(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050767
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】磁気共鳴画像法におけるマルチパラメトリック校正用のファントム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
A61B5/055 390
A61B5/055 350
【審査請求】有
【請求項の数】38
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024014828
(22)【出願日】2024-02-02
(62)【分割の表示】P 2020551418の分割
【原出願日】2019-03-25
(31)【優先権主張番号】1804720.9
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】518306872
【氏名又は名称】ゴールド・スタンダード・ファントムス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GOLD STANDARD PHANTOMS LIMITED
【住所又は居所原語表記】UCL Institute of Cognitive Neuroscience Alexandra House, 17-19 Queen Square, London Greater London WC1N 3AZ, United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】ゴレイ、ザヴィエル
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー-テイラー、アーロン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】正確な画像内校正システムを提供できる、MRI画像の校正用の改良されたファントムが必要とされている。
【解決手段】本発明は、MRIスキャナ内で使用されるファントムであって、外側ハウジングと、外側ハウジング内に配置された複数の容器であって、容器の各々が材料を収容し、特定の温度での材料の特性の値が容器の各々によって異なる、複数の容器と、外側ハウジングと容器との間の相変化材料とを備えるファントムを提供する。本発明はまた、ファントムを製造する方法、ファントムを使用して未校正画像から校正済み測定値を取得する方法、未校正画像から校正済み測定値を取得するシステム、及びMRIスキャナ内で使用されるコイル組立体を提供する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MRIスキャナ内で使用されるファントムであって、
外側ハウジングと、
前記外側ハウジング内に配置された複数の容器であって、前記容器の各々が材料を収容し、特定の温度での前記材料の少なくとも1つの特性の値が、前記容器の各々内に収容された前記材料によって異なる、前記複数の容器と、
前記外側ハウジングと前記容器との間の相変化材料と
を備えるファントム。
【請求項2】
前記外側ハウジングの外向き面の少なくとも一部が凹面である、請求項1に記載のファントム。
【請求項3】
前記容器が各々、前記凹面から等距離に固定される、請求項2に記載のファントム。
【請求項4】
前記外側ハウジングが、前記凹面に平行な凸状外向き面を備え、且つ
前記容器が、前記凸面と前記凹面との間の適所に固定される、請求項2又は3に記載のファントム。
【請求項5】
前記外側ハウジングが、2つの平坦な側面を備え、且つ
前記容器が、前記側面間に延びるとともに、前記容器を所定の位置に保持するために前記側面に結合される、請求項4に記載のファントム。
【請求項6】
前記外側ハウジングが、直方体として形作られる、請求項1に記載のファントム。
【請求項7】
前記外側ハウジングが5cm~25cmの最大寸法を有し、その結果、前記外側ハウジングが前記スキャナのRFコイル内に適合及び一体化可能である、請求項6に記載のファントム。
【請求項8】
前記外側ハウジングが、前記スキャナの頭部及び/又は頸部コイルの内面に隣接して位置決めされるように構成される、請求項1に記載のファントム。
【請求項9】
前記外側ハウジングが、リングとして形成される、請求項8に記載のファントム。
【請求項10】
前記複数の容器が8~12個の容器を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のファントム。
【請求項11】
前記容器がバイアルである、請求項1~10のいずれか一項に記載のファントム。
【請求項12】
前記容器内の前記材料が液体である、請求項1~11のいずれか一項に記載のファントム。
【請求項13】
前記容器内の前記液体が、水に溶解したポリマーを含み、且つ
溶液中の前記ポリマーの濃度が前記容器の各々によって異なる、請求項12に記載のファントム。
【請求項14】
前記ポリマーがポリビニルピロリドンである、請求項13に記載のファントム。
【請求項15】
前記容器内の前記液体が、水に溶解した金属塩を含み、且つ
前記金属塩の濃度が前記容器の各々によって異なる、請求項12に記載のファントム。
【請求項16】
前記金属塩が、塩化ニッケル、硫酸銅、ガドリニウム、塩化マンガン、及び酸化鉄のうちの1種又は複数種を含む、請求項15に記載のファントム。
【請求項17】
前記容器内の前記液体が、水と1種又は複数種の有機油との混合物を含む、請求項12に記載のファントム。
【請求項18】
前記容器内の前記液体が、水分子とポリグルカン分子とを含むヒドロゲルを含む、請求項12に記載のファントム。
【請求項19】
前記相変化材料がエチレンカーボネートである、請求項1~18のいずれか一項に記載のファントム。
【請求項20】
前記相変化材料がジフェニルエーテルである、請求項1~19のいずれか一項に記載のファントム。
【請求項21】
前記容器の各々が、容器内殻と容器外殻とを備え、
且つ前記相変化材料が、前記容器の各々の前記容器内殻と前記容器外殻との間に収容される、請求項1~20のいずれか一項に記載のファントム。
【請求項22】
前記相変化材料が、前記容器と前記外側ハウジングとの間の空間全体を満たす、請求項1~20のいずれか一項に記載のファントム。
【請求項23】
前記外側ハウジングが、前記ファントムに前記相変化材料を充填するための閉止可能な開口部を備える、請求項22に記載のファントム。
【請求項24】
前記容器の各々が、各容器に前記液体を充填するための閉止可能な開口部を備える、請求項1~23のいずれか一項に記載のファントム。
【請求項25】
前記容器の各々に前記液体を充填するための前記閉止可能な開口部が、前記外側ハウジングにおける開口部である、請求項24に記載のファントム。
【請求項26】
取付手段を含む衣類品を備え、
前記ハウジングが、前記取付手段を使用して前記衣類に結合される、請求項1に記載のファントム。
【請求項27】
前記衣類品がベストであり、
且つ前記取付手段が、前記ハウジングを入れることができるポケットを備える、請求項26に記載のファントム。
【請求項28】
前記容器内の前記材料が、注入可能なMRI造影剤を含み、
且つ前記容器の各々内の前記造影剤の濃度が異なる、請求項1に記載のファントム。
【請求項29】
前記造影剤がガドリニウム系である、請求項28に記載のファントム。
【請求項30】
前記容器内の前記材料がゲル化剤を含む、請求項28又は29に記載のファントム。
【請求項31】
前記容器内の前記材料が、常磁性イオンを有する化合物を含む、請求項30に記載のファントム。
【請求項32】
ゲル化剤対常磁性イオンの比は、前記容器内の前記材料が組織の固有のT1対T2比と一致するように選択される、請求項31に記載のファントム。
【請求項33】
MRI内で使用されるファントムを製造する方法であって、
複数の容器に材料を充填することであって、特定の温度での前記材料の特性の値が前記容器の各々によって異なる、前記充填することと、
前記容器を取り囲む外側ハウジングを準備することと、
前記容器と前記外側ハウジングとの間の容積内に相変化材料を準備することと
を含む方法。
【請求項34】
ファントムを使用して未校正画像から校正済み測定値を取得する方法であって、
前記相変化材料を溶融させるために、請求項1~32のいずれか一項に記載のファントムを加熱することと、
前記相変化材料が冷却することを可能にすることと、
結晶化プロセスを開始するように前記相変化材料を揺らすことと、
撮像すべき被写体に隣接するように前記ファントムを前記スキャナ内に配置することと、
前記結晶化プロセスが進行している間に前記ファントム及び前記被写体を同時にスキャンして原画像データを生成することと、
前記容器の各々の前記原画像データから測定された前記特性の値と、前記容器の各々内の前記材料の前記特性の既知値とから補正関数を導出することと、
前記補正関数を前記被写体の前記画像データに適用して校正済み画像を作成することと
を含む方法。
【請求項35】
未校正画像から校正済み測定値を取得するシステムであって、
MRIスキャナ内で被写体と同時に撮像されるように構成された、請求項1~32のいずれか一項に記載のファントムと、
前記ファントムと、前記被写体及び前記ファントムの原画像データを受信するための前記スキャナとに結合されたプロセッサであって、前記容器の各々の前記原画像データから測定された前記特性の値と、前記容器の各々内の前記材料の前記特性の既知値とから補正関数を導出し、且つ前記補正関数を前記被写体の前記画像データに適用して校正済み画像を作成する、プロセッサと
を備えるシステム。
【請求項36】
前記原画像データ及び校正済み画像データと、前記補正関数に関する情報とを記憶するための記憶媒体を備える、請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
MRIスキャナ内で使用されるコイル組立体であって、高周波コイルアレイとハウジングとを備え、
前記ハウジングが前記コイル間に1つ又は複数の空間を有し、
且つ前記空間の少なくとも1つが、請求項1に記載のファントムを収容する、コイル組立体。
【請求項38】
前記ハウジングが複数の空間を有し、前記空間の2つ以上が、請求項1に記載のファントムを収容する、請求項37に記載の組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファントム、ファントムを製造する方法、ファントムを使用して未校正画像から校正済み測定値を取得する方法、ファントムを使用して未校正画像から校正済み測定値を取得するシステム、及びMRIスキャナ内で使用されるコイル組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴画像法(MRI)は、医療診断のために最も一般的に使用される撮像技術の1つである。この磁気共鳴画像法は、非侵襲的であり且つ体内で起こる生理学的プロセスに関する情報(fMRIなど)及び患者の解剖学的構造の詳細な画像を提供できる撮像法を提供するので、技術として非常に価値がある。MRIは、体内の、水素中の及び奇数の原子番号を有する他の原子中の陽子の固有運動量の挙動に影響を及ぼす、強い磁界及び高周波パルスの印加によって機能する。高周波信号は、放射パルスの印加後に原子が平衡状態に戻るときに放射される。この状態に種々の特性が戻る速度によって、周囲の材料に関する情報の収集が可能となり、且つ磁場勾配によって、信号を空間的に分解することが可能となる。
