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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051215
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】位置検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
G01D5/245 110X
G01D5/245 110M
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157258
(22)【出願日】2022-09-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】丸山 重明
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA41
2F077NN05
2F077NN17
2F077NN24
2F077PP11
2F077VV02
2F077VV04
(57)【要約】
【課題】スケールを異物から保護しやすい位置検出装置を提供する。
【解決手段】ある態様の位置検出装置は、移動体をガイドするレールと、レールに沿って配されるスケールと、移動体の位置を検出するためのセンサであって、移動体に組み付けられるホルダと、ホルダに支持されスケールと対向する検出ヘッドと、有するセンサと、を備える。ホルダは、エアが流れることが可能なエア通路の開口を有する。開口は、スケールと対向するホルダの対向面にあり、かつ、移動体の移動方向における端部側にある。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体をガイドするレールと、
前記レールに沿って配されるスケールと、
前記移動体の位置を検出するためのセンサであって、前記移動体に組み付けられるホルダと、前記ホルダに支持され前記スケールと対向する検出ヘッドと、有するセンサと、
を備え、
前記ホルダは、エアが流れることが可能なエア通路の開口を有し、
前記開口は、前記スケールと対向する前記ホルダの対向面にあり、かつ、前記移動体の移動方向における端部側にある、位置検出装置。
【請求項2】
前記スケールを覆うように前記レールに配されるカバーをさらに備え、
前記検出ヘッドは、前記カバーを挟んで前記スケールと対向し、
前記開口が前記カバーと対向する、請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記ホルダの前記移動方向の外側に設けられ、前記カバーに付着した異物を除去するためのスクレーパをさらに備え、
前記開口は、前記ホルダにおける前記スクレーパよりも内側に設けられている、請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記エア通路を流れるエアの流量を検出する流量検出部と、
検出されたエアの流量に基づいて、前記センサと前記カバーとの距離を判定する第1距離判定部と、
をさらに備える、請求項2又は3に記載の位置検出装置。
【請求項5】
前記センサの検出情報に基づいて前記センサと前記スケールとの距離を判定する第2距離判定部と、
前記第1距離判定部が判定した距離と、前記第2距離判定部が判定した距離とに基づき、予め定める報知処理を実行する報知処理部と、
を備える、請求項4に記載の位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動体の位置を検出する位置検出装置に関し、特に移動体をガイドするレールに配されるスケールと、移動体と一体変位するセンサとの間の異物の排出構造に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸やテーブルは、それを支持するサドルがガイドレールに沿って駆動されることで目標位置に移動制御される。この移動制御を高精度に実現するために、サドルとガイドレールとの間に位置検出装置を配置するものもある(特許文献1参照)。このような位置検出装置は、サドル側に設けられる磁気センサと、ガイドレール側に設けられるスケールを含む。スケールに対する磁気センサの相対位置を計測することで、主軸等の位置を検出できる。
【0003】
