(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051374
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240404BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240404BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240404BHJP
C08G 59/24 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
C08K3/04
C08L63/00 C
C08G59/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157511
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉本 篤希
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB22
4F072AC05
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4F072AD26
4F072AD27
4F072AD28
4F072AD31
4F072AD44
4F072AD46
4F072AF01
4F072AF28
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH04
4F072AH44
4F072AH48
4F072AJ04
4F072AJ22
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL04
4J002CD021
4J002CD041
4J002CD052
4J002CD132
4J002DA037
4J002EN076
4J002EV216
4J002FD017
4J002FD146
4J002GC00
4J002GN00
4J036AA00
4J036AA05
4J036AC01
4J036AC11
4J036BA02
4J036CA26
4J036DA01
4J036DB02
4J036DB05
4J036DB11
4J036DB16
4J036DC10
4J036GA29
4J036HA12
4J036JA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】撚り数の多有撚糸を解撚して一方向プリプレグ化した場合でも、プリプレグの反りを効果的に抑制することで積層作業性を維持できる手法を提供する。
【解決手段】下記構成要素[A]~[D]を含み、かつ条件[a]から[d]を満たすプリプレグ。
[A]炭素繊維
[B]芳香環あるいは脂環を有するエポキシ樹脂
[C][B]の硬化剤
[D]導電性の固形成分
[a]X線光電子分光法により測定される[A]の表面酸素濃度O/Cが0.10以下である。
[b]180℃2時間の条件で硬化した際に、構成要素[B]、[C]を含む樹脂組成物の硬化物が偏光顕微鏡観察で干渉模様を示す。
[c]180℃2時間の条件で硬化した際に、構成要素[B]、[C]を含む樹脂組成物の硬化物が広角X線回折によって観察される2θ=1.0~6.0°にピークを持たない。
[d]プリプレグ上表面および下表面に存在する、不溶性の固形成分の量が8.0g/m2以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構成要素[A]~[D]を含み、かつ条件[a]から[d]を満たすプリプレグ。
[A]:炭素繊維
[B]:一般式(1)で示される構造を有するエポキシ樹脂
【化1】
一般式(1)中R
1、R
2はそれぞれ炭素数1~6のアルキレン基を示す。一般式(1)中Q
1、Q
2、Q
3はそれぞれ群(I)より選択される1種の構造である。群(I)中のZは各々独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。Y
1、Y
2、Y
3は、それぞれ単結合もしくは群(II)から1つ選択される。
【化2】
【化3】
[C]:[B]の硬化剤
[D]:導電性の固形成分
[a]:X線光電子分光法により測定される[A]の表面酸素濃度O/Cが0.10以下である。
[b]:180℃2時間の条件で硬化した際に、構成要素[B]、[C]を含む樹脂組成物の硬化物が偏光顕微鏡観察で干渉模様を示す。
[c]:180℃2時間の条件で硬化した際に、構成要素[B]、[C]を含む樹脂組成物の硬化物が広角X線回折によって観察される2θ=1.0~6.0°にピークを持たない。
[d]:プリプレグ上表面および下表面に存在する、不溶性の固形成分の量が8.0g/m
2以下である。
【請求項2】
構成要素[D]がカーボン粒子である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
構成要素[D]の平均粒子径が20μm以上45μm以下の範囲である、請求項2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記不溶性の固形成分のうち、熱可塑性樹脂粒子の量が6.0g/m2以下である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項5】
構成要素[B]以外のエポキシ樹脂を含み、エポキシ樹脂の総量100質量部に対して、構成要素[B]を80質量部以上89質量部以下の範囲で含み、構成要素[B]以外のエポキシ樹脂を11質量部以上20質量部以下の範囲で含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項6】
構成要素[B]が、前記一般式(1)で示される構造を有するエポキシ樹脂の一部が重合したプレポリマーを含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項7】
請求項1のプリプレグを硬化させて得られる炭素繊維強化複合材料。
【請求項8】
隣接する炭素繊維層間に配置された層間樹脂層の平均厚みが22μm以下である、請求項7に記載の炭素繊維複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐衝撃性と導電性を兼ね備えた炭素繊維強化複合材料(以下、CFRP)が得られるプリプレグ、およびCFRPに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維(以下、CF)、ガラス繊維などの強化繊維と、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性に優れているため、航空機、自動車、スポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に、高性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れたCFが、そしてマトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でもCFとの接着性に優れたエポキシ樹脂が多く用いられている。
【0003】
