(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051365
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】流体搬送装置
(51)【国際特許分類】
B01D 46/42 20060101AFI20240404BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B01D46/42 A
B23Q11/10 E
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157496
(22)【出願日】2022-09-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 進平
(72)【発明者】
【氏名】横山 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】小川 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 剛
【テーマコード(参考)】
3C011
4D058
【Fターム(参考)】
3C011EE09
4D058JA12
4D058PA04
4D058PA07
4D058QA01
4D058QA11
(57)【要約】
【課題】構造体の目詰まり状態の判定の精度を向上できる流体搬送装置を提供する。
【解決手段】流体搬送装置(10)は、モータ(33)から得られる、流体通路(23)の圧力損失に相関する物理量を用いて構造体(40)の目詰まり状態を判定する制御器(50)を備える。搬送部(31)および流体通路(23)の少なくとも一方は、物理量に対する外乱の割合を小さくするように構成される。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路(23)と、
モータ(33)と、該モータ(33)によって駆動される羽根車(32)とを有し、前記流体通路(23)の流体を搬送する搬送部(31)と、
前記流体通路(23)に配置される構造体(40)と、
前記モータ(33)から得られる、前記流体通路(23)の圧力損失に相関する物理量を用いて前記構造体(40)の目詰まり状態を判定する制御器(50)とを備え、
前記搬送部(31)および前記流体通路(23)の少なくとも一方は、前記物理量に対する外乱の割合を小さくするように構成される
流体搬送装置。
【請求項2】
前記外乱は、前記搬送部(31)の軸受け損の影響を含む
請求項1に記載の流体搬送装置。
【請求項3】
前記搬送部(31)は、前記搬送部(31)の最大回転数の25%の回転数における、該搬送部(31)の風損と軸受け損との合計に対する風損の割合が90%より大きい
請求項2に記載の流体搬送装置。
【請求項4】
前記外乱は、前記搬送部(31)の使用に伴う前記羽根車(32)の変形の影響を含む
請求項1に記載の流体搬送装置。
【請求項5】
前記羽根車(32)は樹脂製である
請求項4に記載の流体搬送装置。
【請求項6】
前記搬送部(31)の初回の運転の開始時を時点taとし、該時点taから、前記モータ(33)または前記羽根車(32)の最大使用温度にて最大回転数で600時間運転した時を時点tbとすると、
前記搬送部(31)は、前記時点taから前記時点tbまでの間の前記羽根車(32)の変形に起因する前記物理量の変化量が、必要精度の50%以下となるように構成される
請求項4に記載の流体搬送装置。
【請求項7】
前記外乱は、前記流体通路(23)の外部から内部への前記流体の移動の影響を含む
請求項1に記載の流体搬送装置。
【請求項8】
前記流体通路(23)の吸込口(21)および吹出口(22)の少なくとも一方が、上方または下方に向かって開口している
請求項7に記載の流体搬送装置。
【請求項9】
前記流体通路(23)の吸込口(21)および吹出口(22)の少なくとも一方は、室内空間(I)に向かって開口している
請求項7に記載の流体搬送装置。
【請求項10】
前記物理量は、前記搬送部(31)が停止する際の該搬送部(31)の減速度合いである
請求項1~9のいずれか1つに記載の流体搬送装置。
【請求項11】
前記制御器(50)は、前記減速度合いとしての前記搬送部(31)の減速時間が、所定値よりも小さい場合に、前記構造体(40)が目詰まり状態であると判定する
請求項10に記載の流体搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流体搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ファンの停止時間を用いてフィルタの目詰まり状態を判定する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、モータから得られる物理量を用いて、フィルタなどの構造体の目詰まり状態を判定するシステムにおいては、目詰まり状態の判定の精度を向上させることが望まれる。
【0005】
本開示の目的は、構造体の目詰まり状態の判定の精度を向上できる流体搬送装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、流体通路(23)と、モータ(33)と、該モータ(33)によって駆動される羽根車(32)とを有し、前記流体通路(23)の流体を搬送する搬送部(31)と、前記流体通路(23)に配置される構造体(40)と、前記モータ(33)から得られる、前記流体通路(23)の圧力損失に相関する物理量を用いて前記構造体(40)の目詰まり状態を判定する制御器(50)とを備え、前記搬送部(31)および前記流体通路(23)の少なくとも一方は、前記物理量に対する外乱の割合を小さくするように構成される流体搬送装置である。
【0007】
第1の態様では、流体通路(23)には構造体(40)が配置されるので、構造体(40)が目詰まりすると、流体通路(23)の圧力損失に相関する物理量も変化する。したがって、この物理量を用いて、構造体(40)の目詰まり状態を判定できる。搬送部(31)および流体通路(23)の少なくとも一方は、モータ(33)から取得される物理量に対する外乱の割合を小さくするように構成される。このため、物理量を用いた構造体(40)の目詰まり状態の判定の精度を向上できる。
【0008】
ここでいう「前記物理量に対する外乱の割合を小さくする」は、次の1)2)のことを含む。
【0009】
1)外乱を小さくすることで、物理量に対する外乱の割合を小さくする。
