(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050484
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20240403BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20240403BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20240403BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240403BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240403BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L77/00
C08K5/54
C08L63/00 Z
C08L101/00
C08L83/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023161809
(22)【出願日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022155958
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平瀬 智大
(72)【発明者】
【氏名】井砂 宏之
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB052
4J002BB082
4J002BB152
4J002BC052
4J002BD142
4J002BD152
4J002CD054
4J002CD064
4J002CD074
4J002CD123
4J002CD134
4J002CF062
4J002CF072
4J002CH092
4J002CL012
4J002CL032
4J002CM042
4J002CN011
4J002CP035
4J002EW126
4J002EW136
4J002EW156
4J002EX037
4J002EX077
4J002EX087
4J002FD133
4J002FD134
4J002FD136
4J002FD137
4J002GF00
4J002GH00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】
本発明によれば、優れた難燃性、柔軟性、靱性を兼ね備えたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれからなる成形品を得ることができる。
【解決手段】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリフェニレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、(c)反応性官能基を有する難燃剤、および(d)(c)成分と反応する反応性化合物を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、(b)成分の配合量が1~40重量部であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリフェニレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、(c)反応性官能基を有する難燃剤、および(d)(c)成分と反応する反応性化合物を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、(b)成分の配合量が1~40重量部であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のモルフォロジーにおいて、(a)成分が連続相を形成し、(b)成分が分散相を形成することを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のモルフォロジーにおいて、(b)成分からなる分散相の数平均分散粒子径が1μm以下であることを特徴とする請求項2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(c)成分の反応性官能基量が2000μmol/g以上である請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(c)成分の反応性官能基は、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、カルボジイミド基、およびビニル基から選択される少なくとも1種類である請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
前記(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、(c)成分を0.1~10重量部配合してなる請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
前記(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、(d)成分を0.1~3重量部配合してなる請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項8】
前記(b)成分は、オレフィン系エラストマーおよびポリアミド樹脂から選択される少なくとも1種類である請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項9】
前記(d)成分は、シランカップリング剤およびエポキシ化合物から選択される少なくとも1種類である請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、さらに(e)シリコーンエラストマーを1~50重量部配合してなる請求項1~9のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
【請求項12】
請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる車載部品。
【請求項13】
請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる車載配管。
【請求項14】
請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる電線被覆部材。
【請求項15】
請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなるプラスチックファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた難燃性、柔軟性、靱性を兼ね備えたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物およびそれからなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)樹脂は耐熱性、耐薬品性、難燃性などの特性をバランス良く有するスーパーエンジニアリングプラスチックである。また、PPS樹脂は、他のスーパーエンジニアリングプラスチックに対するコスト優位性から、五大エンプラに次ぐ汎用性の高い樹脂材料として、自動車用途や住宅設備用途、電気・電子用途など幅広い用途に使用されている。
【0003】
特に近年では、SDGsに代表される社会課題に対して、自動車用途での軽量化による省エネルギー化や、電動化による温室効果ガスの排出量抑制等が強く求められており、これらの要求に対して、PPS樹脂は、金属代替による軽量化の実現や、電動化に対する高い絶縁性・耐熱性の発現が可能なため、自動車用途での使用量が年々増加する傾向にある。
【0004】
一方、PPS樹脂の用途展開にあたり、本質的な課題として、他の樹脂に比較して、引張試験時の引張破断伸びに代表される柔軟性や靱性が低く、脆い性質を有することが挙げられる。
【0005】
そのため、柔軟性や靱性を要する用途においては、熱可塑性樹脂を配合したポリマーアロイによる改良が検討されている。例えば、特許文献1に記載の通り、オレフィン系のエラストマーを配合したPPS樹脂組成物が開発され、実用化されている。本組成物では、PPS樹脂に対してより柔軟な材料であるオレフィン系のエラストマーを配合することで、柔軟性とともに靱性の改良が実現できている。特許文献2には、ポリアミド樹脂を配合したPPS樹脂組成物管状体が開示され、靭性の改良が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-21156号公報
【特許文献2】特開2008-31233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、特許文献1に記載のPPS樹脂とオレフィン系のエラストマーからなる樹脂組成物についての難燃性を評価した結果、PPS樹脂単体に比較して、樹脂組成物の難燃性が大幅に低下することを見出した。PPS樹脂単体は高い難燃性を有するのに対して、難燃性が大幅に劣るオレフィン系エラストマーを配合することにより、組成物としての難燃性が低下したためと考えられる。本組成物は、柔軟性および靱性を有する利点がある一方で、PPS樹脂が本来有する優れた難燃性を発現しないため、用途展開が限定される課題を有する。
【0008】
特許文献2に記載のPPS樹脂組成物管状体についても、本来PPS樹脂が有する難燃性に比べて、ポリアミド樹脂の配合により難燃性が低下する傾向がある。
【0009】
一方で特許文献2では発明の効果を損なわない範囲で、種々の難燃剤を配合してもよい旨の記載があるが、本発明者らが検討したところ、十分な難燃性を得るには多量の難燃剤の配合が必要であり、その場合、柔軟性や靭性が低下することを見出した。したがって、難燃剤の配合量が少量でも高い難燃化効果を得られる手法の開発が求められる。
【0010】
以上から、本発明は、PPS樹脂の有する難燃性を維持しながらも、柔軟性、靭性を兼ね備えたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく検討を行った結果、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、(a)成分と略すことがある。)、(b)ポリフェニレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂(以下、(b)熱可塑性樹脂または(b)成分と略すことがある。)、(c)反応性官能基を有する難燃剤(以下、(c)成分と略すことがある。)、(d)(c)成分と反応する反応性化合物(以下、(d)成分と略すことがある。)を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、(b)成分の配合量が1~40重量部であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物とすることで、当該樹脂組成物が、優れた柔軟性や靭性を有しながら、難燃性を兼ね備えた特性を有することを見出すに至った。すなわち、本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実施可能である。
