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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051005
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】再生毛包原基の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240403BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20240403BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240403BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20240403BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20240403BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240403BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/00
A61K35/28
A61K35/36
A61P17/14
A61L27/38 300
A61L27/38 200
A61L27/18
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025013
(22)【出願日】2024-02-21
(62)【分割の表示】P 2020523073の分割
【原出願日】2019-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2018106626
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】508253111
【氏名又は名称】株式会社オーガンテック
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝
(72)【発明者】
【氏名】森 悠
(72)【発明者】
【氏名】豊島 公栄
(57)【要約】
【課題】 従来の製造方法に比して、簡易かつ大量に再生毛包原基の製造を可能にする、再生毛包原基の製造方法を提供すること。
【解決手段】 上皮系細胞を含む第1の細胞集団と、間葉系細胞を含む第2の細胞集団とを接触させながら培養することにより、毛包原基を得る工程を含む、再生毛包原基の製造方法が提供される。本発明の製造方法において、前記第1の細胞集団および前記第2の細胞集団の少なくともいずれか一方は、前記接触の前に細胞凝集体を形成しており、前記細胞凝集体に対して他方の細胞集団を接触させる際、培養支持体を使用しないことを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生毛包原基の製造方法であって、
上皮系細胞を含む第1の細胞集団と、間葉系細胞を含む第2の細胞集団とを接触させながら培養することにより、再生毛包原基を得る工程を含み、
ここで、
前記第1の細胞集団および前記第2の細胞集団の少なくともいずれか一方は、前記接触の前に細胞凝集体を形成しており、
前記細胞凝集体に対して他方の細胞集団を接触させる際、培養支持体を使用しないことを特徴とする
製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記接触に先立ち、前記第1の細胞集団として、前記上皮系細胞を凝集させた第1の細胞凝集体を形成する工程をさらに含む、
製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法であって、
前記第1の細胞凝集体を形成する工程は、上皮系細胞のスフェロイドを得ることを含む、
製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記接触に先立ち、前記第2の細胞集団として、前記間葉系細胞を凝集させた第2の細胞凝集体を形成する工程をさらに含む、
製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法であって、
前記第2の細胞凝集体を形成する工程は、間葉系細胞のスフェロイドを得ることを含む、
製造方法。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記第1の細胞凝集体を形成する工程および前記第2の細胞凝集体を形成する工程の少なくとも一方は、底部に前記上皮系細胞または前記間葉系細胞が集積されるように構成された凹部の中で、前記上皮系細胞または前記間葉系細胞を凝集させることを含む、
製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法であって、
前記凹部は、V形状またはU形状の底部を有する、
製造方法。
【請求項8】
請求項2~7のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記凝集体の形成は、600xg以下の遠心力(RCF)で行う遠心処理によって行う、
製造方法。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記接触は、前記凹部に配置された前記第2の細胞凝集体の上に、前記第1の細胞凝集体を配置することにより行う、
製造方法。
【請求項10】
請求項6~8のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記接触は、前記凹部に配置された前記第2の細胞凝集体に、前記第1の細胞集団を含む細胞懸濁液を供給することにより行う、
製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記上皮系細胞を含む第1の細胞集団は、バルジ領域上皮由来の培養細胞を単一細胞化処理した細胞の集団である、
製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記間葉系細胞を含む第2の細胞集団は、毛乳頭由来の培養細胞を単一細胞化処理した細胞の集団である、
製造方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記上皮系細胞および前記間葉系細胞の少なくとも一方は、成体の毛包由来である、
製造方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記接触の前に、前記第1の細胞集団の細胞凝集体または前記第2の細胞集団の細胞凝集体にガイドを配置する工程をさらに含む、
製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法であって、
前記ガイドは、糸状構造物である、
製造方法。
【請求項16】
請求項14または15に記載の製造方法であって、
前記ガイドを配置する工程は、前記第1の細胞凝集体または前記第2の細胞凝集体の形成開始前にまたは形成過程で、前記第1の細胞集団の細胞凝集体または前記第2の細胞集団の細胞凝集体が形成される位置に、前記ガイドを配置することを含む、
製造方法。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記ガイドを配置する工程は、前記第1の細胞集団の細胞凝集体または前記第2の細胞集団の細胞凝集体のいずれかにガイドを挿入することを含む、
製造方法。
【請求項18】
