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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050674
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物成形体および電力ケーブル
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20240403BHJP
   H01B 9/00 20060101ALI20240403BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C08L23/10
H01B9/00 A
C08L101/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008757
(22)【出願日】2024-01-24
(62)【分割の表示】P 2022571083の分割
【原出願日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2020211489
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智
(72)【発明者】
【氏名】伊與田 文俊
(72)【発明者】
【氏名】山崎 孝則
(57)【要約】      (修正有)
【課題】絶縁性を向上させた樹脂組成物成形体を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、長尺な対象物の周囲に被覆される樹脂組成物であって、プロピレン単位を含み、所定の曲げ試験後の樹脂組成物を含む成形体内に、最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、最大長さが10μm超である結晶が存在しない、ただし、曲げ試験は、絶縁層の外径に対する電力ケーブルの曲げ半径の曲げ比率が7以下となるように電力ケーブルを曲げる第1工程と、第1工程の曲げ方向と反対の方向に第1工程の曲げ比率と同じ曲げ比率で電力ケーブルを曲げる第2工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物成形体であって、
プロピレン単位を含み、
前記樹脂組成物成形体は、走査型プローブ顕微鏡を用いた微小領域弾性測定により得られる、該樹脂組成物成形体の弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たす、
ただし、
前記微小領域弾性測定では、25℃で、シリコンからなり曲率半径が20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、前記樹脂組成物成形体の10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、前記弾性率を測定し、
前記第1要件は、前記カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現することであり、
前記第2要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記弾性率が2000MPa以下であり、
前記第3要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記カウント数が全タッピング数の25%未満である
樹脂組成物成形体。
【請求項2】
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有する
請求項1に記載の樹脂組成物成形体。
【請求項3】
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である
請求項2に記載の樹脂組成物成形体。
【請求項4】
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率は、前記樹脂Aのそれよりも低い
請求項2または請求項3に記載の樹脂組成物成形体。
【請求項5】
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、プロピレン単位を含み、
前記絶縁層は、走査型プローブ顕微鏡を用いた微小領域弾性測定により得られる、前記絶縁層の弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たす、
ただし、
前記微小領域弾性測定では、25℃で、シリコンからなり曲率半径が20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、前記絶縁層の10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、前記弾性率を測定し、
前記第1要件は、前記カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現することであり、
前記第2要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記弾性率が2000MPa以下であり、
前記第3要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記カウント数が全タッピング数の25%未満である
電力ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、樹脂組成物成形体、電力ケーブル、および電力ケーブルの製造方法に関する。
本出願は、2020年12月21日出願の日本国出願「特願2020-211489」に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレンは絶縁性に優れることから、電力ケーブルなどにおいて、絶縁層を構成する樹脂成分として広く用いられてきた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57-69611号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様によれば、
長尺な対象物の周囲に被覆される樹脂組成物であって、
プロピレン単位を含み、
所定の曲げ試験後の前記樹脂組成物を含む成形体内に、
最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、
最大長さが10μm超である結晶が存在しない、
ただし、前記曲げ試験は、前記成形体の外径に対する前記成形体の曲げ半径の曲げ比率が7以下となるように前記成形体を曲げる第1工程と、前記第1工程の曲げ方向と反対の方向に前記第1工程の前記曲げ比率と同じ曲げ比率で前記成形体を曲げる第2工程と、を含む
樹脂組成物が提供される。
【0005】
本開示の他の態様によれば、
長尺な対象物の周囲に被覆された樹脂組成物成形体であって、
プロピレン単位を含み、
所定の曲げ試験後の前記樹脂組成物成形体内に、
最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、
最大長さが10μm超である結晶が存在しない、
ただし、前記曲げ試験は、前記樹脂組成物成形体の外径に対する前記樹脂組成物成形体の曲げ半径の曲げ比率が7以下となるように前記樹脂組成物成形体を曲げる第1工程と、前記第1工程の曲げ方向と反対の方向に前記第1工程の前記曲げ比率と同じ曲げ比率で前記樹脂組成物成形体を曲げる第2工程と、を含む
樹脂組成物成形体が提供される。
【0006】
本開示の更に他の態様によれば、
樹脂組成物成形体であって、
プロピレン単位を含み、
前記樹脂組成物成形体は、走査型プローブ顕微鏡を用いた微小領域弾性測定により得られる、該樹脂組成物成形体の弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たす、
ただし、
前記微小領域弾性測定では、25℃で、シリコンからなり曲率半径が20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、前記樹脂組成物成形体の10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、前記弾性率を測定し、
前記第1要件は、前記カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現することであり、
前記第2要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記弾性率が2000MPa以下であり、
前記第3要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記カウント数が全タッピング数の25%未満である
樹脂組成物成形体が提供される。
【0007】
本開示の更に他の態様によれば、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率は、600MPa以上1200MPa以下であり、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率は、1MPa以上200MPa以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である
樹脂組成物成形体が提供される。
【0008】
本開示の更に他の態様によれば、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率は、5以上200以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である
樹脂組成物成形体が提供される。
【0009】
本開示の更に他の態様によれば、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含む樹脂Bと、
を有し、
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量は、6×10以上6×10以下であり、
前記樹脂AのMw/Mnは、3.0以上8.0以下であり、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量は、4×10以上4×10以下であり、
前記樹脂BのMw/Mnは、1.1以上3.0以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である、
ただし、
前記樹脂Aまたは前記樹脂Bのそれぞれの前記分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレンを標準試料として作成された検量線に基づいて測定され、
Mwは、前記分子量分布における重量平均分子量であり、
Mnは、前記分子量分布における数平均分子量である
樹脂組成物成形体が提供される。
【0010】
本開示の更に他の態様によれば、
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、プロピレン単位を含み、
所定の曲げ試験後の前記絶縁層内に、
最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、
最大長さが10μm超である結晶が存在しない、
電力ケーブルが提供される。
【0011】
本開示の更に他の態様によれば、
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、プロピレン単位を含み、
前記絶縁層は、走査型プローブ顕微鏡を用いた微小領域弾性測定により得られる、前記絶縁層の弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たす、
電力ケーブルが提供される。
【0012】
本開示の更に他の態様によれば、
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率は、600MPa以上1200MPa以下であり、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率は、1MPa以上200MPa以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である
電力ケーブルが提供される。
【0013】
本開示の更に他の態様によれば、
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率は、5以上200以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である
電力ケーブルが提供される。
【0014】
本開示の更に他の態様によれば、
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含む樹脂Bと、
を有し、
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量は、6×10以上6×10以下であり、
前記樹脂AのMw/Mnは、3.0以上8.0以下であり、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量は、4×10以上4×10以下であり、
前記樹脂BのMw/Mnは、1.1以上3.0以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である、
電力ケーブルが提供される。
【0015】
本開示の更に他の態様によれば、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、2つ以上のモノマ単位を含み25℃で固体である樹脂Bと、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の周囲に絶縁層を被覆させる工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程では、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率を、600MPa以上1200MPa以下とし、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率を、1MPa以上200MPa以下とし、
前記樹脂Aの含有量を、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とする
電力ケーブルの製造方法が提供される。
【0016】
本開示の更に他の態様によれば、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、2つ以上のモノマ単位を含み25℃で固体である樹脂Bと、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の周囲に絶縁層を被覆させる工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程では、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率を、5以上200以下とし、
