(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051371
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】フレキソ印刷版原版およびフレキソ印刷版の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/004 20060101AFI20240404BHJP
B41N 1/12 20060101ALI20240404BHJP
B41C 1/00 20060101ALI20240404BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20240404BHJP
G03F 7/027 20060101ALI20240404BHJP
G03F 7/095 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
G03F7/004 501
B41N1/12
B41C1/00
G03F7/00 502
G03F7/027 502
G03F7/095
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157503
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井戸 健二
(72)【発明者】
【氏名】藤丸 浩一
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
2H196
2H225
【Fターム(参考)】
2H084AA30
2H084AA32
2H084BB02
2H084BB04
2H084CC01
2H114AA01
2H114AA23
2H114AA27
2H114BA10
2H114DA04
2H114DA27
2H114DA47
2H114DA56
2H114EA02
2H196AA03
2H196BA05
2H225AC21
2H225AC31
2H225AC50
2H225AC63
2H225AC74
2H225AD05
2H225AE08N
2H225AE12P
2H225AM22P
2H225AM25P
2H225AM53N
2H225AM53P
2H225AM61P
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2H225AM92P
2H225AM95P
2H225AN10N
2H225AN11P
2H225AN12N
2H225AN12P
2H225AN23P
2H225AN31N
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2H225AN35P
2H225AN46P
2H225AN49P
2H225AN56P
2H225AN59N
2H225AN60N
2H225AN79P
2H225AN87P
2H225AP01N
2H225AP01P
2H225AP03P
2H225BA01N
2H225BA01P
2H225BA04P
2H225BA10P
2H225BA32P
2H225CA02
2H225CB01
2H225CB02
2H225CC01
2H225CC03
2H225CC13
2H225CC29
(57)【要約】
【課題】印刷後においてもフレキソ印刷版のインカールを抑制することができるフレキソ印刷原版を提供すること。
【解決手段】少なくとも支持体および感光性樹脂層を有するフレキソ印刷版原版であって、前記感光性樹脂層が、少なくとも親水性可塑剤(成分A)、エチレンオキシド繰り返し数が2以上である化学構造と水酸基とを有するエチレン性不飽和基含有モノマー(成分B)および親水性ポリマー(成分C)を含有し、前記成分Aの感光性樹脂層中における含有量が30質量%以下であり、前記感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率が2.5MPa以下となるフレキソ印刷版原版。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも支持体および感光性樹脂層を有するフレキソ印刷版原版であって、前記感光性樹脂層が、少なくとも親水性可塑剤(成分A)、エチレンオキシド繰り返し数が2以上である化学構造と水酸基とを有するエチレン性不飽和基含有モノマー(成分B)および親水性ポリマー(成分C)を含有し、前記成分Aの感光性樹脂層中における含有量が30質量%以下であり、前記感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率が2.5MPa以下となるフレキソ印刷版原版。
【請求項2】
感光性樹脂層中における前記成分Bの含有量が20質量%以上60質量%以下である請求項1に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項3】
前記成分Bとして単官能モノマーを含有する請求項1または2に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項4】
前記感光性樹脂層がさらに多官能モノマー(成分D)を含有し、成分Dの感光性樹脂層中における含有量が10質量%以下である請求項3に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項5】
前記成分Cとして部分ケン化ポリビニルアルコールおよび/または部分ケン化ポリビニルアルコール誘導体を含有する請求項1または2に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項6】
前記部分ケン化ポリビニルアルコールおよび/または部分ケン化ポリビニルアルコール誘導体のケン化度が55モル%以上75モル%以下である請求項5に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項7】
前記感光性樹脂層の光硬化後のエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート浸漬後の反り量が3mm以下となる請求項1または2に記載のフレキソ印刷版原版。
【請求項8】
請求項1または2に記載のフレキソ印刷版原版の感光性樹脂層に紫外線を照射し、感光性樹脂層を部分的に光硬化させる露光工程、および、感光性樹脂層の未硬化部を除去する現像工程を有する、フレキソ印刷版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷版原版およびそれを用いたフレキソ印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷は、その柔軟性を活かして、紙器、ラベル、軟包装用途やエレクトロニクス用途などに広く使用されている。フレキソ印刷に用いられるフレキソ印刷版のレリーフを形成する方法として、フレキソ印刷版原版の感光性樹脂層に、画像マスクや原画フィルムを介して紫外線を照射して画像部を選択的に光硬化させ、未硬化部分を現像液により除去する方法が、一般的に用いられている。
【0003】
