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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051305
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】糖質燃焼促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/232 20060101AFI20240404BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240404BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20240404BHJP
【FI】
A61K31/232
A61P3/04
A23L33/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157388
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 康年
(72)【発明者】
【氏名】河崎 恵子
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 慎一郎
【テーマコード(参考)】
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD12
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF02
4B018MF10
4B018MF12
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB09
4C206DB47
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA70
(57)【要約】
【課題】優れた糖質燃焼促進効果を示す糖質燃焼促進剤の提供。
【解決手段】構成脂肪酸の20質量%以上がエイコサペンタエン酸であるジアシルグリセロールを含有する油脂を有効成分とする糖質燃焼促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸の20質量%以上がエイコサペンタエン酸であるジアシルグリセロールを含有する油脂を有効成分とする糖質燃焼促進剤。
【請求項2】
油脂中のジアシルグリセロールの含有量が40質量%以上である請求項1記載の糖質燃焼促進剤。
【請求項3】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量が20質量%以下である請求項1又は請求項2記載の糖質燃焼促進剤。
【請求項4】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のドコサヘキサエン酸の含有量が30質量%以下である請求項1~3のいずれか1項記載の糖質燃焼促進剤。
【請求項5】
医薬品又は食品として用いられる請求項1~4のいずれか1項記載の糖質燃焼亢進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖質燃焼促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖質の摂取量を減らす「糖質制限食」が注目されているように、肥満をはじめとしたメタボリックシンドロームの予防のためには体内での脂質の燃焼だけでなく糖質の燃焼も重要な因子である。
糖質の燃焼を促進するには運動が有効な方法である。運動を行うことで全身の代謝を高め、エネルギー消費を増加させる。しかし、運動は負担が大きく誰でも簡単に行なえるものではない。そのため、簡易的かつ日常的に用いることができ、副作用の少ない糖質燃焼促進剤が求められている。
【0003】
エイコサペンタエン酸(C20:5、EPA)は、5個の二重結合をもつ炭素数20の直鎖高度不飽和脂肪酸であり、抗炎症作用、血小板凝集抑制作用等の生理作用を有することが報告されている。また、EPA及びドコサヘキサエン酸(C22:6、DHA)のエチルエステルを経口摂取することにより脂質の利用が促進されることが報告されている(非特許文献1)。他方、糖質への作用については逆に利用を抑制してしまうことが報告されている(非特許文献1)。
さらに、EPAエステル及びDHAエステルを食間に経口摂取することにより糖負荷後の血糖値上昇が抑制されることが報告されている(特許文献1)が、効果は食後に限定される。
【0004】
一方、構成アシル基中のω3不飽和アシル基含量が15重量%以上であるジグリセリド及び/又はモノグリセリドを5重量%以上含有する油脂は、空腹時の血糖値低下作用及び血中インスリン濃度低下作用を有することが報告されている(特許文献2及び3)。
しかしながら、前記特許文献2及び3において、ω3不飽和アシル基は主にドコサヘキサエノイル基又はα-リノレイル基である。これまでにエイコサペンタエン酸を高濃度に含むジアシルグリセロール含有油脂による糖質燃焼に対する作用については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/063820号
【特許文献2】特開2001-247457号公報
【特許文献3】特開2001-247473号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Charlotte J Greenら、Hepatic de novo lipogenesis is suppressed and fat oxidation is increased by omega-3 fatty acids at the expense of glucose metabolism、BMJ Open Diabetes Res Care.、2020年、8巻、1号、e000871