前記樹脂Aの含有量を、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とする
電力ケーブルの製造方法が提供される。
【0017】
本開示の更に他の態様によれば、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、2つ以上のモノマ単位を含む樹脂Bと、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の周囲に絶縁層を被覆させる工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程では、
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量を、6×10以上6×10以下とし、
前記樹脂AのMw/Mnを、3.0以上8.0以下とし、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量を、4×10以上4×10以下とし、
前記樹脂BのMw/Mnを、1.1以上3.0以下とし、
前記樹脂Aの含有量を、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とする、
電力ケーブルの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの分子量分布の例を示す図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
図3図3は、微小領域弾性測定の結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[本開示が解決しようとする課題]
架橋ポリエチレンは、電力ケーブルの絶縁層に広く用いられてきたが、経年劣化した架橋ポリエチレンは、リサイクルできず、焼却するしかなかった。このため、環境への影響が懸念されていた。
【0020】
そこで、近年では、絶縁層を構成する樹脂成分として、プロピレンを含む樹脂(以下、「プロピレン系樹脂」ともいう)が注目されている。プロピレン系樹脂は非架橋であっても、電力ケーブルとして求められる絶縁性を満たすことができる。すなわち、絶縁性とリサイクル性とを両立することができる。
【0021】
本開示の目的は、プロピレン系樹脂を含む成形体の絶縁性を向上させることができる技術を提供することである。
【0022】
[本開示の効果]
本開示によれば、プロピレン系樹脂を含む成形体の絶縁性を向上させることができる。
【0023】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について概略を説明する。
【0024】
一般に、ポリプロピレンの単体は、ポリエチレンなどと比べて硬い。
【0025】
このため、従来では、自動車のバンパなどの技術分野において、ポリプロピレンに対してエチレンプロピレンゴム(EPR)などを添加した樹脂成分が用いられてきた。ポリプロピレンに対してEPRなどを添加することで、樹脂成分を柔軟化させることができる。
【0026】
そこで、発明者等は、電力ケーブルの技術分野において、絶縁層の柔軟性を向上させるため、絶縁層を構成する樹脂成分として、プロピレン系樹脂に対してEPRなどの柔軟性樹脂を添加することを試みた。
【0027】
しかしながら、発明者等は、絶縁層においてプロピレン系樹脂に対して柔軟性樹脂を添加する検討を行ったところ、電力ケーブルを屈曲させた後に、絶縁層の絶縁性が低下する可能性があることを見出した。
【0028】
屈曲によって絶縁性が低下した絶縁層を分析した結果、屈曲後の絶縁性低下の原因は、以下のメカニズムに起因していることが分かった。
【0029】
柔軟性樹脂の弾性率は、上述のように、ポリプロピレン系樹脂の弾性率よりも低い。それぞれの樹脂は、弾性率に相関がある固有の分子量分布を有している。その結果、柔軟性樹脂の分子量分布と、ポリプロピレン系樹脂の分子量分布とは、互いに異なるものとなる。
【0030】
このように分子量分布が異なる2つの樹脂を混合すると、少なくともいずれか一方の樹脂が局所的に偏ることがある。
【0031】
例えば、ポリプロピレン系樹脂に由来して、高い弾性率を有する成分が局所的に集中する可能性がある。ここでいう高い弾性率を有する成分が局所的に集中した領域を、以下では「高弾性領域」ともいう。ポリプロピレン系樹脂に由来した高弾性領域では、結晶性が高くなり、高弾性領域は硬くなる。
【0032】
一方で、例えば、柔軟性樹脂に由来して、低い弾性率を有する成分が局所的に集中する可能性がある。ここでいう低い弾性率を有する成分が局所的に集中した領域を、以下では「低弾性領域」ともいう。柔軟性樹脂に由来した低弾性領域では、結晶性が低くなり(非晶性となり)、低弾性領域は柔らかくなる。
【0033】
上述のように絶縁層中で樹脂が局所的に偏った場合であっても、製造直後では絶縁性に問題が無い。しかしながら、絶縁層中で樹脂が局所的に偏った場合に、電力ケーブルを屈曲させると、以下の現象が生じる可能性がある。
【0034】
電力ケーブルを屈曲させると、樹脂成分内に局所的な応力が加わる。局所的な応力が加わると、例えば、高弾性領域の内部において、結晶同士が割れたり、分離したりするため、微小なボイドが生じる可能性がある。または、結晶性の高弾性領域と非晶性の低弾性領域との界面において、これらが分離するため、微小なボイドが生じる可能性がある。または、非晶性の低弾性領域の内部においても、特に相溶性の悪い材料同士では、材料界面に沿って分離または剥離が生じるため、微小なボイドが生じる可能性がある。なお、ここでいう「ボイド」には、割れも含まれる。
【0035】
また、樹脂成分内に局所的な応力が加わると、例えば、ポリプロピレン系樹脂に由来した高弾性領域の内部において、機械的歪みをトリガーとして粗大な結晶(球晶)が発生する可能性がある。
【0036】
このようにして屈曲時に生じた微小なボイドおよび粗大な結晶では、絶縁性が低下する。このため、電力ケーブルに高電界が印加されたときには、絶縁層内の微小なボイドおよび粗大な結晶に電界が集中し、絶縁層が絶縁破壊してしまうおそれがある。
【0037】
以上のことから鋭意検討の結果、発明者等は、屈曲時の微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することで、屈曲後の絶縁性の低下を抑制することができることを見出した。
【0038】
本開示は、発明者等が見出した上述の知見に基づくものである。
【0039】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0040】
[1]本開示の一態様に係る樹脂組成物は、
長尺な対象物の周囲に被覆される樹脂組成物であって、
プロピレン単位を含み、
所定の曲げ試験後の前記樹脂組成物を含む成形体内に、
最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、
最大長さが10μm超である結晶が存在しない、
ただし、前記曲げ試験は、前記成形体の外径に対する前記成形体の曲げ半径の曲げ比率が7以下となるように前記成形体を曲げる第1工程と、前記第1工程の曲げ方向と反対の方向に前記第1工程の前記曲げ比率と同じ曲げ比率で前記成形体を曲げる第2工程と、を含む。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0041】
[2]本開示の一態様に係る樹脂組成物成形体は、
長尺な対象物の周囲に被覆された樹脂組成物成形体であって、
プロピレン単位を含み、
所定の曲げ試験後の前記樹脂組成物成形体内に、
最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、
最大長さが10μm超である結晶が存在しない、
ただし、前記曲げ試験は、前記樹脂組成物成形体の外径に対する前記樹脂組成物成形体の曲げ半径の曲げ比率が7以下となるように前記樹脂組成物成形体を曲げる第1工程と、前記第1工程の曲げ方向と反対の方向に前記第1工程の前記曲げ比率と同じ曲げ比率で前記樹脂組成物成形体を曲げる第2工程と、を含む。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0042】
[3]上記[2]に記載の樹脂組成物成形体において、
前記樹脂組成物成形体は、走査型プローブ顕微鏡を用いた微小領域弾性測定により得られる、該樹脂組成物成形体の弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たす、
ただし、
前記微小領域弾性測定では、25℃で、シリコンからなり曲率半径が20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、前記樹脂組成物成形体の10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、前記弾性率を測定し、
前記第1要件は、前記カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現することであり、
前記第2要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記弾性率が2000MPa以下であり、
前記第3要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記カウント数が全タッピング数の25%未満である。
この構成によれば、屈曲時における微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することができる。
【0043】
[4]本開示の他の態様に係る樹脂組成物成形体は、
樹脂組成物成形体であって、
プロピレン単位を含み、
前記樹脂組成物成形体は、走査型プローブ顕微鏡を用いた微小領域弾性測定により得られる、該樹脂組成物成形体の弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たす、
ただし、
前記微小領域弾性測定では、25℃で、シリコンからなり曲率半径が20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、前記樹脂組成物成形体の10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、前記弾性率を測定し、
前記第1要件は、前記カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現することであり、
前記第2要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記弾性率が2000MPa以下であり、
前記第3要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記カウント数が全タッピング数の25%未満である。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0044】
[5]上記[2]から[4]のいずれか1つに記載の樹脂組成物成形体において、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有する。
この構成によれば、成形体を柔軟にすることができる。
【0045】
[6]上記[5]に記載の樹脂組成物成形体において、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である。
この構成によれば、屈曲時における微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することができる。
【0046】
[7]上記[5]又は[6]に記載の樹脂組成物成形体において、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率は、600MPa以上1200MPa以下であり、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率は、1MPa以上200MPa以下である。
この構成によれば、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0047】
[8]本開示の他の態様に係る樹脂組成物成形体は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率は、600MPa以上1200MPa以下であり、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率は、1MPa以上200MPa以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0048】
[9]上記[5]から[8]のいずれか1つに記載の樹脂組成物成形体において、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率は、5以上200以下である。
この構成によれば、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0049】
[10]本開示の他の態様に係る樹脂組成物成形体は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率は、5以上200以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0050】
[11]上記[5]から[10]のいずれか1つに記載の樹脂組成物成形体において、
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量は、6×10以上6×10以下であり、
前記樹脂AのMw/Mnは、3.0以上8.0以下であり、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量は、4×10以上4×10以下であり、
前記樹脂BのMw/Mnは、1.1以上3.0以下である、
ただし、
前記樹脂Aまたは前記樹脂Bのそれぞれの前記分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレンを標準試料として作成された検量線に基づいて測定され、
Mwは、前記分子量分布における重量平均分子量であり、
Mnは、前記分子量分布における数平均分子量である。
この構成によれば、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0051】
[12]本開示の他の態様に係る樹脂組成物成形体は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含む樹脂Bと、
を有し、
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量は、6×10以上6×10以下であり、
前記樹脂AのMw/Mnは、3.0以上8.0以下であり、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量は、4×10以上4×10以下であり、