CFRPは、CFとマトリックス樹脂を必須の構成要素とする不均一材料であり、CFの配列方向の物性とそれ以外の方向の物性に大きな差が存在する。例えば、CF層間破壊の進行し難さを示す層間靱性は、CFの強度を向上させるのみでは、抜本的な改良に結びつかないことが知られている。特に、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とするCFRPは、マトリックス樹脂の低い靭性を反映し、CFの配列方向以外からの応力に対し、破壊され易い性質を持っている。そのため、航空機構造材のように高い強度と信頼性を必要とする用途に向けては、繊維方向強度を確保しつつ、層間靭性を始めとするCFの配列方向以外からの応力に対応することができる複合材料物性の改良を目的に、種々の技術が提案されている。
【0004】
その中の一つの技術として、プリプレグの表面領域に樹脂粒子を分散させた樹脂層を設けたプリプレグが提案されている。例えば、ポリアミド等の熱可塑性樹脂からなる粒子をプリプレグの表面領域に分散させた樹脂層を設けたプリプレグを用いて、耐熱性の良好な高靭性複合材料を与える技術が提案されている(特許文献1参照)。また、それと別に、ポリスルフォンオリゴマー添加により靭性が改良されたマトリックス樹脂と熱硬化性樹脂からなる粒子との組み合わせによって、複合材料に高度の靭性を発現させる技術が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
ところが、このような技術は、CFRPに高度な耐衝撃性を与える一方で、繊維層の間に絶縁層となる樹脂層を一定範囲の厚みで生じさせることになる。そのため、CFRPの特徴の一つである導電性のうち、厚み方向の導電性が著しく低下するという欠点があり、CFRPにおいて優れた耐衝撃性と導電性を両立することは困難であった。かかる層間の導電率を向上させる材料設計が数多く提案されており、中でも特許文献3、4に示されているように、繊維配向角度が異なるCFシート間に導電粒子を配置する手法は、CFRPの厚さ方向の導電率の向上効果が大きい。
【0006】
特許文献3では、繊維配向角度の異なるCFシート間にカーボン粒子を配置する技術が開示されている。特許文献4も、繊維配向角度の異なるCFシート間にカーボン粒子を配置する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5028478号公報
【特許文献2】特開平3-26750号公報
【特許文献3】国際公開第2008/018421号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2011/027160号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、CFRPを航空機構造部材として用いることを想定した場合、近年ますます導電性の要求レベルは高くなっており、導電性に関する課題は解決されたわけではない。具体的には、特許文献3では、実施例に示されたCFRPの厚さ方向の体積固有抵抗値は2.0×103Ωcm以上(導電率0.05S/m以下)と、十分な導電性を得られていない。また、その実施例を参照すると、カーボン粒子の量を増やすことで初めて、CFRPの厚さ方向の体積固有抵抗値が下がり、導電率が向上する技術と解される。特許文献4では、導電性向上のためには、CFシート間に配置する導電粒子の量を増やすことが有効であることが示されているが、高い導電性の要求を達成するためには、導電粒子を大量添加する必要があった。加えて、特許文献3、4で用いられる導電粒子などの導電材は、一般に高価であり、添加量を減らすことが好ましい。このように、導電粒子の添加量低減と、導電性向上は、二律背反である。
【0009】
本発明の課題は、高価な導電材量の大量配合に依存せずとも、高い導電性の要求レベルを満足するとともに、優れた耐衝撃性を有するCFRPを得ることができるプリプレグを提供することである。言い換えると、従来技術より少ない量の導電材を使用した場合にも、高い導電性に達しながら耐衝撃性を発現するプリプレグを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明のプリプレグは、次の1~6の構成を有するものである。
1. 下記構成要素[A]~[D]を含み、かつ条件[a]から[d]を満たすプリプレグ。
[A]:炭素繊維
[B]:一般式(1)で示される構造を有するエポキシ樹脂
【0011】
【0012】
一般式(1)中R1、R2はそれぞれ炭素数1~6のアルキレン基を示す。一般式(1)中Q1、Q2、Q3はそれぞれ群(I)より選択される1種の構造である。群(I)中のZは各々独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0~4の整数を示す。Y1、Y2、Y3は、それぞれ単結合もしくは群(II)から1つ選択される。
【0013】
【0014】
【0015】
[C]:[B]の硬化剤
[D]:導電性の固形成分
[a]:X線光電子分光法により測定される[A]の表面酸素濃度O/Cが0.10以下である。
[b]:180℃2時間の条件で硬化した際に、構成要素[B]、[C]を含む樹脂組成物の硬化物が偏光顕微鏡観察で干渉模様を示す。
[c]:180℃2時間の条件で硬化した際に、構成要素[B]、[C]を含む樹脂組成物の硬化物が広角X線回折によって観察される2θ=1.0~6.0°にピークを持たない。
[d]:プリプレグ上表面および下表面に存在する、不溶性の固形成分の量が8.0g/m2以下である。
2. 構成要素[D]がカーボン粒子である、上記1に記載のプリプレグ。
3. 構成要素[D]の平均粒子径が20μm以上45μm以下の範囲である、上記2に記載のプリプレグ。
4. 前記不溶性の固形成分のうち、熱可塑性樹脂粒子の量が6.0g/m2以下である、上記1~3のいずれかに記載のプリプレグ。
5. 構成要素[B]以外のエポキシ樹脂を含み、エポキシ樹脂の総量100質量部に対して、構成要素[B]を80質量部以上89質量部以下の範囲で含み、構成要素[B]以外のエポキシ樹脂を11質量部以上20質量部以下の範囲で含む、上記1~4のいずれかに記載のプリプレグ。
6. 構成要素[B]が、前記一般式(1)で示される構造を有するエポキシ樹脂の一部が重合したプレポリマーを含む、上記1~5のいずれかに記載のプリプレグ。
【0016】
また、本発明に係るCFRPは、次の7~8の構成を有するものである。
7. 上記1~6のいずれかに記載のプリプレグを硬化させて得られる炭素繊維強化複合材料。
8. 隣接する炭素繊維層間に配置された層間樹脂層の平均厚みが22μm以下である、上記7に記載の炭素繊維複合材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた耐衝撃性と導電性を兼ね備えたプリプレグおよびCFRPが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、CF、エポキシ樹脂組成物、導電性の固形成分を含むCFRPの力学物性および厚み方向の導電性メカニズムを鋭利検討した。その結果、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂組成物の硬化物(以下、樹脂硬化物)が液晶構造としてネマチック構造を形成することで、従来技術において重要視されてきた、厚い層間樹脂層を複数のプリプレグの層間に形成させなくとも、優れた耐衝撃性を発現することを見出し、それにより、プリプレグ積層体の構成上、厚み方向に対して垂直に配置された絶縁層として機能していた層間樹脂層の大幅な薄層化が可能となり、従来技術よりも少ない量の導電性材料の添加により、耐衝撃性と導電性とを高度に兼ね備えたCFRPを得られることの知見に到った。
【0019】