【0003】
スキャナの設定を変えることによって、スキャンされた組織の一定範囲の異なる特性を定量化することができる。特定の例を以下に説明し、特定の例のいくつかは、連続して撮影された2つ以上の画像を利用する。対象となる組織特性に応じて、動脈スピン標識及びT2*強調を使用する方法などの、説明したもの以外の撮像法を使用することができる。動的感受性造影(DSC)として知られる、T2*強調動的造影増強撮像は、例えば、以下に説明するT1強調撮像の代わりに又はT1強調撮像に加えて使用することができる。他の定量的撮像技術は、水及び脂肪の定量化のためにT1、T2及び/又は共鳴周波数の差に基づいて使用することができる。
【0004】
スピン-格子緩和率は、T1緩和率とも呼ばれ、MRIにおける最も基本的な明暗差である。スピン-格子緩和率は、物体が磁石に挿入された時点で、又は画像を作成するためにRF選択パルスが使用された後に、誘起された磁化が平衡に達するまでの時間を表す。重要なことに、この緩和率は、組織への灌流パラメータを推定する重要な手順の基礎としても使用される。特に、異常な脈管構造を有する腫瘍又は組織の場合には、ガドリニウムキレート造影剤などの、T1短縮造影剤の注入は、組織への造影剤のより急速な溢出のみならず、異常な脈管構造の存在、及び血液量の増加を表す、T1強調画像の急増をもたらす。これら全ての態様は、例えばガドリニウムキレート造影剤などの造影剤の注入を通して一連のT1強調画像が連続的に取得される、動的造影増強(DCE)MRIと呼ばれる方法を使用して測定することができる。次いで、これらのT1強調画像は、組織灌流の増加を局所的に測定するために、組織の基準定量的T1測定と組み合わされる。信号変化量の定量化は、腫瘍又は他の病変の特徴である、明確でない脈管構造の異常な存在を推測するために使用することができる。この信号変化の定量化には、対象の組織におけるT1値の校正が必要となる。
【0005】
拡散強調画像(DWI)は、他のパラメータの中でも、異なる領域における見かけの拡散係数(ADC)のマップを作成するために使用される磁気共鳴画像法の一種である。拡散強調撮像の背後にある原理は、磁界内でのパルス勾配の印加による信号の減少が特定の撮像された空間内で起こっている拡散の量に直接関係し得ることに依存している。組織内での水分子の拡散に対する主な制限は、細胞内小器官及び細胞膜の存在によるものであり、そのため、密度の高い組織は密度の低い組織よりも拡散が制限される。この拡散の制限は、より密度の高い部位においてより低いADCをもたらし、腫瘍及び脳梗塞の検出及び分類において特に有用である。画像信号の強度は拡散率に反比例するので、DWI画像の特定のボクセル内の信号の強度によって、スキャナを操作する人が、その領域での水の拡散率又は容積の表面を横切る水分子の流動を決定することが可能となる。ADCはボクセル内の平均拡散を表す。限定されるものではないが、脳、心臓組織、又は大部分の筋肉組織若しくは配向組織などの、非等方性組織では、水が繊維を横切って及び繊維に沿って異なる率で拡散するので、拡散特性は異方性である。それゆえ、拡散の簡単なモデルは、例えばテンソルと呼ばれる数学的対象によって表される。ADCは、これらの場合、拡散テンソルの対角要素(テンソルの跡に等しい)の合計又は平均として算出されることがあり、ここで、拡散テンソル成分は、一般的な3次元ガウス分布に適合された拡散率を表す。
【0006】
上で説明した方法などの方法は、概して、T1、T2若しくはT2*などの、MRI画像の測定された信号特性間の差、又は連続して撮影された2つ以上の画像間のADCを定量化する。ADCの測定は、例えば、拡散勾配が異なる2つの画像を必要とする。そのようなパラメータは、医療診断で使用される強力なツールである。MRI画像を分析する方法は、ますます複雑化しており、現在では、機械学習の応用を伴う。例えば、ラジオミクスは、多数の異なる定量化可能なパラメータ(限定されるものではないが、ADC、T1又はT2緩和時間、及びこれらから導出されたパラメータなど)が画像内のボクセル毎に決定される画像解析のための、コンピュータを利用した方法である。次いで、スキャンされた領域内の異常の検出を改善するために、画像内のパターンをアルゴリズムで分析することができる。これらの方法は、関連のあるパラメータの正確な測定値を必要とし、且つ画像が適切に校正されるという仮定に依存し、この仮定は当てはまらないことが多い。ラジオミクスの分野が成長するにつれて、MRIを使用して導出された物理的特性の測定値の正確な校正がますます重要になるであろう。
【0007】
MRI、特にマルチパラメトリック磁気共鳴画像法(mpMRI)は、前立腺、並びに脳及び他の軟質組織、腱、及び靭帯を含む、多数の組織及び器官の異常の検出に有用である。mpMRIは様々な組織の異常を検出するために使用できるが、全男性の6分の1が罹患し、依然として最も一般的な癌である、前立腺癌の診断に特に有用であることが判明している。2013年には、英国で47,000人以上の男性が前立腺癌と診断され、癌の90%が関連する症状を示さずに早期に発見された。血液中の高い前立腺特異抗原(PSA)レベルは、前立腺癌の指標となる可能性があるが、感染症又は炎症の結果である可能性もあるので、特に信頼性の高い指標ではない。PSAレベルの上昇が検出された場合、通常は生検が推奨される。生検は、患者にとって侵入的且つ不快な処置である。生検はまた、麻酔薬の投与を必要とし、さらに、前立腺の広範な領域が見逃され得るので、結果として偽陰性になる可能性がある。
【0008】
ごく最近になって、磁気共鳴画像技術を使用して前立腺癌を診断することが可能になった。マルチパラメトリックMRI(その定量的方法は、拡散強調撮像と、キレート化ガドリニウム系造影剤などの、T1短縮造影剤の通過によるT1の短縮に基づく動的造影増強撮像とを含み得る)は、腫瘍の位置を特定するとともに、癌の悪性度を表すグリソングレードを推定することができ、組織生検に対する有用な補完又は代替となる。前立腺癌診断でのMRIの使用は、改訂されたNICEガイドラインで間もなく行われる。しかしながら、この技術はまだ完全ではない(mpMRI陰性の患者の約10%は過小診断されており、mpMRI陽性の患者の約25%は過剰診断されている)。最近では、科学者らが、mpMRI技術を使用して患者の層別化を改善するための機械学習の利用に取り組んでいる。これらの方法は、患者間のスキャンを効果的に比較できるように、定量的T1画像及び拡散画像の両方の信号の定量的測定を必要とする。この測定は、単一のスキャナを使用して単一の場所で可能であり得るが、異なるスキャナを使用して行われる測定間には一貫性がないので、現時点では複数の施設にまたがって行うことはできない。
【0009】
DWI、T1、T2、T2*、及び動脈スピン標識(ASL)、などの撮像法は、使用したスキャナの能力が向上するにつれて、絶えず改善しているが、これら方法を使用して測定されたパラメータを定量化する一貫した方法はまだ存在していない。加えて、特にADCと、比較的程度は低いが、T1及びT2/T2*とを含む多くの測定可能なパラメータは、(水分子の運動は明らかに温度の増減によって影響を受けるので、拡散値と、格子又はスピン-スピン相互作用による信号の緩和の可能性との両方に影響を及ぼす)温度に大きく依存する。この説明は、複雑且つ不正確である可能性がある。必要なことは、複数の施設にわたる一貫性を達成するために、これらの撮像法のためのMRIスキャナを校正する効果的な方法であり、この方法は、能動的監視の精密な評価基準を提供し、(生検などの侵襲的介入につながり得る)曖昧な診断の割合を低減し、且つ過小診断又は過剰診断の発生を低減するために、定量的mpMRIの広範な使用が可能にする。上記の利点は、関連する医療費を削減し、貴重な資金を節約するのに役立つ。
【0010】
MRIスキャナ内で使用されるファントムが知られている。特許文献1(HA Imaging GmbH)は、拡散強調画像における空間及びADC分解能を導出するためのファントムを説明している。ファントムは、PVP溶液又は別の増粘剤が異なる濃度で充填された異なる区画を含む円筒体を備える。使用される液体のADC値は極めて温度に敏感であるので、ファントムは、流体の温度を測定するための温度計を含むことができる。次いで、ADC値は、校正曲線を使用して基準温度に合わせて補正することができる。
【0011】
High Precision Devices,Inc.は、定量的MRI拡散撮像用のファントムを宣伝しており、このファントムは、PVP(ポリビニルピロリドン)水溶液が異なる濃度で各々に充填された多数のバイアルを収容するプラスチック球体を備える。バイアルは、氷浴を使用してファントムのスキャン中に0℃に保持される。
【0012】
特許文献2もまた、MRIスキャナを使用して撮影された拡散強調画像の校正用のファントムであって、脳の線維網を追跡する画像を校正するために使用されるファントムを説明している。ファントムは、流体が充填された一連の中空管状ポリマー繊維を含む。ファントムは、装置の内殻の隣の導管を通して循環される温度制御流体によって一定の温度に維持される。
【0013】
アメリカ国立小児保健発達研究所(NICHD;National Institute of Child Health and Human Development)は、PVPを収容する中空球体の形をとる、特許文献3で説明されている、拡散ファントムを開発した。PVPは、ヒト組織のADC値に類似するADC値を有するように選択される。ファントムは、分子量の異なるポリマーを含む水溶液を収容する室を含む。ファントムの拡散特性を調整するために、溶液中のポリマーの相対的比率を変えることができる。実施形態では、ファントムは、2つの別個の室と、2つの周囲区画内の溶液のADCとは非常に異なるADCを有する生理食塩水を収容する中央の基準区画とを含み得る。2つの区画が互いに対して異なる濃度を有する溶液を収容するかどうか、又はどんな物質がこれらの溶液を構成するかは、その説明から明らかではない。球体の外側には温度計が設けられる。
【0014】
非特許文献1として記載の表題の論文は、磁気共鳴分光温度測定法を使用して温度への組織材料の影響を測定するための、安定した温度での材料の使用を説明している。
【0015】
アメリカ国立標準技術研究所(NIST;The National Institute of Standards and Technology)は、MRI装置を使用して撮影された頭部のT1及びT2画像の標準化用のファントムを開発した。ファントムは、より大きな球状ハウジング内に収容された多数の球体を含む。同研究所は、様々な濃度のPVPが充填されたポートを使用して、乳房組織内のADCのMRI撮像の校正用のファントムを作製した(このファントムは、非特許文献2で説明されている)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】独国特許出願公開第102016121212号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0184696号明細書