前記樹脂BのMw/Mnは、1.1以上3.0以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である、
ただし、
前記樹脂Aまたは前記樹脂Bのそれぞれの前記分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレンを標準試料として作成された検量線に基づいて測定され、
Mwは、前記分子量分布における重量平均分子量であり、
Mnは、前記分子量分布における数平均分子量である。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0052】
[13]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、プロピレン単位を含み、
所定の曲げ試験後の前記絶縁層内に、
最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、
最大長さが10μm超である結晶が存在しない、
ただし、前記曲げ試験は、前記絶縁層の外径に対する電力ケーブルの曲げ半径の曲げ比率が7以下となるように前記電力ケーブルを曲げる第1工程と、前記第1工程の曲げ方向と反対の方向に前記第1工程の前記曲げ比率と同じ曲げ比率で前記電力ケーブルを曲げる第2工程と、を含む。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0053】
[14]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、プロピレン単位を含み、
前記絶縁層は、走査型プローブ顕微鏡を用いた微小領域弾性測定により得られる、前記絶縁層の弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たす、
ただし、
前記微小領域弾性測定では、25℃で、シリコンからなり曲率半径が20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、前記絶縁層の10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、前記弾性率を測定し、
前記第1要件は、前記カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現することであり、
前記第2要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記弾性率が2000MPa以下であり、
前記第3要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記カウント数が全タッピング数の25%未満である。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0054】
[15]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率は、600MPa以上1200MPa以下であり、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率は、1MPa以上200MPa以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0055】
[16]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率は、5以上200以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0056】
[17]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含む樹脂Bと、
を有し、
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量は、6×10以上6×10以下であり、
前記樹脂AのMw/Mnは、3.0以上8.0以下であり、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量は、4×10以上4×10以下であり、
前記樹脂BのMw/Mnは、1.1以上3.0以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である、
ただし、
前記樹脂Aまたは前記樹脂Bのそれぞれの前記分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレンを標準試料として作成された検量線に基づいて測定され、
Mwは、前記分子量分布における重量平均分子量であり、
Mnは、前記分子量分布における数平均分子量である。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0057】
[18]本開示の他の態様に係る電力ケーブルの製造方法は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、2つ以上のモノマ単位を含み25℃で固体である樹脂Bと、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の周囲に絶縁層を被覆させる工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程では、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率を、600MPa以上1200MPa以下とし、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率を、1MPa以上200MPa以下とし、
前記樹脂Aの含有量を、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とする。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0058】
[19]本開示の他の態様に係る電力ケーブルの製造方法は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、2つ以上のモノマ単位を含み25℃で固体である樹脂Bと、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の周囲に絶縁層を被覆させる工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程では、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率を、5以上200以下とし、
前記樹脂Aの含有量を、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とする。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0059】
[20]本開示の他の態様に係る電力ケーブルの製造方法は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、2つ以上のモノマ単位を含む樹脂Bと、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の周囲に絶縁層を被覆させる工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程では、
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量を、6×10以上6×10以下とし、
前記樹脂AのMw/Mnを、3.0以上8.0以下とし、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量を、4×10以上4×10以下とし、
前記樹脂BのMw/Mnを、1.1以上3.0以下とし、
前記樹脂Aの含有量を、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とする、
ただし、
前記樹脂Aまたは前記樹脂Bの前記分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレンを標準試料として作成された検量線に基づいて測定され、
Mwは、前記分子量分布における重量平均分子量であり、
Mnは、前記分子量分布における数平均分子量である。
この構成によれば、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0060】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0061】
<本開示の一実施形態>
(1)樹脂組成物成形体
本実施形態の樹脂組成物成形体(以下、単に「成形体」ともいう)は、例えば、樹脂組成物を含み、長尺な対象物の周囲に被覆されたものである。具体的には、樹脂組成物成形体は、例えば、後述する電力ケーブル10の絶縁層130を構成している。樹脂組成物成形体の対象物は、例えば、長尺な線状の導体110である。樹脂組成物成形体は、例えば、導体110の外周を覆うように押出成形されている。すなわち、樹脂組成物成形体は、例えば、対象物の長手方向に同一の形状を有している。また、対象物の長手方向の樹脂組成物成形体の長さは、例えば、30cm以上、好ましくは50cm以上である。対象物に被覆された樹脂組成物成形体の厚さは、例えば、3mm以上である。
【0062】
本実施形態の樹脂組成物成形体は、例えば、樹脂成分として、少なくともプロピレン単位を含んでいる。ここでいう「樹脂成分」とは、樹脂組成物成形体の主成分を構成する樹脂材料(ポリマ)のことを意味する。「主成分」とは、最も含有量が多い成分のことを意味する。
【0063】
より具体的には、樹脂組成物成形体を構成する樹脂成分は、例えば、プロピレン系樹脂である樹脂Aと、柔軟性樹脂である樹脂Bと、を含んでいる。これらを混合することで、プロピレン系樹脂の過剰な結晶成長を阻害することができ、絶縁層の柔軟性を向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態の樹脂組成物成形体は、例えば、非架橋であるか、或いは、架橋していたとしても、ゲル分率(架橋度)は低い。具体的には、樹脂組成物成形体における架橋剤の残渣は、例えば、300ppm未満である。なお、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを使用した場合には、残渣は、例えば、クミルアルコール、α-メチルスチレンなどである。上述のように成形体を非架橋か或いは架橋度を低くすることで、樹脂組成物成形体のリサイクル性を向上させることができる。
【0065】
(樹脂A:プロピレン系樹脂)
本実施形態の樹脂Aは、上述のように、少なくともプロピレン単位を主成分として含んでいる。樹脂Aとしては、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、およびプロピレンランダム重合体(ランダムポリプロピレン)などが挙げられる。
【0066】
なお、本実施形態の樹脂組成物を核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)装置により分析することで、樹脂Aに由来するモノマ単位として、少なくともプロピレン単位が検出される。例えば、樹脂Aがプロピレンランダム重合体である場合には、プロピレン単位とエチレン単位が検出され、樹脂Bがプロピレン単独重合体である場合には、プロピレン単位が検出される。
【0067】
本実施形態では、樹脂Aとしてのプロピレン系樹脂における立体規則性は、例えば、アイソタクチックであることが好ましい。プロピレン系樹脂は、チーグラーナッタ触媒で重合されたものであり、汎用的である。立体規則性がアイソタクチックであることで、樹脂Aと低結晶性の樹脂Bとを混合した組成物において、融点の低下を抑制することができる。その結果、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0068】
なお、参考までに、他の立体規則性として、シンジオタクチック、アタクチックがあるが、いずれも、本実施形態のプロピレン系樹脂の立体規則性としては好ましくない。これらの立体規則性を有するPP系樹脂では、所定の結晶構造が得られず、単体での融点が低くなる。また、当該PP系樹脂と樹脂Bとを混合した組成物においては、PP系樹脂の結晶が樹脂Bに侵食され易い。このため、組成物の融点がPP系樹脂単体での融点よりも低くなる。その結果、非架橋または微架橋での使用が困難となる。これらの理由から、シンジオタクチック、アタクチックは好ましくない。
【0069】
樹脂Aがプロピレンランダム重合体である場合には、樹脂Aは、上述のように、プロピレン単位とエチレン単位とを有する。プロピレンランダム重合体におけるエチレン含有量(エチレン単位含有量)は、例えば、0.5質量%以上15質量%以下である。エチレン含有量を0.5質量%以下とすることで、球晶成長を抑制することができる。一方で、エチレン含有量を15質量%以下とすることで、融点の低下を抑制し、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0070】
なお、樹脂Aの貯蔵弾性率、分子量および含有量については、樹脂Bのそれらとともに、詳細を後述する。
【0071】
(樹脂B:柔軟性樹脂)
本実施形態の樹脂Bは、例えば、樹脂Aの弾性率よりも低い弾性率を有し、樹脂組成物成形体に柔軟性を付与する樹脂材料である。なお、樹脂Bは、樹脂Aの過剰な結晶成長を抑制する観点から、低結晶性樹脂(非晶性樹脂)として考えてもよい。
【0072】
本実施形態の樹脂Bは、例えば、2つ以上のモノマ単位を含んでいる。具体的には、樹脂Bは、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン(ブチレン)、ヘキセン、オクテン、イソプレンおよびスチレンのうち少なくともいずれか2つを共重合した共重合体からなっている。本実施形態の樹脂組成物をNMR装置により分析することで、樹脂Bに由来する各モノマ単位が検出される。
【0073】
なお、オレフィン系モノマ単位における炭素-炭素二重結合は、例えば、α位にあることが好ましい。
【0074】
また、樹脂Bは、例えば、25℃で固体であることが好ましい。樹脂Bが25℃で液体である場合は、後述の分子量が過剰に低いことに相当する。この場合、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることが困難となる。これに対し、樹脂Bが25℃で固体であることで、分子量の過剰な低下を抑制することができる。これにより、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0075】
上述の要件を満たす樹脂Bとしては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPR:Ethylene Propylene Rubber)、超低密度ポリエチレン(VLDPE: Very Low Density Poly Ethylene)、スチレン系樹脂(スチレン含有樹脂)などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なお、VLDPEの密度は、例えば、0.855g/cm以上0.890g/cm以下である。