構成要素[A]であるCFの形態や配列については限定されないが、耐久性の観点から一方向に引き揃えられた長繊維、織物等連続繊維の形態がより好ましい。2種類以上のCFや、ガラス繊維などの他の強化繊維と組み合わせて用いても構わない。CFとしては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等のCFが挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系のCFが好ましく用いられる。
【0020】
構成要素[A]は、CFRPの力学物性と導電性の観点から、条件[a]として、X線光電子分光法で測定した全炭素原子と全酸素原子との原子数の比、すなわちCF表面酸素濃度である[O/C]が0.10以下であり、0.095以下が好ましく、0.092以下がより好ましい。上記[O/C]は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。まず、溶剤でCF表面に付着している汚れなどを除去したCFを20mmの長さにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10-8Torrに保ち、光電子脱出角度90°で測定する。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282~296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528~540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。[O/C]は、上記O1sピーク面積のC1sピーク面積に対する比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA-1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。特開2013-067750号公報の段落[0126]には、硫酸水溶液で電気処理することで[O/C]を0.10以下とできることが記載されている。[O/C]が0.10より大きい場合には、CF表面とマトリックス樹脂との接着性の観点で利点はあるが、CF同士の接触抵抗が大きくなるため要求される導電率を発現させることが非常に困難になる。[O/C]の下限値としては、CF表面とマトリックス樹脂との接着性の観点から0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。
【0021】
また、本発明で用いるCFは、引張弾性率が200~440GPaの範囲であることが好ましい。この範囲であるとCFRPに剛性、強度のすべてが高いレベルでバランスするために好ましい。
【0022】
本発明のCFの引張伸度は、0.8~3.0%の範囲であることが好ましい。CFの引張伸度が0.8%より低いと、CFRPとしたときに十分な引張強度や耐衝撃性を発現できない場合がある。また、引張伸度が3.0%を超えると、CFの引張弾性率は低下する傾向にある。より好ましくは、CFの引張伸度は、1.0~2.5%であり、さらに好ましくは1.2~2.3%である。ここで、CFの引張伸度は、JIS R7601(2006)に従い測定された値である。
【0023】
本発明において用いられるCFは、プリプレグにおいて、通常、繊維束として存在しており、一つの繊維束中のフィラメント数が2500~50000本の範囲であることが好ましい。フィラメント数が2500本を下回ると、繊維配列が蛇行しやすく強度低下の原因となりやすい。また、フィラメント数が50000本を上回ると、プリプレグ作製時あるいは成形時に樹脂含浸が難しいことがある。フィラメント数は、より好ましくは2800~40000本の範囲である。
【0024】
本発明のCFは、サイジング剤が塗布されることが好ましい。かかるサイジング剤塗布CFとすることで、CFのハンドリング性に優れるとともに、CFとマトリックス樹脂の界面接着性に優れ、CFRP用途として好適なものとなる。
【0025】
本発明において、サイジング剤はエポキシ樹脂化合物を含むことが好ましい。サイジング剤に含まれるエポキシ化合物としては、例えば脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物があり、これらを単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0026】
CFの市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800S-24K、“トレカ(登録商標)”T700S-24K、(以上東レ(株)製)などが挙げられる。
【0027】
前記したように、本発明のCFRPにおいては、構成要素[B]、[C]を含むエポキシ樹脂硬化物がネマチック構造を形成することで、分厚い層間樹脂層(絶縁層)を形成しなくとも、高い耐衝撃性が発現するというところにまず特徴がある。これは、構成要素[B]、[C]を含むエポキシ樹脂硬化物の樹脂靭性が、一般的なエポキシ樹脂硬化物と比較して顕著に高いことに起因するが、構造的には、本発明のエポキシ樹脂硬化物中にネマチック構造を形成することで、CFRP内にクラックが進展する際、ネマチック構造を崩すのにエネルギーを多く必要とするためと考えられる。一方、本発明のCFRPは、条件[c]により示されるように、液晶構造のうちスメクチック構造が含まれることがない、という重要な特徴を有する。スメクチック構造は、ネマチック構造よりも高次構造に位置づけられる液晶構造であり、その規則正しさからネマチック構造よりも樹脂の靭性が高いことが知られている。しかしながら、発明者が鋭利検討した結果、スメクチック構造を形成した部分のマトリックス樹脂自体の靭性は確かにネマチック構造に対して向上するが、CFRPにおいて、導電性発現に有利な電解処理をしたCFとの接着性が非常に悪く、スメクチック構造が含まれるとその部分が破壊の起点となり、耐衝撃性は乏しい結果となることが分かった。ネマチック構造とスメクチック構造の本発明に係るCF表面との接着性の差は、CFRPの形成過程にて、ゲル化前のマトリックス樹脂の状態に大きく影響していることが推定できる。スメクチック構造を形成するためには、ゲル化前の樹脂状態としてある程度分子は規則正しく配列している必要があるが、かかる高度な規則性を有する配列状態にあると、本発明に係るCF表面との十分な反応が困難となることが考えられる。一方、ネマチック構造の場合には、ゲル化前のマトリックス樹脂の状態として分子は等方状態に近しい状態であるため、本発明に係るCF表面と反応でき、接着性が向上するとともに、硬化進行に伴うネマチック構造形成により高い樹脂靭性が発現できると推定される。
【0028】
また、構成要素[B]、[C]を含むエポキシ樹脂硬化物中にスメクチック構造を含まないことで、CFRPの有孔板圧縮強度(以降、OHC)がより向上するので、この観点でも有利である。航空機構造材用途として用いる場合、CFRPにボルト穴を設けることが多いので、OHCは重要となる。ネマチック構造を有することによる高いOHC発現のメカニズムを考察すると、プリプレグ中のCF近傍に存在するエポキシ樹脂組成物は、プリプレグを硬化物としたとき、その弾性率は、スメクチック構造よりもネマチック構造の方が高いため、繊維の座屈を防ぐことができるためと推察できる。弾性率に差が生じる理由としては、スメクチック構造の場合、分子同士のパッキングが極端に密な部分と疎な部分が形成される一方で、ネマチック構造の場合には、均等に密な部分となることに起因していると考えられる。
【0029】
加えて、スメクチック構造を有する場合には密に分子がパッキングしていない部分を含み、この部分の耐熱性が低いため、耐熱性の観点でもネマチック構造に対して不利である。
【0030】