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた糖質燃焼促進効果を示す糖質燃焼促進剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、エイコサペンタエン酸を高濃度に含むジアシルグリセロールを含有する油脂をマウスに継続摂取させることにより、糖質燃焼が顕著に増加することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、構成脂肪酸の20質量%以上がエイコサペンタエン酸であるジアシルグリセロールを含有する油脂を有効成分とする糖質燃焼促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の糖質燃焼促進剤は、優れた糖質燃焼促進効果を恒常的に発揮する。そのため、肥満症や糖尿病、メタボリックシンドロームの予防、改善又は治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】明期での糖質燃焼量を示す。
図2】暗期での糖質燃焼量を示す。
図3】全体(明期及び暗期)での糖質燃焼量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において「油脂」とは、脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物を指し、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものである。油脂の種類に特に制限はなく、食用油脂として使用できるものであれば何れでもよい。
【0013】
本発明に用いる油脂は、構成脂肪酸の20質量%以上がエイコサペンタエン酸であるジアシルグリセロールを含有する油脂である。以下、本明細書において「構成脂肪酸の20質量%以上がエイコサペンタエン酸であるジアシルグリセロールを含有する油脂」を単に「本発明の油脂」と記載することがある。
【0014】
本発明において、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量は20質量%以上である。ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量は、糖質燃焼を促進する点から、20質量%以上であって、好ましくは25質量%以上、より好ましくは27質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、また、酸化安定性の点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。また、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量は、好ましくは20質量%以上99質量%以下、より好ましくは25質量%以上98質量%以下、更に好ましくは27質量%以上98質量%以下、更に好ましくは30質量%以上95質量%以下である。
なお、本明細書における脂肪酸量は遊離脂肪酸換算量である。
【0015】
ジアシルグリセロールを構成するエイコサペンタエン酸以外の構成脂肪酸としては、特に限定されず、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
油脂の風味・工業的生産性の点からは、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量は、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~99.8質量%、更に好ましくは80~99.5質量%である。不飽和脂肪酸の炭素数は、生理効果の点から、好ましくは14~24、より好ましくは16~22である。
【0016】
なかでも、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のリノール酸(C18:2)の含有量は、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0017】
また、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のオレイン酸(C18:1)の含有量は、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0018】
また、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のドコサヘキサエン酸(C22:6)の含有量は、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは27質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のドコサヘキサエン酸の含有量は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは0.3~30質量%、更に好ましくは3~27質量%、更に好ましくは4~25質量%、更に好ましくは5~20質量%である。
【0019】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量は、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは13質量%以下であり、また、好ましくは0.5質量%以上である。ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量は、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0.5~15質量%、更に好ましくは0.5~13質量%である。
