(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051144
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体結晶の製造装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
H01L21/205
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024029891
(22)【出願日】2024-02-29
(62)【分割の表示】P 2020049704の分割
【原出願日】2020-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2019106289
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、環境省、平成30年度未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業(高品質GaN基板を用いた超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証)委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】布袋田 暢行
(72)【発明者】
【氏名】松野 俊一
(72)【発明者】
【氏名】滝野 淳一
(57)【要約】
【課題】原料ガス導入経路上の構成物へのIII族窒化物半導体結晶の析出を抑制し、基板上の成長部へ供給されるIII族元素含有ガスと、窒素元素含有ガスとの混合性を向上させることができるIII族窒化物半導体結晶の製造装置を提供する。
【解決手段】III族窒化物半導体結晶の製造装置は、基板を保持する基板サセプタと、III族元素含有ガスを基板に向けて噴射する原料ノズルと、窒素元素含有ガスを基板に向けて噴射し、側面視において噴射方向が原料ノズルの噴射方向と交差し、交差する箇所の周辺に前記III族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとが混合される混合部を構成する、窒素源ノズルと、混合部は、前記基板サセプタよりも上部に配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持する基板サセプタと、
III族元素含有ガスを前記基板に向けて噴射する原料ノズルと、
窒素元素含有ガスを前記基板に向けて噴射し、側面視において噴射方向が前記原料ノズルの噴射方向と交差し、交差する箇所の周辺に前記III族元素含有ガスと前記窒素元素含有ガスとが混合される混合部を構成する、窒素源ノズルと、
前記混合部は、前記基板サセプタよりも上部に配置される、III族窒化物半導体結晶の製造装置。
【請求項2】
前記原料ノズルの噴射口は、前記噴射方向が鉛直真下方向に配置され、前記窒素源ノズルの噴射口は、前記噴射方向が鉛直方向に対して傾斜し、かつ、水平方向に対して偏向して配置されている、請求項1に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造装置。
【請求項3】
前記基板サセプタを回転する回転シャフトを、さらに備える、請求項1に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造装置。
【請求項4】
前記窒素源ノズルの偏向方向が前記基板の回転方向と順方向である、請求項3に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造装置。
【請求項5】
前記原料ノズルと前記窒素源ノズルと前記基板サセプタとを加熱する加熱手段を、さらに備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造装置。
【請求項6】
基板を保持する基板サセプタと、
III族元素含有ガスを前記基板に向けて噴射する原料ノズルと、
窒素元素含有ガスを前記基板に向けて噴射し、側面視において噴射方向が前記原料ノズルの噴射方向と交差する交差箇所を形成する、窒素源ノズルと、
前記交差箇所は、前記原料ノズルと前記基板サセプタとの間に配置される、III族窒化物半導体結晶の製造装置。
【請求項7】
III族元素含有ガスを前記基板に向けて噴射する工程と、
窒素元素含有ガスを前記基板に向けて噴射し、側面視において噴射方向が前記原料ノズルの噴射方向と交差する交差箇所を形成する工程と、
前記交差箇所にて、窒素元素含有ガスとIII族元素含有ガスを混合する工程と、