【特許文献3】米国特許第9,603,546号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】“High-precision calibration of MRS thermometry using validated temperature standards:effects of ionic strength and protein content on the calibration”(Vescovo et al;NMR Biomed.,2013,26,(2),213-223)
【非特許文献2】“Design of a Breast Phantom for Quantitative MRI”;Keenan et al;J.Magn.Reson.Imaging 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
現時点では、一定範囲の測定可能な値(ADC並びに組み合わされたADC及びT1値など)にわたって正確な測定値を提供するファントムは存在せず、ほとんどのファントムは、必要な温度(通常は0℃)まで容易に冷却するにはあまりに扱いにくい。加えて、特に一定範囲の値にわたる拡散撮像又は拡散及びT1/T2/T2*撮像について、患者と共に撮像できる、そのようなファントムは、存在しない。ADCファントムの場合、例えば、0℃において存在する拡散値に基づく、現行モデルは、正常組織ではなく癌(より密度の高い)組織を表す、一定範囲のADC値をカバーし、ADC値の温度依存性は、温度変化の補正を行う必要があり、この補正によってプロセスが複雑になることを意味する。同様に、現時点では非線形性を補正する信頼できる方法はないので、測定の非線形性も問題になる。正確な画像内校正システムを提供できる、MRI画像の校正用の改良されたファントムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の態様によれば、MRIスキャナ内で使用されるファントムであって、外側ハウジングと、外側ハウジング内に配置された複数の容器であって、容器の各々が材料を収容し、特定の温度での材料の少なくとも1つの特性の値が、容器の各々内に収容された材料によって異なる、複数の容器と、外側ハウジングと容器との間の相変化材料とを備えるファントムが提供される。
【0020】
拡散係数及び/又はT1若しくはT2緩和時間などの、MRIスキャナを使用して測定可能である(定量化できる)特性について異なる既知値を有する液体を収容する一連のバイアルと、スキャン中に容器内の材料を一定の温度に維持できる相変化材料との特定の組み合わせは、(温度変化に対する拡散係数などの特性の感度を考慮しても)補正を適用してスキャン中の温度変化を考慮に入れる必要なしに容器の各々内の液体の関連のある物理的特性の値を適切に制御できることを意味する。ファントムはまた、スキャン中にファントムに接触し得る患者にとって快適である、精密な温度に保つことができ、精密な温度に保つことは、電気的構成要素又は液体交換区画の追加によるとしても、嵩張る設備の必要性又は別個の加熱システムの使用なしに行うことができる。「外側ハウジング」という用語は、ハウジングが容器の外側に配置されるということを意味する。外側ハウジングは、ファントムの最も外側のハウジングであってもなくてもよい。特定のパラメータ(異なる時間に撮影された2つの画像の比較を必要とするADCなど)の値を決定するのに2つ以上の画像が必要となる場合がある。以下に提示する例ではバイアルについて言及されているが、ファントムの使用時に容器が材料を収容できるのであれば、それらのバイアルの代わりに任意のタイプの容器を使用することができる。
【0021】
これらの特徴は、画像内校正装置としてのファントムの使用を可能にする。画像内とは、ファントムと被写体が同じスキャナで同時に撮像されることを指す。そして、原画像データは、隣同士のファントムと被写体の両方の画像を含み得る。特に拡散係数はまた圧力によって決まり、測定は通常、標準状態(25℃及び100kPa)の材料に対して行われる。それゆえ、容器の各々内の材料は、材料の標準状態において異なる拡散係数及び/又は関連のある特性の異なる値を有する。容器は、使用時に容器が材料(液体であり得る)を収容できるのであれば、任意の形状を有し得る。
【0022】
当然ながら、マルチパラメトリック撮像法で使用するために、いくつかの特性がスキャン中又は一連のスキャン中に決定されてもよく、且つ単一のファントムが、いくつかの異なる撮像法を使用して撮影された画像を校正できることが有利であり得る。それゆえ、容器内の材料又は液体は、校正の目的で2つ以上の異なる測定可能な特性における有用な範囲を提供するように選択されてもよい。代替的に、容器は、特定の撮像法を使用して撮影された画像の校正用のファントムを最適化するために、校正のために使用される液体を変更できるように、(以下により詳細に説明するように)容易に交換可能又は再充填可能とすることができる。ファントムはまた、異なる材料を収容するバイアルの2つ以上のセットを収容するように構成することができ、各セットは、特定の測定値を校正するために使用することができる。
【0023】
ファントムは、画像内ファントムとして設計されてもよく、そのような場合には、画像が撮影される患者又は患者の身体部分と共にスキャナのボア内に適合するようになされるべきである。ファントムには任意の好適な形状を使用できるが、スキャンすべき患者の身体部分に快適に適合する形状、及びスキャナのコイル内に適合させるか又はコイルに取り付けることができる形状が特に有利である。
【0024】
実施形態では、外側ハウジングの外向き面の少なくとも一部は凹面である。ファントムは画像内ファントムとして設計されるため、及びDCE(動的造影増強)検査のみならず拡散強調画像を生成するのに必要な長いスキャン時間のため、患者がスキャナ内に位置するときに快適であることを確実にすることが重要である。スキャナ内に空間的ばらつきがある可能性があるので、ファントムが、撮像すべき身体部分のより近傍に配置されるほど、身体部分をより良好に撮像することができる。ファントムの凸状外面は、患者の胴体部の周囲に快適に適合する(胃の上又は背中の真下に載置される)。「外向き」とは、表面がファントムの残り部分から又はファントム内に配置された容器から概ね離れる方向に面することを指す。
図2A及び
図2Bは、例えば、外向き凹面と、外向き凹面に平行な外向き凸面とを有するハウジングを図示している。
【0025】
実施形態では、容器は各々、凹面から等距離に固定される。患者がファントムの上に横たわっているときに、又はファントムがスキャナ内の患者の上に載置されたときに、容器は、撮像すべき身体部分から等距離に且つその近傍にあり、校正の一貫性及び精度を向上させるのに役立つ。
【0026】
実施形態では、外側ハウジングは、凹面に平行な凸状外向き面を備え、且つ容器は、凸面と凹面との間の適所に固定される。この構成は、必要な材料の量及びファントムの重量(スキャン中に患者がファントムの真下に位置する場合に重要である)を最小限に抑える。
【0027】
実施形態では、外側ハウジングは、2つの平坦な側面を備え、且つバイアルは、側面間に延びるとともに、容器を所定の位置に保持するために側面に結合される。外側ハウジングは、この場合も、容器を適所に保持するのに必要な追加の材料の量を最小限に抑え、且つ容器に充填又は再充填するための開口部の簡便な配置をもたらす。
【0028】
実施形態では、外側ハウジングは、直方体として形作られる。ハウジングは、実施形態では、立方体状であってもよい。いずれの場合も、外側ハウジングの構造は、製造が簡単である。直方体ハウジングは、略直方体として形作られてもよいが、
図4に示すように、例えば角部に切り欠き部分を有し得る。実施形態では、外側ハウジングは、5cm~25cmの最大寸法を有する。最大寸法とは、ハウジング容積にわたって測定できる最長寸法を指す。このようにしてハウジングのサイズを定めることによって、スキャナのコイル間の空隙又は隙間内にファントムを適合させることが可能となる。立方体として形作られたファントムは、これを達成するために簡便な形状を提供する。容器は、立方体の2つの平行面の間でファントムを横切って延びることができ、そして、外側ハウジングにおける栓が使用される場合に簡単にアクセスすることができる。直方体形状であるハウジングは、患者の身体の近傍に位置決めされた受信コイルに一体化されるのに十分に小さい、3対の略平行な平坦面に基づいている。実施形態では、ファントムは、例えばスキャナ内で仰臥位になった患者の腹部又は背中に使用される可撓性表面コイル内に位置決めすることができる。実施形態では、ファントムは、患者台に組み込むことができる、患者が仰臥位又は腹臥位で横たわる硬質表面コイル内に位置決めすることができる。
【0029】
実施形態では、外側ハウジングは、スキャナ内で使用されるRFコイルの内面に隣接して位置決めされるように構成される。この構成は、頭部、頸部、又は頭頸部コイルの場合に特に有用である。実施形態では、外側ハウジングはリング状である。リングは、容器を収容するために中空であり、必須ではないが、容器は、リング内に等距離に離間して配置することができる。このリングは、コイルの内面に隣接してスキャナのRFコイル内に適合するようにサイズを定めることができ、又はコイルと一体化させることができる。また、留め具若しくは他の取付機構が、ファントムを適所に保持するために使用されてもよく、又は使用時に単にコイル内にあってもよい。ファントムは、コイルから取り外し可能であってもよい。
【0030】
実施形態では、複数の容器は、少なくとも3つの容器を含む。実施形態では、複数の容器は、8~12個の容器を含む。ファントムは、それゆえ、最低3つに制限され得る、多数の容器を含む。利用可能な空間によって制限されることは別として、容器の最大数は制限されない。異なる材料を収容する3つ以上の容器の使用によって、以下に詳述するように、非線形性についての補正を行うことが可能となる。
【0031】
実施形態では、容器はバイアルである。
【0032】
実施形態では、容器内の材料は液体である。実施形態では、容器内の液体は、液体に溶解した材料を含み、且つ溶液中の材料の濃度は容器の各々によって異なる。実施形態では、バイアル内の液体は、水に溶解したポリマーを含み、且つ溶液中のポリマーの濃度はバイアルの各々によって異なる。液体のADCは、このように容易に制御することができ、且つ液体のADCに、(健康な組織と不健康な/異常な組織の両方を含む)有用な範囲の値をカバーさせることができる。これは、液体の特定の物理特性の値を精密に制御する簡単な方法である。例えば、拡散係数は、ポリマーの濃度を所望の値に固定するために、ポリビニルピロリドン(PVP)又はグリセロールなどの、特定量のポリマーを溶液に添加することによって簡単に制御することができる。現在の校正方法の精度に関する主要な問題は、異なる特性について行われる測定において非線形性を考慮に入れることができないことである。校正においてこの非線形性を考慮に入れるために、比較のために一定範囲の値の基本測定が必要であり、異なる溶液を収容する3つ以上のバイアルを含めることによってこの基本測定が可能となる。
【0033】
実施形態では、ポリマーはポリビニルピロリドンである。PVPは、安価であり、且つ制御製剤としてすぐに利用でき、且つ単に溶液中のPVPの濃度を変えるだけでバイアルの各々によって異なり得る見かけの拡散係数の制御された材料として容易に使用することができる。
【0034】