(1)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(b)ポリフェニレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、(c)反応性官能基を有する難燃剤、および(d)(c)成分と反応する反応性化合物を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、(b)成分の配合量が1~40重量部であるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(2)前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のモルフォロジーにおいて、(a)成分が連続相を形成し、(b)成分が分散相を形成することを特徴とする(1)に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(3)前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のモルフォロジーにおいて、(b)成分からなる分散相の数平均分散粒子径が1μm以下であることを特徴とする(2)に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(4)前記(c)成分の反応性官能基量が2000μmol/g以上である(1)~(3)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(5)前記(c)成分の反応性官能基は、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、カルボジイミド基、およびビニル基から選択される少なくとも1種類である(1)~(4)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(6)前記(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、(c)成分を0.1~10重量部配合してなる(1)~(5)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(7)前記(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、(d)成分を0.1~3重量部配合してなる(1)~(6)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(8)前記(b)成分は、オレフィン系エラストマーおよびポリアミド樹脂から選択される少なくとも1種類である(1)~(7)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(9)前記(d)成分は、シランカップリング剤およびエポキシ化合物から選択される少なくとも1種類である(1)~(8)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(10)前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、さらに(e)シリコーンエラストマーを1~50重量部配合してなる(1)~(9)のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(11)(1)~(10)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
(12)(1)~(10)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる車載部品。
(13)(1)~(10)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる車載配管。
(14)(1)~(10)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる電線被覆部材。
(15)(1)~(10)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなるプラスチックファスナー。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた難燃性、柔軟性、靱性を兼ね備えたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物ならびにそれからなる成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
(1)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明で用いられる(a)PPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0015】
【0016】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(a)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0017】
【0018】
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、PPSの一般的な融点である280℃に対して融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形加工性の点で有利となる。
【0019】
本発明で用いられる(a)PPS樹脂の重量平均分子量に特に制限はないが、より優れた機械物性を得る意味から重量平均分子量は30000~150000が好ましく、40000~130000が更に好ましく、45000~110000がより好ましく、50000~90000がより好ましい。重量平均分子量が小さい場合は、PPS樹脂自体の機械物性が低下するため、30000以上が好ましい。一方、重量平均分子量が150000を超える場合には、溶融粘度が著しく大きくなるため、成形加工において好ましくない傾向である。
【0020】
なお、本発明における重量平均分子量は、センシュー科学製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0021】
以下に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記特性を有する(a)PPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
【0022】
まず、製造方法において使用するポリハロゲン化芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0023】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp-ジクロロベンゼンが用いられる。また、カルボキシル基の導入を目的に、2,4-ジクロロ安息香酸、2,5-ジクロロ安息香酸、2,6-ジクロロ安息香酸、3,5-ジクロロ安息香酸などのカルボキシル基含有ジハロゲン化芳香族化合物、およびそれらの混合物を共重合モノマーとして用いることも好ましい態様の1つである、また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p-ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0024】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度の(a)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0025】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0026】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0027】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0028】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調製し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0029】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調製し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0030】
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0031】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0032】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95モルから1.20モル、好ましくは1.00モルから1.15モル、更に好ましくは1.005モルから1.100モルの範囲が例示できる。
【0033】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0034】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25モルから6.0モル、より好ましくは2.5モルから5.5モルの範囲が選ばれる。
【0035】
[分子量調節剤]
生成する(a)PPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0036】
[重合助剤]
比較的高重合度の(a)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは、得られる(a)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、更に有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0037】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0038】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0039】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル~2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1モル~0.6モルの範囲が好ましく、0.2モル~0.5モルの範囲がより好ましい。
