(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050545
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ラジカル発生触媒、ラジカルの製造方法、酸化反応生成物の製造方法、薬剤および農畜産用薬剤
(51)【国際特許分類】
B01J 31/02 20060101AFI20240403BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240403BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240403BHJP
A01N 33/12 20060101ALI20240403BHJP
A01N 59/08 20060101ALI20240403BHJP
A61K 33/20 20060101ALI20240403BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240403BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B01J31/02 102Z
A01P1/00
A01P3/00
A01N33/12 101
A01N59/08 A
A61K33/20
A61P1/04
A61P1/00
A61P31/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218866
(22)【出願日】2023-12-26
(62)【分割の表示】P 2022075658の分割
【原出願日】2018-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017119188
(32)【優先日】2017-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017119189
(32)【優先日】2017-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505122944
【氏名又は名称】株式会社 エースネット
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】高森 清人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 剛克
(57)【要約】 (修正有)
【課題】温和な条件下でラジカルを発生させることが可能なラジカル発生触媒を提供する。
【解決手段】第1のラジカル発生触媒は、アミノ酸、ペプチド、リン脂質、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする。第2または第3のラジカル発生触媒は、式:N+(R11)(R21)(R31)(R41)X-で表されるアンモニウム塩を含み、かつ、アンモニウム塩のルイス酸性度が0.4eV以上である。式中、R11、R21、R31、およびR41、は、それぞれ水素原子もしくは芳香環であるか、またはアルキル基であり、前記アルキル基は、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R11、R21、R31、およびR41のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN+とともに環状構造を形成していてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸、タンパク質、ペプチド、リン脂質、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことを特徴とするラジカル発生触媒。
【請求項2】
さらに、アンモニウムを含む請求項1記載のラジカル発生触媒。
【請求項3】
前記アンモニウムが、下記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩である請求項2記載のラジカル発生触媒。
【化XI】
前記化学式(XI)中、
R
11、R
21、R
31、およびR
41、は、それぞれ水素原子もしくは芳香環であるか、またはアルキル基であり、前記アルキル基は、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R
11、R
21、R
31、およびR
41は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
11、R
21、R
31、およびR
41のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN
+とともに環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
X
-は、アニオン(ペルオキソ二硫酸イオンを除く)である。
【請求項4】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XII)で表されるアンモニウム塩である請求項3記載のラジカル発生触媒。
【化XII】
前記化学式(XII)中、
R
111は、炭素数が5~40のアルキル基であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、置換基、または芳香環が含まれていてもよく、
R
21およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項5】
前記化学式(XII)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XIII)で表されるアンモニウム塩である請求項4記載のラジカル発生触媒。
【化XIII】
前記化学式(XIII)中、
R
111およびX
-は、前記化学式(XII)と同じである。
【請求項6】
前記アンモニウムが、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化アンモニウム、塩化メチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム、エドロホニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、オキシトロピウム、カルバコール、グリコピロニウム、サフラニン、シナピン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、スキサメトニウム、スフィンゴミエリン、ガングリオシドGM1、デナトニウム、トリゴネリン、ネオスチグミン、パラコート、ピリドスチグミン、フェロデンドリン、プラリドキシムヨウ化メチル、ベタイン、ベタニン、ベタネコール、ベタレイン、レシチン、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、およびコリン類からなる群から選択される少なくとも一つである請求項4記載のラジカル発生触媒。
【請求項7】
前記化学式(XII)で表されるアンモニウム塩が、塩化ベンゼトニウムである請求項4記載のラジカル発生触媒。
【請求項8】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XIV)で表されるアンモニウム塩である請求項3記載のラジカル発生触媒。
【化XIV】
前記化学式(XIV)中、
R
100は、環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項9】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XV)で表されるアンモニウム塩である請求項3記載のラジカル発生触媒。
【化XV】
前記化学式(XV)中、
各Zは、それぞれ、CHまたはNであり、同一でも異なっていてもよく、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項10】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XVI)で表されるアンモニウム塩である請求項3記載のラジカル発生触媒。
【化XVI】
前記化学式(XVI)中、
R
101、R
102、R
103、およびR
104は、それぞれ水素原子または置換基であり、R
101、R
102、R
103、およびR
104は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
101、R
102、R
103、およびR
104のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN
+とともに環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
Zは、CHまたはNであり、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項11】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XVII)で表されるアンモニウム塩である請求項3記載のラジカル発生触媒。
【化XVII】
前記化学式(XVII)中、
R
111~R
118は、それぞれ水素原子または置換基であり、R
111~R
118は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
111~R
118のうち2つ以上が一体化して環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、
芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
Zは、CHまたはNであり、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項12】
前記アミノ酸が、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リシン、ヒドロキシリシン、アルギニン、システイン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、および4-ヒドロキシプロリンからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1から11のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項13】
前記ペプチドが、酸化型グルタチオン(GSSG)および還元型グルタチオン(GSH)の少なくとも一方である請求項1から12のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項14】
前記リン脂質が、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、およびカルジオリピンからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1から13のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項15】
前記ラジカル発生触媒のルイス酸性度が、0.4eV以上である請求項1から14のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項16】
前記ラジカル発生触媒のブレーンステッド酸としての酸解離定数pKaが5以上である請求項1から15のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項17】
酸性でない反応系中で、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒する請求項1から16のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項18】
酸性の反応系中で、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒する請求項1から16のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項19】
液中で、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒する請求項1から18のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項20】
生体内において、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒する請求項1から19のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項21】
消化器官内において、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒する請求項1から20のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項22】
前記消化器官が、口腔部、咽頭部、食道、胃、十二指腸、小腸および大腸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項記載のラジカル発生触媒。
【請求項23】
前記消化器官が、大腸である請求項21記載のラジカル発生触媒。
【請求項24】
前記ラジカル発生源が、オキソ酸を含む請求項1から23のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項25】
前記オキソ酸が、ホウ酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、亜リン酸、リン酸、ヒ酸、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、ニクロム酸、過マンガン酸、およびハロゲンオキソ酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項24記載のラジカル発生触媒。
【請求項26】
前記ハロゲンオキソ酸が、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、および過ヨウ素酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項21記載のラジカル発生触媒。
【請求項27】
前記ラジカル発生源が、ハロゲンイオン、次亜ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、ハロゲン酸イオン、および過ハロゲン酸イオン、からなる群から選択される少なくとも一つを含む請求項1から23のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項28】
前記オキソ酸が、ハロゲンオキソ酸またはその塩である請求項24記載のラジカル発生触媒。
【請求項29】
前記ハロゲンオキソ酸が、塩素オキソ酸である請求項28記載のラジカル発生触媒。
【請求項30】
前記ラジカル発生源が、亜塩素酸イオンを含む請求項1から19のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項31】
前記ラジカル発生源が、電子供与体・受容体連結分子を含む請求項1から26のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項32】
前記電子供与体・受容体連結分子が、下記式(A-1)~(A-8)のいずれかで表される含窒素芳香族カチオン誘導体、下記式(A-9)で表される9-置換アクリジニウムイオン、下記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体、それらの立体異性体および互変異性体、並びにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つである請求項31記載のラジカル発生触媒。
【化A1-A8】
【化A9】
【化I】
前記式(A-1)~(A-8)および(A-9)中、
Rは、水素原子または任意の置換基であり、
Arは、前記電子供与基であり、1個でも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
含窒素芳香族カチオンを形成する含窒素芳香環は、RおよびAr以外の任意の置換基を1以上有していても良いし、有していなくても良く、
前記式(I)中、
R
1は、水素原子または任意の置換基であり、
Ar
1~Ar
3は、それぞれ水素原子または前記電子供与基であり、同一でも異なっていても良く、Ar
1~Ar
3の少なくとも一つは前記電子供与基である。
【請求項33】
前記電子供与体・受容体連結分子が、下記式(A-10)で表される9-メシチル-10-メチルアクリジニウムイオンである、請求項32記載のラジカル発生触媒。
【化A10】
【請求項34】
下記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩(ペルオキソ二硫酸塩を除く)を含み、かつ、前記アンモニウム塩のルイス酸性度が0.4eV以上であり、
酸性でない液中で、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒し、
前記ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオンおよび亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とするラジカル発生触媒。
【化XI】
前記化学式(XI)中、
R
11、R
21、R
31、およびR
41、は、それぞれ水素原子もしくは芳香環であるか、またはアルキル基であり、前記アルキル基は、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R
11、R
21、R
31、およびR
41は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
11、R
21、R
31、およびR
41のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN
+とともに環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
X
-は、アニオン(ペルオキソ二硫酸イオンを除く)である。
【請求項35】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩において、
R11、R21、R31、およびR41、は、それぞれ水素原子またはアルキル基であり、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ同じでも異なっていてもよい、
請求項34記載のラジカル発生触媒。
【請求項36】
前記アルキル基が、炭素数1~40のアルキル基である請求項35記載のラジカル発生触媒。
【請求項37】
前記アルキル基が、炭素数1~6のアルキル基である請求項35記載のラジカル発生触媒。
【請求項38】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XII)で表されるアンモニウム塩である請求項34から37のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【化XII】
前記化学式(XII)中、
R
111は、炭素数が5~40のアルキル基であり、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、
R
21およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項39】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化アンモニウム、塩化メチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム、エドロホニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、オキシトロピウム、カルバコール、グリコピロニウム、サフラニン、シナピン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、スキサメトニウム、スフィンゴミエリン、ガングリオシドGM1、デナトニウム、トリゴネリン、ネオスチグミン、パラコート、ピリドスチグミン、フェロデンドリン、プラリドキシムヨウ化メチル、ベタイン、ベタニン、ベタネコール、レシチン、およびコリン類からなる群から選択される少なくとも一つである請求項34記載のラジカル発生触媒。
【請求項40】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XIII)で表されるアンモニウム塩である請求項34記載のラジカル発生触媒。
【化XIII】
前記化学式(XIII)中、
R
111は、炭素数が5~40のアルキル基であり、X
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項41】
前記アンモニウム塩が、塩化ベンゼトニウムである請求項34から40のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項42】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XIV)で表されるアンモニウム塩である請求項34記載のラジカル発生触媒。
【化XIV】
前記化学式(XIV)中、
R
100は、環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項43】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XV)で表されるアンモニウム塩である請求項34記載のラジカル発生触媒。
【化XV】
前記化学式(XV)中、
各Zは、それぞれ、CHまたはNであり、同一でも異なっていてもよく、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項44】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XVI)で表されるアンモニウム塩である請求項34記載のラジカル発生触媒。
【化XVI】
前記化学式(XVI)中、
R
101、R
102、R
103、およびR
104は、それぞれ水素原子または置換基であり、R
101、R
102、R
103、およびR
104は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
101、R
102、R
103、およびR
104のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN
+とともに環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
Zは、CHまたはNであり、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項45】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XVII)で表されるアンモニウム塩である請求項34記載のラジカル発生触媒。
【化XVII】
前記化学式(XVII)中、
R
111~R
118は、それぞれ水素原子または置換基であり、R
111~R
118は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
111~R
118のうち2つ以上が一体化して環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、
芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
Zは、CHまたはNであり、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項46】
前記アンモニウム塩が、NH4
+の塩である請求項34記載のラジカル発生触媒。
【請求項47】
前記アンモニウム塩が、NH4Clである請求項46記載のラジカル発生触媒。
【請求項48】
前記アンモニウム塩が、前記アンモニウムのヘキサフルオロリン酸塩である請求項34から38、40および42から46のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項49】
前記亜ハロゲン酸が、亜塩素酸、亜臭素酸、および亜ヨウ素酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項34から48のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項50】
前記ラジカル発生源が、亜塩素酸イオンである請求項34から48のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項51】
下記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩を含み、かつ、前記アンモニウム塩のルイス酸性度が0.4eV以上であり、
酸化剤の存在下において、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒し、
前記酸化剤が、O
2であり、
前記ラジカル発生源が、下記式(A-1)~(A-8)のいずれかで表される含窒素芳香族カチオン誘導体、下記式(A-9)で表される9-置換アクリジニウムイオン、下記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体、それらの立体異性体および互変異性体、並びにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とするラジカル発生触媒。
【化XI】
前記化学式(XI)中、
R
11、R
21、R
31、およびR
41、は、それぞれ水素原子もしくは芳香環であるか、またはアルキル基であり、前記アルキル基は、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R
11、R
21、R
31、およびR
41は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
11、R
21、R
31、およびR
41のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN
+とともに環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
X
-は、アニオンである。
【化A1-A8】
【化A9】
【化I】
前記式(A-1)~(A-8)および(A-9)中、
Rは、水素原子または任意の置換基であり、
Arは、前記電子供与基であり、1個でも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
含窒素芳香族カチオンを形成する含窒素芳香環は、RおよびAr以外の任意の置換基を1以上有していても良いし、有していなくても良く、
前記式(I)中、
R
1は、水素原子または任意の置換基であり、
Ar
1~Ar
3は、それぞれ水素原子または前記電子供与基であり、同一でも異なっていても良く、Ar
1~Ar
3の少なくとも一つは前記電子供与基である。
【請求項52】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩において、
R11、R21、R31、およびR41、は、それぞれ水素原子またはアルキル基であり、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ同じでも異なっていてもよい、
請求項51記載のラジカル発生触媒。
【請求項53】
前記アルキル基が、炭素数1~40のアルキル基である請求項52記載のラジカル発生触媒。
【請求項54】
前記アルキル基が、炭素数1~6のアルキル基である請求項52記載のラジカル発生触媒。
【請求項55】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XII)で表されるアンモニウム塩である請求項51から54のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【化XII】
前記化学式(XII)中、
R
111は、炭素数が5~40のアルキル基であり、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、
R
21およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項56】
前記アンモニウム塩が、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化アンモニウム、塩化メチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム、エドロホニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、オキシトロピウム、カルバコール、グリコピロニウム、サフラニン、シナピン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、スキサメトニウム、スフィンゴミエリン、ガングリオシドGM1、デナトニウム、トリゴネリン、ネオスチグミン、パラコート、ピリドスチグミン、フェロデンドリン、プラリドキシムヨウ化メチル、ベタイン、ベタニン、ベタネコール、レシチン、およびコリン類からなる群から選択される少なくとも一つである請求項51記載のラジカル発生触媒。
【請求項57】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XIII)で表されるアンモニウム塩である請求項51記載のラジカル発生触媒。
【化XIII】
前記化学式(XIII)中、
R
111は、炭素数が5~40のアルキル基であり、X
-は、アニオンである。
【請求項58】
前記アンモニウム塩が、塩化ベンゼトニウムである請求項51から57のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項59】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XIV)で表されるアンモニウム塩である請求項51記載のラジカル発生触媒。
【化XIV】
前記化学式(XIV)中、
R
100は、環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項60】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XV)で表されるアンモニウム塩である請求項51記載のラジカル発生触媒。
【化XV】
前記化学式(XV)中、
各Zは、それぞれ、CHまたはNであり、同一でも異なっていてもよく、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項61】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XVI)で表されるアンモニウム塩である請求項51記載のラジカル発生触媒。
【化XVI】
前記化学式(XVI)中、
R
101、R
102、R
103、およびR
104は、それぞれ水素原子または置換基であり、R
101、R
102、R
103、およびR
104は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
101、R
102、R
103、およびR
104のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN
+とともに環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
Zは、CHまたはNであり、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項62】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩が、下記化学式(XVII)で表されるアンモニウム塩である請求項51記載のラジカル発生触媒。
【化XVII】
前記化学式(XVII)中、
R
111~R
118は、それぞれ水素原子または置換基であり、R
111~R
118は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
111~R
118のうち2つ以上が一体化して環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、
芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
Zは、CHまたはNであり、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【請求項63】
前記アンモニウム塩が、NH4
+の塩である請求項51記載のラジカル発生触媒。
【請求項64】
前記アンモニウム塩が、NH4Clである請求項63記載のラジカル発生触媒。
【請求項65】
前記アンモニウム塩が、前記アンモニウムのヘキサフルオロリン酸塩である請求項51から55、57および59から63のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【請求項66】
前記ラジカル発生源が、下記式(A-10)で表される9-メシチル-10-メチルアクリジニウムイオンおよびその塩の少なくとも一方である請求項51から65のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【化A10】
【請求項67】
下記化学反応式(1b)に対する反応速度定数(k
cat)が1.0×10
-5S
-1以上であることを特徴とする請求項1から66のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒。
【数1b】
前記化学式(1b)中、
M
n+は、前記ラジカル発生触媒を表し、
CoTPPは、コバルト(II)テトラフェニルポルフィリンを表し、
Q1は、ユビキノン1を表し、
[(TPP)Co]
+は、コバルト(III)テトラフェニルポルフィリンカチオンを表し、
(Q1)
・-は、ユビキノン1のアニオンラジカルを表す。
【請求項68】
請求項1から67のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒と、前記ラジカル発生源と、を混合する混合工程を含むことを特徴とする、ラジカルの製造方法。
【請求項69】
前記混合工程において、さらに溶媒を混合する請求項68記載の製造方法。
【請求項70】
さらに、前記混合工程により得られた混合物に光照射する光照射工程を含む、請求項69または70記載の製造方法。
【請求項71】
ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸(ペルオキソ二硫酸塩を除く)と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程、および、
前記ルイス酸と前記ラジカル発生源とを、酸性でない液中で反応させる反応工程を含み、
前記ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン、および亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、ラジカルの製造方法。
【請求項72】
前記亜ハロゲン酸が、亜塩素酸、亜臭素酸、および亜ヨウ素酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項66記載の製造方法。
【請求項73】
前記ラジカル発生源が、亜塩素酸イオンである請求項71または72記載の製造方法。
【請求項74】
前記ルイス酸が、請求項34から50のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒であることを特徴とする、請求項71から73のいずれか一項に記載のラジカルの製造方法。
【請求項75】
ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸と、O2と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程、および、
前記ルイス酸と前記O2と前記ラジカル発生源とを、液中で反応させる反応工程を含み、
前記ルイス酸が、請求項51から66のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒であり、
前記ラジカル発生源が、前記式(A-1)~(A-8)のいずれかで表される含窒素芳香族カチオン誘導体、前記式(A-9)で表される9-置換アクリジニウムイオン、前記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体、それらの立体異性体および互変異性体、並びにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、ラジカルの製造方法。
【請求項76】
前記ルイス酸が、請求項66記載のラジカル発生触媒である請求項70記載の製造方法。
【請求項77】
前記混合工程において、さらに溶媒を混合する請求項71から76のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項78】
さらに、前記混合工程により得られた混合物に光照射する光照射工程を含む、請求項71から77のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項79】
ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸(ペルオキソ二硫酸塩を除く)と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程、および、
前記ルイス酸と前記ラジカル発生源とを、液中で反応させる反応工程を含み、
前記ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸が、無機物質を含み、
前記ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン、および亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする、ラジカルの製造方法。
【請求項80】
前記無機物質が、金属イオンを含む請求項79記載の製造方法。
【請求項81】
前記無機物質が、アルカリ土類金属イオン、希土類イオン、Mg2+、Sc3+、Li+、Fe2+、Fe3+、Al3+、ケイ酸イオン、およびホウ酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つである請求項79記載の製造方法。
【請求項82】
前記ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸が、AlCl3、AlMeCl2、AlMe2Cl、BF3、BPh3、BMe3、TiCl4、SiF4、およびSiCl4、からなる群から選択される少なくとも一つである請求項70から73および79のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項83】
前記亜ハロゲン酸が、亜塩素酸、亜臭素酸、および亜ヨウ素酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項79から82のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項84】
前記ラジカル発生源が、亜塩素酸イオンである請求項79から83のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項85】
被酸化物を酸化して酸化反応生成物を製造する方法であって、
請求項68から84のいずれか一項に記載の製造方法により前記ラジカルを製造するラジカル製造工程と、
前記ラジカルの作用により、前記被酸化物と酸化剤とを反応させて前記酸化反応生成物を生成させる酸化反応工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項86】
前記ラジカルが前記酸化剤を兼ねる請求項85記載の製造方法。
【請求項87】
ラジカル発生触媒と、ラジカル発生源とを含み、
前記ラジカル発生触媒が、請求項1から67のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒であることを特徴とする薬剤。
【請求項88】
前記ラジカル発生源が、オキソ酸を含む請求項87記載の薬剤。
【請求項89】
前記オキソ酸が、ホウ酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、亜リン酸、リン酸、ヒ酸、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、ニクロム酸、過マンガン酸、およびハロゲンオキソ酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項88記載の薬剤。
【請求項90】
前記ハロゲンオキソ酸が、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、および過ヨウ素酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項89記載の薬剤。
【請求項91】
前記ラジカル発生源が、ハロゲンイオン、次亜ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、ハロゲン酸イオン、および過ハロゲン酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つを含む請求項87記載の薬剤。
【請求項92】
前記オキソ酸が、ハロゲンオキソ酸又はその塩である請求項88記載の薬剤。
【請求項93】
前記ハロゲンオキソ酸が、塩素オキソ酸である請求項92記載の薬剤。
【請求項94】
前記オキソ酸が、亜塩素酸イオンを含む請求項88記載の薬剤。
【請求項95】
ラジカル発生触媒と、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオンおよび亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つとを含み、
前記ラジカル発生触媒が、請求項1から30および34から50のいずれか一項に記載のラジカル発生触媒であり、かつ、前記ラジカル発生触媒のルイス酸性度が、0.4eV以上であり、
酸性でないことを特徴とする液状の薬剤。
【請求項96】
前記亜ハロゲン酸が、亜塩素酸、亜臭素酸、および亜ヨウ素酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項95記載の薬剤。
【請求項97】
前記亜ハロゲン酸が、亜塩素酸である請求項95記載の薬剤。
【請求項98】
さらに、水および有機溶媒の少なくとも一方を含む請求項87から97のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項99】
殺菌剤である請求項87から98のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項100】
生体内において使用する請求項87から99のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項101】
消化器官内において使用する請求項87から100のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項102】
前記消化器官が、口腔部、咽頭部、食道、胃、十二指腸、小腸および大腸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項101記載の薬剤。
【請求項103】
前記消化器官が、大腸である請求項101記載の薬剤。
【請求項104】
潰瘍性大腸炎の治療または症状の抑制に使用する請求項100から103のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項105】
農畜産用薬剤である請求項87から104のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項106】
前記農畜産用薬剤が、農業用殺菌剤、農業用抗ウイルス剤、農業用消臭剤、農業用殺虫剤、農業用忌避剤、農業用土壌改良剤、畜産業用殺菌剤、畜産業用抗ウイルス剤、畜産業用消臭剤、畜産業用殺虫剤、畜産業用忌避剤、および畜産業用土壌改良剤からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項105記載の農畜産用薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル発生触媒、ラジカルの製造方法、酸化反応生成物の製造方法、薬剤および農畜産用薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカルは、反応性に富むことから、広く利用されている重要な化学種である。例えば、亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)は、非毒性かつ安価な酸化試薬であり、ラジカル二酸化塩素(ClO2
・)の前駆体として使用されてきた(非特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. Dodgen and H. Taube, J. Am. Chem. Soc., 1949, 71, 2501-2504.
【非特許文献2】J. K. Leigh, J. Rajput, and D. E. Richardson, Inorg. Chem., 2014, 53,6715-6727.
【非特許文献3】C. L. Latshaw, Tappi, 1994, 163-166.
