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特開2024-50505共鳴呼吸数を推定する方法、及び睡眠効率を改善するためのコンピュータの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050505
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】共鳴呼吸数を推定する方法、及び睡眠効率を改善するためのコンピュータの制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20240403BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20240403BHJP
   A61M 21/02 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/107 400
A61M21/02 B
A61M21/02 C
A61M21/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023167712
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022156037
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓮尾 英明
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038HJ09
4C038SS08
4C038SV00
4C038SV03
4C038SX05
4C038SX07
4C038SX09
(57)【要約】
【課題】
より簡便に共鳴呼吸数を推定する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明のある実施形態は、コンピュータによって、対象者の共鳴呼吸数を推定する方法に関する。前記方法は、推定式に対象者の身長の値を入力し、前記推定式から推定共鳴呼吸数を取得することを含む。前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって、対象者の共鳴呼吸数を推定する方法であって、
推定式に対象者の身長の値を入力し、前記推定式から推定共鳴呼吸数を取得することを含み、
前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である、
方法。
【請求項2】
前記推定式は性別毎に決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象者の共鳴呼吸数を推定するための推定装置であって、
前記推定装置は、制御部を含み、
前記制御部は、推定式に対象者の身長の値を入力し、前記推定式から推定共鳴呼吸数を取得し、
前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である、
推定装置。
【請求項4】
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、
推定式に対象者の身長の値を入力し、前記推定式から推定共鳴呼吸数を取得するステップを実行させ、
前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である、
対象者の共鳴呼吸数を推定するための推定プログラム。
【請求項5】
対象者の睡眠障害を改善するためのコンピュータの制御方法であって、
前記コンピュータに、
推定式に対象者の身長の値を入力することにより取得した推定共鳴呼吸数に応じて、対象者に呼吸を促すためのヒトの知覚により認識可能な情報を出力させること、
を含み、
前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である、
制御方法。
【請求項6】
前記知覚が、視覚、触覚、及び聴覚から選択される少なくとも1つである、請求項5に記載の制御方法。
【請求項7】
睡眠障害を改善するための改善装置であって、
前記改善装置は、制御部と、出力デバイスを備え、
前記制御部は、
推定式に対象者の身長の値を入力することにより取得した推定共鳴呼吸数に応じて、取得した推定共鳴呼吸数を出力デバイスに出力し、
前記出力デバイスは、
推定共鳴呼吸数に応じて、対象者に呼吸を促すためのヒトの知覚により認識可能な情報を出力し、
前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である、
改善装置。
【請求項8】
前記知覚が
視覚である時、出力デバイスは表示装置であり、
触覚である時、出力デバイスはエアバッグ制御装置であり、
聴覚である時、出力デバイスはスピーカーである、
請求項7に記載の改善装置。
【請求項9】
コンピュータに実行させたときに、コンピュータに、
推定式に対象者の身長の値を入力することにより取得した推定共鳴呼吸数に応じて、対象者に呼吸を促すためのヒトの知覚により認識可能な情報を出力するステップを実行させる、
対象者の睡眠障害を改善するための改善プログラムであって、
前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である、