【0040】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル~15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6モル~10モルの範囲が好ましく、1モル~5モルの範囲がより好ましい。
【0041】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0042】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0043】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用する。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0044】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02~0.2モル、好ましくは0.03~0.1モル、より好ましくは0.04~0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下したりする傾向となる。
【0045】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
【0046】
次に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
【0047】
[前工程]
(a)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0048】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180~260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0049】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3モル~10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0050】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(a)PPS樹脂を製造する。
【0051】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~240℃、好ましくは100℃~230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0052】
かかる混合物を通常200℃~290℃未満の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01~5℃/分の速度が選択され、0.1~3℃/分の範囲がより好ましい。
【0053】
一般に、最終的には250~290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25~50時間、好ましくは0.5~20時間反応させる。
【0054】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃~260℃で一定時間反応させた後、270℃~290℃未満に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃~260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25時間~10時間の範囲が選ばれる。
【0055】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0056】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
【0057】
(A)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)-PHA過剰量(モル)〕。
【0058】
(B)上記(A)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕。
【0059】
[回収工程]
(a)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を採用することが必須である。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分程度である。徐冷工程の全工程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1~1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用してもよい。
【0060】
[後処理工程]
(a)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
【0061】
本発明においては、滞留安定性の優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましく、特にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が更に好ましい。
【0062】
その他、(a)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0063】
また本発明では、溶融粘度の異なる複数の(a)PPS樹脂を混合して使用してもよい。
【0064】
本発明の(a)PPS樹脂は、(b)熱可塑性樹脂やその他の添加剤との反応性向上の観点から、カルボキシル基やアミノ基などの官能基がPPS樹脂末端や側鎖に導入されてもよい。官能基量は25~400μmol/gが好ましい態様として挙げられ、25~250μmol/gが更に好ましく、30~150μmol/gが更に好ましく、30~80μmol/gが更に好ましい。官能基量が25μmol/g以上とすることで、(b)熱可塑性樹脂やその他の添加剤との反応性が得られ好ましい。一方、PPS樹脂の官能基量が400μmol/g以下とすることで、揮発性成分量の増加に伴う加工性の低下や、難燃性および耐薬品性の低下を抑制でき、好ましい。
【0065】
(a)PPS樹脂中に、カルボキシル基やアミノ基などの官能基を導入する方法としては、カルボキシル基やアミノ基を含むポリハロゲン化芳香族化合物およびスルフィド化剤を共重合する方法や、カルボキシル基やアミノ基を含む化合物、例えば無水マレイン酸、ソルビン酸などを添加して、(a)PPS樹脂と溶融混練しながら反応せしめることにより導入する方法などを例示できる。官能基の種類は、カルボキシル基またはアミノ基が好ましい。
【0066】
(2)(b)ポリフェニレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物に(b)ポリフェニレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂を添加することは樹脂組成物の優れた柔軟性と靱性を両立するために必須である。
【0067】
(b)熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂、例えば、オレフィン系エラストマー、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルイミド-シロキサン共重合体、ポリケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE))、スチレン系エラストマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。複数の熱可塑性樹脂を併用することも可能である。
【0068】
かかる(b)熱可塑性樹脂の配合量は、(a)PPS樹脂と(b)熱可塑性樹脂との合計100重量部に対して、1~40重量部であることが必須である。(b)熱可塑性樹脂の配合量は、3重量部以上が好ましく、5重量部以上がより好ましく、7重量部以上がさらに好ましく、10重量部以上が特に好ましい。また(b)熱可塑性樹脂の配合量は、35重量部以下が好ましく、30重量部以下がより好ましく、25重量部以下がさらに好ましく、20重量部以下が特に好ましい。(b)熱可塑性樹脂の配合量が1重量部未満であると、柔軟性や靭性の十分な改良効果が得られず、40重量部を超えると、難燃性や耐薬品性の低下が著しいため好ましくない。
【0069】
(b)熱可塑性樹脂のうち、柔軟性や靭性の改良効果に優れる観点から、オレフィン系エラストマーやポリアミド樹脂が好ましく選択される。
【0070】
かかるオレフィン系エラストマーとしては、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-スチレン共重合体、エチレン-アクリル酸メチル-グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸エチル-グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル-グリシジルメタアクリレート共重合体が挙げられ、中でもPPS樹脂への相容性と分散性の観点から、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸メチル-グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸エチル-グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル-グリシジルメタアクリレート共重合体が好ましい。
【0071】
本発明で用いられるオレフィン系エラストマーは、PPS樹脂との分子間の結合を形成する観点から反応性官能基を含有することも好ましい態様として挙げられる。
【0072】
オレフィン系エラストマーが有する反応性官能基は特に限定されるものではなく、具体的にはビニル基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、アルデヒド基、カルボニルジオキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、水酸基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、加水分解性シリル基、オキサゾリン基などを例示できるが、中でも水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、イソシアネート基、オキサゾリン基が好ましく、これら反応性官能基が2種以上含まれていてもよい。