【非特許文献4】(a) J. J. Leddy, in Riegel’s Handbook of Industrial Chemistry, 8th edn. Ed., J. A. Kent, Van Nostrand Reinhold Co. Inc, New York, 1983, pp. 212-235; (b) I. Fabian, Coord. Chem. Rev., 2001, 216-217, 449-472.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、ラジカルを発生させるためには、大きいエネルギーが必要である。このため、高温にするための加熱等が必要であり、コストや反応制御上の問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、温和な条件下でラジカルを発生させる(製造する)ことが可能なラジカル発生触媒、前記ラジカル発生触媒を用いたラジカルの製造方法、および、前記ラジカルの製造方法を用いた酸化反応生成物の製造方法、薬剤、農畜産用薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の第1のラジカル発生触媒は、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、リン脂質、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の第2のラジカル発生触媒は、下記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩(ペルオキソ二硫酸塩を除く)を含み、かつ、前記アンモニウム塩のルイス酸性度が0.4eV以上であり、
酸性でない液中で、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒し、
前記ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオンおよび亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする。
【化XI】
前記化学式(XI)中、
R
11、R
21、R
31、およびR
41、は、それぞれ水素原子もしくは芳香環であるか、またはアルキル基であり、前記アルキル基は、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R
11、R
21、R
31、およびR
41は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
11、R
21、R
31、およびR
41のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN
+とともに環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
X
-は、アニオン(ペルオキソ二硫酸イオンを除く)である。
【0008】
本発明の第3のラジカル発生触媒は、下記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩を含み、かつ、前記アンモニウム塩のルイス酸性度が0.4eV以上であり、
酸化剤の存在下において、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒し、
前記酸化剤が、O
2であり、
前記ラジカル発生源が、下記式(A-1)~(A-8)のいずれかで表される含窒素芳香族カチオン誘導体、下記式(A-9)で表される9-置換アクリジニウムイオン、下記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体、それらの立体異性体および互変異性体、並びにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする。
【化XI】
前記化学式(XI)中、
R
11、R
21、R
31、およびR
41、は、それぞれ水素原子もしくは芳香環であるか、またはアルキル基であり、前記アルキル基は、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R
11、R
21、R
31、およびR
41は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R
11、R
21、R
31、およびR
41のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN
+とともに環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
X
-は、アニオンである。
【化A1-A8】
【化A9】
【化I】
前記式(A-1)~(A-8)および(A-9)中、
Rは、水素原子または任意の置換基であり、
Arは、前記電子供与基であり、1個でも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
含窒素芳香族カチオンを形成する含窒素芳香環は、RおよびAr以外の任意の置換基を1以上有していても良いし、有していなくても良く、
前記式(I)中、
R
1は、水素原子または任意の置換基であり、
Ar
1~Ar
3は、それぞれ水素原子または前記電子供与基であり、同一でも異なっていても良く、Ar
1~Ar
3の少なくとも一つは前記電子供与基である。
【0009】
なお、以下において、本発明における第1のラジカル発生触媒、本発明の第2のラジカル発生触媒および本発明における第3のラジカル発生触媒を、まとめて「本発明のラジカル発生触媒」ということがある。
【0010】
前記目的を達成するために、本発明における第1のラジカルの製造方法は、前記本発明のラジカル発生触媒と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明における第2のラジカルの製造方法は、ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸(ペルオキソ二硫酸塩を除く)と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程、および、
前記ルイス酸と前記ラジカル発生源とを、酸性でない液中で反応させる反応工程を含み、
前記ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン、および亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする。
【0012】
本発明における第3のラジカルの製造方法は、ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸と、O2と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程、および、
前記ルイス酸と前記O2と前記ラジカル発生源とを、液中で反応させる反応工程を含み、
前記ルイス酸が、本発明における第3のラジカル発生触媒であり、
前記ラジカル発生源が、前記式(A-1)~(A-8)のいずれかで表される含窒素芳香族カチオン誘導体、前記式(A-9)で表される9-置換アクリジニウムイオン、前記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体、それらの立体異性体および互変異性体、並びにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする。
【0013】
本発明における第4のラジカルの製造方法は、ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸(ペルオキソ二硫酸塩を除く)と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程、および、
前記ルイス酸と前記ラジカル発生源とを、液中で反応させる反応工程を含み、
前記ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸が、無機物質を含み、
前記ラジカル発生源が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオン、および亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする。
【0014】
なお、以下において、本発明における第1のラジカルの製造方法、本発明の第2のラジカルの製造方法、本発明における第3のラジカルの製造方法および本発明における第4のラジカルの製造方法を、まとめて「本発明のラジカルの製造方法」ということがある。
【0015】
また、本発明の酸化反応生成物の製造方法は、
被酸化物を酸化して酸化反応生成物を製造する方法であって、
前記本発明のラジカルの製造方法により前記ラジカルを製造するラジカル製造工程と、
前記ラジカルの作用により、前記被酸化物と酸化剤とを反応させて前記酸化反応生成物を生成させる酸化反応工程と、
を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の薬剤は、
ラジカル発生触媒と、ラジカル発生源とを含み、
前記ラジカル発生触媒が、前記本発明のラジカル発生触媒であることを特徴とする。
【0017】
本発明の農畜産用薬剤は、
ラジカル発生触媒と、ラジカル発生源とを含み、
前記ラジカル発生触媒が、前記本発明のラジカル発生触媒であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のラジカル発生触媒、ラジカル発生剤およびラジカルの製造方法によれば、温和な条件下でラジカルを発生させる(製造する)ことができる。本発明のラジカル発生触媒、ラジカル発生剤およびラジカルの製造方法の用途としては、例えば、前記本発明の酸化反応生成物の製造方法に用いることができるが、特にこれに限定されず、広範な用途に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、298Kの水溶液中でSc(OTf)
3(10mM)と混合した後、0、4および16時間で採取されたNaClO
2(5.0mM)の紫外線+可視吸収スペクトルである。
【
図2】
図2(a)は、298Kの水溶液(0.20M酢酸緩衝液pH2.9)中のSc(OTf)
3(10mM)とNaClO
2(5.0mM)の反応によるSc
3+(ClO
2
・)の形成の、358nmでのUV-Vis吸収の時間プロファイルである。(b)は、二次プロットである。
【
図3】
図3(a)は、298KのMeCN/H
2O(1:1v/v)溶液中におけるスチレン(30~90mM)存在下でのSc
3+(ClO
2
・)の消費における、358nmでのUV-Vis吸収の時間プロファイルである。(b)は、擬一次速度定数対スチレン濃度のプロットである。
【
図4】
図4は、MeCN溶液の298Kで測定したEPRスペクトルである。(a)は、NaClO
2(0.10mM)含有MeCN溶液の353Kにおける1時間還流後のスペクトルである。(b)は、NaClO
2(0.10mM)およびCF
3COOH(10mM)含有MeCN溶液のスペクトルである。(c)は、NaClO
2(0.10mM)およびSc(OTf)
3(10mM)含有MeCN溶液のスペクトルである。
【
図5】
図5は、CAM‐B3LYP/6‐311+G(d,p)レベルの理論計算による、DFT最適化構造の結合長(Å)である。(a)はClO
2
・、(b)はH
+ClO
2
・、(c)はSc
3+ClO
2
・である。
【
図6】
図6は、室温(25℃)で水性のMeCN溶液(MeCN/H
2O 1:1v/v)中NaClO
2(20mM)によるスチレン(2.0mM)の反応を
1HNMRで追跡した結果を示すスペクトル図である。
【
図7】
図7は、スチレン(66mM)およびNaClO
2(200mM)を含むCD
3CN/D
2O(4:1 v/v)の混合後60℃(333K)で0時間および25時間後の
1HNMRスペクトルを示す。*印は、スチレンオキシド由来のピークである。
【
図8】
図8は、スチレン(2.0mM)、NaClO
2(20mM)およびSc(OTf)
3(30mM)を含むCD
3CN/D
2O(1:1 v/v)の混合後、25℃で0.6時間後および17時間後の
1HNMRスペクトルを示す。*印および†印は、それぞれ、1-フェニルエタン-1,2-ジオール、および2-クロロ-1-フェニルエタノールに由来するピークである。
【
図9】
図9は、スチレン(2.0mM)、NaClO
2(20mM)およびCF
3COOD(30mM)を含むCD
3CN/D
2O(1:1 v/v)の混合後、0.5時間後および17時間後の
1HNMRスペクトルを示す。*印および†印は、それぞれ、1-フェニルエタン-1,2-ジオール、および2-クロロ-1-フェニルエタノールに由来するピークである。
【
図10】
図10は、(a)H
+ClO
2
・および(b)Sc
3+ClO
2
・の、CAM-B3LYP/6-311+G(d,p)レベルの理論計算による、スピン分布を示す図である。
【
図11】
図11(a)は、コバルト(II)テトラフェニルポルフィリン錯体Co(II)TPPの酸素飽和溶液([CoTPP]=9.0×10
-6M、[O
2]=13mM)に塩化ベンゼトニウム(Bzn
+)を添加した溶液の紫外線+可視吸収スペクトルの経時変化を表すグラフである。
図11(b)は、
図11(a)における433nmの吸収帯の増大の経時変化を表すグラフである。
【
図12】
図12は、密度汎関数計算(B3LYP/6-31G(d)レベル)より最適化したBzn
+の構造を示す図である。
【
図13】
図13は、298Kの水溶液中でSc(OTf)
3(40mM)と混合した後、採取されたNaClO
2(20mM)の紫外線+可視吸収スペクトルである。
【
図14】
図14(a)~(c)のグラフは、脱酸素アセトニトリル/水(1:1v/v)混合溶液中に10-メチル-9,10-ジヒドロアクリジン(AcrH
2)(1.4mM)と亜塩素酸ナトリウム(NaClO
2)(2.8mM)を添加した場合の反応の経時変化を示す。
【
図15】
図15(a)および(b)のグラフは、
図14と同じ混合溶液を調整し、さらにBzn
+(0.56mM)を添加した場合の反応の経時変化を示す。
【
図16】
図16(a)および(b)のグラフは、
図15と同じ混合溶液を調整し、さらにSc(OTf)
3(3.0mM)を添加した場合の反応の経時変化を示す。
【
図17】
図17は、AcrH
2から10-メチルアクリドンへの酸素化(酸化)反応において、推定される反応機構を例示する模式図である。
【
図18】
図18(a)は、NaClO
2およびスカンジウムトリフレートを用いたトリフェニルフォスフィンの酸化反応を追跡した紫外可視吸収スペクトルである。
図18(b)は、
図18(a)の反応におけるPh
3Pの初期濃度と生成したPh
3P=Oの濃度との関係を示すグラフである。
【
図19】
図19は、スチレン(2.0mM)、NaClO
2(6.0mM)およびSc(OTf)
3(5.6mM)を含むCD
3CN/D
2O(1:1 v/v)の混合後、Ar雰囲気中、25℃で0時間後および45時間後の
1HNMRスペクトルを示す。
【
図20】
図20は、アセトニトリル中、9-メシチル-10-メチルアクリジニウム(Acr
+-Mes)の過塩素酸塩(Acr
+-Mes ClO
4
-)および酸素の存在下で原料芳香族化合物(ベンズアルデヒド)の酸化反応を行って酸化反応生成物(安息香酸)を得た実施例の収率等を示す。
【
図21】
図21は、塩化ベンゼトニウム[Bzn
+Cl
-]および各種金属錯体のルイス酸性度を示すグラフである。
【
図22】
図22(a)の紫外可視吸収スペクトルは、経時変化によりトリフェニルフォスフィンがトリフェニルフォスフィンオキシドに変換される様子を示す。
図22(b)のグラフは、Sc(OTf)
3(Sc
3+)の存在下および非存在下でのトリフェニルフォスフィン(Ph
3P)濃度の経時変化を表す。
【
図23】
図23は、実施例の薬剤のESRスペクトル図である。
【
図27】
図27は、実施例の薬剤による、潰瘍性大腸炎の抑制効果を示すグラフである。
【
図28】
図28は、実施例の薬剤による、腸内細菌叢の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0021】
[1.ラジカル発生触媒]
本発明における第1~第3のラジカル発生触媒の用途は特に限定されないが、例えば、前述のとおり、本発明における第1のラジカルの製造方法に用いることができる。また、本発明における第1~第3のラジカル発生触媒は、例えば、本発明における第2~第4のラジカルの製造方法にも用いることができる。また、本発明における第2~第4のラジカルの製造方法には、前述のとおり、ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸を用いることができる。前記ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸は、ラジカル発生触媒として働くと考えられる。以下において、「本発明のラジカル発生触媒」という場合は、特に断らない限り、本発明における第1~第3のラジカル発生触媒に限定されず、前記ルイス酸性度が0.4eV以上であるルイス酸も含むものとする。
【0022】
本発明のラジカル発生触媒は、例えば、有機化合物でも無機物質でもよい。前記有機物質は、例えば、アンモニウム、アミノ酸、ペプチド、リン脂質、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。前記無機物質は、金属イオンおよび非金属イオンの一方または両方を含んでいても良い。前記金属イオンは、典型金属イオンおよび遷移金属イオンの一方または両方を含んでいても良い。前記無機物質は、例えば、アルカリ土類金属イオン、希土類イオン、Sc3+、Li+、Fe2+、Fe3+、Al3+、ケイ酸イオン、およびホウ酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。アルカリ土類金属イオンとしては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、またはラジウムのイオンが挙げられ、より具体的には、例えば、Ca2+、Sr2+、Ba2+、およびRa2+が挙げられる。また、「希土類」は、スカンジウム21Sc、イットリウム39Yの2元素と、ランタン57Laからルテチウム71Luまでの15元素(ランタノイド)の計17元素の総称である。希土類イオンとしては、例えば、前記17元素のそれぞれに対する3価の陽イオンが挙げられる。
【0023】
また、前記ルイス酸(カウンターイオンも含む)は、例えば、CaCl2、MgCl2、FeCl2、FeCl3、AlCl3、AlMeCl2、AlMe2Cl、BF3、BPh3、BMe3、TiCl4、SiF4、およびSiCl4からなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。ただし、「Ph」はフェニル基を表し、「Me」はメチル基を表す。
【0024】
なお、本発明のラジカル発生触媒において、前記ラジカル発生触媒は、目的に応じて、反応性の強さ、酸性度の強さ、安全性等を考慮して適宜選択することができる。
【0025】
本発明者らは、検討の結果、アンモニウム(特に、有機アンモニウム)、アミノ酸、ペプチド、およびリン脂質がラジカル発生触媒として機能することを見出した。また、本発明者らは、さらに検討の結果、ラジカル発生触媒として機能するアンモニウム、アミノ酸、ペプチド、およびリン脂質が、ルイス酸としての性質を有する場合があることを見出した。すなわち、アンモニウム、アミノ酸、ペプチド、およびリン脂質がラジカル発生触媒として機能する理由は明らかではないが、前記アンモニウム、アミノ酸、ペプチド、およびリン脂質がルイス酸としての機能を有するためであると推測される。また、本発明者らは、さらに検討の結果、ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方を有する有機化合物を含むラジカル発生触媒を見出した。なお、本発明において、「ルイス酸」は、例えば、前記ラジカル発生源に対してルイス酸として働く物質をいう。
【0026】
本発明のラジカル発生触媒のルイス酸性度は、例えば、0.4eV以上、0.5eV以上、または0.6eV以上である。前記ルイス酸性度の上限値は、特に限定されないが、例えば、20eV以下である。本発明において、前記ルイス酸性度が前記数値以上または以下であることの判断基準としては、例えば、後述する「ルイス酸性度の測定方法(1)」または「ルイス酸性度の測定方法(2)」のいずれか一方による測定値が前記数値以上または以下であればよい。
【0027】
前記ルイス酸性度は、例えば、Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur. J., 2000, 6, 4532、J. AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 10270-10271、またはJ. Org. Chem. 2003, 68, 4720-4726に記載の方法により測定することができ、具体的には、下記の「ルイス酸性度の測定方法(1)」により測定することができる。
【0028】
(ルイス酸性度の測定方法(1))
下記化学反応式(1a)中のコバルトテトラフェニルポルフィリン、飽和O2およびルイス酸性度の測定対象物(例えば金属等のカチオンであり、下記化学反応式(1a)ではMn+で表される)を含むアセトニトリル(MeCN)を、室温において紫外可視吸収スペクトル変化の測定をする。得られた反応速度定数(kcat)からルイス酸性度の指標であるΔE値(eV)を算出することができる。kcatの値は大きいほど強いルイス酸性度を示す。また、有機化合物のルイス酸性度は、量子化学計算によって算出される最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位からも、見積もることができる。正側に大きい値であるほど強いルイス酸性度を示す。
【0029】
【0030】
なお、上記測定方法により測定(算出)されるルイス酸性度の指標となる、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素の反応速度定数の例を以下に示す。下記表中において、「kcat,M-2s-1」で表される数値が、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素である。「LUMO, eV」で表される数値が、LUMOのエネルギー準位である。また、「benzetonium chloride」は塩化ベンゼトニウムを表し、「benzalkonium chloride」は塩化ベンザルコニウムを表し、「tetramethylammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸テトラメチルアンモニウム塩を表し、「tetrabutylammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム塩を表し、「ammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸アンモニウム塩を表す。
【0031】
【0032】
また、本発明において、ルイス酸性度の測定は、ルイス酸性度の測定方法(1)において、酸素分子(O2)に代えてユビキノン1(Q1)を用い、ユビキノン1を還元してユビキノン1のアニオンラジカルを生成させることにより行なってもよい。このようなルイス酸性度の測定方法を、以下において、「ルイス酸性度の測定方法(2)」という場合がある。ルイス酸性度の測定方法(2)において、測定は、酸素分子(O2)に代えてユビキノン1(Q1)を用いること以外はルイス酸性度の測定方法(1)と同様にして行うことができる。また、ルイス酸性度の測定方法(2)においては、ルイス酸性度の測定方法(1)と同様に、得られた反応速度定数(kcat)からルイス酸性度の指標であるΔE値(eV)を算出することができる。ルイス酸性度の測定方法(2)は、例えば、Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur. J., 2000, 6, 4532に記載されており、同文献に記載された方法にしたがって、またはそれに準じて行うことができる。
【0033】
前記ルイス酸性度の測定方法(2)は、下記化学反応式(1b)に対する反応速度定数(k
cat)を測定することにより行うことができる。
【数1b】
前記化学式(1b)中、
M
n+は、前記ラジカル発生触媒を表し、
CoTPPは、コバルト(II)テトラフェニルポルフィリンを表し、
Q1は、ユビキノン1を表し、
[(TPP)Co]
+は、コバルト(III)テトラフェニルポルフィリンカチオンを表し、
(Q1)
・-は、ユビキノン1のアニオンラジカルを表す。
【0034】
本発明のラジカル発生触媒のルイス酸性度は、例えば、前記化学反応式(1b)に対する反応速度定数(kcat)すなわち「ルイス酸性度の測定方法(2)」により測定される前記反応速度定数(kcat)の測定値(Kobs)が、例えば、1.0×10-5S-1以上、2.0×10-5S-1以上、3.0×10-5S-1以上、4.0×10-5S-1以上、5.0×10-5S-1以上、6.0×10-5S-1以上、7.0×10-5S-1以上、8.0×10-5S-1以上、9.0×10-5S-1以上、1.0×10-4S-1以上、2.0×10-4S-1以上、3.0×10-4S-1以上、4.0×10-4S-1以上、5.0×10-4S-1以上、6.0×10-4S-1以上、7.0×10-4S-1以上、8.0×10-4S-1以上、9.0×10-4S-1以上、1.0×10-3S-1以上、2.0×10-3S-1以上、3.0×10-3S-1以上、4.0×10-3S-1以上、5.0×10-3S-1以上、6.0×10-3S-1以上、7.0×10-3S-1以上、8.0×10-3S-1以上、9.0×10-3S-1以上、1.0×10-2S-1以上、2.0×10-2S-1以上、3.0×10-2S-1以上、4.0×10-2S-1以上、5.0×10-2S-1以上、6.0×10-2S-1以上、7.0×10-2S-1以上、8.0×10-2S-1以上、または9.0×10-2S-1以上であってもよく、1.0×10-1S-1以下、9.0×10-2S-1以下、8.0×10-2S-1以下、7.0×10-2S-1以下、6.0×10-2S-1以下、5.0×10-2S-1以下、4.0×10-2S-1以下、3.0×10-2S-1以下、2.0×10-2S-1以下、1.0×10-2S-1以下、9.0×10-3S-1以下、8.0×10-3S-1以下、7.0×10-3S-1以下、6.0×10-3S-1以下、5.0×10-3S-1以下、4.0×10-3S-1以下、3.0×10-3S-1以下、2.0×10-3S-1以下、1.0×10-3S-1以下、9.0×10-4S-1以下、8.0×10-4S-1以下、7.0×10-4S-1以下、6.0×10-4S-1以下、5.0×10-4S-1以下、4.0×10-4S-1以下、3.0×10-4S-1以下、2.0×10-4S-1以下、1.0×10-4S-1以下、9.0×10-5S-1以下、8.0×10-5S-1以下、または7.0×10-5S-1以下であってもよい。
【0035】
本発明のラジカル発生触媒において、前記アンモニウムは、例えば、4級アンモニウムでも良いし、3級、2級、1級または0級のアンモニウムでも良い。また、前記アンモニウムは、特に限定されず、例えば、核酸塩基等でもよいし、後述するアミノ酸、ペプチド等であってもよい。
【0036】
また、本発明のラジカル発生触媒において、前記アンモニウム、アミノ酸、ペプチド、リン脂質、およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つ(本発明の第1のラジカル発生触媒)、または、ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方を有する化合物(本発明の第2のラジカル発生触媒)は、例えば、陽イオン界面活性剤でも良く、第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤であっても良い。第4級アンモニウム型陽イオン界面活性剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化デカリニウム、エドロホニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、オキシトロピウム、カルバコール、グリコピロニウム、サフラニン、シナピン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、スキサメトニウ、スフィンゴミエリン、ガングリオシドGM1、デナトニウム、トリゴネリン、ネオスチグミン、パラコート、ピリドスチグミン、フェロデンドリン、プラリドキシムヨウ化メチル、ベタイン、ベタニン、ベタネコール、ベタレイン、レシチン、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、及びコリン類(ベンゾイルコリンクロリド、及びラウロイルコリンクロリド水和物などのコリンクロリド、ホスホコリン、アセチルコリン、コリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、及び重酒石酸コリンなど)が挙げられる。ただし、本発明のラジカルの製造方法において、前記第4級アンモニウムは、界面活性剤のみには限定されない。
【0037】
本発明のラジカル発生触媒において、前記アンモニウムは、例えば、下記化学式(XI)で表されるアンモニウムであっても良い。
【0038】
【0039】
前記化学式(XI)中、
R11、R21、R31、およびR41、は、それぞれ水素原子もしくは芳香環であるか、またはアルキル基であり、前記アルキル基は、エーテル結合、カルボニル基、エステル結合、若しくはアミド結合、または芳香環が含まれていてもよく、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R11、R21、R31、およびR41のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN+とともに環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