請求項14~17のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記ガイドが配置された細胞凝集体と他方の細胞集団とを、前記ガイドが少なくとも前記第1の細胞集団またはその細胞凝集体を貫いてその外側に突出するように接触させることをさらに含む、
製造方法。
【請求項19】
請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記接触の後に、少なくとも前記第1の細胞集団を貫いてその外側に突出するように、ガイドを挿入する工程をさらに含む、
製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の製造方法であって、
前記ガイドは、糸状構造物である、
製造方法。
【請求項21】
請求項14~20のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記ガイドは、合成ポリマーまたは生体吸収性ポリマーから作られた繊維、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、動物繊維、または、植物繊維である、
製造方法。
【請求項22】
再生毛包原基の製造方法であって、
上皮系細胞を凝集させた第1の細胞凝集体を形成する工程と、
間葉系細胞を凝集させた第2の細胞凝集体を形成する工程と、
前記第1の細胞凝集体と前記第2の細胞凝集体とを、接触させながら培養することにより、毛包原基を得る工程を含み、
一方の細胞凝集体に対して他方の細胞凝集体を接触させる際、培養支持体を使用しない、
ことを特徴とする
製造方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された再生毛包原基。
【請求項24】
再生毛包原基の移植方法であって、
請求項1~22のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された前記毛包原基を、ヒトを除く動物の対象部位へ移植する工程を含む、
移植方法。
【請求項25】
請求項14~21のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された前記毛包原基を、ヒトを除く動物の対象部位へ移植する工程を含む、移植方法であって、
前記毛包原基を前記対象部位へ移植する工程は、前記毛包原基の上皮系細胞側の部分とレシピエント組織の上皮系細胞側とが前記ガイドによって所定の方向性を有して接触するように行うことを含む、
移植方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の製造方法に比して、簡易かつ大量に再生毛包原基の製造を可能にする、再生毛包原基の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮性付属器官である歯や唾液腺、皮膚付属器官である毛包において、その器官原基の再生を目指した研究が進められている。これらの器官は、生命の維持に直結するわけではないが、その喪失や機能不全は、QOLに大きな影響を与えるため、器官再生による機能回復が大いに期待されている。
【0003】
毛包再生に関し、間葉系細胞(毛乳頭細胞および真皮毛根鞘細胞)を置換することによる毛包可変領域の再生、毛包誘導能を有する間葉系細胞による毛包新生、上皮・間葉系細胞による毛包の再構築などが試みられてきた。本発明者らは、これまでに、成体マウス髭由来のバルジ領域上皮細胞と成体マウス髭由来の培養毛乳頭細胞から、毛包原基を再生する方法(特許文献1)、レシピエント組織への接触および毛穴の形成を補助するガイドを備えた再生毛包原基を製造する方法(特許文献2)、および発毛の毛色が制御された移植用再生毛包原基を製造する方法(特許文献3)をそれぞれ報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/129672号
【特許文献2】国際公開第2012/108069号
【特許文献3】国際公開第2012/115079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
毛髪再生医療の実現に向けては、再生毛包原基を大量に製造する技術が必要である。
特許文献1および特許文献2に記載の方法においては、上皮系細胞由来の細胞集合体と間葉系細胞由来の細胞集合体とを培養して毛包原基を製造する過程で、上皮系細胞と間葉系細胞とが高密度状態を維持したまま接触している必要があると考えられていたことから、再生毛包原基の製造には、上皮系細胞由来の細胞集合体と間葉系細胞由来の細胞集合体をその内部で培養することを可能にする培養支持体が使用されてきた。すなわち、従来の方法では、上皮系細胞由来の細胞集合体と間葉系細胞由来の細胞集合体とをそれぞれ調製し、マイクロピペット等を用いて培養支持体内にこれらの細胞集合体を挿入する操作を行うものであるから、1つ1つの再生毛包原基を製造するために細かな操作が必要であり、必ずしも再生毛包原基の大量製造に適しているとはいえない。
【0006】
また、これまでの方法では、再生毛包原基の製造に使用される上皮系細胞および間葉系細胞は、細胞培養後に遠心により高密度状態の細胞塊を得て、前記細胞塊から毛包原基1個当たりに適切な細胞数の細胞塊をマイクロピペット等で取り上げて、培養支持体内に挿入することが行われていた。したがって、前記高密度状態の細胞塊の内部の細胞は、長時間にわたって高密度状態に置かれることとなり、細胞の品質の低下およびばらつきが懸念された。
【0007】
さらに、培養支持体の材料として、これまで、異種生物由来のコラーゲンゲルなどが用いられており、ヒト臨床応用に向け、異種生物由来原料をなるべく使用しない方法が求められている。
本発明は、上記課題の1つ以上に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上皮系細胞を含む細胞集団または間葉系細胞を含む細胞集団の少なくともいずれか一方に適切な細胞凝集体を形成させることにより、高密度状態の細胞塊を調製することなく、簡便に個々の再生毛包原基を製造する方法に関する。
本発明はまた、培養支持体を使用しない、再生毛包原基の製造方法に関する。
【0009】
本発明の製造方法は、具体的に、以下の実施形態を包含する:
[1] 再生毛包原基の製造方法であって、
上皮系細胞を含む第1の細胞集団と、間葉系細胞を含む第2の細胞集団とを接触させながら培養することにより、再生毛包原基を得る工程を含み、
ここで、
前記第1の細胞集団および前記第2の細胞集団の少なくともいずれか一方は、前記接触の前に細胞凝集体を形成しており、
前記細胞凝集体に対して他方の細胞集団を接触させる際、培養支持体を使用しないことを特徴とする
製造方法。
【0010】
[2] [1]に記載の製造方法であって、
前記接触に先立ち、前記第1の細胞集団として、前記上皮系細胞を凝集させた第1の細胞凝集体を形成する工程をさらに含む、
製造方法。
【0011】
[3] [2]に記載の製造方法であって、
前記第1の細胞凝集体を形成する工程は、上皮系細胞のスフェロイドを得ることを含む、
製造方法。
【0012】
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記接触に先立ち、前記第2の細胞集団として、前記間葉系細胞を凝集させた第2の細胞凝集体を形成する工程をさらに含む、
製造方法。
【0013】
[5] [4]に記載の製造方法であって、
前記第2の細胞凝集体を形成する工程は、間葉系細胞のスフェロイドを得ることを含む、
製造方法。
【0014】
[6] [2]~[5]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記第1の細胞凝集体を形成する工程および前記第2の細胞凝集体を形成する工程の少なくとも一方は、底部に前記上皮系細胞または前記間葉系細胞が集積されるように構成された凹部の中で、前記上皮系細胞または前記間葉系細胞を凝集させることを含む、
