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  • 特開-匍匐害虫の忌避方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051061
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】匍匐害虫の忌避方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/06 20060101AFI20240403BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20240403BHJP
   A01N 53/08 20060101ALI20240403BHJP
   A01M 29/12 20110101ALI20240403BHJP
   A01M 7/00 20060101ALN20240403BHJP
【FI】
A01N25/06
A01P17/00
A01N53/08 110
A01M29/12
A01M7/00 S
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024027051
(22)【出願日】2024-02-27
(62)【分割の表示】P 2022111984の分割
【原出願日】2017-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 智和
(72)【発明者】
【氏名】菅野 夏基
(57)【要約】
【課題】ダニ等の匍匐害虫を致死させにくく、忌避することにより、適用箇所に残存する虫体の数を低減するための匍匐害虫の忌避方法を提供する。
【解決手段】匍匐害虫の忌避成分を含む原液と噴射剤とを含むエアゾール組成物が充填された定量噴射型エアゾール製品から、エアゾール組成物を、下方に向けて噴射する、匍匐害虫の忌避方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
匍匐害虫の忌避成分を含む原液と噴射剤とを含むエアゾール組成物が充填された定量噴射型エアゾール製品から、前記エアゾール組成物を、下方に向けて噴射する、匍匐害虫の忌避方法。
【請求項2】
1回あたりの噴射量が0.2~1.0mLであり、
処理容量が、1畳当たり、0.2~1.0mLとなるよう噴射する、請求項1記載の匍匐害虫の忌避方法。
【請求項3】
噴射された前記エアゾール組成物の平均粒子径(D50)が15~95μmとなるよう噴射する、請求項1または2記載の匍匐害虫の忌避方法。
【請求項4】
前記忌避成分は、ピレスロイド系化合物であり、
前記匍匐害虫は、ダニである、請求項1~3のいずれか1項に記載の匍匐害虫の忌避方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匍匐害虫の忌避方法に関する。より詳細には、本発明はダニ等の匍匐害虫を忌避することにより、適用箇所に残存する虫体の数を低減するための匍匐害虫の忌避方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、殺虫、殺ダニ組成物を、害虫、ダニに直接、あるいはこれらの生息場所に施用する害虫、ダニの防除方法が知られている(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-10907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法は、殺虫、殺ダニ組成物を用いることにより、害虫やダニを防除することを意図している。そのため、特許文献1に記載の害虫、ダニの防除方法は、ダニ等の死骸(虫体)が適用箇所に残りやすく、ダニアレルゲンを低減させることが困難である。