近年、環境への配慮から、水により現像可能なフレキソ印刷版原版の開発が進んでいる。例えば、現像工程を短縮し、レリーフ前駆体やレリーフ構造の柔軟性を高め、カール現象を抑制する技術として、現像可能なレリーフ前駆体の感光性組成物であって、少なくとも1つのイオン基を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーと、少なくとも1種の光開始剤又は光開始剤系と、少なくとも1種の水溶性及び/又は水分散性バインダーと、任意選択で、1又は複数種の添加剤とを含む感光性組成物を含む、現像可能なレリーフ前駆体(例えば、特許文献1参照)が提案されている。また、ロングラン印刷時にも安定した印刷物が得られる感光性フレキソ印刷版原版として、基板と感光性樹脂層を少なくとも含み、当該感光性樹脂層が、少なくとも(a)親水性ポリマー、(b)親水性モノマー、(c)光重合開始剤、(d)親水性可塑剤、(e)撥インキ剤を含有し、175線3%網点が100個中99個以上再現するように露光し現像したとき、光硬化後の感光性樹脂層のトリプロピレングリコールジアクリレートに対する接触角が40°以上70°以下となり、前記光硬化後の感光性樹脂層のトリプロピレングリコールアクリレートに50℃24時間浸漬後の質量変化率が-4.0%以上4.0%以下となる、感光性フレキソ印刷版原版(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-085860号公報
【特許文献2】国際公開第2022/131234号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のレリーフ前駆体により水分揮発による樹脂収縮が抑制され、反りを抑制することができる。しかしながら、本発明者らの検討により、印刷時には版面温度が30℃から40℃近くに到達する場合があり、印刷時に発生する収縮によるレリーフの反りについては依然課題があることが明らかになった。特許文献2に記載の感光性フレキソ印刷版原版もまた、印刷後のレリーフが、レリーフを内側に反る現象(インカール)が生じやすい課題があった。
【0006】
フレキソ印刷においては、両面粘着性のクッションテープを用いて版胴にフレキソ印刷版を貼り付け、印刷終了時にフレキソ印刷版を剥離することが一般的である。また、印刷受注に応じて、同じフレキソ印刷版を複数回使用する場合が多い。印刷後のフレキソ印刷版にインカールが生じると、版胴の円筒曲面に貼り付ける際に位置ずれが生じるなど、作業性が低下することから、印刷後のインカールを抑制することが求められている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、印刷後においてもフレキソ印刷版のインカールを抑制することができるフレキソ印刷原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、主として次の構成を有する。
(1)少なくとも支持体および感光性樹脂層を有するフレキソ印刷版原版であって、前記感光性樹脂層が、少なくとも親水性可塑剤(成分A)、エチレンオキシド繰り返し数が2以上である化学構造と水酸基とを有するエチレン性不飽和基含有モノマー(成分B)および親水性ポリマー(成分C)を含有し、前記成分Aの感光性樹脂層中における含有量が30質量%以下であり、前記感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率が2.5MPa以下となるフレキソ印刷版原版。
(2)感光性樹脂層中における前記成分Bの含有量が20質量%以上60質量%以下である(1)に記載のフレキソ印刷版原版。
(3)前記成分Bとして単官能モノマーを含有する(1)または(2)に記載のフレキソ印刷版原版。
(4)前記感光性樹脂層がさらに多官能モノマー(成分D)を含有し、成分Dの感光性樹脂層中における含有量が10質量%以下である(1)~(3)のいずれかに記載のフレキソ印刷版原版。
(5)前記成分Cとして部分ケン化ポリビニルアルコールおよび/または部分ケン化ポリビニルアルコール誘導体を含有する(1)~(4)のいずれかに記載のフレキソ印刷版原版。
(6)前記部分ケン化ポリビニルアルコールおよび/または部分ケン化ポリビニルアルコール誘導体のケン化度が55モル%以上75モル%以下である(5)に記載のフレキソ印刷版原版。
(7)前記感光性樹脂層の光硬化後のエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート浸漬後の反り量が3mm以下となる(1)~(6)のいずれかに記載のフレキソ印刷版原版。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載のフレキソ印刷版原版の感光性樹脂層に紫外線を照射し、感光性樹脂層を部分的に光硬化させる露光工程、および、感光性樹脂層の未硬化部を除去する現像工程を有する、フレキソ印刷版の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフレキソ印刷版原版によれば、印刷後においてもフレキソ印刷版のインカールを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のフレキソ印刷版原版(以下、「印刷版原版」と記載する場合がある)は、フレキソ印刷に用いられるフレキソ印刷版(以下、「印刷版」と記載する場合がある)の前駆体であり、少なくとも支持体および感光性樹脂層を有する。支持体は、感光性樹脂層を保持する作用を有する。感光性樹脂層は、紫外線などの活性エネルギー線を照射することにより、硬化する層である。感光性樹脂層を有することにより、例えば紫外線を画像様に照射することにより、所望のレリーフを形成することができる。感光性樹脂層上に、さらにカバーフィルムを有してもよく、感光性樹脂層の表面を保護し、異物などの付着を抑制することができる。また、感光性樹脂層上に、感熱マスク層を有してもよい。
【0012】
支持体は、可撓性を有し、寸法安定性に優れる材料から形成されることが好ましい。具体的には、ポリエステルなどのプラスチックシートや、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属板などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0013】
支持体の厚さは、取扱性および柔軟性の観点から、100μm以上350μm以下が好ましい。
【0014】
支持体は、易接着処理されていることが好ましく、感光性樹脂層との接着性を向上させることができる。易接着処理方法としては、例えば、サンドブラストなどの機械的処理、コロナ放電などの物理的処理、コーティングなどによる化学的処理などが挙げられる。これらの中でも、接着性の観点から、コーティングにより易接着層を設けることが好ましい。
【0015】
本発明の印刷版原版は、感光性樹脂層が、少なくとも親水性可塑剤(成分A)、エチレンオキシド繰り返し数が2以上である化学構造と水酸基とを有するエチレン性不飽和基含有モノマー(成分B)および親水性ポリマー(成分C)を含有し、前記成分Aの感光性樹脂層中における含有量が30質量%以下であり、前記感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率が2.5MPa以下となることを特徴とする。本発明者らは、フレキソ印刷版の印刷後のインカールが、感光性樹脂層成分のインキ成分との親和性とインキへの抽出、感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率に起因することを見出した。
【0016】
