(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005087
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】植物性たん白含有加工食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 3/14 20060101AFI20240110BHJP
A23J 3/22 20060101ALI20240110BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A23J3/14
A23J3/22
A23J3/16 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105096
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】505126610
【氏名又は名称】株式会社ニチレイフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】笹原 由雅
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 朋花
(57)【要約】
【課題】卵をはじめとする動物由来成分の使用を著しく低減することが可能であり、食感や保形性の良好な植物性たん白含有食品を提供すること。
【解決手段】
組織化植物性たん白と、
粉末状植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤と
を含む、植物性たん白含有加工食品
を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織化植物性たん白と、
粉末状植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤と
を含む、植物性たん白含有加工食品。
【請求項2】
前記組織化植物性たん白が、粒状植物性たん白および/または繊維状植物性たん白である、請求項1に記載の加工食品。
【請求項3】
前記植物性たん白が、大豆たん白、エンドウ豆たん白および緑豆たん白からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1または2に記載の加工食品。
【請求項4】
前記結着剤のpHが8以上である、請求項1または2に記載の加工食品。
【請求項5】
前記結着剤中のアルカリ化剤の量が、前記結着剤中の粉末状植物性たん白全量に対して0.1~50質量%である、請求項1または2に記載の加工食品。
【請求項6】
前記アルカリ化剤が、有機物質または無機物質である、請求項1または2に記載の加工食品。
【請求項7】
前記アルカリ化剤が、塩基性アミノ酸、炭酸水素ナトリウム、酸化カルシウムおよび炭酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項6に記載の加工食品。
【請求項8】
前記塩基性アミノ酸が、リジン、ヒスチジンおよびアルギニンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項7に記載の加工食品。
【請求項9】
前記組織化植物性たん白と、前記結着剤との質量比が、1:0.5~1:4である、請求項1または2に記載の加工食品。
【請求項10】
植物性たん白含有加工食品の製造方法であって、
組織化植物性たん白と、
粉末状植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤と
を混合する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物性たん白含有加工食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向の高まりに伴い、動物タンパク質代用品として大豆やエンドウ豆等の植物性たん白を使用することが注目され、その利用分野は拡大している。中でも、食品分野においては、植物由来の代替肉がしばしば使用されている。しかしながら、動物肉を植物性たん白で代替した場合には、風味や食感が損なわれることがしばしば問題となる。
【0003】
