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特開2024-51357分散剤含有液及びインクジェット組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051357
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】分散剤含有液及びインクジェット組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/685 20060101AFI20240404BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20240404BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240404BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C08G63/685
C09D11/326
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157488
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】小松 晴信
(72)【発明者】
【氏名】堀場 幸治
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 幸一
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J029
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FB03
2C056FC02
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB53
4J029AA03
4J029AD01
4J029AD02
4J029AE11
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA05
4J029BA07
4J029BA09
4J029BA10
4J029BB06A
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4J029BB13A
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4J029BD06A
4J029BD07A
4J029BF09
4J029BF10
4J029BF17
4J029BF18
4J029BF25
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4J029CA03
4J029CA05
4J029CA06
4J029CB04A
4J029CB05A
4J029CB05B
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CC05A
4J029CD03
4J029CD07
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4J029CH02
4J029DA01
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4J029FC35
4J029FC36
4J029GA13
4J029GA14
4J029GA17
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4J029JB131
4J029JF321
4J029KD02
4J029KE02
4J029KE05
4J039AE06
4J039BE07
4J039BE08
4J039BE22
4J039EA44
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】色材の分散性及び保存安定性の両者をより良好にすることができる分散剤含有液を提供する。
【解決手段】分散剤としてのポリエステルと、水と、を含み、前記ポリエステルは、特定化学構造で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位を含む、分散剤含有液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤としてのポリエステルと、水と、を含み、
前記ポリエステルは、下記式(I)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位を含む、分散剤含有液。
【化1】
(式(I)において、i、jは、それぞれ独立に1以上4以下の整数を表し、k、l、mは、それぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。また、N、Nは、N、Nのうちの少なくとも1つが窒素原子として存在することを表し、Nが存在する場合には、Rは、H又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、Nが存在する場合には、R、Rは、それぞれ独立にH又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。さらにNが存在しない場合には、末端はHを表す。)
【請求項2】
請求項1において、
色材をさらに含み、
前記色材は、分散染料及び油溶染料から選択される、分散剤含有液。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記ポリエステルの構成単位のうち、前記式(I)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位の含有量は、前記ポリエステルの全構成単位に対して3mol%以上10mol%以下である、分散剤含有液。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
前記ポリエステルの構成単位のうち、芳香環を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は、前記ポリエステルの全構成単位に対して25mol%以上75mol%以下である、分散剤含有液。
【請求項5】
請求項1又は請求項2において、
前記ポリエステルの酸価は、25mgKOH以上70mgKOH以下である、分散剤含有液。
【請求項6】
請求項1又は請求項2において、
前記ポリエステルは、スルホン酸基又はスルホン酸塩の基を有するモノマーに由来する構成単位を含む、分散剤含有液。
【請求項7】
請求項2に記載の分散剤含有液を含む、インクジェット組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤含有液及びインクジェット組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水を含む分散媒中に色材が分散した色材分散液が、様々な用途で用いられている。このような色材分散液としては、例えば、水を含む分散媒中に色材が分散したインクジェットインク等が挙げられる。このような色材分散液においては、色材の分散性を向上させる目的で、分散剤が添加されることがある。