感光性樹脂層において、成分Cは、親水性基同士の水素結合により、印刷版のレリーフを強固にする。成分Aは、後述するとおりエチレン性不飽和基を有しないため光硬化しない一方、親水性基により成分Cとの相溶性に優れ、成分C同士の水素結合によるポリマー間ネットワークに入り込むことにより、印刷版のレリーフを柔軟化することができる。一方、成分Aは、印刷中にインキ中に抽出されやすい傾向にあるが、本発明においては、成分Aの感光性樹脂層中における含有量を30質量%以下とすることにより、印刷後においても印刷版のインカールを抑制することができる。成分Bは、後述する露光工程において、光重合により感光性樹脂層を光硬化させる作用を有する。本発明においては、印刷版のレリーフを柔軟化する成分Aの含有量を30質量%以下に抑える一方、成分Bがエチレンオキシド繰り返し単位が2以上である化学構造を有することにより、印刷版のレリーフを柔軟化することができる。また、エチレンオキシド構造は、後述するUVインキやEBインキなどのフレキソインキに一般的に含有される、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレートなどのエチレンオキシド基含有アクリレートと共通する部分構造を有するため、フレキソインキとの親和性が高い。印刷時、印刷版とフレキソインキが接触する際に、フレキソインキ中の成分を部分的にレリーフ中に取り込むことにより、印刷版のレリーフから一部成分がフレキソインキ中に抽出される場合であっても、遊離成分の総量を印刷前と同程度に保つことができ、印刷後においても印刷版のインカールを抑制することができる。さらに、成分Bが水酸基を有することにより、成分Cとの相溶性に優れ、印刷版原版における成分Bのブリードアウトを抑制し、印刷版のインカールを抑制することができる。
【0017】
さらに、感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率は、印刷版のレリーフの柔軟性を表す指標であり、2.5MPa以下であれば、印刷後においても印刷版のインカールを抑制することができる。本発明の印刷版原版から得られる印刷版は、前述のとおり、印刷時におけるフレキソインキ中の成分のレリーフ中への取り込みと、レリーフの成分のフレキソインキ中への抽出のバランスから、遊離成分の総量を印刷前と同程度に保つことができるため、感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率をかかる範囲にすることにより、印刷後にもレリーフの引張弾性率を低く維持することができ、インカールを抑制することができる。このため、同じフレキソ印刷版を複数回使用する場合においても、作業性に優れる。
【0018】
次に、感光性樹脂層の各成分について説明する。
【0019】
本発明における成分Aは、親水性基を有し、エチレン性不飽和基を有しない化合物であって、重量平均分子量が10,000未満の化合物を指す。親水性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、リン酸エステル基などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、水酸基が好ましい。親水性基を有することにより、成分Cとの親和性に優れ、印刷版原版において感光性樹脂層からの抽出を抑制し、光硬化後の引張弾性率を低くすることができる。また、印刷時においても印刷版のレリーフからの抽出を抑制し、インカールを抑制することができる。
【0020】
成分Aとしては、例えば、ポリエチレングリコールおよびその誘導体、ポリプロピレングリコールおよびその誘導体、グリセリンおよびその誘導体、トリメチロールエタンおよびその誘導体、トリメチロールプロパンおよびその誘導体、ペンタエリスリトールおよびその誘導体、トリエタノールアミン、ポリオキシジエチレンアミン、N-メチルジエタノールアミン、アルキルベンゼンスルフォンアミド、乳酸、リンゴ酸、リン酸ジエチル、リン酸ジプロピルなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0021】
成分Aの重量平均分子量は、200以上4,000以下が好ましい。重量平均分子量を200以上とすることにより、後述するUVインキやEBインキなどのフレキソインキによる抽出を抑制し、印刷後においても印刷版のインカールをより抑制することができる。重量平均分子量は、300以上がより好ましい。一方、重量平均分子量を4,000以下とすることにより、印刷版のレリーフをより柔軟化することができる。重量平均分子量は、1,000以下がより好ましい。
【0022】
成分Aの感光性樹脂層における含有量は、30質量%以下である。前述のとおり、成分Aは、印刷中にインキ中に抽出されやすい傾向にあり、成分Aの含有量が30質量%より多くなると、印刷後の印刷版のインカールが増大する。一方、成分Aの含有量は5質量%以上が好ましく、印刷版のレリーフをより柔軟化することができる。
【0023】
成分Bは、エチレンオキシド繰り返し単位が2以上である化学構造、水酸基およびエチレン性不飽和基を有する。
【0024】
エチレン性不飽和基としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。これらを2種以上有してもよい。
【0025】
前述のとおり、成分Bは、エチレンオキシド繰り返し数が2以上である化学構造を有することにより、印刷版のレリーフを柔軟化し、印刷後においても印刷版のインカールを抑制することができる。エチレンオキシド繰り返し数は、4以上がより好ましい。一方、エチレンオキシド繰り返し数は30以下が好ましく、印刷版のレリーフの強度を向上させることができる。エチレンオキシド繰り返し数は20以下がより好ましく、成分Cとの相溶性により優れ、印刷版原版における成分Bのブリードアウトを抑制し、印刷版のインカールを抑制することができる。
【0026】
さらに、成分Bが水酸基を有することにより、成分Cとの相溶性に優れ、印刷版原版における成分Bのブリードアウトを抑制し、印刷版のインカールを抑制することができる。
【0027】
成分Bとしては、単官能モノマーが好ましい。ここで、単官能とは、分子中にエチレン性不飽和基1つのみ有することを意味する。単官能モノマーを用いることにより、印刷版のレリーフをより柔軟化することができ、光硬化後の引張弾性率をより低く維持することができる。このため、印刷後においても印刷版のインカールをより抑制することができる。
【0028】
成分Bとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの総称である。これらを2種以上含有してもよい。
【0029】
成分Bの感光性樹脂層における含有量は、20質量%以上60質量%以下が好ましい。成分Bの含有量を20質量%以上にすることにより、印刷版のレリーフをより柔軟化し、光硬化後の引張弾性率をより低く維持することができる。このため、印刷後においても印刷版のインカールをより抑制することができる。一方、成分Bの含有量を60質量%以下にすることにより、印刷版のレリーフの強度を向上させることができ、微細画像の印刷再現性を向上させることができる。
【0030】
成分Cは、親水性基を有するポリマーであって、重量平均分子量が10,000以上の化合物を指す。成分Cが親水性基を有することにより、後述する現像工程において、水を50質量%以上含む現像液による現像性、いわゆる水現像性を向上させることができる。親水性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、リン酸基、ピロリドン骨格、アルキレンオキシド基などが挙げられる。これらを2種以上有してもよい。これらの中でも、水酸基が好ましい。
