは、常に該当する。
【0020】
爆発とは、層状の火炎前面を有する、発火能力のあるガス混合物のコントロール不能な燃焼である。爆発は、実質的に伝搬の速度によってデトネーションと区別される。
【0021】
爆発では音速を下回り、デトネーションでは典型的には音速を明らかに上回る。容器内や配管内でのガス混合物の爆発やデトネーションによって膨大な圧力上昇が生じ、これが容器のバーストや相応の二次被害につながりかねない。典型的には、爆発では係数10の圧力上昇が予想される。デトネーションの影響はこれよりも明らかに甚大である。その場合、圧力上昇係数は50以上であり得る。爆発は、燃焼物質及び酸素の特定の流入時間と最小濃度に応じて、デトネーションへと転化し得る。
【0022】
たとえばプロトン交換膜を有する電解セルの、ないしは相応のスタックの、内部及び下流の領域の発火源を完全に排除することはできない。それに伴い、爆発の恐れがあるガス混合物の考えられる発火を、相応の設備の設計時に想定しておかなければならない。
【0023】
爆鳴ガス反応は非常に高速で進行するため、音速を上回る、非常に早く伝搬する火炎速度が生じる。したがって爆発は、狭い空間や配管の中でさえデトネーションへと移行し得る。デトネーションシナリオについては、非常に高い爆発圧力状況を設計時に考慮しなくてはならない。
【0024】
このとき、2相流を分離するためのセパレータの中で「のみ」爆発ないしデトネーションが発生した場合でさえ、それ以外の領域で、特にポンプや熱交換器ないし電解セルないしスタック自体などの後置された器具で、損害が生じる。爆発圧力が、非圧縮性の流体(水)を通じてこれらに伝わるからである。
【0025】
本発明はこのようなケースについての安全な解決法を可能にし、その際に、従来技術の欠点を克服する。従来、相応の耐爆発性ないし耐デトネーション性の設計は最善のケースでも非常に高価であり、最悪のケースでは技術的に具体化可能でない。圧力逃がし弁ないしバーストディスクによって後置された器具を保護することも、従来は問題となることがある。爆発ないしデトネーションの圧力波は非常に高速に、すなわち約3,000m/sで、伝搬するからである。
【0026】
1つ又は複数の電解生成物を、特に水素及び/又は酸素を、生成するための本件で提案される方法では、特にプロトン交換膜を有する、1つ又は複数の電解セルが利用され、1つ又は複数の当該電解セルからカソード側で水素リッチなカソード取出ガスが取り出され、1つ又は複数の当該電解セルからアノード側でアノード取出ガスが取り出され、1つ又は複数の当該電解セルのアノード取出ガスは2相流の一部として取り出され、2相流はアノード取出ガスと水相とを有し、2相流又はその一部はセパレータ構造体でアノード取出ガスと水相とに分離される。アノード取出ガスは酸素リッチであり、説明した効果に基づいてある程度の水素含有率を有し、ないしは、ある程度の水素含有率を完全に防ぐことはできない。
【0027】
このときセパレータ構造体として、第1のガス室及び第1の液体室を有する第1の区域と、第2のガス室及び第2の液体室を有する第2の区域とを有するセパレータ構造体が利用されることが意図され、セパレータ構造体は、第1の液体室と第2の液体室が充填されているときに第1のガス室と第2のガス室との間のガス接触を阻止する液体閉鎖部が形成されるように構成される。液体閉鎖部は、たとえば防壁と、第1の液体室の中に潜水する潜水壁とによって、又はオーバーフローパイプによって、又はスタンドパイプによって、それぞれ相応の実施例を参照して説明するように具体化することができる。
【0028】
本発明の実施形態では、第1のガス室と第1の液体室とをそれぞれ有する複数の相応の第1の区域が設けられていてもよく、2つ又はそれ以上の第1の区域が、第2のガス室と第2の液体室とを有する共通の第2の区域に割り当てられていてよい。このケースでは、複数の第1の区域のガス室はそれぞれ液体閉鎖部によって、共通の第2のガス室から分離される。複数の第1の区域は、共通の第2の区域の2つの側に構成されていてもよく、実施例の
図4から6に図示するように、実質的に鏡像反転されて構成されていてよい。以下においてはあくまでも簡略化のために、単数形で「1つの」第1の区域という表現を用いる。
【0029】
