(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050864
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20240403BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20240403BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240403BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20240403BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/08 D
H01L21/304 601B
H01L21/304 611Z
B23K26/08 F
B23K26/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017836
(22)【出願日】2024-02-08
(62)【分割の表示】P 2020011100の分割
【原出願日】2020-01-27
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】是松 克洋
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
(57)【要約】
【課題】加工速度の向上と加工品質の低下の抑制とを両立可能なレーザ加工装置、及びレーザ加工方法を提供する。
【解決手段】レーザ加工装置1は、対象物11を支持するためのステージ2と、ステージ2に支持された対象物11に対して、レーザ光Lの第1集光点C1と、第1集光点C1よりも対象物11におけるレーザ光Lの入射面側に位置するレーザ光Lの第2集光点C2と、を形成しつつレーザ光Lを照射するためのレーザ照射部3と、対象物11に対して第1集光点C1及び第2集光点C2が相対移動するように、ステージ2及びレーザ照射部3の少なくとも一方を移動させる駆動部4,5と、レーザ照射部3及び駆動部4,5を制御する制御部6と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、
前記対象物を支持するための支持部と、
前記支持部に支持された前記対象物に対して、前記レーザ光の第1集光点と、前記第1集光点よりも前記対象物における前記レーザ光の入射面側に位置する前記レーザ光の第2集光点と、を形成しつつ前記レーザ光を照射するためのレーザ照射部と、
前記対象物に対して前記第1集光点及び前記第2集光点が相対移動するように、前記支持部及び前記レーザ照射部の少なくとも一方を移動させる移動機構と、
前記レーザ照射部及び前記移動機構を制御する制御部と、
を備え、
前記対象物は、前記入射面に交差する方向からみて、前記対象物の内側に位置する第1部分と、前記第1部分の外側に位置し、前記対象物の外縁を含む第2部分と、を含み、
前記対象物には、前記入射面に交差する方向からみて、前記第1部分と前記第2部分との境界上において環状に延びる第1ラインと、前記第2部分において前記対象物の外縁から前記対象物の内側に向かって延びて前記境界に至る第2ラインと、が設定されており、
前記制御部は、
前記第1ラインに沿った方向における前記第1集光点と前記第2集光点との距離を第1距離に設定した状態において、前記第1ラインに沿って前記第1集光点及び前記第2集光点を相対移動させながら前記対象物に前記レーザ光を照射するように、前記レーザ照射部及び前記移動機構を制御する第1処理と、
前記第2ラインに沿った方向における前記第1集光点と前記第2集光点との距離を前記第1距離よりも小さな第2距離に設定した状態において、前記第2ラインに沿って前記第1集光点及び前記第2集光点を相対移動させながら前記対象物に前記レーザ光を照射するように、前記レーザ照射部及び前記移動機構を制御する第2処理と、を実行し、
前記レーザ照射部では、前記入射面に交差する方向における前記第1集光点と前記第2集光点との距離である縦分岐量が可変とされている、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記縦分岐量を前記第1処理よりも第2処理において大きく設定する、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記レーザ照射部は、前記第1集光点及び前記第2集光点を含む3つ以上の前記レーザ光の集光点を形成しつつ、前記レーザ光を照射する、
請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工方法であって、
前記対象物に対して、前記レーザ光の第1集光点と、前記第1集光点よりも前記対象物における前記レーザ光の入射面側に位置する前記レーザ光の第2集光点と、を形成しつつ、前記レーザ光を照射するレーザ照射工程を備え、
前記対象物は、前記入射面に交差する方向からみて、前記対象物の内側に位置する第1部分と、前記第1部分の外側に位置し、前記対象物の外縁を含む第2部分と、を含み、
前記対象物には、前記入射面に交差する方向からみて、前記第1部分と前記第2部分との境界上において環状に延びる第1ラインと、前記第2部分において前記対象物の外縁から前記対象物の内側に向かって延びて前記境界に至る第2ラインと、が設定されており、
前記レーザ照射工程は、
前記第1ラインに沿った方向における前記第1集光点と前記第2集光点との距離を第1距離に設定した状態において、前記第1ラインに沿って前記第1集光点及び前記第2集光点を相対移動させながら前記対象物に前記レーザ光を照射する第1照射工程と、
前記第2ラインに沿った方向における前記第1集光点と前記第2集光点との距離を前記第1距離よりも小さな第2距離に設定した状態において、前記第2ラインに沿って前記第1集光点及び前記第2集光点を相対移動させながら前記対象物に前記レーザ光を照射する第2照射工程と、を含み、
レーザ照射工程では、前記入射面に交差する方向における前記第1集光点と前記第2集光点との距離である縦分岐量が可変とされている、
レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ加工装置が記載されている。このレーザ加工装置は、集光レンズを備えており、集光レンズから出射したレーザ光によって単結晶部材に加工層を形成する。集光レンズは、レーザ光が入射する副集光系と、副集光系から出射したレーザ光が入射し、単結晶部材に向けてレーザ光を照射する主集光系と、からなる。副集光系は、複数のシリンドリカルレンズが一体に配列されてなるシリンドリカルレンズ配列体と、シリンドリカルレンズ配列体からの光を通過させるシリンドリカル凸レンズと、を有している。
【0003】
