(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051372
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】人工皮革およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06N 3/14 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
D06N3/14 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157505
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮田 裕斗
(72)【発明者】
【氏名】宮原 駿一
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA02
4F055CA15
4F055DA11
4F055EA12
4F055EA14
4F055EA24
4F055GA02
4F055GA03
4F055GA22
(57)【要約】
【課題】 良好な品位と優れた風合いを有し、さらに経年による風合いおよび耐摩耗性の変化が少ない人工皮革およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を含む繊維質基材と、ポリウレタン樹脂とを構成要素として含む人工皮革であって、前記人工皮革全体に占める前記繊維質基材の含有量が40.0質量%以上60.0質量%以下であり、前記ポリウレタン樹脂がイソシアヌレート構造を有し、前記ポリウレタン樹脂のN,N-ジメチルホルムアミドによる溶出率がポリウレタン樹脂全体の質量の30質量%以下である、人工皮革。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を含む繊維質基材と、ポリウレタンとを構成要素として含む人工皮革であって、前記人工皮革全体に占める前記繊維質基材の含有量が40.0質量%以上60.0質量%以下であり、前記ポリウレタンがイソシアヌレート構造を有し、前記ポリウレタンのN,N-ジメチルホルムアミドによる溶出率がポリウレタン全体の質量の30.0質量%以下である、人工皮革。
【請求項2】
前記極細繊維が5本以上100本以下からなる繊維束を形成しており、前記人工皮革の表面に対して垂直に切断した断面の走査型電子顕微鏡写真の観察範囲内において観察される、前記繊維束の総数に対する、その外周の半分以上がポリウレタンに被覆されている前記繊維束の割合が、20%以上70%以下である、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
前記ポリウレタンが、親水性基を有する、請求項1または2に記載の人工皮革。
【請求項4】
請求項1または2に記載の人工皮革を製造する方法であって、
極細繊維発現型複合繊維からなる不織布を含む繊維質基材を形成する工程、
前記繊維質基材に対し、ポリウレタン前駆体と感熱凝固剤とを溶質または分散質の主たる構成成分とする溶液または水分散液を含浸させる含浸工程、
100℃以上180℃以下の温度で乾燥を行う乾燥工程、
前記乾燥工程の後に得られるポリウレタン付不織布における前記極細繊維発現型複合繊維から前記極細繊維を発現させる工程を含み、
前記含浸工程および前記乾燥工程を2回以上5回以下繰り返して行う、
人工皮革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工皮革およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主として不織布等の繊維質基材とポリウレタンからなる人工皮革は、優れた耐久性や染色のしやすさなど、天然皮革にない優れた特徴を有している。とりわけ、極細繊維からなる繊維質基材を用いた人工皮革は、表面品位およびタッチ感に優れているため、衣料や雑貨および自動車内装材用途等に年々広がっている。
【0003】
このような人工皮革を製造するにあたって、長期間使用する用途にも対応すべく、経年による変化が小さいことが求められる。特許文献1に開示された方法においては、親水性基を有する高分子弾性体と繊維質基材からなる人工皮革に対し、特定の条件で湿熱処理を行うことで、繊維と高分子弾性体との間に一定の空隙を生じさせ、柔軟性を有し、経年による風合いおよび形態の変化が生じにくい人工皮革が得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された方法においては、ポリウレタンの凝固時に架橋剤を併用しており、ポリウレタンの架橋点では加水分解が起こりやすく、経年によりポリウレタンの加水分解が進行するため、ポリウレタン自体の長期安定性としては不十分であり、結果として経年により耐摩耗性が低下してしまう課題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記の従来技術の背景に鑑み、良好な品位と優れた風合いを有し、さらに経年による風合いおよび耐摩耗性の変化が少ない人工皮革およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するべく、鋭意検討を重ねた結果、完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0008】
[1] 平均単繊維直径が0.1μm以上10.0μm以下の極細繊維からなる不織布を含む繊維質基材と、ポリウレタンとを構成要素として含む人工皮革であって、前記人工皮革全体に占める前記繊維質基材の含有量が40.0質量%以上60.0質量%以下であり、前記ポリウレタンがイソシアヌレート構造を有し、前記ポリウレタンのN,N-ジメチルホルムアミドによる溶出率がポリウレタン全体の質量の30.0質量%以下である、人工皮革。
【0009】
[2] 前記極細繊維が5本以上100本以下からなる繊維束を形成しており、前記人工皮革の表面に対して垂直に切断した断面の走査型電子顕微鏡写真の観察範囲内において観察される、前記繊維束の総数に対する、その外周の半分以上がポリウレタンに被覆されている前記繊維束の割合が、20%以上70%以下である、前記[1]に記載の人工皮革。
【0010】
[3] 前記ポリウレタンが、親水性基を有する、前記[1]または[2]に記載の人工皮革。
【0011】
[4] 前記[1]または[2]に記載の人工皮革を製造する方法であって、
極細繊維発現型複合繊維からなる不織布を含む繊維質基材を形成する工程、
前記繊維質基材に対し、ポリウレタン前駆体と感熱凝固剤とを溶質または分散質の主たる構成成分とする溶液または水分散液を含浸させる含浸工程、
100℃以上180℃以下の温度で乾燥を行う乾燥工程、
前記乾燥工程の後に得られるポリウレタン付不織布における前記極細繊維発現型複合繊維から前記極細繊維を発現させる工程を含み、
前記含浸工程および前記乾燥工程を2回以上5回以下繰り返して行う、
人工皮革の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な品位と優れた風合いを有し、さらに経年による風合いおよび耐摩耗性の変化が少ない人工皮革が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の人工皮革は、極細繊維からなる不織布を含む繊維質基材と、ポリウレタン樹脂とを構成要素として含む。
【0014】
[極細繊維]
前記極細繊維に用いることができる樹脂としては、優れた耐久性、特には機械的強度、耐熱性および耐光性の観点から、例えば、ポリエステル系樹脂やポリアミド系樹脂などが挙げられる。ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどが挙げられる。ポリエステル系樹脂は、例えば、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールとから得ることができる。
【0015】
前記ポリエステル系樹脂に用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。なお、本発明でいうエステル形成性誘導体とは、ジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などである。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明で用いられるジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルである。
【0016】
前記ポリエステル系樹脂に用いられるジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0017】