このような技術状況下、良好な風味や食感を備えた植物性たん白を使用した肉様食品を提供するために種々の技術が報告されている。例えば、特許文献1には、弱アルカリ溶液にて水戻しまたは湯戻しした粒状脱脂大豆蛋白を卵白または卵白粉と混合し、成型後、蒸気加熱等の加熱処理を施し、次いで焼成することにより、食感・風味のよい肉粒状蛋白含有食品を簡便に製造し得ることが開示されている。しかしながら、特許文献1においては、卵白または卵白粉を必須成分として使用しており、動物肉を完全に植物性たん白で代替した肉様食品は何ら報告されていない。卵白または卵白粉は優れた結着性や動物性の風味を有することから、食品の保形性や風味、食感を良好に保つために大きく寄与していると考えられる。
【0004】
また、動物由来成分等に対してアレルギーを持つ場合、動物由来成分を含む食物を排除した食生活を強いられ、食べたいと思うものも口にすることができなくなる。特に、卵によるアレルギーについては、当該アレルギーに対応した食品が多く作られるようになってきたものの種類は少ないのが現状である。
【0005】
また、近年健康や倫理等の理由により、動物に由来する製品を全て禁止するヴィーガニズム(完全菜食主義)を実行するヴィーガン(完全菜食主義者)が増えつつある。ヴィーガンは動物由来のものを一切禁じているため、食事においても肉や魚だけでなく牛乳等の乳製品や卵も摂取しない。日本におけるヴィーガンの認知度は他国に比べ依然低いままであり、彼らの食生活に合わせた食品や飲食店は非常に少ない状態にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本開示は、卵をはじめとする動物由来成分の使用を著しく低減することが可能であり、食感や保形性の良好な植物性たん白含有食品を提供することを一つの目的としている。
【0008】
本開示者らは、今般、鋭意検討した結果、特定の非動物由来成分を組み合わせると、卵等を使用しなくても、動物由来成分の含有量が低減されかつ食感や保形性の良好な植物性たん白含有食品を提供しうることを見出した。本開示はかかる知見に基づくものである。
【0009】
本開示の一実施態様によれば、組織化植物性たん白と、粉末状植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤とを含む植物性たん白含有加工食品が提供される。
【0010】
また、本開示の別の実施態様によれば、植物性たん白含有加工食品の製造方法であって、組織化植物性たん白と、粉末状植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤とを混合する工程を含む方法が提供される。
【0011】
本開示によれば、卵をはじめとする動物由来成分の使用が著しく低減され、かつ食感や保形性の良好な植物性たん白含有食品を提供することができる。本開示によれば、卵等を結着剤として使用しなくても、植物性たん白含有食品に対して優れた風味や食感、保形性を付与することが可能であり、アレルギー罹患者やヴィーガン用の食品を製造する上で有利である。また、本開示の植物性たん白含有食品は、良好な冷凍耐性および解凍耐性を奏しうることから、冷凍食品として提供する上で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一実施態様によれば、植物性たん白含有加工食品は、組織化植物性たん白と、粉末状植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤とを含んでなる。本開示の植物性たん白含有加工食品の製造において、アルカリ化剤を使用するにもかかわらず、ぬめりのない良好な食感が付与されることは当業者にとって意外な事実である。
【0013】
本開示の組織化植物性たん白の形態は特に限定されず、所望の食感等に応じてスライス状、顆粒状、フレーク状、スライス状、粒状または繊維状等に組織化された植物性たん白を選択して使用することができる。本開示の好ましい実施態様によれば、組織化植物性たん白は、日本農林規格(JAS)0838:2019に規定される粒状植物性たん白および/または繊維状植物性たん白である。組織化植物性たん白は、市販品を購入できる他、公知の方法により調製することも可能である。たとえば、大豆等植物性材料から調製した素材(脱脂大豆等)に、必要に応じて適量の水を加え、エクストルーダーを用いて、混練し、加圧し、加熱し、かつ常圧下に押し出し、得られた押出物に含まれる水分を蒸発させ、膨張させることにより、組織化植物性たん白を乾燥体として得ることができる。
【0014】
本開示の一実施態様によれば、乾燥組織化植物性たん白に、水、お湯等の水性媒体を吸収させ、植物性たん白含有加工食品の製造に使用することができる。したがって、好ましい実施態様によれば、組織化植物性たん白は、乾燥組織化植物性たん白の水戻し物または湯戻し物である。水戻し方法としては、乾燥組織化植物性たん白が十分吸水するまで、乾燥組織化植物性たん白を水に、浸漬すればよい。また、湯戻し方法としては、乾燥組織化植物性たん白が十分吸水するまで、乾燥組織化植物性たん白をお湯中で煮熟すればよい。