本発明のプリプレグが充足する条件[b]および[c]は、本発明のCFRP中にネマチック構造が形成され、スメクチック構造を含有しない状態を示している。ネマチック構造、スメクチック構造どちらの液晶構造にも共通して分子は規則配列しているため、クロスニコルの状態にした偏光顕微鏡を用いて観察することにより、これら2つのどちらかの液晶構造の状態もしくは等方状態かを判別できる。液晶構造形成をしていない等方状態の場合には干渉模様は観察されない一方で、液晶構造であるネマチック構造、スメクチック構造の場合には干渉模様が観察される。具体的に観察される干渉模様の種類としては、バトネ組織、フォーカルコニックファン組織、オイリーストリーク組織、シュリーレン組織といったものが挙げられる。この等方状態ではなく、ネマチック構造かスメクチック構造のどちらかを形成していることを示す条件が、条件[b]である。
【0031】
次に、スメクチック構造を含まないという要件が、条件[c]に該当する。スメクチック構造を形成している場合には、X線回折において一般的には回折角度2θ≦6.0°の領域にピークが観測される。この範囲のピークの有無により、スメクチック構造の有無を確認することができる。スメクチック構造の周期は、構成要素[B]の分子骨格内にもつメソゲン構造に基づくため、X線回折によって観測されるピークの回折角度2θは、1.0~6.0°であり、2.0~4.0°の範囲に見られることが多い。このピークが観察されなければ、スメクチック構造を含有していないと判断できる。
【0032】
具体的な回折ピークの確認手法を以下に説明する。プリプレグを同一方向に6プライ積層したプリプレグ積層体を180℃で2時間保持、180℃までの昇温速度1.5℃/分の条件で硬化させる。得られたCFRPから長さ20mm、幅10mmの矩形の測定試料を切り出し、広角X線回折装置を用いて、次の条件により測定を行う。
・X線源:CuKα線(管電圧45kV、管電流40mA)
・検出器:ゴニオメーター+モノクロメーター+シンチレーションカウンター
・走査範囲:2θ=1~90°
・走査モード:ステップスキャン、ステップ単位0.1°、計数時間40秒。
【0033】
X線回折の測定において、樹脂硬化物中におけるスメクチック構造は、その周期方向(スメクチック層の層法線方向)が、構成要素[A]のCFの方向に対していずれの方向をも向いて形成されている可能性があるが、CFに方向性があり、その方向軸に対して垂直な方向のみ周期構造を有する場合、CF由来の強いピークにより、X線回折では樹脂組成物由来のピークが観測できないことがある。その場合、CFRP内のCF軸に対して平行(0°)、垂直(90°)、45°などあらゆる角度に対してX線回折を実施したり、CFを除いた樹脂組成物の硬化板を入手できれば、かかる硬化板を対象として同様にX線回折測定を実施することで、上記回折ピークの有無(周期構造の有無)の確認ができる。別の確認手法としては、放射光の利用も考えられ、CF由来のピークと分離することが可能となるため有効である。CFRPを対象とした場合にも、ビーム径を数μm程度まで絞りこむことにより、構成要素[A]を対象外とした、構成要素[B]、[C]を含む樹脂硬化物のみの測定が可能となり、スメクチック構造形成の有無を確認することが可能となる。
【0034】
本発明における構成要素[B]は、本発明のプリプレグを硬化させて得られたCFRP中のエポキシ樹脂硬化物が上記したネマチック構造を形成するために必要な要素であり、下記一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂である。下記構造を有するエポキシ樹脂の1種類を単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0035】
【0036】
一般式(1)中のR1、R2はそれぞれ炭素数1~6のアルキレン基を示す。一般式(1)中、Q1、Q2、Q3はそれぞれ群(I)より選択される1種の構造である。Q1、Q2、Q3がベンゼン環を含むと、構成要素[B]の構造が剛直になるため高次構造を形成し易くなり、靱性向上に有利となるため好ましい。また、Q1、Q2、Q3が脂環式炭化水素を含むと、軟化点が低くなりハンドリング性が向上するため、別の観点から好ましい態様となる。
【0037】
【0038】
群(I)において、Zは各々独立に、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数1~8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は塩素原子であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることが更に好ましい。
【0039】
群(I)におけるnは、各々独立に0~4の整数を示す。nは、各々独立に、0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。
【0040】
一般式(1)中、Y1、Y2、Y3は、それぞれ単結合、もしくは群(II)より1つ選択される構造である。なお、例えばY1が単結合の場合、一般式(1)においてその両横の構造、この場合Q1、Q2の両方の六員環が直接に単結合する。Y2,Y3が単結合の場合も同様である。
【0041】
【0042】
構成要素[B]は公知の方法により製造することができ、特許第4619770号公報、特開2005-206814、特開2010-241797、特開2011-98952号公報、特開2011-74366号公報、WO2020/194601、Journal of Polymer Science: Part A:Polymer Chemistry,Vol.42,3631(2004)等に記載の製造方法を参照することができる。
【0043】
構成要素[B]の具体例としては、1-(3-メチル-4-オキシラニルメトキシフェニル)-4-(4-オキシラニルメトキシフェニル)-1-シクロヘキセン、1-(4-オキシラニルメトキシフェニル)-4-(4-オキシラニルメトキシフェニル)-1-シクロヘキセン、2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート、4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル=4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3-メチルベンゾエートが挙げられる。
【0044】
構成要素[B]は、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂の一部が硬化剤等により重合したプレポリマーを含んでもよい。一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂は一般に結晶化し易く、CFに含浸させるためには高温を必要とするものが多い。構成要素[B]として上記プレポリマーを含むことは、結晶化が抑制される傾向となるためハンドリング性が良くなることから、好ましい態様である。構成要素[B]がプレポリマーを含む場合、その含有量は、構成要素[B]に含まれるプレポリマーおよび一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂の合計100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは5~60質量部の範囲である。GPC(Gel Permeation Chromatography;ゲル浸透クロマトグラフィー)あるいはHPLC(High performance Liquid chromatography)測定における全エポキシ樹脂由来ピークの面積に占めるプレポリマー由来のピーク面積の割合(プレポリマー由来のピーク面積/全エポキシ樹脂由来のピーク面積)は、好ましくは0.80以下であり、より好ましくは0.05~0.60の範囲である。