を含む、III族窒化物半導体結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体結晶の製造装置に関する。特に、反応炉内の被処理基板を載置するための基板保持部材に対向して配置されて被処理基板に向かってガスを供給するために設けられたノズルを備えた気相成長装置であるIII族窒化物半導体結晶の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN、AlGaN、InGaNなどのIII族窒化物半導体は、例えば、発光ダイオードや半導体レーザーなどの光デバイスやヘテロ接合高速電子デバイス等の分野に利用されている。III族窒化物半導体であるGaNの製造方法の1つに、III族元素金属(例えば、Ga金属)と塩化物ガス(例えば、HClガス)を反応させて、III族元素金属塩化物ガス(GaClガス)を生成し、前記III族元素金属塩化物と窒素元素含有ガス(例えば、NH3ガス)からGaNを成長させる、Hydride Vapor Phase Epitaxy(HVPE法)が実用化されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、前記HVPE法では、結晶成長において副生成物であるNH4Cl(塩化アンモニウム)が多量に発生し、製造装置の排気配管を詰まらせるため、結晶成長を阻害するという課題があった。この問題を解決する方法として、III族元素金属(例えば、Ga金属)と酸化剤(例えば、H2Oガス)とを反応させてIII族元素金属酸化物ガス(Ga2Oガス)を生成し、前記III族元素金属酸化物と窒素元素含有ガス(例えば、NH3ガス)からGaNを成長させる、Oxygen Vapor Phase Epitaxy(OVPE法)が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
前記HVPE法や前記OVPE法の特徴としては、有機金属気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)など他の結晶成長法で典型的な1μm/h程度の成長速度と比較して、10μm/h以上あるいは100μm/h以上の非常に大きい成長速度を得られることが挙げられる。このため、GaN自立基板の製造に用いられている。
【0005】
図7は、従来のIII族窒化物半導体結晶の製造装置50の1つであるOVPE装置の典型的な断面構造を示す概略断面図である。このOVPE装置は、窒化物半導体の結晶成長を行う反応容器101を備え、反応容器101内には、Ga
2OなどのIII族元素ガスを発生させる原料反応室102内に原料容器103が設けられている。第1ヒータ104により加熱される原料容器103内には、Ga、In、Alなどを含む金属原料106が収容され、原料容器103には、H
2Oガスなどの反応性ガスを供給する反応性ガス供給管107が接続されている。反応性ガス供給管107から原料容器103内に供給された反応性ガスと金属原料106との反応により、原料容器103内にはIII族元素含有ガスが生成される。生成されたIII族元素含有ガスは、原料容器103に接続されたIII族元素含有ガス供給管108から原料容器103内に導入され、基板サセプタ112上に載置された種基板111へと輸送される。尚、種基板111は、第2ヒータにより加熱される。また、反応容器101には、NH
3ガスなどの窒素元素含有ガスを供給する窒素元素含有ガス供給管109が設けられている。種基板111へと輸送されたIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとが反応して、種基板111上にIII族窒化物半導体結晶が成長する。
【0006】
III族元素含有ガス供給管108と窒素元素含有ガス供給管110とは、
図7に示すように、一般的に種基板111の主表面に対して垂直に構成される。従来の典型的なOVPE装置の欠点としては、
図7に示すように、III族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとが互いに平行に排出されるため、III族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとが混合しにくい。このため、III族窒化物半導体結晶の膜厚や結晶性の面内均一性を制御することが困難であることが挙げられる。
【0007】
III族元素含有ガスと窒素元素含有ガスの混合性を改善するための装置構成が、特許文献3で提案されている。特許文献3では、III族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとを均一に混合するために、ガス供給管と基板との間に、混合室や混合板などの均一化隔壁を設ける構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭52-23600号公報