【0005】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、ダニ等の匍匐害虫を致死させにくく、忌避することにより、適用箇所に残存する虫体の数を低減するための匍匐害虫の忌避方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、エアゾール製品を用いて忌避成分を含むエアゾール組成物を、下方に向けて一定量噴射することにより、ポンプ製品等を用いて同様の処理量となるよう噴射した場合と比較して、ダニ等の匍匐害虫を致死させにくく、忌避させ得ることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、上記課題を解決する本発明の匍匐害虫の忌避方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)匍匐害虫の忌避成分を含む原液と噴射剤とを含むエアゾール組成物が充填された定量噴射型エアゾール製品から、前記エアゾール組成物を、下方に向けて噴射する、匍匐害虫の忌避方法。
【0008】
(2)1回あたりの噴射量が0.2~1.0mLであり、処理容量が、1畳当たり、0.2~1.0mLとなるよう噴射する、(1)記載の匍匐害虫の忌避方法。
【0009】
(3)噴射された前記エアゾール組成物の平均粒子径(D50)が15~95μmとなるよう噴射する、(1)または(2)記載の匍匐害虫の忌避方法。
【0010】
(4)前記忌避成分は、ピレスロイド系化合物であり、前記匍匐害虫は、ダニである、(1)~(3)のいずれかに記載の匍匐害虫の忌避方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダニ等の匍匐害虫を致死させにくく、忌避することにより、適用箇所に残存する虫体の数を低減するための匍匐害虫の忌避方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、忌避効果の確認方法を説明するための実験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[匍匐害虫の忌避方法]
本発明の一実施形態の匍匐害虫の忌避方法(以下、単に忌避方法ともいう)は、匍匐害虫の忌避成分を含む原液と噴射剤とを含むエアゾール組成物が充填された定量噴射型エアゾール製品から、エアゾール組成物を、下方に向けて噴射することを特徴とする。以下、それぞれについて説明する。なお、以下の説明において、定量噴射型エアゾール製品の構成(エアゾール容器、エアゾールバルブおよび噴射部材等)は、特に限定されない。
【0014】
<定量噴射型エアゾール製品>
本実施形態の定量噴射型エアゾール製品(以下、単にエアゾール製品ともいう)は、原液および噴射剤を含むエアゾール組成物が充填されたエアゾール容器と、エアゾール容器に取り付けられた定量噴射用エアゾールバルブ(以下、単にエアゾールバルブともいう)と、エアゾールバルブを介してエアゾール容器に取り付けられる噴射部材とを備える。
【0015】
(エアゾール容器)
エアゾール容器は、エアゾール組成物を加圧充填するための耐圧容器である。エアゾール容器は、内部にエアゾール組成物が充填される空間が形成された概略筒状の容器である。エアゾール容器の上部には開口が設けられている。開口は、後述するエアゾールバルブによって密封される。
【0016】
エアゾール容器の材質は特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール容器は、耐圧性を有する各種金属製、樹脂製、ガラス製等であってもよい。
【0017】
・原液
原液は、噴射剤とともにエアゾール組成物を構成し得る成分である。原液は、エアゾール組成物が調製される際に、エアゾール容器に充填される。原液は、匍匐害虫の忌避成分を含む。
【0018】
匍匐害虫の忌避成分は特に限定されない。一例を挙げると、忌避成分は、ハッカ油、オレンジ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、チョウジ油、テレビン油、ユーカリ油、ヒバ油、ジャスミンオイル、ネロリオイル、ペパーミントオイル、ベルガモットオイル、ブチグレンオイル、レモンオイル、レモングラスオイル、シナモンオイル、シトロネラオイル、ゼラニウムオイル、シトラール、l-メントール、酢酸シトロネリル、シンナミックアルデヒド、テルピネオール、ノニルアルコール、cis-ジャスモン、リモネン、リナロール、1,8-シネオール、ゲラニオール、α-ピネン、p-メンタン-3,8-ジオール、オイゲノール、酢酸メンチル、チモール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル等の各種精油成分、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類、アジピン酸ジブチル等の