(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051101
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】細胞充填システム及び細胞医薬製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20240403BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240403BHJP
C12M 3/02 20060101ALI20240403BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240403BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240403BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20240403BHJP
【FI】
A61K35/12
C12M1/00 A
C12M3/02
A61K9/10
A61P43/00 111
C12N5/071
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028143
(22)【出願日】2024-02-28
(62)【分割の表示】P 2019139123の分割
【原出願日】2019-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 武雄
(57)【要約】
【課題】細胞懸濁液を保存用容器に充填する操作を効率良くかつ安定して行うことができる細胞充填システム及びこれを利用した細胞医薬製剤の製造方法を提供する。
【解決手段】細胞医薬製剤容器に細胞懸濁液を充填する細胞充填システムであって、(A1)内部空間11とその内部空間を連通する連通部とを有する細胞医薬製剤容器10と、(B1)流体の流れを切り替える活栓21と、前記細胞医薬製剤容器と前記活栓を接続する管状体22とを有する細胞充填部20と、(C1)前記細胞充填部と連結する分岐部31を有する多岐管路30と、(D1)前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する吸気手段40と、(E1)細胞懸濁液を含有する細胞懸濁液容器50と、を備える細胞充填システムである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞医薬製剤容器に細胞懸濁液を充填する細胞充填システムであって、
(A1)内部空間とその内部空間を連通する連通部とを有する細胞医薬製剤容器と、
(B1)流体の流れを切り替える活栓と、前記細胞医薬製剤容器と前記活栓を接続する管状体とを有する細胞充填部と、
(C1)前記細胞充填部と連結する分岐部を有する多岐管路と、
(D1)前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する吸気手段と、
(E1)細胞懸濁液を含有する細胞懸濁液容器と、
を備える細胞充填システム。
【請求項2】
前記多岐管路(C1)の前記分岐部が少なくとも2つ以上ある、請求項1に記載の細胞充填システム。
【請求項3】
少なくとも2つ以上の前記分岐部が、前記多岐管路(C1)において一直線上に配置されている、請求項2に記載の細胞充填システム。
【請求項4】
前記多岐管路(C1)の前記分岐部には活栓が設けられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞充填システム。
【請求項5】
前記細胞医薬製剤容器(A1)は少なくとも2つ以上の連通部を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞充填システム。
【請求項6】
前記多岐管路の1つの管路と前記吸気手段との間に活栓を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞充填システム。
【請求項7】
前記多岐管路の1つの管路と前記細胞懸濁液容器との間に活栓を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞充填システム。
【請求項8】
内部空間とその内部空間を連通する連通部とを有する細胞医薬製剤容器の内部空間を、吸気手段を用いて減圧する工程と、前記細胞医薬製剤容器の減圧された内部空間に、細胞懸濁液を充填する工程と、を含む細胞医薬製剤の製造方法。
【請求項9】
前記細胞医薬製剤容器が、流体の流れを切り替える活栓と、前記細胞医薬製剤容器と前記活栓を接続する管状体とを有する細胞充填部を有する、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記吸気手段を用いて減圧する工程において、前記細胞充填部と連結する分岐部を有する多岐管路を経由して前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記吸気手段を用いて減圧する工程において、前記細胞充填部を経由して前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する、請求項8から10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記細胞医薬製剤容器が少なくとも2つ以上である、請求項8から11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧後、前記吸気手段と前記多岐管路との接続を解く工程を含む、請求項9から12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧後、前記多岐管路と前記医薬製剤容器との接続を解く工程を含む、請求項9から13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記細胞懸濁液を充填する工程では、前記細胞充填部を経由して、前記細胞医薬製剤容器の内部空間に細胞懸濁液を充填する、請求項10から14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記細胞医薬製剤容器の内部空間に前記細胞懸濁液を充填後、前記細胞医薬製剤容器を封止する工程を含む、請求項8から15のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞充填システム及び細胞医薬製剤の製造方法に関するものである。詳しく述べると本発明は、例えば、生体から採取された細胞を、細胞懸濁液として凍結して保存する場合に効率よく容器中に細胞懸濁液を充填することができる細胞充填システム及びこれを用いた細胞医薬製剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
再生医療の分野において、臍帯血や幹細胞などの生体から採取された細胞が用いられることがある。これら細胞は、生体から採取された後、細胞懸濁液として凍結されて保存される。このような細胞懸濁液を凍結保存する場合においては、各容器の容積が比較的小さなものであり、多数の容器に分割して充填する必要がある。
【0003】
細胞懸濁液を凍結保存する容器として従来種々のものが提案されているが、代表的には、例えば、内部空間を有する可撓性樹脂製のバッグと前記内部空間に連通するチューブ状連通部を有する構造のものであり、個々の容器に対して、前記連通部より例えば、シリンジ等を用いて細胞懸濁液を容器の内部空間内に充填し、充填後連通部を溶封する等して密閉する操作が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際特許公開 WO2015/147077
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、細胞懸濁液を容器に充填するときに、容器内に多くの気体があると、細胞懸濁液を凍結保存するときに、細胞の生存率が低下したり、容器が破損するリスクがある。また、このように個々の容器に対してそれぞれシリンジ等を接続及び解除して充填を行う操作は、多数の容器に充填する上で煩雑かつ非効率なものとなるだけでなく、頻繁な接続及び解除操作に起因してコンタミネーションの可能性を高めるものであった。
【0006】
また例えば、特許文献1などにおいて、互いに区画されかつ連通流路によって連通された2つ又は3つの内部空間を有する構造の容器も提案されている。そして、この容器を用いて細胞懸濁液を充填する方法としては、第1の内部空間を外部に対して開口する細胞注入ポートにエアポンプやシリンジポンプなどの減圧装置を接続して、内部を減圧した後、該細胞注入ポートを減圧装置より切り離して、該細胞注入ポートを通じて細胞懸濁液を注入すること、また、第1の内部空間から前記連通通路を通して第2、第3の内部空間へ細胞懸濁液を移動させた後、前記連通流路を熱融着によって封止することが示されており、各内部空間に充填された細胞懸濁液を、それぞれ独立して、使用できるような構成としている。