スケールには、磁性材料による着磁パターンが記録される。磁気センサには、着磁パターンの磁界を読み取るための検出ヘッドが設けられる。検出ヘッドは、MR素子(Magneto Resistive Sensor)など磁界の方向および強さを検出可能なセンサにより構成される。検出ヘッドが着磁パターンを検出し、その検出値を電気信号に変換することでマイクロメートル単位の微細な位置計測が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-35641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工作機械の加工室では、切削による切屑の粒子や潤滑用のクーラント等の異物が飛散する。これらの異物がスケールに付着すると、磁気センサによる高精度な検出を阻害する可能性がある。このため、ガイドレールへのスケールの設置に際しては、このような異物の影響を受け難い構造を採用する必要がある。なお、このような問題は工作機械に限らず、移動体のガイドレールにスケールを配置して構成される位置検出装置であれば生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の位置検出装置は、移動体をガイドするレールと、レールに沿って配されるスケールと、移動体の位置を検出するためのセンサであって、移動体に組み付けられるホルダと、ホルダに支持されスケールと対向する検出ヘッドと、有するセンサと、を備える。ホルダは、エアが流れることが可能なエア通路の開口を有する。開口は、スケールと対向するホルダの対向面にあり、かつ、移動体の移動方向における端部側にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スケールを異物から保護しやすい位置検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る位置検出装置の外観を表す斜視図である。
図2】センサユニットの一部を分解した状態を表す図である。
図3図2のA-A矢視断面図である。
図4】スケールのレールへの組付構造を表す斜視図である。
図5】スケールのレールへの組付構造を表す斜視図である。
図6】センサユニットをレールの側からみた部分拡大図である。
図7】磁気センサとスケールとの配置関係を模式的に表す図である。
図8】エアによる異物排出構造を模式的に表す図である。
図9】位置検出装置の機能ブロック図である。
図10】距離算出テーブルを概念的に示す図である。
図11】変形例1に係る異物排出構造を表す図である。
図12】変形例2に係る異物排出構造を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、説明の便宜上、水平方向にX軸とY軸、垂直方向にZ軸を設定し、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0010】
図1は、実施形態に係る位置検出装置の外観を表す斜視図である。
位置検出装置1は、移動体2の移動をガイドする金属製のレール4と、レール4に配設されるスケール6と、移動体2と一体に設けられたセンサユニット8を備える。位置検出装置1は、本実施形態では工作機械における移動制御対象の位置を検出するものである。移動制御対象には、例えば主軸やテーブルなどが含まれる。
【0011】
レール4は、長尺状をなし、工作機械に設置されて駆動機構を構成する。移動体2には工作機械のサドル(図示せず)が固定され、そのサドルが移動制御対象を支持する。なお、図示の例ではレール4に一つの移動体2が配置されているが、レール4に沿って複数の移動体2を直列に配置してサドルを支持してもよい。ここでは、レール4の長手方向をX方向、幅方向をY方向、高さ方向をZ方向とする。
【0012】
移動体2におけるX方向の一端にセンサユニット8が設けられている。センサユニット8は、移動体2に固定されるセンサホルダ9と、センサホルダ9に組み付けられる磁気センサ10を含む。移動体2およびセンサホルダ9は、レール4を幅方向(Y方向)に跨ぐように設けられている。センサホルダ9の幅方向片側に磁気センサ10が配置される。磁気センサ10からは検出信号を取り出すためのケーブル12が延出している。
【0013】
レール4は、その両サイドがテーパ状(断面V字状)に切り欠かれた形状を有し、そのテーパ面が上下のガイド面14a,14bを構成する(これらを特に区別しない場合には、単に「ガイド面14」と称す)。一方、図示を省略するが、移動体2の内側面にはローラ又はボールからなる複数の転動体が配設される。移動体2は、それらの転動体がガイド面14に沿って転動しつつレール4の長手方向に移動する。
【0014】
