(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050662
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】還元鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21B 13/00 20060101AFI20240403BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C21B13/00
F27D17/00 104Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008175
(22)【出願日】2024-01-23
(62)【分割の表示】P 2022555877の分割
【原出願日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021099027
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】盛家 晃太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 功一
(72)【発明者】
【氏名】照井 光輝
(72)【発明者】
【氏名】小澤 純仁
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酸化鉄から還元鉄を製造する際に、省エネルギー化の実現並びに、CO
2排出量の削減が可能となる方法を提供する。
【解決手段】還元鉄の製造方法は、酸化鉄を還元炉へ充填する酸化鉄充填工程と、還元炉へ還元ガスを吹込む還元ガス吹込み工程と、還元炉内で還元ガスにより酸化鉄を還元する還元工程と、還元炉の炉頂から排出される炉頂ガスの一部と水素ガスとからメタンを主成分とするガスを合成するメタン合成工程と、メタンおよび炉頂ガスの残部を原料ガスとして、該原料ガスを加熱して還元ガスに改質するガス改質工程と、が相互に接続する循環系において、循環系での操業中に不足する炭素を、還元ガス吹込み工程、還元工程、メタン合成工程およびガス改質工程のいずれか1または2以上の工程、或いは還元ガス吹込み工程、還元工程、メタン合成工程およびガス改質工程のいずれか2以上の工程間の接続部において補填しながら操業を継続する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄を還元炉へ充填する酸化鉄充填工程と、
前記還元炉へ還元ガスを吹込む還元ガス吹込み工程と、
前記還元炉内で前記還元ガスにより前記酸化鉄を還元する還元工程と、
前記還元炉の炉頂から排出される炉頂ガスの一部を酸素ガスと混合して加熱用燃料とし、該加熱用燃料を燃焼させた排ガスと水素ガスとからメタンを主成分とするガスを合成するメタン合成工程と、
前記メタンおよび前記炉頂ガスの残部を原料ガスとして、該原料ガスを前記加熱用燃料の燃焼熱で加熱して前記還元ガスに改質するガス改質工程と、
が相互に接続する循環系において還元鉄を製造する方法であって、
前記循環系での操業中に不足する炭素を、前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか1または2以上の工程、或いは前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか2以上の工程間の接続部において補填しながら前記操業を継続する、還元鉄の製造方法。
【請求項2】
前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか一方または両方の工程、或いは前記両方の工程に前記還元工程を加えた3つの工程の各接続部において、前記炭素の補填を行う、請求項1に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項3】
前記炭素は廃棄プラスチックの燃焼ガスである、請求項1または2に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項4】
前記炭素はバイオマスの燃焼ガスである、請求項1または2に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項5】
前記循環系内の窒素濃度が一定以上に上昇したら、前記メタン合成工程に供給される前記炉頂ガスの一部を前記循環系外に排出し、前記合成したメタンの代わりに天然ガスを供給して前記ガス改質工程を行う、請求項1または2に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項6】
酸化鉄を還元炉へ充填する酸化鉄充填工程と、
前記還元炉へ還元ガスを吹込む還元ガス吹込み工程と、
前記還元炉内で前記還元ガスにより前記酸化鉄を還元する還元工程と、
前記還元炉の炉頂から排出される炉頂ガスの一部から得られる主にCO、CO2、H2からなるガスと水素ガスとからメタンを主成分とするガスを合成するメタン合成工程と、
前記メタンおよび前記炉頂ガスの残部から得られる主にCO、CO2、H2からなるガスを原料ガスとして、該原料ガスをCO2フリー電力で又は加熱用燃料を併用して加熱して前記還元ガスに改質するガス改質工程と、
が相互に接続する循環系において還元鉄を製造する方法であって、
前記循環系での操業中に不足する炭素を、前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか1または2以上の工程、或いは前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか2以上の工程間の接続部において補填しながら前記操業を継続する、還元鉄の製造方法。
【請求項7】