X-は、アニオンである。X-は、例えば、ペルオキソ二硫酸イオンを除くアニオンである。
R11、R21、R31、およびR41において、前記芳香環は、特に限定されず、例えば、ヘテロ原子を含んでいても含んでいなくても良く、置換基を有していても有していなくても良い。ヘテロ原子を含む前記芳香環(ヘテロ芳香環)としては、例えば、含窒素芳香環、含硫黄芳香環、含酸素芳香環等があげられる。ヘテロ原子を含まない前記芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環等があげられる。ヘテロ芳香環としては、例えば、ピリジン環、チオフェン環、およびピレン環等があげられる。含窒素芳香環は、例えば、正電荷を有していなくてもよいし、有していてもよい。正電荷を有しない含窒素芳香環としては、例えば、ピロリン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、イソキノリン環、アクリジン環、3,4-ベンゾキノリン環、5,6-ベンゾキノリン環、6,7-ベンゾキノリン環、7,8-ベンゾキノリン環、3,4-ベンゾイソキノリン環、5,6-ベンゾイソキノリン環、6,7-ベンゾイソキノリン環、7,8-ベンゾイソキノリン環等があげられる。正電荷を有する含窒素芳香環としては、例えば、ピロリニウム環、ピリジニウム環、ピリダジニウム環、ピリミジニウム環、ピラジニウム環、キノリニウム環、イソキノリニウム環、アクリジニウム環、3,4-ベンゾキノリニウム環、5,6-ベンゾキノリニウム環、6,7-ベンゾキノリニウム環、7,8-ベンゾキノリニウム環、3,4-ベンゾイソキノリニウム環、5,6-ベンゾイソキノリニウム環、6,7-ベンゾイソキノリニウム環、7,8-ベンゾイソキノリニウム環等があげられる。含酸素芳香環または含硫黄芳香環としては、例えば、前記ヘテロ原子を含まない芳香環または含窒素芳香環の炭素原子または窒素原子の少なくとも一つを、酸素原子および硫黄原子の少なくとも一方で置き換えた芳香環があげられる。
R11、R21、R31、およびR41において、前記アルキル基または前記芳香環が置換基を有する場合、前記置換基は、特に限定されず、任意であるが、例えば、スルホ基、ニトロ基、ジアゾ基等があげられる。
【0040】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウムは、例えば、下記化学式(XII)で表されるアンモニウムであっても良い。
【0041】
【0042】
前記化学式(XII)中、
R111は、炭素数が5~40のアルキル基であり、エーテル結合、ケトン(カルボニル基)、エステル結合、若しくはアミド結合、置換基、または芳香環が含まれていてもよく、
R21およびX-は、前記化学式(XI)と同じである。
R111において、前記芳香環は、特に限定されず、例えば、ヘテロ原子を含んでいても含んでいなくても良く、置換基を有していても有していなくても良い。R111において、前記芳香環の具体例は、特に限定されないが、例えば、前記化学式(XI)のR11、R21、R31、およびR41と同様である。
R111において、前記アルキル基または前記芳香環が置換基を有する場合、前記置換基は、特に限定されず、任意であるが、例えば、前記化学式(XI)のR11、R21、R31、およびR41と同様である。
【0043】
前記化学式(XII)中、
R21は、例えば、メチル基またはベンジル基でも良く、前記ベンジル基は、ベンゼン環の水素原子の1以上が任意の置換基で置換されていても置換されていなくても良く、前記任意の置換基は、例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、ヒドロキシ基(-OH)、メルカプト基(-SH)、またはアルキルチオ基(-SR、Rはアルキル基)であっても良い。
【0044】
前記化学式(XII)で表されるアンモニウム塩は、例えば、下記化学式(XIII)で表されるアンモニウムであっても良い。
【0045】
【0046】
前記化学式(XIII)中、
R111およびX-は、前記化学式(XII)と同じである。
【0047】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウムは、例えば、下記化学式(XIV)で表されるアンモニウム塩であってもよい。
【0048】
【化XIV】
前記化学式(XIV)中、
R
100は、環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
R
11およびX
-は、前記化学式(XI)と同じである。
【0049】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩は、例えば、下記化学式(XV)で表されるアンモニウム塩であってもよい。
【0050】
【0051】
前記化学式(XV)中、
各Zは、それぞれ、CHまたはNであり、同一でも異なっていてもよく、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R11およびX-は、前記化学式(XI)と同じである。
【0052】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩は、例えば、下記化学式(XVI)で表されるアンモニウム塩であってもよい。
【0053】
【0054】
前記化学式(XVI)中、
R101、R102、R103、およびR104は、それぞれ水素原子または置換基であり、R101、R102、R103、およびR104は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R101、R102、R103、およびR104のうち2つ以上が一体化し、それらが結合するN+とともに環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、飽和でも不飽和でもよく、芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
Zは、CHまたはNであり、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R11およびX-は、前記化学式(XI)と同じである。
【0055】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩は、例えば、下記化学式(XVII)で表されるアンモニウム塩であってもよい。
【0056】
【0057】
前記化学式(XVII)中、
R111~R118は、それぞれ水素原子または置換基であり、R111~R118は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、
または、R111~R118のうち2つ以上が一体化して環状構造を形成していてもよく、前記環状構造は、
芳香環でも非芳香環でもよく、1以上の置換基を有していても有していなくてもよく、
Zは、CHまたはNであり、CHの場合は、Hは置換基で置換されていてもよく、
R11およびX-は、前記化学式(XI)と同じである。
【0058】
前記化学式(XI)で表されるアンモニウム塩は、例えば、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化アンモニウム、塩化メチルアンモニウム、および塩化テトラブチルアンモニウムからなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。また、前記化学式(XII)で表されるアンモニウム塩が、塩化ベンゼトニウムであることが特に好ましい。
【0059】
なお、塩化ベンゼトニウム(Bzn
+Cl
-)は、例えば、下記化学式であらわすことができる。また、塩化ベンザルコニウムは、例えば、前記化学式(XIII)中、R
111が炭素数8~18のアルキル基であり、X
-が塩化物イオンである化合物として表すことができる。
【化Bzn】
【0060】
なお、前記化学式(XI)、(XII)、(XIII)、(XIV)、(XV)、(XVI)および(XVII)中、X-は、任意のアニオンであり、特に限定されない。また、X-は、1価のアニオンに限定されるものではなく、2価、3価等の任意の価数のアニオンでも良い。アニオンの電荷が2価、3価等の複数の場合、例えば、前記化学式(XI)、(XII)、(XIII)、(XIV)、(XV)、(XVI)および(XVII)中のアンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数×アニオンの価数(例えば、アニオンが2価の場合、アンモニウム(1価)の分子数は、アニオンの分子数の2倍)となる。X-としては、例えば、ハロゲンイオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等が挙げられる。
【0061】
本発明において、前記ラジカル発生触媒は、例えば、前記化学式(XI)、(XII)、(XIII)、(XIV)、(XV)、(XVI)および(XVII)に限定されず、芳香環を含む任意の構造のアンモニウムでもよい。前記芳香環としては、特に限定されないが、例えば、前記化学式(XI)のR11、R21、R31、およびR41において例示した芳香環があげられる。
【0062】
本発明において、前記ラジカル発生触媒は、例えば、スルホン酸系アミンまたはそのアンモニウムでもよい。前記スルホン酸系アミンとは、例えば、分子中にスルホ基(スルホン酸基)を有するアミンである。前記スルホン酸系アミンとしては、例えば、タウリン、スルファミン酸、3-アミノ-4-ヒドロキシ-1-ナフタレンスルホン酸、スルファミン酸、p-トルイジン-2-スルホン酸、o-アニシジン-5-スルホン酸、ダイレクト ブルー 14、3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート、アミノメタンスルホン酸、3-スルホプロピルアミン、2-アミノベンゼンスルホン酸、R(+)-3-アミノテトラヒドロフラン トルエン、4-アミノ-5-ヒドロキシ-1,7-ナフタレンジスルホン酸、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸、4’-アミノ-3’-メトキシアゾベンゼン-3-スルホン酸ナトリウム、Lapatinib ditosylate、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸、8-アミノ-1,3,6-ナフタレントリスルホン酸二ナトリウム水和物、1-アミノナフタレン-2-スルホン酸、(2S,3S)-3-アミノ-2-メチル-4-オキソ-1-アゼチジンスルホン酸、3-(1-ナフチルアミノ)プロパンスルホン酸ナトリウム、3-メチル-4-アミノベンゼンスルホン酸、3-シクロヘキシルアミノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸 ナトリウム、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸 ナトリウム、4-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、スルファミン酸ナトリウム、トリカイン、スルファニル酸 ナトリウム、1,4-フェニレンジアミン-2-スルホン酸、p-アニシジン-2-スルホン酸、6-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、3,4-ジアミノベンゼンスルホン酸、3-アミノ-4-クロロベンゼンスルホン酸、3-[(4-アミノ-3-メチルフェニル)アゾ]ベンゼンスルホン酸、3-アミノ-4-ヒドロキシ-5-ニトロベンゼンスルホン酸、5-アミノ-6-ヒドロキシ-3-ニトロベンゼンスルホン酸、4-アセトアミド-2-アミノベンゼンスルホン酸水和物、2-アミノフェノール-4-スルホン酸、1-アミノ-2-メトキシ-5-メチル-4-ベンゼンスルホン酸、ダンシル酸、Sulfamic acid [(1S,2S,4R)-4-[4-[[(1S)-2,3-dihydro-1H-inden-1-yl]amino]-7H-pyrrolo[2,3-d]pyrimidin-7-yl]-2-hydroxycyclopentyl]methyl ester、5-スルホ-4’-ジエチルアミノ-2,2’-ジヒドロキシアゾベンゼン、2-アミノナフタレン-6,8-ジスルホン酸、2-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-1-エタンスルホン酸ナトリウム、3-アセチル-2-(メチルアミノスルホニル)チオフェン、4-アミノ-2-クロロトルエン-5-スルホン酸ナトリウム、5-(3-AMINO-5-OXO-2-PYRAZOLIN-1-YL)-2-PHENOXYBENZENESULFONIC ACID、スルファミン酸カリウム、P-AMINOAZOBENZENE MONOSULFONIC ACID、3-[(3-Cholamidopropyl)dimethylammonio]-2-hydroxy-1-propanesulfonate、3-アミノ-2,7-ナフタレンジスルホン酸一ナトリウム、3-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム塩、二(アミド硫酸)コバルト(II)、3-(4-アミノ-3-メトキシフェニルアゾ)ベンゼンスルホン酸、スルファミン酸ニッケル(II)四水和物、2,4-ジアミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、5-アミノ-2-クロロトルエン-4-スルホン酸、2,5-ジクロロスルファニル酸、4-メチルベンゼンスルホン酸、APTS(アミノピレントリスルホン酸)、4’-アミノアゾベンゼン-3-スルホン酸、ポンタシル カルミン 2B、p-アニシジン-3-スルホン酸、4,4’-ビス(4-アミノ-1-ナフチルアゾ)-2,2’-スチルベンスルホン酸、3-AMINONAPHTHALENE-8-HYDROXY-4,6-DISULFONIC ACID、4-アミノ-1,5-ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、4-アミノアゾベンゼン-4’-スルホン酸ナトリウム、5-アミノ-2-メチルベンゼンスルホン酸、7-アミノ-1,3-ナフタレンジスルホン酸ジナトリウム、アリザリンサフィロールSE、7-アミノ-2-ナフタレンスルホン酸 ナトリウム、6-アミノ-5-ブロモピリジン-3-スルホン酸、2-アミノエタンチオールp-トルエンスルホン酸塩、2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸ナトリウム、6-アミノ-1,3-ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム水和物、N,N,N’,N’-テトラエチルスルファミド、5-アミノ-2-エトキシベンゼンスルホン酸、3,5-ジアミノ-2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸、7-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸、スルファミン酸 グアニジン、2-アミノ-5-ニトロベンゼンスルホン酸、ジアミド硫酸ニッケル(II)、4-アミノ-4’-ニトロスチルベン-2,2’-ジスルホン酸二ナトリウム、アニリン-2,5-ジスルホン酸一ナトリウム、5-アミノ-1-ナフトール-3-スルホン酸水和物、2,5-ジクロロスルファニル酸 ナトリウム、6-アミノヘキサン酸ヘキシルp-トルエンスルホナート、rac-(R*)-2-(4-クロロフェニル)-3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、2-(N,N-ジプロピル)アミノ アニソール-4-スルホン酸、2-アミノ-4-クロロフェノール-6-スルホン酸、6-アミノ-1,3-ナフタレンジスルホン酸、5,10,15,20-テトラキス〔4-(トリメチルアンモニオ)フェニル〕-21H,-23H-ポルフィンテトラトシレート、5-アミノ-2-[(4-アミノフェニル)アミノ]ベンゼンスルホン酸、4-アミノ-3-クロロベンゼンスルホン酸、2-アミノベンゼンスルホン酸フェニルエステル、4-アセチルアミノ-4’-イソチオシアナトスチルベン-2,2’-ジスルホン酸ジナトリウム、(S)-3-AMINO-2-OXETANONE P-TOLUENESULFONIC ACID SALT、5-アセチルアミノ-4-ヒドロキシ-2,7-ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム、2-フェニルアミノ-5-アミノベンゼンスルホン酸、4-オクタデシルアミノ-4-オキソ-2-[(ソジオオキシ)スルホニル]ブタン酸ナトリウム、3,5-ジアミノ-4-メチルベンゼンスルホン酸等があげられる。
【0063】
本発明において、前記ラジカル発生触媒は、例えば、ニコチン系アミンまたはそのアンモニウムでもよい。前記ニコチン系アミンとは、例えば、分子中に、環状構造を有し、かつ、前記環状構造がニコチン骨格を含むアミンである。前記ニコチン系アミンとしては、例えば、ニコチンアミド、アルカロイド等があげられる。
【0064】
本発明において、前記ラジカル発生触媒は、例えば、亜硝酸系アミンまたは亜硝酸系アンモニウムでもよい。前記亜硝酸系アミンまたは亜硝酸系アンモニウムとは、例えば、アミンと亜硝酸または亜硝酸誘導体とを反応させて得られる化合物である。前記亜硝酸系アミンまたは亜硝酸系アンモニウムとしては、例えば、ジアゾ化合物、ジアゾニウム塩、N-ニトロソ化合物、C-ニトロソ化合物等があげられる。
【0065】
また、本発明において、前記アンモニウムは、1分子中にアンモニウム構造(N+)を複数含んでいても良い。さらに、前記アンモニウムは、例えば、π電子相互作用により複数の分子が会合し、二量体または三量体等を形成していても良い。
【0066】
本発明において、前記アミノ酸は、特に限定されない。前記アミノ酸は、例えば、分子中に、アミノ基またはイミノ基と、カルボキシ基との両方を、それぞれ少なくとも1つずつ含んでいればよい。前記アミノ酸は、例えば、α-アミノ酸でもよく、β-アミノ酸でもよく、γ-アミノ酸でもよく、それら以外のアミノ酸でもよい。前記アミノ酸は、例えば、タンパク質を構成するアミノ酸でもよく、具体的には、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リシン、ヒドロキシリシン、アルギニン、システイン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、および4-ヒドロキシプロリンからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0067】
本発明において、前記ペプチドは、特に限定されない。前記ペプチドは、例えば、前記アミノ酸分子が2個以上、ペプチド結合により結合したものであればよい。前記ペプチドは、例えば、酸化型グルタチオン(GSSG)および還元型グルタチオン(GSH)の少なくとも一方であってもよい。
【0068】
本発明において、前記リン脂質は、特に限定されない。前記リン脂質は、例えば、分子中にリン原子を含む脂質であればよく、例えば、分子中にリン酸エステル結合(P-O-C)を含む脂質であってもよい。前記リン脂質は、例えば、分子中に、アミノ基、イミノ基、アンモニウム基、およびイミニウム基の少なくとも一つを有していてもよいし、有していなくてもよい。前記リン脂質は、例えば、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、およびカルジオリピンからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0069】
本発明のラジカル発生剤は、例えば、ブレーンステッド酸を含んでいてもよい。前記ブレーンステッド酸の酸解離定数pKaは、例えば5以上である。前記pKaの上限値は、特に限定されないが、例えば、50以下である。
【0070】
本発明のラジカル発生触媒は、例えば、生体外でラジカル発生源からのラジカル発生を触媒してもよいが、生体内において、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒してもよい。生体内は、例えば、人体内でもよいが、人間以外の動物の体内でもよい。
【0071】
本発明のラジカル発生触媒は、例えば、消化器官内において、ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒してもよい。前記消化器官は、例えば、口腔部、咽頭部、食道、胃、十二指腸、小腸および大腸からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。前記消化器官は、例えば、大腸であってもよい。前記小腸は、例えば、十二指腸、空腸および回腸からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。前記大腸は、例えば、盲腸、結腸および直腸からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。本発明のラジカル発生触媒は、例えば、前記消化器官内の殺菌、腸内細菌叢の変化の誘導、潰瘍性大腸炎の治療または症状の抑制等に用いてもよい。
【0072】
[2.ラジカルの製造方法]
つぎに、本発明のラジカルの製造方法について説明する。
【0073】
本発明におけるラジカルの製造方法は、前述のとおり、前記本発明のラジカル発生触媒と、ラジカル発生源と、を混合する混合工程を含む。前記混合工程により得られる混合物は、前記本発明のラジカル発生触媒と、ラジカル発生源と、以外の任意の物質を、さらに含んでも良いし、含まなくても良い。例えば、前記混合工程において、さらに溶媒を混合することが、反応性等の観点から好ましい。なお、本発明において、「溶媒」は、前記ラジカル発生触媒、ラジカル発生源等を溶解しても良いが、溶解しなくても良い。例えば、前記混合工程後において、前記本発明のラジカル発生触媒と、ラジカル発生源とは、それぞれ、前記溶媒中に溶解した状態でも良いが、前記溶媒中に分散したり沈殿したりした状態でも良い。
【0074】
本発明のラジカルの製造方法は、例えば、前記混合工程後に、得られた混合物中での反応によりラジカルを製造するラジカル製造工程を含む。前記混合物は、前述のとおり、例えば、溶液状態でも良いし、懸濁液状態、コロイド状態等でも良い。反応性の観点からは、前記混合物が、例えば、溶液状態またはコロイド状態であることが好ましい。前記ラジカル製造工程においては、例えば、前記混合物を、単に室温で静置しても良いし、必要に応じ、前記混合物に対し、加熱、光照射等をしても良い。前記ラジカル製造工程における反応温度および反応時間は、特に限定されず、例えば、反応物(原料)および目的生成物の種類等に応じて適宜設定することができる光照射する場合、照射光の波長は、特に限定されず、例えば、反応物(原料)の吸収帯等に応じて適宜設定することができる。なお、反応時間および反応温度については、例えば、前記混合物中における、前記本発明のラジカル発生触媒と、ラジカル発生源と、の濃度によって調整することもできる。例えば、前記濃度を高くすることにより反応時間を短縮することができるが、本発明は、この説明により限定されない。
【0075】
前記本発明のラジカル発生触媒の濃度は、特に限定されないが、前記溶媒に対し、例えば、反応mol/Lは、特に限定されないず、例えば、反応物(原料)および目的生成物の種類等に応じて適宜設定することができる。また、前記溶媒は、特に限定されないが、例えば、水でも有機溶媒でも良く、有機溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒、アセトン等のケトン、アセトニトリル等のニトリル溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール溶媒、酢酸溶媒、硫酸溶媒等が挙げられ、これら溶媒は単独で使用しても二種類以上併用しても良い。前記酢酸溶媒および硫酸溶媒は、例えば、酢酸または硫酸を水に溶かしたものでも良く、これらは、例えば、溶媒であると同時にルイス酸またはブレーンステッド酸として機能する。前記溶媒の種類は、例えば、溶質(例えば、前記本発明のラジカル発生触媒、前記ラジカル発生源等)の溶解性等に応じて使い分けても良い。
【0076】
本発明のラジカルの製造方法においては、前述のとおり、加熱により反応させても良いが、加熱をせずに光照射するのみで、または、加熱も光照射もせず単に室温で静置するのみで反応させてラジカルを製造することもできる。なお、「室温」の定義は、特に限定されないが、例えば、5~35℃である。加熱が不要であることにより、例えば、電気炉等による加熱のコストがかからず、ラジカルの製造コストを大幅に削減できる。また、加熱が不要であることにより、例えば、ラジカル連鎖による予期せぬ暴走反応、および、過酸化物の蓄積等が抑えられるので、反応の安全性が格段に向上し、さらにコストを下げることが出来る。ただし、これらの説明は例示であって、本発明をなんら限定しない。
【0077】
本発明のラジカルの製造方法は、例えば、さらに、前記混合工程により得られた混合物に光照射する光照射工程を含んでいても良い。そして、前述のとおり、前記光照射により起こる反応でラジカルを製造しても良い。照射光の波長については、例えば、前述のとおりである。光源は特に限定されないが、例えば、太陽光等の自然光に含まれる可視光を利用すれば、簡便に励起可能である。また、例えば、前記自然光に代えて、またはこれに加え、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、水銀ランプ等の光源を適宜用いても良いし、用いなくても良い。さらに、必要波長以外の波長をカットするフィルターを適宜用いても良いし、用いなくても良い。
【0078】
本発明のラジカルの製造方法において、前記ラジカル発生源は、例えば、ハロゲンイオン、次亜ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、ハロゲン酸イオンおよび、過ハロゲン酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つを含んでいても良い。前記ラジカル発生源は、例えば、亜塩素酸イオンを含むことが特に好ましい。前記ラジカル発生源は、例えば、オキソ酸またはその塩(例えば、ハロゲンオキソ酸またはその塩)を含んでいても良い。前記オキソ酸としては、例えば、ホウ酸、炭酸、オルト炭酸、カルボン酸、ケイ酸、亜硝酸、硝酸、亜リン酸、リン酸、ヒ酸、亜硫酸、硫酸、スルホン酸、スルフィン酸、クロム酸、ニクロム酸、及び過マンガン酸などが挙げられる。ハロゲンオキソ酸は、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、及び過塩素酸などの塩素オキソ酸;次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、及び過臭素酸などの臭素オキソ酸;及び次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、及び過ヨウ素酸などのヨウ素オキソ酸が挙げられる。
【0079】
前記ラジカル発生源は、例えば、用途に応じて、ラジカル種の反応性の強さ等を考慮し、適宜選択しても良い。例えば、反応性が強い次亜塩素酸と、次亜塩素酸よりも反応性がやや穏やかで反応の制御がしやすい亜塩素酸とを、目的に応じて使い分けても良い。
【0080】
本発明のラジカルの製造方法において、前記ラジカル発生源は、例えば、電子供与体・受容体連結分子を含んでいても良い。前記電子供与体・受容体連結分子は特に限定されないが、例えば、電子供与体部位が、1または複数の電子供与基であり、電子受容体部位が、1または複数の芳香族カチオンであってもよい。この場合、前記芳香族カチオンは、単環でも縮合環でも良く、芳香環は、ヘテロ原子を含んでいても含んでいなくても良く、前記電子供与基以外の置換基を有していても有していなくても良い。また、前記芳香族カチオンを形成する芳香環は、その環構成原子数は特に制限されないが、例えば5~26員環である。
【0081】
前記芳香族カチオンを形成する芳香環は、ピロリニウム環、ピリジニウム環、キノリニウム環、イソキノリニウム環、アクリジニウム環、3,4-ベンゾキノリニウム環、5,6-ベンゾキノリニウム環、6,7-ベンゾキノリニウム環、7,8-ベンゾキノリニウム環、3,4-ベンゾイソキノリニウム環、5,6-ベンゾイソキノリニウム環、6,7-ベンゾイソキノリニウム環、7,8-ベンゾイソキノリニウム環、および、それらの環を構成する炭素原子の少なくとも一つがヘテロ原子で置換された環、からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。例えば、アクリジニウム環、ベンゾキノリニウム環、ベンゾイソキノリニウム環等の大環状の(π電子数が多い)芳香族カチオンであれば、例えば、吸収帯が長波長側にシフトし、可視光領域に吸収を有することにより、可視光励起も可能となる。
【0082】
前記電子供与基は、水素原子、アルキル基、および芳香環からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。この場合、前記芳香環は、環上にさらに1または複数の置換基を有していても良く、前記置換基は、複数の場合は同一でも異なっていても良く、前記電子供与基は、複数の場合は同一でも異なっていても良い。また、この場合の前記電子供与基において、前記アルキル基が、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基であることがより好ましい。さらに、前記電子供与基において、前記芳香環が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、チオフェン環、およびピレン環からなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。前記電子供与基において、前記芳香環上の置換基は、アルキル基、アルコキシ基、第1級~第3級アミン、カルボン酸、およびカルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。Arにおいて、前記芳香環上の置換基は、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、第1級~第3級アミン、カルボン酸、およびカルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つであることがさらに好ましい。なお、前記芳香環上の置換基において「カルボン酸」とは、カルボキシル基または末端にカルボキシル基が付加した基(例えばカルボキシアルキル基等)をいい、「カルボン酸エステル」とは、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のカルボン酸エステル基、およびアシルオキシ基をいう。前記カルボキシアルキル基中のアルキル基としては、例えば、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基が好ましく、前記アルコキシカルボニル基中のアルコキシ基としては、例えば、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基が好ましい。
