(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050594
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】変異KRAS配列及び脂質を含む化合物並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240403BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20240403BHJP
C07K 14/82 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/117 20100101ALI20240403BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20240403BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240403BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240403BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20240403BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240403BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C07K7/08 ZNA
C07K14/82
C12N15/117 Z
A61K38/10
A61K47/54
A61P35/00
A61K47/30
A61K31/7088
A61K48/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024001725
(22)【出願日】2024-01-10
(62)【分割の表示】P 2020568946の分割
【原出願日】2019-03-01
(31)【優先権主張番号】62/637,879
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520332357
【氏名又は名称】エリシオ セラピューティクス, インク.
【氏名又は名称原語表記】ELICIO THERAPEUTICS, INC.
【住所又は居所原語表記】451 D Street 5th Floor, Suite 501 Boston, MA 02210 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】デムス, ピーター, シー
(72)【発明者】
【氏名】アダムス, ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】シュタインバック, マーティン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】効果的ながん治療のための化合物を提供する。
【解決手段】本発明は、リンカーによって脂質に連結しているKRAS配列を含む化合物、並びに関連する組成物及び方法を提供する。本発明の1つ以上の化合物又は組成物を対象(例えば、ヒト患者)に投与することにより、対象においてKRASに対する免疫応答を誘導する方法を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異KRAS配列及び脂質を含む化合物であって、前記変異KRAS配列はリンカーによって脂質にコンジュゲートし、並びに(i)前記リンカーは1つ以上のポリエチレングリコールブロックを含み、(ii)前記脂質は1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)であり、且つ(iii)前記変異KRAS配列はCYKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号1)、CYKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号2)、CYKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号3)、CYKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号4)、CYKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号5)、CYKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号6)、CYKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号22)、及びCYKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号7)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、化合物。
【請求項2】
前記変異KRAS配列が、YKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号23)、YKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号24)、YKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号25)、YKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号26)、YKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号27)、YKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号28)、YKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号29)、及びYKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号30)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる、請求項1の化合物。
【請求項3】
前記変異KRAS配列が、そのN末端で、システイン-マレイミド連結を介してリンカーにコンジュゲートしている、請求項1又は2の化合物。
【請求項4】
前記リンカーが、ポリエチレングリコールの48の繰り返し単位を含む、請求項1又は2の化合物。
【請求項5】
前記変異KRAS配列が、そのN末端で、下記の構造
【化1】
にコンジュゲートしている、請求項1又は2の化合物。
【請求項6】
請求項1又は2の1つ以上の化合物、及び薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【請求項7】