このとき爆発又はデトネーションのもとで、液体が第1の区域の第1の液体室から第2の区域へと押し出される。このとき第2の区域は、そこに存在する第2のガス室に基づいてバッファとしての役目を果たすことができ、それにより、圧力波が液相を通じて直接的に更に伝わることがない。このようにして、後置されている器具での被害を回避することができる。
【0030】
原則として、セパレータ構造体と液体閉鎖部のさまざまに異なる実施形態を適用することができる。本発明の実施形態では、セパレータ構造体は特に、第1の区域の水相が防壁ないし第2の分離壁に沿って堰き止め高さまで堰き止められ、第2の分離壁を経て第2の区域へと流出するように構成される。第1の区域で液体水面よりも下に潜水する第1の分離壁によって第1及び第2のガス室が互いに分離され、第1の分離壁と第2の分離壁が液体閉鎖部を形成する。すなわち、特にこのような種類のセパレータ構造体は第1の分離壁と第2の分離壁とを有することができ、液体閉鎖部は第1の分離壁と第2の分離壁とによって形成される。このようにして、1つの耐圧性の外壁と2つの分離壁だけによって、このような方式で特別に簡易、安定的、かつ低コストに製造可能なセパレータ構造体を形成することができる。
【0031】
すなわち本発明の相応の実施形態では、セパレータ構造体は壁部で取り囲まれた内部空間を有することができ、第1の分離壁は内部空間の上側部分だけを液密に下位区分し、第2の分離壁は内部空間の下側部分だけを液密に下位区分し、第1の分離壁と第2の分離壁とによって液密に下位区分される各領域は互いに交差する。このとき交差は、それぞれ異なる高さで終わる各分離壁を構成するだけで惹起可能である。
【0032】
このとき第2の分離壁は、内部空間の下側部分を堰き止め高さまで下位区分することができ、第1の分離壁は、内部空間の上側部分を潜水高さまで液密に下位区分することができ、潜水高さは測地的に堰き止め高さよりも下方に配置される。
【0033】
作動時に、水相を第1の区域で第2の分離壁によって堰き止め高さまで堰き止めることができ、それにより第1の分離壁は、堰き止め高さで形成される水相の液体水面の中に潜水する。このとき相応の流入が確保され、そのようにして液体閉鎖部が常に閉鎖されたまま保たれることによって、水相が堰き止められたまま保たれるのが好ましい。
【0034】
第2の区域は、本発明の実施形態では、第1の区域から第2の分離壁を介して水相のオーバーフロー流によって少なくとも部分的に満たすことができる。たとえば不足量を補うために、及び後置されているポンプのキャビテーションを回避するために、追加の給水が意図されていてもよい。
【0035】
第2の区域では、特に逆流を防止して十分なバッファ容積を確保するために、特に第1の区域での水相の液体水面を下回る水相の液体水面が形成される。このことは、取出量の調整によって確保することができる。
【0036】
別の実施形態では、セパレータ構造体は、たとえば第2の液体室で堰き止められた液体に沈み込むことによって液体閉鎖部を形成するオーバーフローパイプを有する。
【0037】
本発明の特別な実施形態では、特に、円筒軸が水平方向を向く、1つ又は2つの球冠状又は球台状のターミナルキャップを有する円筒状の容器によって第1の区域が形成されていてよい。第1の区域は、円筒軸に対して垂直に第1の直径を有することができる。第1の区域に後続して、第2の区域が特に同じく円筒状に提供されていてよく、第2の区域の円筒軸は特に同じく水平方向に向いていてよい。第2の区域は、特に第1の直径よりも大きい第2の直径を、円筒軸に対して垂直に有することができる。第1の区域の円筒軸によって定義される平面よりも下方に位置する領域からは、第1の区域から、特にターミナルキャップから、スタンドパイプが導出されていてよく、これがその後の過程で上方に向かって湾曲して第2の区域に連通する。この構造体は、特に、第2の区域でスタンドパイプの連通部よりも下方に位置する液体水面が形成されるようにそれぞれ設定される量で、第1の区域へと液体が供給されるとともに、第2の区域から液体が取り出されるように作動する。
【0038】
すぐ上で説明した実施形態は、特に、実質的に同一に、かつ鏡像反転されて配置された2つの第1の区域と、これらの間に位置する中央の第2の区域とを含むことができ、それにより、スタンドパイプはこれらの第1の区域から中央の第2の区域へと連通する。この説明は2つを超える第1の区域についても内容に即して当てはまり、その場合、これらはたとえば三角形に、十字形に、星形に、又は1列に、第2の区域の周囲に配置されていてよい。
