(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050988
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】クリップ保持手段、成形型およびシートパッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
A47C 31/02 20060101AFI20240403BHJP
B68G 7/052 20060101ALI20240403BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20240403BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240403BHJP
B29C 44/12 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A47C31/02 B
B68G7/052 A
B29C39/10
B29C44/00 A
B29C44/12
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024024414
(22)【出願日】2024-02-21
(62)【分割の表示】P 2020518733の分割
【原出願日】2020-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2019008427
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 真人
(57)【要約】
【課題】発泡体が不必要な部位に付着することを防止できるクリップ保持手段、成形型およびシートパッドの製造方法を提供する。
【解決手段】シートパッド20の発泡成形時に用いられるクリップ保持手段50であって、シートパッド20は、シートカバー18をシートパッド20に取り付けるために用いられるクリップ24を有する。クリップ保持手段50は、成形型40の下型42に設けられ、発泡成形時にクリップ24を保持する。クリップ保持手段50は、クリップ24の一対の係止片30によって挟み込まれる係止部54と、下型42から係止部54まで延びる基部55と、下方から上方に向かうにつれて基部55から側方に張り出す庇部56を有している。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートパッドが発泡成形される成形型に着脱可能に取り付けられるクリップ保持具であって、
前記クリップ保持具は、
クリップが係止する係止部と、
前記クリップ保持具の底面から前記係止部まで延びる基部と、
前記底面から前記係止部に向かうにつれて、前記基部から側方に張り出す庇部と、を有し、
前記底面を基準とした場合、前記係止部先端までの長さは前記庇部先端までの長さよりも長い、
クリップ保持具。
【請求項2】
シートカバーを取り付けるために用いられるクリップを有するシートパッドの製造方法であって、
成形型は、前記クリップを保持するクリップ保持具を取り付け可能な下型と、上型と、からなり、
前記クリップ保持具は、前記クリップのベース部から延びる一対の係止片によって挟み込まれる係止部と、前記下型から前記係止部まで延びる基部と、を有し、
前記基部には、下方から上方に向かうにつれて側方に張り出す庇部が設けられており、
前記庇部と前記ベース部との間に少なくとも隙間を有し、
前記クリップ保持具に前記クリップをセットし、
前記成形型に発泡体原料を供給し、
前記発泡体原料が発泡して下方から上方へ上ってくる発泡体原料を、前記庇部によって、前記クリップ保持具と前記クリップとの組付け部位から離れる方向へ案内し、
前記発泡体原料を発泡させて前記シートパッドを成形する、シートパッドの製造方法。
【請求項3】
前記クリップ保持具底面からの前記係止部の高さは、前記クリップ保持具底面からの前記庇部の高さよりも高い、請求項2に記載のシートパッドの製造方法。
【請求項4】
