(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050725
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】濃縮汁の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/02 20060101AFI20240403BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240403BHJP
【FI】
A23L2/02 E
A23L2/02 A
A23L19/00 A
A23L2/02 F
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024012288
(22)【出願日】2024-01-30
(62)【分割の表示】P 2022510783の分割
【原出願日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2020052721
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】角井 達人
(57)【要約】 (修正有)
【課題】濃縮汁の品質の安定化及び製造の効率化である。
【解決手段】当該課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討し発見したのは、濃縮を連続的に実施するのと同時に或いは並行して酵素処理することである。本製法を構成するのは、酵素添加(S10)、濃縮及び酵素処理(S20)、加熱(S30)、並びに、冷却及び充填(S40)である。濃縮と酵素処理は、同時に或いは並行して実施される。すなわち、酵素処理の実施期間は、濃縮処理の実施期間内である。言い換えると、酵素が反応している期間は、野菜汁又は果汁の濃縮中である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮汁の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程である: 濃縮:ここで連続的に濃縮されるのは、野菜汁又は果汁であり、及び、
酵素処理:ここで酵素処理されるのは、野菜汁又は果汁であり、この処理と同時に或いは並行して前記濃縮が実施され、
前記濃縮及び前記酵素処理の実施時間は、30分以上、かつ、3時間以下である。
【請求項2】
請求項1の製造方法であって、それを構成するのは、更に、以下の工程である:
添加:ここで連続的に或いは断続的に添加されるのは、酵素であり、その添加先は、野菜汁又は果汁であり、その時期は、前記濃縮の実施中又は前記濃縮の実施前である。
【請求項3】
請求項1又は2の製造方法であって、
前記酵素処理で使用する酵素の至適温度は、前記濃縮での野菜汁又は果汁の温度の範囲内である。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかの製造方法であって、
前記酵素処理で使用する酵素の至適pHは、前記濃縮での野菜汁又は果汁のpHの範囲内である。
【請求項5】
請求項4の製造方法であって、
前記濃縮での野菜汁又は果汁のpHは、3.0以上、かつ、5.0以下である。
【請求項6】
濃縮汁の改質方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程である: 濃縮:ここで連続的に濃縮されるのは、野菜汁又は果汁であり、
酵素処理:ここで酵素処理されるのは、野菜汁又は果汁であり、この処理と同時に或いは並行して前記濃縮が実施され、
前記濃縮及び前記酵素処理の実施時間は、30分以上、かつ、3時間以下である。
【請求項7】
請求項7の改質方法であって、それを構成するのは、更に、以下の工程である:
添加:ここで連続的に或いは断続的に添加されるのは、酵素であり、その添加先は、野菜汁又は果汁であり、その時期は、前記濃縮の実施中又は前記濃縮の実施前である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、濃縮汁の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、野菜汁及び果汁の用途は、多様化している。具体的には、嗜好飲料、健康飲料、スープや調味料などである。ここで、野菜汁を得る方法は、野菜を破砕し、搾ることである。果汁を得る方法は、果物を破砕し、搾ることである。
【0003】
加えて、野菜汁及び果汁に求められるのは、様々な改良である。具体的には、呈味又は風味の向上、物性の変化、機能性成分の増幅などである。
【0004】
野菜汁及び果汁を改良する方法は、酵素処理である。特許文献1で開示されているのは、野菜汁及び/又は果汁の製造方法であり、その目的は、ミネラル吸収性の向上及び飲み易さの実現である。当該製法を特徴付けるのは、セルラーゼ処理及び機械せん断処理が同時に実施される点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、濃縮汁の品質の安定化及び製造の効率化である。
【0007】
濃縮及び酵素処理は、それぞれ、有用である。一般的に、野菜汁及び果汁は、濃縮し、販売される。なぜなら、野菜汁及び果汁の容積が減ることで、運搬コストが下がるからである。他方、野菜汁及び果汁を酵素処理することで、所望の成分及び物性が得られる。
【0008】
濃縮及び酵素処理の併用が抱えるのは、費用面での問題点である。濃縮野菜汁又は濃縮果汁を酵素処理すると、濃縮処理費用に上乗せされるのは、酵素処理費用である。酵素処理の実施が濃縮処理の実施前であっても(1.5次加工)、費用が上乗せされるのは、同じである。酵素処理の費用対効果の観点から、酵素処理は、殆ど普及しない。
【0009】
濃縮及び酵素処理の併用が更に抱えるのは、品質面での問題点である。具体的には、如何に酵素の特性を把握するか、如何に所定温度保持下で微生物の増殖を制御するか、如何に酵素処理で付与された特性を安定化させるか、である。とりわけ、これらの課題が顕著なのは、大量の野菜汁又は果汁を酵素処理する場合である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
当該課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討し発見したのは、濃縮を連続的に実施するのと同時に或いは並行して酵素処理することである。これにより合理化されるのは、濃縮汁の製造工程である。すなわち、濃縮汁は、効率的に製造される。また、濃縮汁の品質は、安定化する。ここで、濃縮汁とは、野菜汁、果汁、及び、その他の植物汁であって、濃縮され、かつ、酵素処理されたものをいう。
【0011】
濃縮汁の製造方法を構成するのは、少なくとも、濃縮及び酵素処理である。人又は機械で連続的に濃縮されるのは、野菜汁又は果汁である。人又は機械で酵素処理されるのは、野菜汁又は果汁である。当該野菜汁又は果汁を酵素処理するのと同時に或いは並行して当該濃縮が実施される。すなわち、当該酵素処理の実施時期は、当該濃縮の実施中である。当該製造方法を構成するのは、更に、添加である。人又は機械で連続的に或いは断続的に添加されるのは、酵素であり、その添加先は、野菜汁又は果汁であり、その時期は、当該濃縮の実施中又は当該濃縮の実施前である。必要に応じて、当該製造方法を構成するのは、更に、予備加熱である。人又は機械で予備的に加熱されるのは、野菜及び果実、並びに、野菜汁及び果汁の少なくとも一つである。当該予備加熱の実施時期は、当該酵素処理の前である。
【0012】
