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特開2024-50752焼結プロセスの状態推定方法、操業ガイダンス方法、焼結鉱の製造方法、焼結プロセスの状態推定装置、操業ガイダンス装置、焼結操業ガイダンスシステム、焼結操業ガイダンスサーバ及び端末装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050752
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】焼結プロセスの状態推定方法、操業ガイダンス方法、焼結鉱の製造方法、焼結プロセスの状態推定装置、操業ガイダンス装置、焼結操業ガイダンスシステム、焼結操業ガイダンスサーバ及び端末装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/20 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
C22B1/20 U
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014335
(22)【出願日】2024-02-01
(62)【分割の表示】P 2022560428の分割
【原出願日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2021115109
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 佳也
(72)【発明者】
【氏名】安原 宏
(72)【発明者】
【氏名】岩見 友司
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 寿幸
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高精度に焼結プロセスの状態を推定できる推定方法及び推定装置を提供する。
【解決手段】焼結プロセスの状態推定方法は、焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出ステップS1と、算出されたプロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出ステップS2と、算出される乖離度が小さくなるように、物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整ステップS3と、修正された物理モデルに基づいて、焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出ステップS4と、含み、前記未知パラメータは、前記乖離度と未知パラメータの修正に伴う前記プロセス変数の推定値への影響を加味する評価関数を用いて、時間ステップを更新しながら行われる反復計算によって修正される。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出ステップと、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出ステップと、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整ステップと、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出ステップと、含む、焼結プロセスの状態推定方法。
【請求項2】
前記プロセス変数は、BTP、排ガス組成及び焼結ベッド下温度の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の焼結プロセスの状態推定方法。
【請求項3】
前記未知パラメータは、排ガス流量、原料嵩密度、原料水分割合、原料コークス割合、カーボンの燃焼速度及びコークスガス化反応速度の少なくとも1つの補正パラメータを含む、請求項1又は2に記載の焼結プロセスの状態推定方法。
【請求項4】
前記未知パラメータは、前記乖離度、前記プロセス変数及び前記未知パラメータを含む評価関数を用いた、時間ステップを更新しながら行われる反復計算によって修正される、請求項1から3のいずれか一項に記載の焼結プロセスの状態推定方法。
【請求項5】
前記特徴データは、焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の焼結プロセスの状態推定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の焼結プロセスの状態推定方法によって算出された前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出ステップと、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示ステップと、を含む、操業ガイダンス方法。
【請求項7】
請求項6に記載の操業ガイダンス方法によって提示されるガイダンス操作量を用いて焼結鉱を製造する、焼結鉱の製造方法。
【請求項8】
焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを記憶する記憶部と、
前記物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出部と、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出部と、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整部と、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出部と、を備える、焼結プロセスの状態推定装置。
【請求項9】
前記特徴データが焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンである、請求項8に記載の焼結プロセスの状態推定装置によって算出された前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出部と、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示部と、を備える、操業ガイダンス装置。
【請求項10】
焼結操業ガイダンスサーバと、端末装置と、を備え、
前記焼結操業ガイダンスサーバは、
焼結プロセスの操業状態を示す実績値を取得する実績値取得部と
前記焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを記憶する記憶部と、