【0007】
このように特許文献1において提案される構成のものは、1回の細胞懸濁液の注入によって、実質的に2ないし3つの容器体への充填操作をもたらすものであるが、それ以上の多数の容器体への効率の良い充填操作という面に関しては十分な効果を与えるものではなかった。また、特許文献1においては、第1の内部空間を外部に対して開口する細胞注入ポートに減圧装置を接続して、減圧処理した後、当該細胞注入ポートと減圧装置との接続を解除し、当該細胞注入ポートより細胞懸濁液を充填するとあるが、減圧装置との接続を解除してから、細胞懸濁液を充填する経路に接続するまでの間に、当該細胞注入ポートを閉鎖するための構成等については何も示されていない。例えば、当該細胞注入ポートより延長されたチューブ部分を、公知のチューブクリップ等を用いて係止することなどは考えられるものの、操作性が悪く、また容器体の内部空間の減圧状態を確実に保持できるかどうかも疑問の残るところであった。
【0008】
上記したような細胞懸濁液を充填する上での操作効率は、作業性の面のならずコンタミネーションの発生の可能性面でも危惧されるものであり、改良が望まれる。
【0009】
上述の問題を鑑み、本発明は、改良された細胞充填システム及び細胞医薬製剤の製造方法を提供することを課題とする。本発明はまた、細胞懸濁液を保存用容器に充填する操作を効率良くかつ安定して行うことができる細胞充填システム及びこれを利用した細胞医薬製剤の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討及び研究を行った結果、容器内をあらかじめ減圧し、この状態を確実に保持して細胞懸濁液を充填することで、容器内に気体がほとんど無い状態にできることを見出した。さらに、この方法を効率よく行うために、保存用容器へ接続する流路ないし充填システムの構造に新たな工夫を加え、複数の容器を同時に減圧できる流路と、減圧後の容器を減圧状態に保持したまま着脱できる構造とすることで、細胞懸濁液を保存する上で使用する保存用容器の数の多寡ないし変動にかかわらず、定常的な操作で簡単にかつ安定した細胞充填を行えることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 細胞医薬製剤容器に細胞懸濁液を充填する細胞充填システムであって、
(A1)内部空間とその内部空間を連通する連通部とを有する細胞医薬製剤容器と、
(B1)流体の流れを切り替える活栓と、前記細胞医薬製剤容器と前記活栓を接続する管状体とを有する細胞充填部と、
(C1)前記細胞充填部と連結する分岐部を有する多岐管路と、
(D1)前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する吸気手段と、
(E1)細胞懸濁液を含有する細胞懸濁液容器と、
を備える細胞充填システム。
【0012】
(2) 前記多岐管路(C1)の前記分岐部が少なくとも2つ以上ある、(1)に記載の細胞充填システム。
【0013】
(3) 少なくとも2つ以上の前記分岐部が、前記多岐管路(C1)において一直線上に配置されている、(2)に記載の細胞充填システム。
【0014】
(4) 前記多岐管路(C1)の前記分岐部には活栓が設けられている、(1)~(3)のいずれかに記載の細胞充填システム。
【0015】
(5) 前記細胞医薬製剤容器(A1)は少なくとも2つ以上の連通部を有する、(1)~(4)のいずれかに記載の細胞充填システム。
【0016】
(6) 前記多岐管路の1つの管路と前記吸気手段との間に活栓を有する、(1)~(5)のいずれかに記載の細胞充填システム。
【0017】
(7) 前記多岐管路の1つの管路と前記細胞懸濁液容器との間に活栓を有する、(1)~(6)のいずれかに記載の細胞充填システム。
【0018】
(8) 内部空間とその内部空間を連通する連通部とを有する細胞医薬製剤容器の内部空間を、吸気手段を用いて減圧する工程と、前記細胞医薬製剤容器の減圧された内部空間に、細胞懸濁液を充填する工程と、を含む細胞医薬製剤の製造方法。
【0019】
(9) 前記細胞医薬製剤容器が、流体の流れを切り替える活栓と、前記細胞医薬製剤容器と前記活栓を接続する管状体とを有する細胞充填部を有する、(8)に記載の製造方法。
【0020】
(10) 前記吸気手段を用いて減圧する工程において、前記細胞充填部と連結する分岐部を有する多岐管路を経由して前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する、(9)に記載の製造方法。
【0021】
(11) 前記吸気手段を用いて減圧する工程において、前記細胞充填部を経由して前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する、(8)~(10)のいずれかに記載の製造方法。
【0022】
(12) 前記細胞医薬製剤容器が少なくとも2つ以上である、(8)~(11)のいずれかに記載の製造方法。
【0023】
(13) 前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧後、前記吸気手段と前記多岐管路との接続を解く工程を含む、(9)~(12)のいずれかに記載の製造方法。
【0024】
(14) 前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧後、前記多岐管路と前記医薬製剤容器との接続を解く工程を含む、(9)~(13)のいずれかに記載の製造方法。
【0025】
(15) 前記細胞懸濁液を充填する工程では、前記細胞充填部を経由して、前記細胞医薬製剤容器の内部空間に細胞懸濁液を充填する、(10)~(14)のいずれかに記載の製造方法。
【0026】
(16) 前記細胞医薬製剤容器の内部空間に前記細胞懸濁液を充填後、前記細胞医薬製剤容器を封止する工程を含む、(8)~(15)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、細胞医薬製剤容器内に細胞懸濁液を充填したときに、容器内に気体がほとんど存在しない状態を効率よく実現でき、かつ複数の容器内を一度に減圧できるものとすることで、作業効率が向上する。さらに、減圧後の容器を、減圧状態を保持したまま着脱できる構成とすることで、充填作業を複数人で分業できるようにして作業効率を上げることができ、また細胞懸濁液を保存する上で使用する細胞医薬製剤容器の数の多寡ないし変動にかかわらず、定常的な操作で簡単にかつ安定した細胞充填を行えるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】細胞充填システムの一実施態様における要部構成を示す平面図である。
【
図2】細胞充填システムの別の実施態様における要部構成を示す平面図である。
【
図3】細胞充填システムのさらに別の実施態様における使用状態を示す平面図(図面代用写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の細胞充填システム及び細胞医薬製剤の製造方法を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0030】
(細胞医薬製剤)
細胞医薬製剤は、医学的及び/又は薬学的に許容される細胞懸濁液を含む医薬製剤であり、具体的には、医学的及び/又は薬学的に許容される細胞と、薬学的に許容される薬剤とを含む医薬製剤である。前記細胞医薬製剤は、後述する本発明に係る細胞医薬製剤容器を用いることが好ましい。
【0031】
細胞の種類は、医学的及び/又は薬学的に許容される細胞であれば特に限定されないが、例えば、多能性幹細胞(人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、精巣由来の多能性幹細胞であるGS細胞、胎児の始原生殖細胞由来のEG細胞、骨髄等に由来するMuse細胞等)、体性幹細胞(骨髄、脂肪組織、歯髄、胎盤、卵膜、臍帯血、羊膜、絨毛膜等に由来する間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞等)、白血球、単球、顆粒球、リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞等)、巨核球、マクロファージ、神経細胞、心筋細胞、心筋前駆細胞、肝細胞、肝臓前駆細胞、α細胞、β細胞、γ細胞、繊維芽細胞、軟骨細胞、角膜細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、周細胞等が例示でき、前記細胞は遺伝子導入された形態やゲノム上の対象遺伝子などをノックダウンされた形態でもよい。
