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特開2024-51050懸濁液源からブロスを直接接種する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051050
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】懸濁液源からブロスを直接接種する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/24 20060101AFI20240403BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C12Q1/24
C12N1/20
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026494
(22)【出願日】2024-02-26
(62)【分割の表示】P 2020573532の分割
【原出願日】2019-06-24
(31)【優先権主張番号】62/689,419
(32)【優先日】2018-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517274165
【氏名又は名称】ビーディー キエストラ ビーヴイ
(71)【出願人】
【識別番号】520512155
【氏名又は名称】ハンセン,ティモシー ロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン,ティモシー ロイ
(72)【発明者】
【氏名】クリーフストラ,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ボイス,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ウィルス,ティモシー,エム.
(72)【発明者】
【氏名】ウ,チャールス,チャク チュン
(57)【要約】
【課題】サンプル懸濁液を調製する自動化方法を提供する。
【解決手段】サンプル懸濁液は、MALDI及び抗菌薬感受性試験(AST)双方のために使用することができる。懸濁液が調製され、その懸濁液の一部が第1の分析(例えば、MALDI)のために除去され、残りの体積が取り残される。この残りの体積の濁度が測定される。濁度が第1の閾値未満である場合、懸濁液は、第2の分析(例えば、AST)のためには使用されず、懸濁液の濁度を高めるために濃縮プロトコルを受ける。濁度が所定の範囲内である場合、第2の分析のための容器に所定量のサンプルを送達することになる懸濁液の体積が計算される。懸濁液の濁度が所定量の範囲よりも高く、かつ、懸濁液が所定の回数希釈されていない場合、懸濁液は、希釈プロトコルに従って希釈される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体サンプルをサンプル希釈液に接種して生体サンプル懸濁液を形成することであって、前記生体サンプルは、1種以上の微生物を含有すると考えられる、ことと、
前記生体サンプルがムコイドサンプル又は非ムコイドサンプルを含むと考えられるかどうかを決定することと、
前記生体サンプルが非ムコイドサンプルである場合、最初に前記非ムコイドサンプルを含む前記生体サンプル懸濁液の濁度を測定することと、
前記生体サンプルがムコイドサンプルである場合、最初にムコイドサンプル懸濁液の濁度を測定する前に、前記ムコイドサンプルをサンプル希釈液と混合して前記ムコイド生体サンプル懸濁液を形成することと、
前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記測定された濁度が所定の範囲内であるか否かを判断することと、
培養培地接種のための生体サンプル懸濁液又はムコイド生体サンプル懸濁液についての所定の目標濁度と、前記測定された濁度との比に、培養培地に所定量の生体サンプルを送達するために要求される前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の体積を乗算した数値に基づいて、前記培養培地に接種するために要求される前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の体積を計算することと、
前記計算された体積の前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液を前記培養培地上に移植することと、
を含む、目標量のサンプルを提供するようにサンプル懸濁液を調製する方法。
【請求項2】
前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記測定された濁度が前記所定の範囲未満である場合、前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記濁度を高めるために濃縮プロトコルを実行し、前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記濁度を再測定することと、
前記測定された濁度が前記所定の範囲よりも高い場合、前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記濁度を低下させるために希釈プロトコルを実行し、前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記濁度を再測定することと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濃縮プロトコルは、前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記濁度を再測定する前に前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液に追加のサンプルを追加することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記希釈プロトコルは、前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記濁度を再測定する前に前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液に追加の希釈液を追加することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記濃縮プロトコルは、
前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液が所定の体積仕様よりも多いか否かを判断することと、
前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液に前記追加のサンプルを追加する前に前記所定の体積仕様内の調製されたサンプル懸濁液を提供するために生体サンプル懸濁液の容器又はムコイド生体サンプル懸濁液の容器から過剰体積分を除去することと、
を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記希釈プロトコルは、
