(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005057
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】分析装置、学習方法、推定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 17/00 20150101AFI20240110BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
H04B17/00
G06Q10/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105048
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】399035766
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397065480
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】上田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】松岡 和志
(72)【発明者】
【氏名】北林 厚志
(72)【発明者】
【氏名】岡村 隆平
(72)【発明者】
【氏名】橋場 拓己
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC07
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】通信設備の災害に対する脆弱性を推定する。
【解決手段】分析装置において、通信設備が配置される区間毎に、地形に関するデータ、及び、災害時の故障履歴を含む学習用データを取得するデータ取得部と、前記学習用データを用いて、前記通信設備の脆弱性を推定するためのモデルを学習する学習部とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信設備が配置される区間毎に、地形に関するデータ、及び、災害時の故障履歴を含む学習用データを取得するデータ取得部と、
前記学習用データを用いて、前記通信設備の脆弱性を推定するためのモデルを学習する学習部と
を備える分析装置。
【請求項2】
前記学習部により学習されたモデルに、ある区間の地形に関するデータを含む推定用データを入力することにより、当該区間における前記通信設備の脆弱性を推定する分析部
を更に備える請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記学習用データは、前記地形に関するデータと河川に関するデータを含む
請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記通信設備は、光ケーブルである
請求項1に記載の分析装置。
【請求項5】
通信設備が配置されるある対象区間における地形に関するデータを含む推定用データを取得するデータ取得部と、
前記通信設備が配置される区間毎に、地形に関するデータ、及び、災害時の故障履歴を含む学習用データを用いて学習されたモデルに、前記推定用データを入力することにより、前記対象区間における前記通信設備の脆弱性を推定する分析部と
を備える分析装置。
【請求項6】
分析装置が実行する学習方法であって、
通信設備が配置される区間毎に、地形に関するデータ、及び、災害時の故障履歴を含む学習用データを取得するデータ取得ステップと、
前記学習用データを用いて、前記通信設備の脆弱性を推定するためのモデルを学習する学習ステップと
を備える学習方法。
【請求項7】
分析装置が実行する推定方法であって、
通信設備が配置されるある対象区間における地形に関するデータを含む推定用データを取得するデータ取得ステップと、
前記通信設備が配置される区間毎に、地形に関するデータ、及び、災害時の故障履歴を含む学習用データを用いて学習されたモデルに、前記推定用データを入力することにより、前記対象区間における前記通信設備の脆弱性を推定する分析ステップと
を備える推定方法。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載の分析装置における各部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信設備の脆弱性を評価する技術に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、光ケーブル(光ファイバケーブルと呼んでもよい)が広く全国に敷設されており、通信サービスに利用されている。
【0003】