前記組成物が、(1)アミノ酸配列YKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号23)を含む化合物、(2)アミノ酸配列YKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号24)を含む化合物、(3)アミノ酸配列YKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号25)を含む化合物、(4)アミノ酸配列YKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号26)を含む化合物、(5)アミノ酸配列YKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号27)を含む化合物、(6)アミノ酸配列YKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号28)を含む化合物、又はアミノ酸配列YKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号29)を含む化合物、及び(7)アミノ酸配列YKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号30)を含む化合物を含む、請求項6の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、(1)アミノ酸配列CYKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号1)を含む化合物、(2)アミノ酸配列CYKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号2)を含む化合物、(3)アミノ酸配列CYKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号3)を含む化合物、(4)アミノ酸配列CYKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号4)を含む化合物、(5)アミノ酸配列CYKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号5)を含む化合物、(6)アミノ酸配列CYKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号6)を含む化合物、又はアミノ酸配列CYKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号22)を含む化合物、及び(7)アミノ酸配列CYKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号7)を含む化合物を含む、請求項6の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、下記の脂質
【化2】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる化合物(ここで、XはO又はSである)をさらに含む、請求項6の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、700μgの各化合物を含む、請求項6の組成物。
【請求項11】
前記ヌクレオチド配列が、前記脂質に結合している、請求項9の組成物。
【請求項12】
ヒト患者のがんの治療方法であって、請求項6の組成物を前記患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項13】
アジュバントを投与する工程をさらに含む、請求項12の方法。
【請求項14】
前記アジュバントが、CpGヌクレオチド配列を含む、請求項13の方法。
【請求項15】
前記CpGヌクレオチド配列が、5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)を含む、請求項14の方法。
【請求項16】
0.1mg、0.5mg、又は2.5mgの前記アジュバントを投与する、請求項12の方法。
【請求項17】
前記方法は、下記の脂質
【化3】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる化合物(ここで、XはO又はSである)を前記患者に投与する工程をさらに含む、請求項12の方法。
【請求項18】
前記ヌクレオチド配列が、前記脂質に結合している、請求項17の方法。
【請求項19】
前記方法は、下記の脂質
【化4】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる0.1mg、0.5mg、又は2.5mgの前記化合物(ここで、XはO又はSである)を投与する、請求項17の方法。
【請求項20】
前記がんが、膵臓がん、肺がん、又は大腸がんである、請求項12の方法。
【請求項21】
5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)のヌクレオシドを連結する全てのインターヌクレオシド基がホスホロチオエート類である、請求項12の方法。
【請求項22】
(i)請求項1又は2の化合物、及び(ii)下記の脂質
【化5】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる化合物(ここで、XはO又はSである)を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【配列リスト】
【0001】
本願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。_で作成されたASCIIコピーの名前は_でサイズは_バイトである。
【背景技術】
【0002】
RAS蛋白質は、細胞のシグナル伝達経路の重要な構成要素である。変異によるRAS蛋白質の発がん性の活性化は、膵臓がんを含むいくつかの種類のがんで頻繁に検出されている。さらなる効果的ながん治療法の開発が求められている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、治療方法に使用できる化合物を提供する。
【0004】
即ち、第一の側面において、本発明は、変異KRAS配列及び脂質を含む化合物を特徴とし、ここで、変異KRAS配列はリンカーによって脂質にコンジュゲートし、並びに(i)上記リンカーは1つ以上のポリエチレングリコールブロックを含み、(ii)上記脂質は1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)であり、且つ(iii)上記変異KRAS配列はYKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号23)、YKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号24)、YKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号25)、YKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号26)、YKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号27)、YKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号28)、YKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号29)、及びYKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号30)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はからなる。
【0005】