実施形態では、増粘剤は、水よりも密度の高い別のポリマー又は他の分子とすることができる。拡散誘発剤として任意の水溶性ポリマー(架橋又は非架橋)を使用することができる。実施形態では、分子は、限定されるものではないが、以下のもの、
・デキストラン、α-1,3-分枝を有するα-1,6-グルカン
・紅藻殿粉、α-1,4-及びα-1,6-グルカン
・グリコーゲン、α-1,4-及びα-1,6-グルカン
・プルラン、α-1,4-及びα-1,6-グルカン
・殿粉、アミロースとアミロペクチンとの混合物、α-1,4-及びα-1,6-グルカン
・セルロース、β-1,4-グルカン
・クリソラミナリン、β-1,3-グルカン
・カードラン、β-1,3-グルカン
・ラミナリン、β-1,3-及びβ-1,6-グルカン
・レンチナン、シイタケ(Lentinus edodes)から厳密に精製されたβ-1,6:β-1,3-グルカン
・リケニン、β-1,3-及びβ-1,4-グルカン
・エンバクβ-グルカン、β-1,3-及びβ-1,4-グルカン
・プルラン、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)から単離されたβ-1,3-及びβ-1,6-グルカン
・ザイモサン、β-1,3-グルカン
などの、元のグルカン又はグリカンに基づくポリグリカン又はポリグルカン分子とすることができる。
【0035】
実施形態では、容器内の液体は、水に溶解した金属塩を含み、且つ溶液中の金属塩の濃度は、容器の各々によって異なる。金属塩溶液は、異なる値のT1、T2、又はT2*緩和時間(すなわち、動的造影増強撮像法を使用して撮影された画像の校正のための)を有する一定範囲の液体を提供するのに有用である。
【0036】
実施形態では、金属塩は、塩化ニッケル、硫酸銅、ガドリニウム、塩化マンガン、及び酸化鉄のうちの1種又は複数種を含む。塩化ニッケル、硫酸銅、及びガドリニウムは、T1画像を校正するためにファントムが使用されるように意図される場合に特に有用である。T2画像の校正には塩化マンガンが特に有用であり、好ましくは、T2*画像を校正する場合には酸化鉄を使用すべきである。
【0037】
実施形態では、容器内の液体は、水及び、異なる有機油の混合物を含む。
【0038】
実施形態では、相変化材料はエチレンカーボネートである。エチレンカーボネートは、無色であり、且つ患者の皮膚温度と同様の36.3℃で凍結し、ファントムがスキャン中に患者に接触したときに不快感を生じさせないことを意味する。以下にさらに詳述するように、他の相変化材料を使用することもできる。
【0039】
実施形態では、相変化材料はジフェニルエーテルである。ジフェニルエーテルの融点は、この場合もファントムに接触する患者にとって快適である約26℃である。エチレンカーボネートに関して、結晶化プロセスは、少なくともスキャンに必要な平均時間にわたって持続するのに十分に長く進行する。
【0040】
実施形態では、容器は各々、容器内殻と容器外殻とを備え、且つ相変化材料は、容器の各々の容器内殻と容器外殻との間に収容される。この構成は、より少ない相変化材料しか必要とせず、且つ相変化材料が、容器内の液体のできるだけ近傍のファントム内に配置されることを確実にし、この容器内の液体は、スキャン中にできるだけ一定の温度に保たなければならない。
【0041】
実施形態では、相変化材料は、容器と外側ハウジングとの間の空間全体を満たす。この構成は、簡単なものであり、この場合も、容器の外面全体が相変化材料に接触することを確実にする。
【0042】
実施形態では、外側ハウジングは、ファントムに相変化材料を充填するための閉止可能な開口部を備える。このようにして、ファントムのハウジングは再使用することができ、且つ相変化材料が使用されるという点で、ある程度の可撓性が提供される。ある特定の状況では一部の相変化材料が他の相変化材料よりも好適であり得るように、異なる相変化材料は、異なる融点を有する。
【0043】
実施形態では、容器の各々は、各容器に液体を充填するための閉止可能な開口部を備える。相変化材料に関しては、容器内の液体の特性を異なる状況に適したものにするために、容器を空にして容器に再充填できることが有用である。測定すべき物理的特性の異なる範囲の値は、例えば、身体の特定の領域のスキャンにおいてより好適であり得る。この異なる範囲は、値の範囲が健康な組織タイプと不健康な組織タイプの両方を意図した通りにカバーすることを確実にする。
【0044】
実施形態では、容器の各々に液体を充填するための閉止可能な開口部は、外側ハウジングにおける開口部である。それゆえ、外側ハウジングは、再充填のために容器にアクセスするために、開放する必要がなく、且つ損傷する可能性がない。
【0045】
実施形態では、ファントムは、取付手段を含む衣類品を備え、ハウジングは取付手段を使用して衣類に結合される。
【0046】
実施形態では、衣類品はベストであり、且つ取付手段は、ハウジングを入れることができるポケットを備える。
【0047】
実施形態では、容器内の材料は注入可能なMRI造影剤を含み、且つ容器の各々内の造影剤の濃度は異なる。
【0048】
実施形態では、造影剤はガドリニウム系である。
【0049】
実施形態では、容器内の材料はゲル化剤を含む。
【0050】
実施形態では、容器内の材料は、常磁性イオンを有する化合物を含む。
【0051】
実施形態では、ゲル化剤対常磁性イオンの比は、容器内の材料が組織の固有のT1対T2比と一致するように選択される。
【0052】
本発明の第2の実施形態によれば、MRIスキャナ内で使用されるファントムを製造する方法であって、複数の容器に材料を充填することであって、特定の温度での材料の特性の値が容器の各々によって異なる、充填することと、容器を取り囲む外側ハウジングを準備することと、容器と外側ハウジングとの間の容積内に相変化材料を準備することとを含む方法が提供される。
【0053】
本発明の第3の態様によれば、ファントムを使用して未校正画像から校正済み測定値を取得する方法であって、相変化材料を溶融させるために、上で説明したファントムを加熱することと、相変化材料が冷却することを可能にすることと、結晶化プロセスを開始するように相変化材料を揺らすことと、撮像すべき被写体に隣接するようにファントムをスキャナ内に配置することと、結晶化プロセスが進行している間にファントム及び被写体を同時にスキャンして原画像データを生成することと、容器の各々の原画像データから測定された特性の値と、容器の各々内の材料の特性の既知値とから補正関数を導出することと、補正関数を被写体の画像データに適用して校正済み画像を作成することとを含む方法が提供される。
【0054】
ファントムは、冷却ステップにおいて、相変化材料の氷点付近、氷点又は氷点未満まで冷却されてもよい。この温度は、氷点下よりも僅かに低いか、又は10度を超える可能性がある。相変化材料は、過冷却され、邪魔されない限り自然に凍結しない。相変化材料は、長時間(数時間)放置された場合にのみ、自然に凍結し始める。
【0055】
本発明の第4の態様によれば、ファントムを使用して未校正画像から校正済み測定値を取得するシステムであって、MRIスキャナ内で被写体と同時に撮像されるように構成された上で説明したファントムと、被写体及びファントムの原画像データを受信するためのスキャナとファントムとに結合されたプロセッサであって、バイアルの各々の原画像データから測定された特性の値と、容器の各々内の材料の特性の既知値とから補正関数を導出し、且つ補正関数を被写体の画像データに適用して校正済み画像を作成する、プロセッサとを備えるシステムが提供される。
【0056】
実施形態では、システムは、原画像データ及び校正済み画像データと、補正関数に関する情報とを記憶するための記憶媒体を備える。
【0057】
本発明の第5の態様によれば、MRIスキャナ内で使用されるコイル組立体であって、高周波コイルアレイとハウジングとを備え、ハウジングがコイル間に1つ又は複数の空間を有し、且つ空間の少なくとも1つが、上で説明したファントムを収容する、コイル組立体が提供される。
【0058】
実施形態では、ハウジングは複数の空間を有し、空間の2つ以上は、上で説明したようにファントムを収容する。組立体は、それゆえ、高度に構成可能である。コイル組立体のハウジングがファントムの外側ハウジングも形成する、別の実施形態について、
図3を参照して以下に説明する。
【0059】
ここで、添付の図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1A】
図1Aは、スキャンに先立って台上の患者に隣接して配置された拡散ファントムを示す。
【
図1B】
図1Bは、患者に対するファントムハウジングの可能な配置を図示する。
【
図2B】
図2Bは、各バイアル内の溶液中のPVPの濃度を表すようにバイアルに陰影が付けられた、
図2Aに示す拡散ファントムの側面図を示す。
【
図3】
図3は、一体型のファントム構成要素を含むRF頭頸部コイルを示す。
【
図4】
図4は、各々がファントム又はファントム構成要素を保持するように構成された、コイル間の空間を含むRFコイルアレイ及びハウジングを示す。
【
図5】
図5は、ファントムを含む校正システムを示す。
【
図6】
図6は、ファントム内のバイアルの各々についてのADC測定値及びADC期待値のグラフを示す。
【
図7】
図7は、ファントムと共に又はファントムの一部として使用される光学温度プローブを図示する。
【
図8】
図8は、容器を収容するハウジング部分が組み込まれた着用可能なベストを示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に説明する校正ファントムは、厳密に言えば、(画像内校正装置として)同じスキャナ内の患者と同時に撮像されるように設計される。ファントムの特定の形状及びバイアルと外部ハウジングとの近接度などの、装置の特徴は、装置を患者にとってより容易且つ快適なものにし、その後の校正段階の精度を向上させる。この高レベルの精度は、被写体の画像が撮影される前又は撮影された後に撮像システムにおいて起こる変化が校正プロセスに影響を及ぼさないので、画像内ファントムを使用して達成可能である。ほとんどのファントムは、過度に嵩張り、且つ撮像すべき患者又は身体部分と共にファントムがMRIコイル内に快適に適合するのを防止する円筒体又は球体として形作られ、その結果、ファントムを患者と同時に撮像することができない。システムはまた、測定すべき特性の一定範囲の注意深く制御された値を有する材料の校正画像を提供し、この一定の範囲は、健康な組織と異常な組織の両方から測定されると期待される値に対応する。校正で使用される一定範囲の測定値を提供することは、非線形性を補正して、関連のある1つ又は複数の特性の値が、同じスキャナによって異なる時間に撮影された画像にわたって及び異なるスキャナにわたって一貫して測定されることを確実にするのに役立つことができる。
【0062】
図1Aでは、ファントムは、胴体パッドの一部として身体よりも上に配置され、且つスキャン中に身体に対する動きを防止するために患者の腰にストラップで固定される。ハウジングは、防水性であり、且つ以下により詳細に説明するように、スキャン中にバイアル4a~kを一定の温度に保つために使用される相変化材料を収容するように設計されてもよい。ファントムはまた、患者の胴体の真下に配置されてもよい。
