(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050652
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】均一な充填剤入り糸
(51)【国際特許分類】
D01F 6/04 20060101AFI20240403BHJP
D01F 6/46 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
D01F6/04 B
D01F6/46 A
D01F6/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024007255
(22)【出願日】2024-01-22
(62)【分割の表示】P 2019567678の分割
【原出願日】2018-07-13
(31)【優先権主張番号】17181449.4
(32)【優先日】2017-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】522355798
【氏名又は名称】アビエント プロテクティブ マテリアルズ ビー. ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Avient Protective Materials B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】シメリンク, ジョセフ, アーノルド, ポール マリア
(72)【発明者】
【氏名】ハッカー, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】マリッセン, ロエロフ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】改善された強度効率を有する充填剤入りマルチフィラメント糸を提供する。
【解決手段】本発明は、糸中の充填剤比χが、マルチフィラメント糸中に存在するUHMWPEのIV
の0.004倍よりも大きく、すなわちχ≧0.004g/dL×IVy
Hとなり、充填剤入りマルチフィラメント糸のテナシティ(TEN、単位cN/dtex)が、
となる、又は糸中の充填剤入りモノフィラメントのテナシティが
となる、本発明による充填剤入りマルチフィラメント糸に関する。本発明は、さらに上記マルチフィラメント糸及び上記マルチフィラメント糸を含む物品の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤入りマルチフィラメント糸であって、
<20dL/gの固有粘度
【数1】
を有するUHMWPEと、
充填剤の質量の、UHMWPE及び充填剤の総質量に対する比(χ)が0.02~0.50の間となる量の、最大20μmの数平均直径を有する充填剤と、
を含み、
【数2】
であり、
前記充填剤入りマルチフィラメント糸のテナシティ(TEN)が、
【数3】
となる、充填剤入りマルチフィラメント糸。
【請求項2】
充填剤入りマルチフィラメント糸であって、
<20dL/gの固有粘度
【数4】
を有するUHMWPEと、
充填剤の質量の、UHMWPE及び充填剤の総質量に対する比(χ)が0.02~0.50の間となる量の、最大20μmの数平均直径を有する充填剤と、
を含み、
【数5】
であり、
前記充填剤入りマルチフィラメント糸中の充填剤入りモノフィラメントのテナシティが、
【数6】
となる、充填剤入りマルチフィラメント糸。
【請求項3】
充填剤の質量の、UHMWPE及び充填剤の総質量に対する比(χ)が0.04~0.40の間である、請求項1又は2に記載の充填剤入りマルチフィラメント糸。
【請求項4】
【数7】
である、請求項1~3のいずれか一項に記載の充填剤入りマルチフィラメント糸。
【請求項5】
前記糸が少なくとも5.0cN/dtexのテナシティを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の充填剤入りマルチフィラメント糸。
【請求項6】
前記充填剤の直径が少なくとも1μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の充填剤入りマルチフィラメント糸。
【請求項7】
前記充填剤の直径が最大16μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の充填剤入りマルチフィラメント糸。
【請求項8】
前記充填剤が少なくとも2.0のアスペクト比を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の充填剤入りマルチフィラメント糸。
【請求項9】
【数8】
が、最大18dL/gである、請求項1~8のいずれか一項に記載の充填剤入りマルチフィラメント糸。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の充填剤入りマルチフィラメント糸の製造方法であって、
a)24dL/g未満の固有粘度
【数9】
を有するUHMWPEを提供するステップと、
b)最大20μmの直径を有する充填剤を提供するステップと、
c)前記UHMWPEの溶媒中の溶液を調製するステップであって、前記溶液が、充填剤の質量の、UHMWPE及び充填剤の総質量に対する比(χ)が0.02~0.50の間となる量の前記充填剤を含むステップと、
d)マルチオリフィスダイプレートを介して、ステップc)で得られた前記溶液を紡糸して、溶媒を含む充填剤入りマルチフィラメント糸を形成するステップと、
e)前記充填剤入り糸を少なくとも20の全延伸比で延伸する前、最中、又は後に、ステップd)の前記充填剤入り糸から前記溶媒を少なくとも部分的に除去して、前記充填剤入りマルチフィラメント糸を得るステップと、
を含み、充填剤の量が
【数10】
となるように選択される、製造方法。
【請求項11】
χが0.04~0.40の間である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
【数11】