【0003】
例えば、水、水溶性有機溶剤、分散染料、及び、酸価が100~250である水溶性ポリエステルを含有するインクジェット記録用分散染料インクが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-114865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリエステル系の分散剤は、分散染料などの色材を吸着して色材の分散性を高める機能を有する。一方で、ポリエステルの水溶性を高めることにより保存安定性を高めようとすると、分散染料などの色材を吸着しにくくなり、色材の分散性を低下させる傾向があった。このように、色材の分散性及び保存安定性の両者をより良好にすることが要求される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る分散剤含有液は、
分散剤としてのポリエステルと、水と、を含み、
前記ポリエステルは、下記式(I)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位を含む。
【0007】
【化1】
(式(I)において、i、jは、それぞれ独立に1以上4以下の整数を表し、k、l、mは、それぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。また、N、Nは、N、Nのうちの少なくとも1つが窒素原子として存在することを表し、Nが存在する場合には、Rは、H又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、Nが存在する場合には、R、Rは、それぞれ独立にH又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。さらにNが存在しない場合には、末端はHを表す。)
【0008】
本発明に係るインクジェット組成物は、上述の分散剤含有液を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0010】
1.分散剤含有液
本実施形態に係る分散剤含有液は、分散剤としてのポリエステルと、水と、を含む。
【0011】
1.1.ポリエステル
ポリエステルは、本実施形態の分散剤含有液に、分散剤として含有される。ポリエステルは、主鎖にエステル結合を有する高分子材料の総称である。ポリエステルは、主鎖に水酸基と、カルボキシ基とが脱水縮合したエステル結合を含んでいる。本実施形態のポリエステルの主鎖のエステル結合は、以下のカルボン酸化合物のカルボキシ基及び水酸基を有する化合物の水酸基が反応することにより形成される。
【0012】
1.1.1.ポリエステルを構成するモノマー単位
<カルボン酸化合物>
本実施形態の分散剤含有液に含有されるポリエステルは、下記式(I)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位を含む。
【化1】
(式(I)において、i、jは、それぞれ独立に1以上4以下の整数を表し、k、l、mは、それぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。また、N、Nは、N、Nのうちの少なくとも1つが窒素原子として存在することを表し、Nが存在する場合には、Rは、H又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、Nが存在する場合には、R、Rは、それぞれ独立にH又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。さらにNが存在しない場合には、末端はHを表す。)
【0013】
式(I)中、i、jは、それぞれ独立に1以上2以下の整数であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。また、k、l、mは、それぞれ独立に0以上2以下の整数であることがより好ましい。さらに、R、R、Rは、それぞれ独立にH又は炭素数1以上2以下のアルキル基であることがより好ましく、Hであることがさらに好ましい。
【0014】
本実施形態のポリエステルは、上記式(I)で表されるジカルボン酸化合物が、複数の水酸基を有する化合物と脱水縮合した構造を有する。また、本実施形態のポリエステルは、少なくとも上記式(I)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位を含むが、他のカルボン酸化合物に由来する構成単位を含んでもよい。
【0015】
そのような他のカルボン酸化合物のうち、ジカルボン酸化合物としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,5-ノルボルナンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、4,4’-スルホニル二安息香酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸類、及びその塩、低級アルキルエステル、無水物等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
【0016】
また、カルボン酸化合物のうち、3価以上のカルボン酸化合物としては、トリカルバリル酸、β-アラニン二酢酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリト酸、メロファン酸等が挙げられる。前記カルボキシル基含有ポリオールとしては、N,N-ビス(2-ヒ
ドロキシエチル)-β-アラニン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)スクシンアミド酸、及びその塩、低級アルキルエステル、無水物等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
【0017】
さらに、他のカルボン酸化合物として、スルホ基を有する化合物を用いてもよい。そのような化合物としては、スルホン化ポリカルボン酸モノマーやこれらの低級アルキルエステル、無水物等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。スルホン化カルボン酸化合物としては、例えば、スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、スルホフタル酸、スルホコハク酸、スルホマロン酸、2,3-ジスルホコハク酸、スルホ酒石酸、スルホリンゴ酸、スルホマレイン酸、スルホフマル酸、1-スルホ-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、3-(ソジオオキシスルホニル)グルタル酸、及びその塩、低級アルキルエステル、無水物等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0018】