改善プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、共鳴呼吸数を推定する方法、推定装置、及び推定プログラムが開示される。また、本明細書には、睡眠効率を改善するためのコンピュータの制御方法、睡眠効率の改善装置、及び改善プログラムが開示される。
【背景技術】
【0002】
共鳴呼吸法とは、呼吸と圧受容器反射との間に共鳴を生じさせ、自律神経機能である心拍変動を最大化する呼吸法である。
【0003】
専門医療機関では、心拍変動を視覚的に確認しながら共鳴呼吸法を用いて心拍変動値を高めるために、心拍変動測定装置で推定した共鳴呼吸数を利用した病院心拍変動バイオフィードバック治療が行割れている。
非特許文献1には、就寝前に心拍変動バイオフィードバック装置を使用した共鳴呼吸法を実践することにより、睡眠の質が改善されることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hasuo, H. et al., Front Med (Lausanne). 2020 Feb 25;7:61. doi: 10.3389/fmed.2020.00061. eCollection 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献に記載の方法は、心拍変動バイオフィードバック装置を使用して、共鳴呼吸数を推定している。しかし、当該装置を使用した共鳴呼吸数の推定では、対象者が専門医療機関へ来院した上、最低でも30分の測定時間が必要となる。このため、対象者の来院の負担が大きく、普及性に乏しいという問題がある。
本発明は、より簡便に共鳴呼吸数を推定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の実施形態を含み得る。
本発明のある実施形態は、コンピュータによって、対象者の共鳴呼吸数を推定する方法に関する。前記方法は、推定式に対象者の身長の値を入力し、前記推定式から推定共鳴呼吸数を取得することを含む。前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である。
【0007】
好ましくは、前記推定式は性別毎に決定される。
【0008】
本発明のある実施形態は、対象者の共鳴呼吸数を推定するための推定装置に関する。前記推定装置は、制御部を含む。前記制御部は、推定式に対象者の身長の値を入力し、前記推定式から推定共鳴呼吸数を取得する。前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である。
【0009】
本発明のある実施形態は、対象者の共鳴呼吸数を推定するための推定プログラムに関する。前記推定プログラムは、コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、推定式に対象者の身長の値を入力し、前記推定式から推定共鳴呼吸数を取得するステップを実行させる。前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である。
【0010】
本発明のある実施形態は、対象者の睡眠障害を改善するためのコンピュータの制御方法に関する。前記制御方法は、前記コンピュータに、推定式に対象者の身長の値を入力することにより取得した推定共鳴呼吸数に応じて、対象者に呼吸を促すためのヒトの知覚により認識可能な情報を出力させること、を含む。前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である。
【0011】
好ましくは、前記知覚が、視覚、触覚、及び聴覚から選択される少なくとも1つである。
【0012】
本発明のある実施形態は、睡眠障害を改善するための改善装置に関する。前記改善装置は、制御部と、出力デバイスを備える。前記制御部は、推定式に対象者の身長の値を入力することにより取得した推定共鳴呼吸数に応じて、取得した推定共鳴呼吸数を出力デバイスに出力する。前記出力デバイスは、推定共鳴呼吸数に応じて、対象者に呼吸を促すためのヒトの知覚により認識可能な情報を出力する。前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である。
【0013】
好ましくは、前記知覚が視覚である時、出力デバイスは表示装置である。
【0014】
好ましくは、触覚である時、出力デバイスはエアバッグ制御装置である。
【0015】
好ましくは、聴覚である時、出力デバイスはスピーカーである。
【0016】
本発明のある実施形態は、対象者の睡眠障害を改善するための改善プログラムに関する。前記改善プログラムは、コンピュータに実行させたときに、コンピュータに、推定式に対象者の身長の値を入力することにより取得した推定共鳴呼吸数に応じて、対象者に呼吸を促すためのヒトの知覚により認識可能な情報を出力するステップを実行させる。前記推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である。
【発明の効果】
【0017】
より簡便に共鳴呼吸数を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】推定装置10の構成を示す。
図2】推定プログラム1の処理の流れを示す。
図3】推定プログラム2の処理の流れを示す。
図4】画像情報により対象者に呼気及び吸気のタイミングを知らせる場合の例を示す。(A)は呼吸開始時の例を示す。(B)は吸気ステップの例を示す。(C)は呼気ステップの例を示す。
図5】改善装置20の構成を示す。