前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液が所定の体積仕様よりも多いか否かを判断することと、
前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液に前記追加の希釈液を追加する前に前記所定の体積仕様内の生体サンプル懸濁液又はムコイド生体サンプル懸濁液を提供するために生体サンプル懸濁液の容器又はムコイド生体サンプル懸濁液の容器から過剰体積分を除去することと、
を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記生体サンプル懸濁液の前記再測定された濁度又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記測定された濁度が濁度値の所定の範囲内である場合、培養培地接種のためのサンプル懸濁液についての所定の目標濁度と、前記再測定された濁度との比に、前記所定の目標濁度を有する生体サンプル懸濁液又はムコイド生体サンプル懸濁液を使用して培養培地に所定量の生体サンプルを送達するために要求される前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の体積を乗算した数値に基づいて、前記培養培地に接種するために要求される前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記体積を計算することと、
前記計算された体積の前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液を前記培養培地上に移植することと、
を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記生体サンプル懸濁液の前記再測定された濁度又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記再測定された濁度が濁度値の所定の範囲内にある場合、培養培地接種のためのサンプル懸濁液についての所定の目標濁度と、前記生体サンプル懸濁液の前記再測定された濁度又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記再測定された濁度との比に、前記培養培地に所定量の生体サンプルを送達するために要求される前記所定の目標濁度の生体サンプル懸濁液又はムコイド生体サンプル懸濁液の体積を乗算した数値に基づいて、培養培地に接種するために要求される前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液の体積を計算することと、
前記計算された体積の前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液を前記培養培地上に移植することと、
を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記再測定された濁度が濁度値の所定の範囲内にない場合、前記濃縮プロトコルを繰り返すことを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記再測定された濁度が濁度値の所定の範囲内にない場合、前記希釈プロトコルを繰り返すことを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記濃縮プロトコルが所定の回数繰り返されている場合、前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液を廃棄することを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記希釈プロトコルが所定の回数繰り返されている場合、前記生体サンプル懸濁液又は前記ムコイド生体サンプル懸濁液を廃棄することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
最初に前記濁度を測定する前に、前記ムコイド生体サンプル懸濁液を希釈液と混合することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
希釈の前に、最初に前記ムコイド生体サンプル懸濁液の前記濁度を測定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記生体サンプル懸濁液が連鎖球菌を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2018年6月25日に出願された米国特許出願第62/689,419号の利益を主張し、この米国仮特許出願の開示は、本明細書に引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
本明細書において、生体サンプル(例えば、血液)内の微生物の同定及び抗菌薬感受性試験(antimicrobial susceptibility)の双方のために単一の懸濁液を使用する方法が開示される。
【背景技術】
【0003】
医療診断における通常の診療として、血液等の生体サンプルが患者から採取され、分析される。適応症に応じて、サンプルを分析して、微生物がサンプル中に存在するか否かを、例えば、血液培養(Becton, Dickinson and Company社のBACTEC(商標)FX及びBACTEC(商標)9000シリーズ等)によって、又は寒天プレート上での画線培養(手動、又はBecton, Dickinson and Company社によって販売されているInnova(商標)又はInoqula等の自動器具を用いる)によって判断することができる。微生物が存在すると判断された場合、存在する特定の微生物を同定することと、治療を円滑にするために微生物の抗生物質耐性/感受性を特定することとの双方に対し、医学的にも経済学的にも正当性がある。
【0004】
多くの種類の微生物(以下、微小生物とも称する)、特に、細菌及び単細胞真菌は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(「MALDI」)等の質量分析(「マススペック(mass spec)」)プロセスによって同定することができる。MALDIプロセスでは、栄養培地内で通常の方法で培養されたコロニーから小量の微小生物が、MALDIプレートとして知られる質量分析サンプル支持プレートに移送され、その後、一般的にMALDI飛行時間(TOF:time-of-flight)による質量分析を直接受ける。質量分析によって、異なるタンパク質が十分な濃度で微小生物内に存在していれば、そのタンパク質が示される。微小生物の同一性は、その後、数千もの基準スペクトルを含むスペクトルライブラリのコンピューター化検索を通じて微小生物のタンパク質プロファイルから求められる。検査されている微小生物の厳密な種のライブラリ内に基準マススペクトルが存在しない場合、類似度要件を緩和したコンピューター化ライブラリ探索が、微小生物の目(order)、科(family)又は属(genus)の少なくとも何らかインディケーションを提供することができる。なぜならば、関連性のある微小生物は、多くの場合、複数の同一のタンパク質タイプを含むためである。MALDIプロセスは、「Identification of Pathogens in Bodily Fluids」という発明の名称のUlrich Wellerに対する国際公開第2009/065580号に更に詳細に記載されており、この国際公開の内容は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。多様な質量分析機器を同定のために使用することができる。