【0010】
2)構造体の正常状態と目詰まり状態との間での、流体通路(23)の圧力損失の変化に伴う物理量の変化量を増大させることで、物理量に対する外乱の割合を小さくする。
【0011】
また、上記1)「外乱を小さくすることで、物理量に対する外乱の割合を小さくする」は、次のa)~c)のことを含む。
【0012】
a)物理量に対する、搬送部(31)の軸受け損の影響を小さくする。
【0013】
b)物理量に対する、羽根車(32)の使用に伴う羽根車(32)の変形の影響を小さくする。
【0014】
c)物理量に対する、流体通路(23)の外部から内部への流体の移動の影響を小さくする。
【0015】
第2の態様は、第1の態様において、前記外乱は、前記搬送部(31)の軸受け損の影響を含む。
【0016】
搬送部(31)の軸受け損の影響が大きいと、物理量に対する外乱が大きくなり、構造体(40)の目詰まり状態の判定の精度が低下してしまう。そこで、第2の態様では、物理量に対する軸受け損の影響を小さくする。
【0017】
第3の態様は、第2の態様において、前記搬送部(31)は、前記搬送部(31)の最大回転数の25%の回転数における、該搬送部(31)の風損と軸受け損との合計に対する風損の割合が90%より大きい。
【0018】
本願発明者らは、搬送部(31)の最大回転数の25%の回転数において、搬送部(31)の風損と軸受け損との合計に対する風速の割合が低いと、モータ(33)から得られる物理量に対する外乱が大きくなり、構造体(40)の目詰まり状態の精度が低下してしまうことを発見した。
【0019】
第3の態様では、前記割合が90%より大きくなるように、搬送部(31)を構成している。このため、前記物理量に対する搬送部(31)の軸受け損の影響を小さくでき、構造体(40)の目詰まり状態の判定の精度を向上できる。
【0020】
第4の態様は、第1の態様において、前記外乱は、前記搬送部(31)の使用に伴う前記羽根車(32)の変形の影響を含む。
【0021】
搬送部(31)の使用に伴い羽根車(32)が変形すると、物理量に対する外乱が大きくなり、構造体(40)の目詰まり状態の判定の精度が低下してしまう。そこで、第4の態様では、物理量に対する羽根車(32)の変形の影響を小さくする。
【0022】
第5の態様は、第4の態様において、前記羽根車(32)は樹脂製である。
【0023】
羽根車(32)が樹脂製であると、搬送部(31)の使用に伴い羽根車(32)が変形し易くなり、構造体(40)の目詰まり状態の判定の精度が低下してしまう。そこで、第5の態様では、物理量に対する羽根車(32)の変形の影響を小さくする。
【0024】
第6の態様は、第4または第5の態様において、前記搬送部(31)の初回の運転の開始時を時点taとし、該時点taから、前記モータ(33)または前記羽根車(32)の最大使用温度にて最大回転数で600時間運転した時を時点tbとすると、前記搬送部(31)は、前記時点taから前記時点tbまでの間の前記羽根車(32)の変形に起因する前記物理量の変化量が、必要精度の50%以下となるように構成される。ここで、「必要精度」は、流体通路(23)の圧力損失の推定誤差に相当する物理量の変化に相当する。
【0025】
第6の態様では、時点t1から時点t2までの間の羽根車(32)の変形に起因する物理量の変化量が、必要精度の半分以下であるので、物理量に対する羽根車(32)の変形の影響に起因して構造体(40)の判定精度が低下することを抑制できる。
【0026】
第7の態様は、第1の態様において、前記外乱は、前記流体通路(23)の外部から内部への前記流体の移動の影響を含む。
【0027】
流体通路(23)の外部から内部へ流体の移動の影響が大きくなると、物理量に対する外乱が大きくなり、構造体(40)の目詰まり状態の判定の精度が低下してしまう。そこで、第7の態様では、前記流体通路(23)の外部から内部への前記流体の移動の影響を小さくする。
【0028】
第8の態様は、第7の態様において、前記流体通路(23)の吸込口(21)および吹出口(22)の少なくとも一方が、上方または下方に向かって開口している。
【0029】
第8の態様では、吸込口(21)や吹出口(22)が側方に開口していないので、例えば横風の影響に起因して、流体通路(23)の外部から内部へ流体が移動しにくくなる。したがって、物理量に対する流体通路(23)の外部から内部への流体の移動の影響を小さくできる。
【0030】
第9の態様は、第7または第8の態様において、前記流体通路(23)の吸込口(21)および吹出口(22)の少なくとも一方は、室内空間(I)に向かって開口している。
【0031】
第9の態様では、吸込口(21)や吹出口(22)が室外空間に向かって開口していないので、例えば横風の影響に起因して、流体通路(23)の外部から内部へ流体が移動しにくくなる。したがって、物理量に対する流体通路(23)の外部から内部への流体の移動の影響を小さくできる。
【0032】
第10の態様は、第1~第9のいずれか1つの態様において、前記物理量は、前記搬送部(31)が停止する際の該搬送部(31)の減速度合いである。
【0033】
第10の態様では、制御器(50)は、搬送部(31)の減速度合いを用いて構造体(40)の目詰まり状態を判定する。
【0034】
第11の態様は、第10の態様において、前記制御器(50)は、前記減速度合いとしての前記搬送部(31)の減速時間が、所定値よりも小さい場合に、前記構造体(40)が目詰まり状態であると判定する。
【0035】
第11の態様では、搬送部(31)の減速時間が所定値より小さい場合に、構造体(40)が目詰まり状態であると判定する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、実施形態に係る油冷却システムの全体構成図である。
【
図3】
図3は、冷却装置の内部構造を示す概略の構成図である。
【
図5】
図5は、目詰まり状態の判定の制御フローチャートである。
【
図6】
図6は、ファンの停止期間における回転数の特性を表したグラフである。
【
図7】
図7は、ファンの最大回転数に対する回転数の割合と、風損と軸受け損との合計に対する風損の割合の関係を評価した結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、風損の割合が大きいファンにおける停止期間の回転数の特性を表したグラフである。
【
図9】
図9は、風損の割合が小さいファンにおける停止期間の回転数の特性を表したグラフである。
【
図10】