【0031】
成分Cとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコールやその誘導体、ポリアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、カルボキシル基含有ポリエステル、スルホン酸基含有ポリエステルなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、水現像性や加工のし易さ、得られる印刷版のレリーフのシャープさなどの観点から、部分ケン化ポリビニルアルコールやその誘導体が好ましい。また、部分ケン化ポリビニルアルコールやその誘導体の誘導体としては、側鎖および/または主鎖に、官能基を有するものが挙げられる。官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基などが挙げられ、印刷版における微細画像再現性を向上させることができる。なお、部分ケン化ポリビニルアルコールに官能基を導入する方法としては、例えば、特許第6295642号公報に記載の方法が挙げられる。部分ケン化ポリビニルアルコールやその誘導体のケン化度は、水現像性の観点から、55モル%以上が好ましい。一方、水酸基による水素結合の影響により、ケン化度が高いほど、感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率が高くなる傾向にある。印刷版のレリーフをより柔軟化し、感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率を後述する好ましい範囲に調整しやすい観点から、部分ケン化ポリビニルアルコールのケン化度は75モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましい。ここで、本発明におけるケン化度は、部分ケン化ポリビニルアルコールまたはその誘導体3質量%水溶液を作製し、過剰の0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて完全ケン化処理を施した後、0.5mol/L塩酸の滴定により、完全ケン化に要した水酸化ナトリウムの量を測定することにより算出することができる。なお、感光性樹脂層に部分ケン化ポリビニルアルコールやその誘導体を2種以上含有する場合、本発明におけるケン化度とは、2種以上の部分ケン化ポリビニルアルコールおよびその誘導体全体としてのケン化度を意味する。
【0032】
成分Cの感光性樹脂層における含有量は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。一方、成分Cの感光性樹脂層における含有量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0033】
成分Cの重量平均分子量は、20,000以上が好ましく、印刷版における微細画像再現性を向上させることができる。一方、成分Cの重量平均分子量は、200,000以下が好ましく、印刷版原版の現像時間を短くし、生産性を向上させることができる。ここで、本発明における重量平均分子量は、GPC測定により求めることができる。例えば、Wyatt Technology製ゲル浸透クロマトグラフ-多角度光散乱光度計を用いて、カラム温度:40℃、流速:0.7mL/分の条件で、重量平均分子量を測定することができる。
【0034】
本発明においては、感光性樹脂層に、さらに多官能モノマー(成分D)を含有することが好ましい。ここで、多官能モノマーとは、分子中にエチレン性不飽和基をあわせて2つ以上有することを意味する。なお、本発明においては、エチレン性不飽和結合を有する化合物のうち、エチレンオキシド繰り返し数が2以上である化学構造および水酸基を有するものは、単官能であっても多官能であっても成分Bに分類するものとし、成分Dは、エチレンオキシド繰り返し数が2以上である化学構造または水酸基のいずれかまたは両方を含まず、分子中にエチレン性不飽和基をあわせて2つ以上有するものとする。成分Dを含有することにより、印刷版におけるレリーフの架橋密度を高め、微細画像の印刷再現性を向上させることができる。
【0035】
成分Dは、前述の親水性基を有することが好ましい。親水性基を有することにより、成分Cとの親和性に優れ、印刷版原版における成分Dのブリードアウトを抑制し、印刷版のインカールを抑制することができる。
【0036】
成分Dとしては、例えば、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、2-アクリロイロキシエチルコハク酸とグリシジルメタクリレートの反応物、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸とメタクリル酸の反応物、2-ヒドロキシエチルアクリレートとメタクリル酸の反応物、エチレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸とメタクリル酸の反応物が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0037】
成分Dの感光性樹脂層における含有量は、10質量%以下が好ましく、印刷版のレリーフをより柔軟化し、インカールを抑制することができる。一方、成分Dの感光性樹脂層における含有量は、1質量%以上が好ましく、微細画像の印刷再現性をより向上させることができる。成分Dの感光性樹脂層における含有量は、2質量%以上がより好ましい。
【0038】
感光性樹脂層は、必要に応じて、光重合開始剤、重合禁止剤、着色剤、紫外線吸収剤、表面改質剤、消泡剤、界面活性剤、香料などを含有してもよい。
【0039】
感光性樹脂層の厚さは、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。一方、感光性樹脂層の厚さは、5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。
【0040】
本発明において、感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率は、印刷版のレリーフの柔軟性を表す指標であり、2.5MPa以下である。本発明の印刷版原版から得られる印刷版は、前述のとおり、印刷時におけるフレキソインキ中の成分のレリーフ中への取り込みと、レリーフの成分のフレキソインキ中への抽出のバランスから、遊離成分の総量を印刷前と同程度に保つことができるため、感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率をかかる範囲にすることにより、印刷後にもレリーフの引張弾性率を低く維持することができ、インカールを抑制することができる。感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率は、2.0MPa以下がさらに好ましい。一方、感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率は、1.0MPa以上が好ましく、印刷時における印刷版のレリーフの変形を抑制し、微細画像の印刷再現性を向上させることができる。感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率は、1.5MPa以上がより好ましい。
