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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050549
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】二重特異性T細胞誘導体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20240403BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240403BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240403BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240403BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240403BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20240403BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240403BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240403BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240403BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240403BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240403BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240403BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240403BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240403BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/13
C12N15/864 100Z
C07K19/00
C07K14/705
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/06
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023219441
(22)【出願日】2023-12-26
(62)【分割の表示】P 2020565337の分割
【原出願日】2019-05-23
(31)【優先権主張番号】62/675,208
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520115635
【氏名又は名称】メニスマート セラピューティクス, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MANYSMART THERAPEUTICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ホワン, シン-イ
(72)【発明者】
【氏名】リャオ, チェン ハオ
(72)【発明者】
【氏名】リン, チェン-ミン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】腫瘍細胞、ウイルス感染細胞、又は免疫調節細胞などの除去など、ADCCを必要とする分野におけるモノクローナル抗体適用に関連する問題点を克服するための新規融合タンパク質を提供する。
【解決手段】融合タンパク質の一例は、ヒトCD3のエピトープ又はそのフラグメントに特異的に結合する抗CD3抗体又はその抗原結合性フラグメントに融合されたヒトCD16Aの高親和性バリアントの細胞外ドメインを好ましくは含む。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD16Aの細胞外ドメイン;及び
ヒトCD3のエピトープ又はそのフラグメントに特異的に結合する抗体又はその抗原結合性フラグメント
を含む融合タンパク質。
【請求項2】
前記CD16Aが高親和性CD16Aバリアントである、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
CD16Aの細胞外ドメインが配列番号2のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記抗体又はその抗原結合性フラグメントが抗CD3単鎖可変フラグメントである、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記抗体又はその抗原結合性フラグメントが配列番号4のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
CD16Aの細胞外ドメインが前記抗体又はその抗原結合性フラグメントに直接連結する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
分泌シグナルペプチドをさらに含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
前記分泌シグナルペプチドが配列番号6のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を有する、請求項7に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
タンパク質精製タグをさらに含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
配列番号8のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
請求項1に記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項12】
CD16Aの細胞外ドメインをコードするフラグメントを含み、配列番号1の核酸配列又はその実質的に同一の配列を有する、請求項11に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
前記抗体又はその抗原結合性フラグメントをコードするフラグメントを含み、配列番号3の核酸配列又はその実質的に同一の配列を有する、請求項11に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
分泌シグナルペプチドをコードするフラグメントをさらに含み、配列番号5の核酸配列又はその実質的に同一の配列を有する、請求項11に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
タンパク質精製タグをコードするフラグメントをさらに含む、請求項11に記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
配列番号7の核酸配列又はその実質的に同一の配列を有する、請求項11に記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
アデノ随伴ウイルスベクターに含まれている、請求項11に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
請求項11に記載のポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項19】
前記ポリヌクレオチドがアデノ随伴ウイルスベクターに含まれている、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
治療有効量の請求項1に記載の融合タンパク質を含み、任意選択で薬学的に許容できる担体又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項21】
1つ又は複数の抗体をさらに含む、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
それを必要とする対象において抗体依存性細胞毒性を誘導するための医薬の製造における請求項20に記載の医薬組成物の使用。
【請求項23】
それを必要とする対象において抗体依存性細胞毒性を誘導するための医薬の製造における請求項21に記載の医薬組成物の使用。
【請求項24】
それを必要とする対象においてがん、感染症、自己免疫疾患、移植片対宿主病、又は移植後リンパ増殖性疾患を治療するための医薬の製造における請求項20に記載の医薬組成物の使用。
【請求項25】
それを必要とする対象においてがん、感染症、自己免疫疾患、移植片対宿主病、又は移植後リンパ増殖性疾患を治療するための医薬の製造における請求項21に記載の医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示は、融合タンパク質、特に、CD16A-二重特異性T細胞誘導体(bispecific T cell engager(BiTE))及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]治療用モノクローナル抗体(mAb)は、最近最も急速に成長しているクラスの薬物の1つになっており、がん、感染症から自己免疫疾患まで、広範囲の適応症の治療に対して承認されている(Almagroら、Front Immunol 8、1751 (2017))。腫瘍学における使用が承認されている大部分のmAbは、いわゆる直接ターゲティングmAb、例えばリツキシマブ(rituximab)(抗CD20 mAb)であり、これらのmAbは腫瘍細胞を直接的に標的とするように設計されている。このタイプのmAbは、通常、ex vivoで作製され、患者に受動的に注入されるが、この場合、これらのmAbは定着腫瘍又は残存腫瘍に対して作用し、それによって様々なFc受容体媒介性エフェクター経路を活性化して標的細胞を死滅させる。化学療法と組み合わせた場合、これらの治療用mAbは、濾胞性リンパ腫(Subramanianら、Cancer Management and Research、9、131~140 (2017)及び多発性骨髄腫(van de Donkら、Blood、131、13~29 (2018))の臨床的有効性の例として、それぞれ抗CD20及び抗CD38を用いて血液悪性腫瘍に優れた結果をもたらした。代わりに、抗CTLA-4(細胞毒性Tリンパ球抗原4)、抗PD-1(プログラム細胞死-1)、及び抗PD-L1(プログラム死-リガンド1)などの承認された免疫調節mAbは、免疫チェックポイントを遮断して抗腫瘍免疫応答を再活性化するように設計されているが(K.Chinら、Annals of Oncology、28、1658~1666 (2017))、これらの免疫調節mAbはまた、細胞を取り除く直接ターゲティングmAbとしても機能し得る(Hamilton及びRath Expert Opinion on Biological Therapy、17、515~523 (2017))。