二塩基酸エステル類、ピレトリン、アレスリン、フタルスリン、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、エムペントリン、プラレトリン、シフェノトリン、イミプロトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、メパフルトリン、ジメフルトリン等のピレスロイド系化合物、フェニトロチオン、ジクロルボス、クロルピリホスメチル、ダイアジノン、フェンチオン等の有機リン系化合物、カルバリル、プロポクスル等のカーバメイト系化合物、メトプレン、ピリプロキシフェン、メトキサジアゾン、フィプロニル、アミドフルメト等である。
【0019】
これらの中でも、忌避成分は、匍匐害虫を致死させにくく、忌避させやすい点から、ピレスロイド系化合物や精油成分であることが好ましく、フェノトリン、トランスフルトリン、酢酸メンチルを含むことがより好ましい。
【0020】
忌避成分の含有量は、忌避効果が充分に発現し、致死効果を発現しにくい含有量であればよく、特に限定されない。一例を挙げると、忌避成分の含有量は、エアゾール原液中、1質量/容量%以上であることが好ましく、5質量/容量%以上であることがより好ましい。また、忌避成分の含有量は、エアゾール組成物中、100質量/容量%であってもよい。忌避成分の含有量が上記範囲であることにより、本実施形態の忌避方法は、匍匐害虫を致死させにくく、忌避させやすい。
【0021】
特に、忌避成分がピレスロイド系化合物や精油成分である場合、これらの含有量は、エアゾール組成物中、1質量/容量%以上であることが好ましく、5質量/容量%以上であることがより好ましい。また、ピレスロイド系化合物や精油成分の含有量は、エアゾール組成物中、100質量/容量%であってもよい。ピレスロイド系化合物や精油成分の含有量が上記範囲であることにより、本実施形態の忌避方法は、匍匐害虫を致死させにくく、忌避させやすい。
【0022】
原液は、溶剤が配合されてもよい。溶剤は、たとえば忌避成分や任意成分を均一に配合するために好適に含有される。一例を挙げると、溶剤は、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、グリセリン、エチレングリコール等の多価アルコール、直鎖、分岐鎖または環状のパラフィン類、灯油等の石油類、水、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル等のエステル類等である。
【0023】
溶剤が含まれる場合において、溶剤の含有量は、原液中、1質量/容量%以上であることが好ましく、10質量/容量%以上であることがより好ましい。また、溶剤の含有量は、原液中、99質量/容量%以下であることが好ましく、90質量/容量%以下であることがより好ましい。溶媒の含有量が上記範囲内であることにより、原液は、忌避成分や任意成分が均一に配合されやすい。
【0024】
原液は、上記忌避成分や溶剤のほか、適宜の任意成分が配合されてもよい。任意成分は、たとえば、非イオン、陰イオンまたは陽イオン界面活性剤、ブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤、クエン酸、アスコルビン酸等の安定化剤、タルク、珪酸等の無機粉体、殺菌成分、防黴成分、消臭成分、芳香成分、香料、色素等である。
【0025】
・噴射剤
噴射剤は、上記原液を噴射するための媒体であり、原液とともにエアゾール容器に加圧充填される。噴射剤は特に限定されない。一例を挙げると、噴射剤は、ハイドロフルオロオレフィン、ジメチルエーテル(DME)、液化石油ガス(LPG)等である。噴射剤は、併用されてもよい。
【0026】
なお、本実施形態のエアゾール組成物は、上記噴射剤に加えて、エアゾール組成物の圧力を調整するために、炭酸ガス、窒素ガス、圧縮空気、酸素ガス等の圧縮ガスが併用されてもよい。
【0027】
エアゾール組成物の原液と噴射剤の配合割合(体積比)は1:99~70:30であることが好ましく、5:95~50:50であることがより好ましく、10:90~30:70であることがさらに好ましい。このような体積比とすることで、エアゾール製品は、噴射されたエアゾール組成物の平均粒子径の範囲が後述する範囲に調整されやすい。その結果、本実施形態の忌避方法は、匍匐害虫を致死させにくく、忌避させやすい。
【0028】
