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特開2024-5109ポリイミド樹脂及びポリイミド樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005109
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂及びポリイミド樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240110BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105136
(22)【出願日】2022-06-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
(71)【出願人】
【識別番号】517030859
【氏名又は名称】ウィンゴーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】ウィン モーソー
(72)【発明者】
【氏名】五島 敏之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4J002CM041
4J002DE146
4J002FD016
4J002GH00
4J002GH01
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ01
4J043PA02
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB01
4J043TA22
4J043TB01
4J043UA122
4J043ZB02
4J043ZB47
(57)【要約】
【課題】
本発明が解決しようとする課題は、室温状態でも固化せず、ガラス移転温度が低い可溶性ポリイミド樹脂の製造方法及び密着性、硬度に優れ、耐溶剤性及び保存安定性が良いポリイミド樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【解決手段】
酸無水物とジアミンとを反応溶剤中で反応させてポリイミドを製造する方法であって、
前記ジアミンがダイマージアミンを含み、
前記反応溶剤がエステル系溶剤を含む、ことを特徴とする、ポリイミド樹脂の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸無水物とジアミンとを反応溶剤中で反応させてポリイミドを製造する方法であって、
前記ジアミンがダイマージアミンを含み、
前記反応溶剤がエステル系溶剤を含む、ことを特徴とする、ポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記酸無水物を前記反応溶剤に溶解させ、前記酸無水物が溶解した反応溶剤中に前記ジアミンを滴下してイミド反応を行う工程を含む、請求項1に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項3】
イミド化反応により形成されたポリアミック酸の濃度が5質量%以下の状態を維持しながら閉環反応を行い、ポリアミドを得ることを含む、請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ジアミンの配合量は、前記酸無水物のモル当量1に対し、0.95~1.05モル当量である、請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記エステル系溶剤が、安息香酸エステル類である、請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項6】
ポリイミド樹脂組成物を製造する方法であって、
請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載の方法によりポリイミドを製造し、
前記ポリイミド樹脂に、平均粒径が0.3~1.0μmである充填剤を混合する工程を含む、ポリイミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
ポリイミド樹脂組成物を製造する方法であって、
請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載の方法によりポリイミドを製造し、
前記ポリイミド樹脂に、平均粒径が0.3~1.0μmである充填剤を混合する工程を含み、
前記充填剤を、前記ポリイミド樹脂の固形分量100質量部に対して10~4000質量部の割合で混合する、ポリイミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
ポリイミド樹脂硬化物を製造する方法であって、
請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載の方法によりポリイミドを製造し、
前記ポリイミド樹脂に、平均粒径が0.3~1.0μmである充填剤を混合する工程を含み、
前記充填剤を、前記ポリイミド樹脂の固形分量100質量部に対して10~4000質量部の割合で混合し、ポリイミド樹脂組成物を製造し、