【0032】
本発明で用いられる細胞は、典型的にはヒトであるが、例えば、マウス、ラット、ハムスター等のげっ歯類、ゴリラ、チンパンジー、マーモセット等の霊長類、さらにイヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜又は愛玩動物などの哺乳動物由来のものであってもよい。
【0033】
細胞医薬製剤における薬学的に許容される薬剤は、細胞を医薬として利用可能な形態に維持することができ、ヒト等の動物に投与可能な媒体であれば特に限定されない。薬学的に許容される薬剤は、医薬製剤として製造する段階で細胞医薬製剤と混合しても良いし、患者又は被験者に対して細胞医薬製剤を投与する段階で細胞医薬製剤と混合しても良い。薬学的に許容される薬剤としては特に限定されないが、例えば、生理食塩水、電解質溶液、リンゲル液、高カロリー輸液、ブドウ糖液、注射用水、アミノ酸電解質などが挙げられる。また、薬学的に許容される薬剤は、必要に応じて塩類、ビタミン類、アミノ酸類、多糖類、ジメチルスルホキシド、緩衝剤、アルブミン、培地、細胞凍結保護剤などを含み得る。また、医薬として活性を有する成分である免疫抑制剤、抗生物質、アルブミン製剤、ビタミン製剤、抗炎症剤等を含んでもよい。
【0034】
前記塩類としては、塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムといったアルカリ金属の塩;カルシウム、バリウム、マグネシウムといったアルカリ土類金属の塩;アルミニウム、亜鉛、銅、鉄等の塩;アンモニウム塩;テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ベンジルメチルヘキシルデシルアンモニウム、コリン等の四級アンモニウム塩;ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、エタノールアミン、ジオラミン、トロメタミン、メグルミン、プロカイン、クロロプロカイン等の有機アミンとの塩;グリシン、アラニン、バリン等のアミノ酸との塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
前記ビタミン類としては、例えば、葉酸、ナイアシンアミド、ピリドキシン塩酸塩、ビオチン、D-パントテン酸カルシウム、リボフラビン、ビタミンB12、チアミン、ビタミンA、ビタミンEなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
前記アミノ酸類としては、全ての必須アミノ酸(L-トリプトファン、L-ロイシン、L-リジン、L-フェニルアラニン、L-イソロイシン、L-スレオニン、L-ヒスチジン、L-メチオニン、及びL-バリン)、全ての非必須アミノ酸(L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、グリシン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-システイン、L-セリン、L-チロシン、L-プロリン)、その他のL-シスチン等の天然アミノ酸を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0037】
前記多糖類としては、例えば、セルロース、キチン及びキトサン等の非水溶性多糖類、及び例えば、ヒアルロン酸、ジェランガム、脱アシル化ジェランガム、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン、ザンタンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ラムナン硫酸、アルギン酸及びそれらの塩などの水溶性多糖類を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0038】
前記培地としては、細胞が生存できる成分組成で構成されており、かつヒト等の動物に投与すること可能な成分組成で構成されている培地であれば特に限定されないが、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))、CHO-S-SFM II(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、Hybridoma-SFM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、eRDF Dry Powdered Media(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、UltraCULTURETM(BioWhittaker社)、UltraDOMA(商標名)(BioWhittaker社)、UltraCHO(商標名)(BioWhittaker社)、UltraMDCK(商標名)(BioWhittaker社)等が挙げられる。例えば、STEMPRO(登録商標) hESC SFM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、mTeSR1(Veritas社)、TeSR2(Veritas社)等の培地を用いることができる。
【0039】
前記細胞凍結保護剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、CP-1(極東製薬工業社製)、BAMBANKER(リンフォテック社製)、STEM-CELLBANKER(日本全薬工業社製)、ReproCryo RM(リプロセル社製)、CryoNovo(Akron Biotechnology社製)、MSC Freezing Solution(Biological Industries社製)、CryoStor(HemaCare社製)などが挙げられる。
【0040】
上記の免疫抑制剤としては、例えば、タクロリムス、シクロスポリン、メトトレキサート、アザチプリン、6-メルカプトプリンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。上記の生物学的製剤としては、例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、ウステキヌマブ、セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブ、トシリズマブ、ベドリズマブ、フィルゴチニブ、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴル、アバタセプト、エタネルセプトなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0041】
前記抗生物質としては、例えば、サルファ製剤、ペニシリン、フェネチシリン、メチシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、ナフシリン、アンピシリン、アモキシシリン、シクラシリン、カルベニシリン、チカルシリン、ピペラシリン、アズロシリン、メクズロシリン、メシリナム、アンジノシリン、セファロスポリン及びその誘導体、オキソリン酸、アミフロキサシン、テマフロキサシン、ナリジクス酸、ピロミド酸、シプロフロキサン、シノキサシン、ノルフロキサシン、パーフロキサシン、ロザキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ピペミド酸、スルバクタム、クラブリン酸、β-ブロモペニシラン酸、β-クロロペニシラン酸、6-アセチルメチレン-ペニシラン酸、セフォキサゾール、スルタンピシリン、アディノシリン及びスルバクタムのホルムアルデヒド・フードラートエステル、タゾバクタム、アズトレオナム、スルファゼチン、イソスルファゼチン、ノルカディシン、m-カルボキシフェニル、フェニルアセトアミドホスホン酸メチル、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メタサイクリン、並びにミノサイクリンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0042】
前記抗炎症剤としては、5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド製剤、免疫抑制剤、生物学的製剤等が挙げられるが、これらに限定されない。上記の5-アミノサリチル酸製剤としては、例えば、サラゾスルファピリジン、メサラジンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。上記のステロイド製剤としては、例えば、コルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0043】