【0073】
オレフィン系エラストマーに反応性官能基を導入する方法としては、オレフィン系エラストマーに相溶し、前記官能基を含有する化合物または樹脂を配合する方法、オレフィン系エラストマーを重合する際に、前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する重合性モノマーを主鎖、側鎖あるいは末端に共重合する方法、オレフィン系エラストマーを重合する際に、前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する開始剤を用いる方法、オレフィン系エラストマーと前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する重合性モノマーとをラジカル発生剤の存在下に反応させる方法、オレフィン系エラストマーを酸化、熱分解などの手法により変性する方法などが挙げられる。その中でも、オレフィン系エラストマーを重合する際に、前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する重合性モノマーを主鎖、側鎖あるいは末端に共重合する方法、オレフィン系エラストマーと前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する重合性モノマーとをラジカル発生剤の存在下に反応させる方法が、品質、コスト、導入量制御の観点から好ましい。
【0074】
前記官能基を含有する重合性モノマーは、特に限定されるものではないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ハイミック酸、これらの酸無水物、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エチルアクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0075】
オレフィン系エラストマー中に含まれる官能基の量は、(a)PPS樹脂との反応が十分に進行する観点から、オレフィン系エラストマーの重量に対して、0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上であることが更に好ましい。PPS樹脂との反応性の向上に伴い相溶性が向上し、PPS樹脂中でのオレフィン系エラストマーの微分散化やそれに伴う衝撃特性や靱性等の向上も期待できる。官能基量の上限については、オレフィン系エラストマー本来の特性が損なわれなければ特に限定されることはなく、流動性の悪化なども考慮すると、40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい範囲として例示できる。
【0076】
かかるポリアミド樹脂とは、アミノ酸、ラクタムまたはジアミンとジカルボン酸とを主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-アミノカプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、2-メチルペンタメチレンジアミンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ダイマー酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0077】
本発明において、有用なポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。
【0078】
なお、本発明において、ハロゲンやリン元素を含む熱可塑性樹脂は難燃剤として扱うものとする。
【0079】
(3)(c)反応性官能基を有する難燃剤
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物に(c)反応性官能基を有する難燃剤を配合することは、(d)成分との併用により、樹脂組成物の優れた難燃性を発現するために必須である。(c)成分と(d)成分との併用によって、反応により(c)成分が樹脂組成物中で安定して存在することができるため高い難燃化効果が得られると推測される。また少量の配合量で高い難燃化効果が得られるため、樹脂組成物のその他特性への影響が小さく済む。
【0080】
本発明における(c)成分は、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、カルボジイミド基、およびビニル基から選択される少なくとも1種類を有することが好ましい。中でも水酸基、エポキシ基、カルボキシル基が特に好ましい。(c)成分の反応性官能基量は、少量の配合量で高い難燃化効果を発揮する観点で、2000μmol/g以上が好ましく、3000μmol/g以上がより好ましく、4500μmol/g以上がさらに好ましく、5500μmol/g以上が特に好ましい。上限は特にないが、ガス発生の抑制の観点から、20000μmol/g以下が好ましく例示できる。
【0081】
かかる(c)成分としては、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤が好ましく挙げられる。特に、環境負荷や人体への影響が小さい観点でリン系難燃剤が好ましい。反応性官能基を有すれば、特に制限されないが、好ましい(c)反応性官能基を有する難燃剤を以下に例示する。
【0082】
かかる反応性官能基を有するリン系難燃剤は、リン成分を含有する難燃剤であり、芳香族リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、フォスファフェナントレン化合物、ホスホン酸ポリマー、ポリリン酸メラミン、およびこれらが有する反応性官能基を同種または他種の反応性官能基に変性した誘導体などが挙げられる。これらの中でも、芳香族リン酸エステル化合物、フォスファフェナントレン化合物が好ましく、フォスファフェナントレン化合物がより好ましい。これらを2種以上含有してもよい。
【0083】
フォスファフェナントレン化合物としては、例えば、下記構造を有することが好ましい。これらが有する反応性官能基を介して、ポリマー構造単位に組み込まれてもよい。
【0084】
【0085】
ただし、式中のR1、R2はそれぞれ独立して水素原子、または炭素原子数1~8のアルキル基もしくはシクロアルキル基、またはフェニル基、またはハロゲン原子である。
【0086】
かかる反応性官能基を有するハロゲン系難燃剤は、ハロゲン成分を含有する難燃剤であり、ポリジブロモフェニレンオキサイド、テトラブロムビスフェノール-S、テトラブロムビスフェノール-S誘導体、テトラブロムビスフェノール-S-エポキシオリゴマーまたはポリマー、トリブロモフェノール、トリブロモフェニルアリルエーテル、トリブロモネオペンチルアルコール、テトラブロモ無水フタル酸、テトラブロムビスフェノール-A、テトラブロムビスフェノール-A誘導体、テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマーまたはポリマー、ブロム化フェノールノボラックエポキシなどのブロム化エポキシ樹脂、テトラブロムビスフェノール-A-ビス(2-ヒドロキシジエチルエーテル)、テトラブロムビスフェノール-A-ビス(アリルエーテル)、ジブロモネオペンチルグリコール、ジブロモクレジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらを2種類以上併用してもよい。中でも、テトラブロムビスフェノール-A-エポキシオリゴマーまたはポリマー、ブロム化フェノールノボラックエポキシなどのブロム化エポキシ樹脂が耐熱性の観点で好ましい。
【0087】
本発明における(c)成分と(d)成分の好ましい反応性官能基の組合せとしては、それぞれ水酸基とエポキシ基、エポキシ基とエポキシ基、エポキシ基と水酸基、カルボキシル基とエポキシ基、エポキシ基とカルボキシル基である。中でも、水酸基とエポキシ基、エポキシ基と水酸基がより好ましい。具体的な(c)成分と(d)成分の好ましい組み合わせとしては、フォスファフェナントレン化合物とシランカップリング剤、またはフォスファフェナントレン化合物とエポキシ化合物が好ましい。
【0088】
本発明におけるPPS樹脂組成物に配合する(c)成分の配合量は、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましく、0.1~8重量部がより好ましく、0.2~5重量部がさらに好ましく、0.5~3重量部が特に好ましい。(c)成分の配合量が0.1重量部以上であると、十分な難燃化効果が得られるため好ましく、10重量部以下であると、組成物の靭性の低下やガス量の増加を抑制できるため好ましい。
【0089】
(4)(d)(c)成分と反応する反応性化合物
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物に(d)(c)成分と反応する反応性化合物を配合することは、(c)成分との併用により、樹脂組成物の優れた難燃性を発現するために必須である。(c)成分と反応するために必要な官能基については、特に限定されないが、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、カルボジイミド基、ビニル基などが例示できる。なお、本発明における(d)(c)成分と反応する反応性化合物とは、繰り返し単位を有しない化合物や、繰り返し単位を有する場合でも重合度が20以下のオリゴマーのことを示し、その他の(c)成分と反応する反応性官能基を有する化合物であって(b)熱可塑性樹脂にも該当する化合物は、(b)熱可塑性樹脂として扱うものとする。
【0090】
本発明における(d)成分としては、シランカップリング剤やエポキシ化合物が好ましい。
【0091】
かかるシランカップリング剤としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基、およびアルコキシ基から選択される少なくとも一つの官能基を有することが好ましい。具体例としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシメチル-3-ピペラジノプロピルシラン、3-ピペラジノプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、3-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトメチルジメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシランなどを好ましく例示することができる。
【0092】