前記ポリイミド樹脂組成物を50~200℃の温度で加熱乾燥すること含む、ポリイミド樹脂硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂及びポリイミド樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、その高弾性、耐熱性の特徴を生かし、従来電気・電子分野を中心に広く使用されているが、近年ポリイミド結合自体の化学的安定性を生かし、絶縁インキの成分として使用されることが増えている。
インキとして使用される場合、耐溶剤性、耐湿性が求められることが多い。また耐熱性を必要としないインキは、耐熱性を持たない被着体に塗られるケースが多く、インキを乾燥する温度も150℃程度以下の温度を要求されることが多い。そのためには、溶剤揮発のみで塗膜を形成できる溶剤可溶性ポリイミドを用いることや、ポリイミド樹脂のガラス転移温度と乾燥温度を下げ、樹脂内部での溶剤の拡散速度を上げること等によって乾燥を容易にすることが行われてきた。
【0003】
耐溶剤性や耐湿性に優れるポリイミド樹脂塗膜を得るには、飽和もしくは不飽和の脂肪族系ジアミン、デカンジアミン、ドデカンジアミンなど石油化学系の合成品はポリイミド樹脂を構成するモノマーとして好適であるが、分岐の少ない脂肪族系のモノマーを用いたポリイミド樹脂はインクとして使用する際の樹脂の溶解可能な溶剤が少なく、インキなどとして使用するのは困難である。
【0004】
不飽和脂肪酸の二量体を変性した、いわゆるダイマージアミンは、非常に嵩高い分岐構造を有するため、溶剤への溶解性が高く、インキとして塗膜を形成した後、幅広い溶剤に対して耐久性を有し最適である。
しかし、ダイマージアミンを用いたポリイミド樹脂の製造時には、反応中間体であるポリアミック酸の溶解性が低いため、高濃度での反応中にはポリアミック酸が析出し反応液全体がゲル化し、流動性が失われてしまうという問題があった。特に、反応容器に酸無水物とダイマージアミンを同時に仕込むと、ポリアミック酸による反応液のゲル化が顕著になる。このゲル化状態は、反応液を120℃以上に加熱しポリアミック酸のイミド化が進むにつれて再溶解し、均一な溶解状態となるが、不均一な状態で全体の反応が進行するため、重合反応後の粘度が一定とはならない。また、反応後の樹脂溶液に経時でゲル化物の生成などが起こり、安定した製造方法ではない。
このような問題の解決手段として、例えば特許文献1に例示されるように、先に酸無水物と反応溶剤を仕込み、撹拌しながら加温して、しかる後に反応容器中にダイマージアミンを徐々に滴下し反応させる方法は、反応異常を防ぐために有効な方法である。
【0005】
しかし、溶剤可溶性ポリイミドは、溶剤溶解性の観点から、n-メチルピロリドンやジメチルホルムアミドやガンマブチロラクトンのような高極性溶剤を溶剤として用いるので、ダイマージアミンを含む溶剤可溶性ポリイミドでは、室温状態で、ゲル化もしくは固化しまう課題があった。
また、ポリイミド樹脂を含むインキを使用する印刷では、ポリイミド樹脂硬化物の厚膜が要求されており、溶剤可溶性ポリイミド樹脂のみの固形分は、30~50%程度が上限であり、厚膜への対応が難しい。そのため、有機や無機の充填剤を入れ、対応しているが、保存時間の経過に伴い、充填剤の沈降や粘度変化が起こり、使用出来ない状態になってしまう課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】2020-203981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、室温状態でも固化せず、ガラス移転温度が低い可溶性ポリイミド樹脂の製造方法及び密着性、硬度に優れ、耐溶剤性及び保存安定性が良いポリイミド樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究した結果、エステル系溶剤を使用することにより、室温状態でも固化しない可溶性ポリイミド樹脂の製造方法及び密着性、硬度に優れ、耐溶剤性及び保存安定性が良いポリイミド樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 酸無水物とジアミンとを反応溶剤中で反応させてポリイミドを製造する方法であって、
前記ジアミンがダイマージアミンを含み、
前記反応溶剤がエステル系溶剤を含む、ことを特徴とする、ポリイミド樹脂の製造方法。
[2] 前記酸無水物を前記反応溶剤に溶解させ、前記酸無水物が溶解した反応溶剤中に前記ジアミンを滴下してイミド反応を行う工程を含む、[1]に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
[3] イミド化反応により形成されたポリアミック酸の濃度が5質量%以下の状態を維持しながら閉環反応を行い、ポリアミドを得ることを含む、[1]又は[2]に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
[4] 前記ジアミンの配合量は、前記酸無水物のモル当量1に対し、0.95~1.05モル当量である、[1]又は[2]のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