このレーザ加工装置では、シリンドリカルレンズに入射したレーザ光は、複数に分岐された後に集光点を形成しつつシリンドリカル凸レンズに入射し、照射面が細長状の平行ビームとなって主集光系に入射するようにされている。主集光系から出射したレーザ光は、単結晶部材の被照射面で分岐レーザ光となって入射して、単結晶部材の内部で複数の集光点を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したレーザ加工装置では、レーザ光の集光点を複数形成しながら加工層を形成することによって、加工層の形成速度の向上を図っている。すなわち、上記技術分野にあっては、加工速度の向上が望まれている。一方、上記技術分野にあっては、対象物から、対象物の外縁を含む環状の領域(除去領域)を切除することにより、対象物の中心側の領域(有効領域)を切り出す加工の要求がある。有効領域とは、例えば、デバイスが形成される領域である。したがって、上記技術分野にあっては、有効領域の品質(すなわち、加工品質)の低下を抑制することも同時に望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、加工速度の向上と加工品質の低下の抑制とを両立可能なレーザ加工装置、及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めることにより、以下の知見を得た。すなわち、対象物から有効領域を切り出す場合には、次のような2通りの加工を行うことが考えられる。第1の加工は、有効領域と除去領域との境界上にレーザ光を照射することにより、有効領域と除去領域との境界に改質領域を形成する加工である。第2の加工は、環状の除去領域を複数に分断して除去しやすくするために、対象物の外縁から有効領域と除去領域との境界に至るようにレーザ光を照射することにより、対象物の外縁から有効領域と除去領域との境界に至るように除去領域に改質領域を形成する加工である。
【0008】
ここで、改質領域の形成速度を向上する観点からは、対象物の厚さ方向に複数の集光点を形成することにより、対象物の厚さ方向に複数列の改質領域を形成することが考えられる。この場合には、集光点の進行方向(加工進行方向)に集光点同士をオフセットさせることにより、改質領域からの亀裂の進展量を増大させることが可能である。亀裂の進展量が増大すれば、対象物の厚さ方向について、対象物を切断するために必要となる改質領域の列数を減少させ得る。したがって、上述した第1の加工において、有効領域と除去領域との境界に改質領域を形成する際には、集光点同士をオフセットさせることによって、加工速度を向上させることが可能となる。
【0009】
これに対して、上述した第2の加工の際には、集光点同士が加工進行方向にオフセットしていると、例えば、一の集光点が有効領域と除去領域との境界に到達したときに、当該一の集光点よりも加工進行方向の前方にオフセットされた別の集光点が、オフセット量に応じた距離だけ有効領域内に進行することとなる。この場合、有効領域の内部に改質領域が形成される。したがって、この場合には、集光点同士のオフセット量を小さくすることにより、有効領域内に形成される改質領域を低減し、有効領域の品質の低下を抑制できる。
【0010】
一方、当該別の集光点が有効領域内に進行しないように、有効領域と除去領域の境界に達したときにレーザ光の照射をオフとすると、当該一の集光点が、オフセット量に応じた距離だけ有効領域に至らないこととなる。この場合には、有効領域に至るように改質領域が形成されないため、有効領域と除去領域との境界に沿って対象物を切断したときの切断面の品質が低下するおそれがある。したがって、この場合には、集光点同士のオフセット量を小さくすることにより、切断面の品質の低下を抑制できる。
【0011】
以上のように、第1の加工において集光点同士のオフセット量を相対的に大きくすると共に、第2の加工において集光点同士のオフセット量を相対的に小さくすることにより、加工速度の向上と加工品質の低下の抑制との両立を図ることができるのである。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明に係るレーザ加工装置は、対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、対象物を支持するための支持部と、支持部に支持された対象物に対して、レーザ光の第1集光点と、第1集光点よりも対象物におけるレーザ光の入射面側に位置するレーザ光の第2集光点と、を形成しつつレーザ光を照射するためのレーザ照射部と、対象物に対して第1集光点及び第2集光点が相対移動するように、支持部及びレーザ照射部の少なくとも一方を移動させる移動機構と、レーザ照射部及び移動機構を制御する制御部と、を備え、対象物は、入射面に交差する方向からみて、対象物の内側に位置する第1部分と、第1部分の外側に位置し、対象物の外縁を含む第2部分と、を含み、対象物には、入射面に交差する方向からみて、第1部分と第2部分との境界上において環状に延びる第1ラインと、第2部分において対象物の外縁から対象物の内側に向かって延びて境界に至る第2ラインと、が設定されており、制御部は、第1ラインに沿った方向における第1集光点と第2集光点との距離を第1距離に設定した状態において、第1ラインに沿って第1集光点及び第2集光点を相対移動させながら対象物にレーザ光を照射するように、レーザ照射部及び移動機構を制御する第1処理と、第2ラインに沿った方向における第1集光点と第2集光点との距離を第1距離よりも小さな第2距離に設定した状態において、第2ラインに沿って第1集光点及び第2集光点を相対移動させながら対象物にレーザ光を照射するように、レーザ照射部及び移動機構を制御する第2処理と、を実行する。
【0013】
また、本発明に係るレーザ加工方法は、対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工方法であって、対象物に対して、レーザ光の第1集光点と、第1集光点よりも対象物におけるレーザ光の入射面側に位置するレーザ光の第2集光点と、を形成しつつ、レーザ光を照射するレーザ照射工程を備え、対象物は、入射面に交差する方向からみて、対象物の内側に位置する第1部分と、第1部分の外側に位置し、対象物の外縁を含む第2部分と、を含み、対象物には、入射面に交差する方向からみて、第1部分と第2部分との境界上において環状に延びる第1ラインと、第2部分において対象物の外縁から対象物の内側に向かって延びて境界に至る第2ラインと、が設定されており、レーザ照射工程は、第1ラインに沿った方向における第1集光点と第2集光点との距離を第1距離に設定した状態において、第1ラインに沿って第1集光点及び第2集光点を相対移動させながら対象物にレーザ光を照射する第1照射工程と、第2ラインに沿った方向における第1集光点と第2集光点との距離を第1距離よりも小さな第2距離に設定した状態において、第2ラインに沿って第1集光点及び第2集光点を相対移動させながら対象物にレーザ光を照射する第2照射工程と、を含む。
【0014】
これらの装置及び方法では、対象物には、内側に位置する第1部分と第1部分の外側に位置する第2部分との境界上において環状に延びる第1ラインと、第2部分において対象物の外縁から対象物の内側に向かって延びて境界に至る第2ラインと、が設定されている。そして、第1ラインに沿った加工及び第2ラインに沿った加工のそれぞれにおいて、対象物にレーザ光の2つの集光点を形成しつつ対象物にレーザ光を照射する。このとき、第1ラインに沿った加工の際に、集光点同士の第1ラインに沿った距離が相対的に大きくされる。このため、上記知見に示されるように、加工速度の向上が可能となる。一方、第2ラインに沿った加工の際には、集光点同士の第2ラインに沿った距離が相対的に小さくされる。このため、上記知見に示されるとおり、加工品質の低下が可能となる。