である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
【数12】
が20dL/g未満である、請求項10、11、又は12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載の充填剤入りマルチフィラメント糸を含む、物品。
【請求項15】
前記物品が、釣り糸、漁網、接地網、カーゴネット、カーテン、凧糸、デンタルフロス、テニスラケットのガット、カンバス、織布、不織布、ウェビング、電池のセパレータ、医療機器、キャパシタ、圧力容器、ホース、アンビリカルケーブル、自動車艤装、動力伝達ベルト、建築構成材料、耐切創物品、防刃物品、耐切傷物品、保護手袋、複合スポーツ用品、スキー、ヘルメット、カヤック、カヌー、自転車、及びボートの船体、スピーカーのコーン、高性能電気絶縁、レードーム、帆、並びに地盤用シートからなる群から選択される、請求項14に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、最大20dL/gの固有粘度を有するUHMWPEと、充填剤の質量の、UHMWPE及び充填剤の総質量に対する比(χ)が0.02~0.50の間となるような量の最大20μmの数平均直径を有する充填剤とを含む、充填剤入りマルチフィラメント糸に関する。さらに、本発明は、上記充填剤入りマルチフィラメント糸の製造方法を対象とする。本発明は、充填剤入りマルチフィラメント糸の種々の用途における使用にも関する。
【0002】
このような充填剤入りマルチフィラメント糸は、例えば文献の国際公開第2008046476号パンフレット及び国際公開第2013149990号パンフレットによって既に知られている。これらの文献には、高い耐切創性を有する糸であって、糸が少なくとも2.5のモース硬度を有する硬質成分を含み、硬質成分が最大25μmの平均直径を有する複数の硬質繊維である糸が開示されている。しかし、これらの文献の耐切創糸は、増量した充填剤の存在による実質的な影響を糸のテナシティが受ける充填剤入りマルチフィラメント糸が得られる使用UHMWPEのIVに基づくと低い強度効率を示す。従来技術の糸は、限定された強度効率を有することがあり、充填剤が少量に限定される。
【0003】
したがって本発明の目的は、上記の欠陥を有しない充填剤入りマルチフィラメント糸を提供することである。特に本発明の目的の1つは、改善された強度効率を有し、及び/又は同等の効率において充填剤含有量が増加した、充填剤入りマルチフィラメント糸を提供することである。
【0004】
この目的は、糸中の充填剤比χが、マルチフィラメント糸中に存在するUHMWPEのIV
【数1】
の0.004倍よりも大きく、すなわち
【数2】
となり、充填剤入りマルチフィラメント糸のテナシティ(TEN、単位cN/dtex)が、
【数3】
となる、本発明による充填剤入りマルチフィラメント糸によって達成される。
【0005】
本発明の糸の利点は、同様の強度効率において、より多い充填剤含有量を実現でき、それによって、耐切創性、又は糸中に充填剤が存在することで得られる別の性質、例えば着色適性、色強度、及び密度がさらに増加した充填剤入りマルチフィラメント糸を得ることができることである。本発明の糸は改善された機械的性質及び物理的性質も有する。さらに、驚くべきことに本発明の糸は、例えばコーティングプロセス、又は糸の巻き取り及び/又は高速の糸の輸送を含むプロセスにおけるような速い速度において特に、改善された取扱性を示すことが分かった。このことは、本発明による充填剤入りマルチフィラメント糸では、糸から物品の製造及び加工中に、フィラメントの破壊と引き続く糸の破壊とが限定又は防止され、及び/又はダスト放出量が減少し、製造中の品質の問題及び中断時間が回避されるという点で観察される。
【0006】
本発明の状況では、マルチフィラメント糸、又は単純に糸は、複数、すなわち少なくとも2本、好ましくは少なくとも5本の繊維を含む細長い物体を意味するものと理解される。ここで、繊維は、長さ寸法がそれらの横寸法、例えば幅及び厚さよりもはるかに大きい細長い物体であると理解される。繊維という用語は、モノフィラメント、リボン、ストリップ、又はテープなどを含み、規則的又は不規則な断面を有することができる。繊維は、フィラメントとして当技術分野において知られている連続長さを有することができ、又は当技術分野においてステープル繊維として知られている不連続な長さを有することができる。
【0007】
本発明は、
固有粘度
【数4】
が<20dL/gであるUHMWPEと、
充填剤の質量の、UHMWPE及び充填剤の総質量に対する比(χ)が0.02~0.50の間となるような量の最大20μmの平均直径を有する充填剤と、
を含む充填剤入りマルチフィラメント糸であって、
【数5】
であり、
これによって、充填剤入りマルチフィラメント糸の充填剤入りモノフィラメントのテナシティ(ten、単位cN/dtex)が、
【数6】
となり、好ましくは充填剤入りモノフィラメントのテナシティが、
【数7】
となる、充填剤入りマルチフィラメント糸にも関する。充填剤入りモノフィラメントを含む充填剤入りマルチフィラメント糸のテナシティ(TEN)は、
【数8】
となることができる。上記充填剤入りマルチフィラメント糸は、改善された強度効率も示す、及び/又は同等の効率において充填剤含有量が増加し、それによって、耐切創性、又は別の性質、例えば着色適性、色強度、及び密度がさらに増加した充填剤入りマルチフィラメント糸が得られる。さらに、上記糸は、例えばコーティングプロセス、又は糸の巻き取り及び/又は高速の糸の輸送を含むプロセスにおけるような速い速度において特に、改善された取扱性も示す。このことは、糸から物品の製造及び加工中に、本発明による充填剤入りマルチフィラメント糸では、フィラメントの破壊と引き続く糸の破壊とが限定又は防止され、及び/又はダスト放出量が減少し、製造中の品質の問題及び中断時間が回避されるという点で観察される。
【0008】
本発明の充填剤入りマルチフィラメント糸は、ある固有粘度
【数9】