【0039】
このとき2相流は、又はセパレータ構造体に供給されるその一部分は、第1の区域に供給されて、アノード取出ガスが第1のガス室から取り出され、水相が第2の区域から取り出される。第2の区域のガス室は配管を介して周囲の大気と接続されていてよく、相応の配管が、特に爆発又はデトネーションの際にガスを外部に放出することができる。
【0040】
本発明は、前述したとおり、カソード取出ガスが4%を超える水素含有率と残りの残留酸素とを少なくとも一時的に有している場合にも、爆発ないしデトネーションの帰結を回避するのに適している。
【0041】
特にプロトン交換膜を有する1つ又は複数の電解セルを有する、1つ又は複数の電解生成物を、特に水素を、又は水素と酸素を、製造するための設備も、同じく本発明の対象物であり、当該設備は、1つ又は複数の電解セルからカソード側で水素リッチなカソード取出ガスを取り出し、1つ又は複数の電解セルからアノード側でアノード取出ガスを取り出すためにセットアップされた手段を有し、アノード取出ガスは、アノード取出ガスと水相とを有する2相流の一部であり、当該設備は、2相流又はその一部をアノード取出ガスと水相とに分離するためにセットアップされたセパレータ構造体を有する。
【0042】
このときセパレータ構造体は、第1のガス室及び第1の液体室を有する第1の区域と、第2のガス室及び第2の液体室を有する第2の区域とを備えるように構成され、セパレータ構造体は、第1の液体室と第2の液体室が充填されているときに第1のガス室と第2のガス室との間のガス接触を阻止する液体閉鎖部が形成されるように構成される。
【0043】
相応の設備及びその実施形態の上記以外の特徴や利点については、本発明で提案される方法及びその実施形態に関する上記の説明が同様の仕方で当てはまるので、これを明示的に援用する。
【0044】
同様のことは、本発明の実施形態に基づいて本発明の任意の実施形態に基づく方法を実施するためにセットアップされた設備にも当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
次に、本発明の実施形態について、純粋に例示として添付の図面を参照しながら説明する。
【0046】
【
図3】
図2に示す設備の考えられる詳細部分を示す。
【
図4】
図2に示す設備の考えられる詳細部分を示す。
【
図5】
図2に示す設備の考えられる詳細部分を示す。
【
図6】
図2に示す設備の考えられる詳細部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に説明する実施形態は、上で説明した権利申請される特徴を理解するにあたって読者の助けとする目的のために記述するにすぎない。これらの実施形態は代表的な例であるにすぎず、本発明の特徴に関して完結的及び/又は限定的と見なされるべきでない。当然のことながら、上記及び以下において説明する利点、実施形態、例、機能、特徴、構造、及び/又はその他の側面は、特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲の限定として、或いは特許請求の範囲との等価物の限定として、見なされるべきではなく、権利申請されている発明の範囲から逸脱することなく、別の実施形態を適用して改変を行うことができる。
【0048】
本発明のさまざまな実施形態は、記載されている部材、コンポーネント、特徴、部品、ステップ、手段などの更なる好都合な組合せを、たとえそのような組合せが特別に記載されていなくても含むことができ、有することができ、これらで構成することができ、又は実質的にこれらで構成することができる。これに加えてこの開示は、現時点では権利申請されていないが、特にそれが独立請求項の範囲に含まれている場合に将来的に権利申請することができる別の発明も含むことがあり得る。
【0049】
本発明の各実施形態に基づく装置、器具、構造体、システムなどに関わる説明は、本発明の各実施形態に基づく方法、プロセス、手法などにも当てはまり、その逆も成り立つ。同一の、同一の作用をする、機能に関して互いに対応する、設計的に同一又は同等に構成された、部材、方法ステップなどは、同じ符号で表されている場合がある。
【0050】
次に、本発明とその実施形態について、プロトン交換膜を用いた電気分解を参照しながら説明する。しかしながら、何度か述べたように本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