【0003】
[0003]直接ターゲティング治療用mAbの作用機序は、抗体の様々な自然機能:中和、抗体依存性細胞毒性(ADCC)、又は補体依存性細胞毒性に起因する(Suzukiら、J Toxicol Pathol、28、133~139 (2015))。それぞれの作用機序が臨床的有効性にどの程度寄与するかは明らかではない。
【0004】
[0004]したがって、mAbの治療的有効性を改善し、様々な分野におけるmAbの適用を促進するための新規の方法の開発が必要とされている。本開示は、これらの必要性及び他の必要性に対処した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[0005]本開示は、疾患治療及び他の分野における、特に、例えば腫瘍細胞、ウイルス感染細胞、又は免疫調節細胞などの除去などADCCを必要とする分野におけるmAb適用に関連する現在の問題点を克服するための新規二重特異性T細胞誘導体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[0006]本開示は、
ヒトCD16Aの細胞外ドメイン;及び
ヒトCD3のエピトープ又はそのフラグメントに特異的に結合する抗体又はその抗原結合性フラグメント
を含む融合タンパク質を提供する。
【0007】
[0007]本開示はまた、本明細書に開示した融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0008】
[0008]本開示はまた、本明細書に開示したポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。
【0009】
[0009]本開示はまた、治療有効量の本明細書に開示した融合タンパク質を含み、任意選択で薬学的に許容できる担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0010】
[0010]本開示はまた、それを必要とする対象において抗体依存性細胞毒性を誘導するための医薬の製造における本明細書に開示した医薬組成物の使用を提供する。
【0011】
[0011]本開示は以下の項目において詳細に説明されている。本開示の他の特徴、目的及び利点は、詳細な説明及び特許請求の範囲で確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】haCD16A-BiTEの遺伝子構築を示す図である。アデノ随伴ウイルス(AAV)シャトルプラスミドにクローニングされたhaCD16A-CD3二重特異性T細胞誘導体の遺伝子構築物を示す図である。H:6×ヒスチジンタグ;ITR:AAVの逆方向末端反復配列;S:分泌シグナル;WPRE:ウッドチャックB型肝炎ウイルスの転写後調節エレメント。
図1B】haCD16A-BiTEの遺伝子構築を示す図である。ヒト高親和性CD16A(haCD16A)の細胞外ドメイン(edCD16)及びヒトCD3に対する単鎖抗体(抗CD3 scFv)のコード配列を遺伝子合成によって同一コードフレーム内で融合させた図である。
図1C】haCD16A-BiTEの遺伝子構築を示す図である。1341bpヌクレオチドの合成遺伝子は446アミノ酸の融合タンパク質をコードしている図である。
図1D-1】haCD16A-BiTEの遺伝子構築を示す図である。haCD16A-BiTEのスキームの図である。
図1D-2】haCD16A-BiTEの遺伝子構築を示す図である。haCD16A-BiTEのスキームの図である。
図1D-3】haCD16A-BiTEの遺伝子構築を示す図である。haCD16A-BiTEのスキームの図である。
図1D-4】haCD16A-BiTEの遺伝子構築を示す図である。haCD16A-BiTEのスキームの図である。
図2A】haCD16A-BiTEのT細胞及び免疫グロブリンG(IgG)抗体被覆腫瘍細胞への結合を示す図である。IgG抗体被覆細胞へのhaCD16A-BiTE結合の分解的な方略を示す図である。
図2B】haCD16A-BiTEのT細胞及び免疫グロブリンG(IgG)抗体被覆腫瘍細胞への結合を示す図である。腫瘍細胞での抗原発現を示す図である。
図2C】haCD16A-BiTEのT細胞及び免疫グロブリンG(IgG)抗体被覆腫瘍細胞への結合を示す図である。IgG抗体被覆腫瘍細胞へのhaCD16A-BiTEの結合を示す図である。
図2D】haCD16A-BiTEのT細胞及び免疫グロブリンG(IgG)抗体被覆腫瘍細胞への結合を示す図である。T細胞へのhaCD16A-BiTE結合の分解的な方略を示す図である。
図2E】haCD16A-BiTEのT細胞及び免疫グロブリンG(IgG)抗体被覆腫瘍細胞への結合を示す図である。T細胞へのhaCD16A-BiTE結合を示す図である。
図3】T細胞の存在下で、抗CD20抗体(リツキシマブ、リツキシン(Rituxin)(登録商標))及びhaCD16A-BiTE単独で、又は組合せで処理することによるCD20発現細胞株の死滅に対する効果を示す図である。
図4】T細胞の存在下で、抗EGFR抗体(セツキシマブ、エルビタックス(Erbitux)(登録商標))及びhaCD16A-BiTE単独で、又は組合せで処理することによる上皮成長因子受容体(EGFR)発現細胞株の死滅に対する効果を示す図である。
図5】T細胞の存在下で、抗HER2抗体(トラスツズマブ、ハーセプチン(Herceptin)(登録商標))及びhaCD16A-BiTEのみで、又は組合せで処理することによるヒト上皮成長因子受容体2(HER2)発現細胞株の死滅に対する効果を示す図である。
図6】リツキシマブ及びhaCD16A-BiTEで処理されたCD20発現細胞株の死滅に対する血漿の効果を示す図である。
図7A】haCD16A-BiTEでパルスされたCD16γ9δ2T細胞とCD16γ9δ2T細胞の間のIgG抗体媒介性細胞死滅の比較研究を示す図である。
図7B】haCD16A-BiTEでパルスされたCD16γ9δ2T細胞とCD16γ9δ2T細胞の間のIgG抗体媒介性細胞死滅の比較研究を示す図である。
図8】抗CD20抗体(リツキシマブ)及びhaCD16A-BiTEでT細胞増殖培養物を処理することによりT細胞増殖培養物から悪性B細胞を除去することに対する効果を示す図である。
図9】T細胞の存在下で、抗潜伏膜タンパク質1(LMP1)抗体及びhaCD16A-BiTE単独で、又は組合せでEBV感染細胞株を処理することによるEBV感染細胞株の死滅に対する効果を示す図である。
図10】T細胞の存在下で、抗PD-L1抗体及びhaCD16A-BiTE単独で、又は組合せでPD-L1発現細胞株を処理することによるPD-L1発現細胞株の死滅に対する効果を示す図である。
図11】T細胞の存在下で、haCD16A-BiTEとリツキシマブの組合せ療法、及びリツキシマブの単剤療法のがん細胞増殖の軽減に対するin vivo効果を示す図である。
図12】AAV媒介型haCD16A-BiTE遺伝子導入後のhaCD16A-BiTEのin vivo産生を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0024]本開示は、
Fcガンマ受容体又はそのリガンド結合性フラグメント;並びに
T細胞の表面抗原のエピトープ又はそのフラグメントに特異的に結合する抗体又はその抗原結合性フラグメントであって、前記表面抗原が抗体依存性細胞媒介性細胞毒性を誘導すること、及び/又はT細胞を活性化することが可能である、抗体又はその抗原結合性フラグメント
を含む融合タンパク質を提供する。
【0014】
[0025]特に、本開示による融合タンパク質は、標的細胞とT細胞の間のブリッジとして作用する、2つの抗原/リガンドに対する二重特異性親和性が提供される二重特異性T細胞誘導体として知られている。
【0015】
[0026]好ましくは、融合タンパク質はADCC免疫応答を活性化し、この活性化により、T細胞は、それらの表面で腫瘍由来抗原又は病原体由来抗原を発現する抗体被覆標的細胞を認識し死滅させることができる。
【0016】
[0027]他の治療手段、例えば化学療法などと組み合わせることなく、がんを治療するために治療用mAbの直接ターゲッティングを使用する単独療法は、一般に、治療効果が限られる(Hiddemannら、Blood、106、3725~32 (2005);Sehnら、J Clin Oncol、33、3467~3474 (2015))。理論により限定されるものではないが、本明細書に開示した本発明は、ADCCを増大させることが治療用抗体の臨床的効果を高める有望なアプローチであるという出願人の考えに基づいている。ADCCを媒介する主要な免疫エフェクター細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞である(Wangら、Front Immunol、6、368 (2015))。NK細胞は、Fcガンマ受容体(FcγR)、主にCD16A(FcγRIIIA)を発現し、IgG抗体のFc部分を認識して結合する。Fcγ受容体が標的細胞の表面に結合したIgGのFc領域に結合すると、ナチュラルキラー細胞は、標的細胞の死滅を引き起こす細胞毒性因子を放出する(Wangら、Front Immunol、6、368 (2015))。したがって、ADCCでは、次の3つの構成要素:免疫エフェクター細胞、抗体、及び抗体によりオプソニン化された標的細胞に関与している。ADCCは、NK細胞表面で発現されたFcγRがIgG分子のFc領域に結合した際に引き起こされる。異なる結合親和性をもたらすFcγRの遺伝的バリエーションがADCCの規模の違いに寄与することが知られていることを考慮すると、FcγRの親和性/量とNK細胞の質/量がADCCの規模の違いに寄与する可能性があるということになる。
【0017】
[0028]Fcガンマ受容体の例としては、限定するものではないが、CD16A、CD16B、CD32A、CD32B、CD64A、CD64B、及びCD64Cが挙げられる。
【0018】
[0029]T細胞の表面抗原のエピトープ又はそのフラグメントに特異的に結合する抗体又はその抗原結合性フラグメントの例としては、限定するものではないが、抗CD3抗体、抗4-1BB抗体、抗CD28抗体、又は抗OX40抗体が挙げられる。
【0019】
[0030]好ましくは、本開示は、
ヒトCD16Aの細胞外ドメイン;及び
ヒトCD3のエピトープ又はそのフラグメントに特異的に結合する抗体又はその抗原結合性フラグメント
を含む融合タンパク質を提供する。
【0020】