を有するUHMWPEを含む。本明細書においてUHMWPEは、135℃においてデカリン中の溶液に対して測定される固有粘度(IV)が少なくとも5dL/gであるポリエチレンであると理解される。好ましくは、UHMWPEのIVは、少なくとも6dL/g、より好ましくは少なくとも7dL/g、最も好ましくは少なくとも8dL/gである。好ましくは、IVは、最大20dL/g、より好ましくは最大18dL/g、さらにより好ましくは最大16dL/g、最も好ましくは最大14dL/gである。
【0009】
本発明による充填剤入りマルチフィラメント糸は、マルチフィラメント糸の繊維中に存在する充填剤及びUHMWPEの全重量を基準として、好ましくは2.0重量%~50重量%、好ましくは4.0重量%~40重量%、さらに好ましくは5.0重量%~35重量%、さらにより好ましくは6.0重量%~30重量%の充填剤を含む。或いは充填剤の量は、マルチフィラメント糸の繊維中に存在する充填剤の質量の、UHMWPE及び充填剤の総質量に対する比である充填剤比χとして表される。上記に従うと、上記比χは、0.02~0.50の間、好ましくは0.04~0.40の間、さらに好ましくは0.05~0.35の間、さらにより好ましくは0.06~0.30の間である。
【0010】
本発明の重要な態様の1つは、製造方法中、UHMWPEと充填剤量とを適切に選択すると、UHMWPEの充填剤入りマルチフィラメント糸の強度効率を増加させることができるという発見であり、特に、この方法に使用される充填剤の量は、充填剤比(χ)が、この方法中に使用されるUHの固有粘度
【数10】
の少なくとも0.003倍となる、言い換えると
【数11】
となる量であるという点である。この方法中に使用される充填剤の量は、最終製品中、例えば糸又は物品の中の充填剤量と実質的に同じである。好ましくは充填剤量及びUHMWPEは、
【数12】
、より好ましくは
【数13】
、さらにより好ましくは
【数14】
、最も好ましくは
【数15】
となるべきである。紡糸方法中に使用される充填剤比とUHMWPEのIVとの間のこのような関係において、予期せぬことに、使用されるUHMWPEの強度効率がより高くなることを観察した。充填剤入りマルチフィラメント糸が得られることで、従来技術に記載の量よりも実質的に多い、より多い充填剤量でマルチフィラメント糸の安定な製造が可能となる。紡糸方法に使用されるUHMWPEの固有粘度の、充填剤比に対する関係は、その上限において特に限定されないにも関わらず、充填剤量と、UHMWPEの
【数16】
とは、
【数17】
、好ましくは
【数18】
となるべきである。
【0011】
充填剤含有量及びUHMWPEを適切に選択することで、改善された強度効率を有する糸が得られる。本明細書において、強度(又はテナシティ)効率は、マルチフィラメント糸の実現される強度(テナシティ、TEN、単位cN/dtex)、又はマルチフィラメント糸中のモノフィラメントの実現される強度(ten、cN/dtex)を、上記糸又はモノフィラメント中に存在するUHMWPEの固有粘度
【数19】
で割ったものと理解され、他の場合には、それぞれ
【数20】
又は
【数21】
の比として表される。充填剤なしの糸の場合、このような効率は典型的には0.5~1.5の範囲内であり、これによると、より高い効率は、より最適化された製造方法を示している。表1及び
図1中のデータから確認できるように、製造方法中に充填剤が存在すると、強度効率に実質的に影響し、すなわち強度効率が低下する。
【0012】
ここで本発明は、強度効率と充填剤含有量との関係、すなわち種々の充填剤含有量において実現される強度(テナシティ)が驚くほど優れているマルチフィラメント糸及び方法を記載している。上記マルチフィラメント糸は、
図1中に点線で示されるように、式
【数22】
で表され、又は
【数23】
と書かれる。好ましくは、充填剤入りマルチフィラメント糸のテナシティは
【数24】
、より好ましくは
【数25】
、最も好ましくは
【数26】
となり、これらも
図1中に破線で示されている。本発明は、充填剤入りマルチフィラメント糸の充填剤入りモノフィラメントのテナシティ(ten、単位cN/dtex)が
【数27】
となることも記載しており、このようなモノフィラメントを含むマルチフィラメント糸及び糸の製造方法も、驚くべきことに、強度効率と充填剤含有量との関係、すなわち種々の充填剤含有量において実現される強度(テナシティ)が優れている。
【0013】
本発明の糸の製造方法中、UHMWPEは、熱的、機械的、及び化学的な劣化の組合せが生じて、その結果としてUHMWPEの固有粘度が低下する。したがって、本発明の糸中に存在するUHMWPEの固有粘度
【数28】
は、製造方法に供給されるUHMWPEの固有粘度
【数29】
とは異なり、より小さい。実験的には、この製造方法中のIVの低下は25~40%のレベルであるが、ポリマー濃度、充填剤含有量、溶媒の種類、処理温度などの多数のパラメータによって決定されることが明らかとなった。したがって、本発明の一実施形態では、マルチフィラメント糸は、充填剤量χ、及び固有粘度
【数30】
を有するUHMWPEを、
【数31】
となるように含む。好ましくは、充填剤量及びUHMWPEのIVは、
【数32】
、より好ましくは
【数33】
、さらにより好ましくは
【数34】
、及び最も好ましくは
【数35】
となるべきである。
【0014】
本発明による充填剤入りマルチフィラメント糸が、糸の性質の均一性の増加、特に、糸中の個別のフィラメントのタイターのより小さなばらつき、糸中の個別のフィラメントのテナシティのより小さなばらつき、及び/又は糸の長さに沿った糸のテナシティのより小さなばらつきを示すことができることをさらに確認した。
【0015】
したがって、本発明の好ましい一実施形態は、上記糸の(個別の)フィラメント間の線密度(dpf)の変動係数、以降
【数36】
が最大12%である、本発明によるマルチフィラメント糸であり、ここで糸の
【数37】
は、10個の代表的なの長さのある番号に対応する線密度値x(上記長さのそれぞれは、上記糸の無作為に抽出された異なるフィラメントに対応する)から、式1
【数38】
を用いて求められ、式中、x
iは、研究下の10個の代表的な長さのいずれか1つの線密度であり、
