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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051221
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】電流駆動型素子の電流制御器
(51)【国際特許分類】
   H05B 45/14 20200101AFI20240404BHJP
   H05B 45/325 20200101ALI20240404BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20240404BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
H05B45/14
H05B45/325
H02J7/04 F
H02J7/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157266
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】522014242
【氏名又は名称】佐藤 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100143410
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 厚
【テーマコード(参考)】
3K273
5G503
【Fターム(参考)】
3K273AA08
3K273BA02
3K273BA24
3K273BA27
3K273CA02
3K273CA25
3K273DA02
3K273DA08
3K273EA07
3K273EA25
3K273EA35
3K273FA07
3K273FA14
3K273FA26
3K273GA05
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】少数のアナログ素子のみで構成された簡単な構造のアナログ変調器を用い、出力段における半導体素子の電力損失を軽減できる電流駆動型素子の電流制御器を提供する。
【解決手段】充電池用充電器2Aは、アナログ変調器1と、出力段の電界効果トランジスタ20と、電流検知抵抗(RL)21と、電流駆動型素子(ここでは、Li-Ion電池LB)に流す電流を設定するための入力信号である設定電圧をアナログ変調器1に入力する設定電圧入力部22と、を備えており、アナログ変調器1は、入力信号と積分信号とを比較するコンパレータ10と、負帰還ループ内に配置された1次ローパスフィルタと、からなり、当該1次ローパスフィルタは抵抗111とキャパシタ112とからなり、入力信号とコンパレータ10により生成される出力パルスからの帰還信号との差を不完全積分する積分器として作動する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号と積分信号とを比較するコンパレータと、負帰還ループ内に配置された1次ローパスフィルタと、からなり、
当該1次ローパスフィルタは抵抗とキャパシタとからなり、入力信号と前記コンパレータにより生成される出力パルスからの帰還信号との差を不完全積分する積分器として作動するアナログ変調器と、
出力段の電界効果トランジスタと、
電流検知抵抗と、
電流駆動型素子に流す電流を設定するための入力信号である設定電圧を前記アナログ変調器に入力する設定電圧入力部と、
を備え、
電流駆動型素子が前記電界効果トランジスタ及び前記電流検知抵抗と直列に配置されるように構成され、
前記アナログ変調器は、前記コンパレータにより前記電流検知抵抗における電圧降下と前記設定電圧とを比較し、出力する出力パルスのデューティ比を制御することにより、前記電流検知抵抗における電圧降下の不完全積分値が前記設定電圧に等しくなるように前記電界効果トランジスタを駆動して前記電流制御型素子に流れる電流制御を行う電流駆動型素子の電流制御器。
【請求項2】
前記電流駆動型素子のグラウンドと前記電流制御器のグラウンドが共通であることを特徴とする請求項1に記載の電流駆動型素子の電流制御器。
【請求項3】
前記電流駆動型素子が充電池であり、充電池用充電器であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電流駆動型素子の電流制御器。
【請求項4】
前記電流駆動型素子がLED(発光ダイオード)照明であり、LED照明の調光器であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電流駆動型素子の電流制御器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ変調器による電流駆動型素子の電流制御器に関する。
【背景技術】
【0002】
電流駆動型素子の電流制御器として、OPアンプを使用したリニア方式や、一定電圧の入力から、一定周期のオンとオフのパルス列を作り、デューティ比を変化させて変調するパルス幅変調(pulse width modulation、PWM)方式が広く採用されている。
【0003】
このような電流制御器として、例えば、Li-Ion電池などの充電池の充電器やLED照明の調光器などが挙げられる。ここで、充電池の充電器やLED照明の調光器が電流駆動型素子の適用例に相当する。
【0004】