【0076】
樹脂Bは、例えば、プロピレン系樹脂である樹脂Aとの相溶性の観点から、プロピレン単位を含む共重合体が好ましい。プロピレン単位を含む共重合体としては、上記の中で、EPRが挙げられる。
【0077】
EPRのエチレン含有量(エチレン単位含有量)は、例えば、20質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは55質量%以上であることが好ましい。エチレン含有量が20質量%未満であると、プロピレン系樹脂に対するEPRの相溶性が過剰に高くなる。このため、成形体中のEPRの含有量を少なくしても、成形体を柔軟化することができる。しかしながら、プロピレン系樹脂の結晶化を阻害する効果(「結晶化阻害効果」ともいう)が発現せず、球晶のマイクロクラックに起因して絶縁性が低下する可能性がある。これに対し、本実施形態では、エチレン含有量を20質量%以上とすることで、プロピレン系樹脂に対するEPRの相溶性が過剰に高くなることを抑制することができる。これにより、EPRによる柔軟化効果を得つつ、EPRによる結晶化阻害効果を発現させることができる。その結果、絶縁性の低下を抑制することができる。さらに、エチレン含有量を好ましくは40質量%以上、より好ましくは55質量%以上とすることで、結晶化阻害効果を安定的に発現させることができ、絶縁性の低下を安定的に抑制することができる。
【0078】
一方で、樹脂Bは、例えば、プロピレン単位を含まない共重合体であってもよい。プロピレン単位を含まない共重合体としては、例えば、容易入手性の観点から、VLDPEが好ましい。VLDPEとしては、例えば、エチレンおよび1-ブテンにより構成されるPE、エチレンおよび1-オクテンにより構成されるPEなどが挙げられる。このように樹脂Bとしてプロピレン単位を含まない共重合体を添加することで、プロピレン系樹脂に対して樹脂Bを所定量混合させつつ、完全相溶を抑制することができる。このようなプロピレン単位を含まない共重合体の含有量を所定量以上とすることで、結晶化阻害効果を発現させることができる。
【0079】
また、樹脂Bは、例えば、上述のように、スチレン系樹脂であってもよい。スチレン系樹脂は、ハードセグメントとしてのスチレン単位と、ソフトセグメントとして、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびイソプレンなどのうち少なくとも1つのモノマ単位と、を含む共重合体である。スチレン系樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマと言い換えることもできる。スチレン系樹脂が比較的柔軟なモノマ単位と比較的剛直なモノマ単位とを含むことで、成形性を向上させることができる。また、PP系樹脂である樹脂Aとの相溶性が良いモノマ単位(例えばブチレン)を含むことで、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混合することができる。
【0080】
スチレン系樹脂としては、例えば、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体(SIS)、水素化スチレンイソプレンスチレン共重合体、水素化スチレンブタジエンラバー、水素化スチレンイソプレンラバー、スチレンエチレンブチレンオレフィン結晶ブロック共重合体などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
なお、ここでいう「水素化(Hydrogenated)」とは、二重結合に水素を添加したことを意味する。例えば、「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」とは、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体の二重結合に水素を添加したポリマを意味する。なお、スチレンが有する芳香環の二重結合には水素が添加されていない。「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」は、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)と言い換えることができる。
【0082】
スチレン系樹脂のなかでも、芳香環を除く化学構造中に二重結合を含まない水素化材料が好ましい。非水素化材料を用いた場合では、樹脂組成物の成形時などに、樹脂成分が熱劣化する可能性があり、得られる成形体の諸特性が低下する可能性がある。これに対し、水素化材料を用いることで、熱劣化の耐性を向上させることができる。これにより、成形体の諸特性をより高く維持させることができる。
【0083】
スチレン系樹脂中のスチレンの含有率(以下、単に「スチレン含有率」ともいう)は、特に限定されないが、例えば、5質量%以上35質量%以下であることが好ましい。スチレン含有率を上記範囲内とすることで、材料が過剰に硬くなることを抑制することができる。これにより、PP系樹脂とスチレン含有樹脂との分離および割れを抑制することができる。
【0084】
(分子量分布)
発明者等は、鋭意検討の結果、樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの単体としての分子量分布を調整することで、上述した樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの局所的な偏りを抑制することができることを見出した。
【0085】
ここで、図1を用い、本実施形態における樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの分子量分布について説明する。図1は、本実施形態に係る樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの分子量分布の例を示す図である。図1において、縦軸は、100で規格化された微分分布値(頻度)(%)である。
【0086】
図1における樹脂Aまたは樹脂Bのそれぞれの分子量分布は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC:Gel Permeation Chromatography)により、ポリスチレン(PS)を標準試料として作成された検量線に基づいて測定されたものである。すなわち、ここでいう「分子量分布(Molecular Weight Distribution)」とは、例えば、図1に示すように、分子量に対して、分子の個数に相当する微分分布値をプロットすることで得られた分布曲線のことである。
【0087】
また、以下において、Mwは、分子量分布における重量平均分子量であり、Mnは、分子量分布における数平均分子量である。Mw/Mnは、多分散度(Polydispersity Index)とも呼ばれる値であり、上述の分子量分布の広がり具合を示す指標値(数値)として定義される。Mw/Mnが大きいほど、分子量分布が広いこととなる。
【0088】
図1に示すように、本実施形態では、樹脂Aおよび樹脂Bが、互いに異なる分子量分布を有している。樹脂Aの分子量分布の少なくとも一部は、例えば、樹脂Bの分子量分布と重なっている。一方で、樹脂Aの分子量分布が相対的に広く、樹脂Bの分子量分布が相対的に狭くなっている。このような樹脂Aまたは樹脂Bのそれぞれの分子量分布により、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。これにより、絶縁層130において、樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの局所的な偏りを抑制することができる。その結果、屈曲時の微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することができる。
【0089】
具体的には、樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量は、例えば、6×10以上6×10以下である。樹脂Aのピーク分子量が6×10未満であると、樹脂Aが脆くなる。このため、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることが困難となる。これに対し、樹脂Aのピーク分子量を6×10以上とすることで、樹脂Aの脆化を抑制することができる。これにより、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。一方で、樹脂Aのピーク分子量が6×10超であると、流動性が低いため、絶縁層130を成形することが困難となる。また、樹脂Aの分子量分布と樹脂Bの分子量分布とが重なる範囲が狭くなる。このため、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることが困難となる。これに対し、樹脂Aのピーク分子量を6×10以下とすることで、流動性を確保し、絶縁層130を安定的に成形することができる。また、樹脂Aの分子量分布と樹脂Bの分子量分布とを所定の範囲に亘って重なり合わせることができる。これにより、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0090】
また、樹脂AのMw/Mnは、例えば、3.0以上8.0以下である。樹脂AのMw/Mnが3.0未満であると、絶縁層130を成形することが困難となる。これに対し、樹脂AのMw/Mnを3.0以上とすることで、絶縁層130を安定的に成形することができる。一方で、樹脂AのMw/Mnが8.0超であると、樹脂Aの分子量分布が過剰に広くなる。このため、部分的に樹脂Aと樹脂Bとの相溶性が悪くなる。このため、これらを均一に混合することが困難となる。これに対し、樹脂AのMw/Mnを8.0以下とすることで、樹脂Aの分子量分布を樹脂Bの分子量分布よりも広くしつつ、樹脂Aの分子量分布の過剰な拡大を抑制することができる。これにより、樹脂Aと樹脂Bとの相溶性が悪い部分が生じることを抑制することができる。その結果、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混合することができる。
【0091】
一方で、樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量は、例えば、4×10以上4×10以下である。樹脂Bのピーク分子量が4×10未満または4×10超であると、樹脂Aまたは樹脂Bのうち一方だけで固まる不均一部分が生じる可能性がある。これに対し、樹脂Bのピーク分子量を4×10以上4×10以下とすることで、樹脂Aまたは樹脂Bのうち一方だけで固まる不均一部分の発生を抑制することができる。すなわち、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0092】
また、樹脂BのMw/Mnは、例えば、1.1以上3.0以下である。樹脂BのMw/Mnが1.1未満であると、樹脂Bの分子量分布が過剰に狭くなる。このため、樹脂Aまたは樹脂Bのうち一方だけで固まる不均一部分が生じる可能性がある。これに対し、樹脂BのMw/Mnを1.1以上とすることで、樹脂Bの分子量分布を樹脂Aの分子量分布よりも狭くしつつ、樹脂Bの分子量分布の過剰な狭小を抑制することができる。これにより、樹脂Aまたは樹脂Bのうち一方だけで固まる不均一部分の発生を抑制することができる。すなわち、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。一方で、樹脂BのMw/Mnが3.0超であると、樹脂Bの分子量分布が広くなる。広い分子量分布で混ざりあっている樹脂Bは、樹脂A内の特定の分子量の領域にしか混ざらない。このため、樹脂Aまたは樹脂Bのうち一方だけで固まる不均一部分が生じる可能性がある。これに対し、樹脂BのMw/Mnを3.0以下とすることで、樹脂Bの分子量分布を樹脂Aの分子量分布よりも狭くすることができる。これにより、樹脂Aまたは樹脂Bのうち一方だけで固まる不均一部分の発生を抑制することができる。その結果、狭い分子量分布で混ざりあっている樹脂Bを、樹脂A内の局所的な分子量によらず、樹脂A全体に亘って均一に混ぜ合わせることができる。
【0093】
(弾性率)
本実施形態では、上述のように、樹脂Bの弾性率は樹脂Aの弾性率よりも低い。さらに、本実施形態では、樹脂Aおよび樹脂Bがそれぞれ上述の分子量分布の要件を満たすことで、樹脂Aおよび樹脂Bがそれぞれ以下の動的粘弾性測定(DMA:Dynamic Mechanical. Analysis)により測定した貯蔵弾性率の要件を満たすこととなる。
【0094】
なお、以下での動的粘弾性測定では、例えば、対象の樹脂の試料に対して0.08%の伸縮を加えた状態(振幅が0.08%である伸縮振動を印加した状態)で、-50℃から100℃まで昇温させながら、試料の貯蔵弾性率を測定する。このとき、測定周波数を10Hzとする。また、昇温速度を10℃/minとする。
【0095】
ポリプロピレン系樹脂である樹脂Aでは、分子量が高くなるにつれて、弾性率が高くなる。動的粘弾性測定により測定した25℃における樹脂Aの貯蔵弾性率は、上述の樹脂Aの分子量分布に基づき、例えば、600MPa以上1200MPa以下である。これにより、樹脂Aが上述の分子量分布の要件を満たす効果に相当する効果を得ることができる。
すなわち、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0096】
一方で、柔軟性樹脂である樹脂Bでは、分子量と弾性率との対応関係は、樹脂Bがスチレン系樹脂か否かに依存する。樹脂Bが非スチレン系樹脂である場合では、分子量が高くなるにつれて、弾性率が高くなる。これとは反対に、樹脂Bがスチレン系樹脂である場合では、分子量が高くなるにつれて、弾性率が低くなる。
【0097】
樹脂Bがいずれの場合においても、動的粘弾性測定により測定した25℃における樹脂Bの貯蔵弾性率は、上述の樹脂Bの分子量分布に基づき、例えば、1MPa以上200MPa以下である。これにより、樹脂Bが上述の分子量分布の要件を満たす効果に相当する効果を得ることができる。すなわち、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0098】
または、動的粘弾性測定により測定した25℃における樹脂Bの貯蔵弾性率に対する樹脂Aの貯蔵弾性率の比率は、上述の樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの分子量分布に基づき、例えば、5以上200以下である。これによっても、上述の分子量分布の要件を満たす効果に相当する効果を得ることができる。
【0099】
(配合比)
本実施形態では、さらに、樹脂Aおよび樹脂Bの配合比が下記要件を満たすことが好ましい。
【0100】
具体的には、樹脂Aの含有量は、樹脂Aおよび樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、例えば、52質量部以上95質量部以下である。
【0101】