当該製法において、好ましくは、濃縮条件及び酵素処理条件は、全体的に或いは部分的に一致する。当該酵素処理で使用する酵素の至適温度は、当該濃縮での野菜汁又は果汁の温度の範囲内である。当該濃縮での野菜汁又は果汁の温度は、50℃以上、かつ、75℃以下である。当該酵素処理で使用する酵素の至適pHは、当該濃縮での野菜汁又は果汁のpHの範囲内である。当該濃縮での野菜汁又は果汁のpHは、3.0以上、かつ、5.0以下である。当該濃縮及び当該酵素処理の実施時間は、30分以上、かつ、3時間以下である。
【0013】
濃縮汁の製造方法を構成するのは、少なくとも、濃縮及び添加である。人又は機械で連続的に濃縮されるのは、野菜汁又は果汁である。人又は機械で連続的或いは断続的に添加されるのは、酵素であり、その添加先は、野菜汁又は果汁である。酵素が添加される時期は、当該濃縮の実施中である。酵素の至適温度及び至適pH、並びに濃縮条件は、前述のとおりである。
【0014】
濃縮汁の改質方法を構成するのは、少なくとも、濃縮及び酵素処理である。人又は機械で連続的に濃縮されるのは、野菜汁又は果汁である。人又は機械で酵素処理されるのは、野菜汁又は果汁である。当該野菜汁又は果汁を酵素処理するのと同時に或いは並行して当該濃縮が実施される。すなわち、当該酵素処理の実施時期は、当該濃縮の実施中である。当該製造方法を構成するのは、更に、添加である。人又は機械で連続的に或いは断続的に添加されるのは、酵素であり、その添加先は、野菜汁又は果汁であり、その時期は、当該濃縮の実施中又は当該濃縮の実施前である。必要に応じて、当該製造方法を構成するのは、更に、予備加熱である。人又は機械で予備的に加熱されるのは、野菜及び果実、並びに、野菜汁及び果汁の少なくとも一つである。当該予備加熱の実施時期は、当該酵素処理の前である。酵素の至適温度及び至適pH、並びに濃縮条件は、前述のとおりである。
【0015】
濃縮汁の改質方法を構成するのは、少なくとも、濃縮及び添加である。人又は機械で連続的に濃縮されるのは、野菜汁又は果汁である。人又は機械で連続的或いは断続的に添加されるのは、酵素であり、その添加先は、野菜汁又は果汁である。酵素が添加される時期は、当該濃縮の実施中である。酵素の至適温度及び至適pH、並びに濃縮条件は、前述のとおりである。
【発明の効果】
【0016】
本発明が可能にするのは、濃縮汁の品質の安定化及び製造の効率化である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
<濃縮汁の製造方法>
図1で示すのは、濃縮汁の製造方法(以下、「本製法」という。)の流れである。本製法を構成するのは、酵素添加(S10)、濃縮及び酵素処理(S20)、加熱(S30)、並びに、冷却及び充填(S40)である。本実施の形態で、「汁」が意味するのは、野菜汁及び果汁の少なくとも一方である。
【0019】
<野菜汁及び果汁>野菜汁とは、野菜の搾汁(ストレート搾汁)、その濃縮汁(ピューレ、ペースト)及び濃縮汁の還元汁、並びにそれらの加工汁である。果汁とは、果実の搾汁(ストレート搾汁)、その濃縮汁(ピューレ、ペースト)及び濃縮汁の還元汁、並びにそれらの加工汁である。野菜汁の原料は、野菜である。当該野菜を例示すると、ナス科の野菜(トマト、ナス、パプリカ、ピーマン、ジャガイモ等)、セリ科の野菜(ニンジン、セロリ、アシタバ、パセリ等)、アブラナ科の野菜(キャベツ、紫キャベツ、メキャベツ(プチヴェール)、ハクサイ、チンゲンサイ、ダイコン、ケール、クレソン、小松菜、ブロッコリー、カリフラワー、カブ、ワサビ、マスタード等)、アカザ科の野菜(ホウレンソウ、ビート等)、キク科の野菜(レタス、シュンギク、サラダナ、ゴボウ、ヨモギ等)、ユリ科の野菜(タマネギ、ニンニク、ネギ等)、ウリ科の野菜(カボチャ、キュウリ、ニガウリ等)、豆科の野菜(インゲンマメ、エンドウマメ、ソラマメ、エダマメ等)、その他の野菜(モロヘイヤ、アスパラガス、ショウガ、サツマイモ、ムラサキイモ、シソ、アカジソ、トウモロコシ等)である。果汁の原料は、果実である。