図10は、変形例2Aの流体搬送装置の内部構造を示す概略の構成図である。
【
図11】
図11は、変形例2Bの流体搬送装置の内部構造を示す概略の構成図である。
【
図12】
図12は、変形例3の(2)式を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比または数を誇張または簡略化して表す場合がある。
【0038】
(1)油冷却システム
図1に示す油冷却システム(1)は、工作機械(3)の油を冷却するシステムである。油冷却システム(1)は、冷却装置(10)と、循環回路(2)とを有する。冷却装置(10)は、油を冷却する。油は、工作機械(3)の作動油、潤滑油、および冷却油を含む。工作機械(3)は、マシニングセンサ、NC(Numerical Control)旋盤、研削盤、NC専用機、NC放電加工機などを含む。冷却装置(10)は、成形機やプレス機など、工作機械(3)と異なる種類の機械の油を冷却してもよい。
【0039】
循環回路(2)には、油タンク(4)と、ポンプ(5)と、蒸発器(15)と、工作機械(3)とが接続される。油タンク(4)は、油を貯留する。ポンプ(5)は、循環回路(2)の油を搬送する。蒸発器(15)は、冷却装置(10)に設けられ、循環回路(2)の油を冷却する。蒸発器(15)で冷却された油は、工作機械(3)に供給される。
【0040】
(2)冷却装置
冷却装置(10)は、本開示の流体搬送装置の一例である。
図1に示すように、冷却装置(10)は、冷媒回路(11)を有する。冷却装置(10)は、ケーシング(20)と、ファン(31)と、フィルタ(40)と、コントローラ(50)とを有する。
【0041】
(2-1)冷媒回路
冷媒回路(11)は、充填された冷媒が循環することで、冷凍サイクルを行う。冷媒回路(11)は、圧縮機(12)と、凝縮器(13)と、膨張弁(14)と、蒸発器(15)とを含む。冷媒回路(11)には、圧縮機(12)、凝縮器(13)、膨張弁(14)、および蒸発器(15)が順に接続される。
【0042】
圧縮機(12)は、冷媒を圧縮する。凝縮器(13)は、空気と冷媒とを熱交換させる空気熱交換器である。凝縮器(13)は、フィンアンドチューブ式の熱交換器である。凝縮器(13)は、板厚方向に配列される板状の複数のフィンと、これらのフィンを貫通する伝熱管とを有する。凝縮器(13)には、空気の通風経路が形成される。膨張弁(14)は、例えば電子膨張弁で構成される。蒸発器(15)は、冷媒回路(11)の冷媒と循環回路(2)の油とを熱交換させる。蒸発器(15)は、冷媒回路(11)の冷媒によって循環回路(2)の油を冷却する。冷媒回路(11)は、正サイクルと逆サイクルとを切り換えるための四方切換弁を有してもよい。
【0043】
(2-2)ケーシング
図2に示すように、ケーシング(20)は、中空の箱状に形成される。ケーシング(20)の内部には、圧縮機(12)、凝縮器(13)、膨張弁(14)、蒸発器(15)、ファン(31)、およびフィルタ(40)が収容される。
図2および
図3に示すように、ケーシング(20)には、吸込口(21)と吹出口(22)とが形成される。本実施形態では、ケーシング(20)の側面に吸込口(21)が形成され、ケーシング(20)の上面に吹出口(22)が形成される。吸込口(21)は側方に向かって開口し、吹出口(22)は上方に向かって開口する。ケーシング(20)の内部には、吸込口(21)から吹出口(22)までに亘って空気通路(23)が形成される。空気通路(23)は、流体としての空気が流れる流体通路の一例である。空気通路(23)は、縦断面視において、略L字状に形成される。
【0044】
空気通路(23)には、空気流れの上流側から下流側に向かって、フィルタ(40)、凝縮器(13)、およびファン(31)が順に配置される。
【0045】
(2-3)ファン
ファン(31)は、流体を搬送する搬送部の一例である。ファン(31)は、空気通路(23)の空気を搬送する。ファン(31)は、プロペラファンで構成される。ファン(31)は、羽根車(32)と、羽根車(32)を駆動するモータ(33)とを有する。羽根車(32)は、複数の翼と、これらの翼が固定されるハブとを有する。羽根車(32)とモータ(33)とは駆動軸(34)によって連結される。駆動軸(34)は、軸受けによって回転可能に支持される。
【0046】
(2-4)フィルタ
フィルタ(40)は、流体中の対象物を捕集する。対象物は、オイルミストや塵埃などの粒状物質を含む。フィルタ(40)は、例えば不織布によって構成され、対象物を物理的に捕集する。フィルタ(40)は、吸込口(21)を覆うように、該吸込口(21)の全域に亘って形成される。フィルタ(40)には、空気の通風経路が形成される。フィルタ(40)は、目詰まり状態の判定の対象となる構造体の一例である。フィルタ(40)の裏側には、上述した凝縮器(13)が配置される。
【0047】
(2-5)コントローラ
図4に示すように、冷却装置(10)は、コントローラ(50)を含む。コントローラ(50)は、制御基板上に搭載されたマイクロコンピュータと、該マイクロコンピュータを動作させるためのソフトウエアを格納するメモリディバイス(具体的には半導体メモリ)とを含む。
【0048】
コントローラ(50)は、冷媒回路(11)を制御する。具体的には、コントローラ(50)は、圧縮機(12)のON/OFF、および圧縮機(12)の回転数を制御する。コントローラ(50)は、ファン(31)のON/OFF、およびファン(31)の回転数を制御する。ファン(31)の回転数は、モータ(33)の回転数に相当する。
【0049】
コントローラ(50)は、ファン(31)を駆動する駆動回路(51)を含む。駆動回路(51)は、複数のスイッチング素子を有するとともにモータ(33)に駆動電流を供給するインバータ回路を含む。
【0050】
コントローラ(50)は、モータ(33)からの信号が入力される。この信号は、モータ(33)の電流、電圧、電力、トルク、回転数、磁束、誘起電圧の少なくとも1つを含む。
【0051】
冷却装置(10)は、モータ(33)のこれらの信号を検出する検出部(52)を有する。検出部(53)は、コントローラ(50)に組み込まれてもよいが、コントローラ(50)と別体であってもよい。本実施形態の検出部(52)は、ファン(31)の回転数を検出する。
【0052】
コントローラ(50)は、モータ(33)から得られた物理量(P)を用いてフィルタ(40)の目詰まり状態を判定する。物理量(P)は、空気通路(23)の圧力損失に相関する指標である。
【0053】