【特許文献2】WO2015/053341
【特許文献3】特表2008-504443
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
OVPE装置の原料容器103内の金属原料106の温度は、III族元素金属酸化性ガスと反応させ、III族元素含有ガスを生成させるためには、900℃以上の高温に保つ必要がある。基板上の成長部においても、III族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとから生成されるIII族窒化物半導体結晶の駆動力を高めるために、1400℃程度までの高温に保つ必要がある。このように、OVPE法やHVPE法では、Hot Wall加熱と呼ばれる、反応部内の全体を高温に保温していることから、特許文献3に記載の構成では、混合室や混合板にIII族窒化物半導体結晶が析出してしまう。これは、基板上の成長部へ輸送される原料成分の低下を生じ、成長速度の低下を引き起こす恐れがある。さらに、混合室や混合板に析出したIII族窒化物半導体結晶は、パーティクルとなり、成長中のIII族窒化物半導体結晶へ混入するため、結晶欠陥を生じさせるという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、原料ガス導入経路上の構成物へのIII族窒化物半導体結晶の析出を抑制し、基板上の成長部へ供給されるIII族元素含有ガスと、窒素元素含有ガスとの混合性を向上させることができるIII族窒化物半導体結晶の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明に係るIII族窒化物半導体結晶の製造装置は、原料反応室と、
前記原料反応室内に設けられ、III族元素含有ガスを生成する原料反応部と、
前記原料反応室内で、基板を保持する基板保持部材と、
前記原料反応室内で、前記III族元素含有ガスを前記基板に向けて噴射する原料ノズルと、
前記原料反応室内で、窒素元素含有ガスを前記基板に向けて噴射し、鉛直方向と垂直な方向からの側面視で、噴射方向が前記基板より手前で前記原料ノズルの噴射方向と交差し、交差する箇所を中心としてその周辺に前記III族元素含有ガスと前記窒素元素含有ガスとが混合される混合部を構成する、窒素源ノズルと、
前記原料反応室内で、前記原料反応室と前記原料ノズルと前記窒素源ノズルと前記基板保持部材とを加熱するための加熱手段と、
前記原料反応室内で、前記基板保持部材を回転するための回転機構と、
を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るIII族窒化物半導体結晶の製造装置によれば、原料ガス導入経路上の構成物へのIII族窒化物半導体結晶の析出を抑制し、基板上の成長部へ供給されるIII族元素含有ガスと、窒素元素含有ガスとの混合性を向上させることで、基板上のガス濃度分布を均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1に係るIII族窒化物半導体結晶の製造装置の断面構成の一例を示す概略断面図である。
【
図2(a)】
図1のIII族窒化物半導体結晶の製造装置を用いた、原料ノズルならびに窒素源ノズルの鉛直方向と垂直な方向からみた断面構造を示す側断面図である。
【
図2(b)】
図1のIII族窒化物半導体結晶の製造装置を用いた、原料ノズルならびに窒素源ノズルの鉛直上方から見た水平断面図である。
【
図3】比較例1によるIII族窒化物半導体結晶の製造装置の断面構成の一例を示す概略断面図である。
【
図4】実施例1による混合部におけるIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとの速度ベクトル分布を示す図である。
【
図5】比較例1による混合部におけるIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとの速度ベクトル分布を示す図である。
【
図6】実施例1ならびに3によるIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスそれぞれに対する基板サセプタ回転速度と原料ガス輸送効率との関係を示すグラフである。
【
図7】従来のIII族窒化物半導体結晶の製造装置の1つであるOVPE装置の典型的な断面構造を示す概略断面図である。
【
図8】実施例2における、窒素源ノズルの偏向角度とガス混合度との関係を示す図である。
【
図9】比較例1と実施例1のガス混合度を示す表1である。