前記ポリアミド系樹脂としては例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、共重合ポリアミド等を用いることができる。
【0018】
前記極細繊維に用いられる樹脂には、種々の目的に応じて、酸化チタン粒子等の無機粒子、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱剤および抗菌剤等を含有させることができる。
【0019】
前記極細繊維に、繊維への着色を目的に顔料を含有させる場合、極細繊維1本の断面積に対する前記顔料の面積割合が2%以上15%以下であることが好ましい。当該面積割合が2%以上、好ましくは2.4%以上であることで、繊維が十分に着色され、色落ちによる表面品位の経年変化を抑制することができる。また、当該面積割合が15%以下、好ましくは13%以下であることで、極細繊維の強度を実用に耐えうるレベルに保つことができる。
【0020】
極細繊維1本の断面積に対する前記顔料の面積割合は以下の方法で算出されるものとする。すなわち、人工皮革を厚み方向に切断した断面を透過子顕微鏡(TEM)により観察する。観察面内の任意の10本の極細繊維断面において、それぞれの極細繊維断面の面積と、1本の極細繊維断面内に存在する顔料の面積の合計を算出する。1本の極細繊維断面内に存在する顔料の面積の合計を、それぞれの極細繊維断面の面積で割り、100をかけた値を、極細繊維1本の断面積に対する前記顔料の面積割合とする。
【0021】
また、前記極細繊維に用いられる樹脂がバイオマス資源由来の成分を含有することも好ましい。
【0022】
前記ポリエステル系樹脂のバイオマス資源由来の成分としては、その構成成分であるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としてバイオマス資源由来の成分を用いてもよいし、ジオールとしてバイオマス資源由来の成分を用いてもよい。環境負荷低減の観点からは、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールの両方にバイオマス資源由来の成分を用いることが好ましい。
【0023】
前記ポリアミド樹脂のバイオマス資源由来の成分としては、バイオマス資源由来の原料を経済的に有利に得られることや繊維の物性の点から例えば、ポリアミド56、ポリアミド610、ポリアミド11が好ましく用いられる。
【0024】
前記極細繊維の断面形状としては、丸断面、異形断面のいずれでも採用することができる。異形断面の具体例としては、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形、十字型などが挙げられる。
【0025】
前記極細繊維の平均単繊維直径は、0.1μm以上10.0μm以下である。前記極細繊維の平均単繊維直径が10.0μm以下、好ましくは7.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下であることによって、人工皮革をより柔軟なものとすることができる。また、立毛の品位を向上させることができる。一方、前記極細繊維の平均単繊維直径が0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.7μm以上であることによって、染色を行う場合に染色後の発色性に優れた人工皮革とすることができる。また、バフィングによる起毛処理を行う際に、束状に存在する極細繊維の分散しやすさ、さばけやすさを向上させることができる。
【0026】
本発明でいう平均単繊維直径とは、以下の方法で測定されるものである。すなわち、
(1)人工皮革を厚み方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察する。
(2)観察面内の任意の50本の極細繊維の繊維直径をそれぞれの極細繊維断面において3方向で測定する。ただし、異型断面の極細繊維を採用した場合には、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面積となる円の直径を以下の式で算出する。これより得られた直径をその単繊維の単繊維直径とする。
単繊維直径(μm)=(4×(単繊維の断面積(μm2))/π)1/2
(3)得られた合計150点の算術平均値(μm)を算出し、小数点以下第二位で四捨五入する。
【0027】
[繊維質基材]
前記繊維質基材は、前記極細繊維からなる不織布を含む。なお、繊維質基材には、異なる原料の極細繊維が混合されていることが許容される。
【0028】
前記不織布の具体的な形態としては、前記極細繊維それぞれが絡合してなるものや極細繊維の繊維束が絡合してなるものを用いることができる。中でも、極細繊維の繊維束が絡合してなるものが、人工皮革の強度や風合いの観点から好ましく用いられる。柔軟性や風合いの観点から、特に好ましくは、極細繊維の繊維束を形成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布が好ましく用いられる。このように、極細繊維の繊維束が絡合してなる不織布は、例えば、極細繊維発現型繊維をあらかじめ絡合した後に極細繊維を発現させることによって得ることができる。また、極細繊維の繊維束を形成する極細繊維同士が適度に離間して空隙を有する不織布は、例えば、海成分を除去することによって島成分の間を空隙とすることができる海島型複合繊維を用いることによって得ることができる。
【0029】
前記不織布は、一定の繊維長を有する極細繊維からなる短繊維不織布であることが好ましい。短繊維不織布を用いることで、人工皮革の風合いや品位をより向上させることができる。また、繊維質基材の厚さ方向を向く繊維が長繊維不織布に比べて多くなり、起毛した際の繊維質基材の表面に高い緻密感を得ることができる。
【0030】
具体的には、前記極細繊維の平均繊維長が25mm以上90mm以下の範囲であることが好ましい。平均繊維長が25mm以上、より好ましくは35mm以上、さらに好ましくは40mm以上であることにより、前記極細繊維が十分に絡合されて、より耐摩耗性に優れた人工皮革となる。また、平均繊維長が90mm以下、より好ましくは80mm以下、さらに好ましくは70mm以下であることにより、より風合いや品位に優れた人工皮革となる。
【0031】
本発明において、極細繊維の平均繊維長は、以下の方法で算出される。すなわち、人工皮革の任意の3箇所にハサミで切れ込みを入れ、手で破れ目を作る。それぞれの破れ目のうちハサミを通していない部分の断面から、ピンセットを用いて極細繊維10本ずつ抜き出して繊維長を測定し、測定した30本分の繊維長の数平均(mm)を小数点以下第1位で四捨五入して、極細繊維の平均繊維長とする。
【0032】
前記繊維質基材の強度を向上させるなどの目的で、不織布の内部に織物や編物を挿入し、または積層し、または裏張りすることもできる。前記織物や前記編物を構成する繊維の平均単繊維直径は、ニードルパンチ時における損傷を抑制し、強度を維持する上で、0.3μm以上10.0μm以下であることがより好ましい。
【0033】
前記織物や前記編物を構成する繊維としては例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステルや、6-ナイロンや66-ナイロンなどのポリアミド等の合成繊維、セルロース系ポリマー等の再生繊維、綿や麻等の天然繊維などを用いることができる。
【0034】
前記人工皮革に占める前記繊維質基材の含有量が40.0質量%以上60.0質量%以下であることが重要である。前記繊維質基材の含有量が40.0質量%以上、好ましくは43.0質量%以上、さらに好ましくは45.0質量%以上であることで、実用に耐えうる強度を有した人工皮革とすることができる。また、前記繊維質基材の含有量が60.0質量%以下、好ましくは57.0質量%以下、さらに好ましくは55.0質量%以下であることで、前記繊維質基材が適度な空隙を有することができるため、繊維束が前記ポリウレタン樹脂によって被覆された構造を取りやすくなり、繊維質基材がポリウレタン樹脂によって強固に把持されるため、ヨレやシワなどの形状変化を抑制することができる。さらに、前記人工皮革全体に占める前記ポリウレタン樹脂の割合が多くなるため、ポリウレタンの加水分解による影響を低減することができる。
【0035】
人工皮革に占める繊維質基材の含有量は、以下の方法で算出することができる。すなわち、人工皮革に含まれる繊維質基材を除去するために、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)による浸漬抽出を行った後、ろ過により可溶物と不溶物に分離する。前記可溶物の質量を繊維質基材の質量とし、可溶物の質量を人工皮革全体の質量で割って100をかけた値(%)の小数点以下第2位を四捨五入して得られた値(%)を、人工皮革に占める繊維質基材の質量の割合とする。
【0036】
[ポリウレタン樹脂]
