(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051310
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】インドールカルボン酸化合物、インドールカルボン酸化合物の混合物、及び分析方法
(51)【国際特許分類】
C07D 209/42 20060101AFI20240404BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240404BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20240404BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20240404BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C07D209/42 CSP
G01N27/62 V
A61K49/00
G01N30/88 C
G01N30/72 C
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157405
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】菊谷 善国
(72)【発明者】
【氏名】滝脇 正貴
(72)【発明者】
【氏名】梅村 啓史
(72)【発明者】
【氏名】福沢 世傑
【テーマコード(参考)】
2G041
4C085
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA10
2G041FA22
2G041FA23
2G041FA24
2G041HA01
2G041JA05
2G041LA09
4C085HH20
4C085KA30
4C085KB56
4C085LL18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、メラニンに関連する代謝物の検出又は定量において利用可能な新規化合物を提供する。
【解決手段】例えば、下記式(II)によって表される、安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)によって表される、安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物。
【化1】
[式(I)において、
X
1~X
8は、互いに独立に、Cもしくは
13Cを表し、
Yは、Nもしくは
15Nを表し、
Mは、H、Na、K、Li、CH
3、又はC
2H
5を表し、
R
1は、H又はDを表し、
R
2は、H、CH
3、
13CH
3、C
2H
5、又は
13C
2H
5を表し、
R
3は、H、CH
3、
13CH
3、C
2H
5、又は
13C
2H
5を表し、
R
4は、H又はDを表し、
R
5は、H又はDを表す。]
【請求項2】
前記式(I)において、
R2は、H、CH3、又はC2H5を表し、且つ
R3は、H、CH3、又はC2H5を表す
請求項1に記載のインドールカルボン酸化合物。
【請求項3】
前記式(I)において、
R2は、H、CH3、又はC2H5を表し、
R3は、H、CH3、又はC2H5を表し、且つ
R2及びR3のうちのいずれか一方がHである、
請求項1に記載のインドールカルボン酸化合物。
【請求項4】
前記式(I)において、X1~X8はいずれもCである、請求項1に記載のインドールカルボン酸化合物。
【請求項5】
前記式(I)において、YはNである、請求項1に記載のインドールカルボン酸化合物。
【請求項6】
R1及びR4のいずれか一方又は両方がDを表す、請求項1に記載のインドールカルボン酸化合物。
【請求項7】
請求項1に記載のインドールカルボン酸化合物を用いる分析方法。
【請求項8】
質量分析を実行することを含む、請求項7に記載の分析方法。
【請求項9】
前記質量分析において、前記インドールカルボン酸化合物が内部標準物質として用いられる、請求項8に記載の分析方法。
【請求項10】
前記質量分析によって、生体試料中のインドールカルボン酸化合物を検出又は定量することを含む、請求項8に記載の分析方法。
【請求項11】
前記生体試料中のインドールカルボン酸化合物は、メラノーマの腫瘍マーカーである、請求項10に記載の分析方法。
【請求項12】
下記式(I)によって表される安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物のうちの互いに異なる2種以上の化合物の混合物。
【化2】
[式(I)において、
X
1~X
8は、互いに独立に、Cもしくは
13Cを表し、
Yは、Nもしくは
15Nを表し、
Mは、H、Na、K、Li、CH
3、又はC
2H
5を表し、
R
1は、H又はDを表し、
R
2は、H、CH
3、
13CH
3、C
2H
5、又は
13C
2H
5を表し、
R
3は、H、CH
3、
13CH
3、C
2H
5、又は
13C
2H
5を表し、
R
4は、H又はDを表し、
R
5は、H又はDを表す。]
【請求項13】
前記混合物は、
R2がHである前記式(I)のインドールカルボン酸化合物、及び
R3がHである前記式(I)のインドールカルボン酸化合物
を少なくとも含む、請求項12に記載の混合物。
【請求項14】
請求項12に記載の混合物を用いる分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インドールカルボン酸化合物、2以上のインドールカルボン酸化合物の混合物、及び分析方法に関する。特には、本発明は、安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物、安定同位体標識された2以上のインドールカルボン酸化合物の混合物、及び、当該化合物又は当該混合物を用いる分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メラニンは、メラノサイトで合成される色素である。メラニンはメラノサイトで合成される色素で真性メラニン(eumelanin)と亜メラニン(pheomelanin)の2種類がある。これらの生合成において、種々の代謝物が産生される。このような代謝物の測定に関して、これまでにいくつかの手法が提案されている。
【0003】
例えば下記非特許文献1には、重水素標識真性メラニン(前駆体)代謝物の合成が開示されている。また、下記非特許文献2には、蛍光検出HPLCによる尿中の真性メラニン関連インドール化合物の分析が開示されている。また、下記非特許文献3には、メラノーマ進行のバイオマーカーとしての5-S-cysteinyldopa(以下5-S-CDともいう)及び6-hydroxy-5-methoxyindole-2-carboxylic acid(以下6H5MI2Cともいう)の尿排泄及び血清濃度の正常値中の正常値が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Synthesis of deuterium-labeled eumelanin (precursor) metabolites. Pavel, S.; Muckiet, F. A. J. J. Label. Compd. Radiopharm. 1983, 20, 101-10.