製造方法。
【0015】
[7] [6]に記載の製造方法であって、
前記凹部は、V形状またはU形状の底部を有する、
製造方法。
【0016】
[8] [2]~[7]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記凝集体の形成は、600xg以下の遠心力(RCF)で行う遠心処理によって行う、
製造方法。
【0017】
[9] [6]~[8]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記接触は、前記凹部に配置された前記第2の細胞凝集体の上に、前記第1の細胞凝集体を配置することにより行う、
製造方法。
【0018】
[10] [6]~[8]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記接触は、前記凹部に配置された前記第2の細胞凝集体に、前記第1の細胞集団を含む細胞懸濁液を供給することにより行う、
製造方法。
【0019】
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記上皮系細胞を含む第1の細胞集団は、バルジ領域上皮由来の培養細胞を単一細胞化処理した細胞の集団である、
製造方法。
【0020】
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記間葉系細胞を含む第2の細胞集団は、毛乳頭由来の培養細胞を単一細胞化処理した細胞の集団である、
製造方法。
[13] [1]~[12]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記上皮系細胞および前記間葉系細胞の少なくとも一方は、成体の毛包由来である、
製造方法。
[14] [1]~[13]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記接触の前に、前記第1の細胞集団の細胞凝集体または前記第2の細胞集団の細胞凝集体にガイドを配置する工程をさらに含む、
製造方法。
【0021】
[15] [14]に記載の製造方法であって、
前記ガイドは、糸状構造物である、
製造方法。
【0022】
[16] [14]または[15]に記載の製造方法であって、
前記ガイドを配置する工程は、前記第1の細胞凝集体または前記第2の細胞凝集体の形成開始前にまたは形成過程で、前記第1の細胞集団の細胞凝集体または前記第2の細胞集団の細胞凝集体が形成される位置に、前記ガイドを配置することを含む、
製造方法。
【0023】
[17] [14]~[16]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記ガイドを配置する工程は、前記第1の細胞集団の細胞凝集体または前記第2の細胞集団の細胞凝集体のいずれかにガイドを挿入することを含む、
製造方法。
【0024】
[18] [14]~[17]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記ガイドが配置された細胞凝集体と他方の細胞集団とを、前記ガイドが少なくとも前記第1の細胞集団またはその細胞凝集体を貫いてその外側に突出するように接触させることをさらに含む、
製造方法。
【0025】
[19] [1]~[13]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記接触の後に、少なくとも前記第1の細胞集団を貫いてその外側に突出するように、ガイドを挿入する工程をさらに含む、
製造方法。
【0026】
[20] [19]に記載の製造方法であって、
前記ガイドは、糸状構造物である、
製造方法。
【0027】
[21] [14]~[20]のいずれかに記載の製造方法であって、
前記ガイドは、合成ポリマーまたは生体吸収性ポリマーから作られた繊維、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、動物繊維、または、植物繊維である、
製造方法。
【0028】
[22] 再生毛包原基の製造方法であって、
上皮系細胞を凝集させた第1の細胞凝集体を形成する工程と、
間葉系細胞を凝集させた第2の細胞凝集体を形成する工程と、
前記第1の細胞凝集体と前記第2の細胞凝集体とを、接触させながら培養することにより、毛包原基を得る工程を含み、
一方の細胞凝集体に対して他方の細胞凝集体を接触させる際、培養支持体を使用しない、
ことを特徴とする
製造方法。
【0029】
[23] [1]~[22]のいずれかに記載の製造方法によって製造された再生毛包原基。
【0030】
[24] 再生毛包原基の移植方法であって、
[1]~[22]のいずれかに記載の製造方法によって製造された前記毛包原基を、対象部位へ移植する工程を含む、
移植方法。
【0031】
[25] [14]~[21]のいずれかに記載の製造方法によって製造された前記毛包原基を、対象部位へ移植する工程を含む、移植方法であって、
前記毛包原基を前記対象部位へ移植する工程は、前記毛包原基の上皮系細胞側の部分とレシピエント組織の上皮系細胞側とが前記ガイドによって所定の方向性を有して接触するように行うことを含む、
移植方法。
【0032】
上記に挙げた本発明の一または複数の特徴を任意に組み合わせた発明も、本発明の範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の実施形態によれば、大量の毛包原基を簡便に製造することができる、新規な再生毛包原基の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施形態に係る方法にしたがって調製された毛乳頭細胞スフェロイドの実体顕微鏡像を示す。
図2】本発明の実施形態に係る方法にしたがって調製されたバルジ細胞スフェロイドにナイロン製ガイド糸が挿入された状態を示す実体顕微鏡像を示す。
図3】毛乳頭細胞スフェロイドとナイロン製ガイド糸が挿入されたバルジ細胞スフェロイドの再構成により製造された毛包原基の実体顕微鏡像を示す。
図4】移植後27日後の再生毛包の観察結果(A:蛍光顕微鏡像、B、C:実体顕微鏡によって観察された萌出した毛幹)を示す。
図5】マウス皮内に移植された再生毛包の経過観察結果を示す(上段:蛍光顕微鏡像、下段:実体顕微像)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明は再生毛包原基の製造方法(以下、本発明の製造方法とも称する。)に関する。
毛包原基は、毛包の由来となる組織であり、上皮系細胞および間葉系細胞から構成される。毛包原基は胎生期に表皮の一部が肥厚し、対面の間葉系細胞が凝集することにより形成される。
本発明において、「再生毛包原基」とは、例えば本発明の製造方法により、上皮系細胞および間葉系細胞から人工的に誘導または再生された毛包原基を指す。
【0036】
本発明の製造方法は、上皮系細胞を含む第1の細胞集団と、間葉系細胞を含む第2の細胞集団とを接触させながら培養することにより、毛包原基を得る工程を含む。
【0037】
本発明において、「上皮系細胞」とは、上皮組織由来の細胞およびその細胞を培養して得られる細胞を意味し、「間葉系細胞」とは、間葉組織由来の細胞およびその細胞を培養して得られる細胞を意味する。典型的には、上皮系細胞および間葉系細胞は毛包から調製することができ、例えば上皮系細胞としては、バルジ領域の外毛根鞘最外層細胞、毛母基部の上皮系細胞、またはiPS細胞もしくはES細胞から誘導した毛包上皮系細胞などを用いることができ、間葉系細胞としては、毛乳頭細胞、真皮毛根鞘細胞、発生期の皮膚間葉系細胞、またはiPS細胞もしくはES細胞から誘導した毛包間葉系細胞などを用いることができる。