前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか一方または両方の工程、或いは前記両方の工程に前記還元工程を加えた3つの工程の各接続部において、前記炭素の補填を行う、請求項6に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項8】
前記炭素は廃棄プラスチックの燃焼ガスである、請求項6または7に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項9】
前記炭素はバイオマスの燃焼ガスである、請求項6または7に記載の還元鉄の製造方法。
【請求項10】
前記循環系内の窒素濃度が一定以上に上昇したら、前記メタン合成工程に供給される前記炉頂ガスの一部を前記循環系外に排出し、前記合成したメタンの代わりに天然ガスを供給して前記ガス改質工程を行う、請求項6または7に記載の還元鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
還元鉄の製造方法、特に竪型の還元炉を用いる還元鉄の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製鉄所においては、地球環境問題や化石燃料枯渇問題を背景として、省エネルギー化が強く求められている。
さて、鉄の原料は主に酸化鉄であり、この酸化鉄を還元する、還元プロセスが必須となる。世界的に最も普及している、一般的な還元プロセスは高炉である。この高炉では、羽口においてコークスや微粉炭と熱風(1200℃程度に加熱した空気)中の酸素が反応し、COおよびH2ガス(還元ガス)を生成させて、これらの還元ガスにより炉中の鉄鉱石等の還元を行っている。近年の高炉操業技術の向上により、還元材比(溶銑1t製造あたりのコークス、微粉炭の使用量)は500kg/t程度まで低減したが、還元材比はすでにほぼ下限に達しており、これ以上の大幅な還元材比の低減は期待できない。
【0003】
一方、天然ガスが産出される地域では、竪型の還元炉に酸化鉄原料として焼結鉱、ペレット等の塊成化した鉄鉱石を充填し、水素及び一酸化炭素を含む還元ガスを吹き込んで酸化鉄原料を還元して還元鉄を製造する方法もよく用いられている。この方法では、還元ガスの原料ガスとして天然ガスなどが用いられる。原料ガスは、還元炉の炉頂から排出される炉頂ガスとともに加熱改質装置7内で加熱・改質されて還元ガスが生成される。生成された還元ガスは還元炉に吹き込まれ、還元炉の上部から供給される酸化鉄原料と反応し、酸化鉄が還元され、還元鉄となる。製造された還元鉄は還元炉の還元ガスが吹き込まれる位置よりも下部の領域において冷却された後、還元炉下部から排出される。
【0004】
なお、酸化鉄の還元に供した後のガスは、還元炉の炉頂から炉頂ガスとして排出され、集塵・冷却ののち、炉頂ガスの一部は改質ガスの原料として加熱改質装置7に送りこまれる。また、残り炉頂ガス(前記炉頂ガスの残部)は加熱・加熱改質装置7の燃料ガスとして用いられる。加熱・加熱改質装置7の燃料ガスとして用いられた前記残り炉頂ガスは、系外に排出されるのが一般的である。
【0005】
上記の還元鉄製造プロセスとして、例えば特許文献1には、還元炉の排ガスと天然ガスとを改質器にて改質し、主にCOとH2ガスからなる還元ガスを生成し、この還元ガスを還元炉に吹込み還元炉内の酸化鉄を還元し、還元鉄を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の還元鉄製造方法では、還元ガス製造のために天然ガスを用いるため、高炉よりは低位ではあるものの、ある程度のCO2排出が避けられないという、問題がある。このように排出されたガスはCO2を一定程度含有するため、この還元鉄製造方法ではCO2排出量を一定程度低減することはできても、0にすることはできない。
【0008】
本発明は、上記の現状に鑑みなされたものであって、酸化鉄から還元鉄を製造する際に、省エネルギー化の実現並びに、CO2排出量の削減が可能となる方途を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記の還元鉄の製造方法において、CO2排出量を0にすることを目的として、還元炉からの排ガスである炉頂ガスに外部からCO2フリーの水素を供給して再生メタンを合成し、その再生メタンを用いて還元ガスを製造することによって、省エネルギー化並びにCO2排出量の削減が可能となることを見出した。すなわち、この還元鉄の製造手法では、還元炉の排ガスに含まれるCO2やCOといった全ての気体炭素源を、再生メタンを合成する工程を通じて循環・再利用する。そのため、還元炉への酸化鉄充填工程、還元炉への還元ガス吹込み工程、還元炉内での還元工程、還元炉の炉頂ガスから再生メタンガスを生成するメタン合成工程および、再生メタンガスと炉頂ガスから還元ガスを生成するガス改質工程によって構成される、循環(再利用)系の外へCO2として排出される炭素の排出量を0とすることが可能になる。
【0010】
さらに、発明者らは、上記の還元鉄の製造手法を実際に製鉄所に適用することを検討したところ、上記の循環(再利用)系(以下、単に系ともいう)における炭素の確保が必要になることを知見するに到った。すなわち、還元炉内における還元鉄への浸炭に費やされる炭素や、還元炉からの排ガス(炉頂ガス)に随伴し除塵機で該排ガスから除去される、ダスト中に含まれる炭素等、炭素は気体以外の形態で一定量が系外へ排出される。さらに、操業トラブル発生時等の非定常時は、還元炉の排ガスの大気放散等、定常操業では行われない形で炭素を系外へ排出する可能性もある。このような系外への炭素排出を考慮すると、系内を循環する炭素量は減少する傾向にある。その場合、還元炉内の酸化鉄還元反応に占めるCOによる酸化鉄還元反応の割合が減少し、H2による反応の割合が増加する。COによる酸化鉄還元反応が発熱反応であるのに対し、H2による酸化鉄還元反応は吸熱反応であるから、後者の反応が増加すると、還元炉において熱が不足し、還元率の十分高い還元鉄を得ることが困難になる。