【非特許文献2】Analysis of eumelanin-related indolic compounds in urine by high-performance liquid chromatography with fluorometric detection. J. Chromatogr. 1986, 375, 392-398.
【非特許文献3】Normal values of urinary excretion and serum concentration of 5-S-cysteinyldopa and 6-hydroxy-5-methoxyindole-2-carboxylic acid, biochemical markers of melanoma progression. Wakamatsu, K.; Ito, S.; Horikoshi, T. Melanoma Res. 1991, 1, 141-147.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のメラニン合成に関係する各種代謝物は、疾病又は栄養状態のバイオマーカーとして利用できると考えられる。例えば、これらの代謝物を、皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)の病態を把握するために利用することが考えられる。例えば上記非特許文献3には、5-S-CD及び6H5MI2Cをメラノーマのバイオマーカーとして利用することが記載されており、HPLCでの定量法が開発されている。
【0006】
このような代謝物を高感度且つ高分離能で検出又は定量することができれば、バイオマーカーとしての利用価値を高めることができると考えられる。ここで、質量分析法、特にはLC-MS/MS法は、化合物を高感度かつ高分離能を有する手法である。この分析方法を実行するためには、内部標準物質を用意することが求められる。
【0007】
そこで、本発明は、メラニンに関連する代謝物の検出又は定量において利用可能な新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、新規インドールカルボン酸化合物を提供する。当該化合物は、例えばメラニンに関連する代謝物の検出又は定量のための質量分析において内部標準物質として利用できる。
【0009】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
[1]
下記式(I)によって表される、安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物。
【化1】
[式(I)において、
X
1~X
8は、互いに独立に、Cもしくは
13Cを表し、
Yは、Nもしくは
15Nを表し、
Mは、H、Na、K、Li、CH
3、又はC
2H
5を表し、
R
1は、H又はDを表し、
R
2は、H、CH
3、
13CH
3、C
2H
5、又は
13C
2H
5を表し、
R
3は、H、CH
3、
13CH
3、C
2H
5、又は
13C
2H
5を表し、
R
4は、H又はDを表し、
R
5は、H又はDを表す。]
[2]
前記式(I)において、
R
2は、H、CH
3、又はC
2H
5を表し、且つ
R
3は、H、CH
3、又はC
2H
5を表す
[1]に記載のインドールカルボン酸化合物。
[3]
前記式(I)において、
R
2は、H、CH
3、又はC
2H
5を表し、
R
3は、H、CH
3、又はC
2H
5を表し、且つ
R
2及びR
3のうちのいずれか一方がHである、
[1]に記載のインドールカルボン酸化合物。
[4]
前記式(I)において、X
1~X
8はいずれもCである、[1]~[3]のいずれか一つに記載のインドールカルボン酸化合物。
[5]
前記式(I)において、YはNである、[1]~[4]のいずれか一つに記載のインドールカルボン酸化合物。
[6]
R
1及びR
4のいずれか一方又は両方がDを表す、[1]~[5]のいずれか一つに記載のインドールカルボン酸化合物。
[7]
[1]~[6]のいずれか一つに記載のインドールカルボン酸化合物を用いる分析方法。
[8]
質量分析を実行することを含む、[7]に記載の分析方法。
[9]
前記質量分析において、前記インドールカルボン酸化合物が内部標準物質として用いられる、[8]に記載の分析方法。
[10]
前記質量分析によって、生体試料中のインドールカルボン酸化合物を検出又は定量することを含む、[8]又は[9]に記載の分析方法。
[11]
前記生体試料中のインドールカルボン酸化合物は、メラノーマの腫瘍マーカーである、[10]に記載の分析方法。
[12]
下記式(I)によって表される安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物のうちの互いに異なる2種以上の化合物の混合物。
【化2】
[式(I)において、
X
1~X
8は、互いに独立に、Cもしくは
13Cを表し、
Yは、Nもしくは
15Nを表し、
Mは、H、Na、K、Li、CH
3、又はC
2H
5を表し、
R
1は、H又はDを表し、
R
2は、H、CH
3、
13CH
3、C
2H
5、又は
13C
2H
5を表し、
R
3は、H、CH
3、
13CH
3、C
2H
5、又は
13C
2H
5を表し、
R
4は、H又はDを表し、
R
5は、H又はDを表す。]
[13]
前記混合物は、
R
2がHである前記式(I)のインドールカルボン酸化合物、及び