また、細胞医薬製剤は、細胞に加えて、保存安定性、等張性、吸収性及び/又は粘性を増加するための種々の添加剤、例えば、乳化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、湿潤剤、抗酸化剤、キレート剤、増粘剤、ゲル化剤、pH調整剤等を含んでもよい。
【0044】
前記増粘剤としては、例えば、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、デキストラン、メチルセルロース、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。増粘剤の濃度は、選択される増粘剤によるが、患者又は被験者に投与した場合に安全であり、かつ所望の粘性を達成する濃度の範囲で、任意に設定することができる。
【0045】
本発明の細胞医薬製剤のpHは、中性付近のpH、例えば、pH6.5以上又はpH7.0以上とすることができ、またpH8.5以下又はpH8.0以下とすることができるが、これらに限定されない。
【0046】
細胞医薬製剤の容量(mL)は、細胞医薬製剤を患者又は被験者に投与した場合に、患者又は被験者の安全性が確認されている細胞濃度(cells/mL)になるように調製された時の容量であり、1バッグあたりの容量である。細胞医薬製剤の容量は特に限定されないが、例えば、1mL以上、2mL以上、3mL以上、4mL以上、5mL以上、6mL以上、7mL以上、8mL以上、9mL以上、10mL以上、15mL以上、20mL以上、25mL以上、30mL以上、35mL以上、40mL以上、45mL以上、50mL以上、55mL以上、60mL以上、65mL以上、70mL以上、75mL以上、80mL以上、85mL以上、90mL以上、95mL以上、100mL以上であり、また、5000mL以下、4000mL以下、3000mL以下、2000mL以下、1000mL以下、900mL以下、800mL以下、700mL以下、600mL以下、500mL以下、400mL以下、300mL以下、200mL以下、150mL以下である。
【0047】
細胞医薬製剤の細胞濃度(cells/mL)は、細胞医薬製剤を患者又は被験者に投与した場合に、細胞医薬製剤を投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対する治療効果を得ることができる細胞医薬製剤中に含まれる細胞の濃度である。細胞医薬製剤の細胞濃度は特に限定されないが、例えば、1×104cells/mL以上、2×104cells/mL以上、3×104cells/mL以上、4×104cells/mL以上、5×104cells/mL以上、6×104cells/mL以上、7×104cells/mL以上、8×104cells/mL以上、9×104cells/mL以上、1×105cells/mL以上、2×105cells/mL以上、3×105cells/mL以上、4×105cells/mL以上、5×105cells/mL以上、6×105cells/mL以上、7×105cells/mL以上、8×105cells/mL以上、9×105cells/mL以上、1×106cells/mL以上であり、また、1×1011cells/mL以下、1×1010cells/mL以下、2×109cells/mL以下、1×109cells/mL以下、9×108cells/mL以下、8×108cells/mL以下、7×108cells/mL以下、6×108cells/mL以下、5×108cells/mL以下、4×108cells/mL以下、3×108cells/mL以下、2×108cells/mL以下、1×108cells/mL以下、9×107cells/mL以下、8×107cells/mL以下、7×107cells/mL以下、6×107cells/mL以下、5×107cells/mL以下、4×107cells/mL以下、3×107cells/mL以下、2×107cells/mL以下、1×107cells/mL以下である。なお、前記以外にも、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができる。なお、細胞懸濁液における細胞濃度についても細胞医薬製剤と同様であってもよい。
【0048】
細胞医薬製剤の細胞数(cells)は、細胞医薬製剤を患者又は被験者に投与した場合に、細胞医薬製剤を投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対する治療効果を得ることができる細胞数である。細胞医薬製剤の細胞数は特に限定されないが、例えば、1×104cells以上、2×104cells以上、3×104cells以上、4×104cells以上、5×104cells以上、6×104cells以上、7×104cells以上、8×104cells以上、9×104cells以上、1×105cells以上、2×105cells以上、3×105cells以上、4×105cells以上、5×105cells以上、6×105cells以上、7×105cells以上、8×105cells以上、9×105cells以上、1×106cells以上であり、また、1×1012cells以下、1×1011cells以下、1×1010cells以下、1×109cells以下、9×108cells以下、8×108cells以下、7×108cells以下、6×108cells以下、5×108cells以下、4×108cells以下、3×108cells以下、2×108cells以下、1×108cells以下、9×107cells以下、8×107cells以下、7×107cells以下、6×107cells以下、5×107cells以下、4×107cells以下、3×107cells以下、2×107cells以下、1×107cells以下である。なお、前記以外にも、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができる。細胞懸濁液における細胞数についても細胞医薬製剤と同様であってもよい。
【0049】
細胞医薬製剤の用量(cells/kg)は、細胞医薬製剤を患者又は被験者に投与した場合に、細胞医薬製剤を投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対する治療効果を得ることができる患者又は被験者の体重1kgあたりの細胞数である。細胞医薬製剤の用量は特に限定されないが、例えば、1×104cells/kg以上、1×105cells/kg以上、5×105cells/kg以上、1×106cells/kg以上、2×106cells/kg以上、4×106cells/kg以上、6×106cells/kg以上、又は8×106cells/kg以上であり、また、1×1012cells/kg以下、1×1011cells/kg以下、1×1010cells/kg以下、1×109cells/kg以下、5×108cells/kg以下、1×108cells/kg以下、8×107cells/kg以下、6×107cells/kg以下、4×107cells/kg以下、又は2×107cells/kg以下である。
【0050】
患者並びに被験者とは、典型的にはヒトであるが、例えば、マウス、ラット、ハムスター等のげっ歯類、ゴリラ、チンパンジー、マーモセット等の霊長類、さらにイヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜又は愛玩動物などの哺乳動物等の非ヒト動物であってもよい。
【0051】
本発明に係る細胞医薬製剤容器に収容された細胞医薬製剤は、後述する注入出用ポートを通じて導出され、患者に投与される。患者への投与経路は特に限定されないが、例えば、皮下注入、リンパ節内注入、静脈内注入、動脈内注入、腹腔内注入、胸腔内注入、局所への直接注入等であることができる。
【0052】
(細胞充填システム)
図1及び2は、本発明の細胞充填システムの一実施態様における要部構成を示す平面図であり、また
図3は、本発明の細胞充填システムのさらに別の実施態様における使用状態を示す図面である。
【0053】
図1及び
図2において例示されるように、本発明の細胞充填システムは、上述したように、(A1)内部空間11とその内部空間を連通する連通部12とを有する細胞医薬製剤容器10と、(B1)流体の流れを切り替える活栓21と、細胞医薬製剤容器10と活栓21を接続する管状体22とを有する細胞充填部20と、(C1)細胞充填部20と連結する分岐部31を有する多岐管路30と、(D1)細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する吸気手段40と、(E1)細胞懸濁液51を含有する細胞懸濁液容器50と、を備えてなる。