充電池の充電方法として、従来から、OPアンプを使用したリニアタイプの定電流充電方式の充電器が使用されている。また、Li-Ion電池に関しては専用のICが実用化されており、そこでは、リニア方式でなく電力効率の高いPWM方式の電源が採用されている(非特許文献1)。
【0005】
LEDは直流を流すことで発光するが、それはほぼ一定の順方向電圧を示すので、電圧駆動ではなく電流駆動にする。そのため、直列に抵抗を入れてLEDに流れる電流を制限する。LEDの輝度を調節するためには、その電流をコントロールすればよい。LEDの調光にも、LEDに直列接続された半導体素子によって電流を変化させるかわりに、パルス状出力を利用し、点灯/消灯のサイクルにおける点灯時間の幅の割合(デューティ比)を変えることにより時間平均電流を制御し、LEDの輝度をコントロールする方法としてPWM制御が採用されている(特許文献1)。この方式によれば、リニア方式とは異なり、半導体の出力素子は導通時のみ働き、しかも飽和状態で稼働させるため、電力効率が高いことが特徴で、市販の調光式LED照明の多くに用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-198760号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】MAX17330, Accu Charge + Model Gauge 1-Cell Charger, Fuel Gauge, and Protector, Technical Documents.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、リニア方式の電流制御は、出力段における出力半導体素子の電力損失が大きいという問題があった。また、PWN方式の電流制御では、精緻な専用のデジタル集積回路(IC)となり、コストを要するという問題があった。
【0009】
特に、Li-Ion電池の充電においては、充電初期の約3.2Vから充電終止電圧の約4.2Vまで端子電圧が大きく変化するため、充電池の充電方法としてPWM方式の電源を採用した場合、これを最も基本的な定電流方式で充電する場合でさえ、PWMのデューティ比を固定する方法では対処できない。したがって、そのデジタル集積回路ICでは、充電の段階(State of Charge、SOC)ごとにデジタル演算回路によって細かくデューティ比を制御する精緻な仕組みにせざるを得なかった。
【0010】
そこで、本発明では、上記課題を解決し、少数のアナログ素子のみで構成された簡単な構造のアナログ変調器を用い、出力段における半導体素子の電力損失を軽減できる電流駆動型素子の電流制御器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、入力信号と積分信号とを比較するコンパレータと、負帰還ループ内に配置された1次ローパスフィルタと、からなり、当該1次ローパスフィルタは抵抗とキャパシタとからなり、入力信号と前記コンパレータにより生成される出力パルスからの帰還信号との差を不完全積分する積分器として作動するアナログ変調器と、出力段の電界効果トランジスタと、電流検知抵抗と、電流駆動型素子に流す電流を設定するための入力信号である設定電圧を前記アナログ変調器に入力する設定電圧入力部と、を備え、電流駆動型素子が前記電界効果トランジスタ及び前記電流検知抵抗と直列に配置されるように構成され、前記アナログ変調器は、前記コンパレータにより前記電流検知抵抗における電圧降下と前記設定電圧とを比較し、出力する出力パルスのデューティ比を制御することにより、前記電流検知抵抗における電圧降下の不完全積分値が前記設定電圧に等しくなるように前記電界効果トランジスタを駆動して前記電流制御型素子に流れる電流制御を行う電流駆動型素子の電流制御器、という技術的手段を用いる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の電流駆動型素子の電流制御器において、前記電流駆動型素子のグラウンドと前記電流制御器のグラウンドが共通である、という技術的手段を用いる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の電流駆動型素子の電流制御器において、
前記電流駆動型素子が充電池であり、充電池用充電器である、という技術的手段を用いる。
【0014】
請求項4に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の電流駆動型素子の電流制御器において、
前記電流駆動型素子がLED(発光ダイオード)照明であり、LED照明の調光器、という技術的手段を用いる。
【発明の効果】
【0015】
本発明で用いるアナログ変調器は、コンパレータと、フィードバック・ループ中に置いたR及びCからなる1次LPFとで構成され、自励発振によりパルス列を生成し、「フィードバックにより制御されたPWM」として動作する。このアナログ変調器を備えた電流駆動型素子の電流制御器によれば、アナログ変調器は、電流駆動型素子と電界効果トランジスタとに直列に接続された電流検知抵抗における電圧降下と設定電圧とをコンパレータにより比較し、出力する出力パルスのデューティ比を制御することにより、電流検知抵抗における電圧降下の不完全積分値が設定電圧に等しくなるように電界効果トランジスタを駆動して電流制御型素子に流れる電流制御を行うことができる。これにより、充電池、LED等の電流駆動型素子へ流れる電流を精度良く調節することができる。