当該果実を例示すると、柑橘類(レモン、オレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ミカン、ライム、スダチ、柚子、シイクワシャー、タンカン等)、その他の果実(リンゴ、ウメ、モモ、サクランボ、アンズ、プラム、プルーン、カムカム、ナシ、洋ナシ、ビワ、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、カシス、クランベリー、ブルーベリー、メロン、スイカ、キウイフルーツ、ザクロ、ブドウ、バナナ、グァバ、アセロラ、パインアップル、マンゴー、パッションフルーツ、レイシ等)である。また、搾汁及び濃縮の詳細な説明のため、本明細書に取り込まれるのは、最新果汁・果実飲料辞典(社団法人日本果汁協会監修)の内容である。
【0020】
<酵素添加(S10)>酵素を添加する目的は、野菜汁又は果汁を酵素処理することである。これにより、酵素反応が生じる。添加される酵素は、食品添加物の一種である。当該酵素の種類は、特に限定されない。例示すると、セルラーゼ、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、グルタミナーゼ、ヌクレアーゼ、デアミナーゼ、ラクターゼ、グルコースオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、β-グルコシダーゼ等である。当該酵素の形態は、特に限定されない。例えば、粉末状、顆粒状や液体状などである。
【0021】
野菜汁又は果汁に添加されるのが粉末状又は顆粒状の酵素である場合、当該酵素が予め溶解されているのは、水性溶媒である。それによって、野菜汁又は果汁中で、酵素が均一に分散するので、酵素反応が安定化する。
【0022】
野菜汁又は果汁を連続的に濃縮する場合(以下、「連続式濃縮」という。)、酵素は、連続的或いは断続的に添加される。連続式濃縮では、野菜汁又は果汁は、連続的に供給され、濃縮された野菜汁又は果汁は、連続的に放出される。濃縮時の温度は、高いため、酵素の活性は、低下していく。そこで、野菜汁又は果汁を濃縮中に、活性が十分な酵素を連続的或いは断続的に添加することで、酵素反応が安定化する。また、必要量の酵素を分けて添加することで、酵素反応が安定化する。つまり、濃縮汁の品質が安定化し、かつ、濃縮汁が効率的に生産される。酵素処理を効率化する観点から、野菜汁又は果汁に連続的に添加する酵素の量(単位時間当たりの添加量)を決めるのは、野菜汁又は果汁に含有される基質量である。また、野菜汁又は果汁に断続的に添加する酵素の量(1回当たりの添加量)を決めるのも、野菜汁又は果汁に含有される基質量である。
【0023】
<濃縮及び酵素処理(S20)>濃縮と酵素処理は、同時に或いは並行して実施される。すなわち、酵素処理の実施期間は、濃縮処理の実施期間内である。言い換えると、酵素が反応している期間は、野菜汁又は果汁の濃縮中である。これにより、酵素処理された濃縮された野菜汁及び果汁の品質は、安定化する。これらの濃縮汁は、効率よく製造される。以上で必ずしも要求されないのは、酵素処理の始期及び終期並びに濃縮処理の始期及び終期がそれぞれ一致することである。
【0024】
<濃縮>野菜汁及び果汁を濃縮する目的は、野菜汁及び果汁の容積を減少させることである。本発明で用いられる濃縮の原理は、減圧加熱濃縮、又は膜濃縮である。
【0025】
減圧加熱濃縮時における好ましい設定温度は、50℃以上、かつ、75℃以下(50℃ー75℃)である。濃縮時の温度が75℃よりも高いと、野菜汁又は果汁に付くのは、加熱臭である。他方、濃縮時の温度が50℃よりも低いと、濃縮効率が悪化する。また、この温度帯で懸念されるのは、菌の増殖である。減圧加熱濃縮時におけるより好ましい下限温度は、55℃であり、さらに好ましくは、60℃である。併せて、この濃縮時の温度帯で導かれるのは、濃縮時の設定圧力である。原料が変われば、沸点も変わるものの、好ましい設定圧力は、凡そ、10kPaから30kPaまでである。減圧で短縮されるのは、濃縮時間であり、その結果、加熱臭が抑制され、生産が効率化される。