【0015】
乾燥組織化植物性たん白と、水性媒体との混合質量比は、植物性たん白の十分な膨潤を確保する観点から、例えば、1:1~1:3であり、好ましくは1:1~1:2である。
【0016】
植物性たん白含有加工食品の製造に用いる組織化植物性たん白のサイズは、特に限定されず、所望の食感等に応じて適宜調整してよいが、組織化植物性たん白の粒径は、加工食品の良好な食感を確保する観点から、例えば、3~16メッシュ(日本工業規格(JIS) Z 8801)とすることができる。また、本開示の好ましい実施態様によれば、組織化植物性たん白は、JAS0838:2019の規定による。組織化植物性たん白のサイズの調整は、チョッパー等の装置を用いて実施することができる。
【0017】
本開示における組織化植物性たん白を調製するための原料は、特に限定されないが、良好な食感と製造適性を確保する観点から、例えば、大豆、緑豆、エンドウ等が挙げられ、特に大豆が好ましい。本開示の一実施態様によれば、上記組織化植物性たん白は、大豆たん白(JAS0838:2019)、エンドウ豆たん白および緑豆たん白から選択される少なくとも一つのものである。
【0018】
本開示の好ましい実施態様によれば、植物性たん白含有加工食品は、上述のような組織化植物性たん白と、予め準備した粉末状植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤とを混合することにより製造することができる。組織化植物性たん白と、予め準備した上述のような結着剤とを原料として植物性たん白含有加工食品を製造することは、卵やその由来成分等を用いずに保形性の良好な加工食品を製造する上で有利である。
【0019】
植物性たん白含有加工食品の製造に用いる結着剤は、予め調製されたものを購入して使用してもよいが、粉末状植物性たん白と、アルカリ化剤と、水性媒体(水等)等の他の添加成分とを混合することにより調製することが好ましい。上記結着剤の原料として粉末状植物性を使用することは、アルカリ化剤との反応性が高めて結着剤としての良好な物性を付与し、結着機能が高める上で有利である。
【0020】
粉末状植物性たん白を調整するための原料は、特に限定されないが、良好な食感と製造適性を確保する観点から、例えば、大豆、緑豆、エンドウ等が挙げられ、特に大豆が好ましい。また、本開示の好ましい実施態様によれば、上記粉末状植物性たん白は、大豆たん白(JAS0838:2019)、エンドウ豆たん白および緑豆たん白から選択される少なくとも一つのものである。また、本開示の一実施態様によれば、組織化植物性たん白の原料と、結着剤における植物性たん白粉末の原料とは同種の原料とされる。
【0021】
粉末状植物性たん白は特に限定されず、所望の食感等に応じて適宜調整してよいが、結着剤の良好な物性を確保する観点から、例えば、目開き500μmの試験用ふるいを通過するもの(JIS Z 8801)またはこれを粒状に成形したものを用いることが好ましい。また、本開示の好ましい実施態様によれば、粉末状植物性たん白は、JAS0838:2019の規定によるものである。
【0022】
結着剤における植物性たん白の量(乾燥質量)は、結着剤の良好な物性を確保する観点から、結着剤全量に対して、例えば、10~30質量%であり、好ましくは15~25質量%である。
【0023】
また、本開示の結着剤の原料として使用されるアルカリ化剤は、有機物質または無機物質等の化学物質試薬である。かかる化学物質試薬は、酵素製剤等と比較してコストが低く、工業生産上好ましい。好適なアルカリ化剤としては、塩基性アミノ酸、炭酸水素ナトリウム、酸化カルシウムまたは炭酸ナトリウム等が挙げられるが、より好ましくは塩基性アミノ酸であり、より一層好ましくはリジン、ヒスチジンまたはアルギニン等であり、さらに好ましくはアルギニンである。
【0024】
結着剤におけるアルカリ化剤の量(乾燥質量)は、卵やその由来成分等を用いずに加工食品に保形性とぬめり感のない良好な食感を付与する観点から、結着剤中の植物性たん白全量に対して、例えば、0.1~50質量%であり、好ましくは0.4~40質量%である。また、結着剤におけるアルカリ化剤の量(乾燥質量)は、加工食品にさらに良好な味や風味を付与する観点からは、好ましくは2.0~10.0質量%である。
【0025】