光ケーブルについて、それが敷設されている場所の地形や周辺環境等により、大雨や地震等の災害に対する脆弱性(故障の発生し易さ)が異なると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ケーブルの災害に対する脆弱性を、災害が起こる前に知ることができれば、例えば災害予報があったときに、事前に対応をとることができる。なお、このことは、光ケーブルに限らない通信設備(例:メタルケーブル、アンテナ、鉄塔、電柱等)にもあてはまる。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、通信設備の災害に対する脆弱性を推定するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術によれば、通信設備が配置される区間毎に、地形に関するデータ、及び、災害時の故障履歴を含む学習用データを取得するデータ取得部と、
前記学習用データを用いて、前記通信設備の脆弱性を推定するためのモデルを学習する学習部と
を備える分析装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、通信設備の災害に対する脆弱性を推定するための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図10】分析装置500の出力の例を示す図である。
【
図11】装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0011】
以下では、脆弱性を推定する実施形態を第1実施形態として説明し、光ケーブルのOTDRによる測定に関する実施形態を第2実施形態として説明する。第1実施形態と第2実施形態はそれぞれ単独で実施してもよいし、組み合わせて実施してもよい。第1実施形態と第2実施形態を組み合わせる場合の例として、第2実施形態で得られた光ケーブルの損失状況(劣化箇所等)を、第1実施形態での脆弱性推定におけるモデル学習及びモデルを用いた推定に利用することができる。
【0012】
第1実施形態では、脆弱性を推定する対象の通信設備として、光ケーブルを挙げているが、これは例である。本発明に係る技術は、光ケーブルに限らない通信設備(例:メタルケーブル、アンテナ、鉄塔、電柱、とう道、管路、マンホール等)に適用することが可能である。
【0013】
[第1実施形態]
(システム構成例)
図1に、本実施の形態における分析システムの構成図を示す。
図1に示すように、分析装置100、データベース200、端末300が存在し、これらがネットワーク400に接続されている。ネットワーク400は、インターネットでもよいし、LANでもよいし、どのようなネットワークでもよい。
【0014】
分析装置100は、光ファイバの災害に対する脆弱性を推定する装置である。データベース200は、分析装置100によるモデルの学習、及び、脆弱性の推定を行うために使用するデータを保有するデータベースである。なお、後述するように、モデルの学習、及び、脆弱性の推定に使用するデータは、様々な情報源から取得することができるが、
図1において、その様々な情報源から得られたデータがデータベース200に格納されている。
【0015】
端末300は、例えば、設備保守を行う保守担当者が持つ端末である。例えば、分析装置100から、ある地点での光ファイバの脆弱性の推定結果が端末300に送信され、端末300に表示される。
【0016】
端末300を持つ保守担当者は、端末300に表示される脆弱性の推定結果に基づき、例えば、大雨が降るとその地点の光ファイバの故障する確率が高くなることを知ると、大雨の予報があった場合に、必要な対応を事前にとることができる。
【0017】
(分析装置100の処理概要)
図2を参照して処理の概要を説明する。まず、光ケーブルの区間毎に、データを収集する。
図2の例では、建設年月、その区間が川の近くにあるかどうか、その区間の標高、災害時の故障履歴(災害時に故障が発生したか否か)などが収集されている。これらの他、その区間における断層の有無、降水量(多い、少ない)等が収集されてもよい。また、本実施の形態では、推定対象とする設備の範囲を「区間」としているが、これは例であり、「区間」に代えて、又は、「区間」に加えて「点」を用いてもよい。ここでの「点」とは、マンホール等の地図上では点のように見える場所である。推定対象とする設備の範囲を「点」とした場合、その「点」上、及びその「点」の周辺に存在する設備が脆弱性推定の対象となる。
【0018】
これらのデータは、例えば、光ケーブルの敷設状況を記載した図面、現地設備保守、設備システム、オープンデータ等から収集することができる。収集されたデータは、例えば、データベース200に格納される。
【0019】
分析装置100はデータベース200から、データを取得し、そのデータを用いてモデルを学習する。そして、分析装置100において、脆弱性を推定したい区間のデータを学習済みのモデルに入力することで、その区間についての脆弱性情報を出力する。本実施の形態では、分析装置100は、脆弱性情報として、災害発生時にその区間の光ケーブルに故障が発生する確率を出力する。
