IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAメタルマイン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ルテニウムの回収方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051346
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ルテニウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20240404BHJP
   C22B 3/12 20060101ALI20240404BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20240404BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20240404BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/12
C22B3/04
C22B3/22
C22B3/44 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157469
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】荒川 和也
(72)【発明者】
【氏名】深川 駿
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA03
4K001AA09
4K001AA20
4K001AA21
4K001AA26
4K001AA34
4K001AA35
4K001AA41
4K001CA01
4K001DB07
4K001DB08
4K001DB16
4K001DB23
4K001HA12
4K001KA13
(57)【要約】
【課題】ルテニウムを簡便に効率よく濃縮できる回収方法を提供する。
【解決手段】ルテニウムと、アンチモンと、鉛と、銅と、を含むルテニウム含有混合物をアルカリ溶融させ、アルカリ溶融物を得る工程と、アルカリ溶融物に水を添加して、ルテニウムと、アンチモンと、鉛と、銅と、を含むルテニウム含有溶液を得る工程と、ルテニウム含有溶液に、酸を添加する工程と、ルテニウム含有溶液から、ルテニウムを回収する工程と、を有し、酸を添加する工程では、ルテニウム含有溶液中の、アンチモンに対するルテニウムの濃度比、鉛に対するルテニウムの濃度比、および、銅に対するルテニウムの濃度比を上昇させる、ルテニウムの回収方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウムと、アンチモンと、鉛と、銅と、を含むルテニウム含有混合物をアルカリ溶融させ、アルカリ溶融物を得る工程と、
前記アルカリ溶融物に水を添加して、ルテニウムと、アンチモンと、鉛と、銅と、を含むルテニウム含有溶液を得る工程と、
前記ルテニウム含有溶液に、酸を添加する工程と、
前記ルテニウム含有溶液から、前記ルテニウムを回収する工程と、を有し、
前記酸を添加する工程では、前記ルテニウム含有溶液中の、前記アンチモンに対する前記ルテニウムの濃度比、前記鉛に対する前記ルテニウムの濃度比、および、前記銅に対する前記ルテニウムの濃度比を上昇させる、ルテニウムの回収方法。
【請求項2】
前記ルテニウム含有溶液に水酸化ナトリウムを添加して、前記アンチモンを除去する工程をさらに有する、請求項1に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項3】
前記アンチモンを除去する工程は、前記酸を添加する工程の後に行う、請求項2に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項4】
前記酸を添加する工程では、前記ルテニウム含有溶液のpHが10以上12以下となるように、前記酸を添加する、請求項1に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項5】
前記酸を添加する工程では、前記ルテニウム含有溶液の液温を50度以上80度以下に制御する、請求項1に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項6】
