IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特開2024-51373血液浄化材料及び血液浄化材料の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051373
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】血液浄化材料及び血液浄化材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
A61M1/36 165
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157508
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小町 駿介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
(72)【発明者】
【氏名】神田 峻吾
(72)【発明者】
【氏名】山下 恭平
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB03
4C077EE01
4C077KK13
4C077MM05
4C077NN02
4C077NN04
4C077PP18
(57)【要約】
【課題】血液中の白血球、血小板及びサイトカイン等を一括除去できる材料を提供すること。
【解決手段】表面にポリアリレートを有し、該ポリアリレートにリガンドが結合しており、陽性荷電量が1.0~40.0mmol/mである、血液浄化材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にポリアリレートを有し、
該ポリアリレートにリガンドが結合しており、
陽性荷電量が1.0~40.0mmol/mである、血液浄化材料。
【請求項2】
白血球、血小板及びサイトカインを吸着する、請求項1記載の血液浄化材料。
【請求項3】
前記リガンドが、アミノ基を有する、請求項1又は2記載の血液浄化材料。
【請求項4】
前記ポリアリレートと前記リガンドとが、下記一般式(I)で表される構造で結合している、請求項1又は2記載の血液浄化材料。
【化1】
一般式(I)中のXは、NRを表す。Rは、水素原子、炭化水素基又は
陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基を表し、Rは陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基を表す。Yはポリアリレートを表す。
【請求項5】
ポリアリレートの表面を加水分解する、加水分解工程と、
加水分解後のポリアリレートにリガンドを結合させる、リガンド結合工程と、を備える、請求項1又は2記載の血液浄化材料の製造方法。
【請求項6】
前記加水分解に硫酸又は水酸化ナトリウム水溶液を用いる、請求項5記載の血液浄化材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液浄化材料に関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎、クローン病、敗血症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺傷害(ALI)、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性硬化症等の炎症性疾患の治療方法として、体外循環治療が用いられている。
【0003】
炎症性疾患では、白血球がサイトカインを放出し、サイトカインが白血球や血小板を活性化することにより炎症を惹起する。そのため、炎症性疾患を体外循環により治療する場合、血液中から白血球、血小板及びサイトカインを一括除去することが求められる。
【0004】
特に、潰瘍性大腸炎やクローン病では、一部の患者において、血小板数増加及び血中サイトカイン濃度の上昇が報告されており(非特許文献1~3)、血小板を含めた炎症性物質の一括除去による治療が効果的だと考えられている。
【0005】
潰瘍性大腸炎の治療法としては、サイトカインの作用を阻害する薬や顆粒球、単球、及び血小板を除去する血球成分除去カラムとしてイムノピュア(登録商標)を用いた体外循環療法がおこなわれている(非特許文献4)。
【0006】
特許文献1には、白血球及び血小板を効率よく除去する疎水性高分子樹脂吸着体が開示されている。
【0007】
特許文献2には、基材にアミド基とアミノ基とを有するリガンドが結合した水不溶性材料を含み、上記アミド基の含量は、上記水不溶性材料の乾燥質量1g当たり3.0~7.0mmolであり、上記アミノ基の含量は、上記水不溶性材料の乾燥質量1g当たり1.0~7.0mmolである、血液浄化用の材料が開示されている。
【0008】
特許文献3には、表面に荷電を有する官能基を含む化合物が結合した水不溶性担体である活性化白血球-活性化血小板複合体の除去材料が開示されている。
【0009】