(エアゾールバルブ)
エアゾールバルブは、エアゾール容器内に充填されたエアゾール組成物を取り出すための機構であり、エアゾール容器の開口を閉止する。また、本実施形態のエアゾールバルブは、エアゾール容器から取り出されたエアゾール組成物を一時的に貯留するための定量室が形成されている。定量室の容積は、1回の噴射によって噴射されるエアゾール組成物の容量に相当する。
【0029】
定量室の容積は特に限定されない。一例を挙げると、定量室の容積は、0.2mL以上であることが好ましい。また、定量室の容積は、1.0mL以下であることが好ましい。定量室の容積が上記範囲内であることにより、エアゾール製品は、噴射されたエアゾール組成物の平均粒子径の範囲が後述する範囲に調整されやすい。その結果、本実施形態の忌避方法は、匍匐害虫を致死させにくく、忌避させやすい。
【0030】
エアゾールバルブは、噴射部材が使用者により操作されることによりエアゾールバルブの定量室内と外部との連通および遮断を切り替えるための開閉部材と、開閉部材が取り付けられるハウジングと、ハウジングをエアゾール容器の所定の位置に保持するためのマウント部材を備える。また、開閉部材は、噴射部材と連動して上下に摺動するステムを含む。ステムの摺動によりエアゾール組成物の連通(噴射状態)および遮断(非噴射状態)が切り替えられる。エアゾールバルブには、エアゾール容器からエアゾール組成物を取り込むためのハウジング孔と、取り込まれたエアゾール組成物を噴射部材に送るためのステム孔とが形成されている。ハウジング孔は、ハウジングに形成されている。ステム孔は、ステムに形成されている。ハウジング孔からステム孔までの経路は、エアゾール組成物が通過する内部通路を構成する。
【0031】
ステムは、エアゾールバルブに取り付けられる部位であり、エアゾールバルブに取り込まれたエアゾール組成物を、噴射ボタンに送るための内部通路が形成されている。内部通路は、ステムラバーによって適宜開閉される。
【0032】
原液および噴射剤が充填された状態において、25℃におけるエアゾールバルブの内圧は、0.2MPa以上であることが好ましく、0.25MPa以上であることがより好ましい。また、25℃におけるエアゾールバルブの内圧は、0.8MPa以下であることが好ましく、0.7MPa以下であることがより好ましい。エアゾールバルブの内圧が0.2MPa未満である場合、エアゾール組成物は、噴射後に、噴口から液ダレする可能性がある。一方、エアゾールバルブの内圧が0.8MPaを超える場合、エアゾール組成物は、エアゾール容器から漏洩する可能性がある。なお、エアゾールバルブの内圧は、たとえば25℃でWGA-710C計装用コンディショナ((株)共和電業製)に取り付けたPGM-E小型圧力センサ((株)共和電業製)をエアゾールバルブに接続することにより測定することができる。
【0033】
(噴射部材)
噴射部材は、エアゾール容器から取り込まれた原液を、噴射剤とともに噴射するための部材である。噴射部材には、エアゾール組成物を噴射するための噴口が形成されている。
【0034】
噴口の数、寸法および形状は特に限定されない。噴口の数、寸法および形状は、たとえば、噴射されたエアゾール組成物の平均粒子径が後述する範囲に調整され得るよう、適宜調整され得る。一例を挙げると、噴口の数は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、噴口の寸法(噴口直径)は、0.2mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましい。また、噴口直径は、4.5mm以下であることが好ましく、3.0mm以下であることがより好ましい。噴口の形状(断面形状)は、円形、楕円形、角形、各種不定形であってもよい。
【0035】
また、噴口の総断面積(総開口面積)は特に限定されない。総断面積は、たとえば、噴射されたエアゾール組成物の平均粒子径が後述する範囲に調整され得るよう、適宜調整される。一例を挙げると、総断面積は、0.03mm2以上であることが好ましく、0.07mm2以上であることがより好ましい。また、総断面積は、16.0mm2以下であることが好ましく、7.5mm2以下であることがより好ましい。なお、本実施形態において、「総断面積」とは、噴口の断面積(開口面積)の合計面積である。すなわち、噴口が1個である場合、総断面積は、噴口の断面積そのものであり、噴口が2個以上である場合、総断面積は、すべての噴口の断面積の和である。