より具体的には、アルカリ化剤がアルギニンである場合、アルギニンの添加量は、卵やその由来成分等を用いずに加工食品に保形性とぬめり感のない良好な食感を付与する観点から、結着剤中の植物性たん白全量(乾燥質量)に対して、好ましくは2.0~40.0質量%である。また、アルギニンの添加量は、加工食品にさらに良好な味や風味を付与する観点からは、結着剤中の植物性たん白全量(乾燥質量)に対して、好ましくは2.0~10.0質量%であり、より好ましくは6.0~10.0質量%である。
【0026】
また、アルカリ化剤が炭酸水素ナトリウムである場合、炭酸水素ナトリウムの添加量は、卵やその由来成分等を用いずに加工食品に保形性とぬめり感のない良好な食感を付与する観点から、結着剤中の植物性たん白全量(乾燥質量)に対して、好ましくは4.0~40.0質量%である。また、炭酸水素ナトリウムの添加量は、加工食品にさらに良好な味や風味を付与する観点からは、結着剤中の植物性たん白全量(乾燥質量)に対して、好ましくは4.0~6.0質量%であり、より好ましくは4.0~5.3質量%である。
【0027】
また、アルカリ化剤が酸化カルシウムである場合、酸化カルシウムの添加量は、卵やその由来成分等を用いずに加工食品に保形性とぬめり感のない良好な食感を付与する観点から、結着剤中の植物性たん白全量(乾燥質量)に対して、好ましくは0.5~4.0質量%である。また、酸化カルシウムの添加量は、加工食品にさらに良好な味や風味を付与する観点からは、結着剤中の植物性たん白全量(乾燥質量)に対して、好ましくは0.5~2.0質量%であり、より好ましくは0.7~1.3質量%である。
【0028】
また、アルカリ化剤が炭酸ナトリウムである場合、炭酸ナトリウムの添加量は、卵やその由来成分等を用いずに加工食品に保形性とぬめり感のない良好な食感を付与する観点から、結着剤中の植物性たん白全量(乾燥質量)に対して、好ましくは1.0~8.0質量%である。また、酸化カルシウムの添加量は、加工食品にさらに良好な味や風味を付与する観点からは、結着剤中の植物性たん白全量(乾燥質量)に対して、好ましくは1.0~6.0質量%であり、より好ましくは2.0~4.0質量%である。
【0029】
結着剤の調製に使用される水性媒体は、例えば、水等が挙げられる。
【0030】
結着剤における水性媒体(水等)の量は、結着剤に適切な粘ちょう性を付与する観点から、結着剤中の粉末状植物性たん白全量(乾燥質量)に対して、例えば、350~600質量%であり、好ましくは360~570質量%であり、より好ましくは370~560質量%である。
【0031】
結着剤は、アルカリ性であることが好ましい。本開示の加工食品においては、アルカリ性の結着剤を使用しても、ぬめりを生じることを防止し、かつ食品として良好な風味を奏することができる。結着剤のpHは、特に限定されないが、良好な食感を加工食品に付与する観点から、例えば、8以上であり、好ましくは8.2~12.5であり、より好ましくは8.3~11.5である。
【0032】
また、結着剤の性状は、特に限定されないが、組織化植物性たん白同士を結着して所望の形状に加工する観点から、ペースト状であることが好ましい。
【0033】
植物性たん白含有加工食品の調製は、上述の通り、組織化植物性たん白と、上記結着剤とを混合し、組織化植物性たん白同士を結着剤を介して結着させることにより実施することができる。組織化植物性たん白(乾燥質量)と、結着剤との質量比は、結着剤の十分な結着性を確保する観点から、例えば、1:0.5~1:4であり、好ましくは1:1~1:3であり、より好ましくは1:1.5~1:2.5である。
【0034】
本開示の植物性たん白含有加工食品においては、植物由来成分に加えて、動物由来成分を含有させることもできるが、動物性由来成分に起因するアレルギー等の回避や健康増進の観点から、植物性たん白の総含有量は高レベルに設定することが好ましい。植物性たん白含有加工食品における植物性たん白の総量(乾燥質量)は、良好な食感を確保する観点から、加工食品全量に対して、例えば、20~40質量%であり、好ましくは22~35質量%であり、より好ましくは24~30質量%である。植物性たん白の総量(乾燥質量)は、組織化植物性たん白と結着剤中の粉末状植物性たん白との乾燥質量の合計により算出することができる。
【0035】
本開示の植物性たん白含有加工食品には、組織化植物性たん白、結着剤の他、良好な風味を加工食品に付与する観点から、調味料をさらに含有させてもよい。調味料は、特に限定されず、所望の味等に応じて適宜選択することができるが、例えば、塩、胡椒、スパイス、グルタミン酸ナトリウム、醤油、酵母エキス等が挙げられる。
【0036】