樹脂Aの含有量が52質量部未満であると、柔軟性樹脂である樹脂Bが相対的に多くなる。このため、樹脂Bが局所的に集中した低弾性領域が生じ易くなる。その結果、屈曲時に、高弾性領域と低弾性領域との界面、または低弾性領域内のうち少なくともいずれかで、微小なボイドが生じる可能性がある。これに対し、樹脂Aの含有量を52質量部以上とすることで、低弾性領域の過剰な発生を抑制することができる。これにより、屈曲時に、高弾性領域と低弾性領域との界面または低弾性領域内のうち少なくともいずれかでの微小なボイドの発生を抑制することができる。
【0102】
一方で、樹脂Aの含有量が95質量部超であると、プロピレン系樹脂である樹脂Aが樹脂Bに対して過剰に多くなる。このため、樹脂Aが局所的に集中した高弾性領域が生じ易くなる。その結果、屈曲時に、高弾性領域内の結晶同士の分離に起因して微小なボイドが生じる可能性がある。これに対し、樹脂Aの含有量を95質量部以下とすることで、高弾性領域の過剰な発生を抑制することができる。これにより、屈曲時に、高弾性領域内の結晶同士の分離に起因した微小なボイドの発生を抑制することができる。
【0103】
(その他の添加剤)
樹脂組成物成形体は、上述の樹脂成分のほかに、例えば、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤および着色剤を含んでいてもよい。
【0104】
ただし、本実施形態の樹脂組成物成形体は、例えば、プロピレンの結晶を生成する核剤として機能する添加剤が少ないことが好ましい。核剤として機能する添加剤としては、難燃剤などの無機物または有機物などが挙げられる。具体的には、核剤として機能する添加剤の含有量は、例えば、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂との合計の含有量を100質量部としたときに、1質量部未満であることが好ましい。これにより、核剤を起因とした想定外の異常な結晶化の発生を抑制し、結晶量を容易に制御することができる。
【0105】
(2)電力ケーブル
次に、図2を用い、本実施形態の電力ケーブルについて説明する。図2は、本実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する断面図である。
【0106】
本実施形態の電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁電力ケーブルとして構成されている。また、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、陸上(管路内)、水中または水底に布設されるよう構成されている。なお、電力ケーブル10は、例えば、交流に用いられる。
【0107】
具体的には、電力ケーブル10は、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、シース160と、を有している。
【0108】
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金等を含む複数の導体芯線(導電芯線)を撚り合わせることにより構成されている。
【0109】
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面側における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体、オレフィン系エラストマ、上述の低結晶性樹脂などのうち少なくともいずれかと、導電性のカーボンブラックと、を含んでいる。
【0110】
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられ、上述した樹脂組成物成形体として構成されている。絶縁層130は、例えば、上述のように、樹脂組成物により押出成形されている。
【0111】
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、例えば、内部半導電層120と同様の材料により構成されている。
【0112】
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
【0113】
(シース)
シース160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられている。シース160は、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンにより構成されている。
【0114】
なお、本実施形態の電力ケーブル10は、水中ケーブルまたは水底ケーブルであれば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層や、鉄線鎧装を有していてもよい。
【0115】
一方で、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、遮蔽層150よりも外側に遮水層を有していなくてもよい。つまり、本実施形態の電力ケーブル10は、非完全遮水構造により構成されていてもよい。
【0116】
(具体的寸法等)
電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは3mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは0.1mm以上5mm以下であり、シース160の厚さは1mm以上である。本実施形態の電力ケーブル10に適用される交流電圧は、例えば20kV以上である。
【0117】
(3)ケーブル諸特性
本実施形態では、上述したように、樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの分子量分布、弾性率および配合比の要件を満たすことで、以下の絶縁層130の特性を得ることができる。
【0118】
(微小領域弾性)
上述の屈曲時における微小なボイドおよび粗大な結晶の発生の可能性は、マクロな硬さ(巨視的な硬さ)の測定として動的粘弾性測定(DMA)などにより成形体の弾性率を測定しただけでは、把握することができない。
【0119】
そこで、発明者等が鋭意検討したところ、ミクロな硬さ(微視的な硬さ)の測定として、成形体の微小領域弾性測定を試みた。その結果、屈曲時における微小なボイドおよび粗大な結晶の発生の可能性を把握することができることを見出した。
【0120】
ここで、図3を用い、微小領域弾性測定について説明する。図3は、微小領域弾性測定の結果の例を示す図である。
【0121】
図3における「微小領域弾性測定」は、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)を用いて行われる。微小領域弾性測定では、例えば、25℃で、シリコン(単結晶)からなり曲率半径が1nm以上20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、成形体の10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、弾性率を測定する。当該測定を行う成形体としては、例えば、絶縁層130の厚さ方向の中央部から切り出した所定厚さを有するシートが使用される。このような微小領域弾性測定により、成形体の弾性率に対するカウント数の分布が得られる。
【0122】
本実施形態の絶縁層130は、例えば、微小領域弾性測定により得られる絶縁層130の弾性率に対するカウント数の分布において、後述の第1要件、第2要件および第3要件を満たしている。
【0123】
まず、第1要件、第2要件および第3要件のうち少なくともいずれかを満たさない比較例を説明する。
【0124】
比較例として、例えば、図3の(ii)のように、カウント数が4000回以上となる領域で、2つ以上のピークが出現する場合がある。この場合は、樹脂Aと樹脂Bとが均一に混合されておらず、樹脂Aまたは樹脂Bのうち少なくともいずれかが局所的に偏っている場合に相当する。この場合、屈曲時に微小なボイドまたは粗大な結晶が発生する可能性がある。
【0125】
また、他の比較例として、例えば、図3の(iii)のように、正規分布のピークが1つのみであっても、正規分布のピークにおける弾性率が2000MPa超となる場合がある。この場合は、樹脂Aの含有量が多く、樹脂Aが局所的に集中した高弾性領域が生じている場合に相当する。この場合も、屈曲時に微小なボイドまたは粗大な結晶が発生する可能性がある。
【0126】
また、他の比較例として、例えば、図3の(iv)のように、正規分布のピークが1つのみであり且つピークにおける弾性率が2000MPa以下あっても、正規分布のピークにおけるカウント数が全タッピング数の25%以上(すなわち15000回以上)となる場合がある。この場合は、例えば、樹脂Bの弾性率が過剰に低く、樹脂Aと樹脂Bとが均一に混ざり合っていない場合に相当する。この場合も、屈曲時に微小なボイドまたは粗大な結晶が発生する可能性がある。
【0127】
これに対し、本実施形態では、例えば、図3の(i)のように、第1要件として、カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現する。
第2要件として、正規分布のピークにおける弾性率が2000MPa以下である。また、第3要件として、正規分布のピークにおけるカウント数が全タッピング数の25%未満である。
【0128】
このように、本実施形態では、絶縁層130の微小領域における弾性率の分布が、低い側にシフトしつつ、低い弾性率から高い弾性率に亘って広く分布している。つまり、樹脂Aと樹脂Bとが均一に混ざり合っていることで、成形体の微小領域であっても、硬さが均一になっている。これにより、屈曲時に微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することができる。
【0129】
なお、第2要件において、正規分布のピークにおける弾性率の下限値は、限定されるものではないが、例えば、プロピレン系樹脂が少ない場合の弾性率に相当し、500MPaである。また、第3要件において、正規分布のピークにおけるカウント数の下限値は、限定されるものではない。しかしながら、第1要件を満たせば、第3要件におけるカウント数の下限値が、第1要件の基準としたカウント数(4000回)よりも小さくなることはない。このため、第3要件におけるカウント数の下限値は、例えば、全タッピング数の6.7%である。
【0130】
(屈曲耐性)
本実施形態では、絶縁層130は、上述の微小領域弾性測定での全ての要件を満たすことで、所定の曲げ試験に対する耐性を有している。
【0131】
ここでいう「曲げ試験」は、例えば、絶縁層130の外径(成形体の外径)に対する電力ケーブル10の曲げ半径(成形体の曲げ半径)の曲げ比率が7以下となるように電力ケーブル10を曲げる第1工程と、第1工程の曲げ方向と反対の方向に第1工程の曲げ比率と同じ曲げ比率で電力ケーブルを曲げる第2工程と、を含む。通常のケーブル規格における曲げ試験では、絶縁層の外径に対する電力ケーブルの曲げ半径の曲げ比率を、例えばおよそ20程度にする。これに対し、本実施形態における曲げ試験における曲げ比率は、通常のケーブル規格における曲げ試験における曲げ比率よりも小さい。このため、本実施形態では、絶縁層130に加わる曲げ応力が強くなる。したがって、本実施形態における曲げ試験は、絶縁層130にとって厳しい試験となっていると考えられる。
【0132】
当該曲げ試験に対する耐性評価としては、絶縁層130内のボイドおよび粗大な結晶の有無を評価する。ボイドの評価は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により行う。また、粗大な結晶の評価は、例えば、光学顕微鏡により行う。
【0133】
本実施形態では、上述の曲げ試験後の絶縁層130内に、最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、最大長さが10μm超である結晶が存在しない。このように屈曲時に微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することで、屈曲後の絶縁性の低下を抑制することができる。
【0134】
(絶縁性)
本実施形態では、上述の曲げ試験前の常温(例えば25℃)における絶縁層130の交流破壊電界強度は、例えば、60kV/mm以上である。より具体的には、常温において、0.2mm厚の試料に対して商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を10kVで10分課電した後、1kVごとに昇圧し10分課電することを繰り返す条件下で印加したときの、交流破壊電界は、60kV/mm以上である。
【0135】
さらに、本実施形態では、上述の曲げ試験後であっても、交流破壊電界が高く維持される。
【0136】
すなわち、本実施形態では、上述の曲げ試験後の常温(例えば25℃)における絶縁層130の交流破壊電界強度は、例えば、60kV/mm以上である。なお、曲げ試験後の交流破壊電界強度の試験方法は、上述の曲げ試験前と同様である。
【0137】
(4)電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の電力ケーブルの製造方法について説明する。以下、ステップを「S」と略す。
【0138】
(S100:樹脂組成物準備工程)
まず、プロピレン単位を含む樹脂組成物を準備する。
【0139】
本実施形態では、プロピレン系樹脂である樹脂Aおよび柔軟性樹脂である樹脂Bを含む樹脂成分と、その他の添加剤(酸化防止剤等)と、を混合機により混合(混練)し、混合材を形成する。混合機としては、例えばオープンロール、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、単軸混合機、多軸混合機等が挙げられる。
【0140】
このとき、上述の分子量分布の要件または弾性率の要件のうち少なくともいずれかを満たす樹脂Aおよび樹脂Bを用いる。
【0141】
具体的には、樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量を、6×10以上6×10以下とし、樹脂AのMw/Mnを、3.0以上8.0以下とする。また、樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量を、4×10以上4×10以下とし、樹脂BのMw/Mnを、1.1以上3.0以下とする。
【0142】
または、動的粘弾性測定により測定した25℃における樹脂Aの貯蔵弾性率を、600MPa以上1200MPa以下とし、動的粘弾性測定により測定した25℃における樹脂Bの貯蔵弾性率を、1MPa以上200MPa以下とする。
【0143】
または、動的粘弾性測定により測定した25℃における樹脂Bの貯蔵弾性率に対する樹脂Aの貯蔵弾性率の比率を、5以上200以下とする。
【0144】
また、このとき、樹脂Aの含有量を、樹脂Aおよび樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とする。
【0145】
混合材を形成したら、当該混合材を押出機により造粒する。これにより、絶縁層130を構成することとなるペレット状の樹脂組成物が形成される。なお、混練作用の高い2軸型の押出機を用いて、混合から造粒までの工程を一括して行ってもよい。