第二の側面において、本発明は、変異KRAS配列及び脂質を含む化合物を特徴とし、ここで、変異KRAS配列はリンカーによって脂質にコンジュゲート化し、並びに(i)上記リンカーは1つ以上のポリエチレングリコールブロックを含み、(ii)上記脂質は1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)であり、且つ(iii)上記変異KRAS配列はCYKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号1)、CYKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号2)、CYKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号3)、CYKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号4)、CYKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号5)、CYKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号6)、CYKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号22)、及びCYKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号7)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、又はからなる。
【0006】
本発明の第一及び第二の側面の一実施形態では、変異体KRAS配列は、そのN末端で、システイン-マレイミド連結を介してリンカーにコンジュゲートしている。
【0007】
本発明の第一及び第二の側面の別の実施形態では、リンカーは、ポリエチレングリコールの48の繰り返し単位を含む。
【0008】
本発明の第一及び第二の側面のさらなる実施形態では、変異体KRAS配列は、そのN末端で、下記の構造
【化1】
にコンジュゲートしている。
【0009】
第三の側面において、本発明は、本発明の第一及び第二の側面の1つ以上の化合物、及び薬学的に許容される担体を含む組成物を特徴とする。
【0010】
本発明の第三の側面の一実施形態では、組成物は、(1)アミノ酸配列YKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号23)を含む化合物、(2)アミノ酸配列YKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号24)を含む化合物、(3)アミノ酸配列YKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号25)を含む化合物、(4)アミノ酸配列YKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号26)を含む化合物、(5)アミノ酸配列YKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号27)を含む化合物、(6)アミノ酸配列YKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号28)を含む化合物、又はアミノ酸配列YKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号29)を含む化合物、及び(7)アミノ酸配列YKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号30)を含む化合物を含む。
【0011】
本発明の第三の側面の一実施形態では、組成物は、(1)アミノ酸配列YKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号23)を含む化合物、(2)アミノ酸配列YKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号24)を含む化合物、(3)アミノ酸配列YKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号25)を含む化合物、(4)アミノ酸配列YKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号26)を含む化合物、(5)アミノ酸配列YKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号27)を含む化合物、(6)アミノ酸配列YKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号28)を含む化合物、及び(7)アミノ酸配列YKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号30)を含む化合物を含む。
【0012】
本発明の第三の側面の別の実施形態では、組成物は、(1)アミノ酸配列CYKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号1)を含む化合物、(2)アミノ酸配列CYKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号2)を含む化合物、(3)アミノ酸配列CYKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号3)を含む化合物、(4)アミノ酸配列CYKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号4)を含む化合物、(5)アミノ酸配列CYKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号5)を含む化合物、(6)アミノ酸配列CYKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号6)を含む化合物、又はアミノ酸配列CYKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号22)を含む化合物、及び(7)アミノ酸配列CYKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号7)を含む化合物を含む。
【0013】
本発明の第三の側面の別の実施形態では、組成物は、(1)アミノ酸配列CYKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号1)を含む化合物、(2)アミノ酸配列CYKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号2)を含む化合物、(3)アミノ酸配列CYKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号3)を含む化合物、(4)アミノ酸配列CYKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号4)を含む化合物、(5)アミノ酸配列CYKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号5)を含む化合物、(6)アミノ酸配列CYKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号6)を含む化合物、及び(7)アミノ酸配列CYKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号7)を含む化合物を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、700μgの各化合物が組成物に含まれる。
【0015】
本発明の第三の側面のさらなる実施形態では、組成物は、下記の脂質