【0045】
上記プレポリマーを得るために、一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂を部分的に重合する方法としては、製造するプレポリマーの分子量を制御し易いことから、プレポリマー化剤を用いた方法が好ましい。プレポリマーの分子量は、大き過ぎると、CFRP内の樹脂の架橋密度が下がり、耐熱性や力学特性を損なう恐れがある。プレポリマーの数平均分子量としては15000以下であることが好ましく、10000以下であることが好ましく、350~5000であることがさらに好ましい。ここで、数平均分子量は、GPCにより、標準ポリスチレンを用いた換算分子量を示す。
【0046】
上記プレポリマー化剤としては、エポキシ樹脂と反応可能な活性水素を2~4個有する化合物であれば特に限定されない。例えば、フェノール化合物、アミン化合物、酸無水物、カルボン酸が挙げられる。ここで、活性水素とは、有機化合物において窒素、酸素、硫黄と結合していて、反応性の高い水素原子をいう。
【0047】
フェノール化合物、カルボン酸化合物の中でも、ベンゼン環を1~2個有する化合物は、プレポリマー化したエポキシ樹脂の構造が剛直になるため高次構造形成し易くなり、靱性向上する傾向があることに加えて、プレポリマー、および一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂を含む構成要素[B]、構成要素[C]および[D]を含むエポキシ樹脂組成物の粘度を低く抑えることができ、ハンドリング性が良くなるため好適である。
【0048】
この中でも、2~3個の活性水素を有するフェノール化合物が挙げられ、その例としては、例えば、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのフェノール化合物は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0049】
また、2個の活性水素を有するカルボン酸化合物も好適に挙げられ、その例としては、ベンゼンヒドロキシカルボン酸、ベンゼンジカルボン酸、ナフタレンヒドロキシカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物が挙げられる。良好な破壊靱性及び溶融粘度の観点からは、ベンゼンヒドロキシカルボン酸およびナフタレンヒドロキシカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つが好ましく、高靱性の観点からはベンゼンジカルボン酸が好ましい。ベンゼンジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0050】
また、耐熱性の観点からは、芳香族ヒドロキシカルボン酸化合物や芳香族ジカルボン酸化合物は、フェノール化合物と比較してより好ましい。
【0051】
本発明における構成要素[B]は、硬化剤なしで液晶構造を形成するものが好ましい。特に、取扱性および硬化反応過程に伴うネマチック構造形成の観点から、少なくとも50℃から200℃の温度範囲においてネマチック構造であることが好ましい。上記した構成要素[B]、[C]を含む樹脂組成物の硬化物中にスメクチック構造を含まず、ネマチック構造を形成させるために好ましい要件として、構成要素[B]を含むエポキシ樹脂(硬化剤は含まない)は、液晶相を形成し、ネマチック相-等方相相転移温度(以下、相転移温度)が170℃以上190℃以下であることが好ましい。この相転移温度は、窒素雰囲気下での示差走査熱量分析において、昇温速度を10℃/分として50℃から300℃まで昇温した際に見られる吸熱ピークの頂点温度のことを指し、この吸熱ピークがネマチック相から等方相への相転移由来であることは、吸熱ピークの頂点温度の近傍で、別途偏光顕微鏡観察をした際、そのピークを境に液晶由来の干渉模様が消失することから確認できる。上記相転移温度が190℃よりも高い場合には硬化進行に伴い液晶形成する能力が過度に高く、硬化物中にスメクチック構造を含有する可能性が高くなる。一方、相転移温度が170℃より低い場合には硬化進行に伴う液晶形成する能力が低く、硬化物中に含まれるネマチック構造の割合が減少してしまい、マトリックス樹脂の樹脂靭性が低下することで高い耐衝撃性を発現しなくなる。
【0052】
また、樹脂の取り扱い性、硬化反応過程における液晶形成の観点からは、構成要素[B]を含むエポキシ樹脂(硬化剤を含まない)が、より低い温度域までネマチック相を形成している方が好ましい。具体的には、25℃においてもスメクチック相ではなく、ネマチック相を形成している方が好ましい。この理由は、未硬化の樹脂組成物について低温域でスメクチック相を形成する場合には、高温域における硬化進行に伴いスメクチック構造を形成しやすい特徴があるとともに、未硬化の樹脂組成物としてスメクチック相を形成していると相転移に伴う急激な粘度変化を有する温度域が存在していることになり、この粘度の急激な変化がプリプレグ作製工程において障害となりうるためである。
【0053】
本発明のプリプレグは、構成要素[B]以外のエポキシ樹脂を含んでも良い。上記した、構成要素[B]を含むエポキシ樹脂の上記相転移温度を170℃以上190℃以下の範囲にするために、構成要素[B]以外のエポキシ樹脂を含む場合には、構成要素[B]をプリプレグ中のエポキシ樹脂全体100質量部に対して80質量部以上89質量部以下の範囲で含み、構成要素[B]以外のエポキシ樹脂をプリプレグ中のエポキシ樹脂全体100質量部に対して11質量部以上20質量部以下の範囲で含むことが好ましい。この範囲であれば、エポキシ樹脂硬化物中にスメクチック構造形成しにくいとともにネマチック構造形成し、加えて、エポキシ樹脂組成物の粘度を下げられることで、取り扱い性が優れるものとなる。
【0054】
本発明における構成要素[C]は、[B]の硬化剤であるが、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物であればこれを用いることができる。良好な耐熱性および弾性率を有する硬化物が得られるという観点で、芳香族アミンが好ましく、中でも、ジアミノジフェニルスルホンは、電子吸引性の官能基を有するため、アミンの求核性が適度に抑制され、樹脂調製工程や、プリプレグ等の中間基材製造工程等での良好なポットライフが得られるため好ましい。さらに、ジアミノジフェニルスルホンは剛直な化学構造を有するため、高い耐熱性および優れた機械特性を有する熱硬化性樹脂硬化物が得られるという特徴がある。加えて、ジアミノジフェニルスルホンは、電子吸引性の官能基を持たない芳香族アミン化合物と比較して硬化反応が遅いため、構成要素[B]、[C]を含むエポキシ樹脂組成物の硬化進行に伴う液晶形成をしやすく、硬化後の樹脂硬化物中に占めるネマチック構造の割合を大きくすることができる。これにより、エポキシ樹脂硬化物は高い樹脂靭性を発現することから、好適である。ジアミノジフェニルスルホンの構造異性体としては、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。また、それらの骨格にメチル基などの置換基をもった構造も挙げられる。市販品としては、例えば、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、および3,3’-DAS(小西化学工業(株)製)が挙げられる。樹脂の弾性率および樹脂靭性の観点からは、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンがより好ましい。