本明細書において、飽和脂肪酸の炭素数は、好ましくは14~24、より好ましくは14~22である。
【0020】
本発明の油脂中のジアシルグリセロールの含有量は、特に限定されないが、効果を有効に発現する点、生理効果の点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、また、工業的生産性の点から、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。油脂中のジアシルグリセロールの含有量は、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは40~99.5質量%、更に好ましくは50~98質量%、更に好ましくは60~95質量%、更に好ましくは65~90質量%である。
【0021】
本発明の油脂は、トリアシルグリセロールを含有していてもよく、その含有量は、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0022】
本発明の油脂中のモノアシルグリセロールの含有量は、風味、油脂の工業的生産性、及び酸化安定性の点から、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下であり、また、好ましくは0質量%超である。油脂中のモノアシルグリセロールの含有量は、0質量%でもよい。
【0023】
本発明の油脂は、不純物として遊離脂肪酸又はその塩を含有していてもよい。油脂中の遊離脂肪酸又はその塩の含有量は、風味、酸化安定性の点から、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であり、また、好ましくは0質量%超である。油脂中の遊離脂肪酸又はその塩の含有量は、0質量%でもよい。
【0024】
本発明において、油脂を構成する脂肪酸は、前述したジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の組成と同じであっても異なっていてもよいが、効果を有効に発現する点から、同じであることが好ましい。
油脂を構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量は、好ましくは20~99質量%であり、より好ましくは20~98質量%、更に好ましくは25~97質量%、更に好ましくは30~95質量%である。
また、油脂を構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量は、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~99.8質量%、更に好ましくは80~99.5質量%である。
油脂を構成する脂肪酸中のドコサヘキサエン酸の含有量は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは0.3~30質量%、更に好ましくは3~27質量%、更に好ましくは4~25質量%、更に好ましくは5~20質量%である。
【0025】
また、油脂を構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量は、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0.5~17質量%、更に好ましくは0.5~15質量%である。
【0026】
本発明の油脂は、油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのエステル交換反応(グリセロリシス)等により得ることができる。
エステル化反応とグリセロリシス反応は、アルカリ金属又はその合金、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド等の化学触媒を用いる化学法と、リパーゼ等の酵素を用いる酵素法とに大別される。
なかでも、脂肪酸組成を制御する点から、後述する油脂由来の分別脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応が好ましい。
【0027】
本発明において、油脂(食用油脂)は、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。例えば、大豆油、菜種油、サフラワー油、米油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、ハトムギ油、小麦胚芽油、シソ油、アマニ油、エゴマ油、チアシード油、サチャインチ油、クルミ油、キウイ種子油、サルビア種子油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、ボラージ油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、やし油、パーム核油、カカオ脂、サル脂、シア脂、藻油等の植物性油脂;魚油、アザラシ油、鯨油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂;あるいはそれらのエステル交換油、水素添加油、分別油等の油脂類を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
油脂由来の脂肪酸は、油脂を加水分解して得ることができる。油脂を加水分解する方法としては、高温高圧分解法と酵素分解法が挙げられる。高温高圧分解法とは、油脂に水を加えて、高温、高圧の条件で反応することにより、脂肪酸とグリセリンを得る方法である。また、酵素分解法とは、油脂に水を加えて、油脂加水分解酵素を触媒として用い、低温の条件で反応することにより、脂肪酸とグリセリンを得る方法である。