【0026】
膜濃縮時における好ましい温度は、50℃以上、かつ、75℃以下である(50℃ー75℃)。膜濃縮時の温度が75℃よりも高いと、野菜汁又は果汁に付くのは、加熱臭である。他方、濃縮時の温度が50℃よりも低いと、濃縮効率が悪化する。また、懸念されるのは、菌の増殖である。膜濃縮時におけるより好ましい下限温度は、55℃であり、さらに好ましくは、60℃である。
【0027】
好ましい濃縮方法は、連続式である。この方式では、野菜汁又は果汁が順次或いは逐次供給され、濃縮される。得られた濃縮野菜汁又は濃縮果汁は、順次或いは逐次放出される。酵素処理で生じうるのは、pH等の変動である。pH等の変動が影響するのは、酵素処理時の変換率(変換物の含量/基質の当初の含量)である。本実施の形態では、前述のとおり、濃縮及び酵素処理は、同時に或いは並行して実施される。連続式濃縮で極力抑えられるのは、物性(例えば、年度やpH等)の変動であり、それによって酵素処理が安定化する。つまり、酵素処理された濃縮野菜汁及び酵素処理された濃縮果汁の品質が安定化する。
【0028】
濃縮倍率は、特に限定されない。好ましい濃縮倍率は、3倍から6倍である。濃縮倍率が低いと(例えば、2倍未満)、野菜汁又は果汁の容積が十分に減少しない。つまり、コストメリットが低い。濃縮倍率が高くなるにしたがい、濃縮に必要なエネルギー及び時間は増大する。つまり、濃縮効率が悪い。減圧加熱濃縮機を例示すると、二段効用管式濃縮機、三段効用管式濃縮機等である。膜濃縮機を例示すると、MF膜濃縮機、NF膜濃縮機、UF膜濃縮機、RO膜濃縮機等である。
【0029】
<酵素処理及び酵素反応>酵素処理とは、処理であって、それによって変換されるのが基質であり、得られるのが生成物であり、その際に用いる触媒が酵素であるものをいう。
酵素反応とは、生化学反応であって、その触媒が酵素であるものをいう。これにより、野菜汁又は果汁の特性が変化する。例えば、野菜汁又は果汁の物性が変化する。また、野菜汁又は果汁の栄養成分及び機能性成分が増加する。
【0030】
<加熱(S30)>濃縮及び酵素処理された野菜汁又は果汁は、その後加熱される。加熱の目的は、酵素の失活及び殺菌である。酵素が活動していると、製品中において酵素反応が継続的に生じる。つまり、製品の品質が不安定である。
【0031】
加熱温度及び加熱時間は、適宜設定されるが、その際に考慮するのは、酵素の失活条件及び食品衛生上の殺菌条件である。
【0032】
<冷却及び充填(S40)>濃縮野菜汁及び濃縮果汁を冷却し、かつ、充填するのは、任意である。これらの処理を説明すると、以下のとおりである。
【0033】
<冷却>濃縮野菜汁及び濃縮果汁を冷却する目的は、充填し易くすることである。前工程の加熱により、当該濃縮野菜汁及び濃縮果汁の状態は、高温である。温度を下げることで、当該濃縮野菜汁及び濃縮果汁が容易に充填される。例えば、冷却された濃縮汁で不要なのは、容器の耐熱性である。また、当該冷却された濃縮汁で実現されるのは、充填された容器の運び易さである。冷却の方法は、既知であり、特に限定されない。他の原料(例えば、食用油等)が加えられることで、温度が下がる。
【0034】
<充填>濃縮野菜汁及び濃縮果汁を充填するのは、任意である。濃縮野菜汁及び濃縮果汁を充填する目的は、運搬や輸送等での便宜である。充填に用いられる容器は、既知である。
【0035】
<予備加熱>原料を予備加熱するのは、任意である。予備加熱の目的は、原料に含まれる内在酵素の失活である。とりわけ、予備加熱を要するのは、生原料(例えば、生野菜や生果実等)である。当該生原料は、加熱されていないからである。当該生原料の内在酵素が働くのは、破砕後(例えば、濃縮時)である。当該内在酵素の働きによって最終製品の品質は、不安定である。すなわち、製品の性状が意図せずに変化し、或いは、製品の機能性成分が意図せずに増減する。加えて、想定されるのは、添加した酵素が意図どおり働かないことである。予備加熱で排除できるのは、そのような内在酵素の影響であり、その結果、添加した酵素は、意図通りに働く。