【0011】
熱補償のために原料酸化鉄を予熱するという方法もあるが、炭素源を供給せずに操業を続けて還元ガスが全て水素となった場合、原料酸化鉄の予熱温度が非常に高くなり、原料酸化鉄のハンドリングが困難になる。また、元々の還元炉操業では原料の予熱は不要であったわけであるから、原料予熱のための余分な設備が必要となり、経済的に不利な操業となる。一方で、熱補償のために還元ガス温度を上昇させるという方法に関しても、還元ガス温度が高くなると、還元炉内で原料が互いに融着しやすくなり、原料の正常な降下、排出が困難となるほか、還元ガス吹込設備のトラブルを誘発しやすくなる。加えて、元々の還元炉操業に比して還元ガス温度を上昇させることは、余計なエネルギーを必要とするため、経済的に不利な操業となる。以上の理由から、還元ガス温度を上昇させるという手段も、原料酸化鉄の予熱同様に、H2還元による吸熱分の補償手段としては不適当である。そのため、循環(再利用)系での還元鉄の製造において、還元率の十分高い還元鉄の製造を継続するためには、炭素の循環・再利用系内から失われていく炭素分を補償するために、一定量の炭素源を供給する必要のあることが新たに判明した。
【0012】
以上の通り、発明者らは、従来技術が抱えている前述の課題を解決し、さらに循環(再利用)系での高い還元率での還元鉄の製造を実現するために鋭意研究した結果、以下に述べる新規な還元鉄の製造方法を開発するに至った。
【0013】
本発明の一の実施形態の要旨は、以下のとおりである。
【0014】
1.酸化鉄を還元炉へ充填する酸化鉄充填工程と、
前記還元炉へ還元ガスを吹込む還元ガス吹込み工程と、
前記還元炉内で前記還元ガスにより前記酸化鉄を還元する還元工程と、
前記還元炉の炉頂から排出される炉頂ガスの一部を酸素ガスと混合して加熱用燃料とし、該加熱用燃料を燃焼させた排ガスと水素ガスとからメタンを主成分とするガスを合成するメタン合成工程と、
前記メタンおよび前記炉頂ガスの残部を原料ガスとして、該原料ガスを前記加熱用燃料の燃焼熱で加熱して前記還元ガスに改質するガス改質工程と、
が相互に接続する循環系において還元鉄を製造する方法であって、
前記循環系での操業中に不足する炭素を、前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか1または2以上の工程、或いは前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか2以上の工程間の接続部において補填しながら前記操業を継続する、還元鉄の製造方法。
【0015】
2.前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか一方または両方の工程、或いは前記両方の工程に前記還元工程を加えた3つの工程の各接続部において、前記炭素の補填を行う、前記1に記載の還元鉄の製造方法。
【0016】
3.前記炭素は廃棄プラスチックの燃焼ガスである、前記1または2に記載の還元鉄の製造方法。
【0017】
4.前記炭素はバイオマスの燃焼ガスである、前記1または2に記載の還元鉄の製造方法。
【0018】
5.前記循環系内の窒素濃度が一定以上に上昇したら、前記メタン合成工程に供給される前記炉頂ガスの一部を前記循環系外に排出し、前記合成したメタンの代わりに天然ガスを供給して前記ガス改質工程を行う、前記1または2に記載の還元鉄の製造方法。
【0019】
6.酸化鉄を還元炉へ充填する酸化鉄充填工程と、
前記還元炉へ還元ガスを吹込む還元ガス吹込み工程と、
前記還元炉内で前記還元ガスにより前記酸化鉄を還元する還元工程と、
前記還元炉の炉頂から排出される炉頂ガスの一部から得られる主にCO、CO2、H2からなるガスと水素ガスとからメタンを主成分とするガスを合成するメタン合成工程と、
前記メタンおよび前記炉頂ガスの残部から得られる主にCO、CO2、H2からなるガスを原料ガスとして、該原料ガスをCO2フリー電力で又は加熱用燃料を併用して加熱して前記還元ガスに改質するガス改質工程と、
が相互に接続する循環系において還元鉄を製造する方法であって、
前記循環系での操業中に不足する炭素を、前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか1または2以上の工程、或いは前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか2以上の工程間の接続部において補填しながら前記操業を継続する、還元鉄の製造方法。
【0020】
7.前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか一方または両方の工程、或いは前記両方の工程に前記還元工程を加えた3つの工程の各接続部において、前記炭素の補填を行う、前記6に記載の還元鉄の製造方法。
【0021】
8.前記炭素は廃棄プラスチックの燃焼ガスである、前記6または7に記載の還元鉄の製造方法。
【0022】
9.前記炭素はバイオマスの燃焼ガスである、前記6または7に記載の還元鉄の製造方法。
【0023】
10.前記循環系内の窒素濃度が一定以上に上昇したら、前記メタン合成工程に供給される前記炉頂ガスの一部を前記循環系外に排出し、前記合成したメタンの代わりに天然ガスを供給して前記ガス改質工程を行う、前記6または7に記載の還元鉄の製造方法。
【0024】
また、本発明の他の実施形態における要旨は、以下のとおりである。
【0025】
1.酸化鉄を還元炉へ充填する酸化鉄充填工程と、
前記還元炉へ還元ガスを吹込む還元ガス吹込み工程と、
前記還元炉内で前記還元ガスにより前記酸化鉄を還元する還元工程と、
前記還元炉の炉頂から排出される炉頂ガスの一部と水素ガスとからメタンを主成分とするガスを合成するメタン合成工程と、
前記メタンおよび前記炉頂ガスの残部を原料ガスとして、該原料ガスを加熱して前記還元ガスに改質するガス改質工程と、
が相互に接続する循環系において還元鉄を製造する方法であって、