前記物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出部と、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出部と、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整部と、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出部と、
前記特徴データが焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンであり、前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出部と、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示部と、を備え、
前記端末装置は、
前記焼結操業ガイダンスサーバによって提示された前記ガイダンス操作量を取得するガイダンス操作量取得部と、
取得した前記ガイダンス操作量を表示する表示部と、を備える、焼結操業ガイダンスシステム。
【請求項11】
焼結プロセスの操業状態を示す実績値を取得する実績値取得部と
前記焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを記憶する記憶部と、
前記物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出部と、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出部と、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整部と、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出部と、
前記特徴データが焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンであり、前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出部と、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示部と、を備える、焼結操業ガイダンスサーバ。
【請求項12】
焼結操業ガイダンスサーバとともに焼結操業ガイダンスシステムを構成する端末装置であって、
前記焼結操業ガイダンスサーバによって提示されたガイダンス操作量を取得するガイダンス操作量取得部と、
取得した前記ガイダンス操作量を表示する表示部と、を備え、
前記焼結操業ガイダンスサーバは、焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを用いて算出されたプロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正して、
前記ガイダンス操作量は、前記未知パラメータが修正された前記物理モデルを用いて算出された焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンに基づく焼結材の高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含む操作量である、端末装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結プロセスの状態推定方法、操業ガイダンス方法、焼結鉱の製造方法、焼結プロセスの状態推定装置、操業ガイダンス装置、焼結操業ガイダンスシステム、焼結操業ガイダンスサーバ及び端末装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業において、長年の採掘による鉄鉱石の品位低下が生じている。そのため、山元での選鉱を経た粉率の高い微粉鉱の使用割合が高まっており、微粉鉱を高炉装入前に凝結し焼結鉱を製造する焼結プロセスの重要度が高まっている。高炉の通気性確保のため、所定の粒度未満の焼結鉱は高炉に装入されずに、返鉱として焼結機にて再度の焼成が行われる。所定の粒度以上の割合である歩留りの向上が焼結機の生産性に直結し、歩留りの向上が強く求められている。
【0003】
図1は焼結プロセスの概要を示す図である。焼結機入側ではサージホッパーより、粉鉱石、粉コークス、石灰石などを混合、造粒した焼結原料(擬似粒子)が装入される。焼結原料は焼結機内で粉コークスの燃焼熱により溶融し、擬似粒子同士が融着し、上部から吸引される空気により冷却されて排出される。この一連の昇温及び冷却過程におけるヒートパターンが製品歩留りに大きな影響を及ぼす。ヒートパターンは、焼結機の機長方向及び厚み方向の焼結材の温度分布である。特に鉱石が溶融する例えば1200℃以上の滞留時間(高温保持時間)の確保が歩留りに大きな影響を与える。したがって、歩留りに影響を与えるヒートパターンなどの特徴データを精度よく推定し、特徴データから高温保持時間などの特徴量を算出することが行われる。そして、特徴量を所定の値に制御するための適切な原料コークス割合、パレットスピードなどのガイダンス操作量が示されることによって、歩留りを向上させることができる。
【0004】
ここで、従来のヒートパターンの制御方法として、特許文献1はBTP(Burn through point、焼成点)の位置を一定に制御する方法を開示する。特許文献1の技術では、焼結機下部の風箱で測定された排ガスの温度が最高となる機長方向の位置をBTPとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-307259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、BTPの位置を一定に制御するだけでは、上記の高温保持時間を制御することが困難な場合がある。例えば、BTPの位置が一定であってもパレットスピードが上昇すれば高温保持時間が短縮する。このように、従来のヒートパターンの制御方法では、高温保持時間にばらつきが生じ得る。
【0007】
以上の問題を解決すべくなされた本開示の目的は、高精度に焼結プロセスの状態を推定できる焼結プロセスの状態推定方法及び焼結プロセスの状態推定装置を提供することにある。また、高精度に推定された焼結プロセスの状態に基づいて、歩留り向上のためのガイダンスを示すことができる操業ガイダンス方法、焼結鉱の製造方法、操業ガイダンス装置、焼結操業ガイダンスシステム、焼結操業ガイダンスサーバ及び端末装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態に係る焼結プロセスの状態推定方法は、
焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出ステップと、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出ステップと、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整ステップと、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出ステップと、含む。