また、電流の制御を電圧制御半導体素子である電界効果トランジスタにアナログ変調器から出力するパルス電圧により行うため、出力段における半導体素子の電力損失を軽減できるので、より小型の素子を使用することができ、コストの低減を図ることができる。このように、本発明の電流駆動型素子の電流制御器は、充電池用充電器やLED照明の調光器に好適に用いることができる。また、電流駆動型素子のグラウンドと電流制御器のグラウンドと共通となるように構成することにより、充電池を機器に組み込んだ状態のままで充電することができる。野球場の大型ディスプレイや信号機など、LED素子を多数並列に接続して光量を増す場合などに、LEDのマイナス端子を筐体や金属枠に接続すると、各個のLEDへの配線はプラス側だけで済むので便利である。したがって、それを制御する機器(調光器)のグラウンドもそれと共通にすると都合がよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】アナログ変調器の原理図である。
図2】アナログ変調器の回路図である。
図3】レベルシフト回路を有するアナログ変調器の回路図である。
図4】アナログ変調器からの波形のシミュレーションを示す説明図である。
図5】パルス波形のカットアウトを示す模式図である。
図6】アナログ変調器を用いた充電池の充電器の回路図である。(グラウンド共通型)
図7】アナログ変調器を用いた充電池の充電器の回路図である。(変更例)
図8】アナログ変調器を用いた充電池の充電器の回路図である。(変更例)
図9】電界効果トランジスタとしてMOSFETを用いた充電池の充電器の回路図である。
図10】アナログ変調器を用いたLED調光器の回路図である。(グラウンド共通型)
図11】アナログ変調器を用いたLED調光器の回路図である。(変更例)
図12】アナログ変調器を用いたLED調光器の回路図である。(変更例)
図13】Li-Ion電池に対する充電曲線を示す説明図である。
図14】出力パルス(Voutput、負論理)を示す説明図である。:(A) SOC=0C、(B) SOC=0.53C、(C) SOC=0.94C
図15】出力対SOCを示す説明図である。
図16】MOSFETを用いた充電曲線を示す説明図である。
図17】出力パルス(Voutput、負論理)を示す説明図である。:(A) SOC=0C、(B) SOC=0.53C、(C) SOC=1.10C
図18】出力対SOCを示す説明図である。
図19】LED照明の調光器の出力パルス(RL両端電圧、Voutput)を示す説明図である。:(A) デューティ比15%、(B) デューティ比50%、(C) デューティ比80%
図20】出力電圧対デューティ比を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
【0018】
(アナログ変調器)
本発明で使用するアナログ変調器の原理図を図1に、最も簡単な単純化した構成の回路図を図2に示す。アナログ変調器1は、コンパレータ10とネガティブ・フィードバック・ループ(負帰還ループ)内の1次LPF(ローパスフィルタ)のみから構成される簡易なアナログ・システムである。デジタル積分器を伝達関数H(s)=1/(1+τs) で表される1次LPFで置き換え、量子化素子をコンパレータで置き換えることにより簡略化された構成となっている。ここで、τ はLPFの時定数τ=Rf・Cfである。
【0019】
図1において、11はアナログ回路による積分器であり、本発明では1次ローパスフィルタで代替しているため、かっこ内に1st-order LPFと記載してある。12は信号の合流点で、フィードバック信号Wとアナログ入力信号Xとの差を取ることを表している。13は出力信号のレベルを入力信号のレベルにシフトするためのレベルシフト回路である。14は入力信号を入力する入力端子、15は出力信号を出力する出力端子である。
【0020】
アナログ変調器1は、入力信号と積分信号とを比較するコンパレータ10と、積分器11と、からなる。
【0021】
積分器11は、抵抗(Rf)111とキャパシタ(Cf)112とからなる1次LPFとする。この機能は不完全積分であるが、受動素子であるので、出力パルスの急峻な変動にも追従することができる。
【0022】
コンパレータ10の非反転入力端子(+)には、入力信号が入力される。反転入力端子(-)には積分器11が接続される。コンパレータ10は、積分信号CをGND(グラウンド)ではなく入力信号Xと比較する。
【0023】
回路は弛緩発振器のように自励発振し、コンパレータ10の出力はほぼ正電源電圧VCC + とグラウンドGNDの間で振動する。この0/1パルスと入力シグナルとの差は、RとCから構成されるLPFによって不完全積分されて、コンパレータ10の反転入力ピンに供給され、非反転入力ピンの入力信号と比較される。フィードバック信号が入力を上回るとコンパレータ10は反転し、一定の応答遅れを経た後、マイナス方向に下がる。その逆の場合はプラス方向に上がる。したがって、アナログ変調器1は一連の可変幅パルス列を生成するのでPWMに属するが、フィードバックにより制御されるPWM変調器に相当する。
【0024】
図3に示すように、コンパレータ10の出力側にレベルシフト回路13を挿入することにより、出力振幅をコンパレータ10のそれを超えて拡大することもできる。この構成によれば、エミッター共通回路が簡単に出力レベルを上げることができ、逆に、抵抗(Re)16を加えることにより、フィードバック信号はレベル・ダウンされる。結果として、ゲインANF=(Re+Rf)/Reを持つことになる。
【0025】