レール4の片側面の底面16(上下のテーパ面の基端となる面)に凹部18が設けられている。凹部18は、レール4に沿って伸びるように設けられる(詳細後述)。そして、凹部18に嵌合するようにスケール6が配設される。さらに、スケール6を覆うようにレール4にカバー20が組み付けられることで、スケール6の保護と汚染防止が実現されている。スケール6およびその周辺の構造については後に詳述する。
【0015】
レール4を上下に貫通する複数のねじ孔22が、レール4の長手方向に所定間隔をあけて設けられている。レール4は、これらのねじ孔にボルトを挿通することで、工作機械における所定位置に固定される。
【0016】
図2は、センサユニット8の一部を分解した状態を表す図である。
センサホルダ9における移動体2とは反対側端面にスクレーパユニット24が設けられ、そのスクレーパユニット24を外側から覆うようにカバー26が組み付けられる。カバー26は、ねじ27によりセンサホルダ9に固定される。スクレーパユニット24は、三枚のスクレーパ28a~28cを重ねる積層構造を有する(これらを特に区別しない場合には、単に「スクレーパ28」と称す)。
【0017】
スクレーパ28は、ゴム等の可撓性部材からなり、カバー20の表面と接触する接触面を有する。スクレーパユニット24は、カバー20の表面に付着した異物が移動体2の移動に伴ってセンサホルダ9内に侵入するのを防止する。また、カバー20の表面に付着した異物を移動体2の移動とともに除去する。
【0018】
図3は、図2のA-A矢視断面図である。
磁気センサ10は、センサホルダ9に組み付けられるヘッドホルダ11と、ヘッドホルダ11に支持される検出ヘッド30を含む。検出ヘッド30は、ヘッドホルダ11の端部においてカバー20を挟んでスケール6と対向する位置に設けられる。検出ヘッド30は、MR素子を含む。検出ヘッド30は、クーラント等による汚染防止のため、基板に実装したMR素子を樹脂封止して構成されてもよい。磁気センサ10は、ヘッドホルダ11が図示略のねじによりセンサホルダ9に組み付けられることで、スケール6と対向配置される。
【0019】
図4および図5は、スケール6のレール4への組付構造を表す斜視図である。図4は分解図であり、図5は組立図である。各図では説明の便宜上、図1に示した構造要素をレール4の長手方向に短く表している。
【0020】
図4に示すように、レール4の片側面(底面16)に凹部18が設けられている。凹部18は、レール4の長手方向(つまり移動体2をガイドする方向)に伸び、その長手方向に段差形状を有する。凹部18の長手方向中央寄り部分が底面16において最も低位置(深い位置)となり、スケール6の取付部32を構成する。また、凹部18の幅方向中央位置に突条からなる支持部34が設けられ、レール4の長手方向に延在している。
【0021】
支持部34は、スケール6を支持する第1支持部36と、カバー20を支持する第2支持部38を有する。第2支持部38は、レール4の長手方向における第1支持部36の両側に設けられている。第1支持部36と第2支持部38とは、底面16における高さが異なり、テーパ状の斜面40を介して連結されている。
【0022】
レール4の両端部には、それぞれ凹部18にエアを供給するための穴42a,42b(これらを特に区別しない場合には、単に「穴42」と称す)が設けられている。穴42の一端(第1端部44a)がレール4の側面に開口し、他端(第2端部44b)がレール4の上面に開口している。このエア供給は、レール4の製造時の最終工程においてカバー20によるシール性能を確認するために行われるが(シール確認試験)、その詳細については説明を省略する。シール確認試験後に二つの穴42のそれぞれの第2端部44bは閉塞される。
【0023】
スケール6の表面には磁性材料が塗布され、N極とS極による着磁パターンが形成される。なお、この磁性材料は、磁性粉末とポリ塩化ビニル(PVC)を溶剤に溶かすなどして得られる。図示を省略するが、着磁パターンとしてスケール6の幅方向(Z方向)の中央にアブソリュートパターンが形成され、その幅方向両側にインクリメンタルパターンが形成される。スケール6は、取付部32に嵌合するように取り付けられる。
【0024】
カバー20は、非磁性の金属(例えばステンレス)からなる長方形状の板状部材である。カバー20は、レール4とほぼ等しい長さを有し、レール4の一端から他端にかけて伸びている。カバー20は、スケール6を外側から覆うようにレール4の片側面(底面16)に取り付けられる。スケール6の着磁パターンによる磁束は、カバー20を透過する。このため、検出ヘッド30とスケール6との間にカバー20が介在しても磁束の検出に影響はない。
【0025】