<水酸基を有する化合物>
本実施形態のポリエステルは、水酸基を有する化合物に由来する構成単位を含んでもよい。水酸基を有する化合物のうち、ジオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2’-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)イソプロパン等の脂肪族ジオール類、1,4-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,2-ベンゼンジメタノール、ビフェノール、4,4’-メチレンビスフェノール、2,2-ジ(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、スチレングリコール、2-フェニル-1,3-プロパンジオール、ナフタレンジオール、ビスフェノールA等の芳香族ジオール類等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0019】
また、水酸基を有する化合物としては、スルホ基を有する化合物を用いてもよい。そのような化合物としては、2,3-ジヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸、3-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-1-プロパンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-1-プロパンスルホン酸等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0020】
なお、エステル結合を構成しないカルボキシル基やスルホ基は、ポリエステルの分子のいかなる部位に存在していてもよく、ポリエステルを構成する同一のモノマー単位に存在していてもよいが、エステル結合を構成しないカルボキシル基と、スルホ基とは、ポリエステルを構成する異なるモノマーに存在していることが好ましい。
【0021】
1.1.2.モノマー単位の割合
上述のポリエステルの構成単位のうち、式(I)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位の含有量は、ポリエステルの全構成単位に対して3mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。
【0022】
このようなポリエステルとすることにより、分散剤含有液が色材を含有する場合に、色材の吸着性が向上し、色材の分散性及び分散安定性をさらに良好にすることができる。
【0023】
また、ポリエステルの構成単位のうち、芳香環を有するモノマーに由来する構成単位の
含有量が、ポリエステルの全構成単位に対して25mol%以上75mol%以下であることがより好ましい。
【0024】
これにより、分散剤含有液と、油性染料や分散染料等の親油性の高い色材とを用いて、色材分散液を調製した場合において、色材をポリエステルにより好適に吸着させることができ、色材分散液中における色材の分散安定性をより優れたものとすることができる。
【0025】
モノマー単位として用い得る芳香族モノマーとしては、例えば、フェニル基、ビフェ
ニル基、ナフチル基や、これらの官能基が有する水素原子のうちの少なくとも一部が他の原子又は原子団で置換された官能基等を有する化合物が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
【0026】
この場合、ポリエステルの全構成単位に対する芳香環を有するモノマーに由来する構成単位の含有量の下限は、25mol%が好ましく、30mol%がより好ましく、33mol%がさらに好ましい。また、ポリエステルの全構成単位に対する芳香環を有するモノマーに由来する構成単位の含有量の上限は、75mol%が好ましく、70mol%がより好ましく、65mol%がさらに好ましい。
【0027】
このようにすることで、分散剤含有液と、油性染料や分散染料等の親油性の高い色材とを用いて、色材分散液を調製した場合において、色材で構成された色材に対してポリエステルが疎水的に吸着する力を十分に大きいものとすることができるとともに、ポリエステル分子の柔軟性をより優れたものとすることができ、色材の表面形状にポリエステル分子がより好適に追従することができる。その結果、色材を前記ポリエステルにさらに好適に吸着させることができ、色材分散液中における色材の分散安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0028】
また、芳香環を有するモノマーに由来する構成単位の含有量が上記範囲であると、ポリエステルの親水性と親油性のバランスをより取りやすく、色材の吸着、ポリエステルの水溶性のバランスがさらに良好となる、これによりさらに色材とポリエステルとの吸着が良好となり、色材の分散安定性、保存安定性をより良好にできる。
【0029】
さらに、ポリエステルは、上述したようなスルホン酸基又はスルホン酸塩の基を有するモノマーに由来する構成単位を含むことがより好ましい。このようにすれば、ポリエステルがスルホン酸部位を含むことにより、色材を吸着しつつより水に分散しやすくできる。これにより、分散剤含有液を用いて調製される色材分散液中における色材の分散安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0030】
1.1.2.ポリエステルの性質及び含有量
ポリエステルの酸価は、25mgKOH以上70mgKOH以下であることがより好ましい。ポリエステルの酸価がこのような範囲であると、ポリエステルの水溶性がより適切となり、色材が共存する場合に、その分散性及び分散安定性をさらに良好にできる。また、この観点から、ポリエステルの酸価は、30mgKOH以上68mgKOH以下であることがより好ましく、50mgKOH以上60mgKOH以下であることがさらに好ましい。
【0031】
また、ポリエステルの数平均分子量の下限は、1,500が好ましく、1,800がより好ましく、2,000がさらに好ましい。ポリエステルの数平均分子量の上限は、14,000が好ましく、12,000がより好ましく、10,000がさらに好ましい。
【0032】
このような分子量とすれば、分散剤としてのポリエステルの水溶性をより優れたものと
することができ、分散剤含有液を用いて色材が分散した色材分散液を調製した場合における、色材の分散安定性及び色材分散液の耐乾燥性をより優れたものとすることができる。また、分散剤含有液や分散剤含有液を用いて調製される色材分散液の粘度をより好適な範囲に調整することができ、例えば、前記色材分散液が、インクジェット用組成物である場合、インクジェット法によるインクジェット用組成物の吐出安定性をより優れたものとしつつ、インクジェット用組成物を用いて形成される記録部の発色性をより優れたものとすることができる。
【0033】