図1Bは、胴体パッドが、患者の胴部の周囲にストラップで固定されたファントムを含む、患者の側面図を示している。この図は、身体の周囲全体にわたって延びる単一のパッド、又は2つの別個のパッド(1つは身体よりも上にストラップで固定され、もう1つは患者の腰部の真下に位置決めされる(及び場合により、スキャン中に患者が上に横たわることができる台に一体化される))を表し得る。
【0063】
ファントムの例が
図2Aに示されている。ファントムは、患者の身体の輪郭に適合するように形作られた外側ハウジング又はコンテナー2を備える。ハウジングから分離され且つ各々が水溶液を収容する、複数のバイアル4a~kがハウジング内に配置され、各溶液は、見かけの拡散係数、T1又はT2緩和時間などの、測定可能な特性の異なる値を有する(バイアル4a内の溶液は、バイアル4k内の溶液の値とは異なる関連のある特性の値を有する)。各溶液の特性の値は、溶液中の特定の材料の濃度を変化させることによって制御されてもよい。材料は、制御されたADC値を提供するのに有用な、PVPなどのポリマーであってもよく、又はT1若しくはT2緩和時間の制御された値を提供するのに有用な、金属塩若しくは異なる金属塩の混合物であってもよい。溶液を形成するように材料を水に溶解させてもよい。
【0064】
バイアル内に収容された溶液についてのT1又はT2緩和時間を変化させるために化学物質及び/又は塩を使用する代わりに、バイアルには、ゲルと混合され得るガドリニウム系造影剤などの造影剤を充填することができる。ゲル中の異なる濃度の造影剤を(PVP系の実施形態についての水中の様々な濃度のPVPと同様の方式で)バイアル毎に使用することができる。測定が望ましい身体部分に隣接するファントムが撮像された時点で、既知の濃度の同じ化学物質を有する物質を含むバイアルの画像との比較によって体内の造影剤の濃度を決定することができる。この実施形態における容器は、水、注入可能なMRI造影剤(上述したガドリニウムなど)、ゲル化剤、及び常磁性イオンを有する他の化合物を収容してもよい。容器内の材料の成分としての使用に好適であるガドリニウム系造影剤の例は、Magnevist(登録商標)及びDotarem(登録商標)である。好適なゲル化剤としては、寒天、アガロース、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸(カルボマー及びカルボポール)、並びにポリアクリルアミドが挙げられる。常磁性イオンを有する好適な化合物としては、塩化ニッケル、塩化マンガン、硝酸ニッケル、及び硫酸銅が挙げられる。
【0065】
例示的な溶液は、約0.1mM~4.0mMの塩化ニッケル、0.01mM~0.1mMの塩化マンガン、0.25%~3%の、ヒドロキシエチルセルロース、カルボマー、又はポリアクリルアミドのうちの1種、及び0.01%~1%のMagnevist(登録商標)を含有する。残りの溶液は、水から構成することができる。また、ヒドロキシエチルセルロース、カルボマー、又はポリアクリルアミド(総量が0.01%~1%である)の混合物を使用してもよい。使用される正確な成分量は、磁界強度によって決まる。
【0066】
特定の緩和率を提供するために必要なファントム内の水を含む溶液中の塩化ニッケルのいくつかの濃度は、以下の表1において見ることができ、この表1は、Keenanらによる“Quantitative Magnetic Resonance Imaging Phantoms:A Review and the Need for a System Phantom”(MRM,2018,Jan 79(1):48-61)という表題の論文からのものである。
【0067】
【0068】
ゲル化剤対常磁性イオンの比は、好ましくは、容器内の材料のT1対T2比がヒト組織のT1対T2比(例えば、それぞれ300~3000ms及び10~250ms)に対応するように選択される。容器は、異なる濃度の造影剤を収容する容器の画像を被写体の画像と直接比較できるように、相変化材料によって体温付近の温度(37℃など)に維持される。次いで、これによって、造影剤の濃度に対するMRI信号の直接線形化(又は容器内の材料の画像を使用した画像信号の校正)が可能となる。
【0069】
明らかに、バイアル及び内部に収容された物質を特定の身体部分との比較のためにできるだけ体温付近の温度に保持することがなお重要である。これを達成するために相変化材料が使用されてもよく、且つハウジング及びバイアルの構造は、バイアルがPVP又は別の水溶性材料を含む実施形態で使用されるものと同一であってもよい。患者の身体部分内の造影剤の濃度の決定に、T1又はT2緩和時間の分析は必要ないので、より簡単且つ迅速な画像処理をもたらし得る。
【0070】
バイアルは、好ましくは、使用中に外側ハウジングに対して適所に保持される。この保持は、ハウジングと同じ材料で形成することができ且つバイアルから外側ハウジングに延びる、バイアル1個当たり1つ又は複数の支柱によるものであってもよい。代替的に、バイアル自体は、(当然ながら、バイアル内の溶液が漏出しないことを確実にするために、バイアル自体が水密でなければならないが)ファントム全体を貫通して外側ハウジングの一方側6から他方側8に延びてもよい。実施形態では、外側ハウジング2及びバイアル4は、同じ材料で形成することができ、且つ製造工程を簡略化するために単一部品として形成されてもよい。
【0071】
ハウジング及び/又はバイアルは、様々な異なる形状を有することができ、且つ射出成形、真空成形、ブロー成形、鋳造、固体ブロックからの機械加工によって形成されてもよく、又は互いに接着、溶着若しくは締め具で保持された板の部分から形成されてもよい。ハウジング及び/又はバイアルは、単一部品として一体に又は別々に形成されてもよい。代替的に、あまり有利ではないが、ハウジングは、所定の形状にブロー成形される、ガラスから作製することができる。ハウジング及び/又はバイアルを形成するために使用するのに好適な材料はプラスチックであるが、(溶媒である)エチレンカーボネートが相変化材料として使用される場合、ハウジング及びバイアルのプラスチックは化学的耐性を有する必要がある。ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフッ化ビニリデン、及びフルオロポリマーなどの、プラスチックは、エチレンカーボネートによって溶解されないので、この場合は、特に有用である。相変化材料に接触して溶解されない他の任意のプラスチックも好適である。実施形態では、ハウジング及び/又はバイアルは、例えば、内/外層又は異なる材料のコーティングを使用して、相変化材料から保護することができる。ハウジングが形成された時点で、汚染物質が導入されないことを確実にする、閉止可能な開口部を通して相変化材料が注入されてもよい。
【0072】
バイアル及び外側ハウジングが形成された時点で、バイアル及び外側ハウジングには、水密室を形成して異なる成分の混合を防止するために閉鎖される開口部を通して少なくとも溶液及び相変化材料をそれぞれ充填することができる。開口部には取り外し可能な閉鎖機構(栓など)が設けられてもよく、その結果、必要であれば、相変化材料及びバイアル内の溶液を交換することができる。このようにして、使用される相変化材料のタイプ及びバイアル内に収容される異なる水溶液の濃度又は組成にはある程度の自由度がある。特に、体温付近(したがって、25℃~45℃、好ましくは36℃~38℃、好ましくは36.5℃~37.5℃の範囲、好ましくは約37℃)の転移温度(又は融点)を有する相変化材料を使用することが、あらゆる場合(特に、ファントムが、画像内ファントムとして被写体と共に撮像されることが意図される場合)において有利である。このことは、結晶化中に容器内の材料及び相変化材料が体温付近に維持されることを意味する。ファントムは、撮像すべき身体部分の近傍に快適に保持することができ、且つ容器内の条件は、校正プロセスをより正確にすることができる)体内の条件と同様である。
【0073】
バイアル4は各々、水溶性ポリマーである、PVP(ポリビニルピロリドン)、又は別の増粘剤を含む水溶液を収容してもよい。水に溶解した場合、(特定の温度及び圧力での)水+PVP/増粘剤溶液のADCは、存在する化学物質の濃度によって決まる。バイアルは、任意の形状を有することができるが、好ましくは、
図2Aに示すように円筒状である。水溶液中のPVP/増粘剤の濃度は、異なる溶液が、室温での人体におけるADC測定値の範囲を模倣するように設計されたPVP/増粘剤濃度の範囲をカバーするように、バイアルの各々によって異なる。表1は、溶液の関連するADCと共に、水溶液中のPVPの種々の濃度を列挙している。値は、エチレンカーボネートの定点温度である、36.3℃で与えられている。異なる濃度のPVPについてのADC測定値は、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28628638から得ることができ、且つ良性及び悪性組織値についてのADC値は、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4632135/において見出すことができる。
【0074】
【0075】
バイアル4は各々、塩化ニッケル、硫酸銅、ガドリニウム、塩化マンガン、及び酸化鉄などの、金属塩と組み合わされた水を含む水溶液を収容してもよい。水に溶解した場合、(特定の温度及び圧力での)水+様々な濃度の金属塩のT1は、存在する塩の濃度によって決まる。バイアルは、任意の形状を有することができるが、好ましくは、
図2Aに示すように円筒状である。水溶液中の塩の濃度は、異なる溶液が、室温での人体におけるT1測定値の範囲を模倣するように設計された塩濃度の範囲をカバーするように、バイアルの各々によって異なる。https://ws680.nist.gov/publication/get_pdf.cfm?pub_id=919826から得られた、表2は、塩化ニッケル水溶液の濃度の例示的な値と3Tでの関連するT1測定値を列挙している。
【0076】
【0077】
図2Bは、
図2Aの拡散ファントムの側面図を示す。外側ハウジング2の湾曲形状が視認可能であり、且つバイアルの端部が、バイアルの各々内に収容された液体中の濃度溶液を表すように陰影付きで示されている。当然ながら、溶液の実際の外観は異なってもよく、また、濃度の変化と、この例では、以下に説明するように、PVP若しくは増粘剤、金属塩、又は別の物質の濃度がファントムの一端部から他端部に向かって増加することとを図示するために、陰影が使用されている。ファントムハウジングの主面は、湾曲状ではなく真っ直ぐなものとすることができ、又はファントムは、以下にさらに説明するように、コイルに適合するか又はコイル内に適合するように形作られてもよい。ファントムが、胴体を撮像するために使用されるように設計される場合、その形状は、人のサンプル(又は特定の年齢範囲、性別、又は性別及び年齢範囲の人などの、人の特定のサブセットのサンプル)の腰部の平均的な曲線に対応するように作製することができる。
【0078】
図2A及び
図2Bに示す装置は、11個のバイアルを備えるが、より簡単な構造若しくはより正確な校正を可能にするために、より多数若しくは少数のバイアルが提供されてもよく、例えば、異なる濃度の2つのバイアルを提供することができ、又は12個以上のバイアルを提供することができる。概して、存在するバイアルの数は、正確な校正を提供するのに十分な高解像度で健康な及び異常な組織をカバーするのに十分に広い範囲をカバーするために、3~15個、好ましくは8~12個の範囲である。ファントムの一端部の最も近傍のバイアルは、最低濃度を有する溶液を収容してもよく、且つファントムの他端部の最も近傍のバイアルは、最高濃度を有する溶液を収容してもよい(