「目詰まり状態」とは、フィルタ(40)に対象物が過剰に捕集されることで、フィルタ(40)の通常の機能が損なわれてしまう状態を意味する。
【0054】
本実施形態の物理量(P)は、ファン(31)の減速度合いである。ここで、「減速度合い」とは、運転中のファン(31)の駆動力がなくなった時から、ファン(31)が完全に停止するまでの間の期間(以下、停止期間ともいう)における、ファン(31)の減速の程度を示す指標である。コントローラ(50)は、減速度合いとして、ファン(31)の減速時間(ΔT)を用いる。「減速時間」は、停止期間において、第1回転数(R1)のファン(31)が第2回転数(R2)に至るまでの時間である。フィルタ(40)の目詰まり状態の判定の制御の詳細は後述する。
【0055】
コントローラ(50)は、フィルタ(40)の目詰まり状態が判定されると、フィルタ(40)が目詰まり状態であることを示す第1情報を出力する出力部(53)を有する。言い換えると、出力部(53)は、フィルタ(40)が目詰まり状態であることを報知する報知部である。出力部(53)は、音、光、表示、通信又はそれらのいずれかの組み合わせによって、冷却装置(10)の外部に向けて第1情報を出力する。出力部(53)の具体例としては、スピーカ、ランプ、ディスプレイ、通信装置またはそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0056】
(3)油冷却システムの運転動作
油冷却システム(1)の基本的な運転動作について説明する。油冷却システム(1)の運転時には、コントローラ(50)が圧縮機(12)およびファン(31)を運転し、膨張弁(14)の開度を調整する。ポンプ(5)が運転されると、油タンク(4)の油が蒸発器(15)に送られ、蒸発器(15)によって冷却される。冷却された油は、工作機械(3)に送られた後、油タンク(4)に戻る。
【0057】
冷媒回路(11)では、圧縮機(12)で圧縮された冷媒が凝縮器(13)を流れる。凝縮器(13)では、冷媒が空気に放熱して凝縮する。凝縮した冷媒は、膨張弁(14)で減圧された後、蒸発器(15)を流れる。蒸発器(15)では、冷媒が油から吸熱して蒸発する。蒸発した冷媒は、圧縮機(12)に吸入される。
【0058】
ファン(31)が運転されると、ケーシング(20)の外部の空気は、吸込口(21)から空気通路(23)に流入する。この空気はフィルタ(40)を通過する。フィルタ(40)は、空気中のオイルミストや塵埃を捕集する。フィルタ(40)を通過した空気は、凝縮器(13)を流れ、加熱される。凝縮器(13)を通過した空気は、吹出口(22)からケーシング(20)の外部へ上方に吹き出される。
【0059】
(4)フィルタの目詰まり状態の判定
フィルタ(40)が目詰まり状態になると、フィルタ(40)の交換やメンテナンスが必要となる。本例の冷却装置(10)は、油冷却システム(1)に適用されており、空気通路(23)に吸い込まれる空気中にオイルミストが多く存在することがある。このため、冷却装置(10)では、フィルタ(40)が目詰まり状態になりやすい。したがって、フィルタ(40)の目詰まり状態の判定は、油冷却システム(1)の信頼性を確保する上で特に重要である。
【0060】
一方、圧力センサや風量センサを空気通路(23)に配置し、これらのセンサによりフィルタ(40)の目詰まり状態を直接的に判定することも考えられる。しかし、空気通路(23)はオイルミストが流れるので、これらのセンサを用いるのは困難である。そこで、本実施形態のコントローラ(50)は、モータ(33)から得られた物理量(P)を用いてフィルタ(40)の目詰まり状態を判定する。
【0061】
(4-1)判定制御
フィルタ(40)の目詰まり状態を判定する制御について、
図5および
図6を参照しながら説明する。
【0062】
ステップS11において、コントローラ(50)にファン(31)の停止指令が入力されると、処理はステップS12に移行する。ステップS12では、コントローラ(50)はファン(31)の電力供給を停止する。具体的には、コントローラ(50)は、駆動回路(51)からモータ(33)への駆動電流の供給を停止させる。
【0063】
次いでステップS13では、コントローラ(50)は、減速時間(ΔT)を測定する。具体的には、コントローラ(50)は、
図6に示すように、ファン(31)の回転数が第1回転数(R1)であるときの第1時点(t1)から、ファン(31)の回転数が第2回転数(R2)に至る第2時点(t2)までの減速時間(ΔT)を求める。
【0064】
ステップS14では、コントローラ(50)は、減速時間(ΔT)と基準値とを比較する。ステップS14において、減速時間(ΔT)が基準値より小さい場合、処理はステップS15に移行する。ステップS15では、コントローラ(50)は、フィルタ(40)が目詰まり状態であると判定する。ステップS16では、出力部(53)が第1情報を冷却装置(10)の外部へ出力する。これにより、ユーザ、メンテナンス業者、メーカなどは、フィルタ(40)が目詰まり状態であることを速やかに把握できる。
【0065】
(4-2)減速度合いとフィルタの目詰まりの関係
ファン(31)の駆動力がなくなり、ファン(31)が空転状態、あるいはフリーラン状態になると、ファン(31)は慣性により回転を続ける。この際、ファン(31)およびモータ(33)には負荷トルクが発生するので、ファン(31)およびモータ(33)の回転数は減速する。このときの負荷トルクTは、以下の(1)式で表すことができる。
【0066】
T=(Ps+Pv)×Q/N・・・(1)
Ps:静圧[Pa]
Pv:動圧[Pa]
Q:風量[m3/sec]
N:ファンの回転数[rpm]
フィルタ(40)が目詰まり状態になると、静圧Psが大きくなり、空気通路(23)の圧力損失が大きくなる。空気通路(23)の圧力損失の増大に伴い負荷トルクが増える風量・静圧特性を有するファン(31)を用いる場合、負荷トルクの増大によりファン(31)の減速度合いが大きくなり、減速時間(ΔT)が短くなる。特性を有するファンは、例えばプロペラファンなどの軸流式のファンである。したがって、上述したように、軸流式のファン(31)の減速時間(ΔT)が基準値より小さくなることで、空気通路(23)の圧力損失の増大、さらにはフィルタ(40)の目詰まり状態を判定できる。
【0067】
(4-3)第1回転数および第2回転数について
本実施形態のファン(31)の最大回転数(Rmax)は1500[rpm]である。本実施形態の第1回転数(R1)は、1400[rpm]に設定され、第2回転数(R2)が400[rpm]に設定される。