【0083】
前記電子供与基は、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,3,4-トリメチルフェニル基、2,3,5-トリメチルフェニル基、2,3,6-トリメチルフェニル基、メシチル基(2,4,6-トリメチルフェニル基)、および3,4,5-トリメチルフェニル基からなる群から選択される少なくとも一つであることが一層好ましい。これらの中でも、電子移動状態(電荷分離状態)の寿命等の観点から、メシチル基が特に好ましい。なお、メシチル基により特に優れた効果が得られる理由は明らかではないが、例えば、オルト位にメチル基が2つ存在し、メシチル基のベンゼン環と前記芳香族カチオンの芳香環とが直交しやすいこと、メシチル基内部の超共役が少ないこと等が考えられる。ただし、これは推定可能な機構の一例であり、本発明を何ら限定しない。
【0084】
前記電子供与体・受容体連結分子は、電子移動状態(電荷分離状態)の寿命、酸化力、還元力等の観点から、下記式(A-1)~(A-8)のいずれかで表される含窒素芳香族カチオン誘導体、下記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体、それらの立体異性体および互変異性体、並びにそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0085】
【0086】
【0087】
前記式(A-1)~(A-8)中、
Rは、水素原子または任意の置換基であり、
Arは、前記電子供与基であり、1個でも複数でも良く、複数の場合は同一でも異なっていても良く、
含窒素芳香族カチオンを形成する含窒素芳香環は、RおよびAr以外の任意の置換基を1以上有していても良いし、有していなくても良く、
前記式(I)中、
R1は、水素原子または任意の置換基であり、
Ar1~Ar3は、それぞれ水素原子または前記電子供与基であり、同一でも異なっていても良く、Ar1~Ar3の少なくとも一つは前記電子供与基である。
【0088】
前記式(A-1)~(A-8)中、Rは、水素原子、アルキル基、ベンジル基、カルボキシアルキル基(末端にカルボキシル基が付加したアルキル基)、アミノアルキル基(末端にアミノ基が付加したアルキル基)、またはポリエーテル鎖であることが好ましい。Rは、水素原子、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基、ベンジル基、末端にカルボキシル基が付加した炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基、末端にアミノ基が付加した炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基、またはポリエチレングリコール(PEG)鎖であることがより好ましい。PEG鎖は、前記ポリエーテル鎖の一例であるが、前記ポリエーテル鎖の種類は、これに限定されず、どのようなポリエーテル鎖でも良い。Rにおいて、前記ポリエーテル鎖の重合度は特に限定されないが、例えば1~100、好ましくは1~50、より好ましくは1~10である。前記ポリエーテル鎖がPEG鎖の場合、重合度は特に限定されないが、例えば1~100、好ましくは1~50、より好ましくは1~10である。
【0089】
前記電子供与体・受容体連結分子は、下記式(A-9)で表される9-置換アクリジニウムイオン、その互変異性体および立体異性体、からなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。
【0090】
【0091】
前記式(A-9)中、RおよびArは、前記式(A-1)と同じである。
【0092】
また、前記電子供与体・受容体連結分子が、下記式(A-10)で表される9-メシチル-10-メチルアクリジニウムイオンであることが特に好ましい。この9-メシチル-10-メチルアクリジニウムイオンは、光励起により、高酸化力および高還元力を有する長寿命の電子移動状態(電荷分離状態)を生成することが可能である。前記光励起の励起光としては、例えば、可視光を用いることができる。
【0093】
【0094】
また、前記式(A-9)で表される9-置換アクリジニウムイオンとしては、前記(A-10)以外に、例えば、下記(A-101)~(A-116)が挙げられる。
【0095】
【0096】
また、前記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体においては、R1は、例えば、水素原子、アルキル基、ベンジル基、カルボキシアルキル基(末端にカルボキシル基が付加したアルキル基)、アミノアルキル基(末端にアミノ基が付加したアルキル基)、またはポリエーテル鎖であることが好ましい。また、R1は、例えば、水素原子、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基、ベンジル基、末端にカルボキシル基が付加した炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基、末端にアミノ基が付加した炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基、またはポリエチレングリコール(PEG)鎖であることがより好ましい。PEG鎖は、前記ポリエーテル鎖の一例であるが、前記ポリエーテル鎖の種類は、これに限定されず、どのようなポリエーテル鎖でも良い。R1において、前記ポリエーテル鎖の重合度は特に限定されないが、例えば1~100、好ましくは1~50、より好ましくは1~10である。前記ポリエーテル鎖がPEG鎖の場合、重合度は特に限定されないが、例えば1~100、好ましくは1~50、より好ましくは1~10である。また、Ar1~Ar3は、例えば、それぞれ、水素原子、アルキル基、または芳香環であることが好ましく、前記アルキル基は、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基であることがより好ましい。Ar1~Ar3において、前記芳香環は環上にさらに1または複数の置換基を有していても良く、前記置換基は、複数の場合は同一でも異なっていても良い。
【0097】
前記式(I)中、Ar1~Ar3において、前記芳香環は、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、チオフェン環またはピレン環であることがより好ましい。また、Ar1~Ar3において、前記芳香環上の置換基が、アルキル基、アルコキシ基、第1級~第3級アミン、カルボン酸、またはカルボン酸エステルであることがより好ましく、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基、第1級~第3級アミン、カルボン酸、またはカルボン酸エステルであることがさらに好ましい。前記第2級アミンとしては、特に限定されないが、例えばアルキルアミノ基が好ましく、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキルアミノ基がより好ましい。前記第3級アミンとしては、特に限定されないが、例えばジアルキルアミノ基が好ましく、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基を有するジアルキルアミノ基がより好ましい。
【0098】
なお、Ar1~Ar3における前記芳香環上の置換基において「カルボン酸」とは、カルボキシル基または末端にカルボキシル基が付加した基(例えばカルボキシアルキル基等)をいい、「カルボン酸エステル」とは、アルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等のカルボン酸エステル基、およびアシルオキシ基をいう。前記カルボキシアルキル基中のアルキル基としては、例えば、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基が好ましく、前記アルコキシカルボニル基中のアルコキシ基としては、例えば、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルコキシ基が好ましい。
【0099】
前記式(I)で表されるキノリニウムイオン誘導体のうち、電荷分離状態の長寿命、高酸化力、高還元力等の観点から特に好ましいのは、例えば、下記式1~5のいずれかで表されるキノリニウムイオン誘導体である。
【0100】
【0101】
また、前記化合物1~5の他には、例えば、下記表2および3に示す化合物6~36等が特に好ましい。下記表2および表3に、化合物6~36の構造を、前記式(I)におけるR1およびAr1~Ar3の組み合わせで示す。また、これら化合物6~36は、後述の実施例を参照することにより、当業者であれば、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等をすることなく、化合物1~5に準じて容易に製造し、かつ使用することが出来る。
【0102】
【0103】
【0104】
前記電子供与体・受容体連結分子は、市販品を用いても良いし、適宜製造(合成)しても良い。製造する場合、製造方法は特に制限されず、例えば、公知の製造方法により、または公知の製造方法を参考にして、適宜製造することができる。具体的には、例えば、特許第5213142号公報に記載の製造方法等を用いても良い。
【0105】
また、本発明において、化合物(例えば、前記アンモニウム、前記アミノ酸、前記ペプチド、前記リン脂質、前記電子供与体・受容体連結分子等)に互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体および光学異性体)等の異性体が存在する場合は、特に断らない限り、いずれの異性体も本発明に用いることができる。また、化合物(例えば、前記電子供与体・受容体連結分子等)が塩を形成し得る場合は、特に断らない限り、前記塩も本発明に用いることができる。前記塩は、酸付加塩でも良いが、塩基付加塩でも良い。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でも良く、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でも良い。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。これらの塩の製造方法も特に限定されず、例えば、前記化合物に、前記のような酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0106】
また、本発明において、鎖状置換基(例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基等の炭化水素基)は、特に断らない限り、直鎖状でも分枝状でも良く、その炭素数は、特に限定されないが、例えば、1~40、1~32、1~24、1~18、1~12、1~6、または1~2(不飽和炭化水素基の場合は2以上)であっても良い。また、本発明において、環状の基(例えば、アリール基、ヘテロアリール基等)の環員数(環を構成する原子の数)は、特に限定されないが、例えば、5~32、5~24、6~18、6~12、または6~10であっても良い。また、置換基等に異性体が存在する場合は、特に断らない限り、どの異性体でも良く、例えば、単に「ナフチル基」という場合は、1-ナフチル基でも2-ナフチル基でも良い。
【0107】
[3.酸化反応生成物の製造方法]
本発明の酸化反応生成物の製造方法は、前述のとおり、
被酸化物を酸化して酸化反応生成物を製造する方法であって、
前記本発明のラジカルの製造方法により前記ラジカルを製造するラジカル製造工程と、
前記ラジカルの作用により、前記被酸化物と酸化剤とを反応させて前記酸化反応生成物を生成させる酸化反応工程と、
を含むことを特徴とする。
【0108】
本発明の酸化反応生成物の製造方法を行う方法は、特に限定されないが、例えば、前記混合工程において、前記本発明のラジカル発生触媒と、ラジカル発生源と、に加え、さらに前記被酸化物と前記酸化剤とを混合しても良い。このとき、前述のとおり、さらに溶媒を混合することが好ましい。そして、前記ラジカル製造工程において、発生したラジカルの作用により、前記被酸化物と酸化剤とを反応させて前記酸化反応生成物を生成させても良い。すなわち、前記酸化反応工程は、前記ラジカル製造工程と平衡して、同一の反応系中で同時に行っても良い。この場合、前記被酸化物および前記酸化剤の濃度は、特に限定されないが、前記溶媒に対し、例えば、反応mol/Lは、特に限定されず、適宜設定可能である。また、例えば、前記被酸化物の濃度は、高い方が反応速度を早くするためになるべく高くすることが好ましく、前記酸化剤の濃度は、反応を進行しやすくするために高すぎないことが好ましい。ただし、この説明は例示であり、本発明をなんら限定しない。
【0109】
本発明の酸化反応生成物の製造方法において、前記ラジカルが前記酸化剤を兼ねていても良い。例えば、前記ラジカル発生剤が、オキソ酸であり、前記オキソ酸から発生したラジカルが酸化剤であっても良い。一例として、前記ラジカル発生剤が、亜塩素酸イオンClO2
-であり、亜塩素酸イオンClO2
-から発生したラジカルClO2
・を酸化剤として、前記被酸化物を酸化して前記酸化反応生成物を製造しても良い。
【0110】
また、例えば、前記ラジカルと前記酸化剤とが別であっても良い。例えば、前記ラジカル発生剤が、前記電子供与体・受容体連結分子であり、前記酸化剤が、酸素分子O2であり、前記電子供与体・受容体連結分子のラジカルおよび酸素分子の作用により、前記被酸化物を酸化して前記酸化反応生成物を製造しても良い。
【0111】
前記被酸化物は、特に限定されず、例えば、有機化合物でも無機物質でも良い。例えば、前記被酸化物がトリフェニルフォスフィンPh3Pであり、前記酸化反応生成物がトリフェニルフォスフィンオキシドPh3P=Oであっても良い。また、例えば、前記被酸化物がオレフィンであり、前記酸化反応生成物が、エポキシドおよびジオールの少なくとも一方を含んでいても良い。
【0112】
前記被酸化物は、例えば、芳香族化合物(以下「原料芳香族化合物」という場合がある。)であっても良い。本発明において、前記原料芳香族化合物は特に制限されない。前記原料芳香族化合物の芳香環に電子供与基が結合していると、例えば、前記原料芳香族化合物の酸化反応(酸化的置換反応を含む)が進行しやすいため好ましい。前記電子供与基は、1つでも複数でも良く、電子供与性の強いものが好ましい。より具体的には、前記原料芳香族化合物は、芳香環に、-OR100、-NR200
2、およびAr100からなる群から選択される少なくとも一つの置換基が共有結合していることがより好ましい。前記R100は、水素原子または任意の置換基であり、R100が複数の場合は、各R100は同一でも異なっていてもよい。前記R200は、水素原子または任意の置換基であり、各R200は同一でも異なっていてもよい。前記Ar100は、アリール基であり、Ar100が複数の場合は、各Ar100は同一でも異なっていてもよい。
【0113】
前記Ar100は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、チオフェン環、ピレン環等の任意の芳香環から誘導される基であって良い。前記芳香環は環上にさらに1または複数の置換基を有していても良く、前記置換基は、複数の場合は同一でも異なっていても良い。前記Ar100は、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0114】
また、前記R100は、水素原子、アルキル基、アリール基、およびアシル基からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。前記アルキル基は、炭素数1~6の直鎖もしくは分子アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。前記アシル基は、炭素数1~6の直鎖もしくは分子アシル基が好ましい。前記アリール基は、例えば、前記Ar100と同様であり、例えばフェニル基である。
【0115】
また、前記R200は、水素原子、アルキル基、アリール基、およびアシル基からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。前記アルキル基は、炭素数1~6の直鎖もしくは分子アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。前記アシル基は、炭素数1~6の直鎖もしくは分子アシル基が好ましい。前記アリール基は、例えば、前記Ar100と同様であり、例えばフェニル基である。前記-NR200
2としては、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等、電子供与製置換基で置換されたアミノ基が、特に電子供与性が高いため好ましい。
【0116】
また、前記原料芳香族化合物は、例えば、芳香環にアルキル基等の置換基が共有結合しており、前記置換基を、前記酸化反応生成物生成工程により酸化しても良い。例えば、前記酸化剤が酸素原子を含み、前記原料芳香族化合物が、芳香環に共有結合したメチレン基(-CH2-)を含み、前記酸化反応生成物生成工程において、前記メチレン基(-CH2-)を酸化してカルボニル基(-CO-)に変換しても良い。この場合において、前記メチレン基およびカルボニル基に結合している原子または原子団は、特に制限されないが、水素原子、アルキル基、アリール基等が挙げられる。前記アルキル基は、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基が好ましい。前記アルキル基、アリール基は、さらに1または複数の置換基で置換されていても良く、前記置換基は、複数の場合は同一でも異なっていても良い。例えば、前記メチレン基に水素が結合していれば、メチル基(-CH3)となり、酸化後はホルミル基(-CHO)となる。前記メチレン基にメチル基が結合していれば、エチル基(-CH2CH3)となり、酸化後はアセチル基(-COCH3)となる。前記メチレン基にフェニル基が結合していれば、ベンジル基(-CH2Ph)となり、酸化後はベンゾイル基(-COPh)となる。また、例えば、芳香環に共有結合した前記置換基(酸化される前)がホルミル基(-CHO)であり、酸化後にカルボキシ基(-COOH)となっても良い。
【0117】
本発明の酸化反応生成物の製造方法において、前記被酸化物は、例えばオレフィンでも良く、例えば、芳香族オレフィンでも良いし、脂肪族オレフィンでも良い。前記オレフィンは、例えば、下記化学式(A1)で表されるオレフィンでも良い。また、前記オレフィンの酸化反応生成物は、特に限定されないが、例えば、下記スキームAのように、エポキシドおよびジオールの少なくとも一方を含んでいても良い。下記化学式(A1)、(A2)および(A3)中、Rは、それぞれ、水素原子または任意の置換基であり、各Rは、互いに同一でも異なっていても良い。前記任意の置換基は、例えば、アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、ヒドロキシ基(-OH)、メルカプト基(-SH)、またはアルキルチオ基(-SR、Rはアルキル基)であり、さらなる置換基で置換されていても良いし、置換されていなくても良い。前記アルキル基は、炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基であることがより好ましい。また、被酸化物である前記オレフィンは、オレフィン結合(炭素-炭素二重結合)を1つのみ含むオレフィンでも良いが、オレフィン結合を複数(2つ以上)含むオレフィンであっても良い。
【0118】
【0119】
【0120】
前記オレフィンは、例えば、前述のように、芳香族オレフィンであっても良い。すなわち、例えば前記化学式(A1)によいて、Rの少なくとも一つが、芳香環(アリール基またはヘテロアリール基)であっても良い。また、前記芳香族オレフィンは、例えば、前記原料芳香族化合物として説明したように、芳香環に、-OR100、-NR200
2、およびAr100からなる群から選択される少なくとも一つの置換基が共有結合していても良い。
【0121】
本発明のオレフィンの酸化反応生成物の製造方法において、前記オレフィンが、エチレン、プロピレン、スチレン、およびブタジエンからなる群から選択される少なくとも一つであっても良い。また、前記酸化反応生成物は、例えば、前述のように、エポキシドおよびジオールの少なくとも一方であっても良い。下記スキームA1~A3に、その例を示す。ただし、下記スキームA1~A3は例示であって、本発明において、エチレン、プロピレンおよびスチレンの酸化反応は、これに限定されない。
【0122】
【0123】
オレフィン(例えば、前記スキームAのオレフィン(A1))の酸化において、例えば、前記ルイス酸およびブレーンステッド酸の少なくとも一方と、前記ラジカル発生源と、前記酸化剤と、のうち少なくとも一つの濃度を調整することで、生成する酸化反応生成物を作り分けることが可能である。これらの濃度が、例えば、前記被酸化物に対し低濃度であると、エポキシドが得られやすく、高濃度であるとジオールが得られやすい傾向があるが、これには限定されない。また、例えば、前記濃度に代えて、前記ラジカル発生源から発生するラジカル種の反応性の強さによっても、生成する酸化反応生成物を作り分けることが可能である。例えば、反応性が弱いラジカル種ではエポキシドが得られやすく、反応性が強いラジカル種ではジオールが得られやすい傾向があるが、これには限定されない。なお、前記酸化反応生成物の用途は特に限定されないが、例えば、前記被酸化物(原料芳香族化合物)がスチレンの場合、スチレンオキシドは接着剤、ジオールは香料などとして利用できる。このように、前記エポキシドと前記ジオールとは、それぞれ異なった用途への需要があるため、反応条件のコントロールにより作り分けができれば、本発明を、さらに広い用途に適用可能である。
【0124】
[4.薬剤]
前述のとおり、本発明の薬剤は、ラジカル発生触媒と、ラジカル発生源とを含み、前記ラジカル発生触媒が、前記本発明のラジカル発生触媒であることを特徴とする。本発明における薬剤において、その他の構成および条件は、特に制限されない。なお、前記アンモニウムが、前記ルイス酸性およびブレーンステッド酸性の少なくとも一方を有する物質を兼ねていても良い。
【0125】
本発明によれば、安全性が高く、且つ高い殺菌効果を有する薬剤を提供することができる。
【0126】
また、本発明の薬剤は、例えば、農畜産用薬剤として使用できる。以下において、農畜産用薬剤として使用できる本発明の薬剤を「本発明の農畜産用薬剤」という場合がある。
【0127】
本発明の農畜産用薬剤は、安全性が高く、且つ高い殺菌効果が高い。このため、本発明の農畜産用薬剤は、例えば、農畜産業における殺菌、消臭などに幅広く使用できる。また、本発明の農畜産用薬剤は、例えば、腐食を起こしにくく、また、金属に用いても腐食を起こしにくい。このため、本発明の農畜産用薬剤は、例えば、金属を含む対象物に対して使用することができる。
【0128】
本発明の薬剤は、例えば、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオンおよび亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つのラジカル発生源からのラジカル発生を触媒するラジカル発生触媒であってもよい。
【0129】
本発明の薬剤において、例えば、前記本発明のラジカル発生触媒のルイス酸性度は、特に限定されないが、前述のとおり、例えば、0.4eV以上、0.5eV以上、または0.6eV以上であり、例えば、20eV以下である。
【0130】
本発明の薬剤は、例えば、液状でも、固体状でも、半固体状でもよい。また、本発明の薬剤は、酸性でも、酸性でなくても良く、塩基性でも、塩基性でなくても良く、中性でも、中性でなくても良い。
【0131】
本発明の薬剤は、例えば、
本発明のラジカル発生触媒と、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオンおよび亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つとを含み、
前記本発明のラジカル発生触媒が、亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸イオンおよび亜ハロゲン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つのラジカル発生源からのラジカル発生を触媒するラジカル発生触媒であり、かつ、前記ラジカル発生触媒のルイス酸性度が、0.4eV以上であり、
酸性でないことを特徴とする液状の薬剤であってもよい。
【0132】
本発明の薬剤において、前記ラジカル発生源は、例えば、用途に応じて、ラジカル種の反応性の強さ等を考慮し、適宜選択しても良い。例えば、反応性が強い次亜塩素酸と、次亜塩素酸よりも反応性がやや穏やかで反応の制御がしやすい亜塩素酸とを、目的に応じて使い分けても良い。
【0133】
本発明の薬剤において、前記ラジカル発生源(例えば、オキソ酸類等)の含有率は、特に限定されないが、例えば、0.01質量ppm以上、0.05質量ppm以上、0.1質量ppm以上、1500質量ppm以下、1000質量ppm以下、または250質量ppm以下である。前記ラジカル発生源(例えば、オキソ酸類等)は、薬剤中に0.01~1500質量ppm混合されているのが好ましく、0.05~1000質量ppmであることがより好ましく、0.1~250質量ppmであることがさらに好ましい。濃度が低い方が、安全性が高いと考えられるため、濃度は低い方が好ましい。ただし、低すぎると殺菌効果などが得られなくなるおそれがある。殺菌効果等の観点からは、前記ラジカル発生源の濃度は特に限定されず、高いほど良い。
【0134】
本発明の薬剤において、前記ラジカル発生触媒(例えばアンモニウム、陽イオン界面活性剤等)の含有率は、特に限定されないが、例えば、0.01質量ppm以上、0.05質量ppm以上、0.1質量ppm以上、1500質量ppm以下、1000質量ppm以下、500質量ppm以下、または250質量ppm以下である。前記ラジカル発生触媒(例えばアンモニウム、陽イオン界面活性剤等)は、薬剤中に0.01~1500質量ppm混合されているのが好ましく、0.05~1000質量ppmであることがより好ましく、0.05~500質量ppmであることがより好ましく、0.1~250質量ppmであることがさらに好ましい。濃度が低い方が、安全性が高いと考えられるため、濃度は低い方が好ましい。ただし、低すぎると殺菌効果などが得られなくなるおそれがある。また、ミセル形成により殺菌効果等が得られなくなることを防止する観点からは、前記ラジカル発生触媒の濃度が、ミセル限界濃度以下であることが好ましい。
【0135】
本発明の薬剤において、前記ラジカル発生源と前記ラジカル発生触媒とは、薬剤中、濃度比(ラジカル発生源/ラジカル発生触媒)は、特に限定されず、適宜設定可能である。
【0136】
また、本発明の薬剤は、さらに、他の物質を含んでいてもよい。前記他の物質としては、例えば、水、有機溶媒、pH調整剤、緩衝剤などがあげられ、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい(以下、同様)。前記水は、特に制限されないが、例えば、精製水、イオン交換水又は純水であることが好ましい。
【0137】
本発明の薬剤は、水および有機溶媒の少なくとも一方を含むことが好ましい。なお、本発明において、「溶媒」は、前記本発明のラジカル発生触媒、ラジカル発生源等を溶解しても良いが、溶解しなくても良い。例えば、前記混合工程後において、前記本発明のラジカル発生触媒と、ラジカル発生源とは、それぞれ、前記溶媒中に溶解した状態でも良いが、前記溶媒中に分散したり沈殿したりした状態でも良い。また、本発明の薬剤は、前記本発明のラジカル発生触媒と、ラジカル発生源との溶媒として、水を用いることが、安全性、コスト等の観点から好ましい。有機溶媒としては、例えば、アセトン等のケトン、アセトニトリル等のニトリル溶媒、エタノール等のアルコール溶媒等が挙げられ、これら溶媒は単独で使用しても二種類以上併用しても良い。前記溶媒の種類は、例えば、溶質(例えば、前記本発明のラジカル発生触媒、前記ラジカル発生源等)の溶解性等に応じて使い分けても良い。
【0138】
本発明の薬剤のpHは、特に限定されないが、例えば、4.0以上、4.5以上、5.0以上、5.5以上、6.0以上、6.5以上、7.0以上、または7.5以上であってもよい。また、本発明の薬剤のpHは、例えば、11.5以下、11.0以下、10.5以下、10.0以下、9.5以下、9.0以下、8.5以下、8.0以下、または7.5以下であってもよい。
【0139】
本発明の薬剤は、例えば、前記ラジカル発生源と、前記ラジカル発生触媒と、必要に応じ前記水および有機溶媒の少なくとも一方とを混合することにより製造することができる。例えば、後述の実施例に記載のようにして本発明の薬剤を得ることができるが、これに限定されない。また、薬剤中には、前述のとおり、ラジカル発生源とラジカル発生触媒以外の他の物質が混合されていてもよい。
【0140】
本発明の農畜産用薬剤は、例えば、前記水を含むことが好ましいが、含まなくてもよい。前記農畜産用薬剤中の前記水の混合量(水割合)は、特に制限されない。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。また、前記農畜産用薬剤は、さらにその他の物質として、例えば、前記pH調整剤、緩衝剤などを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0141】