植物性たん白含有加工食品における調味料の量は、特に限定されないが、加工食品に十分な風味を付与する観点から、結着剤中の植物性たん白全量に対して、例えば、1~20質量%とすることができる。
【0037】
また、本開示の実施態様によれば、植物性たん白含有加工食品は、上記結着剤を使用し、卵またはその由来成分を含まない。卵またはその由来成分を使用せずに加工食品を製造することは、動物性由来成分に起因するアレルギー等の回避やヴィーガン食の提供の観点から好ましい。かかる卵由来成分としては、卵黄、卵白や卵白粉等が挙げられる。
【0038】
また、本開示の一実施態様によれば、植物性たん白含有加工食品は、上述の通り、組織化植物性たん白と、結着剤とを混合することにより調製することができる。したがって、本開示の一実施態様によれば、植物性たん白含有加工食品の製造方法であって、組織化植物性たん白と、植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤とを混合する工程を含む方法が提供される。
【0039】
また、本開示の好ましい実施態様によれば、卵やその由来成分等を用いずに保形性の良好な加工食品を製造する観点から、植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤は、予め準備することが好ましい。したがって、本開示の一実施態様によれば、植物性たん白含有加工食品の製造方法は、植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤を準備する工程を含む。また、本開示の好ましい実施態様によれば、上記結着剤の準備工程は、植物性たん白とアルカリ化剤と混合して結着剤を取得する工程を含む。かかる工程は、上述の植物性たん白含有加工食品の記載に準じて実施することができる。
【0040】
組織化植物性たん白と結着剤との混合工程の温度は、特に限定されないが、組織化植物性たん白と結着剤とを十分に結着させる観点から、例えば、4~40℃であってよい。
また、上記混合工程の時間は、特に限定されず、組織化植物性たん白と、結着剤との結着状態に応じて適宜調整することができる。
【0041】
本開示の植物性たん白含有加工食品の製造において、調味料等の添加時期は特に限定されず、組織化植物性たん白と結着剤の混合の際に添加してもよく、予め結着剤中に添加していてもよいが、均一で安定した風味を加工食品に付与する観点からは、組織化植物性たん白、結着剤および調味料は共に混合することが好ましい。
【0042】
上記混合工程により得られる混合物は、所望の形状に成型してもよい。
【0043】
また、上記混合工程により得られる混合物は、そのまま未加熱で植物性たん白含有加工食品として提供してもよいが、さらに蒸煮等の加熱処理を施し、加熱処理物として提供することが好ましい。したがって、本開示の一実施態様によれば、植物性たん白含有加工食品は、加熱処理食品またはその原料として用いられる。
【0044】
また、植物性たん白含有加工食品は、優れた冷凍耐性および解凍耐性を有することから、冷凍食品またはチルド食品またはその原料として提供することが好ましい。
【0045】
また、植物性たん白含有加工食品に対しては、組織化植物性たん白を用いて、肉様の食感および外観を好適に付与することができる。すなわち、本開示によれば、畜肉、魚肉等を使用することなく、肉含有加工食品と同等の肉粒感、弾力感を有する植物性たん白含有加工食品を提供することができる。本開示の好ましい実施態様によれば、植物性たん白含有加工食品は代替肉または肉様食品またはその原料として用いられる。肉様食品としては、例えば、ヴィーガン用のハンバーグ様食品、メンチカツ様食品、ミートボール様食品等が挙げられる。
【0046】
また、本開示の一実施形態によれば、以下の[1]~[17]を提供することができる。
[1]組織化植物性たん白と、
粉末状植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤と
を含む、植物性たん白含有加工食品。
[2]上記組織化植物性たん白が、粒状植物性たん白および/または繊維状植物性たん白である、[1]に記載の加工食品。
[3]上記植物性たん白が、大豆たん白、エンドウ豆たん白および緑豆たん白質からなる群から選択される少なくとも一種である、[1]または[2]に記載の加工食品。
[4]上記組織化植物性たん白が、乾燥組織化植物性たん白の水戻し物または湯戻し物である、[1]~[3]のいずれかに記載の加工食品。
[5]上記結着剤のpHが8以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の加工食品。