R
3がHである前記式(I)のインドールカルボン酸化合物
を少なくとも含む、[12]に記載の混合物。
[14]
[12]又は[13]に記載の混合物を用いる分析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、例えばメラニンに関連する代謝物の検出又は定量において利用できる標準物質が提供される。本発明に従う化合物は、例えば、メラニンに関連する代謝物の検出又は定量のための質量分析において内部標準物質として利用できる。これにより、高感度且つ高分離能で、当該代謝物を検出又は定量することが可能となる。
なお、本発明の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】重水素標識された6H5MI2C及び5H6MI2Cを合成するための反応経路を示す図である。
【
図3】L-dopa (Ring-d
3) を原料として合成した5H6MI2C-d
2のNMRスペクトルを示す図である。
【
図4】L-dopa (Ring-d
3)を原料として合成した6H5MI2C-d
2のNMRスペクトルを示す図である。
【
図5A】5H6MI2C-d
2と6H5MI2C-d
2の混合物のLC/MS ESIネガティブスキャンによる同定結果を示す図である。
【
図5B】5H6MI2C-d
2と6H5MI2C-d
2の混合物のLC/MS ESIネガティブスキャンによる同定結果を示す図である。
【
図7】プール血清中の5H6MI2C及び6H5MI2C のSRMクロマトグラムを示す図である。
【
図8】本発明の化合物の製造方法を説明するための図である。
【
図9】本発明の化合物の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態のみに限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0013】
1.本発明の説明
【0014】
上記で述べたとおり、メラニンの生合成において、種々の代謝物が産生される。メラニンの生合成経路が
図1に示されている。同図に示されるように、真性メラニン(eumelanin)及び亜メラニン(pheomelanin)はメラノサイト内でチロシンからチロシナーゼ(tyrosinase)によって生合成されたドーパキノンを共通の中間体としている。ドーパキノンがシステイン付加される場合は、ドーパキノンから、5-S-CD、2-S-CD、及び2,5-di-S-CDを経由し、亜メラニンが産生される。ドーパキノンがシステイン付加されない場合は、ドーパキノンから、DHICAを経由して真性メラニンが産生される。これらドーパキノンを起点とした各種代謝物の一部は血中へと漏出し、肝臓でO-メチル化酵素(COMT)により6H5MI2C又は5H6MI2Cへと変換され、最終的に尿中に排泄される。
【0015】
このようなメラニン関連代謝物のうちのいくつかについて、メラノーマの腫瘍マーカーとして利用することが提案されている。例えば上記非特許文献3にも記載されている5-S-CDは、腫瘍マーカーとして臨床において利用される場合がある。しかしながら、5-S-CDは、検査対象となるヒトの状態によっては、腫瘍を有していても異常値を示さない場合や、又は、偽陽性となる場合があると言われている。また、5-S-CDは、日本以外の国ではほとんど測定されていない。メラノーマ腫瘍マーカーの信頼性を向上することは有用であると考えられる。
【0016】
本発明者らは、メラニン関連代謝物の検出又は定量のための質量分析において利用できる新規化合物を開発した。当該新規化合物を利用した質量分析によって、メラニン関連代謝物を高感度且つ高分離能で検出又は定量することができる。
さらに、このようにメラニン関連代謝物の高感度且つ高分離能で検出又は定量することは、メラノーマ検査手法の信頼性を高めることにも貢献する。
【0017】
上記非特許文献2及び3では、HPLCによるメラニン関連代謝物の検出に関して記載されている。しかしながら、これら文献に記載された検出方法は、カテコール構造に由来する蛍光又は電導度を検出するものであり、定量の信頼性に関しては、質量分析のほうがより優れている。
本発明に従う化合物によって、メラニン関連代謝物を質量分析によって定量することが可能である。また、本発明に従う化合物を利用する質量分析によって、メラニン関連代謝物を非常に精確に定量することができる。このように精確に定量することは、メラノーマ検査手法の信頼性を高めることに貢献する。
【0018】
上記非特許文献1には、安定同位体標識された化合物が記載されているが、1つの化合物に導入される重水素の数が合計で5つであり、その合成のためには、高価な重水素試薬を多く用いる必要がある。
本発明により、より少ない数の重水素が導入された安定同位体標識化合物を製造することができる。すなわち、本発明に従う化合物の製造においては、高価な重水素試薬の節約が可能であり、すなわちより低コストで安定同位体標識された化合物を合成することができる。
【0019】
本発明により、例えば臨床検査分野において、質量分析を用いた微量代謝物を高感度で検出することができ、さらに高感度で定量することもできる。本発明は、質量分析装置の種類にかかわらず使用できるものである。例えば臨床検査分野において質量分析による微量代謝物の定量が広く普及するためにはいつでもどこでもどのメーカーの装置でも同じ値が出せることが望ましい。本発明による化合物は、各メーカーの機種間差を問わず、質量分析において利用することができる。これにより、質量分析による微量代謝物の定量の普及を支援することができる。