図6】改善プログラムの処理の流れを示す。
図7】エアバッグ制御装置の構成を示す。
図8】エアバッグ制御処理の流れを示す。
図9】男性の参加者の共鳴呼吸数を、5、5.5、6、6.5、および7bpmに分位した時の身長の分布の箱ひげ図を示す。
図10】男性の参加者の共鳴呼吸数を、5、5.5、6、6.5、および7 bpmに分位した時の身長の分布の比較を示す。
図11】各説明変数を使用して作成したモデルと結果を示す。
図12】説明変数として身長(cm)と性別を使用した場合のモデルと結果を示す。
図13】男性の説明変数として身長(cm)を使用した場合のモデルと結果を示す。
図14】、男女別に求めた推定共鳴呼吸数と実測の共鳴呼吸数の分布を1つの箱ひげ図として示す。
図15】男性について求めた推定共鳴呼吸数と実測の共鳴呼吸数の分布を箱ひげ図として示す。
図16】女性について求めた推定共鳴呼吸数と実測の共鳴呼吸数の分布を箱ひげ図として示す。
図17】Home-based heart rate variability-biofeedback (HRV-BF)装置を示す。
図18】介入プロトコルを示す。
図19】Home HRV-BF+conventional care groupとConventional care groupの2群の患者の臨床データを示す。
図20】T0とT1の時点におけるHome HRV-BF+conventional care groupとConventional care groupのActigraphy sleep parametersの値の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.共鳴呼吸数の推定
1-1.概要
ある実施形態は共鳴呼吸数を推定する方法に関する。前記方法は、推定式に対象者の身長の値を入力し、前記推定式から推定共鳴呼吸数を取得することを含む。
共鳴呼吸数は、心拍変動を最大化する1分間あたりの呼吸数である。
【0020】
推定式は、複数の参加者から取得された、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて構成された回帰式である。ここで、参加者は、回帰式の構築に必要なデータを取得するために集められた者である。対象者は実際に推定共鳴呼吸数を算出する者である。複数の参加者には、対象者が含まれていても、含まれていなくてもよい。対象者は、好ましくはがん患者である。
【0021】
一般的に、共鳴呼吸数は、心拍変動バイオフィードバック装置等により決定される。心拍変動バイオフィードバック装置を使って対象者の心拍変動をモニタリングしながら、前記対象者の1分間あたりの呼吸数を、例えば、5、5.5、6、6.5及び7回のように分位して変化させる。各呼吸数について例えば2分間その呼吸数を維持する。1回の呼吸については、吸気と呼気の時間の比率が例えば1:2となるように指示する。この呼吸数を変化させ取得した心拍変動の波形を平滑化し、最大となった呼吸数を算出し、共鳴呼吸数とする。
【0022】
本明細書において、推定共鳴呼吸数を取得するための推定式は、複数の参加者から取得される、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値に基づいて算出される。好ましくは、推定式は、複数の参加者から取得される、各参加者の共鳴呼吸数と身長の値について回帰分析を行い、切片の回帰係数と身長の値に関する回帰係数(傾き)を算出する。回帰係数の算出は、例えば解析ソフトR等を使って解析可能である。
【0023】
算出された回帰係数に基づき、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)
=(切片の回帰係数)+[(身長の値に関する回帰係数)×(身長の値)]
で表される推定式を構築することができる。
本明細書において、身長の値の単位はセンチメートルである。身長の値は、小数点以下第1位、又は第2位まで使用することができる。
【0024】
例えば、切片の回帰係数は、17.06、好ましくは17.056±0.001、より好ましくは17.0556±0.0001、さらに好ましくは17.05563±0.00001、さらにより好ましくは17.055631とすることができる。身長の値に関する回帰係数は、-0.07、好ましくは-0.066±0.001、より好ましくは-0.0656±0.0001、さらに好ましくは-0.06560±0.00001、さらにより好ましくは-0.065604とすることができる。
【0025】
好ましくは、推定式は性別に応じて構築されることが好ましい。
すなわち、複数の参加者を性別に応じてグループ分けし、男女それぞれのグループについて、上記推定式を構築する。
【0026】
例えば、男性の場合、健常人から得られる推定式は、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)=(17.90±0.01)-[(0.07±0.01)×(身長の値)]、
好ましくは、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)=(17.896±0.001)-[(0.071±0.001)×(身長の値)]
より好ましくは、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)=(17.8955±0.0001)-[(0.0706±0.0001)×(身長の値)]