前記ルテニウムを回収する工程では、前記ルテニウム含有溶液に還元剤を添加して、前記ルテニウムを沈殿させる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のルテニウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウムの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウム含有混合物からルテニウム(Ru)を回収する方法として、アルカリ溶融を用いる方法が知られている。例えば、特許文献1には、ルテニウム含有混合物をアルカリ溶融した後、溶融残留物を水で浸出し、還元剤を添加するルテニウムの回収方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5376437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ルテニウム含有混合物に、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、銅(Cu)等が含まれている場合、特許文献1等に記載されている従来の方法では、アルカリ溶融後の水浸出時に、アンチモン、鉛、銅がルテニウムと一緒に多く溶けてしまうため、ルテニウムを濃縮することが難しいという課題がある。
【0005】
本発明の一実施形態は、ルテニウムを簡便に効率よく濃縮できる回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、
ルテニウムと、アンチモンと、鉛と、銅と、を含むルテニウム含有混合物をアルカリ溶融させ、アルカリ溶融物を得る工程と、
前記アルカリ溶融物に水を添加して、ルテニウムと、アンチモンと、鉛と、銅と、を含むルテニウム含有溶液を得る工程と、
前記ルテニウム含有溶液に、酸を添加する工程と、
前記ルテニウム含有溶液から、前記ルテニウムを回収する工程と、を有し、
前記酸を添加する工程では、前記ルテニウム含有溶液中の、前記アンチモンに対する前記ルテニウムの濃度比、前記鉛に対する前記ルテニウムの濃度比、および、前記銅に対する前記ルテニウムの濃度比を上昇させる、ルテニウムの回収方法である。
【0007】
本発明の第2の態様は、
前記ルテニウム含有溶液に水酸化ナトリウムを添加して、前記アンチモンを除去する工程をさらに有する、上記第1の態様に記載のルテニウムの回収方法である。
【0008】
本発明の第3の態様は、
前記アンチモンを除去する工程は、前記酸を添加する工程の後に行う、上記第2の態様に記載のルテニウムの回収方法である。
【0009】
本発明の第4の態様は、
前記酸を添加する工程では、前記ルテニウム含有溶液のpHが10以上12以下となるように、前記酸を添加する、上記第1の態様に記載のルテニウムの回収方法である。
【0010】
本発明の第5の態様は、
前記酸を添加する工程では、前記ルテニウム含有溶液の液温を50度以上80度以下に制御する、上記第1の態様に記載のルテニウムの回収方法である。
【0011】
本発明の第6の態様は、
前記ルテニウムを回収する工程では、前記ルテニウム含有溶液に還元剤を添加して、前記ルテニウムを沈殿させる、上記第1から第5のいずれか1つの態様に記載のルテニウムの回収方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、ルテニウムを簡便に効率よく濃縮できる回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る、ルテニウム回収方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<発明者の得た知見>
まず、発明者が得た知見について説明する。
【0015】
発明者は、ルテニウム含有混合物から、ルテニウムを簡便に効率よく濃縮できる回収方法について鋭意検討を行った。その結果、例えば、アルカリ溶融、水浸出の後、還元剤を添加する前に、ルテニウム含有溶液に酸(例えば、硫酸)を添加することで、アンチモン、鉛、および銅を除去できることがわかった。これにより、ルテニウムを簡便に効率よく濃縮できる。上記方法によれば、元のルテニウム品位が低い場合でも、ルテニウムを効率よく濃縮(回収)することが可能となる。
【0016】
アルカリ溶融、水浸出の後のルテニウム含有溶液は、例えば、pHが12超の強いアルカリ性になっている。そのため、特許文献1に記載のように、その強いアルカリ性を活かして還元をすることでルテニウムを回収しようとするのが従来の技術常識であった。また、高アルカリ状態において、中和領域とまでならない程度に酸を添加しても、所望の元素への反応は限定的であり、鉛等は充分に反応しないと予想されていた。さらに、ルテニウムは高アルカリ状態だからこそ存在できると考えられ、酸の添加によりpHを下げると、他の不純物と一緒に沈殿してしまうと考えられていた。しかしながら、上記方法では、ルテニウム含有溶液に敢えて酸を添加し、折角の強いアルカリ性を打ち消すような操作を行うことで、ルテニウムを濃縮している。上記方法により、アンチモン、鉛、および銅が除去できるメカニズムは定かではないが、例えば、硫酸の添加により、硫酸カリウム等が沈殿することで、アンチモン、鉛、および銅の錯体が形成され難くなり、析出が促進されることが予想される。