【0054】
各構成要素につき、順次説明する。
(細胞医薬製剤容器:A1)
まず、細胞医薬製剤容器10としては、その内部に、細胞懸濁液を収納できる内部空間11を有するものであり、この内部空間11と容器外部とを連通する連通部12を有するものである限り、特に限定されるものではなく、当該分野において一般的に使用されているような細胞充填用の各種容器を用いることもできる。
【0055】
図1及び
図2に示す細胞医薬製剤容器10は、主として可撓性樹脂シートから構成されるバッグを、容器として適用したものである。特に限定されないが、バッグを構成する可撓性樹脂シートとしては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、シリコーン系エラストマー,ポリスチレン系エラストマー,テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の熱可塑性樹脂からなる樹脂シートが挙げられる。これらの樹脂は単層で用いても、同種又は異種の樹脂を積層して用いてもよい。なお、材質の選択にあっては、必要に応じて、内部に収納される細胞懸濁液に対して、適度な酸素透過性及び二酸化炭素透過性、低細胞毒性、低溶出性、耐冷凍性、放射線滅菌適性等を付与できるものである等との点から検討を加えることが好ましい。また、内部に収納された細胞懸濁液の状態を外部より観察できるように、内部を透視できる程度の透明性を有しているのが好ましい。特に限定されるものではないが、細胞医薬製剤容器10を構成する可撓性樹脂としては、例えば、(ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体)からなるものであることが好ましい。
【0056】
細胞医薬製剤容器10は、このような可撓性樹脂を用いて製袋され、内部空間11を備えるとともに、容器外部とを連通する連通部12が形成される。例えば、二枚の可撓性樹脂シートを重ねて所定の部位をヒートシールすることにより、
図1に示すように、周縁がヒートシールされた略方形状の内部空間11と、周縁部における一定幅部分にヒートシールしない部分を設けることで形成された連通部12が形成され得る。
【0057】
しかしながら、本発明において、細胞医薬製剤容器10の構成としては、このような可撓性樹脂より構成されるバッグ状の形態に何ら限定されるものではなく、内部空間を減圧に保つことができ、また内部に細胞懸濁液を収納することができるものである限り、その他の形態のものであっても良い。例えば、より剛性の高い管状体、管瓶体等の容器体であっても良く、また、内部空間11としても1つのみならず、隔壁により区画された2ないしそれ以上の内部空間を有するものであってもよい。さらに2ないしそれ以上の各内部空間は、細胞懸濁液充填後に必要に応じて例えばヒートシール等によりそれぞれ独立したものとして閉塞可能な構成等を有するものとすることも可能である。
【0058】
また、
図1及び
図2に示す実施形態の細胞医薬製剤容器10においては、連通部12に加えて、内部空間11にそれぞれ連通可能とされた2つの注入出用ポート13a、13bが設けられている。上記した連通部12に加えて、別途の連通部としてこのような注入出用ポート13a、13bを設ける、すなわち、連通部を複数設けることで、例えば内部空間11の減圧操作を行う連通部12を介さずに、注入出用ポート13a、13bを介して、内部空間11に細胞懸濁液を注入する操作、あるいは逆に内部空間11から細胞懸濁液を導出する操作を、閉鎖系を維持したまま行うことができる。
【0059】
特に限定されないが、例えば、注入出用ポート13a、13bは、細胞懸濁液が流通可能な管状の部材からなり、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン系エラストマー、FEPなどの熱可塑性樹脂を用いて、射出成形、押出成形などにより、軸方向に貫通する連通流路を有する所定の形状に成形することができる。また、このような注入出用ポート13a、13bの解除可能な閉塞構成としても、特に限定されるものではなく、例えば、このような管状部材の連通流路を液密に閉鎖する別体の脱着可能な螺子蓋を設ける、あるいは連通流路を閉塞するゴム等の穿刺可能な弾性材料を配置する、あるいは破断可能なヒートシールフィルム等で塞ぐ等、その他従来公知のポート構成とし得る。
【0060】
注入出用ポート13a、13bが備える口の寸法は、細胞を含む細胞医薬製剤が通過可能な寸法であればよい。
また、注入出用ポートの数は1つとは限らず、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10以上等の複数であってもよい。
【0061】
(細胞充填部:B1)
細胞充填部20は、細胞医薬製剤容器10の前記連通部12に接続され、細胞医薬製剤容器10の内部空間11を、外部と接続するための流路を形成するものであるが、この流路を形成する管状体22に加えて、(B1)流体の流れを切り替える活栓21を有することを特徴とする。
【0062】
活栓21としては、特に限定されるものではなく、少なくとも当該流路の遮断状態と連通状態とを自在に切り替えることができるものであればよく、二方活栓でもあっても良いが、好ましくは三方やそれ以上の複数の流出入ポートを有する活栓であり、特に三方活栓であることが望ましい。三方活栓21は、図示するように、例えばT字状とされており、2本の分岐管が相互に反対方向に延びているとともに、もう1本の分岐管がそれらと直交する方向に延びるようになっており、3本の分岐管の交差部分に切換弁が手動操作可能に設けられている。
【0063】
細胞充填部20がこのような活栓21を有することによって、当該細胞充填部20を介して、細胞医薬製剤容器10を後述するような吸気手段40に接続して内部空間11の減圧処理を行い、所定の減圧度に達した際に、この活栓21を作動させ、流路を閉鎖すれば、細胞医薬製剤容器10の内部空間11の減圧度を容易にそのまま維持しつつ、吸気手段40との接続を解除することができる。
【0064】
活栓21が、三方活栓であると、上記したような減圧操作のための流路とは、別の流路を形成して細胞医薬製剤容器10に対して、細胞懸濁液を供給することが可能となる。
【0065】
なお、
図1及び
図2に示す実施形態においては、細胞充填部20の管状体22は、細胞医薬製剤容器10の連通部12に、ヒートシールによって液密的に一体的に装着されているが、細胞医薬製剤容器10と細胞充填部20との接続構造としてはこのようなヒートシール法に何ら限定されるものではなく、例えば、脱着可能なメカニカルな接続構造等を採用することも可能である。
【0066】
管状体22を構成する材質としても特に限定されるものではないが、例えば、後述するような吸気手段40に接続して減圧処理を行う際に、変形して流路を完全に閉塞してしまわない程度の硬度は有することが好ましい。また、一実施形態においては、管状体22の任意の個所でホットシールにより溶封可能な熱可塑性を有するものであることが好ましい。特に限定されるわけではないが、例えば、管状体22は、ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の材質により構成され得る。
【0067】
また、この管状体22の長さとしては、接続される細胞医薬製剤容器10の大きさ等によっても左右されるが、必要以上に長いものであると減圧処理時の効率を低下させる恐れがあり、他方極端に短いものであると、他の部材と接続した際に、流路の取り回しが困難となる虞れがあるため、例えば、接続される細胞医薬製剤容器10の長手方向長さを基準として、1/12から17/6倍、例えば、1/12以上、1/10以上、1/8以上、1/6以上、1/5以上、1/4以上、1/3以上、2/5以上、1/2以上、2/3以上、7/10以上であり、また17/6以下、8/3以下、5/2以下、7/3以下、2以下、5/3以下、3/2以下、4/3以下、5/4以下、1以下、3/4以下である。より好ましくは1/12から3/4倍程度の長さとすることが望ましい。
【0068】
また、活栓21を構成する材質としても、流路を確実に閉鎖及び切り替えできるものである限り、特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(ナイロン)等の各種合成樹脂製のものや、あるいはガラス、ステンレス鋼等の金属製のものを用いることも可能である。
【0069】
(多岐管路:C1)
本発明に係る細胞充填システムにおいては、
図2に示すように、細胞充填部20と連結する分岐部31を有する多岐管路30を備える。ここで、多岐管路30とは、公知のように、1つの主管路33から分岐部31を介して2ないしそれ以上の複数の枝管路34に分岐する構造を有するものである。