【数39】
は、上記n=10の代表的な長さのn=10の測定線密度にわたって平均された線密度である。好ましくは、本発明の糸の
【数40】
は10%未満、より好ましくは8%未満である。このような減少した
【数41】
の値を有する充填剤入りマルチフィラメント糸は、例えば、以下に説明されるような本発明の方法を用いて得られる。
【0016】
本発明の別の好ましい一実施形態は、上記糸の(個別の)フィラメント間のテナシティ(ten)の変動係数、以降
【数42】
が最大12%であるマルチフィラメント糸であり、ここで糸の
【数43】
は、10個の代表的な長さのある番号に対応するテナシティ値y(上記長さのそれぞれは、上記糸の無作為に抽出された異なるフィラメントに対応する)から、式2
【数44】
を用いて求められ、式中、y
iは、研究下の10個の代表的な長さのいずれか1つのテナシティであり、
【数45】
は、上記n=10の代表的な長さのn=10の測定テナシティにわたって平均されたテナシティである。好ましくは、本発明の糸の
【数46】
は10%未満、より好ましくは8%未満である。このような減少した
【数47】
の値を有する充填剤入りマルチフィラメント糸は、例えば、以下に説明されるような本発明の方法を用いて得られる。
【0017】
本発明のさらに別の好ましい一実施形態は、マルチフィラメント糸のテナシティ(TEN)の変動係数、以降
【数48】
が最大1.0%であるマルチフィラメント糸であり、ここでマルチフィラメント糸の
【数49】
は、上記マルチフィラメント糸から無作為に抽出された5つの代表的な糸の長さのある番号に対応する糸のテナシティ値zから、式3
【数50】
を用いて求められ、式中、z
iは、研究下の5つの代表的な糸の長さのいずれか1つのテナシティであり、
【数51】
は、上記n=5の代表的な糸の長さのn=5の測定テナシティにわたって平均された平均の糸のテナシティである。好ましくは、本発明の糸の
【数52】
は0.8%未満、より好ましくは0.6%未満である。このような減少した
【数53】
の値を有する充填剤入りマルチフィラメント糸は、例えば、以下に説明されるような本発明の方法を用いて得られる。本発明のこの実施形態は、典型的には
【数54】
の値が報告され、製造方法の一貫性を示しているという点で、本発明の商業的妥当性を示している。
【0018】
以上の実施形態において、代表的な糸の長さ及び1つのフィラメントの代表的なフィラメント長さは、同一の製造期間で得られる糸又はフィラメントの長さ、すなわち製造中又は製造後の数百メートルの試料であり、ある(商業的な)生産工程にわたって及ぶ長さではないと理解されたい。したがって、糸の代表的なフィラメント長さは、上記糸の1つの特定の部分から無作為に選択された試料であり、異なる糸の部分から選択された試料ではないし、ある生産工程にわたって及ぶ異なる糸の部分から選択された試料でもない。
【0019】
本発明の状況において充填剤は、UHMWPEと非混和性であり、UHMWPEマルチフィラメント糸の処理条件まで実質的に固体である成分と理解される。このような充填剤は、糸の1つ以上の性質、例えばその密度、耐キュート性(cute resistance)、色、耐摩耗性などに影響を与えることがある。上記充填剤は、充填剤を含まない場合に測定される成形物品の硬度よりも高い硬度を有する材料でできた粒子を含む、又はからなることができ、有機又は無機であってよい。充填剤が有機である場合、これは好ましくは、溶融温度が少なくとも150℃、好ましくは少なくとも200℃であるポリマーである。好ましくは、この材料は無機材料である。本発明の状況では、無機材料は、共有結合の炭素原子を実質的に含まない材料であると理解され、したがって炭化水素、特にポリマー材料などのあらゆる有機材料は排除される。特に、無機材料は、金属、金属酸化物、クレイ、シリカ、シリケート、又はそれらの混合物を含む化合物を意味するが、炭化物、カーボネート、シアン化物、並びに炭素の同素体、例えばダイヤモンド、黒鉛、グラフェン、フラーレン、及びカーボンナノチューブも含む。無機材料を含む充填剤を使用することで、耐摩耗性及び耐切創性などの最適化された二次的性質を有するマルチフィラメント糸が得られる。好ましくは無機材料は、ガラス、鉱物、金属、又は炭素繊維である。
【0020】
好ましくは、充填剤の製造に使用される材料は、少なくとも2.5、より好ましくは少なくとも4、最も好ましくは少なくとも6のMoh硬度を有する。有用な材料としては、金属、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、炭化タングステンなどの金属炭化物、金属窒化物、金属硫化物、金属ケイ酸塩、金属ケイ化物、金属硫酸塩、金属リン酸塩、及び金属ホウ化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。別の例としては、二酸化ケイ素及び炭化ケイ素が挙げられる。別のセラミック材料及び上記材料の組合せを使用することもできる。
【0021】
充填剤の粒度、粒度分布、粒子直径、及び量のすべてが、耐切創性などの糸の性質を最適化しながら、均一なマルチフィラメント糸を実現するための重要なパラメータである。粒状形態の充填剤を使用することができ、一般に粉末が適切である。球状又は立方体形状の粒子などの粒子の他の寸法よりも実質的に大きい寸法を有しない粒子の場合、平均粒度は、平均粒子直径、又は短縮して直径に実質的に等しい。本発明の状況では、別の記載がなければ、平均は数(又は数値)平均を意味する。針、フィブリル、又は繊維などの実質的に引き延ばされた形状、例えば細長い又は非球状又は異方性の形状の粒子の場合、粒度は、粒子の長軸に沿った平均長さ寸法(L)を意味することができ、一方、平均粒子直径、又は本明細書において同様に記載されうるように短縮して直径は、上記引き延ばされた形状の長さ方向に対して垂直の断面の平均直径を意味する。粒子の断面が円形でない場合、平均直径(D)は、D=1.15×A1/2の式を用いて求められ、ここでAは粒子の断面積である。
【0022】