【
図10】実施例4における、基板サセプタの回転方向に対するGa
2Oガスの輸送効率を示す表2である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1の態様に係るIII族窒化物結晶の製造装置は、原料反応室と、
前記原料反応室内に設けられ、III族元素含有ガスを生成する原料反応部と、
前記原料反応室内で、基板を保持する基板保持部材と、
前記原料反応室内で、前記III族元素含有ガスを前記基板に向けて噴射する原料ノズルと、
前記原料反応室内で、窒素元素含有ガスを前記基板に向けて噴射し、鉛直方向と垂直な方向からの側面視で、噴射方向が前記基板より手前で前記原料ノズルの噴射方向と交差し、交差する箇所を中心としてその周辺に前記III族元素含有ガスと前記窒素元素含有ガスとが混合される混合部を構成する、窒素源ノズルと、
前記原料反応室内で、前記原料反応室と前記原料ノズルと前記窒素源ノズルと前記基板保持部材とを加熱するための加熱手段と、
前記原料反応室内で、前記基板保持部材を回転するための回転機構と、
を備える。
【0015】
第2の態様に係るIII族窒化物結晶の製造装置は、上記第1の態様において、前記原料ノズルの噴射口は、前記噴射方向が鉛直真下方向に配置され、前記窒素源ノズルの噴射口は、前記噴射方向が鉛直方向に対して傾斜し、かつ、水平方向に対して偏向して配置されていてもよい。
【0016】
第3の態様に係るIII族窒化物結晶の製造装置は、上記第1又は第2の態様において、前記混合部は、基板よりも上部に配置されてもよい。
【0017】
第4の態様に係るIII族窒化物結晶の製造装置は、上記第1から第3のいずれかの態様において、前記窒素源ノズルの偏向方向が前記基板の回転方向と順方向であってもよい。
【0018】
以下、実施の形態に係るIII族窒化物半導体結晶の製造装置および製造方法について、図面を参照しながら説明する。尚、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0019】
(実施の形態1)
<III族窒化物半導体結晶の製造装置>
以下、実施の形態1について
図1を参照して説明する。
図1は、実施の形態1に係るIII族窒化物半導体結晶の製造装置の断面構成の一例を示す概略断面図である。なお、
図1において、各構成部材の大きさ、比率等は実際とは異なっている場合がある。
本実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造装置は、気相成長装置であり、窒化物半導体の結晶成長を行う反応容器1と、III族元素含有ガスを発生する原料容器3と、III族元素含有ガスを種基板11に向けて噴射する原料ノズル8と、窒素元素含有ガスを種基板11に向けて噴射する窒素源ノズル10と、を備えている。鉛直方向と垂直な方向からの側面視で、窒素源ノズル10の噴射方向が種基板11より手前で原料ノズル8の噴射方向と交差し、交差する箇所を中心としてその周辺にIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとが混合される混合部を構成する。原料容器3と原料ノズル8とは接続されている。原料ノズル8から供給されるIII族元素含有ガスと窒素源ノズル10から供給される窒素元素含有ガスとは、混合部において混合された後、種基板11上の成長部において基板サセプタ12上に載置した種基板11上にIII族窒化物半導体結晶が成長する。尚、基板サセプタ12と回転シャフト13とは接続されており、回転シャフト13により基板サセプタ12は回転する。
実施の形態1に係るIII族窒化物半導体結晶の製造装置20によれば、原料ガス導入経路上の構成物へのIII族窒化物半導体結晶の析出を抑制し、基板11上の成長部16へ供給されるIII族元素含有ガスと、窒素元素含有ガスとの混合性を向上させることができる。さらに基板11への原料ガス輸送効率を高めることができる。
【0020】
以下に、このIII族窒化物半導体結晶の製造装置20の構成部材について説明する。
【0021】
<原料反応室>
反応性ガス供給管7を備えた原料反応室2内には、III族元素含有源である出発Ga源6を載置した原料容器3が配置されている。III族元素としては、Gaのほかに、AlやIn、酸化物としてGa2O3などが利用される。原料反応室2の外周部には第1ヒータ4が設けられており、原料反応室2内は所望の温度に維持されている。III族元素含有ガスを生成するためには、900℃以上1300℃以下に保つことが好ましい。加熱された出発Ga源6に反応性ガスが供給されることで、出発Ga源6と反応性ガスとが反応して、III族元素含有ガスが発生する。
【0022】