上記したシランカップリング剤の中で、反応性や取扱上の観点から、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが好ましい。
【0093】
これらシランカップリング剤はそれぞれ単独または2種以上の混合物の形で用いることができる。
【0094】
また、かかるエポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格やナフタレン骨格等を有する特殊骨格2官能エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型やトリスフェノールメタン型、ジシクロペンタジエン型、ビフェニルノボラック型等の多官能エポキシ樹脂などに代表されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、芳香族アミン型やアミノフェノール型等に代表されるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型やダイマー酸型に代表されるグリシジルエステル型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0095】
なお、本発明において、ハロゲンやリン元素を含むエポキシ化合物は難燃剤として扱うものとする。
【0096】
本発明に用いられる(d)成分の配合量は、(a)PPS樹脂および(b)熱可塑性樹脂の合計100重量部に対し、0.1~3重量部であることが好ましく、0.1~2重量部であることがより好ましく、0.2~2重量部であることがさらに好ましい。(d)成分の配合量を3重量部以下とすることで、得られるPPS樹脂組成物の難燃性を維持できるため好ましく、配合量が0.1重量部以上であると、(c)成分との反応が十分となり、優れた難燃性を発現することができ、好ましい。なお、(a)PPS樹脂および(b)熱可塑性樹脂の合計100重量部に対し、(d)成分を0.1~3重量部配合すると同時に、(a)PPS樹脂および(b)熱可塑性樹脂の合計100重量部に対し、(c)成分を0.1~10重量部配合することが好ましい。
【0097】
(5)(e)シリコ-ンエラストマー
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物に(e)シリコーンエラストマーを配合することは樹脂組成物の難燃性を維持しつつ、優れた柔軟性と靱性を発現することができ、好ましい。なお、本発明における(e)シリコ-ンエラストマーとは、オルガノポリシロキサンの重合度が100以上、および重量平均分子量が10000以上程度の高分子量化合物であり、軽度に3次元網目構造を有するものであり、また(a)PPS樹脂の融点において熱溶融しないものを指す。具体的な製造方法としては、特に限定されないが、例えば、1分子当たり少なくとも2つの末端活性水素官能基を有するオルガノポリシロキサンと、1分子当たり少なくとも2つのケイ素結合した水素原子を有するオロガノハイドロジェンポリシロキサンとをエマルジョン硬化することで得られる。
【0098】
(e)シリコ-ンエラストマーは、オルガノポリシロキサン成分と他の成分との共重合体であってってもよく、オルガノポリシロキサン成分と、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなど)、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー、ポリスチレン、ポリエーテルイミド、ポリケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート(ポリメチルメタクリレートなど)などから選択される1または複数の共重合成分との共重合体であり、より好ましい共重合成分はポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアクリレートである。優れた難燃性や耐熱性を得る観点からは、(e)シリコーンエラストマーはオルガノポリシロキサンに由来する構成単位が80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。 また(e)シリコ-ンエラストマーは複合体であってもよく、オルガノポリシロキサンを含む複合体としては、シリコーンエラストマー粒子をアクリル成分で覆ったコアシェルゴム(シリコーンアクリルコアシェルゴム)や、シリコーンエラストマーをシリコーンレジンで覆った複合パウダーなどが挙げられる。優れた難燃性や耐熱性を得る観点からは、(e)シリコーンエラストマー中のオルガノポリシロキサンが80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることが好ましい。
【0099】
(e)シリコーンエラストマーのオルガノポリシロキサン構造としては、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-エチルブチル基、オクチル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、アリル基等)、およびアリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ジフェニル基等)から選択される1または複数の炭化水素基を構造中に有しておることが好ましく、中でも、メチル基、フェニル基を有することが好ましい。
【0100】
また、オルガノポリシロキサン構造中にアルコキシル基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、メタクリル基、エーテル基、メルカプト基、カルボキシル基、フェノール基、シラノール基、アクリル基、カルボン酸無水物基、ポリエーテル基、アラルキル基、フルオロアルキル基、長鎖アルキル基、高級脂肪酸エステル基、および高級脂肪酸アミド基などから選択される1または複数の官能基を分子鎖末端あるいは分子鎖側鎖に含むことが、(a)PPS樹脂あるいは(b)熱可塑性樹脂との相溶性を高める観点より好ましく、中でも、アルコキシル基、アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、メルカプト基、カルボキシル基、およびアクリル基から選択されるいずれかの官能基を含むことが好ましく、アルコキシル基、エポキシ基、およびメタクリル基から選択されるいずれかが特に好ましい。
【0101】
(e)シリコーンエラストマーの形状はペレット、バルク、パウダー、パウダーの凝集体、フレークなどが挙げられ、ハンドリング性、加工性および分散性の観点からペレット、パウダー、パウダーの凝集体およびフレーク状が好ましい。
【0102】
(e)シリコーンエラストマー自体の平均一次粒子径は、分散性、難燃性およびPPS樹脂組成物の靭性の観点から、5μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましく、1μm以下が特に好ましい。なお、(e)シリコーンエラストマー自体の平均一次粒子径(数平均粒子径)は、走査型電子顕微鏡写真から無作為に100個の粒子直径を特定し、その算術平均を求めることにより算出することができる。上記写真において、真円状でない場合、即ち楕円状のような場合は、粒子の最大径をその粒子径とする。
【0103】
平均一次粒子径が5μm以下の(e)シリコーンエラストマーを用いた場合、例えば(b)成分として、官能基を有するオレフィン系エラストマーを併用したり、溶融粘度の高いPPS樹脂を用いたりして、PPS樹脂組成物の溶融粘度を高めることで、PPS樹脂組成物の相構造において、前記(e)成分が数平均分散粒子径5μm以下で分散する分散相を形成でき、靭性や難燃性が向上する。また二軸押出機での溶融混練において、L/Dを20以上とし、ニーディング部を2箇所以上設け、スクリュー回転数が200~500回転/分の条件を満たすことも、前記(e)成分の所望の数平均分散粒子径を得ることができるため好ましい条件として例示できる。これらの方法を組み合わせることが特に好ましい。
【0104】
一方で、平均一次粒子径が5μm以下の(e)シリコーンエラストマーを用いた場合でも、樹脂組成物の溶融粘度が小さい場合や、二軸押出機での溶融混練において混練強度が不足する場合は、(e)成分の凝集によって、所望の数平均分散粒子径を得ることが困難となり、靭性や難燃性が低下することがある。なお本発明のPPS樹脂組成物のモルフォロジー(相構造)において、前記(e)成分が凝集して存在する場合は、その凝集部を1つの分散相とする。
【0105】
本発明に用いる(e)シリコーンエラストマーの配合量は、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対して1重量部以上50重量部以下であることが好ましく、3重量部以上35重量部以下が好ましく、5重量部以上30重量部が更に好ましく、8重量部以上30重量部以下が特に好ましい。(e)シリコ-ンエラストマーの配合量が1重量部以上であると、十分に柔軟性や靭性の改良効果が得られるため好ましく、50重量部以下であると、(a)PPS樹脂が本来有する特性を損なわないため好ましい。
【0106】
(6)(f)その他の添加剤
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物には、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の10重量部を超えると本発明のPPS樹脂組成物本来の特性が損なわれるため好ましくなく、5重量部以下、更に好ましくは1重量部以下の添加がよい。
【0107】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物には、反応性官能基を有しない難燃剤を併用することが可能である。配合量はPPS樹脂組成物の靭性を損なわないために、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対して10重量部以下であることが好ましい。かかる難燃剤としては、リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤が好ましく挙げられる。
【0108】
前記のリン系難燃剤としては、芳香族リン酸エステル化合物である、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、レゾシノールビスジ-2,6-キシレンホスフェート、ハイドロキノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート、ビフェニルビスジフェニルホスフェートや、ホスファゼン化合物である、ホスホニトリル線状ポリマーおよび/または環状ポリマーや、ホスフィン酸金属塩である、ホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩および/またはその重合体、その塩としてはカルシウム、アルミニウム、および亜鉛などの塩、または赤リンなどが挙げられる。