【0041】
ここで、本発明における感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率は、感光性樹脂層に感度測定用グレースケール(STOUFFER GRAPHIC ARTS EQUIPMENT CO.製 21 STEP SENSITIVITY GUIDE)を真空密着させた状態で、高輝度ケミカル灯(Philips社製TL 80W/10R)を用いて、グレースケール感度が16±1段となる条件で片面露光して光硬化させた後、JIS K6251:2017に記されているダンベル状2号型に打ち抜いて引張試験用サンプルを作製し、JIS K7161-1:2014に準拠した方法により、測定することができる。具体的には、引張試験機((株)オリエンテック製テンシロン万能試験機RTM-100)を用い、温度20℃、相対湿度60%の環境において、チャック間距離10mm、引張速度100mm/分の条件で応力・歪み曲線を測定し、歪み0.5%~5.0%の2点間の応力・歪み曲線の傾きを引張弾性率とする。各5本の引張試験用サンプルについて引張弾性率を測定し、その平均値を算出する。なお、印刷版から感光性樹脂層を採取する方法としては、例えば、支持体から剥離する方法や、支持体との界面近傍において切り出す方法などが挙げられる。
【0042】
感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率を前記範囲にする手段としては、例えば、感光性樹脂層の組成を前述の好ましい範囲にすることなどが挙げられる。
【0043】
感光性樹脂層の光硬化後のエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート浸漬後の反り量は、3mm以下が好ましく、0mm以下がより好ましい。エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレートは、UVインキやEBインキなどのフレキソインキに一般的に含有され、前述の反り量は、印刷後のインカールの程度を表す指標である。かかる反り量が3mm以下となる場合には、同じフレキソ印刷版を複数回使用する場合にも、版胴へ巻きやすく、作業性に優れる。一方、膨潤による印刷物の太りを抑制する観点から、印刷終了後のインカール量は、-10mm以上が好ましく、-3mm以上がより好ましい。
【0044】
ここで、本発明における感光性樹脂層の光硬化後のエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート浸漬後の反り量は、次の方法により測定することができる。まず、印刷版原版について、感光性樹脂層の光硬化後の引張弾性率の測定と同条件で感光性樹脂層を光硬化させた後、直径50mmの円形状サンプルを切り出し温度50℃に保ったエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート中に24時間浸漬した後、取り出した円形状サンプルの表面のエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレートをガーゼで拭き取る。温度23℃、湿度50%の環境下、5mm厚のガラス板の上に、円形状サンプルを、支持体側が下になるように静置する。感光性樹脂層側が内側になるように沿っている場合、円形状サンプルと接しているガラス面から、最も高く浮いている支持体下端までの高さと2番目に高く浮いている基板下端までの高さを、それぞれJIS1級金尺を用いて、単位をmmとして小数点第1位まで読み取り、2点の測定値の平均を反り量とする。感光性樹脂層が外側になるように沿っている場合、サンプルと接しているガラス面から、最も高く浮いている支持体下端までの高さを同様に読み取り、反りとする。後者の場合、反り量としてはマイナスを付して表記する。各5つの円形状サンプルについて反り量を測定し、その平均値を算出する。
【0045】
感光性樹脂層の光硬化後のエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート浸漬後の反り量を前記範囲にする手段としては、例えば、感光性樹脂層の組成を前述の好ましい範囲にすることなどが挙げられる。
【0046】
本発明の印刷版原版が感光性樹脂層上にカバーフィルムを有する場合、感光性樹脂層はカバーフィルムと直接接してもよいし、感光性樹脂層とカバーフィルムの間に1層または複数の層を有してもよい。感光性樹脂層とカバーフィルムの間の層としては、例えば、感光性樹脂層表面の粘着を防止する粘着防止層などが挙げられる。
【0047】
カバーフィルムとしては、例えば、ポリエステル、ポリエチレンなどのプラスチックシートが好ましく使用される。カバーフィルムの厚さは、10~150μmが好ましい。また、カバーフィルム表面は、粗面化されていてもよく、原画フィルムの密着性を向上させることができる。
【0048】
本発明の印刷版原版が、感光性樹脂層上にさらに感熱マスク層を有する場合、感熱マスク層は、紫外光を実質的に遮断し、描画時には赤外レーザー光を吸収し、その熱により瞬間的に一部または全部が昇華または融除するものが好ましい。これによりレーザーの照射部分と未照射部分の光学濃度に差が生じ、従来の原画フィルムと同様の機能を果たすことができる。さらに、感熱マスク層と感光性樹脂層との間に、接着力調整層を設けてもよく、感熱マスク層と感光性樹脂層間との密着を向上させることができる。
【0049】
次に、本発明の印刷版原版を製造する方法について例を挙げて説明する。
【0050】
まず、成分A~Cおよび必要に応じて光重合開始剤やその他の添加剤を溶媒に加熱溶解し、撹拌して十分に混合し、感光性樹脂組成物溶液を得る。各成分を同時に溶媒に添加して溶解してもよいし、成分Cを加熱溶解した後に、他の成分を添加してもよい。溶媒としては、水/アルコール混合溶媒が好ましい。
【0051】
次に、必要により易接着層を設けた支持体上に、感光性樹脂層を形成する。感光性樹脂層の形成方法としては、例えば、感光性樹脂組成物溶液を流延して乾燥する方法や、別途形成した感光性樹脂層シートを、必要により易接着層を設けた支持体と貼り合わせる方法などが挙げられる。その後、必要により粘着防止層や感熱マスク層を形成したカバーフィルムを感光性樹脂層上に密着させることが好ましい。
【0052】
次に、本発明の印刷版原版を用いたフレキソ印刷版の製造方法について説明する。本発明のフレキソ印刷版の製造方法は、前述の本発明の印刷版原版の感光性樹脂層に紫外線を照射し、感光性樹脂層を部分的に光硬化させる露光工程、および、感光性樹脂層の未硬化部を除去する現像工程を有する。
【0053】
まず、露光工程について説明する。印刷版原版が感熱マスク層を有するいわゆるCTP版の場合、カバーフィルムを有する場合にはこれを剥離し、レーザー描画機を用いて原画フィルムに相当する像の描画を実施した後、紫外線照射することによって、感光性樹脂層を光硬化させる。印刷版原版が感熱マスク層を有しない場合は、原画フィルムを介して紫外線照射することによって、感光性樹脂層を光硬化させる。
【0054】
紫外線としては、波長300~400nmの光が好ましく、紫外線照射に用いるランプとしては、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯、ケミカル灯などが挙げられる。特に微細な細線、独立点の再現性が要求される場合は、カバーフィルムの剥離前に支持体側から短時間露光(裏露光)することも可能である。