[0031]本開示によれば、融合タンパク質は、CD16Aの細胞外ドメインを含む。好ましくは、CD16Aは、ヒトCD16Aである。FcγRIIIAとしても知られているCD16Aは膜貫通型糖タンパク質であり、158位にフェニルアラニン(F)残基又はバリン(V)残基のいずれかを有するCD16Aの2つの対立遺伝子バリアントがある。CD16A-158VバリアントはIgGに対して高親和性を有しているが、CD16A-158Fはヒト集団における優性対立遺伝子である。臨床分析によって、腫瘍を標的とする治療用mAbの治療効果とCD16A結合親和性の間に正の相関関係があることが明らかにされた。CD16Aバリンバリアント(CD16A-V/V)についてホモである患者は、臨床的に承認された治療用抗体、例えばリツキシマブ、トラスツズマブ(trastuzumab)、及びセツキシマブ(cetuximab)などへの応答において、低親和性CD16Aアイソフォームについてヘテロ(CD16A-V/F)又はホモ(CD16A-F/F)であるいずれかの患者と比較して、抗腫瘍治療抗体による治療後の臨床転帰が改善された(Cartronら、Blood、99、754~758 (2002);Kimら、Blood、108、2720~2725 (2006);Zhangら、J Clin Oncol、25、3712~3718 (2007);Musolinoら、J Clin Oncol、26、1789~1796 (2008);Veeramaniら、Blood、118、3347~3349 (2011);Mellorら、J Hematol Oncol、6、1 (2013))。しかし、一般人口のわずか10~20%は高親和性CD16Aバリアントを有する。本開示の好ましい一実施形態において、CD16Aは、高親和性CD16Aバリアントである。
【0021】
[0032]本開示のより好ましい一実施形態において、CD16Aの細胞外ドメインは、配列番号2のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を有する。
【0022】
[0033]ポリペプチドに適用される場合、用語の「実質的な類似性」又は「実質的に類似の」とは、タンパク質配列が、例えばデフォルトギャップ加重を使用してGap又はBESTFITプログラムにより別の(参照)タンパク質配列と最適に整列させた場合に、前記参照タンパク質配列の配列全体に対して、少なくとも90%、少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも96%、97%、98%又は99%のアミノ酸残基において配列同一性があることを意味する。同一でない残基の位置は、保存的なアミノ酸置換がある点が異なることが好ましい。「保存的なアミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷又は疎水性)を持つ側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されることである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なっている場合、配列同一性パーセント又は類似性の程度は、置換の保存的性質について修正するために上方に調整され得る。この調整を実施する手段は、当業者に周知である。類似の化学的特性を持つ側鎖を有するアミノ酸のグループの例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;(2)脂肪族ヒドロキシル側鎖:セリン及びトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン及びヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸及びグルタミン酸、並びに、(7)硫黄含有側鎖:システイン及びメチオニン、が挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、及びアスパラギン-グルタミンである。或いは、保存的置き換えは、参照により本明細書に組み込まれる、Gonnetら(1992)Science 256:1443~1445に開示されているPAM250対数尤度マトリックスにおいて正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的な」置き換えは、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負でない値を有する任意の変化である。
【0023】
[0034]配列同一性とも呼ばれる、ポリペプチドに対する配列類似性は、通常、配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質分析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失及び他の改変に割り当てられた類似性の尺度を使用して類似の配列のマッチングを行う。例えば、GCGソフトウェアはGAP及びBestfitなどのプログラムを含有し、これをデフォルトパラメーターと共に使用し、密接に関係したポリペプチド間の、例えば、異なる生物の種由来の相同なポリペプチド間の、又は野生型タンパク質とその変異体との間の配列相同性又は配列同一性を決定することができる。ポリペプチド配列はまた、GCGバージョン6.1のプログラムである、デフォルト又は推奨パラメーターを使用するFASTAを使用して比較することができる。FASTA(例えば、FASTA2及びFASTA3)は、クエリー配列と検索配列との間の最良の重複領域の整列及び配列同一性パーセントを提供する(Pearson(2000)上掲)。本開示の配列を異なる生物由来の多数の配列を含むデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメーターを使用するコンピュータープログラムBLAST、特にBLASTP又はTBLASTNである。例えば、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403~410、及びAltschulら(1997)Nucleic Acids Res.25:3389~402を参照されたい。これらはそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
[0035]本開示によれば、融合タンパク質は、ヒトCD3のエピトープ又はそのフラグメントに特異的に結合する抗体又はその抗原結合性フラグメントを含む。
【0025】
[0036]免疫応答において、CD3はT細胞受容体(TCR)に関連する表面抗原であり、抗原認識及びシグナル伝達に関与する複合体を形成する。CD3 T細胞共受容体は、細胞毒性T細胞(CD8 T細胞)とヘルパーT細胞(CD4 T細胞)の両方の活性化を促進する。本開示による融合タンパク質を利用する場合、体内のアルファ-ベータT細胞、ガンマ-デルタT細胞、及びナチュラルキラーT細胞を含むすべてのCD3発現細胞は、融合タンパク質の抗CD3部分がT細胞のCD3分子に結合することによって、高親和性CD16Aを保有し、ADCCを遂行することができる細胞になるように動員され得る可能性がある。
【0026】
[0037]当業者に公知の様々な技術を使用して、抗体がポリペプチド又はタンパク質内の「1つ又は複数のアミノ酸に特異的に結合する」かどうかを判定することができる。例示的な技術としては、例えば、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harb.、N.Y.)に記載されているような慣用のクロス・ブロッキングアッセイ、アラニンスキャニング突然変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke、2004、Methods Mol Biol 248:443~463)、及びペプチド切断分析が挙げられる。さらに、抗原のエピトープ除去、エピトープ抽出、化学修飾などの方法も使用することができる(Tomer、2000、Protein Science 9:487~496)。抗体が特異的に結合するポリペプチド内のアミノ酸の同定に使用することができる別の方法は、マススペクトロメトリーによって検出される水素/重水素交換である。一般論として、水素/重水素交換法は、目的のタンパク質の重水素標識、その後の重水素標識タンパク質への抗体の結合を含む。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移し、抗体が(結合し)保護している残基(重水素標識されたままである)を除いたすべての残基で水素-重水素交換を生じさせる。抗体の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断及びマススペクトロメトリー分析に供することにより、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識した残基が明らかになる。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267(2):252~259;Engen及びSmith(2001)Anal.Chem.73:256A~265Aを参照されたい。
【0027】
[0038]本開示による抗体は、完全長であってもよく、又は抗原結合部分のみを含んでいてもよく、必要に応じて機能性に影響するように改変されていてもよい。
【0028】
[0039]本明細書で使用される場合の用語「抗体」とは、特定の抗原(例えばCD3)に特異的に結合又は相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子又は分子複合体を意味する。用語「抗体」は、ジスルフィド結合により相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖、並びにそれらの多量体(例えばIgM)を含む免疫グロブリン分子を包含する。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVと簡略化)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVと簡略化)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。V及びV領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在している、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに再分割され得る。各V及びVは3つのCDR及び4つのFRから構成されており、アミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置されている。本開示の異なる実施形態において、抗CD3抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖細胞系列配列と同一であってもよく、又は天然若しくは人工的に改変されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0029】