【0070】
本発明に係る細胞充填システムにおいては、単独の細胞医薬製剤容器10に対して減圧処理及び細胞懸濁液充填処理を行うことも可能ではあるが、基本的に、複数の細胞医薬製剤容器10に対して共通する一系統からの吸気手段40により、減圧処理を行うことを前提とするものであるため、複数の前記細胞充填部20を、1つの吸気手段40に接続するためにこのような多岐管路30を有する。
【0071】
多岐管路30の有する分岐部31ないし枝管路34の数としては特に限定されるものではなく、2つ以上あれば複数の細胞医薬製剤容器10に対して共通する一系統からの吸気手段40により減圧処理を行うことが可能である。また、より効率的に処理を行う上では、例えば、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、9つ以上、10つ以上であり、また100つ以下、90つ以下、80つ以下、70つ以下、65つ以下、60つ以下、50つ以下、40つ以下、30つ以下、25つ以下、20つ以下、19つ以下、18つ以下、17つ以下、16つ以下、15つ以下である。好ましくは4つ以上、64つ以下であり、より好ましくは4つ以上、16つ以下の分岐部31ないし枝管路34を設けることが望ましい。さらに、特に限定されるものではないが、
図2、
図3に示すように、少なくとも2つ以上の分岐部31が、多岐管路30において一直線上に配置されているものであると、複数の細胞医薬製剤容器10を接続して減圧処理を施す場合において、その接続処理の操作性が良好なものとなる。
【0072】
好ましくは、各分岐部31には活栓32、特に三方活栓を設けることが望ましい。このように、各分岐部31に活栓32を設け、多連活栓の形態とすると、複数の細胞医薬製剤容器10にそれぞれ接続された複数の細胞充填部20における活栓21と協働させて、接続された複数の細胞医薬製剤容器10に対して、それぞれ任意、独立して減圧処理を施すことが可能となる。
【0073】
なお、このように各分岐部31に三方活栓32を設け、
図2に示すように、この三方活栓32同士を相互に接続、脱着することができる構成とすれば、接続しようとする細胞医薬製剤容器10の数の増減に柔軟に対応できる可変な長さの多岐管路30とすることができる。
【0074】
(吸気手段:D1)
本発明に係る細胞充填システムにおいては、細胞医薬製剤容器10の内部空間11の減圧処理を行うための吸気手段40を備える。この吸気手段40としては、細胞医薬製剤容器10の内部空間11を所定の圧力まで減圧できるものである限り、特に限定されるものではなく、例えば、油圧式ポンプ、エアポンプやシリンジなどの吸気手段とすることができる。このような吸気手段40は、
図2に示すように、上記した多岐管路30の主管路33の開口端部に接続され、これを作動させることにより、多岐管路30の各分岐部31に接続された複数の細胞医薬製剤容器10のいずれに対しても減圧処理が可能となる。なお、
図3に示す実施形態においては、吸気手段40としてシリンジが、多岐管路30の主管路33に接続された状態が示されている。
【0075】
特に限定されるものではないが、
図2に示すように、吸気手段40が接続される多岐管路30の1つの管路、すなわち、主管路33と、吸気手段40との間には別途の活栓41を配置することが好ましい。なお、この活栓41としては吸気手段40と多岐管路30との間の連通、遮断をもたらすものであればよいので、二方活栓であっても十分に機能する。活栓41を配置することによって、例えば、吸気手段40を定常的に作動させていても、各細胞医薬製剤容器10に対しての減圧処理を一括して停止できるために望ましい。
【0076】
また、本発明に係る細胞充填システムでは、その減圧処理を行う経路のいずれかの途中に、減圧度を測定するための圧力ゲージ45等を必要に応じて配置することができる。
【0077】
(細胞懸濁液容器:E1)
本発明に係る細胞充填システムにおいては、細胞医薬製剤容器10の内部空間11へ細胞懸濁液51を供給する供給源となる細胞懸濁液容器50を備える。この細胞懸濁液容器50の細胞医薬製剤容器10に対する接続経路としては、特に限定されるものではなく、種々の経路を採択し得る。
【0078】
例えば、吸気手段40との接続と切り替えて細胞懸濁液容器50を接続し、上述したような吸気手段40から多岐管路30、各細胞充填部20、及び各細胞医薬製剤容器10に至る、減圧処理を行う流路と同じ流路を介して、充填することが可能である。
【0079】
なお、この場合、前記細胞懸濁液容器50と接続される多岐管路30の主管路33と、細胞懸濁液容器50との間には別途の活栓52を配置することが好ましい。なお、この活栓52としては細胞懸濁液容器50と多岐管路30との間の連通、遮断をもたらすものであればよいので、二方活栓であっても十分に機能する。活栓52を配置することによって、例えば、細胞懸濁液容器50を多岐管路30に常時接続していても、多岐管路30側に細胞懸濁液を送ることなく、共通する流路を介しての各細胞医薬製剤容器10に対しての減圧処理を実施できる。ここで、活栓41と活栓52とに代えて1つの三方活栓として配置し、この三方活栓によって、吸気手段40への接続と、細胞懸濁液容器50への接続とを切り替える構成とすることも可能である。
【0080】
細胞懸濁液容器50の細胞医薬製剤容器10に対する別の接続経路としては、例えば
図1及び
図2に示すように、細胞充填部20の有する活栓21として三方活栓を配置しておけば、この三方活栓21により切り替えられる別の流路に細胞懸濁液容器50を接続して、細胞懸濁液51を細胞医薬製剤容器10の内部空間11へと導入することが可能である。すなわち、上記したような吸気手段40から多岐管路30、各細胞充填部20、及び各細胞医薬製剤容器10に至る減圧処理を行う流路を、各三方活栓21にて細胞懸濁液容器50に接続される流路に切り替えて、供給を行うものである。
【0081】
さらに例えば、
図1及び
図2に示すように、細胞医薬製剤容器10が、連通部12に加えて、内部空間11にそれぞれ連通可能とされた注入出用ポート13a、13bが設けられているような態様のものである場合には、これらの注入出用ポート13a、13bのいずれかに細胞懸濁液容器50を接続して、この経路から、細胞懸濁液51を細胞医薬製剤容器10の内部空間11へと導入することが可能である。
【0082】
このように、本発明に係る細胞充填システムにおいては、細胞懸濁液容器50から、細胞医薬製剤容器10の内部空間11へ細胞懸濁液51を供給する流路としては、減圧処理を行なう流路とほぼ共通する流路とすることも、一部共通する流路とすることもあるいは全く独立した流路とすることも可能である。
【0083】
(細胞医薬製剤の製造方法)
次に、上記したような細胞充填システムを用いて行い得る、本発明に係る細胞医薬製剤の製造方法につき説明する。
【0084】
本発明に係る細胞医薬製剤の製造方法は、(a)内部空間11とその内部空間を連通する連通部12とを有する細胞医薬製剤容器10の内部空間11を、吸気手段40を用いて減圧する工程と、(b)細胞医薬製剤容器10の減圧された内部空間11に、細胞懸濁液51を充填する工程と、を含むものである。
【0085】
このように容器内に細胞懸濁液51を充填するに先立ち、細胞医薬製剤容器10の内部空間を吸気手段40にて減圧しておくことで、細胞懸濁液の充填を容器内に気体がほとんど存在しない状態で効率よく実現できる。
【0086】
本発明に係る細胞医薬製剤の製造方法における、各工程について、上述した細胞充填システムを用いた場合について、より具体的に説明する。なお、以下に示す各部材の接続及び解除操作、並びに活栓の切り替え操作に関しては、細胞医薬製剤容器10の内部空間11の減圧と、内部空間11への細胞懸濁液51の充填とが行い得る限りにおいて、特に限定されるものではなく、その順序等は適宜変更可能である。
【0087】
(減圧処理工程)
まず、
図1に示すように各細胞医薬製剤容器10の連通部12に、細胞充填部20の管状体22の一端を気密に取付け、各細胞医薬製剤容器10の内部空間11に連通する流路上に活栓21を配置する。
【0088】
このような細胞医薬製剤容器10の連通部12に活栓21を有する細胞充填部20を接続したものを1ユニットとして、複数用意する。
【0089】
細胞医薬製剤容器10と細胞充填部20とのユニットが複数準備できたら、次いで、
図2に示すように、各ユニットの活栓21の有する1つの流路方向(図中A方向)のポートを、多岐管路30の各分岐部31の対向する枝管路34の流路方向(図中A’方向)のポートに接続する。このようにして、多岐管路30に複数のユニット(細胞医薬製剤容器10及び細胞充填部20)が接続された構成を形成する。
【0090】
なお、