【0020】
(区間について)
上述した「区間」について説明する。
図3は、光ケーブルの敷設状況の例を示す図である。一般に、光ケーブルは、通信ビル間において地中に敷設されている。また、光ケーブルは電柱等を用いて、地上に敷設される場合もある。通信ビルからは、ユーザビルへ光ケーブルが延びている。
【0021】
また、光クロージャにより光ケーブルが接続(融着等)されている箇所(接続点)がある。その接続点には、通常、マンホール(MH)があり、人が光クロージャにアクセスすることができる。また、光クロージャがない場所で、光ケーブルの経路上にマンホールが存在する場合もある。なお、マンホールの他に、ハンドホール(HH)及び電柱等の設備があるが、本明細書では、「マンホール」と記載した場合に、その意味として「ハンドホール」、「電柱」等の設備も含まれるものとする。
【0022】
本実施の形態における光ケーブルの「区間」は、ある2地点の間であることを示すものであればどのようなものでもよい。例えば、「区間」は、2つのマンホールの間の区間であってもよいし、2つの通信ビルの間の区間であってもよいし、通信ビルとユーザビルとの間の区間であってもよいし、ある2つの都市の間の区間であってもよい。また、本実施の形態における光ケーブルの「区間」は、光ケーブルが通過する設備、あるいは、光ケーブル連結部の設備であると考えてもよい。
【0023】
(データ収集方法について)
分析装置100におけるモデルの学習や、モデルを用いた脆弱性推定のためのデータについて、例えば、下記の(A)~(C)に示す方法で収集することができる。以下では、分析装置100で使用するデータを収集する人を「ユーザ」(分析装置100のユーザの意味)と呼ぶ。
【0024】
(A)現地設備保守情報/図面情報
通常、現地設備保守を行う保守担当者は、光ケーブルが敷設されている場所(マンホール内等)あるいはその周辺を目視又はカメラ、計測機器等の記録装置で確認し、現地設備保守情報として、例えば、紙面上に記録を残す。また、例えば、光ケーブルの敷設経路等を記載した図面が存在する。ユーザは、目視又は記録装置で収集した現地設備保守情報や図面情報を、データベース200に格納する。
【0025】
(B)設備情報
通信事業者は、一般に、設備システムを用いて通信設備を管理している。ユーザは、設備システムから設備情報を収集し、データベース200に格納する。設備システムから得られる設備情報の例として、光ケーブル等通信設備の種類及び建設年月(建設時期)、光ケーブルの経路(光ケーブルの位置及び距離)、故障履歴等がある。
【0026】
(C)オープンデータ(shapeファイル、降水量など)
インターネット上に公開されているオープンデータとして、shapeファイルを利用することができる。shapeファイルは、図形情報と属性情報をもった地図データファイルの集合である。
【0027】
shapeファイルを用いることにより、光ケーブルの経路(位置)あるいはマンホールの位置等における地形情報を抽出することができる。また、降水量もオープンデータから取得できる。種々のオープンデータにより、ある区間におけるハザードエリアの有無、断層の有無、降水量など、様々なデータを取得することが可能であり、これらは、学習及び推定に使用できる。
【0028】
(分析装置100の構成及び動作)
図4に、分析装置100の構成例を示す。
図4に示すように、分析装置100は、データ取得部110、学習部120、分析部130、出力部140、及び記憶部150を有する。
【0029】
図5のフローチャートを参照して、分析装置100による処理の流れを説明する。また、適宜、
図6も参照する。
【0030】
図5のS101において、データ取得部110が、データベース200から学習用のエータを取得する。取得したデータは記憶部150に格納される。
図6には、学習用データとして、区間毎に、その区間における光ファイバの建設年月、その区間が川の近くかどうか、その区間の標高、...、故障履歴がデータベース200に格納されていることが示されている。「標高」については、区間の平均でもよいし、区間の最高点の標高でもよい。
【0031】
故障履歴は、例えば、ある特定の災害(例:台風xx号、xyz豪雨)時において、その区間で故障が発生したか否かを示す。例えば、大雨時の脆弱性を推定するモデルを学習したいときには、大雨の災害時の故障履歴を使用し、地震時の脆弱性を推定するモデルを学習したいときには、地震の災害時の故障履歴を使用することとしてよい。
【0032】
図5のS102において、学習部120は、S101で取得したデータを用いてモデルを学習する。学習済みのモデルは、記憶部150に格納される。なお、記憶部150に格納されるモデルは、具体的には、回帰分析モデルであれば式と回帰係数であり、ニューラルネットワークのモデルであれば、関数と重みパラメータである。
【0033】