【0005】
臨床検体からの微生物単離株の増殖を阻止することにおいて抗菌薬の有効性を分析することが望ましい。このような分析は、抗菌薬感受性試験(「AST」)として知られている。背景技術のAST技法は、一連の2倍希釈による液体培地内の低下した濃度の抗菌薬に細菌を晒すことを伴う希釈技法である。視認できる細菌増殖が発生しない抗菌薬の最低濃度は、最小発育阻止濃度(MIC:minimal inhibitory concentration)として定義される。MICは、抗菌薬感受性の標準的な尺度である。Becton, Dickinson and Company社によって販売されているBD Phoenix(商標)システム等のAST機器が、当該技術分野において既知であり、同定及びASTの双方を実行する。
【0006】
そのようなASTプロセスのための検体を調製することができる背景技術において既知である装置は、Becton, Dickinson and Company社から入手可能であるBD Phoenix(商標)APである。ワークフローは、通常、適切なチューブにラベル付けすること等によって接種物質を調製することと、微生物コロニーを選択し、IDブロスチューブ内で重懸濁液を作製することと、それらのチューブを、ASTブロスチューブを保持する1つ以上のラックに配置することとを含む。ワークフローは、次に、自動化比濁分析を実行してIDチューブを0.5マクファーランド(「McF」)又は0.25McFに調整することと、ASTブロスにAST指示薬を追加することと、サンプルの一部をASTブロスに移送することと、双方のチューブを混合することとを含む。ワークフローは、次に、医療従事者に、処理済みのIDチューブ及びASTチューブを除去させ、それらを、Phoenixパネル等のID/ASTパネルを有する接種ステーション上に配置させることと、パネルに検体を接種することとを含む。これについては、米国特許出願公開第2008/0072664号も参照されたい。この米国特許出願公開は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0007】
パネルは、その後、抗菌薬の存在下での微生物増殖を促進するために、所定の時間量の間、制御された環境(例えば、制御された温度、湿度、露光等)を有するID/ASTシステム(例えば、Phoenix機器)内で維持される。システムは、通常、制御された環境の維持を中断することなく1つ以上のマイクロウェル内の微生物増殖を測定するために、分析機能を含む。システムは、更なる処理のために追加のデバイスに分析結果を報告する機能も含むことができる。そのようなシステムは、ID機能及びAST機能の双方、又はID機能のみ若しくはAST機能のみを含むことができる。その上、ID/ASTシステムは、ID結果のみ又はAST結果のみのために実行することができる。パネルについては、例えば、米国特許第5,922,593号、同第6,096,272号、同第6,372,485号、同第7,115,384号及び同第6,849,422号を参照されたい。これらの米国特許の内容は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0008】
種々の研究用装置は、研究者が種々の研究用装置からのステータス及び結果を監視する単一の場所を提供するために、BD EpiCenter(商標)等のデータ管理システムと通信することができる。微生物学的データを適時に監視すること、分析すること及び通信することは、患者ケアに直接影響を与え得る。しかしながら、種々の研究用装置からの情報を得ること、編成すること及び通信することは、労働集約的である。現行の情報システムは、通常の同定及びAST試験でさえ困難にする可能性がある。微生物学者、感染制御当局職員、医師及び薬剤師は、生じている抵抗又はHAIイベントを迅速に同定し、これに対応するために、患者中心情報(patient-focused information)に即時アクセスする必要がある。
【0009】
MALDI及びASTの双方のために共通のサンプル懸濁液が作製される方法及び装置が、2011年7月6日に提出された出願から2015年11月10日に発行され、「Method and Apparatus for Identification of Bacteria」という発明の名称であり、Becton, Dickinson and Company社に譲渡された米国特許第9,180,448号に記載されている。MALDI及びASTの双方のためにサンプルを取得し、サンプルから懸濁液を作製する他のシステムは、2013年4月2日に提出された米国特許出願第14/388,430号から2017年1月31日に発行され、BD Kiestra B.V.社に譲渡され、「Automated Selection of Microorganisms and Identification Using MALDI」という発明の名称の米国特許第9,556,495号に記載されている。別のシステムが、2016年5月27日に提出され、BD Kiestra B.V.社に譲渡された米国特許公開公報第2016/034554号に記載されている。’448号特許、’495号特許及び’554号特許公開は全て、引用することにより本明細書の一部をなす。
【発明の概要】
【0010】
1つの実施形態では、本明細書において説明される本発明は、サンプル内に存在すると判断された微生物を同定するシステムと、その微生物を、それらの抗菌薬耐性/抗菌薬感受性に関して試験するシステムとの双方のサンプル源として共通のサンプル懸濁液が使用される自動化方法である。システムは、微生物同定のマススペック(例えば、MALDI)プロセス及び抗菌薬感受性試験(AST)の双方のための共通の懸濁液を調製する第1のステーションを有する。
【0011】
本方法によれば、サンプルが希釈液に接種される。1つの実施形態では、サンプルは、培養プレートからピッキングされる。培養プレートからサンプルをピッキングすることは、当業者には既知であり、本明細書において詳細には説明されない。培養プレートからサンプルをピッキングし、サンプルを希釈液に移植する(deposit)ことは、米国特許公開公報第2016/034554号に記載されている。
【0012】
ピッキングされたサンプルは、サンプル希釈液に移植される。そのような希釈液は、既知であり、本明細書において詳細には説明されない。そのような希釈液は、米国特許公開公報第2016/034554号に記載されている。
【0013】