【0038】
再生毛包原基の製造に使用することができる上皮系細胞もしくは間葉系細胞、またはこれらの細胞を含む組織は、哺乳動物の霊長類(例えばヒト、サルなど)、有蹄類(例えばブタ、ウシ、ウマなど)、小型哺乳類のげっ歯類(例えばマウス、ラット、ウサギなど)のほか、イヌ、ネコなど種々の動物などから採取することができる。上皮系細胞もしくは間葉系細胞、またはこれらの細胞を含む組織の採取は、通常、組織の採取で用いられる条件をそのまま適用すればよく、無菌状態で取り出し、適当な保存液に保存すればよい。
【0039】
毛包からの上皮系細胞または間葉系細胞の調製は、例えば、まず周囲の組織から単離された毛包を、形状に従って、上皮組織および間葉組織に分離することによって行われる。その際、分離を容易に行うため酵素を用いてもよい。酵素としては、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン等、公知のものを挙げることができ、当業者は適宜好ましい酵素を使用することができる。
【0040】
また、再生毛包原基の製造には、毛包以外に由来する上皮系細胞または間葉系細胞を使用してもよい。毛包以外に由来する上皮系細胞としては、これに限定されるものではないが、皮膚もしくは口腔内の粘膜または歯肉の上皮系細胞、好ましくは、皮膚または粘膜などの、分化した、例えば角化した、または錯角化した上皮系細胞に分化しうる未熟な上皮系前駆細胞、例えば非角化上皮系細胞またはその幹細胞等が挙げられる。具体的に、口腔内上皮細胞またはその初代培養細胞を上皮系細胞として用いる例が特開2008-29756号公報に記載されており、その開示は全体として本明細書に参照として組み込まれる。また、毛包以外に由来する間葉系細胞としては、これに限定されるものではないが、血液細胞を含まない骨髄細胞、好ましくは口腔内間葉系細胞、顎骨の内部の骨髄細胞もしくは頭部神経堤細胞に由来する間葉系細胞、またはこれらの間葉系細胞に分化しうる間葉系前駆細胞もしくはその幹細胞等が挙げられる。具体的に、間葉系細胞として、羊膜由来細胞を用いる例が特開2008-206500号公報に、全能性幹細胞を分化誘導した細胞を用いる例が特開2008-200033号公報に記載されており、その開示は全体として本明細書に参照として組み込まれる。なお、自家組織の利用の観点からは、移植対象由来の間葉系細胞および上皮系細胞、またはこれらの細胞を含む組織を用いることが好ましい。
【0041】
本発明において用いることのできるES細胞の由来は特に限定されず、あらゆる動物の内部細胞塊由来のES細胞を用いることができる。例えば、ES細胞の由来として、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、またはサルの内部細胞塊由来のES細胞を用いることができる。
【0042】
「iPS細胞(induced Pluripotent Stem cells)」とは、一般的に、体細胞へ、例えば数種類の遺伝子および/または薬剤を導入することにより、ES細胞のように非常に多くの細胞に分化できる分化万能性と、分裂増殖を経ても分化万能性を維持できる自己複製能を持たせた細胞をいう。ただし、本発明においては、上記の説明に限定されず、当業者が「iPS細胞」であると認識する細胞を広く含む。
【0043】
本発明において用いることのできるiPS細胞の由来は特に限定されず、あらゆる動物由来のiPS細胞を用いることができる。例えば、iPS細胞の由来として、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、またはサル由来のiPS細胞を用いることができる。また、本発明において用いることのできるiPS細胞の由来となる体細胞も特に限定されず、あらゆる組織由来の細胞から誘導されたiPS細胞を用いることができる。さらに、本発明において用いることのできるiPS細胞の誘導方法も特に限定されず、体細胞からiPS細胞を誘導することができる方法であれば、どのような方法を用いて誘導されたiPS細胞でも用いることができる。
【0044】
本発明の一実施形態において、「上皮系細胞を含む第1の細胞集団」は、上皮系細胞から実質的に構成される細胞集団である。本明細書において、「上皮系細胞から実質的に構成される」は、毛包原基の製造という点で、上皮系細胞のみから構成されている場合と同じ機能を果たすこと、または、上皮系細胞となる細胞以外のものをできるだけ含まないことのいずれかを意味し得る。あるいは、上皮系細胞から実質的に構成される細胞集団は、前記細胞集団のうちの、80%以上、または90%以上、または95%以上、またはそれ以上が上皮系細胞から構成される集団を意味し得る。
【0045】
本発明の一実施形態において、「間葉系細胞を含む第2の細胞集団」は、間葉系細胞から実質的に構成される細胞集団である。本明細書において、「間葉系細胞から実質的に構成される」は、毛包原基の製造という点で、上皮系細胞のみから構成されている場合と同じ機能を果たすこと、または、間葉系細胞となる細胞以外のものをできるだけ含まないことのいずれかを意味し得る。あるいは、間葉系細胞から実質的に構成される細胞集団は、前記細胞集団のうちの、90%以上、95%以上、またはそれ以上が間葉系細胞から構成される集団を意味し得る。
【0046】
本発明に使用される、上皮系細胞および間葉系細胞の少なくとも一方は、毛包に由来することが好ましい。また、前記毛包は、成長期の毛包であることが好ましい。成長期の毛包由来の細胞を使用することで、高頻度に品質の良い再生毛を誘導することが可能である。また、毛包は、胎児由来であっても、成体由来であってもよい。胎児由来の毛包から細胞を採取する場合には、毛包器官発生期の毛包細胞を効率よく採取することができ、また、未分化な細胞を取得できる点で好ましい。一方、成体由来の毛包より細胞を採取する場合には、器官内における細胞分布の領域性を利用して有用な細胞を分離取得できる点で好ましく、特に本発明をヒトの臨床へ応用する際には、対象者の細胞を利用できるため、免疫による拒絶反応の回避や、ES細胞の利用等倫理的な問題の回避の点において好ましい。さらに、移植後の毛包は免疫寛容されるという報告もあり(Reynolds et.al., Trans-gender induction of hair follicles. Nature. 1999 Nov 4;402(6757):33-4.)、または、その他の方法により免疫抑制が可能であるならば、美容形成手術などで生じた他家の成体由来の手術材料等を利用することができ、産業利用上の価値が非常に高く好ましい。
【0047】
本発明の別の実施形態において、「上皮系細胞を含む第1の細胞集団」は、バルジ領域上皮由来の細胞の集団である。このような細胞集団は、バルジ領域上皮(例えば外毛根鞘最外層)から組織を採取し、単一細胞化処理に供することによって調製することができる。
【0048】
本発明のさらに別の実施形態において、「上皮系細胞を含む第1の細胞集団」は、バルジ領域上皮由来の培養細胞を単一細胞化処理した細胞の集団である。このような細胞集団は、バルジ領域上皮(例えば外毛根鞘最外層)から組織を採取し、組織を単一細胞化処理に供し、初代培養および任意に継代培養に供した後、培養細胞を再度単一細胞化処理することによって調製することができる。
【0049】
本発明の別の実施形態において、「間葉系細胞を含む第2の細胞集団」は、毛乳頭細胞由来の細胞の集団である。このような細胞集団は、毛包から毛乳頭を採取し、単一細胞化処理に供することによって調製することができる。
【0050】