【化2】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる化合物(ここで、XはO又はSである)をさらに含む。一実施形態では、ヌクレオチド配列は脂質と結合している。別の実施形態では、5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)のヌクレオシドを連結する全てのインターヌクレオシド基は、ホスホロチオエート類である。
【0016】
第四の側面において、本発明は、ヒト患者のがんの治療方法を特徴とし、この方法は、本発明の第三の側面の組成物を患者に投与する工程を含む。
【0017】
本発明の第四の側面の一実施形態では、方法は、CpGヌクレオチド配列(例えば、5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3';配列番号8)を含むアジュバントなどのアジュバントを投与する工程をさらに含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、0.1mg、0.5mg、又は2.5mgのアジュバントを投与する。
【0019】
本発明の第四の側面の一実施形態では、方法は、下記の脂質
【化3】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる化合物(ここで、XはO又はSである)を患者に投与する工程をさらに含む。一実施形態では、ヌクレオチド配列は脂質と結合している。一実施形態では、0.1mg、0.5mg、又は2.5mgの化合物を投与する。
【0020】
別の実施形態では、5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)のヌクレオシドを連結する全てのインターヌクレオシド基は、ホスホロチオエート類である。
【0021】
本発明の第四の側面の一実施形態では、がんは、膵臓がん、肺がん、又は大腸がんである。
【0022】
第5の側面において、本発明は、(i)請求項1~5のいずれか1つの化合物、又は請求項6~8のいずれか1つの組成物、及び(ii)下記の脂質
【化4】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる化合物を含む、キットを特徴とする。一実施形態では、ヌクレオチド配列は脂質と結合している。別の実施形態では、5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)のヌクレオシドを連結する全てのインターヌクレオシド基は、ホスホロチオエート類である。
【0023】
定義
本明細書で使用される「カルボニル」は、-C(O)-基を指す。
【0024】
本明細書で使用される「カルボキシレート」は、-C(O)-OH基又はその塩を指す。
【0025】
本明細書で使用される「コンジュゲート」は、変異KRAS配列のリンカーへの共有結合、及び任意に、リンカーの脂質へのさらなる共有結合を指す。様々な例において、リンカーと変異KRAS配列又は脂質とを連結する共有結合は、硫黄原子とスクシンイミド中のsp3ハイブリダイズ炭素原子との間、窒素原子とカルボニルの炭素原子との間、又は酸素原子とチオホスホリル又はホスホリルのリン原子との間の共有結合であってもよい。様々な例において、KRAS配列と脂質の各々は、リンカー中の相補的な基に結合するための基を含んでもよい。例えば、KRASポリペプチドは、リンカー中の相補的な基、例えば、サクシニミドに結合した硫黄原子(例えば、システイン残基中の硫黄原子)を含んでもよい。KRASポリペプチド中の硫黄原子からリンカー中のサクシニミドへの結合は、KRASポリペプチド中のチオール(例えば、システイン残基中のチオール)とリンカー中のマレイミドとの反応によって形成されてもよい。あるいは、KRASポリペプチドは、リンカーにおいて、それぞれ、カルボニル基又は窒素原子に結合した窒素原子又はカルボニル基を含んでもよい。カルボニル基と窒素原子との間の結合は、KRASポリペプチド中のアミン又はカルボキシレートと、リンカー中のカルボキシレート又はアミンとの間の反応によって、それぞれ形成されてもよい。
【0026】
「脂質」は、触感に油っぽく、水に不溶で、及び有機溶媒に可溶な有機化合物の群のいずれかであり、一般的には脂肪酸及びその誘導体を含む。本発明で使用される脂質の一例は、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)である。
【0027】
本明細書で使用される「リンカー」は、一方の結合価がある生物学的機能性基に共有結合し、他方の結合価が別の生物学的機能性基に共有結合している一価又は二価の基を指す。一例では、リンカーは、上述したように、KRAS配列を脂質に連結する。任意に、そのようなリンカーは、1つ以上のポリエチレングリコールブロックを含むことができる。別の例では、リンカーは、例えば、CpGオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列を脂質(本明細書に記載されているように、例えば、-P(X)(OH)-O-CH(CH2NHCO-(CH2)16-CH3)2又はその塩であって、XはO又はSである)に連結する。そのようなリンカーは、任意に、1つ以上のヌクレオチド、例えば、ジヌクレオチド(例えば、GG)を含むことができる。
【0028】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」は、活性化合物を懸濁又は溶解することができ、それが投与される対象(例えば、ヒト患者)において非毒性であり、かつ非炎症性であるという特性を有するビヒクルを指す。さらに、薬学的に許容される担体は、医薬製剤の分野で知られているか又は使用されている、防腐剤、酸化防止剤、香料、乳化剤、染料、又は賦形剤のような薬学的に許容される添加剤を含んでもよく、活性剤の生物学的活性の治療効果を有意に阻害せず、かつ対象に無毒である。
【0029】
本明細書で使用される「ホスホリル」は、-P(O)(ORA)(ORB)基を指し、ここでRAはHであり、RBはバレンシーである。
【0030】
本明細書で使用される「ポリエチレングリコール」は、ブロック-(OCH2CH2)n-を指し、ここで、nは繰り返し単位の数であり、2~50の整数(例えば、24又は48)である。
【0031】
本明細書で使用される「チオール」は、-SH基を指す。
【0032】
本明細書で使用される「チオホスホリル」は、-P(S)(ORA)(ORB)基を指し、ここでRAはHであり、RBはバレンシーである。
【0033】
用語「治療(treat)」、「治療(treatment)」、及び「治療(treating)」は、疾患又は障害に関連する状態、例えば、がんの進行又は重症度を逆転、緩和、改善、抑制、減速、又は停止させることを目的とする治療的アプローチを指す。これらの用語には、状態、疾患、又は障害の少なくとも1つの有害作用又は症状を軽減又は緩和することを含む。治療は、1つ以上の症状又は臨床マーカーが減少するか、又は所望の応答(例えば、特異的免疫応答)が誘導される場合、一般に「有効」である。あるいは、治療は、疾患の進行が減少又は停止される場合に「有効」である。
【0034】
本発明は、いくつかの利点を提供する。例えば、DSPE部位を含む、本発明の特定の化合物は、投与される対象の内因性アルブミンに結合し、これにより、対象のリンパ節への化合物の送達が促進される。これは、化合物のKRAS配列に対する治療的免疫応答の誘導を促進し、効果的ながん治療を導く。