特許文献4には、アミド基を有するリガンドを含む活性化白血球-活性化血小板複合体の除去材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-254695号公報
【特許文献2】国際公開第2018/047929号
【特許文献3】国際公開第2018/225764号
【特許文献4】特開2019-134699号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日本薬理学雑誌,2002年,第120巻,p.39~45
【非特許文献2】日本大腸肛門病学会雑誌,1990年,第43巻,p.1341-1351
【非特許文献3】JOURNAL of Crohn’s and Colits,(英),2013,7,p.916-922
【非特許文献4】潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針,令和3年3月,p.5~16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
白血球、血小板及びサイトカイン等の炎症性物質が連動して炎症性疾患を引き起こすが、これらはカスケード反応であるため、効率的な炎症性疾患の治療には、これら炎症性物質を一括除去することが求められる。
【0013】
特許文献1には、白血球及び血小板の除去に関する記載がある一方で、サイトカインの除去に関しては記載がない。白血球、血小板及びサイトカインは、それぞれ物理的性質や化学的性質が異なるため、除去のメカニズムは同一ではないことが一般的に知られている。
【0014】
特許文献2では、白血球及びサイトカインの除去性能を向上させる試みがなされている一方で、血小板の除去に関しては抑制する試みがなされており、白血球、血小板及びサイトカインの一括除去に関する記載はない。
【0015】
特許文献3には、白血球、サイトカイン及び活性化白血球-活性化血小板複合体の除去に関する記載がある一方で、血小板除去に関しては記載がない。活性化白血球-活性化血小板複合体と血小板は、それぞれ物理的性質や化学的性質が異なるため、除去のメカニズムは同一ではないことが一般的に知られている。
【0016】
特許文献4では、白血球及びサイトカインの除去性能を向上させる試みがなされている一方で、血小板の除去性能を抑制する試みがなされている。
【0017】
また、非特許文献4には、潰瘍性大腸炎の治療方法としてサイトカインの作用を阻害する薬と血球除去成分除去カラムを併用する方法が開示されているが、単一材料による一括除去については記載されていない。
【0018】
以上のような背景の下、炎症性疾患の患者等の血液中に含まれる白血球、血小板及びサイトカイン等の炎症性物質を一括除去可能な材料の開発が切望されている。
【0019】
そこで本発明は、白血球、血小板及びサイトカイン等の炎症性物質を一括除去できる材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明の血液浄化材料は以下の構成からなる。
(1)表面にポリアリレートを有し、該ポリアリレートにリガンドが結合しており、陽性荷電量が1.0~40.0mmol/mである、血液浄化材料。
(2)白血球、血小板及びサイトカインを吸着する、(1)記載の血液浄化材料。
(3)上記リガンドが、アミノ基を有する、(1)又は(2)記載の血液浄化材料。
(4)上記ポリアリレートと上記リガンドとが、下記一般式(I)で表される構造で結合している、(1)又は(2)記載の血液浄化材料。
【0021】
【化1】
【0022】
一般式(I)中のXは、NRを表す。Rは、水素原子、炭化水素基又は陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基を表し、Rは陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基を表す。Yはポリアリレートを表す。
(5)ポリアリレートの表面を加水分解する、加水分解工程と、加水分解後のポリアリレートにリガンドを結合させる、リガンド結合工程と、を備える、(1)又は(2)記載の血液浄化材料の製造方法。
(6)上記加水分解に硫酸又は水酸化ナトリウム水溶液を用いる、(5)記載の血液浄化材料の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の血液浄化材料は、炎症性疾患の患者等の血液中に含まれる白血球、血小板及びサイトカイン等を一括除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の血液浄化材料は、表面にポリアリレートを有し、該ポリアリレートにリガンドが結合しており、陽性荷電量が1.0~40.0mmol/mである。
【0025】
「血液浄化」とは、少なくとも1つの血液中の成分が血液浄化材料を用いて吸着、透析、濾過又は不活化の少なくとも1つの操作により血液から分離除去された状態を意味する。
【0026】