【0009】
本開示の一実施形態に係る操業ガイダンス方法は、
前記特徴データが焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンであって、
上記の焼結プロセスの状態推定方法によって算出された前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出ステップと、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示ステップと、を含む。
【0010】
本開示の一実施形態に係る焼結鉱の製造方法は、
上記の操業ガイダンス方法によって提示されるガイダンス操作量を用いて焼結鉱を製造する。
【0011】
本開示の一実施形態に係る焼結プロセスの状態推定装置は、
焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを記憶する記憶部と、
前記物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出部と、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出部と、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整部と、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出部と、を備える。
【0012】
本開示の一実施形態に係る操業ガイダンス装置は、
前記特徴データが焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンである、上記の焼結プロセスの状態推定装置によって算出された前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出部と、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示部と、を備える。
【0013】
本開示の一実施形態に係る焼結操業ガイダンスシステムは、
焼結操業ガイダンスサーバと、端末装置と、を備え、
前記焼結操業ガイダンスサーバは、
焼結プロセスの操業状態を示す実績値を取得する実績値取得部と
前記焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを記憶する記憶部と、
前記物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出部と、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出部と、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整部と、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出部と、
前記特徴データが焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンであり、前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出部と、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示部と、を備え、
前記端末装置は、
前記焼結操業ガイダンスサーバによって提示された前記ガイダンス操作量を取得するガイダンス操作量取得部と、
取得した前記ガイダンス操作量を表示する表示部と、を備える。
【0014】
本開示の一実施形態に係る焼結操業ガイダンスサーバは、
焼結プロセスの操業状態を示す実績値を取得する実績値取得部と
前記焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを記憶する記憶部と、
前記物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出部と、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出部と、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整部と、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出部と、
前記特徴データが焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンであり、前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出部と、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示部と、を備える。
【0015】
本開示の一実施形態に係る端末装置は、
焼結操業ガイダンスサーバとともに焼結操業ガイダンスシステムを構成する端末装置であって、
前記焼結操業ガイダンスサーバによって提示されたガイダンス操作量を取得するガイダンス操作量取得部と、
取得した前記ガイダンス操作量を表示する表示部と、を備え、
前記焼結操業ガイダンスサーバは、焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを用いて算出されたプロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正して、
前記ガイダンス操作量は、前記未知パラメータが修正された前記物理モデルを用いて算出された焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンに基づく焼結材の高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含む操作量である。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、高精度に焼結プロセスの状態を推定できる焼結プロセスの状態推定方法及び焼結プロセスの状態推定装置を提供することができる。また、本開示によれば、高精度に推定された焼結プロセスの状態に基づいて、歩留り向上のためのガイダンスを示すことができる操業ガイダンス方法、焼結鉱の製造方法、操業ガイダンス装置、焼結操業ガイダンスシステム、焼結操業ガイダンスサーバ及び端末装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、焼結プロセスの概要を示す図である。
図2図2は、本開示で用いられる物理モデルの入出力情報を示す図である。
図3図3は、未知パラメータの修正を行わない物理モデルによって算出される主要プロセス変数の例を示す図である。