さらに好ましくは、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)=(17.89546±0.00001)-[(0.07055±0.00001)×(身長の値)]
さらにより好ましくは、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)=17.895461-[0.070551×(身長の値)]により表すことができる。
【0027】
例えば、女性の場合、健常人から得られる推定式は、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)=(15.88±0.01)-[(0.060±0.001)×(身長の値)]
好ましくは、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)=(15.876±0.001)-[(0.060±0.001)×(身長の値)]
より好ましくは、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)=(15.8765±0.0001)-[(0.0600±0.0001)×(身長の値)]
さらに好ましくは、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)=(15.87649±0.00001)-[0.05991±0.00011×(身長の値)]
さらにより好ましくは、
推定共鳴呼吸数(breaths per minutes)=15.87649 -[0.05991×(身長の値)]である。
【0028】
上記推定式によって算出した推定共鳴呼吸数は、回帰係数に応じて小数点第2位以下の桁が得られる。しかし、所定の小数点以下の桁数となるように四捨五入、切り捨て、切り上げ等を行って、小数点以下の桁数を調整してもよい。
【0029】
上記共鳴呼吸数の推定は、ヒトが行ってもよいが、汎用コンピュータ、マイクロコンピュータ等のコンピュータが行ってもよい。
以下の推定装置及び推定プログラムの説明にも、本項の説明を援用する。
【0030】
1-2.共鳴呼吸数を推定するための推定装置
ある実施形態は共鳴呼吸数を推定するための推定装置10(以下、単に「推定装置10」とも称する)に関する。
推定装置10の構成を図1に示す。推定装置10は、入力部111と、出力部112と接続されていてもよい。
図1において、推定装置10は、制御部100を備える。
制御部100は、CPU101とメモリ102を備える。
【0031】
また、推定装置10が、入力部111と出力部112を備える場合、入力部111からの推定装置10への情報の入力、及び推定装置10から出力部112への情報の出力は、インタフェース106を介して行う。
【0032】
CPU101、メモリ102、インタフェース106はバス109により通信可能に接続される。
【0033】
CPU101は、Central Processing Unitであっても、Micro Processing Unitであってもよい。
【0034】
メモリ102は、推定式、及び推定プログラム、入力部からユーザによって入力される身長の値、性別を示すラベル値を記憶する。また、メモリ102は、推定共鳴呼吸数を算出する時のワークメモリなどとして用いられる。
【0035】
入力部111は、キーボード、タッチパネル、操作ボタン、音声入力装置等であり得る。
出力部112は、ディスプレイ等の表示装置、スピーカー、その他の制御装置であり得る。
【0036】
推定装置10は、汎用コンピュータ又はマイクロコンピュータであり得る。
【0037】
1-3.共鳴呼吸数を推定するための推定プログラムによる処理
(1)推定プログラム1
図2に、推定プログラム1による処理の流れを示す。推定プログラム1は、身長の値のみに基づいて推定共鳴呼吸数を算出する。
【0038】
ステップS111において、CPU101は、対象者等のユーザが入力部から入力した身長の値を受け付ける。また、CPU101は、受け付けた入力値をメモリ102に記憶してもよい。身長の値はセンチメートルで表されることが好ましい。
ステップS112において、CPU101は、メモリ102から推定式を読み出し、身長の値を推定式に入力し、推定共鳴呼吸数を算出する。
ステップS113において、CPU101は、算出した推定共鳴呼吸数を出力部112に出力する。
【0039】
推定共鳴呼吸数の少数点以下の調整は、ステップS112において行ってもよく、また、ステップS113において行ってもよい。
【0040】
(2)推定プログラム2
図3に、推定プログラム2による処理の流れを示す。推定プログラム2は、身長の値及び性別を示すラベル値に基づいて推定共鳴呼吸数を算出する。
【0041】
ステップS121において、CPU101は、対象者等のユーザが入力部から入力した身長の値、及び性別を示すラベル値を受け付ける。また、CPU101は、受け付けた入力値をメモリ102に記憶してもよい。性別を示すラベル値は、例えば男性が「0」及び女性が「1」のように数字で示されてもよい。あるいは、例えば男性が「M」及び女性が「F」のようにアルファベットで示されてもよい。
ステップS122において、CPU101は、性別の値に応じた推定式を選択する。
【0042】
CPU101は、ステップS122において選択した推定式を使用して、ステップS123及びS124の処理を行う。ステップS123及びS124の処理は、それぞれ上述のステップS112及びS113の処理と同様である。
【0043】
2.睡眠障害の改善