「ポリアリレート」とは、芳香族ジカルボン酸と2価フェノールとがエステル結合したポリエステルを意味する。芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、パラフタル酸、テレフタル酸が挙げられ、なかでもイソフタル酸又はテレフタル酸が好ましい。2価フェノールとしては、ビスフェノール及びその誘導体が挙げられ、なかでもビスフェノールAが好ましい。すなわち、イソフタル酸又はテレフタル酸とビスフェノールAからなるポリアリレートであることが好ましい。
【0027】
「表面にポリアリレートを有する」とは、血液中に血液浄化材料を入れた際に血液がポリアリレートに接触できることを意味する。
【0028】
詳細なメカニズムは不明であるが、血液浄化材料の表面にポリアリレートを有する場合、ポリアリレートが疎水性であるために、白血球と血小板が吸着すると考えられる。
【0029】
「リガンド」とは、血液浄化の性能を付与するために、ポリアリレートに結合させた化学構造を意味する。
【0030】
「陽性荷電量」とは、ポリアリレートに結合したリガンドに由来した陽性荷電の量を意味する。サイトカイン除去性能を付与する観点から陽性荷電量は1.2mmol/m以上が好ましく、6.0mmol/m以上がより好ましい。一方で、白血球除去性能を維持する観点から陽性荷電量は35.0mmol/m以下が好ましく、15.0mmol/m以下がより好ましい。すなわち、白血球、血小板及びサイトカインを一括除去するためには、血液浄化材料表面の疎水性を維持できる範囲で、陽性荷電を付与する必要がある。
【0031】
血液浄化材料の表面に陽性荷電を付与することができるリガンドの官能基としては、アミノ基が挙げられる。本発明の血液浄化材料においては、アミノ基を有するリガンドであることが好ましい。
【0032】
ポリアリレートへのリガンドの結合様式として、共有結合、イオン結合、水素結合、静電相互作用、ファンデルワールス力などが挙げられる。リガンドが血液浄化材料から血液中へ遊離するリスクが低い方が好ましいため、結合様式は共有結合、イオン結合が好ましく、共有結合がより好ましい。また、リガンドが結合する位置については、血液浄化材料の力学的強度維持の観点から、ポリアリレートの末端に結合していることが好ましい。
【0033】
「サイトカイン」とは、感染や外傷等の刺激により、白血球を始めとする各種の細胞から産生され細胞外に放出されて作用する一群のタンパク質を意味し、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン1~インターロイキン15、腫瘍壊死因子-α、腫瘍壊死因子-β、ハイモビリティーグループボックス-1、エリスロポエチン及び単球走化因子等が挙げられ、特に、インターロイキン6(以下「IL-6」という)、インターロイキン8(以下「IL-8」という)、ハイモビリティーグループボックス-1が炎症性疾患の原因物質とされている。
【0034】
「白血球」とは、顆粒球、単球又はリンパ球のことを表す。炎症性疾患の治療を目的とする場合は顆粒球及び/又は単球を血液中から除去することが好ましい。
【0035】
本発明の血液浄化材料は、炎症性疾患を治療する観点から白血球、血小板及びサイトカインを吸着することが好ましい、すなわち白血球、血小板及びサイトカインを一括除去できることが好ましい。また、炎症性疾患をより効率的に治療する観点から、炎症性疾患の主要原因物質を除去できることが好ましい。すなわち、白血球の中では、顆粒球及び/又は単球を除去できることが好ましく、サイトカインの中では、IL-6及び/又はIL-8を除去できることが好ましい。
【0036】
血液浄化材料の白血球除去性能の測定方法としては、例えば、白血球を含む液体に血液浄化材料を含浸し、含浸後に液体中の白血球の減少量を測定し、除去率を算出する方法が挙げられる。また、入口及び出口を有する容器に血液浄化材料を充填し、白血球を含む液体を通液させて、入口及び出口における白血球の濃度変化から除去率を算出する方法を用いることもできる。含浸及び通液時の温度は、白血球が活動可能な範囲であれば特に制限はないが、血液浄化に使用する観点から、34~44℃であることが好ましい。
【0037】
白血球の濃度の測定は、例えば、白血球を含む液体に白血球検出試薬を反応させ、試薬と結合した血球分画を測定することにより行われる。当該測定には、フローサイトメーターや血球計算機を用いることができる。また、白血球の検出には抗CD45抗体を用いることができる。
【0038】
血液浄化材料の血小板除去性能の測定方法としては、例えば、血小板を含む液体に血液浄化材料を含浸し、含浸後に液体中の血小板の減少量を測定し、除去率を算出する方法が挙げられる。また、入口及び出口を有する容器に血液浄化材料を充填し、血小板を含む液体を通液させて、入口及び出口における血小板の濃度の変化から除去率を算出する方法を用いることもできる。含浸及び通液時の温度は、血小板が活動可能な範囲であれば特に制限はないが、血液浄化に使用する観点から、34~44℃であることが好ましい。
【0039】