前記庇部は、前記基部の下端および上端との間の中間位置から側方へ向かって張り出している、請求項2または3に記載のシートパッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シートパッドの成形時にクリップを保持するクリップ保持手段、このクリップ保持手段を有する成形型およびこのクリップ保持手段を用いたシートパッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用のシートは、シートパッドの一面に形成された溝部の底に設けられたクリップでシートカバーを保持することで、シートカバーの一部を溝部に引き込んでシートカバーを張った状態で取り付けている(例えば、特許文献1参照)。このようなクリップは、対向して配置された一対の係合爪を有している。シートカバーに取り付けられた矢尻形状の取付具が一対の係合爪の間に嵌め合わされ、シートカバーがシートパッドに保持される。
【0003】
前述のシートパッドは、特許文献1のように、成形型に設置された固定具にクリップを取り付けて、シートパッドの溝部の底に対応する位置にクリップを配置した状態で、発泡体原料を発泡・硬化させるインサート成形により得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2017-60582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の固定具は、係合爪の形状に合わせて壁面を形成することで、一対の係合爪の間に発泡体原料が入り込むことを抑えている。しかしながら、係止爪の形状に合わせて精度良く固定具の壁面を形成すると、固定具にクリップを取り付ける際に大きな力が必要となり、固定具にクリップを取り付け難くなってしまう。また、固定具とクリップとの係合力が強くなり過ぎると、シートパッドを脱型する際に固定具からクリップが外れ難くなり、シートパッドからクリップが脱落してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものである。本発明は、クリップを着脱し易くできると共に、発泡体が不必要な部位に付着することを防止できるクリップ保持手段、成形型およびシートパッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によれば、
シートパッドの発泡成形時に用いられるクリップ保持手段であって、
前記シートパッドは、シートカバーを前記シートパッドに取り付けるために用いられるクリップを有し、
前記クリップ保持手段は、成形型の下型に設けられ、発泡成形時に前記クリップを保持し、
前記クリップ保持手段は、
前記クリップの一対の係止片によって挟み込まれる係止部と、前記下型から前記係止部まで延びる基部と、
下方から上方に向かうにつれて前記基部から側方に張り出す庇部と、を有するクリップ保持手段が提供される。
【0008】
上述したクリップ保持手段において、
前記係止部は、前記係止片を受け入れ可能でかつ側方に向かって凹んだ凹状部と、前記係止片を抜け止めしかつ側方に向かって膨らんだ抜止部とを有し、
前記庇部が張り出した方向から見て、前記庇部は、前記凹状部を仮想的に下方に動かしたときに前記凹状部が通過する仮想領域を左右方向に横切るように設けられていてもよい。
【0009】
上述したクリップ保持手段において、
前記庇部が張り出した方向から見て、前記庇部の左右方向に横切った両端部は、前記凹状部の縁に沿って湾曲しながら上方に延びていてもよい。
【0010】
上述したクリップ保持手段において、
前記庇部は、前記基部の下端および上端との間の中間位置から側方へ向かって張り出していてもよい。
【0011】
本発明の一側面によれば、
上述したクリップ保持手段が設けられた、シートパッドの成形型であって、
前記シートパッドの表面に設けられた溝部の中に前記クリップが設けられており、
前記下型には、前記溝部を形成する溝形成部が設けられており、
前記溝形成部に、前記クリップ保持手段が取り付けられる設置凹部が設けられている、成形型が提供される。
【0012】
本発明の一側面によれば、
シートカバーを取り付けるために用いられるクリップを有するシートパッドの製造方法であって、
成形型は、前記クリップを保持するクリップ保持手段が設けられた下型と、上型と、からなり、
前記クリップ保持手段に前記クリップをセットし、
前記成形型に発泡体原料を供給し、