[6]上記結着剤中のアルカリ化剤の量が、上記結着剤中の粉末状植物性たん白全量に対して0.1~50質量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の加工食品。
[7]上記アルカリ化剤が、有機物質または無機物質である、[1]~[6]のいずれかに記載の加工食品。
[8]上記アルカリ化剤が、塩基性アミノ酸、炭酸水素ナトリウム、酸化カルシウムおよび炭酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種である、[7]に記載の加工食品。
[9]上記塩基性アミノ酸が、リジン、ヒスチジンおよびアルギニンからなる群から選択される少なくとも一種である、[8]に記載の加工食品。
[10]上記組織化植物性たん白と、上記結着剤との質量比が、1:0.5~1:4である、[1]~[9]のいずれかに記載の加工食品。
[11]代替肉またはその原料として用いるための、[1]~[10]のいずれかに記載の加工食品。
[12]加熱処理食品またはその原料として用いるための、[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]冷凍食品またはその原料として用いるための、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]ヴィーガンまたはアレルギー罹患者のための、[1]~[13]のいずれかに記載の加工食品。
[15]卵またはその由来成分を含まない、[1]~[14]のいずれかに記載の加工食品。
[16]植物性たん白含有加工食品の製造方法であって、
組織化植物性たん白と、
粉末状植物性たん白とアルカリ化剤とを含む結着剤と
を混合する工程
を含む、方法。
[17]卵またはその由来成分を含まない、[16]に記載の方法。
【実施例0047】
以下、実施例により、本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。なお、特段の記載が無いかぎり、本明細書に記載の原料、単位、測定方法およびその他の規定は、JISおよびJASの記載に従う。
【0048】
試験例1
結着剤にアルギニンを添加した場合の効果と濃度範囲について検証した。まず、組織化(繊維状)大豆たん白(アペックス950(不二製油社製))60gにその質量の2倍量の水を加え、ほぐしたものを基材とした。
次に、粉末状植物性たん白である大豆たん白粉(フジプロFR、不二製油社製)60gに、その質量の5.6倍の水を加え、混合しペーストを作製した。ペースト中の粉末状大豆たん白に対して、その0.0~40.0質量%のアルギニン(関東化学社製)を加えて混合し、結着剤(つなぎ)を得た。
次に、基材と結着剤と調味料(食塩・グルタミン酸ナトリウム)とを混合して得られた原料混合物25gを成型し、成型物(基材:結着剤:調味料=60:39:1(質量比)、組織状植物性たん白(乾燥質量):結着剤=20:39(質量比))を作製した。次に、成型物を蒸気で10分間加熱し、冷凍保存した。
【0049】
冷凍保存したサンプルは、常温で2時間、自然解凍し、2~5名の専門パネルにて、以下の基準に従い、味・風味と保形性の官能評価を実施した。コントロールは試験区1-1とした。
【0050】
味・風味
5:コントロールと比較して苦みまたは異風味を感じない
4:コントロールと比較して苦みまたは異風味をやや感じない
3:コントロールと同等である
2:コントロールと比較して苦みまたは異風味をやや感じる
1:コントロールと比較して苦みまたは異風味を感じる
【0051】
保形性
5:コントロールと比較して保形性が強い
4:コントロールと比較して保形性がやや強い
3:コントロールと同等である
2:コントロールと比較して保形性がやや弱い
1:コントロールと比較して保形性が弱い
【0052】
【0053】
表1において、試験区1-2~1-10のいずれも保形性は良好であり、ぬめりは確認されなかった。さらに、結着剤中のアルギニンの割合が、結着剤中の粉末状大豆たん白に対して2.0~10.0質量%(試験区1-2~1-7)、特には6.0~10.0質量%(試験区1-5~1-7)の範囲内では、味・風味に大きな影響を与えず、保形性を強めることが確認された。
【0054】
試験例2
アルギニンを炭酸水素ナトリウムに代える以外試験例1の方法と同様にして、結着剤に炭酸水素ナトリウムを添加した場合の効果と濃度範囲について検証した。コントロールは試験区2-1とした。
結果は表2に示される通りであった。
【0055】
【0056】