検出ヘッド30をスケール6と対向させて着磁パターンを読み取ることで、磁気センサ10の位置ひいては移動体2の位置を検出できる。磁気センサ10は、検出した位置情報をケーブル12を介して外部装置へ送信する。
【0026】
図5に示すように、スケール6は、レール4の側面においてカバー20の内側に配置されるため、外部からの異物の付着が防止される。カバー20の周縁部がレール4における同一平面上に当接し、そのレール4辺に沿った連続的な溶接がなされることで、カバー20とレール4との接合部におけるシール性が確保されている。
【0027】
図6は、センサユニット8をレール4の側からみた部分拡大図である。
ヘッドホルダ11には、カバー20と対向するように検出ヘッド30が設けられる。カバー26には配管接続部50が設けられている。配管接続部50の一端は外部に露出し、図示略の外部配管を介してエア供給源に接続される。
【0028】
配管接続部50の他端は、カバー26の内側で内部配管52に接続される。内部配管52は、カバー26およびヘッドホルダ11に挿通され、エア供給源から供給されるエアが流れるエア通路54を構成する。エア通路54は、配管接続部50を基端として途中で分岐し、ヘッドホルダ11におけるカバー26との対向面(つまりスケール6との対向面)に開口56,58(エア吐出口)を有する。これらの開口56,58は、移動体2の移動方向(X方向)に検出ヘッド30を間に挟むように互いに離隔して配置されている。エア通路54および開口56,58は、検出ヘッド30には干渉しない。開口56は、ヘッドホルダ11における移動体2の移動方向の端部側にある。
【0029】
ヘッドホルダ11の外側かつカバー26の内側に上述したスクレーパ28(図2参照)が設けられるところ、開口56,58は、ヘッドホルダ11におけるスクレーパ28よりも内側に設けられる。図中二点鎖線矢印にて示すように、エア供給源から供給されるエアは、配管接続部50を介してエア通路54に導入され、開口56,58からカバー26の表面に向けて吐出される。それによりカバー26上の異物が吹き飛ばされ、除去される。
【0030】
図7は、磁気センサ10とスケール6との配置関係を模式的に表す図である。本図は、レール4をカバー20の正面からみた図であり、図中の二点鎖線が溶接部Wを示す。説明の便宜上、図1に示した構造要素をレール4の長手方向に短く表している。
【0031】
カバー20は、レール4の一端から他端にかけて延在している。移動体2がレール4上を移動することになるが、移動体2の長手方向に対して磁気センサ10は一部の領域を占め、かつ長手方向片側に寄せられているため、移動体2の移動範囲(ストローク)は必然的にスケール6の長さよりも大きくなる。スケール6は、レール4よりも長手方向に短くてすむ。このような関係から、カバー20はスケール6よりも長手方向に大きい。
【0032】
エア通路を構成する穴42は、レール4の両端に設けられる。このため、カバー20は、この両端の穴42を覆うように設けられる。カバー20は、その周縁部が底面16の同一平面上に当接し、凹部18を取り囲むように配置される。その状態でカバー20の4辺に沿って連続的な溶接がなされる。すなわち、スケール6の伸びている方向と交差する方向に見た場合に、カバー20は、スケール6を囲う四角形状に溶接され、カバー20がレール4に固定されるとともに、その四角形状の4つの角が溶接で形成されている。溶接部Wが凹部18の外側で凹部18を囲むように設けられるため、凹部18への異物の侵入を防止できる。
【0033】
なお、スクレーパ28の先端がカバー20と当接する部分の幅(つまり、カバー20の短手方向の当接部の長さ)は、スケール6の幅よりも大きく、溶接部Wの短手方向の間隔よりも小さい。
【0034】
図8は、エアによる異物排出構造を模式的に表す図である。図8(A)は図7のB-B矢視断面に対応し、図8(B)は図7のC-C矢視断面に対応する。
図8(A)に示すように、エア通路54が分岐した分岐通路55,57のそれぞれの端部に開口56,58が設けられている。エア通路54における分岐通路55,57の上流側に流量センサ62が設けられている。磁気センサ10には、検出ヘッド30や流量センサ62による検出信号を処理する情報処理回路60が設けられている。情報処理回路60は、それらの検出信号を処理し、ケーブル12を介して図示しない外部装置へ出力する。
【0035】
工作機械の作動中、エア供給源からのエアが連続的に供給される。そのエアは、開口56,58から吐出され、カバー20の表面に吹き付けられる。移動体2の移動に伴って移動体2の前方および後方にてエアが吐出され、カバー20上の異物が掃き出されることとなる。
【0036】