本発明の人工皮革は、前記ポリウレタン樹脂がイソシアヌレート構造を有することが重要である。ポリウレタン樹脂がイソシアヌレート構造を有することで、前記ポリウレタンの耐加水分解性が向上し、前記ポリウレタンの加水分解に伴う前記人工皮革の風合い、耐摩耗性の経年変化を抑制することができる。
【0037】
また、前記ポリウレタン樹脂は親水性基を有することが好ましい。前記ポリウレタン樹脂が親水性基を有することで、耐溶剤性に優れる人工皮革を得ることができる。また、前記ポリウレタン樹脂が親水性基を有することで、前記ポリウレタン樹脂を水中に分散させた水分散液として取り扱うことができるため、前記ポリウレタン樹脂の溶媒として有機溶剤を用いる必要がなく、人や環境への有害性を低減することができる。
【0038】
なお、本発明において、「親水性基を有する」とは、ポリウレタンが主鎖または側鎖に活性水素を有する親水性基を有することを指し、ここでいう「親水性基」とは、水に対する親和性が高い官能基のことを指す。親水性基の具体例としては、例えば、水酸基やカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基などが挙げられる。
【0039】
前記ポリウレタン樹脂は、ウレタン結合以外にアミド結合およびエステル結合を有さないことが好ましい。これらの結合は加水分解の起点となりやすいため、ポリウレタンがウレタン結合以外にこれらの結合を有さないことで、加水分解の発生を抑制でき、人工皮革の風合いおよび耐摩耗性の経年変化を抑制することができる。
【0040】
前記ウレタン結合以外のアミド結合およびエステル結合の有無については、例えばフーリエ変換赤外分光光度計を用いて、赤外分光分析により確認することができる。
【0041】
前記ポリウレタンとしては、数平均分子量が好ましくは500以上5000以下の高分子ポリオールと、有機ポリイソシアネートと、鎖伸長剤との反応により得られる樹脂が好ましく用いられる。また、ポリウレタン水分散液の安定性を高めるために、後述する親水性基含有活性水素成分を併用することが好ましい。前記高分子ポリオールの数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、風合いが硬くなるのを防ぎやすくすることができる。また、当該数平均分子量を5000以下、より好ましくは4000以下とすることにより、バインダーとしての前記ポリウレタン樹脂の強度を維持しやすくすることができる。
【0042】
以下に前記ポリウレタン樹脂として、親水性基を有するポリウレタン樹脂を用いた場合について説明する。
【0043】
(1)親水性基を有するポリウレタン樹脂の各反応成分
まず、親水性基を有するポリウレタン樹脂の各反応成分について説明する。
【0044】
(1-1)高分子ポリオール
前記高分子ポリオールとして、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等を挙げることができる。
【0045】
前記ポリエーテル系ポリオールとしては、多価アルコールやポリアミンを開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エピクロルヒドリン、およびシクロヘキシレン等のモノマーを付加・重合して得られるポリオール、および、前記モノマーをプロトン酸、ルイス酸およびカチオン触媒等を触媒として開環重合して得られるポリオールが挙げられる。具体的には例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等およびそれらを組み合わせた共重合ポリオールを挙げることができる。
【0046】
前記ポリエステル系ポリオールとしては例えば、各種の低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルポリオールやラクトンを開重合することによって得られるポリオール等を挙げることができる。
【0047】
前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1.8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等の直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等の分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、および1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族2価アルコール等から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させて得られる付加物も、低分子量ポリオールとして使用可能である。
【0048】
また、前記多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸等からなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0049】
前記ポリカーボネート系ポリオールとしては、ポリオールとジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート等のカーボネート化合物との反応によって得られる化合物を挙げることができる。
【0050】
ポリカーボネートポリオールの製造原料のポリオールとしては、ポリエステルポリオールの製造原料で挙げたポリオールを用いることができる。前記ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネート等を用いることができ、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネート等を挙げることができる。
【0051】
本発明の人工皮革において、前記の親水性基を有するポリウレタン樹脂がポリエーテルジオールを構成成分として含有することが好ましい。なお、本明細書において、「構成成分として含有する」とは、ポリウレタンを構成するモノマー成分、オリゴマー成分として含有することをいう。ポリエーテルジオールは、そのエーテル結合の自由度が高いことでガラス転移温度が低く、且つ凝集力も弱い為に柔軟性に優れるポリウレタン樹脂が得られやすくなる。
【0052】
(1-2)有機ジイソシアネート
前記有機ジイソシアネートとしては例えば、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様。)が6以上20以下の芳香族ジイソシアネート、炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネート、炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネート、炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など。)およびこれらの2種以上の混合物等を挙げることができる。
【0053】
前記の炭素数が6以上20以下の芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-および/または1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-および/2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-および/または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIと略記)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、および1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0054】
前記の炭素数が2以上18以下の脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、および2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサエートなどが挙げられる。
【0055】
前記の炭素数が4以上15以下の脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、および2,5-および/または2,6-ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0056】
前記の炭素数が8以上15以下の芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-および/またはp-キシリレンジイソシアネートや、α、α、α’、α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0057】