その後、サンプルの濁度が測定される。濁度測定値を得るために比濁計が使用される。比濁計を使用する濁度の測定は、米国特許公開公報第2016/034554号に記載されている。測定された濁度が所定の範囲内である場合、懸濁液の第1のアリコートがMALDIのために使用され、懸濁液の第2のアリコートが抗生物質感受性試験(AST)のためにブロスチューブに送達される。ASTに使用される懸濁液の体積は、懸濁液濁度から計算される。なぜならば、ASTは、サンプルの或る特定の量のCFU(コロニー形成単位)がASTブロスチューブに送達されることを要求するためであり、懸濁液濁度及び接種されるサンプルの目標量に基づいて体積が計算される。自動ピペット採取装置によって課される限度に起因して所定の濁度範囲が必要である。ASTにおいて微生物が増殖することを可能にする栄養培地又は培養培地として使用されるブロスは、当業者には既知であり、本明細書において詳細には説明されない。ASTでは、微生物増殖の欠如は、試験されている微生物がサンプル懸濁液と組み合わせされて送達された抗生物質に対して感受性であることを示している。ASTブロスは、本明細書において培養培地とも称される。
【0014】
同定のためプレート(例えば、MALDIプレート)又は抗生物質感受性試験(AST)のためブロスチューブに接種するのに使用される懸濁液の量は、懸濁液の単位体積ごとに担持されるサンプルの量に基づいている。懸濁液が作製されると、懸濁液内のサンプルの濃度(すなわち、サンプル濁度)が過度に高い場合、MALDIプレート上又はASTブロスチューブ内にその量のサンプルを接種するように要求される懸濁液の体積は、極めて小量であり得る。小体積は、正確にピペット採取するのが困難である。逆に、懸濁液が非常に「軽量」であるほど、MALDIプレート又はブロスチューブに目標量のサンプルを接種するのに要求される体積が多くなる。しかしながら、従来のピペッターを使用して移送することができる体積は限定される。
【0015】
したがって、懸濁液内に送達されるその量のサンプルが、(懸濁液濁度によって測定されるような)懸濁液内のサンプル濃度が所定の範囲(例えば、約0.2マクファーランド~約2マクファーランド)よりも高いようなものである場合、懸濁液は、懸濁液濁度がその所定の範囲内になるように濁度を低下させるために希釈プロトコルを受ける。懸濁液内に送達されるその量のサンプルが、懸濁液濁度が所定の範囲未満であるようなものである場合、懸濁液は、濃縮プロトコルを受ける。1つの実施の形態では、濃縮プロトコルは、懸濁液内のサンプルの濃度を高めるために追加のサンプルを取得することを命じる。一方、追加のサンプルが利用可能ではない場合、濃縮プロトコルは、懸濁液を廃棄することを命じる。
【0016】
懸濁液の調製及びMALDIプレートへのそのような調製された懸濁液の接種は、米国特許公開公報第2016/034554号に記載されており、この米国特許公開公報は、引用することにより本明細書の一部をなす。MALDIプロセスは、第2のステーションにおいて行われ、ASTは、第3のステーションにおいて行われる。
【0017】
懸濁液のアリコートがMALDIのために除去された後、システムは、ASTパネルに接種するのに使用されることになる懸濁液の量を求める。懸濁液の体積量は、ASTブロスチューブ内に導入されることになる、所定の仕様によって要求されるサンプルの総量によって求められる。懸濁液の既知の濁度及びパネル接種のためのサンプルの目標量に基づいて、システムは、ASTブロスチューブに接種するのに要求される懸濁液の体積を計算する。その後、システムは、指定される懸濁液体積を取得し、パネルにその体積を接種する。本明細書におけるシステム及び方法は、懸濁液の濁度が、MALDIのためのサンプルのアリコートが懸濁液チューブから除去された後にASTのための標準化マクファーランド値に調整されることを要求せず、それにより、本方法及び本システムが、懸濁液を使用するASTブロスチューブの接種の前に、懸濁液の濁度を目標マクファーランド値に標準化することを要求するシステム及び方法よりも効率的になるとともに、機器集約が緩和される。
【0018】
システムは、ユーザーインターフェース及びソフトウェアを有し、ソフトウェアにおいて、サンプルは、第2のステーション及び第3のステーションからの試験結果がサンプルとサンプルの取得元である患者とに紐付けられるように追跡される。システムは、微生物がサンプル内に存在するか否かを判断するステーションも備え、微生物が存在すると判断されたサンプルのみが、更なる処理及び試験を受ける。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ASTのためのブロスチューブの接種の前に濁度標準化を必要としない、懸濁液を使用する方法を説明するフローチャートである。
図2】ASTのためのブロスチューブの接種の前に濁度標準化を要求しないが、初期懸濁液が過度に濃縮している場合にサンプル懸濁液を調製するために希釈プロトコルを提供する、懸濁液を使用する方法を説明するフローチャートである。
図3A】本発明の別の実施形態による、ASTのためのブロスチューブの接種の前に濁度標準化を要求しないが、サンプル懸濁液を調製するために希釈プロトコルを提供する、懸濁液を使用する方法の第1の部分を説明するフローチャートである。
図3B】本発明の別の実施形態による、ASTのためのブロスチューブの接種の前に濁度標準化を要求しないが、サンプル懸濁液を調製するために希釈プロトコルを提供する、懸濁液を使用する方法の第2の部分を説明するフローチャートである。
図4図2において示された方法を使用する、ASTブロスチューブ内のE.コリ濃度と、それに対する、懸濁液の最終濁度とを示す図である。
図5】1度の濁度測定のみを使用して作製された懸濁液についての、図2において示された方法を使用する、ASTブロスチューブ内のE.コリ濃度と、それに対する、懸濁液の最終濁度とを示す図である。
図6図4及び図5の方法によって調製された懸濁液を使用したAST結果の概略図である。
図7】システム概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書における本開示は、サンプル調製装置(以降、サンプル調製又は調製ステーション)を「Phoenix AP」として参照し、又は、ASTシステムをBD Phoenix(商標)として参照し、又は、ユーザーインターフェースを有するデータ管理システムを「BD EpiCenter」システムとして参照し、又は、血液培養分析装置を「BD BACTEC(商標)」として参照し、又は、質量分析システムをMALDIとして参照するが、これらの用語の意味は、これらの商標名を有する装置に限定されず、実質的に同様の機能を有する装置を含むことができることが理解されるべきである。実質的に同様の機能を有する装置は、BacT/Alert(bioMerieux社)及びVersaTREK(Trek社)血液培養システム、及びVitek(bioMerieux社)及びMicroScan(Siemens Healthcare社)ID/ASTシステムを含むことができる。
【0021】
1つの実施形態では、本明細書において説明されるシステムは、MALDI機器の微生物同定機能を、Phoenix、Phoenix AP、BACTEC、又はEpiCenterシステム等の研究分析又は処理システムのAST及びデータ処理機能と一体化する。