【0055】
構成要素[B]の硬化剤の添加量の最適値は、エポキシ樹脂と硬化剤の種類により異なる。化学量論的にエポキシ樹脂のエポキシ基量に対する構成要素[B]の硬化剤の活性水素量の比を0.8~1.2とすることにより、耐熱性、弾性率が優れる樹脂が得られることが知られ、好ましい態様である。
【0056】
本発明のプリプレグが充足する構成要素[D]導電性の固形成分(以下、導電成分と言うことがある。)について以下に説明する。本発明のプリプレグを用いると、複数のプリプレグを積層した場合において、隣接するCF層の間に存在する層間樹脂層の厚みを薄層化することが可能であり、かかる薄層化された樹脂層に対して導電性の固形成分が配置されることで、その配置された量が少量であっても、積層されたプリプレグ間での導電パスとして機能し、高い導電率を発現する。この際、従来技術に係るプリプレグと比較して、樹脂層を薄くすることが可能であるため、仮に同量の導電性の固形成分を添加した場合にて、導電パスとなる効果が比較的顕著に大きく示され得る。
【0057】
構成要素[D]の導電性の固形成分としては、電気的に良好な導体として振る舞う固形成分であればよく、導体のみからなるものに限定されない。好ましくは、体積固有抵抗が10~10-9Ωcmであり、より好ましくは、1~10-9Ωcmであり、さらに好ましくは、10-1~10-9Ωcmである。体積固有抵抗が高すぎると、CFRPにおいて十分な導電性が得られない場合がある。導電性の固形成分の形態としては、粒子状、シート状、繊維状のものが挙げられるが、粒子状が好ましく、カーボンブラック、カーボン粒子、金属粒子といった無機フィラー等や、ポリアニリン粒子、ポリアセチレン粒子、ポリピロール粒子等の導電性ポリマー粒子を配合することができる。これらの中でもカーボン粒子は高い導電性および安定性を示すことから好ましい。カーボン粒子の平均粒子径としては、8μm以上65μm以下が好ましく、12μm以上60μm以下がより好ましく、20μm以上45μm以下が更に好ましい。カーボン粒子の平均粒子径が8μmより小さい場合には、CF層に樹脂を含浸させる際に繊維層内に流入し、得られたプリプレグを硬化させてなるCFRPの圧縮特性を低下させる恐れがある。一方で、カーボン粒子の平均粒子径が65μmよりも大きいと、繊維の配列を乱すことがあり、破壊の起点となりえるため不利である。カーボン粒子の平均粒子径が12μm以上60μm以下であると、カーボン粒子周辺に存在するCFの体積割合が大きくなり、CF同士の接触確率が高まり、導電性発現に有利である。
【0058】
ここで、構成要素[D]が粒子状である場合の平均粒子径は、構成要素[D]をレーザー顕微鏡(例えば、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK-9510:(株)キーエンス製)にて200倍以上に拡大して観察を行い、任意の50個以上の対象粒子について、その粒子の外接する円の直径を粒径として計測後、平均した値が用いられる。
【0059】
更に、本発明では、導電性の固形成分が、プリプレグ表面に少量でも存在する場合、かかる成分が存在していない場合と比較して、複数枚のプリプレグを積層した場合に、導電性の固形成分がスペーサーとして機能するため、隣接したCF層の間に存在する層間樹脂層は、上記固形成分量に応じてわずかながら厚層化する。上記した厚層化は、繊維に拘束されていない衝撃に対して変形可能な樹脂領域の微小な拡大を意味している。液晶構造を形成しない一般的な樹脂硬化物においても、少量のスペーサー添加によって、上記メカニズムにより耐衝撃性がわずかながら向上する。しかしながら、本発明のように構成要素[B]、[C]を用い、条件[b]、[c]を満たすネマチック構造を形成する樹脂硬化物の樹脂靭性は、条件[b]を満たさない(液晶構造を形成しない)一般的な樹脂硬化物の樹脂靭性と比較して飛躍的に高く、その本来の靱性の強さゆえに、少量の導電性の固形成分の配置による層間樹脂層の微小な厚層化によっても、その耐衝撃性向上効果は、液晶構造を形成しない樹脂硬化物の場合と比較して顕著に大きいものとなる。また、条件[b]を満たし、条件[c]を満たさない場合(スメクチック構造を形成している場合)には、前記したように、樹脂硬化物は、CF表面との接着性と同様に導電性の固形成分との接着性が悪く、かかる固形成分が破壊の起点となり耐衝撃性を低下させる影響の方も大きいことから、上記した導電性の固形成分添加による耐衝撃性向上効果はほとんどみられない。
【0060】
次に、本発明のプリプレグが充足する条件[d]について以下に説明する。条件[d]は、プリプレグ上表面および下表面に存在する、不溶性の固形成分(以降、単に不溶成分ということがある)の量を一定量以下に規定したものであり、かかる不溶成分としては、上記した構成要素[D]:導電性の固形成分と、非導電性の固形成分とがあり、非導電性の成分の例としては、熱可塑性樹脂粒子や無機粒子が挙げられる。熱可塑性樹脂粒子を配合することにより、CFRPとしたときに、耐衝撃性が向上する。熱可塑性樹脂粒子としては、ポリアミド粒子が好ましい。
【0061】
ここで、耐衝撃性および導電性の観点から、本発明に係るプリプレグを積層してCFRPとした場合に、具体的な層間樹脂層の平均厚みとしては22μm以下5μm以上であることが好ましく、18μm以下8μm以上であることがより好ましく、15μm以下10μm以上であることがさらに好ましい。層間樹脂層の平均厚さが、上記した好ましい範囲に入るようにするためには、個々のプリプレグの上表面および下表面に固形の状態で存在し、スペーサーとして機能する成分の量が8.0g/m2以下であることが必要である。また、導電性の固形成分は、一般的にCFRP中で破壊の起点となり得るものであることから、その大量配合は耐衝撃性の低下に繋がる、という観点からも、プリプレグ上表面および下表面に存在する導電性の固形成分の量は、非導電性の固形成分と合わせて8.0g/m2以下であることが必要で、前記した耐衝撃性への向上効果を含めて、0.5g/m2以上6.0g/m2以下の範囲が好ましく、1.0g/m2以上4.0g/m2以下がさらに好ましい。
【0062】
また、非導電性の固形成分が熱可塑性樹脂の粒子である場合、かかる粒子の量として6.0g/m2以下であることがより好ましく、3.0g/m2以下であることがさらに好ましい。かかる不溶成分を6.0g/m2より多く含む場合、絶縁層である層間樹脂層がプリプレグ平面に対して水平方向に十分な厚さで形成され、適度な乱れにより厚さが不十分となる箇所が少なく、結果、プリプレグ間におけるCF同士の接触数が大幅に減り、高い導電率を発現しなくなる。
【0063】
上記した不溶成分とは、マトリックス樹脂成分に難溶あるいは不溶であり、プリプレグの成形過程で溶解または溶融することがなく、固形状態を保持する成分であることを意図しているが、本発明では、不溶性の固形成分の量は、簡易的に塩化メチレンを用いて判断する。具体的な不溶成分量の測定方法は、実施例の項に後述する。ここで、プリプレグの上表面、下表面とは、プリプレグ厚さ方向に対するプリプレグ断面におけるCF層(CFシートに樹脂組成物が含浸された領域)を上面/下面被覆するように配置されたプリプレグ両面の樹脂層領域のことを指し、プリプレグ断面をマイクロスコープで観察して特定することができる。
【0064】