【0020】
以下で、本発明について、より詳細に説明する。
【0021】
2.第一の実施形態(インドールカルボン酸化合物)
【0022】
本発明は、下記式(I)
【化3】
で表されるインドールカルボン酸化合物を提供する。以下で、式(I)の各構成要素について説明する。
【0023】
式(I)において、X1~X8は、互いに独立に、Cもしくは13Cを表す。
すなわち、X1は、Cもしくは13Cであり、好ましくはCを表す。X2は、Cもしくは13Cであり、好ましくはCを表す。X3は、Cもしくは13Cであり、好ましくはCを表す。X4は、Cもしくは13Cであり、好ましくはCを表す。X5は、Cもしくは13Cであり、好ましくはCを表す。X6は、Cもしくは13Cであり、好ましくはCを表す。X7は、Cもしくは13Cであり、好ましくはCを表す。X8は、Cもしくは13Cであり、好ましくはCを表す。
製造コストの観点から、好ましくは、X1~X8はいずれもCであってよい。
【0024】
式(I)において、Yは、Nもしくは15Nを表し、好ましくはNを表す。製造コストの観点から、好ましくは、Yは、Nである。
【0025】
式(I)において、Mは、H、Na、K、Li、CH
3、又はC
2H
5を表す。
一実施態様において、MはHである。この場合の化合物の例として、例えば安定同位体標識された6H5MI2C又は安定同位体標識された5H6MI2Cが挙げられる。6H5MI2C及び5H6MI2Cの構造は、
図1に示されている。
他の実施態様において、Mは、例えばNa、K、又はLiなどのアルカリ金属であり、好ましくは、Mは、Na又はKである。この実施態様において、Mは、カウンターカチオンであり、例えば化合物の溶解性向上をもたらすことができる。
さらに他の実施態様において、Mは、CH
3又はC
2H
5であってもよい。
【0026】
式(I)において、R1は、H又はDを表し、R4は、H又はDを表し、且つ、R5は、H又はDを表す。
好ましくは、R1、R4、及びR5のうちの1つ又は2つがDであり、残りはHであってよい。R1、R4、及びR5の全てがDであってもよい。
一実施態様において、式(I)において、R1及びR4のいずれか一方又は両方がDを表してよい。例えば、式(I)において、
R1はDであり、R4はDであり、且つR5はHであり;又は、
R1はDであり、R4はHであり、且つR5はHであり;又は、
R1はHであり、R4はDであり、且つR5はHである。
【0027】
式(I)において、R2は、H、CH3、13CH3、C2H5、又は13C2H5を表し、且つ、R3は、H、CH3、13CH3、C2H5、又は13C2H5を表す。好ましくは、R2及びR3のうちの一方又は両方はHを表す。
一実施態様において、R2は、H、CH3、又はC2H5を表し、且つ、R3は、H、CH3、又はC2H5を表す。より好ましくは、R2はH又はCH3を表し、且つ、R3はH又はCH3を表す。
例えば、R2は、H、CH3、又はC2H5を表し、R3は、H、CH3、又はC2H5を表し、且つR2及びR3のうちのいずれか一方がHであってよい。
好ましい実施態様において、R2はHであり、且つ、R3はCH3である。
他の好ましい実施態様において、R2はCH3であり、且つ、R3はHである。
さらに他の好ましい実施態様において、R2はHであり、且つ、R3はHである。
【0028】
本発明の化合物は、少なくとも一つの安定同位体を有する。
例えば、本発明の化合物は、少なくとも1つの安定同位体D(重水素)を有してよい。
例えば、本発明の化合物は、少なくとも1つの安定同位体13Cを有してよい。
例えば、本発明の化合物は、少なくとも1つの安定同位体15Nを有してよい。
これら安定同位体の当該化合物内における位置は、上記で説明したとおりである。
【0029】
好ましい実施態様において、本発明の化合物が有する安定同位体Dの数は、例えば3つ、2つ、又は1つである。当該安定同位体Dは、上記で述べたR1、R4、及びR5として存在しうる。
【0030】
本発明の化合物が有する安定同位体13Cの数は、例えば12以下であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下である。当該安定同位体13Cは、上記で述べたX1~X8として、且つ/又は、R2及び/又はR3の構成要素として存在しうる。
一実施態様において、上記式(I)のうちのX1~X8のうちの1つ以上が、安定同位体13Cであってよく、R2及びR3はいずれも安定同位体13Cを有さない(すなわちH、CH3、又はC2H5を表す)。
他の実施態様において、安定同位体13Cを有さなくてよく、すなわち、X1~X8がいずれもCであり、且つ、R2及びR3はいずれもH、CH3、又はC2H5を表してよい。
【0031】
本発明の化合物が有する安定同位体15Nの数は1以下である。当該安定同位体15Nは、上記で述べたYとして存在しうる。
【0032】
一実施態様において、本発明の安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物は、以下の式(II)により表される化合物であってよい。
【化4】
【0033】