前記循環系での操業中に不足する炭素を、前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか1または2以上の工程、或いは前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか2以上の工程間の接続部において補填しながら前記操業を継続する、還元鉄の製造方法。
【0026】
2.前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか一方または両方の工程、或いは前記両方の工程に前記還元工程を加えた3つの工程の各接続部において、前記炭素の補填を行う、前記1に記載の還元鉄の製造方法。
【0027】
3.前記炭素は廃棄プラスチックの燃焼ガスである、前記1または2に記載の還元鉄の製造方法。
【0028】
4.前記炭素はバイオマスの燃焼ガスである、前記1または2に記載の還元鉄の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、還元炉の炉頂ガスに外部からCO2フリーの水素を供給して再生メタンを合成し、その再生メタンを用いて還元ガスを製造するという、炭素を循環させる閉じた系を持つ還元鉄の製造方法において、不足する炭素源を供給しながら操業することを実現できる。従って、系内を循環する炭素量が変動することが回避されるため、CO2排出フリーの操業を安定して実施できるようになった。さらに、廃プラスチックや、バイオマスといったカーボンニュートラルな原料を炭素源として用いる場合は、前記の効果に加えて、プロセスの環境負荷をさらに低減できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】一般的なシャフト炉による還元鉄製造プロセスを示す図である。
【
図2】本発明の還元鉄製造プロセスを示す図である。
【
図3】本発明の別の還元鉄製造プロセスを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の方法について詳しく説明する。まず、本発明の方法と対比する、従前の還元鉄製造プロセスから順に説明する。
[従前のプロセス]
すなわち、
図1は、従前のシャフト型還元炉による還元鉄製造プロセスの構成を示す図である。
図1において、符号1は還元炉、1aは酸化鉄、1bは還元鉄、2は還元炉1から排出される炉頂ガス、3は炉頂ガス2に対する除塵装置、4は脱水装置、5は外部から供給される天然ガス、6は空気、7は炉頂ガス2の一部を空気6と混合して燃焼させた熱を利用して、天然ガスと混合した炉頂ガス2の残部を加熱改質して一酸化炭素ガスおよび水素ガスを含む還元ガス8とする加熱改質装置、9は還元炉1へ還元ガスを供給する還元ガス吹込み装置である。
【0032】
還元鉄製造プロセスの中心となる還元炉1には、その上部から焼結鉱やペレット等の塊状酸化鉄原料1aを装入し、徐々に降下させる。そこへ、炉中部から高温の還元ガス8を吹き込むことで酸化鉄原料1aを還元し、炉下部から還元鉄1bを排出する。このとき、炉上部からは主にCO、CO
2、H
2、H
2Oからなる炉頂ガス2が排出される。この炉頂ガス2は除塵装置3にて除塵され、一部は原料ガスとして水分調整して加熱改質装置7に送り込まれる。加熱改質装置7では、前述の水分調整された炉頂ガス2とともに炭化水素を含むガス、例えば天然ガス5が供給され、加熱される。加熱改質装置7では改質反応がおこり、主にCO,H
2ガスからなる高温の還元ガス8が生成され、還元炉1に吹き込まれる。また、上記炉頂ガス2のうち残りの部分は、脱水ののち、加熱改質装置7の燃焼室にて空気6と共に加熱用燃料として用いられる。加熱改質に利用される加熱用燃料の供給および排出に関する経路を、
図1中で点線にて示す。
【0033】
[第1形態]
以上の
図1に示した従前のプロセスに対して、本発明では、
図2に示すように、上記天然ガス5等の外部から供給される炭化水素ガスの代わりに、プロセス内でメタン合成の反応器にて生成した再生メタンを用いる。すなわち、
図2に示す還元鉄製造プロセスの構成では、新たに、炉頂ガス2の一部と水素10とからメタンを主成分とするガスを合成するメタン合成装置11を設けている。このメタン合成装置11で生成した再生メタンを、炉頂ガスの残部と共に加熱改質装置7に供給し、還元ガス8の原料ガスとする。
なお、本発明において、メタン合成工程で合成される「メタンを主成分とするガス」は、メタンの他に、例えば、水蒸気(H
2O)、水素(H
2)、窒素(N
2)、CO、CO
2、炭化水素などを含み得る。
【0034】
メタン合成装置11におけるメタン合成の原料としては、外部から供給した水素ガス10と、COおよびCO
2から選択される少なくとも1以上を含むガスとを用いる。COおよびCO
2から選択される少なくとも1以上を含むガスは、製鉄所内で入手可能なガスであれば何でもよいが、例えば、
図2に示すように、炉頂ガス2の一部を加熱改質装置7の燃焼室で支燃ガスと混合し燃焼させた排ガスを用いればよい。なお、加熱改質装置7の燃焼室にて炉頂ガス2を燃焼させる際は、窒素が混入しないよう支燃ガスとして空気ではなく酸素ガス12を用いることが好ましい。ここで、支燃ガスとして用いる酸素ガス12は、必ずしも酸素濃度100%の純酸素である必要はなく、多少の酸素以外のガス、例えば窒素、二酸化炭素、アルゴン等が含まれていてもよい。ただし、酸素濃度が低すぎるとガス体積が増大し、加熱改質装置7やメタン合成の反応器を大型化しなければならない問題が起こるので、酸素濃度は80%以上が好ましい。加熱改質に利用される加熱用燃料の供給およびその排ガスのメタン合成の原料としての使用に関する経路を、
図2中で点線にて示す。
【0035】
なお、上記の水素ガス10および酸素ガス12は、その製造にCO2フリーの電力を用いれば、原理的にはCO2排出をゼロとすることができる。ここで、CO2フリーの電力としては、例えば太陽光発電、原子力発電によって生成された電力を用いればよい。
