(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051235
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】診断装置、画像再構成処理の実行方法及び診断プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0507 20210101AFI20240404BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A61B5/0507 100
G01N22/00 R
G01N22/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157286
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】506111240
【氏名又は名称】学校法人 愛知医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100218280
【弁理士】
【氏名又は名称】安保 亜衣子
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(74)【代理人】
【識別番号】100173864
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】桑原 義彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 公人
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA10
4C127EE08
(57)【要約】
【課題】測定誤差やモデル化誤差のある悪条件問題であっても正確に逆問題の解を求めることができる診断装置を提供する。
【解決手段】アンテナアレイを構成する複偏波ホーンアンテナA
1~A
16と、アンテナアレイによりマイクロ波の送信/受信の制御をする制御手段19と、マイクロ波を用いて、対象部位6の一部に対象部位6とは電気定数の異なる強散乱領域を特定し、この強散乱領域のプロファイルから初期分布を設定し、且つ基準オブジェクトにより測定データの校正をし、初期分布と校正された測定データを用い3次元画像を再構成する画像処理ユニット13を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気より大きな比誘電率を有する誘電体がそれぞれの内部に装荷され、前記対象部位を囲むアンテナアレイを構成するように配列された複数の複偏波ホーンアンテナと、
前記アンテナアレイにより前記対象部位の全体にマイクロ波を送信し、前記対象部位を透過した前記マイクロ波を前記アンテナアレイで受信させる制御をする制御手段と、
前記マイクロ波を用いて、前記対象部位の一部に前記対象部位とは電気定数の異なる強散乱領域を特定し、該強散乱領域のプロファイルから初期分布を設定し、且つパラメータ推定散乱体を特定し、該パラメータ推定散乱体に近い形状と電気的性質を持つ基準オブジェクトに対し測定データの校正をし、前記初期分布と前記校正された測定データを用い3次元画像を再構成する画像処理ユニットと
を備えることを特徴とする診断装置。
【請求項2】
前記画像処理ユニットが、
前記アンテナアレイで取得した測定データに対し、超分解技術を用いた伝搬遅延時間推定に基づき、前記対象部位の誘電率の分布を計算する誘電率分布計算回路と、
前記誘電率分布計算回路の計算結果を用いて、共焦点イメージング方式の処理により、前記対象部位の一部に前記強散乱領域を特定し、前記強散乱領域のプロファイルから、前記初期分布を設定する電気定数初期化回路と、
前記誘電率分布計算回路の計算結果を用いて、前記基準オブジェクトのパラメータを推定する基準オブジェクトパラメータ計算回路と、
前記基準オブジェクトに対し、データベース化した校正係数を用いて前記測定データの校正をする測定データ更新回路と、
前記初期分布と前記校正された測定データを用い、マトリックス演算から前記3次元画像を再構成する逆問題解析回路と
を有すること特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記対象部位を収納する凹部を有し、前記対象部位の誘電率に近い物理的特性を有する誘電体材料からなる整合用誘電体ブロックを更に備え、
前記複数の複偏波ホーンアンテナが、前記整合用誘電体ブロックの外壁面に配列されたことを特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項4】
電磁波を吸収する電波吸収体層が、前記アンテナアレイを構成する前記複数の複偏波ホーンアンテナのそれぞれの間に挿入されたことを特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項5】
空気より大きな比誘電率を有する誘電体がそれぞれの内部に装荷され、対象部位を囲むアンテナアレイを構成するように配列された複数の複偏波ホーンアンテナを備えた診断装置による画像再構成処理の実行方法であって、
前記アンテナアレイによる測定結果を用いて、前記対象部位の一部に前記対象部位とは電気定数の異なる強散乱領域を特定するステップと、
該強散乱領域のプロファイルから初期分布を設定するステップと、
パラメータ推定散乱体を特定し、該パラメータ推定散乱体に近い形状と電気的性質を持つ基準オブジェクトに対し測定データの校正するステップと、
前記初期分布と前記校正された測定データを用い3次元画像を再構成するステップと、
を含むことを特徴とする画像再構成処理の実行方法。
【請求項6】
空気より大きな比誘電率を有する誘電体がそれぞれの内部に装荷され、対象部位を囲むアンテナアレイを構成するように配列された複数の複偏波ホーンアンテナを備えた診断装置を駆動するコンピュータシステムのための診断プログラムであって、
前記アンテナアレイによる測定結果を用いて、前記対象部位の一部に前記対象部位とは電気定数の異なる強散乱領域を特定させる命令と、
該強散乱領域のプロファイルから初期分布を設定させる命令と、
パラメータ推定散乱体を特定させ、該パラメータ推定散乱体に近い形状と電気的性質を持つ基準オブジェクトに対し測定データの校正させる命令と、
前記初期分布と前記校正された測定データを用い3次元画像を再構成させる命令と
を含む一連の命令により前記コンピュータシステムを動作させることを特徴とする診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波イメージング(MI)の処理を実行する診断装置、この診断装置を用いた画像再構成処理の実行方法、及びコンピュータに画像再構成処理の一連の手順を命令し実行させる診断プログラムに係り、特に、乳癌組織の診断等に好適な診断装置、画像再構成処理の実行方法及び診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線マンモグラフィによる癌の診断率は30%~60%とあまり高い値ではなく、高密度乳腺に埋もれた癌は見つけ難い(非特許文献1参照。)。また、X線の妊娠出産への影響を避けるため、若年層のX線検診の機会を失わせている。代替としての超音波診断装置は連続した断層像が得られず、磁気共鳴画像法(MRI)や陽電子放射断層撮影(PET)も装置規模が大きく検査時間も長い問題がある。
【0003】
マイクロ波イメージング(MI)は、上記の問題を解決できる有力な候補である。マイクロ波イメージングには、散乱波の強度分布を再構成する共焦点イメージング(CI)方式と電磁波の逆散乱問題を解いて比誘電率εrや導電率σの分布を再構成する散乱トモグラフィ(ST)方式とがある。「逆散乱問題」とは、散乱波分布から空間の電磁環境(散乱体の位置やその物性)を求めることであり、物体からの散乱波分布を求める散乱問題の逆プロセスに対応する。
【0004】
しかし、共焦点イメージング方式には癌の組織形状が正確に再構成されず、診断装置として性能が不十分であるという課題がある。又、従来の散乱トモグラフィ方式にも課題がある。散乱トモグラフィ方式では、乳房を
図17Aに示すような小さな6面体(ボクセル:voxel)の集合でモデル化しているが、再構成画像の分解能は、3次元の正規格子単位であるボクセルの大きさに依存する。乳房撮像でミリメートル(mm)オーダーの分解能を得るためには、以下の式(1)の1行目に示される線形方程式の変数ベクトルxの数は、数千から数万にもなる。
【0005】
以下の線形方程式の左辺の係数行列Aは、散乱現象を記述するM行―N列の行列である。線形方程式の左辺の変数ベクトルxは、乳房の比誘電率ε
rと導電率σの分布を示すN行のベクトルであり、右辺の定数ベクトルbは、観測データに相当するM行のベクトルである。
【数1】
【0006】
式(1)の線形方程式の変数ベクトルxの数が数千から数万にもなる状況で個々のボクセルの比誘電率εrと導電率σ(x)を変化させても、観測できる散乱波を示す定数ベクトルbの変化は僅かなため、僅かな変化を捉える感度の良いアンテナが必要である。又、係数行列Aは、計算機シミュレーションで得た値を使用し、定数ベクトルbは、測定で得た値を使用して、線形方程式の変数ベクトルxを解く。逆問題では、係数行列Aや定数ベクトルbに無視できない誤差があると、変数ベクトルxが意味のない解になる不良問題が生じる。
【0007】
係数行列Aを正確に記述するには現実の散乱現象を計算機上で正確に再現しなければならないが、現実の事象を完全にモデル化することは難しい。定数ベクトルbにも測定誤差がある。更に、逆問題では方程式(観測値)の数Mより未知数の数Nが多くなることが多く通常の方法ではこの問題を解くことができない。観測データの数を増やすことが望ましいが、似たような方程式をたててその数を増やしても解決しない。この場合、方程式を最小2乗問題に置き換え、未知数の範囲や関係など予備知識を利用して解く。即ち、逆問題を解く鍵は、観測データの精度及び多様性の確保と、観測データを計算機モデルに適応させる校正技術の確立、及び解の事前情報の活用とにある。「校正」とは、収集された測定データを、想定した数値モデルに変換する試みである。
【0008】
しかし、仮にアンテナの感度を高めて式(1)の線形方程式の右辺の定数ベクトルbの測定誤差を減らすことができたとしても、定数ベクトルbの誤差が0でなければ、逆問題を正確に説くことができない。定数ベクトルbの誤差の問題(電磁界解析精度)を解決するためには、アンテナや撮像対象のモデル化誤差の影響を補償する手法を確立することが有効である。「モデル化誤差」とは、撮像対象となる乳房や撮像センサを、例えば、小さな6面体の集合としてモデル化したことに起因して生じる誤差のことである。モデル化誤差の影響を補償する手法としては、基準オブジェクトによる校正法(非特許文献3参照。)や、事前情報に基づく初期分布設定(特許文献1及び4参照。)などが知られている。
【0009】