【0109】
前記のハロゲン系難燃剤の具体例としては、デカブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモジフェニルオキサイド、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、ヘキサブロモベンゼン、1,1-スルホニル[3,5-ジブロモ-4-(2,3-ジブロモプロポキシ)]ベンゼン、トリス(2,3-ジブロモプロピル-1)イソシアヌレート、ブロム化ポリスチレン、ブロム化ポリエチレン、テトラブロムビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモシクロオクタン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、およびN,N’-エチレン-ビス-テトラブロモフタルイミドなどが挙げられる。
【0110】
前記の無機系難燃剤の具体例としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンなどを挙げることができる。
【0111】
本発明においては、難燃性能を高める目的で難燃助剤を併用することが可能である。具体的には、アンチモン化合物もしくは含窒素化合物が挙げられる。
【0112】
本発明で好ましく使用するアンチモン化合物とは、有機臭素化合物と併用することによって、相乗的に難燃性を向上させることができるもので、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダおよびリン酸アンチモンなどのアンチモン化合物が例示され、表面処理などが施されているアンチモン化合物も使用できる。特に、難燃性の観点から、三酸化アンチモンが好ましい。
【0113】
本発明で好ましく使用する含窒素化合物とは、含窒素複素環化合物、脂肪族アミド、芳香族アミドなどを挙げることができる。なお、上記リン系難燃剤で例示したようなポリリン酸メラミンなど含窒素リン系化合物はここでいう含窒素化合物には含まないで、難燃剤として取り扱う。含窒素複素環化合物としては、尿酸、トリアジン化合物などを挙げることができる。脂肪族アミドとしては、N,N-ジメチルアセトアミドなどを挙げることができる。芳香族アミドとしては、N,N-ジフェニルアセトアミドなどを挙げることができる。
【0114】
かかる難燃助剤の配合量は、(c)成分100重量部に対して、200重量部未満の範囲が選択され、150重量部未満の範囲が好ましく、100重量部未満の範囲がより好ましく、50重量部以下の範囲が更に好ましい。下限は特に無いが0.1重量部以上が好ましい。難燃助剤の配合は、難燃剤の特性向上に有効である反面、(c)成分100重量部に対して、200重量部を超えるような配合は樹脂組成物のガス成分量の増加や靭性の低下をもたらすため、好ましくない。
【0115】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物には、必須成分ではないが、本発明の効果を損なわない範囲で無機フィラーを配合して使用することも可能である。かかる無機フィラーの具体例としてはガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカー、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、なかでもガラス繊維、シリカ、炭酸カルシウムが好ましく、更に炭酸カルシウムやシリカが、防食材、滑材の効果の点から特に好ましい。またこれらの無機フィラーは中空であってもよく、更に2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも炭酸カルシウムやシリカ、カーボンブラックが、防食材、滑材としての観点から好ましい。
【0116】
かかる無機フィラーの配合量は、柔軟性が求められる用途に適用する場合は、PPS樹脂組成物の合計100重量部に対して、10重量部未満の範囲が選択され、5重量部未満の範囲が好ましく、3重量部未満の範囲がより好ましく、1重量部以下の範囲が更に好ましい。下限は特に無いが0.0001重量部以上が好ましい。一方で、高強度が求められる用途に適用する場合は、PPS樹脂組成物の合計100重量部に対して、200重量部未満の範囲が選択され、150重量部未満の範囲が好ましく、100重量部未満の範囲がより好ましい。下限は特に無いが1重量部以上が好ましい。
【0117】
また、本発明の実施形態のPPS樹脂組成物にフィブリル化ポリテトラフルオロエチレンを添加することは、樹脂組成物の難燃性を高めることができ好ましい。フィブリル化ポリテトラフルオロエチレンの添加により、組成物の難燃性向上と、難燃試験時の滴下防止効果が発現する。
【0118】
かかるフィブリル化ポリテトラフルオロエチレンとしては、フィブリル化ポリテトラフルオロエチレン単独、あるいは、フィブリル化ポリテトラフルオロエチレンと有機系重合体からなるポリテトラフルオロエチレン系混合体があげられる。
【0119】
フィブリル化ポリテトラフルオロエチレンとは、せん断力などの外的作用によりポリテトラフルオロエチレン分子同士が結合し繊維状構造を形成するポリテトラフルオロエチレンである。また、フィブリル化ポリテトラフルオロエチレンは極めて高い分子量を有し、その数平均分子量は、150万~数千万の範囲である。フィブリル化ポリテトラフルオロエチレンの重合法としては、乳化重合および成分および懸濁重合のいずれであってもよい。フィブリル化の特性を損なわない範囲で、共重合成分として、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィンや、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートを用いることができる。共重合成分の含量は、テトラフルオロエチレンに対して10重量%以下であることが好ましい。
【0120】
本発明におけるフィブリル化ポリテトラフルオロエチレンの配合量は、(a)PPS樹脂100重量部に対して0.01重量部以上10重量部以下であることが好ましい。PPS樹脂100重量部に対して、フィブリル化ポリテトラフルオロエチレンが10重量部以下とすると、PPS樹脂組成物の溶融粘度および溶融張力の著しい増大を抑制できる。PPS樹脂100重量部に対して、フィブリル化ポリテトラフルオロエチレンが0.01重量部以上の場合、樹脂組成物の難燃性および滴下防止効果を発現させることができ好ましい。
【0121】
また、2種類以上のフィブリル化ポリテトラフルオロエチレンを併用することも、分散性向上の観点から好適である。
【0122】
(7)樹脂組成物の製造方法
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物を製造する方法としては、溶融状態での製造や溶液状態での製造等が挙げられるが、簡便さの観点から、溶融状態での製造が好ましく用いられる。溶融状態での製造については、押出機による溶融混練や、ニーダーによる溶融混練等が使用できるが、生産性の観点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましく用いられる。押出機による溶融混練については、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機、二軸単軸複合押出機等の押出機を少なくとも1台使用できるが、混練性、反応性、生産性向上の点から、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機が好ましく使用でき、二軸押出機による溶融混練が最も好ましい。
【0123】
溶融混練する更に具体的な方法としては、必ずしもこれに限定されるものでは無いが、L/D(L:スクリュー長さ、D:スクリュー直径)が10以上、好ましくは20以上であり、ニーディング部を2箇所以上、好ましくは3箇所以上有する二軸押出機を使用することが好ましい。L/Dの上限については特に制限しないが、60以下が経済性の観点から好ましい。また、ニーディング部の数の上限についても特に制限しないが、生産性の観点から10箇所以下であることが好ましい。スクリュー全長に対するニーディング部の割合は、15%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましい。スクリュー全長に対するニーディング部の割合が15%を下回る場合は、混練力が劣るため、(b)熱可塑性樹脂の数平均分散粒子径が粗大化し、所望の物性も発現し難い。一方、スクリュー全長に対するニーディング部の割合の上限については、混練時の過剰な剪断発熱の発生による樹脂の劣化を防ぐ観点から、70%以下が好ましい。
【0124】
スクリュー回転数については150~1000回転/分、好ましくは300~1000回転/分、より好ましくは350~800回転/分の条件で混練する方法が好ましい。スクリュー回転数が150回転/分を上回る場合は、混練力が十分であるため、(b)熱可塑性樹脂の数平均分散粒子径が微細化し、所望の靭性の発現に繋がる。スクリュー回転数が1000回転/分を上回る場合は、混練時の過剰な剪断発熱による樹脂や添加剤の劣化が発生し、靭性の低下や金型汚れ性の低下、溶融粘度の低下によるバリの発生などの成形加工性の低下にも繋がるため好ましくない。
【0125】
好ましいシリンダー温度(℃)の範囲は、(a)PPS樹脂の融点である250~280℃に対して、+5~100℃の温度範囲が望ましく、具体的には280~400℃の範囲であり、280~360℃の範囲がより好ましく、280~330℃の範囲が更に好ましい。
【0126】
溶融混練する際の原料の混合順序については特に制限されるものではないが、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
【0127】
(8)PPS樹脂組成物
本発明のPPS樹脂組成物は、(a)PPS樹脂、(b)熱可塑性樹脂、(c)反応性官能基を有する難燃剤、(d)(c)成分と反応する反応性化合物を配合してなり、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対し、(b)成分の配合量は1~40重量部であることが必須である。この構成のPPS樹脂組成物とすることで、PPS樹脂の柔軟性や靱性を向上させた場合でも、優れた難燃性を発現できる。
【0128】
本発明のPPS樹脂組成物は、材料の柔軟性を示す物性値の1つである曲げ弾性率(ISO178に準拠、曲げ速度2mm/min、23℃)が、3.0GPa以下であることが好ましく、2.8GPa以下がより好ましく、2.5GPa以下がさらに好ましく、2.0GPa以下が特に好ましい。中空形状を有する配管部材においては、配管部材製造時や実使用時の曲げ加工性、配管部材へのジョイント部材の圧入時の破壊抑制の観点から、柔軟性が求められるため、樹脂組成物の曲げ弾性率が3.0GPa以下であることが要求される。曲げ弾性率は柔軟性の観点から低いほど好ましく、特に下限はないが、実質的に形状を保持できる0.1GPa以上が例示できる。このような特性を有するPPS樹脂組成物を得る方法は、特に限定はされないが、たとえば(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対する(b)熱可塑性樹脂の配合量が1重量部以上40重量部以下の樹脂組成物とすることや、PPS樹脂中で(b)成分が微分散の構造を形成すること、(e)成分を配合したPPS樹脂組成物とすることが挙げられる。