血小板の濃度の測定は、例えば、血小板を含む液体に血小板検出試薬を反応させ、試薬と結合した血球分画を測定することにより行われる。当該測定には、フローサイトメーターや血球計算機を用いることができる。また、血小板の検出には抗CD41抗体を用いることができる。
【0040】
血液浄化材料のサイトカイン除去性能の測定方法としては、例えば、サイトカインを溶解したウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum;以下「FBS」という)に血液浄化材料を含浸し、含浸前後のFBS中のサイトカイン濃度を測定し、含浸前後のサイトカイン濃度からサイトカインの除去率を算出する方法が挙げられる。含浸時の温度は、サイトカインが生理活性をもつ範囲であれば特に制限はないが、血液浄化に使用する観点から、34℃~44℃であることが好ましい。
【0041】
サイトカインの濃度の測定は、例えば、サイトカインを含む液体にサイトカイン検出試薬を反応させ、試薬と結合したサイトカインを測定することにより行われる。当該測定には、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA法)を用いることができる。
【0042】
陽性荷電量の測定は、陽性荷電と相互作用する物質を測定対象である血液浄化材料に吸着させた後に、吸着した物質を血液浄化材料から遊離させ、遊離した物質の量を測ることにより行われる。陽性荷電と相互作用する物質としては、例えば、アシッドオレンジ7などの色素が挙げられ、アシッドオレンジ7を用いる場合であれば、遊離した物質の量は482nmの波長の吸光度を測定することで定量できる。
【0043】
本発明の血液浄化材料は、上記ポリアリレートと上記リガンドとが、下記一般式(I)で表される構造で結合していることが好ましい。
【0044】
【化2】
【0045】
一般式(I)中のXは、NRを表す。Rは、水素原子、炭化水素基又は陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基を表し、Rは陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基を表す。Yはポリアリレートを表す。
【0046】
ここで、陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基とは、1以上の炭素原子を窒素原子で置き換えた窒素原子含有炭化水素基である。該窒素原子含有炭化水素基は、さらに炭素原子をヘテロ原子で置き換えてもよい。
【0047】
また、炭化水素基とは、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基のいずれかを意味する。
【0048】
一般式(I)中のXが表すNRにおいて、Rの炭化水素基若しくはRの陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基、又はRの陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基の分子量が大きすぎると、血液浄化材料の表面が疎水性となりサイトカインの吸着を阻害することから、Rの炭化水素基又はRの陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基と、Rの陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基の分子量の合計は800以下であることが好ましい。
【0049】
また、陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基において、炭化水素基の炭素原子数は30以下が好ましく、8以下がより好ましい。
【0050】
一般式(I)中のXが表すNRにおいて、R又はRの陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基に含まれる官能基はアミノ基であることが好ましい。官能基がアミノ基である場合、アミノ基の数が多いと、白血球及び血小板の吸着を阻害してしまうことから、RとRの陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基に含まれるアミノ基の数の合計は1~20であることが好ましい。ここで、アミノ基とは、1~4級アミンに由来するアミノ基のいずれかを意味する。
【0051】
陽性荷電を有する官能基がアミノ基である場合、R又はRの陽性荷電を示す官能基を有する炭化水素基は以下の一般式(II)で表される構造であることが好ましい。
【0052】
【化3】
【0053】
一般式(II)中、Rは炭化水素基、Rはアミノ基を有する炭化水素基を表し、l、m及びnはそれぞれ独立して0~15の整数であり、l、m及びnの和は15以下である。波線は、一般式(I)中のXが表すNRにおいて、Nとの結合部位を表す。
【0054】