【0022】
別の実施形態では、Phoenix APは、PhoenixパネルのためのAST接種物質のみを調製するのではなく、MALDIプレートのためにも同じサンプルを調製するように改変される。この特徴により、MALDIプレートに適用される単離株が抗菌薬感受性試験に使用される厳密に同じサンプルからのものであることを確実にすることによって、MALDIプレート上で調製されたサンプルの陽性同定の自動化の利益が与えられる。
【0023】
MALDI、サンプル調製、ASTシステム、及び/又は血液培養機器は、EpiCenterシステム等のデータ管理システムと通信する。EpiCenterは、患者ケアを改善するためのリアルタイムデータアクセス及び分析ツールを提供する。EpiCenterは、微生物学的データを適時に監視、分析及び通信することが可能であり、それにより、患者ケアが直接制御、監視及び改善される。Phoenixは、AST結果を生成し、MALDI機器は、同定結果を生成する。EpiCenterは、それらの結果を組み合わせ、専門家規則(expert rules)を適用してサンプルについての最終ID/AST結果を生成する。専門家規則を適用するそのようなシステムの一例は、BDXpert(商標)である。
【0024】
図7は、本発明の一実施形態による、微生物サンプルを検出及び分析するシステム100のブロック図を示している。システム100の種々の構成要素は、サンプル調製ステーション(sample prep station)102(Phoenix AP等)と、マススペック機器(mass spec instrument)104(MALDI-TOF等)と、ASTシステム106(Phoenix等)と、血液培養システム108(BACTEC機器等)と、調製されたプレート培地110(例えば、手作業で調製された培地、又は、Innova等のシステムによって調製された培地)と、データ管理システム112(EpiCenter等)と、データ管理システム112からID/ASTリンク114を介してデータを受信し、PT情報リンク118を介してデータ管理システム112に患者情報を提供する研究情報システム116(「LIS」)とを含む。
【0025】
システム100において、サンプル調製システムには、例えば、調製されたプレートからピッキングされるか又は血液培養バイアルから取得される細菌が提供される。1つの実施形態では、キュベットに、細菌サンプルが上から接種される。キュベットは、ID及びAST双方のサンプル源として用いられることが有利である。これにより、同じ患者サンプルのみでなく、同じ単離株も、ID及びAST試験を受けることが確実になる。
【0026】
サンプル調製ステーション102は、ID及びAST双方のためにサンプルを調製し、一方、ASTシステム106がAST結果を生成し、マススペック機器104がID結果を生成する。データ管理システム112は、ID結果及びAST結果を記憶し、任意選択で専門家規則を適用してサンプルについての最終合成ID/AST結果を生成し、また、LISシステムとインタラクトする。
【0027】
図1を参照すると、プロセスは、サンプルを(通常、培養プレート又は培養チューブから)採取するステップ150、及びそのサンプルを懸濁液に送達するステップ155から開始する。ステップ160において懸濁液の濁度が測定され、その後、ステップ165において、測定された濁度が所定の範囲内であるか否かを判断するために濁度が評価される。MALDIプレート又はブロスチューブに接種するのに用いられるサンプルの体積が、自動ピペッターによって正確に移送するとともに、ピペッターの体積制約内にあることができる体積によって限定されるので、所定の範囲が必要である。これに関して、現行のピペッターは、約10mL(すなわち、1000μL)~約12mL(すなわち、1200mL)以下の懸濁液を移送するように構成される。
【0028】
懸濁液が目標範囲内の濁度を有する場合、ステップ170において、濁度読み取り値に基づいて、必要な量のサンプルをブロスチューブに接種するために必要である懸濁液の要求される体積が計算される。ピペッターは、ステップ175において、懸濁液から計算された体積の懸濁液を吸引するのに使用される。懸濁液が過度に軽量である場合、目標量のサンプルを送達するためにMALDIプレート又はブロスチューブに接種するのに要求される体積は、(少なくとも1度の移送において)ピペッターが収容するのに過度に大きいものとなる。懸濁液に過度に重量がある場合、小体積の懸濁液のみがMALDIプレート又はブロスチューブの接種に要求される。小体積の吸引及び吐出は、精度良く制御するのが困難であり、これにより、MALDIプレート又はブロスチューブの接種のために精密な量のサンプルを送達するのが困難になる。図1に図示される方法によれば、1つの実施形態において、所定の濁度は、約0.2マクファーランド~約2マクファーランドの範囲内である。懸濁液がこの範囲外にある場合、ステップ180において補正プロトコルが割り当てられる。懸濁液が過度に濃縮している場合、懸濁液は、濃度を目標範囲に低下させる希釈プロトコル185を受ける。希釈プロトコル185は、主に設計選択上の問題であり、通常、或る体積の懸濁液を除去することと、この懸濁液を希釈液に置き換えることとからなる。除去される懸濁液の体積は、濁度測定に基づいて選択される。希釈プロトコル185が成功した場合、ステップ190において、懸濁液は、ステップ170において計算された体積の懸濁液を使用することによってASTブロスチューブに接種するのに使用される。希釈プロトコルの1つの例示的な例が本明細書において後述される。希釈プロトコルが成功しなかった場合、ステップ191においてサンプルが廃棄される。
【0029】
ステップ180において懸濁液が過度に希釈されていると判断された場合、ステップ195において、懸濁液は、懸濁液内のサンプルの濃度を高めるために濃縮プロトコルを受ける。そのような濃縮プロトコルは、懸濁液へのサンプルの追加を要求する。濃縮プロトコル195は、主に設計選択上の問題であり、通常、希釈液に幾分かの追加のサンプルを追加することからなる。懸濁液内に送達される追加のサンプルの量は、精度良く制御するのが困難であるので、濃縮プロトコルは、濃縮プロトコルが完了した後の懸濁液の濁度を求めるために追加の濁度測定を要求する場合がある。ステップ190においてプロトコルが成功した場合、ステップ170において、懸濁液は、目標量のサンプルをブロスチューブに接種するのに要求される懸濁液の体積を計算することによってブロスチューブに接種するのに使用され、ステップ175において、その体積の懸濁液は、目標プレートに接種するために吸引される。濃縮プロトコルが成功しなかった場合、ステップ191においてサンプルが廃棄される。
【0030】
希釈プロトコルの1つの例は、本明細書において後述される。希釈プロトコル及び濃縮プロトコルのいずれも、懸濁液が濃縮又は希釈された後に追加の濁度測定を要求することが想定される。
【0031】