【0015】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、一の第2ラインに対して、入射面に交差する方向における第1集光点の位置及び第2集光点の位置を異ならせながら第2処理を複数回実行してもよい。このように、集光点同士の距離が相対的に小さくされる第2処理については、1つの第2ラインに対して複数回を行うことが有効である。
【0016】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、n回目(nは1以上の整数)の第2処理を実行した後に、n回目の第2処理のときの入射面に交差する方向における第1集光点と第2集光点との間の位置に、第1集光点及び第2集光点の少なくとも一方を位置させた状態において、m回目(mはnよりも大きな整数)の第2処理を実行してもよい。この場合、入射面に交差する方向について、より密に改質領域が形成され、加工品質が向上される。
【0017】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、n回目(nは1以上の整数)の第2処理を実行した後に、n回目の第2処理のときの入射面に交差する方向における第1集光点の位置よりも、入射面側に第1集光点を位置させた状態において、n+1回目の第2処理を実行してもよい。このように、入射面から遠い側から順に集光点を合わせて第2処理を実行することにより、より好適に改質領域を形成できる。
【0018】
本発明に係るレーザ加工装置は、入力を受け付けるための入力部と、情報を表示するための表示部と、をさらに備え、入力部は、第1処理の前において、第1距離の入力を受け付け、制御部は、第1処理の前において、入力部が受け付けた第1距離の入力値である第1入力値が第1閾値よりも小さい場合に、第1入力値の確認を促すための情報を表示部に表示させると共に、第1入力値が第1閾値以上である場合に第1処理を実行してもよい。この場合、第1処理において、第1集光点と第2集光点とが閾値以上であることが確保され、亀裂の進展量を確実に増大させて加工速度の向上が図られる。
【0019】
本発明に係るレーザ加工装置では、入力部は、第2処理の前において、第2距離の入力を受け付け、制御部は、第2処理の前において、入力部が受け付けた第2距離の入力値である第2入力値が第2閾値よりも大きい場合に、第2入力値の確認を促すための情報を表示部に表示させると共に、第2入力値が第2閾値以下である場合に第2処理を実行してもよい。この場合、第2処理において、第1集光点と第2集光点との距離が閾値以下であることが確保され、確実に加工品質の向上が図られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加工速度の向上と加工品質の低下の抑制とを両立可能なレーザ加工装置、及びレーザ加工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、距離Dxを0とした場合の加工結果を示す断面写真である。
【
図5】
図5は、距離Dxを0とした場合の別の加工結果を示す断面写真である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係るレーザ加工方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図6に示されたレーザ加工方法の一工程を示す平面図である。
【
図9】
図9は、
図6に示されたレーザ加工方法の一工程を示す図である。
【
図11】
図11は、入力受付部に表示された設定画面の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、改質領域を形成した後の断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及びZ軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。
【0023】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ(支持部)2と、レーザ照射部3と、駆動部(移動部)4,5と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成するための装置である。
【0024】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを保持することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、Z方向に平行な軸線を回転軸として回転可能である。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能とされてもよい。なお、X方向及びY方向は、互いに交差(直交)する第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0025】
レーザ照射部3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。
【0026】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延びるように形成され得る。そのような改質領域12及び亀裂は、例えば対象物11の切断に利用される。
【0027】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光点CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0028】
駆動部4は、ステージ2をZ方向に平行な軸線を回転軸として回転させる。駆動部4は、X方向及びY方向のそれぞれに沿ってステージ2を移動させてもよい。駆動部5は、レーザ照射部3を支持している。駆動部5は、レーザ照射部3をX方向、Y方向、及びZ方向に沿って移動させる。
【0029】
制御部6は、ステージ2、レーザ照射部3、及び駆動部4,5の動作を制御する。制御部6は、処理部61と、記憶部62と、入力受付部(表示部、入力部)63と、を有している。処理部61は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部61では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部62は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部63は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。本実施形態では、入力受付部63は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0030】
図2及び
図3は、