本項において使用される用語について、前記1.と共通する用語は、前記1.に記載の説明をここに援用する。
【0044】
2-1.概要
ある実施形態は、対象者の睡眠障害を改善するための方法に関する。言い換えると前記方法は、対象者の睡眠障害を改善するためのコンピュータの制御方法でもある。
【0045】
前記方法は、コンピュータに、推定式に対象者の身長の値を入力することによって取得した推定共鳴呼吸数に応じて、対象者に呼吸を促すためのヒトの知覚により認識可能な情報を出力させることを含む。
「対象者に呼吸を促す」とは、対象者に呼気及び吸気のタイミングを知らせ、対象者が推定共鳴呼吸数で呼吸できるようにサポートすることを意図する。
【0046】
ここで、ヒトの知覚とは、視覚、触覚、及び聴覚から選択される少なくとも1つを例示することができる。知覚により認識可能な情報とは、視覚により認識可能な画像情報、触覚により認識可能な皮膚に加わる圧力情報、聴覚により認識可能な音声情報等である。
【0047】
推定共鳴呼吸数に応じた呼吸は、1回の呼吸を吸気ステップと呼気ステップに分け、1回の呼吸における時間を吸気ステップの時間と呼気ステップの時間を決めて対象者に行わせる。例えば、対象者の推定共鳴呼吸数が6回の場合、1回の呼吸は10秒かけて行われることとなる。例えば、対象者の推定共鳴呼吸数が5回の場合、1回の呼吸は12秒かけて行われることとなる。さらに、この1回の呼吸において、吸気ステップと呼気ステップとの時間の比率により分けて行う。吸気ステップと呼気ステップとの時間の比率は一般的に決められており、呼気ステップの時間:吸気ステップの時間は、例えば1:2、3:7等である。例えば、対象者の推定共鳴呼吸数が6回の場合、1回の呼吸は10秒間であるので、呼気ステップの時間:吸気ステップの時間が1:2であれば約3.33秒間:約6.67秒間となる。呼気ステップの時間:吸気ステップの時間が3:7であれば3秒間:7秒間となる。
【0048】
例えば、画像情報により対象者に呼気及び吸気のタイミングを知らせる場合の例を図4に示す。コンピュータ、スマートフォン、心拍変動バイオフィードバック装置の表示装置(ディスプレイ)に図4(A)~(C)に示す画像が、1回の呼吸の経過とともに表示される。例えば符号Gは1回の呼吸における吸気ステップと、吸気と呼気の切り替え点と、呼気ステップを示すガイドである。符号Pは呼吸の進行状況を示すインディケータである。図4(A)において、インディケータPは、吸気開始点に位置している。呼吸が始まると、図4(B)インディケータPは、ガイドG上を点線矢印の方向に向かって、推定共鳴呼吸数に応じた時間の進行に合わせて移動する。図4(B)では、呼吸が吸気ステップであるため、インディケータPは、ガイドGのピーク(吸気・呼気切り替え点)よりも左側に位置する。図4(C)では、呼吸が呼気ステップであるため、インディケータPは、ガイドGのピーク(吸気・呼気切り替え点)よりも右側に位置する。インディケータPが呼気終了点に達することは1回の呼吸が終了することを意味し、画像は図4(A)に戻る。すなわち、画像情報は、推定共鳴呼吸数における少なくとも1回の呼吸の、吸気開始を示す情報(例えば、吸気開始点)と、吸気から呼気への切り替え点を示す情報(例えば、吸気・呼気切り替え点)と、呼気の終了(あるいは、1回の呼吸の終了)を示す情報(例えば、呼気終了点)と、呼吸の進行を示すインディケータPを備える。
【0049】
別の画像情報の実施形態として、例えば表示装置にインディケータPのみを表示し、インディケータPの大きさ、及び/又は色により、対象者に吸気ステップと、呼気ステップを把握させてもよい。
【0050】
例えば、圧力情報により対象者に吸気及び呼気のタイミングを知らせる場合、例えば、推定共鳴呼吸数に応じた1回の呼吸において、吸気ステップをエアバッグの拡張で表し、呼気ステップをエアバッグの縮小で表す。すなわち、対象者の皮膚に接触する寝具(マットレス、枕等)、ぬいぐるみ、手掌で握ることができるボール等に前記エアバッグを内蔵させ、これに対象者が接触することによって、対象者は吸気ステップと、呼気ステップを把握することができる。
【0051】
例えば、音声情報の場合、対象者に呼気及び吸気のタイミングを知らせる場合、例えば、スピーカー等から、吸気ステップと、呼気ステップを音声出力により知らせてもよい。音声情報は、「息を吸ってください」及び「はいてください」等の言語音声であってもよく、吸気ステップと呼気ステップを音の違いにより表してもよい。また、各ステップの進行状況を音量で表してもよい。
【0052】
睡眠障害の改善には、上記推定共鳴呼吸数に応じた呼吸は、例えば1分間に5回から7回程度、3分間~10分間、好ましくは、4分間~6分間繰り返すことが好ましい。
【0053】
就寝前に、対象者に推定共鳴呼吸数での呼吸を促すことにより、睡眠障害を改善することができる。
【0054】
睡眠障害を改善できているかいなかは、例えばActigraph GT3X+ (ActiGraphTM; ActiGraph, Pensacola, FL, USA)等により算出される睡眠効率により評価することができる。睡眠効率は、100%に近づくほど良好である。例えば対象者の睡眠効率の前回値と比較し、前記方法を適応した後の睡眠効率が高くなっていれば睡眠障害が改善されていると決定することができる。また、逆に対象者の睡眠効率の前回値と比較し、前記方法を適応した後の睡眠効率が高くなっていなければ睡眠障害が改善されていないと決定することができる。
【0055】
本項における説明は、以下の改善装置、及び改善プログラムの説明にも援用する。