ここで、図2の回路からの出力波形をシミュレーションした結果を図4に示す。コンパレータ10からの出力(矩形波)及び不完全積分結果(三角波)を示す。経過時間tを無次元時間X=(t/τ)に変換し、出力パルスのピーク高さVp +及び Vp -は無次元スケールで+/-0.5に正規化している。ここで、τはLPFの時定数(τ=Rf・Cf)である。シミュレーションは、入力値Vi=0.1及び無次元システム遅延xD=(tD/τ)=1/100に対して行ったものである。ここに、tD はシステム遅延である。上向き(ハイサイド)パルスは下向き(ローサイド)より幅広となっており、そのデューティ・サイクルは60%である。
【0026】
このように、アナログ変調器1は原理図上ではデルタシグマ変調に準拠しているように見えるが、実際は、言わば「フィードバックにより制御されたPWM」として動作している。積分波形は通常のPWM方式における三角波のようにアップダウンするが、これは機械的に発生させるのではなく、フィードバックの結果そのように振る舞っているのであって、その中心は入力値である。したがって、出力パルスの各サイクル内で不完全積分値が常に入力値に一致して完結しており、このサイクルが高い周波数で連続しているため出力の精度が高い。
【0027】
出力パルスの時間積分値をフィードバックして常に入力値と比較してコントロールするということは、電圧-時間ダイアグラム上で、入力ラインより上あるいは下の各パルスの"面積"が等しくなるようにフィードバックにより厳密にコントロールされるということであり、その結果、時間平均された出力が完全に入力に一致する。これが、積分を用いるアナログ・デルタシグマ変調器が入力信号を精度よく再現でき、高品位のアナログ・スイッチング・コントローラを構築できる理由である。
【0028】
図5に、図4の波形の1サイクルを切り取ったものを示し、「入力ラインより上あるいは下の各パルスの面積が等しくなるようにフィードバックにより厳密にコントロールされる」ことについて詳説する。図中、縦軸の値Vを便宜上入力値Viを基準として変換することにし、V=(V-Vi)と小文字で表示することにする。したがって、ハイサイドとローサイドのパルス高さはそれぞれvp +=Vp +-Vi、vp -=Vp --Viで表される。
【0029】
完全積分を考えることにする。点 [A] から出発したパルス波は点 [B] までvp -のまま進んだ後、そこで反転し、応答遅れxD経過後に点 [D] で最大値vp +に達する。ここで、無次元システム遅延xD期間のローサイドパルス [A-B] について積分した値をvL(負の値)と表すと、それは、続くハイサイドの期間 [D-F] の積分値で打ち消されなければならない。なぜなら、区間 [A-F] にわたる積分値はゼロであるからである。
【0030】
【数1】
【0031】
図中、矩形 [A-B] の面積が対応するハイサイドの [D-F] の面積に等しくなる。同様に、もう一方の矩形 [F-G] の面積が [I-K] に等しくなるわけである。したがって、全体で言えば、入力ライン下のローサイドパルスの面積(vL-vH)が、その直前の入力ライン上のハイサイドパルスの面積(vH-vL)を打ち消すことになる。逆もまた真であることは言うまでもない。以上のことから、両パルスの時間平均を取れば、厳密に入力値に等しくなる(V=Viまたはv=0)。これが、完全積分を用いたデルタシグマ変調器が入力と同一の信号を出力できる仕組みである。
【0032】
積分器11が両サイドのパルス強度をもれなく積分している限り、パルス波形、vp +(x)及び vp -(x)は必ずしも矩形をしている必要はなく、任意の形状でもかまわない。このように、本変調法は出力パルスのいかなる変動要因に対しても高い耐性を有することを示唆している。
【0033】
積分器11を抵抗(Rf)111とキャパシタ(Cf)112とからなる簡単な構造の1次LPF(ローパスフィルタ)で代用する。その機能は不完全積分と呼ばれるが、OPアンプなどのような能動素子と違って受動素子であるので、出力パルスの急峻な変動にも追従できる利点がある。ここで、代替したLPFによる変調誤差(相対値)は入力によらず一定であり、システム遅延とLPFの時定数との比が1/100以下というように1と比べて十分に小さい場合にはシステム遅延とLPFの時定数との比のみに依存する。
【0034】
アナログ変調器1はデジタル素子を一切含まず、少数のアナログ素子のみで構成されているが、アナログ変調と同程度の高い精度の出力を得ることができる。また、デジタル・デルタシグマ変調と異なりフィードバックがより直接的に働くため、電源電圧変動に強い特性が得られる。出力パルスの各サイクル内で不完全積分値が常に入力値に一致して完結しており、このサイクルが高い周波数で連続しているため出力の精度が高い。しかも、途中でなんらかの外乱が加わっても、次の半サイクルで直ちにフィードバックがパルス幅を修正するので、電源電圧の変動などの外乱に耐性を持つ。
【0035】
(充電池用充電器)
上述のアナログ変調器を用いた電流駆動型素子の電流制御機器2として、充電池用充電器2Aについて、Li-Ion(リチウム・イオン)電池用充電器に例に図を参照して説明する。ここで、充電池が「電流駆動型素子」に相当し、充電池用充電器が「電流駆動型素子の電流制御機器」に相当する。
【0036】
図6に示すように、充電池用充電器2Aは、アナログ変調器1と、出力段の電界効果トランジスタ20と、電流検知抵抗(RL)21と、電流駆動型素子(ここでは、Li-Ion電池LB)に流す電流を設定するための入力信号である設定電圧をアナログ変調器1に入力する設定電圧入力部22と、を備えている。