指向性が全方向であるダイポールアンテナに代えて、指向性が単方向である折り畳み疑似自己補対アンテナ(FQSCA)が知られている(非特許文献2参照。)。従来技術に係るFQSCAを備えた撮像センサ(以下において「従来の撮像センサ」という。)は、
図16に示すように、アンテナユニットB
1~B
36がL字型若しくはT字型に組み合わされたプリント基板によって立体的に構成され、略直方体の整合用誘電体ブロック2の表面に対して垂直に実装されている。
図16に示す構造では、整合用誘電体ブロック2の上側面に6個のアンテナユニットB
1~B
6が設けられている。又、整合用誘電体ブロック2の右側面に6個のアンテナユニットB
7~B
12が、下側面には6個のアンテナユニットB
13~B
18が、整合用誘電体ブロック2の左側面に6個のアンテナユニットB
19~B
24が設けられている。更に整合用誘電体ブロック2の上面には、12個のアンテナユニットB
25~B
36が設けられている。
【0010】
従来の撮像センサにおいては、乳房等の対象部位に近い電気定数を有する誘電体の材料からなる整合用誘電体ブロック2の下面側には凹部2xが掘り込まれている(
図16に破線の円で端部が示された、灰色の濃淡で表現された領域)。36個のFQSCAからなるアンテナユニットB
1~B
36は、整合用誘電体ブロック2の表面に取り付けられてアンテナアレイを構成している。FQSCAからなるアンテナユニットB
1~B
36は、それぞれの放射素子中を流れる電流の励振方向が互いに異なっている。凹部2xは、対象部位の全体を収容可能な大きさと形状を有している。
【0011】
図17Aに示すモデルにおいて、一例として癌Gを、
図17Bに示すように比誘電率εr=60、導電率σ=2[S/m]、容量12ccのオブジェクトとして表現する。
図7の紙面の下方に示されたプロット点のない実線は従来の撮像センサの感度(癌の有無による出力の変化)の周波数特性、プロット点のない破線は従来の撮像センサのモデル化誤差の周波数特性を示している。
図7によれば癌の有無による出力の変化は、モデル化誤差の2倍程度にとどまっており、感度の不足は明らかである。なお「モデル化誤差」は、乳房領域Fを
図17Aのようにボクセルで区切って脂肪で満たした場合とボクセルで区切らず電磁界シミュレーションソフトウェアの自動メッシュ生成機能を利用して解析した場合の各アンテナ出力の差の総ノルムである。なお、電磁界シミュレーションソフトウェアとしては、ダッソー・システムズ社のCST Studio Suites(米国登録商標)のソフトウェアが例示できる。更に従来の撮像センサでは、アンテナの電磁界がアンテナの外側に形成されるため、アンテナの周囲にある構造物や人体の影響も受け易くこの影響を正確に電磁界解析に盛り込むことは不可能である。即ち、従来の撮像センサでは、指向性やインピーダンスの計算機シミュレーションと実験結果とを完全に一致させることは難しく、未だ乳癌の診断等において十分な感度を得ることができないという課題がある。このようなことから、従来のFQSCAに代わる高感度アンテナを備えた新型の撮像センサの開発が待望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】C. D. レーマン(Lehman)他13名著、『ハイリスク女性におけるマンモグラフィー、MR、および US の癌検出率(Cancer yield of mammography, MR, and US in high risk women)』、放射線医学(Radiology)、第224巻、第2号、p.381~388、2007年
【非特許文献2】桑原義彦他1名著、『マイクロ波イメージングにおけるFQSCAの有効性(Effectiveness of FQSCA to Microwave Imaging,)』、EUCAP(European Conference on Antennas and Propagation)のプロシーディングス、2020年
【非特許文献3】C.ジルモア(Gilmore) 他5名著、『マニトバ大学(The University of Manitoba) マイクロ波撮像レポシトリ(Microwave Imaging Repository): 反転及び校正アルゴリズムをテストするための二次元マイクロ波散乱データベース(A Two-Dimensional Microwave Scattering Database for Testing Inversion and Calibration Algorithms)』、米国電気電子学会 アンテナ・伝播マガジン(IEEE Antennas and Propagation Magazine), 第53巻、第5号、2011年10月、p.126頁~133
【非特許文献4】小野佑樹他1名著、『レーダ撮像によってアシストされたマイクロ波トモグラフィ(Microwave Tomography Assisted by Radar Imaging)』、第47回欧州マイクロ波会議のプロシーディングス(Proceedings of the 47th European conference)、ドイツ ニュルンベルク 2017年10月10日~12日、p.880~883
【非特許文献5】桑原著、『乳癌検出のためのマイクロ波トモグラフィにおける多偏波の使用について』、電子情報通信学会論文誌、 Vol.J99-C、 p.393~401、 2016年
【非特許文献6】桑原著、『乳がん検査のためのマイクロ波トモグラフィにおける予備知識の活用について』、電子情報通信学会論文誌、 J102-C(4), pp.86-92、 2018年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の課題を解決するため、本発明は、式(1)の線形方程式の定数ベクトルbを精度よく求めることができ、更に係数行列Aや定数ベクトルbに誤差があり、悪条件問題であっても正確に解を求めることができる診断装置、画像再構成処理の実行方法及び診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、(a)所定の比誘電率を有する誘電体がそれぞれの内部に装荷され、対象部位を囲むアンテナアレイを構成するように配列された複数の複偏波ホーンアンテナと、(b)アンテナアレイにより対象部位の全体にマイクロ波を送信し、対象部位を透過したマイクロ波をアンテナアレイで受信させる制御をする制御手段と、(c) マイクロ波を用いて、対象部位の一部に対象部位とは電気定数の異なる強散乱領域を特定し、この強散乱領域のプロファイルから初期分布を設定し、且つパラメータ推定散乱体を特定し、パラメータ推定散乱体に近い形状と電気的性質を持つ基準オブジェクトにより測定データの校正をし、前記初期分布と校正された測定データを用い3次元画像を再構成する画像処理ユニットを備える診断装置であることを要旨とする。例えば、本発明の第1の態様に係る診断装置が乳癌組織の診断装置の場合であれば、乳腺領域が「パラメータ推定散乱体」に対応する。
【0016】
本発明の第2の態様は、所定の比誘電率を有する誘電体がそれぞれの内部に装荷され、対象部位を囲むアンテナアレイを構成するように配列された複数の複偏波ホーンアンテナを備えた診断装置による画像再構成処理の実行方法に関する。即ち、第2の態様に係る画像再構成処理の実行方法は、(a) アンテナアレイによる測定結果を用いて、対象部位の一部に対象部位とは電気定数の異なる強散乱領域を特定するステップと、(b)この強散乱領域のプロファイルから初期分布を設定するステップと、(c) パラメータ推定散乱体を特定し、パラメータ推定散乱体に近い形状と電気的性質を持つ基準オブジェクトにより測定データの校正をするステップと、(d)初期分布と校正された測定データを用い3次元画像を再構成するステップを含むことを特徴とする画像再構成処理の実行方法であることを要旨とする。
【0017】
本発明の第3の態様は、所定の比誘電率を有する誘電体がそれぞれの内部に装荷され、対象部位を囲むアンテナアレイを構成するように配列された複数の複偏波ホーンアンテナを備えた診断装置を駆動するコンピュータシステムのための診断プログラムに関する。第3の態様に係る診断プログラムは、(a)アンテナアレイによる測定結果を用いて、対象部位の一部に対象部位とは電気定数の異なる強散乱領域を特定させる命令と、(b)この強散乱領域のプロファイルから初期分布を設定させる命令と、(c) パラメータ推定散乱体を特定させ、パラメータ推定散乱体に近い形状と電気的性質を持つ基準オブジェクトにより測定データの校正をさせる命令と、(d)初期分布と校正された測定データを用い3次元画像を再構成する命令を含む一連の命令によりコンピュータシステムを動作させる診断プログラムであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、定数ベクトルbを精度よく求めることができ、係数行列Aや定数ベクトルbに誤差があり、悪条件問題であっても正確に解を求めることができる診断装置、画像再構成処理の実行方法及び診断プログラムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る診断装置の主要部を模式的に説明するブロック図である。
【
図2】
図1の診断装置の一部となる画像処理ユニットの論理的な構成を示す図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る診断装置に用いる誘電体装荷複偏波ホーンアンテナの構造の一例を、模式的に説明する鳥瞰図である。
【
図4A】本発明の第1実施形態に係る撮像センサに配列された、複数のアンテナユニットの例を模式的に示す鳥瞰図である。
【
図4B】本発明の第1実施形態に係る撮像装置の全体像を示す模式的な鳥瞰図である。
【
図4C】
図4Dに示す第1実施形態に係る撮像センサの断面構造に対応する切断面Cを説明する鳥瞰図である。
【
図4D】第1実施形態に係る撮像センサの断面構造を、整合用誘電体ブロックと凹部内に収納された乳房(対象部位)との関係に着目して模式的に示す概略図である。
【
図5A】第1実施形態の変形例に係る撮像センサを模式的に示す鳥瞰図である。
【
図5B】
図5Cに示す第1実施形態に係る撮像センサの断面構造に対応する切断面Cを説明する鳥瞰図である。
【
図5C】第1実施形態の第1の変形例に係る撮像センサの断面構造を、整合用誘電体ブロックと凹部内に収納された乳房(対象部位)との関係に着目して模式的に示す概略図である。
【
図6】第1実施形態の第2の変形例に係る撮像センサの断面構造を、整合用誘電体ブロックと凹部内に収納された乳房(対象部位)との関係に着目して模式的に示す概略図である。
【
図7】第1実施形態に係る複偏波ホーンアンテナ(実施例)の感度とモデル化誤差のそれぞれの周波数特性を、従来技術に係るFQSCAと比較して示すグラフである。
【
図8】本発明の第1実施形態に係るトモグラフィ処理を説明するために、半楕円球で乳腺状をモデル化した領域の、長軸に沿った高さ(半径)、長軸に直交する第1短軸に沿った半径、長軸と第1短軸にそれぞれ直交する第2短軸に沿った半径, 第1短軸に対する傾斜等を説明する模式図である。
【
図9】第1実施形態に係る画像再構成処理の実行方法、及び対応する診断プログラムの命令の流れを説明するフローチャートである。