式(II)において、上記のとおり、2つのRは、互いに独立に、H又はCH3である。また、インドール環を構成するH及び/又はCのいずれか1つ以上が安定同位体D又は安定同位体13Cであってよく、好ましくはインドール環のうちの六員環(特には4位及び7位)に2つのDが結合していてよい。
【0034】
好ましくは、本発明の安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物は、以下の式(III)又は(IV)により表される化合物であってよい。本明細書内において、式(III)の化合物は、以下に記載のとおり、6H5MIC-4,7-d
2又は6H5MIC-d
2とも呼ばれ、式(IV)の化合物は、5H6MI2C-4,7-d
2又は5H6MI2C-d
2とも呼ばれる。
【化5】
【0035】
メラニン関連代謝物のうち6H5MIC及び5H6MI2Cは、メラノーマ腫瘍マーカーとして有用である。式(III)及び(IV)の安定同位体標識化合物を内部標準物質として利用した質量分析によって6H5MIC及び5H6MI2Cを精確に定量することができ、この精確な定量は、6H5MIC及び5H6MI2Cが腫瘍マーカーとしての有用性を発揮することに貢献する。
【0036】
本発明の化合物は、例えば安定同位体標識されたL-DOPAを出発物質として合成することができる。安定同位体標識されたL-DOPAを用いた本発明の化合物の合成は、当技術分野で既知の手法を用いて実行されてよく、例えば後述の実施例に示されるように実行されてよい。
安定同位体標識されたL-DOPAは、当技術分野において既知の手法によって製造されてよく、又は、市販入手可能でもある。安定同位体標識されたL-DOPA の合成について以下に説明する。
L-DOPAは、例えばベンゼン、ピルビン酸、及びアンモニアから合成される。当該合成は、例えば、Min, K.; Park, K.; Park, D-H.; Yoo, Y. J. Overview on the biotechnological production of L-DOPA. Appl. Microbiol. Biotechnol. 2015, 99, 575-584.に記載された方法に従い実行されることができる。
前記L-DOPA合成において用いられる化合物のうち、前記ベンゼンは、例えばアセチレンから合成されることができる。当該アセチレンとして安定同位体標識されたアセチレンを用いることにより、安定同位体標識されたベンゼンが得られる。例えば特開2008-266149号公報に安定同位体標識されたアセチレンを用いた
13C標識ベンゼンの製造方法が記載されており、このような製造方法が、安定同位体標識されたベンゼンを得るために用いられてよい。このように、安定同位体標識されたアセチレンを用いることによって、
図8に示されるように、式(I)のうちの6員環部分(X
3~X
8)に安定同位体標識を導入することができる。
前記L-DOPA合成において用いられる化合物のうち前記ピルビン酸及び前記アンモニアに関しては、安定同位体標識されたピルビン酸及びアンモニアが市販入手可能であり、又は、安定同位体標識されたピルビン酸及びアンモニアは、当技術分野で既知の手法により合成されてもよい。当該ピルビン酸によって、
図8に示されるように、式(I)のうちの5員環部分(X
1~X
2)に安定同位体標識を導入することができる。当該アンモニアによって、同図に示されるように、式(I)のうちの窒素(Y)に安定同位体標識を導入することができる。
このように、式(I)の化合物の骨格を形成する炭素又は窒素は、各元素に対応する原料化合物として安定同位体標識された化合物を適宜用いることによって、安定同位体標識することができる。
また、式(I)のうちの重水素標識(R
1、R
4、及びR
5)に関しては、例えば
図9に示されるように、重水を用いたH-D交換によって導入することができる。
例えば
図9に示されるように、安定同位体標識されたアセチレンを用いたゼオライト触媒下での反応により安定同位体標識されたベンゼンを合成することができる。当該ベンゼンを、重水を用いてH-D交換処理に付すことによって、当該ベンゼンは、重水素標識される。当該ベンゼンに対して酸化処理を実行することでヒドロキシ基が導入されてカテコールが得られる。当該カテコールに対して、βチロシナーゼを用いて、安定同位体標識されたピルビン酸及び安定同位体標識されたアンモニアを反応させることで、同図に示されるように安定同位体標識されたL-DOPAが得られる。当該L-DOPAを用いて、本発明の化合物が合成されてよい。
【0037】
3.第二の実施形態(混合物)
【0038】
本発明は、上記2.において述べた本発明に従う安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物のうちの互いに異なる2種以上のインドールカルボン酸化合物の混合物も提供する。
すなわち、本発明は、下記式(I)によって表される安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物のうちの互いに異なる2種以上の化合物の混合物も提供する。
【化6】
[式(I)において、
X
1~X
8は、互いに独立に、Cもしくは
13Cを表し、
Yは、Nもしくは
15Nを表し、
Mは、H、Na、K、Li、CH
3、又はC
2H
5を表し、
R
1は、H又はDを表し、
R
2は、H、CH
3、
13CH
3、C
2H
5、又は
13C
2H
5を表し、
R
3は、H、CH
3、
13CH
3、C
2H
5、又は
13C
2H
5を表し、
R
4は、H又はDを表し、