図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
図2,3に示されるように、レーザ照射部3は、光源31と、空間光変調器32と、集光レンズ33と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。なお、レーザ照射部3は、光源31を有さず、レーザ照射部3の外部からレーザ光Lを導入するように構成されてもよい。
【0031】
空間光変調器32は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。空間光変調器32は、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。集光レンズ33は、空間光変調器32によって変調されたレーザ光Lを集光する。空間光変調器32は、液晶層(不図示)を含み、液晶層に表示された変調パターンに応じてレーザ光Lを変調する。ここでは、空間光変調器32には、少なくともレーザ光Lを複数(ここでは2つ)に分岐するための分岐パターンが表示される。これにより、空間光変調器32に入射したレーザ光Lは、空間光変調器32において2つのレーザ光L1,L2に分岐されると共に、集光レンズ33によって集光され、第1集光点C1及び第2集光点C2を形成する。
【0032】
この点についてより具体的に説明する。空間光変調器32は、少なくとも、対象物11におけるレーザ光Lの入射面である裏面11bに交差するZ方向について、互いに異なる位置に第1集光点C1及び第2集光点C2が形成されるように、レーザ光Lを分岐させる。このため、第1集光点C1及び第2集光点C2を対象物11に対して相対移動させることにより、改質領域12として、Z方向に互いに異なる位置に2列の改質領域121及び改質領域122が形成される。
【0033】
改質領域121は、レーザ光L1及びその第1集光点C1に対応し、改質領域122は、レーザ光L2及びその第2集光点C2に対応する。第1集光点C1及び改質領域121は、第2集光点C2及び改質領域122に対して裏面11bと反対側(対象物11の表面11a側)に位置する。空間光変調器32は、Z方向における第1集光点C1と第2集光点C2との距離Dz(縦分岐量)を可変とされている。
【0034】
さらに、空間光変調器32は、レーザ光Lをレーザ光L1,L2に分岐させるに際して、第1集光点C1と第2集光点C2との水平方向(図示の例ではX方向)の距離Dx(横分岐量)を変更可能とされている。
図2の例では、空間光変調器32は、第1集光点C1をX方向(加工進行方向)について第2集光点C2よりも前方に位置するように、距離Dxを0よりも大きくしている。
図3の例では、空間光変調器32は、第1集光点C1と第2集光点C2との距離Dxを0としている。
【0035】
図4は、距離Dxを0とした場合の加工結果を示す断面写真である。
図4の加工結果は、レーザ光Lの出力を2W(レーザ光L1,L2のそれぞれのパルスエネルギは10μJ)とし、レーザ光L1とレーザ光L2との出力比を50:50とすると共に、距離Dz(縦分岐量)を15μmから70μmまで変化させた場合の加工結果である。
図4に示されるように、距離Dxを0とした場合には、距離Dzが15μm及び20μmのときに、一部、表面11a側の改質領域12(改質領域121)が形成されない領域12Nが生じるものの、距離Dzを25μm以上とすることにより、全体に改質領域121が形成される。なお、
図4の例のレーザ光L1,L2の具体的な照射条件は、周波数が80kHz、加工速度が430mm/s、パルスピッチが5.375μm、パルス幅が700nsである。
【0036】
一方、
図5は、距離Dxを0とした場合の別の加工結果を示す断面写真である。
図5の加工結果は、レーザ光Lの出力を4W(レーザ光L1,L2のそれぞれのパルスエネルギは20μJ)とし、レーザ光L1とレーザ光L2との出力比を50:50とすると共に、距離Dzを15μmから70μmまで変化させた場合の加工結果である。
図5に示されるように、
図4の例と比較して、レーザ光Lの出力を増大させることにより、表面11a側の改質領域12が形成されない領域12Nが減少し、距離Dzの15μmから70μmの全ての場合について、概ね全体に改質領域12が形成される。なお、
図5の例のレーザ光L1,L2の具体的な照射条件は、周波数が80kHz、加工速度が430mm/s、パルスピッチが5.375μm、パルス幅が700nsである。
【0037】
なお、本発明者の知見によれば、距離Dxが0に近いほど、裏面11b側の第2集光点C2及び改質領域12(改質領域122)の影響により、表面11a側の改質領域12(改質領域121)が形成されにくくなる。したがって、上記のとおり、距離Dxを0とした場合に十分に改質領域121が形成されることから、距離Dxを0よりも大きくした場合(
図2の例)には、改質領域121をより確実に形成可能である。特に、距離Dxを8μm以上とすることで、第2集光点C2及び改質領域122の影響が低減され、改質領域121を確実に形成可能である。
【0038】
以上のように、レーザ照射部3は、ステージ2に支持された対象物11に対して、レーザ光L1の第1集光点C1と、第1集光点C1よりも対象物11におけるレーザ光Lの入射面(裏面11b)側に位置するレーザ光L2の第2集光点C2と、を形成しつつレーザ光L1,L2を照射することができる。特に、レーザ照射部3では、レーザ光Lをレーザ光L1,L2に分岐可能であると共に、それぞれの第1集光点C1及び第2集光点C2の各方向についての距離が可変とされている。
【0039】
引き続いて、レーザ加工装置1が実行するレーザ加工方法の一例を挙げつつ、レーザ加工装置の詳細について説明する。
図6は、本実施形態に係るレーザ加工方法の一例を示すフローチャートである。ここでは、レーザ加工装置1は、トリミング加工及び放射カット加工を対象物11に施す。トリミング加工は、対象物11において不要部分を除去するために改質領域を形成する加工である。放射カット加工は、トリミング加工で除去する不要部分を分離するために改質領域を形成する加工である。ここでは、まず、
図7に示されるように、ステージ2に対象物11が支持される。
【0040】
図8は、
図7に示された対象物を示す図である。
図8の(a)は平面図であり、
図8の(b)は側面図である。
図7,8に示されるように、ここでの対象物11は、例えば円板状に形成された半導体ウェハを含む。しかしながら、対象物11は、特に限定されず、種々の材料により種々の形状に形成され得る。対象物11の表面11aには、一例として機能素子(不図示)が形成されている。機能素子は、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。対象物11は、表面11aの反対側の裏面11bがレーザ照射部3側に臨むようにステージ2に支持されている。
【0041】
対象物11には、有効領域R(第1部分)及び除去領域E(第2部分)が設定されている。有効領域Rは機能素子が形成されたデバイス領域である。有効領域Rは、例えば、対象物11の厚さ方向(表面11aから裏面11bに向かう方向であり、Z方向)からみて、中央部分を含む円板状の部分である。すなわち、有効領域Rは、除去領域Eよりも対象物11の内側に位置する部分である。