【
図10】
図10(a)は、超分解技術を用いたマイクロ波の伝搬遅延時間推定を行うときの送信波(パルス)の例を示す波形図であり、
図10(b)は、
図10(a)の送信波による受信応答を示す波形図であり、
図10(c)は、MUSICスペクトラムによる主到来波の検出によりマイクロ波の伝搬遅延時間推定を行う様子を示す波形図である。
【
図11】3次元のアンテナ配列を2次元の配置に模式化して、送信/受信となる、対角線に沿って対向する各アンテナのセット(アンテナ対)を示し、複数のアンテナ対のそれぞれの受信応答のうち、主到来波に相当する応答が得られるアンテナ対の伝搬遅延時間から比誘電率ε
rを推定するシミュレーションモデルを示す図である。
【
図12】
図11に示した送信/受信対を構成するように対向するアンテナ対の受信応答のうち、破線は最も伝搬遅延時間が短い最短遅延時間到来波のアンテナ対から比誘電率ε
rを推定した場合を示し、実線は伝搬遅延時間が長い主到来波の伝搬遅延時間のアンテナ対から比誘電率ε
rを推定した場合を示す図である。
【
図13】基準オブジェクトによる校正法とハイブリッド撮像法を組み合わせた第1実施形態に係るトモグラフィ処理の手法(撮像アルゴリズム)を検証する際に使用したファントム(乳房模型)を示す図である。
【
図14】第1実施形態に係るトモグラフィ処理による、
図13のファントムの再構成画像を示す図である。
【
図15】
図15(a)は第1実施形態に係るトモグラフィ処理を用いて乳房ファントムを再構成する際の元画像を示し、
図15(b)は癌(異常オブジェクト)の位置を指定する画像を示し、
図15(c)は
図9のアルゴリズムを適用した再構成画像を示し、
図15(d)は校正を行わなかったときの再構成画像を示す図である。
【
図16】従来技術に係るFQSCA撮像センサの構造を模式的に示す鳥瞰図である。
【
図17A】
図16の整合用誘電体ブロックの凹部(窪み)に収納される乳房を一辺が4mmの6面体の集合(ボクセル群)としてモデル化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0021】
又、以下に示す第1実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、対象部位が人間の乳房である場合について説明するが、対象部位は頭部等他の部位でも構わない。又、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでなく、例えば、整合用誘電体ブロックや電波吸収体層は直方体に限定されるものではなく、6角柱や8角柱等他の多面体構造でも構わない。ただし解析の容易性を考慮すると直交系の面を有する場合の方が好ましい。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項の発明特定事項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0022】
(第1実施形態に係る診断装置)
本発明の第1実施形態に係る診断装置は、
図1に示すように、複数N個のアンテナユニットA
1~A
16が、乳房等の対象部位6を囲む整合用誘電体ブロック2の外壁に配列されている。整合用誘電体ブロック2の外壁は、電波吸収体層1で覆われている。アンテナユニットA
1~A
16のそれぞれの放射開口は、整合用誘電体ブロック2の外壁に接するように取り付けられ、電波吸収体層1はアンテナユニットA
1~A
16の放射開口以外の部位を被覆している。整合用誘電体ブロック2の中央には凹部が設けられ、この凹部の内壁に対象部位6の表面が密着している。整合用誘電体ブロック2は、対象部位6の電気定数に近い物理的特性を有する誘電体材料で構成されている。ここで「対象部位の電気定数に近い物理的特性」とは、例えば、比誘電率ε
rについては、対象部位6の比誘電率ε
rの±20%の範囲に入る程度の値を意味する。
【0023】
図1では、断面図の表現として外壁が円筒状の整合用誘電体ブロック2にアンテナユニットA
1~A
16が、放射開口を整合用誘電体ブロック2の外壁に接するように取り付けられた構造を示しているが整合用誘電体ブロック2の形状は例示に過ぎない。整合用誘電体ブロック2は直方体等他の立体形状でも構わない。例えば、整合用誘電体ブロック2が直方体等他の立体形状をなす場合は、アンテナユニットA
1~A
16は、整合用誘電体ブロックの互いに直交する4つの側壁面に3次元配列されたトポロジが例示できる。又、
図1ではN=16の場合を例示するが、Nは2以上の正の整数であれば、N=16に限定されるものではない。更に、
図1に例示するように、第1実施形態に係る診断装置には、送信手段11と受信手段12が共焦点ビームフォーミング系を構成するように備えられている。送信手段11は、アンテナユニットA
1~A
16を逐次選択して複数の周波数のマイクロ波(電気信号)を送信する。受信手段12は、複数のアンテナユニットA
1~A
16を逐次選択して複数の周波数のマイクロ波(電気信号)を受信する。
【0024】
即ち、整合用誘電体ブロックが対象部位6の表面に密着した状態において、送信手段11及び受信手段12は、撮像領域に設定した焦点に対して共焦点ビームフォーミング系を構成するように複数のアンテナユニットA1~A16を駆動する。送信手段11は、複数のアンテナユニットA1~A16のそれぞれからの複数の周波数のマイクロ波(電気信号)を出射させ、整合用誘電体ブロック2を透過させ、更に対象部位6を透過させる。受信手段12は、複数のアンテナユニットA1~A16を選択し、対象部位6を透過又は対象部位6から散乱された、複数の周波数のマイクロ波を受信する。
【0025】
又、第1実施形態に係る診断装置は、複数のアンテナユニットA
1~A
16に接続された電子スイッチ(切替手段)25を有している。電子スイッチ25は、送信手段11から複数のアンテナユニットA
1~A
16への電気信号の接続、複数のアンテナユニットA
1~A
16から受信手段12への電気信号の接続を切り替える。受信手段12には画像処理ユニット13が接続されている。画像処理ユニット13は、
図2に示すような論理的なハードウェア資源の構成をなしている。第1実施形態に係る診断装置の画像処理ユニット13は、基準オブジェクトによる校正と共焦点イメージングと散乱トモグラフィを組み合わせた新たな撮像アルゴリズム(ハイブリッド撮像)を実行する。即ち、画像処理ユニット13は、複数のアンテナユニットA
1~A
16が出射するマイクロ波を用いた測定結果に対し、共焦点イメージング方式による処理を行い、対象部位6の一部に対象部位6とは電気定数の異なる強散乱領域を特定し、この強散乱領域のプロファイルから初期分布を設定する。更に、乳腺領域等のパラメータ推定散乱体を特定し、パラメータ推定散乱体に近い形状と電気的性質を持つ基準オブジェクトにより測定データの校正をし、共焦点イメージング方式により得られた初期分布と校正された測定データを用い3次元画像を再構成する。この新たな撮像アルゴリズムを実現するに当たって、本発明者らは、事前情報として、既に、乳房組織(脂肪、乳腺、癌)の比誘電率ε
rと導電率σのデータを160例以上、データベースに蓄積している。
【0026】
例えば、パラメータ推定散乱体が乳腺であり、乳腺形状を基準オブジェクトとする場合、画像処理ユニット13は、代表的な乳腺形状を持つ基準オブジェクトを用いてアンテナユニットA1~A16により得られた画像を校正するコンピュータ処理を実行可能である。更に、画像処理ユニット13は、アンテナユニットA1~A16により得られた応答に基づき対象部位中に強散乱領域を特定し、この強散乱領域内部に電気定数の異常な異常オブジェクトの像を再構成する共焦点イメージングのコンピュータ処理を実行可能である。共焦点イメージングに必要な撮像領域の平均誘電率電気定数の推定を行うコンピュータ処理を実行するためには、送信手段11と受信手段12を駆動・制御して、互いに対向して複数用意されたアンテナ対がそれぞれ受信したマイクロ波のうち、電気信号の振幅が最も大きい主到来波を検出する。
【0027】
そして、オブジェクトのない遅延時間の短い最短遅延時間到来波から得られる応答と比較することにより、オブジェクトの挿入による伝搬遅延からアンテナ対間の比誘電率を特定する。各アンテナ対で得られた比誘電率を平均して共焦点イメージングに必要な領域内の平均誘電率を決定する。なお、「アンテナ対」とは、互いに対向し、一方が送信アンテナとして機能する場合は、他方が受信アンテナとして機能する、可逆性のある送信/受信対をいう。そして、決定された平均誘電率を用いて共焦点イメージング方式の処理を行い、異常オブジェクトによる強散乱領域を推定する。
【0028】
図1に示すように、送信手段11、受信手段12、及び画像処理ユニット13の動作を制御するプロセッサ等の制御手段19が接続されている。画像処理ユニット13には、事前に収集された校正係数等の画像処理ユニット13における演算に必要なデータ、及び画像処理ユニット13の演算の途中に必要となる中間データ、更には画像処理ユニット13の演算結果を格納するデータ記憶装置14が接続されている。第1実施形態に係る診断装置が乳癌の診断装置とする場合で説明すると、乳腺の形は様々なので、代表的な乳腺の形を設定してあらかじめ校正係数を求めておく。データ記憶装置14には様々な乳腺形状に対応した校正係数が記憶される。画像処理ユニット13には、更に画像処理ユニット13における演算の手順を命令するプログラムを格納するプログラム記憶装置15、及び像処理ユニット13の演算結果を表示する表示ユニット16が接続されている。
【0029】
制御手段19は、撮像領域に順次マイクロ波の送信/受信を行うように、送信手段11及び受信手段12を一括に制御する。
図1の右下に示したデータ記憶装置14は、代表的な乳腺の形に対応した校正係数の情報を格納している。又、画像処理ユニット13は、
図2に示すように、データ読出回路131、差分計算回路132、電気定数初期化回路133、誘電率分布計算回路134、基準オブジェクトパラメータ計算回路135、測定データ更新回路136、ノルム判定回路137、逆問題解析回路138及び表示命令回路139を、論理的な構造として有している。
【0030】
データ読出回路131は、データ記憶装置14から必要な校正係数の情報を読み出す。差分計算回路132は、特定の周波数において、仮定した対象部位6の比誘電率εrと導電率σの分布に基づく散乱パラメータと測定値の差を計算する。誘電率分布計算回路134は、特定の周波数において対象部位6の誘電率分布の計算をする。具体的には、アンテナユニットA1~A16で取得した測定データに対し、超分解技術を用いた伝搬遅延時間推定に基づき、対象部位6の誘電率の分布を計算する。
【0031】
「超分解技術」とは、通常、波長で決定される電磁波システムの分解能について、その波長による分解能の制約を取り除くことができる技術のことである。多重信号分離(MUSIC)法や回転不変法信号パラメータ推定(ESPRIT)法は、超分解技術として知られている。超分解技術を用いれば、例えば、10GHzの帯域での時間分解能0.1nsに対し、これを0.01nsの分解能に向上させることができる。即ち、超分解法により分解能はフーリエ変換等従来法に比較し1/10以下となる。