本発明のさらに別の実施形態において、「間葉系細胞を含む第2の細胞集団」は、毛乳頭由来の培養細胞を単一細胞化処理した細胞の集団である。このような細胞集団は、毛包から毛乳頭を採取し、組織を単一細胞化処理に供し、初代培養および任意に継代培養に供した後、培養細胞を再度単一細胞化処理することによって調製することができる。
【0051】
本発明において、「単一細胞化」は、互いに結合または接着した状態にある複数の細胞(典型的には組織または器官)を、個々の細胞に分離する処理を指す。このような単一細胞化の処理は、当業者に公知の方法を用いてよく、これに限定されるものではないが、例えば酵素処理によって行うことができる。当該酵素処理に使用できる酵素およびその使用条件も当業者に公知であり、例えばディスパーゼ、コラゲナーゼ、トリプシンなどの酵素を使用することができる。単一細胞化は、調製された上皮系細胞集団および間葉系細胞集団の細胞の均質化を促し、毛包原基の製造に用いられる細胞集団の均質化およびそれによる品質維持を図ることができる点で好ましい。
【0052】
十分な細胞数を得るために、単一細胞化処理した細胞の初代培養または継代培養を行う場合、培養に用いられる培地としては、一般に動物細胞の培養に用いられる培地、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等を用いることができる。細胞の増殖を促進するための血清を添加するか、あるいは血清に代替するものとして、例えばFGF、EGF、PDGF等の細胞増殖因子、またはトランスフェリン等の既知血清成分を添加してもよい。なお、血清を添加する場合の濃度は、そのときの培養状態によって適宜変更することができるが、通常10%前後とすることができる。細胞の培養には、通常の培養条件、例えば約37℃の温度で5%CO2濃度のインキュベータ内での培養を適用することができる。また、適宜、ストレプトマイシン等の抗生物質を添加してもよい。
【0053】
本発明の製造方法は、一態様において、第1の細胞集団と第2の細胞集団とを互いに接触させる前に、その少なくともいずれか一方が、細胞凝集体を形成していることを特徴とする。
したがって、本発明の製造方法は、第1の細胞集団と第2の細胞集団の接触に先立ち、以下の工程:
前記第1の細胞集団として、上皮系細胞を凝集させた第1の細胞凝集体を形成する工程、または、
前記第2の細胞集団として、間葉系細胞を凝集させた第2の細胞凝集体を形成する工程
をさらに含むことができる。
【0054】
本発明の製造方法は、また、別の態様において、第1の細胞集団と第2の細胞集団とを互いに接触させる前に、その両方が、細胞凝集体を形成していることを特徴とする。
したがって、本発明の製造方法は、第1の細胞集団と第2の細胞集団の接触に先立ち、以下の工程:
前記第1の細胞集団として、上皮系細胞を凝集させた第1の細胞凝集体を形成する工程、および、
前記第2の細胞集団として、間葉系細胞を凝集させた第2の細胞凝集体を形成する工程
をさらに含むことができる。
【0055】
本発明の製造方法において、第1の細胞集団と第2の細胞集団は、一方の細胞集団の細胞凝集体に対して他方の細胞集団またはその細胞凝集体を、例えば積層することにより、接触させる。具体的に、第1の細胞集団と第2の細胞集団との接触は、以下の実施形態を包含する:
(1)第1の細胞凝集体に第2の細胞集団を含む細胞懸濁液を適用する;
(2)第2の細胞凝集体に第1の細胞集団を含む細胞懸濁液を適用する;
(3)第1の細胞凝集体上に第2の細胞凝集体を接触(例えば積層)する;および
(4)第2の細胞凝集体上に第1の細胞凝集体を接触(例えば積層)する。
【0056】
(1)および(2)は、あらかじめ形成された一方の細胞集団に由来する細胞凝集体に対して、他方の細胞集団を細胞が分散した形態(細胞懸濁液)で接触させるものである。
(3)および(4)は、あらかじめ第1の細胞集団および第2の細胞集団の両方に細胞凝集体を形成させ、一方の細胞凝集体上に他方の細胞凝集体を接触させるものである。
(1)~(4)のいずれの実施形態においても、両細胞集団を高密度状態に維持するために、両細胞集団の接触を維持するために、または三次元培養のために、培養支持体は使用されない。ここで、「培養支持体」は、その内部で細胞の培養が可能であり、コラーゲン、アガロースゲル、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、寒天、ハイドロゲル、セルマトリクス(商品名)、メビオールゲル(商品名)、マトリゲル(商品名)、エラスチン、フィブリン、ラミニン、細胞外マトリクス混合物、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)などの材料から構成される、ゲル状、繊維状、または固体状の培養支持担体を指す。なお、本発明において、細胞集団同士の接触を維持するための他の手段を用いてもよいし、用いなくてもよい。
【0057】
「細胞凝集体」は、広く、細胞集団を構成する細胞同士が密着した任意の状態を意味し得るが、本発明において、細胞凝集体は、スフェロイドであることが好ましい。したがって、前記「第1の細胞凝集体を形成する工程」は、上皮系細胞のスフェロイドを得ることを含んでよく、同様に、前記「第2の細胞凝集体を形成する工程」は、間葉系細胞のスフェロイドを得ることを含んでもよい。
本発明で使用される用語「スフェロイド」は、細胞の凝集体化とそれに続く培養を経て形成される細胞凝集体を指す。スフェロイド形成に必要な培養時間は、細胞の凝集状態に応じて変化し得るが、例えば、培養開始時の細胞凝集体の細胞密度が1×10個/mL~1×10個/mLである場合には、2時間から8時間の範囲とすることができる。
【0058】
本発明において、前記「細胞凝集体」の形成は、通常、所定の容器中に上皮系細胞または間葉系細胞の細胞懸濁液を調製して行う。細胞懸濁液の調製に使用される溶液としては、これに限定されるものではないが、例えば、培養液、緩衝液等などを挙げることができる。
【0059】
本発明の一実施形態において、前記「細胞凝集体」は、底部に細胞が集積されるように構成された凹部の中で形成される。したがって、本発明の製造方法の一実施形態において、前記「第1の細胞凝集体を形成する工程」または「第2の細胞凝集体を形成する工程」は、底部に上皮系細胞または間葉系細胞が集積されるように構成された凹部の中で、上皮系細胞または間葉系細胞を凝集させることを含んでいる。このような凹部を用いることで、上皮系細胞または間葉系細胞の集積およびその後の凝集または自己凝集が促進される。
【0060】
前記凹部は、例えば、その底部が、上皮系細胞または間葉系細胞を含む細胞懸濁液を添加し静置した際に、上皮系細胞または間葉系細胞が集積するのに十分な角度の斜面を有するものであれば特に制限されない。具体例としては、前記「凹部」は、上皮系細胞または間葉系細胞を含む細胞懸濁液を添加し静置した際に、上皮系細胞または間葉系細胞が集積するのに十分な角度の斜面を有する、V形状の底部、U形状の底部、あるいはU形状の上部がV状に広がる斜面になっている底部を有するものである。
【0061】
本発明の別の実施形態において、前記「細胞凝集体」の形成は、遠心処理によって行われる。遠心処理は、細胞の活性を損なわずに簡便に細胞凝集を促すことができる点で好ましい。遠心処理は、1×107個/mL~1×10個/mLの細胞密度を有する細胞凝集体を形成させる条件を採用すればよく、遠心力(RCF)の上限は、600xg以下とすることが好ましい。遠心力(RCF)が50xgを下回る場合には、効率的な細胞凝集体の形成が見込めず、また、遠心力(RCF)が600xgを超える場合には、細胞に障害を引き起こす。遠心時間は、細胞数に応じて、0.5分間~10分間行えばよい。
【0062】