【0035】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明、図面及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、アンフィフィル-CpG(amphiphile-CpG)(aCpG)と組み合わせたアンフィフィル-KRas(amphiphile-KRas)(aKRas)は、脾臓細胞を活性化したが、aCpGと組み合わせた可溶性KRas、及び未処理と可溶性KRas及びpolyIC(pIC)対照群は活性化しなかったことを示している。
【
図2】
図2は、aCpGと組み合わせたaKRas G12R及びG12Vの両方が脾臓細胞を活性化したが、aCpGと組み合わせた可溶性KRas G12R及びG12V、及び未処理と可溶性KRas及びpIC対照群は活性化しなかったことを示している。
【
図3】
図3は、aKRas G12DとaCpGの組み合わせで免疫したマウスのKRas特異的CD8
+ T細胞応答を示す。この応答は、CpGと組み合わせた可溶性KRas G12D、又はCpGと組み合わせた可溶性野生型KRasでは見られていない。
【
図4】
図4は、aKRas G12DとaCpGの組み合わせで免疫されたマウスのKRas特異的CD8
+T細胞応答(9mer)及びCD8
+又はCD4
+T細胞応答(18mer)を示す。この応答は、CpGと組み合わせた可溶性KRas G12D又は未処理の対照では見られていない。
【
図5】
図5は、サイトカインビーズアレイにおける脾臓細胞によるサイトカイン産生の増加によって示されるように、アンフィフィル-KRas(Amph-KRAS)及びアンフィフィル-CpG(Amph-CpG)ワクチンは、可溶性KRasワクチンと比較して優れた内因性T細胞応答を誘発することを示している。可溶性KRAS G12D = YKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号23)、Amph-KRAS G12D = DSPE-アミド-dPEG24-アミド-dPEG24-CYKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号1)、KRAS G12D 18-mer = YKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号23)、CBA=サイトカインビーズアレイ、IFN = インターフェロン;IL = インターロイキン、KRAS = キルステンラットサルコーマ。
【
図6】
図6は、アンフィフィル-ペプチドG12D 4-21(配列番号1)の構造を示す。
【
図7】
図7は、アンフィフィル-CpG-7909の構造を示す。全ての糖はデオキシリボースである。全てのインターヌクレオシド連結はホスホロチオエートである。構造はナトリウム塩として示されている。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、治療方法に使用できる化合物を提供する。本発明の化合物は、それぞれ、変異KRAS配列(例えば、配列番号1~7及び22のいずれか1つ(下記表1参照)、又は配列番号23~30のいずれか1つ(下記表2参照))、及び脂質(例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE))を含む。この部位(変異KRAS配列及び脂質)は、リンカー、例えば、1つ以上のポリエチレングリコールブロックを含むリンカーによって互いに連結している。一例では、リンカーは
【化5】
である。特定の例では、変異KRAS配列(例えば、配列番号1~7又は22のいずれか1つ、又は配列番号23~30のいずれか1つ)が、そのN末端でCys残基を介してリンカーに結合しており、リンカーは脂質に結合しており、ここで、リンカーは、
【化6】
であり、脂質は
【化7】
又はその塩である。
【0038】
本発明はまた、本発明の1種以上の化合物を、薬学的に許容される担体又は希釈剤とともに含む組成物を提供する。任意に、組成物は、上記のように7つの異なる化合物を含むことができ、ここで、7つの異なる化合物の各々は、配列番号1~7及び23又は配列番号23~30から選択される異なる配列を含む。これらの化合物のサブセット(例えば、2、3、4、5、又は6)を含む組成物もまた、本発明に含まれる。本発明の組成物に含まれる異なる化合物は、任意に、それぞれが同じ又は異なるKRAS配列、リンカー、及び/又は脂質を含むことができる。
【0039】
本発明の組成物は、化合物のKRAS配列に対する免疫応答を誘導する方法において使用できる。従って、組成物は、免疫原性又はワクチン組成物と総称できる。そのため、組成物は、任意に、1種以上のアジュバントを含むか、又はともに投与できる。一例では、使用されるアジュバントは、例えば、下記の脂質
【化8】
又はその塩(ここで、XはSである)と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているCpGオリゴヌクレオチド(例えば、5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3';配列番号8;CpG-7909)を含み得る。好ましくは、XはSである。
【0040】
CpGオリゴヌクレオチドは、脂質に直接結合してもよい。あるいは、CpGオリゴヌクレオチドと脂質とに結合したリンカーは、GGであってもよい。CpGオリゴヌクレオチドにおいて、化合物中の全てのインターヌクレオシド基はホスホロチオエート類である(例えば、化合物中の全てのインターヌクレオシド基がホスホロチオエート類であってもよい)。
【0041】
本発明の化合物及び組成物は、治療方法に用いることができる。特に、本化合物のKRAS配列は、いくつかのがん細胞で発現しているKRASに対する免疫応答を誘導できる。従って、本発明は、対象(例えば、ヒト患者)に本発明の1つ以上の化合物又は組成物を投与することによる、対象のがんの治療方法を提供する。本発明はまた、本発明の1つ以上の化合物又は組成物を対象(例えば、ヒト患者)に投与することにより、対象においてKRASに対する免疫応答を誘導する方法を含む。様々な例において、がんは、膵臓がん、肺がん、及び大腸がんからなる群から選択される。任意に、本発明の方法は、第二の(又はさらなる)異なる治療アプローチと組み合わせて、本発明の化合物又は組成物を投与する工程をさらに含むことができる。
【0042】
また、本発明は、それぞれが、例えば、本発明の1つ以上の化合物を含む第一の容器を含み、任意に、本明細書に記載されるようなアジュバントなどのアジュバントを含む第二の容器と一緒の、キットを提供する。
【0043】
【0044】
表1の各「Amph-ペプチド」では、脂質ポリ(エチレングリコール)部位は、下記のシントンを用いて、マレイミド(MAL)-システインカップリングを介してペプチドにコンジュゲートした:
DSPE-アミド-dPEG24-アミド-dPEG24-MAL
【0045】
【0046】
本発明の化合物は、当技術分野で知られている方法を用いて、変異KRASポリペプチド、リンカー前駆体、及び脂質から調製してもよい。ある態様では、リンカー前駆体は、例えば以下のように、脂質と最初に連結される。
【化9】
アミド化反応条件は当技術分野で知られており、例えば、典型的なアミド化条件としては、EDC/DMAP、HATU/HOAt、又はHBTU/HOAtなどの試薬を使用することを含む。あるいは、カルボキシレートを、O-スクシンイミドエステル、ペントラフルオロフェニルエステル、又はテトラフルオロフェニルエステルで置換してもよい。次に、例えば下記のように、反応生成物を変異KRASポリペプチドと反応させてもよい。
【化10】
1,4-付加反応は、適当な溶媒、例えば、極性有機溶媒又は水中で行ってもよい。
【0047】