【0032】
電気定数初期化回路133は、トモグラフィ処理の包括的対象となる対象部位6の比誘電率εrと導電率σの分布の初期化をする。この初期化のために電気定数初期化回路133は、誘電率分布計算回路134の計算結果を用いて、共焦点イメージング方式の処理を実行する。共焦点イメージング方式の処理では、各アンテナユニットA1~A16で得られた応答をアンテナユニットA1~A16の放射中心と撮像領域に設定した焦点までの距離に基づく遅延時間Δtだけ応答をずらして全応答を加算する。電気定数初期化回路133は、共焦点イメージング方式の処理により、対象部位6の一部に対象部位6とは電気定数の異なる強散乱領域を特定し、この強散乱領域のプロファイルから、逆問題解析の初期分布を設定する。
【0033】
基準オブジェクトパラメータ計算回路135は、特定の周波数において散乱パラメータの計算をする。例えば、誘電率分布計算回路134の計算結果を用いて、乳腺(パラメータ推定散乱体)に近い形状と電気的性質を持つ基準オブジェクトのパラメータを推定する。測定データ更新回路136は、差分計算回路132と基準オブジェクトパラメータ計算回路135の計算結果から対象部位6の比誘電率εrと導電率σの分布の更新処理をする。特に、測定データ更新回路136は、基準オブジェクトに対し、データベース化した校正係数を用いて測定データの校正をする。ノルム判定回路137は、仮定した対象部位6の比誘電率εrと導電率σの分布に基づく散乱の計算値と測定値の差のノルムが小さいか否かを判定する。そして、逆問題解析回路138は、電気定数初期化回路133が設定した初期分布と測定データ更新回路136が校正した測定データを用い、マトリックス演算に依拠した逆問題の解析から、比誘電率εr及び導電率σの分布の画像を再構成する。そして、表示命令回路139は、得られた目的画像である3次元画像を表示させる。
【0034】
以上のように、第1実施形態に係る診断装置によれば、共焦点イメージング方式により、電気定数初期化回路133が乳房の強散乱領域(癌)の有無と強散乱領域の位置を、あらかじめ特定する。強散乱領域の位置を逆問題解析の初期分布とし、初期分布に対して、画像処理ユニット13の逆問題解析回路138が逆問題のマトリックス演算を解き、異常オブジェクトの3次元画像を再構成することができる。第1実施形態に係る診断装置においては、逆問題解析の初期分布をコンフォーカルイメージングで推定した強散乱領域を設定するハイブリッド撮像法を用いているので、測定結果と計算結果に多少の誤差があってもデータxの発散が起こらない。したがって、第1実施形態に係る診断装置によれば、データが収束することにより、高い精度で撮像エリアの複素誘電率(比誘電率εrと導電率σ)分布を断層像として求め、異常オブジェクトの3次元形状を再構成することができる。
【0035】
強散乱領域の位置を、逆問題解析の初期分布として設定するハイブリッド撮像法では、測定結果と計算結果に多少の誤差があっても異常オブジェクトの3次元形状を再構成することができる。しかし、その誤差が大きい場合にはハイブリッド撮像法のみでは画像の再構成を十分に行うことが不可能となる。第1実施形態に係る診断装置では、基準オブジェクトの校正係数をあらかじめデータ記憶装置14に記憶しておき、この校正係数を用いて測定データを校正できるという、新たな校正法を導入する。校正のプロセスは,収集された測定データを想定した数値モデルに変換する。
【0036】
第1実施形態に係る診断装置では、最初に、既知のオブジェクトである「基準オブジェクト」からの散乱データを測定し、次に、イメージングしたい「未知オブジェクト」の散乱データを測定する。被権者の乳房は脂肪組織、乳腺組織、癌組織(強散乱領域)から構成されるが、がんがない場合、散乱の多くは乳腺によるものである。したがって基準オブジェクトは、脂肪組織及び乳腺組織から構成する。そして、既知のオブジェクトを置いた時の散乱界を計算しておく。イメージングしたい未知オブジェクトの電磁界は、以下の式(3)によって表すことができる。
【0037】
既知の基準オブジェクトから測定された散乱界データを、S(a,b)
sct,knownと表記し、基準オブジェクトを置いたシミュレーションでの散乱界データを、u(known)
sctと表記し、イメージングしたい未知の未知オブジェクトの散乱パラメータを、S(a,b)
sct,unknownと表記する。このとき、イメージングしたい未知オブジェクトの校正された電磁界u(cal)
sctは、
【数2】
と、表すことができる。このプロセスを送信/受信対ごとに個別に繰り返し行うことで基準オブジェクトによる校正を行うことができる。尚、基準オブジェクトは、包括的な撮像対象となる未知オブジェクトの複素誘電率に近いものを選択して使用することが望ましい。
【0038】
第1実施形態に係る診断装置では、基準オブジェクトによる校正法とハイブリッド撮像法を組み合わせたアルゴリズムであるところに特徴がある。第1実施形態に係る診断装置のような基準オブジェクトによる校正法とハイブリッド撮像法を組み合わせたアルゴリズムについては、従来、何ら提案されていなかった。基準オブジェクトによる校正法とハイブリッド撮像法を組み合わせるアルゴリズムを実現するためには新たな撮像方式を提案しなければならないからである。例えば、非特許文献3,4及び特許文献1から得られる知見からは、基準オブジェクトによる校正法とハイブリッド撮像法を組み合わせるアルゴリズムに用いる撮像センサや撮像方式に想到することは困難である。新たな撮像アルゴリズムは従来のFQSCAなどにも有効であるが、これだけでは性能が不十分で新型アンテナが必要となる。
【0039】
第1実施形態に係る診断装置では、代表的な乳腺の形を設定した校正係数の情報をデータ記憶装置14に記憶してデータベースを構成しておく。そして、データ記憶装置14から読み出した校正係数の情報を用いて未知のオブジェクトの散乱界データを校正することができる。
【0040】
更に、
図1に例示したとおり、第1実施形態に係る診断装置は、マイクロ波の送信/受信対を構成するアンテナユニットA
1~A
16が備えられている。そして、アンテナユニットA
1~A
16のうちから選択された送信/受信対を用いて、強散乱領域の位置を逆問題解析の初期分布を決定する共焦点イメージングと、基準オブジェクトによる校正法を組み合わせている。第1実施形態に係る診断装置によれば、ハイブリッド撮像法と、基準オブジェクトによる校正法を組み合わせることにより、測定結果と計算結果の間に無視できない誤差があっても、高精度に異常オブジェクトの3次元形状を再構成することができる。
【0041】
図2に示すように、データ読出回路131、差分計算回路132、電気定数初期化回路133、誘電率分布計算回路134、基準オブジェクトパラメータ計算回路135、測定データ更新回路136、ノルム判定回路137、逆問題解析回路138及び表示命令回路139は、それぞれバス140を介して、情報を交換できるようになっている。又、バス140は、適宜インターフェイス回路を介して、
図1に示すデータ記憶装置14、プログラム記憶装置15及び表示ユニット16に接続されていてもよい。
【0042】
図2に例示したデータ読出回路131、差分計算回路132、電気定数初期化回路133、誘電率分布計算回路134、基準オブジェクトパラメータ計算回路135、測定データ更新回路136、ノルム判定回路137、逆問題解析回路138及び表示命令回路139は、コンピュータシステムを構成する画像処理ユニット13の論理的なハードウェア資源である。画像処理ユニット13には、マイクロチップとして実装されたマイクロプロセッサ(MPU)等を使用することが可能である。又、コンピュータシステムを構成する画像処理ユニット13として、算術演算機能を強化し信号処理に特化したデジタルシグナルプロセッサ(DSP)や、メモリや周辺回路を搭載し組込み機器制御を目的としたマイクロコントローラ(マイコン)等を用いてもよい。
【0043】
或いは、現在の汎用コンピュータのメインCPUを画像処理ユニット13に用い、データ読出回路131、差分計算回路132、電気定数初期化回路133、誘電率分布計算回路134、基準オブジェクトパラメータ計算回路135、測定データ更新回路136、ノルム判定回路137、逆問題解析回路138及び表示命令回路139を論理的なハードウェア資源として構成してもよい。更に、画像処理ユニット13を構成するデータ読出回路131、差分計算回路132、電気定数初期化回路133、誘電率分布計算回路134、基準オブジェクトパラメータ計算回路135、測定データ更新回路136、ノルム判定回路137、逆問題解析回路138及び表示命令回路139の一部の構成又はすべての構成をフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)のようなプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)で構成してもよい。
【0044】
データ記憶装置14は、複数のレジスタ、複数のキャッシュメモリ、主記憶装置、補助記憶装置を含む一群の内から適宜選択された任意の組み合わせとすることも可能である。又、キャッシュメモリは1次キャッシュメモリと2次キャッシュメモリの組み合わせとしてもよく、更に3次キャッシュメモリを備えるヒエラルキーを有しても構わない。又、PLDによって、画像処理ユニット13の一部又はすべてを構成した場合は、データ記憶装置14は、PLDを構成する論理ブロックの一部に含まれるメモリブロック等のメモリ要素として構成することができる。更に、画像処理ユニット13は、CPUコア風のアレイとPLD風のプログラム可能なコアを同じチップに搭載した構造でもよい。このCPUコア風のアレイは、あらかじめPLD内部に搭載されたハードマクロCPUと、PLDの論理ブロックを用いて構成したソフトマクロCPUを含む。つまり、PLDの内部においてソフトウェア処理とハードウェア処理を混在させた構成でもよい。
【0045】
図1に例示した16個のアンテナユニットA
1~A
16を備える構造では、送信手段11は、送信用の電流をアンテナユニットA
1~A
16のうちの1つのアンテナを選択して供給する16個の出力端子を備える。送信手段11に対応して受信手段12も16個のアンテナユニットA
1~A
16のそれぞれから信号を受信する16個の入力端子を備える。電子スイッチ25を構成する素子としては、電磁リレーのような高周波用スイッチが使用可能である。
【0046】
(複偏波ホーンアンテナ)
本発明の第1実施形態に係る診断装置に使用する高感度アンテナは、
図3に示すような円筒型のホーンの内部に誘電体材料を装荷媒体7として装荷した複偏波ホーンアンテナ(誘電体装荷複偏波ホーンアンテナ)であり、高感度化と観測データ数の多様性を両立させることができる。トモグラフィ処理では、乳房を構成する立方体に比誘電率ε
rと導電率σを割り当てるので、立方体の数の2倍が未知数の数になる。測定データの数はN素子アンテナを用いる場合、