分散剤含有液中におけるポリエステルの含有量の下限は、3.0質量%が好ましく、4.0質量%がより好ましく、4.5質量%がさらに好ましい。また、分散剤含有液中におけるポリエステルの含有量の上限は、35.0質量%が好ましく、30.0質量%がより好ましく、28.0質量%がさらに好ましい。
【0034】
ポリエステルの含有量がこのような範囲であると、分散剤含有液や分散剤含有液を用いて調製される色材分散液の粘度を好適な範囲に調整しやすくなり、分散剤含有液や色材分散液の取り扱いのしやすさをより優れたものとすることができるとともに、分散剤含有液を用いて色材が分散した色材分散液を調製した場合における、色材の分散安定性及び色材分散液の耐乾燥性をより優れたものとすることができる。
【0035】
1.2.水
分散剤含有液は、水を含有する。水は、主に、分散剤含有液や分散剤含有液を用いて調製される色材分散液に流動性を付与する機能を有しており、分散媒や溶媒として機能する。水としては、イオン交換水、純水、超純水を用いることが好ましい。
【0036】
分散剤含有液中における水の含有量の下限は、特に限定されないが、30.0質量%が好ましく、35.0質量%がより好ましく、40.0質量%がさらに好ましい。また、分散剤含有液中における水の含有量の上限は、特に限定されないが、93.0質量%が好ましく、90.0質量%がより好ましく、87.0質量%がさらに好ましい。
【0037】
これにより、分散剤含有液の粘度をより確実に好適な値に調整することができる。また、分散剤含有液を用いて調製される色材分散液中における色材の分散安定性をより優れたものとすることができる。
【0038】
1.3.その他の成分
分散剤含有液は、以下の成分を含んでもよい。
【0039】
1.3.1.塩基性物質
分散剤含有液は、塩基性物質を含んでもよい。塩基性物質は、pH調整剤としての機能を有する。
【0040】
塩基性物質を含有する場合、分散剤含有液のpHの範囲を弱塩基性の好適な範囲に調整しやすく、分散剤含有液中において、ポリエステルのより好適な溶解状態を確保することができる。これにより例えば、ポリエステルの不溶化による凝集、沈降等をさらに抑制できる。その結果、例えば、分散剤含有液を用いて色材が分散した色材分散液を調製した場合における、色材の分散安定性及び色材分散液の耐乾燥性をより優れたものとすることができる。また、色材分散液が、インクジェット用組成物である場合、インクジェット法によるインクジェット組成物の吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0041】
塩基性物質としては、例えば、1価の無機塩基、2価の無機塩基、水溶性有機アミン等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる
【0042】
1価の無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア等が挙げられ、特に、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
2価の無機塩基としては、例えば、アルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。
【0043】
水溶性有機アミンとしては、例えば、20℃における水に対する溶解度が10g/100g水以上の有機アミンを用いることができる。水溶性有機アミンの具体例としては、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等のアルキルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。
【0044】
特に、水溶性有機アミンとしては、ヒドロキシアミン類が好ましく、ジオールアミン又はトリオールアミンがより好ましく、トリエタノールアミンがさらに好ましい。これにより、水溶性有機アミンの水溶性を特に高いものとしつつ、高沸点化することができ、かつ、高い吸湿性も得られるため、分散剤含有液や分散剤含有液を用いて調製された色材分散液の不本意な乾燥による固形分の析出をさらに抑制できる。
【0045】
また、分散剤含有液は、塩基性物質として、1価の無機塩基及び水溶性有機アミンを含有していることがより好ましい。これにより、アニオン性のポリエステルと塩を形成するにあたり、1価の無機塩基の塩による強い水溶性、水溶性有機アミン塩による色材分散液やインクジェット組成物の調製に用いられる添加剤との親和性により、ポリエステルをより安定に溶解することができ、その長期安定性をより優れたものとすることができる。
【0046】
なお、塩基性物質は、前記ポリエステルの合成時に、例えば、モノマーが塩の形態となるように用いられるものであってもよいし、合成された前記ポリエステルと混合されるものであってもよい。
【0047】
1.3.2.その他の物質
分散剤含有液は、前述した成分以外の成分をさらに含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、ポリエステル以外の分散剤や樹脂成分、保湿剤、表面張力調整剤、防腐剤、キレート剤等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
ただし、分散剤含有液は、色材等の色材を含まないものである。分散剤含有液の構成成分に加えて、色材を含むものは、例えば後述する色材分散液である。
【0049】
なお、分散剤含有液中におけるその他の成分の含有量は、10.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下がさらに好ましい。
【0050】
1.3.3.その他
分散剤含有液は、以下に述べる条件を満たすことがより好ましい。
分散剤含有液の20℃におけるpHの下限は、7.0が好ましく、7.2がより好ましく、7.4がさらに好ましい。また、分散剤含有液の20℃におけるpHの上限は、10.0が好ましく、9.0がより好ましく、8.6がさらに好ましい。
【0051】
なお、分散剤含有液は、例えば、縮合反応で得られたポリエステルに、前述したポリオ
ールを含む溶剤、水等の必要成分を加えて、撹拌することにより好適に調製することができる。また、撹拌時に、必要に応じて加熱をしてもよい。
【0052】
1.4.作用効果
本実施形態に係る分散剤含有液によれば、ポリエステルが芳香環及びアミンを含む長い側鎖を有するので色材が共存した場合に、色材を吸着しやすく、色材の分散性及び分散剤含有液の保存安定性を良好とすることができる。
【0053】
2.色材分散液及びインクジェット組成物
色材分散液又はインクジェット組成物は、少なくとも上述の分散剤含有液及び色材を含む。すなわち色材分散液又はインクジェット組成物は、分散剤としてのポリエステルと、水と、色材と、を少なくとも含む。なお、色材分散液は、色材が上記分散剤含有液に配合されたものの他、例えば、さらなる成分を混合することにより得られるインクジェット組成物を含む概念である。
【0054】