図8(B)に示すように、ヘッドホルダ11は、レール4のガイド面14と相補形状のテーパ面13を有している。テーパ面13は、ガイド面14aと対向するテーパ面13aと、ガイド面14bと対向するテーパ面13bを含む。エアにより吹き飛ばされた異物は、ガイド面14とテーパ面13との隙間を通ってレール4の外部に掃き出される。さらに、移動体2とともにスクレーパ28が移動することでカバー20上を清掃する。スクレーパ28の先端がカバー20に当接しつつ移動することで、カバー20上の異物をその移動方向(X方向)にも掃き出すことができる。
【0037】
また、流量センサ62が検出するエア流量に基づき、検出ヘッド30とカバー20との距離Taを機械的に検出できる。距離Taが小さいほど両者間におけるエアの流動抵抗が大きくなるため、検出されるエア流量は小さくなる。逆に、距離Taが大きいほど両者間におけるエアの流動抵抗が小さくなるため、検出されるエア流量は小さくなる。このため、距離Taとエア流量との関係を実験等に基づいて予め設定しておくことで、検出されるエア流量に基づき検出ヘッド30とカバー20との距離Taを算出できる。
【0038】
一方、検出ヘッド30による検出値(磁気信号)に基づいて、検出ヘッド30とスケール6との距離Tbを電気的に検出できる。この距離Tbは、エア流量に基づく距離Taが正常に検出されていれば、その距離Taとカバー20の厚みTxとの和にほぼ等しくなると考えられる(Tb≒Ta+Tx)。しかし、例えばカバー20上にクーラント等の異物が固着するなどエアの流れが阻害されるような場合、両者の値は等しくならない(Tb≠Ta+Tx)。そこで本実施形態では、機械的に検出される距離Ta+Txと、電気的に検出される距離Tbとの差が予め定める第1基準値以上となる場合、カバー20に異物の固着等の異常が生じていると判定する。
【0039】
図9は、検出処理装置の機能ブロック図である。
位置検出装置1は、各種センサの検出値に基づいて所定の処理を実行する検出処理装置100を含む。検出処理装置100の各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)および各種コンピュータプロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、それらの上位層に位置する各種アプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0040】
検出処理装置100は、入出力インタフェース部110、データ処理部112およびデータ格納部114を含む。入出力インタフェース部110は、機器又は装置とのデータのやりとりを含む入出力インタフェースに関する処理を担当する。データ格納部114は、各種プログラムおよび設定データを格納する。データ処理部112は、情報処理回路60の機能を含み、入出力インタフェース部110により取得されたデータおよびデータ格納部114に格納されているデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部112は、入出力インタフェース部110およびデータ格納部114のインタフェースとしても機能する。
【0041】
入出力インタフェース部110は、入力部120および出力部122を含む。
入力部120はセンサ信号取得部124を含む。センサ信号取得部124は、磁気センサ10(検出ヘッド30)および流量センサ62の各検出信号を取得する。センサ信号取得部124は「流量検出部」として機能する。出力部122は、変位情報出力部126および表示部128を含む。変位情報出力部126は、データ処理部112にて算出された位置情報を外部装置へ出力する。
【0042】
データ格納部114は、距離情報格納部150を含む。距離情報格納部150は、エア流量と上記距離Taとの対応関係を示す距離算出テーブルを格納する。データ格納部114は、データ処理部112が演算処理を行う場合のワーキングエリアとして機能するメモリを含む。
【0043】
データ処理部112は、磁気信号処理部130、流量算出部132、判定部134および報知処理部136を含む。磁気信号処理部130は、位置情報算出部140および第2距離判定部142を含む。位置情報算出部140は、検出ヘッド30から出力された磁気信号に基づいて移動体2の位置情報(X方向の位置)を算出する。この位置情報は、検出ヘッド30がスケール6のアブソリュートパターンおよびインクリメンタルパターンを検出することで算出できるが、公知技術であるため、その詳細については説明を省略する。第2距離判定部142は、検出ヘッド30から出力された磁気信号に基づき、上述した検出ヘッド30とスケール6との距離Tbを判定する。