図4図4は、未知パラメータをステップ的に変化させた際のプロセス変数の応答を示す図である。
図5図5は、未知パラメータの修正を行う物理モデルによって算出される主要プロセス変数の例を示す図である。
図6図6は、未知パラメータの推移の例を示す図である。
図7図7は、一実施形態に係る焼結プロセスの状態推定装置及び操業ガイダンス装置の構成例を示す図である。
図8図8は、一実施形態に係る焼結プロセスの状態推定方法を示すフローチャートである。
図9図9は、一実施形態に係る操業ガイダンス方法を示すフローチャートである。
図10図10は、一実施形態に係る焼結操業ガイダンスシステムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る焼結プロセスの状態推定方法、操業ガイダンス方法、焼結鉱の製造方法、焼結プロセスの状態推定装置、操業ガイダンス装置、焼結操業ガイダンスシステム、焼結操業ガイダンスサーバ及び端末装置が説明される。本開示において用いられる物理モデルは、参考文献1(Yamaoka et al. ISIJ International,Vol.45,No.4,pp.522)に記載の方法と同様、粉コークスの燃焼、石灰石の熱分解、水分の蒸発の物理現象を考慮した、偏微分方程式群から構成された、焼結機内の状態が計算可能なモデルである。本実施形態において、この物理モデルは、焼結機の機長方向及び厚み方向の焼結材の温度分布(ヒートパターン)及び排ガス組成の分布を計算可能な二次元非定常モデルである。また、計算されたヒートパターンからBTPの位置を知ることができる。以下、「BTPの位置」を単にBTPと称することがある。
【0019】
図2に示すように、物理モデルに与えられる入力変数の中で時間変化する主なものは、パレットスピード、排ガス流量、原料嵩密度、原料水分割合、原料石灰石割合、原料コークス割合である。これらの入力変数は焼結機の操作変数又は操業因子であり得る。パレットスピードは、図1で例示した焼結機のパレットが載せた焼結原料を移動させる速度である。排ガス流量は、焼結機の排ガスの単位時間あたりの流量であって、例えば排風機によって調整される。原料嵩密度は、層厚及び焼結機幅などから計算される焼結原料の嵩密度である。原料水分割合、原料石灰石割合、原料コークス割合は、それぞれ、焼結原料における水分、石灰石、コークスの割合である。ここで、コークスは主な凝結材であって、原料コークス割合が凝結材比と称されることがある。
【0020】
また、物理モデルの主な出力変数は、BTP及び排ガス組成である。排ガス組成は、O、CO、COの割合を含む。ここで、出力変数は焼結ベッド下温度を含んでよい。物理モデルを用いて時々刻々変化する出力変数が計算される。この計算の時間間隔(後述する物理モデルの式の「t+1」と「t」との時間差)は、特に限定されないが、一例として5分である。
【0021】
物理モデルを以下の式(1)及び式(2)により表すことができる。
【0022】
【数1】
【0023】
ここで、u(t)は上記の入力変数であって、焼結機の操業を行うオペレータが操作可能な変数である。x(t)は物理モデル内で計算される状態変数である。状態変数は、例えば焼結機内のヒートパターン、コークスの反応率、CO及びCOなどのガス分率である。y(t)は上記の出力変数(プロセス変数)であって、BTP、排ガス組成におけるO割合、CO割合、部分燃焼率である。y(t)を主要プロセス変数として以下のように定めることができる。
【0024】
【数2】
【0025】
ここで、部分燃焼率は、排ガス中のCOを(CO+CO)で割った値(すなわちCO/(CO+CO))である。部分燃焼率が上昇することは、吸熱反応であるコークスガス化反応(C+CO→2CO)が活性化していることを意味し、焼結プロセスにおける平均的な温度レベルが上昇していることを意味する。ここで、他にも、主要プロセス変数として焼結ベッド下温度などを含めることができる。
【0026】
従来の通り、物理モデルをそのまま用いて、BTP及び排ガス組成の計算が可能である。図3は、物理モデルをそのまま用いて算出される、30時間分の主要プロセス変数の例を示す図である。図3において、物理モデルを用いて算出された値(推定値)が実線で、実プラント(実機の焼結機)において測定された実績値が破線で示されている。ここで、BTPは、パレットの移動方向におけるサージホッパーの位置からの距離[m]で示される。
【0027】
主要プロセス変数のそれぞれについて、平均推定誤差を算出したところ、BTPが2.4914[m]、O割合が0.0086、CO割合が0.0086、部分燃焼率が0.0169であった。ここで、平均推定誤差は、推定値と実績値との間の乖離度を2乗した値について全てのステップでの和を求めて、その和をステップ数で割った値の平方根を求めることで算出される。このように長時間での物理モデル計算を行うと、従来の手法では無視できない推定値の誤差(推定誤差)が生じる課題がある。図3の例では30時間分のデータであるが、さらに年単位での長期間にわたる計算を行って焼結プロセスの制御を行うためには推定誤差の低減が必要である。
【0028】
推定誤差を低減するためには、推定値と実績値とが合致するように、物理モデルの反応速度のパラメータ、境界条件などを逐次調整することが有効である。そのため、物理モデルにおける変動要素を1つ以上の未知パラメータとして含めた上で、計算が行われることが好ましい。本実施形態において、以下に説明する理由により、排ガス流量の補正パラメータ、原料嵩密度の補正パラメータ、原料コークス割合の補正パラメータの3つが、未知パラメータとして選定された。ここで、他にも、原料水分割合、カーボンの燃焼速度、コークスガス化反応速度などの変動要素を未知パラメータとすることが考えられる。例えばカーボンの燃焼速度は、固体の温度及びガス中の酸素濃度に依存するが、これらの関係式における比例係数を未知パラメータとすることができる。未知パラメータは、対象プロセスの使用原料、設備構成などに応じて、選定される必要がある。
【0029】
以下、本実施形態における未知パラメータ(3つの補正パラメータ)の選定理由が説明される。
【0030】
焼結機では、焼結ベッドの上部から空気を吸引し、焼結ベッドの下部においてCO、COなどを含んだ排ガス流量を計測している。計測される排ガス流量は、焼結ベッドを通過せずに別の空隙を通過したいわゆる漏風と呼ばれるガスの流量(漏風流量)が含まれている。漏風流量は実測が困難であり、物理モデルに直接的に入力することが困難である。そのため、主要プロセス変数の実績値に合致するように、物理モデルの排ガス流量を補正することは妥当と考えられる。
【0031】
物理モデルで入力している原料嵩密度をρ[kg/m]として、ρは以下の式(3)で算出される。
【0032】
【数3】
【0033】