【0037】
ここでは、電圧駆動する電界効果トランジスタ20として一般的で入手しやすいNチャンネル接合型電界効果トランジスタ(Junction Field Effect Transistor:JFET)を用いた。そのため、リニア回路とは逆論理となり、コンパレータの反転・非反転入力への接続を逆にしている。また、設定電圧入力部22は、定電圧電源であり、例えば、定電圧ダイオードと定電流電源とを組み合わせたものとして構成される。
【0038】
正電源電圧VCC +とグラウンドGNDとの間に、電流検知抵抗(RL)21、電界効果トランジスタ20(JFET-N素子)、Li-Ion電池LBがこの順に直列に配置されている。JFET-N素子はアナログ変調器1を構成するコンパレータ10により駆動される。電流検知抵抗21の下端の電圧を、抵抗(Re)16と抵抗(Rf)111からなる抵抗分圧によりレベル・ダウンする。その信号Voutputを、キャパシタ(Cf)112と上記の合成抵抗で構成される1次LPF で不完全積分した信号をコンパレータ10の非反転入力端子に接続する。アナログ変調器1の出力端子15は、電流検知抵抗(RL)21と電界効果トランジスタ20との間に接続されている。
【0039】
アナログ変調器1では、この電圧Voutputの不完全積分値と、反転入力端子に接続される一定の直流電圧Vinputとをコンパレータ10が比較して、これらが等しくなるようにフィードバックによってJFET-N素子を駆動するパルス出力のデューティ比が制御される。その結果、電流検知抵抗21の両端の時間平均電圧が一定にコントロールされ、Li-Ion電池LBへ流れる電流(充電流)が一定に調節されることになる。つまり、この回路は負荷に電流を供給する定電流ソース(Constant-Current Source)回路になる。
【0040】
この充電方式によれば、出力段における半導体素子の電力損失(この場合はドレイン損失)を大幅に軽減できるため、より小型の素子を使用することができ、装置の小型化、さらにはコストの低減をはかることができる。
【0041】
この構成のように、負荷であるLi-Ion電池LBのグラウンドと充電池用充電器2Aのグラウンドとを共通にすると、両者の電位レベルを合わせることができ、Li-Ion電池LBを機器に組み込んだ状態(例えば、スマートフォンやコードレス掃除機など)のままで充電することができ、利便性の点でアドバンテージとなる。充電池を利用する電子回路は、通常、そのグラウンドが充電池のマイナス極に接続されているからである。
【0042】
ここでは、利便性を考え、例として、スマートフォン用のUSB-ACアダプタから正電源電圧VCC +を供給できることを前提として+5Vに設定した場合を検討する。
【0043】
Li-Ion電池の公称電圧は3.7Vであるが、充電期間中は3.2Vから4.2V(充電終止電圧)まで変化する。そのため、電源と負荷である充電池との間に電圧の余裕がなくなり、その間に、電流検知抵抗(RL)21と電界効果トランジスタ20(NチャンネルJFET)を入れ込まなくてはならず、設計条件は厳しくなる。グラウンド共通ということは実用上の大きな利点であるが、そのために、電流検知抵抗(RL)21の上端を正電源電圧VCC +に接続する必要がある。
【0044】
ところで、一般に普及しているコンパレータは、設定電圧の範囲が+方向では正電源電圧VCC +に及ばず、それ以下の電圧に止まる仕様のものが多い。実施例において示すLM393では、設定電圧範囲は0Vから(VCC +-1.5V)となっている。そのため、正電源電圧VCC +にUSB電源の5Vを適用すると、入力の上限は3.5Vとなって電池の公称電圧以下となり、電流検知抵抗をその上に置いてもコンパレータは検知できなくなる。
【0045】
そこで、図6に示したように、1次LPFに分圧抵抗(Re)16を用いて、出力の電圧レベルを下げて入力にフィードバックすることにより、この制限を回避することができる。
【0046】
この回路では100kΩ/100kΩによる抵抗分圧を用いることにより、入力レベルを出力レベルの1/2に落とすことができる。つまり、設定電圧を2.5Vより少し低い値に抑えることができ、上述の設定電圧範囲の制限を解消することができる。
【0047】
負荷であるLi-Ion電池LB、電界効果トランジスタ20及び電流検知抵抗(RL)21が直列に接続されていれば、その配置及び半導体素子の極性の組み合わせにより様々なバリエーションが考えられる。その内、二つの例を取り上げる。
【0048】
Li-Ion電池がグラウンドに接続する必要がない場合、例えば、デジタルカメラ用の充電池などのように使用する機器から取り外して充電する場合には、図7に示すように、電流検知抵抗(RL)21をグラウンドに接地し、電界効果トランジスタ20(JFET-N)をプラス電源に接続し、Li-Ion電池LBをその間に配置する。この構成では、正電源電圧VCC +とグラウンドGNDとの間に、電界効果トランジスタ20、Li-Ion電池LB、電流検知抵抗(RL)21がこの順に直列に配置されている。アナログ変調器1の出力端子15は、Li-Ion電池LBと電流検知抵抗(RL)21との間に接続されている。この場合には、電流検知抵抗(RL)21の上端電圧を1次LPFを介してフィードバックすることになるが、通常のコンパレータは設定電圧の下限の0Vまで比較することができるので、図6のような分圧抵抗を必要としない。ただし、図6とはロジックが反転しているので、コンパレータ10の入力端子は入れ替わっている。