図2に示す実施形態においては、各分岐部31が三方活栓32により構成され、この三方活栓32の別の流路方向(図中B’方向)のポート同士を直線状に連結して、多岐管路30を形成している構成を有する。このため、例えば、上記したような細胞医薬製剤容器10の連通部12に活栓21を有する細胞充填部20を接続した各ユニットに対し、先に各三方活栓32も取り付けておき、後から各三方活栓32同士を連結させていき、細胞医薬製剤容器10の数に応じた分岐部31を有する多岐管路30を形成していくような態様も取り得る。
【0091】
そして、このようにして多岐管路30に所定数の複数のユニット(細胞医薬製剤容器10及び細胞充填部20)が接続された構成が形成されたら(例えば
図3参照)、多岐管路30の主管路33の開口端部(図中B’方向末端)に、吸気手段40を接続する。なお、
図2に示すように、吸気手段40と多岐管路30との間には活栓41を配置するとともに、圧力ゲージ45を取り付けても良い。
【0092】
上記したような接続状態の下で、細胞医薬製剤容器10の内部空間11の減圧処理を行う。なお、この際、吸気手段40から多岐管路30、各細胞充填部20を介して各細胞医薬製剤容器10に至る流路における吸気処理に干渉しないもの、例えば、活栓等を配して流入を停止させた状態とできるもの、であれば、細胞懸濁液51を細胞医薬製剤容器10へと供給する細胞懸濁液容器50を、システムに接続させておくことは可能である。もちろん、減圧処理工程(a)においては、細胞懸濁液容器50はシステムに接続せず、減圧処理工程(a)終了後にシステムに接続するものであって良い。
【0093】
上記したような接続状態の下で、細胞医薬製剤容器10の内部空間11の減圧処理は、吸気手段40と多岐管路30との間の活栓41をこれらが連通する「開」状態、また、多岐管路30上の各三方活栓32のうち少なくとも1つはこれと接続される細胞充填部20の流路と連通する「開」状態、さらにこの「開」状態とされた三方活栓32に接続された各細胞充填部20の活栓21を細胞医薬製剤容器10の内部空間11と連通する「開」状態として、吸気手段40を作動させる。
【0094】
なお、多岐管路30上に複数存在する各三方活栓32及び各細胞充填部20上の各活栓21は、上記したように、吸気手段40に対し、少なくとも1つの細胞医薬製剤容器10の内部空間11と連通するように開いていれば減圧処理は可能である。複数の活栓32及び21をそれぞれ適宜開閉して、複数ないしは全ての細胞医薬製剤容器10の内部空間11に対し連通するような状態としておくことで、複数の細胞医薬製剤容器10の内部空間11の減圧処理を同時に行うことも可能である。
【0095】
すなわち、例えば、(1)各細胞医薬製剤容器10の内部空間の減圧を逐次行う態様においては、まず、複数の活栓32及び21をそれぞれ適宜開閉して、吸気手段40に対し、1つの細胞医薬製剤容器10の内部空間11のみが連通する状態として、減圧処理を行い、当該1つの細胞医薬製剤容器10の内部空間11の減圧度が所定のものとなったら、この細胞医薬製剤容器10に連通する細胞充填部20上の活栓21を「閉」状態として、当該細胞医薬製剤容器10の内部空間への吸気手段40との連通状態を解除するとともに、この細胞医薬製剤容器10の内部空間の減圧状態を維持する。そして、次に、吸気手段40に別の1つの細胞医薬製剤容器10の内部空間11のみが連通する状態となるように、複数の活栓32及び21を適宜切り替えて、第2の細胞医薬製剤容器10の内部空間11に対する減圧処理を行うといった処理を、順次繰り返していく態様を採ることができる。例えば、吸気手段40としてシリンジを用いるといったように吸気手段の吸気能があまり高くない場合であっても、このような操作を行うことで、複数の細胞医薬製剤容器10に対して連続的に正確な減圧処理を行うことが可能である。
【0096】
あるいはまた、例えば、(2)複数の細胞医薬製剤容器10の内部空間の減圧を並行して行う態様においては、まず、複数の活栓32及び21をそれぞれ適宜開閉して、吸気手段40に対し、複数の細胞医薬製剤容器10の内部空間11が連通する状態として、減圧処理を行い、減圧処理されている複数の細胞医薬製剤容器10のうちの任意の1つの細胞医薬製剤容器10の内部空間11の減圧度が所定のものとなったら、この細胞医薬製剤容器10に連通する細胞充填部20上の活栓21を個別に「閉」状態として、当該細胞医薬製剤容器10の内部空間への吸気手段40との連通状態を解除するとともに、この細胞医薬製剤容器10の内部空間の減圧状態を維持する。このようにして並行して減圧処理する細胞医薬製剤容器10の内部空間の減圧状態がいずれも所定のものとなり、いずれの細胞医薬製剤容器10に連通する細胞充填部上の活栓21も「閉」状態とし、細胞医薬製剤容器10の内部空間の減圧状態が保持されたら、再度、活栓32及び別の活栓21をそれぞれ適宜開閉して、吸気手段40に対し、別の複数の細胞医薬製剤容器10の内部空間11が連通する状態として、上記と同様な処理を繰り返して、系内の細胞医薬製剤容器10のすべてに対しての減圧処理が終わるまで処理を続ける。
【0097】
なお、上記(2)の複数の細胞医薬製剤容器10の内部空間の減圧を並行して行う態様としては、系内の全ての細胞医薬製剤容器10の内部空間の減圧を並行して行う態様も含まれる。
【0098】
減圧処理における、複数の細胞医薬製剤容器10の内部空間の減圧の手法としては、上記(1)及び(2)に記載したような態様に限定されるものではなく、適宜、活栓を操作する方法を変更する等して、種々の態様とし得る。なお、本発明において、このような減圧のための各活栓の開閉、接続操作の手順に関しては、所期の減圧が行われ得る限りにおいて、任意のものであり、そのいずれの手順によるものであっても本発明の範囲内のものとなるものである。
【0099】
また、本発明において、吸気手段40に接続された多岐管路30の各分岐部31上に前記したように三方活栓32がそれぞれ設けられている態様においては、この各分岐部31での三方活栓32を「閉」状態とし、また、ここに接続されていたユニット(細胞医薬製剤容器10及び細胞充填部20)上の活栓21を「閉」状態とすれば、吸気手段40側の吸引状態及び細胞医薬製剤容器10側の減圧状態をそれぞれ保持したまま、これらの間の接続を解除可能である。
【0100】
このため、減圧処理が終了したユニット(細胞医薬製剤容器10及び細胞充填部20)については、システム全体としての吸気手段40による減圧処理は続けながらも、操作系より個別に解除して取り出し、例えば、別途、細胞懸濁液を充填する処理に供するといった態様を採ることが可能である。
【0101】
さらに、このようにユニットを個別に解除して取り出した分岐部31に、新たなユニットを接続したのち、三方活栓32を「開」状態とし、また、新たに接続されていたユニット上の活栓21を「開」状態とすれば、システム全体としての吸気手段40による減圧処理は続けながらも、減圧処理を終えた細胞医薬製剤容器10を新たなものと交換しながら新たな対象に対して減圧処理を続けることができる。
【0102】
例えば、減圧処理後において、細胞懸濁液の充填操作も、多岐管路30を介して、複数の細胞医薬製剤容器10に対して並行して行おうとする態様におけるような場合には、減圧処理の終わった細胞医薬製剤容器10との、上記したような多岐管路30の分岐部31における個別の接続解除を行うことなく、複数の前記細胞医薬製剤容器10の内部空間の減圧処理後に、前記吸気手段40と前記多岐管路30との接続を解き、多岐管路30に減圧処理を終えた複数の細胞医薬製剤容器10を接続させた状態を保持したまま減圧処理を終了することができる。
【0103】
なお、特に限定されるわけではないが、このような減圧処理によって、細胞医薬製剤容器内を10KPa以下、9KPa以下、8KPa以下、7KPa以下、6KPa以下、5KPa以下、4KPa以下、3KPa以下、2KPa以下、1KPa以下、又は0KPaより多くなるように減圧する。好ましくは5.7KPa以下、より好ましくは2.8KPa以下、さらに好ましくは1.4KPa以下に細胞医薬製剤容器内を減圧することで、後述する細胞懸濁液の充填操作において効率よくかつ容器内に気体をほとんど含まずに充填させることができる上で望ましい。
【0104】
(細胞懸濁液充填工程)
本発明においては、上記したように(a)減圧処理工程に続いて、(b)細胞医薬製剤容器10の減圧された内部空間11に細胞懸濁液51を充填する工程を有する。この充填工程は、細胞懸濁液51を供給する供給源となる例えば細胞懸濁液容器50を、減圧状態に保たれた細胞医薬製剤容器10の内部空間11へ接続することにより容易に行うことができる。
【0105】
細胞懸濁液容器50の細胞医薬製剤容器10に対する接続経路としては、上記したように、特に限定されるものではなく、種々の経路を採択し得る。
【0106】
例えば、