【0068】
第1回転数(R1)は、最大回転数(Rmax)であってもよい。第1回転数(R1)を比較的大きくすることで、正常状態と目詰まり状態との間での減速時間(ΔT)の変化量が大きくなり、フィルタ(40)の目詰まり状態の誤判定を抑制できる。
【0069】
第2回転数(R2)はファン(31)の最大回転数(Rmax)の25%以上であることが好ましい。軸受け損は、ファン(31)の回転数に比例し、風損はファン(31)の回転数の3乗に比例する。このため、ファン(31)の回転数が小さくなると、軸受け損と風損の合計に対する風損の割合が急激に低下する。
【0070】
図7は、ファン(31)の最大回転数(Rmax)に対する回転数の割合と、軸受け損と風損の合計に対する風損の割合の一例を示すグラフである。
図7からわかるように、風損の割合が急激に低下するポイントは、ファン(31)の最大回転数(Rmax)の25%の回転数あたりになる。第2回転数(R2)が最大回転数(Rmax)の25%より小さくなると、軸受け損と風損の合計に対する風損の割合が小さくなり、フィルタ(40)の目詰まり状態を誤判定してしまう可能性が高くなる。第2回転数(R2)を最大回転数(Rmax)の25%以上にすることで、目詰まり状態の判定精度が低下をすることを抑制できる。風損の割合が小さくなると、フィルタ(40)の目詰まり状態の判定の精度が低下する理由についての詳細は、後述する。
【0071】
(5-1)軸受け損の影響
モータ(33)から得た物理量(P)を用いてフィルタ(40)の目詰まり状態を判定する場合、ファン(31)の軸受け損の影響により、物理量(P)に対する外乱の割合が大きくなり、フィルタ(40)の目詰まり状態の判定の精度が低下してしまう。この点について詳細に説明する。
【0072】
本願発明者らは、ファン(31)の風損と軸受け損の合計に対する風損の割合が小さいと、物理量(P)に対する外乱の割合が大きくなり、目詰まり状態の判定の精度が低下してしまうことをみいだした。
【0073】
図8は、風損と軸受け損の合計に対する風損の割合が比較的大きい構成のファン(31)の停止期間における回転数の特性を表したグラフである。
図9は、風損と軸受け損の合計に対する風損の割合が比較的小さい構成のファン(31)の停止期間における回転数の特性を表したグラフである。
図8および
図9の実線は、フィルタ(40)が正常状態であるときの回転数の特性を示す。
図8および
図9の破線は、フィルタ(40)が目詰まり状態であるときの回転数の特性を示す。なお、「正常状態」とは、構造体であるフィルタ(40)が新品であり、フィルタ(40)の機能が損なわれていない状態を意味する。
【0074】
風損は、ファン(31)と流体との間の摩擦によって生じる機械損失であり、空気通路(23)の圧力損失に影響を与える指標である。これに対し、ファン(31)の軸受け損は、ファン(31)の駆動軸(34)の軸受けの摩擦によって生じる機械損失であり、空気通路(23)の圧力損失に影響を与えない指標といえる。したがって、
図8のように、風損の割合が大きいファン(31)の構成では、フィルタ(40)が正常状態から目詰まり状態になると、軸受け損失を含めた負荷トルクの変化割合が比較的大きくなる。よって、
図8のファン(31)においては、フィルタ(40)が正常状態であるときの減速時間(ΔT)と、フィルタ(40)が目詰まり状態であるときの減速時間(ΔT)との差が比較的大きくなる。
図8に示すように、フィルタ(40)が正常状態であるときの第2時点(t2)と、フィルタ(40)が目詰まり状態であるときの第2時点(t2’)との差(ΔT2)も比較的大きくなる。
【0075】
これに対し、
図9のように、風損の割合が小さいファン(31)の構成では、フィルタ(40)が正常状態から目詰まり状態になっても、軸受け損失を含めた負荷トルクの変化割合は比較的小さくなる。よって、
図9のファン(31)においては、フィルタ(40)が正常状態であるときの減速時間(ΔT)と、フィルタ(40)が目詰まり状態であるときの減速時間(ΔT)との差が比較的小さくなる。具体的には、
図9のファン(31)では、フィルタ(40)が正常状態であるときの第2時点(t2)と、フィルタ(40)が目詰まり状態であるときの第2時点(t2’)との差(ΔT2)も比較的小さい。
【0076】
図9のように、フィルタ(40)の正常状態と目詰まり状態との間の減速時間(ΔT)の差が小さい場合、フィルタ(40)の目詰まり状態を誤判定してしまう可能性がある。モータ(33)から得る物理量(P)、すなわち減速時間(ΔT)は、他の影響によりばらつきが生じうる。ばらつきの要因としては、ファン(31)の使用に伴う変形の影響、空気通路(23)の外部から内部へ移動する空気の影響、空気通路(23)を流れる流体の密度の影響、ファン(31)の構成部品の個体差のばらつきの影響などがある。これらの影響により、モータ(33)から得た減速時間(ΔT)に誤差が生じると、フィルタ(40)が目詰まり状態でないにも拘わらず、減速時間(ΔT)が基準値よりも小さくなってしまい、目詰まり状態を誤判定してしまう。
【0077】
(5-2)誤判定を抑制するためのファンの構成
本実施形態のファン(31)は、上記の課題を解決すべく、物理量(P)に対する外乱の割合を小さくするように構成される。ここでいう外乱は、ファン(31)の軸受け損の影響である。つまり、ファン(31)は、物理量(P)に対する軸受け損の影響を小さくするように構成される。具体的には、ファン(31)は、ファン(31)の風損と軸受け損の合計に対する風損の割合が所定値よりも大きい特性となる構成である。より具体的には、ファン(31)は、ファン(31)の最大回転数の25%の回転数における、ファン(31)の風損と軸受け損との合計に対する風損の割合が90%より大きくなるように構成される。具体的には、ファン(31)は、この関係を満たすように、構造、要素部品、形状、材質、仕様などが決定される。例えば、転がり軸受や磁気軸受けを使用することで、ファン(31)の風損と軸受け損との合計に対する風損の割合を大きくすることができる。
【0078】
上述したように、フィルタ(40)の目詰まり状態の判定は、ファン(31)の回転数が、最大回転数(Rmax)の25%より高い領域で行われる。このため、ファン(31)の最大回転数(Rmax)の25%の回転数において、風損の割合が90%より大きければ、それよりも回転数が高い領域においても、風損の割合は90%より高くなる。上述したように、風損の割合はファン(31)の回転数が大きくなるほど大きくなるからである。