同定のためプレート(例えば、MALDIプレート)又は抗生物質感受性試験(AST)のためブロスチューブに接種するのに使用される懸濁液の量は、懸濁液の単位体積ごとに担持されるサンプルの量に基づいている。懸濁液が作製されると、懸濁液内のサンプルの濃度(すなわち、サンプル濁度)が過度に高い(例えば、約2マクファーランド以上である)場合、MALDIプレート上又はASTブロスチューブ内にその量のサンプルを接種するように要求される懸濁液の体積は、極めて小量であり得る。小体積は、正確にピペット採取するのが困難である。
【0032】
したがって、懸濁液内に送達されるその量サンプルが、(懸濁液濁度によって測定されるような)懸濁液内のサンプル濃度が所定の範囲の上限よりも高い(例えば、2マクファーランドを超える)ようなものである場合、懸濁液は、懸濁液濁度が所定の範囲内になるように濁度を低下させるために希釈プロトコルを受ける。懸濁液内に送達されるその量のサンプルが、懸濁液濁度が所定の範囲の下限未満である(例えば、約0.2マクファーランド未満である)ようなものである場合、懸濁液内のサンプルの濃度を高めるために追加のサンプルが取得される(追加のサンプルが利用可能ではない場合、その懸濁液は取り除けられる)。
【0033】
1つの例では、調製された懸濁液の測定される濁度は、約3マクファーランドの範囲内である。この例では、所定の濁度範囲は、約0.2マクファーランド~約2マクファーランドである。この濁度測定に基づいて、システムは、この懸濁液に希釈プロトコルを受けさせることを判断する。
【0034】
所定の濁度範囲は、主に、設計選択上の問題である。広範囲を決定する要因は、i)濁度を測定するのに使用される装置(例えば、比濁計)の精度、ii)比濁計の読み取り窓、及びiii)ピペッターの精度及び容量を含む。方法に従って、より高いマクファーランド値を有する懸濁液が作製され、その後、濁度を、目標量のサンプルをID又はAST試験に送達する値に低下させるように希釈される。
【0035】
別の例では、サンプルが得られ、懸濁液希釈液に接種される。懸濁液の濁度が測定される。測定される濁度は、所定の範囲(例えば、約0.2マクファーランド~約2マクファーランド)内であると判断される。接種のために要求されるサンプルの量に基づいて、MALDIプレート上又はASTブロスチューブ内への、目標量のサンプルを担持する懸濁液の体積が得られる。1つの実施形態によれば、懸濁液は、培養皿から或る量のコロニーをピッキングすることと、ピッキングされたサンプルを懸濁液内に送達することとによって調製される。
【0036】
別の例では、サンプルが得られ、懸濁液希釈液内に接種される。測定される濁度は、所定の範囲未満である(すなわち、約0.2マクファーランド未満である)と判断される。この例では、サンプル濁度を高めるために、追加のサンプルが取得され、懸濁液内に接種される。懸濁液の濁度は、再測定される。濁度が所定の範囲内である場合、MALDIプレート上又はASTブロスチューブ内に目標量のサンプルを送達するために指定された体積の懸濁液が得られる。調整された濁度が過度に高い場合、懸濁液を希釈するために希釈プロトコルが使用される。調整された濁度が依然として過度に低い場合、(依然として取得されるべき追加のサンプルが存在する場合)プロセスが繰り返される。追加のサンプルが存在しない場合、その懸濁液は使用されず、自動化プロセスから取り除けられる。所定の範囲内の濁度を有する懸濁液を得るために行われる繰り返しの試行が不成功だった場合、その懸濁液は、自動化プロセスから取り除けられる。
【0037】
懸濁液希釈液の体積は、主に、設計選択上の問題である。懸濁液の体積は過度に低くすることはできない。なぜならば、これにより、懸濁液の濁度が目標濁度範囲よりもはるかに高くなり、目標濁度を有する懸濁液を得るために複数回の希釈ステップが要求されるためである。懸濁液の体積は過度に高くすることはできず、この体積を過度に高くしてしまうと、接種される懸濁液の濁度は過度に低くなり、目標濁度範囲内の懸濁液濃度を取得するために複数回のステップが要求される。
【0038】
1つの実施形態では、サンプルが最初に接種される懸濁液希釈液の体積は、約200μL~約400μLである。代替的には、懸濁液希釈液体積の範囲は、約250μL~約350μLである。1つの例では、サンプルが接種される懸濁液希釈液の体積は、約300μLである。
【0039】
特定の濃縮/希釈プロトコルを有するワークフローの例は、図2及び図3に示されている。一般に、ステップ200においてサンプルが取得される。210において、サンプルがムコイドサンプルであると判断された場合、サンプルは、ステップ220において希釈液と混合され、270においてその濁度(マクファーランド単位)が測定される。
【0040】
サンプルがムコイドサンプルではない場合、サンプルの濁度は、ステップ230において、希釈の前に求められる。ステップ240において、通常のサンプルのための懸濁液の初期マクファーランド値が2マクファーランドよりも高い場合、又は連鎖球菌(streptococcus)を含有すると考えられるサンプルのための懸濁液の初期マクファーランド値が約1マクファーランドよりも高い場合、懸濁液は、ステップ250に進み、ステップ250において、懸濁液に脱イオン水が追加され、懸濁液が混合される。通常のサンプルのための初期マクファーランド値が約2以下である場合(又は、連鎖球菌を含有すると考えられるサンプルについて、初期マクファーランド値が1以下である場合)、サンプルは、混合する準備が完了しており、サンプルは、ステップ220に進む。
【0041】
ステップ250において、ロボットピペッターを有する自動化システムでは、ロボットピペッターが、1000μLピペットチップをピックアップし、950piの脱イオン水を、懸濁液を含むキュベットに吐出する。サンプルが連鎖球菌を含有すると考えられる場合、ロボットピペッターは、1000μLピペットチップをピックアップし、495μLの脱イオン水を、懸濁液を含むキュベットに吐出する。手動手順では、1000μLピペットチップが得られ、上記で説明された量の脱イオン水が懸濁液内に吐出される。
【0042】
ステップ220において、1000μLアリコートの懸濁液が得られ、一連の約250μLの懸濁液の約5回の吸引及び吐出によって、サンプルを混合するのに使用される。その後、ピペットチップが廃棄される。
【0043】
ステップ260において、ステップ250において懸濁液内に吐出されなかった脱イオン水が廃棄部に吐出される。また、希釈されたサンプルの体積が体積上限を超えた場合、懸濁液の過剰体積分は除去される。
【0044】
ステップ270において、希釈された懸濁液の濁度は、比濁計を使用して測定される。濁度の測定及び濁度を測定するのに使用されるデバイスは、当業者には既知であり、本明細書において詳細には説明されない。濁度を測定する方法及び装置が、米国特許公開公報第2016/034554号に記載されている。図2及び図3のプロトコルでは、懸濁液内のサンプルの濃度の変化を引き起こすいずれのステップも、新たな濁度測定を要求する。なぜならば、サンプル濁度値により、懸濁液が図2及び図3に図示されているワークフロー内でどのように処理されるかが決定されるためである。
【0045】