NC
2となる。例えば、乳房の体積を150ccとし、4mmの分解能で画像を再構成する場合、立方体の数は2771個となり、未知数の数は5542となる。
【0047】
例えば2つの出力Ea,Ebを持つN=16素子アンテナで得られる測定データ(方程式)の数は32C2=496であるから、未知数の数が方程式の数より多くなり、一般の方法では解くことができない。このような問題は最小二乗法に予備知識(解の事前情報)を適用することにより解くことができるが、境界が不明瞭になる問題がある。また、方程式の係数や観測データに誤差があると、結果が大きく変わる(不良問題)。しかし、乳房組織の場合、比誘電率εrと導電率σには正の相関があるので、これを利用すれば、解を安定して求めることができる(非特許文献6)。
【0048】
不良問題を回避するに当たって、測定データは多様であることが条件となる。例えば、式(2a)、(2b)のように測定データにより得られる連立方程式を構成する方程式の係数が互いに類似していると、方程式をうまく解くことができないからである。
x+y=1, ……(2a)
1.1x+1.1y=1.1 ……(2b)
このため、不良問題を回避するには測定データを多様にする必要があるが、多数のアンテナを狭い領域に詰め込んでも多様な測定データを得ることはできない。似たような方程式が多数できるだけだからである。これに対しては、
図3に示すような複偏波ホーンアンテナにより、マイクロ波の偏波面を変えることにより、狭い領域でも多様な測定データが得られることになり、この問題を解決することができる。
【0049】
また、上記の
NC
2個の測定データ群がマイクロ波の送受信の有効な組み合わせ数となるのは、マイクロ波の送受信に可逆性があることに起因する。例えば、
図4Aにおいて2番目のアンテナA
2から送信して8番目のアンテナA
8で受信したデータと、8番目のアンテナA
8から送信して2番目のアンテナA
2で受信したデータとは同じになる。
【0050】
図4Aに一例を示す第1実施形態に係る診断装置を構成する撮像センサの対象部位を収納する整合用誘電体ブロック2は、包括的な撮像対象となる対象部位6の電気定数に近い物理的特性(電気定数)を有するアルミナ(Al
2O
3)等の誘電体材料で構成されている。
図3に示す円筒型のホーンの内部に装荷される誘電体材料からなる装荷媒体7は、
図4Aに示す整合用誘電体ブロック2と同様な、対象部位6の電気定数に近い物理的特性(電気定数)を有する。
【0051】
即ち、第1実施形態に係る診断装置を構成する撮像センサに用いる「誘電体装荷複偏波ホーンアンテナ」とは、複数の偏波面を有するマイクロ波を発生/検出できると共に、空気の比誘電率ε
r=1(≒真空の比誘電率ε
0)より大きな比誘電率ε
rを有する誘電体材料(誘電体)からなる装荷媒体7がホーンの内部を満たしたアンテナのことである。例えば、
図4Aに例示したような整合用誘電体ブロック2が対象部位6に近い電気定数(比誘電率ε
r)を有する誘電体材料であれば、装荷媒体7として整合用誘電体ブロック2と同一の比誘電率ε
rの装荷媒体7をホーンの内部を満たしたホーンアンテナが採用可能であるが、必ずしも整合用誘電体ブロック2と同一の比誘電率ε
rである必要はない。円筒状のホーンアンテナの開口の大きさは、マイクロ波の波長によって決定されるが、その開口に比誘電率ε
rの誘電体を装荷媒体7として挿入することでアンテナ内でのマイクロ波の波長が短縮される結果、アンテナを小型化することができる。例えば、5.8GHzで動作する直径4cm、長さ7.5cmの円筒形のホーンアンテナに比誘電率ε
r=9.4のアルミナを充填すると、その動作周波数は1.6GHzになる。インピーダンス整合の観点からは、装荷媒体7の比誘電率ε
rは、整合用誘電体ブロック2と同一若しくは整合用誘電体ブロック2の比誘電率ε
rに近い比誘電率ε
rの誘電体材料が好ましい。
【0052】
図3に示すように、第1実施形態に係る複偏波ホーンアンテナは、円形導波管と同様な金属製の円筒に、第1放射素子Ea及び第2放射素子Ebを、90°だけ傾けて2箇所に設置している。そして、これらの第1放射素子Ea及び第2放射素子EbのそれぞれにSMAコネクタを接続している。
図3に示すように、第1放射素子Ea及び第2放射素子Ebを90°だけ傾けて配置することで、利得が高く、かつアンテナ開口以外に電磁界の漏れがない特徴を有する「直交複偏波アンテナ」として動作させることができる。
図4Aでは、N=16個の小型化された複偏波ホーンアンテナA
1~A
16が配列された構造を例示している。
図3のA
iの添え字の「i」は、
図4Aに示した16個のアンテナユニットA
1~A
16の添え字の1~16のうちの1つを示す。
【0053】
円筒型の複偏波ホーンアンテナを用いて人体の内部組織の3次元センシングを行なおうとすると、高い周波数の電磁波の使用では、分解能を高くする反面、減衰量を大きくしてしまうため、トモグラフィ処理の包括的対象となる対象部位6の深部にあるオブジェクトの応答の検出が難しくなる。乳房イメージングのマイクロ波トモグラフィの場合、分解能と減衰量とのトレードオフの改善を図るため、1GHzから2GHzの周波数の電磁波が用いられる。しかし、1~2GHzの周波数帯域での複偏波ホーンアンテナの開口長は、10cm程度であるから、アンテナサイズが大きくなり、結果として、多数のアンテナをアレイとして配列する撮像センサを構成できない。
【0054】
そこで、第1実施形態に係る診断装置では、複偏波ホーンアンテナを小型化するために、各複偏波ホーンアンテナAiの内部に整合用誘電体ブロック2と同じ誘電率を有する誘電体材料からなる装荷媒体7を充填し、複偏波ホーンアンテナの開口長を短くする。例えば、動作周波数5GHzとしたとき、内径39mm、長さ71mmの金属製の円筒型の複偏波ホーンアンテナに、比誘電率εr=9.4、誘電正接0.004(10MHz)のアルミナを充填すると、撮像センサは、1.6GHz程度で動作し、1~2GHzの周波数帯域での複偏波ホーンアンテナの開口長が1/3程度に小型化できる。装荷媒体7の比誘電率εrは、ホーンアンテナの開口長を小型化する効果をより有効に奏するためには、空気の比誘電率εr=1より大きいほど好ましい。即ち、装荷媒体7の比誘電率εrは、例えば4以上が小型化には好ましく、より好ましくは9以上である。したがって、装荷媒体7としては上述したアルミナの他、比誘電率εr=3.8~4のシリコン酸化膜(SiO2膜)やεr=6であるストロンチウム酸化物(SrO)膜、εr=7であるシリコン窒化物(Si3N4)膜等が、ホーンアンテナの開口長を小型化するために採用可能である。
【0055】
更に、装荷媒体7として用いる誘電体としては、εr=10であるマグネシウム酸化物(MgO)膜、εr=16~17であるイットリウム酸化物(Y2O3)膜、εr=22~23であるハフニウム酸化物(HfO2)膜、εr=22~23であるジルコニウム酸化物(ZrO2)膜、εr=25~27であるタンタル酸化物(Ta2O5)膜、εr=40であるビスマス酸化物(Bi2O3)膜等も採用可能である。又、ハフニウム・アルミネート(HfAlO)のような3元系の化合物を装荷媒体7として使用しても良い。即ち、ストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ビスマス(Bi)のいずれか1つの元素を少なくとも含む酸化物、又はこれらの元素を含むシリコン窒化物が装荷媒体7として使用可能である。なお、強誘電体のチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、バリウム・チタン酸ストロンチウム(BaSrTiO3)等も、ホーンアンテナの開口長を小型化するため目的として使用可能であるが、整合用誘電体ブロック2とのインピーダンス整合の観点からは、整合用誘電体ブロック2の比誘電率εrに近い誘電体材料の方が好ましい。
【0056】
第1実施形態に係る誘電体装荷複偏波ホーンアンテナは指向性が高く、開口部位以外は金属で覆われ遮蔽されている。このため、従来のFQSCA等を用いた撮像センサでアンテナの電磁界がアンテナの外側に形成されるため、アンテナの周囲にある構造物や人体の影響も受け易いという課題も解決される。よって、第1実施形態に係る誘電体装荷複偏波ホーンアンテナによれば、撮像領域のボクセル群に設定した複素誘電率の変化による観測電界の変化を効率よく捉えることのできる高感度アンテナを提供できる。
【0057】
(第1実施形態に係る撮像センサ)
第1実施形態に係る診断装置を構成する撮像センサは、例えば、
図4Aに一例を示すように、略直方体の整合用誘電体ブロック2と、整合用誘電体ブロック2の外壁に実装された、誘電体装荷構造で小型化された複偏波ホーンアンテナA
1~A
16と、整合用誘電体ブロック2の下面(対象部位収納面)側から上面に向かって設けられた凹部2xを備えている。
図4Aに隠れ線(破線)で示した凹部2xには、
図4Dに示すように、包括的な撮像対象となる対象部位6が収納される。
図4Cは、
図4Bに示した第1実施形態に係る撮像センサを、略直方体をなす整合用誘電体ブロック2の一つの側壁面に平行な面が、中央に設けた貫通孔3を横切る切断面Cにより切断した状態を示している。
図4Cの切断面Cにより切断した断面図が
図4Dである。
【0058】
整合用誘電体ブロック2は、包括的な撮像対象となる対象部位6の電気定数に近い物理的特性(電気定数)を有するアルミナ等の誘電体材料で構成され、対象部位6とのインピーダンス整合を実現することにより、電磁波が効率よく対象部位6内に進入するようになる。本発明の第1実施形態に係る診断装置に用いる撮像センサ(撮像装置)は、
図4Aに示すように、整合用誘電体ブロック2は、4つの側壁面と4つの側壁面に連続する矩形の上面を有する。第1実施形態に係る撮像センサは、整合用誘電体ブロック2の合計5面の外壁面にN=16個の複偏波ホーンアンテナA
1~A
16を配列してアンテナアレイを構成している。
【0059】
図4Dでは、
図4Cに示した切断面Cに位置する複偏波ホーンアンテナA
2及び複偏波ホーンアンテナA
8の断面構造を例示しているが、他の複偏波ホーンアンテナA
1,A
3~A
7及びA
9~A
16に付いても同様である。即ち、16個の複偏波ホーンアンテナA
1~A
16のそれぞれは、金属製の円筒の内部に、整合用誘電体ブロック2と同じ誘電率を有する誘電体材料からなる装荷媒体7が満たされている。整合用誘電体ブロック2は、例えば、135mm×135mm×55mm程度の略直方体である。例えば、人間の乳房を対象部位6とする場合は、アルミナ等の乳房の脂肪組織の比誘電率ε
rに近い誘電体で構成して、乳房の脂肪組織とのインピーダンス整合を実現する。
図4Dに示すように整合用誘電体ブロック2には対象部位6の全体を収容可能な大きさと形状に合わせた凹部2xが設けられている。
【0060】
図4Dに示す断面構造から分かるように、凹部2xは略直方体の整合用誘電体ブロック2の下面(対象部位収納面)から上面に向かって掘り込まれている。トモグラフィ処理の包括的対象となる対象部位6を乳房とする場合は、凹部2xは、半径4.8cm程度の半球状のくぼみに設計できる。