【0042】
除去領域Eは、対象物11における有効領域Rの外側に位置し、対象物11の外縁を含む部分である。ここでは、除去領域Eは、対象物11における有効領域R以外の部分であり、Z方向からみて有効領域Rを囲う円環状の部分である。除去領域Eは、Z方向からみて対象物11の周縁部分(外縁のベベル部)を含む。除去領域Eは、放射カット加工の対象となる放射カット領域である。
【0043】
対象物11には、ライン(第1ライン)M1及びライン(第2ライン)M2が設定されている。ラインM1は、トリミング加工において改質領域を形成する予定のラインである。ラインM1は、Z方向からみて、有効領域Rと除去領域Eとの境界上において環状(円環状)に延びている。ラインM1は、Z方向からみて有効領域Rの外縁(除去領域Eの内縁)と一致している。すなわち、ラインM1は、有効領域Rと除去領域Eとの境界を示す。ラインM2は、放射カット加工において改質領域を形成する予定のラインである。ラインM2は、Z方向からみて、対象物11の径方向に沿って直線状(放射状)に延びている。
【0044】
ラインM2は、Z方向からみて、除去領域Eにおいて対象物11の外縁から対象物11の内側に向かって延びて、有効領域Rと除去領域Eとの境界に至っている。ラインM2は、有効領域R内には至っておらず、ラインM1との交点で留められている。ラインM2のうち、ラインM2aとラインM2bとは、一直線上に配列されている。ラインM2のうち、ラインM2cとラインM2dとは、ラインM2a,M2bと交差(直交)する方向の一直線上に配列されている。ラインM1,M2の設定は、制御部6において行うことができる。ラインM1,M2は、一例として仮想的な線、又は、座標指定されたものである。
【0045】
以上のような対象物11に対して、まず、トリミング加工が行われる。そのために、まず、制御部6が、トリミング加工に対する加工条件の入力を受け付ける(工程S1)。より具体的には、この工程S1では、制御部6が、入力受付部63に対して、加工条件の入力を促す情報を表示させる。入力受付部63は、加工条件の入力を受け付ける。このとき、入力受付部63は、少なくとも、トリミング加工における距離Dx(第1距離)の入力を受け付ける。距離Dxの入力値の一例は110μmである。
【0046】
入力受付部63は、その他にも、後述する
図11の各値と同様に、各条件の入力を受け付けることができる。すなわち、一例として、入力受付部63は、基本的な加工条件として、焦点数、パス数、加工速度、パルス幅、及び、周波数の入力を受け付ける。焦点数は、空間光変調器32によるレーザ光Lの分岐数であり、ここでは主に2である。パス数は、ラインM1に対するトリミング加工の回数、すなわち、ラインM1に対する第1処理(後述)の回数であって、レーザ光L1,L2のスキャン回数であり、一例として4である。このため、トリミング加工では、Z方向について焦点数×パス数に相当する列数の改質領域12が形成されることとなる。
【0047】
さらに、入力受付部63は、それぞれのスキャンにおける詳細な加工条件の入力を受け付けることができる。ここでは、パス数として4が入力されていることから、入力受付部63は、4回のスキャンのそれぞれの加工条件の入力を受け付けることができる。各スキャンにおける入力値の一例は以下のとおりである。
【0048】
[1回目のスキャン]
ZH(下点):176
ZH(上点):160
加工出力(下点):2.6W
加工出力(上点):2.6W
周波数:120kHz
速度:800mm/s。
パルス幅:700nsec
縦分岐距離(VD):16
[2回目のスキャン]
ZH(下点):140
ZH(上点):115
加工出力(下点):2.6W
加工出力(上点):2.6W
周波数:120kHz
速度:800mm/s
パルス幅:700nsec
縦分岐距離(VD):25
[3回目のスキャン]
ZH(下点):78
ZH(上点):40
加工出力(下点):2.6W
加工出力(上点):2.6W
周波数:120kHz
速度:800mm/s
パルス幅:700nsec
縦分岐距離(VD):38
[4回目のスキャン](ここでは1焦点)
ZH(下点):22
ZH(上点):-
加工出力(下点):2.6W
加工出力(上点):-
周波数:120kHz
速度:800mm/s
パルス幅:700nsec
縦分岐距離(VD):-
【0049】
ZH(下点)は、Z方向における第1集光点C1の位置に対応する。ZH(上点)は、Z方向における第2集光点C2の位置に対応する。ZH(下点)及びZH(上点)は、レーザ光L1,L2の入射面である裏面11bを基準としているため、数値が大きいほど裏面11bから遠いことを示す。縦分岐距離(VD)は、距離Dzであり、ZH(下点)とZH(上点)との差に相当する。加工出力(下点)は、レーザ光L1の出力であり、加工出力(上点)は、レーザ光L2の出力である。ここでは、加工出力(下点)と加工出力(上点)とについて同一の値が入力されている。このため、レーザ光L1とレーザ光L2との出力比が50:50とされる。
【0050】
続く工程では、制御部6が、入力受付部63が受け付けた距離Dxの入力値である第1入力値が、第1閾値以上であるか否かの判定を行う(工程S2)。第1閾値は、例えば50μmである。工程S2の判定の結果、距離Dxの第1入力値が第1閾値以上である場合(工程S2:YES)、制御部6は、距離Dxの第1入力値に応じた分岐パターンを設定(生成)する(工程S3)。なお、工程S2の判定の結果、距離Dxの第1入力値が第1閾値以上でない場合(工程S2:NO)、制御部6が、第1入力値の確認を促すための情報を入力受付部63に表示させ(工程S9)、距離Dxの再度の入力を促すべく工程S1に移行する。
【0051】
続く工程では、制御部6は、実際に加工を行う(工程S4:レーザ照射工程、第1照射工程)。より具体的には、
図9及び
図10の(a)に示されるように、制御部6は、Z方向からみたときに第1集光点C1及び第2集光点C2がラインM1上に位置するように、駆動部5(及び/又は駆動部4)を制御することによってレーザ照射部3を移動させる。これと共に、制御部6は、空間光変調器32を制御することによって、第1集光点C1が第2集光点C2に対して距離DxだけX方向の前方に位置するように、且つ、第2集光点C2が第1集光点C1に対して距離Dzだけ裏面11b側に位置するように、分岐パターンを空間光変調器32に表示させる。なお、
図9の(a)は平面図であり、
図9の(b)は、
図9の(a)のB1-B1線に沿った断面図である。
図10の(a)及び(c)は側面図であり、
図10の(b)は平面図である。
【0052】
続いて、この工程S4では、制御部6が、駆動部4を制御することによってステージ2を回転軸Aの周りに回転させると共に、レーザ照射部3を制御することによってレーザ光L1,L2を対象物11に照射する。回転軸Aは、対象物11及びラインM1の中心である。これにより、第1集光点C1及び第2集光点C2が、対象物11に対して、ラインM1に沿った方向であってステージ2の回転方向ARと反対方向(ここではX方向)に相対移動させられる。すなわち、ここでは、距離Dxは、ラインM1に沿った方向(ラインM1の接線方向)における第1集光点C1と第2集光点C2との距離である。