ここで、V[kg/min]は実測可能な原料の切出し速度である。H[m]は原料の層厚である。W[m]は焼結機幅である。PS[m/min]はパレットスピードから計算される値である。ここで、原料の切り出し速度は、焼結機の上流の切出し装置で測定された値である。つまり、実際に焼結機に装入されている原料の装入速度は実測されていない。そのため、焼結機内の原料嵩密度を正確に推定することは困難である。したがって、原料嵩密度を補正することは妥当と考えられる。
【0034】
原料コークス割合については、焼結機に装入される凝結材(コークス)とは別に、高炉ダストなどカーボンを含んだ雑原料を粉鉱石に事前に原料ヤードにおいてブレンドする操業が行われることが影響する。このブレンド比率のばらつきが大きいことから、原料コークス割合(凝結材比)を補正することは妥当と考えられる。
【0035】
ここで、図4は、未知パラメータをステップ的に変化させた際のプロセス変数の応答を示す図である。図4は、物理モデルにある一定の操業条件を与え続けて定常状態に到達させた後に、上記の3つの補正パラメータをステップ的に変化させることによって得られた。
【0036】
まず、排ガス流量を10%上昇させたところ、BTPが短縮し、O割合が増加し、CO割合が低下し、部分燃焼率がほぼ変わらなかった。原料嵩密度を10%上昇させたところ、BTPが延長し、O割合が低下し、CO割合が増加し、部分燃焼率がほぼ変わらなかった。原料コークス割合を10%上昇させたところ、BTPがほぼ変わらず、O割合が低下し、CO割合がやや増加し、部分燃焼率が増加した。
【0037】
以上のようにして得られた未知パラメータに対するステップ応答を用いて、以下に示すステップ(a)から(f)により、BTP、O割合、CO割合及び部分燃焼率が合致するようにパラメータ修正をおこなう。以下に説明するアルゴリズムはMHE(Moving Horizon Estimation)とよばれるものであるが、その他、粒子フィルタ、カルマンフィルタなどの状態推定手法が用いられてよい。
【0038】
まず、ステップ(a)として、過去Aステップ分の状態変数及び主要プロセス変数が以下の式(4)及び式(5)によって計算される。
【0039】
【数4】
【0040】
ここで、kはAから1の間で変化する。また、入力変数は実績値が用いられる。
【0041】
ステップ(b)として、反復計算の初期条件として用いるためにx(t-A+1)が保存される。
【0042】
ステップ(c)として、乖離度が以下の式(6)によって計算される。
【数5】
【0043】
ここで、yactは実績値である。また、ycalは推定値である。
【0044】
ステップ(d)として、以下の式(7)に示すように、乖離度と前述の各未知パラメータに対する主要プロセス変数のステップ応答とを重ね合せた評価関数を最小化するように、未知パラメータの修正量Δα、Δβ及びΔγが求められる。式(7)における未知パラメータのα、β、γは、それぞれ排ガス流量の補正パラメータ、原料嵩密度の補正パラメータ、原料コークス割合の補正パラメータに対応する。評価関数が小さくなることは、乖離度が小さくなることに対応する。ここで、評価関数には、未知パラメータが「1」から大きく解離しないようにするための項が加えられている(図6参照)。
【数6】
【0045】
ここでqは主要プロセス変数を特定する。本実施形態において、q=1、2、3、4のそれぞれは、BTP、O割合、CO割合、部分燃焼率を意味する。また、R (s)は、未知パラメータのpに対する、主要プロセス変数であるqのステップ応答における時間ステップであるsにおける応答の値を意味する。
【0046】
ステップ(e)として、以下の式(8)~式(10)のように未知パラメータが修正される。
【数7】
【0047】
ステップ(f)として、時間ステップのtをt+1に更新し、ステップ(a)に戻る処理が実行される。このように、未知パラメータの修正は、逐次の演算処理によって行われる。
【0048】
本実施形態においては、MHEを用いて、物理モデルの未知パラメータの修正が行われる。図5は、未知パラメータの修正を行う物理モデルによって算出された主要プロセス変数の例を示す図である。また、図6は、図5に対応する未知パラメータの推移の例を示す図である。主要プロセス変数のそれぞれについて、平均推定誤差を算出したところ、BTPが0.9961[m]、O割合が0.0044、CO割合が0.0047、部分燃焼率が0.0064であった。つまり、MHEを用いた未知パラメータの修正が行われることによって、図3の場合と比較して、推定誤差が小さくなっていることが分かる。
【0049】
ここで、式(7)のAについては、例えば、焼結の入側から出側までの所要時間相当を評価できるように決定すればよく、具体的には30分~60分程度でよい。図5の例において、時間ステップ幅が5分で、Aが8であり、時間的には40分の評価時間としている。
【0050】
本実施形態に係る焼結プロセスの状態推定装置(詳細については後述)は、上記の未知パラメータの修正を行うことによって、高精度なBTP及び排ガス組成の推定が可能である。また、このような物理モデルを用いて高精度な推定が行われることによって、焼結材の高温保持時間の算出についても推定精度を高めることができる。高温保持時間は、焼結材の温度が、歩留りの向上に影響を及ぼす閾値(一例として1200℃)以上に保持される時間である。
【0051】
本実施形態に係る操業ガイダンス装置(詳細については後述)は、算出した焼結材の高温保持時間が所定値(一例として3分)を下回った場合に、例えば原料コークス割合を増やすことで温度を上昇させて高温保持時間を確保するようにガイダンスを行うことができる。また、操業ガイダンス装置は、パレットスピードを低下させることで高温保持時間を確保するようにガイダンスを行ってよい。操業ガイダンス装置が、適切なアクションに導く情報(ガイダンス操作量)をオペレータに提示することで歩留り向上の効果が期待される。
【0052】
図7は、一実施形態に係る焼結プロセスの状態推定装置10及び操業ガイダンス装置20の構成例を示す図である。図7に示すように、焼結プロセスの状態推定装置10は、記憶部11と、プロセス変数算出部12と、乖離度算出部13と、モデルパラメータ調整部14と、特徴データ算出部15と、を備える。操業ガイダンス装置20は、記憶部21と、高温保持時間算出部22と、ガイダンス操作量提示部23と、を備える。焼結プロセスの状態推定装置10は、焼結機に備えられたセンサなどから各種の測定値である実績値(実測値とも称される)を取得し、上記の物理モデルを用いた計算を行う。操業ガイダンス装置20は、焼結プロセスの状態推定装置10によって算出された焼結プロセスの特徴データを取得し、ガイダンス操作量を求めて、焼結機の操業のためのガイダンスを表示部30に表示させる。本実施形態において、特徴データは、焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンである。操業ガイダンス装置20は、焼結材の高温保持時間が所定値(一例として3分)を下回った場合に、高温保持時間を確保できるようにするためのガイダンスとしてガイダンス操作量を表示部30に表示させる。ガイダンス操作量は、高温保持時間を確保するために必要な、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つの操作量(調整する量)であり得る。表示部30は、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display)又は有機ELパネル(Organic Electro-Luminescence Panel)などの表示装置であってよい。