図4B及び
図4Dに示すように、整合用誘電体ブロック2は、その一部に真空吸引用の貫通孔3を有する。第1実施形態に係る撮像センサは、
図4Bに示すように、貫通孔3に一方の端部が連結されたチューブ状の排気管4が備えられ、排気管4の他方に連結されたアスピレータや真空ポンプ等の減圧装置5によって、凹部2xの内部を減圧できる固定吸引型の撮像センサを構成している。減圧装置5により凹部2xの空気を引き抜くことで、対象部位6の表面(例えば、乳房の皮膚面)を整合用誘電体ブロック2の凹部2xの内壁に密着させることができる。対象部位6の表面を凹部2xの内壁に密着させることにより、整合用誘電体ブロック2が対象部位6とのインピーダンス整合が容易になり、電磁波が効率よく対象部位6の内部に侵入する。第1実施形態に係る診断装置は、例えば、対象部位6と撮像センサを収める撮像台を備え、撮像センサの上下、左右の位置を、自動で移動し設定できるような構成が例示できる。
【0061】
図4Aでは、略直方体のブロックである整合用誘電体ブロック2の上側面の外壁面に3個の複偏波ホーンアンテナA
1~A
3が、整合用誘電体ブロック2に密着した対象部位6に向かって電磁波を照射する配向で固定され、撮像センサを構成している。
図4Bでは、
図4Aとは視点が変更され、整合用誘電体ブロック2の右側面の外壁面に3個の複偏波ホーンアンテナA
1~A
3が配列されている。
図4Aの視点で説明すると、整合用誘電体ブロック2の右側面の外壁面に3個の複偏波ホーンアンテナA
4~A
6が、整合用誘電体ブロック2に密着した対象部位6に向かって電磁波を照射するように設けられ、下側面の外壁面に3個の複偏波ホーンアンテナA
7~A
9が、整合用誘電体ブロック2に密着した対象部位6に向かって電磁波を照射する配向で固定され、左側面の外壁面に3個の複偏波ホーンアンテナA
10~A
12が、整合用誘電体ブロック2に密着した対象部位6に向かって電磁波を照射する配向で固定されて撮像センサを構成している。
【0062】
更に、
図4Aに示すように、略直方体のブロックである整合用誘電体ブロック2の上面をなす外壁面に4個の複偏波ホーンアンテナA
13~A
16が、整合用誘電体ブロック2に密着した対象部位6に向かって電磁波を照射する配向で固定されて撮像センサを構成できる。16個の複偏波ホーンアンテナA
1~A
16は、
図3で説明したとおり、それぞれの第1放射素子Ea及び第2放射素子Eb中を流れる電流の励振方向が互いに異なっている。
【0063】
図4Bでは、便宜上、第1側壁面及び第3側壁面の法線方向をX軸方向とし、第2壁面及び第4側壁面の法線方向をY軸方向とし、上面の法線方向をZ軸方向と、便宜上デカルト座標(3次元直交座標系)を定義する。
図4Bに示す3次元直交座標系の定義において、第1側壁面の外壁には、3個の誘電体材料が装荷媒体7として内部に装荷された複偏波ホーンアンテナA
1~A
3を、長手方向をY方向として、X方向に並べて配置する。複偏波ホーンアンテナA
1~A
3のそれぞれは、例えば、送受信する電磁波の偏波面の方向がX軸方向である放射素子EaとZ方向である放射素子Ebが装着されている。同様に、第3側壁面の外壁にも、3個の誘電体材料が装荷媒体7として内部に装荷された複偏波ホーンアンテナA
7~A
9が、長手方向をY方向として、X方向に並べて配置される。複偏波ホーンアンテナA
7~A
9のそれぞれは、例えば、送受信する電磁波の偏波面の方向がX軸方向である放射素子EaとZ方向である放射素子Ebが装着されている。
【0064】
又、第2壁面の外壁には、3個の誘電体材料が装荷媒体7として内部に装荷された複偏波ホーンアンテナA4~A6を、長手方向をX方向として、Y方向に並べて配置される。複偏波ホーンアンテナA4~A6のそれぞれは、例えば、送受信する電磁波の偏波面の方向がY軸方向である放射素子EaとZ方向である放射素子Ebとが装着されている。同様に、第4側壁面の外壁にも、3個の誘電体材料が装荷媒体7として内部に装荷された複偏波ホーンアンテナA10~A12が、長手方向をX方向として、Y方向に並べて配置される。複偏波ホーンアンテナA10~A12のそれぞれは、例えば、送受信する電磁波の偏波面の方向がY軸方向である放射素子EaとZ方向である放射素子Ebが装着されている。
【0065】
更に、整合用誘電体ブロック2の上面の外壁には、4個の誘電体材料が装荷媒体7として内部に装荷された複偏波ホーンアンテナA13~A16が、長手方向をZ方向として、貫通孔3を中心としてXY方向にアレイ状に配置されている。複偏波ホーンアンテナA13~A16のそれぞれは、例えば、送受信する電磁波の偏波面の方向がX軸方向である放射素子EaとY方向である放射素子Ebが装着されている。第1側壁面、第2側壁面、第3側壁面、第4側壁面及び天井面の合計では、(3×4)+4=16個の誘電体材料が装荷媒体7として内部に装荷された複偏波ホーンアンテナA1~A16が配置され、アンテナアレイを構成することになる。
【0066】
16個の複偏波ホーンアンテナA1~A16を使った第1実施形態に係る撮像センサでは、逆問題のマトリックス演算を解く方程式の数が32C2=496通りとなる。複偏波を生成し逆問題のマトリックス演算における条件数が減少するので、結果として、マイクロ波トモグラフィの精度を向上させることが可能である(非特許文献5参照。)。誘電体材料を内部に装荷しているため、第1実施形態に係る複偏波ホーンアンテナは、開口面積を相対的に大きくできる。
【0067】
このため、第1実施形態に係る複偏波ホーンアンテナは、従来の撮像センサよりも感度が高い。
図7の紙面の上部に示された、「実施例感度」と表記されたプロット点を接続する実線が、第1実施形態に係る複偏波ホーンアンテナの感度の周波数依存性を示す特性である。
図7から、第1実施形態に係る複偏波ホーンアンテナの感度の特性は、プロット点のない実線で示した従来の撮像センサの感度の特性よりも約6倍高いことが分かる。即ち、第1実施形態に係る複偏波ホーンアンテナは、従来の撮像センサに比較して利得が高く、癌組織の再構成を正確に行うことができる。
【0068】
撮像センサや乳房を、例えば、小さな6面体の集合としてモデル化した場合、6面体の大きさを小さくすれば、解析精度は向上する反面、計算量が非現実的に増加する。また、材料の比誘電率εrや導電率はおおむね既知であるが、真に正確な値を知ることはできない。これらのことから現実の事象を計算機上で正確に再現することが困難であるので、モデル化誤差が発生する。
【0069】
図7のプロット点を接続する破線は、乳房領域を脂肪で満たし、乳房のボクセル群を設定したときとしないとき、すべてのアンテナの送受信の組み合わせで計算した散乱パラメータ群の差のノルム、即ちモデル化誤差の周波数特性を示している。又、
図7のプロット点のない実線は、従来の撮像センサの場合における
図17Bのオブジェクトの有無による受信応答群の差のノルムの周波数特性を示している。周波数にも依存するが、第1実施形態に係る複偏波ホーンアンテナを用いたときのモデル化誤差は、従来の撮像センサのモデル化誤差と同等になっている。第1実施形態に係る複偏波ホーンアンテナを用いたときのオブジェクトの設置による変化(感度)は、従来の撮像センサを用いたときのオブジェクトの設置による変化(感度)の約6倍となる。一方で、計算機シミュレーション誤差は、従来アンテナと第1実施形態に係るアンテナとでほとんど変わらないので、マイクロ波トモグラフィのアンテナとしては、第1実施形態に係るアンテナのほうが従来アンテナよりも望ましい性能を持つということになる。
【0070】
従来のFQSCA等を用いた撮像センサでアンテナの電磁界がアンテナの外側に形成されるため、アンテナの周囲にある構造物や人体の影響も受け易いという課題があった。第1実施形態に係る撮像センサは、指向性の高い誘電体装荷複偏波ホーンアンテナを用いているので、アンテナの電磁界がアンテナの外側に形成されことが少なく、アンテナの周囲にある構造物や人体の影響も受け憎くなる。よって、よって、第1実施形態に係る撮像センサによれば、正確な測定を行うことが可能になり、癌組織の再構成等も正確に行うことができる。
【0071】
(第1実施形態の第1変形例に係る撮像センサ)
図4Aや
図4Bに例示した構造において、複偏波ホーンアンテナA
1~A
16のそれぞれの隙間に電波吸収体を挿入し、マイクロ波の伝搬の外部からの影響を抑制するようにしてもよい。即ち、本発明の第1実施形態の第1変形例に係る撮像センサとして、例えば、
図5Aに一例を示すように、整合用誘電体ブロック2と、整合用誘電体ブロック2に実装された、誘電体装荷構造で小型化された複偏波ホーンアンテナA
1~A
16と、複偏波ホーンアンテナA
1~A
16のそれぞれの間を埋めるように整合用誘電体ブロック2を被覆する電波吸収体層1を備える構造が例示できる。
【0072】
図5Aでは複偏波ホーンアンテナA
1~A
16の頭部が露出した構造が示されているが、複偏波ホーンアンテナA
1~A
16の位置を明示するための、便宜上の例示に過ぎない。マイクロ波の外部からの影響を効率良く抑制するためには、それぞれの複偏波ホーンアンテナA
1~A
16の全体が電波吸収体層1に埋め込まれた構造が好ましい。電磁波(マイクロ波)を吸収する電波吸収体層1の材料としては、例えばカーボン粉等をゴム、発泡ウレタン、発泡ポリスチロールなどの誘電体に混合して見かけ上の誘電損失を大きくした誘電性電波吸収材料が採用可能である。
【0073】
或いは、導電性繊維の織物等を用いて内部抵抗によって電磁波によって発生する電流を吸収する導電性電波吸収材料を、電波吸収体層1に用いても構わない。重くなるのが欠点であるが、鉄、ニッケル、フェライトを使用して磁性材料の磁気損失によって電磁波を吸収する磁性電波吸収材料を電波吸収体層1に用いても構わない。なお、既に説明した
図1も、電波吸収体層1の内部に収納されている整合用誘電体ブロック2の外壁にそれぞれの放射開口を接したアンテナユニットA
1~A
16の隙間に電波吸収体層1が埋め込まれた状態を模式的に示している。
図5Cに示すように、整合用誘電体ブロック2の下面(対象部位収納面)側から上面に向かって設けられた凹部2xを備えている特徴は、
図4Aや
図4Bに例示した第1実施形態に係る撮像センサの構造と同様である。
【0074】
即ち、
図5Cに示した凹部2xには、包括的な撮像対象となる対象部位6が収納される。
図5Bは、
図5Aに示した第1実施形態の第1変形例に係る撮像センサを、略直方体をなす電波吸収体層1の一つの側壁面に平行な面が、電波吸収体層1の中央に設けた貫通孔3を横切る切断面Cにより切断した状態を示している。
図5Bの切断面Cにより切断した断面図が
図5Cである。
図5Cに示すように、貫通孔3は電波吸収体層1の中央と電波吸収体層1に接する整合用誘電体ブロック2の上部を連続して貫通し、凹部2xを真空吸引できるようになっている。図示を省略しているが、第1実施形態の第1変形例に係る撮像センサも、
図4Bに示した構造と同様に貫通孔3にチューブ状の排気管の一方の端部が連結されている。
【0075】
そして、排気管の他方に連結された減圧装置によって、凹部2xの内部を減圧し、対象部位6の表面を凹部2xの内壁に密着させるようになっている。