学習において、ニューラルネットワークのモデルを使用する場合、区間毎の取得データ(例:建設年月、川の近くかどうか、標高、...、故障履歴)のうち、故障履歴以外のデータをモデルへの入力とし、モデルからの出力が正解の故障履歴になるように(例えば、故障有であれば、高い確率を出力するように)、モデルのパラメータを学習する。
【0034】
図5のS103において、分析部130が、学習済みのモデルを用いて、脆弱性を推定したい区間についての脆弱性推定を行う。基本的には、脆弱性を推定したい区間について、学習で用いたデータ項目のうちの故障履歴以外のデータをモデルに入力することで、その区間についての故障確率を出力する。この故障確率は、モデルの学習において想定した災害(例:台風xx号)と同程度の災害が発生した場合に、その区間の光ファイバに故障が発生する確率に相当する。
【0035】
図6には、区間5~8が、脆弱性を推定したい区間であり、分析部130(モデル)により、それらの故障確率が得られていることが示されている。
【0036】
図5のS104において、出力部140は、分析部130による分析結果(脆弱性推定結果)を出力する。出力方法はどのような方法であってもよい。例えば、分析装置100のディスプレイ上に分析結果を出力してもよいし、ネットワークを介して、保守担当者の端末300に分析結果を送信してもよい。
【0037】
なお、本実施の形態では、1つの分析装置100が、モデル学習とモデルを用いた推定の両方を行うこととしたが、これは例である。例えば、分析装置100が、モデル学習を行い、学習済みモデルを他の分析装置100に送信し、当該他の分析装置100が脆弱性推定を行うこととしてもよい。このとき、モデル学習を行う分析装置100を学習装置と呼んでもよい。
【0038】
(ロジスティック回帰分析を利用したモデル構築)
次に、モデル構築(モデル学習)の一例として、ロジスティック回帰分析にて、故障確率を算出するモデルを構築する例を、
図7を参照して説明する。なお、モデル構築において、ロジスティック回帰分析を用いることは一例である。モデル構築において、ロジスティック回帰分析以外の任意の機械学習手法を利用することができる。例えば、ランダムフォレスト、SVM、ニューラルネットワーク等を利用することができる。
【0039】
図7に示すように、ここでは、学習データとして、区間毎の「河川との重なり、最大傾斜角度、故障履歴」を使用する。なお、「最大傾斜角度」とは、当該区間における地表の地形の傾斜角度のうちの最大の傾斜角度である。より具体的には、「最大傾斜角度」は、地形を5次メッシュ(250mメッシュ)で区切ったメッシュデータから算出されるものであり、ケーブルが通っている箇所のうちの最大傾斜角度のデータである。なお、「最大傾斜角度」に代えて、当該区間における、傾斜がある場合の平均的な傾斜角度を使用してもよい。
【0040】
ロジスティック回帰分析は、複数の要因(説明変数)から2値の結果(目的変数)が起こる確率を予測可能な手法である。ここでは、
図7に示す式のx
1に「河川との重なり」のデータを入れ、x
2に「最大傾斜角度」を入れ、その結果が正解に近づくように、回帰係数a
1、a
2、及び定数項bを決定する。
【0041】
学習済みの回帰係数a
1、a
2、及び定数項bを用いた式に、検証データ(脆弱性を推定したい区間のデータ)を入力することで、その区間についての故障確率を得ることができる。
図8は、
図7に示す検証データの具体的な値を代入した例を示している。
【0042】
なお、ここで例えば、故障確率として「10%」が得られた場合、学習データにおいて想定している災害状況と同程度の災害状況において、故障確率が10%の区間が10個あれば、そのうちの1個の区間が故障すると推定できることを意味する。
【0043】
(学習及び推定で使用するデータに関して)
学習及び推定で使用するデータに関しては、建設年月、川の近くかどうか(つまり、河川沿いかどうか)、標高、降雨量、河川との重なりがあるかどうか、最大傾斜角度、平均的な傾斜角度、ハザードエリアがあるかどうか、等に限らず、これら以外のデータを用いてもよい。
【0044】
また、「建設年月、川の近くかどうか(つまり、河川沿いかどうか)、標高、降雨量、河川との重なりがあるかどうか、最大傾斜角度、平均的な傾斜角度、ハザードエリアがあるかどうか」を使用する場合、これら全部を使用してもよいし、これらのうちの任意の1つのみを使用してもよいし、これらのうちの任意の複数を使用してもよい。
【0045】
また、大雨の災害に対する脆弱性を推定する際には、「最大傾斜角度」及び「河川沿いか否か」のデータを使用することとしてもよい。つまり、学習の際には、「最大傾斜角度、河川沿いか否か、故障履歴」を使用し、推定の際には、「最大傾斜角度、河川沿いか否か」を使用することとしてもよい。
【0046】
「最大傾斜角度」及び「河川沿いか否か」は、使用するデータの一例である。地形に関するデータ及び河川に関するデータであれば、「最大傾斜角度及び河川沿いか否か」以外のデータを使用してもよい。なお、最大傾斜角度、標高、断層有無、ハザードエリアがあるか否か、などはいずれも地形に関するデータの例である。また、地形に関するデータは、大雨以外の災害に対する脆弱性(例:地震に対する脆弱性)を推定する場合に使用してもよい。