加水分解反応は、常法に従って行うことができる。
【0029】
油脂の加水分解後は、加水分解反応物を分別して固体を除去することが好ましい。分別方法としては、溶剤分別法、自然分別法(ドライ分別法)、湿潤剤分別法が挙げられる。
析出した固体の除去手段としては、静置分離、濾過、遠心分離、脂肪酸に湿潤剤水溶液を混合し分離する方法等が挙げられる。
【0030】
油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応は、酵素法により温和な条件で行うのが風味等の点で優れており好ましい。
酵素の使用量は、酵素の活性を考慮して適宜決定することができるが、反応速度を向上する点から、固定化酵素を使用する場合は、エステル化反応原料の合計質量に対して、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%である。
エステル化反応の反応温度は、反応速度を向上する点、酵素の失活を抑制する点から、好ましくは0~100℃、より好ましくは20~80℃、更に好ましくは30~60℃である。また、反応時間は、油脂の工業的な生産性の点から、好ましくは15時間以内、より好ましくは1~12時間、更に好ましくは2~10時間である。
脂肪酸とグリセリンとの接触手段としては、浸漬、攪拌、固定化リパーゼを充填したカラムにポンプ等で通液する方法等が挙げられる。
【0031】
油脂とグリセリンとのエステル交換反応(グリセロリシス)は、化学法により行うのが反応性の点から好ましい。
触媒の使用量は、反応性の点から、反応原料の質量に対して、好ましくは0.001~3質量%、より好ましくは0.005~2質量%、更に好ましくは0.01~1質量%である。
【0032】
反応温度は、反応性の点、及び副生成物の生成を抑制する点から、好ましくは120~200℃、より好ましくは150~180℃である。また、反応時間は、反応性の点から、好ましくは6時間以内、より好ましくは4時間以内である。
本発明において、エステル交換反応の際の反応系内の圧力は特に規定されず、常圧又は減圧下で行うことができる。常圧の場合は窒素気流下とすることが反応性の点から好ましい。
【0033】
エステル化反応やエステル交換反応(グリセロリシス)の後は、通常油脂に対して用いられる精製工程を行ってもよい。具体的には、蒸留処理、酸処理、水洗、脱色、脱臭等の工程を挙げることができる。
【0034】
後記実施例に示すように、本発明の油脂を、肥満・2型糖尿病モデルマウス(db/dbマウス)に経口投与すると、明期、暗期、全体(明期及び暗期)ともに糖質燃焼の顕著な増加が認められた。すなわち、本発明の油脂は、糖質燃焼促進作用を有し、その作用は恒常的である。ここで、恒常的な糖質燃焼促進とは、食後等長くとも数時間以内に消失する一時的な糖質燃焼促進とは異なり、糖質燃焼促進の効果がより長く持続して続くことを意味する。本発明の油脂により糖質の燃焼が亢進すれば、エネルギーの消費が高まり、肥満症、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)、2型糖尿病等の疾患もしくは症状の発症もしくは病態の進展を予防、改善又は治療することが可能となる。
従って、本発明の油脂は、糖質燃焼促進剤となり得、糖質燃焼促進のために使用することができ、また糖質燃焼促進を製造するために使用することができる。
【0035】
本発明において、「糖質燃焼促進」とは、本発明の油脂を投与又は摂取しない場合に比べて、糖質燃焼の度合いを高めることを含む概念である。「糖質燃焼」は、食事から摂取した糖質を各臓器において代謝し、エネルギー源として利用することをいい、糖質燃焼量は、例えば、呼気測定により後記実施例に示す式で求めることができる。なお、糖質は、炭水化物と同義であり、単糖類、二糖類、少糖類、多糖類に分類される。
「使用」は、ヒト若しくは非ヒト動物への使用であり得、治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。「非治療的」とは、医療行為を含まない、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない、より具体的には医師、又は医療従事者もしくは医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
「予防」とは、個体における疾患もしくは症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の疾患もしくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
また、「治療」には、疾患の完全治癒に加えて、症状を改善させることが包含される。
【0036】
本発明の糖質燃焼促進剤は、それ自体、糖質燃焼促進のための医薬品、医薬部外品、化粧品、食品又は飼料となり、また当該医薬品、医薬部外品、化粧品、食品又は飼料に配合して使用される素材又は製剤となり得る。
【0037】
当該医薬品(医薬部外品を含む、以下同じ)は、本発明の油脂を、糖質燃焼促進のための有効成分として含有する。更に、該医薬品は、該有効成分の機能が失われない限りにおいて、必要に応じて薬学的に許容される担体、又は他の有効成分、薬理成分等を含有していてもよい。
医薬品は任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、例えば、錠剤(チュアブル錠等を含む)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤等の経口固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口液状製剤、注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等の非経口投与製剤が挙げられる。好ましい投与形態は経口投与である。形態は使用目的に応じて大きさを任意に調節することができる。