前記発泡体原料が発泡して、下方から上方へ上ってくる発泡体原料を前記クリップ保持手段によって、前記クリップ保持手段と前記クリップとの組付け部位から離れる方向へ案内しながら、前記発泡体原料を発泡させて前記シートパッドを成形する、シートパッドの製造方法が提供される。
【0013】
上述したシートパッドの製造方法において、
前記クリップ保持手段は、前記クリップの一対の係止片によって挟み込まれる係止部と、前記下型から前記係止部まで延びる基部と、を有し、
前記基部には、下方から上方に向かうにつれて側方に張り出す庇部が設けられており、
前記庇部が、前記クリップ保持手段と前記クリップとの組付け部位から離れる方向へ前記発泡体原料を案内してもよい。
【0014】
上述したシートパッドの製造方法において、
前記庇部は、前記基部の下端および上端との間の中間位置から側方へ向かって張り出していてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るクリップ保持手段および成形型によれば、クリップを着脱し易くできると共に、発泡体が不必要な部位に付着することを防止できる。
本発明に係るシートパッドの製造方法によれば、クリップを着脱し易くできると共に、発泡体が不必要な部位に付着することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例に係るシートパッドが用いられたシートを示す斜視図である。
【
図2】実施例のシートパッドを示す平面図である。なお、シートパッドの一面側から示している。
【
図3】実施例のシートパッドにおいて、クリップへのシートカバーの取り付けを説明する断面図である。
【
図6】実施例のクリップ保持具を示す斜視図である。
【
図7】実施例のクリップ保持具を下型に設置した状態を示す斜視図である。
【
図8】実施例のクリップ保持具を示す平面図である。
【
図9A】実施例のクリップ保持具を示す正面図であって、クリップを取り付ける前の状態を示す。
【
図9B】実施例のクリップ保持具を示す正面図であって、クリップを取り付けた後の状態を示す。
【
図10A】実施例のシートパッドの製造過程を示す説明図であり、クリップ保持具を下型に取り付ける様子を示す。
【
図10B】実施例のシートパッドの製造過程を示す説明図であり、発泡体原料を注入した後の様子を示す。
【
図11A】クリップをクリップ保持具に取り付ける直前の様子を示す。なお、
図9BのA-A線に対応する位置での断面を示している。
【
図11B】クリップをクリップ保持具に取り付けた様子を示す。なお、
図9BのA-A線に対応する位置で切断している。
【
図12】クリップ保持具の変更例を示す斜視図である。
【
図13】
図12のB-B線に対応する位置で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係るクリップ保持手段およびシートパッドの製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、実施例では、乗用車の乗員室に設置されるシート10に用いられるシートパッド20を挙げて説明する。
【実施例0018】
図1は、本発明の実施例に係るシートパッド20が用いられたシート10を示す斜視図である。
図1に示すように、車両用のシート10は、乗員の下半身を支持する座部12と、この座部12の後部に傾動可能に設置されて乗員の上半身を支持する背もたれ部14と、この背もたれ部14の上部に設置されて乗員の頭部を支持するヘッドレスト16とを有する。座部12および背もたれ部14は、主として軟質ポリウレタンフォーム(発泡体)で形成されている。座部12および背もたれ部14は、クッション性を有するシートパッド20と、シートパッド20の全体を覆うように張り込まれた布地や合成皮革や本革などのシートカバー18とを有している。なお、座部12と背もたれ部14は、その基本的な構造が類似すると共に、製造方法も同様であるので、座部12をなすシートパッド20を挙げて以下に説明する。また以下の説明においては、シートパッド20の説明において、車両への設置状態を基準として上下前後左右を定義する。座部12を構成するシートパッド20では、着座した乗員の支持面側が上側になり、車体側が下側になる。
【0019】
図2はシートパッド20を示す平面図である。
図2は、シートパッド20の上面を示している。