[0040]本明細書において使用される場合の用語「抗体」はまた、完全な抗体分子の抗原結合性フラグメントも含む。本明細書において使用される場合の抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合性フラグメント」などの用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然の、酵素によって取得することができる、合成の又は遺伝子操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を包含する。抗体の抗原結合性フラグメントは、任意の適切な標準的技術、例えばタンパク質分解消化など、又は抗体の可変ドメイン及び任意選択で定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む組換え遺伝子操作技術を使用して、例えば、完全な抗体分子から誘導することができる。そのようなDNAは公知であり、及び/又は、例えば販売元、DNAライブラリー(例えば、ファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に入手することができるか、又は合成することができる。DNAをシークエンシングし、化学的に又は分子生物学技術を使用して操作して、例えば、1つ又は複数の可変ドメイン及び/又は定常ドメインを適切な形状に整列させるため、又はコドンを導入するため、システイン残基を作製するため、アミノ酸を改変、付加、若しくは欠失などさせることができる。
【0030】
[0041]抗体の抗原結合性フラグメントの非制限的な例としては、(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;及び(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域)を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位、又は束縛されたFR3-CDR3-FR4ペプチド、が挙げられる。他の操作された分子、例えば、ドメイン特異性抗体、シングルドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価のナノボディ、二価のナノボディなど)、低分子モジュール免疫薬剤(SMIP)、及びサメ可変IgNARドメインなどもまた、本明細書において使用される場合の「抗原結合性フラグメント」という表現内に包含される。
【0031】
[0042]抗体の抗原結合性フラグメントは、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズ又はアミノ酸組成のものであってもよく、一般的に、1つ又は複数のフレームワーク配列に隣接するか、又はインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。Vドメインと会合しているVドメインを有する抗原結合性フラグメントにおいて、V及びVドメインは、互いに対して任意の適切な配置で配置され得る。例えば、可変領域は二量体であってもよく、V-V、V-V又はV-V二量体を含有していてもよい。或いは、抗体の抗原結合性フラグメントは、単量体のV又はVドメインを含有していてもよい。
【0032】
[0043]ある特定の実施形態において、抗体の抗原結合性フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合されている少なくとも1つの可変ドメインを含有し得る。本開示の抗体の抗原結合性フラグメント内に見いだされ得る可変ドメイン及び定常ドメインの非制限的な例示的構成としては、(i)V-CH1;(ii)V-CH2;(iii)V-CH3;(iv)V-CH1-CH2;(v)V-CH1-CH2-CH3;(vi)V-CH2-CH3;(vii)V-CL;(viii)V-CH1;(ix)V-CH2;(x)V-CH3;(xi)V-CH1-CH2;(xii)V-CH1-CH2-CH3;(xiii)V-CH2-CH3;及び(xiv)V-C、が挙げられる。上で列挙した例示的構成のいずれかを含む可変ドメイン及び定常ドメインの任意の構成において、可変ドメイン及び定常ドメインは、互いに直接連結されていてもよく、又は完全な若しくは部分的なヒンジ若しくはリンカー領域によって連結されていてもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子内の隣接する可変ドメイン及び/又は定常ドメイン間で可動性又は半可動性連結が生じる、少なくとも2個(例えば、5、10、15、20、40、60個又はそれ以上)のアミノ酸からなり得る。さらに、本開示の抗体の抗原結合性フラグメントは、互いに、及び/又は1つ若しくは複数の一価のV若しくはVドメインに非共有結合により会合した(例えば、1つ又は複数のジスルフィド結合によって)、上で列挙した可変ドメイン及び定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体又はヘテロ二量体(又は他の多量体)を含み得る。
【0033】
[0044]本発明の好ましい一実施形態において、抗体又はその抗原結合性フラグメントは、抗CD3単鎖可変フラグメント(scFv)である。
【0034】
[0045]本発明の別の好ましい実施形態において、抗体又はその抗原結合性フラグメントは、配列番号4のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を有し;好ましくは、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性又はそれらの実質的に類似の配列を有する。
【0035】
[0046]本明細書に開示されている抗体は、抗体が由来した対応する生殖細胞系列配列と比較して、重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/又はCDR領域に1つ又は複数のアミノ酸置換、挿入及び/又は欠失を含み得る。そのような変異は、本明細書に開示されているアミノ酸配列を、例えば公共の抗体配列データベースから入手可能な生殖細胞系列配列と比較することによって、容易に確認することができる。本開示は、本明細書に開示されているいずれかのアミノ酸配列に由来する抗体及びその抗原結合性フラグメントを含み、ここで1つ又は複数のフレームワーク及び/又はCDR領域内の1つ又は複数のアミノ酸は、抗体が由来した生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)に、又は別の哺乳動物生殖細胞系列配列の対応する残基(複数可)に、又は対応する生殖細胞系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換に変異される(このような配列の変化は、本明細書においては総称して「生殖細胞系列変異」と呼ぶ)。当業者は、本明細書に開示されている重鎖及び軽鎖可変領域配列から開始して、1つ若しくは複数の個々の生殖細胞系列変異又はそれらの組合せを含む多くの抗体及び抗原結合性フラグメントを容易に産生することができる。特定の実施形態において、V及び/又はVドメイン内のフレームワーク及び/又はCDR残基のすべては、抗体が由来した元の生殖細胞系列配列内に見いだされる残基へと復帰変異される。他の実施形態において、特定の残基だけが、例えば、FR1の最初の8個のアミノ酸内若しくはFR4の最後の8個のアミノ酸内に見いだされる変異残基だけが、又はCDR1、CDR2若しくはCDR3内に見いだされる変異残基だけが、元の生殖細胞系列配列に復帰変異される。他の実施形態において、1つ又は複数のフレームワーク及び/又はCDR残基(複数可)は、異なる生殖細胞系列配列(すなわち、抗体が元々由来した生殖細胞系列配列とは異なる生殖細胞系列配列)の対応する残基(複数可)へと変異される。さらに、本開示の抗体は、フレームワーク及び/又はCDR領域内に2つ以上の生殖細胞系列変異の任意の組合せを含有していてもよく、例えば、特定の個々の残基は、特定の生殖細胞系列配列の対応する残基へと変異され、一方、元の生殖細胞系列配列とは異なる特定の他の残基は維持されるか、又は異なる生殖細胞系列配列の対応する残基へと変異される。一度得られたならば、1つ又は複数の生殖細胞系列変異を含有する抗体及び抗原結合性フラグメントは、1つ又は複数の所望の特性、例えば、改善された結合特異性、増加した結合親和性、(場合に応じて)改善された若しくは増強されたアンタゴニスト性又はアゴニスト性生物学的特性、減少された免疫原性などについて容易に試験することができる。この一般的な手段で得られた抗体及び抗原結合性フラグメントは、本開示に包含される。
【0036】
[0047]本開示はまた、1つ又は複数の保存的置換を有する本明細書に開示されているV、V及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む抗CD3抗体も含む。例えば、本開示は、本明細書に開示されているV、V及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかに対して、例えば10個以下、8個以下、6個以下、4個以下などの保存的アミノ酸置換を含むV、V及び/又はCDRアミノ酸配列を有する抗CD3抗体を包含する。
【0037】
[0048]本開示の好ましい一実施形態において、CD16の細胞外ドメインは、抗体又はその抗原結合性フラグメントに直接連結する。本開示の別の実施形態において、リンカーは、CD16の細胞外ドメインと抗体又はその抗原結合性フラグメントの間に存在する。
【0038】
[0049]本開示の好ましい一実施形態において、融合タンパク質は分泌シグナルペプチドをさらに含む。本明細書で使用される場合のシグナルペプチド(シグナル配列、標的化シグナル、局在化シグナル、局在化配列、輸送ペプチド、リーダー配列又はリーダーペプチドと呼ばれることがある)は、分泌経路に向かうように定められたタンパク質のN末端に位置している短鎖ペプチドを意味する。本開示の一実施形態において、分泌シグナルペプチドは、配列番号6のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を有する。
【0039】
[0050]本開示の好ましい一実施形態において、融合タンパク質は、タンパク質精製タグをさらに含む。
【0040】
[0051]本開示の好ましい一実施形態において、融合タンパク質は、配列番号8のアミノ酸配列又はその実質的に類似の配列を有する。
【0041】
[0052]本開示の別の好ましい実施形態において、高親和性CD16Aバリアントの細胞外ドメイン及び単鎖抗CD3抗体からなる新規の二重特異性T細胞誘導体(haCD16A-BiTE;図1A)は、様々な適用分野においてmAbのADCCに効果をもたらす。haCD16A-BiTEのそのような使用によって、次のようないくつかの利点が提供される:(1)体内におけるCD16A発現ナチュラルキラー細胞の限定的な利用可能性が克服されること、これは、haCD16A-BiTEを用いると、haCD16A-BiTEの抗CD3部分がT細胞のCD3分子に結合することによって、体内のアルファ-ベータT細胞、ガンマ-デルタT細胞及びナチュラルキラーT細胞を含むすべてのCD3発現細胞が、高親和性CD16Aを保有し、ADCCを遂行することができる細胞になるように動員される可能性があるためである;(2)高親和性CD16Aバリアントを発現する一般人口のわずか10~20%における問題が解決されること、これは、haCD16A-BiTEを任意の個体に適用し、T細胞のCD3分子へのhaCD16A-BiTEの抗CD3部分の結合を介して高親和性CD16Aを有するそれぞれの個体に多数のCD3 T細胞が結果的に付与されることにより、承認されたmAbの治療効果に寄与する;(3)このhaCD16A-BiTEの設計で高親和性CD16Aの細胞外ドメインを採用することによって、活性化NK細胞のCD16Aのダウンレギュレーションが回避されること;(4)このhaCD16A-BiTEでT細胞にADCC活性を付与することによって、免疫療法向けに調製されたT細胞増殖培養物の望ましくない細胞をADCC媒介により除去することを実現可能性にすること;(5)ワクチンとこのhaCD16A-BiTEを組み合わせて使用することにより、抗体誘導性ADCC能力を有するウイルスワクチンを生成し、ウイルス感染症の抗体療法の治療効果を高める有望な方法を提供すること;(6)免疫チェックポイント阻害剤を投与されている患者の抑制解除T細胞(suppression-removed T cell)を、ADCC活性を有するT細胞へ変換して、アベルマブ(avelumab)様抗PD-L1 mAbの治療可能性を高めること。