【0049】
図8図7において、Li-Ion電池LBと電界効果トランジスタ20の配置を逆にしたものである。この構成では、正電源電圧VCC +とグラウンドGNDとの間に、Li-Ion電池LB、電界効果トランジスタ20、電流検知抵抗(RL)21がこの順に直列に配置されている。アナログ変調器1の出力端子15は、電界効果トランジスタ20と電流検知抵抗(RL)21との間に接続されている。Li-Ion電池LBはプラス電源に接続されており、電界効果トランジスタ20は、バイアス電圧がプラス側に振れる余地が必要なため、PチャンネルのJFETが使用されている。ロジックが反転するため、コンパレータ10の入力端子も逆接続となっている。この回路も、分圧抵抗の必要性はない。
【0050】
大容量の充電池電池が充電対象の場合には、最大ドレイン損失の大きなMOSFET(Metal Oxide Semiconductor-FET)を用いることができる。MOSFETを用いた充電器の回路を図9に示す。ここではPチャンネルMOSFETを使用することにした。一般に、MOSFETは比較的大きな入力容量を持っており、これを急速に充電するための駆動回路が必要となるが、ここでは、簡単なNPN/PNPペア・トランジスタによるCEF(Complementary Emitter Follower)回路17を用いた。18はゲート直列抵抗を示す。この素子をオンにするためにはゲート電圧VGSを負の電位にしなければならない。図9の回路では、素子の下に電池が配置されており、FET素子の極性が異なるので、コンパレータへの入力は通常通りとなり、フィードバック信号を反転入力端子に接続する。
【0051】
(LED照明の調光器)
上述のアナログ変調器1を用いた電流駆動型素子の電流制御機器として、LED照明の調光器(LED調光器)について説明する。アナログ変調器1を用いるLED調光器2Bを図10-12に示す。
【0052】
図10-12は、図6-8にそれぞれ対応しており、Li-Ion電池LBをLEDに入れ替えた構成である。
【0053】
例えば、図11に示す構成では、負荷であるLEDの正極にそれを駆動するJFET-N素子のソース端子を接続し、ドレイン端子はプラス電源VCC +に接続する。LEDの負極は電流検知抵抗(RL)21を介して接地する。そのJFET-N素子はアナログ変調器1を構成するコンパレータ10により駆動される。電流検知抵抗(RL)21の上端の電圧を、フィードバック・ループ中に置いた抵抗(Rf)111とキャパシタ(Cf)112とからなる1次LPF(積分器11)により不完全積分した信号をコンパレータ10の反転入力端子に接続する。この電圧と、非反転入力端子に接続される一定の直流電圧Vinputとをコンパレータ10が比較して、そのパルス出力がJFET-N素子を駆動する結果、電流検知抵抗両端の電圧Voutputの時間平均電圧が一定にコントロールされ、LEDを流れる平均電流が調節されることになる。
【0054】
図10に示すように、負荷であるLEDのグラウンドとLED調光器2Bのグラウンドとを共通にすると、野球場の大型ディスプレイや信号機など、LED素子を多数並列に接続して光量を増す場合などに、LEDのマイナス端子を筐体や金属枠に接続することにより、各個のLEDへの配線はプラス側だけで済むので便利である。
【0055】
このように、負荷であるLEDと電流検知抵抗(RL)21とが直列に接続されているため、何らかの外乱(たとえば、電源電圧の変動や周囲温度の変動など)があっても、LEDを流れる平均電流は常に一定に保たれ、その結果、LED輝度の輝度が一定に保たれるメリットがある。また、出力段における半導体素子の電力損失(この場合はドレイン損失)を軽減できるため、より小型の素子を使用することができ、装置の小型化、さらにはコストの低減をはかることができる。
【0056】
(実施形態の効果)
本発明で用いるアナログ変調器1は、コンパレータ10と、フィードバック・ループ中に置いた抵抗(Rf)111とキャパシタ(Cf)112とからなる1次LPF(積分器11)とで構成され、自励発振によりパルス列を生成し、「フィードバックにより制御されたPWM」として動作する。これは、デジタル方式のPWMのように複雑で大規模な回路を要しない。このアナログ変調器1を備えた電流駆動型素子の電流制御器2によれば、アナログ変調器1は、電流駆動型素子と電界効果トランジスタ20とに直列に接続された電流検知抵抗(RL)21における電圧降下と設定電圧とをコンパレータ10により比較し、出力される(出力する?)出力パルスのデューティ比を制御することにより、電流検知抵抗(RL)21における電圧降下の不完全積分値が設定電圧に等しくなるように電界効果トランジスタ20を駆動して電流制御型素子に流れる電流制御を行うことができる。これにより、充電池、LED等の電流駆動型素子へ流れる電流を精度良く調節することができる。また、電流の制御を電圧制御半導体素子である電界効果トランジスタにアナログ変調器から出力されるパルス電圧により行うため、出力段における半導体素子の電力損失を軽減できるので、より小型の素子を使用することができ、コストの低減を図ることができる。
【0057】
実施例においては、このアナログ変調器1にJFETまたはMOSFET素子を付加した定電流回路を作製し、Li-Ion電池の充電器に適用した。パルスのデューティ比がSOCの進行とともに大きくなって行く様子が観測され、充電電流を一定にコントロールする能力が示された。その結果、典型的な定電流充電曲線が得られた。また、リニア回路に比べ充電時の電力損失の少なさは顕著であった。