【0047】
また、地形に関するデータ及び河川に関するデータの2つのデータを使用する場合において、これら2つのデータに加えて他のデータが追加されてもよい。また、河川に関するデータを用いずに、地形に関するデータを用いてもよい。
【0048】
[第2実施形態]
光ケーブル(具体的には、光ファイバ心線)の損失や中継状態を測定するために、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)が一般的に使用されている。OTDRは、光ケーブルの片端に接続し、光パルス信号を出力する。OTDRは、その光パルス信号が光ファイバから戻ってくる光の量や、戻ってくるまでの時間を計測することで、損失量、接続箇所の位置等を計測する。
【0049】
一般に、OTDRの出力(測定結果)は、縦軸を光の損失レベル(減衰量)とし、横軸をOTDRからの距離(光ケーブルの長さ方向の位置)とした波形データ(グラフ)で表される。従来技術では、例えば、ユーザが波形データを目視で確認し、ある地点で傾きが急に大きくなったのでその地点で異常損失が発生している、等の判断を行っていた。
【0050】
しかし、OTDRの出力の波形データは、減衰の絶対値を表示しており、傾きに変化が発生しているかどうか等を目視で判断することが難しい場合があった。つまり、従来技術では、OTDRにより得られた波形データから、光ケーブルの減衰の程度や、劣化している区間を判定することが難しい場合があった。
【0051】
本実施の形態では、以下で説明する分析装置500により、OTDRにより得られた波形データに基づいて、光ケーブルの減衰の程度や、劣化している区間を容易に判定することを可能としている。
【0052】
(分析装置500の構成、動作概要)
図9に、分析装置500の構成例を示す。
図9に示すように、分析装置500は、データ取得部510、分析部520、出力部530、記憶部550を有する。
【0053】
データ取得部510は、OTDRの測定結果(従来技術で得られる波形データ)を取得する。取得した波形データは記憶部550に格納される。波形データが
図1に示すデータベース200に格納されていて、データ取得部510は、データベース200から波形データを取得することとしてもよい。
【0054】
分析部520は、記憶部550から波形データを読み出して、波形データに対して後述するように距離についての微分等の処理を実行する。出力部530は、分析部520による処理後の波形データを出力する。処理前の波形データと処理後の波形データの両方を出力してもよい。
【0055】
出力部530による出力では、例えば、処理後の波形データをディスプレイに出力する。また、処理後の波形データをデータベース200に出力し、処理後の波形データを第1実施形態で説明した脆弱性推定のための学習データあるいは推定用のデータとして使用してもよい。また、処理後の波形データを見た人が把握した劣化区間(劣化している位置)をデータベース200に出力し、当該劣化区間(劣化している位置)の情報を第1実施形態で説明した脆弱性推定のための学習データあるいは推定用のデータとして使用してもよい。
【0056】
(分析部520の詳細処理)
以下、分析部520の処理内容をより詳細に説明する。
【0057】
<例1>
例1において、分析部520は、元の波形データ(減衰波形)を距離方向で微分する。出力部530は、微分した波形データを出力してもよい。微分により、元の波形データにおいて、傾きに変化があれば、その変化を目立たせることができるので、減衰している箇所が、より分かり易くなる。
【0058】
分析部520は、微分のみの処理を行うこととしてもよいが、以下の処理を行うこととしてもよい。
【0059】
<例2>
例1で説明した微分により、ノイズが強調され損失と区別がつきにくくなる場合がある。そこで、例2においては、分析部520は、微分前の波形データに移動平均を実施し、ノイズを減らした波形データに対して微分をする。移動平均の幅については、例えば、後述するようにパルス幅に応じて決めてもよいし、実験により、適切な幅を決めてもよい。
【0060】
<例3>
例3では、例1で得られた微分後の波形データに対して、又は、例2で得られた微分後の波形データに対して、スムージングを実施することでよりノイズを除去する。
【0061】
スムージング自体は既存技術であり、どのような手法を使用してもよい。例えば、スムージングとして、多項式近似あるいはフーリエ変換を用いたデジタルフィルタにより、高周波成分を削除する等の手法を使用することができる。
【0062】
図10に、微分前の波形(OTDRの光減衰波形)と、その光減衰波形についての「光減衰波形を移動平均+微分+多項式近似(スムージング)」をした結果の波形を示す。