【0056】
2-2.睡眠障害を改善するための改善装置
ある実施形態は対象者の睡眠障害を改善するための改善装置20(以下、単に「改善装置20」とも称する)に関する。
【0057】
改善装置20の構成を図5に示す。改善装置20は、入力部211と、出力デバイス212と接続されていてもよい。
【0058】
図5において、改善装置20は、制御部200を備える。
制御部200は、CPU201とメモリ202を備える。
【0059】
また、改善装置20が、入力部211と出力デバイス212を備える場合、入力部211からの改善装置20への情報の入力、及び改善装置20から出力デバイス212への情報の出力は、インタフェース206を介して行う。
【0060】
CPU201、メモリ202、インタフェース206はバス209により通信可能に接続される。
【0061】
CPU201は、Central Processing Unitであっても、Micro Processing Unitであってもよい。
【0062】
メモリ202は、推定式、及び改善プログラム、入力部からユーザによって入力される身長の値、性別を示すラベル値を記憶する。また、メモリ202は、推定共鳴呼吸数を算出する時のワークメモリなどとして用いられる。
【0063】
入力部211は、キーボード、タッチパネル、操作ボタン、音声入力装置等であり得る。
【0064】
出力デバイス212は、ディスプレイ等の表示装置、スピーカー、その他の制御装置であり得る。
改善装置20は、汎用コンピュータ又はマイクロコンピュータであり得る。
【0065】
2-3.改善プログラムによる処理
図6に、対象者の睡眠障害を改善するための改善プログラム(以下、単に「改善プログラム)とも呼ぶ」による処理の流れを示す。
【0066】
ステップS211において、CPU201は、上記1-3.において算出された対象者の推定共鳴呼吸数を取得する。あるいは、すでに算出されている推定呼吸数をユーザが入力部211から入力し、CPU201はこれを受け付けてもよい。
【0067】
ステップS212において、CPU201は、推定共鳴呼吸数に応じて、対象者に呼吸を促すためのヒトの知覚により認識可能な情報を出力デバイスに出力する。出力デバイス212への出力は、例えば1分間に5回から7回程度、3分間~10分間、好ましくは、4分間~6分間繰り返すことが好ましい。
【0068】
出力デバイス212は、知覚が視覚である場合表示装置であり、触覚である場合には、エアバッグ制御装置であり、聴覚である場合にはスピーカーである。
【0069】
以下に、図7を用いて、出力デバイス212が、エアバッグ制御装置212’である場合について説明する。エアバッグ制御装置212’は、ポンプ250と弁260と接続され、弁260はエアバッグ300に接続されエアバッグ300内の空気の貯留量を調節する。弁260は、電磁弁であることが好ましい。
【0070】
エアバッグ制御装置212’は、CPU212aと、ポンプ駆動部212bと、弁駆動部212cを備える。改善装置20から出力された推定共鳴呼吸数を、エアバッグ制御装置212’のCPU212aが受け付け、ポンプ駆動部212bと弁駆動部212cを推定共鳴呼吸数に応じて駆動するように制御する。CPU212aは、ポンプ駆動部212bを介してポンプ250を駆動するとともに、弁駆動部212cを介して弁260を駆動する制御を行う。弁260は、エアバッグ300内に空気を吸入し、または排出して、エアバッグ300の大きさを推定共鳴呼吸数に応じて変化させる。より具体的には、弁260は、推定共鳴呼吸数の応じた呼吸の吸気ステップではエアバッグ300内に空気を吸入しエアバッグ300を膨張させ、呼気ステップではエアバッグ300内の空気を排出し収縮させる。
【0071】
CPU212aによるエアバッグの制御方法について、図8を用いて説明する。
【0072】
CPU212aは、ステップS31において、対象者が入力部211に入力する制御処理の開始指令を受け付ける。
【0073】
CPU212aは、開始指令を受け付けると、ステップS32において対象者の推定共鳴呼吸数が改善装置20に記憶されているかを判定し、記憶されていない場合にはステップS34に進み、ステップS111~S113、又はS121~S124に基づいて対象者の推定共鳴呼吸数を決定する。
【0074】
CPU212aは、ステップS32において対象者の推定共鳴呼吸数が改善装置20に記憶されている場合には、ステップS35に進む。
【0075】
CPU212aは、ステップS35において、弁260を制御し対象者の推定共鳴呼吸数に応じた吸気ステップに対応して弁260を介してエアバッグ300に吸気を促す吸気モードに制御する。
【0076】
CPU212aは、続いてステップS36に進み、弁260を制御し対象者の推定共鳴呼吸数に応じた呼気ステップに対応して弁260を介してエアバッグ300に排気を促す排気モードに制御する。
【0077】
CPU212aは、ステップS37に進み、規定時間の吸気と排気を繰り返したか、すなわちステップS35とS36を繰り返したかを判断する。規定時間を満たしてない場合、ステップS35に戻り、ステップS35~S37を繰り返す。規定時間を満たした場合、処理を終了する。規定時間とは、例えば1分間に5回から7回程度、3分間~10分間、好ましくは、4分間~6分間程度である。
【0078】
対象者の皮膚に接触する寝具(マットレス、枕等)、ぬいぐるみ、手掌で握ることができるボール等の外装の内部に格納されていてもよい。このとき、前記外装には、外側から対象者の皮膚が接触するため、外装の外側からエアバッグ300の膨張と収縮を対象者が感知できる必要がある。