【0055】
次に、現像工程について説明する。露光した印刷版原版を現像液に浸漬し、ブラシ式現像装置またはスプレー式現像装置を用いて、感光性樹脂層の未硬化部分を、現像液により除去することにより、基板上にレリーフ像を形成することができる。現像液は、水を50質量%以上含むことが好ましく、必要に応じて界面活性剤などの添加剤を含有してもよい。現像時の現像液温は15~40℃が好ましい。
【0056】
現像後、50~70℃において10分間程度乾燥することが好ましい。また、必要に応じてさらに大気中または真空中において、活性光線を照射する後露光を行ってもよい。
【0057】
次に、フレキソ印刷版を用いた印刷物の製造方法について説明する。前述の方法により得られたフレキソ印刷版表面にインキを付着させる工程、および、前記インキを被印刷体に転写する工程を含むことが好ましい。フレキソ印刷機としては、例えば、インラインタイプ、センタードラムタイプ、スタックタイプなどが挙げられる。
【0058】
インキとしては、紫外線硬化型インキ(UVインキ)または電子線硬化型インキ(EBインキ)などが好ましい。フレキソ印刷用UVインキ、EBインキとしては、例えば、顔料、アクリルオリゴマー等の樹脂、アクリレートモノマーなどを含有するものが好ましい。より具体的には、フレキソ印刷用UVインキとしては、例えば、FLEXOCURE FORCE(Flint社製)、SICURA FLEX(Siegwerk社製)などが挙げられる。
【0059】
本発明の印刷版原版を用いて得られる印刷版を、これらのフレキソインキを用いた印刷に用いることにより、印刷後においてもフレキソ印刷版のインカールを抑制することができる。印刷終了後のインカール量は、3mm以下が好ましく、次回使用時の版胴への貼り付け作業性に優れ、0mm以下がより好ましい。一方、膨潤による印刷物の太りを抑制する観点から、印刷終了後のインカール量は、-10mm以上が好ましく、-3mm以上がより好ましい。ここで、インカール量のマイナスの値は、支持体側への反り(アウトカール)を意味する。
【実施例0060】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。まず、実施例および比較例において用いた材料について説明する。
【0061】
[合成例1:親水性ポリマー1の合成]
ケン化度63~67モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール(株)製JMR-50M)をアセトン中で膨潤させ、無水コハク酸1.0モル%を添加し、60℃で6時間撹拌して分子鎖にカルボキシル基を付加させた。このポリマーをアセトンで洗浄して未反応の無水コハク酸を除去して乾燥し、親水性ポリマー1とした。
【0062】
得られた親水性ポリマー1を3g採取し、ソックスレー抽出器を用いて、80℃で3時間アセトン還流を行い、シャーレに移した後、105℃で30分間加熱乾燥し、JIS K0020:1992に準じて酸化を測定したところ、11.1mgKOH/gであった。
【0063】
得られた親水性ポリマー1について、Wyatt Technology製ゲル浸透クロマトグラフ-多角度光散乱光度計を用いて、カラム温度:40℃、流速:0.7mL/分の条件で重量平均分子量を測定したところ、37,000であった。
【0064】
得られた親水性ポリマー1の3質量%水溶液を作製し、過剰の0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて完全ケン化処理を施した後、0.5mol/L塩酸の滴定により、完全ケン化に要した水酸化ナトリウムの量からケン化度を算出したところ、65モル%であった。
【0065】
[合成例2:親水性ポリマー2の合成]
ケン化度63~67モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール(株)製JMR-50M)にかえてケン化度70~74モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール(株)製JR-05)を用いたこと以外は合成例1と同様にして親水性ポリマー2を得た。合成例1と同様に測定した酸価は10.0mgKOH/g、重量平均分子量は28,000、ケン化度は72モル%であった。
【0066】
[合成例3:親水性ポリマー3の合成]
ケン化度63~67モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール(株)製JMR-50M)にかえてケン化度78~82モル%の部分ケン化ポリビニルアルコール(三菱ケミカル(株)製“ゴーセノール”(登録商標)KL-05)を用いたこと以外は合成例1と同様にして親水性ポリマー3を得た。合成例1と同様に測定した酸価は10.5mgKOH/g、重量平均分子量は26,000、ケン化度は80モル%であった。
【0067】
[製造例1:支持体の作製]
飽和ポリエステル樹脂のトルエン溶液(東洋紡(株)製“バイロン”(登録商標)31SS)260質量部およびベンゾインエチルエーテル(和光純薬工業(株)製PS-8A)2質量部の混合物を、70℃で2時間加熱した後、30℃に冷却し、エチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート7質量部を加えて、2時間混合した。さらに、多価イソシアネート樹脂の酢酸エチル溶液(東ソー(株)製“コロネート”(登録商標)3015E)25質量部および工業用接着剤(住友スリーエム(株)製EC-1368)14質量部を添加して混合し、易接着層1用の塗工液を得た。
【0068】
ケン化度78.5~81.5モル%のポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製“ゴーセノール”(登録商標)KH-17)50質量部を、アルコール混合物(日本アルコール(株)製“ソルミックス”(登録商標)H-11)200質量部および水200質量部の混合溶媒中、70℃で2時間混合した後、グリシジルメタクリレート(日油(株)製“ブレンマー”(登録商標)G)1.5質量部を添加して1時間混合し、さらに(ジメチルアミノエチルメタクリレート)/(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)重量比2/1の共重合体(共栄社化学(株)製)3重量部、ベンジルメチルケタール(チバ・ガイギー社製“イルガキュア”(登録商標)651)5質量部、プロピレングリコールジグリシジルエーテルの2アクリル酸付加物(共栄社化学(株)製エポキシエステル70PA)21質量部およびエチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート20質量部を添加して90分間混合し、50℃に冷却した後、“メガファック”(登録商標)F-556(DIC(株)製)を0.1質量部添加して30分間混合して、易接着層2用の塗工液を得た。
【0069】
厚さ188μmのポリエステル(PET)フィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)T60)上に、易接着層1用の塗工液を、乾燥後膜厚が30μmになるように、バーコーターを用いて塗布し、180℃のオーブンで3分間加熱して溶媒を除去し、易接着層1を形成した。その上に、易接着層2用の塗工液を、乾燥膜厚が20μmとなるように、バーコーターを用いて塗布し、130℃のオーブンで3分間加熱して溶媒を除去し、易接着層2を形成した。こうして、易接着層2/易接着層1/PET基板で構成される支持体を得た。