【0044】
流量算出部132は、流量センサ62の検出情報に基づいてエア通路54を流れるエアの流量を算出する。判定部134は第1距離判定部144を含む。第1距離判定部144は、流量センサ62により検出されたエアの流量に基づき、検出ヘッド30とカバー20との距離Taを判定する。
【0045】
図10は、距離算出テーブルを概念的に示す図である。
距離算出テーブル160には、流量センサ62により検出されうる流量Vと、検出ヘッド30とカバー20との距離Taとが対応づけられている。流量Vと距離Taとの関係は、実験等により予め設定される。第1距離判定部144は、流量センサ62により検出されるエアの流量Vを用いて距離算出テーブル160を参照することにより、距離Taを判定する。
【0046】
図9に戻り、報知処理部136は、算出された距離Taとカバー20の厚みTxとの和(距離Ta+Tx)と距離Tbとの差が予め定める第1基準値以上となる場合、カバー20に異物の固着等の異常が生じていると判定し、異常情報を報知する。本実施形態では、表示部128が予め設定されたアラートを表示させる。
【0047】
以上、実施形態に基づいて位置検出装置1を説明した。
位置検出装置1では、磁気センサ10にエア通路が設けられ、移動体2の移動とともにカバー20にエアを吹き付けるため、カバー20の上面の異物を除去できる。それにより、異物による磁気センサ10の誤検出を防止又は抑制できる。また、磁気センサ10とスケール6との距離に関し、エアの流量に基づき機械的に検出される距離と、磁気信号に基づき電気的に検出される距離とに基づき、カバー20上の異物の固着等を検出できる。その異常を報知することで、工作機械のオペレータにメンテナンスを促すなど適切な措置をとることができる。結果的に、スケール6を異物から保護でき、磁気センサ10による位置検出精度を確保しやすい。
【0048】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【0049】
[変形例]
図11は、変形例1に係る異物排出構造を表す図であり、図8(A)に対応する。
本変形例は、エア通路54における分岐通路55,57にそれぞれ流量センサ62,64が設けられている。流量算出部132は、流量センサ62の検出情報に基づいて分岐通路55を流れるエアの流量を算出し、流量センサ64の検出情報に基づいて分岐通路57を流れるエアの流量を算出する。
【0050】
このような構成において、開口56,58が設けられるヘッドホルダ11の端面に対して検出ヘッド30が同一面に設置されるか又は平行に設置される。このため、ヘッドホルダ11がセンサホルダ9に対して高精度に組み付けられている限り、流量センサ62,64により検出されるエア流量はほぼ同等となる点に着目する。
【0051】
本変形例では、判定部134が、流量センサ62が検出するエア流量と、流量センサ64が検出するエア流量との差分に基づき、カバー20に対する検出ヘッド30の傾きを判定する。すなわち、流量センサ62,64により検出されるエア流量の差が予め定める第2基準値以上となる場合に、カバー20に対する開口56の距離T1と開口58の距離T2とが異なり、検出ヘッド30が傾いていると判定できる。報知処理部136は、検出ヘッド30の組み付け精度が不十分であることを示すアラートを報知してもよい。オペレータは、このアラートが表示されたとき、ヘッドホルダ11をセンサホルダ9に固定しているねじを調整するなどして検出ヘッド30の傾きを調整できる。
【0052】
図12は、変形例2に係る異物排出構造を表す図であり、図8(B)に対応する。
本変形例では、エア通路254が磁気センサ10のトラック方向(Z方向)に分岐し、分岐通路254a,254bを形成している。レール4の一方のガイド面14aに分岐通路254aの開口256aが対向し、他方のガイド面14bに分岐通路254bの開口256bが対向する。分岐通路254aに流量センサ262a(第1流量センサ)が設けられ、分岐通路254bに流量センサ262b(第2流量センサ)が設けられる。
【0053】
ヘッドホルダ211のセンサホルダ9への組み付け精度が十分に確保されている場合(図3参照)、テーパ面13aとガイド面14aとの距離T1aと、テーパ面13bとガイド面14bとの距離T1bとは等しくなるように設定されている。言い換えれば、距離T1aと距離T1bとが異なる場合、ヘッドホルダ211がZ方向にずれている、つまり検出ヘッド30がトラック方向にずれていることになる。
【0054】