【0053】
まず、焼結プロセスの状態推定装置10の構成要素が説明される。記憶部11は、焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを記憶する。また、記憶部11は、焼結プロセスの状態推定に関するプログラム及びデータを記憶する。記憶部11は、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス及び磁気記憶デバイスなどの任意の記憶デバイスを含んでよい。半導体記憶デバイスは例えば半導体メモリを含んでよい。記憶部11は、複数の種類の記憶デバイスを含んでよい。
【0054】
プロセス変数算出部12は、物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出する。本実施形態において、プロセス変数はBTP、排ガス組成におけるO割合、CO割合、部分燃焼率である。
【0055】
乖離度算出部13は、算出されたプロセス変数の推定値と実プラントにおける実績値との間の乖離度を算出する。
【0056】
モデルパラメータ調整部14は、算出される乖離度が小さくなるように、物理モデルの未知パラメータを修正する。
【0057】
特徴データ算出部15は、修正された物理モデルに基づいて、焼結プロセスの特徴データを算出する。上記のように、本実施形態において、特徴データは、焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンである。
【0058】
プロセス変数算出部12、乖離度算出部13及びモデルパラメータ調整部14は、上記のステップ(a)から(f)に従って、演算を実行して、物理モデルの未知パラメータを修正する。本実施形態においては、乖離度、プロセス変数及び未知パラメータを含む上記の評価関数を用いた、時間ステップを更新しながら行われる反復計算によって、未知パラメータが修正される。特徴データ算出部15は、修正された物理モデルを用いて、ヒートパターンを算出して、特徴データとして操業ガイダンス装置20に出力する。
【0059】
次に、操業ガイダンス装置20の構成要素が説明される。記憶部21は、操業ガイダンスに関するプログラム及びデータを記憶する。記憶部21は、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス及び磁気記憶デバイスなどの任意の記憶デバイスを含んでよい。半導体記憶デバイスは例えば半導体メモリを含んでよい。記憶部21は、複数の種類の記憶デバイスを含んでよい。
【0060】
高温保持時間算出部22は、焼結プロセスの状態推定装置10によって算出されたヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する。
【0061】
ガイダンス操作量提示部23は、算出された焼結材の高温保持時間が所定値未満であれば、高温保持時間を所定値以上に保つために、ガイダンス操作量を表示部30に提示する。本実施形態において、ガイダンス操作量は、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含む。ガイダンス操作量提示部23は、例えば原料コークス割合の10%増加をガイダンス操作量として表示部30に表示させてよい。ガイダンス操作量提示部23は、例えばパレットスピードの5%低下をガイダンス操作量として表示部30に表示させてよい。ここで、ガイダンス操作量提示部23は、原料コークス割合の増加量及びパレットスピードの低下量を、焼結プロセスの状態推定装置10に物理モデルを用いて計算させてよい。すなわち、ガイダンス操作量提示部23は、提示するガイダンス操作量を定めるために、焼結プロセスの状態推定装置10に物理モデルを用いたシミュレーションを実行させてよい。
【0062】
オペレータは、表示部30に示されたガイダンス操作量に基づいて、焼結機の操業条件を変更してよい。このような焼結機についての操業ガイダンスは、焼結鉱を製造する製造方法の一部として実行され得る。
【0063】
ここで、焼結プロセスの状態推定装置10と操業ガイダンス装置20とは、個別の装置であってよいし、一体の装置であってよい。一体の装置である場合に、記憶部11と記憶部21とは、同じ記憶デバイスで実現されてよい。
【0064】
焼結プロセスの状態推定装置10及び操業ガイダンス装置20は、例えば焼結機の操業又は焼結鉱の製造を制御するプロセスコンピュータなどのコンピュータによって実現されてよい。コンピュータは、例えばメモリ及びハードディスクドライブ(記憶装置)、CPU(処理装置)、ディスプレイなどの表示装置を備える。オペレーティングシステム(OS)及び各種の処理を実施するためのアプリケーションプログラムは、ハードディスクドライブに格納することができ、CPUにより実行される際にはハードディスクドライブからメモリに読み出される。また、処理途中のデータについては、メモリに格納され、必要があればHDDに格納される。各種機能は、CPU、メモリ等のハードウエアとOS及び必要なアプリケーションプログラムとを有機的に協働させることにより実現される。記憶部11及び記憶部21は、例えば記憶装置で実現されてよい。プロセス変数算出部12、乖離度算出部13、モデルパラメータ調整部14、特徴データ算出部15、高温保持時間算出部22及びガイダンス操作量提示部23は、例えばCPUで実現されてよい。表示部30は、例えば表示装置で実現されてよい。
【0065】
図8は、一実施形態に係る焼結プロセスの状態推定方法を示すフローチャートである。焼結プロセスの状態推定装置10は、図8に示されるフローチャートに従って、焼結プロセスの特徴データを出力する。図8に示される状態推定方法は、焼結鉱の製造方法の一部として実行されてよい。
【0066】
プロセス変数算出部12は、物理モデルを用いてプロセス変数を算出する(ステップS1、プロセス変数算出ステップ)。乖離度算出部13は、算出されたプロセス変数の推定値と実績値との乖離度を算出する(ステップS2、乖離度算出ステップ)。モデルパラメータ調整部14は、乖離度が小さくなるように、物理モデルの未知パラメータを修正する(ステップS3、モデルパラメータ調整ステップ)。そして、特徴データ算出部15は、修正された物理モデルに基づいて、特徴データを算出する(ステップS4、特徴データ算出ステップ)。
【0067】
図9は、一実施形態に係る操業ガイダンス方法を示すフローチャートである。操業ガイダンス装置20は、図9に示されるフローチャートに従って、ガイダンス操作量を提示する。図9に示される操業ガイダンス方法は、焼結鉱の製造方法の一部として実行されてよい。