【0036】
以上の
図2に示す操業において、還元鉄への浸炭や、プロセスを構成する炉体や配管からのガスの漏出、非定常操業時の系内ガスの放散等により、徐々に循環系内の炭素が減少していく。そのため、炭素の減少分を補填する必要がある。そこで、本発明では、前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか1または2以上の工程、或いは前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか2以上の工程間の接続部において、炭素の減少分を補いながら操業を行うことにより、循環系での安定した還元鉄の製造を実現した。すなわち、本発明の閉じた循環系において、炭素の減少分は、例えば還元鉄1tあたり高々30kg程度であることから、炭素の補填は既存の設備を大きく改変することなしに行うことが可能である。従って、炭素の補填は、前記還元ガス吹込み工程、前記還元工程、前記メタン合成工程および前記ガス改質工程のいずれか1または2以上の工程、或いは2以上の前記工程間を接続する接続部において、行うことができる。
【0037】
図2に示す還元鉄製造プロセスでは、例えば、
図2に示す(1)~(3)のいずれか1以上の補填箇所において、炭素の補充を行うことができる。補填箇所(1)はメタン合成装置11から延びる経路上の、脱水装置4と加熱改質装置7との接続部であり、補填箇所(2)は還元炉1から延びる経路上の、還元炉1と除塵装置3との接続部であり、補填箇所(3)は還元炉1から延びる経路上の、脱水装置4と加熱改質装置7との接続部である。補填箇所(1)はメタン合成工程とガス改質工程との間の接続部、補填箇所(2)は還元工程とメタン合成工程との間の接続部および還元工程とガス改質工程との間の接続部、補填箇所(3)は還元工程とメタン合成工程との間の接続部と言い換えることができる。
【0038】
ここで、炭素の補填は、前述のように系内の炭素不足が生じると操業が不安定化する可能性が高まるため、間欠的に補充するよりは連続的に補填することが好ましい。すなわち、系内の炭素不足が判明した時点で炭素の補填を開始し、炭素不足が解消するまで連続して補填することが好ましい。
【0039】
その際、不足する炭素量の把握方法は、特に限定されるものではないが、たとえば還元炉へ吹き込まれる還元ガスおよび炉頂ガスの流量並びにそれらの組成から計算する方法や、製品還元鉄の炭素含有量と還元鉄生産量とから計算する方法などが考えられる。測定の迅速性を考えると、前者の還元ガスおよび炉頂ガスの流量並びにそれらの組成から計算する手法が好ましい。還元ガスおよび炉頂ガスの流量並びにそれらの組成から計算する方法とは、還元ガスと炉頂ガスの流量とそれらの組成の測定結果から、それぞれのガスに含まれる炭素原子の物質量を計算し、その差を系外へ排出された炭素の物質量、すなわち不足する炭素の物質量とする手法である。また、製品還元鉄の炭素含有量と還元鉄生産量とから計算する方法とは、製品還元鉄の炭素含有量と還元鉄生産量を測定し、それから計算した還元鉄中の炭素としての炭素排出量(浸炭量)を不足する炭素量とする手法である。
【0040】
一方、炭素の補填による系内の炭素量の変動は、たとえば還元ガスの流量と組成から還元ガス中に含まれる炭素量を求め、その時間推移を監視することによって把握することができる。系内の炭素量が増加傾向にある場合は、補填する炭素の量が過剰であるから、補填する炭素の量を減少させる。系内の炭素量が減少傾向にある場合は、補填する炭素の量が不足しているから、補填する炭素の量を増加させる。以上のように、系内の炭素量の変動を監視し、その変動に応じて補填する炭素の量を調整することで、炭素を過不足なく系内に補填しながら操業を継続することができる。
【0041】
系内の炭素量の変動に応じて炭素の補填量を変動させる場合に基準とする系内の炭素量は、製品還元鉄の還元率(製品還元率)が基準値以上となるような条件に設定することが望ましい。その際、還元率の基準値を90%以上とすることにより、DRI(直接還元鉄)を溶解する後段のプロセスにおいて必要となるエネルギーを最小限にすることができる。さらに好ましくは、還元率の基準値を93%以上とすることにより、後段のプロセスにおいて必要となるエネルギーをより低減できる。
【0042】
また、炭素の補充方法としては、天然ガスのような気体炭素源をそのまま系内に導入する方法でもよいし、気体、液体あるいは固体の炭素源を燃焼させて、その燃焼ガスを導入する方法でもよい。燃焼ガスを導入する場合は、エネルギー効率を向上させるため、前記炭素源の燃焼熱を、系において必要な熱源、たとえば加熱改質装置7の熱源として活用することが好ましい。ただし、前記炭素源の燃焼ガスを系内に導入する場合は、燃焼ガス中に煤やタールをはじめとした未燃固体・液体分が含まれる可能性があるため、系内に導入する前に燃焼ガスを除塵することが好ましい。除塵の際は、炭素源燃焼ガス用に新たに除塵機を設けてもよいが、たとえば炉頂ガス用の除塵機を併用するなど、既設設備を有効活用することがさらに好適である。
【0043】
特に、固体炭素源として廃プラスチックを用いると、本来埋め立て、あるいは焼却処分されていた炭素源を有効活用することができるため、プロセスの環境負荷を下げることができる。また、固体炭素源として、カーボンニュートラルな炭素源であるバイオマスを用いた場合も同様である。以上の理由から、廃プラスチックやバイオマスを炭素源として使用することは、天然ガスや石炭、石油といった化石燃料を使用することよりも、本発明の実施形態としては好適である。
【0044】