【実施例0079】
以下に実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0080】
1.研究参加者
睡眠障害を経験し、病院において心拍変動バイオフィードバック(HRV-BF)セッションを受けた20歳以上の根治不能のがん患者に研究に参加していただいた。本研究は、2018年から2019年にかけて関西医科大学病院で実施した。サンプリングの偏りを避けるために、継続的に新規参加者を登録した。また、(1)睡眠障害とは無関係の睡眠覚醒障害(過眠症、呼吸関連の睡眠障害など)、又は(2)精神障害(気分障害、認知障害など)を有する者は、除外基準を満たす者として対象外とした。
【0081】
研究期間中、当院の緩和ケア部門を定期的に受診している20歳以上の根治不能のがん患者411名が連続して登録された。これらのうち、88名の患者が睡眠障害の選択基準を満たしていた。睡眠障害のある17名の患者が除外基準を満たし、71名の適格な患者が残った。前記71名の患者について研究に参加するためのインフォームド コンセント行い、同意が得られたのは50名の患者であった。前記50名の患者については、欠損データはなく、すべての結果が得られた。
【0082】
参加者の平均年齢は66.4(標準偏差[SD]=12.5)歳で、男性の割合は60.0%(95%信頼区間:36.3-63.7%)であった。平均身長は166.8(SD=8.9)cm、平均体重は48.8(SD=8.7)kgでした。
【0083】
2.データの収集
参加者の個々の特性(年齢、性別、身長、体重)のデータは、当院の緩和ケア部門の患者記録から取得した。マルチチャンネルバイオフィードバックシステム(ProComp InfinitiTM / BioGraph Infiniti; Thought Technology Ltd.、モントリオール、カナダ)を使用して参加者の呼吸を監視し、共鳴周波数を決定した。参加者には、共鳴周波数を測定している間、5、5.5、6、6.5、および7 bpm(breaths per minutes)で2分間呼吸するように要求した。吸気と呼気の比率は1:2に設定した。共鳴周波数は、HRV波形を平滑化し、HRV波形の最大値を呼吸数として計算し、共鳴呼吸数とした。
【0084】
3.統計解析
共鳴呼吸数と年齢、性別、身長(cm)、体重(kg)との関連性を評価するために、スピアマンの順位相関係数を算出した。一元配置反復測定分散分析(ANOVA)を使用して、各共鳴呼吸数と身長を比較した。
【0085】
4.結果
参加者の平均共鳴呼吸数は、6.05(SD=0.63)bpmであった。
共鳴呼吸数と個々の特性との間の相関係数は次のとおりであった。性別(男性):0.358(p=0.011)、身長:-0.590(p<0.001)、体重:0.295(p=0.037)、および年齢:0.153(p=0.288)。共鳴呼吸数と身長の間の偏相関は、性別(男性)で-0.510(p<0.001)、体重で0.474(p=0.001)、年齢で-0.193(p=0.180)であった。男性の参加者の共鳴呼吸数を、5、5.5、6、6.5、および7bpmに分位した時の身長の分布を箱ひげ図により示す(図9)。
【0086】
また、図10に、男性の参加者の共鳴呼吸数を、5、5.5、6、6.5、および7 bpmに分位した時の身長の分布の比較を示す。有意差は、p<0.001であり、身長と共鳴呼吸数の間に相関があることが示された。
【0087】
5.推定式の構築
(1)方法・統計解析
推定式を作る訓練データとして122名の健常人のデータを使用した。
連続量データ実測共鳴呼吸数を目的変数として、連続データとして年齢、身長、体重、胸囲、腹囲に加え、カテゴリカル変数として性別を説明変数の候補として、重回帰分析を行った。
【0088】
結果として全ての変数を入れた場合の多変量解析の結果、また全ての変数を入れた時に有意となった変数、解析の結果有意となった変数のみを選択して行った結果、最終的に使用することになった結果を示す。回帰分析の結果としては各変数の回帰係数の点推定値、標準誤差、p値、またそれらを使用して計算する95%信頼区間の上限(95%CI_up)、下限(95%CI_low)、それぞれのモデルにおける自由度調整済み決定係数を出力した。 それぞれの解析においては、都度その結果を研究者間で供覧し、臨床的な利便性などを共著者間で確認し、分析結果から共鳴呼吸数の推定式を作成した。当該推定式により推定される共鳴呼吸数が推定共鳴呼吸数となる。
【0089】
外部検証として、採用するモデルが癌患者でも使用可能かどうかを、根治不能のがん患者32名について、推定式にて検出した推定共鳴呼吸数とそれぞれの患者で取得されている実際の共鳴呼吸数を使用し、2変数の関係を示す目的とし箱ひげ図で示した。根治不能のがん患者の推定共鳴呼吸数は、男女別に取得した。
データ分析には R version 4.0.5 (2021-03-31)を使用した。
【0090】
(2)結果
図11は、各説明変数を使用して作成したモデルと結果を示す。図12は、説明変数として身長(cm)と性別を使用した場合のモデルと結果を示す。図13(A)は、男性の説明変数として身長(cm)を使用した場合のモデルと結果を示す。図13(B)は、女性の説明変数として身長(cm)を使用した場合のモデルと結果を示す。
最終的に求められた推定式は、