ステップ280において、測定されたサンプル濁度が評価される。キュベット懸濁液のマクファーランド値が0.2よりも低い場合、ASTブロスチューブに接種するのにその懸濁液を使用することができない。システムは、懸濁液がASTブロスチューブに接種するのに使用されないことを確実にするために、そのサンプルにエラーフラグを紐付ける。システムはこの情報を用いて更新され、その懸濁液は取り除けられる。懸濁液のマクファーランド値が0.2よりも高い場合、懸濁液は、潜在的に、ASTブロスチューブに接種するのに使用することができる。
【0046】
ステップ290において、懸濁液のマクファーランド値が0.2以上であるが2以下である場合(サンプルが連鎖球菌を含有すると考えられる場合、その範囲は、0.2以上であるが1以下である)、方法は、ステップ295に進み、ステップ295において、目標量のサンプルをASTブロスチューブに送達する懸濁液の接種体積が計算される。
【0047】
体積は、以下の関係を使用して通常のASTブロスについて計算される。
追加される体積=(0.55÷(懸濁液の測定されたマクファーランド値))×47.5μL (1)
例えば、懸濁液の測定された濁度が2.3である場合、ASTブロスチューブに接種するのに使用される懸濁液の体積は、(0.55÷2.3)×47.5μL=11.36μLである。サンプルが連鎖球菌ASTサンプルである場合、ブロスは、以下の関係に従った体積を接種される。
追加される体積=(0.55÷(懸濁液の測定されたマクファーランド値))×25.00μL (2)
【0048】
マクファーランド値が2よりも高い(懸濁液が連鎖球菌を含有すると考えられる場合、1よりも高い)場合、ステップ296において、サンプルが希釈されている回数が求められる。希釈の回数が3回未満である場合、懸濁液は、更なる希釈及び混合(並びに更なる希釈が必要とされる場合、懸濁液体積削減)のためにステップ250に戻る。希釈の回数が3回である場合、許容される希釈ステップの最大回数をそのサンプルが超過しているので、エラーメッセージが発行される。
【0049】
図3は、懸濁液が、懸濁液の濁度を標準化することなくブロスチューブに接種するのに使用されるプロセスを説明している。プロセスは、小量が除去されているとともに、MALDIプレートに接種するのに使用される調製された懸濁液から開始する。図3Aを参照すると、その懸濁液は、ステップ300において得られる。ステップ310において、MALDIスポッティング後の懸濁液の体積が求められる。実際の体積は、以下の関係に従って求められる。
実際の体積=V(例えば、330μL)-((目標プレートスポットの数×懸濁液層の数)×Vspot[例えば、3μL])-(層の数×バッファマージン)-(蒸発率×デッキ寿命(deck life)(時間単位)) (3)
上記の式において、Vは、懸濁液体積であり、Vspotは、MALDIプレート上に移植される懸濁液のスポット当たりの体積である。例えば、目標プレート上の1つのスポット及び4層のための十分な体積がそこから除去された懸濁液を含むキュベットは、330μL-((1×4)×3μL)-(4×3)-(10×3)=276μLの体積の実際のキュベット懸濁液体積を有することになる。これにより、懸濁液が3時間のデッキ寿命を有することが確実になる。ステップ320において、サンプルは、ムコイドサンプルであるか否かを判断するために評価される。サンプルがムコイドである場合、サンプルは、ステップ370に進み、ステップ370において、サンプルは希釈され、懸濁液は混合され、その濁度が測定される。サンプルがムコイドでない場合、サンプルは、ステップ330に進む。懸濁液の初期濁度特定は、最初に重懸濁液の処理を開始するのに使用され、それにより、懸濁液を、ASTのためのブロスチューブに接種するのに使用することができる。
【0050】
ステップ340において、懸濁液の初期濁度が所定の閾値(例えば、0.75マクファーランド)以上である場合、ステップ350において、懸濁液に脱イオン水が追加され、懸濁液が混合される。懸濁液の初期濁度が所定の閾値(例えば、0.75マクファーランド)よりも低い場合、方法は、その懸濁液についてステップ370に進む。本明細書の他の箇所で言及されているように、図2及び図3の説明において記載されている濁度及び体積閾値は、限定ではなく、例示のものである。
【0051】
ステップ350において、ピペットチップ(1000μL)が得られ、或る体積の脱イオン水を目標キュベットに吐出する。これは、手作業で、又はガントリー上に取り付けられたロボットピペッターを使用して行うことができる。吐出される脱イオン水の体積は、以下の定式によって計算される。
脱イオン水の体積=((初期マクファーランド値÷0.75)×実際のキュベット体積)-実際のキュベット体積 (4)
式4に従って、実際のマクファーランド値と閾値マクファーランド値とのこの比は、追加される脱イオン水の体積を求めるのに使用される。実際のマクファーランド値が上限未満である場合、脱イオン水は懸濁液に追加されない。1.4の初期マクファーランド値を用いた上記の例を使用すると、脱イオン水の体積は、((1.4÷0.75)×276μL)-276μL=239μLである。ステップ360において、計算された体積が最大体積(例えば、1000μLピペットチップの場合、950μL)よりも低い場合、計算された体積の脱イオン水がサンプルに追加される(図3Aにおいて「求められた体積を使用する」として示される)。追加されることになる脱イオン水の量が950μLを超えた場合、最大体積の950μLのみが追加される(図3Aにおいて「最大体積を設定する」として示される)。
【0052】
ステップ370において、ピペットチップ(1000μL)が、懸濁液の約250μLの一連の約5回の吸引及び吐出によってサンプルを混合するのに使用される。5回目のサイクルの後、ピペットチップは、廃棄される。
【0053】
ステップ380において、追加の体積(すなわち、脱イオン水)を懸濁液に追加する必要があるか否かが判断される。追加の体積が要求される場合、懸濁液は、ステップ390に進み、ステップ390において、追加の希釈液(脱イオン水)が懸濁液に追加される。追加の体積により懸濁液が体積限度を超えた場合、懸濁液体積を削減するために懸濁液が除去され、それにより、体積は、体積上限以下になる。追加の希釈液が必要とされない場合、方法は、ステップ400(図3B)に進み、ステップ400において、懸濁液の濁度を測定するのに比濁計が使用される。懸濁液の後続の処理は、測定された濁度によって決定される(この実施形態では、測定される濁度は、マクファーランド単位で測定される)。
【0054】
具体的には、マクファーランド値が0.2よりも低い場合、懸濁液を使用することができず、エラーメッセージが結果として発行される。図3Bにおけるステップ410を参照されたい。マクファーランド値が0.2以上である場合、ステップ420において、マクファーランド値が0.2~0.3である(これは、0.25マクファーランド値±20パーセントである)場合、懸濁液は、ASTパネルについてのサンプル源として使用される。
【0055】