【0036】
本実施形態のエアゾール製品は、使用者によって噴射ボタンが操作されることにより、ステム機構およびエアゾールバルブが作動し、エアゾールバルブの定量室内と外部とが連通する。これにより、エアゾールバルブの定量室内のエアゾール組成物は、エアゾールバルブの定量室内と外部との圧力差に従って一定量が取り出され、噴射部材の噴口から噴射される。
【0037】
本実施形態のエアゾール製品は、1回あたりの噴射量が0.2mL以上となるよう調整されることが好ましい。また、エアゾール製品は、1回あたりの噴射量が1.0mL以下となるよう調整されることが好ましい。1回あたりの噴射量が上記範囲内となるよう調整されていることにより、本実施形態の忌避方法は、適用箇所において、匍匐害虫を致死させにくく、忌避させやすい。
【0038】
本実施形態の忌避方法は、エアゾール組成物を下方に向けて噴射することを特徴とする。なお、本実施形態において、「下方」とは、床面と水平方向に対して10から90°の角度で下の方向と定義される。また、噴射時の角度は、20~80°であることが好ましく、30~70°であることがより好ましい。従来、エアゾール組成物は、上方に向けて噴射され、噴射したエアゾール組成物を沈降させて適用箇所に適用することがあった。しかしながら、このような方法は、適用箇所への処理量の調整が困難であるという問題がある。そこで、本実施形態の忌避方法は、下方に向けてエアゾール組成物を噴射することにより、適用箇所への処理量の調整が容易であるという利点がある。その結果、本実施形態の忌避方法は、匍匐害虫を致死させにくく、忌避させやすい。
【0039】
本実施形態の噴射方法は、下方に向けて噴射することにより、適用箇所における処理容量が調整されることが好ましい。処理容量とは1畳当たりに処理する噴射量のことであり、具体的には、処理容量は、1畳当たり、0.2mL以上となるよう噴射されることが好ましい。また、処理容量は、1畳当たり、1.0mL以下となるよう噴射されることが好ましい。処理容量が上記範囲内に調整されることにより、本実施形態の忌避方法は、匍匐害虫を致死させにくく、忌避させやすい。例えば、1畳当たりの処理容量が0.2mLのとき、1mL噴射で5畳の広さまで処理でき、1畳当たりの処理容量が0.5mLのとき、1mL噴射で2畳の広さまで処理できる。
【0040】
噴射されたエアゾール組成物の平均粒子径(D50)は特に限定されない。一例を挙げると、平均粒子径(D50)は、15μm以上となるよう噴射されることが好ましく、20μm以上となるよう噴射されることがより好ましい。また、平均粒子径(D50)は、95μm以下となるよう噴射されることが好ましく、90μm以下となるよう噴射されることがより好ましく、70μm以下となるよう噴射されることがさらに好ましい。平均粒子径(D50)が上記範囲内に調整されることにより、本実施形態の忌避方法は、匍匐害虫を致死させにくく、忌避させやすい。なお、本実施形態において、平均粒子径(D50)は、粒度分布測定装置により測定され、自動演算処理装置により解析されたD50(累積50%)を意味する。具体的には、平均粒子径(D50)は、25℃において、レーザー粒度分布測定装置(LDSA-1400A、東日コンピュータアプリケーションズ(株)製)を用いて、オート・スタート平均(平均化回数3回、間隔0.60ms)とし、30cmの位置における平均粒子径を指す。
【0041】
本実施形態の忌避方法は、上記エアゾール製品を使用して、原液および噴射剤を含む内容物(エアゾール組成物)を噴射(エアゾール噴射)している。この場合、たとえば、同様の原液を、単位面積当たりの有効成分処理量が同じになるようにポンプ噴射する場合と比較し、ダニ等の匍匐害虫を致死させにくく、忌避させ得る。
【0042】
また、本実施形態の忌避方法は、このようなエアゾール製品を用いて、下方に向けて噴射することを特徴とする。これにより、本実施形態の忌避方法は、適用箇所における匍匐害虫を致死させにくく、忌避させやすい。なお、匍匐害虫に対する忌避効果がより得られやすくなるように、1回あたりの噴射量、処理容量、噴射されたエアゾール組成物の平均粒子径(D50)、および、忌避成分の種類等が適宜調整され得る。
【0043】