[5] 前記エステル系溶剤が、安息香酸エステル類である、[1]又は[2]のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
[6] ポリイミド樹脂組成物を製造する方法であって、
[1]又は[2]のいずれか一項に記載の方法によりポリイミドを製造し、
前記ポリイミド樹脂に、平均粒径が0.3~1.0μmである充填剤を混合する工程を含む、ポリイミド樹脂組成物の製造方法。
[7] ポリイミド樹脂組成物を製造する方法であって、
[1]又は[2]のいずれか一項に記載の方法によりポリイミドを製造し、
前記ポリイミド樹脂に、平均粒径が0.3~1.0μmである充填剤を混合する工程を含み、
前記充填剤を、前記ポリイミド樹脂の固形分量100質量部に対して10~4000質量部の割合で混合する、ポリイミド樹脂組成物の製造方法。
[8] ポリイミド樹脂硬化物を製造する方法であって、
[1]又は[2]のいずれか一項に記載の方法によりポリイミドを製造し、
前記ポリイミド樹脂に、平均粒径が0.3~1.0μmである充填剤を混合する工程を含み、
前記充填剤を、前記ポリイミド樹脂の固形分量100質量部に対して10~4000質量部の割合で混合し、ポリイミド樹脂組成物を製造し、
前記ポリイミド樹脂組成物を50~200℃の温度で加熱乾燥すること含む、ポリイミド樹脂硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリイミドの製造方法によれば、ポリアミック酸の濃度を低く保ちかつ速やかに脱水イミド化反応を進め、均一な反応場でポリイミドの重合を行うことができる。これにより得られたポリイミド樹脂溶液は、ガラス移転温度が低く、室温でもゲル状になることなく、均一な液状態を保つことができ、このような均一な液状態のポリイミド樹脂を使用して充填剤を添加し、得られる組成物は時間の経過に伴い、充填剤の沈降や粘度変化が起こることなく、保存安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、酸無水物とジアミンとを反応溶剤中で反応させてポリイミドを製造する方法であって、ジアミンがダイマージアミンを含み、反応溶剤がエステル系溶剤を含むことを特徴とする、ポリイミド樹脂の製造方法である。
【0012】
<ポリイミド樹脂>
本発明におけるポリイミドとは、ポリイミド結合を繰り返し単位として持つポリマーを意味し、ポリイミド樹脂とは、ポリイミドを含む樹脂をいう。
【0013】
<ポリイミド樹脂の製造方法>
本発明のポリイミド樹脂の製造方法において、特に製造条件が制限されるものではないが、通常、反応温度は150~210℃であり、好ましくは160~200℃である。また、製造量にもよるが、滴下反応時間は30~120分程度であり、好ましくは60~90分程度である。
【0014】
本発明の一つ実施態様としては、酸無水物を反応溶剤に溶解させ、酸無水物が溶解した反応溶剤中にジアミンを滴下してイミド反応を行う工程を含むことが好ましい。酸無水物先に反応溶剤に仕込み、ジアミンを徐々に滴下することによって、ポリアミック酸の濃度が5質量%以下の状態を維持しながら閉環反応を行い、速やかに脱水イミド化反応を進め、ポリアミック酸によるゲル化を防ぐことができる。
【0015】
<酸無水物>
本発明において、酸無水物としては特に限定されないが、脂肪族テトラカルボン酸無水物、芳香族カルボン酸無水物等を挙げることができる。酸無水物は、単独でまたは2種以上を組合せて使用できる。
【0016】
脂肪族テトラカルボン酸無水物としては、環式または非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物(HBPDA)およびこれらの位置異性体等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組合せて使用できる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、および1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独または2種以上を組合せて使用できる。また、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物および非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物を組合せて用いてもよい。
【0017】