III族元素含有ガスを生成する方法としては、出発Ga源6を酸化する方法と、出発Ga源6を還元する方法がある。
出発Ga源6を酸化する方法として、出発Ga源6として金属Gaを用い、酸化性ガスとしてH2Oガスを用いた場合の反応系を説明する。出発Ga源6である金属Gaを加熱し、この状態で酸化性ガスであるH2Oガスを導入する。下記式(1)に示すように、導入されたH2Oガスは、金属Gaと反応して、III族元素含有ガスであるGa2Oガスを生成する。
2Ga + H2O → Ga2O + H2 (1)
また、出発Ga源6のほかに、In源、Al源をIII族元素含有源として採用できる。いずれの場合でも、III族酸化物ガスが生成される。
【0023】
次に、出発Ga源6を還元する方法として、出発Ga源6としてGa2O3を用い、還元性ガスとしてH2ガスを用いた場合の反応系を説明する。出発Ga源6であるGa2O3を加熱し、この状態で還元性ガスであるH2ガスを導入する。下記式(2)に示すように、導入されたH2ガスは、Ga2O3と反応して、III族元素含有ガスであるGa2Oガスを生成する。
Ga2O3 + 2H2 → Ga2O + 2H2O (2)
酸化性ガスならびに還元性ガスの搬送ガスとしては、ArやN2などの不活性ガス、またはH2ガスを用いる。
【0024】
<原料ノズル>
原料反応室2で生成されたIII族元素含有ガス、例えばGa2Oガスは、原料反応室2の下流側に設けられた原料ノズル8から種基板11に向けて鉛直真下に噴射される。また、原料ノズル8と窒素源ノズル10へのIII族窒化物半導体結晶の析出を抑制するために、原料ノズル8の外周にセパレートガス排出口が形成されているとより好ましい。原料ノズル8の内径は、特に限定されないが、好ましくは、1mm以上100mm以下の範囲、より好ましくは、20mm以上60mm以下である。
【0025】
<窒素源ノズル>
窒素源ノズル10は、窒素元素含有ガス供給管9を備える。窒素源ノズル10から窒素元素含有ガスを種基板11に向けて噴射する。鉛直方向と垂直な方向からの側面視で、窒素源ノズル10の噴射方向は、種基板11より手前で原料ノズル8の噴射方向と交差する。この交差する箇所15を中心としてその周辺にIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとが混合される混合部14を構成する。この混合部14は、具体的には、原料ノズル8及び窒素源ノズル10と、種基板11との間の水平面内に拡がる領域を意味している。
窒素元素含有ガスとしては、NH
3ガス、NOガス、NO
2ガス、N
2H
2ガス、N
2H
4ガス、などを使用できる。窒素元素含有ガスは、
図2(a)に示すように、側面視で鉛直方向に対して傾斜し、かつ、
図2(b)に示すように、平面視で水平方向に対して偏向した窒素源ノズル10から噴射される。窒素源ノズル10の内径は、特に限定されないが、好ましくは、0mmを超え30mm以下の間、より好ましくは、3mm以上15mm以下である。窒素源ノズル10の傾斜角度は、特に限定されないが、好ましくは、0度を超え90度未満、より好ましくは、5度から60度の範囲である。窒素源ノズル10の偏向角度は、特に限定されないが、好ましくは、0度を超え90度未満、より好ましくは、5度から45度の範囲である。窒素源ノズル10の外周部には第1ヒータ4が設けられており、上述した原料反応室2と同じ温度に加熱されている。この熱によって、窒素源ノズル10内のNH
3は所定の割合で分解した状態となっている。
【0026】
図2(b)に示すように、窒素源ノズル10は、噴射方向が平面視で基板サセプタ12の回転方向と順方向に偏向していることで、旋回流を形成し、III族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとの混合性を高めることが可能となる。一方、窒素源ノズル10の偏向方向は、前記の順方向の場合に限定されず、噴射方向が平面視で基板サセプタ12の回転方向と逆方向に偏向していてもよい。
【0027】
<混合部>
混合部14にて、原料ノズル8から供給されるIII族元素含有ガスと窒素源ノズル10から供給される窒素元素含有ガスとが混合される。また、所望の温度に維持するために、外周部に第2ヒータ5が設けられている。
混合部14は、特に限定されないが、基板表面からノズル源ノズル10に向けて上方にあることが好ましい。
【0028】
<成長部>
成長部16は、種基板11と基板サセプタ12と回転シャフト13とを備える。成長部16の外周部には第2ヒータ5が設けられており、成長部は所望の温度に維持されている。第2ヒータ5の温度は、III族窒化物半導体結晶を成長させるために、1000℃以上1400℃以下に保つことが好ましい。加熱された成長部16の種基板11上に混合部14にて混合されたIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとが反応することでIII族窒化物半導体結晶が成長する。