表2において、試験区2-2~2-9のいずれも保形性は良好であり、ぬめりは確認されなかった。結着剤中の炭酸水素ナトリウムの割合が、結着剤中の粉末状大豆たん白に対して4.0~6.0質量%(試験区2-2~2-4)、特には4.0~5.3質量%(試験区2-2~2-3)の範囲内では、味・風味に大きな影響を与えず、保形性を強めることが確認された。
【0057】
試験例3
アルギニン(0.0~40.0質量%)を酸化カルシウム(貝殻焼成カルシウム、カワイマテリアル社製)(0.0~4.0質量%)に代える以外試験例1の方法と同様にして、結着剤に酸化カルシウムを添加した場合の効果と濃度範囲について検証した。コントロールは試験区3-1とした。
結果は表3に示される通りであった。
【0058】
【0059】
表3において、試験区3-2~3-8のいずれも保形性は良好であり、ぬめりは確認されなかった。結着剤中の酸化カルシウムの割合が、結着剤中の粉末状大豆たん白に対して0.5~2.0質量%(試験区3-2~3-5)、特には0.7~1.3質量%(試験区3-3~3-4)の範囲内では、味・風味に大きな影響を与えず、保形性を強めることが確認された。
【0060】
試験例4
アルギニン(0.0~40.0質量%)を炭酸ナトリウム(日本ガーリック社製)(0.0~8.0質量%)に代える以外試験例1の方法と同様にして、結着剤に炭酸水素ナトリウムを添加した場合の効果と濃度範囲について検証した。コントロールは試験区4-1とした。
結果は表4に示される通りであった。
【0061】
【0062】
表4において、試験区4-2~4-6のいずれも保形性は良好であり、ぬめりは確認されなかった。結着剤中の炭酸ナトリウムの割合が、結着剤中の粉末状大豆たん白に対して、1.0~6.0質量%(試験区4-2~4-5)、特に2.0~4.0質量%(試験区4-2~4-4)の範囲内では、味・風味に大きな影響を与えず、保形性を強めることが確認された。
【0063】
試験例5
アルギニンの量を0.0、4.2または6.0質量%とし、粉末状植物性たん白として大豆たん白粉(アペックス950、不二製油社製)、エンドウ豆たん白粉(PP-CS、オルガノフードテック社製)または緑豆たん白粉(オルプロテイン、オルガノフードテック社製)を用いる以外試験例1と同様の手法により、結着剤に用いる粉末状植物性たん白の種類の影響を検討した。コントロールとして、試験区5-2に対しては5-1、5-4に対しては5-3、5-5に対しては5-4を用いた。
【0064】
なお、豆臭については、2~5名の専門パネルにて、以下の基準に従い、評価を実施した。
【0065】
豆臭
5:豆臭を強く感じる
4:豆臭を感じる
3:豆臭をほとんど感じない
2:豆臭を感じないか、極めてわずかにしか感じない
1: 豆臭を全く感じない
【0066】
結果は表5に示される通りであった。
【0067】
【0068】
結着剤に大豆たん白粉の代わりに、エンドウ豆たん白粉または緑豆たん白粉を用いた場合でも、保形性の向上が確認された。
【0069】
試験例6
原料混合物を作製する際の原料投入手順について検討した。
手順A
まず、粒状大豆たん白(ニューフジニック80N、不二製油社製)60gに対して、その質量の1.5倍の水を加え、基材とした。
次に、粉末状植物性たん白(フジプロFR、不二製油社製)60gに、その質量の5.6倍の水を加え、混合しペーストを調製した。次に、ペースト中の粉末状大豆たん白に対して、その6.0質量%のアルギニン(関東化学社製)を加えて混合し、結着剤(つなぎ)を調製した。
次に、基材と結着剤と調味素材(食塩、グルタミン酸ナトリウム、醤油)とを混合し、原料混合物A(基材:結着剤:調味料=60:39:1(質量比)、組織状植物性たん白(乾燥質量):結着剤=24:39)を作製した。
【0070】
手順B
まず、粒状大豆たん白に対して、その質量の1.5倍の水を加え、基材とした。
次に、手順Aで用いた量と同量にて、粉末状植物たん白、水、アルギニン、調味素材(食塩、グルタミン酸ナトリウム、醤油)とを混合し、原料混合物Bを作製した。
【0071】
原料混合物AおよびBから25gを取り出し、成型し、成型物AおよびBを調製した。次に、成型物AおよびBを蒸気で10分間加熱し、冷凍保存した。冷凍保存したサンプルは、常温で2時間、自然解凍し、2~5名の専門パネルにて、試験例1と同様の手法により保形性の官能評価を実施した。なお、コントロールとしては、試験区6-1を用いた。
【0072】
【0073】
原料混合物の作製手順として、手順A(結着剤を調製してから水和・解繊した粒状大豆たん白と混合)と手順B(結着剤を調製せずに水和・解繊した粒状大豆たん白と混合)とを比較した場合、手順Aの方が手順Bよりも保形性が強くなることが確認された。