本実施形態の忌避方法において使用されるエアゾール製品の製造方法は特に限定されない。一例を挙げると、エアゾール製品は、エアゾール容器に原液を充填し、エアゾールバルブによってエアゾール容器の開口を閉止し、噴射部材の噴口またはステムを介して噴射剤を加圧充填することによって製造することができる。
【0044】
なお、本実施形態の忌避方法が忌避対象とする匍匐害虫の種類は特に限定されない。一例を挙げると、匍匐害虫は、ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ、ケナガコナダニ、ツメダニ等のダニ、その他、クモ、ムカデ、アリ、ゲジ、ヤスデ、ダンゴムシ、ワラジムシ、シロアリ、ケムシ、ダニ、シラミ、マダニ、トコジラミ等である。これらの中でも、本実施形態の忌避方法は、ダニ、シラミ、トコジラミに対して実施されることが好ましく、ダニ、シラミに対して実施されることがより好ましい。本実施形態の忌避方法は、これらの匍匐害虫に対して実施されることにより、これらの匍匐害虫を致死させにくく、忌避させ得る。その結果、これらの匍匐害虫を、適用箇所から忌避させることができ、虫体が残存しにくい。したがって、本実施形態の忌避方法は、これら匍匐害虫の虫体が残存することによる問題(たとえばダニアレルギー)を抑制し得る。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0046】
使用したエアゾール製品およびポンプ製品の詳細を以下に示す。
実施例1のエアゾール製品1:噴射部材(噴口径φ1.0mm、噴口の断面形状が円形の噴口1個)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.2mL)
実施例2のエアゾール製品2:噴射部材(噴口径φ0.6mm、噴口の断面形状が円形の噴口1個)、エアゾールバルブ(定量室の容量1.0mL)
実施例3のエアゾール製品3:噴射部材(噴口径φ1.0mm、噴口の断面形状が円形の噴口1個)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.2mL)
実施例4のエアゾール製品4:噴射部材(噴口径φ0.3mm、噴口の断面形状が円形の噴口1個)、エアゾールバルブ(定量室の容量0.2mL)
比較例1のポンプ製品1:ポンプ用噴射部材(噴口径φ0.6mm、噴口の断面形状が円形の噴口1個)、ポンプ用バルブ(吐出容量1mL)
【0047】
<製剤型の差異について>
単位面積あたりで同じ薬剤処理量となる条件で、エアゾール製品とポンプ製品とでヤケヒョウヒダニに対する致死効果を比較した。
【0048】
(実施例1)
フェノトリンを35.0w/v%となるよう99.5%エタノールに溶解し、原液を調製した。得られた原液を、容量59mLのエアゾール容器に充填し、エアゾールバルブを取り付けた後、原液と噴射剤との配合割合(体積比)が6.9mL/16.1mLとなるよう噴射剤(液化石油ガス 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))を加圧充填し、噴射部材を取り付け、組成物として23mLのエアゾール製品を作製した(エアゾールバルブ、噴射部材はエアゾール製品1を用いた)。
【0049】
(比較例1)
フェノトリンを0.315w/v%となるよう99.5%エタノールに溶解し、原液を調製した。得られた原液を、容量300mLのポンプ容器に250mL充填し、ポンプ用バルブを取り付け、ポンプ用噴射部材を取り付け、ポンプ製品を作製した(ポンプ用バルブ、ポンプ用噴射部材はポンプ製品1を用いた)。
【0050】
実施例1および比較例1において得られたエアゾール製品およびポンプ製品について、以下の評価方法により、致死効果を確認した。結果を表1に示す。
【0051】
(致死効果の確認方法)
ヤケヒョウダニ(約100~300匹)を、腰高シャーレ(φ9cm、高さ6cm)に入れ、以下の空間の中央付近に載置した。その後、実施例1のエアゾール製品および比較例1のポンプ製品を用いて以下の方法によりそれぞれ処理し、約15時間静置した。噴射の角度は、いずれも、水平方向に対して30°下向きの角度とした。その後、供試虫の致死数を計数した。試験は2回行った。平均致死率(%)の結果を表1に示す。
【0052】
・エアゾール製品の処理方法
実施例1で作製したエアゾール製品を、1畳空間(寸法:0.91m×1.82m、1.66m2)に載置した上記腰高シャーレに対して、1mの距離(腰高シャーレ上の処理面に対する最短の直線距離、以下同様)から1回(0.2mL)噴射した。なお、この条件において噴射されたエアゾール組成物の平均粒子径(測定方法は以下を参照)は、42.8μmであった。