【0053】
ここでは、制御部6は、ステージ2を一定の回転速度で回転させながら、ステージ2の回転角度に基づいてレーザ光L1,L2の照射の開始及び停止を制御する。制御部6は、ラインM1の全周に渡ってレーザ光L1,L2を対象物11に照射する。これにより、対象物11の少なくとも内部に、レーザ光L1及び第1集光点C1に対応する改質領域12(改質領域121)と、レーザ光L2及び第2集光点C2に対応する改質領域12(改質領域122)と、がラインM1上に形成される。
【0054】
すなわち、レーザ加工装置1では、駆動部4,5は、対象物11に対して第1集光点C1及び第2集光点C2が相対移動するように、ステージ2を移動させる移動機構である。また、制御部6は、このようなレーザ照射部3及び駆動部4,5を制御する。そして、制御部6は、ラインM1に沿った方向における第1集光点C1と第2集光点C2との距離Dxを第1入力値(第1距離)に設定した状態において、ラインM1に沿って第1集光点C1及び第2集光点C2を相対移動させながら、対象物11にレーザ光Lを照射するように、レーザ照射部3及び駆動部4,5を制御する第1処理を実行することとなる。
【0055】
なお、制御部6は、駆動部5の制御によってレーザ照射部3をZ方向に移動させることにより、第1集光点C1及び第2集光点C2のZ方向の位置を異ならせながら、複数回の第1処理を実行することができる(上述したパス数)。これにより、
図10の(b)及び(c)に示されるように、対象物11の表面11aから裏面11bに渡って改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂を形成できる。ただし、改質領域12及び亀裂は、表面11a及び裏面11bの少なくとも何れかに到達していてもよいし、表面11a及び裏面11bの少なくとも何れかに到達していなくてもよい。以上により、トリミング加工が完了する。引き続いて、放射カット加工が行われる。
【0056】
続く工程では、制御部6が、放射カット加工に対する加工条件の入力を受け付ける(工程S5)。より具体的には、この工程S5では、制御部6が、入力受付部63に対して、加工条件の入力を促す情報を表示させる。入力受付部63は、加工条件の入力を受け付ける。このとき、入力受付部63は、少なくとも、放射カット加工における距離Dx(第2距離)の入力を受け付ける。入力受付部63は、その他にも、種々に加工条件の入力を受け付ける。この点について詳細に説明する。
【0057】
図11は、入力受付部に表示された設定画面の一例を示す図である。
図11に示されるように、ここでは、選択内容Qとして、ウェハ厚さ、LBA-Xオフセット、LBA-Yオフセット、及び、横分岐距離(距離Dx)の入力を受け付ける。LBA-Xオフセットは、空間光変調器32に表示された各種のパターンのうちの球面収差補正パターンの中心と、集光レンズ33の入射瞳面の中心とのX方向(ラインM1に沿った方向)におけるオフセット量である。LBA-Yオフセットとは、同様に、球面収差補正パターンの中心と、集光レンズ33の入射瞳面の中心とのY方向(ラインM1に交差する方向)におけるオフセット量である。ここでは、横分岐距離(距離Dx)として0が入力されている。
【0058】
また、入力受付部63は、基本的な加工条件H0として、焦点数、パス数、加工速度、パルス幅、及び、周波数の入力を受け付ける。焦点数は、空間光変調器32によるレーザ光Lの分岐数であり、ここでは2である。パス数は、1つのラインM2に対する放射カット加工の回数、すなわち、1つのラインM2に対する第2処理の回数であって、レーザ光L1,L2のスキャン回数である。このため、放射カット加工では、Z方向について焦点数×パス数に相当する列数の改質領域12が形成されることとなる。加工速度は、対象物11に対する第1集光点C1及び第2集光点C2の相対移動の速度である。
【0059】
さらに、入力受付部63は、それぞれのスキャンにおける詳細な加工条件の入力を受け付ける。ここでは、パス数として6が入力されていることから、入力受付部63は、6回のスキャンのそれぞれの加工条件H1~H6の入力を受け付ける。加工条件H1~H6において、ZH(下点)は、Z方向における第1集光点C1の位置に対応する。ZH(上点)は、Z方向における第2集光点C2の位置に対応する。ZH(下点)及びZH(上点)は、レーザ光L1,L2の入射面である裏面11bを基準としているため、数値が大きいほど裏面11bから遠いことを示す。
【0060】
縦分岐距離(VD)は、距離Dzであり、ZH(下点)とZH(上点)との差に相当する。加工出力(下点)は、レーザ光L1の出力であり、加工出力(上点)は、レーザ光L2の出力である。ここでは、加工出力(下点)と加工出力(上点)とについて同一の値が入力されている。このため、レーザ光L1とレーザ光L2との出力比が50:50とされる。
【0061】
続く工程では、制御部6が、入力受付部63が受け付けた(放射カットのための)距離Dxの入力値である第2入力値が、第2閾値以下であるか否かの判定を行う(工程S6)。第2閾値は、トリミング加工(第1処理)の際の第1閾値よりも小さな値であって、例えば15μmである。工程S6の判定の結果、距離Dxの第2入力値が第2閾値以下である場合、制御部6は、距離Dxの第2入力値に応じた分岐パターンを設定(生成)する(工程S7)。なお、工程S6の判定の結果、距離Dxの第2入力値が第2閾値以下でない場合(工程S6:NO)、制御部6が、第2入力値の確認を促すための情報を入力受付部63に表示させ(工程S10)、距離Dxの再度の入力を促すべく工程S5に移行する。
【0062】
続く工程では、実際に加工を行う(工程S8:レーザ照射工程、第2照射工程)。より具体的には、
図12及び
図13の(a)に示されるように、制御部6は、Z方向からみたときに、第1集光点C1及び第2集光点C2が、対象物11の外部から対象物11に進入してラインM2上を移動するように、駆動部5(及び/又は駆動部4)を制御することによってレーザ照射部3を移動させる。これと共に、制御部6は、空間光変調器32を制御することによって、第2集光点C2が第1集光点C1に対して距離Dzだけ裏面11b側に位置するように、分岐パターンを空間光変調器32に表示させる。ここでは、上記のとおり、距離Dxの第2入力値として0が入力されている。したがって、ラインM2に沿った第1集光点C1の位置と第2集光点C2の位置とは一致させられている。なお、
図12の(a)は平面図であり、
図12の(b)は
図12の(aの)B2-B2線に沿っての断面図である。
図13の(a)は、側面図であり、
図13の(b)は平面図である。
【0063】
ここでは、制御部6は、ラインM2のうちの一のラインM2aについて、対象物11の外縁側の端部から対象物11の内側に向かって第1集光点C1及び第2集光点C2を相対移動させながら、対象物11にレーザ光L1,L2の照射を行う。対象物11は、ラインM2aがX方向に沿うように位置させられている。これにより、第1集光点C1及び第2集光点C2が、X方向に相対移動させられる。すなわち、ここでは、距離Dxは、ラインM2aに沿ったX方向における第1集光点C1と第2集光点C2との距離である(ここでは0である)。