【0146】
(S200:導体準備工程)
一方で、複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
【0147】
(S300:ケーブルコア形成工程(押出工程、絶縁層形成工程))
樹脂組成物準備工程S100および導体準備工程S200が完了したら、上述の樹脂組成物を用い、導体110の外周を例えば3mm以上の厚さで被覆するように絶縁層130を形成する。
【0148】
このとき、本実施形態では、上述の樹脂組成物を用いることで、微小領域弾性測定により得られる弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たすように、絶縁層130を形成する。
【0149】
また、このとき、本実施形態では、上述の樹脂組成物を用いることで、上述の曲げ試験後の絶縁層130内に、最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、最大長さが10μm超である結晶が存在しないように、絶縁層130を形成する。
【0150】
また、このとき、本実施形態では、例えば、3層同時押出機を用いて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に形成する。
【0151】
具体的には、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、内部半導電層用組成物を投入する。
【0152】
絶縁層130を形成する押出機Bに、上記したペレット状の樹脂組成物を投入する。なお、押出機Bの設定温度は、所望の融点よりも10℃以上50℃以下の温度だけ高い温度に設定する。線速および押出圧力に基づいて、設定温度を適宜調節することが好ましい。
【0153】
外部半導電層140を形成する押出機Cに、押出機Aに投入した内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料を含む外部半導電層用組成物を投入する。
【0154】
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。これにより、ケーブルコアとなる押出材が形成される。
【0155】
その後、押出材を、例えば、水により冷却する。
【0156】
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
【0157】
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
【0158】
(S500:シース形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機に塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周に、シース160を形成する。
【0159】
以上により、固体絶縁電力ケーブルとしての電力ケーブル10が製造される。
【0160】
(5)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0161】
(a)本実施形態では、樹脂Aの分子量分布の少なくとも一部は、樹脂Bの分子量分布と重なっている。一方で、樹脂Aの分子量分布が相対的に広く、樹脂Bの分子量分布が相対的に狭くなっている。これにより、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0162】
ここで、樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれが上述の分子量分布の要件を満たさない場合について考える。
【0163】
上述の分子量分布の要件を満たさない場合としては、樹脂Aの分子量分布と樹脂Bの分子量分布とが重なっていない場合が考えられる。この場合では、樹脂Aと樹脂Bとの相溶性が低く、これらが充分に混ざり合わない可能性がある。
【0164】
また、樹脂Aの分子量分布と樹脂Bの分子量分布とが重なっていても、樹脂Aの分子量分布と樹脂Bの分子量分布とがともに広くなっている場合が考えられる。この場合では、樹脂Aと樹脂Bとが互いの広い分子量分布に応じて均一に混合されることが予想されるが、実際には、樹脂Aと樹脂Bとが上述の予想に反して不均一な状態となる。すなわち、樹脂Aと樹脂Bとが混ざらない部分が生じ、樹脂Aまたは樹脂Bのうち少なくともいずれかの局所的な偏りが生じる可能性がある。例えば、樹脂Bの全てが、一定の分子量を有する樹脂Aの一部に集中して混ざってしまうことが考えられる。
【0165】
これに対し、本実施形態では、上述のような樹脂Aまたは樹脂Bのそれぞれの分子量分布により、狭い分子量分布を有する樹脂Bを、樹脂A内の局所的な分子量によらず、樹脂A全体に亘って均一に混ぜ合わせることができる。これにより、絶縁層130において、樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの局所的な偏りを抑制することができる。
【0166】
樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの局所的な偏りを抑制することで、絶縁層130の微小領域であっても、弾性率を低い側にシフトさせつつ、柔軟な部分と硬い部分とを満遍なく分布させることができる。これにより、屈曲時の微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することができる。その結果、屈曲後における絶縁層130の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0167】
(b)本実施形態では、樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量は、6×10以上6×10以下である。これにより、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。また、樹脂AのMw/Mnは、3.0以上8.0以下である。樹脂AのMw/Mnを3.0以上とすることで、絶縁層130を安定的に成形することができる。また、樹脂AのMw/Mnを8.0以下とすることで、樹脂Aの分子量分布を樹脂Bの分子量分布よりも広くしつつ、樹脂Aの分子量分布の過剰な拡大を抑制することができる。これにより、樹脂Aと樹脂Bとの相溶性が悪い部分が生じることを抑制することができる。その結果、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混合することができる。
【0168】
また、樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量は、4×10以上4×10以下である。これにより、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。また、樹脂BのMw/Mnは、1.1以上3.0以下である。樹脂BのMw/Mnを1.1以上3.0以下とすることで、これにより、樹脂Aまたは樹脂Bのうち一方だけで固まる不均一部分の発生を抑制することができる。すなわち、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0169】
このように樹脂Aおよび樹脂Bが上述の分子量分布の要件を満たすことで、絶縁層130において、樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの局所的な偏りを抑制することができる。その結果、屈曲時の微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することができる。
【0170】
(c)本実施形態では、上述の樹脂Aの分子量分布に基づき、25℃における樹脂Aの貯蔵弾性率は、600MPa以上1200MPa以下である。これにより、樹脂Aが上述の分子量分布の要件を満たす効果に相当する効果を得ることができる。すなわち、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0171】
また、上述の樹脂Bの分子量分布に基づき、25℃における樹脂Bの貯蔵弾性率は、1MPa以上200MPa以下である。これにより、樹脂Bが上述の分子量分布の要件を満たす効果に相当する効果を得ることができる。すなわち、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができる。
【0172】
または、上述の樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの分子量分布に基づき、25℃における樹脂Bの貯蔵弾性率に対する樹脂Aの貯蔵弾性率の比率は、5以上200以下である。これによっても、上述の分子量分布の要件を満たす効果に相当する効果を得ることができる。
【0173】
(d)本実施形態では、樹脂Aの含有量は、樹脂Aおよび樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である。樹脂Aの含有量を52質量部以上とすることで、低弾性領域の過剰な発生を抑制することができる。これにより、屈曲時に、高弾性領域と低弾性領域との界面、または低弾性領域内のうち少なくともいずれかでの微小なボイドの発生を抑制することができる。一方で、樹脂Aの含有量を95質量部以下とすることで、高弾性領域の過剰な発生を抑制することができる。これにより、屈曲時に、高弾性領域内の結晶同士の分離に起因した微小なボイドの発生を抑制することができる。
【0174】
(e)本実施形態では、樹脂Aおよび樹脂Bが上述の分子量分布、弾性率および配合比の要件を満たすことで、絶縁層130は、微小領域弾性測定により得られる絶縁層130の弾性率に対するカウント数の分布において、上述の第1要件、第2要件および第3要件を満たしている。すなわち、本実施形態の絶縁層130では、微小領域における弾性率の分布が、低い側にシフトしつつ、低い弾性率から高い弾性率に亘って広く分布している。つまり、樹脂Aと樹脂Bとが均一に混ざり合っていることで、成形体の微小領域であっても、柔軟な部分と硬い部分とを満遍なく分布させることができる。これにより、屈曲時における微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することができる。
【0175】
(f)本実施形態では、上述の曲げ試験後の絶縁層130内に、最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、最大長さが10μm超である結晶が存在しない。このように屈曲時に微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することで、高電界が印加されたときに、局所的な電界集中を抑制することができる。その結果、屈曲後の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0176】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0177】
上述の実施形態では、絶縁層としての樹脂組成物成形体は、メカニカル的に混合され押出成形されたものである場合について説明したが、樹脂組成物成形体は、重合され押出成形されたものであってもよい。
【0178】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が遮水層を有していなくてもよい場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電力ケーブル10は、簡易的な遮水層を有していてもよい。具体的には、簡易的な遮水層は、例えば、金属ラミネートテープからなる。金属ラミネートテープは、例えば、アルミまたは銅等からなる金属層と、金属層の片面または両面に設けられる接着層と、を有している。金属ラミネートテープは、例えば、ケーブルコアの外周(外部半導電層よりも外周)を囲むように縦添えにより巻き付けられる。なお、当該遮水層は、遮蔽層よりも外側に設けられていてもよいし、遮蔽層を兼ねていてもよい。このような構成により、電力ケーブル10のコストを削減することができる。
【0179】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が陸上、水中または水底に布設されるよう構成される場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。例えば、電力ケーブル10は、いわゆる架空電線(架空絶縁電線)として構成されていてもよい。
【0180】
上述の実施形態では、ケーブルコア形成工程S300において3層同時押出を行ったが、1層ずつ押出してもよい。
【実施例0181】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0182】
(1)電力ケーブルの作製
まず、所定の樹脂組成物をバンバリーミキサによって混合し、押出機によりペレット状に造粒した。次に、断面積が100mmの導体を準備した。導体を準備したら、エチレン-エチルアクリレート共重合体を含む内部半導電層用樹脂組成物と、上述の樹脂組成物と、内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料からなる外部半導電層樹脂組成物と、をそれぞれ押出機A~Cに投入した。押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を同時に押出した。このとき、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層の厚さを、それぞれ、0.5mm、3.5mm、0.5mmとした。押出後、押出材を水冷した。その結果、中心から外周に向けて、導体、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を有する、試料A1~A7、B1~B9のそれぞれの電力ケーブルを製造した。
【0183】
[試料A1~A7、B1~B9]
(成形方法)
押出成形
押出温度:170℃
絶縁層の厚さ:3.5mm
最終の電力ケーブルの外径:20.3mm
【0184】
(樹脂A)
含有量:40~100質量部
(樹脂Aおよび樹脂Bの合計の含有量を100質量部とする。)
PP1~PP3:プロピレンランダム重合体(ランダムPP)
(以下、記載順にPP1~PP3に対応)
それぞれの立体規則性:アイソタクチック
スチレン換算分子量ピーク:230000、480000、720000
Mw/Mn:6.7、6.2、5.1
動的粘弾性測定により測定した25℃での単体の貯蔵弾性率:850MPa、1050MPa、1300MPa
なお、PP1は、10質量%のEPRを含んでいる。
【0185】
(樹脂B)
含有量:0~60質量部
材料:
・EPR1、EPR2:エチレンプロピレンゴム(EPR)
(以下、記載順にEPR1、EPR2に対応)
エチレン含有量:52質量%、68質量%
スチレン換算分子量ピーク:200000、700000
Mw/Mn:2.3、2.5