色材分散液又はインクジェット組成物中における水の含有量の下限は、特に限定されないが、35.0質量%であることが好ましく、40.0質量%であることがより好ましく、45.0質量%であることがさらに好ましい。また、分散剤含有液中における水の含有量の上限は、特に限定されないが、93.0質量%であることが好ましく、90.0質量%であることがより好ましく、87.0質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
これにより、色材分散液又はインクジェット組成物の粘度をより確実に好適な値に調整することができる。また、色材分散液又はインクジェット組成物中における色材の分散安定性をより優れたものとすることができる。
【0056】
色材分散液又はインクジェット組成物中におけるポリエステルの含有量の下限は、0.3質量%であることが好ましく、0.4質量%であることがより好ましく、0.5質量%であることがさらに好ましい。また、色材分散液又はインクジェット組成物中におけるポリエステルの含有量の上限は、17.5質量%であることが好ましく、15.0質量%であることがより好ましく、14.0質量%であることがさらに好ましい。
【0057】
これにより、色材分散液又はインクジェット組成物の粘度を好適な範囲に調整しやすくなり、色材分散液又はインクジェット組成物の取り扱いのしやすさをより優れたものとすることができるとともに、色材の分散安定性及び色材分散液又はインクジェット組成物の耐乾燥性をより優れたものとすることができる。
【0058】
また、色材分散液又はインクジェット組成物中に含まれる色材:100.0質量部に対するポリエステルの含有量の下限は、10.0質量部であることが好ましく、15.0質量部であることがより好ましく、20.0質量部であることがさらに好ましい。また、色材分散液又はインクジェット組成物中に含まれる色材:100.0質量部に対するポリエステルの含有量の上限は、200.0質量部であることが好ましく、150.0質量部であることがより好ましく、90.0質量部であることがさらに好ましい。
【0059】
これにより、色材分散液又はインクジェット組成物の粘度を好適な範囲に調整しやすくなり、色材分散液又はインクジェット組成物の取り扱いのしやすさをより優れたものとすることができるとともに、色材の分散安定性及び色材分散液又はインクジェット組成物の耐乾燥性をより優れたものとすることができる。
【0060】
色材分散液又はインクジェット組成物は、以下の成分を含有してもよい。
2.1.有機溶剤
色材分散液又はインクジェット組成物は、水に加えて、水以外の液体成分である有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤は、主に、色材分散液又はインクジェット組成物に流動性を付与する機能を有しており、分散媒や溶媒として機能する。有機溶剤は、上述した有機溶剤の他、インクジェット組成物に用いられる公知の溶剤を使用できる。
【0061】
有機溶剤としては、例えば、1,2-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、1,2-プロパンジオール、トリメチロールエタン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、2-プロパノール、1-プロパノール、2-ブタノール、1-ブタノール等の低級アルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシル等のグリコールモノエーテル類、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール等の低級アルキル1,2-ジオール類、グリセリンモノブチルエーテル、グリセリン-2-エチルヘキシルエーテル等のグリセリンモノエーテル等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いてもよい。
【0062】
2.2.色材
色材分散液又はインクジェット組成物は、色材を含む。色材は、分散液中に分散状態で含まれるものであればよく、分散液の用途等に応じて、各種の材料で構成されたものを用いることができるが、色材の構成材料としては、例えば、各種顔料、分散染料、昇華染料、油溶染料等の各種染料等が挙げられる。
【0063】
顔料としては、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、アゾ系顔料、カーボンブラック等が挙げられる。
【0064】
より具体的には、イエロー顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、14C、16、17、24、34、35、37、42、53、55、65、73、74、75、81、83、93、95、97、98、100、101、104、108、109、110、114、117、120、128、129、138、150、151、153、154、180等が挙げられる。マゼンタ顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、48(Ca)、48(Mn)、48:2、48:3、48:4、49、49:1、50、51、52、52:2、53、53:1、55、57(Ca)、57:1、60、60:1、63:1、63:2、64、64:1、81、83、87、88、89、90、101、104、105、106、108、112、114、122、123、146、149、163、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、209、219等が挙げられる。シアン顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、16、17:1、22、25、56、60、C.I.バットブルー4、60、63等が挙げられる。その他のカラー顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、C.I.ピグメントバイオレット1、3、5:1、16、19、23、38等が挙げられる。
【0065】
分散染料としては、例えば、C.I.ディスパース・レッド60、82、86、86:1、167:1、279、364、C.I.ディスパース・イエロー54、64、71、86、114、153、232、233、245、C.I.ディスパース・ブルー27、60、73、77、77:1、87、257、359、367、C.I.ディスパース・バイオレット26、33、36、57、C.I.ディスパース・オレンジ30、41、61等が挙げられる。
【0066】
油溶染料としては、例えば、C.I.ソルベント・イエロー16、21、25、29、33、51、56、82、88、89、150、163、C.I.ソルベント・レッド7、8、18、24、27、49、109、122、125、127、130、132、135、218、225、230、C.I.ソルベント・ブルー14、25、35、38、48、67、68、70、132、C.I.ソルベント・ブラック3、5、7、27、28、29、34等が挙げられる。
【0067】