図10に示すように、例3での処理により、微分前の波形からではよくわからない損失箇所がよくわかるようになっている。
【0063】
<例4>
例2、例3で説明した、移動平均やスムージングにおけるパラメータ等は、OTDRの試験用光パルスのパルス幅に合わせて調整することとしてもよい。OTDRで得られる光減衰グラフは光パルス幅により解像度が変化する。そのため、解像度より細かな成分は削除し、それ以下の成分を取り出すように、移動平均又はスムージングのパラメータを調整してもよい。
【0064】
<例5>
具体的には、例えば、光パルス幅の解像度は1μsのパルス幅で100mとなり、微分後のパルスの波形は100mの正弦波の上部の形状、又は台形の形状となる(つまり1周期が200mの正弦波又は台形となる。正弦波になるか台形になるかはパルス幅と移動平均のパラメータ値による)。例5では、これを認識できるスムージング(例:次元数)、移動平均(例:Window幅)を分析部520に設定して、処理を実行する。
【0065】
<例6>
例1~例5(波形によっては例2~例5)のいずれの処理においても、損失個所のより正確な場所が認識可能になる。例えば、パルス幅1μsの場合、減衰が生じている地点における正弦波の頂点、もしくは台形の試験装置に近い側の上端点が、損失が発生している個所から50m後方であることがわかる。
【0066】
また、複数か所で減衰(損失)が発生し、減衰波形が重なっている場合でも、減衰の長さや正弦波の重なり具合で、損失箇所を分離して認識できるようになる。
【0067】
<例7>
また、分析部520は、例1~例5のいずれかの例で取得した波形データに対し、時系列データと同様にして、ディープラーニングによる機械学習を適用してもよい。例えば、波形データをニューラルネットワークのモデルに入力し、モデルから劣化箇所(例:光パルス出力地点からの距離)が出力されるように、当該モデルを学習する。
【0068】
その後、劣化箇所を知りたい光ケーブルの測定結果に関して、学習済みのモデルに、例1~例5のいずれかの例で取得した波形データを入力することで、モデルから劣化箇所を出力する。
【0069】
[装置のハードウェア構成例]
(ハードウェア構成例)
分析装置100、分析装置500はいずれも、例えば、コンピュータにプログラムを実行させることにより実現できる。このコンピュータは、物理的なコンピュータであってもよいし、クラウド上の仮想マシンであってもよい。以下、分析装置100、分析装置500を総称して「装置」と呼ぶ。
【0070】
すなわち、当該装置は、コンピュータに内蔵されるCPUやメモリ等のハードウェア資源を用いて、判定装置100で実施される処理に対応するプログラムを実行することによって実現することが可能である。上記プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(可搬メモリ等)に記録して、保存したり、配布したりすることが可能である。また、上記プログラムをインターネットや電子メール等、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0071】
図11は、上記コンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図11のコンピュータは、それぞれバスBSで相互に接続されているドライブ装置1000、補助記憶装置1002、メモリ装置1003、CPU1004、インタフェース装置1005、表示装置1006、入力装置1007、出力装置1008等を有する。
【0072】
当該コンピュータでの処理を実現するプログラムは、例えば、CD-ROM又はメモリカード等の記録媒体1001によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体1001がドライブ装置1000にセットされると、プログラムが記録媒体1001からドライブ装置1000を介して補助記憶装置1002にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体1001より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置1002は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0073】
メモリ装置1003は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置1002からプログラムを読み出して格納する。CPU1004は、メモリ装置1003に格納されたプログラムに従って、当該装置に係る機能を実現する。
【0074】
インタフェース装置1005は、ネットワーク等に接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置1006はプログラムによるGUI(Graphical User Interface)等を表示する。入力装置1007はキーボード及びマウス、ボタン、又はタッチパネル等で構成され、様々な操作指示を入力させるために用いられる。出力装置1008は演算結果を出力する。