R
5は、H又はDを表す。]
上記2.において述べた式(I)に関する説明が、本実施形態についても当てはまる。
【0039】
前記混合物も、上記で述べたように質量分析において内部標準物質として利用できる。前記混合物に含まれる前記2種以上の化合物は、好ましくは分子量が同じである。例えば、前記混合物に含まれる前記2種以上の化合物は、R2及びR3の構造においてのみ異なるものであってよく、且つ、分子量は同じである。
化学構造が似ている生体試料中の2種以上のインドールカルボン酸化合物(特には分子量が同じ2種以上の化合物)は、別個独立に検出又は定量される必要が無い場合もある。そのような場合は、コスト低減のために、内部標準物質も上記のような混合物であってもよい。
【0040】
前記混合物は、R2がHである前記式(I)のインドールカルボン酸化合物、及び、R3がHである前記式(I)のインドールカルボン酸化合物を少なくとも含んでよい。例えば、前記混合物は、安定同位体標識された5H6MI2C 及び安定同位体標識された6H5MI2Cの2種を有する混合物であってよい。例えば、前記混合物は、式(III)の化合物(6H5MIC-4,7-d2)及び式(IV)の化合物(5H6MI2C-4,7-d2)を含む混合物であってよく、特にはこれら2種の化合物のみを含んでよい。
【0041】
4.第三の実施形態(分析方法)
【0042】
本発明は、上記2.において説明したインドールカルボン酸化合物又は上記3.において説明した混合物を用いる分析方法も提供する。当該分析方法において、前記インドールカルボン酸化合物又は前記混合物は、標準物質として用いられてよく、より特には内部標準物質として用いられてよい。
【0043】
前記分析方法は、安定同位体標識されていないこと以外は上記2.において説明した本発明のインドールカルボン酸化合物と同じインドールカルボン酸化合物を分析対象物とする分析方法であってよい。当該分析対象物は、例えば本発明の前記インドールカルボン酸化合物に含まれる安定同位体(D、13C、及び15N)の代わりに対応する原子(H、C、及びN)を有するインドールカルボン酸化合物であってよい。
【0044】
前記混合物が用いられる場合においても、前記分析方法は、安定同位体標識されていないこと以外は上記2.において説明した本発明のインドールカルボン酸化合物と同じインドールカルボン酸化合物を分析対象物とする分析方法であってよい。当該分析方法は、特には質量分析方法であってよい。前記混合物が用いられる場合において、分析対象物は、安定同位体標識されていないこと以外は、前記混合物を構成する本開示に従う2以上のインドールカルボン酸化合物と同じ化合物のうちのいずれか一つ以上であってよい。
例えば、前記混合物が、式(III)の化合物(6H5MIC-4,7-d2)及び式(IV)の化合物(5H6MI2C-4,7-d2)を含む混合物である場合において、分析対象物は、5H6MI2C及び6H5MI2Cのいずれか一方又は両方であってよい。当該分析方法において、5H6MI2C及び6H5MI2Cは区別されずに分析されてもよい。
【0045】
当該分析方法は、質量分析を実行することを含んでよい。当該質量分析において、本発明に従うインドールカルボン酸化合物又は本発明に従う混合物が標準物質(特には内部標準物質)として用いられて、前記分析対象物が検出又は定量されてよい。
【0046】
当該質量分析は、例えば生体試料中のインドールカルボン酸化合物を検出又は定量するものであってよい。特には、当該質量分析は、生体試料中に含まれる安定同位体標識されていないインドールカルボン酸化合物を検出又は定量するためのものであってよい。前記生体試料中のインドールカルボン酸化合物は、例えば5H6MI2C及び6H5MI2Cのいずれか一方又は両方であってよい。
【0047】
一実施態様において、当該生体試料中のインドールカルボン酸化合物は、メラノーマの腫瘍マーカーであってよい。例えば、5H6MI2C及び6H5MI2Cは、メラノーマの腫瘍マーカーとして有望である。本発明の分析方法は、このようなメラノーマ腫瘍マーカーを検出又は定量することを含んでよく、特にはこのようなメラノーマ腫瘍マーカーを質量分析によって検出又は定量することを含んでよい。
【0048】
さらに、本発明の分析方法は、前記検出又は前記定量の結果に基づき、前記生体試料が由来するヒトにおけるメラノーマのリスクに関するデータ、前記生体試料が由来するヒトにおけるメラノーマの有無に関するデータ、又は、前記生体試料が由来するヒトにおけるメラノーマの進行度に関するデータを生成することを含んでよい。
【0049】
前記質量分析は、分析対象物をイオン化することを含んでよい。当該イオン化は、例えばエレクトロスプレーイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)、又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)によるイオン化であってよいが、これら以外のイオン化法によるイオン化であってもよい。
【0050】
前記質量分析は当技術分野において用いられる質量分析装置によって実行されてよく、例えば液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置(LC-MS/MS)又はマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析装置(MALDI-MS)によって実行されてよいが、質量分析を実行する装置はこれらに限定されない。