【0064】
このように、制御部6は、ラインM2(ラインM2a)に沿った方向における第1集光点C1と第2集光点C2との距離Dxを、トリミング加工の際の距離Dx(第1距離)よりも小さな第2入力値(第2距離)に設定した状態において、ラインM2に沿って第1集光点C1及び第2集光点C2を相対移動させながら、対象物11にレーザ光L1,L2を照射するように、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)を制御する第2処理を実行することとなる。
【0065】
制御部6は、第1集光点C1と第2集光点C2の相対移動を続け、第1集光点C1及び第2集光点C2がラインM2aとラインM1との交点に至ったときに、レーザ光L1,L2の照射をオフとする。その後、制御部6は、第1集光点C1及び第2集光点C2が形成される位置(X方向の位置)が、ラインM2のうちのラインM2aと同一直線状に位置する別のラインM2bとラインM1との交点に至ったときに、レーザ光L1,L2の照射をオンとし、ラインM2aと同様に、第1集光点C1及び第2集光点C2をラインM2b上でX方向に相対移動させながら、対象物11にレーザ光L1,L2を照射する。さらに、制御部6は、ラインM2のうちのさらに別のラインM2c,M2dについても、同様に第2処理を実行する。
【0066】
なお、上述したように、ここでは、1つのラインM2あたりのレーザ光L1,L2のスキャン回数(パス数)として6が入力されている。したがって、制御部6は、1つのラインM2に対して、駆動部5の制御によってレーザ照射部3をZ方向に移動させることにより、第1集光点C1及び第2集光点C2のZ方向の位置を異ならせながら、複数回(ここでは6回)の第2処理を実行する。
【0067】
特に、制御部6は、1つのラインM2に対して複数回の第2処理を実行するに際して、n回目(nは1以上の整数)の第2処理を実行した後に、n回目の第2処理のときのZ方向における第1集光点C1と第2集光点C2との間の位置に、第1集光点C1及び第2集光点C2の少なくとも一方を位置させた状態において、m回目(mはnよりも大きな整数)の第2処理を実行することができる。
【0068】
図11を参照すると、2回目のスキャンにおけるZH(下点)の値として、1回目のスキャンにおけるZH(下点)とZH(上点)との間の値が入力されている。また、2回目のスキャンにおけるZH(上点)の値として、1回目のスキャンにおけるZH(上点)よりも小さな値が入力されている。4回目のスキャンと3回目のスキャンとの関係、及び、6回目のスキャンと5回目のスキャンとの関係も同様である。
【0069】
つまり、
図11の例では、制御部6は、1回目、3回目、5回目の第2処理を実行した後に、1回目、3回目、5回目の第2処理のときのZ方向における第1集光点C1と第2集光点C2との間の位置に、第1集光点C1のみを位置させた状態において、2回目、4回目、6回目の第2処理を実行することとなる。
【0070】
換言すれば、
図11の例では、制御部6は、2n-1回目(nは1以上の整数)の第2処理を実行した後に、2n-1回目の第2処理のときのZ方向における第1集光点C1の位置と第2集光点C2の位置との間に第1集光点C1を位置させ、且つ、2n-1回目の第2処理のときのZ方向における第2集光点C2の位置よりも裏面11b側に第2集光点C2を位置させた状態において、2n回目の第2処理を実行する。
【0071】
また、
図11の例では、第1集光点C1及び第2集光点C2のそれぞれに着目すると、1回目から6回目にわたって、順次、Z方向の位置が裏面11b側に移動するようにされている。つまり、
図11の例では、制御部6は、n回目(nは1以上の整数)の第2処理を実行した後に、n回目の第2処理のときのZ方向における第1集光点C1の位置よりも、裏面11b側に第1集光点C1を位置させた状態において、n+1回目の第2処理を実行することとなる。また、制御部6は、n回目(nは1以上の整数)の第2処理を実行した後に、n回目の第2処理のときのZ方向における第2集光点C2の位置よりも、裏面11b側に第2集光点C2を位置させた状態において、n+1回目の第2処理を実行することとなる。
【0072】
以上により、
図13の(b)に示されるように、全てのラインM2に対して改質領域12が形成される。特に、
図14の(a)に示されるように、1回目のスキャンP1で形成された一対の改質領域12(改質領域121,122)の間に、2回目のスキャンP2の表面11a側の改質領域12(改質領域121)が形成され、3回目のスキャンP3で形成された一対の改質領域12の間に、4回目のスキャンP4の表面11a側の改質領域12が形成され、且つ、5回目のスキャンP5で形成された一対の改質領域12の間に、6回目のスキャンP2の表面11a側の改質領域12が形成される。
【0073】
これにより、対象物11の表面11aから裏面11bに渡って改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂が形成される。ただし、改質領域12及び亀裂は、表面11a及び裏面11bの少なくとも何れかに到達していてもよいし、表面11a及び裏面11bの少なくとも何れかに到達していなくてもよい。なお、
図14は、改質領域を形成した後の断面を示す写真である。
【0074】
その後、
図15に示されるように、例えば冶具又はエアーにより、ラインM1上の改質領域12を境界として、除去領域Eを切り分けて除去する(取り除く)ことにより、対象物11から対象物11Aが形成される(有効領域Rが切り出される)。その後、レーザ加工装置1では、剥離加工を行うことができる。引き続いて、剥離加工について説明する。なお、
図15の(a)は平面図であり、(b)は側面図であり、(c)は側面図である。
【0075】
図15に示されるように、対象物11Aには、剥離予定面としての仮想面M3が設定されている。仮想面M3は、剥離加工による改質領域の形成を予定する面である。仮想面M3は、対象物11Aのレーザ光入射面である裏面11bに対向する面である。仮想面M3は、裏面11bに平行な面であり、例えば円形状を呈している。仮想面M3は、仮想的な領域であり、平面に限定されず、曲面ないし3次元状の面であってもよい。仮想面M3の設定は、制御部6において行うことができる。仮想面M3は、座標指定されたものであってもよい。
【0076】
剥離加工では、制御部6が、駆動部4を制御することによって、ステージ2を一定の回転速度で回転させながら、レーザ照射部3からレーザ光L3を照射する。これと共に、制御部6が、駆動部5を制御することによって、レーザ光L3の集光点C3が仮想面M3の外縁側から内側に移動するように、レーザ照射部3を移動する。これにより、
図16の(a)に示されるように、対象物11Aの内部において仮想面M3に沿って、回転軸A(
図9参照)の位置を中心とする渦巻き状(インボリュート曲線)に延びる改質領域12を形成する。形成した改質領域12は、複数の改質スポットを含む。なお、
図16の(a)は平面図であり、他は側面図である。
【0077】
続いて、