【0036】
当該予備加熱の温度は、好ましくは、70℃以上である。より好ましくは、80℃以上である。さらに好ましくは、90℃以上である。また、好ましくは、100℃以下である。
【0037】
予備加熱の方法は、既知であり、特に限定されない。例えば、熱湯又は蒸気(いわゆる、ブランチング)、熱交換器(チューブラー式やプレート式等)などである。
【0038】
<酵素処理条件及び濃縮条件>本製法において、酵素処理条件が従うのは、濃縮条件である。すなわち、濃縮条件が変われば、酵素処理条件も変わる。例えば、酵素を選択する際に考慮するのは、濃縮条件である。酵素処理条件に含まれるのは、温度及びpHである。とりわけ、至適温度とは、温度であって、酵素活性が最も高まる点をいう。至適pHとは、pHであって、酵素活性が最も高まる点をいう。後にも述べるが、濃縮温度が変わると、加熱臭がつく。また、濃縮効率も低下する。
【0039】
<温度>濃縮及び酵素処理における野菜汁及び果汁の好ましい温度は、50℃以上、かつ、75℃以下(50℃ー75℃)である。温度が75℃を超えると、濃縮及び酵素処理時に、野菜汁又は果汁に付くのは、加熱臭である。また、温度が50℃未満では、濃縮効率が低下する。また、濃縮及び酵素処理時に、野菜汁又は果汁中の菌が増殖する。より好ましい下限温度は、55℃であり、さらに好ましくは、60℃である。 特に、pHが5.0以上の場合、菌がより増殖しやすい。濃縮及び酵素処理時の好ましい温度は、50℃以上であり、より好ましくは、60℃以上である。これにより、濃縮及び酵素処理時においても殺菌効果が得られる。この場合において、pHの好ましい上限は、8.0である。
【0040】
<pH>濃縮及び酵素処理における野菜汁及び果汁の好ましいpHは、3.0以上、かつ、5.0以下である。pHが5.0を超えると、濃縮及び酵素処理時に、菌が増殖しやすい。pH3.0未満になると、野菜汁又は果汁の酸味が強くなる。つまり、低pHが影響するのは、香味である。より好ましい下限のpHは、3.5、であり、さらに好ましくは、3.8である。より好ましい上限のpHは、4.5である。
【0041】
<時間>濃縮及び酵素処理における好ましい時間は、30分以上、かつ、3時間以下である。当該時間が短いと、濃縮又は酵素処理が十分に進まない。当該時間が長いと、野菜汁又は果汁に付くのは、加熱臭である。また、野菜汁又は果汁中の菌が増大する。より好ましい当該時間の下限は、1時間であり、さらに好ましくは、1.5時間である。また、より好ましい当該時間の上限は、2.5時間である。
【0042】
<酵素の至適温度>酵素の至適温度とは、温度であって、酵素の活性が最も高まる点をいう。この至適温度において、酵素は、最も効率的に作用する。本製法において用いる酵素の至適温度は、濃縮時の温度付近であり、本実施の形態では、50℃以上、かつ、75℃以下(50℃ー75℃)である。そのような酵素を選択することにより、野菜汁又は果汁の濃縮及び酵素処理は、効率的に実施される。より好ましい至適温度は、55℃以上である。
【0043】
<酵素の至適pH>酵素の至適pHとは、pHであって、酵素の活性が最も高まる点をいう。この至適pHにおいて、酵素は、最も効率的に作用する。本製法において用いる酵素は、至適pHが濃縮時のpH付近である。すなわち、濃縮時の野菜汁又は果汁のpHが3.0以上、かつ、5.0以下(3.0-5.0)である場合、使用される酵素の至適pHは、3.0以上、かつ、5.0以下(3.0-5.0)である。他方、濃縮時の(野菜汁又は果汁の)pHが5.0以上、かつ、8.0以下(5.0-8.0)である場合、使用される酵素の至適pHは、5.0以上、かつ、8.0以下(5.0-8.0)である。使用される酵素の至適pHが濃縮時の野菜汁又は果汁のpH付近にあることで、野菜汁又は果汁の濃縮及び酵素処理は、効率的に実施される。より好ましい至適pHは、3.5以上である。また、より好ましい至適pHは、4.5以下である。