適切な粒度、直径、及び/又は長さの選択は、処理と、マルチフィラメント糸のフィラメントタイターとによって左右される。しかし、粒子は、紡糸口金の開口部を通過するのに十分な小ささであるべきである。粒度及び直径は、繊維の引張特性の明確な低下を回避するのに十分な小ささで選択することができる。粒度及び直径は、対数正規分布を有することができる。
【0023】
充填剤の平均直径は、最大20μm、好ましくは最大16μm、さらにより好ましくは最大12μmである。より小さい平均直径を有する充填剤は、糸の均一性を増加させることができ、フィラメント上の表面欠陥をより少なくすることができる。より大きい充填剤直径では、処理が困難となり、機械的強度が低下する。
【0024】
好ましくは、充填剤の平均直径は、少なくとも0.01μm、好ましくは少なくとも0.1μm、さらにより好ましくは1μm、最も好ましくは少なくとも3μmである。より大きな平均直径を有する充填剤によって、本発明の方法における成形ステップを最適化することができる。
【0025】
好ましくは、充填剤の平均直径は少なくとも0.01μm及び最大20μmであり、より好ましくは充填剤の平均直径は少なくとも0.1μm及び最大20μmであり、さらにより好ましくは充填剤の平均直径は少なくとも1μm及び最大20μmであり、最も好ましくは少なくとも3μm及び最大20μmであり、さらに最も好ましくは充填剤の平均直径は少なくとも3μm及び最大16μmであり、さらに最も好ましくは充填剤の平均直径は少なくとも3μm及び最大12μmである。
【0026】
好ましくは、充填剤の平均長さ(L)は、最大10000μm、より好ましくは最大5000μm、最も好ましくは最大3000μmである。充填剤が最大1000μm、より好ましくは最大750μm、最も好ましくは最大650μmの平均長さを有する場合、本発明の充填剤入りマルチフィラメント糸を含む本発明の物品、特に手袋は、良好な器用さを示すことも確認された。好ましくは上記硬質繊維の平均長さは、少なくとも50μm、より好ましくは少なくとも100μm、最も好ましくは少なくとも150μm、さらに最も好ましくは少なくとも200μmである。
【0027】
充填剤入りマルチフィラメント糸中に存在する充填剤は、約1のアスペクト比L/Dを有することができる粒子であってよい。充填剤入りマルチフィラメント糸中に存在する充填剤は、少なくとも3、好ましくは少なくとも5、さらに好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20のアスペクト比L/Dを有することができる繊維の形態であってよい。マルチフィラメント糸中の充填剤は、粒子及び/又は繊維を含む、又はからなることができる。
【0028】
当技術分野において周知のあらゆる充填剤を使用することができる。適切な充填剤は既に市販されており、本発明の実施例の項でも使用されている。充填剤、及び充填剤をHPPE繊維に加える方法は、当業者には周知であり、例えば、参照により本明細書に援用される文献の国際公開第9918156A1号パンフレット、参照により本明細書に援用される国際公開第2008046476号パンフレット、及び参照により本明細書に援用される国際公開第2013149990号パンフレットに記載されている。
【0029】
充填剤のアスペクト比は、充填剤の長さ、すなわち平均長さ(L)と、直径、すなわち平均直径(D)との間の比である。充填剤の平均直径及びアスペクト比は、当技術分野において周知のあらゆる方法、例えばSEM写真を用いることによって求めることができる。直径を測定するためには、ある表面上に広げた充填剤、例えば繊維自体のSEM写真を撮影し、無作為に選択した100箇所で直径を測定し、こうして求められた100個の値の算術平均を計算することができる。アスペクト比の場合は、充填剤、例えば繊維のSEM写真を撮影し、HPPE繊維の表面又はそのすぐ下に見られる充填剤、例えば繊維の長さを測定することができる。好ましくは、SEM写真は後方散乱電子を用いて行われ、それによって繊維とHPPE繊維の表面との間でより良好なコントラストが得られる。
【0030】
充填剤は、連続繊維又は紡糸繊維、特に紡糸繊維であってよい。紡糸繊維の適切な例は、当業者に周知の回転技術によって紡糸可能なガラス又は鉱物の繊維である。連続フィラメントとして繊維を製造することができ、これらは後にはるかに短い長さの繊維に粉砕される。上記粉砕プロセスによって、繊維の少なくとも一部のアスペクト比を低下させることができる。或いは、不連続なフィラメントを、例えばジェット紡糸により、場合により続いて粉砕することによって、製造することができ、本発明のマルチフィラメント糸中に使用することができる。繊維は、マルチフィラメント糸の製造方法中に、それらのアスペクト比を減少させることができる。
【0031】
充填剤として炭素繊維を使用することができる。最も好ましくは、3~10μmの間、より好ましくは4~6μmの間の直径を有する炭素繊維が使用される。炭素繊維を含む物品は、改善された導電性を示し、それにより静電気の放電が可能となる。
【0032】
充填剤入りマルチフィラメント糸のモノフィラメントとも呼ばれるフィラメントは、最大20dtex、好ましくは最大15dtex、最も好ましくは最大10dtexの線密度を有することができるが、その理由は、このようなフィラメントを含む物品は非常に可撓性であり、その物品を着用する人は高レベルの快適性が得られるからである。フィラメントは、少なくとも1dtex、より好ましくは少なくとも2dtexのタイターを有する。
【0033】
充填剤入りマルチフィラメント糸のタイターは特に制限されない。実用的な理由で、マルチフィラメント糸のタイターは、最大10000dtex、好ましくは最大6000dtex、より好ましくは最大3000dtexであってよい。好ましくは、上記糸のタイターは、50~10000dtexの範囲内、より好ましくは100~6000、最も好ましくは200~3000dtexの範囲内、さらに最も好ましくは220~800dtexの範囲内、さらに最も好ましくは100~2000dtexの範囲内である。
【0034】