これらのうち、好ましい有機ジイソシアネートは、脂環式ジイソシアネートである。また、特に好ましい有機ジイソシアネートは、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートである。
【0058】
(1-3)鎖伸長剤
前記鎖伸長剤としては例えば、水、
エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールなどの低分子ジオール、
1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンなどの脂環式ジオール、
1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなどの芳香族ジオール、
エチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、
イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、
4,4-ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ジアミン、
キシレンジアミンなどの芳香脂肪族ジアミン、
エタノールアミンなどのアルカノールアミン、
ヒドラジン、
アジピン酸ジヒドラジドなどのジヒドラジド、
および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0059】
これらのうち好ましい鎖伸長剤は、水、低分子ジオール、芳香族ジアミンであり、更に好ましくは水、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、4,4’-ジアミノジフェニルメタンおよびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0060】
(1-4)イソシアネート三量化反応の触媒
前記ポリウレタン樹脂においてイソシアヌレート構造を形成させるため、イソシアネートの三量化反応を促進させる触媒(三量化触媒)を用いることが好ましい。前記三量化触媒としては例えば、カリウム塩や四級アンモニウム塩を用いることができる。
【0061】
(2)感熱凝固剤
後述するように、親水性基を有するポリウレタン前駆体(固形化する前の状態のポリウレタン)を含む溶液や水分散液中に、感熱凝固剤を添加することが好ましい。感熱凝固剤としては、1価陽イオン含有無機塩が好ましい。
【0062】
(3)ポリウレタンに親水性基を含有させる成分
前記の親水性基を有するポリウレタンにおいて、ポリウレタンに親水性基を含有させる成分として、例えば、親水性基含有活性水素化合物が挙げられる。前記親水性基含有活性水素化合物としては例えば、ノニオン性基、アニオン性基、カチオン性基またはこれらの組み合わせと活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。
【0063】
ノニオン性基と活性水素を有する化合物としては例えば、2つ以上の活性水素成分または2つ以上のイソシアネート基を含み、側鎖に分子量250~9000のポリオキシエチレングリコール基等を有している化合物、および、トリメチロールプロパンやトリメチロールブタン等のトリオール等が挙げられる。
【0064】
アニオン性基と活性水素を有する化合物としては例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびそれらの誘導体や、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、3-(2,3-ジヒドロキシプロポキシ)-1-プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびそれらの誘導体、並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
【0065】
カチオン性基と活性水素を含有する化合物としては例えば、3-ジメチルアミノプロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-プロピルジエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0066】
前記親水性基含有活性水素化合物は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。
【0067】
前記親水性基含有活性水素化合物としては、親水性基を有するポリウレタン樹脂の機械的強度および分散安定性の観点から、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸およびこれらの中和塩を用いることが好ましい。
【0068】
ポリウレタン樹脂には、酸化チタン、カーボンブラックなどの顔料、染料、防カビ剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、4,4-ブチリデンービス(3-メチル-6-1-ブチルフェノール)などのヒンダードフェノール、トリフェニルホスファイト、トリクロルエチルホスファイトなどの有機ホスファイトなどの酸化防止剤などの各種安定剤、光安定剤などの耐光剤、難燃剤、滑剤、撥水剤、帯電防止剤等の界面活性剤、セルロース等の充填剤、炭酸カルシウムなどの無機充填剤、シリカや酸化チタン等の無機粒子などを含有させることができる。
【0069】
[人工皮革]
本発明の人工皮革は、前記極細繊維が5本以上200本以下の繊維束を形成していることが好ましい。前記繊維束を形成する極細繊維が好ましくは5本以上、より好ましくは8本以上、さらに好ましくは10本以上であることで、極細繊維発生型繊維を絡合に適した繊維径とすることができる。また、繊維束を形成する極細繊維が好ましくは200本以下、より好ましくは130本以下、さらに好ましくは100本以下であることで、極細繊維同士の分散性を向上させることができ、良好なタッチ感を有する人工皮革を得ることができる。なお、人工皮革の観察において、同一の方向を向いていると見なせる複数の極細繊維の集合体は繊維束とみなすことができる。また、本発明において極細繊維が同一方向を向いていると見なせるとは、極細繊維の断面が実質的に同一の形状をしていると見なせる状態のことである。例えば、人工皮革の断面において、同一の円形(扁平率が0の楕円であるとも言える)の断面を有する極細繊維が10本近傍に集合しているのであれば、その集合は、極細繊維が10本で形成される繊維束であるということができる。
【0070】
人工皮革の観察から数えられる、繊維束を形成する極細繊維の本数は、以下の方法で算出される。すなわち、人工皮革を厚み方向に切断した断面について、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」など)により、観察範囲に存在する、観察面手前を向いた極細繊維断面の個数が全体で200個以上となるように倍率1200~1700倍で10枚撮影する。そして、10枚の画像それぞれについて、1つの「繊維束」とみなせるものを形成する極細繊維の本数を全てカウントし、繊維束1つあたりの平均値(本)を小数点以下第1位で四捨五入して、繊維束を形成する極細繊維の本数とする。
【0071】
本発明の人工皮革において、DMFによるポリウレタン樹脂の溶出率がポリウレタン樹脂全体の質量の30.0質量%以下であることが重要である。DMFによるポリウレタン樹脂の溶出率が30.0質量%以下、好ましくは25.0質量%以下であることで、耐薬品性に優れ、濡れや薬剤の付着によるポリウレタン樹脂の溶出の少ない人工皮革となり、結果として人工皮革の風合いおよび耐摩耗性の経年変化を抑制することができる。
【0072】
本発明において、DMFによるポリウレタン樹脂の溶出率は、以下の方法で算出される。
【0073】
すなわち、人工皮革の試料をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に浸漬することで繊維質基材を抽出し、ろ過により可溶物と不溶物とに分離する。前記不溶物の質量をポリウレタン樹脂の質量とし、不溶物の質量を浸漬前の試料の質量で割ることで、人工皮革中のポリウレタン樹脂の含有率とする。
【0074】
また、同じ人工皮革の別の試料を、25℃のDMFに15時間浸漬することでポリウレタン樹脂を溶出し、水洗し、乾燥させ、前後の質量を比較することで、DMFに溶出したポリウレタン樹脂の質量を算出する。溶出したポリウレタン樹脂の質量をDMF浸漬前の試料の質量で割ることで、人工皮革中のDMFに溶出したポリウレタン樹脂の率とする。
【0075】
次いで、人工皮革中のDMFに溶出したポリウレタン樹脂の率を、人工皮革中のポリウレタン樹脂の含有率で割り、100をかけて得られる値(質量%)を小数点以下第2位で四捨五入することで、DMFによるポリウレタン樹脂の溶出率とする。
【0076】