本発明のさらに別の実施形態において、前記「細胞凝集体」は、底部に細胞が集積されるように構成された凹部中で遠心処理を行うことによって形成させる。これにより、毛包原基の製造に適した細胞凝集体をより効率的に形成させることができる。
【0063】
上記のようにして形成された細胞凝集体は、他方の細胞集団との培養の前に、所定の時間(例えば2時間~8時間)にわたって培養することにより、スフェロイドを形成することが好ましい。
【0064】
細胞凝集体の形成後は、容器から細胞凝集体を残して上清をできるだけ除去し、その後の培養に使用される。このとき、目的とする細胞以外の成分(例えば、培養液、緩衝液等)は、細胞の容量と等量以下であることが好ましく、目的とする細胞以外の成分を含まないことがより好ましい。
【0065】
本発明の製造方法において、第1の細胞集団および第2の細胞集団の少なくともいずれか一方について、底部に細胞が集積されるように構成された凹部中で細胞凝集体を形成させ、その上清を除去し、前記凹部に前記細胞凝集体を配置したまま、他方の細胞集団または細胞集団を前記細胞凝集体に接触させ、培養することができる。
【0066】
したがって、本発明の製造方法は、一実施形態において、底部に細胞が集積されるように構成された凹部中で第1の細胞集団の細胞凝集体(第1の細胞凝集体)を形成させ、上清を除去したあと、前記凹部に配置された前記第1の細胞凝集体上に、前記第2の細胞集団を接触させ、培養することを含む(上記(1)および(3))。この実施形態において、前記第2の細胞集団は、それらを含む細胞懸濁液の形態で前記第1の細胞凝集体上に接触させてもよいし(上記(1))、別途第2の細胞集団の細胞凝集体(第2の細胞凝集体)を形成させ、第2の細胞凝集体を前記第1の細胞凝集体上に接触させてもよい(上記(3))。第2の細胞集団を含む細胞懸濁液の形態で用いる場合には、前記第1の細胞凝集体に対する第2の細胞集団の細胞の接触を補助するために、前記凹部上に形成された第1の細胞凝集体に前記細胞懸濁液を添加した後に、遠心処理を行うことが好ましい。このときに使用される遠心処理は、例えば50~600xgの遠心力(RCF)のものとすることができる。遠心力(RCF)が50xgを下回る場合には、効率的な細胞の積層が見込めず、また、遠心力(RCF)が600xgを超える場合には、細胞に障害を引き起こす。遠心処理後、細胞以外の成分を可能な限り除去し、培養液に置換し、次いで、第1の細胞集団と第2の細胞集団とを混合培養することができる。第2の細胞集団を細胞凝集体として用いる場合には、前記凹部上に配置された第1の細胞凝集体から可能な限り上清を除去したあと、前記第1の細胞凝集体上に別途形成された第2の細胞凝集体を接触させて培養すればよい。この場合、培養液は、第2の細胞凝集体を接触させる前に第1の細胞凝集体に添加してもよいし、第2の細胞凝集体を接触させた後に添加してもよい。
【0067】
本発明の製造方法は、別の実施形態において、底部に細胞が集積されるように構成された凹部中で前記第2の細胞集団の細胞凝集体(第2の細胞凝集体)を形成させ、上清を除去したあと、前記凹部に配置された前記第2の細胞凝集体上に、前記第1の細胞集団を接触させて、培養することを含む(上記(2)および(4))。この実施形態において、前記第1の細胞集団は、第1の細胞集団を含む細胞懸濁液の形態で前記第2の細胞凝集体上に接触させてもよいし(上記(2))、別途第1の細胞集団の細胞凝集体(第1の細胞凝集体)を形成させ、第1の細胞凝集体を前記第2の細胞凝集体上に接触させてもよい(上記(4))。第1の細胞集団を含む細胞懸濁液の形態で用いる場合には、前記第2の細胞凝集体に対する第1の細胞集団の細胞の接触を補助するために、凹部上の第2の細胞凝集体に前記細胞懸濁液を添加した後に、遠心処理を行うことが好ましい。このときに使用される遠心処理は、例えば50~600xgの遠心力(RCF)(例えば500xg)による遠心処理とすることができる。遠心処理後、細胞以外の成分を可能な限り除去し、培養液に置換し、第2の細胞集団と第1の細胞集団とを混合培養する。第1の細胞集団を細胞凝集体として用いる場合には、可能な限り上清を除去した凹部上に配置された第2の細胞凝集体上に、別途形成された第1の細胞凝集体を接触させて培養すればよい。この場合、培養液は、第1の細胞凝集体を接触させる前に第2の細胞凝集体に添加してもよいし、第1の細胞凝集体を接触させた後に添加してもよい。
【0068】
第1の細胞凝集体と前記第2の細胞凝集体とを接触させる実施形態において、互いの接触を維持するための手段は必ずしも必要ないが、前記凹部または前記凹部を備える容器が、一方の細胞凝集体上に他方の細胞凝集体を維持するための形状または手段を有していてもよい。
【0069】
第1の細胞集団と第2の細胞集団とを接触させながら培養する際の培養期間は、細胞数、細胞凝集体の状態、動物種等によって異なり、当業者は適宜適切な条件を選択することができる。培養期間は、長くすることによって、毛包原基の形成をより進行させることができる。所望の状態を得るために、例えば、少なくとも3時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも16時間、または最も好ましくは少なくとも24時間にわたって培養し、培養の途中で、培地や培養条件を変更することもできる。
例えば、再生毛包原基を移植した際に、機能的な毛髪を得るためには、再生毛包原基を少なくとも1日培養することが好ましい。
【0070】
また、第1の細胞集団と第2の細胞集団とを接触させながら培養する際の培養条件は、一般的な動物細胞の培養に用いられる条件とすることができる。また、培養には、哺乳動物由来の血清を添加してもよく、またこれらの細胞の増殖や分化に有効であることが知られている各種細胞因子を添加してもよい。このような細胞因子としては、FGF、BMP等を挙げることができる。
【0071】
本発明の製造方法は、一態様において、その製造工程の任意の時点で、移植用のガイドを配置する工程をさらに含むことができる。
【0072】
本発明に使用することができる「ガイド」とは、再生毛包原基の移植後に、再生毛包原基の上皮系細胞側の部分とレシピエント側の上皮系細胞との接触または接続およびその後の毛穴形成を補助するために、再生毛包原基に備えられるものである。用いられるガイドとしては、上記の機能を有するものであれば特に制限されず、例えばこれに限定されるものではないが、糸状構造物または針状構造物などが挙げられる。前記ガイドの材料は、例えば、合成または天然の生体吸収可能なポリマーから作られた繊維、ステンレス等の金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、および天然の動物繊維や植物繊維等を挙げることができ、より具体的には、ナイロン糸やステンレス線等を挙げることができる。特に、再生毛包原基に対しては、生体由来の毛髪をガイドとして使用することもできる。また、本発明に使用されるガイドは、中空糸の形状とすることもできる。ガイドの直径は、当業者により適宜設定することができるが、例えば、5~100μmとすることが好ましく、20~50μmとすることがより好ましい。また、再生毛包原基に対して使用するガイドの長さも当業者により適宜設定することができるが、例えば、1~10mmとすることが好ましく、4~6mmとすることがより好ましい。
【0073】
本発明において、ガイドは、製造される再生毛包原基の少なくとも上皮系細胞側を貫き、かつ、上皮系細胞側に突出した状態に維持されるように配置される。また、本発明の一実施形態では、ガイドは、製造される再生毛包原基の上皮系細胞側および間葉系細胞側を貫き、かつ、上皮系細胞側に突出した状態に維持されるように配置される。したがって、本発明の製造方法は、ガイドの前記のように配置するための工程をさらに含むことができる。
【0074】