・ポンプ製品の処理方法
比較例1で作製したポンプ製品を、50cm四方の空間に載置した上記腰高シャーレに対して、30cmの距離から垂直に1回(1.0mL)噴射した。なお、この条件において噴射された内容物の平均粒子径(測定方法は以下を参照)は、162.0μmであった。
これらの処理方法によれば、実施例1および比較例1のいずれも、単位面積当たり約12mg/m2となるようフェノトリンが処理される。
【0053】
(粒子径の測定方法)
25℃において、レーザー粒度分布測定装置(LDSA-1400A、東日コンピュータアプリケーションズ(株)製)を用いて、オート・スタート平均(平均化回数3回、間隔0.60ms)として、噴口から30cmの距離における平均粒子径(D50)を測定した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示されるように、実施例1のエアゾール製品は、比較例1のポンプ製品と比較して、致死数を低減させることができた。これにより、同様の処理濃度とする場合であっても、ポンプ噴射に比べてエアゾール噴射を採用することにより、致死率を低減させ得ることが示された。
【0056】
<粒子径の差異について>
単位面積あたりで同じ薬剤処理量となる条件で、粒子径の異なるエアゾール製品間でヤケヒョウヒダニに対する致死効果を比較した。
【0057】
(実施例2)
フェノトリンを19.8w/v%となるよう99.5%エタノールに溶解し、原液を調製した。得られた原液を、容量59mLのエアゾール容器に充填し、エアゾールバルブを取り付けた後、原液と噴射剤との配合割合(体積比)が4.6mL/18.4mLとなるよう噴射剤(液化石油ガス 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))を加圧充填し、噴射部材を取り付け、組成物として23mLのエアゾール製品を作製した(エアゾールバルブ、噴射部材はエアゾール製品2を用いた)。
【0058】
(実施例3)
フェノトリンを21.0w/v%となるよう99.5%エタノールに溶解し、原液を調製した。得られた原液を、容量59mLのエアゾール容器に充填し、エアゾールバルブを取り付けた後、原液と噴射剤との配合割合(体積比)が11.5mL/11.5mLとなるよう噴射剤(液化石油ガス 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))を加圧充填し、噴射部材を取り付け、組成物として23mLのエアゾール製品を作製した(エアゾールバルブ、噴射部材はエアゾール製品3を用いた)。
【0059】
(実施例4)
フェノトリンを15.0w/v%となるよう99.5%エタノールに溶解し、原液を調製した。得られた原液を、容量59mLのエアゾール容器に充填し、エアゾールバルブを取り付けた後、原液と噴射剤との配合割合(体積比)が16.1mL/6.9mLとなるよう噴射剤(液化石油ガス 飽和蒸気圧:0.49MPa(25℃))を加圧充填し、噴射部材を取り付け、組成物として23mLのエアゾール製品を作製した(エアゾールバルブ、噴射部材はエアゾール製品4を用いた)。
【0060】
実施例2~4において得られたエアゾール製品について、以下の評価方法により、致死効果を確認した。結果を表2に示す。
【0061】
(致死効果の確認方法)
ヤケヒョウダニ(約100~300匹)を、腰高シャーレ(φ9cm、高さ6cm)に入れ、以下の空間の中央付近に載置した。その後、実施例2~4のエアゾール製品を用いて以下の方法によりそれぞれ処理し、約15時間静置した。噴射の角度は、いずれも、水平方向に対して30°下向きの角度とした。その後、供試虫の致死数を計数した。試験は2回行った。平均致死率(%)の結果を表2に示す。
【0062】
・エアゾール製品の処理方法
実施例2で調製したエアゾール製品を、2畳空間(寸法:1.82m×1.82m、3.31m2)に載置した上記腰高シャーレに対して、1mの距離から1回(1mL)噴射した。また、実施例3および実施例4で調製したエアゾール製品を、1畳空間(寸法:0.91m×1.82m、1.66m2)に載置した上記腰高シャーレに対して、1mの距離から1回(0.2mL)噴射した。なお、この条件において噴射されたエアゾール組成物の平均粒子径(測定方法は以下を参照)は、実施例2で20.9μm、実施例3で69.7μm、実施例4で93.1μmであった。