本発明の充填剤入りマルチフィラメント糸は、好ましくは高性能ポリエチレン(HPPE)糸であり、好ましくはマルチフィラメント糸は、少なくとも5.0cN/dtex、より好ましくは少なくとも7.5cN/dtex、さらにより好ましくは少なくとも10.0cN/dtex、より好ましくは少なくとも12.5cN/dtex、さらにより好ましくは少なくとも15.0cN/dtex、最も好ましくは少なくとも20.0cN/dtexのテナシティを有する。
【0035】
本発明の状況では、UHMWPEは線状又は分岐であってよく、線状ポリエチレンが好ましい。本明細書において、線状ポリエチレンは、100個の炭素原子当たり1つ未満の側鎖を有する、好ましくは300個の炭素原子当たり1つ未満の側鎖を有するポリエチレンを意味するものと理解され、1つの側鎖又は分岐は一般に少なくとも10個の炭素原子を含む。側鎖は、適切にはFTIRによって測定することができる。線状ポリエチレンは、これと共重合可能なプロペン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチルペンテン、1-ヘキセン、及び/又は1-オクテンなどの最大5モル%の1つ以上の別のアルケンをさらに含むことができる。
【0036】
本発明の充填剤入りマルチフィラメント糸は、より多い充填剤量を有することができ、上記糸から製造される物品の品質に有益な最適化された強度効率を有することができる。したがって、本発明の一実施形態は、本発明の充填剤入りマルチフィラメント糸を含む物品に関する。本発明の糸を含む物品は、釣り糸、漁網、接地網、カーゴネット、カーテン、凧糸、デンタルフロス、テニスラケットのガット、カンバス、織布、不織布、ウェビング、電池のセパレータ、医療機器、キャパシタ、圧力容器、ホース、アンビリカルケーブル、自動車艤装、動力伝達ベルト、建築構成材料、耐切創物品、防刃物品、耐切傷物品、保護手袋、複合スポーツ用品、スキー、ヘルメット、カヤック、カヌー、自転車、及びボートの船体、スピーカーのコーン、高性能電気絶縁、レードーム、帆、並びに地盤用シートからなる群から選択される製品であってよいが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明による充填剤入りマルチフィラメント糸を含む布は、編成、製織、又はその他の方法により、従来の設備を使用することによって作製することができる。不織布を製造することも可能である。Ashland Cut Protection Performance Testによって測定すると、本発明による糸を含む布は、充填剤を含まない糸から製造された同じ布よりも20%高い耐切創性を有することができる。好ましくは、この布の耐切創性は、少なくとも50%高い、より好ましくは少なくとも100%高い、さらにより好ましくは少なくとも150%高い。
【0038】
本発明による充填剤入りマルチフィラメント糸は、食肉産業、金属工業、及び木材工業の分野で働く人を切断から防護することが意図される衣料品などのあらゆる種類の製品に適切に使用される。このような衣料品の例としては、手袋、エプロン、ズボン、袖口、袖などが挙げられる。可能性のある別の用途としては、トラックのサイドカーテン及びターポリン、ソフトサイドかばん、市販の室内装飾材料(commercial upholstery)、空輸貨物専用コンテナのカーテン、消防ホースの被覆などが挙げられる。驚くべきことに、本発明による糸は、例えばナイフ又はアイスピックが刺さることによるけがから防護するために使用される製品への使用にも非常に適切である。このような製品の例は、警察官が使用する生命保護のためのベストである。
【0039】
好ましくは、このような構造中、本発明による糸は、貫通のために使用される鋭利な物体が構造に最初に到達するその構造の側に配置される。
【0040】
充填剤入りマルチフィラメント糸は、当技術分野において周知の種々の方法によって得ることができ、例えば本明細書にも記載されるような、溶融紡糸法又はゲル紡糸法によって得ることができる。ゲル紡糸法は、例えば、欧州特許出願公開第0205960 A号明細書、欧州特許出願公開第0213208 A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、英国特許出願公開第2042414 A号明細書、欧州特許第020054781号明細書、欧州特許第0472114 B1号明細書、国際公開第01/73173A1号パンフレット、及びAdvanced Fiber Spinning Technology,Ed.T.Nakajima,Woodhead Publ.Ltd(1994),ISBN1-855-73182-7、並びにそれらに記載の参考文献に記載されている。ゲル紡糸は、少なくとも、紡糸溶媒中の超高分子量ポリエチレンの溶液からマルチフィラメントを紡糸するステップと;得られたフィラメントを冷却してゲルフィラメントを形成するステップと;ゲルフィラメントから紡糸溶媒を少なくとも部分的に除去するステップと;紡糸溶媒を除去する前、最中、又は後に少なくとも1つの延伸ステップでフィラメントを延伸するステップとを含むことを理解されたい。
【0041】
本発明による方法では、UHMWPEのゲル紡糸に適切なあらゆる周知の溶媒を使用することができ、以降、上記溶媒を紡糸溶媒と呼ぶ。紡糸溶媒の適切な例としては、脂肪族及び脂環式の炭化水素、例えばオクタン、ノナン、デカン、及びパラフィンに、それらの異性体を含めたもの;石油留分;鉱油;ケロシン;芳香族炭化水素、例えばトルエン、キシレン、及びナフタレンに、デカリン及びテトラリンなどのそれらの水素化誘導体を含めたもの;ハロゲン化炭化水素、例えばモノクロロベンゼン;並びにシクロアルカン又はシクロアルケン、例えばカレエン(careen)、フッ素、カンフェン、メンタン、ジペンテン、ナフタレン、アセナフタレン(acenaphtalene)、メチルシクロペンタンジエン(methylcyclopentandien)、トリシクロデカン、1,2,4,5-テトラメチル-1,4-シクロヘキサジエン、フィウオレノン(fiuorenone)、ナフチンダン(naphtindane)、テトラメチル-p-ベンゾジキノン、エチルフオレン(ethylfuorene)、フルオランテン、及びナフテノンが挙げられる。上に挙げた紡糸溶媒の組合せもUHMWPEのゲル紡糸に使用することができ、これらの溶媒の組合せも単に紡糸溶媒と記載される。本発明の方法は、デカリン、テトラリン、及び数種類のケロシングレードなどの比較的揮発性の溶媒の場合に特に有利となることが分かっている。最も好ましい実施形態では、選択される溶媒はデカリンである。紡糸溶媒は、蒸発によって、抽出によって、又は蒸発と抽出との経路の組合せによって除去することができる。