あるいは、本発明の化合物を以下のように調製してもよい。リンカー前駆体は、例えば以下のように、脂質に最初に連結されてもよい。
【化11】
次に、生成物を、変異KRASポリペプチド中のアミン基(例えば、N末端アミン)と反応させて、本発明の化合物を生成してもよい。
【化12】
【0048】
CpGオリゴヌクレオチドは、脂質に直接結合されていてもよいし、リンカーによって連結されていてもよい。この化合物は、当技術分野で知られている通常のホスホロアミダイト化学を用いて生産できる。いくつかの例では、5'末端でGGに結合しているCpGオリゴヌクレオチド又はCpGオリゴヌクレオチドを、下記の化合物
【化13】
と反応させて中間体を生産してもよく、ここで、酸化(例えば、当技術分野で知られているホスファイト酸化方法、例えば、硫化剤、例えば、3-((N,N-ジメチルアミノメチリデン)アミノ)-3H-1,2,4-ジチアゾール-5-チオン)及びシアノエチル基の加水分解により、脂質
【化14】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているCpGオリゴヌクレオチドからなる化合物(ここで、XはO又はSである)を生成してもよい。
【0049】
投与
投与される各KRASペプチドの用量は、ペプチドあたり100~5000μgの範囲であり得る(例えば、700μg/ペプチド、これは7つのペプチドのグループに対して4900gのペプチド用量をもたらすであろう)。
【0050】
アジュバントがKRASペプチドとともに投与される場合、アジュバントの投与量は、体重ベースで、0.48mg/kgと高くなり得る。例示的な投与レジメンを以下の表3に示す。
【0051】
【0052】
本発明をより完全に理解するために、以下に実施例を示す。これらの実施例は、例示のみを目的としたものであり、本発明の範囲をいかなる意味でも制限するものと解釈されるべきではない。
【実施例0053】
実施例1:アンフィフィルKRas G12Dは免疫応答を引き起こす
免疫応答を誘発することに関して、可溶性-KRas(KRas)又はアンフィフィル-KRas(aKRas)(
図6)変異配列、及びアンフィフィル-CpGアジュバント(aCpG)の有効性を調べた。この実験では、アンフィフィル-CKRasの5倍量のaCpGを使用したが、これはCpGの漸増試験から、この用量がより効果的であることが示唆されたためである。
【0054】
実験デザインは、以下の4つのグループを含み、C57BL/6マウスをリストされた化合物で免疫した(各グループn=5)。
1. KRas G12D + aCpG
2. aKRas G12D + aCpG
3. KRas G12D + pIC
4. 非免疫化
【0055】
ポリIC(pIC)をベンチマークアジュバント対照として使用した。
【0056】
アジュバントは、ペプチドストックと同様に、溶液をH2Oに溶解した。最終注入物は、1X PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で希釈した。
【0057】
aKRasペプチドは、G12D置換を有する変異配列(野生型のアミノ酸4~21-> YKLVVVGAGGVGKSALTI(配列番号9)の18mer配列を使用した。各注入には100μl中20μgを使用した。
【0058】
aCpG配列は、CpG1826配列(5'-tccatgacgttcctgacgtt-3'(配列番号10)の5'末端にグアニンが付加した配列(5'-gg tccatgacgttcctgacgtt-3';配列番号11)を、各100μl注入で5nmolの濃度で使用した。CpG1826はマウスに最適な配列であり、一方でCpG7909はヒトに最適であり、マウスでは活性が低い。CpG1826及びCpG7909は、同じCpGクラス(クラスB)にあり、一般に、それぞれの種において同様の活性プロファイルを有する。
【0059】
50μgのpICを各100μlの注入に使用した。
【0060】
プライマー免疫は、尾基部に皮下(s.c.)投与し(0日目)、2週間後(14日目)に1回のブースター投与を行った。ブースター用量投与から8日後(21日目)に、標準プロトコルを用いて、脾臓細胞のIFNγのELISpot分析を行った。脾臓細胞(10
6細胞/ウェル)を、5μg/ウェルのG12D配列18mer(aa4-21)-> YKLVVVGA
DGVGKSALTI(配列番号1)で活性化した。
図1に示すように、aCpGと組み合わせたaKRasは脾臓細胞を活性化したが、aCpGと組み合わせた可溶性KRas、及び未処理と可溶性KRas及びpIC対照群は活性化しなかった。
【0061】
実施例2:アンフィフィルKRas G12R及びG12Vは免疫応答を引き起こす
免疫応答を誘発することに関して、追加の可溶性-KRas(KRas)又はアンフィフィル-KRas(aKRas)変異配列、及びアンフィフィル-CpGアジュバント(aCpG)又は可溶性-CpG(CpG)の有効性を調べた。
【0062】
実験デザインは、以下の7つのグループを含み、C57BL/6マウスをリストされた化合物で免疫した(各グループn=5)。
1. KRas G12R + CpG
2. KRas G12V + CpG
3. KRas G12R + pIC
4. KRas G12V + pIC
5. aKRas G12R + aCpG
6. aKRas G12V + aCpG
7. 非免疫化
【0063】
ペプチドストック溶液と同様にアジュバントをH2Oに溶解させる。最終注入物は、1X PBSで希釈する。
【0064】
aKrasペプチドは、G12R/V置換を有する変異配列(野生型のアミノ酸4~21-> YKLVVVGAGGVGKSALTI(配列番号9)の18mer配列を使用した。各注入には100μl中20μgを使用した。
【0065】
aCpG配列は、CpG1826配列(5'-tccatgacgttcctgacgtt-3'(配列番号10)の5'末端にグアニンが付加した配列(5'-gg tccatgacgttcctgacgtt-3';配列番号11)を、各100μl注入で5nmolの濃度で使用した。
【0066】
50μgのpICを各100μl注入に使用した。
【0067】
プライマー免疫は、尾基部に皮下(s.c.)投与し、2週間後(14日目)に1回のブースター投与を行った。
【0068】
ブースター用量投与から7日後(21日目)に、標準プロトコルを用いて、脾臓細胞のIFNγのELISpot分析を行った。脾臓細胞(106細胞/ウェル)を、5μg/ウェルのG12V配列18mer(aa4-21)-> YKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号2)、又はG12R配列18mer(aa4-21)-> YKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号3)のいずれかで活性化した。
【0069】
図2に示すように、aCpGと組み合わせたaKRas G12R及びG12Vの両方は脾臓細胞を活性化したが、aCpGと組み合わせた可溶性KRasG12R及びG12Vのいずれも、及び未処理と可溶性KRas及びpIC対照群は活性化しなかった。
【0070】
実施例3:アンフィフィルKRas G12DはCD8+ T細胞の免疫応答を引き出す
野生型B6マウスでは、KRas特異的CD8+ T細胞応答を引き起こすことは困難である。ヒトHLA遺伝子A2.1を導入したB6マウスを、KRas G12D抗原の可溶性又はアンフィフィル-コンジュゲート型、及びアジュバント(CpG又はaCpG)で免疫した。A2.1アレルは、ヒトにおいてKRasペプチドに対する応答をマウントすることが知られている。
【0071】