本変形例では、判定部134が流量センサ262aの検出情報に基づいて距離T1aを判定し、流量センサ262bの検出情報に基づいて距離T1bを判定する。判定部134は、流量センサ262aが検出するエア流量と、流量センサ262bが検出するエア流量との差分に基づき、検出ヘッド30のずれを判定する。すなわち、流量センサ262a,262bにより検出されるエア流量の差が予め定める第3基準値以上となる場合に、検出ヘッド30がトラック方向にずれていると判定できる。報知処理部136は、検出ヘッド30の組み付け精度が不十分であることを示すアラートを報知してもよい。オペレータは、このアラートが表示されたとき、ヘッドホルダ11をセンサホルダ9に固定しているねじを調整するなどして検出ヘッド30のずれを調整できる。
【0055】
[その他の変形例]
上記実施形態では、流量センサをセンサユニット8の内部に設ける構成を例示した。変形例においては、センサユニット8の外部に設けてもよい。また、上記実施形態では詳細を述べなかったが、表示部128として機能する表示装置(ディスプレイ、LED等)をセンサユニット8に設けてもよいし、センサユニット8とは別に設けてもよい。
【0056】
上記実施形態では述べなかったが、工作機械の異常振動などにより検出ヘッド30とスケール6との距離が変化した場合に、アラートを表示させるなどの予知保全を行ってもよい。第1距離判定部144により判定される距離Taの変化に基づき、その振動を判定してもよい。それにより、オペレータによるメンテナンスを促すこともできる。
【0057】
上記実施形態では、分岐通路55,57を開口56,58の近傍においてカバー20に対して垂直方向に延ばし、エアがカバー20に垂直に吐出される構成を例示した(図8(A)参照)。変形例においては、分岐通路55,57を開口56,58に近づくにつれて検出ヘッド30から離間するよう斜めに延ばしてもよい。それにより、エアを移動体2の移動方向前方に向けて吹き出すことができ、異物を30から遠ざける方向に掃き出すことができる。
【0058】
上記実施形態では、移動体2の移動方向に対して検出ヘッド30の両側に開口56,58を設ける構成を例示した(図8(A)参照)。変形例においては、検出ヘッド30のいずれか一方にのみ開口を設けてもよい。例えば、開口58を設けずに開口56を設けてもよい。
【0059】
上記実施形態では、工作機械の作動中はエアを連続的に吐出させる例を示したが、例えば移動体2の移動時のみとするなど特定のタイミングでエアを吐出させてもよい。
【0060】
上記実施形態では、位置検出装置のセンサとして磁気センサを例示した。変形例においては、例えば光学式のリニアエンコーダ(レーザスケール)など、スケールに対して光を照射する光センサとしてもよい。
【0061】
上記実施形態では、スケールにおける着磁パターンとして、アブソリュートパターンおよびインクリメンタルパターンの双方を含む構成を例示した。変形例においては、アブソリュートパターンのみを含み、インクリメンタルパターンを含まない構成としてもよい。
【0062】
上記実施形態では、位置検出装置1を工作機械に適用する例を示したが、位置検出装置の用途はこれに限らず、その他の搬送装置など、移動体をガイドするレールと、その移動体の位置検出を行うセンサとを備える装置であれば適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 位置検出装置、2 移動体、4 レール、6 スケール、8 センサユニット、9 センサホルダ、10 磁気センサ、11 ヘッドホルダ、13 テーパ面、14 ガイド面、16 底面、18 凹部、20 カバー、24 スクレーパユニット、26 カバー、28 スクレーパ、30 検出ヘッド、32 取付部、34 支持部、50 配管接続部、52 内部配管、54 エア通路、55 分岐通路、56 開口、57 分岐通路、58 開口、60 情報処理回路、62 流量センサ、64 流量センサ、100 検出処理装置、110 入出力インタフェース部、112 データ処理部、114 データ格納部、116 検出部、120 入力部、122 出力部、124 センサ信号取得部、126 変位情報出力部、128 表示部、130 磁気信号処理部、132 流量算出部、134 判定部、136 報知処理部、140 位置情報算出部、142 第2距離判定部、144 第1距離判定部、150 距離情報格納部、160 距離算出テーブル、211 ヘッドホルダ、254 エア通路、254a 分岐通路、254b 分岐通路、256a 開口、256b 開口、262a 流量センサ、262b 流量センサ、W 溶接部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-07-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体をガイドするレールと、