従前の還元鉄製造プロセスにおいて、例えば、還元鉄の炭素分を増加するためなど、本発明の循環(再利用)系における炭素補填とは異なる目的の下に、炭素源を供給することは提案されている。例えば、特開昭49-129616号公報には、還元炉の還元ガス吹込み位置よりも下部からLPGを吹き込み、還元鉄を冷却しながら加炭する方法が記載されている。この公報にて提案の、還元炉下部から炭素源を供給する場合は、炭素源の供給位置が、炭素の循環・再利用系の外になる。すなわち、還元炉下部で供給された炭素は、循環・再利用系内に供給される前に、還元鉄中に浸炭してしまい、循環・再利用系内での不足を補償することはできないため、この技術は本発明に適用できないものであった。
【0045】
[第2形態]
本発明の第2形態を
図3に示す。この第2形態は、還元炉1から発生した炉頂ガス2のうち、第1形態(
図2)において加熱改質装置7の加熱に用いていた分を、メタン合成を行うメタン合成装置11に流し込み、再生メタンの原料とすることが異なる点である。この系内の炉頂ガス2の流れの変更により、加熱改質装置7に必要な量の再生メタンを合成できる。このとき、加熱改質装置7の加熱用燃料が供給されないため、外部のCO
2フリーの熱源、例えばCO
2フリー電力による熱源13を代替とすればよい。熱源13からの熱の供給経路を
図3中で点線にて示す。この方法では、加熱改質装置7の加熱や水素製造にCO
2フリーの電力を用いれば、原理的にはCO
2排出をゼロとすることができる。
【0046】
この第2形態でも同様に、系内からの炭素の減少分を補填する必要があることから、第1の形態と同様の方法で炭素源を補填することにより、循環系内での安定した還元鉄の製造を実現することができる。また、この第2の形態の場合では、加熱改質装置7の加熱用燃料として、前記補填する炭素源を使用することによって、CO2フリーの熱源の使用量を低減することもできる。さらに、第1の形態と同様に、廃プラスチックやバイオマスといった炭素源を補填に使用することで、プロセスの環境負荷を下げることができる。
【0047】
図3に示す還元鉄製造プロセスでは、例えば、
図3に示す(4)~(6)のいずれか1以上の補填箇所において、炭素の補充を行うことができる。補填箇所(4)はメタン合成装置11から延びる経路上の、メタン合成装置11と脱水装置4との接続部であり、補填箇所(5)は還元炉1から延びる経路上の、還元炉1と除塵装置3との接続部(
図2の(2)と同じ箇所)であり、補填箇所(6)は還元炉1から延びる経路上の、除塵装置3と脱水装置4との接続部である。補填箇所(4)はメタン合成工程とガス改質工程との間の接続部、補填箇所(5)は還元工程とメタン合成工程との間の接続部および還元工程とガス改質工程との間の接続部、補填箇所(6)は還元工程とメタン合成工程との間の接続部と言い換えることができる。
【0048】
以上、
図2および
図3に示した形態において、炭素の補填箇所(1)~(6)を例示したが、炭素の補填箇所はこれらに限定されず、酸化鉄充填工程を除くいずれの工程および工程間の接続部も対象とし得る。しかしながら、加熱改質装置7出側から還元炉1入側の部分、すなわち、還元ガス吹込み装置9で行う還元ガス吹込み工程、還元炉1で行う還元工程、加熱改質工程と還元ガス吹込み工程の間の接続部、および還元ガス吹込み工程と還元工程との間の接続部は、炭素の補填箇所から除外することが望ましい。これは、還元ガスの組成を一定に保ち、還元炉内での酸化鉄還元反応挙動の変動を抑制することが、還元炉の安定操業に必要不可欠であるなかで、加熱改質装置7出側から還元炉1入側の部分における炭素の補填は、還元炉に吹き込まれる還元ガス組成を変動させうるためである。
【0049】
また、液体・固体炭素源の燃焼ガスを炭素源として用いる場合は、除塵設備を新たに設ける必要がなくなるという観点から、還元炉出側の除塵機の前の部分(例えば、
図2中(2)、
図3中(5))を炭素の補填箇所とすることがより好ましい。あるいは加熱改質装置の加熱部分、あるいはその前段の部分(例えば、
図2中(3))を炭素の補填箇所とし、炭素源の燃焼ガス顕熱を改質反応に必要な熱量として活用するのも、より有効である。
【0050】
なお、本発明の
図2および
図3の構成において、少量のCO、CO
2、H
2、H
2O、炭化水素以外の不要ガス、例えばパージ用の窒素ガス等が混入する構成であると、プロセス内に不要ガスが徐々に蓄積してきてしまい、還元ガス濃度が低下してしまう問題がおこる。よって、系内にて窒素濃度を定期的に監視し、ある程度まで窒素濃度が上昇したら、例えば窒素濃度20%以上となったら、一時的にメタン合成の反応器に流入する炉頂ガスもしくは燃焼排ガスを系外に排出する操業を行うと良い。このときは再生メタンが生成できなくなるため、一時的に再生メタンの代わりに天然ガス等を吹き込む操業を行ってもよい。
【0051】
また、メタン合成の原料として外部から供給されるH2に関しては、CO2を極力発生しない製法が好ましい。例えば、水の電解などを用いればよい。このとき、H2ガスは必ずしも濃度100%のH2ガスでなくてもよいが、生成された再生メタンガス中のメタン濃度を高く保つためにはH2濃度が高いほど良い。好ましくは、H2濃度は80vol%以上である。
【実施例0052】
以下、本発明の実施例を記載する。なお、ここでは、還元鉄(DRI)1t製造あたりの原単位として操業諸元を記載する。たとえば、還元鉄(DRI)1t製造あたり焼結鉱を1300kg使用する場合、焼結鉱の使用量を1300kg/tと表す。3000t/日の還元鉄プラントを考える場合は、下記を3000倍すれば1日当たりの諸元となる。ここで、定常操業を継続可能な基準として、後の工程におけるDRIの溶解・製錬効率の観点から、製品還元率90%以上という値を設定した。製品還元率は、製品全鉄分(T.Fe)の全てがFe2O3であると仮定した場合のFe2O3由来の酸素原子量(質量%)に対する、製品に含まれる酸化鉄由来の酸素原子量(質量%)の比率を百分率で表した指標である。発明例1~6および比較例の操業条件並びに操業結果のうち、代表的な諸元を表1に示す。
【0053】
【0054】
本発明に従う発明例1~3は、
図2に示した還元鉄製造プロセスに従って還元鉄を製造する事例である。すなわち、還元炉1の上部から、原料として1342kg/tの焼結鉱を装入する。炉中部からは800℃に加熱した高温還元ガス2200Nm