【0079】
ここで、風損の割合の下限値を90%とする理由について説明する。本願発明者らは、一般的なファンを用いて、フィルタが正常状態から目詰まり状態になるまでの風損の変化について検証した。一般的な未使用時のファンにおいて、回転数が1400[rpm]における風損は30.6[W]である。これに対し、フィルタが目詰まり状態になると風損は31.0[W]まで増大する。つまり、フィルタが正常状態から目詰まり状態になると、風損の増加分は0.4[W]となる。これに対し、ファンの使用に伴う軸受け損失の増加率を5%とすると、風損の増加分が軸受け損失の増加分よりも大きくなる条件を満たすためには、未使用時のファンの軸受け損失を約8.5[W]以下とする必要がある。言い換えると、この条件を満たすためには、ファンの風損の割合を約78%以上とする必要がある。この風損の割合に余裕率(約1.2)を乗じると、風損の割合の下限値は90%となる。
【0080】
このようにファン(31)を構成すると、第1回転数(R1)から第2回転数(R2)に至るまでの間での風損の割合が90%以上となる。その結果、減速時間(ΔT)に対する、軸受け損の影響を小さくできるので、フィルタ(40)の目詰まり状態の判定の精度を向上できる。
【0081】
(5-3)実施形態の効果
以上のように、本実施形態は、モータ(33)から得られ、空気通路(23)の圧力損失に相関する減速時間(ΔT)を用いてフィルタ(40)の目詰まり状態を判定するコントローラ(50)を備え、ファン(31)は、減速時間(ΔT)に対する外乱の割合を小さくするように構成される。ここでいう外乱は、ファン(31)の軸受け損の影響である。
【0082】
これにより、
図9に示すように、フィルタ(40)の正常状態と目詰まり状態との間での減速時間(ΔT)の差が小さくなることを抑制できるので、このことに起因してフィルタ(40)の目詰まり状態の判定精度が低下することを抑制できる。
【0083】
特に、ファン(31)は、ファン(31)の最大回転数(Rmax)の25% の回転数における、ファン(31)の風損と軸受け損との合計に対する風損の割合が90%より大きくなるように構成される。この構成では、フィルタ(40)の減速時間を計測する、回転数の領域において風損の割合を大きくできるので、フィルタ(40)の目詰まり状態の判定精度の低下を効果的に抑制できる。
【0084】
コントローラ(50)は、検出部(52)で検出したモータ(33)の回転数に基づいてフィルタ(40)の目詰まり状態を判断する。ここで、モータ(33)の回転数は、モータ(33)の回転数の制御にも利用される。つまり、検出部(52)は、モータ(33)の回転数の制御と、フィルタ(40)の目詰まり状態の判定の双方に利用される。したがって、検出部の数量を削減できる。
【0085】
(6)変形例
上述した実施形態については、次の変形例の構成を採用してもよい。なお、以下に述べる各変形例の構成は、上記実施形態に付加されてもよいし、上記実施形態の一部の構成を変更して適用されてもよい。
【0086】
(6-1)変形例1:羽根車の使用に伴う変形の影響を小さくする構成
羽根車(32)の使用に伴う変形の影響は、モータ(33)から得られる物理量に対する外乱となる。この外乱の影響により物理量が変化すると、フィルタ(40)の目詰まり状態の判定精度が低下してしまう。そこで、変形例1のファン(31)は、物理量(P)に対する羽根車(32)の使用に伴う変形の影響を小さくするように構成される。ファン(31)の羽根車(32)は、樹脂製であるが、羽根車(32)のいわゆる経年変形が小さくなるように構成される。なお、羽根車(32)は、経年変形しにくい金属材料で構成されてもよい。
【0087】
ファン(31)の初回の運転の開始時を時点taとし、該時点taから、前記モータ(33)または羽根車(32)の最大使用温度にて最大回転数で600時間運転した時を時点tbとする。ファン(31)は、時点taから時点tbまでの間の羽根車(32)の変形に起因する物理量(P)の変化量が、必要精度の50%以下となるように構成される。ここで、「必要精度」は、流体通路(23)の圧力損失の推定誤差に相当する物理量の変化に相当する。ファン(31)は、この関係を満たすように、構造、要素部品、形状、材質、仕様などが決定される。例えば、ファンの材質をクリープ耐性のあるPEEKにすることで、この関係を満たすようにできる。
【0088】
例えば製品に求められる圧力損失の推定値の許容誤差が10pa(±5pa)である場合、この許容誤差に相当する減速時間(ΔT)の変化(即ち、必要精度)は、例えば63.5[msec]となる。この場合、ファン(31)は、時点taから時点tbまでの間の羽根車(32)の変形に起因する減速時間(ΔT)の変化が、63.5[msec]の50%以下になるように構成される。これにより、減速時間(ΔT)に対する羽根車(32)の変形に起因する外乱を許容誤差以下に抑制できるので、フィルタ(40)の目詰まり状態の判定精度が低下することを抑制できる。
【0089】
なお、上述した600時間は、一般的なファン(31)の最大使用温度・最大回転数での使用に伴う変形が収束する時間(実効値)であり、経験的に求められた時間である。
【0090】
(6-2)変形例2:流体通路の外部から内部への流体の移動の影響を小さくする構成
空気通路(23)の外部から内部へ流体が移動することは、モータ(33)から得られる物理量に対する外乱となる。この影響が大きくなると、フィルタ(40)の目詰まり状態の判定精度が低下してしまう。そこで、変形例2の空気通路(23)は、空気通路(23)の外部から内部への流体の移動の影響を小さくするように構成される。
【0091】
(6-2-1)変形例2A:
具体的には、変形例2Aでは、
図10に示すように、空気通路(23)の吸込口(21)が下方に向かって開口し、吹出口(22)が上方に向かって開口する。この構成では、横風の影響により、空気通路(23)の外部から内部へ空気が移動することを抑制できる。このため、横風の影響により、物理量(P)に対する外乱の割合が大きくなることを抑制できるので、フィルタ(40)の目詰まり状態の誤判定を抑制できる。
【0092】
なお、上述した実施形態のように、吹出口(22)を上方に向かって開口させ、吸込口(21)を側方に向かって開口させてもよい。即ち、吸込口(21)および吹出口(22)の少なくとも一方、上方または下方に向かって開口しているのでれば、如何なる構成であってもよい。
【0093】
(6-2-2)変形例2B:
具体的には、変形例2Bでは、