【0042】
[0053]本開示はまた、本明細書に開示した融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0043】
[0054]好ましくは、ポリヌクレオチドは、高親和性CD16Aの細胞外ドメインをコードするフラグメントを含み、配列番号1の核酸配列又はその実質的に同一の配列を有する。
【0044】
[0055]好ましくは、ポリヌクレオチドは、抗体又はその抗原結合性フラグメントをコードするフラグメントを含み、配列番号3の核酸配列又はその実質的に同一の配列を有する。
【0045】
[0056]好ましくは、ポリヌクレオチドは、分泌シグナルペプチドをコードするフラグメントをさらに含み、配列番号5の核酸配列又はその実質的に同一の配列を有する。
【0046】
[0057]好ましくは、ポリヌクレオチドは、タンパク質精製タグをコードするフラグメントをさらに含む。
【0047】
[0058]より好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号7の核酸配列又はその実質的に同一の配列を有する。
【0048】
[0059]用語の「実質的な同一性」又は「実質的に同一の」とは、核酸又はそのフラグメントに言及する場合、適当なヌクレオチド挿入又は欠失を用いて別の(参照)核酸(又はその相補鎖)と共に最適に整列させた場合に、任意の周知の配列同一性アルゴリズム、例えば後述するようなFASTA、BLAST又はGapなどによって測定した際、前記の参照核酸配列の配列全体に対して少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約96%、97%、98%又は99%のヌクレオチド塩基にヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子と実質的な同一性を有する核酸分子は、特定の場合において、参照核酸分子によってコードされているポリペプチドと同一の又は実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし得る。
【0049】
[0060]本開示の好ましい一実施形態において、融合タンパク質は、原核生物及び真核生物の発現系を含む任意の数の発現系を使用して産生することができる。多くのそのような系は、発売元から広く市販されている。一実施形態において、融合タンパク質はベクターを使用して発現させることができ、前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドはプロモーター配列に作動可能に連結されている。一実施形態において、プロモーターは構成的プロモーターである。別の実施形態において、プロモーターは誘導性プロモーターである。
【0050】
[0061]一実施形態において、ポリヌクレオチド又はベクターはウイルスに含まれている。別の実施形態において、ウイルスは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルスからなる群から選択される。本開示の好ましい一実施形態において、ポリヌクレオチド又はベクターは、アデノ随伴ウイルスシャトルプラスミドに含まれている。
【0051】
[0062]本開示はまた、本明細書に開示したポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。一実施形態において、宿主細胞は原核細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は真核細胞である。別の実施形態において、宿主細胞は哺乳動物細胞である。好ましい実施形態において、宿主細胞はヒト細胞である。
【0052】
[0063]好ましくは、宿主細胞は、本明細書に開示したポリヌクレオチドを含むアデノ随伴ウイルスベクターを含む。
【0053】
[0064]本開示はまた、治療有効量の本明細書に開示した融合タンパク質を含み、任意選択で薬学的に許容できる担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0054】
[0065]本開示はまた、治療有効量の本開示による宿主細胞を含む医薬組成物を提供する。二重特異性T細胞誘導体は、一般に、血清半減期が非常に短く、約2時間である。このことによってBiTEの適用には静脈内持続注入が必要となるが、その方法はヒトにおける使用においては不便である。この欠点を克服するため、BiTEのin vivo連続産生を媒介するのにウイルスを使用することが好ましい。
【0055】
[0066]本開示の医薬組成物は、改善された移行、送達、耐性などを提供する適切な担体、賦形剤及び他の薬剤と共に製剤化される。多くの適当な製剤は、すべての薬剤師に知られている処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、Paにおいて見いだすことができる。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(陽イオン性又は陰イオン性)を含有する小胞(例えば、LIPOFECTIN(商標)、Life Technologies、Carlsbad、Calif.)、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型及び油中水型エマルジョン、エマルジョンカルボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、並びにカルボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。また、Powellら「Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238~311も参照されたい。
【0056】
[0067]患者に投与される融合タンパク質の用量は、患者の年齢及びサイズ、標的疾患、状態、投与経路などを含む様々な要因に応じて変わり得る。好ましい用量は、典型的には、体重又は体表面積によって計算される。状態の重症度に応じて、頻度及び治療期間を調整することができる。融合タンパク質を投与するための有効な投与量及びスケジュールは、経験的に決定することができる。例えば、患者の進行を定期的な評価によってモニタリングし、それにしたがって用量を調整することができる。さらに、用量の種間スケーリングは当技術分野で周知の方法を使用して実施することができる(例えば、Mordentiら、1991、Pharmaceut.Res.8:1351)。
【0057】
[0068]様々な送達系、例えば、リポソームカプセル化、微粒子、マイクロカプセル、変異ウイルスの発現が可能な組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスが公知であり、それらを使用して本開示の医薬組成物を投与することができる(例えば、Wuら、1987、J.Biol.Chem.262:4429~4432を参照されたい)。投与経路としては、限定するものではないが、皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、腫瘍内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路、及び経口経路が挙げられる。組成物は、任意の都合のよい経路によって、例えば、点滴又はボーラス注射によって、上皮又は皮膚粘膜の内壁(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)を介した吸収によって投与することができ、また他の生物活性のある薬剤と一緒に投与することができる。投与は、全身的又は局所的であり得る。
【0058】
[0069]本発明の一実施形態において、本開示の医薬組成物は、標準の針及び注射器を用いて、腫瘍内、皮下又は静脈内に送達することができる。
【0059】
[0070]ある特定の状況においては、医薬組成物は、徐放系で送達することができる。一実施形態において、ポンプを使用することができる(Langer、上掲;Sefton、1987、CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照されたい)。別の実施形態において、ポリマー材料を使用することができる;Medical Applications of Controlled Release、Langer and Wise(eds.)、1974、CRC Pres.、Boca Raton、Fla.を参照されたい。さらに別の実施形態において、徐放系は、組成物の標的の近位に置くことができ、それにより、全身用量の一部分のみが必要とされる(例えば、Goodson、1984、in Medical Applications of Controlled Release、上掲、vol.2、115~138ページを参照されたい)。他の徐放系は、Langer、1990、Science 249:1527~1533による総説で議論されている。
【0060】
[0071]ある特定の状況において、医薬組成物は、注射可能な調製物で送達することができる。注射可能な調製物は、腫瘍内、静脈内、皮下、皮内、及び筋肉内注射、点滴注入などのための投与剤形を包含し得る。これらの注射可能な調製物は、公知の方法により調製することができる。例えば、注射可能な調製物は、例えば、医薬組成物を注射用に通常使用される滅菌水性媒体又は油性媒体に溶解、懸濁、又は乳化させることによって調製することができる。注射用の水性媒体の例としては、生理食塩水、グルコース及び他の補助剤を含有する等張溶液などが挙げられ、これらの水性媒体は、適切な溶解剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50モル)付加物)]などと組み合わせて使用することができる。油性媒体の例としては、ゴマ油、ダイズ油などが挙げられ、これらの油性媒体は、溶解剤、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと組み合わせて使用することができる。このように調製された注射剤は、適切なアンプルに充填されることが好ましい。