具体的に、本発明の製造方法において、ガイドは、第1の細胞集団と第2の細胞集団の接触前または接触後に配置することができる。ガイドを第1の細胞集団と第2の細胞集団の接触前に配置する場合、本発明の製造方法は、前記第1の細胞集団の細胞凝集体(第1の細胞凝集体)または前記第2の細胞集団の細胞凝集体(第2の細胞凝集体)のいずれか一方に、ガイドを配置する工程をさらに含むことができる。第1の細胞凝集体または第2の細胞凝集体へのガイドの配置は、前記第1の細胞凝集体または前記第2の細胞凝集体の形成前に、形成過程でまたは形成後に行うことができる。
【0075】
第1の細胞凝集体または第2の細胞凝集体の形成前にまたは形成過程でガイドを配置する場合には、前記第1の細胞集団の細胞凝集体または前記第2の細胞集団の細胞凝集体が形成される位置に、ガイドを配置すればよい。具体的には、第1の細胞集団または第2の細胞集団を収容する容器中の任意の位置、例えば前記凹部における細胞が集積されるべき位置にガイドをあらかじめ配置しておくことで、第1の細胞凝集体または第2の細胞凝集体の形成に伴ってガイドが配置されるように、前記容器を設計することができる。
【0076】
第1の細胞凝集体または第2の細胞凝集体の形成後にガイドを配置する場合には、形成された第1の細胞凝集体または第2の細胞凝集体にガイドを挿入することにより、ガイドを配置すればよい。
【0077】
ガイドを第1の細胞集団と第2の細胞集団の接触前に配置する場合、ガイドが配置された細胞凝集体と他方の細胞集団(またはその細胞凝集体)との接触は、前記ガイドが、製造される再生毛包原基の少なくとも上皮系細胞側を貫き、かつ、上皮系細胞側に突出した状態に維持されるように行われる。したがって、当該実施形態において、本発明の製造方法は、ガイドが配置された細胞凝集体と他方の細胞集団とを、前記ガイドが少なくとも上皮細胞側を貫いてその外側に突出するように接触させることをさらに含む。
当該実施形態において、ガイドが製造されるべき再生毛包原基の少なくとも上皮系細胞側を貫いてその外側に突出することを確実にするために、ガイドを第1の細胞集団またはその細胞凝集体に配置することがより好ましく、あるいは、ガイドが配置された細胞凝集体と接触させる他方の細胞集団は、細胞凝集体を形成していることがより好ましい。
【0078】
ガイドを第1の細胞集団と第2の細胞集団の接触後に配置する場合、ガイドが製造されるべき再生毛包原基の少なくとも上皮系細胞側を貫いてその外側に突出することを確実にするために、少なくとも第1の細胞集団を貫いてその外側に突出するように、ガイドを挿入すればよい。当該実施形態においては、第1の細胞集団と第2の細胞集団とを接触させる時点で、少なくとも第1の細胞集団が細胞凝集体を形成していることが好ましい。
第1の細胞集団の細胞凝集体と第2の細胞集団の細胞凝集体とを接触させたあとにガイドを配置する場合には、製造される再生毛包原基の構造のうちの第1の細胞集団(上皮系細胞)側と第2の細胞集団(間葉系細胞)側の接触面を壊すことなく、少なくとも第1の細胞集団を貫くように、好ましくは垂直に貫くように、第1の細胞集団側からガイドを挿入することによって、ガイドを配置すればよい。第1の細胞集団の細胞凝集体と第2の細胞集団の細胞凝集体とを接触させる場合に、ガイドの挿入のタイミングを接触直後とすることは、ナイロン糸などの生体に対する異物応答が低く、フレキシブルな素材を用いることができる点において好ましい。
【0079】
再生毛包原基にガイドを配置した後、特に再生毛包原基の形成がある程度進行した段階で、または再生毛包原基が完全に製造された段階でガイドを配置した場合には、ガイドが配置された状態でさらに培養することが好ましい。ガイド配置後の培養期間は、例えば、1~4日間培養することが好ましく、1.5~2日間培養することがより好ましい。ガイドの配置後、2日間培養することにより、ガイドと再生毛包原基との接着が強くなり、移植時に容易にはずれることがなくなる。また、ガイド配置後の培養により、再生毛包原基の上皮系細胞側の部分を、ガイドに沿って伸長させることができるため好ましい。このような伸長は、再生毛包原基移植後に、再生毛包原基の上皮系細胞側の部分とレシピエントの上皮系細胞との自律的な接着の効率および安定性を向上させることができる。
【0080】
本発明の製造方法により製造された再生毛包原基は、当業者に公知の方法で対象とする部位に移植することができ、例えば、シャピロ式植毛術やチョイ式植毛器を用いた植毛、空気圧を利用したインプランター等を使用し、移植することができる。シャピロ式植毛術とは、対象とする移植部位にマイクロメス等で移植創を作った後に、ピンセットを用いて移植物を移植する方法である。このような植毛術を適用する際には、移植用再生毛包原基がガイドを有することで、再生毛包原基を直接触れることなく操作可能であり、簡便に操作することができる。
【0081】
再生毛包原基の移植深度としては、例えば、0.05~5mmとすることが好ましく、0.1~1mmとすることがより好ましく、0.3~0.5mmとすることが最も好ましい。特に、再生毛包原基をレシピエントに移植する際には、真皮層内に移植すること好ましい場合があり、毛包形成およびその後の発毛効率の優れた真皮・皮下組織の境界面より上方とするとより好ましい場合がある。移植時の再生毛包原基は、レシピエントの体表面側に再生毛包原基の上皮系細胞側を、レシピエントの体内側に再生毛包原基の間葉系細胞側がくるように移植することが、発毛方向を体表面側に制御できる点で好ましい。また、移植創上端部に再生毛包原基の上皮系細胞成分の上端部が露出するよう移植深度を調節すると、さらにレシピエントの上皮系細胞との連続性を高めることができる点において好ましい。
【0082】
また、ガイドを有する再生毛包原基を移植する場合は、移植後は、ガイドが抜けないように皮膚接合用のテープやバンド等でガイドと対象部位とを固定することもできる。
ガイドは、再生毛包原基を移植後しばらくしてレシピエント側の上皮系細胞と、再生毛包原基の上皮系細胞由来の側との連続性が確保された後、移植部位から抜くことができる。ガイドを抜くタイミングは、適宜設定することができるが、例えば、移植後3日~7日で移植部位から抜くことが好ましい。または、ガイドが、自然と移植部位より抜けるまで放置することもできる。生体吸収性の材料のガイドは、自然と移植部位より抜けるか、分解・吸収されるまで放置することができる。
【0083】
このように、移植用の再生毛包原基へガイドを保持させることにより、レシピエント側の上皮系細胞が、異物を排除するように、ガイドに沿って移植部位の内側へ伸長し、一方、再生毛包原基の上皮系細胞由来の細胞が、ガイドに沿って伸長する。これにより、移植後のレシピエント側の上皮系細胞と再生毛包原基の上皮系細胞側との連続性を向上させることができる。また、ガイドの挿入により、培養中の再生毛包原基において、上皮系細胞および間葉系細胞との極性の維持も向上させることができ好ましい。これにより、毛包形成の効率を高めるとともに、移植時の方向づけを容易にすることができる。特に、再生毛包原基へガイドを使用した場合には、再生毛包原基とレシピエント側の上皮系細胞との連続性を確保できる上、意図した方向へ毛包形成を促すことができる。その結果、再生毛包原基からの発毛率を向上させることができるとともに、発毛方向の制御も可能となる。
【0084】
本明細書において用いられる用語は、特に定義されたものを除き、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0085】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0086】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語および科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書および関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、または、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0087】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例0088】