図2に示すように、吸気手段40との接続と切り替えて細胞懸濁液容器50を多岐管路30に接続し、上記したような吸気手段40から多岐管路30、各細胞充填部20、及び各細胞医薬製剤容器10に至る、減圧処理を行う流路と同じ流路を介して、充填することが可能である。この場合、前記細胞医薬製剤容器10の内部空間11に細胞懸濁液51は、前記多岐管路30、前記細胞充填部20を経由して充填される。
【0107】
あるいは、上記したように減圧処理を終えたユニット(細胞医薬製剤容器10及び細胞充填部20)を、減圧状態を維持したまま、多岐管路30との接続を解除し、個々のユニットに対して、細胞懸濁液の充填操作を行うことも可能である。
図1に示すように、個々のユニットの三方活栓21により切り替えられる別の流路(図中B方向)に細胞懸濁液容器50を接続して、細胞懸濁液51を細胞医薬製剤容器10の内部空間11へと導入することが可能である。この場合、前記細胞医薬製剤容器10の内部空間11に細胞懸濁液51は、前記細胞充填部20を経由して充填される。あるいはまた、例えば
図1及び
図2に示すように、細胞医薬製剤容器10が、連通部12に加えて、内部空間11にそれぞれ連通可能とされた注入出用ポート13a、13bが設けられているような態様のものである場合には、これらの注入出用ポート13a、13bのいずれかに細胞懸濁液容器50を接続して、この経路から、細胞懸濁液51を細胞医薬製剤容器10の内部空間11へと導入することが可能である。
【0108】
なお、減圧処理を終えたユニット(細胞医薬製剤容器10及び細胞充填部20)を、減圧状態を維持したまま、多岐管路30との接続を解除し、個々のユニットに対して細胞懸濁液の充填操作を行えば、細胞懸濁液の充填作業を複数人で分業することが可能となり、作業効率を上げることが可能となる。
【0109】
いずれの態様においても、細胞医薬製剤容器10の内部空間11が所定の減圧状態に保たれているため、良好な細胞懸濁液の充填操作がなされ得る。
【0110】
このようにして細胞医薬製剤容器10の内部空間に所定量の細胞懸濁液が充填されることによって、細胞医薬製剤が製造され得る。なお、細胞懸濁液が充填された後において、細胞医薬製剤容器10に接続された細胞充填部20は、その活栓21を「閉」状態とすれば、容器内の閉鎖系は保持できる。また、より安全かつ確実な閉鎖系を確保すべく、例えば、細胞充填部20の管状体22の途中で、公知のヒートシール等の手段によって溶封し、細胞医薬製剤容器を封止することも可能である。
【0111】
このような本発明に係る製造方法により、得られた細胞医薬製剤は、その後公知のように、必要に応じて凍結保存される。
【0112】
以上、本発明に係る細胞充填システム及び細胞医薬製剤の製造方法を、実施形態に基づき詳細に説明したが、本発明は、上記に例示したような実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の概念及び本質の範囲内において、各種の変更ないし置換を行い得ることができることは、当業者にとって容易に理解できるものであると思料する。特に、細胞充填システムにおける各部材の接続の順序や、活栓の開閉操作等は、種々多様な態様を採り得るが、上記した実施形態において示したものと同様の作用、処理を行い得る限り、そのいずれも本発明の範囲内に含まれるものであることは明らかであろう。
【符号の説明】
【0113】
10 細胞医薬製剤容器
11 内部空間
12 連通部
13a、13b 注入出用ポート
20 細胞充填部
21 活栓(三方活栓)
22 管状体
30 多岐管路
31 分岐部
32 三方活栓
33 主管路
34 枝管路
40 吸気手段
50 細胞懸濁液容器
【手続補正書】
【提出日】2024-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間とその内部空間を連通する連通部とを有する細胞医薬製剤容器の内部空間を、吸気手段を用いて減圧する工程と、
前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧後、前記吸気手段と前記細胞医薬製剤容器との接続を解く工程と、
前記吸気手段と前記細胞医薬製剤容器との接続を解いた後、前記吸気手段と接続が解除された前記細胞医薬製剤容器の減圧された内部空間に、細胞懸濁液を充填する工程と、
を含む
細胞医薬製剤の製造方法。
【請求項2】
前記細胞医薬製剤容器が、
流体が流れる通路の遮断状態と連通状態とを切り替えることのできる活栓と、
前記細胞医薬製剤容器と前記活栓を接続する管状体と、
を有する細胞充填部を有し、
前記細胞医薬製剤容器の細胞充填部の活栓は、流体が流れる通路を遮断状態とすることで、前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧状態に維持したまま前記吸気手段との接続を解除可能である
請求項1に記載の細胞医薬製剤の製造方法。
【請求項3】
前記吸気手段を用いて減圧する工程において、前記細胞充填部と連結する分岐部を有する多岐管路を経由して前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する、
請求項2に記載の細胞医薬製剤の製造方法。
【請求項4】
前記吸気手段を用いて減圧する工程において、前記細胞充填部を経由して前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する、
請求項2又は3に記載の細胞医薬製剤の製造方法。
【請求項5】
前記細胞医薬製剤容器が少なくとも2つ以上である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞医薬製剤の製造方法。
【請求項6】
前記細胞懸濁液を充填する工程では、
前記吸気手段と2つ以上の前記細胞医薬製剤容器とのそれぞれの接続を解いた後、前記吸気手段と独立して接続が解除された2つ以上の前記細胞医薬製剤容器の減圧された内部空間に、前記細胞医薬製剤容器毎にそれぞれ所定量の細胞懸濁液を充填する
請求項5に記載の細胞医薬製剤の製造方法。
【請求項7】
前記細胞医薬製剤容器は、細胞懸濁液を前記細胞医薬製剤容器の内部空間へと注入可能な注入出用ポートをさらに備え、
前記細胞懸濁液を充填する工程では、前記注入出用ポートを経由して、前記細胞医薬製剤容器の内部空間に細胞懸濁液を充填する
請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞医薬製剤の製造方法。
【請求項8】
前記細胞懸濁液を充填する工程では、前記細胞充填部を経由して、前記細胞医薬製剤容器の内部空間に細胞懸濁液を充填する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞医薬製剤の製造方法。
【請求項9】
前記細胞医薬製剤容器の内部空間に前記細胞懸濁液を充填後、前記細胞医薬製剤容器を封止する工程を含む、
請求項1から8のいずれか一項に記載の細胞医薬製剤の製造方法。
【請求項10】
細胞医薬製剤容器に細胞懸濁液を充填する細胞充填システムであって、
(A1)内部空間とその内部空間を連通する連通部とを有する細胞医薬製剤容器と、
(B1)流体が流れる通路の遮断状態と連通状態とを切り替えることのできる活栓と、前記細胞医薬製剤容器と前記活栓を接続する管状体とを有する細胞充填部と、
(C1)前記細胞充填部と連結する分岐部を有する多岐管路と、
(D1)前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧する吸気手段と、
を備え、
前記細胞医薬製剤容器の細胞充填部の活栓は、流体が流れる通路を遮断状態とすることで、前記細胞医薬製剤容器の内部空間を減圧状態に維持したまま前記吸気手段との接続を解除可能である
細胞充填システム。
【請求項11】
前記細胞医薬製剤容器は、細胞懸濁液を前記細胞医薬製剤容器の内部空間へと注入可能な注入出用ポートをさらに備える、
請求項10に記載の細胞充填システム。
【請求項12】
前記多岐管路(C1)の前記分岐部が少なくとも2つ以上ある、
請求項10又は11に記載の細胞充填システム。
【請求項13】
少なくとも2つ以上の前記分岐部が、前記多岐管路(C1)において一直線上に配置されている、
請求項12に記載の細胞充填システム。
【請求項14】
前記多岐管路(C1)の前記分岐部には活栓が設けられている、
請求項10から13のいずれか一項に記載の細胞充填システム。
【請求項15】
前記細胞医薬製剤容器(A1)は少なくとも2つ以上の連通部を有する、
請求項10から14のいずれか一項に記載の細胞充填システム。
【請求項16】
前記多岐管路の1つの管路と前記吸気手段との間に活栓を有する、
請求項10から15のいずれか一項に記載の細胞充填システム。
【請求項17】
(E1)細胞懸濁液を含有する細胞懸濁液容器と、
をさらに備え、
前記多岐管路の1つの管路と前記細胞懸濁液容器との間に活栓を有する、
請求項10から16のいずれか一項に記載の細胞充填システム。