【0058】
アナログ変調器1を用いた小型のLEDを対象とする調光回路を作製した。この実験結果から、良好な定電流特性が得られた。また、本変調方式による調光時の出力段の半導体における電力損失が、リニア調光回路に比べ少ないことが明らかとなった。
【0059】
以上のことから、充電池用充電器やLED調光器に限らず民生品や産業用機器に至るまで、様々な直流デバイスの電流制御に使用されてきたリニア・レギュレータやデジタルPWM方式のコントローラを、この簡易なアナログ変調器を応用した調節器で代替できる。
【実施例0060】
(Li-Ion電池用充電器)
Li-Ion電池は、充電初期の約3.2Vから充電終止電圧の約4.2Vまで端子電圧が大きく変化するため、充電池の充電方法としてPWM方式の電源を採用した場合、これを最も基本的な方式で充電する場合でさえ、PWMのデューティ比を固定する方法では対処できない。したがって、従来は、そのデジタル集積回路ICでは、充電の段階(State of Charge、SOC)ごとにデジタル演算回路によって細かくデューティ比を制御する精緻な仕組みにせざるを得なかった。
【0061】
図6に示した充電器を用いて充電試験を行った。表1には、使用したLi-Ion電池の仕様を示す。電池はごく小型の容量(40mAh)のものを用いた。充電電流は8mA(5時間率)である。
【0062】
表2に回路定数を示す。電圧マージンがごく限られているため、電流検知抵抗RLを極力小さく設定し、その電圧降下を最小限にとどめるようにした。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
RL'はオープンコレクタ方式のコンパレータに接続するプルアップ抵抗である。例えばNPNトランジスタのシンク・ソース・ペアを出力回路とするコンパレータであれば、この抵抗は不要である。
【0066】
充電試験の結果を図13に示す。図13では、充電電圧をSOCに対して描いている。充電電圧とSOCとの関係は、Li-Ion電池の代表的な開回路電圧(Open Circuit Voltage、OCV)対SOC曲線に近いものとなった。
【0067】
また、充電の初期(A)、中期(B)、末期(C)ごとの出力パルス波形を図14に、出力をデューティ比に対してプロットしたものを図15にそれぞれ示す。測定結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
図14は電流検知抵抗RLから流れ出る方向のパルスを示している。つまり、下向きのパルス(ロー・サイド・パルス)がJFETがONの状態を示す。電流検知抵抗RLにとっては定電流シンク(Constant- Current Sink)であり、負論理となる。充電の進行とともに、電源電圧と電池電圧との差が縮まってゆくので、ロー・サイド・パルスの幅が広くなってゆくことが分かる。電源とバッテリ間の電圧の余裕が無いため、JFET素子の振幅はごく限られている。そのため、OPアンプを用いるリニア回路を仮定したドレイン損失は元々小さいが、パルス幅変調では無視小なので比率としてはリニア損失の方が大きい。
【0070】
図15を見ると、充電期間中、SOCの増加とともに出力値(DC電圧値)は減少してゆくが、その減少率は0.92%に過ぎなかった。充電過程におけるパルス幅の変化が大きい割には良好な結果と言え、民生用機器には充分な定電流特性が保たれていると言える。
【0071】
これにより、アナログ変調器を用いるグラウンド共通回路が作動することが明らかとなった。電源電圧5Vで稼働させることは、いわゆるレイル・トゥ・レイル(Rail-to-Rail)特性、つまり、電源電圧からグラウンドまでフルスイングできる特性を持つ優れたコンパレータがあればより容易である。しかし、本例のような汎用品の安価なコンパレータであっても、変調器に分圧抵抗Reを付け加えるだけでこの制限を回避できることが分かった。
【0072】
以上のように、アナログ変調器にJFET又はMOSFET素子を付加した定電流回路を作製し、Li-Ion電池の充電器に適用した。パルスのデューティ比がSOCの進行とともに大きくなって行く様子が観測され、充電電流を一定にコントロールする能力が示された。その結果、典型的な定電流充電曲線が得られた。また、リニア回路に比べ充電時の電力損失の少なさは顕著であった。
【0073】
次に、MOSFETを用いるLi-Ion電池用充電器の実施例を示す。
【0074】
このMOSFETは最大ドレイン電流が5A(パルスに対しては15A)であり、使用したリチウムイオン・バッテリの推奨される充電電流80mAに対して充分な余裕がある。一般に、MOSFETは比較的大きな入力容量(2SJ537の場合、470pF)を持っており、これを急速に充電するための駆動回路が必要となるが、ここでは、簡単なNPN/PNPペア・トランジスタによるCEF(Complementary Emitter Follower)回路を用いた。そのままではUSB電源が使えないため、Re、Rfによる抵抗分圧により設定電圧のレベルを下げた。リチウムイオン・バッテリの仕様を表4に、また、実験に使用した回路定数を表5に掲げる。
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
表中のRGはゲート直列抵抗で、これが小さいとパルス立ち上がり時のオーバーシュートが目立つようになり、大きいほど立ち上がり時間が遅くなる。
【0078】
図16に充電曲線を示す。図13と同様の傾向を示した。