培養支持体非存在下での毛包原基の調製
(1)実験動物
7~8週齢のC57BL/6マウス(日本クレア)およびC57BL/6-TgN(act-EGFP)マウス(日本クレア)より毛包を採取した。また、胎齢18.0~18.5日齢のC57BL/6-TgN(act-EGFP)マウス(SLC)より、体毛原基を含む皮膚を採取した。また、下記実験手法により作製した再生毛包原基は6~8週齢のBALB/c nu/nuマウス(SLC)に移植した。
【0089】
(2)毛乳頭細胞の調製
毛乳頭細胞の調製は先行文献(再表2012/108069)の方法に準じておこなった。すなわち、C57BL/6マウスを頸椎脱臼により安楽死させた後に、毛球部を傷つけないように頬部皮膚全層および皮下組織を採取した。頬髭周囲の皮下組織を除去した後に、毛包を分離した。成長期I~IV期の頬髭毛包を選択し、25G注射針を用いてコラーゲン鞘を取り除き、毛包を露出させた。毛球部を分離し、毛乳頭を摘出した。摘出した毛包および毛乳頭は、10%牛胎児血清と1%Penicillin-Streptomycin溶液を含むDMEM(Thermo Fisher Scientific)培地(DMEM10)中で保存した。分離した毛乳頭は、3.5cm培養プラスチックディッシュ(Becton Dickinson)に播種し、10ng/mLのFGF2(WAKO)を含むDMEM10にて、5%CO、37℃、湿度95%環境下にて初代培養を行った。初代培養毛乳頭細胞は4日目および8日目に培地交換し、9日間培養したのちに使用した。初代培養毛乳頭細胞は、PBS(-)で3回洗浄した後に、0.05%トリプシンを含む10mM EDTA溶液(Thermo Fisher Scientific)で剥離し、DMEM10でトリプシン中和し、十分洗浄した後に氷温下で使用時まで保存した。
マウス毛乳頭細胞を1x10cells/100μL DMEM10もしくは3x10cells/100μL DMEM10の密度で96well V底プレート(住友ベークライト)に播種し、440xgで1分間遠心することにより、細胞をプレートの底に沈降させた。遠心後のプレートは37℃、5%COインキュベータ内に5.5時間静置することによりスフェロイドを形成させた(図1)。
【0090】
(3)バルジ細胞の調製
C57BL/6-TgN(act-EGFP)マウスより摘出した頬髭組織より、25G注射針を用いてコラーゲン鞘を取り除き、バルジ領域に細分化した。バルジ領域組織は50caseinolytic U/mLのDispase(Becton Dickinson)で希釈した100U/mLのCollagenase(Worthington)溶液にて37℃で4分間反応させ、その後、25G注射針を用いて外科的にバルジ領域上皮組織とバルジ周囲の間葉組織に分離した。分離したバルジ領域上皮組織は0.05% Trypsin(Thermo Fisher Scientific)でインキュベータにて1時間酵素処理を行い、35μm pore cell strainerを通して単一化細胞とした。
単一化細胞の培養は、ADVANCED DMEM/F-12(Thermo Fisher Scientific)、DEF-CS(Cellartis)、CnT-PR(CELLnTEC)あるいはADVANCED DMEM/F-12とDEF-CSの混合培地を基礎培地とし、足場材料としてMatrigel(Corning)またはType IV Collagen(Thermo Fisher Scientific)を用い、添加剤として、B27 supplement(Thermo Fisher Scientific)、N2 supplement(Thermo Fisher Scientific)、Rock inhibitor(Y27632,WAKO)、EGF(Peprotech)、FGF7(R&D)、FGF10(R&D)、SHH agonist(SAG,cayman)あるいはBMP inhibitor(Noggin,Peprotech)と1%Penicillin-Streptomycin(Thermo Fisher Scientific)を含む培地(バルジ細胞用培地)に細胞を懸濁後、6wellプレート内で3次元培養を行うことにより実施した。
【0091】
3次元培養を行った培養バルジ細胞を含むゲルを回収し、Collagenase I消化、Trypsin消化とDNase TypeI(Sigma)消化を行い、培地に懸濁後、35μm cell strainerを通し、マウスバルジ細胞とした。
マウスバルジ細胞を1x10cells/100μL バルジ細胞用培地もしくは3x10cells/100μL バルジ細胞用培地の密度で96well V底プレートに播種し、440xg、1min遠心することにより細胞を沈降させた。遠心直後にナイロン製ガイド糸を細胞塊の中心に挿入したのち、37℃、5%COインキュベータ内で4時間静置することによりスフェロイドを形成させた(図2)。
【0092】
4時間インキュベート後に形成された毛乳頭細胞スフェロイドをマイクロピペットでバルジ細胞スフェロイドのウェルに移し、37℃、5%COインキュベータ内で静置することにより、バルジ細胞スフェロイドと接着させ、8~16時間培養することにより、毛包原基を形成させた(図3)。
【0093】
8~16時間培養後の毛包原基を特許5932671に記載の方法に従い、マウスの皮内に移植した。すなわち、6~8週齢のBALB/c nu/nuマウスを定法に従って麻酔を行い、背部をイソジン消毒した後に自然横臥位をとらせた。Vランスマイクロメス(日本アルコン)を用いて穿刺し、皮膚表皮層から真皮層下層部に至る移植創を形成した。移植創は体表面より垂直方向に約400μmの深度までとし、水平方向は約1mm程度とした。ナイロン糸製ガイドを挿入した再生毛包原基を、移植創の体表側に上皮系細胞成分が向くように、先鋭ピンセットNo.5(夏目製作所)を用いて挿入した。移植創上端部に再生毛包原基の上皮系細胞成分の上端部が露出するよう移植深度を調節し、ナイロン糸製ガイドが体表面に露出するように位置させた。ナイロン糸製ガイドを移植創に近接した皮膚表面にステリストリップ(スリーエム)で固定し、その後、ナースバンおよびサージカルテープ(スリーエム)で移植創を保護した。移植後5~7日で保護テープを除去し、ナイロン糸製ガイドを移植部位に残存させ、1日後に残存している場合は抜去した。移植物の生着を目視または蛍光実体顕微鏡で判定した後に経過観察を行った。経過観察は、麻酔下のマウスの移植部位を目視、蛍光実体顕微鏡、実体顕微鏡による観察・撮影を行い、再生毛包の発毛を評価した。
【0094】
移植後25日目にマウス移植部位より毛幹萌出を認め、その後、移植後27日目まで毛幹伸長を続けたことから、機能性の毛包原基が再生したことが明らかとなった(図4および5)。
【0095】
スフェロイドは96wellプレート内で効率良く形成された。また、毛包原基の再構成にコラーゲンゲルなどの培養支持体を用いなくても、機能性の毛包原基が再生されることが明らかにされた。上記の方法によれば、毛包原基の再構成は、コラーゲンゲル内に凝集塊を挿入する必要もないことから、同一規格の毛包原基を大量に製造することが可能となることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5