炭化水素基の炭素数が多すぎると、血液浄化材料の表面が疎水性となりサイトカインの吸着を阻害することから、Rの炭化水素基及びRのアミノ基を有する炭化水素基の炭素数は、それぞれ1~20であることが好ましく、1~10であることがより好ましい。Rの炭化水素基及びRのアミノ基を有する炭化水素基の炭素数の和は、1~20であることが好ましく、1~10であることがより好ましい。また、各構造単位はランダムに配置されていてもよく、繰り返し単位中のR及びRはそれぞれ異なる構造でもよい。
【0055】
なかでも、一般式(I)中のXが表すNRにおいて、Rが水素原子又は一般式(II)の構造、Rが一般式(II)の構造であることが好ましい。
【0056】
が水素原子又は一般式(II)の構造、Rを一般式(II)の構造とするには、例えば、エチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、N-エチルジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン又は直鎖状若しくは分岐状のポリエチレンイミンを、後述する方法でポリアリレート末端のカルボキシル基に縮合して結合させる方法が挙げられる。
【0057】
血液浄化材料の作製方法に特に制限はないが、血液浄化材料の力学的強度維持の観点から、ポリアリレートの末端とリガンドとが結合していることが好ましい。特に、最表面のポリアリレートを部分的に加水分解することで生じたポリアリレート末端のカルボキシル基に、アミノ基を有する化合物を縮合して結合させる方法が挙げられる。
【0058】
最表面のポリアリレートを加水分解する方法に特に制限はないが、硫酸などの酸触媒を用いる方法や水酸化ナトリウム水溶液などの塩基触媒を用いる方法が好ましい。加水分解が進みすぎると血液浄化材料の力学的強度が下がり構造が保てなくなることから、酸触媒として、硫酸を用いる場合、硫酸濃度は3mol/L以下であることが好ましく、塩基触媒として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、水酸化ナトリウム濃度は3mol/L以下であることが好ましい。
【0059】
本発明の血液浄化材料の形態は、繊維、ビーズ、不織布、編地、織地、中空糸などから任意に選択して構わない。体外循環において血液流路が狭いと血液が滞留し、凝固する危険性が高いため、血液流路の確保が容易であるビーズ、編地、織地が好ましい。
【実施例0060】
以下、本発明の血液浄化材料について、実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0061】
<白血球除去性能及び血小板除去性能の測定>
上下に液体の出入り口のある円筒状カラム(内径1.0cm×高さ2.5cm、内容積1.96cm、外径2cm、ポリカーボネート製)に、表面積が48cmとなるように血液浄化材料を充填した。リポポリサッカライドを70EU/mLとなるように添加した健常ヒト血液を37℃、30分間、65rpmで振盪し、血球を活性化させた後、上記カラムに流量0.18mL/分で上記血液を通液し、カラムの入口側及び出口側で血液の採取を行った。カラム入口側の血液は、カラム内に血液が流入した時点で採取した。カラムの出口側の血液は、カラム内に血液が流入した時点を0分とし、血液が流入した時点から30~33分を経過する間にカラムの出口から流出した血液を採取した。採取した各血液を、血球計算機(シスメックス株式会社;多項目自動血球分析装置 XT-1800i)で測定し、白血球及び血小板の濃度を算出した。白血球除去率を式(1)、血小板除去率を式(2)から求め、小数点第1位を四捨五入した値を用いた。
【0062】
白血球除去率(%)={(カラム入口側の白血球の濃度)-(カラム出口側の白血球の濃度)}/(カラム入口側の白血球の濃度)×100 ・・・式(1)
血小板除去率(%)={(カラム入口側の血小板の濃度)-(カラム出口側の血小板の濃度)}/(カラム入口側の血小板の濃度)×100 ・・・式(2)
<サイトカイン除去性能の測定>
血液浄化材料をポリプロピレン製の容器に入れた。この容器に、IL-8又はIL-6の濃度が2000pg/mLとなるように調製したFBS30mLを、IL-8の濃度の測定の際は表面積8.1cmの血液浄化材料に対して、IL-6濃度の測定の際は表面積81cmの血液浄化材料に対して添加し、37℃のインキュベータ内で24時間転倒混和した後、ELISA法にてFBS中のIL-8濃度又はIL-6濃度を測定した。IL-8濃度の測定にはHuman CXCL8/IL-8 Quantikine ELISA Kit(R&D System社製)を使用し、IL-6濃度の測定にはHuman IL-6 Quantikine ELISA Kit(R&D Systems社製)を使用した。転倒混和前のIL-8濃度から式(3)によりIL-8除去率を求め、小数点第1位を四捨五入した値を用いた。転倒混和前のIL-6濃度から式(4)によりIL-6除去率を求め、小数点第1位を四捨五入した値を用いた。
【0063】
IL-8除去率(%)={転倒混和前のIL-8濃度(pg/mL)-転倒混和後のIL-8濃度(pg/mL)}/転倒混和前のIL-8濃度(pg/mL)×100 ・・・式(3)