このような種々の剤形の製剤は、必要に応じて、薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、保存剤、増粘剤、流動性改善剤、嬌味剤、発泡剤、香料、被膜剤、希釈剤等や、他の薬効成分等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0038】
当該化粧品は、本発明の油脂を、糖質燃焼促進のための有効成分として含有する。さらに、該化粧品は、該有効成分の機能が失われない限りにおいて、必要に応じて化粧料に許容される担体、又は他の有効成分、薬効成分、化粧成分等を含有していてもよい。
本発明の油脂を含む化粧品の好ましい例としては、顔、ボディ用の化粧料(例えば、ローション、ゲル、クリーム、パック等)、メークアップ用化粧料、顔又はボディ用の洗浄料等が挙げられる。
斯かる化粧品の各製剤は、常法に従って製造することができる。化粧料に許容される担体としては、例えば、各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、分散剤、キレート剤、増粘剤、紫外線吸収剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素、香料等が挙げられる。
他の有効成分、薬効成分、化粧成分としては、例えば、植物抽出物、殺菌剤、保湿剤、抗炎症剤、抗菌剤、角質溶解剤、清涼剤、抗脂漏剤、洗浄剤、メークアップ成分等が挙げられる。
【0039】
当該食品は、本発明の油脂を、糖質燃焼促進のための有効成分として含有する。
食品には、糖質燃焼促進を訴求とし、必要に応じてその旨の表示が許可又は届出された食品(特定保健用食品、機能性表示食品、特別用途食品等)が含まれる。表示の例としては、「糖質の燃焼を亢進する」、「糖質を代謝する力を高める」「糖質を消費しやすくする」等がある。機能表示が許可又は届出された食品は、一般の食品と区別することができる。
食品の形態は、固形、半固形又は液状(例えば飲料)であり得る。例としては、各種食品組成物(パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、冷凍食品、アイスクリーム類、あめ類、ふりかけ類、スープ類、乳製品、シェイク、飲料、調味料等)、更には、上述した経口投与製剤と同様の形態(顆粒剤、粉剤、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、トローチ剤等の固形製剤)の栄養補給用組成物が挙げられる。
種々の形態の食品は、本発明の油脂を、任意の食品材料、若しくは他の有効成分、又は食品に許容される添加物(例えば、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、pH調整剤、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、固着剤、分散剤、流動性改善剤、湿潤剤、香科、調味料、風味調整剤)等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0040】
当該飼料は、本発明の油脂を、糖質燃焼促進のための有効成分として含有する。
飼料の形態としては、好ましくはペレット状、フレーク状、マッシュ状又はリキッド状であり、例えば、牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥等に用いるペットフード等が挙げられる。
飼料は、本発明の油脂を、他の飼料材料、例えば、肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類、ゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等と適宜組み合わせて、定法に従って調製することができる。
【0041】
製剤中の本発明の油脂の含有量は、製剤の形態に応じて異なるため一概にはいえないが、例えば製剤の総量を基準として、好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは99.8質量%以下である。
【0042】
本発明の油脂の投与量又は使用量は、本発明の効果を達成できる量であり得る。当該投与量又は使用量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態、又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与(摂取)の場合には、成人(60kg)1人当たり1回、本発明の油脂として、例えば0.1~15gである。
本発明の糖質燃焼促進剤は、任意の投与計画に従って投与又は使用され得るが、1日に1回~複数回に分けて、1日間以上、好ましくは7日間以上、より好ましくは14日間以上、よりさらに好ましくは28日間以上、反復・継続して投与又は使用し得る。
【0043】
本発明の糖質燃焼促進剤は、油脂組成物の形態として投与又は使用されることが好ましい。
糖質燃焼促進剤が油脂組成物の形態である場合、油脂組成物中の本発明の油脂の含有量は、使用性の点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下である。
【0044】
油脂組成物は、風味、酸化安定性、着色抑制等の点から、抗酸化剤を含有するのが好ましい。油脂組成物中の抗酸化剤の含有量は、風味、酸化安定性、着色抑制等の点から、好ましくは0.005~1.0質量%、より好ましくは0.04~0.75質量%、更に好ましくは0.08~0.5質量%である。