質量分析の具体的な手順は、例えば試料の種類などに応じて当業者が適宜設定することができる。
【0051】
5.実施例
【0052】
以下で実施例を参照して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]重水素標識された6H5MI2C及び5H6MI2Cの合成
【0054】
重水素標識された6H5MI2C及び5H6MI2C(すなわち式(III)及び式(IV)の化合物)を以下の手順で合成した。反応経路は
図2に示す。
【0055】
0.1 g (0.5 mmol) のL-dopa (Ring-d3、98%、Cambridge Isotope Laboratories, Inc. MA, USA、同図の化合物i) を100 mLナスフラスコに採り、蒸留水50 mLを加え、不活性ガス雰囲気下スターラーで攪拌して溶解させ、L-dopa (Ring-d3)水溶液を得た。ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムK3[Fe(III)(CN)6] 660 mg及び炭酸水素ナトリウムNaHCO3 250 mgを蒸留水6 mLに溶解した。当該溶解液を、不活性ガス雰囲気下で撹拌しながら前記L-dopa(Ring-d3)水溶液へ5分間かけて全量を滴下した。当該滴下終了後、直ちに1 M水酸化ナトリウム水溶液7 mLを加え、引き続き不活性ガス雰囲気下で15分間攪拌した。6 M塩酸1.7 mLを加えて反応を停止した。このようにして、同図の化合物iからivへの変換を行った。同図中の化合物ii及びiiiは、当該反応における中間体である。
【0056】
不活性ガス雰囲気下、反応溶液に対し酢酸エチル25 mLで3回抽出を行なった。得られた抽出液を合わせ、19 mgのピロ亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)を含む10 mLの飽和食塩水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。当該硫酸マグネシウムを濾別し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。当該濃縮によって得られた残渣をアセトン2.5 mLで溶解し、ヘキサン10 mLを加えて生じた褐色の油状物を除去した。当該除去後、さらに15 mLのヘキサンを加え、生じた白色の沈殿をデカンテーションした後、数回ヘキサンで洗浄し、減圧乾燥させて5,6-Dihydroxyindole-2-carboxylic acid-d2(DHICA-d2)約25 mgを得た(同図の化合物iv)。
【0057】
DHICA-d2約20 mgをメタノール・酢酸エチル1:1混合溶液4 mLに溶解して溶解液を得た。当該溶解液に、トリメチルシリルジアゾメタン(10%ヘキサン溶液、約0.6M)0.8 mLを2回添加し、遮光不活性ガス雰囲気閉栓下で室温4時間程度静置した。1時間おきに微小量をサンプリングしてLC-MSによりメチル化の進行具合を確認し、メタノール・ギ酸1:1混合溶液0.1 mLを添加して反応を停止し、複数本のPPチューブに移して遠心エバポレーターで乾固させた。この時点で得られた固体は、Methyl 5,6-dihydroxyindole-2-carboxylate-d2、Methyl 5-hydroxy-6-methoxy-indole-2-carboxylate-d2、Methyl 6-hydroxy-5-methoxy-indole-2-carboxylate-d2、Methyl 5,6-dimethoxyindole-2-carboxylate-d2などのメチルエステルの混合物である。
ここでは入手及び取り扱いの容易さからトリメチルシリルジアゾメタンがメチル化剤として用いたが、例えばジアゾメタンなど他のメチル化剤を用いてもよい。
【0058】
前記混合物を酢酸エチルに溶解し、クロロホルムを展開溶媒として分取薄層クロマトグラフィーで分取した。各成分に対応するバンドを十分に分離するためには、クロロホルムによる5回程度の多重展開を行うことが必要である。各成分は蛍光物質なので、UVランプで容易に確認が行なえる。またいずれも酸化されて黒褐色になり易いので、展開槽は不活性ガス置換し、遮光下で展開し、溶媒を揮発させる際も、不活性ガスパージするのが望ましい。
【0059】
複数枚の薄層プレートから集めた同一成分バンドを合わせて酢酸エチルによって抽出し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。この時点ではさらなる精製は行なわず、メチルエステルを加水分解してカルボン酸を得る工程に進んだ。ここで言うメチルエステルは、Methyl 5-hydroxy-6-methoxy-indole-2-carboxylate-d
2、Methyl 6-hydroxy-5-methoxy-indole-2-carboxylate-d
2 もしくはそれら2種類の化合物の任意比率の混合物である。10~30 mg程度のメチルエステルを加水分解する工程では、メチルエステルを100 mLナスフラスコに採り、Na
2S
2O