男性:共鳴呼吸数(breaths per minutes)=17.895461-0.070551×身長(cm)
女性:共鳴呼吸数(breaths per minutes)=15.87649-0.05991×身長(cm)であった。
【0091】
上記推定式の妥当性を検証するため、がん患者において上記2.の方法により収集された実際の共鳴呼吸数と、上記推定式から算出された推定共鳴呼吸数を比較した。その結果を図14~16に示す。図14は、男女別に求めた推定共鳴呼吸数と実測の共鳴呼吸数を1つの箱ひげ図として表したものである。図15は、男性について求めた推定共鳴呼吸数と実測の共鳴呼吸数を箱ひげ図として表したものである。図16は、女性について求めた推定共鳴呼吸数と実測の共鳴呼吸数を箱ひげ図として表したものである。
いずれの箱ひげ図においても、推定共鳴呼吸数と実測の共鳴呼吸数の分布が類似していることを示している。
【0092】
6.実施例
6-1.心拍変動バイオフィードバック装置を使用した睡眠の改善例
上記推定式から推定共鳴呼吸数を算出し、推定呼吸数の基づいて実際にがん患者の不眠障害に対する心拍変動バイオフィードバック介入を行った。
【0093】
(1)介入例1
介入例1は、70歳代男性であり、身長は163.6 cmであった。進行胃がんに対する緩和医療を受けており、主訴は不眠であった。Day1に、外来にて共鳴呼吸数を推定式から 6.4 回/分と設定した心拍変動バイオフィードバック装置の使用方法を指導した。Day 1~3 の前介入期間ではゾピクロン 7.5 mgを毎日服用していた。
【0094】
Day4~8 の介入期間ではゾピクロン 7.5 mgの服用はなかった。睡眠の客観的指標である Actigraph
GT3X+ (ActiGraphTM; ActiGraph, Pensacola, FL, USA)における睡眠効率の平均は、前介入期間では 97.4±2.5%、介入期間では 95.8±3.0%であり、ゾピクロンを服用しなくても睡眠効率は維持されていた。
【0095】
(2)介入例2
介入例2は、70 歳代女性であり、身長は150.0 cmであった。進行胃がんに対する化学療法を受けており、主訴は不眠であった。Day1に外来にて共鳴呼吸数を推定式から 6.9 回/分と設定した心拍変動バイオフィードバック装置の使用方法を指導した。前介入期間をDay1~2、介入期間をDay3~7とした。睡眠効率の平均は、前介入期間では 79.9±3.11%、介入期間では 97.2±2.1%であり、心拍変動バイオフィードバック装置の使用により睡眠効率は著しく改善された。
【0096】
以上の結果から、上記推定式によって算出される推定共鳴呼吸数は、マルチチャンネルバイオフィードバックシステムによって測定される共鳴呼吸数を代替できると考えられた。
【0097】
6-2.Home-based heart rate variability-biofeedback (HRV-BF)装置による睡眠改善の2群間比較
がん患者30名に対して、図17に示すHome-based heart rate variability-biofeedback (HRV-BF)装置を使用した在宅での睡眠介入を行った。介入プロトコルを図18に示す。
【0098】
がん患者を15名ずつHome HRV-BF+conventional care groupとConventional care groupの2群に分けた。図19に両群の患者の臨床データを示す。両群の患者に来院していただき、Home HRV-BF+conventional care groupの患者については、推定式による共鳴呼吸数の算出と、HRV-BF装置への登録を行った。Conventional care groupの患者については、これまで定期的もしくは頓用として使用していた睡眠剤の使用等の治療・ケアを適用した。この来院時をDay O(T1)とした。両群の患者に対して、Day 0から数えてDay 3~Day 4にActigraphy sleep parametersの評価を行った。次に、Home HRV-BF+conventional care groupの患者については、Day 5からDay 10~Day 14まで自宅にてHRV-BF装置を使用した心拍変動バイオフィードバックを行った。両群の患者に対して、Day 5からDay 10~Day 14にActigraphy sleep parametersの評価を行った。
【0099】
両群の患者には、Day 10~Day 14に再度来院していただき、睡眠状態の評価を行った。この来院時をT1とした。
【0100】
図20にT0とT1の時点におけるHome HRV-BF+conventional care groupとConventional care groupのActigraphy sleep parametersの値の変化を示す。
【0101】
Home HRV-BF+conventional care groupでは、Sleep efficiencyとNumber of awakeningsがT0よりもT1において改善していたが、Conventional care groupではこのような変化は認められなかった。このことから、Home HRV-BF+conventional care group ではHRV-BF装置により睡眠が改善したと考えられた。
【符号の説明】
【0102】
10 推定装置、100 制御部、20 改善装置、200 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20