なお、上記の溶出率は、例えば、ポリウレタン樹脂の各反応成分、重量平均分子量、あるいは、ポリウレタン前駆体と感熱凝固剤とを溶質または分散質の主たる構成成分とする溶液または水分散液を含浸させる含浸工程と乾燥工程の繰り返し回数などを調整することによって、上記の範囲とすることができる。一例として、ポリウレタンの重量平均分子量を上げることで、DMFに溶解しづらいポリウレタンとすることができる。
【0077】
本発明の人工皮革は、人工皮革の表面に対して垂直に切断した断面の走査型電子顕微鏡写真の観察範囲内において観察される、前記繊維束の総数に対する、その外周の半分以上がポリウレタン樹脂に被覆されている前記繊維束の割合が、20.0%以上70.0%以下であることが好ましい。当該繊維束の割合が好ましくは20.0%以上、より好ましくは30.0%以上、さらに好ましくは35.0%以上であることで、繊維束がポリウレタン樹脂によって強固に把持されるため、ヨレやシワなどの形状変化を抑制することができる。また、当該繊維束の割合が好ましくは70.0%以下、より好ましくは65.0%以下、さらに好ましくは60.0%以下であることで、立毛感を感じられる良好なタッチの人工皮革を得ることができる。
【0078】
上記の繊維束の割合は、以下の方法で算出される。すなわち、
(1)人工皮革を厚み方向に切断した断面について、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500/D510」など)により、観察する。なお、観察範囲の条件としては、以下の(a)~(c)を満たすものとする。
(a)観察範囲に存在する、観察面手前を向いた極細繊維の繊維束の個数が全体で100個以上であること。
(b)シート表面に立毛処理をしている場合は、立毛部を観察範囲に含まないこと。
(c)不織布の内部に織物や編物が挿入されている場合は、織物や編物を構成する繊維の断面を観察範囲に含まないこと。
(2)観察範囲内に存在する繊維束の個数をカウントする。なお、「観察範囲内に存在する」とは、繊維束の外周が全て観察範囲内に収まっていることを指す。
(3)観察範囲内の存在する繊維束の内、外周の半分以上がポリウレタン樹脂に被覆されている繊維束の個数をカウントする。なお、繊維束がポリウレタン樹脂を介さず他の繊維束と接している場合、接している全ての繊維束を合わせた外周の半分以上がポリウレタン樹脂に被覆されていれば、これらの繊維束を全て外周の半分以上がポリウレタン樹脂に被覆されている繊維束の個数としてカウントする。
(4)以下の式1に従い繊維束外周の半分以上がポリウレタン樹脂に被覆されている繊維束の割合を算出して得られる値(%)を小数点以下第2位で四捨五入する。
その外周の半分以上がポリウレタン樹脂に被覆されている繊維束の割合(%)=100×(その外周の半分以上がポリウレタン樹脂に被覆されている繊維束の個数)/(観察範囲内に外周が全て含まれている繊維束の個数) ・・・(式1)。
【0079】
なお、上記の繊維束の割合は、ポリウレタン樹脂含浸後の乾燥時間、および、含浸工程と乾燥工程の繰り返しの回数を調整することによって、上記の範囲とすることができる。ポリウレタン樹脂含浸後の乾燥時間を長くすることで、ポリウレタン樹脂の熱運動により繊維とポリウレタン樹脂の接着強度が向上し、繊維束がポリウレタン樹脂により被覆された構造を取りやすくなる。また、前記含浸工程と乾燥工程の繰り返しの回数を多くすることで、繊維質基材へのポリウレタン樹脂の付与量を増やすことができるため、繊維束がポリウレタン樹脂により被覆された構造を取りやすくなる。
【0080】
本発明の人工皮革は、JIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」に規定され、押圧荷重12.0kPa、摩耗回数20000回の条件で行われる耐摩耗試験において、70℃、95%でのジャングルテスト10週間後の摩耗減量が、ジャングルテスト前の摩耗減量に対し、変化率が0%以上30%以下であることが好ましい。摩耗減量の変化率が30質量%以下、好ましくは25質量%以下であることで、経年による耐摩耗性の変化の少ない人工皮革とすることができる。
【0081】
[人工皮革の製造方法]
本発明の人工皮革の製造方法は、極細繊維発現型複合繊維からなる不織布を含む繊維質基材を形成する工程を経る。
【0082】
前記極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分(島繊維が芯鞘複合繊維の場合は2または3成分)の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、前記の海成分を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維を用いることが、海成分を除去する際に島成分間、すなわち繊維束内部の極細繊維間に適度な空隙を付与することができるため、人工皮革の風合いや表面品位の観点から好ましい。
【0083】
前記海島型複合繊維としては、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分(島繊維が芯鞘型複合繊維の場合は3成分)を相互配列して紡糸する高分子相互配列体を用いる方式が、均一な単繊維直径の極細繊維が得られるという観点から好ましい。
【0084】
前記海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができるが、製糸性や易溶出性等の観点から、ポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
【0085】
前記海成分と前記島成分との質量比割合、海成分/島成分は、10/90~80/20の範囲内であることが好ましい。前記海成分の質量割合が10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であると、島成分が十分に極細化されやすくなる。また、前記海成分の質量割合が80質量%以下、より好ましくは70質量%以下であると、溶出成分の割合が少ないため生産性が向上する。
【0086】
前記繊維絡合体として短繊維不織布を用いる場合には、得られた極細繊維発現型繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカット加工して原綿を得る。捲縮加工やカット加工は、公知の方法を用いることができる。
【0087】
次に、得られた原綿を、クロスラッパー等により繊維ウェブとし、絡合させることにより短繊維不織布を得る。繊維ウェブを絡合させ短繊維不織布を得る方法としては、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等を用いることができる。
【0088】
短繊維不織布と織物を積層し一体化させる場合には、短繊維不織布の片面もしくは両面に織物を積層するか、あるいは複数枚の短繊維不織布ウェブの間に織物を挟んだ後に、ニードルパンチ処理やウォータージェットパンチ処理等によって短繊維不織布と織物の繊維同士を絡ませて絡合一体化させることができる。
【0089】
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の極細繊維発現型繊維からなる短繊維不織布の見掛け密度は、0.15g/cm3以上0.45g/cm3以下であることが好ましい。見掛け密度を好ましくは0.15g/cm3以上とすることにより、繊維質基材が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を好ましくは0.45g/cm3以下とすることにより、ポリウレタン樹脂を付与するための十分な空間を維持することができる。
【0090】
このようにして得られた不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい。また、不織布はカレンダー処理等により、厚み方向に圧縮することもできる。
【0091】
本発明の人工皮革の製造方法は、前記極細繊維発現型複合繊維からなる不織布を含む繊維質基材にポリウレタン前駆体と感熱凝固剤とを溶質または分散質の主たる構成成分とする溶液または水分散液(以下、「前駆体溶液」、「前駆体分散液」とも呼ぶ。)を含浸させる含浸工程を経る。前記極細繊維発現型繊維からなる不織布に対してポリウレタン樹脂の付与を行うことで、極細繊維の発現後も極細繊維が繊維束のまま維持されやすくなるため、形状変化の少ない人工皮革とすることができる。
【0092】
繊維質基材にポリウレタン樹脂を付与する際には、前記前駆体溶液または前記前駆体分散液に含浸することでなされる。ここでいう「ポリウレタン前駆体」とは、後述する凝固や固化などの手段によって固形化する前の状態のポリウレタンを指す。以下、単に「前駆体」と呼ぶこともある。ポリウレタンの特性に合わせて前記前駆体溶液または前記前駆体分散液を用いることができる。前記前駆体溶液および前記前駆体分散液の溶媒、分散媒としては、水や、N,N-ジメチルホルムアミド等の水混和性有機溶剤を用いることができるが、一般的に有機溶剤は環境への有害性が高いことから、水を用いることが好ましい。