図11に示すように、冷却装置(10)が室内空間(I)に設置される。空気通路(23)の吸込口(21)および吹出口(22)は、室内空間(I)に向かって開口している。この構成では、室外の横風の影響により、空気通路(23)の外部から内部へ空気が移動することを抑制できる。このため、室外の横風の影響により、物理量(P)に対する外乱の割合が大きくなることを抑制できるので、フィルタ(40)の目詰まり状態の誤判定を抑制できる。
【0094】
なお、吸込口(21)および吹出口(22)の一方が室内空間(I)に開口し、他方が室外空間に開口してもよい。
【0095】
(6-3)変形例3:正常状態と目詰まり状態との間での物理量の関係
変形例3の冷却装置(10)は、次の(2)式の関係を満たすような構成される。
【0096】
X>(Y+Y’)/2・・・(2)
ここで、Yは、正常状態のフィルタ(40)において、モータ(33)から得られる物理量(P)である。Y’は、目詰まり状態のフィルタ(40)において、モータ(33)から得られる物理量(P)である。物理量(P)は、例えば減速時間(ΔT)である。YおよびY’は、上述したように種々の要因に起因してばらつきが生じうる。ばらつきの要因としては、上述したように、軸受け損の影響、ファン(31)の使用に伴う変形の影響、空気通路(23)の外部から内部へ移動する空気の影響、空気通路(23)を流れる流体の密度の影響、ファン(31)の構成部品の個体差のばらつきの影響などがある。したがって、
図12に示すように、YおよびY’は、所定の範囲がある。Xは、Yの範囲の中心値(c1)と、Y’の範囲の中心値(c2)との差である。
【0097】
ファン(31)および空気通路(23)の一方あるいは両方は、上記(2)式を満たすように構成される。具体的には、ファン(31)および空気通路(23)の一方、あるいは両方は、上述した複数の影響を評価して、構造、形状、材質、仕様などが決定される。
【0098】
空気通路(23)を流れる流体の密度に関係する指標としては、流体の温度、湿度、圧力、汚染度などがある。これらの指標を用いて流体の密度の影響を評価できる。部品の個体差のばらつきは、複数の部品のサンプルを用意し、これらの実力値を用いることで評価できる。
【0099】
図12に示すYとY’が重複すると、上述した目詰まり状態の判定において、フィルタ(40)が正常状態であるにも拘わらず、フィルタ(40)が目詰まり状態であると誤判定してしまう可能性がある。これに対し、上記(2)式の関係が満たされると、YとY’が重複しない。このため、上述した種々の要因に起因して、目詰まり状態の判定の精度が低下することを抑制できる。
【0100】
(6-4)変形例4:物理量の補正
変形例4のコントローラ(50)は、モータ(33)から得た物理量(P)を、他の物理量を用いて補正した後、補正後の物理量を判定値として構造体(40)の目詰まり状態を判定する。
【0101】
(6-4-1)変形例4A:ファンの使用に伴う変形量に基づく補正
ファン(31)の使用に伴いファン(31)が変形すると、上述したように、モータ(33)から得られる物理量(P)が変化する。そこで、コントローラ(50)は、ファン(31)の変形量を用いて物理量(P)を補正する。
【0102】
ファン(31)の変形量が大きくなると、モータ(33)から得られる減速時間(ΔT)が長くなる。このため、フィルタ(40)が目詰まり状態であるにも拘わらず、上述したステップS14の関係が成立せず、目詰まり状態と判定されない可能性がある。変形例4Aのコントローラ(50)は、ファン(31)の変形量が大きくなるほど、減速時間(ΔT)を小さくする補正を行う。これにより、ファン(31)の使用に伴う変形に起因して、目詰まり状態の判定の精度が低下することを抑制できる。なお、ファン(31)の変形量は、ファン(31)の運転時間、ファン(31)の回転数、ファン(31)の温度、およびファン(31)の仕様とに基づいてコントローラ(50)によって推定される。あるいは、ファン(31)の変形量は、センサに直接的に計測される。
【0103】
(6-4-2)変形例4B:流体の密度に基づく補正
空気通路(23)の流体の密度が変化すると、モータ(33)から得られる物理量(P)が変化する。そこで、コントローラ(50)は、流体の密度に関する指標を用いて物理量(P)を補正する。この指標としては、流体の温度、湿度、圧力、汚染度などがある。これらの指標は、空気通路(23)に配置したセンサによって直接的に計測される。あるいは、これらの指標は、流体の物性値に応じて決まる定数や、冷却装置(10)を使用する標高によって決定される。これにより、空気通路(23)の流体の密度の変化に起因して、目詰まり状態の判定の精度が低下することを抑制できる。
【0104】
(6-5)変形例5:物理量の変化量を増大させる構成
変形例5のファン(31)は、フィルタ(40)の正常状態と目詰まり状態との間での、空気通路(23)の圧力損失の変化に伴う物理量(P)の変化量(ΔP)を増大させることで、物理量(P)に対する外乱の割合を小さくするように構成される。具体的には、ファン(31)は、ファン(31)のイナーシャ(慣性モーメント)を小さくすることで、上記変化量(ΔP)を増大させる。変形例5の羽根車(32)は、例えば金属材料よりも密度が小さい材料で構成される。具体的には、羽根車(32)は、ポリプロピレンなどの樹脂材料で構成される。
【0105】
ファン(31)の停止期間には、以下(3)式の運動方程式が成り立つ。
【0106】
J×α=T・・・(3)
T:負荷トルク
α:角加速度
J:イナーシャ
ここで、αは、ファン(31)の停止期間におけるファン(31)の減速率に相当する。フィルタ(40)の目詰まりに伴いファン(31)の負荷トルクが増大する場合、イナーシャが小さいほどファン(31)の減速率(角加速度α)が大きくなる。したがって、圧力損失に相関する物理量(P)をファン(31)の減速率(角加速度α)とすると、ファン(31)のイナーシャを小さくすることで、ファン(31)の減速率が大きくなり、圧力損失に相関する物理量(P)の変化が大きくなる。すなわち、変形例5は、目詰まり状態における物理量(P)の変化を顕著化させるように構成される。
【0107】
(7)その他の実施形態
上述した実施形態、および各変形例においては、以下の構成としてもよい。
【0108】
(7-1)搬送部
搬送部は、回転運動によって流体を搬送する。搬送部は、空気などの気体を搬送するファン(31)だけでなく、水などの液体を搬送するポンプであってもよい。この場合、流体通路は、液体が流れる通路を構成する。