3/t(H
2:62%、CO:38%)を吹き込むものとする。このとき、還元炉上部からは2181Nm
3/t(H
2:48%、CO:29%、CO
2:9%、H
2O:14%)の炉頂ガスが排出される。ここで、吹き込む還元ガスの体積に比して排出される炉頂ガスの体積が少ないのは、還元炉内で炭素が還元鉄に浸炭するためである。
【0055】
炉頂ガスは、除塵されたのち、一部を原料ガス(表1中「(原料ガス)」として示す)、残りを加熱改質装置7の加熱燃料ガス(表1中「(加熱炉で燃焼後、再生メタン反応に使用分)」として示す)として用いる。加熱燃料ガスは、脱水ののち、加熱改質装置7の燃焼室にて、CO2フリー電力で駆動する深冷分離プロセスによって生成された、純酸素を用いて燃焼される。加熱改質装置7の燃焼室の排ガスは全量回収されて脱水され、脱水後の燃焼排ガス(CO2:100%)は、メタン合成のメタン合成装置11に送り込まれる。ここで、CO2フリー電力による電気分解で生成された水素(表1中「再生メタン用水素」として示す)を加えて再生メタンガスを合成する。合成された再生メタンガスは、脱水後、前記原料ガスとともに加熱改質装置7に流し込まれ、還元ガスの原料として利用される。このプロセスでは、前述の通り、系内の炭素に不足が生じた場合に、炭素源を供給する必要がある。
【0056】
[発明例1]
発明例1では、炭素源として天然ガスを選定し、
図2に示した補填箇所(1)の位置から天然ガスをそのまま系内に供給した。製品DRI中の炭素量と、炉頂ガスダスト中炭素量とから計算した結果、天然ガスの必要供給量は13.3kg/tであった。この条件で、前記の温度および組成を持つ高温還元ガスを還元炉に吹き込めるように操業条件を検討し、炉頂ガスのうち1576Nm
3/tを原料ガスに、残りの605Nm
3/tを加熱改質装置7の加熱燃料ガスとして用いることとした。原料ガスは、系全体の水素、酸素原子収支がバランスするように部分的に脱水した。加熱燃料ガスは、脱水後純酸素と燃焼させて加熱改質装置7で利用した。燃焼後の排ガスは全量回収し、脱水後メタン合成装置11に吹き込んだ。メタン合成装置11内で918Nm
3/tの水素と反応させてメタンを主成分とするガスを合成し、その合成ガスを脱水後、原料ガスおよび、炭素源としての天然ガスとともに加熱改質装置7に流し込み、還元ガスの原料として利用した。以上の方法で製造された還元鉄は、製品還元率92.9%を達成したことから、発明例1の方法で定常操業を継続可能であることが確認できた。
【0057】
[発明例2]
発明例2では、炭素源として木材を原料とするバイオマスを選定し、
図2に示した補填箇所(2)の位置からバイオマスの燃焼ガスをそのまま系内に供給した。
図2に示した補填箇所(2)の位置であれば、炉頂ガス用の除塵機をバイオマスの燃焼ガスの除塵機として活用できる。製品DRI中の炭素量と、炉頂ガスダスト中炭素量、バイオマス中炭素量から計算した結果、バイオマスの必要供給量は11.7kg/tであった。この条件で、前記の温度および組成を持つ高温還元ガスを還元炉に吹き込めるように操業条件を検討し、炉頂ガスにバイオマスの燃焼ガスを加えたガス(表1中「分岐前流量」として示す)のうち1522Nm
3/tを原料ガスに、残りの680Nm
3/tを加熱改質装置7の加熱燃料ガスとして用いることとした。原料ガスは、系全体の水素、酸素原子収支がバランスするように部分的に脱水した。加熱燃料ガスは、脱水後に純酸素と燃焼させて加熱改質装置7で利用した。燃焼後の排ガスは、全量回収し、脱水後メタン合成装置11に吹き込んだ。該排ガスをメタン合成装置11内で1046Nm
3/tの水素と反応させてメタンを主成分とするガスを合成し、その合成ガスを脱水後に原料ガスとともに加熱改質装置7に流し込み、還元ガスの原料として利用した。以上の方法で製造された還元鉄は、製品還元率93.1%を達成したことから、発明例2の方法で定常操業を継続可能であることが確認できた。
【0058】
[発明例3]
発明例3では、炭素源としてウレタンを主体とした廃プラスチックを選定し、
図2に示した補填箇所(3)の位置から廃プラスチックの燃焼ガスを除塵後系内に供給した。製品DRI中の炭素量と、炉頂ガスダスト中炭素量、廃プラスチック中炭素量から計算した結果、廃プラスチックの必要供給量は15.7kg/tであった。この条件で、前記の温度・組成を持つ高温還元ガスを還元炉に吹き込めるように操業条件を検討し、炉頂ガスのうち1576Nm
3/tを原料ガスに、残りの605Nm
3/tを加熱改質装置7の加熱燃料ガスとして用いることとした。原料ガスは、系全体の水素、酸素原子収支がバランスするように部分的に脱水した。加熱燃料ガスは、脱水後廃プラスチックの燃焼ガスと混合し、純酸素と燃焼させて加熱改質装置7で利用した。燃焼後の排ガスは全量回収し、脱水後メタン合成装置11に吹き込んだ。該排ガスをメタン合成装置11内で993Nm
3/tの水素と反応させてメタンを主成分とするガスを合成し、その合成ガスを脱水後に原料ガスとともに加熱改質装置7に流し込み、還元ガスの原料として利用した。以上の方法で製造された還元鉄は、製品還元率93.1%を達成したことから、発明例3の方法で定常操業を継続可能であることが確認できた。
【0059】
以上の通り、これら発明例1~3の還元鉄製造方法によれば、目標とする製品還元率を達成しながら、CO2排出ゼロでの操業を行うことができる。
【0060】
次に、本発明に従う発明例4~6は、
図3に示した還元鉄製造プロセスに従って還元鉄を製造する事例である。すなわち、還元炉1に装入する焼結鉱、還元炉1に吹き込む還元ガス、炉頂から排出される炉頂ガス、および改質原料として用いられる原料ガスの条件は発明例1と同一である。原料ガスを抽出した残りの炉頂ガスは、脱水した後、再生メタン合成の原料としてメタン合成装置11に送り込まれる(表1中「(再生メタン反応に使用分)」として示す)。ここで、CO