芳香族カルボン酸無水物としては、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物および縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,4-オキシジフタル酸二無水物(aODPA)、4,4‘-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸二無水物(BPADA)3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(sBPDA)、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(aBPDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物および4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物等が挙げられる。また、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)等が挙げられ、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0018】
<ジアミン>
本発明において、ジアミンは、ダイマージアミンを含む。ジアミン中のダイマージアミンの含有量は、柔軟性、接着性及び耐溶剤性の観点から、50~100質量%であり、ガラス転移点を低く抑えることにより、溶剤乾燥を容易にする観点から、好ましくは75~100質量である。
【0019】
ダイマージアミンとは、不飽和脂肪酸の二量体として得られる環式又は非環式ダイマー酸の全てのカルボキシル基を一級アミノ基に置換したものであり、各種公知のものを特に限定されることなく使用できる。
【0020】
ダイマージアミンは市販品を使用してもよい。ダイマージアミンの市販品としては、バーサミン551(コグニクスジャパン(株)製)、バーサミン552(コグニクスジャパン(株)製;バーサミン551の水添物)、PRIAMINE1075、PRIAMINE1074(いずれもクローダジャパン(株)製)等を挙げることができる。
【0021】
本発明において、ジアミンはダイマージアミン以外のジアミンを含むことができる。ダイマージアミン以外のジアミンとしては、2官能のジアミンであれば、特に限定されないが、例えば、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン等を挙げることができる。
【0022】
芳香族ジアミンの具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン;4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組合せて使用できる。
【0023】
脂肪族ジアミンの具体例としては、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組合せて使用できる。
【0024】
ジアミンの配合量は、酸無水物のモル当量1に対し、ジアミンのモル当量は0.95~1.05であり、好ましくは0.97~1.03である。
【0025】
<エステル系溶剤>
エステル系溶剤とは、-COO-を含む溶剤をいう。本発明において、エステル系溶剤としては、反応に影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等の乳酸エステル類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル等の酢酸エステル類;酪酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル等の酪酸エステル類;ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル等のピルビン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の安息香酸エステル類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のアセト酢酸エステル類を挙げることができる。これらは単独でまたは2種以上を組合せて使用できる。
【0026】
脱水溶媒としては、トルエン、メチルベンゼンのような水と共沸混合物をものであれば、特に制約はなく、反応溶剤が安息香酸エステルのような水と共沸するものであれば添加しなくともよい。
【0027】
本発明により製造されたポリイミド樹脂は、そのままインキとして用いることもできるが、インキ化する際には、使用する印刷機の特性に合わせて、添加剤を加えて調整を行うことができる。例えば、粘度調整に関しては、エステル系溶剤、ナフテン系溶剤、テルピネオール、酢酸エチルカルビトール、シクロヘキサノン、酢酸エチル、トルエンなどの汎用溶剤で希釈することができる。
【0028】
本発明のポリイミド樹脂組成物の製造方法は、上記のポリイミド樹脂の製造方法によりポリイミド樹脂を製造し、得られたポリイミド樹脂に、充填剤を混合する工程を含む
【0029】
本発明のポリイミド樹脂組成物の製造方法は、上記のポリイミド樹脂の製造方法によりポリイミド樹脂溶液を製造し、塗膜の厚み調整や各種の性能付与のために、得られたポリイミド樹脂溶液に無機系又は有機系充填剤を混合する工程を含む。
【0030】
無機系充填材としては特に種類を選ばず絶縁性の塗膜を得たい場合にはシリカ・アルミナ・硫酸バリウム・炭酸カルシウムなどを使用できる。熱伝導性を付与する場合にはアルミナ・窒化ホウ素・窒化アルミニウム・酸化マグネシウム・黒鉛粉・銀粉・銅粉などを使用することができる。電気伝導性を付与する場合には、銀粉・銅粉・カーボンブラック・インジウム錫混合酸化物粉などが使用できる。