動的粘弾性測定により測定した25℃での単体の貯蔵弾性率:40MPa、210MPa
【0186】
・VLDPE1、VLDPE2:超低密度ポリエチレン
(以下、記載順にVLDPE1、VLDPE2に対応)
エチレンおよび1-ブテンの共重合体、エチレンおよび1-オクテンの共重合体
1-ブテン含有量:25質量%、1-オクテン含有量:10質量%
スチレン換算分子量ピーク:120000、270000
Mw/Mn:1.4、1.7
動的粘弾性測定により測定した25℃での単体の貯蔵弾性率:80MPa、180MPa
【0187】
・SEBS1~SEBS3:水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体
(以下、記載順にSEBS1~SEBS3に対応)
スチレン含有率:40質量%、20質量%、10質量%
スチレン換算分子量ピーク:30000、70000、150000
Mw/Mn:1.2、1.1、1.1
動的粘弾性測定により測定した25℃での単体の貯蔵弾性率:330MPa、70MPa、5MPa
【0188】
・ブチルゴム1、ブチルゴム2:イソブチレンイソプレン共重合体
(以下、記載順にブチルゴム1、ブチルゴム2に対応)
スチレン換算分子量ピーク:600000、800000
Mw/Mn:5.2、5.2
動的粘弾性測定により測定した25℃での単体の貯蔵弾性率:230MPa、350MPa
【0189】
・ポリブテン
スチレン換算分子量ピーク:10000
Mw/Mn:2.1
動的粘弾性測定により測定した25℃での単体の貯蔵弾性率:0.1MPa
なお、ポリブテンのみが、25℃で液体である。
【0190】
(2)評価
[樹脂評価]
上述の樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれにおいて、以下の分析を行った。
【0191】
(分子量分布)
樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの分子量分布は、GPCにより下記条件下でPSを標準試料として作成された検量線に基づいて測定した。
装置:東ソー製 HLC-8321GPC/HT
溶離液:o-ジクロロベンゼン
温度:145℃
濃度:0.1wt%/vol%
流速:1.0ml/min
なお、PSの検量線は、1000以上550万以下の分子量の範囲内の結果に基づいて作成した。
【0192】
(貯蔵弾性率)
樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれを単体で用い、評価用のプレスシートを作製した。対象の樹脂のプレスシートに対して動的粘弾性測定(DMA)を行った。具体的には、当該プレスシートに対して0.08%の伸縮を加えた状態で、-50℃から100℃まで昇温させながら、プレスシートの貯蔵弾性率を測定した。このとき、測定周波数を10Hzとした。また、昇温速度を10℃/minとした。測定の結果、25℃における貯蔵弾性率を比較した。
【0193】
[製造後評価]
また、上述の試料A1~A7、B1~B9のそれぞれにおいて、2つの電力ケーブルを製造した後、2つの電力ケーブルのうち、一方において製造直後の評価を行い、他方において曲げ試験後の評価を行った。
【0194】
(i)製造直後(曲げ試験前)の評価
(試料採取)
試料A1~A7、B1~B9のそれぞれの電力ケーブルの絶縁層を周方向に沿って薄くスライスし(thinly slicing)、絶縁層の厚さ方向の中央部からシートを採取した。シートの厚さは、0.5mmとした。
(ボイド観察)
SEMにより、上述の絶縁層のシートを観察した。観察像中にボイドが存在していた場合には、ボイドの最大長さを計測した。その結果、絶縁層のシート内に最大長さが1μm以上であるボイドが存在しない場合を「A(良好)」とし、絶縁層のシート内に最大長さが1μm以上であるボイドが存在する場合を「B(不良)」として評価した。
(結晶観察)
光学顕微鏡により、上述の絶縁層のシートを観察した。観察像中に結晶が存在していた場合には、結晶の最大長さを計測した。なお、結晶同士が重なって下側の結晶の最大長さが計測困難な場合には、上側に露出している結晶を計測することとした。その結果、絶縁層のシート内に最大長さが10μm超である結晶が存在しない場合を「A(良好)」とし、絶縁層のシート内に最大長さが10μm超である結晶が存在する場合を「B(不良)」として評価した。
【0195】
(貯蔵弾性率)
樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれ単体に対する測定と同様に、上述の絶縁層のシートにおいて、動的粘弾性測定を行った。これにより、成形体としての貯蔵弾性率を評価した。
【0196】
(交流破壊試験)
常温(25℃)において、絶縁層のシートに対して商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を10kVで10分課電した後、1kVごとに昇圧し10分課電することを繰り返す条件下で印加した。絶縁層のシートが絶縁破壊したときの電界強度を測定した。その結果、交流破壊強度が60kV/mm以上である場合を良好とし、交流破壊強度が60kV/mm未満である場合を不良として評価した。
【0197】
(微小領域弾性測定)
走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用い、絶縁層のシートにおける微小領域弾性測定を行った。SPM装置は、ブルカ製のMultiMode8を用いた。微小領域弾性測定では、25℃で、シリコンからなり曲率半径が20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、シートの10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、弾性率を測定した。これにより、シートの弾性率に対するカウント数の分布を得た。
【0198】
その結果、以下の第1要件、第2要件および第3要件を満たす場合を良好とし、これらのいずれかを満たさない場合を不良として評価した。
第1要件:カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現する。
第2要件:正規分布のピークにおける弾性率が2000MPa以下である。
第3要件:正規分布のピークにおけるカウント数が全タッピング数の25%未満である。
なお、後述の表2において、第1要件を満たさない場合には、第2要件および第3要件の欄を省略した。
【0199】
(ii)曲げ試験後の評価
(曲げ試験:7D曲げ試験)
上述の試料A1~A7、B2~B9のそれぞれの電力ケーブルにおいて、曲げ試験を行った。なお、試料B1については、上述の製造直後の評価が不良であったため、曲げ試験後の評価は行わなかった。
【0200】
曲げ試験の第1工程では、外径20.3mmの電力ケーブルを、半径140mmのSUS製のリングの半周に沿わせて押し付けた。つまり、絶縁層の外径(電力ケーブルの外径)に対する電力ケーブルの曲げ半径の曲げ比率が7以下となるように、電力ケーブルを曲げた。その後の第2工程では、第1工程の曲げ方向と反対の方向に第1工程の曲げ比率と同じ曲げ比率で電力ケーブルを曲げた。
(試料採取)
曲げ試験後の試料A1~A7、B2~B9のそれぞれの電力ケーブルにおいて、上述の製造直後の評価と同様に、絶縁層のシートを採取した。
(ボイド観察および結晶観察)
曲げ試験後に採取した絶縁層のシートにおいて、上述の製造直後の評価と同様に、ボイドおよび結晶の観察及び評価を行った。
(交流破壊試験(AC破壊試験))
曲げ試験後に採取した絶縁層のシートにおいて、上述の製造直後の評価と同様に、交流破壊試験を行った。
【0201】
(3)結果
以下の表1および表2を用い、各試料の評価を行った結果を説明する。なお、表1および表2では、SPM測定結果のピークにおける弾性率を「ピーク弾性率」とし、ピークにおけるカウント数を「ピークカウント数」と表記している。
【0202】
【表1】
【0203】
【表2】
【0204】
(試料B1および試料B9)
樹脂Bを混合しなかった試料B1、および樹脂Aの含有量を95質量部超とした試料B9の、それぞれの微小領域弾性測定では、1つのピークを有する正規分布が得られたが、ピークにおける弾性率が高く、またピークにおけるカウント数も高かった。試料B1では、曲げ試験前からボイドが多く発生していた。その結果、試料B1では、曲げ試験前から交流破壊電界が低かった。また、試料B9では、曲げ試験において微小ボイドが発生していた。その結果、試料B9では、曲げ試験後の交流破壊電界が低かった。試料B1および試料B9では、樹脂Aに由来する高弾性領域が過剰に形成されていたため、屈曲時に微小なボイドが生じたと考えられる。
【0205】
(試料B3)
樹脂Aの含有量を52質量部未満とした試料B3では、成形体としての貯蔵弾性率は、樹脂A単体としての貯蔵弾性率よりも低くなっていた。しかしながら、試料B3の微小領域弾性測定では、2つのピークが出現していた。試料B3では、曲げ試験において微小ボイドが多く発生していた。その結果、試料B3では、曲げ試験後の交流破壊電界が低かった。試料B3では、樹脂Bに由来する低弾性領域が過剰に形成されていたため、屈曲時に微小なボイドが生じたと考えられる。
【0206】
(試料B4)
樹脂Aのピーク分子量が6×10超で且つ樹脂Aの貯蔵弾性率が1200MPa超であった試料B4では、低弾性率の樹脂Bを用いたため、樹脂Bの貯蔵弾性率に対する樹脂Aの貯蔵弾性率の比率が規定範囲内であった。また、成形体としての貯蔵弾性率は、樹脂A単体としての貯蔵弾性率よりも低くなっていた。しかしながら、試料B4の微小領域弾性測定では、2つのピークが出現していた。試料B4では、曲げ試験において微小ボイドおよび粗大結晶が多く発生していた。その結果、試料B4では、曲げ試験後の交流破壊電界が低かった。試料B4では、樹脂Aに由来する弾性率が過剰に高い高弾性領域が形成されていたため、屈曲時に微小なボイドおよび粗大結晶が生じたと考えられる。
【0207】
(試料B5~B7)
樹脂Bのピーク分子量が4×10超で且つ樹脂Bの貯蔵弾性率が200MPa超であった試料B5~B7では、樹脂Bの貯蔵弾性率に対する樹脂Aの貯蔵弾性率の比率が5未満であった。なお、試料B6および試料B7では、Mw/Mnの要件も満たさなかった。このため、試料B5~B7の微小領域弾性測定では、2つのピークが出現していた。試料B5~B7では、曲げ試験において微小ボイドが多く発生していた。その結果、試料B5~B7では、曲げ試験後の交流破壊電界が低かった。試料B5~B7では、上述の要件を満たさない樹脂Bに起因して、樹脂Aと樹脂Bとが充分に混ざっていなかったため、屈曲時に微小なボイドが生じたと考えられる。
【0208】
(試料B2および試料B8)
SEBSからなる樹脂Bのピーク分子量が4×10未満で且つ樹脂Bの貯蔵弾性率が200MPa超であった試料B2では、樹脂Bの貯蔵弾性率に対する樹脂Aの貯蔵弾性率の比率が5未満であった。このため、試料B2の微小領域弾性測定では、2つのピークが出現していた。試料B2では、曲げ試験において微小ボイドが多く発生していた。その結果、試料B2では、曲げ試験後の交流破壊電界が低かった。試料B2では、上述の要件を満たさない樹脂Bに起因して、樹脂Aと樹脂Bとが充分に混ざっていなかったため、屈曲時に微小なボイドが生じたと考えられる。
【0209】
一方、液体油としてのポリブデンからなる樹脂Bのピーク分子量が4×10未満で且つ樹脂Bの貯蔵弾性率が1MPa未満であった試料B8では、樹脂Bの貯蔵弾性率に対する樹脂Aの貯蔵弾性率の比率が200超であった。試料B8の微小領域弾性測定では、1つのピークを有する正規分布が得られたが、ピークにおけるカウント数が高かった。試料B8では、曲げ試験において微小ボイドおよび粗大結晶が多く発生していた。その結果、試料B8では、曲げ試験後の交流破壊電界が低かった。試料B8では、樹脂Bの貯蔵弾性率が過剰に低いことに起因して、樹脂Aと樹脂Bとが充分に混ざっておらず、PP系樹脂である樹脂Aだけが凝集し結晶化していた。このため、屈曲時に微小なボイドおよび粗大結晶が生じたと考えられる。
【0210】
(試料A1~A7)
分子量分布、貯蔵弾性率および配合比の要件を満たした試料A1~A7の微小領域弾性測定では、第1要件として、カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現していた。また、第2要件として、正規分布のピークにおける弾性率が2000MPa以下であった。第3要件として、正規分布のピークにおけるカウント数が全タッピング数の25%未満であった。試料A1~A7では、曲げ試験において微小ボイドおよび粗大結晶が存在していなかった。その結果、試料A1~A7では、曲げ試験後の交流破壊電界が60kV/mm以上であった。
【0211】
試料A1~A7によれば、樹脂Aの含有量を、樹脂Aおよび樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とした。樹脂Aの含有量を52質量部以上とすることで、低弾性領域の過剰な発生を抑制することができた。これにより、屈曲時に微小なボイドの発生を抑制することができたことを確認した。一方で、樹脂Aの含有量を95質量部以下とすることで、高弾性領域の過剰な発生を抑制することができた。これにより、屈曲時に微小なボイドの発生を抑制することができたことを確認した。
【0212】
試料A1~A7によれば、樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量を6×10以上6×10以下とし、樹脂AのMw/Mnを3.0以上8.0以下とした。また、樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量を4×10以上4×10以下とし、樹脂BのMw/Mnを1.1以上3.0以下とした。これらにより、絶縁層を安定的に成形することができ、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができ、樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの局所的な偏りを抑制することができた。その結果、屈曲時の微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することができたことを確認した。
【0213】
試料A1~A7によれば、25℃における樹脂Aの貯蔵弾性率を600MPa以上1200MPa以下とし、25℃における樹脂Bの貯蔵弾性率を1MPa以上200MPa以下とした。または、25℃における樹脂Bの貯蔵弾性率に対する樹脂Aの貯蔵弾性率の比率を5以上200以下とした。これらにより、樹脂Aおよび樹脂Bが上述の分子量分布の要件を満たす効果に相当する効果を得ることができた。すなわち、樹脂Aと樹脂Bとを均一に混ぜ合わせることができ、樹脂Aおよび樹脂Bのそれぞれの局所的な偏りを抑制することができた。その結果、屈曲時の微小なボイドおよび粗大な結晶の発生を抑制することができたことを確認した。
【0214】
このように、試料A1~A7の結果から、屈曲後における絶縁性の低下を抑制することが可能となることを確認した。
【0215】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様を付記する。