図2Bに示す)。この場合には、
図2Bのバイアル4aは最も希釈した溶液を収容し、且つバイアル4kは最も濃厚な溶液を収容する。中間に位置するバイアルは、中間濃度を有する溶液を収容する。濃度は、溶液中の質量%濃度の等しい増分だけ隣り合うバイアル間で増加させてもよい。濃度の非線形増加も状況によっては有用である。例えば、対数的増加又は指数関数的増加を用いることができる。(中でも)T1、T2及びADCの減衰は、概して、指数関数的減衰で表される。このことは、バイアル内の材料の濃度における対数に基づく増加を用いることによって、種々のバイアルの画像間の信号強度の線形変化を達成できることを意味する。これによって、処理の点で取り扱いがより簡単になる。
【0079】
例えば、T1校正について、ファントムの一端部の最も近傍のバイアルは、最低濃度の金属塩を有する溶液を収容してもよく、且つファントムの他端部の最も近傍のバイアルは、最高濃度の金属塩を有する溶液を収容してもよい(
図2Bに示す)。この場合には、
図2Bのバイアル4aは最も希釈した溶液を収容し、且つバイアル4kは最も濃厚な溶液を収容する。中間に位置するバイアルは、中間濃度の塩を有する溶液を収容する。濃度は、溶液中の塩の質量%濃度の等しい増分、対数的増分、又は他の増分だけ隣り合うバイアル間で増加させてもよい。ADC校正のために、上記が依然として適用されるが、PVPは、金属塩ではなく又は金属塩に加えて溶液中の材料として使用されてもよい。MR緩和特性を最適化するための防腐剤及び微量の常磁性金属などの、追加の物質が、溶液中の添加剤として使用されてもよい。バイアルはまた、等間隔に(隣り合うバイアル間に等間隔で)ファントムに沿って物理的に離間して配置されてもよい。
【0080】
ハウジングは、スキャナのコイルに留め具で取り付けられるように又はスキャナのコイル内に適合するように形作られてもよい。この目的を達成するために、ハウジングは、使用中にスキャナのコイル間に存在する隙間内の適所にハウジングを保持できるようにサイズが定められ形作られてもよい。この場合でのハウジングの簡便な形状は、直方体であるか、又は
図3及び
図4に示すように略直方体である形状である。コイルの構造は、ハウジングの最大サイズを決定するが、いくつかの実施形態では、直方体は、約5cm~約25cm(好ましくは約10cm~約12cm)の最大寸法を有し得る。ハウジングは、ハウジングを適所に保持するためにコイルに固定するための又はコイル付近に配置されたスキャナの一部に固定するための外部取付装置(留め具又は接着ストリップなど)を含み得る。固定機構は、交換、メンテナンスのためにファントムがスキャナから取り出されることを可能にするために、又は異なる目的でスキャナ内のファントムの位置を調整できるように、取り外し可能であってもよい。ファントムはまた、(コイル間の隙間内ではなく)コイルの隣に固定されるか、又はスキャナ内の台に固定されてもよい。直方体ファントムの場合でさえも、ファントムが十分に小さい場合には、ファントムは、不快感を生じさせずにスキャナ内のヒト被写体の隣に又はヒト被写体の上に配置することができる。ファントムの最小サイズは、スキャナの解像度によって決定される。ファントムは、以下に説明するように、モジュール式であってもよい。
【0081】
図3は、患者の頭部の周りに延びるコイル(頭又は頸部コイル)の例を示している。大きなコイル10は、ハウジング14内に配置された又は固定された小さなRFコイル12のアレイを備える。アレイを収容するコイルハウジングは、各々がファントムの一部分に適合するか又は収容するようにサイズが定められた受け部又は空間16を含む。図示の例では、各バイアル4は、それ自体の別個のモジュール18内にあり、且つ相変化材料に取り囲まれる。各モジュールは、略直方体であり、且つファントムハウジング14内に形成された空間にぴったりと適合するように形作られる。空間は、モジュール18を支持するための基部を含む受け部を形成してもよく、又は基部を有しないが、モジュール18が適所に留まるようにモジュール18との締まり嵌めを形成してもよい。他の何らかのタイプの取り外し可能な取付機構を使用して、モジュール18をハウジング14の空間16内の適所に保ってもよい。したがって、この実施形態における大きなハウジング14は、(上で説明した)ファントムの外側ハウジングを形成し、且つ外側ハウジング14とバイアル4との間の相変化材料をバイアル付近の別個の区画内に収容する。外側ハウジングはまた、RFコイルのアレイを収容する。各バイアルは、
図2A及び
図2Bに関連して上で説明したように、異なる濃度のPVP、増粘剤、塩、又は別の材料を収容する。当然ながら、別個の各モジュール18内に2つ以上のバイアルを収容することができ、且つ所望の構成に応じて、いくつかの受け部を空のままにしてもよい。
【0082】
図3に示す構成は、別個のモジュール18を容易に取り外して利用可能な空間16のいずれかに入れることができるので、バイアル内でどの材料が使用されるかという点と、バイアルの位置の点で、大きな自由度を実現する。図では、直方体ハウジングは、コイルハウジング14にぴったりと適合することを確実にするのに役立ち得る切り欠きを角部に有し、図示の実施形態では、RFコイルを取り囲む、RFコイルの形状に対応する形状を提供する。
【0083】
同じことが、
図4に示す脊椎用アレイの場合にも当てはまる。この例は、
図3の頭頸部コイルと同様であり、且つハウジング24内に収容されたより小さなRFコイル22のアレイ20を含む。ハウジングは、バイアル4とバイアルを取り囲む箇所内の相変化材料とを収容する、より小さなモジュール26を受け入れるようにサイズが定められ形作られた空間又は受け部25を含む。頭頸部コイルに関して、空間は、大きなハウジング24内にモジュール26を支持するための基部を含んでも含まなくてもよい。この場合も、各モジュールは単一のバイアルを含み得るが、図示の実施形態では、各モジュールは、異なる濃度のPVP、増粘剤、金属塩、又は他の材料を収容する3つの別個のバイアルを収容する。各モジュールは、同一であってもよく、又はスキャナで得られた異なる測定値を校正するように構成されてもよい。1つのモジュールは、濃度の異なるPVP又は増粘剤の3つの溶液を収容するバイアルを含み得、且つ別のモジュールは、3つの異なる金属塩溶液を収容してもよい。モジュールは、図示のバイアルよりも多数又は少数のバイアルを収容してもよい。
【0084】
頭頸部コイル並びに脊椎用アレイについては、任意の好適な材料(本明細書で説明する材料のいずれかなど)を使用して、外側ハウジング(14;24)、モジュール(18;26)、及びバイアル4を形成することができる。これらの実施形態では、スキャン中にモジュールが外側ハウジングに対して適所に留まることを確実にするために、外側ハウジング及びモジュールには、可撓性ではなく、硬い材料が、より好適であり得る。相変化材料として及びバイアル内の材料として、任意の好適な材料を使用することができる。
【0085】
コイルが、被写体の頭部、頸部、又は頭頸部の周囲に適合するように設計される場合、ファントムは、コイル内に適合して内面の周囲に延びるように形作られてもよい。ファントムは、被写体の頭部又は頸部の周囲全体にわたって又は周囲の一部のみにわたって延びてもよく、且つバイアルは、頭部又は頸部の周囲全体にわたって又は周囲の一部にわたって同様に配置されてもよい。概して、撮像すべき被写体と共にファントムを撮像空間内に配置できるのであれば、ファントムのいかなる形状(及びファントムのハウジング内のバイアルのいかなる配置)も好適である。
【0086】
温度の変化が、PVP又は常磁性金属塩溶液であり得る、バイアル内の液体又は溶液の拡散特性に影響を及ぼすので、スキャン中の溶液の温度が一定に維持され且つ/又は既知であることが重要である。この目的を達成するために、相変化材料は、ファントムの外側ハウジング内に収容され、バイアルを取り囲む。相変化材料は、温度の低下が観察されないように、液体と固体との間の相変化中に大量のエネルギーを放出することができる。含まれる材料に応じて、凝固は、少なくとも数十分の長さにわたって一定の温度を維持できるように、持続することができる。一定の温度が維持されていることを確実にするために、スキャン中(及び/又は前後)に温度が監視されてもよい。温度の監視を達成するために、1つ又は複数の温度プローブは、バイアル若しくはハウジングの壁内において、ファントムの隣に載置されるか若しくはファントム内に埋設されてもよく、又は(プローブがバイアル内の材料に若しくは相変化材料に取り囲まれ得るように)バイアル内に若しくはハウジング内に延びるように位置決めされてもよい。多数のこれらのプローブは、相変化材料の温度が均一であることを確実にするために、ファントムの周囲に離間して配置されてもよく、又は校正プロセスの精度を確保する目的で、各バイアル内の材料も一定の温度であり且つ同じ温度であることを確実にするために、バイアルの各々内に延びるか若しくはバイアルの各々の隣に位置決めされてもよい。
【0087】
拡散ファントムにおける相変化材料として使用するのに好適な材料は、熱サイクルに付されたエチレンカーボネート((CH2O)2CO)である。この材料は、室温では透明な結晶性固体であり、且つ材料が凝固するときに材料の温度が36.3℃に維持されるように36.3℃の融点を有する。エチレンカーボネートは、それゆえ、周囲の材料が凝固するときに周囲の材料を患者の皮膚の温度と同様の温度に維持することが可能であり、且つ平均スキャン時間よりも長い、30分以上にわたってこの温度を維持することができる。他の相変化材料は、ファントム中のエチレンカーボネートに取って代わることができる。人の体温又はその付近に融点を有する相変化材料は、患者にとっての快適さの点で特に有利である。ファントム又はファントムの一部に充填するために、約37℃、30℃~40℃、より好ましくは32℃~38℃、又はさらにより好ましくは35℃~39℃の融点を有する相変化材料が使用されてもよい。37Cの転移温度を有する相変化材料の例としては、https://www.puretemp.com/stories/puretemp-37-tdsで説明され、市販されているPureTemp(登録商標)37が挙げられる。スキャン用のファントムを用意するために使用される以下の方法は、かかる相変化材料を含むファントム、及び相変化材料としてエチレンカーボネートを含むファントムに適用される。
【0088】
スキャンに先立って、エチレンカーボネートを溶融させるために又はいずれかの使用される相変化材料の融点以上まで、ファントムが40~50℃の温度に加熱されてもよい。結晶化プロセスが開始されるときにファントム内で温度が均一になるように相変化材料を完全に溶融させる(相変化材料の融点を超える温度まで加熱することは、均一な温度を達成するのに役立つ)ことが重要である。相変化材料の加熱は、エチレンカーボネートの全て、又は他の相変化材料が溶融するまで、ファントムが浸漬される温水浴を使用して達成されてもよい。ファントムを加熱して相変化材料を溶融させることが可能な任意の方法が好適であり、いくつかの実施形態では、加熱機構がファントム自体に又はスキャナに一体化されてもよい。例として、電動加熱要素(1つ又は複数の抵抗要素など)は、外側ハウジングの壁又はその付近でファントムに結合されてもよい。ファントムを加熱して相変化材料を溶融させるために、スキャンに先立って抵抗要素に電流を流すことができる。抵抗要素を含む構成要素は、スキャンに先立って取り外されてもよい。