【0079】
出力パルスの形状を図17に、結果の一覧を表6にそれぞれ示す。CEFタイプの駆動回路により、パルスの立ち上がりに鋭いオーバーシュートが認められるが、これはバッテリへの配線のインダクタンスが誘因となっているものと考えられる。
【0080】
【表6】
【0081】
なお、電流検知抵抗にとっては電流シンクとなるので、ロー・サイド・パルスに関してデューティ比を算出した。結果を図18に示す。出力対SOCの変化を見ると、SOCの増加とともに出力値(DC電圧値)は減少してゆくが、その減少率は0.29%にすぎない。これはJFETの例より少なくなっている。このことにより、本例のように民生用途としては充分に定電流である。
【0082】
表の最下行はリニア回路を仮定した場合にMOSFET素子のドレイン損失の推算値を示している。充電電流が大きいため、無視できない値となっている。このMOSFETのオン状態におけるドレイン・ソース間の抵抗値はコンマ2、3オームとデータ・シートにあるが、パルスの場合は正確に見積ることは困難である。しかし、リニア回路の場合に比べれば無視しうる程度と言える。
【0083】
なお、電源電圧を7.5Vに上げ、さらにMOSFET用に駆動回路を用いた別の試験回路では、出力値の減少率は0.085%に過ぎず、定電流特性はほぼ完全に保たれていた。このように、USB電源を超える電源電圧ではより良好に作動することが確かめられた。本節で取り上げたUSB電源とLi-Ion電池の組み合わせは設計の限界に近かったと言える。そのような条件下でも、本アナログ変調器が機能した意義は大きい。
【0084】
以上のことから、アナログ変調器を利用する Li-Ion電池用充電器では、シンプルな回路にもかかわらず、フィードバック制御によって定電流充電を可能にすると同時に、PWMによる省電力効果も併せて得られることが証明された。
【0085】
(LED調光器)
図8に示した調光器を用いて調光試験を行った。回路定数を表7に記す。
【0086】
【表7】
【0087】
ここでも、便宜のため、スマートフォン用USB-ACアダプタが使えるよう電源電圧は+5Vに設定した。なお、大型のLEDや照明器具を調光しようとする場合には、出力段を設けて出力増強を図ることが出来る。それにはMOSFETが用いられることが多い。図8の例では最大電流が25mAという小型のLEDを用いた試作回路のため、単に1石のNチャンネル・ジャンクションFET(Junction FET-N)を用いた。なお、JFETのゲート・ソース・カットオフ電圧VGS(OFF)はマイナスであるので、図13とは異なり、JFETを電位の高い位置に置いたが、形の上で両回路の相似性は明らかである。これは、入力信号Vinputと、電流検知抵抗RLによって生じる電圧降下V output の不完全積分値が等しくなるよう、フィードバックによってJFETのデューティ比が制御される結果、LED電流(の時間平均値)がコントロールされるというメカニズムである。つまり、この回路は負荷に電流を供給する定電流ソース(Constant-Current Source)回路になる。
【0088】
得られた出力パルス波形を図19に示す。電流検知抵抗RLには電流が流れ込むため、このPWM波は正論理となり、上向きのパルス(ハイ・サイド・パルス)の幅が広いほどデューティ比は大きくなる。図13にデューティ比によって出力電圧がどう変化するかを図示する。正論理のリニアな関係が得られている。
【0089】
測定結果を表8に示す。設計では最大電流を20mAと見積もったが、最大輝度の時、実際のLED電流は19.4mAであった。
【0090】
【表8】
【0091】
ここで、対応するリニア回路(図20)のFETで同じ電圧降下を担うと仮定した場合のドレイン損失の推算値を表の最下行に記した。これらと比べると、本回路のJFETによる調光時の損失は無視しうるほど少ないので、省エネ効果は明らかである。
【0092】
次に電源電圧の変動による出力(すなわちVoutput)への影響を見てみる。正電源電圧VCC +=5.0Vに対し、±0.10V変化させた時の出力電圧の変動を測定したところ、0.040mVであった。これは、LEDへの電流値の変化でいえば、1.0μAに過ぎず、電源電圧変動除去比PSRR (Power Supply Rejection Ratio, static)として表示すれば74dBとなり、十分安定であるといえる。本方式によれば、電流検知抵抗RLには常に一定の電流が流れるようにデューティ比が自動制御されるので、たとえ電源電圧が変動してもLED電流は変わらず、その輝度への影響は最小限に止まる。これが、デジタルPWM方式にはないフィードバック制御PWM方式の強みと言える。
【0093】
以上のように、アナログ変調器を用いた小型のLEDを対象とする調光回路を作製した。この実験結果から、良好な定電流特性が得られた。また、本変調方式による調光時の電力損失が、リニア調光回路に比べ少ないことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0094】
1…アナログ変調器
10…コンパレータ
11…積分器
111…抵抗
112…キャパシタ
12…信号の合流点
13…レベルシフト回路
14…入力端子
15…出力端子
2…電流制御器
2A…充電池用充電器
20…電界効果トランジスタ
21…電流検知抵抗
22…設定電圧入力部
2B…LED調光器
VCC +…正電源電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20