実験デザインは、以下の4つのグループを含み、B6 HLA-A2.1 Tgマウスをリストされた化合物で免疫した(各グループn=5)。
1. KRas 野生型 + CpG
2. KRas 12D + CpG
3. aKRas 12D + aCpG
4. 非免疫化
【0072】
ペプチドストック溶液と同様にアジュバントをH2Oに溶解させた。最終注入物は、1X PBSで希釈した。
【0073】
aKRasペプチドは、G12D置換を有する変異配列(野生型のアミノ酸4~21-> YKLVVVGAGGVGKSALTI(配列番号9)の18mer配列のSEQアミノ酸4~21)使用した。各注入には100μl中20μgを使用した。
【0074】
aCpG配列は、CpG1826配列(5'-tccatgacgttcctgacgtt-3'(配列番号10)の5'末端にグアニンが付加した配列(5'-gg tccatgacgttcctgacgtt-3';配列番号11)を、各100μl注入で5nmolの濃度で使用した。
【0075】
ワクチンを雌マウスの尾基部の両側に片側50μlの濃度で皮下投与した。2回のブースター投与を2週間間隔で行った。
【0076】
末梢血単核球(PBMCs)のIFNγの細胞内サイトカイン染色(ICS)分析、及び脾臓細胞のIFNγについてのELISpot分析を、それぞれ2回目及び3回目のブースター投与の7日後に、標準的なプロトコルを用いて行った。
【0077】
PBMCs/脾臓細胞(10
6細胞/ウェル及び2x10
6細胞/ウェル)を、以下に示すように、5μg/ウェルの配列番号1又は配列番号12~20の1つのいずれかで活性化した。
【0078】
特異的変異ペプチドを、対応する18merで免疫されたマウスにのみ与える。
【0079】
図3は、aKRas G12DとaCpGの組み合わせで免疫したマウスのKRas特異的CD8
+ T細胞応答を示す。この応答は、CpGと組み合わせた可溶性KRas G12D、又はCpGと組み合わせた可溶性野生型KRasでは見られていない。
【0080】
実施例4:高抗原濃度及び異なる投与間隔における解析
抗原の濃度を20μgから50μgに増加させ、隔週(bw)又は毎週(w)の投与間隔で試験した。
【0081】
実験デザインは、以下の5つのグループを含み、C57BL/6マウスをリストされた化合物で免疫した(各グループn=5)。
1. KRas 12D + CpG1826 (bw)
2. KRas 12D + CpG1826 (w)
3. aKRas 12D + aCpG1826 (bw)
4. aKRas 12D + aCpG1826 (w)
5. 非免疫化
【0082】
ペプチドストック溶液と同様にアジュバントをH2Oに溶解させた。最終注入物は、1X PBSで希釈した。
【0083】
aKRasペプチドは、G12D置換を有する変異体配列(野生型のアミノ酸4~21-> YKLVVVGAGGVGKSALTI(配列番号9))の18mer配列を使用した。各注入には100μl中50μgを使用した。
【0084】
aCpG配列は、CpG1826配列(5'-tccatgacgttcctgacgtt-3'(配列番号10)の5'末端にグアニンが付加した配列(5'-gg tccatgacgttcctgacgtt-3';配列番号11)を、各100μl注入で5nmolの濃度で使用した。
【0085】
プライマー免疫は、尾基部に皮下(s.c.)投与し、2週間後に1回のブースター投与を行った。
【0086】
ブースター用量投与から7日後に、標準プロトコルを用いて、IFNγのELISpot分析、及びIL6、IL10、IL12、TNFα、IFNγ、及びMCP1のCBA(サイトメトリックビーズアレイ)分析を脾臓細胞で行った。脾臓細胞(10
6細胞/ウェル)を、以下に示すように、5μg/ウェルの配列番号1又は配列番号12~21の1つのいずれかで活性化した。
【0087】
特定の変異ペプチドを、対応する18merで免疫されたマウスにのみ与えた。
【0088】
別々のプレートを、短い(9mer及び10mer)又は長い(17mer及び18mer)ペプチド刺激のいずれかのために調製した。「非免疫化」対照マウスからの細胞を、全ての刺激物で刺激した。
【0089】
図4は、aKRas G12DとaCpGの組み合わせで免疫されたマウスのKRas特異的CD8
+T細胞応答(9mer)及びCD8
+又はCD4
+T細胞応答(18mer)を示す。この応答は、CpGと組み合わせた可溶性KRas G12D又は未処理の対照では見られていない。
【0090】
実施例5:KRASアンフィフィルのさらなる分析
上記実施例に記載されているように、aCpGアジュバントを伴う変異KRASペプチド-アンフィルワクチンの潜在的な免疫原性は、C57BL/6マウスモデルにおいて実証されている。この研究及びさらなる研究は、表4に要約されており、MHC結合の種差に起因して、マウスは歴史的に変異型KRASペプチドに対する免疫学的応答がヒトよりも低いことを示している。
・変異KRAS Amph-ペプチド(G12D(
図6)、G12R、及びG12V)の皮下投与は、ELISPOT及びサイトカインビーズアレイによって同定されるマウスのKRAS特異的脾臓T細胞の誘導に効果的である(
図1、
図2、
図4、及び
図5)、
・アジュバントとしてのaCpGと組み合わせた変異KRAS Amph-ペプチド(G12D、G12R、及びG12V)は、アジュバントとしての可溶性CpG又はポリイノシニック:ポリシチジリック酸(poly IC)と組み合わせた変異KRASペプチドよりも、KRAS特異的脾臓T細胞の誘導に効果的である(
図1、
図2、及び
図5)、及び
・長い(18-mer)又は最小(9-mer)ペプチドエピトープで再刺激したときのエフェクターサイトカイン応答を通して実証されたように(
図4)、aCpGと組み合わせた変異KRAS Amph-ペプチド(G12D)は、可溶性CpGと組み合わせた可溶性KRASペプチドよりも、CD4及びCD8の両方のT細胞応答を誘発するのに有効である。
【0091】
【0092】
他の実施形態
本発明は、その特定の実施形態に関連して記載されてきたが、さらなる改変が可能であり、本願は、一般に、本発明の原理に従う本発明のあらゆる変形、使用、又は適応をカバーすることを意図していることが理解され得、本発明が属する技術分野における既知又は慣例の範囲内にある、本明細書の開示からのそのような逸脱を含むものであり、本明細書に先に述べた本質的な特徴に適用され得るものである。
【0093】
全ての刊行物、特許、及び特許出願は、それぞれの個々の刊行物、特許、又は特許出願が、その全体が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0094】
本発明のいくつかの実施形態は、以下の番号を付したパラグラフ内に記載されている。
【0095】
1. 変異KRAS配列及び脂質を含む化合物であって、上記変異KRAS配列はリンカーによって脂質にコンジュゲートし、並びに(i)上記リンカーは1つ以上のポリエチレングリコールブロックを含み、(ii)上記脂質は1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)であり、且つ(iii)上記変異KRAS配列はYKLVVVGADGVGKSALTI (SEQ ID NO:23), YKLVVVGAVGVGKSALTI (SEQ ID NO:24), YKLVVVGARGVGKSALTI (SEQ ID NO:25), YKLVVVGAAGVGKSALTI (SEQ ID NO:26), YKLVVVGASGVGKSALTI (SEQ ID NO:27), YKLVVVGACGVGKSALTI (SEQ ID NO:28), YKLVVVGATGVGKSALTI (SEQ ID NO:29), and YKLVVVGAGDVGKSALTI (SEQ ID NO:30)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む又はからなる、化合物。