【0068】
高温保持時間算出部22は、上記の特徴データとして算出されたヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する(ステップS11、高温保持時間算出ステップ)。ガイダンス操作量提示部23は、高温保持時間を所定値以上に保つために、ガイダンス操作量を表示部30に提示する(ステップS12、ガイダンス操作量提示ステップ)。
【0069】
図10は、一実施形態に係る焼結操業ガイダンスシステムの構成を示す図である。焼結操業ガイダンスシステムは、例えば図10の破線で示すように、焼結操業ガイダンスサーバ40及び端末装置50で構成されてよい。焼結操業ガイダンスサーバ40は、焼結プロセスの状態推定装置10及び操業ガイダンス装置20の機能を備え、例えばコンピュータによって実現されてよい。また、端末装置50は、少なくとも表示部30として機能し、例えばタブレットなどの携帯端末装置又はコンピュータによって実現されてよい。焼結操業ガイダンスサーバ40と端末装置50とは、例えばインターネットなどのネットワーク経由でデータを相互に送受信できる。焼結操業ガイダンスサーバ40と端末装置50とは、同じ場所(例えば同じ工場内)にあってよいし、物理的に離れて配置されていてよい。また、焼結操業ガイダンスシステムは、上記の構成に限定されるものでなく、例えば焼結機の操業データ(一例として操業状態を示す実績値及び操業パラメータ)を集約する操業データサーバ60をさらに含んで構成されてよい。操業データサーバ60は、ネットワーク経由で焼結操業ガイダンスサーバ40及び端末装置50と通信可能であって、例えば焼結鉱の製造を管理するコンピュータで実現されてよい。操業データサーバ60は、焼結操業ガイダンスサーバ40又は端末装置50と同じ場所にあってよいし、物理的に離れて配置されていてよい。以下、焼結操業ガイダンスサーバ40及び端末装置50を備えて構成される焼結操業ガイダンスシステムを例に、構成要素などが説明される。
【0070】
焼結操業ガイダンスサーバ40は、焼結プロセスの操業状態を示す実績値を取得し、上記の物理モデルを用いた計算を行って、算出された特徴データとしてのヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する。また、焼結操業ガイダンスサーバ40は、高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を表示部30として機能する端末装置50に表示させる。焼結操業ガイダンスサーバ40は、図7を参照して説明された焼結プロセスの状態推定装置10の構成要素及び操業ガイダンス装置20の構成要素を備える。具体的に述べると、焼結操業ガイダンスサーバ40は、記憶部と、プロセス変数算出部12と、乖離度算出部13と、モデルパラメータ調整部14と、特徴データ算出部15と、高温保持時間算出部22と、ガイダンス操作量提示部23と、を備える。記憶部は、焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデル、焼結プロセスの状態推定に関するプログラム及びデータ、操業ガイダンスに関するプログラム及びデータなどを記憶する。プロセス変数算出部12、乖離度算出部13、モデルパラメータ調整部14、特徴データ算出部15、高温保持時間算出部22及びガイダンス操作量提示部23については、上記の説明と同じである。また、焼結操業ガイダンスサーバ40は、焼結プロセスの操業状態を示す実績値を取得する実績値取得部を備えてよい。実績値取得部は、焼結機に備えられたセンサ又は焼結のプロセスコンピュータなどから直接的に実績値を取得してよいし、操業データサーバ60を介して実績値を取得してよい。
【0071】
端末装置50は、焼結操業ガイダンスサーバ40とともに焼結操業ガイダンスシステムを構成し、ガイダンス操作量を表示する。端末装置50は少なくとも表示部30を備える。表示部30は上記の説明と同じである。また、端末装置50は、焼結操業ガイダンスサーバ40によって提示されたガイダンス操作量を取得するガイダンス操作量取得部を備えてよい。
【0072】
以上のように、本実施形態に係る焼結プロセスの状態推定方法及び焼結プロセスの状態推定装置10は、上記の構成によって高精度に焼結プロセスの状態を推定できる。また、本実施形態に係る操業ガイダンス方法、焼結鉱の製造方法、操業ガイダンス装置20、焼結操業ガイダンスシステム、焼結操業ガイダンスサーバ40及び端末装置50は、高精度に推定された焼結プロセスの状態に基づいて、歩留り向上のためのガイダンスを示すことができる。例えばオペレータは、示されたガイダンス操作量に基づいて操業条件を変更して、早期に焼結材の高温保持時間を確保して、歩留りを向上させることができる。
【0073】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0074】
図7に示される焼結プロセスの状態推定装置10及び操業ガイダンス装置20の構成は一例である。焼結プロセスの状態推定装置10、操業ガイダンス装置20は、図7に示す構成要素の全てを含まなくてよい。また、焼結プロセスの状態推定装置10、操業ガイダンス装置20は、図7に示す以外の構成要素を備えてよい。例えば、操業ガイダンス装置20は、さらに表示部30を備える構成であってよい。
【0075】
また、上記の実施形態において未知パラメータは3つの補正パラメータを含むが、少なくとも1つのパラメータを含めばよい。すなわち、物理モデルの少なくとも1つの未知パラメータの修正が行われれば、推定誤差を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0076】
10 焼結プロセスの状態推定装置
11 記憶部
12 プロセス変数算出部
13 乖離度算出部
14 モデルパラメータ調整部
15 特徴データ算出部
20 操業ガイダンス装置
21 記憶部
22 高温保持時間算出部
23 ガイダンス操作量提示部
30 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出ステップと、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出ステップと、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整ステップと、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出ステップと、含み、
前記未知パラメータは、前記乖離度と前記未知パラメータの修正に伴う前記プロセス変数の推定値への影響を加味する評価関数を用いて、時間ステップを更新しながら行われる反復計算によって修正される、焼結プロセスの状態推定方法。
【請求項2】