【0129】
本発明のPPS樹脂組成物は、材料の難燃性の指標であるUL94規格による測定において、厚さが3.2mm以下の試験片において測定された難燃性がV-0、V-1、またはV-2であることが好ましく、厚さが1.6mm以下の試験片においてもV-0、V-1、またはV-2であることが好ましく、厚さが1.0mm以下の試験片においてもV-0、V-1、またはV-2であることがさらに好ましく、厚さが0.7mm以下の試験片においてもV-0、V-1、またはV-2であることがより好ましく、0.5mm以下の試験片においてもV-0、V-1、V-2であることが特に好ましい。またUL94規格による測定における試験片5本の合計の燃焼時間を、難燃性の指標とすることもできる。試験片5本の合計の燃焼時間が短いことは難燃性に優れることを意味し、例えば、厚さが0.7mmtの試験片においては100秒以内であることが好ましく、90秒以内であることがより好ましく、80秒以内であることが特に好ましい。一般に難燃特性は、試験片厚みが厚いほど、優れた特性を発現する傾向にある。係る難燃特性を有することは、優れた難燃特性を有しながら成形品の薄肉化やそれに伴う成形品の軽量化を達成できることを意味し、火災による人的・経済的損失の抑制への貢献のみならず、軽量化に伴う省エネルギー効果にも寄与するため、電気自動車などの自動車用部材に好適に用いることができる。
【0130】
このような特性を有するPPS樹脂組成物を得る方法は、特に限定はされないが、たとえば(a)PPS樹脂に対して(c)成分および(d)成分を配合してなる樹脂組成物とすることや、PPS樹脂中で(b)成分が数平均分散径1μm以下の微分散構造を形成すること、(c)成分の反応性官能基量が2000μmol/g以上とすること、(c)成分の配合量を、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対して、0.1重量部~10重量部とすること、(d)成分の配合量を、(a)成分および(b)成分の合計100重量部に対して、0.1~3重量部の樹脂組成物とすること、(e)成分を配合したPPS樹脂組成物とすることが挙げられる。
【0131】
本発明のPPS樹脂組成物は、材料の靱性を示す物性値の一つである引張破断伸び(ダンベル試験片(ISO527-2-1A)、引張速度50mm/min、23℃、ISO527-1,2に準拠)が、10%以上が好ましく、12.5%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、20%以上が特に好ましい。中空形状を有する配管部材や各種成形品の実使用時の破壊抑制の観点から、樹脂組成物の引張破断伸びが10%以上であることが望ましい。引張破断伸びは、実使用時の部材破断を抑制する観点からより高い方が好ましく、特に上限は設けないが、実質的に500%以下であることが例示できる。このような特性を有するPPS樹脂組成物を得る方法は、特に限定はされないが、たとえば(a)と(b)成分との合計100重量部に対する(b)熱可塑性樹脂の含有量が1重量部以上40重量部以下の樹脂組成物とすることや、PPS樹脂中で(b)成分が微分散の構造を形成すること、および(b)成分が反応性の官能基を有すること、(e)成分を配合したPPS樹脂組成物とすることが挙げられる。
【0132】
本発明のPPS樹脂組成物は、(b)成分を配合することによりPPS樹脂の柔軟性や靱性を向上させた場合でも、優れた難燃性を発現するものである。かかる特性を発現させるためには、PPS樹脂組成物の相構造において、PPS樹脂が連続相を形成し、(b)成分が数平均分散粒子径1μm以下で分散した分散相を形成することが好ましい。下限としては、微細な分散径ほど好ましいが、実質的に非相溶系の分散径の最小径である1nm程度が挙げられる。一方、数平均分散粒子径が1μmを超えることは、(b)成分が樹脂組成物中で分散不良を生じ、比較的大きな凝集体が形成されていることを意味する。この分散状態の場合、引張試験や曲げ試験での破断点の起点となるため好ましくないと考えられる。PPS樹脂組成物中の(b)成分の数平均分散粒子径を1μm以下に制御する手段としては、少なくとも(a)PPS樹脂、(b)熱可塑性樹脂、(c)反応性官能基を有する難燃剤および(d)(c)成分と反応する反応性化合物の二軸押出機での溶融混練において、L/Dが20以上、ニーディング部を2箇所以上有する、スクリュー回転数が200~500回転/分の条件を満たすことが好ましい方法として例示できる。なお、ここでいう数平均分散粒子径は、PPS樹脂の融解ピーク温度+20~40℃の成形温度でISO527-1-1A試験片を成形し、室温にてその中心部から0.1μm以下の薄片をダンベル片の成形時の樹脂の流れ方向に対して垂直な断面方向に切削し、日立ハイテクノロジーズ製電界放出形走査型電子顕微鏡SU8220にて、1000~5000倍に拡大して観察した際の任意の100個の(b)成分について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその分散粒子径とし、その後それらの平均値を求めた値である。
【0133】
また、PPS樹脂組成物の溶融粘度を400Pa・s以上とすることも、優れた靱性、難燃性および成形加工性を発現する手段として好ましい。溶融粘度が400Pa・s以上とすることで、中空形状や板状の成形品等の押出成形において、引取時の溶融樹脂の破断や変形が抑制され、優れた成形加工性が発現するため好ましい。PPS樹脂組成物の溶融粘度を400Pa・s以上とするには、例えば(b)成分として、官能基を有するオレフィン系エラストマーを併用したり、溶融粘度の高い(a)PPS樹脂を用いたりすることが好ましい方法として例示できる。優れた靭性と難燃性および成形加工性を得る観点から、PPS樹脂組成物の溶融粘度は500Pa・s以上がより好ましく、600Pa・s以上がさらに好ましい。一方、著しく高粘度の場合には成形装置のトルク等への負荷が生じるため、PPS樹脂組成物の溶融粘度の上限値は、3000Pa・s以下が好ましい。なお、本発明におけるPPS樹脂組成物の溶融粘度は、キャピログラフを用いて、300℃、オリフィス長さL(mm)/オリフィス直径D(mm)=10の条件下で測定した際の、剪断速度122s-1における値である。
【0134】
(9)PPS樹脂組成物の用途
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など、各種成形手法により成形可能であるが、中でも押出成形あるいは射出成形用途として有用である。特に、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は優れた柔軟性と靱性を両立することから、中空形状を有する配管部材に適しており、中でも耐熱性や低吸水性が求められる自動車用途のダクトや冷却チューブなどの配管部材や住宅設備の水回り用途の配管部材に好適である。また、高度な特性と軽量性の両立が求められるアーバンエアモビリティ用途の配管部材にも好適である。更に本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の特徴である難燃性を兼ね備えることにより、これらの用途において、より高い安全性が実現可能である。また本発明のPPS樹脂組成物は、高い柔軟性や難燃性、耐熱性、耐薬品性を活かして、電線被覆部材やプラスチックファスナーへの適用が可能であり、特に高温環境やオートマチック・トランスミッション・フルード等の薬品に晒される環境でも高い物性を維持できるため好適に用いられる。電線の形状としては丸線、平角線、バスバーなど特に制限はなく、本発明のPPS樹脂組成物は、いずれの形状の電線に対しても、被覆部材として好ましく用いられる。プラスチックファスナーとは、エレメントの材料に樹脂を使用した留め具を指し、例えばボタンやリベット等の点ファスナー、ジッパー等の線ファスナー、クリップ、クランプ、面ファスナー、結束バンド、ケーブルタイ、バンドである。
【0135】
射出成形により得られる成形品の用途としては、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、ターボダクト、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、クラッシュパッド、インシュロック、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、携帯電話、スマートフォン、ノート型パソコン、タブレット型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット等々を例示できる。
【0136】
押出成形により得られる成形品としては、丸棒、角棒、シート、フィルム、チューブ、パイプなどが挙げられ、更に具体的な用途としては、給湯器モーター、エアコンモーター、駆動モーター用などの電気絶縁材料、フィルムコンデンサー、スピーカー振動板、記録用の磁気テープ、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、シームレスベルト、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、工程・離型フィルム、保護フィルム、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、リチウムイオン電池内の絶縁ワッシャー、熱水や冷却水、化学薬品用のチューブ、自動車用の燃料チューブ、アーバンエアモビリティ用の熱水、冷却水、化学薬品、燃料チューブ、熱水配管、化学プラントなどの薬品配管、超純水や超高純度溶媒用の配管、自動車配管、フロンや超臨界二酸化炭素冷媒用の配管パイプ、研磨装置用のワークピース保持リングなどが例示できる。その他、ハイブリッド自動車や電気自動車および燃料電池自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体、家電用の耐熱電線ケーブル、自動車内の配線に使用されるフラットケーブル等のワイヤーハーネスやコントロールワイヤー、通信、伝送用、高周波用、オーディオ用、計測用などの信号用トランスまたは車載用トランスの巻線の被覆成形体などが例示できる。
【0137】
吹込(ブロー)成形により得られる成形品の用途としては、自動車用の燃料タンク、オイルタンク、レゾネーター、インタークーラー、インテークマニホールド、ターボダクト、吸排気ダクト、ラジエターパイプ、ラジエターヘッダー、エクスパンジョンタンク、オイル循環パイプなどが例示できる。