また、上記した層間樹脂層の平均厚みについて、以下に述べる。かかる平均厚みは、以下の手法で算出した値である。すなわち、本発明に係るCFRPにおいて、0°層のCF軸と垂直方向の断面が得られるよう、プリプレグを積層した方向へ切断し、その断面を研磨した後、光学顕微鏡で500倍に拡大して+45°/0°層の境界領域が確認できる写真を、無作為に異なる3領域について撮影する。取得した3領域の写真のそれぞれについて、+45°/0°の隣接するCF層間に配置された層間樹脂層の厚み(各測定点における+45°層のCFと0°層のCFとの間の、CFRP厚み方向の距離)を、断面写真における層間の長手方向に5μm間隔で50点読み取り、読み取った計150点の平均値を層間樹脂層の平均厚さとする。なお、本発明のプリプレグは、上記層間樹脂層の平均厚みを有するCFRPが得られるものであり、その評価は、[+45°/0°/ー45°/90°]3s構成で擬似等方的に24プライ積層し、オートクレーブを用いて180℃の温度で2時間、内圧0.59MPa、昇温速度1.5℃/分の条件で加熱加圧して硬化して得られるCFRPについて行うことができる。
【0065】
本発明のプリプレグは、そのCF質量分率は好ましくは40~90質量%であり、より好ましくは50~80質量%である。CF質量分率が低すぎると、得られるCFRPの質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れるCFRPの利点が損なわれることがあり、また、CF質量分率が高すぎると、エポキシ樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られるCFRPがボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
【0066】
本発明のプリプレグは、構成要素[B]、[C]、[D]等からなるエポキシ樹脂組成物を加熱により低粘度化し、CFに含浸させるホットメルト法等によって好適に製造することができる。
【0067】
このホットメルト法では、プリプレグ中に残留する溶媒が実質的に皆無となるため好ましい態様である。
【0068】
以上に記した数値範囲の上限及び下限は、特に断りのない限り、任意に組み合わせることができる。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものでは無い。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0070】
<実施例および比較例で用いられた原材料>
(1)構成要素[A]
・CF1(条件(a)を満たす。):
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を乾湿式紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8g/cm3、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率294GPa、引張伸度2.0%のCFを得た。次いで、そのCFを、0.1モル/lの硫酸を電解液として、電気量をCF1g当たり10クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施されたCFを続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となるCFを得た。このとき[O/C]は、0.09であった。
“jER(登録商標)”152(三菱化学(株)製)とポリグリセリンポリグリシジルエーテルを調合したサイジング剤を浸漬法により表面処理されたCFに塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布CF束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布CFに対して0.6質量%となるように調整した。
【0071】
・CF2(条件(a)を満たさない。):
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を乾湿式紡糸し、焼成して得られた、(1)と同じ物性・特性のCFを、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量をCF1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施されたCFを続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となるCFを得た。このとき[O/C]は、0.15であった。
【0072】
このCFを用い、CF1と同様の手法でサイジング剤塗布CF束を得た。
(2)構成要素[B]
・エポキシ樹脂1
化合物名:4-{4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル―4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート(特許第5471975号公報参照、エポキシ当量:227g/eq)100質量部を170℃に加熱融解し、プレポリマー化剤として4-ヒドロキシ安息香酸を6.4質量部加え、窒素雰囲気下、170℃で3時間加熱することでエポキシ樹脂1を得た。JIS K7236(2009)に従いエポキシ当量を測定したところ340g/eqであった。
【0073】
・エポキシ樹脂2
エポキシ樹脂1で用いたものと同じ特許第5471975号公報記載のベンゾエート化合物100質量部を170℃に加熱融解し、プレポリマー化剤として6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を7.9質量部加え、窒素雰囲気下、170℃で3時間加熱することでエポキシ樹脂2を得た。JIS K7236(2009)に従いエポキシ当量を測定したところ335g/eqであった。
【0074】
・エポキシ樹脂3
化合物名:2-メチル-1,4-フェニレン-ビス{4-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンゾエート}(特開2010-241797号公報参照、エポキシ当量:245g/eq)を200℃に加熱融解し、そこへプレポリマー化剤としてレゾルシノール(水酸基当量:55g/eq)をエポキシ当量数:水酸基当量数が100:25になるように加え、窒素雰囲気下、200℃で3時間加熱することでエポキシ樹脂3を得た。プレポリマーの含有量は、上記ベンゾエート化合物とそのプレポリマーの合計100質量部に対して53質量部であり、JIS K7236(2009)に従いエポキシ当量を測定したところ353g/eqであった。
(3)構成要素[B]以外のエポキシ樹脂
・“jER(登録商標)”604(テトラグリシジルアミン型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製)
・“jER(登録商標)”828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製)。
(4)構成要素[C]
・3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、融点172℃、小西化学(株)製)
・“セイカキュア(登録商標)”-S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、融点178℃、和歌山精化(株)製)
(5)構成要素[D]
・カーボン粒子“ニカビーズ(登録商標)”ICB4420(平均粒子径:27μm、日本カーボン(株)製)