2フリー電力による電気分解で生成された水素を加えて再生メタンガスを合成する。合成された再生メタンガスは加熱改質装置7に流し込まれ、還元ガスの原料として利用される。ここで、発明例4~6では加熱改質装置7の加熱用燃料が供給されなくなるため、代わりにCO
2フリー電力を外部から供給し、電気加熱を行う。このプロセスにおいても発明例1~3と同様に、系内の炭素に不足が生じた場合に、炭素源を供給する必要がある。
【0061】
[発明例4]
発明例4では、炭素源として天然ガスを選定し、
図3に示した補填箇所(4)の位置から天然ガスをそのまま系内に供給した。発明例1と同様に、天然ガスの必要供給量は13.3kg/tであった。この条件で、前記の温度・組成を持つ高温還元ガスを還元炉に吹き込めるように操業条件を検討し、炉頂ガスのうち1576Nm
3/tを原料ガスとした。原料ガスは、系全体の水素、酸素原子収支がバランスするように部分的に脱水した。残りの605Nm
3/tを再生メタン反応器の原料ガスとして、脱水後メタン合成装置11に吹き込んだ。メタン合成装置11内で455Nm
3/tの水素と反応させてメタンを主成分とするガスを合成し、その合成ガスに炭素源として天然ガスを混合し、脱水後に原料ガスとともに加熱改質装置7に流し込み、還元ガスの原料として利用した。以上の方法で製造された還元鉄は、製品還元率93.3%を達成したことから、発明例4の方法で定常操業を継続可能であることが確認できた。
【0062】
[発明例5]
発明例5では、炭素源として木材を原料とするバイオマスを選定し、
図3に示した補填箇所(5)の位置からバイオマスの燃焼ガスをそのまま系内に供給した。
図3に示した補填箇所(5)の位置であれば、炉頂ガス用の除塵機をバイオマスの燃焼ガスの除塵機として活用できる。発明例2と同様に、バイオマスの必要供給量は11.7kg/tであった。この条件で、前記の温度・組成を持つ高温還元ガスを還元炉に吹き込めるように操業条件を検討し、炉頂ガスにバイオマスの燃焼ガスを加えたガス(表1「分岐前流量」)のうち1522Nm
3/tを原料ガスとした。原料ガスは系全体の水素、酸素原子収支がバランスするように部分的に脱水した。残りの680Nm
3/tを再生メタン反応器の原料ガスとして、脱水後メタン合成装置11に吹き込んだ。メタン合成装置11内で529Nm
3/tの水素と反応させてメタンを主成分とするガスを合成し、その合成ガスを脱水後に原料ガスとともに加熱改質装置7に流し込み、還元ガスの原料として利用した。以上の方法で製造された還元鉄は、製品還元率92.7%を達成したことから、発明例5の方法で定常操業を継続可能であることが確認できた。
【0063】
[発明例6]
発明例6では、炭素源としてウレタンを主体とする廃プラスチックを選定し、
図3に示した補填箇所(6)の位置から廃プラスチックの燃焼ガスを除塵後系内に供給した。発明例3と同様に、廃プラスチックの必要供給量は15.7kg/tであった。この条件で、前記の温度および組成を持つ高温還元ガスを還元炉に吹き込めるように操業条件を検討し、炉頂ガスのうち1576Nm
3/tを原料ガスとした。原料ガスは系全体の水素、酸素原子収支がバランスするように部分的に脱水した。残りの605Nm
3/tと廃プラスチックの燃焼ガスの混合ガスを再生メタン反応器の原料ガスとして、脱水後メタン合成装置11に吹き込んだ。メタン合成装置11内で529Nm
3/tの水素と反応させてメタンを主成分とするガスを合成し、その合成ガスに炭素源として廃プラスチックの燃焼ガスを混合し、脱水後に原料ガスとともに加熱改質装置7に流し込み、還元ガスの原料として利用した。以上の方法で製造された還元鉄は、製品還元率93.2%を達成したことから、発明例6の方法で定常操業を継続可能であることが確認できた。
【0064】
以上の通り、これら発明例4~6の還元鉄製造方法によれば、目標とする製品還元率を達成しながら、CO2排出ゼロでの操業を行うことができる。なお、発明例4~6では加熱炉のエネルギー源を電気としたが、CO2フリーであればエネルギー源は電力でなくてもかまわない。たとえば、CO2フリー電力による電気分解で生成された水素の燃焼熱を用いて加熱してもかまわない。
【0065】
[比較例]
本発明における比較例を説明する。
図2に示した還元鉄製造プロセスにおいて、還元炉に装入する焼結鉱、還元炉に吹き込む還元ガス、炉頂から排出される炉頂ガス、および改質原料として用いられる原料ガスの条件は発明例1と同一の条件で操業を開始した。発明例1との違いは、本来必要である炭素源を供給しないまま操業を継続したことである。その結果、操業の初期では還元ガスの組成がH
2:CO=62:38であったが、徐々に系内から炭素原子が排出され、最終的にH
2:CO=100:0の条件で操業せざるを得なくなった。この還元ガスが全て水素となった操業では、メタンの原料となるCO
2は発生せず、すなわちメタンの改質も不要なため、メタン合成装置11及び加熱改質装置7は不要となった。
【0066】
具体的には表1に示すとおり、還元炉の炉頂ガス2200Nm3/t(H2:80%、H2O:20%)のうち1821Nm3/tを原料ガス、379Nm3/tを加熱炉の燃焼ガスとして使用し、CO2フリー電力による水の電解により生成した水素を原料ガスに供給することにより、還元炉内での原料焼結鉱の還元による水素消費と、加熱改質装置7の熱源としての水素消費の合計である742Nm3/tの水素消費を補償しながら操業を行った。その結果、還元炉内での酸化鉄還元反応が全て吸熱反応となったことで、酸化鉄が十分に還元されるために必要な熱量に対して還元炉内に供給される熱量が不足し、製品DRIの製品還元率は85.4%まで低下した。この値は、定常操業を継続可能な基準製品還元率である90%を下回っていたことから、比較例の方法での操業をやむなく中止した。
【0067】
以上の通り、比較例の還元鉄製造方法では、CO2排出量はゼロであるものの、目標とする製品還元率を達成できず、定常操業の継続は困難であることが確認された。