色材分散液又はインクジェット組成物中に含まれる色材は、分散染料又は油溶染料のいずれかであることが好ましい。
【0068】
これにより、色材分散液又はインクジェット組成物中における色材の分散安定性をより優れたものとすることができる。また、分散染料及び油溶染料から選択される色材を用いた場合でも、より良好な分散性、保存安定性を得ることができる。また、色材分散液又はインクジェット組成物を用いて形成される記録部の発色性等をより優れたものとすることができる。
【0069】
色材分散液又はインクジェット組成物中における色材の含有量は、特に限定されないが、含有量の下限は、1.0質量%であることが好ましく、2.0質量%であることがより好ましく、3.0質量%であることがさらに好ましい。また、色材分散液又はインクジェット組成物中における色材の含有量の上限は、40.0質量%であることが好ましく、35.0質量%であることがより好ましく、30.0質量%であることがさらに好ましい。
【0070】
これにより、色材分散液又はインクジェット組成物中における色材の含有量を十分に高いものとしつつ、色材の分散安定性をより優れたものとすることができる。また、例えば、ビーズミル等の分散機を用いて色材を分散させた場合に、得られる色材分散液又はインクジェット組成物の粘度をより好適な範囲に調整しやすくなる。また、色材分散液又はインクジェット組成物がインクジェット法で用いられる場合に、形成される記録部の発色性をより優れたものとすることができる。
【0071】
2.3.塩基性物質
色材分散液又はインクジェット組成物は、さらに、pH調整剤として塩基性物質を含んでいてもよい。塩基性物質は、上述したと同様であるので説明を省略する。
【0072】
2.4.保湿剤
色材分散液又はインクジェット組成物は、保湿剤を含んでもよい。保湿剤としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、メソエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどのポリオール類、2グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビッ
ト)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類等の糖類やこれら糖類の誘導体、グリシン、トリメチルグリシンのベタイン類等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を組み合わせが挙げられる。
【0073】
色材分散液又はインクジェット組成物中における保湿剤の含有量は、特に限定されないが、含有量の下限は、3.0質量%であることが好ましく、5.0質量%であることがより好ましく、7.0質量%であることがさらに好ましい。また、色材分散液又はインクジェット組成物中における保湿剤の含有量の上限は、40.0質量%であることが好ましく、35.0質量%であることがより好ましく、30.0質量%であることがさらに好ましい。
【0074】
2.5.表面張力調整剤
色材分散液又はインクジェット組成物は、表面張力調整剤を含んでもよい。表面張力調整剤としては、例えば、界面活性剤が挙げられる。
【0075】
界面活性剤としては、例えば、カチオン性の界面活性剤、アニオン性の界面活性剤、ノニオン性の界面活性剤等が挙げられるが、アニオン性で溶解している前記ポリエステルの溶解性への影響を抑えるために、特に、ノニオン性の界面活性剤が好ましい。
【0076】
ノニオン性の非反応性界面活性剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等が挙げられる。
【0077】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ビックケミー・ジャパン社製:BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348、BYK-349、BYK-3455、日信化学工業社製:シルフェイスSAG503A、SAG002、SAG005、SAG014、信越化学社製:KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012等が挙げられる。
【0078】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、スリーエムジャパン社製:FC-4430、FC-4432、DIC社製:メガファックF-444、F-477、F-553、F-556、AGCセイミケミカル社製:サーフロンS-241、S-242、S-243、S-386等が挙げられる。
【0079】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、日信化学工業社製:サーフィノール82、465、485、2502、オルフィンE1010、E1020、PD-002W、PD-004、EXP4001、EXP4002、EXP4123、EXP4300、川研ファインケミカル社製:アセチレノールE00、E103T、E40、E60、E100、E200等が挙げられる。
【0080】
色材分散液又はインクジェット組成物中における表面張力調整剤の含有量は、特に限定されないが、含有量の下限は、0.1質量%であることが好ましく、0.3質量%であることがより好ましく、1.0質量%であることがさらに好ましい。また、色材分散液又はインクジェット組成物中における表面張力調整剤の含有量の上限は、10.0質量%であることが好ましく、8.0質量%であることがより好ましく、6.0質量%であることがさらに好ましい。
【0081】
2.6.その他の成分
色材分散液又はインクジェット組成物は、前述した成分以外の成分をさらに含んでいてもよい。
【0082】
その他の成分としては、例えば、防腐剤、キレート剤、前記ポリエステル以外の分散剤や樹脂成分等が挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
防腐剤を含むことにより、例えば、微生物による色材分散液又はインクジェット組成物の腐敗を防ぎ、分散液中の固形分の析出や凝集をより低減できる。
【0084】
防腐剤としては、例えば、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノン、オクチルイソチアゾリノン、ジクロロオクチルイソチアゾリノン、ベンズイソチアゾリノン、ジシクロヘキシルアミン、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル、ジエチレンオキシミド等が挙げられる。
【0085】
キレート剤を含むことにより、例えば、色材分散液又はインクジェット組成物中の多価カチオンをトラップし、分散液中の固形分の析出や凝集をより抑制できる。
【0086】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミンテトラ四酢酸塩、ジエチルトリアミン五酢酸塩、ペンテト酸塩、イミノジコハク酸塩、アスパラギン酸二酢酸塩等が挙げられる。
【0087】