図2に示すように、シートパッド20には、乗員側となる上面に開口する複数条の溝部22が設けられている。実施例のシートパッド20には、前後方向へ延びる2条の溝部22,22と、前後方向へ延びる2条の溝部22,22の間において左右方向へ延びる溝部22とが形成されている。
【0020】
図3はシートカバー18のシートパッド20への取り付けを説明するための断面図である。
図2および
図3に示すように、シートパッド20には、溝部22の底に、クリップ24の係止片30が上側へ突出した状態で設置されている。シートカバー18に取り付けられた矢尻形状の取付具26をクリップ24で保持した状態で、シートカバー18を溝部22の内側へ引き込むことで、皺の無い状態(テンションがかけられた状態)でシートカバー18がシートパッド20に取り付けられている。
【0021】
図4はクリップ24を示す斜視図である。
図4に示すように、クリップ24は、シートパッド20を構成する発泡体に埋め込まれる板状のベース部28と、ベース部28から上側(シートパッド20の一面側)へ延出するように設けられた二対の係止片30とを備えている。二対の係止片30,30は、溝部22が延びる方向に間隔を隔てて設けられている。一対の係止片30は、互いが溝部22の幅方向に向かい合っている。
【0022】
係止片30は、その先端に、相手方の係止片30へ向けて出っ張るように形成された爪部30aを有している。また、ベース部28は、係止片30がベース部28から突出する部位よりも外側部位に貫通孔28aを備えている。この貫通孔28aは、後述するシートパッド20の成形時に、発泡体原料H(
図11B)の流通を許容する。なお本例のクリップ24は、ベース部28および係止片30が一体成形された合成樹脂の成形品である。
【0023】
なお、以降の説明において、溝部22の溝壁が向かい合う方向を幅方向といい、溝部22が延びる方向を横方向という。また溝部22の深さ方向を上下方向という。
【0024】
次に、シートパッド20を成形する成形型40について説明する。
図10A及び
図10Bは、シートパッド20の製造過程を示す図である。
図10Aに示すように、成形型40は、下型42と、型閉じ時に下型42の上側に配置される上型44とから構成されている。成形型40は、上型44を回動することで、下型42と上型44との間にキャビティ46を形成する型閉じ状態(
図10B参照)と、成形型40内にアクセスできる型開き状態(
図10A参照)と、に変更可能である。成形型40は、キャビティ46において、シートパッド20を上下反対向きに成形するようになっている。つまり、クリップ24が下方に位置する姿勢でシートパッド20を成形するように、成形型40が構成されている。シートパッド20の上面および側面は下型42で主に成形され、シートパッド20の下面は上型44で主に成形されている。
【0025】
図5は、成形型40の下型42を示す平面図である。
図5に示すように、下型42は、シートパッド20の上面を規定する下型面(型面)42aから上方へ突出する凸型部48を備えている。凸型部48は、シートパッド20の溝部22を規定する。
【0026】
図7は、クリップ保持具50が下型42に設置される状態を示す斜視図である。
図7に示すように、下型42には、溝部22を形成する凸型部(溝形成部)48が設けられている。この凸型部48に、クリップ保持具(クリップ保持手段)50が取り付けられる設置凹部48aが設けられている。本例のクリップ保持具50は、ねじ止めにより、下型42に対して着脱可能に取り付けられている。下型42は、凸型部48およびクリップ保持具50によって、溝部22を成形する。
【0027】
図6は、クリップ保持具50を示す斜視図である。
図8は、クリップ保持具50を示す平面図である。
図9Aおよび
図9Bは、クリップ保持具50を示す正面図である。
図9Aはクリップを取り付ける前の状態を示す。
図9Bはクリップを取り付けた後の状態である。
図6、
図8、
図9Aおよび
図9Bに示すように、クリップ保持具50は、溝部22の形状に応じて形成されたステンレス等の金属からなるブロック形状である。クリップ保持具50は、上下方向および横方向に延びる側壁面51を備えている。この側壁面51は、シートパッド20の成形時に溝部22の溝壁を成形する(
図7参照)。