【0017】
また、特許文献1に記載のように、アルカリ溶融、水浸出後のルテニウム含有溶液を還元する場合、還元後の残液を中和する際に酸を添加する必要がある。上記方法では、残液の中和に用いる酸を、先に添加していると見なすこともできるため、特許文献1等に記載されている方法と比べて、特段多くの酸が必要という訳でもなく、コスト面でもメリットがある。
【0018】
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0019】
なお、本明細書において、「A~B」とは、「A以上B以下」の数値範囲であることを意味する。
【0020】
<本発明の第1実施形態>
まず、本実施形態のルテニウム回収方法について説明する。図1は、本実施形態のルテニウム回収方法の一例を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態のルテニウム回収方法は、例えば、ルテニウム含有混合物10からスタートし、アルカリ溶融工程S101と、水浸出工程S102と、酸添加工程S103と、脱アンチモン工程S104と、還元工程S105と、を経て、ルテニウム濃縮物50を得る方法である。なお、図1において、Lは、各工程において固液分離した際の液体側を示し、Sは固体側を示している。
【0021】
ルテニウム含有混合物10は、ルテニウムと、アンチモンと、鉛と、銅と、を含んでいる。また、ルテニウム含有混合物10は、例えば、テルル(Te)、ヒ素(As)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)等をさらに含んでいてもよい。ルテニウム含有混合物10は、事前に粉砕し、微細粉末(例えば、粒径250μm以下)としておいてもよい。
【0022】
ルテニウム含有混合物10に含まれている各金属元素の品位(含有量)は、特に限定されないが、例えば、ルテニウムが0.01~10重量%、アンチモンが0.01~80重量%、鉛が0.01~90重量%、銅が0.01~90重量%、テルルが0.01~80重量%、ヒ素が0.01~80重量%、カリウムが0.01~10重量%、ナトリウムが0.01~10重量%である。なお、アンチモンが45重量%以上である場合、例えば、別途アンチモンを分離回収する工程を行ってもよい。
【0023】
本実施形態のルテニウム回収方法は、ルテニウムの品位(質量%)が、アンチモン、鉛、銅に比べて低い場合に特に有効である。具体的には、例えば、ルテニウム含有混合物10中の、アンチモンに対するルテニウムの品位比(Ru/Sb)が、0.01~1であることが好ましい。また、例えば、鉛に対するルテニウムの品位比(Ru/Pb)が、0.01~1であることが好ましい。また、例えば、銅に対するルテニウムの品位比(Ru/Cu)が、0.01~1であることが好ましい。特に、鉛およびアンチモンの和に対するルテニウムの品位比(Ru/(Pb+Sb))が、例えば、0.001~1である場合、従来法ではルテニウムを濃縮することが困難であるが、本実施形態のルテニウム回収方法であれば、ルテニウムを簡便に効率よく濃縮することができる。
【0024】
(アルカリ溶融工程S101)
アルカリ溶融工程S101は、例えば、ルテニウム含有混合物10をアルカリ溶融させる工程である。具体例には、例えば、水酸化カリウムを400~450℃で溶融させた溶融物に、ルテニウム含有混合物10を混合したものを導入する。ここで、酸化剤として、硝酸カリウムを入れても良い。得られたアルカリ溶融物は、例えば、室温まで冷ます。
【0025】
(水浸出工程S102)
水浸出工程S102は、例えば、アルカリ溶融工程S101で得られたアルカリ溶融物に水を添加して各金属元素を浸出させ、ルテニウムを含むルテニウム含有溶液20を得る工程である。本工程は、水を添加するため水浸出としている。水浸出後に固液分離することで、ルテニウムを含むルテニウム含有溶液20と、水浸出残渣21とが得られる。なお、水浸出残渣21には、ルテニウムはほとんど含まれていないため、廃棄してもよいし、他の金属を回収するための原料として用いてもよい。
【0026】
水浸出工程S102では、次の酸添加工程S103において、ルテニウム含有溶液20と酸との反応が均一に行われるように、水を添加し(つまり、水で希釈し)、ルテニウム含有溶液20の粘度を下げることが好ましい。なお、水の添加によって、ルテニウム含有溶液20のpHが下がり過ぎた場合、例えば、アルカリ剤(pH上昇剤)を添加してpHを調整してもよい。この際、アルカリ剤は、軽金属を含んでいてもよいが、次の酸添加工程S103において、酸の消費を抑えるため、重金属を含まないものが好ましい。