【0089】
ファントムはまた、流体(水など)を充填できる容積を形成する主ハウジングの外側にチューブ又は追加のハウジングを組み込んでもよい。スキャンに先立って相変化材料を加熱するために、この熱伝達流体を圧送することができる。チューブが組み込まれる場合、チューブは、実施形態では、主ハウジング内及びその内部に、並びに相変化材料を収容する容積内に延在してもよく、又は主ハウジングの外側に位置してもよい。この熱伝達流体は、ポンプと、実施形態では抵抗加熱要素の1つ又は複数であり得る、制御された熱源とを備える、熱伝達流体自体の熱制御システムを有する。
【0090】
エチレンカーボネート又は他の相変化材料が溶融した時点で、ファントムは、冷却することができる場合があり、その時点で、氷点(エチレンカーボネートの場合には36.3℃)を下回り、超飽和状態になる。冷却されると、ファントムは、結晶化プロセスを開始するために揺動させることができ、結晶化中に生成される融解の潜熱によってファントムが実質的に一定の温度に維持される。次いで、結晶化プロセスが進行している間に、患者のスキャンと共にファントムのスキャンが行われ、バイアル内の液体(PVP/増粘剤又は金属塩溶液など)も実質的に一定の温度に保たれる。既に述べたように、エチレンカーボネートが使用される場合、結晶化プロセスは、少なくとも約30分の平均スキャン時間にわたって持続する。材料が純粋である必要はない。例えば、純度99%のエチレンカーボネートは、ファントムのスキャンが行われるのに十分な時間にわたって一定の温度を維持することが可能であり、且つ市場ですぐに入手できる。エチレンカーボネートが相変化材料として特に好適であるが、スキャンを完了するのに十分に長く安定した温度を維持できる限り、他の任意の相変化材料を使用することができる。可能な代替物は、約26℃の融点を有するジフェニルエーテルである。この場合も、純ジフェニルエーテルはより良い結果をもたらすが、純度のより低い材料を使用することができる。
【0091】
ファントムは、手で揺動させることができ、又は装置を自動的に揺動させることができる機構を含むことができる。ばね負荷機構などの、振動機構は、ファントムの外側ハウジング内に含まれてもよく、又は、例えば、スキャナ内部のファントムに結合されるか若しくはファントムの近くに配置されてもよい。当業者であれば、人がファントムを持ち上げて物理的に揺動させる必要なしに、ファントム又は少なくともファントム内のエチレンカーボネートを振動させるのに利用可能な種々の機構を認識するであろう。代替的に、少量の相変化材料を急冷して核形成点を生成し、それによって結晶化プロセスを開始するために、エアロゾルスプレー又は代替方法を使用することができる。スプレーなどの、冷却機構は、後に伝搬する可能性のある相変化の中心を誘導するために、ファントムハウジングの外側部に適用することができる。これを達成する1つの方法は、ファントムをスキャナ内に載置する前に又はファントムがその場にある間に、圧縮空気を高温流と低温流とに分離して低温空気の噴流をファントムに向けるために、Ranque-Hilsch渦管を使用することである。
【0092】
ファントムは、(図示のように)概ね細長く湾曲した形状を有し得る。
図2Aは、丸みを帯びた端部と平坦な側部とを有する湾曲したマットとして形作られるファントムの例を示している。
図2Aに示す細長い構造は、生産が容易であり、且つ液体収容バイアルを身体の近傍に保持することが可能である。理想的には、撮像すべきバイアルは、校正の精度を最大にするために、スキャンすべき身体の一部のできるだけ近傍に位置すべきである。ファントムの細長く湾曲した形状は、各バイアルを患者の身体から等距離に且つ患者の身体の近傍に保持できるようにする。平坦な側部(6;8)はバイアル4の端部の取り付け又は配置のための簡便な表面を提供するが、側部は必ずしも平坦である必要はない。バイアルへの充填及び再充填のために栓などが設けられる場合、この実施形態におけるバイアルの端部の平坦面は、バイアルを位置決めするのに簡便な箇所である。
【0093】
外側ハウジングに使用される特定の形状は、外側ハウジングがスキャナ内の被写体の隣に又は被写体に触れて配置される場合、撮像され且つスキャン中にファントムに隣接する身体部分によって決まり得る。場合により、ファントムは、スキャナ内において、撮像すべき身体部分のできるだけ近傍に配置されることが好ましい。例えば、ファントムは、MRIスキャナが患者の脳を撮像するために使用される場合に、患者の頭部を覆うように適合するように中空半円として形作られてもよい。そのような形状は、上でより詳細に説明したように、ファントムを頭部コイル又は頭頸部コイルに直接含めることも可能にする。ファントムはまた、肝臓、前立腺を撮像するために、及び炎症過程のための関節の撮像などの、筋骨格への応用のために、患者の胴体の周囲、骨盤領域の真下、又は身体の種々の関節(膝、肩、足首など)の真下に適合するように形作ることができる。
【0094】
多くの他の応用も可能であり、ファントムは、身体の任意の部分に極めて容易に密接に適合するように形作ることができる。そのように形作ることは、特定の身体部分の形状に適合するように若しくは多数のユーザ(場合により年齢層又は性別で分けられる)の特定の身体部分の平均的な形状に適合するようにファントムの外側ハウジングを最初に形成することによって、又は任意の形状に一致するのに十分に可撓性であるように外側ハウジングを形成することによって行うことができる。可撓性ハウジングの生産に使用するのに好適な材料は、FKM又はFPM(フッ素ゴム)などのフルオロポリマエラストマーである。代替的に、PTFE又はPVDFなどの、薄いフルオロポリマーは、パウチに形成することができる。そのような可撓性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)パウチは、固体PTFE又はPVDFから形成された一体型充填ポートを含むように形成することもできる。次いで、ポートを閉鎖する前に気泡が出現するのを防止するために、パウチには、真空下で相変化材料(エチレンカーボネートなど)を容易に充填することができる。
【0095】
可撓性ハウジングを使用する実施形態では、ハウジングは、患者が上に横たわるか若しくは身体の上に載置することができる可撓性シートとして形成することができ、又は撮像すべき身体部分のできるだけ近傍にバイアルが保たれることを確実にするために、帽子若しくはベストなどの衣類品の形状に形成することさえできる。このようにして、任意の身体部分を、関連のある身体部分の最も近傍の皮膚に一致するファントムを用いて撮像することができる。シート形状の可撓性ハウジングを備えたファントムは、概して、スキャン中に任意の身体部分の近傍に載置することができる。PVP又は他の水溶性ポリマーを保持するバイアルは、PTFE、PVDF、又は他のプラスチックなどの可撓性材料から形成することもできる。中でも、ファントムをできるだけ体温付近に且つ患者の皮膚のできるだけ近傍に維持するのにネオプレン系材料が役立つことができる点で、特別な利点をもたらす可撓性ハウジングを形成するためにネオプレン系材料が使用されるが、他のタイプの材料も使用できる。ネオプレンは、スキャン中の熱損失を低減するのに役立つ可能性がある、ある程度の断熱性を提供する。また、この材料にはある程度のクッション性があり、このクッション性は、患者の快適さを高め、且つスキャン中にファントム(及び内部のバイアル)を患者の身体の近傍に保持することを可能にする。材料の可撓性は、ファントムが患者の身体により密接に一致することを可能にするが、バイアルの相対的位置を決定することをより困難にする。
【0096】
そのような場合には、処理のために異なるバイアルの位置を固定するために、画像内で識別できる基準マーカをバイアル上に又はバイアルに隣接するように組み込むことが有用である場合がある。これら基準マーカは、例えば、バイアル各々のハウジングの外面又は内面上のインクから形成されてもよい。いくつかのマーカは、可撓性のバイアルハウジングが用いられる場合に、画像内のバイアルの形状を追跡するためにバイアル毎に存在し得る。基準マーカは、可撓性ハウジングに関連して説明されており、そのような実施形態では特に有用であり得るが、これら基準マーカは、バイアル及び/又は外側ハウジングに硬い材料を用いるものを含む、任意のファントムにおいて使用されもよい。
【0097】
実施形態では、ファントムを組み込んだマットは、
図1Aに示す台などの摺動台上に載置されてもよく、患者は、ファントムよりも上のマット上に横たわるように位置決めされてもよい。ファントムは、患者の背中の基部の周囲に快適に適合するように、上で説明したように湾曲状とすることができる。快適さは、拡散強調撮像に必要な長いスキャン時間を考慮すると極めて重要であり、その結果、ファントムの特定の形状は、この種の撮像が使用される場合に特に重要である。実施形態では、ファントムは、スキャン中に被写体が横たわる台の部分にも取って代わってもよい。この場合も、身体(例えば背中)の輪郭に適合するように湾曲形状を提供することができる。ファントムの外側ハウジングは、密接適合を確実にするために、人体の一部から取られた型を使用して形成されてもよい。
【0098】
図1Aでは、スキャン中に患者があまり動かないことを確実にするために、胴体パッドが使用される。ファントムは、実施形態では、スキャンを実施する放射線科医側が追加の労力を必要とせずにファントムがパッドと共に患者にストラップで固定されるように、図示のようにこの胴体パッドに一体化されてもよい。
【0099】
ファントムはまた、スキャナの内側に載置又は固定されたクッションの代わりになってもよい。実施形態では、ファントムの外側ハウジングは、(上で説明した可撓性の外側ハウジングを使用するなどによって)外側ハウジングを患者の輪郭に合わせて成形できるように、ある程度しなやかであってもよい。相変化材料は、バイアルと外側ハウジングとの間の容積(
図2Aの容積9)を完全に満たしてもよく、又はこの容積の一部のみを満たしてもよい。例では、相変化材料は、ファントム内の箇所であって、バイアルの近傍の箇所のみを満たす。各バイアルは、内殻内に溶液が収容され且つ内殻と外殻との間の容積には相変化材料が充填された状態の、外殻と内殻とを含むことができる。全体的により安価であり得るそのような構成は、より少ない相変化材料しか必要としない。この場合、しなやかな外側ハウジングと一緒に含まれる場合、ファントムが少なくともある程度患者の身体の形状に一致するので、患者が着座するか又は横たわるのにファントムが快適であることを確実にする、ある種のゲルが、バイアルの外殻とファントムの外側ハウジングとの間の容積に充填されてもよい。代替的に、スキャンされる患者の身体部分に少なくとも部分的に一致できる外面をファントムに提供するために、外側ハウジングを発泡体(ポリウレタンフォームなど)又はゴム(ポリウレタン又はシリコーンなど)でオーバーモールドすることができる。
【0100】
ファントムは、ファントムの温度、特にバイアル内の溶液の温度を追跡するために、温度計(光ファイバ温度計など)を組み込んでもよい。この温度計は、スキャン全体を通して温度が実際に一定のままであることを確実にするのに役立つ。温度が一定でないと判明した場合、スキャン時間にわたるこの温度変化を考慮に入れるために、何らかの補正が、測定された特性の値に適用されてもよい。