これらの処理方法によれば、実施例2~4のいずれも、単位面積当たり約12mg/m2となるようフェノトリンが処理される。
【0063】
(粒子径の測定方法)
25℃において、レーザー粒度分布測定装置(LDSA-1400A、東日コンピュータアプリケーションズ(株)製)を用いて、オート・スタート平均(平均化回数3回、間隔0.60ms)として、噴口から30cmの距離における平均粒子径(D50)を測定した。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示されるように、平均粒子径(D50)が20.9~69.7μmである場合に、より致死率を低減させ得ることが分かった。また、比較例1のポンプ製品よりは、平均致死率を低減させ得ることが分かった。
【0066】
<忌避効果について>
単位面積あたりで同じ薬剤処理量となる条件で、粒子径の異なるエアゾール製品およびポンプ製品でヤケヒョウヒダニに対する忌避効果を比較した。
図1は、忌避効果の確認方法を説明するための実験装置の模式図である。図1に示されるように、直径15cmのシャーレ1に、シャーレ1の底面から順に、9cm角の黒紙2、3.5cm角の綿布を4枚(縦横2枚ずつ配置、綿布3a~3d)、それぞれの綿布3の中心に2cm角の黒紙4、それぞれの黒紙4上にえさ(新鮮培地5)を配置した。綿布3a~3dのうち、綿布3aおよび綿布3cには、以下の方法により、実施例1~4のエアゾール製品または比較例1のポンプ製品を用いて、内容物を噴射した。これにより、4枚の綿布3a~3dは、忌避処理のされたものとされなかったものとが、交互に配置されることとなる。また、黒紙2の外側4箇所に、約500~1000匹の供試虫(ヤケヒョウダニ)をほぼ均等に入れた。25℃、75%RHの条件にて1晩静置し、処理区(綿布3aおよび綿布3c)と無処理区(綿布3bおよび綿布3d)に這い上がってきた供試虫を計数し、以下の算出式により、忌避率(%)を算出した。試験は2回行った。平均忌避率(%)の結果を表3に示す。
ダニ忌避率(%)
=100×(無処理区の這い上がりダニ数-処理区の這い上がりダニ数)/(無処理区の這い上がりダニ数)
【0067】
(綿布への内容物の処理方法)
実施例1~4で作製したエアゾール製品または比較例1で作製したポンプ製品を1回噴射した。なお、実施例1、実施例3、および、実施例4で調製したエアゾール製品は、1畳空間(寸法:0.91m×1.82m、1.66m2)に載置した上記綿布3aおよび綿布3cに対して、1mの距離から1回(0.2mL)噴射した。実施例2で作製したエアゾール製品は、2畳空間(寸法:1.82m×1.82m、3.31m2)に載置した上記綿布3aおよび綿布3cに対して、1mの距離から1回(1.0mL)噴射した。噴射の角度は、いずれも、水平方向に対して30°下向きの角度とした。また、比較例1で調製したポンプ製品は、50cm四方の空間に載置した上記綿布3aおよび綿布3cに対して、30cmの高さから垂直に1回(1.0mL)噴射した。
これらの処理方法により、実施例1~4、および、比較例1のいずれも、単位面積当たり約12mg/m2となるようフェノトリンが処理される。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示されるように、実施例1~4のエアゾール製品と、比較例1のポンプ製品は、いずれも、供試虫に対する忌避効果が認められた。なお、参考までに、実施例1のエアゾール製品を上方(水平方向に対する角度が30°)に1回噴射した結果、供試虫に対する忌避効果は認められなかった。ここで、表1および表2を合わせて参照すると、実施例1~4のエアゾール製品は、適用箇所に向けて下方に噴射した場合に、致死効果が低減されており、かつ、忌避効果が充分であることが分かった。そのため、実施例1~4のエアゾール製品によれば、適用箇所の対象害虫を致死させにくく、忌避することができ、虫体を適用箇所に残存させにくいことが分かった。一方、比較例1のポンプ製品は、対象害虫を致死させやすく、適用箇所に虫体を残存させるおそれがあることが分かった。
【符号の説明】
【0070】
1 シャーレ
2 黒紙
3a~3d 綿布
4 黒紙
5 新鮮培地
P1~P4 供試虫の供試場所
図1