【0042】
本発明は:
a)24dL/g未満、好ましくは20dL/g未満の固有粘度
【数55】
を有するUHMWPEを提供するステップと、
b)最大20μmの平均直径を有する充填剤を提供するステップと、
c)溶媒中のUHMWPEの溶液を調製するステップであって、溶液が、充填剤の質量の、UHMWPE及び充填剤の総質量に対する比(χ)が0.02~0.50の間となる量の上記充填剤を含むステップと、
d)マルチオリフィスダイプレートを介して、ステップc)で得られた溶液を紡糸して、溶媒を含む充填剤入りマルチフィラメント糸を形成するステップと、
e)充填剤入り糸を少なくとも20の全延伸比で延伸する前、最中、又は後に、ステップd)の充填剤入り糸から溶媒を少なくとも部分的に除去して、上記充填剤入りマルチフィラメント糸を得るステップと、
による本発明による充填剤入りマルチフィラメント糸の製造方法であって、充填剤の量が
【数56】
となるように選択される、製造方法にも関する。
【0043】
UHMWPE、充填剤、及び比χの選択は、好ましくは、本発明の充填剤入りマルチフィラメント糸の実施形態を画定する上記UHMWPE、充填剤、及び割り当ての上記の好ましい実施形態により行われる。したがって、本発明の方法の好ましい一実施形態は、充填剤の質量の、UHMWPE及び充填剤の総質量に対する比(χ)が0.04~0.40の間、又は前述の別の範囲及び量となるように選択することである。本発明の方法の別の好ましい一実施形態は、
【数57】
、又は前述の好ましい制限の範囲内となるように、充填剤比χ及びUHMWPEを選択することである。
【0044】
標準的な設備、好ましくは二軸スクリュー押出機をこの方法に使用することができ、第1の部分で、ポリマーが溶媒中に溶解され、この第1の部分の終了時に、別の供給開口部を介して繊維が押出機に供給される。
【0045】
上記方法で得られた糸をステープル繊維に変換し、これらのステープル繊維を糸に加工することも可能である。
【0046】
いわゆる複合糸及びこのような糸を含む製品も本発明の範囲内に含まれる。このような複合糸は、例えば、充填剤を含むフィラメント及び/又はステープル繊維を含む1本以上の単糸と、1本以上のさらなる単糸、又はガラス、金属若しくはセラミックの糸、ワイヤ、若しくはスレッドとを含む。
【0047】
充填剤入りマルチフィラメント糸の記載の製造方法では、当技術分野における周知の手段によって、製造された糸の延伸、好ましくは一軸延伸を行うことができる。このような手段は、適切な延伸装置上の押出延伸及び引張延伸を含む。機械的引張強度及び剛性を高めるために、複数のステップで延伸を行うことができる。延伸は、好ましくは、多数の延伸ステップにおいて一軸的に行われる。第1の延伸ステップは、例えば、少なくとも1.5、好ましくは少なくとも3.0の伸張係数(延伸比とも呼ばれる)まで延伸することを含むことができる。複数の延伸によって、典型的には、最高120℃の延伸温度の場合に最大9の伸張係数を得ることができ、最高140℃の延伸温度の場合に最大25の伸張係数を得ることができ、最高150℃以上の延伸温度の場合に最大50以上の伸張係数を得ることができる。温度を上昇させて複数の延伸を行うことによって、約50以上の伸張係数に到達することができる。この結果、充填剤入りマルチフィラメント糸のテナシティは5.0cN/dtex~30cN/dtexとなり、より大きな値も実現できる。液相、ゲル相、及び固相中の個別の延伸比を一緒にして全延伸比として表すことができる。
【0048】
本発明による充填剤入りマルチフィラメント糸は、別の繊維をさらに含むことができ、この別の繊維は、フィラメント及び/又はステープル繊維の形態であってよく、記載の充填剤入りフィラメントとは異なり、例えば組成及び/又は形状が異なり、例えば非ポリマー繊維、例えばガラス繊維、炭素繊維、バサルト繊維、金属ワイヤ又はスレッド;及び/又は天然繊維、例えば綿;竹;及び/又はポリマー繊維、例えばポリアミド繊維、例えばナイロン繊維、弾性繊維、例えばエラステイン繊維、ポリエステル繊維;及び/又はこれらの別の繊維の混合物であり、あらゆる比率で存在することができる。
【0049】
以下の実施例及び比較実験によって本発明がさらに説明されるが、最初に、本発明の画定に有用な種々のパラメータを求めるために使用される方法を以下に示す。
【0050】
[方法]
・糸の線密度:糸のタイターは、100メートルの糸の重量を求めることによって測定した。糸のdtexは、量(ミリグラムの単位で表される)を10で割ることによって計算した。
・IV:UHMWPEの固有粘度は、方法ASTM D1601(2004)に準拠して135℃においてデカリン中で求められ、その溶解時間は16時間であり、2g/l溶液の量で酸化防止剤としてBHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)を含み、種々の濃度で測定した粘度をゼロ濃度まで外挿することによって求められる。
・糸の引張特性(TEN):ASTM D885Mに明記されるように、繊維の公称ゲージ長さ500mm、クロスヘッド速度50%/分、及びタイプ“Fiber Grip D5618C”のインストロン(Instron)2714クランプを用いて、マルチフィラメント糸に対するテナシティ及びモジュラスの定義及び測定が行われる。測定された応力-ひずみ曲線に基づいて、0.3~1%の間のひずみの傾きとしてモジュラスが求められる。モジュラス及び強度を計算するために、測定された張力をタイターで割る。