【0028】
クリップ保持具50は、凹状部52と、係止部54を備えている。凹状部52は、側壁面51をその内側に凹ませることにより形成されている。凹状部52は、クリップ24の係止片30を受け入れ可能な部位である。係止部54は、凹状部52の内側に設けられている。係止部54は、凹状部52に受け入れた係止片30を抜け止めする。
【0029】
より具体的には、クリップ保持具50は、上下方向および横方向に延びる両側の側壁面51,51を凹ませて形成され、一対の係止片30,30を受け入れ可能に構成された一対の凹状部52,52を備えている。また、クリップ保持具50は、一対の凹状部52,52の間に設けられ、一対の係止片30,30が嵌め合わせられる係止部54を備えている(
図11A参照)。
【0030】
更に、クリップ保持具50は、庇部56を有している。庇部56は、側壁面51に設けられている。庇部56は、クリップ保持具50の下側から凹状部52の下縁52aに向かうにつれて、側壁面51から張り出している。本例のクリップ保持具50は、二対の係止片30,30に対応して、係止部54および一対の凹状部52,52からなる組を2組備えている。
【0031】
図6、
図9Aおよび
図9Bに示すように、凹状部52は、側壁面51の上端から下側へ向けた途中位置に亘る領域に設けられている。凹状部52は、係止片30の外形に対応する形状である。凹状部52に受け入れた係止片30の先端に、係止部54よりも幅方向外側へ張り出す凹状部52の下縁52aが対向する。また、凹状部52に受け入れた係止片30の側縁に、係止部54よりも幅方向外側へ張り出す凹状部52の側縁52bが対向する(
図9B参照)。クリップ保持具50には、一対の凹状部52,52が、係止部54を挟んで対称な位置関係で配置されている。なお側縁52bとは、
図9Aで示す方向からクリップ保持具50を見たときに見える凹状部52の縁を言う。
【0032】
図6に示すように、係止部54は、上下方向の中間部位に、上端から下側へ向かうにつれて幅方向外側へ張り出すように形成された抜止部54aを備えている。係止部54の幅方向両側に、抜止部54aが設けられている。係止部54に一対の係止片30,30が嵌め合わされた際に、抜止部54aと係止片30の爪部30aとの引っ掛かりにより、クリップ24が係止部54に保持される。係止部54に一対の係止片30,30を嵌め合わせると、ベース部28がクリップ保持具50の上端に載ることにより、クリップ24がクリップ保持具50に支持される(
図11B参照)。このとき、各係止片30がクリップ保持具50の凹状部52の下縁52aおよび両側縁52b,52bで覆われるため、係止片30と係止部54との間に発泡体原料Hが侵入することが防止されている(
図9B参照)。
【0033】
図11A及び
図11Bは、シートパッド20の製造過程におけるクリップ保持具50の作用を示す説明図である。なお、
図9BのA-A線に対応する位置で切断した断面を示している。
図11Aに示すように、クリップ保持具50は、クリップ24の一対の係止片30によって挟み込まれる係止部54と、下型42から係止部54まで延びる基部55と、下方から上方に向かうにつれて基部55から側方に張り出す庇部56を有している。つまり係止部54と下型42との間に基部55から側方に張り出した庇部56が設けられている。
【0034】
次に、前述したクリップ保持具50を設けた成形型40によるシートパッド20の製造方法について説明する。まず、下型42に設置されたクリップ保持具50にクリップ24を取り付ける(
図10Aおよび
図11A参照)。具体的には、クリップ24の一対の係止片30,30を係止部54に嵌め合わせる。これにより、各係止片30が対応する凹状部52に収容され、ベース部28がクリップ保持具50の上側に載置された状態で、クリップ24がクリップ保持具50で保持される。この状態で、下型42の下型面42aに発泡体原料Hを供給し、成形型40を型閉じして、キャビティ46において発泡体原料Hを発泡・硬化させて、シートパッド20を成形する(
図10B参照)。
【0035】
図11Bに示すように、下型42に供給された発泡体原料Hは発泡するにしたがって下型42から上方へ上ってくる。この下方から上方へ上ってくる発泡体原料Hをクリップ保持具50によって、クリップ保持具50とクリップ24との組付け部位から離れる方向へ案内しながら、発泡体原料Hを発泡させてシートパッド20を成形する。