【0109】
(7-2)構造体
構造体は、流体通路に配置され、空気が通過することで流体通路に圧力損失が生じる。構造体は、このような構成であればフィルタ(40)以外であってもよい。具体的には、構造体は、凝縮器、蒸発器、放熱器などの熱交換器であってもよい。構造体は、デミスタや電気集塵機であってもよい。
【0110】
(7-3)物理量
物理量(P)は、モータ(33)から得られる、流体通路(23)の圧力損失に相関する指標である。物理量(P)は、減速時間(ΔT)以外の指標であってもよい。減速度合いに関する指標としては、ファン(31)の停止期間における、ファン(31)の減速速度であってもよい。減速度合い以外の物理量(P)としては、モータ(33)の電流、電圧、または電力、トルク、回転数、磁束、誘起電圧、音、振動がある。物理量(P)は、モータ(33)の電流、電圧、電力、またはトルクなどの周波数スペクトルであってもよい。
【0111】
これらの物理量(P)を用いて目詰まり状態を判定する場合、上述したように、軸受け損の影響により判定精度が低下しやすい。このため、上述した実施形態のように、軸受け損の影響を小さくすることで、判定精度を向上できる。とりわけ、モータ(33)の電力、電流の実効値や、上述した減速時間(ΔT)など、モータ(33)の電力に相関する物理量(P)を用いる場合、上述した実施形態の構成が有効である。
【0112】
モータ(33)の電力を物理量(P)とする場合、構造体(40)が正常状態であるときのモータ(33)の回転数と、この回転数に応じたモータ(33)の電力値(基準電力値)をコントローラ(50)の記憶部に記憶させる。コントローラ(50)は、モータ(33)が所定回転数であるときに、実際のモータ(33)の電力値が、この回転数に対応する基準電力値に対して所定値(例えば基準電力値の5%以上)大きい場合、構造体(40)が目詰まり状態であると判定する。
【0113】
(7-4)減速時間の判定
ファン(31)の特性によっては、コントローラ(50)は、減速時間(ΔT)が基準値よりも大きい場合に、構造体(40)が目詰まり状態であると判定してもよい。具体的には、シロッコ式のファンのように、ファン(31)は、流体通路(23)の静圧が増大することにより、ファン(31)の減速度合いが小さくなる特性を有することがある。この場合、構造体(40)が目詰まり状態になることで、減速時間(ΔT)が長くなる。そこで、コントローラ(50)は、減速時間(ΔT)が基準値よりも大きい場合に、構造体(40)が目詰まり状態であると判定する。
【0114】
(7-5)流体搬送装置の他の適用例
流体搬送装置は、空気処理装置に適用されてもよい。ここでいう空気処理装置は、空気が流れる空気通路(23)を有する装置であり、空気調和装置、空気清浄機、調湿装置、換気装置、給湯装置などを含む。ここでいう空気調和装置は、冷蔵庫や冷凍庫などの庫内を冷却する装置も含む。空気通路は、空気調和装置や給湯装置の室外機の通路であってもよい。流体搬送装置は、水力発電装置などの液体が流れる流路を含む装置に適用されもよい。
【0115】
(7-6)目詰まり状態の判定
コントローラ(50)は、モータ(33)から得られた物理量と、所定の基準値とを比較して、フィルタ(40)が目詰まり状態であるか否かを判定する。しかしながら、コントローラ(50)は、モータ(33)から得られた物理量に基づいて、フィルタ(40)の目詰まり状態の程度(目詰まりの進行段階)を判定してもよい。
【0116】
以上、実施形態、変形例、およびその他の実施形態について説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態の要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0117】
以上に述べた「第1」、「第2」、「第3」…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上に説明したように、本開示は、流体搬送装置について有用である。
【符号の説明】
【0119】
10 冷却装置(流体搬送装置)
21 吸込口
22 吹出口
23 空気通路(流体通路)
31 ファン(搬送部)
32 羽根車
33 モータ
40 フィルタ(構造体)
I 室内空間
【手続補正書】
【提出日】2024-01-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0074
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0074】
風損は
、空気通路(23)の圧力損失に影響を与える指標である。これに対し、ファン(31)の軸受け損は、ファン(31)の駆動軸(34)の軸受けの摩擦によって生じる機械損失であり、空気通路(23)の圧力損失に影響を与えない指標といえる。したがって、
図8のように、風損の割合が大きいファン(31)の構成では、フィルタ(40)が正常状態から目詰まり状態になると、軸受け損失を含めた負荷トルクの変化割合が比較的大きくなる。よって、
図8のファン(31)においては、フィルタ(40)が正常状態であるときの減速時間(ΔT)と、フィルタ(40)が目詰まり状態であるときの減速時間(ΔT)との差が比較的大きくなる。
図8に示すように、フィルタ(40)が正常状態であるときの第2時点(t2)と、フィルタ(40)が目詰まり状態であるときの第2時点(t2’)との差(ΔT2)も比較的大きくなる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路(23)と、
モータ(33)と、該モータ(33)によって駆動される羽根車(32)とを有し、前記流体通路(23)の流体を搬送する搬送部(31)と、
前記流体通路(23)に配置される構造体(40)と、
前記モータ(33)から得られる、前記流体通路(23)の圧力損失に相関する物理量を用いて前記構造体(40)の目詰まり状態を判定する制御器(50)とを備え、
前記搬送部(31)は、前記搬送部(31)の最大回転数の25%の回転数における、該搬送部(31)の風損と軸受け損との合計に対する風損の割合が90%より大きい
流体搬送装置。
【請求項2】
前記物理量は、前記搬送部(31)が停止する際の該搬送部(31)の減速度合いである
請求項1に記載の流体搬送装置。
【請求項3】
前記制御器(50)は、前記減速度合いとしての前記搬送部(31)の減速時間が、所定値よりも小さい場合に、前記構造体(40)が目詰まり状態であると判定する
請求項2に記載の流体搬送装置。