【0027】
ルテニウム含有溶液20は、ルテニウムと、アンチモンと、鉛と、銅と、を含んでおり、強いアルカリ性(例えば、pH12超)を有している。本実施形態のルテニウム回収方法は、以降の工程により、ルテニウム含有溶液20から、アンチモン、鉛、および銅を除去し、ルテニウムを濃縮する。つまり、本実施形態のルテニウム回収方法は、アルカリ溶融、水浸出後のルテニウム含有溶液20からルテニウムを回収する湿式法の方法とすることもできる。また、ルテニウム含有溶液20に水酸化ナトリウム等のアルカリを添加し、固液分離をすることでアンチモンを低減分離(除去)することもできる。
【0028】
(酸添加工程S103)
酸添加工程S103は、例えば、ルテニウム含有溶液20に還元剤を添加する前に、酸(本実施形態では硫酸)を添加する工程である。酸を添加した後に、固液分離することで、ルテニウムを含む酸添加後ルテニウム含有溶液30と、酸添加後残渣31とが得られる。本実施形態のルテニウム回収方法は、特許文献1等に記載されている従来法とは異なり、還元剤を添加する前に、硫酸を添加する。これにより、アンチモン、鉛、銅を除去し、ルテニウムを簡便に効率よく濃縮することができる。なお、酸添加後残渣31には、ルテニウムはほとんど含まれていないため、廃棄してもよいし、銅等の他の金属を回収するための原料としてもよい。
【0029】
酸添加工程S103では、溶液中の、アンチモンに対するルテニウムの濃度比(Ru/Sb)、鉛に対するルテニウムの濃度比(Ru/Pb)、および、銅に対するルテニウムの濃度比(Ru/Cu)を上昇させる。つまり、ルテニウム含有溶液20中の濃度比(Ru/Sb)よりも、酸添加後ルテニウム含有溶液30中の濃度比(Ru/Sb)を大きくし、ルテニウム含有溶液20中の濃度比(Ru/Pb)よりも、酸添加後ルテニウム含有溶液30中の濃度比(Ru/Pb)を大きくし、ルテニウム含有溶液20中の濃度比(Ru/Cu)よりも、酸添加後ルテニウム含有溶液30中の濃度比(Ru/Cu)を大きくする。これは、酸添加工程S103において、ルテニウムをロスすることなく、アンチモン、鉛、銅を除去していることを意味している。これにより、ルテニウムを簡便に効率よく濃縮することができる。
【0030】
酸添加工程S103では、ルテニウム含有溶液20に、濃硫酸を添加してもよいし、所定の濃度(例えば、50%)の硫酸(希硫酸)を添加してもよい。アンチモン、鉛、銅等を沈殿させる反応を適切な速さで行うという観点、また、液量を増やし過ぎないという観点からは、例えば、ルテニウム含有溶液20に、30%以上70%以下の濃度の硫酸を添加することが好ましい。
【0031】
酸添加工程S103では、ルテニウム含有溶液20のpHが10以上12以下となるように、酸を添加することが好ましい。ルテニウム含有溶液20のpHが10未満になるまで酸を添加すると、ルテニウムを多くロスしてしまう可能性がある。また、ルテニウム含有溶液20のpHが12超の状態では、アンチモン、鉛、銅を充分に除去できない可能性がある。これに対し、ルテニウム含有溶液20のpHが10以上12以下となるように酸を添加することで、ルテニウムのロスを低減しつつ、アンチモン、鉛、銅を効率よく除去することができる。
【0032】
酸添加工程S103では、ルテニウム含有溶液20の液温を50度以上80度以下に制御することが好ましい。これにより、ルテニウムのロスを低減しつつ、鉛等を効率よく除去することができる。
【0033】
酸添加工程S103におけるその他の各条件は、例えば、以下の通りである。
ORP(酸化還元電位、vsAgCl):0~1000mV
反応時間:1~120分
【0034】
(脱アンチモン工程S104)
脱アンチモン工程S104は、例えば、酸添加工程S103で得られた酸添加後ルテニウム含有溶液30に水酸化ナトリウムを添加して、アンチモンを除去する工程である。水酸化ナトリウムを添加した後に、固液分離することで、ルテニウムを含む脱アンチモン後ルテニウム含有溶液40と、脱アンチモン残渣41とが得られる。なお、脱アンチモン残渣41には、ルテニウムはほとんど含まれていないため、廃棄してもよいし、アンチモン等を回収するための原料として用いてもよい。
【0035】
脱アンチモン工程S104は、酸添加工程S103の後に行うことが好ましい。これにより、アンチモンをさらに効率よく除去することができる。
【0036】
脱アンチモン工程S104におけるその他の各条件は、例えば、以下の通りである。
pH:10~14
ORP:0~1000mV
液温:0~95℃
反応時間:1~120分
【0037】
(還元工程S105)