【0031】
有機系充填材としては、ポリマー溶液に使用する溶剤に溶解しないものであれば使用することができる。例えば、架橋アクリル粒子、架橋スチレン粒子、メラミン樹脂粒子、ポリエチレン粒子、ポリイミド粒子などがあげられる。
【0032】
充填剤は球状のものが好ましい。充填剤の粒径は、組成物の長期的な安定性の観点から、好ましくは平均粒径が0.3~1.0umであり、より好ましくは0.4~0.8umである。このような粒径を有する充填剤を使用することにより、沈降や粘度上昇が抑えられる。また、充填剤に球状で平均粒径が1.0~5.0um充填剤を混合することで、更に粘度上昇が抑えられる。充填剤は、単独もしくは2種以上混合してもよい。なお、本明細書において「平均粒径」とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法を用いて得られる体積累積50%における粒径(D50)を意味する。
【0033】
充填剤の混合量は、ポリイミド樹脂組成物の用途に応じて特に限定されることなく、適宜調整することができ、ポリイミド樹脂の固形分量100質量部に対して10~4000質量部の割合で配合してよい。例えば、充填剤がアルミナである場合、ポリイミド樹脂の固形分量100質量部に対して、アルミナを50~500重量部の割合で混合してもよい。
【0034】
本発明により製造されたポリイミド樹脂及びその組成物の粘度は、特に限定されることなく、用途に応じて適宜に調整することができるが、例えば、50000~100000mPa・s、好ましくは、60000~80000mPa・sである。ポリイミド樹脂の粘度は、樹脂の分子量により調整でき、また、樹脂組成物の粘度は、溶剤等により調整することができる。なお、粘度は、例えばコーンプレート型粘度計等の粘度計を用いて、25℃で測定した際の粘度をいうものとする。
【0035】
本発明により製造されたポリイミド樹脂組成物の用途は、特に限定されることなく、フィルム、コーティング剤、保護膜、電気絶縁材料全般、ベアリング、耐熱塗料、断熱軸、断熱トレー、電子部品、自動車部品、インキ等様々な分野で使用することができる。また、用途に応じて、粘性調整剤、消泡剤、架橋剤、顔料、染料、可塑剤、酸化防止剤を添加する工程を含むことができる。
【0036】
本発明のポリイミド樹脂硬化物の製造方法は、上記ポリイミド樹脂組成物の製造方法によりポリイミド樹脂組成物を製造し、得られたポリイミド樹脂組成物を50℃~200℃、好ましくは50~180℃、より好ましくは50~150℃の温度で加熱乾燥することを含む。本発明により製造されたポリイミド樹脂より、従来の公知方法から製造されたポリイミド樹脂より比較的低い温度で硬化物を形成することができるため、耐熱性を必要としないインキとして好適である。
【実施例0037】
(実施例1)
撹拌羽根、水抜き還流管、窒素導入口及び滴下ロトをセットした1Lの反応器に安息香酸メチル449.73gとピロメリット酸二無水物87.25gを仕込み、窒素置換した後、撹拌しなから185℃に保持したオイルバスで加温した。ダイマージアミン(P1075、クローダジャパン社製)214.40gを滴下ロトに測り取った。反応器の内部は、加温開始後約30分でPMDAが溶解し、透明な溶液状態となった。反応器の中にダイマ―ジアミンを約60分かけて滴下反応した。滴下終了後4時間反応させた後、反応液は透明な褐色粘調液体となり、固形分は39.8%で粘度は55000mPa*sであった。温度が室温に下がっても、反応液はほぼ透明状態を保ち、取り出し後もゲル化物などの生成もなく均一な液状態を保っていた。
【0038】
(比較例1)
撹拌羽根、水抜き還流管、窒素導入口及び滴下ロトをセットした1Lの反応器にn-メチルピロリドン449.73gとPMDA87.25gを仕込み、窒素置換した後、撹拌しなから185℃に保持したオイルバスで加温した。ダイマージアミン(P1075、クローダジャパン社製、)214.40gを滴下ロトに測り取った。反応器の内部は、加温開始後約30分でPMDAが溶解し、透明な溶液状態となった。反応器の中にダイマ―ジアミンを約60分かけて滴下反応した。滴下終了後4時間反応させた後、反応液は透明な褐色粘調液体になったが、温度が室温に下がると、ゲル状になり、最終的には固化してしまった。
【0039】
(実施例3)PMDA+アルミナ
0.3Lのプラネタリーミキサーに実施例1で得られたポリイミド樹脂90gとASFP-40(デンカ製球状アルミナ)300gを仕込み、減圧しながら、1時間混錬してフィラーを分散させた。その後ポリイミド樹脂90gと安息香酸へキシル20gを入れ、再度減圧撹拌を30分行い、粘度72000mPa*sのポリイミド樹脂組成物を得た。
【0040】
(実施例4)PMDA+アクリルフィラー
0.3Lのプラネタリーミキサーに実施例1の樹脂溶液100gと架橋アクリル粉KMR-3TA(綜研化学製)90gを仕込み、減圧しながら、1時間混錬してフィラーを分散させた。その後ポリイミド樹脂100gとナフテン系溶剤D-110(安藤パラケミー製)30gを入れ、再度減圧撹拌を30分行い、粘度70000mPa*sのポリイミド樹脂組成物を得た。