ただし、色材分散液又はインクジェット組成物中におけるその他の成分の含有量は、10.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0088】
2.7.その他
色材分散液又はインクジェット組成物は、以下に述べる条件を満たすことが好ましい。
例えば、色材分散液又はインクジェット組成物の20℃におけるpHの下限は、7.0であることが好ましく、7.2であることがより好ましく、7.4であることがさらに好ましい。また、色材分散液又はインクジェット組成物の20℃におけるpHの上限は、10.0であることが好ましく、9.0であることがより好ましく、8.6であることがさらに好ましい。
【0089】
これにより、ポリエステルのより好適な溶解状態を確保することができ、例えば、ポリエステルの不溶化による凝集、沈降等の問題をより低減できる。その結果、例えば、色材の分散安定性及び耐乾燥性をより優れたものとすることができる。また、インクジェット組成物である場合、インクジェット法による吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0090】
なお色材分散液は、例えば、塗料や、各種インキ等、いかなる用途のものであってもよいが、インクジェット組成物であってもよい。
【0091】
色材分散液又はインクジェット組成物の20℃における粘度の下限は、特に限定されないが、2.0mPa・sであることが好ましく、3.0mPa・sであることがより好ましい。また、色材分散液又はインクジェット組成物の20℃における粘度の上限は、特に限定されないが、9.0mPa・sであることが好ましく、8.0mPa・sであることがより好ましく、7.0mPa・sであることがさらに好ましい。
【0092】
これにより、例えば、色材分散液がインクジェット組成物である場合に、その吐出安定
性をより優れたものとすることができる。
【0093】
なお、粘度は、20℃にて、例えば、Pysica社製のMCR-300等の粘弾性試験機を用いて、Shear Rateを10[s-1]から1000[s-1]に上げていき、Shear Rate200の時の粘度を読み取ることにより測定することができる。
【0094】
色材分散液又はインクジェット組成物の20℃における表面張力の下限は、特に限定されないが、20mN/mであることが好ましく、21mN/mであることがより好ましく、23mN/mであることがさらに好ましい。また、色材分散液又はインクジェット組成物の20℃における表面張力の上限は、特に限定されないが、50mN/mであることが好ましく、40mN/mであることがより好ましく、30mN/mであることがさらに好ましい。
【0095】
これにより、例えば、色材分散液がインクジェット組成物である場合に、インクジェット法による記録装置のノズルの詰まり等がより生じにくくなり、組成物の吐出安定性がより向上する。また、ノズルの詰まりを生じた場合でも、ノズルにキャップをすること、すなわち、キャッピングによる回復性をより優れたものとすることができる。
【0096】
なお、表面張力としては、ウィルヘルミー法により測定した値を採用することができる。表面張力の測定は、例えば、協和界面科学社製のCBVP-7等の表面張力計を用いることができる。
【0097】
色材分散液がインクジェット組成物である場合、通常、カートリッジ、袋、タンク等の容器に収納された状態で、インクジェット法による記録装置に適用される。
【0098】
色材分散液又はインクジェット組成物は、例えば、前述した分散剤含有液と、色材とを混合をすることにより調製することができる。このとき、分散剤含有液と、色材とを混合した状態で、ビーズミル等を用いて混合してもよい。これにより、色材を効率よく微細化することができ、分散液中における色材の分散安定性をより優れたものとすることができる。
【0099】
色材分散液を調製する際には、分散剤含有液、色材に加えて、例えば、水や溶剤、保湿剤、表面張力調整剤等の成分を添加してもよい。また調製時には、必要に応じて、加熱をしてもよい。
【0100】
さらに、色材分散液又はインクジェット組成物は、上記のような方法で調製されたものに限定されない。例えば、色材分散液又はインクジェット組成物は、分散剤含有液を用いることなく、縮合反応で得られたポリエステル、色材、有機溶剤、水等の必要成分を一括混合すること、又は、所定の順番で順次添加して混合することにより、調製してもよい。
【0101】
3.実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。なお評価は、特に断りが無い場合は、温度25.0℃、相対湿度40.0%の環境下で行った。
【0102】
3.1.ポリエステルの合成
撹拌機を備えた500mLセパラブルフラスコに、テレフタル酸ジメチル33重量部、イソフタル酸ジメチル33重量部、5-スルホイソフタル酸27重量部、3-(フェニル
-2-エチルアミノ-2-エチル)-グルタル酸ジメチル塩酸塩17重量部、エチレングリコール14重量部、ネオペンチルグリコール24重量部、ビスフェノールA9重量部、マレイン酸2重量部、テトラブトキシチタン4.6重量部を加え、180℃で3時間加熱した後、減圧下、揮発成分を除きながら220℃で5時間加熱し、共重合体(ポリエステル:PE1)を得た。ポリエステルPE1と同様に以下の表1の組成で反応させ、共重合体PE2~PECを得た。
【0103】
得られた各ポリエステルの中の芳香環を有するモノマーに由来する構成単位の含有量は、(芳香環比率)は、H-NMRにて測定した。また、酸価はNafion NR50を用いてスルホン酸の対イオンを水素に変換してから測定した。その結果を表1に記載した。なお、表1中の「合成に用いた成分」についての数値は、各成分の使用量を重量比で示したものである。
【0104】
【表1】
【0105】
表1中、略号は以下の通りである。
・PE1~PE17、PEA~PEC:各合成例に係るポリエステル
・TPA:テレフタル酸ジメチル
・IPA:イソフタル酸ジメチル
・AA:アジピン酸ジメチル
・SIPA:5-スルホイソフタル酸
・GA1:3-(フェニル-2-エチルアミノ-2-エチル)-グルタル酸ジメチル
・GA2:3-(2-アミノエチル-4-フェニル)-グルタル酸ジメチル
・GA3:3-(N-フェニルアミノエチル)-グルタル酸ジメチル
・GA4:3-(4-アミノフェニル)-グルタル酸ジメチル
・GA5:3-(4-アミノフェニルエチル)-グルタル酸ジメチル
・GA6:3-(4-アミノフェニル-N-アミノエチル)-グルタル酸ジメチル塩酸塩・GA7:3-(フェニルエチル)-グルタル酸ジメチル
・GA8:3-(アミノエチル)-グルタル酸ジメチル
・EG:エチレングリコール
・NPG:ネオペンチルグリコール
・BisA:ビスフェノールA
・MaA:マレイン酸
・TMA:トリメリット酸
【0106】
3.2.ワニス液の調製
PE1 17.6重量部と、TEA(トリエタノールアミン) 0.05重量部と、純水 50重量部とを加え、さらにTEAを加えてpHを8に調整した。その後、純水で全量が100重量部になるように調整し、ワニス液1を得た。ワニス液1と同様に、ワニス液2~ワニス液Cを作製した(表2)。