図1には、大幅に簡略化したフローチャートを用いて本発明の背景が示されている。
【0052】
このとき
図1には、プロトン交換膜を有する電解セルのアノード側での水素回路ないし酸素回路が示されている。電解セルは、ないし多数の電解セルからなる相応のスタックは、ここでは符号10で表されている。その詳細部分や、実質的に純粋な水素である、カソード側で取り出されるカソード取出ガスは、図示していない。
【0053】
すでに上で説明したとおり、アノード側ではまず電解セルないしスタック10からの水割合とガス割合とを含む2相流1が導出される。ガス割合には酸素のほか、プロトン交換膜を通る浸透に基づいて、及びプロトン交換に不具合があるケースではいっそう増強されて、水素も存在する。
【0054】
2相流はセパレータ200に供給され、その下側領域で2相流1の水割合が析出され、それにより、これを水流2(溶解したガスのある程度の残留割合を含む)として引き出することができる。水流2をポンプ30によって回路に通し、熱交換器40によって温度調節することができる。
【0055】
ガス割合はガス流3の形態で導出され、方法の実施形態に応じて酸素生成物の形成のために利用することができ、又は大気に吐き出すことで放出することができる。
【0056】
ギザギザの矢印で図示しているように、セパレータ200のガス室の中で、或いは相応の配管の中でも、ガス流3の相応の水素含有率のもとで爆発ないしデトネーションが発生し得る。前述したように、爆発ないしデトネーションがセパレータ200の中で「のみ」発生した場合であっても、特にポンプ30、熱交換器40、又は電解セルないしスタック10などの後置された器具で被害が生じる。爆発圧力が、非圧縮性の流体(水)を通じてこれらに伝わるからである。
【0057】
図2には、本発明の実施形態に基づく設備が示されており、全体に100の符号が付されている。すでに
図1に関して説明した、そこで相応に符号が付されている部材、すなわち電解セルないしスタック10、ポンプ30、及び熱交換器40についてはあらためて説明しない。
【0058】
図2に示すように、設備100は、それぞれガス室と液体室とを有する、第1の区域21及び第2の区域22で構成されたセパレータ構造体20を有している。区域21と22の間に液体閉鎖部23が形成されている。別の表現で言うとセパレータ構造体20は、設備100の動作中に充填されるときに、第1及び第2の区域21及び22のガス室の間のガス接触を阻止する液体閉鎖部23を形成するように構成される。考えられる実施形態の詳細部分が、以下の
図3から6に示されている。このようにして第1の区域21の下流側の領域を、爆発性ないしデトネーション性のあるガス混合物がないように保つことができる。
【0059】
したがって
図2に示す設備では、2相流1の領域と第1の区域21の領域及びこれと直接的に結合されている部材だけが、耐爆発性ないし耐デトネーション性に構成されていればよく、特に第1の区域21での爆発ないしデトネーションは、ポンプ30や熱交換器40などの後置された部材へと圧力波を伝えることができず、若しくは縮小された範囲内でしか衝撃を与えることができない。このことは、第2の区域22で気体のバッファ容積が生起され、両方の液体室の直接的な接続が阻止されることによって実現される。
【0060】
図3には、
図2の設備100で適用可能なセパレータ構造体20が例示として示されており、その接続状況は、
図2と同じ符号が付された流動1,2及び3から明らかである。別のガス流に
図3では符号4が付されている。
【0061】
セパレータ構造体20は壁部26を有していて、その中で、第1の区域21と第2の区域22を形成する2つのチャンバが形成されている。液体閉鎖部23は2つの分離壁によって形成され、第1の分離壁24は第1の区域21のガス室21aを第2の区域22のガス室22aから分離するそれに対して第2の分離壁25は、第1の区域21の液体室21bを第2の区域22の液体室22bから分離する。
【0062】
第1の区域21及び第2の区域22における液体水面がそれぞれ破線で示されており、追加的に三角形で表されている。第1の区域21で爆発ないしデトネーションが起こると、液体は第1の区域21の液体室21bから第2の区域22の液体室22bへと溢れるが、後置されている器具に爆発の圧力波が衝撃を与えることはできない。第2の区域22のガス室22aに由来するガスは、ガス流4の形態で逃げることができる。