図5Cでは切断面に位置する複偏波ホーンアンテナA
2及びA
8の断面構造が例示されているが、他の複偏波ホーンアンテナA
1,A
3~A
7及びA
9~A
16に付いても同様である。他の構造や効果等は、
図4B等に例示した第1実施形態に係る撮像センサの構造と同様であるので重複した説明を省略する。
【0076】
(第1実施形態の第2変形例に係る撮像センサ)
図5Cでは、整合用誘電体ブロック2の外側に複偏波ホーンアンテナA
1~A
16が配列され、複偏波ホーンアンテナA
1~A
16のそれぞれの間隙が、整合用誘電体ブロック2を箱型に囲む電波吸収体層1で充填された構造を例示した。これに対し、本発明の第1実施形態の第2変形例に係る外壁貫通型の撮像センサでは、
図6に示すように、複偏波ホーンアンテナA
1~A
16の一部が整合用誘電体ブロック2の内部に埋め込まれ、複偏波ホーンアンテナA
1~A
16の残余の一部が整合用誘電体ブロック2の外壁から外側に突出している。そして、複偏波ホーンアンテナA
1~A
16の整合用誘電体ブロック2からのそれぞれの突出部の間隙に、整合用誘電体ブロック2を箱型に囲む電波吸収体層1が挿入されて、外部からのマイクロ波の伝搬を抑制している。
【0077】
図5Aで説明したのと同様に、
図6では複偏波ホーンアンテナA
1~A
16の頭部が露出した構造が示されているが、複偏波ホーンアンテナA
1~A
16の位置を明示するための、便宜上の例示に過ぎない。複偏波ホーンアンテナA
1~A
16の頭部の側面が完全に電波吸収体層1に埋め込まれている等、他の構造でも構わない。又、
図6では切断面に位置する複偏波ホーンアンテナA
2及びA
8の断面構造が例示されているが、他の複偏波ホーンアンテナA
1,A
3~A
7及びA
9~A
16に付いても同様である。この結果、第1実施形態の第2変形例に係る外壁貫通型の撮像センサでは、複偏波ホーンアンテナA
1~A
16のそれぞれの円筒の外周の一部が、アンテナホーンを構成している円筒の高さの途中の位置で、整合用誘電体ブロック2の内部に固定される。他の構造や効果等は、第1実施形態及び第1実施形態の第1変形例に係る撮像センサと同様であるので、重複した説明を省略する。
【0078】
(第1実施形態に係る画像再構成処理の実行方法及び診断プログラム)
図9のフローチャートを用いて、本発明の第1実施形態に係る画像再構成処理の実行方法及び診断プログラムについて説明する。先ず、
図9のステップS111において、
図4A~4Dに例示した第1実施形態に係る撮像センサ等を用いて散乱界データを取得する。次にステップS112において、画像処理ユニット13の誘電率分布計算回路134(
図2参照。)が、ステップS111で取得した測定データを使用し超分解法を使用して各アンテナ間の伝搬時間を測定する。ステップS112においては、誘電率分布計算回路134が超分解技術を用いた伝搬遅延時間推定に基づき、撮像領域としての乳房内部の誘電率分布を推定し、平均誘電率を求める。
【0079】
ステップS112で推定した平均誘電率に基づき、画像処理ユニット13の電気定数初期化回路133が、ステップS121で共焦点イメージング方式の処理を行う。共焦点イメージング方式の処理では、アンテナの放射中心と撮像領域に設定した焦点までの距離に基づくマイクロ波の遅延時間Δtが必要になる。遅延時間Δtはマイクロ波の伝搬速度vに依存するが、伝搬速度vは、それが通過する乳房内部の比誘電率εrによって決定される(v=c/√εr)。よって、ステップS112において、誘電率分布計算回路134が乳房内部の平均誘電率を推定しておくのである。
【0080】
本発明に至るまでの従来技術では、共焦点イメージング方式の処理に必要な平均誘電率は経験的に設定されていた。ステップS121の共焦点イメージング方式の処理の演算結果を用い、ステップS122では、電気定数初期化回路133が対象部位6中の散乱強度の強い「強散乱領域」の位置を特定(推定)する。ステップS122で推定される強散乱領域の部位は乳腺領域(パラメータ推定散乱体)か癌(異常オブジェクト)は特定できず、ステップS122の推定の段階では明確な形状は再構成できない。電気定数初期化回路133は、ステップS121の共焦点イメージング方式の処理で特定された強散乱領域の位置を、ステップS123で、逆問題解析の初期分布として設定する。即ち、ステップS123において、電気定数初期化回路133が散乱強度の大きい強散乱領域に、比誘電率εrと導電率σを逆問題解析の初期分布として割り当てる。
【0081】
一方、ステップS112で得られた各アンテナ間領域の比誘電率分布を用いて、画像処理ユニット13の基準オブジェクトパラメータ計算回路135が、ステップS113において乳腺モデルのパラメータを推定する。乳腺モデルは、例えば
図8の半楕円球でモデル化される。
図8では、乳腺(強散乱領域)のパラメータとして、長軸に沿った高さ(半径)h、長軸に直交する第1短軸に沿った半径a、長軸と第1短軸にそれぞれ直交する第2短軸に沿った半径b, 第1短軸に対する傾斜θが示されている。ステップS113では、
図12の比誘電率分布からh、a, b、θを推定する。シミュレーションで計算した基準オブジェクトによる散乱データと合わせ、式(3)の右辺の校正係数u(known)
sct/S_(a,b)
sct,knownを計算し、ステップS114において、データ記憶装置14に格納し、データベース化しておく。
【0082】
ステップS115において、画像処理ユニット13の測定データ更新回路136が、データベース化した校正係数u(known)
sct/S_(a,b)
sct,knownを推定したh、a, b、θをもとにデータ記憶装置14から読み出し、未知のオブジェクトの測定データと掛け合わせ、散乱トモグラフィで使用する測定データを計算する。
図9のステップS131の散乱トモグラフィは、ステップS123の逆問題解析の初期分布が重要である。ステップS122で特定された強散乱部位の位置を高誘電率・導電率部位として、ステップS123で逆問題解析の初期分布として設定すれば、モデル化誤差やシミュレーション誤差がわずかな場合、ステップS131で正しく画像再構成できる。しかし、モデル化誤差やシミュレーション誤差が大きいと、ステップS123の初期分布の設定だけでは正しく再構成されない。
【0083】
モデル化誤差やシミュレーション誤差が大きい場合、なるべく被写体に近い形状と電気的性質を持つ基準オブジェクトを用い、ステップS116において測定データを校正する。即ち、ステップS116においては、測定データ更新回路136が、推定した乳腺パラメータと最も近い校正係数で、校正された電磁界u(cal)sctを計算し、測定データを修正する。ステップS116で測定データ更新回路136が修正した測定データと、ステップS123において、電気定数初期化回路133が割り当てた逆問題解析の初期分布としての比誘電率εrと導電率σを用いて、ステップS131において、逆問題解析回路138が乳腺(強散乱領域)や癌領域(異常オブジェクト領域)だけでなく対象部位(乳房)6の全体の領域に対し、散乱トモグラフィ処理を実行し、全体の画像を再構成する。
【0084】
対象部位6に癌がある場合、ステップS131において、癌がある位置から癌とともに乳腺(強散乱領域)の形状が再構成される。対象部位6に癌がない場合は、周囲の比誘電率εrと導電率σが低下し,乳腺(強散乱領域)の形状が再構成される。なお,病変候補の位置や大きさに多少の設定誤差があっても画像は正確に再構成されることは確認済である。本発明の第1実施形態に係る画像再構成処理の実行方法によれば、実際の癌や乳腺に近い形状の複素誘電率分布を初期値として与えることで,再構成精度の向上と演算時間の短縮を図こることができる。
【0085】
図10(a)は送信パルス、
図10(b)は受信応答、
図10(c)は伝搬遅延時間推定結果である。乳房内はマルチパス伝搬環境のためいろいろな伝搬経路が形成されるが、振幅が最も大きい主到来波に相当する応答の伝搬遅延時間から比誘電率ε
rを推定する。例えば、
図10(b)の受信応答のうち、伝搬遅延時間が長く、最も振幅が大きい時刻t1に受信した信号を主到来波とし、
図10(c)に示すように、主到来波の伝搬遅延時間Δtに基づき、比誘電率ε
rを推定する。
図11は、第1実施形態に係る撮像センサが示す3次元のアンテナ配列を、2次元の配置に模式化して示すシミュレーションモデル図である。
【0086】
図12は、
図11に示したシミュレーションモデル図を基礎として、第1実施形態に係るトモグラフィ処理技術を用いた乳房内の誘電率の推定結果の一例を示している。
図11において、円形部分は乳房の表皮部分を表し、その周囲に複偏波ホーンアンテナA
1~A
18が対称的に2次元上に配置してモデル化している。
図11の中央部に2次元の楕円形でモデル化した部分は比誘電率ε
r=ε
2=30の乳腺であり、乳腺の周りの比誘電率ε
r=ε
1=10の脂肪より比誘電率ε
rが高くなっていることが示されている。アンテナユニット数はN=18個とし、これをA
1~A
18で表している。
図4A,5A及び6等では16個の複偏波ホーンアンテナが3次元に配列された場合を例示した。
図4A,5A及び6に示した構造において、電波吸収体層1の上面をなす外壁面に6個の複偏波ホーンアンテナを設けることで、複偏波ホーンアンテナの合計数を、3次元に18個配列したトポロジとすることができる。
【0087】
図11の2次元シミュレーションモデル図において、楕円の長軸方向に近い対角線上に位置する複偏波ホーンアンテナA
5と複偏波ホーンアンテナA
14の間の送信/受信対で送受信されるマイクロ波の伝搬遅延時間は、その経路のほとんどが比誘電率ε
rの高い乳腺(強散乱領域)を通るため、他のアンテナユニット間で送受信されるマイクロ波の伝搬遅延時間に比べて長くなり、主到来波に寄与する成分となる。同様に、
図11の楕円の長軸方向に近い対角線上に位置する複偏波ホーンアンテナA
6と複偏波ホーンアンテナA
15の間の送信/受信対で送受信されるマイクロ波の伝搬遅延時間は、その経路のほとんどが比誘電率ε
rの高い乳腺(強散乱領域)を通るため、他のアンテナユニット間で送受信されるマイクロ波の伝搬遅延時間に比べて長くなり、主到来波に寄与する成分となる。
【0088】
これに対し、
図11の、楕円の短軸(第1短軸)方向に沿った複偏波ホーンアンテナA
1と複偏波ホーンアンテナA
10の間の送信/受信対で送受信されるマイクロ波の伝搬遅延時間は、その経路のうち比誘電率ε
rの低い脂肪(対象部位)を通る部分が多くなるため、他のアンテナユニット間で送受信されるマイクロ波の伝搬遅延時間に比べて短くなり、主到来波に寄与する成分となる。
【0089】
図11のシミュレーションモデルに基づき、
図10(c)に示す主到来波(t1)に相当する応答の遅延時間から乳房内の比誘電率ε
rの分布を推定した結果を、
図12の実線で示す。
図12の横軸に示した1~18の数字は、送信アンテナT
xの添え字のxの値を示す。また、
図11のシミュレーションモデルに基づき、
図10(c)に示す最短遅延時間到来波(t2)に相当する応答の遅延時間から乳房内の比誘電率ε