【0061】
[0072]上記の経口使用又は非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量に適合するのに適した単位用量の投与剤形で調製することが有利である。そのような単位用量の投与剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。
【0062】
[0073]本開示はまた、必要としている対象において抗体依存性細胞毒性を誘導するための医薬の製造における本明細書に開示した医薬組成物の使用を提供する。
【0063】
[0074]好ましくは、本開示は、それを必要とする対象におけるがん、感染症、自己免疫疾患、移植片対宿主病、又は移植後リンパ増殖性疾患を治療するための医薬の製造における医薬組成物の使用を提供する。
【0064】
[0075]本明細書で使用される場合の用語「治療する」及び「治療」とは、症状の重症度及び/若しくは頻度の低下を達成し、症状及び/若しくはそれらの根本的な原因を除去し、並びに/又は損傷の改善若しくは修復を促進するように、有害な状態、障害、又は疾患に罹患している臨床的に徴候性のある個体に対して薬剤又は製剤を投与することを意味する。用語の「予防する」及び「予防」とは、特定の有害な状態、障害、又は疾患にかかりやすい臨床的に無徴候性の個人に対して薬剤又は組成物を投与することを意味し、したがって、症状及び/又はそれらの根本的な原因の発生の予防に関係する。当業者によって理解されるように、予防又は予防するとは状態の絶対的な(完全な)阻止又は回避を達成する必要はない。むしろ、予防は、予防しようとする疾患又は状態の実質的な(例えば、約50%を超える)低下又は回避を達成し得る。本明細書で明示的又は意味合い的に別段の指示がない限り、用語の「治療」(又は「治療する」)が予防の可能性に言及することなく使用される場合、同様に予防が包含されることが意図される。
【0065】
[0076]「がん」、「腫瘍」、「悪性転換化(transformed)」などの用語は、前がん性、新生物性、悪性転換化、及びがん性の細胞を包含し、固形腫瘍又は非固形がんを意味し得る(例えば、Edgeら AJCC Cancer Staging Manual(7th ed.2009);Cibas and Ducatman Cytology:Diagnostic principles and clinical correlates(3rd ed.2009)を参照されたい)。がんは、良性及び悪性新生物(異常増殖)の両方を包含する。「悪性転換」とは、自然発生的又は誘導された表現型の変化、例えば、細胞の不死化、形態学的変化、異常細胞増殖、接触抑制及び足場の減少、及び/又は悪性腫瘍を意味する(Freshney、Culture of Animal Cells a Manual of Basic Technique(3rd ed.1994)を参照されたい)。悪性転換は、悪性転換ウイルスによる感染及び新しいゲノムDNAの組み込み、又は外因性DNAの取り込みから発生する可能性があるが、自然発生的に又は発がん物質への暴露後に発生する可能性もある。
【0066】
[0077]本開示の好ましい一実施形態において、医薬組成物は、1つ又は複数の抗体をさらに含む。より好ましくは、抗体はIgG抗体である。別の態様において、抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である。抗体の例としては、限定するものではないが、抗CD20抗体、抗EGFR抗体、抗HER2抗体、抗潜伏膜タンパク質1(LMP1)抗体、又は抗PD-L1抗体が挙げられる。
【0067】
[0078]がんの発症及び進行は、免疫チェックポイント経路より媒介される腫瘍回避を含む、免疫応答の回避を特徴とする(Pardoll Nat Rev Cancer、12、252~264 (2012))。PD-L1の過剰発現により、腫瘍細胞はPD-1/PD-L1経路を利用して免疫抑制環境を促進し、腫瘍を増殖させる(Topalianら、Curr Opin Immunol、24、207~212 (2012))。PD-L1抑制シグナルを遮断するとT細胞の抗腫瘍活性を回復させることができ、それによって重要な治療方策となる(Topalianら、Curr Opin Immunol、24、207~212 (2012);Postowら、J Clin Oncol、33、1974~1982(2015))。承認されたヒトIgG抗PD-L1 mAbであるアベルマブは、PD-L1に特異的に結合し、PD-L1と抑制性T細胞受容体PD-1の間の相互作用を阻止すると考えられる。PD-L1遮断は、T細胞活性の抑制を解除し、T細胞媒介性抗腫瘍免疫応答をもたらす(Hamilton及びRath Expert Opinion on Biological Therapy、17、515~523 (2017))。さらに、他の承認された抗PD-L1抗体とは異なり、アベルマブは野生型IgG Fc領域を有しており、これによってアベルマブはNK細胞のFcγRとエンゲージし、腫瘍を標的としたADCCを誘導することができる(Boyerinasら、Cancer Immunol Res、3、1148~1157 (2015);Hamilton及びRath Expert Opinion on Biological Therapy、17、515~523 (2017))。その結果、アベルマブはT細胞媒介性抗腫瘍免疫応答を再活性化するとともに、ADCCによる腫瘍細胞の根絶を媒介する可能性を有する。本開示による医薬組成物は、これらの抑制が解除されたT細胞にADCC活性を付与し、ADCC活性及びmAbの治療可能性を有する細胞の数を有意に増加させる。
【0068】
[0079]本開示の一実施形態において、融合タンパク質は、望ましくない細胞を除去するために適用される。例えば、移植片対宿主病を軽減するため、また移植後リンパ増殖性疾患、例えば移植後エプスタイン・バーウイルス(EBV)誘発性リンパ増殖性疾患を予防するためである。
【0069】
[0080]本開示の一実施形態において、融合タンパク質は、感染症を治療するために適用される。本開示によれば、感染症は、好ましくは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、及びサイトメガロウイルス(CMV)などのウイルス感染症が挙げられる。理論によって限定されるものではないが、ADCCはHIVワクチンにおいて潜在的に重要な防御メカニズムであると思われる(Haynesら、N Engl J Med、366、1275~1286 (2012);Parsonsら、Retrovirology、15、58 (2018))。さらに、ウイルス保有を提供する潜伏感染細胞を排除することは、HIV治療における主要な取り組みである。中和抗体と広く呼ばれる、HIV-1分離株の広域アレイを中和する多くの非常に強力な中和抗体が近年単離されている(Mujibら、J Virol、91、e00634-17 (2017))。広域中和抗体-VRC01の受動移入は、現在、潜伏感染細胞を排除するその可能性について臨床評価中であり(NCT02716675及びNCT02568215)、またNK細胞媒介性ADCCがその潜在能力に潜伏感染細胞を排除することを有することを示唆する多数の証明がある(Madhaviら、J Virol、91、e00700-17 (2017))。それにもかかわらず、慢性HIV-1感染は、NK細胞の表現型、機能性、サブセット分布を変化させることが実証されている。例えば本明細書に開示されているような、HIV感染患者におけるADCCを増強するための新規の方法は、HIVの治癒の達成に対して極めて寄与する可能性がある。同様の方策が、他のウイルス感染症、例えばHBV、EBV、CMVなどのワクチン設計及び治療にも適用され得る(Gaoら、Human Vaccines Immunotherapeutics、13、1768~1773 (2017);Coghillら、Clin Cancer Res、22、3451~3457 (2016);McVoyら、Int J Mol Sci、19、3982(2018))。
【0070】
[0081]以下の実施例は、本開示を実施する際、当業者に対する一助となるよう提供される。
【実施例0071】
実施例1
haCD16A-BiTE構築物
[0082]haCD16A-BiTEの遺伝子構築を図1A図1Dに示す。図1A:CD16A-CD3二重特異性T細胞誘導体の遺伝子構築物をアデノ随伴ウイルス(AAV)シャトルプラスミドpAAV-CD16CD3にクローニングし、446アミノ酸の融合タンパク質を発現するためにサイトメガロウイルスプロモーター(CMV)によって駆動した。H:6×ヒスチジンタグ;ITR:AAVの逆方向末端反復配列;S:分泌シグナル;WPRE:ウッドチャックB型肝炎ウイルスの転写後調節エレメント。図1B:ヒト高親和性CD16Aの細胞外ドメイン(edCD16)のコード配列とヒトCD3に対する単鎖抗体(抗CD3 scFv)を遺伝子合成によって同じコードフレーム内で融合させた。図1C:1341bpヌクレオチドの合成遺伝子は、446アミノ酸の融合タンパク質をコードしている。図1D:haCD16A-BiTEのスキーム。
【0072】
haCD16A-BiTEのin vitro結合アッセイ。
【0073】
[0083]haCD16A-BiTEは、ヒトIgG抗体及びT細胞に結合する能力を有する。haCD16A-BiTEのこの結合能力をまず実証した。ヒスチジンタグを有するhaCD16A-BiTEを生成し、haCD16A-BiTE遺伝子をトランスフェクトしたHEK293細胞の上清からアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。haCD16A-BiTEのIgG抗体への結合を実証するため、分解的な方略を図2Aに概説する。Raji(CD20 Burkettリンパ腫細胞)及びA431(EGFR 扁平上皮がん細胞)の細胞を、それぞれ1・gのリツキシマブ及びセツキシマブ(両方ともIgG抗体)と10分間、まずインキュベートし、次いで、4℃で10分間、PBS 100μl中のhaCD16A-BiTE 50ngとインキュベートした。次に、細胞を400×gで5分間遠心分離によりペレット化し、PBSで1回洗浄し、100μLのPBS中に含む2μLのPE標識した抗6×ヒスチジンタグ抗体(Miltenyi Biotech)と4℃で1時間インキュベートした。PBSで1回洗浄した後、細胞をフローサイトメトリー分析にかけ、データをカウント対蛍光のヒストグラムとして表示した。Raji細胞及びA431細胞はまた、CD20及びEGFRの発現についてもフローサイトメトリーにより調べた。
【0074】
[0084]図2Bに示すように、Raji細胞及びA431細胞は、それぞれ、CD20及びEGFRを発現した。haCD16A-BiTEの存在下では、リツキシマブ又は抗EGFR抗体で処理した90%超のRaji細胞又はA431細胞が抗6×ヒスチジンタグ(抗His)抗体で陽性に染色されたが、未処理の細胞では染色されず(図2C)、このことは、haCD16A-BiTEがIgG抗体に結合する能力を有することを示唆している。これらの実験データは、haCD16A-BiTEがIgG抗体被覆腫瘍細胞に結合し得ることを証明している。