【0093】
前記前駆体溶液または前記前駆分散液の濃度(前記前駆体溶液または前記前駆体分散液に対する含有量)は、前記前駆体溶液または前記前駆体分散液の貯蔵安定性の観点から、5質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは8質量%以上40質量%以下である。
【0094】
前記ポリウレタン前駆体としては、重量平均分子量が1000000以上の2000000以下のポリウレタンを用いることが好ましい。前記ポリウレタンの重量平均分子量を1000000以上、好ましくは1100000以上とすることにより、DMFやその他有機溶剤への溶出率を低くすることができ、人工皮革とした際に、耐薬品性に優れ、濡れや薬剤の付着によるポリウレタン樹脂の溶出の少ない人工皮革となり、結果として人工皮革の風合いおよび耐摩耗性の経年変化を抑制することができる。また、粘度安定性と作業性の観点から、前記ポリウレタンの重量平均分子量は2000000以下、好ましくは1900000以下であることが好ましい。
【0095】
前記感熱凝固剤としては、1価陽イオン含有無機塩が好ましい。1価陽イオン含有無機塩を添加することで、前記分散液中の前記ポリウレタン前駆体に感熱凝固性を付与することが出来る。本発明において、感熱凝固性とは、前記前駆体溶液または前記前駆体分散液を加熱した際に、ある温度(感熱凝固温度)に達すると前記前駆体溶液または前記前駆体分散液の流動性が減少し、ポリウレタンが凝固する性質のことを言う。
【0096】
前記ポリウレタン前駆体に感熱凝固性が付与されることで、前記ポリウレタン前駆体が水分の蒸発とともにシート表面に移行する現象、すなわち、マイグレーションの発生を抑制できる。
【0097】
前記1価陽イオン含有無機塩としては、好ましくは塩化ナトリウムおよび/または硫酸ナトリウムである。従来の手法においては、感熱凝固剤としては硫酸マグネシウムや塩化カルシウムといった2価陽イオンを有する無機塩が好適に用いられてきたが、これらの無機塩は少量の添加によっても溶液もしくは水分散液の安定性に大きく影響するため、前駆体の種類によっては、その添加量調整による感熱ゲル化温度の厳密な制御が困難であり、また、前記前駆体溶液または前記前駆体分散液の調整時や貯蔵時におけるゲル化の懸念など課題があった。一方で、イオン価数が小さい1価陽イオン含有無機塩は、前記前駆体溶液または前記前駆体分散液の安定性への影響が小さく、添加量を調整することで前記前駆体溶液または前記前駆体分散液の安定性を担保しながらにして、感熱凝固温度を厳密に制御することが出来る。
【0098】
前記前駆体溶液または前記前駆体分散液の感熱凝固温度は、55℃以上80℃以下であることが好ましい。当該感熱凝固温度が55℃以上、より好ましくは60℃以上であることで、前記前駆体溶液または前記前駆体分散液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時に製造装置内部への親水性基を有するポリウレタン樹脂の付着等を抑制することができる。また、当該感熱凝固温度が80℃以下、より好ましくは70℃以下であることで、繊維質基材の表層へのポリウレタン樹脂のマイグレーション現象を抑制することができ、さらに繊維質基材からの水分蒸発前に前駆体の凝固が進行することで、溶剤系のポリウレタン前駆体を湿式凝固させる場合に類似した構造、すなわちポリウレタン樹脂が強く極細繊維を拘束しない構造を形成することができる。そして、より柔軟で反発感を有する人工皮革を得ることができる。
【0099】
前記含浸工程において、前記前駆体分散液中でのニップや、攪拌による液流の発生、噴射によるシートへの前記前駆体溶液または前記前駆体分散液の吹き付けなどを行うことも好ましい。上記のような方法をとることによって、後述するように前記繊維質基材への前記前駆体溶液または前記前駆体分散液の含浸、乾燥を複数回行っても、前記繊維質基材へ前記前駆体溶液または前記前駆体分散液をより含浸させやすくすることが可能である。
【0100】
本発明の人工皮革の製造方法において、前記含浸工程の後、乾燥を行う乾燥工程を経る。すなわち、前記乾燥工程において前記ポリウレタン前駆体を凝固さる乾熱凝固法を行う。この乾熱凝固法は、前記前駆体溶液または前記前駆体分散液を含浸したシートを熱風乾燥機等で加熱処理するという非常に簡易な手法であり、ポリウレタン樹脂の脱落の懸念がなく、加工性に優れる手法である。
【0101】
前記乾燥工程における温度は100℃以上180℃以下である。加熱温度を100℃以上、好ましくは120℃以上とすることで、前記ポリウレタン前駆体を速やかに凝固させてポリウレタンとし、自重によって人工皮革の加工時の下面側にポリウレタン樹脂が偏在してしまうことを抑えることが出来る。さらに、また、加熱温度を180℃以下、好ましくは160℃以下とすることで、前記ポリウレタン前駆体、あるいは、ポリウレタン樹脂の熱劣化を抑制することが出来る。
【0102】
前記乾燥工程の1回あたりの乾燥時間は、10分以上30分以下であることが好ましい。乾燥時間を10分以上、好ましくは15分以上、より好ましくは18分以上とすることで、ポリウレタン樹脂の熱運動により繊維とポリウレタン樹脂の接着強度が向上し、繊維束がポリウレタン樹脂により被覆された構造を取りやすくなる。一方、30分以下、好ましくは25分以下、より好ましくは22分以下とすることで、ポリウレタン樹脂の熱劣化を抑制することができ、人工皮革とした際に実用可能な耐久性とすることができる。
【0103】
本発明の人工皮革の製造方法において、前記含浸工程および前記乾燥工程を2回以上5回以下繰り返して行うことが重要である。前記繰り返しの回数を2回以上とすることで、繊維質基材へのポリウレタン樹脂の付与量を増やすことができるため、繊維束がポリウレタン樹脂により被覆された構造を取りやすく、形状安定性の優れる人工皮革とすることができる。また、前記繰り返しの回数を5回以下とすることで、表層付近にポリウレタン樹脂が多く付着しすぎてしまうことを防ぐことができ、良好な品位、風合いを有する人工皮革とすることができる。
【0104】
前記前駆体溶液または前記前駆体分散液には、前述の添加剤や、シリカや酸化チタン等のアンチブロッキング剤、粘度調整剤、シリコーン等の消泡剤、浸透剤、凝固調整剤などを添加することができる。
【0105】
前記極細繊維発現型繊維として海島型複合繊維を用いる場合の繊維極細化処理(脱海処理)は、例えば、溶剤中に前記海島型複合繊維を浸漬し、搾液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、前記海成分がポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリスチレンの場合には、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用いることができる。また、前記海成分が共重合ポリエステルまたはポリ乳酸の場合には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液や熱水を用いることができる。
【0106】
極細繊維を発現させる処理には、連続染色機、バイブロウォッシャー型脱海機、液流染色機、ウィンス染色機およびジッガー染色機等の装置を用いることができる。
【0107】
極細繊維発現工程後において、アルカリ処理後に十分な洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄工程を経ることで人工皮革に付着したアルカリや1価陽イオン含有無機塩をシートに残存させることなく、加工でき、生産設備への影響を与えず加工できる。洗浄液は環境面や安全性を考慮すると水を用いることが好ましい。
【0108】
洗浄後の乾燥温度は80℃以上200℃以下が好ましい。当該乾燥温度を80℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上とすることで、短時間で効率良く乾燥を行うことができる。また、当該乾燥温度を200℃以下、より好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下とすることで、ポリウレタンの熱分解を抑えることができる。
【0109】
本発明では、人工皮革の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させてもよい。立毛を形成する方法は、特に限定されず、サンドペーパー等によるバフィング等、当分野で通常行われる各種方法を用いることができる。立毛長は短すぎると優美な外観が得られにくく、長すぎると、ピリングが発生しやすくなる傾向にあることから、立毛長は0.2mm以上1mm以下とすることが好ましい。
【0110】