【0070】
[製造例2:感熱マスク層用積層フィルムの作製]
カバーフィルム用のフィルムとして、表面が粗面化処理されていない厚さ100μmのポリエステル(PET)フィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)S10)を用いた。
【0071】
ケン化度91~94モル%のポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製“ゴーセノール”(登録商標)AL-05)11質量部を、水55質量部/メタノール15質量部/n-プロパノール20質量部の混合溶媒に溶解させ、剥離補助層用の塗工液を得た。
【0072】
カーボンブラック(三菱化学(株)製MA-100)23質量部、アルコール不溶性のアクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製“ダイヤナール”(登録商標)BR-95)1質量部、可塑剤としてアセチルクエン酸トリブチル((株)ジェイプラス製ATBC)6質量部およびジエチレングリコールモノエチルエーテルモノアセテート30質量部をあらかじめ混合させたものを、3本ロールミルを用いて混練分散させ、カーボンブラック分散液を得た。
【0073】
得られたカーボンブラック分散液に、エポキシ樹脂(旭チバ(株)製“アラルダイト”(登録商標)6071)20質量部、メラミン樹脂(三井化学(株)製“ユーバン”(商標登録)62)27質量部、リン酸モノマー(共栄社化学(株)製ライトエステルP-1M)0.7質量部およびメチルイソブチルケトン140質量部を添加し、30分間撹拌した。その後、固形分濃度が33質量%となるようにメチルイソブチルケトンをさらに添加し、感熱マスク層用の塗工液を得た。
【0074】
ケン化度78~82モル%のポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製“ゴーセノール”(登録商標)KL-05)10質量部を水40質量部/メタノール20質量部/n-プロパノール30質量部の混合溶媒に溶解させ、接着層用の塗工液を得た。
【0075】
カバーフィルム用のフィルム上に、剥離補助層用の塗工液を、バーコーターを用いて、乾燥膜厚が0.25μmになるように塗布し、100℃で25秒間乾燥し、剥離補助層を形成した。その上に、感熱マスク層用の塗工液を、バーコーターを用いて、乾燥膜厚が2.0μmとなるように塗布し、140℃で30秒間乾燥し、感熱マスク層を形成した。さらにその上に、接着層用の塗工液を、バーコーターを用いて、乾燥膜厚が1.0μmとなるように塗布し、180℃で30秒間乾燥し、接着層を形成した。こうして、接着層/感熱マスク層/剥離補助層/カバーフィルムの積層構成を有する感熱マスク層用積層フィルムを得た。
【0076】
感熱マスク層用積層フィルムの光学濃度を、オルソクロマチックフィルターによる透過光を入射光とし、上記カバーフィルム用のフィルムをブランクとしてゼロ点補正して測定したところ、3.6であった。
【0077】
次に、実施例および比較例における評価方法について説明する。
【0078】
(1)引張弾性率
各実施例および比較例により得られた印刷版原版の感光性樹脂層に対応する層として、各実施例および比較例において用いた感光性樹脂層用の組成物溶液を、厚さ250μmのポリエステル(PET)フィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)S10)上に、乾燥膜厚が0.7mmになるように流延し、60℃で2.5時間乾燥した後、PETフィルムから剥離した引張弾性率評価用感光性樹脂層を用いた。
【0079】
得られた引張弾性率評価用感光性樹脂層に、感度測定用グレースケール(STOUFFER GRAPHIC ARTS EQUIPMENT CO.製 21 STEP SENSITIVITY GUIDE)を真空密着させた状態で、高輝度ケミカル灯(Philips社製TL 80W/10R)を用いて、グレースケール感度が16±1段となる条件で片面露光した後、JIS K6251:2017に記されているダンベル状2号型に打ち抜いて引張試験用サンプルを作製した。温度20℃、相対湿度60%の環境に、引張試験用サンプルを24時間保管した後、引張試験機((株)オリエンテック製テンシロン万能試験機RTM-100)を用い、温度20℃、相対湿度60%の環境において、チャック間距離10mm、引張速度100mm/分の条件で応力・歪み曲線を測定し、歪み0.5%~5.0%の2点間の応力・歪み曲線の傾きを引張弾性率とした。各5本のサンプルについて引張弾性率を測定し、その平均値を引張弾性率の値とした。
【0080】
(2)インキ浸漬前後のデュロメータA硬度
各実施例および比較例により得られた印刷版について、ベタ柄の領域の中から、直径50mmの円形状サンプルを切り出し、5mm厚のガラス板の上に、支持体側が下になるように静置した。温度23℃、湿度50%の環境下、デュロメータA硬度計GS-709N((株)テクロック製)の針を静かに押し当て、針の指す硬度を読み取った。無作為に選択した3箇所について硬度を測定し、その平均値をインキ浸漬前のデュロメータA硬度とした。
【0081】
次に、その円形状サンプルを、デュロメータAエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(“Miramar”(登録商標)M3130、Miwon Specialty Chemical社製)中に24時間浸漬した後、取り出した円形状サンプルの表面のエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレートをガーゼで拭き取った。5mm厚のガラス板の上に、支持体側が下になるように静置し、インキ浸漬前の測定箇所以外から無作為に選択した3箇所について、前述と同様にデュロメータA硬度を測定し、インキ浸漬後のデュロメータA硬度とした。
【0082】
(3)印刷版の微細画像再現性
各実施例および比較例により得られた印刷版について、網点濃度1~5%の網点部分を、倍率30倍のルーペを用いて拡大観察し、網点領域最外周の欠けが4個以内であり、かつ、最外周より内部には欠けが認められない状態を画像再現できている状態とし、画像再現できている最も低い網点濃度を微細画像再現評価結果とした。
【0083】
(4)微細画像の印刷再現性
各実施例および比較例により得られた印刷版を、1,000線のアニロックスロールを具備したフレキソ印刷機の版胴に、クッションテープとして0.38μm厚のtesa“softprint”(登録商標)52017(TESA社製)を用いて取り付けた。UVフレキソ紅PHA-LO3((株)T&K TOKA製)を用いて、70m/分の速さでアート紙に印刷した。印圧は、徐々に印加し、ベタ部のかすれがなくなる印圧から60μm押し込んだ条件で固定した。100m印刷した後、印刷物を採取し、光学顕微鏡デジタルマイクロスコープVHX-2000((株)キーエンス製)を用いて、レンズZ250、200倍の条件で、150lpiの網点濃度3%の網点から無作為に選択した5箇所について、網点の直径を計測し、その平均値を算出した。直径の平均値が50μm以下の場合を5点、50μmを超えて70μm以下の場合を3点、70μmを超える場合を1点として、印刷再現性を評価した。