【0036】
具体的には、発泡体原料Hが下方から上方へ上ってくる際に、発泡体原料Hは庇部56の傾斜面56aに案内され、クリップ保持具50とクリップ24との組付け部位から離れる。このため、発泡体原料Hは直接凹状部52に流れ込まず、庇部56によって遠回りした経路を通って凹状部52に流れ込むこととなる。
【0037】
このように、クリップ保持具50の庇部56によって、発泡体原料Hが凹状部52に到達するタイミングを遅らせることができる。これにより、凹状部52には、庇部56がなかった場合に凹状部52に直接流れ込む発泡体原料Hと比べて、発泡・硬化が進行して粘度が上昇した状態の発泡体原料Hが到来することとなる。発泡・硬化が進み粘度の高い発泡体原料Hは、小さな隙間には入り込みにくい。その結果、凹状部52と係止片30の隙間から係止片30の内側に発泡体原料Hが侵入しにくく、係止片30の内側(不必要な部位)に発泡体が付着することを抑止できる。ここで、係止片30の内側とは、係止片30における係止部54と対向する側であり、シートカバー18の取付具26を取り付けた際に、取付具26に対向して係合する側となる。
【0038】
ところで、クリップ保持具50の抜止部54aとクリップ24の係止片30の爪部30aとは、できるだけ小さな係合力で係合されていることが好ましい。これにより、クリップ保持具50とクリップ24との脱着を小さな力で行うことができる。本例のクリップ保持具50は、クリップ24を小さな力でセットできるので作業性が向上している。また、クリップ24が一体化されたシートパッド20を成形後、成形型40から脱型する際、クリップ保持具50からクリップ24を小さな力で外すことができるので、クリップ保持具50からクリップ24が外れないことに起因するシートパッド20の破損やクリップ24が下型42に残ることを防止できる。
ここで、クリップ保持具50とクリップ24との係合力が小さいと両者の間に隙間が生じ易くなる。その場合、シートパッド20の発泡成形時に、その隙間に発泡体原料Hが浸入し、係止片30の爪部30aに発泡体が付着してしまう。爪部30aに発泡体が付着するとクリップ24とシートカバー18の取付具26との係合力が低下してしまう。このため、クリップ24と取付具26との係合力を確保するために、後処理にて発泡体を除去する補修作業が必要となる。
一方、クリップ保持具50とクリップ24との間に隙間を生じないように両者の寸法を設定すると、クリップ24に寸法誤差が生じた場合、クリップ保持具50にクリップ24をセットする際に大きな力が必要となり、作業性が悪化する。特に樹脂製のクリップ24を採用した場合には、寸法誤差が生じやすく、作業性が悪化しやすい。また、クリップ24が一体化されたシートパッド20を成形後、成形型40から脱型する際、クリップ保持具50からクリップ24が外れないことに起因するシートパッド20の破損やクリップ24が下型42に残る不具合が発生し易くなる。
しかしながら本実施形態に係るシートパッド20の製造方法によれば、上述した通り、クリップ保持具50の庇部56により、発泡体原料Hがクリップ24の係止片30の爪部30aとの間の隙間に到達するタイミングが遅くなる。このため、クリップ保持具50とクリップ24との係合力が小さく設定され両者の間に隙間があっても、係止片30の内側に発泡体が付着することを防止できる。これにより、係止片30の内側に付着した発泡体を除去する補修作業の手間を軽減することができる。また、係止片30の内側への発泡体の付着がないことで、シートカバー18を引き込む取付具26とクリップ24との係合力を維持しやすく、繰り返しクリップ保持具50を使ってもシートパッド20にシートカバー18を適切に保持することができる。
【0039】
また本実施形態に係るシートパッド20の製造方法によれば、詳細なメカニズムは不明であるが、クリップ24の周囲にボイド(欠肉した空洞部)が生じにくい。このため、不良率が低く安定してシートパッド20を製造できる。
【0040】
本実施形態において、係止部54は、係止片30を受け入れ可能でかつ側方に向かって凹んだ凹状部52と、係止片30を抜け止めし、かつ側方に向かって膨らんだ抜止部54aとを有する。
図9Aおよび