【0041】
(実施例5)PMDA+アルミナ
0.3Lのプラネタリーミキサーに実施例1の樹脂溶液90gとASFP-05S(平均粒径:0.55umデンカ製球状アルミナ)300gを仕込み、減圧しながら、1時間混錬してフィラーを分散させた。その後ポリイミド樹脂90gと安息香酸へキシル20gを入れ、再度減圧撹拌を30分行った。その後、安息香酸へキシルを入れ、ポリイミド樹脂組成物の粘度を60000mPa*sに調整した。
【0042】
(実施例6)MDA+アルミナ
0.3Lのプラネタリーミキサーに実施例1の樹脂溶液90gとASFP-07S(平均粒径:0.8umデンカ製球状アルミナ)300gを仕込み、減圧しながら、1時間混錬してフィラーを分散させた。その後樹脂溶液90gと安息香酸へキシル20gを入れ、再度減圧撹拌を30分行った。その後、安息香酸へキシルを入れ、ポリイミド樹脂組成物の粘度を60000mPa*sに調整した。
【0043】
(実施例7)PMDA+アルミナ
0.3Lのプラネタリーミキサーに実施例1の樹脂溶液90gとDAW-01(平均粒径:2umデンカ製球状アルミナ)300gを仕込み、減圧しながら、1時間混錬してフィラーを分散させた。その後樹脂溶液90gと安息香酸へキシル20gを入れ、再度減圧撹拌を30分行った。その後、安息香酸へキシルを入れ、ポリイミド樹脂組成物の粘度を60000mPa*sに調整した。
【0044】
(実施例8)PMDA+アルミナ
0.3Lのプラネタリーミキサーに合成例1の樹脂溶液100gとFB-3SDC(平均粒径:3umデンカ製球状シリカ)100gとASFP-07S(平均粒径:0.8umデンカ製球状アルミナ)175gを仕込み、減圧しながら、1時間混錬してフィラーを分散させた。その後樹脂溶液100gと安息香酸へキシル25gを入れ、再度減圧撹拌を30分行った。その後、安息香酸へキシルを入れ、ポリイミド樹脂組成物の粘度を60000mPa*sに調整した。
【0045】
(塗布膜の密着性評価)
実施例1のポリイミド樹脂及び実施例2、3のポリイミド樹脂組成物を100μmのスペーサーを介して、スライドグラス上にスキージ塗布し、その後120℃30分間熱風オーブン内で乾燥した後、JIS K5600-5-6に準じて1mm碁盤目セロテープ剥離試験を行い、塗布膜の密着性を評価した。密着性評価の結果を表1に示す。
【0046】
(塗布膜の鉛筆硬度性評価)
実施例1のポリイミド樹脂及び実施例2、3のポリイミド樹脂組成物を100μmのスペーサーを介して、スライドグラス上にスキージ塗布し、その後120℃30分間熱風オーブン内で乾燥した後、鉛筆硬度はJIS K5600-5-4に準じて、塗布膜の鉛筆硬度性を評価した。鉛筆硬度性評価の結果を表1に示す。
【0047】
(塗布膜の耐溶剤性評価)
リチウムイオン電池の電解液に用いられている溶剤を用い、離型フィルム上に実施例1及び実施例2、3のポリイミド樹脂組成物を200μmのスペーサーを介してスキージ塗布した後、同じく120℃30分間乾燥した試験片を、幅1cm長さ4cmに切りだし、初期の重量を精秤した後、実施例1~3それぞれの試験片を炭酸エチレン・炭酸プロピレン(EC・PC)混合溶剤(質量比1:1)及び炭酸エチレン・ジメチルカーボネート(EC・DMC)混合溶剤(質量比3:7)に室温で24時間浸漬した。その後、試験片を溶剤から取り出し、試験片表面の溶剤を良く拭き取ったのちに、再び試験片の重量を測定した。耐溶剤性としては、初期質量と浸漬後質量の差から質量の変化率を百分率で表し、膨潤率とした。耐溶剤性評価(膨潤率)の結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
いずれもガラスへの密着性は良好でかつ柔軟な塗膜であった。炭酸エチレン・炭酸プロピレン(EC・PC)混合溶剤に対してはいずれも膨潤しないが、炭酸エチレン・炭酸ジメチル(EC・DMC)混合溶剤に対しては、いずれも実用的に充分に良い耐溶剤性を示している。
【0050】
(ポリイミド樹脂組成物の安定性評価)
実施例4~7それぞれのポリイミド樹脂組成物を保存容器に入れ、室温にて保存し、粘度変化と充填物の沈降の確認を行った。粘度は、ステージ温度25℃,回転数5rpmで測定を行い、沈降の確認は、ヘラの先端を容器の底の外側から中心までを直線で1回掻き取って、確認を行った。粘度変化の評価結果は表2、沈降の評価結果は表3に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
粘度変化が30%以下を良好とし、実施例4では、粘度変化は、1ヶ月までは、良好であり、3ヶ月以上沈降が見られなかったことが判る。
実施例5では、粘度変化が3ヶ月まで、良好な結果であり、3ヶ月以上沈降が見られなかったことが判る。
実施例6については、粘度変化は、3ヶ月以上良好な結果が得られているが、沈降に関しては、平均粒径2μmと大きいため、沈降が1週間で見られ、良好な結果が得られなかった。
実施例7については、粘度変化は、3ヶ月以上良好な結果が得られ、実施例4~6のポリイミド樹脂組成物に対して粘度変化が少ない結果が得られた。また、平均粒径3μmと大きな粒径が入っていても、2ヵ月まで良好な結果が得られた。