マクファーランド値が0.3よりも高い場合、ステップ430において、マクファーランド値が0.5~0.6の範囲内である(これは、0.55マクファーランド値±10パーセントである)か否かが判断される。そのような懸濁液は、ASTパネルにおける使用のためにブロスに接種するためのサンプル源として使用するのに適していると判断される。ステップ430において懸濁液の濁度が0.5マクファーランド~0.6マクファーランドの範囲外である場合、サンプルは、ステップ440に進み、ステップ440において、懸濁液の事前希釈の回数により、懸濁液の更なる処理が決定される。懸濁液が5回希釈されている場合、その懸濁液についてエラーメッセージが発行され、その懸濁液は、ASTブロス接種のためのサンプル源として使用されない。
【0056】
懸濁液の希釈が5回よりも少なかった場合、ステップ450において、懸濁液は、ステップ370における更なる希釈のためにステップ360に戻る。懸濁液をASTブロス接種のためのサンプル源として使用するのに適したものにする所定の範囲内のマクファーランド値を有すると判断された懸濁液の場合、懸濁液は、表1における以下のスケジュールに従って、更なる濁度測定を行うことなく希釈される。
【0057】
【表1】
【0058】
上記の表1において記載された範囲内の濁度を有するサンプルから目標マクファーランド値を有する懸濁液を得るために、サンプルは、以下の関係に従って希釈される。
追加される体積=((測定されるマクファーランド値(ステップ370)÷目標マクファーランド値)×実際の体積)-実際の体積 (5)
例えば、ステップ350におけるキュベット体積を使用すると、懸濁液の初期測定マクファーランド値が1である場合、追加される体積は、((1÷0.75)×276)-276に等しく、これは、0.75の目標マクファーランド値を有する懸濁液を得るために懸濁液に追加されることになる92μLの希釈液(例えば、脱イオン水)である。しかしながら、追加されることになる体積の量が950μLを超えた場合、950μLのみがサンプルに追加される。
【0059】
ステップ370において、追加される体積が求められると、指定された体積の希釈液(例えば、脱イオン水)がサンプルに追加される。1000μLピペットチップがこのために得られる(自動化環境では、ロボットピペッターが、ピペットチップを取得し、その後、ピペッターは、ガントリーを介して、ピペッターを懸濁液の真上に位置決めするように並進する)。ピペットチップは、或る体積の懸濁液を吸引することと、その後、ピペットチップからその体積の懸濁液を吐出することとによって懸濁液を混合するのに使用される。最後の50部(例えば、50μL)が、ピペットチップが完全に空になることを確実にするように懸濁液の上のピペットチップを用いて吐出される。
【0060】
目標マクファーランド値が0.55又は0.25であり、かつキュベット内の懸濁液の総体積が希釈後に1500μLよりも多い場合、懸濁液が最大体積を超えることがないように、懸濁液から或る体積が除去される。ステップ390を参照すると、過剰体積は、以下の定式に従って除去される。
除去されることになる体積=実際の体積(μL)-1500μL (6)
【0061】
しかしながら、希釈の回数が5回を超えている場合、サンプルは、過度に頻繁に希釈されていることになり、自動化ASTの後続の処理(follow up)に使用することができない。そのような事例では、エラーメッセージが結果として発行されることになる。事前希釈の回数が5回よりも少ない場合、懸濁液は、前述したように希釈のためにステップ360に戻る。
【0062】
AST接種物質の体積が、(MALDIのために作製された重懸濁液のマクファーランド値を調整し、濁度(例えば、マクファーランド)仕様に基づく所定の体積をASTパネルに接種するのではなく)上記の方法に従って計算されたこの上記の方法を、ASTブロス接種のその有効性を判断するために評価した。この判断のために、E.コリQC株(BACTEC A25922)を使用して、ASTブロスチューブ内の生物の許容可能な濃度を達成するのに必要とされる接種物質の体積の計算の再現性を試験した。濃度の所定の範囲は、E.コリ(BACTEC A25922)の場合、2×10CFU/mL~8×10CFU/mLである。BACTEC A25922は、本明細書において説明される方法(この方法において、懸濁液が評価され、懸濁液の体積は、懸濁液濁度に基づいて求められる)を、MALDIのために重懸濁液が調製され、その後、その重懸濁液が目標濁度(0.5マクファーランド~0.6マクファーランド又は0.2マクファーランド~0.3マクファーランドのいずれか)に希釈され、その懸濁液の一定の体積がASTブロスチューブに接種するのに使用されるプロセスと比較するのにも使用した。双方の方法を使用して20個のサンプル(計40個のサンプル)を試験し、ASTブロスチューブにおける細菌濃度を測定するのにプレートカウントを使用した。処理されたASTパネルからのAST結果も分析した。
【0063】
図6において報告されているように、多様な開始時のマクファーランド値について、40個のサンプル全てが、2×10CFU/mL~8×10CFU/mL内のASTブロス濃度をもたらした。40個のサンプル全てについて、最小発育阻止濃度の全てが厳密に一致した。したがって、重懸濁液を希釈し、その後、ASTブロスに目標量のサンプルを送達するために要求される懸濁液の体積を求めるプロセスは、再現性があり、このQC株についての標準化濁度値(マクファーランド)への希釈プロセスと等しく機能するという結論に至った。
【0064】
図4を参照すると、ASTブロスチューブにおけるE.コリ濃度と、それに対する、直接ASTを使用したASTブロスチューブに接種するのに使用される懸濁液の最終濁度とが示されている。エラーバーは、サンプルごとに調製された9つのプレートカウントの標準偏差を表している。上部の破線及び下部の破線は、許容可能な濃度範囲(2×10CFU/mL~8×10CFU/mL)の限度を示しており、中央の破線は、範囲の中央を表している(5×10CFU/mL)。
【0065】
図5を参照すると、ASTブロスチューブにおけるE.コリ濃度と、それに対する、懸濁液を目標マクファーランド値(0.5マクファーランド~0.6マクファーランド)に希釈する希釈方式を使用したASTブロスチューブに接種するのに使用される懸濁液の最終濁度とが示されている。エラーバーは、サンプルごとに調製された9つのプレートカウントの標準偏差を表している。上部の破線及び下部の破線は、許容可能な濃度範囲(2×10CFU/mL~8×10CFU/mL)の限度を示しており、中央の破線は、範囲の中央を表している(5×10CFU/mL)。
【0066】
図6を参照すると、懸濁液の濁度が目標濁度内に調整されたか否かにかかわらず、又は接種物質の体積がASTブロスに目標量のサンプルを接種するために調整されたか否かにかかわらず、抗生物質ごとの最小発育阻止濃度(MIC)は同じであった。
【0067】
本発明は、本明細書において特定の実施形態を参照して記載してきたが、これらの実施形態は単に本発明の原理及び応用を例示するものであることを理解されたい。したがって、例示の実施形態に対して数多くの変更を行うことができることと、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の構成を考案することができることとを理解されたい。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7