図16の(b)及び(c)に示されるように、例えば吸着冶具により、仮想面M3に渡る改質領域12を境界として、対象物11Aの一部を剥離する。対象物11Aの剥離は、ステージ2上で実施してもよいし、剥離専用のエリアに移動させて実施してもよい。対象物11Aの剥離は、エアーブロー又はテープ材を利用して剥離してもよい。外部応力だけで対象物11Aを剥離できない場合には、対象物11Aに反応するエッチング液(KOH又はTMAH等)で改質領域12を選択的にエッチングしてもよい。これにより、対象物11Aを容易に剥離することが可能となる。
図16の(b)に示されるように、対象物11Aの剥離面11hに対して仕上げの研削、ないし砥石等の研磨材KMによる研磨を行う。エッチングにより対象物11Aを剥離している場合、当該研磨を簡略化することができる。以上の結果、半導体デバイス11Bが取得される。
【0078】
以上説明したように、レーザ加工装置1及びそのレーザ加工方法では、対象物11には、内側に位置する有効領域Rと有効領域Rの外側に位置する除去領域Eとの境界上において環状に延びるラインM1と、除去領域Eにおいて対象物11の外縁から対象物11の内側に向かって延びて境界に至るラインM2と、が設定されている。そして、ラインM1に沿った加工(トリミング加工)及びラインM2に沿った加工(放射カット加工)のそれぞれにおいて、対象物11にレーザ光Lの第1集光点C1及び第2集光点C2を形成しつつ対象物11にレーザ光Lを照射する。このとき、ラインM1に沿った加工の際に、第1集光点C1と第2集光点C2とのラインM1に沿った距離Dxが相対的に大きくされる。このため、加工速度の向上が可能となる。一方、ラインM2に沿った加工の際には、第1集光点C1と第2集光点C2とのラインM2に沿った距離Dxが相対的に小さくされる。このため、加工品質の低下が可能となる。
【0079】
図14の(b)は、有効領域Rと除去領域Eとの境界部分の断面を示す写真である。
図14の(b)に示されるように、ラインM2に沿った加工の際に、第1集光点C1と第2集光点C2との距離Dxを相対的に小さく(一例として0)とすることにより、第1集光点C1に対応する改質領域12の端部と第2集光点C2に対応する改質領域12の端部とが揃えられている。すなわち、この場合には、第1集光点C1及び第2集光点C2のうちの一方が有効領域R内に進入して有効領域R内に改質領域12が形成されることや、第1集光点C1及び第2集光点C2のうちの他方が有効領域Rに至らずに、除去領域Eに未改質の領域が生じることが抑制される。
【0080】
また、レーザ加工装置1では、制御部6は、一のラインM2に対して、裏面11bに交差するZ方向における第1集光点C1の位置及び第2集光点C2の位置を異ならせながら第2処理を複数回実行することができる。このように、少なくとも、第1集光点C1と第2集光点C2との距離Dxが相対的に小さくされる第2処理については、1つのラインM2に対して複数回を行うことが有効である。
【0081】
また、レーザ加工装置1では、制御部6は、n回目(nは1以上の整数)の第2処理を実行した後に、n回目の第2処理のときのZ方向における第1集光点C1と第2集光点C2との間の位置に、第1集光点C1及び第2集光点C2の少なくとも一方を位置させた状態において、m回目(mはnよりも大きな整数)の第2処理を実行することができる。この場合、Z方向について、より密に改質領域12が形成され、加工品質が向上される。
【0082】
また、レーザ加工装置1では、制御部6は、n回目(nは1以上の整数)の第2処理を実行した後に、n回目の第2処理のときのZ方向における第1集光点C1の位置よりも、裏面11b側に第1集光点C1を位置させた状態において、n+1回目の第2処理を実行することができる。このように、裏面11bから遠い側から順に集光点を合わせて第2処理を実行することにより、より好適に改質領域12を形成できる。
【0083】
また、レーザ加工装置1は、入力を受け付けるため、及び、情報を表示するための入力受付部63をさらに備えている。入力受付部63は、第1処理の前において、第1処理における距離Dxの入力を受け付ける。制御部6は、第1処理の前において、入力受付部63が受け付けた距離Dxの入力値である第1入力値が第1閾値よりも小さい場合に、第1入力値の確認を促すための情報を入力受付部63に表示させると共に、第1入力値が第1閾値以上である場合に第1処理を実行する。このため、第1処理において、距離Dxが閾値以上であることが確保され、亀裂の進展量を確実に増大させて加工速度の向上が図られる。
【0084】
さらに、レーザ加工装置1では、入力受付部63は、第2処理の前において、第2処理における距離Dxの入力を受け付ける。制御部6は、第2処理の前において、入力受付部63が受け付けた距離Dxの入力値である第2入力値が第2閾値よりも大きい場合に、第2入力値の確認を促すための情報を入力受付部63に表示させると共に、第2入力値が第2閾値以下である場合に第2処理を実行する。このため、第2処理において、第1集光点C1と第2集光点C2との距離Dxが閾値以下であることが確保され、確実に加工品質の向上が図られる。
【0085】
以上の実施形態は、本発明の一形態を説明するものである。したがって、本発明は、上述した形態に限定されることなく、任意の変更がされ得る。
【0086】
例えば、
図6に示されるレーザ加工装置1の動作では、第1処理及び第2処理の両方において、少なくとも距離Dxの入力を受け付け、受け付けた距離Dxに応じた分岐パターンを設定して空間光変調器32に表示するようにした。しかし、分岐パターンは自動設定されるようにしてもよい。すなわち、レーザ加工装置1では、第1処理における距離Dxが、第2処理における距離Dxよりも相対的に大きくなるように(換言すれば、第2処理における距離Dxが第1処理における距離Dxよりも相対的に小さくなるように)、第1処理及び第2処理のそれぞれにおいて分岐パターンを自動設定し、第1処理及び第2処理を実行することができる。
【0087】
また、上記実施形態では、レーザ光Lを2つのレーザ光L1,L2に分岐し、第1集光点C1及び第2集光点C2を形成する場合について説明した。しかしながら、レーザ加工装置1では、レーザ光Lを3つ以上のレーザ光に分岐し、それぞれの集光点を形成してもよい。その場合には、3つ以上の集光点のうちの2つの集光点について、第1処理における距離Dx>第2処理における距離Dxの関係が満たされていればよい。
【0088】
さらに、上記実施形態では、ラインM1を、機能素子が形成されたデバイス領域である有効領域Rと、その外側の除去領域Eと、の境界上に延びるものとした。しかし、ラインM1は、上述したようなデバイス領域よりも広い領域(上述した有効領域Rを除去領域E側に拡大した領域)と、当該領域のさらに外側の領域との境界上に設定され得る。その他、ラインM1は、有効領域R及び除去領域Eに関わらず、対象物11の任意の第1部分と第2部分との境界上に設定され得る。
【符号の説明】
【0089】
1…レーザ加工装置、2…ステージ(支持部)、3…レーザ照射部、4,5…駆動部(移動機構)、6…制御部、11…対象物、63…入力受付部(入力部、表示部)、C1…第1集光点、C2…第2集光点、Dx…距離、L,L1,L2…レーザ光、M1…ライン(第1ライン)、M2…ライン(第2ライン)。