【0138】
これら各種成形品は、熱板溶着、レーザー溶着、誘導加熱溶着、高周波溶着、スピン溶着、振動溶着、超音波溶着、射出溶着などの二次加工に供する事も勿論可能である。
【実施例0139】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0140】
実施例および比較例において、(a)PPS樹脂、(b)熱可塑性樹脂、(c)反応性官能基を有する難燃剤、(d)(c)成分と反応する反応性化合物、(e)シリコ-ンエラストマー、(f)その他の添加剤として以下のものを用いた。
【0141】
[(a)PPS樹脂(a-1、a-2)]
[参考例1 PPS樹脂(a-1)]
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2923.88g(70.17モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム1894.20g(23.10モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら230℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.017モルであった。
【0142】
次にp-ジクロロベンゼン10420g(70.89モル)、NMP9078.30g(91.70モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で240℃まで昇温し、240℃で40分反応を行った後、0.8℃/分の速度で275℃まで昇温した。その後、250℃まで1.3℃/分の速度で冷却しながら2394g(133モル)のイオン交換水をオートクレーブに圧入した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0143】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS樹脂(a-1)は、重量平均分子量:73000、融点:280℃、カルボキシル基量:35μmol/g、溶融粘度:398Pa・sであった。
【0144】
[参考例2 PPS樹脂(a-2)]
撹拌機付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.26kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.6モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.5モル)、酢酸ナトリウム1.61kg(19.6モル)及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで徐々に加熱し、水9.82kgおよびNMP0.28kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点での仕込みアルカリ金属水硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.01モルであった。また、硫化水素の飛散量は1.4モルであったため、本脱水工程後の系内のスルフィド化剤は68.6モルであった。なお、硫化水素の飛散に伴い、系内には水酸化ナトリウムが新たに1.4モル生成している。
【0145】
次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)10.33kg(70.2モル)、1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)0.044kg(0.24モル)、NMP9.37kg(94.5モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、撹拌しながら200℃から270℃まで昇温し、270℃で180分保持して重合反応を行った。反応終了後、200℃まで1.0℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷した。NMPで希釈してスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMPで洗浄濾別した。得られた固形物をイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を4回繰り返した。その後、PPS樹脂1gに対し0.5重量%の酢酸カルシウムを含む水溶液中で洗浄し、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。さらにイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS樹脂(a-2)は、重量平均分子量:90000、融点:275℃、溶融粘度:2761Pa・sであった。
【0146】
[(b)熱可塑性樹脂(b-1)]
b-1:エチレン-アクリル酸メチル-グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学社製オレフィン樹脂、ボンドファーストBF-7M、融点52℃、MFR:7g/10分(190℃、21.2N荷重))、反応性官能基量:6重量%
[(c)反応性官能基を有する難燃剤(c-1)]
c-1:10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ9-オキサ-10-フォスファフェナントレン-10-オキサイド(三光社製、HCA-HQ、反応性官能基量:6170μmol/g)
[(d)(c)成分と反応する反応性化合物(d-1、d-2、d-3)]
d-1:2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
d-2:ビスフェノールA型エポキシ化合物、NER-1302(日本化薬社製)
d-3:ビフェニルノボラック型エポキシ化合物、NC-3000(日本化薬社製)
[(e)シリコ-ンエラストマー(e-1、e-2)]
e-1:シリコーンアクリルコアシェルゴム(カネカ社製、MR-01、オルガノポリシロキサン量:約85重量%)
e-2:シリコーンゴム(ダウ東レ社製、EP-5500M、オルガノポリシロキサン量:約90%以上)
[(f)その他の添加剤(f-1、f-2)]
f-1:反応性官能基を有しない芳香族リン酸エステル化合物(大八化学社製PX-200)
f-2:ホスフィン酸金属塩(クラリアントジャパン製OP1230)
以下の実施例において、材料特性については次の方法により評価した。
【0147】
[曲げ試験]
本発明のPPS樹脂組成物ペレットを、熱風乾燥機を用いて130℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度:310℃、金型温度:145℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75DUZ)に供給し、ISO 20753(2008)に規定されるタイプA1試験片形状の金型を用いて、中央平行部の断面積を通過する溶融樹脂の平均速度が400±50mm/sとなる条件で射出成形を行い、試験片を得た。この試験片の中央平行部を切り出し、タイプB2試験片を得た。この試験片を、23℃、相対湿度50%の条件で16時間状態調節を行った後、ISO 178(2010)法に準拠し、スパン64mm、試験速度:2mm/minの条件で曲げ弾性率測定を行った。
【0148】
[難燃試験]
本発明のPPS樹脂組成物ペレットを、熱風乾燥機を用いて130℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度320℃、金型温度150℃に設定した住友重機製射出成形機(SE-75DUZ)に供給し、難燃性評価用試験片を得た。UL94垂直試験に定められている評価基準に従い、試験片の難燃性を評価した。難燃性はV-0>V-1>V-2の順に低下しランク付けされる。V-2の基準に満たさない場合、outの表記とした。試験片の厚みは、本発明のPPS樹脂組成物の好適な用途の1つである配管部材の多くが厚さ1mm以上であることを考慮し、それ以下の厚みとして0.7mmを用いた。ランクがV-0、V-1、V-2のいずれかのもの、あるいはランクがoutであっても試験片5本の合計の燃焼時間が100秒以内であれば合格と判断した。
【0149】
[引張試験]
曲げ試験と同様に得たタイプA1試験片を、23℃、相対湿度50%の条件で16時間状態調節を行った後、ISO 527-1、2(2012)法に準拠し、チャック間114mm、試験速度:50mm/minの条件で引張破断伸び(よびひずみ)測定を行った。
【0150】
[(b)成分の数平均分散粒子径]
曲げ試験と同様に得たタイプA1試験片を、その中央平行部の中心部から室温にて0.1μm以下の薄片をダンベル片の成形時の樹脂の流れ方向に対して垂直な断面方向に切削し、日立ハイテクノロジーズ製電界放出形走査型電子顕微鏡SU8220にて、1000~5000倍に拡大して観察した。任意の100個の熱可塑性樹脂について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその分散粒子径とし、その後それらの平均値を求めた値を、数平均分散粒子径とした。
【0151】
[溶融粘度]
PPS樹脂組成物の溶融粘度は、次の方法により求めた。東洋精機社製キャピログラフ1B(長さ10mm、直径1mmのキャピラリー)を用いて、300℃、オリフィス長さL(mm)/オリフィス直径D(mm)=10の条件下で測定した際の、剪断速度122s-1における値を採用した。
【0152】
[実施例1~12、比較例1~7]
表1および表2に示す配合組成にて(a)~(f)成分をドライブレンドした後、(株)日本製鋼所社製TEX30α型二軸押出機(L/D=30、ニーディング部3箇所)に投入し、溶融混練した。混練条件は温度300℃、回転数300回転/分の条件で実施した。ストランドカッターによりペレット化した後、130℃にて3時間乾燥したペレットを射出成形に供した。数平均分散粒子径、曲げ弾性率、難燃性、引張破断伸び、溶融粘度の評価結果は表1および表2に示す通りであった。
【0153】
【0154】
【0155】
上記実施例と比較例の結果を比較して説明する。
【0156】
実施例1~12では、(a)~(d)成分を特定の組成で含有するPPS樹脂組成物とすることで、優れた柔軟性と引張破断伸びに代表される優れた靱性を発現しつつ、(c)、(d)成分を含まない比較例1、6に比べ難燃性が大きく向上している。また比較例5のように、一般的に用いられる難燃剤を配合した場合に比べても、難燃性が高いことがわかる。
【0157】
比較例2、3から、(c)、(d)成分のどちらか一方だけの配合では、難燃化効果がほとんど得られないことがわかる。また比較例4、7から、(d)成分に加え、反応性官能基を有しない難燃剤を配合した場合には、難燃化効果が得られない。