【0075】
(実施の形態の効果)
第1実施形態に係る技術によれば、通信設備の災害に対する脆弱性を推定することが可能となる。ための技術が提供される。第2実施形態に係る技術によれば、OTDRにより得られた波形データに基づいて、容易に光ケーブルの状態を把握することが可能になる。
【0076】
(付記1)
本明細書には、少なくとも下記各項の分析装置、学習方法、推定方法、及びプログラムが開示されている。
(付記項1)
通信設備が配置される区間毎に、地形に関するデータ、及び、災害時の故障履歴を含む学習用データを取得するデータ取得部と、
前記学習用データを用いて、前記通信設備の脆弱性を推定するためのモデルを学習する学習部と
を備える分析装置。
(付記項2)
前記学習部により学習されたモデルに、ある区間の地形に関するデータを含む推定用データを入力することにより、当該区間における前記通信設備の脆弱性を推定する分析部
を更に備える付記項1に記載の分析装置。
(付記項3)
前記学習用データは、前記地形に関するデータと河川に関するデータを含む
付記項1又は2に記載の分析装置。
(付記項4)
前記通信設備は、光ケーブルである
付記項1ないし3のうちいずれか1項に記載の分析装置。
(付記項5)
通信設備が配置されるある対象区間における地形に関するデータを含む推定用データを取得するデータ取得部と、
前記通信設備が配置される区間毎に、地形に関するデータ、及び、災害時の故障履歴を含む学習用データを用いて学習されたモデルに、前記推定用データを入力することにより、前記対象区間における前記通信設備の脆弱性を推定する分析部と
を備える分析装置。
(付記項6)
分析装置が実行する学習方法であって、
通信設備が配置される区間毎に、地形に関するデータ、及び、災害時の故障履歴を含む学習用データを取得するデータ取得ステップと、
前記学習用データを用いて、前記通信設備の脆弱性を推定するためのモデルを学習する学習ステップと
を備える学習方法。
(付記項7)
分析装置が実行する推定方法であって、
通信設備が配置されるある対象区間における地形に関するデータを含む推定用データを取得するデータ取得ステップと、
前記通信設備が配置される区間毎に、地形に関するデータ、及び、災害時の故障履歴を含む学習用データを用いて学習されたモデルに、前記推定用データを入力することにより、前記対象区間における前記通信設備の脆弱性を推定する分析ステップと
を備える推定方法。
(付記項8)
コンピュータを、付記項1ないし5のうちいずれか1項に記載の分析装置における各部として機能させるためのプログラム。
【0077】
(付記2)
本明細書には、少なくとも下記各項の分析装置、分析方法、及びプログラムが開示されている。
(付記項1)
OTDRにより得られた、光ケーブルについての元の波形データを取得するデータ取得部と、
前記元の波形データに関して、距離方向で微分を行う分析部と、
前記分析部により得られた波形データを出力する出力部と
を備える分析装置。
(付記項2)
前記分析部は、前記元の波形データの測定に使用した光パルス信号のパルス幅に応じて、前記元の波形データ又は微分した波形データを加工する
付記項1に記載の分析装置。
(付記項3)
前記分析部は、前記元の波形データに対して移動平均をとった加工後の波形データを微分する
付記項1又は2に記載の分析装置。
(付記項4)
前記分析部は、前記加工後の波形データに対して、スムージング処理を施す
付記項3に記載の分析装置。
(付記項5)
前記分析部は、学習済みのモデルを用いて、前記分析部により得られた波形データから劣化箇所を推定する
付記項1ないし4のうちいずれか1項に記載の分析装置。
(付記項6)
分析装置が実行する分析方法であって、
OTDRにより得られた、光ケーブルについての元の波形データを取得するデータ取得ステップと、
前記元の波形データに関して、距離方向で微分を行う分析ステップと、
前記分析ステップにより得られた波形データを出力する出力ステップと
を備える分析方法。
(付記項7)
コンピュータを、付記項1ないし5のうちいずれか1項に記載の分析装置における各部として機能させるためのプログラム。
【0078】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0079】
100、500 分析装置
200 データベース
300 端末
400 ネットワーク
110 データ取得部
120 学習部
130 分析部
140 出力部
150 記憶部
510 データ取得部
520 分析部
530 出力部
550 記憶部
1000 ドライブ装置
1001 記録媒体
1002 補助記憶装置
1003 メモリ装置
1004 CPU
1005 インタフェース装置
1006 表示装置
1007 入力装置
1008 出力装置