【0075】
[0085]haCD16A-BiTEのT細胞への結合を示すため、図2Dでは分解的な方略を説明し、図2Eでは、95%超がCD3分子を発現するCD16陰性T細胞が、haCD16A-BiTEの存在下で抗CD16抗体により検出されたが、haCD16A-BiTEが存在しない場合には検出されなかったことを示す。これらの結果は、haCD16A-BiTEがT細胞に結合することを示している。使用した実験方法は、CD16 T細胞を使用し、IgG抗体を省いたことを除いて、上記のとおりであった。
【0076】
実施例2
haCD16A-BiTEのin vitro活性アッセイ。
承認された抗CD20 IgG抗体(リツキシマブ)及びT細胞の存在下でのCD20発現腫瘍細胞の死滅を媒介するhaCD16A-BiTEの能力。
[0086]細胞毒性実験は、Sheehyら(J Immunol Methods、249、99~110 (2001))で開示された方法に従って実施した。この実験では、CD20を発現するRaji、VAL、及びToeldo血液腫瘍細胞株を標的細胞として使用した。VAL細胞株は急性リンパ球性白血病(ALL)細胞であり、Toeldo細胞株はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞であった。RS4細胞株はCD20 ALL細胞であった。Raji、VAL、Toeldo及びRS4の細胞を、5(6)-カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE)で個別に染色し、培養プレートのウェルに播種した(5×10/ウェル)。haCD16A-BiTE(80ng/ウェル)、リツキシマブ(10μg/ウェル)、及びT細胞(5×10細胞/ウェル)を、異なる腫瘍細胞を含むそれぞれのウェルに、個別に又は一緒に添加した。培養物を6時間インキュベートした後、細胞の生存率を、フローサイトメトリーの使用によりCFSE細胞をカウントすることによって決定した。T細胞は、Chenら(Clinical Immunology、104、58~66、(2002))によって開示された方法に従って、CD3/CD28ビーズ、IL-7、及びIL-15で増殖させた末梢血単核細胞(PBMC)培養物から得た。
【0077】
[0087]図3に示した結果は、T細胞の存在下で、haCD16A-BiTEが、リツキシマブと組み合わせた場合に、haCD16A-BiTE又はリツキシマブ単独を使用する場合と比較して、CD20発現血液腫瘍細胞(Raji、VAL、及びToeldo)の死滅において相乗効果を示すことを明らかにしている。*:p<0.001、haCD16A-BiTE又はリツキシマブ単独との比較。
【0078】
承認された抗EGFR IgG抗体(セツキシマブ)及びT細胞の存在下でのEGFR発現腫瘍細胞の死滅を媒介するhaCD16A-BiTEの能力。
【0079】
[0088]実験は、EGFR発現腫瘍細胞株(A431)及びセツキシマブ(2.5μg/ウェル)を代わりに使用したことを除き、正確に、図3に記載したように実施した。この実験では、EGFR分子を発現するA431細胞を標的細胞として使用した。MCF-7細胞株は、低EGFR乳房腫瘍細胞であった。
【0080】
[0089]図4に示した結果は、T細胞の存在下で、haCD16A-BiTEが、セツキシマブと組み合わせた場合に、haCD16A-BiTE又はセツキシマブ単独を使用した場合と比較して、EGFR発現細胞(A431)の死滅において相乗効果を示すことを明らかにしている。*:p<0.001、haCD16A-BiTE又はリツキシマブ単独との比較。
【0081】
承認された抗HER2 IgG抗体(トラスツズマブ)及びT細胞の存在下でのHER2発現腫瘍細胞の死滅を媒介するhaCD16A-BiTEの能力。
【0082】
[0090]実験は、HER2発現腫瘍細胞株及びトラスツズマブ(2.5μg/ウェル)を代わりに使用したことを除き、正確に、図3に記載したように実施した。この実験では、80%超の細胞でHER2分子を発現するBT474腫瘍細胞株を標的細胞として使用した。BT474は乳管がん細胞であった。T47D細胞株は、細胞の10%がHER2を低密度で発現する低HER2乳腺管がん細胞であった。
【0083】
[0091]図5に示した結果は、T細胞の存在下で、haCD16A-BiTEが、トラスツズマブと組み合わせた場合に、haCD16A-BiTE又はトラスツズマブ単独を使用する場合と比較して、高HER2細胞(BT474細胞)の死滅において相乗効果を示すが、低HER2細胞(T47D細胞)では示さないことを明らかにしている。*:p<0.01、haCD16A-BiTE又はトラスツズマブ単独との比較。
【0084】
[0092]まとめると、実施例2に示した実験データは、haCD16A-BiTEがT細胞を動員し、IgG抗体が結合した腫瘍細胞の死滅を媒介することが可能であることを示している。重要なことには、これらの結果はまた、haCD16A-BiTEが様々なFDA承認のIgG治療用抗体と組み合わせて、腫瘍細胞を死滅させることが可能であることも示している。
【0085】
実施例3
haCD16A-BiTEの活性に対する血漿の影響
[0093]正常な血漿レベルのIgGは、haCD16A-BiTEへの結合においてIgGアイソタイプの治療用mAbと競合し、haCD16A-BiTEの活性を喪失させる可能性がある。この競合を評価するため、健康な個体から得た全血を400×gで5分間遠心分離し、上清を血漿として得た。血漿を、様々な容量比で図3に示した細胞毒性アッセイ実験に使用した無血清培地に添加し、haCD16A-BiTE及びT細胞の存在下でのリツキシマブの細胞毒性に対する血漿の影響を分析した。また血漿はリツキシマブの補体依存性細胞毒性も媒介するため、データは、リツキシマブ/血漿/T細胞の細胞毒性のデータを減算することにより表した。
【0086】
[0094]図6は、血漿が、haCD16A-BiTE及びT細胞の存在下で、Raji細胞に対するリツキシマブの細胞毒性を、最大50%で、有意に低下させなかったことを示す。
【0087】
実施例4
CD16γ9δ2T細胞とhaGD16A-BiTEでパルスされたCD16γ9δ2T細胞の間のIgG抗体を媒介性細胞死滅の比較研究
[0095]haCD16A-BiTEとT細胞で発現した高親和性CD16Aとの同等性を評価するため、本発明者らは、haCD16A-BiTEでパルスしたCD16γ9δ2T細胞の抗体媒介性細胞毒性を、高親和性CD16バリアントを有するCD16γ9δ2T細胞の抗体媒介性細胞毒性と比較した。
【0088】
[0096]γ9δ2T細胞を以下に説明するように生成した。異なるドナーから得たPBMC(2×10細胞/ml)を、14日間、10%熱不活化FBS、ペニシリン(100IU/ml)及びストレプトマイシン(100μg/ml)を含有するRPMI-1640培地中で、37℃で5%COの加湿インキュベーター内にて、組換えヒトIL2(25ng/ml;Prospec)及びゾレドロネート(Zoledronate)(1μM;Sigma)により刺激した。続いて、γ9δ2T細胞培養物をCD16発現について分析し、またCD16陽性に染色された培養物については、CD16高親和性バリアントに特異的なポリメラーゼ連鎖反応を実施してCD16γ9δ2T細胞の高親和性バリアント培養物を選択した。CD16γ9δ2T細胞を、製造元の指示に従ってPE標識した抗CD16抗体と結合させるMiltenyi Biotech社製の抗PE精製キットを用いて精製したところ、これらの精製したγ9δ2T細胞の95%超がCD16を発現する(図7A)。CD16発現が陰性に染色された培養物は、CD16γ9δ2T細胞の細胞源として使用した。
【0089】
[0097]抗体媒介性細胞死滅は、リツキシマブ及びRaji細胞を標的細胞として使用し、実施例2に記載の方法に従って分析した。CD16γ9δ2T細胞の抗体媒介性細胞死滅を研究するため、RajiをCFSEで染色し、リツキシマブ(20μg/ウェル)及びCD16γ9δ2T細胞(5×10細胞/ウェル)を入れた培養プレート(5×10/ウェル)のウェルに播種した。haCD16A-BiTEと組み合わせたCD16γ9δ2T細胞の抗体媒介性細胞死滅を評価するため、CFSEで染色したRaji細胞(5×10/ウェル)、haCD16A-BiTE(80ng/ウェル)、リツキシマブ(20μg/ウェル)、及びCD16γ9δ2T細胞(5×10細胞/ウェル)をウェルに一緒に加えた。培養物を6時間インキュベートした後、Raji細胞の生存率を、フローサイトメトリーを使用してCFSE細胞をカウントすることにより決定した。
【0090】
[0098]図7Bに示した結果は、haCD16A-BiTEと組み合わせたCD16γ9δ2T細胞のリツキシマブ媒介性Raji細胞死滅がCD16γ9δ2T細胞のその死滅に相当することを示しており、このことは、haCD16A-BiTEの機能的活性が、γ9δ2T細胞で発現した高親和性CD16バリアントの活性と同等であることを示唆している。*:p<0.001、CD16γ9δ2T細胞についてのhaCD16A-BiTE又はリツキシマブ単独との比較。*:p<0.001、CD16γ9δ2T細胞についてのhaCD16A-BiTE又はリツキシマブ単独との比較。
【0091】
実施例5
T細胞増殖培養物から望ましくない細胞を除去するためのhaCD16A-BiTEの使用。
[0099]この実施例は、T細胞増殖培養物から腫瘍細胞などの望ましくない細胞の除去におけるhaCD16A-BiTEの有用性を実証するものである。
【0092】
[0100]慢性リンパ性白血病(CLL)患者から書面のインフォームドコンセントについて同意が得られた後、末梢血試料を採取した。PBMCは、製造元の指示に従って、Ficoll-Paque PLUS(Sigma)を使用した密度勾配遠心分離によって5mlの静脈血から単離した。γ9δ2T細胞を増殖させるため、PBMC(2×10細胞/ml)を、14日間、10%熱不活化FBS、ペニシリン(100IU/ml)及びストレプトマイシン(100μg/ml)を含有するRPMI-1640培地中で、37℃で5%COの加湿インキュベーター内にて、組換えヒトIL2(25ng/ml;Prospec)及びゾレドロネート(1μM;Sigma)により刺激した。これらのT細胞増殖培養物から悪性B細胞を除去するために、haCD16A-BiTE(80ng/ウェル)及びリツキシマブ(10μg/ウェル)を10日目に培養物に対して添加した。3日後、培養物を、CD19マーカー(悪性B細胞用のマーカー)とヨウ化プロピジウム(PI)染色の両方のフローサイトメトリー分析によって、悪性B細胞死滅について分析した。
【0093】
[0101]図8は、CD19-陽性細胞がhaCD16A-BiTE及びリツキシマブとの処理後に減少していることを示しているが、このことは、リツキシマブと組み合わせたhaCD16A-BiTEがT細胞増殖培養物から悪性B細胞を除去する能力を有していることを実証している。*:p<0.001、haCD16A-BiTE又はリツキシマブ単独との比較。
【0094】
実施例6
抗EBV IgG抗体及びT細胞の存在下でのEBV感染B細胞の死滅を媒介するhaCD16A-BiTEの能力。