図9Bは、庇部56が張り出した方向からクリップ保持具50を見た図である。
図9Aにおいて、庇部56は、凹状部52を仮想的に下方に動かしたときに凹状部52が通過する仮想領域Xを左右方向に横切るように設けられている。つまり、
図9Aにおいて庇部56の右端部は凹状部52の右端部よりも右方に位置し、庇部56の左端部は凹状部52の左端部よりも左方に位置している。
【0041】
図9Aに示したように、庇部56が仮想領域Xを横切っているので、庇部56が無い場合に発泡成形時に下方から上方に仮想領域Xを通って凹状部52に直接侵入しようとする発泡体原料Hを、庇部56によって遮ることができる。庇部56によって遮られた発泡体原料Hは庇部56の張り出し方向に案内されて、凹状部52から離れる方向へ案内される。これにより、庇部56が無い場合に比べて凹状部52に発泡体原料Hが侵入するタイミングを遅らせることができる。発泡体原料Hは時間経過とともに粘度が大きくなり、硬化していくため、周囲よりも遅れて凹状部52に侵入した発泡体原料Hが係止部54と係止片30との間に入り込むことが抑制される。
【0042】
本実施形態において、
図9Aの庇部56が張り出した方向から見て、庇部56の左右方向に横切った両端部56bは、凹状部52の縁に沿って湾曲しながら上方に延びている。両端部56bによって仮想領域Xの近傍に位置する発泡体原料Hが粘度の低い状態で凹状部52に入り込むことを抑制でき、より効果的に係止部54と係止片30との間に発泡体原料Hが入り込むことを抑制できる。
なお、
図9Aの庇部56が張り出した方向から見た上下方向において、庇部56の左右方向に横切った両端部56bは、抜止部54aの上端54cと凹状部52の下端との中間位置よりも上方まで延びていることが好ましい。
【0043】
図11Aに示したように、本実施形態において、庇部56は、基部55の下端および上端との間の中間位置から側方へ向かって張り出している。ここでは、基部55の下端とは、クリップ保持具50の下型42と接する下面である。また、基部55の上端とは、凹状部52の下端である。中間位置とは、基部55の下端と上端とから等距離にある一点のみをいうものではない。中間位置とは、基部55の下端と上端との間に上下方向に延びる領域の任意の位置を言う。もっとも、
図11Aに示した方向から見て、基部55の下端および上端との間の領域を上下方向に三等分したときに、中央の領域から庇部56が側方に向かって張り出していることが好ましい。
庇部56を基部55の下端から側方に張り出させた場合に比べて、庇部56の傾斜面56aの傾斜角度を急峻にすることができる。この傾斜角度が急峻であると、発泡体原料Hをより効果的に凹状部52から離す方向へ案内しやすい。
【0044】
(変更例)
前述した構成に限らず、例えば、以下のように変更してもよい。
(1)実施例では、凹状部の幅方向外側への開口形状に合わせて庇部を形成し、凹状部に嵌めた係止片と庇部とが幅方向に重ならない構成であるが、これに限らない。例えば、庇部を、凹状部の幅方向外側の少なくとも一部を覆うように形成してもよく、この場合、庇部が、凹状部に嵌めた係止片の幅方向外側に重なるように配置される。具体的には、
図12および
図13に示すように、庇部56を、凹状部52の下縁52aから上側へ延出するように形成し、この庇部56によって、凹状部52の側縁52bの途中位置まで凹状部52を塞いでいる。このように庇部56を構成することで、凹状部52に嵌めた係止片30に庇部56の上部が重なり、係止片30と凹状部52の下縁52aとの間や係止片30と凹状部52の側縁52bの下部との間から発泡体原料Hを侵入し難くすることができる。なお、庇部56は、凹状部52への係止片30の嵌め込みを妨げない形状であれば、凹状部52の側縁52bの上部まで凹状部52を覆うように形成してもよい。
【0045】
(2)実施例では、クリップ保持手段を下型の凸型部と別体に構成したが、これに限らず、クリップ保持手段を凸型部に一体的に形成してもよい。
(3)クリップおよびクリップ保持手段の材質は、実施例に限らない。例えば、クリップを金属製にしてもよい。
【0046】
本出願は、2019年1月22日出願の日本特許出願(特願2019-008427)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。