還元工程S105は、例えば、脱アンチモン工程S104で得られた脱アンチモン後ルテニウム含有溶液40に還元剤を添加して、ルテニウムを沈殿させることで、ルテニウムを回収する工程である。還元剤としては、例えば、エタノール、メタノール等のアルコール、または、水素化ホウ素ナトリウム(SBH)等の無機還元剤を用いることができる。還元剤を添加した後に、固液分離することで、ルテニウム濃縮物50と、還元溶液51とを得ることができる。なお、還元溶液51には、ルテニウムはほとんど含まれていないため、廃棄してもよいし、他工程の酸を中和するアルカリ剤として使用してもよい。
【0038】
還元工程S105におけるその他の各条件は、例えば、以下の通りである。
pH:10~16
ORP:-1000~100mV
液温:0~95℃
反応時間:0.1~60分
【0039】
以上の工程により、ルテニウム含有混合物10(またはルテニウム含有溶液20)から、ルテニウムを効率よく濃縮(回収)することができる。本実施形態のルテニウム回収方法によれば、例えば、ルテニウム濃縮物50中のルテニウムの品位を、20重量%以上(好ましくは40重量%以上)とすることが可能である。また、ルテニウム濃縮物50中の、アンチモンに対するルテニウムの品位比(Ru/Sb)を5以上(好ましくは10以上)とすることが可能であり、鉛に対するルテニウムの品位比(Ru/Pb)を1以上(好ましくは5以上、より好ましくは100以上)とすることが可能であり、銅に対するルテニウムの品位比(Ru/Cu)を10以上(好ましくは100以上)とすることが可能である。
【0040】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0041】
例えば、上述の実施形態では、酸添加工程S103において、硫酸を添加する場合について説明したが、硫酸以外の酸(例えば、塩酸や硝酸)や、硫酸基を有する化合物(固体、液体を問わない)を添加してもよい。なお、アンチモン、鉛、および銅を効率的に除去するという観点からは、硫酸を添加することが好ましい。
【0042】
また、例えば、上述の実施形態では、酸添加工程S103の後に、脱アンチモン工程S104を行う場合について説明したが、脱アンチモン工程S104は、酸添加工程S103の前に行ってもよいし、省略してもよい。なお、ルテニウム濃縮物50中のルテニウムの品位をより高くするという観点からは、上述の実施形態のように、酸添加工程S103の後に、脱アンチモン工程S104を行うことが好ましい。一方、工程数を少なくし、より簡便にルテニウムを濃縮するという観点からは、脱アンチモン工程S104を省略することが好ましい。
【実施例0043】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0044】
(実施例1)
実施例1は、酸添加工程S103および脱アンチモン工程S104の具体例を示す実施例である。まず、表1に示す組成のルテニウム含有混合物10を準備し、400~450℃でアルカリ溶融工程S101を行い、その後、80℃で水浸出工程S102を行うことで、ルテニウム含有溶液20(試料1、試料2、試料3、試料4、試料5)を得た。なお、表1のRu/Mは、各元素に対するルテニウムの品位比を示している。
【0045】
【表1】
【0046】
試料1に対しては、酸添加工程S103を行った後で、脱アンチモン工程S104を行った。具体的には、試料1(200mL、pH12.37、ORP129mV)に対して、濃硫酸65.88gを添加し、90分間反応させ、固液分離をし、酸添加後ルテニウム含有溶液30(試料1-1)を得た。この際のpHは11、ORPは310mV、液温は71℃であった。
【0047】
さらに、試料1-1に対して、水酸化ナトリウム66.88gを添加し、90分間反応させ、固液分離をし、脱アンチモン後ルテニウム含有溶液40(試料1-2)を得た。この際のpHは11.57、ORPは134mV、液温は71℃であった。
【0048】
試料2に対しては、酸添加工程S103を行った後で、脱アンチモン工程S104を行った。具体的には、試料2(200mL、pH12.37、ORP129mV)に対して、濃硫酸30.13gを添加し、60分間反応させ、固液分離をし、酸添加後ルテニウム含有溶液30(試料2-1)を得た。この際のpHは10.87、ORPは357mV、液温は72℃であった。
【0049】
さらに、試料2-1に対して、水酸化ナトリウム30gを添加し、75分間反応させた後、pHを調整するため濃硫酸33.46gを添加し、固液分離をし、脱アンチモン後ルテニウム含有溶液40(試料2-2)を得た。この際のpHは11.12、ORPは123mV、液温は71℃であった。
【0050】
試料3に対しては、脱アンチモン工程S104を行った後で、酸添加工程S103を行った。具体的には、試料3(200mL、pH12.37、ORP129mV)に対して、水酸化ナトリウムを20g添加し、60分間反応させ、固液分離をし、脱アンチモン後ルテニウム含有溶液40(試料3-1)を得た。この際のpHは11.57、ORPは64mV、液温は69℃であった。