また、起毛処理の前に、人工皮革に滑剤としてシリコーン等を付与してもよい。滑剤を付与することにより、表面研削による起毛が容易に可能となり、表面品位が非常に良好となるため好ましい。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与してもよい。帯電防止剤の付与により、研削によって人工皮革から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなるため好ましい。
【0111】
人工皮革は染色することができる。この染色処理としては、当分野で通常用いられる各種方法を採用することができ、例えば、ジッガー染色機や液流染色機を用いた液流染色処理、連続染色機を用いたサーモゾル染色処理等の浸染処理、あるいはローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染および真空昇華捺染等による立毛面への捺染処理等を用いることができる。中でも、未起毛人工皮革または人工皮革の染色と同時に揉み効果を与えて未起毛人工皮革または人工皮革を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。また、必要に応じて、染色後に各種の樹脂仕上げ加工を施すことができる。
【0112】
染色温度は、繊維の種類にもよるが、80℃以上150℃以下とすることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、ポリウレタンの劣化を防ぐことができる。
【0113】
本発明で用いられる染料は、繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
【0114】
染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、例えば、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0115】
本発明では、染色工程の前後に問わず、製造効率の観点から、厚み方向に半裁することも好ましい態様である。
【0116】
さらに、本発明のひとつの態様において、必要に応じてその表面に意匠性を施すことができる。例えば、パーフォレーション等の穴開け加工、エンボス加工、レーザー加工、ピンソニック加工、およびプリント加工等の後加工処理を施すことができる。
【実施例0117】
次に、実施例を用いて本発明の人工皮革について、さらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0118】
[評価方法]
(1)DMFによるポリウレタン樹脂の溶出率
人工皮革の試料をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に浸漬することで繊維質基材を抽出し、ろ過により可溶物と不溶物とに分離した。前記不溶物の質量をポリウレタン樹脂の質量とし、不溶物の質量を浸漬前の試料の質量で割ることで、人工皮革中のポリウレタン樹脂の含有率とした。
【0119】
また、同じ人工皮革の別の試料を、25℃のDMFに15時間浸漬することでポリウレタン樹脂を溶出し、水洗し、乾燥させ、前後の質量を比較することで、DMFに溶出したポリウレタン樹脂の質量を算出した。溶出したポリウレタン樹脂の質量をDMF浸漬前の試料の質量で割ることで、人工皮革中のDMFに溶出したポリウレタン樹脂の率とした。
【0120】
次いで、人工皮革中のDMFに溶出したポリウレタン樹脂の率を、人工皮革中のポリウレタン樹脂の含有率で割り、100をかけることで、DMFによるポリウレタン樹脂の溶出率とした。
【0121】
(2)ポリウレタン樹脂中のイソシアヌレート構造の有無
上記人工皮革より分離したポリウレタン樹脂について、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製FT/IR 4000 series)を用いて、赤外分光分析によりイソシアヌレート構造の有無を確認した。
【0122】
(3)極細繊維の平均繊維長(mm)
前術の方法に従って、人工皮革の任意の3箇所から、それぞれピンセットを用いて極細繊維10本ずつ抜き出して繊維長を測定し、測定した30本分の繊維長の数平均を算出した。
【0123】
(4)繊維束を形成する極細繊維の本数(本)
人工皮革を厚み方向に切断した断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社キーエンス製VHX-D500/D510)を用い、前記の観察範囲の条件を満たすようにして、倍率1500倍で10枚撮影し、10枚の画像それぞれについて繊維束を形成する極細繊維の本数を測定し、平均値を算出した。
【0124】
(5)表面品位
対象者11名の官能検査により評価した。下記のように評価し、評価した人数が最も多いレベルを人工皮革の表面品位とした。なお、評価が同数となった場合は、より高い評価をその人工皮革の表面品位とすることとした。本発明においてはAおよびBを合格レベルとした。
A:非常に均一な表面品位である。
B:均一な表面品位である。
C:不均一な表面品位である。
D:非常に不均一な表面品位である。
【0125】
(6)風合い
対象者11名の官能検査により評価した。下記のように評価し、評価した人数が最も多いレベルを人工皮革の風合いとした。なお、評価が同数となった場合は、より高い評価をその人工皮革の風合いとすることとした。本発明においてはAおよびBを合格レベルとした。
A:非常に柔軟な風合いである。
B:柔軟な風合いである。
C:硬い風合いである。
D:非常に硬い風合いである。
【0126】
(7)風合いの経年変化
対象者11名の官能検査により評価した。ジャングルテスト未実施の状態での人工皮革の風合いと、強制劣化環境として70℃、95%でのジャングルテストに曝し10週間後の人工皮革の風合いについて、下記のように比較評価し、評価した人数が最も多いレベルを人工皮革の風合いの経年変化とした。本発明においてはAおよびBを合格レベルとした。
A:同等な風合いであり、経年による変化は全く感じられない。
B:概ね同等な風合いであり、経年による変化は気にならないレベルである。
C:やや異なる風合いであり、経年による変化が感じられる。
D:極めて異なる風合いであり、経年による変化が強く感じられる。
【0127】
(8)耐摩耗性の経年変化
本発明の人工皮革はJIS L1096:2010「織物及び編物の生地試験方法」の「8.19 摩耗強さ及び摩擦変色性」の「8.19.5 E法(マーチンデール法)」で規定される耐摩耗試験を、押圧荷重12.0kPa、摩耗回数20000回の条件で行い、ジャングルテスト未実施の状態での摩耗減量と、強制劣化環境として70℃、95%でのジャングルテストに曝し10週間後の摩耗減量を比較し、摩耗減量の変化率が0%以上30%以下を合格とした。
【0128】
[実施例1]
(不織布)
海成分として5-スルホイソフタル酸ナトリウム(SSIA)を8モル%共重合した共重合ポリエステルを用い、島成分としてポリエチレンテレフタレートを用いて、海成分が20質量%、島成分が80質量%の複合比率で、島数が37島/1フィラメント、平均単繊維直径が16μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により不織布を得た。得られた不織布を、98℃の温度の熱水中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させた。
【0129】
(前駆体分散液)
イソシアヌレート構造を有しカルボキシル基を有する重量平均分子量1200000のポリウレタン前駆体、感熱凝固剤として硫酸ナトリウム、および水を混合することで、前駆体分散液に対し前駆体が11質量%、感熱凝固剤が5質量%の前駆体分散液を調製した。
【0130】
(含浸工程・乾燥工程)
上記の不織布に上記の前駆体分散液を含浸させ、次いで120℃の温度の熱風で20分間乾燥させた。この含浸工程・乾燥工程を4回繰り返し実施することで、全体の質量に対し、ポリウレタンが52.6質量%となるように付与されたポリウレタン付不織布を得た。
【0131】
(極細繊維発現処理)
上記のポリウレタン付不織布を、95℃の温度に加熱した濃度50g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して5分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去(脱海)することで、極細繊維を発現させた。その後、不織布に付着した水酸化ナトリウム水溶液を水に浸漬して30分間洗浄し、160℃の乾燥機で30分間乾燥させ、極細繊維と親水性基を有するポリウレタンとからなる脱海後のシートを得た。
【0132】
(染色・仕上げ)
上記の脱海後のシートを厚さ方向に垂直に半裁し、半裁面の反対側をサンドペーパー番手180番のエンドレスサンドペーパーで研削することにより、表面が起毛されたシートを得た。