【0101】
ファントムは、スキャナ内で使用されるシステムの一部を形成することができる。ファントムを含むシステムの例が
図5に示されている。ファントム28は、画像取得中に、図示のように、スキャナ30内に配置することができる。ファントムに関するデータと、患者に関するデータとを含む、スキャナからの画像データは、接続部34に沿ってプロセッサ32に送られる。例えば温度計が存在する場合の温度データ、又は相変化材料の結晶化状態に関するデータなどの、ファントムの状態に関する他の任意のデータは、接続部36に沿ってプロセッサ32に送られる。この目的を達成するために、ファントムは、電子測定ユニットを含むことができる。ユニットは撮像空間の外側に配置されてもよく、データは、Bluetoothなどの、無線接続を介してファントムから送信されてもよい。光ファイバケーブル又はMR互換性に適した通常の配線をデータの転送のために使用することができる。プロセッサ32は、患者の適切に校正された画像、又は撮像された身体部分の特定の特性の適切に校正された測定値を出力するために、ファントム及び患者の画像データを使用する。システムにおける各接続は、無線又は有線であってもよい。システムはまた、接続部40を介して、処理/補正された画像データを受信して、この画像データを可視形式でユーザに表示するための表示装置38を備える。記憶媒体42は、プロセッサから有線接続又は無線接続44を介して記憶媒体に送ることができる、原画像データ及び処理済み画像データ、温度計を使用して得られた測定値、並びに/又は校正情報(補正として画像データに適用される逆関数の形式など;下記参照)を記憶するために使用することができる。
【0102】
拡散画像を校正するために、患者は、ファントムに隣接してスキャナ内に着座するか又は横たわる。この段階で、ファントムは、加熱され、冷却され、次いで、結晶化プロセスが相変化材料で起こり且つ内部のバイアルが実質的に一定の温度に保たれるように揺動されている。スキャナを使用して、患者とファントムの一緒の最低2つの拡散強調画像が撮影される。ADCは、異なる拡散強調によって取得された両方の拡散強調画像間の変化率として算出される。各バイアルは、ADC画像上に現れ、且つ信号強度は、これらのバイアルが異なる濃度のPVP又は増粘剤を含む水溶液を収容するので、バイアルの各々によって異なる。校正関係(例えば校正曲線)は、測定値と期待値との差を定量化することによって、バイアルの各々についてのADC測定値から生成することができ、且つこの曲線は、被写体の画像におけるADC測定値を補正するために使用することができる。期待値は、(スキャン中の相変化材料の温度における特定の濃度の溶液のADC値に基づいて)バイアル内の溶液についての実際のADC値が既知であるので、スキャナが適切に校正された場合に測定されると期待される値である。同様のプロセスは、バイアル内の異なるタイプの溶液の使用を必要とする場合があり、且つ2つ以上の画像が撮影されることを必要としない場合がある、他の撮像法に対しても行われる。材料の見かけの拡散係数を変化させる他の材料を、PVPに加えて、又はPVPの代わりに使用することができる。材料の2つの主要なカテゴリが、(中でも)考えられる例である。第1のカテゴリは、PVP又はグリセロールなどの、ADCを修正する水(又は別の液体)への添加剤を含み、且つ第2のカテゴリは、ADCに変化をもたらす微細構造を有する材料を含む。ヒドロゲルも使用することができる。(特に拡散測定値を校正するために)バイアル内の材料として使用されるのに好適なヒドロゲルは、上で説明したように、水とポリグルカン又はポリグルカンの混合物である。次いで、見かけの拡散係数を設定するために、溶液中のポリグルカンの濃度を変えることができた。上記のように、溶液中のポリグルカンの%濃度における等しい増加、対数的増加、又は他の増加を用いることができる。
【0103】
図6は、PVP又は増粘剤と水の異なる濃度の溶液を収容する11個のバイアルの各々についてのADC値をプロットしたグラフを示している。点は、バイアル毎の測定値対既知値を示している。これらは全て、完全に校正されたスキャナでは、グラフに示される黒線上にある(測定値=期待値)。図示の例では、点のいくつかは、測定における不確実性よりも大きな量だけ線から離れて位置する。点集合に対する数学的適合を計算し、この逆関数を画像データに適用して、不正確さを補正することができる。このプロセスの結果として、被写体の校正済み画像が得られる。
【0104】
校正プロセスはまた、特定の特性の測定値と期待値との差、並びに画像に適用する必要がある補正の程度及び形式が、スキャナの経年又は特定の事象によって経時的に変化し得るので、スキャナの性能を毎年監視するために使用することもできる。画像と、画像が撮影されるたびに適用される補正に関する情報は、記録媒体に送信し、後日分析のために保持することができる。画像が撮影されるたびにデータを自動的に分析することができ、又はデータを定期的に分析することができる。異常な結果が見られた場合に、又は必要とされるレベル補正がある特定の閾値を超えた場合に、ユーザに警告するために、スキャナの性能が許容できないレベルまで低下したことを示す、インジケータを設けることができる。例えば、測定値と期待値との差の合計が所定の閾値を超える場合に、可聴信号又は視覚信号を提供することができる。
【0105】
スキャナを使用して撮影された各画像について、ファントムの画像は、患者の画像と共に撮影される。上記の校正プロセスは、後処理の一部として又はスキャン中に適用することができる。補正に使用されるデータは画像データ自体と同時に得られるため、相変化材料で起こる結晶化プロセスによってバイアル内の溶液が極めて安定した温度に保たれるため、及び校正のための一定範囲の測定値を提供する多数のバイアルが、(外側ハウジングの輪郭形状と、ファントムの表面とバイアルとの近接度とに起因して)撮像すべき身体部分のできるだけ近傍のスキャナ内に配置されるため、校正プロセスは、非常に正確である。DWIの場合、健康な組織及び重度の腫瘍を表す値を含む一定範囲の値をカバーする制御されたADCが達成される。
【0106】
バイアルを特定の温度に維持するために相変化材料を使用する代わりに、又は使用することに加えて、感温センサを使用して、ファントムの温度又はバイアルの各々の温度の正確な測定値を測定することができる。これらは、バイアルの各々の内側の又は各々に隣接するカプセル内に配置された光学センサを備え得る。実施形態では、スキャン前及び/又はスキャン中に温度を監視するために、温度プローブ挿入部を使用することができる。光学センサは、撮像中にスキャナの内部に存在する強い磁界によって影響されないので、MRIスキャナとの関連で特に有利である。
【0107】
図7は、チューブ48(例えば、硬質ナイロンチューブを使用できる)内にある光ファイバケーブル46を備える温度プローブを図示している。チューブは、チューブに沿った光の輸送を妨害し得る、損傷又は屈曲から温度センサを保護する。光ファイバケーブルは、ケーブルの不要な移動又はケーブルへの損傷に対するさらなる保護を提供できる、樹脂又は類似の物質を用いてチューブの内部に埋め込まれてもよい。可撓性チューブは、光学センサを保護するために使用することもできる。概して、センサは、光学特性が温度に依存する、ファイバの端部における材料に光ファイバを介して光を送達することによって働く。これは、典型的には、感熱性蛍光センサ、又は吸収光と反射光との間に感熱特性スペクトルエッジを有するガリウムヒ素結晶のいずれかである。チューブはファントムの壁に挿通され、且つ押さえ用固定ナット50及び押さえ用封止ナット52は、相変化材料の漏れを防止するためのシールを提供するのに役立つ。ケーブル及びファイバは、ファントムの壁に形成された孔を貫通するねじで部分的に形成されたチューブシール54を通過する。固定ナット50は、ファントムの壁の一方側のねじに結合され、いくつかの実施形態では、押さえ用封止ワッシャ55と共に、押さえ用封止ナット52は、ファントム壁56の他方側(外側など)のねじに結合される。押さえ用固定ナット及び封止ナットは、ファントムの本体からの漏れを防止するために孔の周囲に有効なシールが形成されるまで、押さえ用固定ナットと封止ナットとがねじに沿って互いに向かって移動するように回される。
【0108】
チューブ内の光ファイバは、光ファイバケーブルから光の形態の信号を受信するために一方の端部に結合された光ファイバ温度計から、ファントムを通って、温度を監視することが望ましいファントムの部分を通過する。バイアル又はその付近の温度を監視することは特に重要であるので、光ファイバケーブルは、バイアルの各々の周囲又はバイアルの各々を順番に通過してもよく、又はさらには、容器内外への流体の漏れを防止するためにファントム壁に使用されるものと同様の封止システムを備えたバイアルを通過してもよい。光ファイバケーブルは、ファントム壁を2回(1回はハウジングに入るために、1回はハウジングの外に出るために)通過してもよい。
【0109】
実施形態では、ハウジング内の容器は、衣類品に組み込まれてもよい。ファントムを入れることができる多数のポケットを含むベストを図示する例が
図8に示されている。ハウジング部分は、ベストに縫い付けられた1つ又は複数のポケットに対応するようにサイズが定められてもよい。図に示すハウジングは、上で説明した固体型であり、且つ異なる濃度の材料を有する3つの容器を各ハウジング内に含む。ベスト58は、図示のように形成され、多数のポケットを含む。ポケットの各々は、1つ又は複数の容器62を収容する別個のハウジング(図に示すハウジング60などの)を保持するようになされる。ハウジング部分は、ベストに永久的に縫い付けられてもよく、又はハウジングをスキャンに先立って撮像すべき部位付近のみのポケットに入れることができるように、取り外し可能であってもよい。ポケットは、ハウジングのサイズ及び形状に対応するようにサイズが定められてもよく、ハウジングよりも大きくてもよく、又は1つのポケット内にいくつかの別個のハウジングを収容するようにサイズが定められてもよい。このことは、着用者にとってベストをより快適なものにする可能性があり、且つベストが異なる状況に適応可能であることを意味する。
【0110】
異なる溶液を有する異なる数の容器を収容するハウジングはまた、特定の状況に合わせてベストを調整するために、互いに容易に置換することができる。ポケットを含む着用品の同じ原理は、例えば、ズボン又は帽子などの、任意のタイプの衣類品に適用することができる。各ポケットは、相変化材料を収容する1つ又は複数のハウジング部分と、1つ又は複数の容器とを(永久的又は一時的に)保持するようになされる。ポケットの代わりに、任意のタイプの取付手段は、物品が着用されたときに、1つ又は複数のハウジングが、撮像すべき身体部位付近に配置され、且つある程度この身体部分付近に保持されるように、ハウジング部分を物品に(この場合も一時的又は永久的に)固定するために使用されてもよい。スキャン中に衣類品があまり動かないことと、ファントムハウジングができるだけ着用者の近傍に保持されることを確実にするために、プラスチック製のファスナ、ボタン、又は紐などの衣類品の留め具を使用することができる。
【0111】
特に図示の例を参照して本発明の実施形態を説明してきた。しかしながら、本発明の範囲内で説明した例に対して変更及び修正がなされ得ることが理解されるであろう。
【外国語明細書】