【0096】
2. 変異KRAS配列及び脂質を含む化合物であって、上記変異KRAS配列はリンカーによって脂質にコンジュゲートし、並びに(i)上記リンカーは1つ以上のポリエチレングリコールブロックを含み、(ii)上記脂質は1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)であり、且つ(iii)上記変異KRAS配列はCYKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号1)、CYKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号2)、CYKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号3)、CYKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号4)、CYKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号5)、CYKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号6)、CYKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号22)、及びCYKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号7)からなる群から選択されるアミノ酸配列含む又はからなる、化合物。
【0097】
3. 上記変異KRAS配列が、そのN末端で、システイン-マレイミド連結を介してリンカーにコンジュゲートしている、パラグラフ1又は2の化合物。
【0098】
4. 上記リンカーが、ポリエチレングリコールの48の繰り返し単位を含む、パラグラフ1~3のいずれか1つの化合物。
【0099】
5. 上記変異KRAS配列が、そのN末端で、下記の構造
【化15】
にコンジュゲートしている、パラグラフ1又は2の化合物。
【0100】
6. パラグラフ1~5の1つ以上の化合物、及び薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【0101】
7. 上記組成物が、(1)アミノ酸配列YKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号23)を含む化合物、(2)アミノ酸配列YKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号24)を含む化合物、(3)アミノ酸配列YKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号25)を含む化合物、(4)アミノ酸配列YKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号26)を含む化合物、(5)アミノ酸配列YKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号27)を含む化合物、(6)アミノ酸配列YKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号28)を含む化合物、又はアミノ酸配列YKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号29)を含む化合物、及び(7)アミノ酸配列YKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号30)を含む化合物を含む、パラグラフ6の組成物。
【0102】
8. 上記組成物が、(1)アミノ酸配列CYKLVVVGADGVGKSALTI(配列番号1)を含む化合物、(2)アミノ酸配列CYKLVVVGAVGVGKSALTI(配列番号2)を含む化合物、(3)アミノ酸配列CYKLVVVGARGVGKSALTI(配列番号3)を含む化合物、(4)アミノ酸配列CYKLVVVGAAGVGKSALTI(配列番号4)を含む化合物、(5)アミノ酸配列CYKLVVVGASGVGKSALTI(配列番号5)を含む化合物、(6)アミノ酸配列CYKLVVVGACGVGKSALTI(配列番号6)を含む化合物、又はアミノ酸配列CYKLVVVGATGVGKSALTI(配列番号22)を含む化合物、及び(7)アミノ酸配列CYKLVVVGAGDVGKSALTI(配列番号7)を含む化合物を含む、パラグラフ6の組成物。
【0103】
9. 上記組成物は、下記の脂質
【化16】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる化合物(ここで、XはO又はSである)をさらに含む、パラグラフ6~8のいずれか1つの組成物。
【0104】
10. 上記組成物が、700μgの各化合物を含む、パラグラフ6の組成物。
【0105】
11. ヒト患者のがんの治療方法であって、パラグラフ6~10のいずれか1つの組成物を患者に投与する工程を含む、方法。
【0106】
12. アジュバントを投与する工程をさらに含む、パラグラフ11の方法。
【0107】
13. 上記アジュバントが、CpGヌクレオチド配列を含む、パラグラフ12の方法。
【0108】
14. 上記CpGヌクレオチド配列が、5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)を含む、パラグラフ13の方法。
【0109】
15. 0.1mg、0.5mg、又は2.5mgの上記アジュバントを投与する、パラグラフ12~14のいずれか1つの方法。
【0110】
16. 上記方法は、下記の脂質
【化17】
又はその塩、5'末端で、と結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる化合物(ここで、XはO又はSである)を上記患者に投与する工程をさらに含む、パラグラフ10の方法。
【0111】
17. 上記ヌクレオチド配列が、上記脂質に結合している、パラグラフ9の組成物又はパラグラフ16の方法。
【0112】
18. 上記方法は、下記の脂質
【化18】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる0.1mg、0.5mg、又は2.5mgの上記化合物(ここで、XはO又はSである)を投与する、パラグラフ16又は17の方法。
【0113】
19. 上記がんが、膵臓がん、肺がん、又は大腸がんである、パラグラフ11~16又は18のいずれか1つの方法。
【0114】
20. 5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)のヌクレオシドを連結する全てのインターヌクレオシド基がホスホロチオエート類である、パラグラフ11~16又は18のいずれか1つの方法。
【0115】
21. (i)パラグラフ1~5のいずれか1つの化合物、又はパラグラフ6~8のいずれか1つの組成物、及び(ii)下記の脂質
【化19】
又はその塩と、5'末端で、結合又はリンカーによって連結しているヌクレオチド配列5'-TCGTCGTTTTGTCGTTTTGTCGTT-3'(配列番号8)からなる化合物(ここで、XはO又はSである)を含む、キット。
【0116】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に記載されている。