【0051】
さらに、試料3-1に対して、濃硫酸42.63gを添加し、75分間反応させ、固液分離をし、酸添加後ルテニウム含有溶液30(試料3-2)を得た。この際のpHは11.03、ORPは170mV、液温は70℃であった。
【0052】
試料4に対しては、酸添加工程S103を行い、脱アンチモン工程S104は省略した。具体的には、試料4(200mL、pH16、ORP35mV)に対して、50%硫酸89gを添加し、35分間反応させ、固液分離をし、酸添加後ルテニウム含有溶液30(試料4-1)を得た。この際のpHは12.10、ORPは355.1mV、液温は58℃であった。また、試料4(200mL、pH16、ORP35mV)に対して、50%硫酸91gを添加し、45分間反応させ、固液分離をし、酸添加後ルテニウム含有溶液30(試料4-2)を得た。この際のpHは11.11、ORPは428.7mV、液温は46℃であった。また、試料4(200mL、pH16、ORP35mV)に対して、50%硫酸92gを添加し、50分間反応させ、固液分離をし、酸添加後ルテニウム含有溶液30(試料4-3)を得た。この際のpHは9.58、ORPは597.7mV、液温は41℃であった。
【0053】
試料5に対しては、酸添加工程S103を行い、脱アンチモン工程S104は省略した。具体的には、試料5(200mL、pH16、ORP35mV)に対して、50%硫酸84gを添加し、32分間反応させ、固液分離をし、酸添加後ルテニウム含有溶液30(試料5-1)を得た。この際のpHは12.09、ORPは280.6mV、液温は80℃であった。また、試料5(200mL、pH16、ORP35mV)に対して、50%硫酸93gを添加し、47分間反応させ、固液分離をし、酸添加後ルテニウム含有溶液30(試料5-2)を得た。この際のpHは11.07、ORPは348.5mV、液温は74℃であった。また、試料5(200mL、pH16、ORP35mV)に対して、50%硫酸95gを添加し、53分間反応させ、固液分離をし、酸添加後ルテニウム含有溶液30(試料5-3)を得た。この際のpHは9.95、ORPは454.3mV、液温は69℃であった。
【0054】
上述した各試料における、各元素の濃度を表2に示す。なお、表2のRu/Mは、各元素に対するルテニウムの濃度比を示している。また、表2のTrは、濃度が分析装置の定量下限値未満であったことを示している。
【0055】
【表2】
【0056】
表2に示すように、酸添加後ルテニウム含有溶液30は、ルテニウム含有溶液20と比べて、アンチモンに対するルテニウムの濃度比(Ru/Sb)、鉛に対するルテニウムの濃度比(Ru/Pb)、および、銅に対するルテニウムの濃度比(Ru/Cu)が上昇した。つまり、酸添加工程S103を行うことで、アンチモン、鉛、銅を除去し、ルテニウムを濃縮できることを確認した。
【0057】
また、脱アンチモン工程S104を行った、試料1-2、試料2-2、試料3-2は、脱アンチモン工程S104を省略した、試料4-2、試料5-2等よりも、アンチモンに対するルテニウムの濃度比(Ru/Sb)が高かった。つまり、脱アンチモン工程S104を行うことで、アンチモンをさらに除去できることを確認した。
【0058】
また、酸添加工程S103の後に脱アンチモン工程S104を行った、試料1-2、試料2-2は、脱アンチモン工程S104の後に酸添加工程S103を行った、試料3-2よりも、アンチモンに対するルテニウムの濃度比(Ru/Sb)、鉛に対するルテニウムの濃度比(Ru/Pb)、および、銅に対するルテニウムの濃度比(Ru/Cu)が高かった。つまり、酸添加工程S103の後に脱アンチモン工程S104を行うことで、アンチモン、鉛、銅をより効率よく除去することができることを確認した。
【0059】
また、酸添加工程S103において、pHが10以上12以下となるように、硫酸を添加した、試料4-2、試料5-2は、pHが12超の試料4-1、試料5-1よりも、アンチモンに対するルテニウムの濃度比(Ru/Sb)、鉛に対するルテニウムの濃度比(Ru/Pb)、および、銅に対するルテニウムの濃度比(Ru/Cu)が高く、かつ、pHが10未満の試料4-3、試料5-3よりも、ルテニウムの濃度が高かった。つまり、酸添加工程S103において、pHが10以上12以下となるように、硫酸を添加することで、ルテニウムのロスを低減しつつ、アンチモン、鉛、銅を効率よく除去することができることを確認した。
【0060】
(実施例2)
実施例2は、還元工程S105の具体例を示す実施例である。実施例1で得た、試料1-2、200mLに対して、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム(SBH)0.6gを添加し、60分間反応させ、固液分離をし、ルテニウム濃縮物50(試料1-3)を得た。この際のpHは12.5、ORPは-800mV、液温は60℃であった。