【0133】
得られたシートを、液流染色機を用いて120℃の温度条件下で黒色染料を用いて染色を行い、次いで乾燥機で乾燥を行うことで人工皮革を得た。
【0134】
結果を表1に示す。得られた人工皮革は、良好な品位と優れた風合いを有していた。また、極細繊維の平均単繊維直径が3.3μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が47.4質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が20.0%であった。風合いの経年変化は全く感じられず、耐摩耗試験の経年変化は21.8%であり変化が少なかった。
【0135】
[実施例2]
含浸工程・乾燥工程において、その繰り返しの回数を5回とした。それ以外は実施例1と同様にして、人工皮革を製造した。
【0136】
結果を表1に示す。得られた人工皮革は、極細繊維の平均単繊維直径が3.3μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が43.1質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が24.9%であった。また、風合いの経年変化は気にならないレベルであり、耐摩耗試験の経年変化は20.1%であり変化が少なかった。
【0137】
[実施例3]
含浸工程・乾燥工程において、その繰り返しの回数を3回とした。それ以外は実施例1と同様にして、人工皮革を製造した。
【0138】
結果を表1に示す。得られた人工皮革は、極細繊維の平均単繊維直径が3.3μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が56.5質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が20.5%であった。風合いの経年変化は気にならないレベルであり、耐摩耗試験の経年変化は22.6%であり変化が少なかった。
【0139】
[実施例4]
不織布の製造において、海島型複合繊維の島数を12島/1フィラメントとした。それ以外は実施例1と同様にして、人工皮革を製造した。
【0140】
結果を表1に示す。得られた人工皮革は、良好な品位と優れた風合いを有していた。また、極細繊維の平均単繊維直径が4.4μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が46.5質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が24.1%であった。風合いの経年変化は全く感じられず、耐摩耗試験の経年変化は20.4%であり変化が少なかった。
【0141】
[実施例5]
不織布の製造において、海島型複合繊維の島数を52島/1フィラメントとした。それ以外は実施例1と同様にして、人工皮革を製造した。
【0142】
結果を表1に示す。得られた人工皮革は、極細繊維の平均単繊維直径が3.0μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が45.5質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が22.1%であった。風合いの経年変化は気にならないレベルであり、耐摩耗試験の経年変化は28.4%であり変化が少なかった。
【0143】
[実施例6]
前駆体分散液の調製において、前駆体の濃度を8質量%とした。また、含浸工程・乾燥工程において、その繰り返しの回数を5回とした。これら以外は実施例1と同様にして、人工皮革を製造した。
【0144】
結果を表1に示す。得られた人工皮革は、良好な品位と優れた風合いを有していた。また、極細繊維の平均単繊維直径が3.3μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が50.1質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が23.3%であった。風合いの経年変化は全く感じられず、耐摩耗試験の経年変化は28.1%であり変化が少なかった。
【0145】
[実施例7]
前駆体分散液の調製において、前駆体の濃度を15質量%とした。それ以外は実施例1と同様にして、人工皮革を製造した。
【0146】
結果を表1に示す。得られた人工皮革は、極細繊維の平均単繊維直径が3.3μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が46.2質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が21.1%であった。風合いの経年変化は全く感じられず、耐摩耗試験の経年変化は20.3%であり変化が少なかった。
【0147】
【0148】
[比較例1]
前駆体分散液の調製において、前駆体の濃度を15質量%とした。また、含浸工程・乾燥工程において、その繰り返しの回数を5回とした。これら以外は実施例1と同様にして、人工皮革を製造した。
【0149】
結果を表2に示す。得られた人工皮革は、不均一な品位であり、硬い風合いの人工皮革であった。また、極細繊維の平均単繊維直径が3.3μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が36.4質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が18.9%であった。風合いの経年変化は全く感じられず、耐摩耗試験の経年変化は18.2%であり変化が少なかった。
【0150】
[比較例2]
含浸工程・乾燥工程において、それらを繰り返さず1回ずつのみ行った。それ以外は実施例1と同様にして、人工皮革を製造した。
【0151】
結果を表2に示す。得られた人工皮革は、優れた風合いを有していた。また、極細繊維の平均単繊維直径が3.3μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が78.1質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が29.8%であった。風合いの経年変化が感じられ、耐摩耗試験の経年変化は54.1%であり変化が多かった。
【0152】
[比較例3]
前駆体分散液の調製において、イソシアヌレート構造を有しカルボキシル基を有する、重量平均分子量500000のポリウレタン前駆体を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、人工皮革を製造した。
【0153】
結果を表2に示す。得られた人工皮革は、良好な品位と優れた風合いを有していた。また、極細繊維の平均単繊維直径が3.3μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が45.7質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が44.0%であった。風合いの経年変化が感じられ、耐摩耗試験の経年変化は36.0%であり変化が多かった。
【0154】
[比較例4]
前駆体分散液の調製において、イソシアヌレート構造を有さずカルボキシル基を有する、重量平均分子量1200000のポリウレタン前駆体を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、人工皮革を製造した。
【0155】
結果を表2に示す。得られた人工皮革は、良好な品位と優れた風合いを有していた。また、極細繊維の平均単繊維直径が3.3μmであり、人工皮革全体に占める繊維質基材の質量が42.3質量%であり、DMFによるポリウレタンの溶出率が20.1%であった。風合いの経年変化が感じられ、耐摩耗試験の経年変化は45.0%であり変化が多かった。
【0156】
【0157】
実施例1~7の人工皮革は、イソシアヌレート構造を有するポリウレタンを用い、人工皮革に占めるポリウレタンの割合を多くすることで、経年による風合いおよび耐摩耗性の変化が少ない人工皮革を得ることができた。
【0158】
一方、比較例1の人工皮革は、人工皮革全体に占める繊維質基材の割合が少なく、ポリウレタンが多すぎたために硬い風合いの人工皮革となった。
【0159】
比較例2の人工皮革は、人工皮革全体に占める繊維質基材の割合が多いことで、極細繊維がポリウレタンによって十分に把持されず、経年による風合いおよび耐摩耗性の変化が多い人工皮革となった。
【0160】
比較例3の人工皮革は、DMFによる溶出率が高いポリウレタンを用いたことで、経年によるポリウレタンの脱落が多くなり、経年による風合い及び耐摩耗性の変化が多い人工皮革となった。
【0161】
比較例4の人工皮革は、イソシアヌレート構造を有さないポリウレタンを用いたことで、ポリウレタンの耐加水分解性が低いために、経年による風合い及び耐摩耗性の変化が多い人工皮革となった。