rの分布を推定した比較例の結果を、
図12の破線で示す。
【0090】
受信アンテナR
1~R
18による受信波形のうち主到来波又は最短遅延時間到来波に基づき推定した比誘電率ε
rが
図12の縦軸に示されている。
図12から明らかなように、
図11の対角線上に対峙する各アンテナ対間で送受信されるマイクロ波のうち、遅延時間の短い主到来波を抽出して比誘電率ε
rを求めることにより乳腺(強散乱領域)の形状のアウトラインが求められることが分かる。
【0091】
図4Aには、整合用誘電体ブロック2の上側面の内壁側に、3個の複偏波ホーンアンテナからなる第1アンテナアレイ(A
1~A
3)を示した。又、整合用誘電体ブロック2の右側面の内壁側に、3個の複偏波ホーンアンテナからなる第2アンテナアレイ(A
4~A
6)が設けられ、下側面の内壁側に3個の複偏波ホーンアンテナからなる第3アンテナアレイ(A
7~A
9)が設けられ、左側面の内壁側に3個の複偏波ホーンアンテナからなる第4アンテナアレイ(A
10~A
12)が設けられている。更に、
図4Aでは、整合用誘電体ブロック2の上面をなす外壁面に、4個の複偏波ホーンアンテナからなる第5アンテナアレイ(A
13~A
16)が示されている。即ち、
図4Aに示す構造では、整合用誘電体ブロック2の上側面の内壁側の第1アンテナアレイ(A
1~A
3)と下側面の内壁側の第3アンテナアレイ(A
7~A
9)が互いに対峙している。又、
図4Aの右側面の内壁側の第2アンテナアレイ(A
4~A
6)と左側面の内壁側の第4アンテナアレイ(A
10~B
12)が互いに対峙している。
【0092】
図4Aの誘電体材料が装荷媒体7として内部に装荷された複偏波ホーンアンテナを用いて超分解技術による乳房内の比誘電率ε
rの推定を行う場合、互いに対峙する2つの側面の内壁側に配置された第1アンテナアレイ(A
1~A
3)と第3アンテナアレイ(A
7~A
9)のセット(対)と、第2アンテナアレイ(A
4~A
6)と第4アンテナアレイ(A
10~B
12)の対を用いる。そして、第1実施形態に係る画像再構成処理の実行方法では、推定した比誘電率ε
rの総平均を用いる共焦点イメージング方式の処理を実行する。また、上面をなす外壁面に配置された4つのアンテナユニットからなる第5アンテナアレイ(A
13~A
16)を含む伝搬時間測定から、最小2乗問題を解くことにより
図8に楕円体としてモデル化した乳腺の長径(高さ)h、第1短径a、第2短径b、及び傾き(傾斜)θがそれぞれ推定できる。
【0093】
散乱トモグラフィ方式における校正オブジェクト(基準オブジェクト)としては、乳房(対象部位)の形状に合わせて半楕円体を用いる。なお、画像再構成精度を高めるには実際の乳腺(強散乱領域)の形状に近い校正オブジェクトを使用する必要がある。従って、校正オブジェクトを予め複数準備して複数の校正係数を取得しておき、被験者ごとに、この複数の校正係数のなかから推定した乳腺形状に近い形状の校正係数を用いて散乱トモグラフィ方式を実行する。推定した乳腺形状は、散乱トモグラフィ方式の初期分布としても活用される。
【0094】
第1実施形態に係る画像再構成処理の実行方法では、問題を線型化するため、対象部位6としての乳房内の総合界(入射界と散乱界の和)を入射界に置き換える(ボルン近似)。このため、方程式を繰り返して解くことによりその解を収束させる。逆問題解析の初期分布として散乱強度の大きい位置の周辺を癌組織(異常オブジェクト)の比誘電率εrと導電率σに設定して画像再構成を行う。そして、癌(異常オブジェクト)がある場合、その位置を中心に癌の形状が再現され、乳腺(強散乱領域)の形状も再構成される。一方、癌がない場合、その周囲の比誘電率εrと導電率σが低下し、乳腺の形状のみが再構成される。また、散乱部位の位置や大きさに多少の誤差があっても、画像は正確に再構成される。
【0095】
例えば、
図13に示す乳房ファントムを、第1実施形態に係るトモグラフィ処理のアルゴリズムを使用して再構成した画像を
図14に示す。
図13に断面を示す半楕円球をなす構造物としてモデル化した部分は比誘電率ε
r=30の乳腺MG
Fであり、乳腺MG
Fの内部の中央よりオフセットした縦長の部位に比誘電率ε
r=60の癌オブジェクトC
Fがモデル化されている。更に、
図13のファントムと
図4の2xの隙間には比誘電率10の脂肪が充填される。
図14に示す比誘電率ε
r=60の部分は、z軸方向を長軸、x軸方向を長軸に直交する第1短軸、y軸方向を長軸及び第1短軸に直交する第2短軸とする異常オブジェクトに対応する。また、校正オブジェクトとしては、高さ20mm、長径40mm、短径20mmの楕円柱を用いた。アンテナは、感度が低いパッチアンテナとしたが、
図14の再構成画像から明らかなように、癌C
dの部位は正確に再構成されている。
【0096】
逆問題解析の初期分布として、乳癌の中心位置から半径1cm以内にあるボクセルの複素誘電率を、乳癌の複素誘電率の1/2(比誘電率ε
r=30、導電率σ=1[S/m])に設定して画像の再構成を行ったときの様子を、
図15を用いて説明する。撮像に当たっては、
図16に示した撮像センサを用いて、逆散乱トモグラフィ方式を適用することにより、
図15(a)~(d)に示すような縦断面を持つ数値乳房ファントムを再構成できる。また、式(1)の係数行列Aと定数ベクトルbに誤差を与えるため、36個のパッチアンテナB
1~A
36の取り付け位置をランダムに2mm程度ずらしたモデルを別に用意した。即ち、観測電界(アンテナ出力)を計算するときには、ランダムに2mm程度のずれのあるモデルを使用し、再構成を行うときには、ずれのないモデルを使用した。
【0097】
図15(a)は撮像対象となる乳房の比誘電率分布である。また、第1実施形態に係る画像再構成処理の実行方法又は診断プログラムを適用しない(基準オブジェクトによる校正法を適用しない)で画像を再構成したものが
図15(d)であり、撮像目標であるオブジェクト(例えば、乳癌)の位置や形状がはっきりしていないことが分かる。一方で、第1実施形態に係る画像再構成処理の実行方法又は診断プログラムを適用して画像の再構成により得られた画像が、
図15(c)である。
【0098】
図15(c)によれば、撮像目標である癌の位置や形状が正確に再構成されることが分かる。尚、
図15(b)は、散乱トモグラフィの初期画像として共焦点イメージング方式の処理で得た強散乱領域の位置P
Eを指定した画像を示している。なお、異常オブジェクトの位置の誤差や、高い複素誘電率を設定する範囲等については、再構成により得られる画像に与える影響は少ないことを簡単な撮像センサを使った予備実験で確認している(非特許文献4参照。)。
【0099】
基準オブジェクトによる校正とハイブリッド撮像を組み合わせた新たな撮像アルゴリズムにより式(1)の係数行列Aや定数ベクトルのbに誤差があっても、第1実施形態に係るトモグラフィ処理によれば正確に解を求めることができるので、乳癌の早期発見に資することができる。
【0100】
図11のフローチャートのステップS111~S116,S121~S123,S131の手順を実行させる命令を含む一連の診断プログラムは、
図1に示したプログラム記憶装置15に格納される。
【0101】
第1実施形態に係る診断プログラムは、
図3に示すような高感度な誘電体装荷複偏波ホーンアンテナを用い、
図11に示したフローチャートに適合した一連の命令を実行することにより、式(1)の定数ベクトルbを精度よく求めることができる。更に、第1実施形態に係る診断プログラムによれば、基準オブジェクトによる校正とハイブリッド撮像を組み合わせた新たな撮像アルゴリズムにより係数行列Aや定数ベクトルbに誤差があっても正確に解を求めることができるので、乳癌の早期発見に資するコンピュータ処理を迅速に実行することができる。
【0102】
(その他の実施形態)
本発明は上記の第1実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例、及び運用技術が明らかとなろう。
【0103】
例えば、第1実施形態及びその変形例の説明においては、
図3に例示した円筒形の複偏波ホーンアンテナを用いる場合について説明したが、便宜上の例示に過ぎない。本発明の撮像センサに用いる「誘電体材料を装荷媒体7として装荷した複偏波ホーンアンテナ(誘電体装荷複偏波ホーンアンテナ)」は、テーパ状のホーンをなす複偏波ホーンアンテナでも構わない。又、断面が円形の複偏波ホーンアンテナに限定されず、断面が矩形の誘電体装荷複偏波ホーンアンテナでも構わない。
【0104】
又、第1実施形態の説明においては、包括的対象となる対象部位6を人間の体の一部とし、乳癌の細胞に代表される異常オブジェクトを、逆問題解析によって再構成する場合について例示的に説明したが、本発明のトモグラフィ処理は乳癌の検診に限定されるものではない。例えば、対象部位6を頭部としてもよく、頭部の内部の散乱物体や不均質物体の位置、形状、大きさ、電気定数分布等の内部構造を逆問題解析によって検出し、その病変が何であるかを特定するトモグラフィ処理も可能である。更には、本発明を手足の骨折箇所を特定等するためのトモグラフィ処理に適用することも可能である。
【0105】
又、
図4A等において、整合用誘電体ブロック2の4つの側壁面及び上面(天井面)に複数N個複偏波ホーンアンテナA
1~A
Nを配列した場合について説明したが例示に過ぎない。例えば、複数のアンテナユニットの一部が、上面(天井面)に配置されず、4つの側壁面のみに配置されていてもよい。特に、
図11にモデルを示したような対角線状の送信/受信対の円形のアレイを鑑みると、4つの側壁面で対角線状に送信/受信対を実現することが好ましい。
【0106】
例えば、N=16の場合で説明すると、4つの側壁面に配置された複偏波ホーンアンテナA1~A12の第1放射素子Ea及び第2放射素子Eb中を流れる電流の励振方向を互いに同一(例えば、Z軸方向)とし、上面(天井面)に配置された複偏波ホーンアンテナA13~A16の第1放射素子Ea及び第2放射素子Eb中を流れる電流の励振方向を互いに同一(X軸方向又はY軸方向)として、複偏波ホーンアンテナA1~A12の第1放射素子Ea及び第2放射素子Eb中を流れる電流の励振方向と、複偏波ホーンアンテナA13~A16の第1放射素子Ea及び第2放射素子Eb中を流れる電流の励振方向を異ならせてもよい。
【0107】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0108】
1…電波吸収体層、2x…凹部、2…整合用誘電体ブロック、3…貫通孔、4…排気管、5…減圧装置、6…対象部位、7…装荷媒体、11…送信手段、12…受信手段、13…画像処理ユニット、14…データ記憶装置、15…プログラム記憶装置、16…表示ユニット、19…制御手段、25…電子スイッチ、131…データ読出回路、132…差分計算回路、133…電気定数初期化回路、134…誘電率分布計算回路、135…基準オブジェクトパラメータ計算回路、136…測定データ更新回路、137…ノルム判定回路、138…逆問題解析回路、139…表示命令回路、140…バス