前記レールの側面に沿って配されるスケールと、
前記スケールを覆うように前記レールの側面に配されるカバーと、
前記移動体の位置を検出するためのセンサであって、前記移動体に組み付けられるホルダと、前記ホルダに支持され前記カバーを挟んで前記スケールと対向する検出ヘッドと、有するセンサと、
を備え、
前記ホルダは、エアが流れることが可能なエア通路の開口を有し、
前記開口は、前記スケールが配される前記レールの側面、又は前記スケールを覆う前記カバーの表面と対向する前記ホルダの対向面にあり、かつ、前記移動体の移動方向における端部側にある、位置検出装置。
【請求項2】
前記ホルダの前記移動方向の外側に設けられ、前記カバーに付着した異物を除去するためのスクレーパをさらに備え、
前記開口は、前記ホルダにおける前記スクレーパよりも内側に設けられている、請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記エア通路を流れるエアの流量を検出する流量検出部と、
検出されたエアの流量に基づいて、前記センサと前記カバーとの距離を判定する第1距離判定部と、
をさらに備える、請求項1又は2に記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記センサの検出情報に基づいて前記センサと前記スケールとの距離を判定する第2距離判定部と、
前記第1距離判定部が判定した距離と、前記第2距離判定部が判定した距離とに基づき、予め定める報知処理を実行する報知処理部と、
を備える、請求項3に記載の位置検出装置。
【請求項5】
移動体をガイドするレールと、
前記レールに沿って配されるスケールと、
前記移動体の位置を検出するためのセンサであって、前記移動体に組み付けられるホルダと、前記ホルダに支持され前記スケールと対向する検出ヘッドと、有するセンサと、
前記スケールを覆うように前記レールに配されるカバーと、
を備え、
前記ホルダは、エアが流れることが可能なエア通路の開口を有し、
前記開口は、前記スケールと対向する前記ホルダの対向面にあり、かつ、前記移動体の移動方向における端部側にあり、
前記検出ヘッドは、前記カバーを挟んで前記スケールと対向し、
前記開口が前記カバーと対向し、
前記エア通路を流れるエアの流量を検出する流量検出部と、
検出されたエアの流量に基づいて、前記センサと前記カバーとの距離を判定する第1距離判定部と、
をさらに備える、位置検出装置。
【請求項6】
前記センサの検出情報に基づいて前記センサと前記スケールとの距離を判定する第2距離判定部と、
前記第1距離判定部が判定した距離と、前記第2距離判定部が判定した距離とに基づき、予め定める報知処理を実行する報知処理部と、
を備える、請求項5に記載の位置検出装置。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体をガイドするレールと、
前記レールに沿って配されるスケールと、
前記移動体の位置を検出するためのセンサであって、前記移動体に組み付けられるホルダと、前記ホルダに支持され前記スケールと対向する検出ヘッドと、有するセンサと、
前記スケールを覆うように前記レールに配されるカバーと、
を備え、
前記ホルダは、エアが流れることが可能なエア通路の開口を有し、
前記開口は、前記スケールと対向する前記ホルダの対向面にあり、かつ、前記移動体の移動方向における端部側にあり、
前記検出ヘッドは、前記カバーを挟んで前記スケールと対向し、
前記開口が前記カバーと対向し、
前記エア通路を流れるエアの流量を検出する流量検出部と、
検出されたエアの流量に基づいて、前記センサと前記カバーとの距離を判定する第1距離判定部と、
をさらに備える、位置検出装置。
【請求項2】
前記ホルダの前記移動方向の外側に設けられ、前記カバーに付着した異物を除去するためのスクレーパをさらに備え、
前記開口は、前記ホルダにおける前記スクレーパよりも内側に設けられている、請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記センサの検出情報に基づいて前記センサと前記スケールとの距離を判定する第2距離判定部と、
前記第1距離判定部が判定した距離と、前記第2距離判定部が判定した距離とに基づき、予め定める報知処理を実行する報知処理部と、
を備える、請求項1に記載の位置検出装置。