5380 mgを6 mLの70%エタノールに溶かした溶液を加えて不活性ガス雰囲気下37℃で90分間攪拌後、1 M塩酸約10 mLを加えてpH=1へと調整した。10 mLの酢酸エチルで3回抽出し、合わせた抽出液を飽和食塩水4 mLで2回洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥及び濾別した後、ロータリーエバポレーターで濃縮した。アセトン-ヘキサンで再結晶して目的の5-Hydroxy-6-methoxy-indole-2-carboxylic acid-d
2(同図の化合物vii、X=D)及び6-Hydroxy-5-methoxy-indole-2-carboxylic acid-d
2を得た(同図の化合物viii、X=D)。
図3および
図4に、5H6MI2C-d
2および6H5MI2C-d
2のNMRスペクトルを示す(溶媒:重DMSO)。
【0060】
トリメチルシリルジアゾメタンやジアゾメタンによるメチル化では、5H6MI2C(5H6MI2C-d2)が6H5MI2C(6H5MI2C-d2)の2~3倍多く得られた。最終的な用途(例えば質量分析用途)において、5H6MI2C-d2及び6H5MI2C-d2を混合して使用する場合や、混在していても使用目的の妨げとならない場合がある。そのような場合の例として、試料中の5H6MI2C及び6H5MI2Cの合計量を特定することが求められる場合や、試料中に5H6MI2C及び6H5MI2Cのうちのいずれか一方又は両方が存在するかを検出できればよく、どちらが存在するかまでは特定する必要が無い場合が挙げられる。
このような場合において、両者のメチルエステルの薄層クロマトグラフィーによる分取は、厳密に行わなくてもよい。また、場合によっては、両者のメチルエステルの混合物(この時点で適当な混合比、例えば1:1などに調整しておくことも可能)を1つの反応容器で加水分解させることもできる。
【0061】
図5A及び
図5Bに上記の方法によって合成した5H6MI2C-d
2と6H5MI2C-d
2の混合物のLC/MS ESIネガティブスキャンによる同定結果を示す。いずれもカルボン酸のプロトンが脱離したm/z=208のピークが確認される。
【0062】
[実施例2]プール血清中の6H5MI2Cおよび5H6MI2CのLC-MS/MS分析
(1)キャリブレーターの調製
5H6MI2C及び6H5MI2Cの標品を、ホルモンフリー血清であるMSG3000(Golden West Biologicals)に添加し、下記表1に示される濃度で調製した。
【0063】
【0064】
(2)IS(内部標準)溶液の調製
5H6MI2C-d2及び6H5MI2C-d2の高濃度溶液(1μg/mL, 30%アセトニトリル溶液)を4%リン酸で5ng/mLになるように希釈して調製した。
【0065】
(3)サンプル前処理
以下の手順でサンプル前処理を行った。
1. SPE(固相)抽出
1)血清30μL とIS溶液100μLを混合した。
2) Oasis PRiME HLB 96-well μElution Plate (Water社)に血清・IS混合溶液 130μLをロードした。
3)5%メタノール 200μLを加え、洗浄した。
4) 95%メタノール100μLを加え、溶出した。これを2回繰り返した。
2. 乾固:窒素吹付 or 遠心濃縮 約20分
3. 20%アセトニトリル溶液50μLを加え、LC-MS/MS分析用のサンプルとした。
【0066】
(4)LC分析条件
LC分析条件は以下のとおりであった。
装置:Waters社 ACQUITY UPLC I-Class
分析カラム:Waters社 ACQUITY UPLC BEH C18 1.7 mm I.D ×50mm
溶出条件:流速0.4 mL/min 溶媒A:0.1% ギ酸-水 B:0.1% ギ酸-アセトニトリル
溶出条件詳細は以下表2に示されるとおりであった。
【0067】
【0068】
(5)MS/MS分析条件
MS/MS分析条件は以下のとおりであった。
装置:Waters社 Xevo TQ-XS 三連四重極型質量分析計
イオン化条件:ESI負イオンモード
SRMパラメーターは以下表3に示されるとおりであった。
【0069】
【0070】
・分析結果
図6A及び
図6Bに、5H6MI2C及び 6H5MI2Cの検量線がそれぞれ示されている。
図7に、プール血清中の5H6MI2C及び6H5MI2C のSRMクロマトグラムが示されている。
【0071】
・プール血清中の5H6MI2C及び6H5MI2Cの定量値
上記の分析結果に基づき、プール血清中の5H6MI2C濃度及び6H5MI2C濃度はそれぞれ0.41 ng/mL及び0.59 ng/mLと定量された。
このように、本発明に従う安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物を用いた質量分析によって、5H6MI2C及び6H5MI2Cを定量することができる。また、5H6MI2C及び6H5MI2Cは生体試料中に極めて微量で存在するが、本発明に従う安定同位体標識されたインドールカルボン酸化合物を用いた質量分析には、そのような微量なメラニン関連代謝物を検出及び定量することができる。
【0072】
[臨床検体の測定及び解析]
上記実施例2において説明した方法によって、約80の臨床検体(メラノーマを有する検体)について、血清中の5H6MI2C及び6H5MI2Cを定量し、5H6MI2C及び6H5MI2Cの腫瘍マーカーとしての適性を評価した。その結果、これらの腫瘍マーカーは、疾患の進行とともに上昇して病勢を反映し、腫瘍マーカーとして十分に有用であることが示された。