本発明の薬剤の使用方法は、特に限定されず、例えば、従来の殺菌剤等と同様に使用することができる。具体的には、例えば、本発明の薬剤は、対象物にスプレーしてもよいし、塗布してもよい。具体的には、例えば、空間消臭の場合は、スプレーして用いることができる。口腔内での使用では、水溶液として含嗽や洗浄できるようにすることができる。褥瘡の消毒に用いる場合は、患部に塗布することができる。がんの自壊創や白癬菌などの患部には、脱脂綿やガーゼなどに含浸させて患部に当てることができる。手指消毒に用いるときは、摺り込みできるように水溶液とすることができる。医療器具等は、スプレー塗布や水溶液に浸漬させて洗浄できる。ベッドまわり、テーブルまわり、ドアノブなどの殺菌・予防目的で、これらに塗布することもできる。
【0142】
(殺菌剤)
本発明の薬剤は、例えば、殺菌剤として用いることができる。従来、殺菌剤として用いられているものは種々あるが、殺菌効果が十分でない。濃度を高くすることにより殺菌効果を高めることができるものもあるが、安全性に問題がある。本発明の薬剤を含む殺菌剤は、濃度が低くても十分な殺菌効果を有し、安全性が高い。
【0143】
(手指消毒用殺菌剤)
本発明の薬剤は、例えば、手や指などを消毒するための手指消毒用殺菌剤として用いることができる。本発明の薬剤を含む手指消毒用殺菌剤は、濃度が低くても十分な殺菌効果を有し、安全性が高い。
【0144】
(消臭剤)
本発明の薬剤は、例えば、消臭剤として用いることができる。一般的に殺菌剤として用いられているエタノールなどの殺菌剤は、消臭効果を有していない。二酸化塩素には、消臭効果があるが、安全性が極めて低い。また、他に販売されている商品の中には、殺菌及び消臭効果を有すると記載されているものもある。例えば、衣類に直接、又は室内、トイレ内、若しくは車内などで薬剤をスプレーして、殺菌及び消臭効果を謳う商品が存在する。このような商品の殺菌成分は、通常、第四級アンモニウム塩が用いられている。しかし、一般に用いられている第四級アンモニウム塩は、ラジカル発生源(例えばオキソ酸等)を併用していないために、高濃度としないと十分な殺菌効果が得られないことが多く、使用後にべとつく等の問題がある。また、第四級アンモニウム塩には、消臭効果がないので、別途、消臭成分が混合されている。消臭成分としては、シクロデキストリンが通常用いられているが、シクロデキストリンは、悪臭の原因となる成分を分解する能力はなく、悪臭の原因となる成分を単にマスキングしているだけであり、悪臭そのものを除去することができない。これに対し、本発明の薬剤を含む消臭剤は、前記の作用機序を有することにより、例えば、高い殺菌効果を有し、且つ、例えば、悪臭の元となる物質を分解することができ、高い消臭効果を有する。
【0145】
(金属用抗菌剤)
本発明の薬剤は、例えば、金属用抗菌剤として用いることができる。本発明の薬剤を含む抗菌剤は、安全性が高いので、例えば、キッチンにある金属製品にスプレーや塗布することができる。また、本発明の薬剤を含む抗菌剤は、腐食を起こしにくいので、金属に用いても腐食しにくい。
【0146】
(口腔ケア剤)
本発明の薬剤は、例えば、口腔ケア剤として用いることができる。本発明の薬剤を含む口腔ケア剤は、安全性が高いので、口腔内での使用に適している。
【0147】
(ニキビ治療薬)
本発明の薬剤は、例えば、ニキビ治療薬として用いることができる。本発明の薬剤を含むニキビ治療薬は、安全性が高いので、顔に塗布することができる。
【0148】
(褥瘡用消毒剤)
本発明の薬剤は、例えば、褥瘡用消毒剤として用いることができる。本発明の薬剤を含む褥瘡用消毒剤は、安全性が高いので、体に塗布することができる。
【0149】
(真菌類用殺菌剤)
本発明の薬剤は、例えば、白癬菌など真菌類による患部を消毒する殺菌剤として用いることができる。
【0150】
(水浄化用殺菌剤)
本発明の薬剤は、例えば、プールの水や風呂水中に発生するレジオネラなどの菌を殺すことができる。しかも金属も腐食せず、ガスも発生しない。したがって、本発明の薬剤を含む水浄化用殺菌剤は、安全に用いることができる。
【0151】
さらに、本発明の薬剤は、例えば、以下のような用途に使用することができる。本発明の薬剤は、前述のとおり、安全性が高く、且つ高い殺菌効果を有する。また、これにより、本発明の薬剤は、例えば、消臭作用等を発揮し得る。このため、本発明の薬剤は、例えば、QOL(クォリティ・オブ・ライフ)の向上等に有用である。
【0152】
本発明の薬剤は、前述のとおり、安全性が高いことを利用して、人体にも使用できる。より具体的には、例えば、下記のような用途に使用し得る。
(1)膀胱炎の予防、治療、症状の軽減等
(2)カンジダ症の予防、治療、症状の軽減等(口腔・膣洗浄含む)
(2)目薬・洗眼用(ものもらい等の疾患に対する用途を含む)
(3)耳・鼻洗浄用(中耳炎、外耳炎、副鼻腔炎など)
(4)口腔洗浄・PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)。誤嚥性肺炎予防のための口腔洗浄およびPMTC、高齢者または障害者のQOL(クォリティ・オブ・ライフ)の向上のための口腔洗浄およびPMTCを含む。
(5)腹腔洗浄(腹膜炎・腹膜播種等の処置を含む。)
(6)腸洗浄
(7)皮膚系の組織の消毒・洗浄等
(8)手指消毒・洗浄
(9)患部消毒・洗浄・清拭(創傷部含む)
(10)アトピーなどの皮膚炎の処置(患部消毒・洗浄・清拭等)(11)ひょうそう(爪囲炎)毛包炎、よう、せつなど細菌感染による患部の消毒・洗浄
【0153】
また、本発明の薬剤は、例えば、感染症予防、処理における対策全般に使用できる。具体的には、例えば、以下のとおりである。
(1)上気道感染症予防(インフルエンザ、SARS、MERS含む)
(2)食中毒予防(ノロ、サルモネラ等)
(3)吐瀉物処理
(4)B型肝炎・C型肝炎ウイルス不活化(5)潰瘍性大腸炎の予防、治療、症状の軽減等
(6)カビ・真菌対策(すなわち、菌・ウイルス以外の対策にも使用可能。)(7)口内炎の予防、治療、症状の軽減等(分子標的薬副作用など)
(8)手術の、術前術後のケア(がんの手術等を含む)
(9)がんの患部のケア(口腔、マンモ、自壊創等を含む)
【0154】
さらに、本発明の薬剤は、殺菌作用と、安全性が高いことを利用して、例えば、以下の用途に使用し得る。
(1)入れ歯洗浄
(2)哺乳瓶殺菌
(3)机、ドアノブなど不特定多数の人が触る身の回りのものの殺菌(感染予防)、消臭等
(4)電車、飛行機、バスなど公共の交通機関の殺菌、消臭等
(5)学校や幼稚園、保育園の環境全般の殺菌(感染予防等のための、机、ドア、棚、スイッチ類、積み木などの玩具類等の殺菌を含む)
(6)医療用機器の殺菌等(人工透析器の内部・パイプ洗浄及び殺菌を含む)
(7)レントゲン・CT・心電図・など診断機器の清拭または清掃、洗浄
(8)診察・オペ用資材殺菌(メスなど金属や樹脂などを含む)
【0155】
さらに、本発明の薬剤は、タンパク質の分解作用を利用して、例えば、下記の用途に使用し得る。
(1)コンタクトレンズ保存液
(2)メガネ洗浄液
(3)超音波洗浄機
(4)清拭剤
(5)ガラス清拭清掃(フロントガラス含む)
【0156】
さらに、本発明の薬剤は、消臭作用を利用して、例えば、下記のような臭いの消臭に使用し得る。
(1)口臭
(2)体臭
(3)便臭
(4)化学物質、ガスなどによる臭い(化学工場、食品工場等の工場全般の臭いを含む)
(5)ゴミ関連
(6)生ゴミ、ゴミ集積所、パッカー車、リサイクルセンター、焼却場
(7)下水管関連
(8)パイプ、オイルトラップなどトラップ設備
(9)タバコ
(10)医療関係(患者のQOL向上目的の用途を含む。また、自壊創による悪臭等の消臭を含む。)
(11)オペ室
(12)病室
(13)鶏舎・豚舎・牛舎などの環境臭(糞臭、排水)
(14)食肉センター(屠殺場)
【0157】
本発明の薬剤は、例えば、生体外で使用してもよい。本発明の薬剤は、前述のとおり、安全性が高いため、例えば、生体内において使用してもよい。本発明の薬剤は、例えば、生体内において、前記ラジカル発生触媒が、前記ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒してもよい。前記生体内は、例えば、人体内でもよいが、人間以外の動物の体内でもよい。
【0158】
本発明の薬剤は、例えば、消化器官内において使用してもよい。本発明の薬剤は、例えば、消化器官内において、前記ラジカル発生触媒が、前記ラジカル発生源からのラジカル発生を触媒してもよい。前記消化器官は、例えば、口腔部、咽頭部、食道、胃、十二指腸、小腸および大腸からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。前記消化器官は、例えば、大腸であってもよい。前記小腸は、例えば、十二指腸、空腸および回腸からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。前記大腸は、例えば、盲腸、結腸および直腸からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。本発明の薬剤は、例えば、前記消化器官内の殺菌、腸内細菌叢の変化の誘導、潰瘍性大腸炎の治療または症状の抑制等に用いてもよい。
【0159】
本発明の薬剤は、例えば、噴霧器、加湿器等を用いて撒布してもよい。この場合、例えば、撒布対象物に対する殺菌効果等に加え、噴霧器、加湿器等に対する殺菌作用、消臭作用も得ることが可能である。また、本発明の薬剤は、例えば、人間用に限定されず、人間以外の動物用としても使用できる。具体的には、例えば、動物の消臭用、および、鳥インフル・豚インフルなどの感染症予防用に使用できる。また、人間以外の動物用の用途としては、例えば、前述した人間用(人体用を含む)の用途として列挙した用途と同様の用途があげられる。さらに、人間以外の動物用の用途としては、例えば、以下で説明する農畜産用薬剤としての用途がある。
【0160】
本発明の農畜産用薬剤は、前述のように、安全性が高く、且つ高い殺菌効果を有する。このため、前記農畜産用薬剤は、例えば、農業用薬剤、畜産業用薬剤などとして使用できる。前記農業用薬剤は、例えば、農業用殺菌剤、農業用抗ウイルス剤、農業用消臭剤、農業用殺虫剤、農業用忌避剤、農業用土壌改良剤等として使用できる。また、前記畜産業用薬剤は、例えば、畜産業用殺菌剤、畜産業用抗ウイルス剤、畜産業用消臭剤、畜産業用殺虫剤、畜産業用忌避剤、畜産業用土壌改良剤等として使用できる。前記農畜産用薬剤は、例えば、一種類の用途に使用してもよいし、二種類以上の用途に使用してもよい。
【0161】
前記農業は、例えば、稲作、畑作などがあげられる。前記畑作は、キュウリ、トマト、ネギ、ハクサイ、ダイズなどの野菜、ジャガイモなどの芋、デンショウギク、クレマチス、モッコウバラなどの花卉、イチゴなどの果物、肥料などが挙げられる。前記畜産業は、例えば、ウシ、ブタ、ニワトリなどの産業動物などが挙げられる。
【0162】
本発明の農畜産用薬剤を前記稲作に使用する場合、前記農畜産用薬剤は、例えば、殺菌剤、殺虫剤、忌避剤、土壌改良剤などとして使用できる。具体的に、前記農畜産用薬剤を、例えば、種籾の浸種時に使用することで、ぬめりの発生を防止でき、水交換作業を低減できる。また、前記農畜産用薬剤を、例えば、浸種、催芽、および播種時に使用することで、いもち病、紋枯れ病、稲麹病、バカ稲病などを防止できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、田に撒布することで、カメムシ、害虫などのからイネを防虫できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、田の代掻き時に撒布することで、土壌を改良できる。
【0163】
本発明の農畜産用薬剤を前記畑作に使用する場合、前記農畜産用薬剤は、例えば、殺菌剤、抗ウイルス剤、土壌改良剤などとして使用できる。具体的に、前記農畜産用薬剤を、例えば、キュウリ、トマトまたはイチゴの葉に撒布することで、うどんこ病、モザイク病などを防止できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、トマトの葉に撒布することで、灰色かび病、葉かび病などを防止できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、ネギの葉に撒布することで、赤さび病などを防止できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、ハクサイの葉に撒布することで、ねこぶ病などを防止できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、トラクターなどで耕転後のジャガイモ用畑に撒布し、再度耕転することで、連作障害などを防止できる。前記農畜産用薬剤に、例えば、種芋を浸漬することで、種芋を消毒(殺菌)できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、ジャガイモの芽が出てから収穫までに、ジャガイモの葉に複数回撒布することで、そうか病などを防止できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、デンショウギク、クレマチス、モッコウバラに撒布することで、うどんこ病などを防止できる。
【0164】
本発明の農畜産用薬剤を前記畜産業に使用する場合、前記農畜産用薬剤は、例えば、殺菌剤、消臭剤などとして使用できる。具体的に、前記農畜産用薬剤を、例えば、ウシのディッピング剤として使用することで、乳房炎などを防止できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、ウシの蹄浴、蹄病の患部に塗布に使用することで、蹄病などを防止または治療できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、ウシに噴霧器などで噴霧することで、呼吸器病、口蹄疫などを防止できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、ウシ、ブタ、ニワトリの畜舎などに噴霧器などで噴霧することで、消臭できる。前記農畜産用薬剤を、例えば、鶏卵に使用することで、消毒(殺菌)できる。
【0165】
本発明の農畜産用薬剤は、例えば、前記対象物にスプレー(噴霧)してもよいし、塗布してもよいし、撒布してもよいし、前記対象物を前記農畜産用薬剤に浸漬してもよい。具体的には、例えば、空間消臭の場合、スプレーして用いることができる。蹄病などの患部には、例えば、脱脂綿やガーゼなどに含浸させて患部に当てることができる。手指消毒に用いるときは、例えば、摺り込みできるように水溶液とすることができる。医療器具などは、スプレー塗布や水溶液に浸漬させて洗浄できる。前記畜舎で使用する自動車、農機具、フォークリフトなどの機械に使用する場合、例えば、前記機械に前記農畜産用薬剤を噴霧、または前記機械を前記農畜産用薬剤で洗浄する。前記産業動物に対する消臭対策として使用する場合、例えば、噴霧器などで噴霧、撒布器などで撒布することにより使用できる。また、鶏卵には、例えば、塗布することにより殺菌できる。
【0166】
<農畜産用殺菌剤>
本発明の農畜産用殺菌剤は、前記本発明の農畜産用薬剤を含むことを特徴とする。前記本発明の農畜産用薬剤は、例えば、殺菌剤として用いることができる。従来、殺菌剤として用いられているものは種々あるが、殺菌効果が十分でない。濃度を高くすることにより殺菌効果を高めることができるものもあるが、安全性に問題がある。本発明に係る農畜産用薬剤を含む農畜産用殺菌剤は、例えば、濃度が低くても十分な殺菌効果を有し、安全性が高い。
【0167】
<農畜産用手指消毒用殺菌剤>
本発明の農畜産用手指消毒用殺菌剤は、前記本発明の農畜産用薬剤を含むことを特徴とする。前記本発明にかかる農畜産用薬剤は、例えば、手や指などを消毒するための農畜産用手指消毒用殺菌剤として用いることができる。本発明に係る農畜産用薬剤を含む農畜産用手指消毒用殺菌剤は、例えば、濃度が低くても十分な殺菌効果を有し、安全性が高い。
【0168】
<農畜産用消臭剤>
本発明の農畜産用消臭剤は、前記本発明の農畜産物用薬剤を含むことを特徴とする。前記本発明に係る農畜産用薬剤は、例えば、農畜産用消臭剤として用いることができる。一般的な殺菌成分としては、通常、第四級アンモニウム塩が用いられている。第四級アンモニウム塩は高濃度としないと十分な殺菌効果が得られないことが多く、安全性に問題がある。また、第四級アンモニウム塩には、消臭効果がないので、別途、消臭成分が混合されている。消臭成分としては、シクロデキストリンが通常用いられているが、シクロデキストリンは、悪臭の原因となる成分を分解する能力はなく、悪臭の原因となる成分を単にマスキングしているだけであり、悪臭そのものを除去することができない。本発明に係る農畜産用薬剤を含む農畜産用消臭剤は、例えば、高い殺菌効果を有し、且つ悪臭の元となる物質を取り除くことができ、高い消臭効果を有する。
【0169】
<真菌類に対する農畜産用殺菌剤>
本発明の真菌類に対する農畜産用殺菌剤は、前記本発明の農畜産用薬剤を含むことを特徴とする。本発明に係る真菌類に対する農畜産用殺菌剤は、例えば、白癬菌などの真菌類による患部を消毒する殺菌剤として用いることができる。
【0170】
<農畜産用水浄化剤>
本発明の農畜産用水浄化剤は、前記本発明の農畜産用薬剤を含むことを特徴とする。前記本発明に係る農畜産用水浄化剤は、例えば、前記農畜産に使用する水に発生するレジオネラなどの菌を殺菌できる。また、本発明の農畜産用薬剤は、金属も腐食せず、ガスも発生しない。したがって、本発明の農畜産用薬剤を含む農畜産用水浄化剤は、安全に用いることができる。本発明の農畜産用水浄化剤は、例えば、水に含まれる菌の殺菌または水質の改善に使用できる。このため、本発明の農畜産用水浄化剤は、例えば、農畜産用水の殺菌剤または農畜産用水の水質改善剤ということもできる。
【0171】
<農畜産用薬剤の使用方法>
本発明の農畜産用薬剤の使用方法は、対象物と、前記本発明の農畜産用薬剤とを接触させる工程を含むことを特徴とする。本発明に係る農畜産用薬剤の使用方法によれば、例えば、前記対象物を殺菌、消臭などできる。
【実施例0172】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0173】
[参考例1]
本参考例では、スカンジウムトリフラートと亜塩素酸ナトリウムにより、スチレンの効率的なジヒドロキシル化ができることを確認した。具体的には、常温常圧下で、スカンジウムトリフラートと亜塩素酸イオン(ClO2
-)によるスチレンのジヒドロキシル化により、1-フェニルエタン-1,2-ジオールを効率的に製造することができた。スカンジウムトリフレートは、強ルイス酸として作用し、亜塩素酸イオン(ClO2
-)から二酸化塩素ラジカル(ClO2
・)を生成させるとともに、二酸化塩素ラジカル(ClO2
・)の反応性を向上させることが確認された。
【0174】
オレフィンの1,2-ジオールへの酸化は、ファインケミカル又はスペシャリティケミカルにおいて、樹脂、医薬品、染料、殺虫剤や香料組成物等の種々の化学物質の前駆体を製造するための重要な工業プロセスである。オレフィンを酸化して対応するエポキシドおよびアルコールに変換するためのいくつかの方法が、これまでに、無機金属オキソ錯体及び重原子の金属酸化物を使用して報告されている。高原子価のOsVIIIO4は、オレフィンを1,2-ジオールに変換するための酸化の、効果的かつ選択的な試薬である(参考文献等1~8)。しかし、オスミウム化合物の毒性及び昇華性とその廃棄物は深刻な問題の原因となる。亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)は、非毒性かつ安価な酸化試薬であり、二酸化塩素ラジカル(ClO2
・)の前駆体として使用されてきた(参考文献等9~12[非特許文献1~4と同一])。ClO2
・は、反応性で、かつ安定なラジカルであることが知られている。しかし、ClO2
・は、室温で黄色の爆発性ガスである。ClO2
・は、実験的に、NaClO2のCl2による酸化、および、塩素酸カリウム(KClO3)とシュウ酸との反応により調製することができる(参考文献等13)。これらの方法は、Cl2の毒性およびClO3
-の爆発性等が問題となるおそれがある。ClO2
・の前駆体としてNaClO2を用いたオレフィンのエポキシ化が試みられている。しかしながら、ClO2
・の酸化能力は、酸の非存在下でオレフィンをジオールに酸化するのに十分強力ではないので、1,2-ジオール生成物が得られなかった(参考文献等14~17)。ClO2
・のCl=O二重結合の活性化は、オレフィンを1ステップで選択的にジヒドロキシル化するためのキーである。
【0175】
本参考例では、スカンジウムトリフレート[Sc(OTf)3]をルイス酸として(参考文献等18)ClO2
・を活性化することによる、常温常圧下でのスチレンのジヒドロキシル化物の効率的な合成法について報告する。ジヒドロキシル化機構は、EPRおよびUV-Vis吸収分光法によるラジカル中間体の検出に基づいて明らかにした。
【0176】
室温(25℃)で水性のMeCN溶液(MeCN/H
2O 1:1v/v)中NaClO
2(20mM)によるスチレン(2.0mM)の反応では、スチレンのジヒドロキシル化は起こらなかった(
図6参照)。なお、
図6は、MeCN/H
2Oとして
1HNMRスペクトル測定用溶媒CD
3CN/D
2O(1:1 v/v)を用いて上記の反応を行い、
1HNMRで反応を追跡した結果であり、反応開始後0.3時間後および17時間後の
1HNMRスペクトルを示す。温度が333Kに増加した場合には、ジヒドロキシル化生成物の形成が起こらず、エポキシ化が起こった(
図7)(参考文献等14、19)。なお、
図7は、スチレン(66mM)およびNaClO
2(200mM)を含むCD
3CN/D
2O(4:1 v/v)の混合後60℃(333K)で0時間および25時間後の
1HNMRスペクトルを示す。*印は、スチレンオキシド由来のピークである。対照的に、ブレンステッド酸としてのCF
3COOH(30mM)を添加剤として添加した場合は、17時間混合後にエポキシドが全く形成されず、それに代えて1-フェニルエタン-1,2ジオール(1)及び2-クロロ-1-フェニルエタノール(2)が、それぞれ15%および69%の収率で生産された[反応式(1)]。それらは、
1HNMRスペクトルで測定した(
図8)(参考文献等20)。なお、
図8は、スチレン(2.0mM)、NaClO
2(20mM)およびSc(OTf)
3(30mM)を含むCD
3CN/D
2O(1:1 v/v)の混合後、25℃で0.6時間後および17時間後の
1HNMRスペクトルを示す。*印および†印は、それぞれ、1-フェニルエタン-1,2-ジオール、および2-クロロ-1-フェニルエタノールに由来するピークである。CF
3COOHに代えて強力なルイス酸であるSc(OTf)
3(30mM)を用いた場合、ジオール(1)の収率が51%と顕著に増加した[下記反応式(1)の表参照](
図19)(参考文献等21)。なお、
図9は、スチレン(2.0mM)、NaClO
2(20mM)およびCF
3COOD(30mM)を含むCD
3CN/D
2O(1:1 v/v)の混合後、0.5時間後および17時間後の
1HNMRスペクトルを示す。*印および†印は、それぞれ、1-フェニルエタン-1,2-ジオール、および2-クロロ-1-フェニルエタノールに由来するピークである。
【数1】
【0177】
UV-Vis吸収分光法を、反応機構と反応性中間体の検出を明確にするために採用した。
図1に示すとおり、NaClO
2は、水溶液中において260nmに吸収帯を示した。その吸収帯は、Sc(OTf)
3(10mM)を加えると消失し、それに伴い、新たな吸収帯が358nmにおいて増大し、この吸収帯はClO
2
・に基づくと同定(アサイン)された(参考文献等22、23)。CF
3COOH存在下においても、同様の吸収スペクトルの変化が観測された(参考文献等24)。358nmでの吸収帯の出現の経時変化を
図1に示す。
図1は、298Kの水溶液中でSc(OTf)
3(10mM)と混合した後、0、4および16時間で採取されたNaClO
2(5.0mM)の紫外線+可視吸収スペクトルである。同図において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。また、
図2(a)は、
図1と同じ反応(298Kの水溶液(0.20M酢酸緩衝液pH2.9)中のSc(OTf)
3(10mM)とNaClO
2(5.0mM)の反応によるSc
3+(ClO
2
・)の形成)の、358nmでのUV-Vis吸収の時間プロファイルである。同図において、横軸は、時間(秒)、縦軸は358nmでの吸光度である。
図2(b)は、
図2(a)の測定結果の二次プロットである。時間プロファイル(
図2(a))は、二次プロット(
図2(b))によく合致する。そのように、Sc(OTf)
3を用いたClO
2
・の生成は、二分子のClO
2
-が律速段階に関係する(下記参照)。二分子の速度定数は、直線の傾きから0.16M
-1s
-1であると決定された。
【0178】
基質の非存在下、298KでのMeCN中では、Sc(OTf)
3を用いてNaClO
2から生成されたClO
2
・に基づく358nmの吸光度のいかなる減衰も観察されなかった。
図3(a)は、298KのMeCN/H
2O(1:1v/v)溶液中におけるスチレン(30~90mM)存在下でのSc
3+(ClO
2
・)の消費における、358nmでのUV-Vis吸収の時間プロファイルである。同図において、横軸は、時間(秒)、縦軸はClO
2
・濃度である。(b)は、擬一次速度定数対スチレン濃度のプロットである。過剰量のスチレンの存在下では、減衰率は擬一次に従った(
図3(a))。ジヒドロキシル増加について観察された擬一次速度定数(k
obs)は、スチレン濃度増加とともに直線的に増加した(
図3(b))。ClO
2
・およびスチレンの消費の二分子速度定数は、1.9×10
-2M
-1s
-1と決定した(参考文献等25)。ラジカル構造を明確にするためにEPR(electronic paramagnetic resonance電子常磁性共鳴)測定を実施した。純粋なClO
2
・を、NaClO
2を含むMeCN溶液を353Kで1時間還流することによって作製した。298Kに冷却後にEPRスペクトルを測定したところ、特徴的な等方性の信号を、g=2.0151(±0.0002)において、Cl原子核の不対電子に由来する4本の超微細線とともに確認した(
35Clおよび
37ClにおいてI=3/2、それぞれ0.821および0.683の同様の磁気モーメントを有する(
図4(a))(参考文献等26)。G値は、CF
3COOH(g=2.0106)およびSc(OTf)
3(g=2.0103)の添加によって顕著に変化した(
図4(b)および4(c))。ClO
2
・の超微細結合定数は、(a(Cl)=16.26G)CF
3COOH(15.78G)およびSc(OTf)
3(15.56G)の存在下、低下した(参考文献等27)。これは、プロトン及びSc
3+が、強くスチレンのジヒドロキシル化するための反応中間体として、H
+ClO
2
・およびSc
3+ClO
2
・を形成するために、ClO
2
・と結合することを示す(参考文献等28)。
【0179】
図5に示すとおり、ClO
2
・、H
+ClO
2
・およびSc
3+ClO
2
・の密度汎関数理論(DFT)計算を行い、ジヒドロキシル化のための反応機構を予測した。構造最適化は、理論計算のDFT CAM-B3LYP/6-311+G(d,p)レベルで行った。
図5は、CAM‐B3LYP/6‐311+G(d,p)レベルの理論計算による、DFT最適化構造の結合長(Å)である。(a)はClO
2
・、(b)はH
+ClO
2
・、(c)はSc
3+ClO
2
・である。ClO
2
・のCl-O二重結合の結合長は1.502Åと計算された(
図5(a))。H
+ClO
2
・では、Cl-O二重結合の結合長は1.643Åと計算された(
図5(b))。
図5(c)は、ClO
2
・と比較すると、Sc
3+ClO
2
・もまた結合強度が顕著に弱まっている(Cl-O:1.818Å)ことを示す。Cl-O結合の切断は、基質の存在下で強力な酸化剤としてのClO
・を生成するために有利な可能性がある。なお、
図10は、(a)H
+ClO
2
・および(b)Sc
3+ClO
2
・の、CAM-B3LYP/6-311+G(d,p)レベルの理論計算による、スピン分布を示す図である。
【0180】
上記の結果に基づいて、ClO2
・によるスチレンのジヒドロキシル化機構を、反応式(2)~(5)およびスキーム1に示した。NaClO2の不均化反応は、H+またはSc3+の存在下で起こり、ClO-とClO3
-を形成する[反応式(2)](参考文献等29)。ClO-はClO2
-およびプロトンと容易に反応し、Cl2O2を生成する[反応式(3)]。つぎに、Cl2O2はClO2
-により還元され、反応種であるClO2
・を生成する[反応式(4)]。全体的な化学量論は、反応式(5)で与えられる。ClO2
・は、H+およびSc3+等の酸と結合することで活性化される。H+の場合は、DFT計算(上記参照)に基づけば、Cl-O結合の切断は発生しない。H+によるスチレンの酸化は、スチレン二重結合に対するClO2
・の付加により進行する。これとは対照的に、Sc3+によるスチレンのジヒドロキシル化は、スキーム1に示すように、Sc3+ClO2
・錯体のホモリティックSc3+Cl-O結合切断によって生成したClO・およびSc3+O・の、スチレン二重結合に対する付加により起こる。次に、スカンジウム錯体は、最終生成物のジオールとSc3+ClO・を得るために加水分解される(スキーム1)。Sc3+ClO・は、大過剰のClO2
-による酸化でSc3+ClO2
・を形成させて再利用することができる。ClO-もまた、反応式(2)に示すように、ClO2
-により再生することができる。Sc3+ClO2
・のCl-O結合の切断によって形成されるClO・の、スチレンのβ炭素に対する付加は、二つの異性体を与えた。β炭素-ClOの結合形成が生成した場合、スキーム1に示すように、最終マイナー生成物として塩素化合物が得られた。
【0181】
【0182】
【0183】
以上、示したとおり、本参考例によれば、ClO2
・は、Sc3+の存在下でのルイス酸として、スチレンのための効果的なジヒドロキシル化試薬であることが確認された。本発明によれば、重金属などの有害廃棄物のないオレフィンのユニークなジヒドロキシル化経路を提供することができる。
【0184】
[参考文献等]
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2 (a) E. N. Jacobsen, I. Marko, W. S. Mungall, G. Schroeder and K. B.Sharpless, J. Am. Chem. Soc., 1988, 110, 1968-1970; (b) S. G.Hentges and K. B. Sharpless, J. Am. Chem. Soc., 1980, 102, 4263-4265.