抗酸化剤としては、特に制限はないが、天然抗酸化剤、レシチン、トコフェロール、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びブチルヒドロキシアニソール(BHA)等から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0045】
本発明の糖質燃焼促進剤を投与又は使用する対象としては、それを必要とするもしくは希望するヒト又は非ヒト動物であれば特に限定されない。対象の好ましい例として、モンゴロイド等が挙げられる。非ヒト動物としては、類人猿、その他霊長類等の非ヒト哺乳動物等が挙げられる。
【実施例0046】
試験油の調製
油脂1:DDオイルタイプ2(日本水産社製)を酵素により加水分解して得た脂肪酸328質量部とグリセリン50質量部とを混合し、イオン交換樹脂に固定化した1,3位選択リパーゼ(ノボザイムズ社製)を触媒としてエステル化反応後、固定化酵素を濾別した。その後、分子蒸留、酸処理及び水洗を行い、処理油を得た。処理油を脱臭して油脂1を得た。
油脂2:藻油(DSM社製)80質量部とグリセリン25質量部を混合し、水酸化カルシウムを触媒としてグリセロリシス反応を行った。その後、分子蒸留、酸処理及び水洗を行い、処理油を得た。処理油を脱臭して油脂2を得た。
油脂1及び油脂2のグリセリド組成、油脂中の主要脂肪酸組成及びジアシルグリセロール中の主要脂肪酸組成を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
グリセリド組成及び脂肪酸組成の分析方法は以下のとおりである。
(i)油脂のグリセリド組成
油脂をクロロホルム/メタノール(1/9)混合溶媒を用いて1mg/mlとなるように溶解し、メタノールで10倍希釈後、補正用の標準サンプルと共に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して分析した。
<標準サンプル>
(1)ジアシルグリセロール用:トリオレイン/ジオレイン/モノオレイン=5/80/15
(重量比)
(2)トリアシルグリセロール用:トリオレイン/ジオレイン/モノオレイン=90/5/5(重量比)
<HPLC分析条件>
(条件)
装置:UHPLC(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
カラム:L-カラム C8(2.1×35mm×5μm)(化学物質評価研究機構製)
カラム温度:40℃
サンプル注入量:10μL
流速:0.5mL/min
移動相:(A)水/アセトニトリル=9/1 (B)イソプロパノール
【0049】
【表2】
【0050】
検出器:CAD(荷電化粒子検出器)
【0051】
(ii)油脂の脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.-1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られた油脂サンプルを、American Oil Chemists.Society Official Method Ce 1f-96(GLC法)に準拠して測定した。
<GLC分析条件>
装置:アジレント7890B(アジレントテクノロジー社製)
カラム:CP-SIL88 50m×0.25mm×0.2μm(Agilent J&W社製)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=300℃
ディテクター:FID、T=300℃
オーブン温度:150℃5min保持→1℃/min昇温→160℃5min保持→2℃/min昇温→200℃10min保持→10℃/min昇温→220℃5min保持
【0052】
試験方法概要
6週齢の肥満・2型糖尿病モデルマウス(db/dbマウス、雄性)において、1週間の予備飼育を行うことで環境順化させ、その後、各群の体重が同等になるように1群5匹で高脂肪・高ショ糖食群(第1群)、高EPA含有-DAG群(第2群)、高DHA含有-DAG群(第3群)の3群に分け、表3記載の各食餌で飼育した。なお、飼育環境は、室温23±2℃、湿度を55±10%とし、照明時間を午前7時から午後7時とした。
【0053】
【表3】
【0054】
飼育4週目に呼気ガス分析装置(Arco 2000 system、アルコシステム社製)のチャンバーにマウスを入れ、24時間環境順化させた後、さらに24時間の呼気測定を行うことで糖質燃焼量を測定した。
なお、糖質燃焼速度は、Jequierの式(Parenter Enteral Nutr、11号、86-89ページ、1987年に記載)を参照して算出した。すなわち、呼気ガス分析装置を用いて測定した酸素消費量(VO)及び二酸化炭素排出量(VCO)を下記式に当てはめて求めた。
【0055】
糖質燃焼速度(mg/min)
=1.689×VO(mL/min)-1.689×VCO(mL/min)-0.324×P(mg/min)
VO:酸素消費速度
VCO:二酸化炭素排出速度
P:タンパク質燃焼速度(本試験ではタンパク質燃焼速度をエネルギー消費速度(EE)の12.5%と仮定して求めた。なお、EE=3.9×VO(mL/min)+1.1×VCO(mL/min)とした。)
【0056】
試験結果
測定の結果を図1図3に示す。図1は明期(休息期)、図2は暗期(活動期)、そして図3は全体(明期及び暗期、24時間)での体重あたりの糖質燃焼量を示す。高脂肪・高ショ糖食群(第1群)と比較して高DHA含有-DAG群(第3群)では明期、暗期、全体とも糖質燃焼量の増加が認められなかったものの、高EPA含有-DAG群(第2群)では、明期、暗期、全体とも糖質燃焼の顕著な増加が認められた。
有意差の検定は、対応のないt検定を用いて検定し(*P<0.05)、解析結果は平均値±標準誤差で示した。
図1
図2
図3