【0084】
(5)インキ浸漬後の反り量
各実施例および比較例により得られた印刷版について、ベタ柄の領域の中から、直径50mmの円形状サンプルを切り出し、温度50℃に保ったエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(“Miramar”(登録商標)M3130、Miwon Specialty Chemical社製)中に24時間浸漬した後、取り出した円形状サンプルの表面のエチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレートをガーゼで拭き取った。温度23℃℃、湿度50%の環境下、5mm厚のガラス板の上に、円形状サンプルを、支持体側が下になるように静置した。感光性樹脂層側が内側になるように沿っている場合、円形状サンプルと接しているガラス面から、最も高く浮いている支持体下端までの高さと2番目に高く浮いている基板下端までの高さを、それぞれJIS1級金尺を用いて、単位をmmとして小数点第1位まで読み取り、2点の測定値の平均を反り量とした。感光性樹脂層が外側になるように沿っている場合、サンプルと接しているガラス面から、最も高く浮いている支持体下端までの高さを同様に読み取り、反りとした。後者の場合、反り量としてはマイナスを付して表記した。各5つの円形状サンプルについて反り量を測定し、その平均値を算出した。平均値が3.0mm以下の場合を合格とした。
【0085】
[実施例1]
(感光性樹脂層用の組成物溶液の調製)
撹拌用ヘラおよび冷却管を取り付けた3つ口フラスコ中に、成分Cとして合成例1により得られた親水性ポリマー1を40質量部、成分Aとして、トリメチロールプロパントリ(ポリエチレングリコール)エーテル(重量平均分子量:400、日本乳化剤(株)製TMP-60)30質量部、溶媒としてアルコール混合物(日本アルコール(株)製“ソルミックス”(登録商標)H-11)40質量部および蒸留水60質量部を入れた後、撹拌しながら77℃で2時間加熱し、成分Cおよび成分Aを溶解させた。
【0086】
この溶解物を70℃に冷却した後、グリシジルメタクリレート5質量部を添加し、1時間撹拌し、親水性ポリマー1にグリシジルメタクリレートを付加させた。付加反応により、グリシジルメタクリレートのグリシジル基が開環し、親水性ポリマー1は水酸基を有する。
【0087】
次いで、成分Bとしてポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシド繰り返し単位数:10、水酸基:あり、エチレン性不飽和基数:1、日油(株)製“ブレンマー”(登録商標)AE400)、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1.6質量部、撥インキ剤としてフッ素含有4級アンモニウム塩化合物((株)ネオス製“フタージェント”(登録商標)320)0.6質量部、紫外線吸収剤として2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール0.05質量部を添加して60分間撹拌し、感光性樹脂層1用の組成物溶液を得た。
【0088】
[印刷版原版1の作製]
前記感光性樹脂層1用の組成物溶液を、製造例1により得られた支持体上に、乾燥後の版厚(支持体+感光性樹脂層)が1.14mmとなるよう調整して流延し、60℃で2.5時間乾燥した。得られた感光性樹脂層上に、水50質量部/エタノール50質量部の混合溶媒を塗布し、製造例2により得られた感熱マスク層用積層フィルムを圧着し、カバーフィルム/剥離補助層/感熱マスク層/接着層/感光性樹脂層1/易接着層2/易接着層1/PET基板の積層構成からなる印刷版原版1を得た。
【0089】
[印刷版1の製版]
印刷版原版1を20cm×20cmに切り出し、支持体側から、高輝度ケミカル灯(Philips社製TL 80W/10R)を用いて、積算光量が800mJ/cm2程度になるように裏露光を行った。次いで、カバーフィルムを剥離し、赤外線に発光領域を有するファイバーレーザーを備えた外面ドラム式プレートセッター(エスコ・グラフィックス(株)製CDI SPARK 2530)に、支持体側がドラムに接するように装着し、15cm×15cmのベタ柄と、150lpiの網点濃度1~5%を各網点濃度の領域が2cm×2cmになるような画像を出力2.4J/cm2のレーザーで描画し、感熱マスク層から画像マスクを形成した。その後、大気下において、裏露光と同じく高輝度ケミカル灯TL 80W/10Rを用いて、積算光量が12,000mJ/cm2程度になるように、画像マスク側から主露光を行った。その後、バッチ式露光現像機(Inglese,s.r.l.製Inglese W43)を用いて、25℃に温度調整した水道水を現像液として80秒間現像し、60℃のオーブンで10分間乾燥し、次いで高輝度ケミカル灯TL 80W/10Rを用いて、積算光量が12,000mJ/cm2程度になるように後露光を行い、印刷版1を得た。
【0090】
[実施例2]
感光性樹脂層1用の組成物溶液にかえて、成分Dとしてトリプロピレングリコールのグリシジルアクリレートの1:2付加物(エチレン性不飽和基数:2、共栄社化学(株)製エポキシエステル200PA)を追加し、配合量を表1のようにした感光性樹脂層2用の組成物溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして印刷版原版および印刷版を得た。
【0091】
[実施例3]
感光性樹脂層1用の組成物溶液にかえて、成分Cとして親水性ポリマー1の代わりに合成例2により得られた親水性ポリマー2を用いた感光性樹脂層3用の組成物溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして印刷版原版および印刷版を得た。
【0092】
[実施例4、5、比較例1]
感光性樹脂層1用の組成物溶液にかえて、配合量を表1のようにした感光性4~6の組成物溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして印刷版原版および印刷版を得た。
【0093】
[比較例2]
感光性樹脂層3用の組成物溶液にかえて、成分Bの代わりにポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキシド繰り返し単位数:9、水酸基:なし、エチレン性不飽和基数:2、共栄社化学(株)製ライトエステル9EG)を用いた感光性樹脂層7用の組成物溶液を用いたこと以外は実施例3と同様にして印刷版原版および印刷版を得た。
【0094】
[比較例3]
感光性樹脂層1用の組成物溶液にかえて、親水性ポリマー1の代わりに合成例3により得られた親水性ポリマー2を用いた感光性樹脂層8用の組成物溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして印刷版原版および印刷版を得た。
【0095】
[比較例4]
感光性樹脂層3用の組成物溶液にかえて、成分Aの代わりにアジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)((株)ジェイ・プラス製DOA)を用いた感光性樹脂層9用の組成物溶液を用いたこと以外は実施例3と同様にして印刷版原版および印刷版を得た。
【0096】
各実施例および比較例の主な構成と評価結果を表1に示す。
【0097】