【0063】
必要に応じて、配管27ないしその中に配置される別途に図示しないバルブを介して、追加の水を第2の区域22ないしその液体室22bに供給することができ、それは、たとえば電解プロセスで分解された水の代替とするためである。
【0064】
換言すると、壁部26によって内部空間26aが取り囲まれる。第1の分離壁24は内部空間26aの上側部分だけを液密に下位区分し、第2の分離壁25は内部空間26aの下側部分だけを液密に下位区分し、第1の分離壁24と第2の分離壁25によって液密に下位区分される各領域は、水平方向で見たときに互いに交差する。
【0065】
より厳密には、第2の分離壁25は内部空間26aの下側部分を堰き止め高さ26cまで下位区分し、第1の分離壁24は内部空間26aの上側部分を潜水高さ26bまで下位区分する。潜水高さ26bは測地的に堰き止め高さ26cよりも下方に配置されており、それにより、水相2を第1の区域21で第2の分離壁25によって堰き止め高さ26cまで堰き止めることができ、第1の分離壁24は堰き止め高さ26cで形成される水相2の液体水面に潜水する。
【0066】
第2の区域22は、第1の区域21から第2の分離壁25を経て水相2のオーバーフロー流により少なくとも部分的に満たされる。更に、配管27を介して水を供給することができる。いずれにしても第2の区域22では、第1の区域21の水相の液体水面よりも下方に位置する、水相の液体水面が形成される。
【0067】
2相流1は第1の区域21に供給され、アノード取出ガス3が第1のガス室21aから取り出される。水相2は第2の区域22から特にポンプ30へと導出される。このとき第2の液体室22bの液体水面は、流動2の形態の取出量に応じて決まる。
【0068】
図4には、たとえば
図2の設備100で適用可能な別のセパレータ構造体が示されており、ただしここでは符号20’が付されている。このセパレータ構造体は対称の構造を有しており、全体として符号21’を付された、それぞれアポストロフィのついた相応の符号をそのコンポーネントに付した別の第1の区域が提供される。その接続状況は、
図2と同一の符号が付された流動1,2及び3から、ないしは相応にアポストロフィのついた流動1’及び3’から、明らかである。
図4のセパレータ構造体20’は、特に、複数の電解セルないしスタック10を共通のポンプ30に接続するのに適している。
【0069】
図5には、たとえば
図2の設備100で適用可能な別のセパレータ構造体が示されており、ただし
図5ではこれに別途の符号は付されていない。このセパレータ構造体はオーバーフローパイプ29を有しており、第1の液体室21bの液体は、ここでも符号26cが付された堰き止め高さまで堰き止められ、オーバーフローパイプ29は第2の区域22の液体室22bに潜水し、そのようにして液体閉鎖部23を形成する
図6には、たとえば
図2の設備100で適用可能な別のセパレータ構造体が示されており、
図6では同じく別途には符号を付していない。
【0070】
ここに示す本発明の特別な実施形態では、第1の区域21(鏡像対称に配置された対応する別の第2の区域21’が存在していてよいが、別途に説明はしない)は、特に
図6に破線で示す円筒軸が水平方向を向く、1つ又は複数の球冠状又は球台状のターミナルキャップを有する円筒状の容器によって形成されていてよい。第1の区域21は、円筒軸に対して垂直に第1の直径を有している。
【0071】
第1の区域に後続して、第2の区域22が特に同じく円筒状に、或いは任意の実施形態で、提供されていてよく、第2の区域の円筒軸は特に同じく水平方向に向いていてよく、たとえば第1の区域の円筒軸と一致する。第2の区域22は、特に第1の直径よりも大きい第2の直径を、円筒軸に対して垂直に有することができる。
【0072】
第1の区域21の円筒軸によって定義される平面よりも下方に位置する領域からは、第1の区域から、特にターミナルキャップから、スタンドパイプ31導出されていてよく、これがその後の過程で上方に向かって湾曲して第2の区域22に連通する。この構造体は、特に、第2の区域でスタンドパイプの連通部よりも下方に位置する、ここでは破線で示す液体水面が形成されるようにそれぞれ設定される量で、第1の区域へと液体が供給されるとともに、第2の区域から液体が取り出されるように作動する。
【外国語明細書】