前記プロセス変数は、BTP、排ガス組成及び焼結ベッド下温度の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の焼結プロセスの状態推定方法。
【請求項3】
前記未知パラメータは、排ガス流量、原料嵩密度、原料水分割合、原料コークス割合、カーボンの燃焼速度及びコークスガス化反応速度の少なくとも1つの補正パラメータを含む、請求項1又は2に記載の焼結プロセスの状態推定方法。
【請求項4】
前記特徴データは、焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンである、請求項1又は2に記載の焼結プロセスの状態推定方法。
【請求項5】
請求項に記載の焼結プロセスの状態推定方法によって算出された前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出ステップと、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示ステップと、を含む、操業ガイダンス方法。
【請求項6】
請求項に記載の操業ガイダンス方法によって提示されるガイダンス操作量を用いて焼結鉱を製造する、焼結鉱の製造方法。
【請求項7】
焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを記憶する記憶部と、
前記物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出部と、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出部と、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整部と、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出部と、を備え
前記未知パラメータは、前記乖離度と前記未知パラメータの修正に伴う前記プロセス変数の推定値への影響を加味する評価関数を用いて、時間ステップを更新しながら行われる反復計算によって修正される、焼結プロセスの状態推定装置。
【請求項8】
前記特徴データが焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンである、請求項に記載の焼結プロセスの状態推定装置によって算出された前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出部と、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示部と、を備える、操業ガイダンス装置。
【請求項9】
焼結操業ガイダンスサーバと、端末装置と、を備え、
前記焼結操業ガイダンスサーバは、
焼結プロセスの操業状態を示す実績値を取得する実績値取得部と
前記焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを記憶する記憶部と、
前記物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出部と、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出部と、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整部と、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出部と、
前記特徴データが焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンであり、前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出部と、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示部と、を備え、
前記端末装置は、
前記焼結操業ガイダンスサーバによって提示された前記ガイダンス操作量を取得するガイダンス操作量取得部と、
取得した前記ガイダンス操作量を表示する表示部と、を備え、
前記未知パラメータは、前記乖離度と前記未知パラメータの修正に伴う前記プロセス変数の推定値への影響を加味する評価関数を用いて、時間ステップを更新しながら行われる反復計算によって修正される、焼結操業ガイダンスシステム。
【請求項10】
焼結プロセスの操業状態を示す実績値を取得する実績値取得部と
前記焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを記憶する記憶部と、
前記物理モデルを用いて、観測可能なプロセス変数を算出するプロセス変数算出部と、
算出された前記プロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度を算出する乖離度算出部と、
算出される前記乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正するモデルパラメータ調整部と、
修正された物理モデルに基づいて、前記焼結プロセスの特徴データを算出する特徴データ算出部と、
前記特徴データが焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンであり、前記ヒートパターンを用いて、焼結材の高温保持時間を算出する高温保持時間算出部と、
前記高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含むガイダンス操作量を提示するガイダンス操作量提示部と、を備え、
前記未知パラメータは、前記乖離度と前記未知パラメータの修正に伴う前記プロセス変数の推定値への影響を加味する評価関数を用いて、時間ステップを更新しながら行われる反復計算によって修正される、焼結操業ガイダンスサーバ。
【請求項11】
焼結操業ガイダンスサーバとともに焼結操業ガイダンスシステムを構成する端末装置であって、
前記焼結操業ガイダンスサーバによって提示されたガイダンス操作量を取得するガイダンス操作量取得部と、
取得した前記ガイダンス操作量を表示する表示部と、を備え、
前記焼結操業ガイダンスサーバは、焼結プロセスにおける化学反応及び伝熱現象を考慮した物理モデルを用いて算出されたプロセス変数の推定値と実績値との間の乖離度が小さくなるように、前記物理モデルの未知パラメータを修正して、
前記ガイダンス操作量は、前記未知パラメータが修正された前記物理モデルを用いて算出された焼結機機長方向の焼結材のヒートパターンに基づく焼結材の高温保持時間を所定値以上に保つために、原料コークス割合及びパレットスピードの少なくとも1つを含む操作量であり、
前記未知パラメータは、前記乖離度と前記未知パラメータの修正に伴う前記プロセス変数の推定値への影響を加味する評価関数を用いて、時間ステップを更新しながら行われる反復計算によって修正される、端末装置。