【0107】
3.3.分散液の調製
ワニス液1 85重量部にDR60(C.I.ディスパース・レッド60) 15重量部を加え、ビーズミルにて6時間粉砕し、分散液1とした。同様にして分散液2~分散液Cを調製した(表2)。なお、DY54は、C.I.ディスパース・イエロー54である。
【0108】
【表2】
【0109】
3.4.インク液(インクジェット組成物)の調製
分散液1を30重量部、表面張力調整剤としてBYK348を0.5重量部、オルフィンE1010を0.5重量部、プロピレングリコールを5重量部、ブチルトリグリコールを5重量部、グリセリンを7重量部、ジエチレングリコールを5重量部加え撹拌し、インク液1を調製した。分散液を変更して、インク液1と同様にインク液2~インク液Cを調製した。
【0110】
【表3】
【0111】
3.5.評価内容
3.5.1.色材親和性
各実施例及び各比較例の分散剤ワニス液について、各々5gを20mLのサンプルビンに入れ、さらに0.9gのDR60を加えて、色材が分散剤中に自発的に拡散するまでの時間を計測した。拡散するまでの時間が短いほど良好である。以下の基準で評価して結果を表3に記入した。
A:1分未満で拡散した。
B:1分以上、5分未満で拡散した。
C:拡散するまでに5分以上かかった。
D:自発的に拡散しなかった。
【0112】
3.5.2.分散安定性
各実施例及び各比較例のワニス液について、各々10gを20mLのサンプルビンに入れ、さらに1.8gのDR60を加え、ハイシアーミキサーL5M(シルバーソン社製)を用いて30分間攪拌した。その後サンプルビンを5分間静置し、生じる沈降物の高さにより分散安定性を評価した。生じる沈降物が少ないほど良好である。以下の基準で評価して結果を表3に記入した。
A:沈降物が生じない。
B:0.5mm未満
C:0.5mm以上、1mm未満
D:1mm以上
【0113】
3.5.3.貯蔵安定性
各実施例及び各比較例の分散液について、各々5gを9mLのサンプルビンに入れ、60℃下120時間放置した。その後FPIA-3000(マルバーン・パナリティカル社製)を用いて0.5μm以上の限定粒子個数により、粗大粒子数を測定した。評価は以下の基準に従った。限定粒子個数が少ないほど、貯蔵安定性が優れている。以下の基準で評価して結果を表3に記入した。
A:限定粒子個数が100000個未満
B:限定粒子個数が100000個以上200000個未満
C:限定粒子個数が200000個以上500000個未満
D:限定粒子個数が500000個以上
【0114】
3.5.4.再分散性
各実施例及び各比較例の分散液について、スライドガラス上に滴下し、40℃の乾燥機で16時間乾燥させて固化させた。そして、インク水を入れたサンプル瓶内に、スライドガラスを浸漬し、固形物の再分散の挙動を目視にて確認した。なお、インク水が撹拌等されないように注意して操作を行った。なお、インク水とは、色材と分散樹脂を含まないものをいう。再分散性の評価基準を以下に示す。以下の基準で評価して結果を表3に記入した。
A:固形物が消失し、再分散した。
B:固形物が一部残存したが、再分散が認められた。
C:固形物が半分以上残存し、再分散は認められなかった。
D:固形物に変化は見られなかった。
【0115】
3.6.評価結果
上述の式(I)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位を含むポリエステルを含む、各実施例のワニス液、分散液は、いずれも分散安定性、貯蔵安定性に優れることが判明した。
【0116】
上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0117】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0118】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0119】
分散剤含有液は、
分散剤としてのポリエステルと、水と、を含み、
前記ポリエステルは、下記式(I)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位を含む。
【化2】
(式(I)において、i、jは、それぞれ独立に1以上4以下の整数を表し、k、l、mは、それぞれ独立に0以上4以下の整数を表す。また、N、Nは、N、Nのうちの少なくとも1つが窒素原子として存在することを表し、Nが存在する場合には、Rは、H又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、Nが存在する場合には、R、Rは、それぞれ独立にH又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。さらにNが存在しない場合には、末端はHを表す。)
【0120】
この分散剤含有液によれば、ポリエステルが芳香環及びアミンを含む長い側鎖を有するので色材が共存した場合に、色材を吸着しやすく、色材の分散性及び分散剤含有液の保存安定性を良好とすることができる。
【0121】
上記分散剤含有液において、
色材をさらに含み、
前記色材は、分散染料及び油溶染料から選択されてもよい。
【0122】
この分散剤含有液によれば、分散染料及び油溶染料から選択される色材を用いた場合でも、より良好な分散性、保存安定性を得ることができる。
【0123】
上記分散剤含有液において、
前記ポリエステルの構成単位のうち、前記式(I)で表されるジカルボン酸化合物に由来する構成単位の含有量が、前記ポリエステルの全構成単位に対して3mol%以上10mol%以下であってもよい。
【0124】
この分散剤含有液によれば、色材を含有する場合に、さらに色材の分散性及び分散安定性が良好である。
【0125】
上記分散剤含有液において、
前記ポリエステルの構成単位のうち、芳香環を有するモノマーに由来する構成単位の含有量が、前記ポリエステルの全構成単位に対して25mol%以上75mol%以下であってもよい。
【0126】
この分散剤含有液によれば、ポリエステルの親水性と親油性のバランスをより取りやすく、色材の吸着、ポリエステルの水溶性のバランスがさらに良好となる、これによりさらに色材とポリエステルとの吸着が良好となり、色材の分散安定性、保存安定性が良好である。
【0127】
上記分散剤含有液において、
前記ポリエステルの酸価は、25mgKOH以上70mgKOH以下であってもよい。
【0128】
この分散剤含有液によれば、ポリエステルの水溶性がより適切となり、色材の分散性及び分散安定性をさらに良好にできる。
【0129】
上記分散剤含有液において、
前記ポリエステルは、スルホン酸基又はスルホン酸塩の基を有するモノマーに由来する構成単位を含んでもよい。
【0130】
この分散剤含有液によれば、ポリエステルがスルホン酸部位を含むことにより、色材を吸着しつつ水に分散しやすい色材分散液とすることができる。
【0131】
インクジェット組成物は、上述の分散剤含有液を含む。
【0132】
このインクジェット組成物によれば、色材の分散性、及び保存安定性が良好である。