3 W. Yu, Y. Mei, Y. Kang, Z. Hua and Z. Jin, Org. Lett., 2004, 6,3217-3219.
4 (a) A. J. DelMonte, J. Haller, K. N. Houk, K. B. Sharpless, D. A.Singleton, T. Strassner, and A. A. Thomas, J. Am. Chem. Soc., 1997,119, 9907-9908. (b) J. S. M. Wai, I. Marko, J. S. Svendsen, M. G.Finn, E. N. Jacobsen and K. B. Sharpless, J. Am. Chem. Soc., 1989,111, 1123-1125.
5 (a) S. Kobayashi, M. Endo and S. Nagayama, J. Am. Chem. Soc.,1999, 121, 11229-11230; (b) S. Kobayashi, T. Ishida and R. Akiyama,Org. Lett., 2001, 3, 2649-2652.
6 H. C. Kolb, P. G. Andersson and K. B. Sharpless, J. Am. Chem. Soc.,1994, 116, 1278-1291.
7 E. J. Corey and M. C. Noe, J. Am. Chem. Soc., 1996, 118, 11038-11053.
8 S. Y. Jonsson, K. Faernegrdh and J.-E. Baeckvall, J. Am. Chem. Soc.,2001,123, 1365-1371.
9 H. Dodgen and H. Taube, J. Am. Chem. Soc., 1949, 71, 2501-2504.
10 J. K. Leigh, J. Rajput, and D. E. Richardson, Inorg. Chem., 2014, 53,6715-6727.
11 C. L. Latshaw, Tappi, 1994, 163-166.
12 (a) J. J. Leddy, in Riegel’s Handbook of Industrial Chemistry, 8
th edn. Ed., J. A. Kent, Van Nostrand Reinhold Co. Inc, New York, 1983, pp. 212-235; (b) I. Fabian, Coord. Chem. Rev., 2001, 216-217, 449-472.
13 M. J. Masschelen, J. Am. Works Assoc., 1984, 76, 70-76.
14 X.-L. Geng, Z. Wang, X.-Q. Li, and C. Zhang J. Org. Chem., 2005, 70, 9610-9613
15 A. Jangam and D. E. Richardson, Tetrahedron Lett., 2010, 51, 6481-6484.
16 J. J. Kolar and B. O. Lindgren, Acta Chem. Scand. B, 1982, 36, 599-605.
17 B. O. Lindgren, T. Nilsson, Acta Chem. Scand. B, 1974, 28, 847-852.
18 (a) S. Fukuzumi and K. Ohkubo, J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 10270-10271; (b) S. Fukuzumi and K. Ohkubo, Chem.-Eur. J., 2000, 6, 4532-4535.
19 スチレン(66mM)のNaClO
2(200mM)によるエポキシ化をMeCN/H
2O(4:1 v/v)混合溶液中333Kで調べた(参考文献等14)。スチレンオキシドの収率は44%であり、スチレンの転化率は61%であった。
20 E. V. Bakhmutova-Albert, D. W. Margerum, J. G. Auer and B. M. Applegate, Inorg. Chem., 2008, 47, 2205-2211.
21
1H NMRで確認したところ、CF
3COOHまたはSc(OTf)
3による反応中、中間体としてのスチレンエポキシドは観測されなかった。
22 C. Rav-Acha, E. Choushen (Goldstein) and S. Sarel, Helv. Chim. Acta, 1986, 69, 1728-1733.
23 ClO
2
・水溶液中、無水酢酸とNaClO
2から生成された(参考文献等22)。ClO
2
・は、プロトン化形態(H
+ClO
2
・)である可能性がある。
24 W. Masschelein, Ind. Eng. Chem. Prod. Res. Devel., 1967, 6, 137-142.
25 この数値は、ClO
2
・によるスチレンのエポキシドへの変換(1.17×10
-2M
-1s
-1)(参考文献等10)よりも若干大きい。
26 (a) T. Ozawa and T. Kwan, Chem. Pharm. Bull., 1983, 31, 2864-2867; (b) T. Ozawa, T. Trends Org. Chem., 1991, 2, 51-58.
27 Sc
3+ClO
2
・とH+ClO
2
・のスピン分布の計算値を
図5に示した。それによれば、ScおよびH核はスピン密度を示さない。このことは、EPRスペクトルが、Sc(I=7/2)またはH(I=1/2)に由来する超微細分裂を示さないことを意味する。
28 Sc
3+と金属オキソ錯体のオキソ基との結合については、下記を参照のこと:
(a) J. Chen, X. Wu, K. M. Davis, Y.-M. Lee, M. S. Seo, K.-B. Cho, H. Yoon, Y. J. Park, S. Fukuzumi, Y. N. Pushkar and W. Nam, J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 6388-6391; (b) H. Yoon, Y.-M. Lee, X. Wu, K.-B. Cho, Y. N. Pushkar, W. Nam and S. Fukuzumi, J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 9186-9194; (c) S. Fukuzumi, K. Ohkubo, Y.-M. Lee and W. Nam, Chem.-Eur. J., 2015, 21, 17548-17559.
29 Sc
3+による中性ラジカルの不均化については、I. Nakanishi, T. Kawashima, K. Ohkubo, T. Waki, Y. Uto, T. Kamada, T. Ozawa, K. Matsumoto and S. Fukuzumi, S. Chem. Commun., 2014, 50, 814-816.を参照のこと。
【0185】
[実施例1]
本実施例では、塩化ベンゼトニウムによる酸素還元反応の活性化を行った。ルイス酸は様々な有機合成反応で広く研究開発が行われている。その多くは、金属イオンまたは金属錯体をルイス酸点として用いて、その周辺の配位子設計を伴う研究に注力されてきた。本実施例では、強力なルイス酸性を有するアンモニウム誘導体として塩化ベンゼトニウムを用い、それが、亜塩素酸ナトリウムを用いた芳香族系有機化合物の酸素化反応に広く有用であることを確認した。
【0186】
アセトニトリル中、コバルト(II)テトラフェニルポルフィリン錯体Co(II)TPP(TPP=5,10,15,20-テトラフェニルポルフィリン)(E
ox=0.35V vs SCE)と分子状酸素(E
red=-0.86V vs SCE)との間では電子移動は全く進行しない。しかし、この酸素飽和溶液([CoTPP]=9.0×10
-6M、[O
2]=13mM)に塩化ベンゼトニウム(Bzn
+)を添加すると([Bzn
+Cl
-]=30mM)、411nmのCo(II)TPP由来の吸収帯の減衰に伴い、等吸収点を有しながら433nmのCo(III)TPP+に特徴的な吸収帯の増大が観測された(
図11(a))。なお、
図11(a)は、前記溶液の紫外線+可視吸収スペクトルの経時変化を表すグラフであり、横軸は波長(nm)、縦軸は吸光度である。これは、Co(II)TPPから分子状酸素への電子移動反応が進行しCo(III)TPP
+が生成したものと考えられる。411nmの吸収帯の減衰の経時変化と、433nmの吸収帯の増大の経時変化の時定数はほぼ一致しており、擬一次カーブフィットより、速度定数を9.3×10
-5s
-1と決定した(
図2(b))。
図11(b)のグラフにおいて、横軸は時間であり、縦軸は吸光度である。この速度定数は酸素濃度およびBzn
+濃度に一次の依存性を示し、そのプロットの傾きより、触媒移動速度定数(k
cat)を0.24M
-2s
-1と決定できた。これまでの研究により(Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. Chem. Eur. J., 2000, 6, 4532)、Co(II)TPPから分子状酸素への電子移動反応は、金属イオンなどのルイス酸存在下、効率よく進行することが知られており、本研究で用いたBzn
+の場合も同様にルイス酸触媒的に反応が進行したものであると考えられる。本実施例で得られたBzn
+の触媒速度定数(0.24M
-2s
-1)は、リチウム過塩素酸塩(0.36)よりもわずかに低く、ストロンチウム過塩素酸塩(0.10M
-2s
-1)およびバリウム過塩素酸塩(0.051M
-2s
-1)よりも大きい値を示した。以上の結果よりBzn
+は比較的強いルイス酸性度を有していると考えられる。この触媒速度定数と文献記載の方法により、ルイス酸性度の指標であるΔE値は0.53eVと決定した。実際に、アンモニウム塩がルイス酸として機能するという報告例はこれまでに報告されており、例えばアンモニウムヘキサフルオロリン酸塩(NH
4PF
6)の値(0.32eV)(参考文献等33)よりも大きな値を示したことより、本アンモニウム塩がアンモニウムの中では強いルイス酸性度を示すことが確認された。なお、
図21のグラフに、塩化ベンゼトニウム[Bzn
+Cl
-]および各種金属錯体のルイス酸性度を示す。同図において、横軸は、前記ΔE値(eV)であり、縦軸は、速度定数の対数(log(k
cat,M
-2s
-1))である。
【0187】
密度汎関数計算(B3LYP/6-31G(d)レベル)よりBzn
+の構造を最適化した。その構造を
図12に示す。同図に示すとおり、Mulliken電荷およびLUMO軌道はアンモニウム窒素近傍に局在化していることから、Bzn
+はルイス酸性度を示すことが予想される。
【0188】
[参考例2]
本実施例では、ルイス酸によるNaClO2の不均化反応の加速効果について確認した。
【0189】
参考例1でも確認したとおり、亜塩素酸ナトリウム(NaClO
2)は中性水溶液/アセトニトリル混合溶液中では、非常に安定であるために全く分解は観測されない。この20mM溶液に、Sc(OTf)
3(40mM)を添加するとNaClO
2の吸収帯の減衰に伴い、即座に358nmにClO
2ラジカル(ClO
2
・)に特徴的な吸収帯の増大が観測された(
図13)。同図において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。この吸収帯の増大は、参考例1(
図1)で確認したとおり、Sc(OTf)
3の濃度を小さくすると経時変化として観測することができた。スカンジウムイオンよりもルイス酸性度の低いマグネシウムイオンおよびリチウムイオンなどでも同様の検討を行い、それぞれ反応速度定数を決定した。ルイス酸はこれまでに種々の不均化反応を触媒することが知られており、本反応においても同様の機構により、参考例1の反応式(2)に従って、ClO
2-がClO
-とClO
3
-に不均化されたものと考えられる。その後、生成したClO
-は大過剰に存在するClO
2
-と酸存在下反応し、Cl
2O
2を与えると考えられる(参考例1の反応式(3))。その後、Cl
2O
2はさらにClO
2
-と反応し活性ラジカル種であるClO
2ラジカルを与えると考えられる(参考例1の反応式(4))。
【0190】
[実施例2]
本実施例では、塩化ベンゼトニウムを用いたClO2ラジカル発生および酸化反応の促進について確認した。
【0191】
まず、ClO
2ラジカルは強い酸素化反応活性を示すと考えられるので、脱酸素アセトニトリル/水(1:1v/v)混合溶液中に10-メチル-9,10-ジヒドロアクリジン(AcrH
2)(1.4mM)と亜塩素酸ナトリウム(NaClO
2)(2.8mM)を添加した。この場合、AcrH
2の酸素化反応はほとんど進行しなかった(
図14)。
図14(a)~(c)のグラフは、前記反応の経時変化を示す。
図14(a)において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。
図14(b)は、波長358nmの吸光度の経時変化を示すグラフであり、横軸は時間(秒)であり、縦軸は吸光度である。
図14(c)は、波長387nmの吸光度の経時変化を示すグラフであり、横軸は時間(秒)であり、縦軸は吸光度である。
【0192】
つぎに、
図14と同じ混合溶液を調整し、さらにBzn
+(0.56mM)を添加すると、AcrH
2から10-メチルアクリドンへの酸素化反応が進行した(
図15)。
図15(a)および(b)のグラフは、前記反応の経時変化を示す。
図15(a)において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。
図15(b)は、波長387nmの吸光度の経時変化を示すグラフであり、横軸は時間(秒)であり、縦軸は吸光度である。
図15(a)および(b)に示すとおり、10-メチルアクリドン(λ
max=382nm)に由来する吸収が増大する経時変化が見られたことから、AcrH
2から10-メチルアクリドンへの酸素化(酸化)反応が進行したことが確認された。
【0193】
また、
図15と同じ混合溶液に、さらに、スカンジウムトリフルオロメタンスルホナート(Sc(OTf)
3,3.0mM)を添加しても、AcrH
2から10-メチルアクリドンへの酸素化反応が進行した(
図16)。
図16(a)および(b)のグラフは、前記反応の経時変化を示す。
図16(a)において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。
図16(b)は、波長430nmの吸光度の経時変化を示すグラフであり、横軸は時間(秒)であり、縦軸は吸光度である。
図16(a)および(b)に示すとおり、10-メチルアクリドンに由来する吸収が増大する経時変化が見られたことから、AcrH
2から10-メチルアクリドンへの酸素化(酸化)反応が進行したことが確認された。この酸素化反応は
図17に示す連鎖反応機構によって進行すると考えられる。すなわち、ここで、ClO
2
・は10-メチルアクリドンから水素を引き抜くと同時に酸素を添加することによってアクリドンを与えると考えられる。一方酸素を添加した後の生成物であるClO
・はClO
2
-と電子移動反応を起こし、ClO
-とClO
2
・を与え再生すると考えられる。
【0194】
[参考例3]
本参考例では、ルイス酸を用いたNaClO2による基質の酸素化反応を、トリフェニルフォスフィンからトリフェニルフォスフィンオキシドへの酸素化反応に用い、有用であることを確認した。より具体的には、NaClO2によるトリフェニルフォスフィンからトリフェニルフォスフィンオキシドへの酸素化反応を、ルイス酸であるスカンジウムトリフレートSc(OTf)3の存在下および非存在下で行い、ルイス酸が反応を促進することを確認した。
【0195】
まず、下記条件により、Sc(OTf)
3の存在下または非存在下、常温常圧(光照射なし)で反応を行い、紫外可視吸収スペクトルにより反応を追跡した。
図22(a)の紫外可視吸収スペクトルは、経時変化によりトリフェニルフォスフィンがトリフェニルフォスフィンオキシドに変換される様子を示す。同図において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。また、
図22(b)のグラフは、Sc(OTf)
3(Sc
3+)の存在下および非存在下でのトリフェニルフォスフィン(Ph
3P)濃度の経時変化を表す。横軸は時間(秒)であり、縦軸はトリフェニルフォスフィン(Ph
3P)濃度(mM)である。図示のとおり、この曲線から算出された反応速度定数kは、Sc
3+の非存在下では9.8×10
-4S
-1であったのに対し、Sc
3+の存在下では1.7×10
-3S
-1と増大していたことから、Sc
3+(ルイス酸)が反応を促進したことが確認された。
[Ph
3P]=0.4mM
[NaClO
2]=0.4mM
Sc(OTf)
3=0または10mM
0.12M 酢酸緩衝液 pH5.3
MeCN/H
2O(4:6)
【0196】
また、脱酸素アセトニトリルMeCN/H
2O(0.9ml/0.1ml)中、トリフェニルフォスフィンとNaClO
2(4.0mM)を混合しても反応は全く進行しなかった。ここにスカンジウムトリフレートSc(OTf)
3(30mM)を添加すると効率よく酸素化生成物を与えた。前記反応は、トリフェニルフォスフィンの初期濃度を1.0mM、2.0mM、4.0mMおよび8.0mMに変化させて、それぞれ25℃で15分間行った。反応の追跡は紫外可視吸収スペクトルのスペクトル変化により行った(
図18(a))。
図18(a)において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は吸光度である。これは、スカンジウムイオンSc
3+によって活性ラジカル種であるClO
2ラジカルが発生し、Ph
3PがPh
3P=Oへ酸素化されたものであると考えられる。量論は下記反応式(6)の通りであり、ほぼ定量的に反応は進行することが確認された(
図18(b))。
図18(b)において、横軸はPh
3Pの初期濃度であり、縦軸は生成したPh
3P=Oの濃度である。
2Ph
3P+NaClO
2 --> 2Ph
3P=O+NaCl (6)
【0197】
[参考例4]
本参考例では、アセトニトリル中、9-メシチル-10-メチルアクリジニウム(Acr
+-Mes)の過塩素酸塩(Acr
+-Mes ClO
4
-)および酸素の存在下で原料芳香族化合物(ベンズアルデヒド)の酸化反応を行って酸化反応生成物(安息香酸)を得た(
図20)。反応は、Bzn
+Cl
-の存在下および非存在下で行った。
【0198】
反応溶媒としては、酸素ガスで飽和させたCD
3CNを0.6mL用い、
図20に示すとおり、Acr
+-Mes ClO
4
-を1mM、ベンズアルデヒド(PhCHO)を5mM、Bzn
+Cl
-を0または1mM加え、キセノンランプで波長390nmの光を照射したか、または照射しなかった。反応は、
1HNMRで追跡した。その結果を、
図20中の表に示す。表中、「×」は、試薬を加えなかった、または光(light)を照射しなかったことを表す。「○」は、光(light)を照射したことを表す。「conversion」は、原料芳香族化合物(ベンズアルデヒド)の変換率であり、「yield」は、安息香酸の収率である。「time」は、反応時間である。
図20に示すとおり、Bzn
+Cl
-を加えなかった場合、安息香酸の収率は痕跡量(trace)であった。Bzn
+Cl
-を加えた場合、安息香酸の収率は60%、ベンズアルデヒドの変換率は63%であった。この結果から、Acr
+-Mesは、ルイス酸(Bzn
+Cl
-)の非存在下では反応性が低いが、ルイス酸(Bzn
+Cl
-)存在下ではAcr
+-Mesからのラジカル発生が促進され、強力な反応剤になったことを示していると考えられる。
【0199】
[参考例5]
本参考例では、前記「ルイス酸性度の測定方法」で説明した測定方法により、各種アンモニウムをラジカル発生触媒、酸素分子をラジカル発生源(酸化剤を兼ねる)として用い、コバルトテトラフェニルポルフィリンの酸化反応生成物を製造した。すなわち、下記化学反応式(1a)中のコバルトテトラフェニルポルフィリン、飽和O2およびルイス酸性度の測定対象物(例えば金属等のカチオンであり、下記化学反応式(1a)ではMn+で表される)を含むアセトニトリル(MeCN)を、室温において紫外可視吸収スペクトル変化の測定をし、酸化反応生成物であるCoTPP+が得られたことを確認した。
【0200】
【0201】
前記酸化反応は、下記表中に示した各アンモニウムをラジカル発生触媒として用いて行った。下記表中において、「kcat,M-2s-1」で表される数値が、各アンモニウムのルイス酸性度の指標となる、ルイス酸存在下におけるCoTPPと酸素の反応速度定数である。「LUMO, eV」で表される数値が、LUMOのエネルギー準位である。また、「benzetonium chloride」は塩化ベンゼトニウムを表し、「benzalkonium chloride」は塩化ベンザルコニウムを表し、「tetramethylammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸テトラメチルアンモニウム塩を表し、「tetrabutylammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸テトラブチルアンモニウム塩を表し、「ammonium hexafluorophosphate」はヘキサフルオロリン酸アンモニウム塩を表す。
【0202】
【0203】
[薬剤の実施例]
つぎに、本発明における薬剤の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明における薬剤は、以下の実施例に限定されない。
【0204】
実施例3:
亜塩素酸ナトリウム5gを精製水に溶かし100mLとし、4万ppmの亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た(A液)。ベンゼトニウムクロリド0.1gを精製水100mLに溶かし、1000ppm水溶液100mLを作った(B液)。0.1Mリン酸・NaOHバッファー(pH=9.5)を準備した。pH7の精製水600mLに10倍に希釈したA液20mL、及びバッファー80mLを入れた後、B液80mLを入れ、精製水を加え800mLとし、実施例3に係る薬剤を得た。この薬剤は、NaClO2および塩化ベンゼトニウムを含む水溶液であった。このようにして製造した、実施例3に係る薬剤のpHを測定したところ、7.5であった。
【0205】
また、NaClO
2濃度を100mM、塩化ベンゼトニウム濃度を1.0mMとしたこと以外は実施例3に係る薬剤と同様にして薬剤を製造した。この薬剤をESRチューブに封入し、電子スピンスペクトル分光光度計(日本電子社製JES-ME-LX X-band[商品名])によりマイナス196℃でESR(Electron Spin Resonance、電子スピン共鳴)スペクトルを測定し、二酸化塩素ラジカルの発生を確認した。なお、ESRとEPR(electronic paramagnetic resonance電子常磁性共鳴)とは同義である。測定したESRスペクトル図を、
図23に示す。図示のとおり、ラジカルの存在を示すピークが現れたことから、アンモニウムであるベンゼトニウムクロリド(塩化ベンゼトニウム)が亜塩素酸ナトリウム(NaClO
2)に対しラジカル発生触媒として働き、二酸化塩素ラジカルが生成したことが確認された。
【0206】
実施例4:
亜塩素酸ナトリウム5gを精製水に溶かし100mLとし、4万ppm亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た。ベンゼトニウムクロリド0.1gを精製水100mLに溶かし、1000ppm水溶液を作った。4万ppm亜塩素酸ナトリウム水溶液を40倍に希釈し、1000ppm水溶液を得た。亜塩素酸ナトリウム水溶液とベンゼトニウムクロリド水溶液をそれぞれ10mLずつ取り、精製水80mLと混合し100ppm水溶液とし、実施例4に係る薬剤(NaClO2および塩化ベンゼトニウムを含む水溶液)を得た。このようにして得た実施例4の薬剤について、pHを測定したところ、7.5であった。また、実施例4の薬剤について、実施例3の薬剤と同様にしてESRスペクトルを測定したところ、同様に、ベンゼトニウムクロリド(塩化ベンゼトニウム)が亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)に対しラジカル発生触媒として働き、二酸化塩素ラジカルが生成したことが確認された。
【0207】
比較例1:次亜塩素酸ナトリウム及び水を含む殺菌剤(市販品)。
比較例2:次亜塩素酸ナトリウムを含む殺菌消臭剤(市販品)。
比較例3:次亜塩素酸及び水を含む殺菌消臭剤(市販品)。
比較例4:次亜塩素酸ナトリウム及び水を含む殺菌消臭剤(市販品)。
比較例5:次亜塩素酸ナトリウム及び水を含む殺菌消臭剤(市販品)。
比較例6:亜塩素酸ナトリウム標準液1000ppm(試験品)。
【0208】
比較例7:亜塩素酸ナトリウム(和光純薬社製)5gを精製水100mLに溶かし、4万ppm水溶液を調製した。さらに精製水で希釈して100ppm水溶液として比較例7に係る試験品を得た。
比較例8:ベンゼトニウムクロリド水溶液(試験品)。
【0209】
(実験例1)
実験例1においては、以下をまず準備した。
使用菌種:
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
大腸菌(Escherichia coli MV1184)
菌液:
BHI寒天培地で作成した菌を白金耳で釣菌し、BHI液体培地に入れ振盪した。BHI液体培地で一昼夜増殖させた菌液50μLをBHI液体培地で190倍希釈し混合、攪拌したものを菌液とした。
【0210】
上記を用いて、以下のように効果(殺菌作用)を調べた。
【0211】
マイクロプレート(フタつき)をUV殺菌灯で10分間殺菌した。次に、各ウェルにBHI液体培地、前記菌液、及び実施例3に係る薬剤をマイクロピペットで順次注入した。37℃で24時間培養後、マイクロプレートリーダーで確認し、MIC(最小発育阻止濃度)を求めた。なお、対照には液体培地のみを確認した。また、MIC付近のウェルより培養液を10μL取り、シャーレに播種し、37℃で24時間培養し、MBC(最小殺菌濃度)を求めた。結果を表1に示す。
【0212】
実施例3に係る薬剤の代わりに、比較例1に係る殺菌剤を用いて、同様にMIC及びMBCを求めた。結果を表1に示す。
【0213】
実施例3に係る薬剤の代わりに、比較例2乃至5に係る殺菌消臭剤をそれぞれ用いて、同様に黄色ブドウ球菌のMICを求めた。結果を表1に示す。
【0214】
実施例3に係る薬剤の代わりに、比較例6に係る試験品を用いて、同様に黄色ブドウ球菌のMIC、並びに大腸菌のMIC及びMBCを求めた。結果を表1に示す。
【0215】
【0216】
(実験例2)
実施例3に係る薬剤の代わりに、実施例4又は比較例7若しくは8に係る薬剤を用いて、同様に大腸菌のMICを求めた。結果を表2に示す。
【0217】
【0218】
(実験例3)
実験例3においては、以下をまず準備した。
使用菌種:
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)
菌液:
実験例1と同様にして菌液を得た。
【0219】
上記を用いて、実験例1と同様にして、実施例3に係る薬剤を用いて、MIC及びMBCを求めた。結果を表3に示す。
【0220】
【0221】
(実験例4)
実験例4においては、以下をまず準備した。
使用菌種:
う蝕菌(Streptcoccus mutans)
菌液:
BHI寒天培地で作成した菌を白金耳で釣菌し、BHI液体培地に入れ振盪した。BHI液体培地で一昼夜増殖させた菌液50μLをBHI液体培地で190倍希釈し混合、攪拌したものを菌液とした。
【0222】
上記を用いて、以下のように効果を調べた。
【0223】
2本の試験管に入れたBHI液体培地に菌液をマイクロピペットで注入した。0.2%になるようにショ糖を入れた。37℃で18時間培養しバイオフィルムを形成させた。試験管内の培地をビーカーに捨て、PBSで2回洗浄した。それぞれに実施例3に係る薬剤、PBSを注入し、37℃で30分振盪した。試験管内の液をビーカーに捨て、PBSで2回洗浄した。試験管にBHI液体培地を注入し、37℃で24時間培養した。それぞれの培地10μLを普通寒天培地に撒き、37℃で24時間培養した。コロニーの有無を目視により確認した。その結果、実施例3に係る薬剤を注入した方には、コロニーが確認されなかったが、PBSを注入した方には、多くのコロニーが確認された。
【0224】
バイオフィルム内部の菌体に対する影響を確認するために、更に次の確認試験を行った。
【0225】
マイクロチューブに入れたBHI液体培地に菌液をマイクロピペットで注入した。0.2%になるようにショ糖を加えた。37℃で18時間培養しバイオフィルムを形成させた。マイクロチューブ内の培地をビーカーに捨て、PBSで2回洗浄した。それぞれに実施例3に係る薬剤、PBSを注入し37℃で15分、30分養生した。マイクロチューブ内の液をビーカーに捨てPBSで2回洗浄した。試験管にBHI液体培地を注入し、ホモジナイズした後、37℃で24時間培養した。それぞれの培地10μLを普通寒天培地に撒き、37℃で24時間培養した。コロニーの有無を目視により確認した。その結果、実施例3に係る薬剤を注入した方には、コロニーが確認されなかったが、PBSを注入した方には、多くのコロニーが確認された。このことから、実施例3に係る薬剤は、バイオフィルムに含浸させることで、バイオフィルムの内部にまで作用し、殺菌効果を示すことが分かる。
【0226】
(実験例5)
実験例5においては、以下の菌種を用い、それ以外は実験例1と同様に実施例3に係る薬剤を用い、MIC及びMBCを求めた。結果を表4に示す。
使用菌種:
細菌1(Porphyromonas gingivalis)
細菌2(Treponema denticola)
細菌3(Tannerella fosythensis)
細菌4(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)
【0227】
【0228】
(実験例6)
鉄、アルミニウム、ブリキ、及びステンレスについて、各試験ピース(25.4mm×25.4mm)を洗浄した後、実施例3に係る薬剤、次亜塩素酸ナトリウム1.2%水溶液、及び水道水がそれぞれ入った樹脂容器に各試験ピースを浸漬した後、樹脂容器に蓋をした。表5及び6に記載の時間経過ごとに不織布上に取り出し、試験ピースの状況を目視で確認した。確認は、必要に応じて写真撮影を行い、また、変化が分かりにくい場合は、顕微鏡で観察した。評価は、以下の基準を用いた。
【0229】
-:腐食なし
±:錆発生
+:相当量の錆
++:多量の錆
+++:金属面の腐食
【0230】
【0231】
【0232】
(実験例7)
日本電機工業会規格JEM1467「家庭用空気清浄機」に準拠して、脱臭性能試験を行った。測定は、内容積1m3のアクリル容器(縦1m×横1m×奥行1m)内で、攪拌機を作動させ、タバコを燃焼させ、煙を充満させた。全てのタバコの燃焼が終了した後、攪拌機を停止、噴霧器を稼働させて実施例3に係る薬剤を噴霧し、容器内のアンモニア、アセトアルデヒド、及び酢酸の3成分の濃度について一定時間毎に2時間測定し、濃度変化を追跡した。同様に、アクリル容器にホルムアルデヒド蒸気を注入し、容器内のホルムアルデヒド濃度について一定時間毎に2時間測定し、濃度変化を追跡した。なお、噴霧器は‘Manual’で運転した。また、対照として噴霧器を稼働しない空試験も実施した。結果を、表7乃至10に示す。悪臭成分の測定は、検知管(ガステック社製)により実施し、使用した検知管を下記に示す。
【0233】
使用検知管
アンモニア No.3L
アセトアルデヒド No.92L
酢酸 No.81L
ホルムアルデヒド No.91
【0234】
【0235】
【0236】
【0237】
【0238】
(実験例8)
噴霧器で実施例3に係る薬剤を噴霧して、タバコ臭の脱臭性能を測定した。まず、広さ6畳相当の室内でタバコを燃焼させ、煙を充満させて一定濃度とした。次に、噴霧器を配置し、稼働前、稼働1時間後、稼働2時間後の3回、部屋の臭気強度を測定した。噴霧器の配置は部屋の壁際であり、臭気の採取は部屋中央の高さ1mの位置とした。部屋には撹拌用ファンを2台設置し、常時撹拌状態とした。なお、噴霧器は‘Manual’で運転した。また、対照として噴霧器を稼働しない空試験も実施した。臭気強度は、6段階臭気強度表示法によって以下のように判定した。結果を表11に示す。
【0239】
臭気強度を評価する試験者(パネル)は6名とし、結果はそれぞれの強度値を平均して算出した。6段階臭気強度表示とは、人間の嗅覚を用いて臭気の強さを数値化する方法である。今回試験を実施するパネルは、法律で定められた嗅覚検査を行い、正常な嗅覚を有すると認められた者である。
【0240】
6段階臭気強度表示法では、以下の基準となる数値が用いられる。
0:無臭
1:非常に弱い臭い(検知閾値濃度)
2:弱い臭い(認知閾値濃度)
3:容易に感じる臭い
4:強い臭い
5:非常に強い臭い
【0241】
【0242】
(実験例9)
噴霧器で実施例3に係る薬剤を噴霧して、浮遊菌(一般細菌、真菌)の除去性能を測定した。まず、広さ6畳相当の室内に噴霧器を配置し、稼働前、稼働1時間後、稼働2時間後の3回、空気中の浮遊菌の濃度を測定した。噴霧器の配置は部屋の壁際であり、浮遊菌の採取は部屋中央の高さ1mの位置とした。部屋には撹拌用ファンを2台設置し、常時撹拌状態とした。浮遊菌の測定は、メンブランフィルタによる濾過捕集法により実施した。なお、噴霧器は‘Manual’で運転した。また、対照として噴霧器を稼働しない空試験も実施した。結果を表12及び13に示す。
【0243】
実験例9の測定条件等
使用フィルタ:東洋濾紙社製,37mmモニター
吸引空気量:300L(毎分20Lで15分間吸引)
使用培地:一般細菌用 m-TGE Broth 液体培地(東洋製作所製)
真菌用 m-GreenY&M Broth 液体培地(東洋製作所製)
培養条件:一般細菌 30℃ 72時間
真菌 30℃ 5日間
【0244】
【0245】
【0246】
(実験例10)
実験例10においては、以下の菌種を用い、それ以外は実験例1と同様に実施例3に係る薬剤を用い、MIC又はMBCを求めた。結果を表14に示す。
使用菌種:
う触菌
溶連菌
枯草菌
カンジタ(Candida albicans)
【0247】
【0248】
(実験例11)
機器分析実施マニュアル;検知管法,ガスクロマトグラフィー法((社)繊維評価技術協議会 消臭加工繊維製品認証基準 準用)の記載に従って、実施例3に係る薬剤を用いて消臭試験を行った。結果を表15に示す。
【0249】
【表15】
濃度1:ガス初期濃度
濃度2:2時間経過後のガス濃度
ガスの減少率:((濃度1-濃度2)/濃度1)×100
【0250】
(実験例12)
実施例3の薬剤を1回に約2mL、1日に数回、ニキビに塗布することを14日間継続した。その結果、薬剤の塗付によるニキビの治癒が明らかであり、本発明の薬剤がニキビ治療薬として有用であることが確認された。
【0251】
実施例5:
アンモニウムとして、塩化ベンゼトニウムに代えて、半分の物質量(モル数)の塩化アンモニウム(NH
4Cl)を用いる以外は実施例3と同様にして、実施例5に係る薬剤を製造した。この実施例5の薬剤のpHを測定したところ、7.5であった。さらに、NaClO
2濃度を100mM、塩化アンモニウム(NH
4Cl)濃度を0.5mMとしたこと以外は実施例5の薬剤と同様にして薬剤を製造し、その薬剤について、実施例3と同様にしてESRスペクトルを測定した。測定したESRスペクトル図を、
図24に示す。図示のとおり、ラジカルの存在を示すピークが現れたことから、塩化アンモニウム(NH
4Cl)が亜塩素酸ナトリウム(NaClO
2)に対しラジカル発生触媒として働き、二酸化塩素ラジカルが生成したことが確認された。
【0252】
実施例6:
アンモニウムとして、塩化ベンゼトニウムに代えて、同じ物質量(モル数)の塩化ベンザルコニウム(下記化学式)を用いる以外は実施例3と同様にして、実施例6の薬剤を得た。この実施例6の薬剤のpHを測定したところ、7.5であった。さらに、NaClO
2濃度を100mM、塩化ベンザルコニウム濃度を1.0mMとしたこと以外は実施例6の薬剤と同様にして薬剤を製造し、その薬剤について、実施例3と同様にしてESRスペクトルを測定した。測定したESRスペクトル図を、
図25に示す。図示のとおり、ラジカルの存在を示すピークが現れたことから、アンモニウムである塩化ベンザルコニウムが亜塩素酸ナトリウム(NaClO
2)に対しラジカル発生触媒として働き、二酸化塩素ラジカルが生成したことが確認された。
【化1】
【0253】
実施例7:
アンモニウムとして、塩化ベンゼトニウムに代えて、同じ物質量(モル数)の塩化ベンジルトリエチルアンモニウム(下記化学式)を用いる以外は実施例3と同様にして、実施例7の薬剤を得た。この実施例7の薬剤のpHを測定したところ、7.5であった。さらに、NaClO
2濃度を100mM、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム濃度を1.0mMとしたこと以外は実施例3の薬剤と同様にして薬剤を製造し、その薬剤について、実施例3と同様にしてESRスペクトルを測定した。測定したESRスペクトル図を、
図26に示す。図示のとおり、ラジカルの存在を示すピークが現れたことから、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムが亜塩素酸ナトリウム(NaClO
2)に対しラジカル発生触媒として働き、二酸化塩素ラジカルが生成したことが確認された。
【化2】
【0254】
実施例8:
アンモニウムとして、塩化ベンゼトニウムに代えて、同じ物質量(モル数)の塩化メチルアンモニウムを用いる以外は実施例3と同様にして、実施例7の薬剤を得た。この実施例8の薬剤のpHを測定したところ、7.5であった。さらに、NaClO2濃度を100mM、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム濃度を1.0mMとしたこと以外は実施例3の薬剤と同様にして薬剤を製造し、その薬剤について、実施例3と同様にしてESRスペクトルを測定した。その結果、ラジカルの存在を示すピークが現れたことから、塩化メチルアンモニウムが亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)に対しラジカル発生触媒として働き、二酸化塩素ラジカルが生成したことが確認された。
【0255】
[ルイス酸性度の実証データ]
(1)測定条件
前述のとおり、J. Org. Chem. 2003, 68, 4720-4726に記載の方法によりアンモニウム塩のルイス酸性度を測定および算出した。具体的には、J. Org. Chem. 2003, 68, 4720-4726の4724頁左21行~4724頁左6行に記載のように、O
2をラジカル発生源としたCoTPPの酸化の反応速度を決定し、4725頁
図6に記載のグラフに与えられている直線関係(y=14(ΔE)-8.0)に従って(yは速度定数の常用対数値)ルイス酸性度ΔE(eV)を算出した。
【0256】
(2)ルイス酸性度の数値
前記(1)の方法により測定および算出したルイス酸性度の数値を以下に示す。下記表16には、実施例3~7における4種のアンモニウムのルイス酸性度の数値を示す。また、下記表17には、それ以外の種々のアンモニウムのルイス酸性度の数値を示す。また、下記表16および17に加え、プラリドキシムヨウ化メチル(PAM)のルイス酸性度を、同様の方法で測定したところ、0.60eVであった。
【0257】
【0258】
【0259】
(実験例13)
塩化アンモニウムを含む実施例5の薬剤と、、塩化ベンザルコニウムを含む実施例6の薬剤と、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムを含む実施例7の薬剤と、塩化メチルアンモニウムを含む実施例8の薬剤とをそれぞれ用いて、殺菌効果を確認した。
【0260】
実施例3の薬剤(塩化ベンゼトニウムおよび亜塩素酸ナトリウムを含む薬剤)に代えて、塩化アンモニウムおよび亜塩素酸ナトリウムを含む薬剤(実施例5)、塩化ベンザルコニウムおよび亜塩素酸ナトリウムを含む薬剤(実施例6)または塩化ベンジルトリエチルアンモニウムおよび亜塩素酸ナトリウムを含む薬剤(実施例7)を同量用いること以外は、実験例1と同様にして殺菌効果を測定した。菌種は、大腸菌(Escherichia coli MV1184)を用いた。また、実施例5、6、7または8の薬剤に代えて、塩化アンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムまたは塩化メチルアンモニウムのみを含み亜塩素酸ナトリウムを含まない水溶液(比較例)を用いて、同様の方法により殺菌効果を測定した。
【0261】
(2)殺菌効果の測定結果
前記(1)により測定したMIC(最小発育阻止濃度)の結果は、下記表18に示すとおりであった。
【0262】
【0263】
表18に示したとおり、塩化アンモニウムおよび亜塩素酸ナトリウムを含む薬剤(実施例5)、塩化ベンザルコニウムおよび亜塩素酸ナトリウムを含む薬剤(実施例6)、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムおよび亜塩素酸ナトリウムを含む薬剤(実施例7)、または塩化メチルアンモニウムおよび亜塩素酸ナトリウムを含む薬剤(実施例8)を用いた場合は、本発明の薬剤としての殺菌効果が確認された。これに対し、塩化アンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムまたは塩化メチルアンモニウムのみを含み亜塩素酸ナトリウムを含まない水溶液では、殺菌効果が無かった。このことから、塩化アンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウムまたは塩化メチルアンモニウムの触媒作用により亜塩素酸ナトリウムから発生した二酸化塩素ラジカルにより殺菌効果を奏していることが確認できた。
【0264】
(実験例14:潰瘍性大腸炎の症状の抑制)
実施例3の薬剤にpH緩衝液を加えてpH5.35に調整した。この薬剤を、以下において「MA-T」という。
【0265】
つぎに、12週齢前後のC57BL/6J雄マウス(大阪大学医学部動物施設5-05で飼育)に2%デキストラン硫酸ナトリウム水溶液(DSS)(MP Biomedicals社)投与前3日間およびDSS投与後6-8日目、10-12日目、14-16日目にMA-T(pH5.35)またはvehicle(水のみ)をディスポーザブルフィーディングニードル(先玉経:2mm,チューブ経:1.18mm,チューブ長さ:50mm)を用いて150μlずつ経肛門投与した。この間、2% DSSは、給水ボトルに入れ自由飲水させた。2% DSS投与開始6日後に、通常水投与(飲水)に置き換えた。2% DSS飲水期間とその後の通常水飲水期間中に体重測定を行った。2% DSS投与開始日のマウスの体重を基準とし、DSS投与後の体重減少を解析した。
図27のグラフに、その結果を示す。
図27は、前記雄マウスの
*P<0.05.(t.test)結果を示すグラフである。横軸は、DSS投与開始後または前の日数を表し、縦軸は、体重の変化量(グラム)を表す。図中の●は、vehicle投与(飲水)群を表し、○は、MA-T投与群を表す。図示のとおり、2% DSS投与開始後、MA-Tまたはvehicleを投与開始するまで、マウス群の体重は減少し続けた。このことは、デキストラン硫酸ナトリウム誘導性大腸炎が発生したことを示唆している。その後、2% DSS投与開始後、MA-Tまたはvehicleを投与開始すると、いずれの群も、体重が回復(再増加)した。このことは、デキストラン硫酸ナトリウム誘導性大腸炎が抑制されたことを示唆している。そして、MA-T投与群は、vehicle投与群と比較して体重の回復(再増加)量が大きかった。このことは、MA-T投与により、vehicle投与よりも強くデキストラン硫酸ナトリウム誘導性大腸炎が抑制されたことを示唆している。すなわち、本実験例により、MA-Tにデキストラン硫酸ナトリウム誘導性大腸炎の抑制効果があることが確認された。このことから、MA-Tに殺菌作用(殺菌効果)があることが推認できる。これについて、下記実験例15でさらに確認した。
【0266】
(実験例15:腸内細菌叢の変化)
実験例14(
図27)において、Vehicle投与群およびMA-T(pH5.35)投与群の糞便(3~5個)をDSS投与直前(投与開始当日)および投与開始16日後に回収した。糞便の重さを測定後、RNAlater(RNAlater(ml)=糞便の重さ(g)×9)(Invitrogen)を加え、vortex mixerを用いて10倍希釈(v/w)の糞便破砕物を作成した。200μlの糞便破砕物を2mlスクリューキャップマイクロチューブに移し、1ml PBS(-)を加えvortex mixerを用いて撹拌後、5分間遠心(4℃,13,000×g)した。上清を取り除き、再度1ml PBS(-)を加えvortex mixerを用いて撹拌後、5分間遠心(4℃,13,000×g)し、上清を取り除いた。0.3g glass beads(経0.1mm)、300μl Tris-SDS溶液(100mM Tris-HCl,40mM EDTA(pH9.0),1% SDS)、500μl TE-saturated phenol(nacalai)を加え、FastPrep(5.0power level,30秒)(MP Biomedicals)で撹拌した。5分間遠心(4℃, 20000×g)したのち、上清400μlを2mlスクリューキャップマイクロチューブに移し、同量のphenol/chloroform/isoamyl alcohol(25:24:1)(nacalai)を加え、再度FastPrep (4.0power level,45秒)で撹拌した。5分間遠心(4℃, 20000×g)したのち、上清250μlを1.5mlスクリューキャップマイクロチューブに移し、25μl 3M sodium acetate(pH5.2)、300μl isopropanol(nacalai)を加えvortex mixerを用いて撹拌後、5分間遠心(4℃,20000×g)した。上清を取り除き、800μl 80% ethanolを加え、5分間遠心(4℃, 20000×g)した。上清を取り除き、60度のブロックインキュベータに30分間チューブを置き乾燥させた。200μl TE(pH8.0)(nacalai)を加え、回収した核酸(DNA)を溶解した。作成したDNA溶液および腸内細菌Standard plasmid DNAを用いて、糞便1g中の腸内細菌(Blautia cluster, Clostridium coccoides, Bacteroides fragilis)の数を定量PCR法((1)94℃ 5min, (2)94℃ 20sec, (3)55℃ 20sec, (4)72℃ 50sec, (1)1cycle/(2)~(4)45cycles)(Step One Plus, Applied Biosystems)により解析した。PCR法に使用したプライマーセット(Primer sets)は、下記のとおりである。
Primer sets;
Blautia cluster, 5’-gtgaaggaagaagtatctcgg-3’ and 5’-ttggtaaggttcttcgcgtt-3’;
Clostridium coccoides, 5’-aaatgacgggtacctgactaa-3’ and 5’-ctttgagtttcattcttgcgaa-3’;
Bacteroides fragilis, 5’-atagcctttcgaaagaagat-3’ and 5’-ccagtatcaactgcaatttta-3’.