【0216】
(付記1)
長尺な対象物の周囲に被覆される樹脂組成物であって、
プロピレン単位を含み、
所定の曲げ試験後の前記樹脂組成物を含む成形体内に、
最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、
最大長さが10μm超である結晶が存在しない、
ただし、前記曲げ試験は、前記成形体の外径に対する前記成形体の曲げ半径の曲げ比率が7以下となるように前記成形体を曲げる第1工程と、前記第1工程の曲げ方向と反対の方向に前記第1工程の前記曲げ比率と同じ曲げ比率で前記成形体を曲げる第2工程と、を含む
樹脂組成物。
【0217】
(付記2)
長尺な対象物の周囲に被覆された樹脂組成物成形体であって、
プロピレン単位を含み、
所定の曲げ試験後の前記樹脂組成物成形体内に、
最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、
最大長さが10μm超である結晶が存在しない、
ただし、前記曲げ試験は、前記樹脂組成物成形体の外径に対する前記樹脂組成物成形体の曲げ半径の曲げ比率が7以下となるように前記樹脂組成物成形体を曲げる第1工程と、前記第1工程の曲げ方向と反対の方向に前記第1工程の前記曲げ比率と同じ曲げ比率で前記樹脂組成物成形体を曲げる第2工程と、を含む
樹脂組成物成形体。
【0218】
(付記3)
前記樹脂組成物成形体は、走査型プローブ顕微鏡を用いた微小領域弾性測定により得られる、該樹脂組成物成形体の弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たす、
ただし、
前記微小領域弾性測定では、25℃で、シリコンからなり曲率半径が20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、前記樹脂組成物成形体の10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、前記弾性率を測定し、
前記第1要件は、前記カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現することであり、
前記第2要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記弾性率が2000MPa以下であり、
前記第3要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記カウント数が全タッピング数の25%未満である
付記2に記載の樹脂組成物成形体。
【0219】
(付記4)
樹脂組成物成形体であって、
プロピレン単位を含み、
前記樹脂組成物成形体は、走査型プローブ顕微鏡を用いた微小領域弾性測定により得られる、該樹脂組成物成形体の弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たす、
ただし、
前記微小領域弾性測定では、25℃で、シリコンからなり曲率半径が20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、前記樹脂組成物成形体の10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、前記弾性率を測定し、
前記第1要件は、前記カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現することであり、
前記第2要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記弾性率が2000MPa以下であり、
前記第3要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記カウント数が全タッピング数の25%未満である
樹脂組成物成形体。
【0220】
(付記5)
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有する
付記2から付記4のいずれか1つに記載の樹脂組成物成形体。
【0221】
(付記6)
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である
付記5に記載の樹脂組成物成形体。
【0222】
(付記7)
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率は、600MPa以上1200MPa以下であり、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率は、1MPa以上200MPa以下である
付記5又は付記6に記載の樹脂組成物成形体。
【0223】
(付記8)
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率は、600MPa以上1200MPa以下であり、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率は、1MPa以上200MPa以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である
樹脂組成物成形体。
【0224】
(付記9)
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率は、5以上200以下である付記5から付記8のいずれか1つに記載の樹脂組成物成形体。
【0225】
(付記10)
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率は、5以上200以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である
樹脂組成物成形体。
【0226】
(付記11)
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量は、6×10以上6×10以下であり、
前記樹脂AのMw/Mnは、3.0以上8.0以下であり、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量は、4×10以上4×10以下であり、
前記樹脂BのMw/Mnは、1.1以上3.0以下である、
ただし、
前記樹脂Aまたは前記樹脂Bのそれぞれの前記分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレンを標準試料として作成された検量線に基づいて測定され、
Mwは、前記分子量分布における重量平均分子量であり、
Mnは、前記分子量分布における数平均分子量である
付記5から付記10のいずれか1つに記載の樹脂組成物成形体。
【0227】
(付記12)
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含む樹脂Bと、
を有し、
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量は、6×10以上6×10以下であり、
前記樹脂AのMw/Mnは、3.0以上8.0以下であり、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量は、4×10以上4×10以下であり、
前記樹脂BのMw/Mnは、1.1以上3.0以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である、
ただし、
前記樹脂Aまたは前記樹脂Bのそれぞれの前記分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレンを標準試料として作成された検量線に基づいて測定され、
Mwは、前記分子量分布における重量平均分子量であり、
Mnは、前記分子量分布における数平均分子量である
樹脂組成物成形体。
【0228】
(付記13)
前記樹脂Bは、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、イソプレンおよびスチレンのうち少なくともいずれか2つを共重合した共重合体からなる
付記5から付記12のいずれか1つに記載の樹脂組成物成形体。
【0229】
(付記14)
常温における交流破壊電界は、60kV/mm以上である
付記1から付記13のいずれか1つに記載の樹脂組成物成形体。
【0230】
(付記15)
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、プロピレン単位を含み、
所定の曲げ試験後の前記絶縁層内に、
最大長さが1μm以上であるボイドが存在せず、且つ、
最大長さが10μm超である結晶が存在しない、
ただし、前記曲げ試験は、前記絶縁層の外径に対する電力ケーブルの曲げ半径の曲げ比率が7以下となるように前記電力ケーブルを曲げる第1工程と、前記第1工程の曲げ方向と反対の方向に前記第1工程の前記曲げ比率と同じ曲げ比率で前記電力ケーブルを曲げる第2工程と、を含む
電力ケーブル。
【0231】
(付記16)
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、プロピレン単位を含み、
前記絶縁層は、走査型プローブ顕微鏡を用いた微小領域弾性測定により得られる、前記絶縁層の弾性率に対するカウント数の分布において、第1要件、第2要件および第3要件を満たす、
ただし、
前記微小領域弾性測定では、25℃で、シリコンからなり曲率半径が20nm未満である先端を有するカンチレバーにより、前記絶縁層の10μm角の範囲内を6万回タッピングする条件下で、前記弾性率を測定し、
前記第1要件は、前記カウント数が4000回以上となる領域で、1つのピークのみを有する正規分布が出現することであり、
前記第2要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記弾性率が2000MPa以下であり、
前記第3要件は、前記正規分布の前記ピークにおける前記カウント数が全タッピング数の25%未満である
電力ケーブル。
【0232】
(付記17)
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率は、600MPa以上1200MPa以下であり、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率は、1MPa以上200MPa以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である
電力ケーブル。
【0233】
(付記18)
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含み、25℃で固体である樹脂Bと、
を有し、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率は、5以上200以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である
電力ケーブル。
【0234】
(付記19)
導体と、
前記導体の周囲に被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、
プロピレン単位を含む樹脂Aと、
2つ以上のモノマ単位を含む樹脂Bと、
を有し、
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量は、6×10以上6×10以下であり、
前記樹脂AのMw/Mnは、3.0以上8.0以下であり、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量は、4×10以上4×10以下であり、
前記樹脂BのMw/Mnは、1.1以上3.0以下であり、
前記樹脂Aの含有量は、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下である、
ただし、
前記樹脂Aまたは前記樹脂Bのそれぞれの前記分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレンを標準試料として作成された検量線に基づいて測定され、
Mwは、前記分子量分布における重量平均分子量であり、
Mnは、前記分子量分布における数平均分子量である
電力ケーブル。
【0235】
(付記20)
プロピレン単位を含む樹脂Aと、2つ以上のモノマ単位を含み25℃で固体である樹脂Bと、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の周囲に絶縁層を被覆させる工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程では、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Aの貯蔵弾性率を、600MPa以上1200MPa以下とし、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率を、1MPa以上200MPa以下とし、
前記樹脂Aの含有量を、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とする
電力ケーブルの製造方法。
【0236】
(付記21)
プロピレン単位を含む樹脂Aと、2つ以上のモノマ単位を含み25℃で固体である樹脂Bと、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の周囲に絶縁層を被覆させる工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程では、
動的粘弾性測定により測定した25℃における前記樹脂Bの貯蔵弾性率に対する前記樹脂Aの貯蔵弾性率の比率を、5以上200以下とし、
前記樹脂Aの含有量を、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とする
電力ケーブルの製造方法。
【0237】
(付記22)
プロピレン単位を含む樹脂Aと、2つ以上のモノマ単位を含む樹脂Bと、を有する樹脂組成物を準備する工程と、
前記樹脂組成物を用い、導体の周囲に絶縁層を被覆させる工程と、
を備え、
前記樹脂組成物を準備する工程では、
前記樹脂Aの分子量分布におけるピーク分子量を、6×10以上6×10以下とし、
前記樹脂AのMw/Mnを、3.0以上8.0以下とし、
前記樹脂Bの分子量分布におけるピーク分子量を、4×10以上4×10以下とし、
前記樹脂BのMw/Mnを、1.1以上3.0以下とし、
前記樹脂Aの含有量を、前記樹脂Aおよび前記樹脂Bの合計の含有量を100質量部としたときに、52質量部以上95質量部以下とする、
ただし、
前記樹脂Aまたは前記樹脂Bの前記分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィにより、ポリスチレンを標準試料として作成された検量線に基づいて測定され、
Mwは、前記分子量分布における重量平均分子量であり、
Mnは、前記分子量分布における数平均分子量である
電力ケーブルの製造方法。
【符号の説明】
【0238】
10 電力ケーブル
110 導体
120 内部半導電層
130 絶縁層
140 外部半導電層
150 遮蔽層
160 シース
図1
図2
図3