【0029】
基板サセプタ12は、種基板11を保持するための形状を有し、種基板11の主表面が原料ノズル8と対向して配置していれば特に制限されないが、結晶成長を阻害する構造になっていないことが好ましい。結晶成長面付近に成長する可能性がある構造物が存在すると、そこに多結晶体が付着し、成長膜の均一性を悪化させてしまう。材質としては、例えば、カーボン、SiCコートカーボン、PGコートカーボン、PBNコートカーボン、窒化珪素を用いることができる。
【0030】
回転シャフト13の回転方向は、上述した窒素源ノズル10の偏向方向と同じ方向とし、3000rpm程度までの回転を制御できる機構であることが好ましい。
【0031】
未反応のIII族酸化物ガス、窒素元素含有ガス、搬送ガスは排出口(図示しない)から排出される。
【0032】
以上により、原料ノズル8と窒素源ノズル10へのIII族窒化物半導体結晶の析出を抑制し、成長部16へ供給されるIII族元素含有ガスと、窒素元素含有ガスとの混合性を向上させることができる。これにより、種基板11上のガス濃度分布を均一化することができ、さらに種基板11への原料ガス輸送効率を高めることができる。
【0033】
(実施例1)
図4は、実施例1による混合部におけるIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスの速度ベクトル分布を示す図である。実施例1では、実施の形態1に係るIII族窒化物半導体結晶の製造方法の各条件を以下のように具体的に設定し、
図4に示すように、CAE(Computer Aided Engineering)による熱流体解析を実施した。
【0034】
原料ノズル8の内径は50mm、原料ノズル8の先端と種基板表面の距離は100mmとした。窒素源ノズル10の内径は5mm、噴射方向は、傾斜角度は鉛直下方に対して45度、偏向角度は平面視で中心に向かう半径方向に対して反時計回りに10度とした。窒素源ノズル10から噴射される窒素元素含有ガスの合流点と種基板11表面の距離は、35mmとした。種基板11は、直径100mmのGaN単結晶基板を用いた。
出発Ga源6として金属Gaを原料容器3にセットし、反応性ガス供給管7より反応性ガスとして、H2ガスを4SLMと、O2ガスを20SCCMとから生成したH2Oガスを導入し、Ga2Oガスを生成した。また、キャリアガスとしてN2ガスを1SLM導入した。一方、窒素源ガス供給管9より窒素元素含有ガスとしてNH3ガスを1SLM、キャリアガスとしてH2ガスを4SLM、N2ガスを4SLM導入した。反応容器1の外周部に配置した第1ヒータ4は1150℃、成長部外周部に配置した第2ヒータ5は1200℃となるように電力を供給した。基板サセプタ12は1000RPMで回転させ、熱流体解析を実施した。
【0035】
(比較例1)
図3は、比較例1によるIII族窒化物半導体結晶の製造装置40の断面構成の一例を示す概略断面図である。比較例1では、実施例1と対比すると、噴射方向が傾斜・偏向した窒素源ノズル10を無くしたことを特徴とする。すなわち、比較例1では、原料ノズル8から噴射されるIII族元素含有ガスと窒素源ノズル10から噴出される窒素元素含有ガスとの混合を積極的に行わなかった以外は、実施例1と同じ条件で、
図5に示すようにCAEによる熱流体解析を実施した。
【0036】
実施例1と比較例1とにおいて、熱流体解析を実施し、混合部におけるIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスの速度ベクトルによる混合状態を評価した。
図4及び
図5に、混合部14におけるIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとの速度ベクトル分布を示す。なお、
図4及び
図5は、本来カラーで表示されたものをグレースケールに変換したものであるため、厳密には濃淡がそのまま速度の高低に対応していないが、濃色の領域ほど高速であることを意味する。実施例1は、
図4に示すように、濃色の領域が端部から中心に向かって広がっており、III族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとがよく混合していることが確認できるのに対して、比較例2は、
図5に示すように3つの濃色の領域がそれぞれ別々に存在していることがわかり、III族元素含有ガスと窒素元素含有ガスとが互いに層流となりあまり混合していないことが確認できた。