【0061】
また、実施例1で得た、試料2-2、200mLに対して、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム(SBH)0.6gを添加し、60分間反応させ、固液分離をし、ルテニウム濃縮物50(試料2-3)を得た。この際のpHは11.4、ORPは-800mV、液温は60℃であった。
【0062】
また、実施例1で得た、試料3-2、200mLに対して、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム(SBH)0.72gを添加し、60分間反応させ、固液分離をし、ルテニウム濃縮物50(試料3-3)を得た。この際のpHは12.09、ORPは-871mV、液温は40℃であった。
【0063】
また、実施例1で得た、試料4-3、200mLに対して、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム(SBH)0.28gを添加し、58分間反応させ、固液分離をし、ルテニウム濃縮物50(試料4-4)を得た。この際のpHは10.27、ORPは-398mV、液温は58℃であった。
【0064】
また、実施例1で得た、試料5-3、200mLに対して、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム(SBH)0.27gを添加し、38分間反応させ、固液分離をし、ルテニウム濃縮物50(試料5-4)を得た。この際のpHは10.49、ORPは-254mV、液温は38℃であった。
【0065】
上述した試料1-3、試料2-3、試料3-3、試料4-4、および試料5-4における、各元素の品位を表3に示す。なお、表3のRu/Mは、各元素に対するルテニウムの品位比を示している。
【0066】
【表3】
【0067】
表3に示すように、ルテニウム濃縮物50中のルテニウムの品位は、20重量%以上であり、アンチモンに対するルテニウムの品位比(Ru/Sb)は5以上であり、鉛に対するルテニウムの品位比(Ru/Pb)は1以上であり、銅に対するルテニウムの品位比(Ru/Cu)は10以上であった。つまり、酸添加工程S103を行った後に還元工程S105を行うことで、ルテニウムを効率よく濃縮(回収)することができることを確認した。
【0068】
また、酸添加工程S103の後に脱アンチモン工程S104を行い、還元工程S105を行った、試料1-3、試料2-3は、脱アンチモン工程S104の後に酸添加工程S103を行い、還元工程S105を行った、試料3-3よりも、ルテニウムの品位が高かった。つまり、酸添加工程S103の後に脱アンチモン工程S104を行い、還元工程S105を行うことで、より高品位なルテニウム濃縮物50が得られることを確認した。
【0069】
(比較例)
また、比較のために、ルテニウム含有溶液20に、酸添加工程S103および脱アンチモン工程S104を行わずに還元を行った場合の具体例も示す。実施例1とは別に準備したルテニウム含有溶液20(試料A-1)、200mL(pH13.88、ORP170mV)に対して、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウム(SBH)0.25gを添加し、5分間反応させ、固液分離をし、還元溶液(試料A-2)および沈殿物を得た。この際のpHは13.82、ORPは-525mV、液温は60℃であった。試料A-1、および試料A-2における、各元素の濃度を表4に示す。なお、表4の還元溶液の欄のRu/M*の値は、還元溶液中に沈殿した各金属に対するルテニウムの質量比であり、以下の式により算出した。
Ru/M*=液中の沈殿したRu量(g)/液中の沈殿したM量(g)
=(元液Ru量(g)-反応後液Ru量(g))/(元液M量(g)-反応後液M量(g))
【0070】
【表4】
【0071】
表4に示すように、試料A-2は、ルテニウムの濃度だけではなく、アンチモンや銅等の濃度も減少していた。つまり、酸添加工程S103および脱アンチモン工程S104を行わずに還元を行った場合、ルテニウムと、アンチモンや銅等とをわけることが困難であり、高品位なルテニウム濃縮物を得ることができないことを確認した。
【符号の説明】
【0072】
10 ルテニウム含有混合物
20 ルテニウム含有溶液
21 水浸出残渣
30 酸添加後ルテニウム含有溶液
31 酸添加後残渣
40 脱アンチモン後ルテニウム含有溶液
41 脱アンチモン残渣
50 ルテニウム濃縮物
51 還元溶液
S101 アルカリ溶融工程
S102 水浸出工程
S103 酸添加工程
S104 脱アンチモン工程
S105 還元工程
図1