[0102]ウイルス性疾患の治療におけるhaCD16A-BiTEの有用性を確立するため、EBV感染B細胞株をモデルウイルス感染細胞として使用し、抗EBV IgG抗体及びT細胞の存在下でのEBV感染B細胞の死滅を媒介するhaCD16A-BiTEの能力を試験した。
【0095】
[0103]EBVは、人口の90%に感染するガンマヘルペスウイルスである。EBVは、メモリーB細胞及び口腔上皮細胞に生涯にわたる潜伏期を確立する。免疫能力を有する宿主においては、循環するEBV特異的細胞毒性Tリンパ球は、EBV感染B細胞をB細胞プールの1%未満のレベルに維持する。しかし、免疫抑制された宿主においては、EBV感染B細胞の制御されない増殖が、固形臓器移植又は造血幹細胞移植をした後のリンパ増殖性疾患、例えば、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)の一因となる。さらに、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、及び鼻咽頭癌種のかなりの割合がEBV感染に関連している。標準の化学療法及び放射線療法を超えたEBV関連悪性腫瘍に対する治療選択肢は限られている。期待される療法の1つは、EBV特異的T細胞を使用する養子細胞療法であり、これはPTLDに対する有効性を示した(症例の70%における成功)。より理想的な治療薬は、より広く発現された抗原:潜伏膜タンパク質-1(LMP1)又はLMP2の1つを特異的に認識することができる抗体である(Ahmedら、JCI Insight、3、e97805、(2018))。
【0096】
[0104]不死化したEBV感染B細胞はLMP1を発現し、これを標的細胞として使用し、またjurkat T細胞を陰性対照細胞として使用した。実験は、ヒト抗LMP1 IgG抗体(10μg/ウェル)(Creative Biolab)を代わりに使用することを除き、正確に、実施例2に記載したように実施した。
【0097】
[0105]図9は、T細胞の存在下で、haCD16A-BiTEが、抗LMP1 IgG抗体と組み合わせた場合に、haCD16A-BiTE又は抗LMP1抗体単独を使用した場合と比較して、EBV感染B細胞の死滅における相乗効果を示すことを明らかにしている。*:p<0.001、haCD16A-BiTE又は抗LMP1抗体単独との比較。
【0098】
実施例7
PD-L1発現腫瘍細胞の死滅を媒介するhaCD16A-BiTEのin vitro活性アッセイ。
[0106]PD-L1の過剰発現により、腫瘍細胞は、PD-1/PD-L1経路を利用して免疫抑制環境を促進し、腫瘍を増殖させる(Topalianら、Curr Opin Immunol、24、207~212 (2012))。したがって、PD-L1もまた腫瘍関連抗原である。抗PD-L1 IgG mAbによるPD-L1抑制シグナルの遮断は、T細胞の抗腫瘍活性を回復させることができるだけでなく、ADCCによって腫瘍細胞を根絶する機会も提供され得る。
【0099】
[0107]抗PD-L1 IgG mAbによるPD-L1発現腫瘍細胞の根絶を媒介するADCC活性をT細胞に付与するhaCD16A-BiTEの可能性に関する試験について。本発明者らはPD-L1発現について腫瘍細胞をスクリーニングし、PD-L1発現腫瘍細胞株(A431)及びヒト抗PD-L1 IgG抗体(10μg/ウェル)(Invivogen)を代わりに使用することを除き、正確に、実施例2に記載したように実験を実施した。この実験では、A431細胞を標的細胞として使用した。MCF-7細胞株は低PD-L1乳がん細胞であった。
【0100】
[0108]図10に示した結果は、T細胞の存在下で、haCD16A-BiTEが、抗PD-L1 IgG抗体と組み合わせた場合に、haCD16A-BiTE又は抗PD-L1抗体単独を使用する場合と比較して、PD-L1発現細胞(A431)の死滅の際に相乗効果を示すことを明らかにしている。*:p<0.001、haCD16A-BiTE又は抗PD-L1抗体単独との比較。
【0101】
実施例8
免疫不全NODマウスモデルにおけるCD20発現腫瘍細胞の死滅に対するhaCD16A-BiTEの活性についてのin vivoアッセイ。
[0109]治療用抗体の効果を増強するのに有効な本発明者らの発明は、複合体の形成に4つの構成要素が一体となることが必要である。これらの構成要素には、腫瘍細胞、抗体、haCD16A-BiTE、及びT細胞が含まれる。haCD16A-BiTEのin vivo活性の実証に加えて、この複合体形成がin vivoで起こることを実証するためにin vivoでの概念実証研究を実施した。
【0102】
[0110]これらの実験は、T細胞欠如の免疫不全NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/YckNarl(RMRC 13288)マウスで実施した。最初に、ルシフェラーゼ及び緑色蛍光タンパク質の遺伝子を、レンチウイルスベクターを使用してRaji血液腫瘍細胞に形質導入した(Zhouら、Blood、120、4334~4342 (2012))。ルシフェラーゼ及び緑色蛍光タンパク質を発現するRaji細胞(1×10細胞)を尾部静脈注射によりNODマウスに移植した。Raji細胞の移植後7日目に、実施例2に記載したようにして得たT細胞を、尾部静脈注射によりNODマウスに移植した。注射当たりで移植されたT細胞の量は、Raji細胞の量の10倍であった。T細胞を4日毎に1回移植し、合計2回移植した。さらに、Raji細胞の移植後7日目に、haCD16A-BiTEを連続して9日間、1日量800ngを尾部静脈から注入し、これは1回のボーラス注射により送達した。リツキシマブ(10mg/kg)を、Raji細胞の移植後7日目及び11日目に、尾部静脈から2回投与した。対照群のマウスはT細胞の移植のみを受けた。
【0103】
[0111]生物発光イメージング(BLI)を様々な時点で行い、Raji細胞のクリアランスをモニターした。実験終了時に、治療群の体重は対照の体重と同等であった。図11の結果は、実験終了時のBLIの差を示す。リツキシマブ及びT細胞で処理したマウス(haCD16A-BiTEなし)と比較して、haCD16A-BiTEは、Raji細胞クリアランスを2倍有意に増強した。したがって、腫瘍細胞、抗体、haCD16A-BiTE、及びT細胞は、in vivoで活性が必要とされる場合に一緒に組み合わせることができる。さらに重要なことには、これらのデータは、haCD16A-BiTEのin vivo活性を実証している。*:p<0.01、haCD16A-BiTE、リツキシマブ、及びT細胞の組合せとの比較。
【0104】
実施例9
AAV-haCD16A-BiTEはマウスにおけるhaCD16A-BiTEの末梢発現を媒介する。
[0112]in vivo半減期が短いことによって治療環境でBiTEの継続的注入が必要となることを克服するため、AAV媒介型遺伝子導入方法を検討した。
【0105】
[0113]マウス(B6株、オス、8週齢;n=5)に、AAV-haCD16A-BiTEのウイルスベクターを腹腔内注射した(図1A、10vgc/動物;vgc:ウイルスゲノムコピー)。血清試料をウイルス注射の前(0日目)及び後(2、7、14日目)に尾部静脈から採取し、ウエスタンブロット分析にかけてhaCD16A-BiTEのタンパク質レベルを評価した。HRPをコンジュゲートしたポリクローナル抗体を使用して、haCD16A-BiTEのc末端の6×ヒスチジンタグをプローブした。検出されたタンパク質のレベルを濃度測定分析によって測定し、血清1ml当たりの光学密度値として示した。
【0106】
[0114]図12の結果は、AAV-haCD16A-BiTEを注射した7日後に、haCD16A-BiTEがマウスの末梢血で検出され、その存在が少なくとも7日間持続することを示している。これらの結果は、haCD16A-BiTEのin vivoでの持続的産生がin vivoウイルス媒介型haCD16A-BiTE遺伝子導入によって達成され得ることを実証している。
【0107】
[0115]本発明を上述の特定の実施形態と併せて説明したが、それに対する多くの代替及びその修正及び変更は当業者には明らかであろう。そのようなすべての代替、修正及び変更は本発明の範囲内にあると考える。
図1A
図1B
図1C
図1D-1】
図1D-2】
図1D-3】
図1D-4】
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2024050549000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-01-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトCD16Aの細胞外ドメイン;及び
ヒトCD3に特異的に結合し、ヒトT細胞を活性化する抗ヒトCD3単鎖可変フラグメントであって、ヒトCD16Aの細胞外ドメインが前記ヒトCD3単鎖可変フラグメントの重鎖に直接連結する、抗ヒトCD3単鎖可変フラグメント
を含む融合タンパク質。
【請求項2】
記抗ヒトCD3単鎖可変フラグメントが、配列番号4のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
タンパク質精製タグをさらに含み、前記タンパク質精製タグが6×ヒスチジンタグである、請求項1又は2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
ヒトCD16Aの細胞外ドメインをコードするフラグメントを含み、配列番号1の核酸配列をし、かつ、前記抗ヒトCD3単鎖可変フラグメントをコードするフラグメントを含み、配列番号3の核酸配列を有する、請求項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
分泌シグナルペプチドをコードするフラグメントをさらに含み、かつ、配列番号5の核酸配列を有する、請求項4又は5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号7の核酸配列を有する、請求項4~6のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
アデノ随伴ウイルスベクターに含まれている、請求項4~7のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項4~8のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項10】
治療有効量の請求項1~3のいずれか一項に記載の融合タンパク質を含む医薬組成物。
【請求項11】
Fc領域を有する1つ又は複数の抗体をさらに含む、請求項0に記載の医薬組成物。
【請求項12】
象において抗体依存性細胞毒性誘導に使用するための請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
象においてがん、感染症、自己免疫疾患、移植片対宿主病、又は移植後リンパ増殖性疾患治療に使用するための請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【外国語明細書】