【0037】
次に、実施例1と比較例1とにおいて、基板直上におけるIII族元素含有ガスと窒素元素含有ガスの混合状態を定量的に評価した。基板直上の窒素元素含有ガスのモル分率を、III族元素含有ガスのモル分率で除したものをV/III比と定義する。窒素元素含有ガスとIII族元素含有ガスとのガス混合度は、下記式から算出した。窒素元素含有ガスとIII族元素含有ガスとのガス混合度は、数値が小さいほど混合性が高いことを示す。
ガス混合度=(基板端部のV/III比 - 基板中心のV/III比)/(V/III比の平均値)
図9は、比較例1と実施例1のガス混合度を示す表1である。表1に示すように、比較例1のガス混合度は2.34であったのに対して、実施例1のガス混合度は0.29となり、窒素源ノズル10を傾斜、偏向させることにより混合性を約8倍向上させることが確認できた。
【0038】
(実施例2)
図8は、実施例2における、窒素源ノズルの偏向角度とガス混合度との関係を示す図である。
窒素源ノズルの偏向角度を0度、30度とした。その他の構成は実施例1と同じ条件として、熱流体解析を実施し、窒素源ノズルの偏向角度とガス混合度の関係を検証した。
図8に示すように、偏向角度が10度のときが最も混合性が良いことが確認できた。
【0039】
(実施例3)
基板サセプタ12の回転数を、0RPM(回転なし)と3000RPMとした。その他の構成は実施例1と同じ条件として、熱流体解析を実施し原料ガスの輸送効率を検証した。尚、原料ガスの輸送効率は、III族元素含有ガスであるGa2Oガスと窒素元素含有ガスであるNH3ガスとが基板上1mm上方までの空間を通過した質量重量を、原料ノズル8と窒素源ノズル10とから出たガスの質量流量で除して算出した。すなわち、原料ガス輸送効率が大きいほど、種基板11上に到達するGa2OガスとNH3ガスとが多く反応に寄与するため、成長レートが大きくなることを意味する。
【0040】
図6に、実施例1ならびに実施例3における、基板サセプタの回転速度に対する原料ガス輸送効率との関係を示すグラフを示す。基板サセプタの回転数が上がるに伴い、Ga
2Oガス、NH
3ガスともに原料輸送効率が上がることが確認できた。
【0041】
(実施例4)
基板サセプタ12の回転数を、-2300RPMと2300RPMとした。回転数の符号は、ノズルの偏向方向と基板の回転方向とが順方向の場合を正、逆方向を負とした。その他の構成は実施例1と同じ条件として、熱流体解析を実施しGa
2Oガスの輸送効率を検証した。
図10は、実施例4における、基板サセプタの回転方向に対するGa
2Oガスの輸送効率を示す表2である。表2に示すように、基板サセプタの回転数が-2300rpm、つまり、ノズルの偏向方向と基板の回転方向とが逆方向の場合のGa
2Oガスの輸送効率は6.3%であった。また、基板サセプタの回転数が2300rpm、つまり、ノズルの偏向方向と基板の回転方向とが順方向の場合のGa
2Oガスの輸送効率は、8.6%であった。ノズルの偏向方向と基板の回転方向とが順方向であるのに対して、ノズルの偏向方向と基板の回転方向とを逆方向とすると、Ga
2Oガスの輸送効率は約27%低下することが確認できた。
【0042】
本発明は、上述した各実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るIII族窒化物半導体結晶の製造装置によれば、原料ガス導入経路上の構成物へのIII族窒化物半導体結晶の析出を抑制し、基板上の成長部へ供給されるIII族元素含有ガスと、窒素元素含有ガスとの混合性を向上させることができる。これによって、基板上のガス濃度分布を均一化することができ、さらに基板への原料ガス輸送効率を高めることができる。本発明に係るIII族窒化物半導体結晶の製造装置によって得られるIII族窒化物半導体結晶は、例えば、発光ダイオード、レーザダイオードなどの光デバイス、整流器、バイポーラトランジスタなどの電子デバイス、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視―紫外光検出器などの半導体センサなどに用いることができる。但し、本発明は、上述の用途に限定されず、広い分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 反応容器
2 原料反応室
3 原料容器
4 第1ヒータ
5 第2ヒータ
6 出発Ga源
7 反応性ガス供給管
8 原料ノズル
9 窒素源ガス供給管
10 窒素源ノズル
11 種基板
12 基板サセプタ
13 回転シャフト
14 混合部
15 交差点
16 成長部
20 III族窒化物半導体結晶製造装置
40,50 III族窒化物半導体結晶製造装置