・フィラメントの引張特性(ten):ISO 5079:1995に準拠した手順で、TextechnoのFavimat(試験機番号37074、Textechno Herbert Stein GmbH & Co.KG,メンヒェングラートバッハ(Monchengladbach),ドイツ(Germany))に、繊維の公称ゲージ長さ50mm、クロスヘッド速度25mm/分、及び空気圧グリップ型のプレキシグラス(Plexiglas)(登録商標)から製造された標準ジョー面(4×4mm)を有するクランプを用いて、モノフィラメントに対するテナシティの定義及び測定が行われる。フィラメントには、25mm/分の速度で0.04cN/dtexの荷重をあらかじめ加えた。テナシティを計算するために、測定された張力をフィラメントの線密度(タイター)で割る。
・線密度:モノフィラメントの線密度の決定は、ASTM D1577-01に準拠して測定され、半自動式でマイクロプロセッサ制御の引張試験機(Favimat、試験機番号37074、Textechno Herbert Stein GmbH & Co.KG,メンヒェングラートバッハ,ドイツ)上で行った。
試験されるモノフィラメントの代表的な長さを、鋭利な刃で上記モノフィラメントから切断し、プレキシグラス(登録商標)から製造された2つの(4×4×2mm)ジョー面の間に2枚の紙の小片(4×4mm)で固定した。この長さは、モノフィラメントの良好な取付を保証するのに十分であり、約70mmであった。
クランプジョーの間のモノフィラメント長さの線密度は、試験機のソフトウェアで実施され試験機の取扱説明書に記載されるルーチンに従うことによって、前述のように振動計によって求められる。測定中のジョーの間の距離は50mmに維持され、モノフィラメントには2mm/分の速度で0.6cN/dtexの張力が加えられる。
・例えば欧州特許第0269151号明細書(特にその4ページ)に示されるようにNMR測定に基づく較正曲線を用いて1375cm-1における吸収を定量することにより、厚さ2mmの圧縮成形フィルムに対するFTIRによって、千個の炭素原子当たりのオレフィン系分岐の数を求めた。
・CottonscopeHD分析システムを用いることによって、平均長さ及び平均直径を測定した。
・糸の巻き取り/加工段階中に試料の下に白色紙を置き、次に20分間に収集したダスト量を測定することによって、糸の巻き取り/加工段階中のダスト放出(処理される糸の総量を基準とした処理中に放出される充填剤の量、g/kg糸)を求めた。
・糸の初期重量と、糸中のポリマーを燃焼させた後に残る糸の重量(燃焼後に得られる灰分の重量を求めることによって測定される)との間の重量差として、糸中の充填剤の量(重量%)を求めた。燃焼は、700℃の温度で糸を加熱することによって行った。
・380又は260グラム/平方メートルの布を対応する440又は220dtexの糸から編成した後、ISO 13997-1999に準拠して耐切創性を求めた。
【0051】
[実施例]
[比較実験A及びB(CE A及びCE B)]
国際公開第2013149990号パンフレットの実施例1の方法に従って、27.0dL/gの
【数58】
を有するUHMWPEを、それぞれ比較実験CE A-1、CE A-2、及びCE A-3のために、7重量%、10重量%、及び15重量%の量の、CF10ELSの商品名でLapinus,NLより販売される無機フィブリル(数平均直径7.4μm、平均長さ70μm、Moh硬度3.5)と乾式ブレンドし、次に全固形分(すなわちポリマー及び充填剤の全含有量)濃度が9重量%となるようにデカリン中に溶解させることによって、タイプAの糸を製造した。こうして得られた溶液を、ギヤポンプが取り付けられたスクリュー直径が25mmの二軸スクリュー押出機に供給した。この方法で溶液を180℃の温度まで加熱した。それぞれの穴の直径が1ミリメートルである64個の穴を有する紡糸口金から溶液を押し出した。こうして得られたフィラメントを、全体で170~200の範囲内の最大延伸係数で延伸し、熱風炉中で乾燥させた。乾燥後、フィラメントを束ねて糸にして、ボビン上に巻き付けた。繊維CE A-1の
【数59】
を22.2dL/gにおいて測定した。
【0052】
糸Aに関して記載されるようにしてタイプBの糸が得られ、相違点は、22.0dL/gの
【数60】
を有するUHMWPEと、異なる鉱物繊維量とを使用したことであった。得られたフィラメントを、全体で180~210の範囲内の係数で延伸した。繊維CE B-2の
【数61】
を15.0dL/gにおいて測定した。
【0053】
続いて、糸A及びBの引張測定を行った。CE A及びCE B糸の繊維組成、プロセス、及び性質に関する詳細を表1中に示している。
【0054】
【0055】
[実施例1(Ex.1)]
糸Aに関して記載されるようにして糸Ex 1-1及び1-2が得られ、相違点は、UHMWPEが17.0dL/gのIVを有し、それぞれ14.3重量%及び6.5重量%の充填剤を有することであった。得られたフィラメントを、全体で200~210の範囲内の係数で延伸した。得られた糸中のポリマーのIVは11.3dL/gであった。
【0056】
[実施例2(Ex.2)]
糸CE Bに使用した方法と同じ方法で糸2-1及び2-2が得られ、相違点は35重量%及び35.2重量%の充填剤を使用したことであった。延伸比はそれぞれ200~210であった。最終的な糸中のポリマーのIVは15.0dL/gであった。
【0057】
[実施例3(Ex.3)]
糸CE Bに使用した方法と同じ方法で糸3-1及び3-2が得られ、相違点は別の種類の充填剤を使用したことであった。MorganのAlphawool充填剤グレードAW03(数平均直径3.9μm、平均長さ70μm、Moh硬度9)の、15重量%の充填剤を糸3-1に使用し、25重量%を糸3-2に使用した。延伸比はそれぞれ206~209であった。最終的な糸中のポリマーのIVは14.2dL/gであった。
【0058】
【0059】
糸試料CE B-2及びEx 1-2の変動係数を測定した。結果を表3中に報告する。
【0060】
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】強度効率と充填剤含有量との関係を示している。
【外国語明細書】