【0267】
図28の棒グラフに、前記各細菌の検出数を示す。各棒グラフにおいて、「Day0」は、DSS投与直前(投与開始当日)を表し、「Day16」は、投与開始16日後を表す。それぞれにおいて、左側の棒グラフがVehicle投与群、右側の棒グラフがMA-T投与群を表す。また、縦軸は、糞便1グラム(g)あたりの細菌数(Number)を表す。図示のとおり、MA-Tが腸内細菌叢の変化を誘導したことが確認された。すなわち、このことから、MA-Tに殺菌作用(殺菌効果)があることが確認された。
【0268】
[農畜産用薬剤の実施例]
つぎに、農畜産用薬剤の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明の農畜産用薬剤は、下記実施例により制限されない。また、以下、本発明の実施例においては、実施例の農畜産用薬剤を、単に「薬剤」という場合がある。
【0269】
前記実施例3~4および比較例1~8の薬剤を、以下における農畜産用薬剤の実験例において、農畜産用薬剤として用いた。
【0270】
(農畜産用薬剤の実験例1)
農畜産用薬剤の実験例1においては、以下をまず準備した。
使用菌種:
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
大腸菌(Escherichia coli MV1184)
菌液:
BHI寒天培地で作製した菌を白金耳で釣菌し、BHI液体培地に入れ振盪した。BHI液体培地で一昼夜増殖させた菌液50μLをBHI液体培地で190倍希釈し混合、攪拌したものを菌液とした。
【0271】
上記を用いて、以下のように効果を調べた。
【0272】
マイクロプレート(フタつき)をUV殺菌灯で10分間殺菌した。次に、各ウェルにBHI液体培地、菌液、及び農畜産用薬剤の実施例3に係る農畜産用薬剤をマイクロピペットで順次注入した。37℃で24時間培養後、マイクロプレートリーダーで確認し、MIC(最小発育阻止濃度)を求めた。なお、対照には液体培地のみを確認した。また、MIC付近のウェルより培養液を10μLを取り、シャーレに播種し、37℃で24時間培養し、MBC(最小殺菌濃度)を求めた。結果を表19に示す。
【0273】
実施例3に係る農畜産用薬剤の代わりに、比較例1に係る殺菌剤を用いて、同様にMIC及びMBCを求めた。結果を表19に示す。
【0274】
実施例3に係る農畜産用薬剤の代わりに、比較例2乃至5に係る殺菌消臭剤をそれぞれ用いて、同様に黄色ブドウ球菌のMICを求めた。結果を表19に示す。
【0275】
実施例3に係る農畜産用薬剤の代わりに、比較例6に係る試験品を用いて、同様に黄色ブドウ球菌のMIC、並びに大腸菌のMIC及びMBCを求めた。結果を表19に示す。
【0276】
【0277】
(農畜産用薬剤の実験例2)
実施例3に係る農畜産用薬剤の代わりに、実施例4又は比較例7若しくは8に係る農畜産用薬剤を用いて、同様に大腸菌のMICを求めた。結果を表20に示す。
【0278】
【0279】
(農畜産用薬剤の実験例3)
農畜産用薬剤の実験例3においては、以下をまず準備した。
使用菌種:
化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)
菌液:
農畜産用薬剤の実験例1と同様にして菌液を得た。
【0280】
上記を用いて、農畜産用薬剤の実験例1と同様にして、実施例3に係る農畜産用薬剤を用いて、MIC及びMBCを求めた。結果を表21に示す。
【0281】
【0282】
(農畜産用薬剤の実験例4)
農畜産用薬剤の実験例4においては、以下をまず準備した。
使用菌種:
う蝕菌(Streptococcus mutans)
菌液:
BHI寒天培地で作製した菌を白金耳で釣菌し、BHI液体培地に入れ振盪した。BHI液体培地で一昼夜増殖させた菌液50μLをBHI液体培地で190倍希釈し混合、攪拌したものを菌液とした。
【0283】
上記を用いて、以下のように効果を調べた。
【0284】
2本の試験管に入れたBHI液体培地に菌液をマイクロピペットで注入した。0.2%になるようにショ糖を入れた。37℃で18時間培養しバイオフィルムを形成させた。試験管内の培地をビーカーに捨て、PBSで2回洗浄した。それぞれに実施例3に係る農畜産用薬剤、PBSを注入し、37℃で30分振盪した。試験管内の液をビーカーに捨て、PBSで2回洗浄した。試験管にBHI液体培地を注入し、37℃で24時間培養した。それぞれの培地10μLを普通寒天培地に撒き、37℃で24時間培養した。コロニーの有無を目視により確認した。その結果、実施例3に係る農畜産用薬剤を注入した方には、コロニーが確認されなかったが、PBSを注入した方には、多くのコロニーが確認された。
【0285】
バイオフィルム内部の菌体に対する影響を確認するために、更に次の確認試験を行った。
【0286】
マッシャー用マイクロチューブに入れたBHI液体培地に菌液をマイクロピペットで注入した。0.2%になるようにショ糖を加えた。37℃で18時間培養しバイオフィルムを形成させた。マイクロチューブ内の培地をビーカーに捨て、PBSで2回洗浄した。それぞれに実施例3に係る農畜産用薬剤、PBSを注入し37℃で15分、30分養生した。マイクロチューブ内の液をビーカーに捨てPBSで2回洗浄した。試験管にBHI液体培地を注入し、ホモジナイズした後、37℃で24時間培養した。それぞれの培地10μLを普通寒天培地に撒き、37℃で24時間培養した。コロニーの有無を目視により確認した。その結果、実施例3に係る農畜産用薬剤を注入した方には、コロニーが確認されなかったが、PBSを注入した方には、多くのコロニーが確認された。このことから、実施例3に係る農畜産用薬剤は、バイオフィルムに含浸させることで、バイオフィルムの内部にまで作用し、殺菌効果を示すことが分かる。
【0287】
(農畜産用薬剤の実験例5)
農畜産用薬剤の実験例5においては、以下の菌種を用い、それ以外は農畜産用薬剤の実験例1と同様に実施例3に係る農畜産用薬剤を用い、MIC及びMBCを求めた。結果を表22に示す。
使用菌種:
細菌1(Porphyromonas gingivalis)
細菌2(Treponema denticola)
細菌3(Tannerella forsythensis)
細菌4(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)
【0288】
【0289】
(農畜産用薬剤の実験例6)
鉄、アルミニウム、ブリキ、及びステンレスについて、各試験ピース(25.4mm×25.4mm)を洗浄した後、実施例3に係る農畜産用薬剤、次亜塩素酸ナトリウム1.2%水溶液、及び水道水がそれぞれ入った樹脂容器に各試験ピースを浸漬した後、樹脂容器に蓋をした。表23及び24に記載の時間経過ごとに不織布上に取り出し、試験ピースの状況を目視で確認した。確認は、必要に応じて写真撮影を行い、また、変化が分かりにくい場合は、顕微鏡で観察した。評価は、以下の基準を用いた。
【0290】
-:腐食なし
±:錆発生
+:相当量の錆
++:多量の錆
+++:金属面の腐食
【0291】
【0292】
【0293】
(農畜産用薬剤の実験例7)
日本電機工業会規格JEM1467「家庭用空気清浄機」に準拠して、脱臭性能試験を行った。測定は、内容積1m3のアクリル容器(縦1m×横1m×奥行1m)内で、攪拌機を作動させ、タバコを燃焼させ、煙を充満させた。全てのタバコの燃焼が終了した後、攪拌機を停止、噴霧器を稼働させて実施例3に係る農畜産用薬剤を噴霧し、容器内のアンモニア、アセトアルデヒド、及び酢酸の3成分の濃度について一定時間毎に2時間測定し、濃度変化を追跡した。同様に、アクリル容器にホルムアルデヒド蒸気を注入し、容器内のホルムアルデヒド濃度について一定時間毎に2時間測定し、濃度変化を追跡した。なお、噴霧器は‘Manual’で運転した。また、対照として噴霧器を稼働しない空試験も実施した。結果を、表25乃至28に示す。悪臭成分の測定は、検知管(ガステック社製)により実施し、使用した検知管を下記に示す。
【0294】
使用検知管
アンモニア No.3L
アセトアルデヒド No.92L
酢酸 No.81L
ホルムアルデヒド No.91
【0295】
【0296】
【0297】
【0298】
【0299】
(農畜産用薬剤の実験例8)
噴霧器で実施例3に係る農畜産用薬剤を噴霧して、タバコ臭の脱臭性能を測定した。まず、広さ6畳相当の室内でタバコを燃焼させ、煙を充満させて一定濃度とした。次に、噴霧器を配置し、稼働前、稼働1時間後、稼働2時間後の3回、部屋の臭気強度を測定した。噴霧器の配置は部屋の壁際であり、臭気の採取は部屋中央の高さ1mの位置とした。部屋には撹拌用ファンを2台設置し、常時撹拌状態とした。なお、噴霧器は‘Manual’で運転した。また、対照として噴霧器を稼働しない空試験も実施した。臭気強度は、6段階臭気強度表示法によって以下のように判定した。結果を表29に示す。
【0300】
臭気強度を評価する試験者(パネル)は6名とし、結果はそれぞれの強度値を平均して算出した。6段階臭気強度表示とは、人間の嗅覚を用いて臭気の強さを数値化する方法である。今回試験を実施するパネルは、法律で定められた嗅覚検査を行い、正常な嗅覚を有すると認められた者である。
【0301】
6段階臭気強度表示法では、以下の基準となる数値が用いられる。
0:無臭
1:非常に弱い臭い(検知閾値濃度)
2:弱い臭い(認知閾値濃度)
3:容易に感じる臭い
4:強い臭い
5:非常に強い臭い
【0302】
【0303】
(農畜産用薬剤の実験例9)
噴霧器で実施例3に係る農畜産用薬剤を噴霧して、浮遊菌(一般細菌、真菌)の除去性能を測定した。まず、広さ6畳相当の室内に噴霧器を配置し、稼働前、稼働1時間後、稼働2時間後の3回、空気中の浮遊菌の濃度を測定した。噴霧器の配置は部屋の壁際であり、浮遊菌の採取は部屋中央の高さ1mの位置とした。部屋には撹拌用ファンを2台設置し、常時撹拌状態とした。浮遊菌の測定は、メンブランフィルタによる濾過捕集法により実施した。なお、噴霧器は‘Manual’で運転した。また、対照として噴霧器を稼働しない空試験も実施した。結果を表30及び31に示す。
【0304】
農畜産用薬剤の実験例9の測定条件等
使用フィルタ:東洋濾紙社製,37mmモニター
吸引空気量:300L(毎分20Lで15分間吸引)
使用培地:一般細菌用 m-TGE Broth 液体培地(東洋製作所製)
真菌用 m-GreenY&M Broth 液体培地(東洋製作所製)
培養条件:一般細菌 30℃ 72時間
真菌 30℃ 5日間
【0305】
【0306】
【0307】
(農畜産用薬剤の実験例10)
農畜産用薬剤の実験例10においては、以下の菌種を用い、それ以外は農畜産用薬剤の実験例1と同様に実施例3に係る農畜産用薬剤を用い、MIC又はMBCを求めた。結果を表32に示す。
使用菌種:
う触菌
溶連菌
枯草菌
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
【0308】
【0309】
(農畜産用薬剤の実験例11)
機器分析実施マニュアル;検知管法,ガスクロマトグラフィー法((社)繊維評価技術協議会 消臭加工繊維製品認証基準 準用)の記載に従って、実施例3に係る農畜産用薬剤を用いて消臭試験を行った。結果を表33に示す。
【0310】
【表33】
濃度1:ガス初期濃度
濃度2:2時間経過後のガス濃度
ガスの減少率:((濃度1-濃度2)/濃度1)×100
【0311】
(農畜産用薬剤の実験例12)
本発明の農畜産用薬剤をマウスに投与することにより、本発明の農畜産用薬剤の安全性が高いことを確認した。
【0312】
実施例3の農畜産用薬剤を用い、マウスに対し、OECD TG420急性経口毒性試験(固定用量法)に基づき、急性経口毒性試験を行った。なお、前記試験は、財団法人日本食品分析センターが実施した。この結果、前記農畜産用薬剤のLD50値は、雌雄共に、2000mg/kg以上であった。このため、本発明の農畜産用薬剤は、極めて安全であることがわかった。
【0313】
(農畜産用薬剤の実験例13)
本発明の農畜産用薬剤をウサギに投与することにより、本発明の農畜産用薬剤の安全性が高いことを確認した。
【0314】
実施例3の農畜産用薬剤を用い、ウサギに対し、OECD TG405急性眼刺激性/腐食性に基づき、眼刺激性試験を行った。なお、前記試験は、財団法人日本食品分析センターが実施した。この結果、前記農畜産用薬剤の刺激性は、無刺激物であることがわかった。このため、本発明の農畜産用薬剤は、極めて安全であることがわかった。
【0315】
(農畜産用薬剤の実験例14)
本発明の農畜産用薬剤をウサギに投与することにより、本発明の農畜産用薬剤の安全性が高いことを確認した。
【0316】
実施例3の農畜産用薬剤を用い、ウサギに対し、OECD TG404急性皮膚刺激性/腐食性に基づき、皮膚一次刺激性試験を行った。なお、前記試験は、財団法人日本食品分析センターが実施した。この結果、前記農畜産用薬剤の刺激性は、弱刺激物であることがわかった。このため、本発明の農畜産用薬剤は、極めて安全であることがわかった。
【0317】
(農畜産用薬剤の実験例15)
本発明の農畜産用薬剤をモルモットに投与することにより、本発明の農畜産用薬剤の安全性が高いことを確認した。
【0318】
実施例3の農畜産用薬剤を用い、モルモットに対し、前記農畜産用薬剤を14日間連続して塗布することにより、連続皮膚刺激性試験を行った。なお、前記試験は、株式会社生活科学研究所が実施した。この結果、前記農畜産用薬剤の刺激性は、無刺激物であることがわかった。このため、本発明の農畜産用薬剤は、極めて安全であることがわかった。
【0319】
(農畜産用薬剤の実験例16)
本発明の農畜産用薬剤をモルモットに投与することにより、本発明の農畜産用薬剤の安全性が高いことを確認した。
【0320】
実施例3の農畜産用薬剤を用い、モルモットに対し、Maximization Test法により、皮膚感作性試験を行った。なお、前記試験は、株式会社生活科学研究所が実施した。この結果、前記農畜産用薬剤の刺激性は、皮膚感作性がないことがわかった。このため、本発明の農畜産用薬剤は、極めて安全であることがわかった。
【0321】
(農畜産用薬剤の実験例17)
本発明の農畜産用薬剤をヒトに投与することにより、本発明の農畜産用薬剤の安全性が高いことを確認した。
【0322】
実施例3の農畜産用薬剤を用い、前記農畜産用薬剤を吸収させたパッチをヒトに24時間貼付することより、ヒトパッチ試験を行った。なお、前記試験は、株式会社生活科学研究所が実施した。この結果、前記農畜産用薬剤の刺激性は、無刺激性であることがわかった。このため、本発明の農畜産用薬剤は、極めて安全であることがわかった。
【0323】
(農畜産用薬剤の実験例18)
本発明の農畜産用薬剤により、いもち病の発生を抑制できることを確認した。
【0324】
コシヒカリの種籾を塩水選し、浮いた種籾を取り除くことにより罹病籾を除去した。さらに、得られた種籾を水洗いし、水切りをし、粗目のサラン袋に詰めた。つぎに、前記実施例3の農畜産用薬剤を200倍に希釈した希釈液(以下、「200倍液」ともいう。)を調製した。そして、前記種籾の重量に対して2倍の重量の200倍液に、前記サラン袋に詰めた種籾を24時間浸漬処理した。前記浸漬処理中、換水は行わなかった。前記浸漬後、前記種籾を風乾し、再度、前記種籾に対し、6日間浸漬処理した。前記浸漬処理中、換水は行わなかった。さらに、前記浸漬処理後の前記種籾に対し、再度、浸漬処理を6日間行った。
【0325】
つぎに、前記種籾を育苗箱に播種し、さらに、育苗箱1箱あたり、500mLの前記200倍液を散布後、育苗した。得られた苗を田に植え、常法により、栽培した。そして、前記栽培中のいもち病の発生の有無を確認した。コントロールは、前記コシヒカリに代えて、ひとめぼれの種籾を用い、前記200倍液への浸漬処理を行わず、前記コシヒカリを植えた田に隣接する田に植えた以外は、同様にして、いもち病の発生の有無を確認した。
【0326】
この結果、前記200倍液で浸漬処理した田では、いもち病の発生が確認されなかった。これに対し、コントロールでは、いもち病の発生が確認された。これらの結果から、本発明の農畜産用薬剤により、いもち病の発生を抑制できることがわかった。
【0327】
(農畜産用薬剤の実験例19)
本発明の農畜産用薬剤により、いもち病の拡散を抑制できることを確認した。
【0328】
いもち病が多発する田の代掻き時に、前記実施例3の農畜産用薬剤を10倍に希釈した希釈液(以下、「10倍液」ともいう。)を、前記田10a当たり10L添加し、代掻きを実施した。つぎに、前記農畜産用薬剤の実験例18のコシヒカリの苗を前記代掻き後の田に植え、栽培した。そして、前記栽培中にいもち病の発生が確認された場合、いもち病罹病株を除去し、前記いもち病罹病株を栽培していた周辺に、前記10倍液を前記田10a当たり1L噴霧した。コントロールは、前記農畜産用薬剤の実験例18のコシヒカリの苗に代えて、前記農畜産用薬剤の実験例18のコントロールの苗を使用し、前記10倍液を前記田に添加および噴霧せず、前記コシヒカリを植えた田に隣接する田に植えた以外は、同様に栽培した。そして、前記栽培中にコントロールを植えた田で発生したいもち病が、前記コシヒカリの苗を植えた田に拡散するかを確認した。
【0329】
この結果、前記コントロールを植えた田では、いもち病の発生および拡散が観察された。これに対し、前記コシヒカリの苗を植えた田では、前記コントロールを植えた田の隣接地2~3m程において、一次枝梗より上部にわずかにいもち病の発生が観察されたが、前記田の他の部分へのいもち病の拡散は観察されなかった。これらの結果から、本発明の農畜産用薬剤によりいもち病の拡散を抑制できることがわかった。
【0330】
(農畜産用薬剤の実験例20)
本発明の農畜産用薬剤により、カメムシや害虫を忌避できることを確認した。
【0331】
前記農畜産用薬剤の実験例19と同様にして、23人の農家が有する田をそれぞれ1枚ずつ処理した以外は、前記農畜産用薬剤の実験例18のコシヒカリの苗を田に植え、栽培した。そして、前記栽培後、各農家に対して、例年と比較して、カメムシや害虫が前記田に近寄ってくる程度を聞き取りした。
【0332】
この結果、8名の農家において、カメムシや害虫の忌避が観察されたとの回答があった。これらのことから、本発明の農畜産用薬剤により、カメムシや害虫を忌避できることがわかった。
【0333】
[アミノ酸、ペプチドおよびリン脂質の実施例]
以下、アミノ酸、ペプチドおよびリン脂質の実施例について説明する。
【0334】
[参考例6]
前記「ルイス酸性度の測定方法(2)」により、下記のとおり、種々のアミノ酸、ペプチドおよびリン脂質の反応速度定数を測定した。なお、下記表において、「L-aspartate」はL-アスパラギン酸を表し、「L-glutamate」はL-グルタミン酸を表し、「L-glycine」はL-グリシンを表し、「L-lysine」はL-リシンを表し、「L-arginine」はL-アルギニンを表し、「GSSG」は酸化型グルタチオンを表し、「Cys-Cys」はシスチンを表し、「DPPS」はジパルミトイルホスファチジルセリンを表し、「DPPC」はジパルミトイルホスファチジルコリンを表し、「adenine」はアデニンを表す。また、「Kobs」は、反応速度定数(kcat)の測定値を表す。下記表に示すとおり、いずれのアミノ酸、ペプチドおよびリン脂質も、ルイス酸性を示すことが確認された。
【0335】
【0336】
[参考例7]
ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、L-アスパラギン酸およびL-セリンについて、それぞれ、「ルイス酸性度の測定方法(1)」または「ルイス酸性度の測定方法(2)」によりルイス酸性度を測定した。その結果、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリンおよびL-アスパラギン酸については、「ルイス酸性度の測定方法(1)」および「ルイス酸性度の測定方法(2)」の両方でルイス酸性度が確認された。ホスファチジン酸については、「ルイス酸性度の測定方法(2)」でルイス酸性度が確認された。カルジオリピンについては、「ルイス酸性度の測定方法(1)」でルイス酸性度が確認された。さらに、スフィンゴ脂質(リン脂質)であるガングリオシドGM1およびスフィンゴミエリンについて、「ルイス酸性度の測定方法(2)」でルイス酸性度を確認した。
【0337】
[実施例9]
参考例6および7でルイス酸性度を測定した各種アミノ酸、ペプチドおよびリン脂質を用いて、亜塩素酸またはその塩(亜塩素酸ナトリウム)から二酸化塩素ラジカルを製造した。これにより、前記各種アミノ酸、ペプチドおよびリン脂質が、亜塩素酸またはその塩(亜塩素酸ナトリウム)に対し、二酸化塩素ラジカル発生触媒として働くことを確認した。
【0338】
[実施例10]
前記各種アンモニウムを用いて、実施例3~8と同様にして薬剤を製造した。また、前記各種アンモニウムに代えて、参考例6および7でルイス酸性度を測定した各種アミノ酸、ペプチドおよびリン脂質を用いること以外は実施例3~8と同様にして薬剤を製造した。さらに、それらの薬剤を、前記薬剤の実験例および前記農畜産用薬剤の実験例と同様にして用い、殺菌作用等があることを確認した。
【0339】
前記薬剤の調製は、以下のようにして行った。まず、亜塩素酸ナトリウムを精製水に溶かし、亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た(A液)。一方、前記各アンモニウム、アミノ酸、ペプチドおよびリン脂質を、それぞれ精製水に溶かし、水溶液を得た(B液)。さらに、濃度1mMのA液と濃度0.2mMのB液とを混合し、または、濃度5mMのA液と濃度1mMのB液とを混合し、さらに希釈して薬剤とした。前記薬剤中における前記各アンモニウム、アミノ酸、ペプチドまたはリン脂質の濃度は12.5~20ppmであった。また、前記薬剤中における亜塩素酸ナトリウムの濃度は、約0.14mM~0.22mMであった。
【0340】
使用菌種:
大腸菌(Escherichia coli MV1184)
菌液:
BHI寒天培地で作成した菌を白金耳で釣菌し、BHI液体培地に入れ振盪した。BHI液体培地で一昼夜増殖させた菌液50μLをBHI液体培地で190倍希釈し混合、攪拌したものを菌液とした。
【0341】
上記を用いて、以下のように効果(殺菌作用)を調べた。
【0342】
マイクロプレート(フタつき)をUV殺菌灯で10分間殺菌した。次に、各ウェルにBHI液体培地、前記菌液、前記薬剤をマイクロピペットで順次注入した。37℃で24時間培養後、マイクロプレートリーダーで確認し、MIC(最小発育阻止濃度)を求めた。なお、対照には液体培地のみを確認した。また、MIC付近のウェルより培養液を10μL取り、シャーレに播種し、37℃で24時間培養し、MBC(最小殺菌濃度)を求めた。さらに、対照として、前記薬剤に代えて、A液のみ(亜塩素酸ナトリウムのみの水溶液:亜塩素酸ナトリウム濃度40ppm、約0.44mM)またはB液のみ(前記各アンモニウム、アミノ酸、ペプチドまたはリン脂質のみの水溶液)を用いて同様にして効果(殺菌作用)を調べた。
【0343】
上記のようにして殺菌作用を調べた結果、アンモニウムである塩化メチルアンモニウム、塩化アンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンゼトニウムおよび塩化ベンザルコニウムと、アミノ酸であるグリシン、L-セリン、L-アスパラギン酸およびプロリンと、ペプチドである酸化型グルタチオンと、リン脂質であるコリンとについて、それぞれ殺菌作用(殺菌効果)があることを確認した。
【0344】
一方、A液のみまたはB液のみを用いた場合は、殺菌作用(殺菌効果)がなかった。すなわち、亜塩素酸ナトリウムのみ、または前記各アンモニウム、アミノ酸、ペプチドまたはリン脂質のみでは殺菌作用を示さないが、両者が共存すると、前記各アンモニウム、アミノ酸、ペプチドまたはリン脂質が亜塩素酸ナトリウムに作用して二酸化塩素ラジカルを発生させ、その二酸化塩素ラジカルが殺菌作用を示したと推認できる。
【0345】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
以上、説明したとおり、本発明のラジカル発生触媒およびラジカルの製造方法によれば、温和な条件下でラジカルを発生させる(製造する)ことができる。本発明のラジカル発生触媒およびラジカルの製造方法の用途としては、例えば、前記本発明の酸化反応生成物の製造方法に用いることができる。本発明の酸化反応生成物の製造方法は、有機化合物および無機物質を含む種々の被酸化物の酸化反応に適用可能であり、その応用範囲は広い。さらに、本発明のラジカル発生触媒およびラジカルの製造方法の用途は、前記本発明の酸化反応生成物の製造方法に限定されず、広範な用途に利用可能である。
また、本発明によれば、安全性が高く、且つ高い殺菌効果を有する薬剤および農畜産用薬剤を提供することができる。本発明の薬剤および農畜産用薬剤の用途は、特に限定されず、広範な用途に利用可能である。本発明の薬剤および農畜産用薬剤は、例えば、農業分野、畜産業分野等において極めて有用である。