【実施例0044】
<材料>試験に用いた原材料は、チリ産トマトペースト(Brix29.5)及びデアミナーゼ(デアミザイムG:アマノエンザイム株式会社製)である。
【0045】
<試験方法> トマトペーストを希釈した(溶媒:水)ことで、6150Lのトマトジュース(Brix:4.5)を準備した。40Lのデアミナーゼ5%水溶液を準備した。
当該トマトジュース及び当該デアミナーゼ5%水溶液を調合し、十分に撹拌した結果、調合液1を得た。調合液1を準備したのは、濃縮の直前である。 調合液1を供した先は、減圧加熱蒸発濃縮装置である。調合液1を濃縮した際の条件は、次のとおりである。
温度: 58℃以上、かつ、68℃以下
圧力: 55cmHg以上、かつ、75cmHg以下
冷却時の温度:37℃以上、かつ、40℃以下
【0046】
調合液1の場合と同様の方法で、調合液2乃至8を準備し、順次供した先は、減圧加熱蒸発濃縮装置である。各調合液を供した間隔は、25分毎である。具体的には、調合液1を供するのは、調合液1の供給から25分後である。
【0047】
当該調合液を酵素処理し、かつ、濃縮した結果、濃縮トマト汁(Brix:24)を得た。クッションタンクにて一時的に保持した後、当該濃縮トマト汁(Brix:24)を、殺菌した(殺菌温度:109℃)。殺菌された濃縮トマト汁を冷却した(冷却温度:29.5℃)。冷却された濃縮トマト汁を容器充填した。
【0048】
濃縮トマト汁が最初に排出されたのは、調合液1の投入から2時間35分経過後である。排出された濃縮トマト汁を採取した間隔は、30分毎である。酵素を失活させるため、採取された濃縮トマト汁を湯浴した(条件:100℃、10分)。
【0049】
そのように酵素失活された濃縮トマト汁(以下、「分析用サンプル」という。)のBrix,pH,核酸(AMP、IMP)を分析した。
【0050】
核酸(AMP、IMP)を分析した条件は、後述する。検量線の作成で用いたのは、次の標準試薬である。
AMPの標準試薬:アデノシン5’-リン酸(A0158、東京化成社製)
IMPの標準試薬:イノシン5’-リン酸・二ナトリウム水和物(I0036、東京化成社製)
【0051】
<試料の調製>分析用サンプルをメスアップした。メスアップされたサンプルを十分に混ぜた。このサンプルを濾過した。ここで用いたのは、5A濾紙である。得られた濾液を濾過した。ここで用いたのは、ディスポーザブルシリンジフィルター(TOYO DISMIC-25CS Cellulose Acetate 0.45μm HYDROPHILIC、ADVANTEC社製)である。ここで得られた濾液を分注した先は、クロマトグラフ用ガラス製バイアル瓶である。
【0052】
<HPLC分析>そのように調製されたサンプルをHPLC分析した。HPLCの分析条件は、以下である。
装置:紫外検出器付き高速液体クロマトグラフ(日立製作所Chromaster)
カラム: Develosil RPAQUEOUS AR-5、4.6mm×250mm
ガードカラム:RP-ARガードカラム(野村化学)
移動相(A液): 100mMリン酸緩衝液(pH2.5)
移動相(B液): 90%アセトニトリル
流速:1.0ml/min
検出波長:254nm
カラム温度:40℃
試料注入量:10μl
分析時間:38分/サンプル
グラジエントの条件を示すのは、表1である。
【0053】
【0054】
<結果>
表2で示すのは、酵素処理及び濃縮処理の実施前のトマトペーストにおけるBrix,pH,核酸分析(AMP、IMP)である。
【0055】
表3で示すのは、濃縮トマト汁のBrix,pH,核酸分析(AMP、IMP)である。
【0056】
【0057】
【0058】
<考察・まとめ>実施例から判明したのは、酵素処理、及び濃縮処理が同時に実施されることで、濃縮汁(濃縮野菜汁や濃縮果汁等)の品質が安定化し、かつ、製造が効率化されることである。