IL-6除去率(%)={転倒混和前のIL-6濃度(pg/mL)-転倒混和後のIL-6濃度(pg/mL)}/転倒混和前のIL-6濃度(pg/mL)×100 ・・・式(4)
<陽性荷電量の測定>
表面積6.5cmの血液浄化材料に対して、アシッドオレンジ7の濃度が0.2mg/mLとなるように調製した0.1mol/L酢酸緩衝液を1mL添加し、25℃で1時間、ローテータで旋回混和した。0.1mol/L酢酸緩衝液で血液浄化材料を洗浄した後、1mmolL/L水酸化ナトリウム水溶液を血液浄化材料に1mL添加し、25℃で10分間、ローテータで旋回混和することで、血液浄化材料に付着したアシッドオレンジ7を抽出した抽出液を得た。抽出液の波長482nmの吸光度をマイクロプレートリーダー Spectra Max M5(Molecular Devices社製)で測定し、抽出液中のアシッドオレンジ7の濃度を求めた。得られたアシッドオレンジ7の濃度から下記式(5)により表面の陽性荷電量を求め、小数点第2位を四捨五入した値を用いた。
【0064】
陽性荷電量(mmol/m)=アシッドオレンジ7の濃度(mmol/L)×抽出液量(L)/血液浄化材料表面積(m) ・・・式(5)
[実施例1]
イムノピュア(登録商標;日機装株式会社製)を解体し、ビーズを取り出し、血液浄化材料Aを得た。ビーズの直径は1mmであった。血液浄化材料A0.1gを0.05mol/Lの水酸化トリウム水溶液30mLに入れ、25℃にて、スターラーで2時間攪拌し、加水分解反応を行った。反応後は、蒸留水で中性になるまで、洗浄し、血液浄化材料Bを得た。
【0065】
テトラエチレンペンタミン(以下「TEPA」という)をメタノールに1.0質量%となるように溶解した。4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(以下「DMT-MM」という)をメタノールに2質量%となるように調製した。蒸留水中の血液浄化材料B0.1gをメタノールで置換した後、2質量%DMT-MM溶液16mLに血液浄化材料Bを入れ、25℃にて、スターラーで10分間攪拌した。次に、血液浄化材料Bの入ったDMT-MM溶液に、1.0質量%のTEPA溶液を16mL添加し、25℃にて、スターラーで1時間攪拌し、反応させた。反応後は、メタノール30mLで3回洗浄した後、蒸留水で中性になるまで、洗浄し、血液浄化材料Cを得た。血液浄化材料Cの白血球除去性能、血小板除去性能、サイトカイン除去性能及び陽性荷電量の測定結果を表1に示す。
【0066】
[実施例2]
TEPAをメタノールに5.0質量%となるように溶解した以外は、実施例1と同操作を行い、血液浄化材料Dを得た。血液浄化材料Dの白血球除去性能、血小板除去性能、サイトカイン除去性能及び陽性荷電量の測定結果を表1に示す。
【0067】
[実施例3]
TEPAをメタノールに10.0質量%となるように溶解した以外は、実施例1と同操作を行い、血液浄化材料Eを得た。血液浄化材料Eの白血球除去性能、血小板除去性能、サイトカイン除去性能及び陽性荷電量の測定結果を表1に示す。
【0068】
[実施例4]
平均分子量600の分岐状ポリエチレンイミン(以下「PEI」という)をメタノールに10質量%となるように溶解した。DMT-MMをメタノールに2質量%となるように調製した。蒸留水中の血液浄化材料B0.1gをメタノールで置換した後、2質量%DMT-MM溶液16mLに血液浄化材料Bを入れ、25℃にて、スターラーで10分間攪拌した。次に、血液浄化材料Bの入ったDMT-MM溶液に、10質量%のPEI溶液を16mL添加し、25℃にて、スターラーで1時間攪拌し、反応させた。反応後は、メタノール30mLで3回洗浄した後、蒸留水で中性になるまで、洗浄することで、血液浄化材料Fを得た。血液浄化材料Fの白血球除去性能、血小板除去性能、サイトカイン除去性能及び陽性荷電量の測定結果を表1に示す。
【0069】
[比較例1]
血液浄化材料Aの白血球除去性能、血小板除去性能、サイトカイン除去性能及び陽性荷電量の測定結果を表1に示す。
【0070】
[比較例2]
TEPAをメタノールに0.25質量%となるように溶解した以外は、実施例1と同操作を行い、血液浄化材料Gを得た。血液浄化材料Gの白血球除去性能、血小板除去性能、サイトカイン除去性能及び陽性荷電量の測定結果を表1に示す。
【0071】
[比較例3]
分岐状PEIの平均分子量を600から800に変更する以外は実施例4と同操作を行い、血液浄化材料Hを得た。血液浄化材料Hの白血球除去性能、血小板除去性能、サイトカイン除去性能及び陽性荷電量の測定結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1の結果から、陽性荷電量が1.0~40.0mmol/mである血液浄化材料は、白血球、血小板及びサイトカイン除去性能に優れ、一括除去可能なことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の血液浄化材料は、体外循環において、血中から白血球、血小板及びサイトカイン等を一括除去することができるため、炎症性疾患、特にクローン病や潰瘍性大腸炎治療用の体外循環カラムとして利用できる。