・カーボン粒子“ニカビーズ(登録商標)”ICB2020(平均粒子径:15μm、日本カーボン(株)製)。
(6)その他の成分(エポキシに溶解して存在する熱可塑性樹脂)
・“Virantage(登録商標)”VW-10700RFP(ポリエーテルスルホン、ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン(株)製)。
(7)その他の成分(粒子として存在する熱可塑性樹脂)
・ポリアミド粒子1:国際公開第2012/124450号パンフレットの実施例中(例えば実施例1、2)にて用いられているエポキシ変性ポリアミド粒子と同様の方法で得られた粒子(平均粒子径14μm、真球度97)。原料は、透明ポリアミド(“グリルアミド(登録商標)”TR55、エムスケミー・ジャパン(株)製)、エポキシ樹脂(“jER(登録商標)”828、三菱ケミカル(株)製)、硬化剤(“トーマイド(登録商標)”#296、(株)ティーアンドケイ東華製)である。平均粒子径は、マイクロトラック社製MT3300II(光源780nm-3mW、湿式セル(媒体:水))を用いて測定した。
【0075】
<各種評価法>
(8)CFの表面酸素濃度O/Cの測定
CFの[O/C]は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去したCFを、約20mmの長さにカットし、銅製の試料支持台に拡げた。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中の圧力を1×10-8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1、2を用い、光電子脱出角度を90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。C1sメイン面積は、282~296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sピーク面積は、528~540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積のC1sピーク面積に対する比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA-1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
(9)エポキシ樹脂組成物の調製
ニーダー中に、表に示す配合比(表中の単位:質量部)で、硬化剤、導電性の固形成分以外の成分を所定量加え、混練しつつ、150℃まで昇温し、150℃で混練することで、粘調液を得た。混練しつつ80℃以下に降温させた後、硬化剤および導電性の固形成分を所定量添加し、さらに混練し、エポキシ樹脂組成物を得て、表に示す第1樹脂組成物、第2樹脂組成物として用いた。
(10)プリプレグの作製 (一段階プロセスで作製する場合。実施例1~9、比較例1~6、11~14。)
(9)で調製したエポキシ樹脂組成物(第1樹脂組成物)を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して目付が50g/m2の樹脂フィルムを作製した。次に、シート状に一方向に配列させた構成要素[A]のCFの両面に、作製した樹脂フィルム2枚のそれぞれを1枚ずつ重ね、加熱加圧により樹脂をCFに含浸させ、CFの目付が194g/m2、エポキシ樹脂組成物の質量分率が34%の一方向プリプレグを得た。
(11)プリプレグの作製 (二段階プロセスで作製する場合。比較例7~10。)
(9)で調製した第1樹脂組成物、第2樹脂組成物のそれぞれを、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して目付が25g/m2の樹脂フィルムを作製した。次に、シート状に一方向に配列させた構成要素[A]のCFの両面に、作製した第1樹脂組成物の樹脂フィルム2枚のそれぞれを1枚ずつ重ね、加熱加圧により樹脂をCFに含浸させ、CFの目付が194g/m2の一次プリプレグを得た。その一次プリプレグの両面から更に作製した第2樹脂組成物の樹脂フィルム2枚のそれぞれを1枚ずつ重ね、加熱加圧により樹脂をCFに含浸させ、CFの目付が194g/m2、エポキシ樹脂組成物の質量分率が34%の一方向プリプレグを得た。
(12)CFRPの偏光顕微鏡観察
(10)、(11)で作製した一方向プリプレグを幅40mm、長さ40mmに矩形状にカットし、プリプレグが幅60mm以上となるように繊維間隔を手で広げた後、オーブンにて180℃2時間の条件で硬化し、観察用のCFRPの試験体(CFRPパネル)を得た。試験体の樹脂領域を偏光顕微鏡(キーエンス(株)製;VHX-5000、偏光フィルター付き)により観察を行った。ファンシェイプ組織やフォーカルコニック組織といった干渉模様が観察された場合を「A」、干渉模様が観察されなかった場合を「B」と判定し、表に記載した。
(13)X線回折による回折角度2θの測定
(10)、(11)で作製した一方向プリプレグを一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で180℃2時間、内圧0.59MPa、昇温速度1.5℃/分の条件で加熱加圧して硬化し、一方向CFRPを成形した。成形したCFRPを、長さ40mm、幅10mmの矩形状にカットし、試験片を得た。測定は以下の条件により、CFRP内のCF軸に対して平行(0°)、垂直(90°)、45°に対して行った。
・装置:X’ PertPro(スペクトリス(株)PANalytical事業部製)
・X線源:CuKα線(管電圧45kV、管電流40mA)
・検出器:ゴニオメーター+モノクロメーター+シンチレーションカウンター
・走査範囲:2θ=1~90°
・走査モード:ステップスキャン、ステップ単位0.1°、計数時間40秒
回折角度2θ=1.0~6.0°範囲にピークを有する場合はピークの2θの値、ピークを有さない場合は「B」と記載した。
(14)CFRPの衝撃後圧縮強度(CAI)測定
(10)、(11)で作製した一方向プリプレグを[+45°/0°/-45°/90°]3s構成で、擬似等方的に24プライ積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブにて180℃の温度で2時間、内圧0.59MPa、昇温速度1.5℃/分の条件で成形してCFRPを作製した。得られたCFRPから、縦150mm×横100mmの矩形状サンプルを切り出し、SACMA SRM 2R-94に従い、サンプルの中心部に6.7J/mmの落錘衝撃を与え、衝撃後圧縮強度を求めた。衝撃後圧縮強度が220MPa以上で合格とした。
【0076】
(15)CFRPの厚み方向の導電性測定方法
(10)、(11)で作製した一方向プリプレグを[+45°/0°/-45°/90°]3s構成で、擬似等方的に24プライ積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブにて180℃の温度で2時間、内圧0.59MPa、昇温速度1.5℃/分の条件で成形してCFRPを作製した。得られたCFRPパネルから、パネル最表層のCFの角度を0°として、0°、90°方向に沿って、縦40mm×横40mmの矩形状のサンプルを切り出し、両表面を約50μm研磨除去後、両面にAgペーストを、ヘラを用いて均一に塗布した。120℃の温度に調整した熱風オーブン中で、1時間かけてAgペーストを硬化させ、導電率評価用のサンプルを得た。得られたサンプルの厚み方向の抵抗を、インピーダンスアナライザ(IM3570、日置電機株式会社製)を用いて、直流5mAの電流負荷条件で、四端子法により測定した。測定された抵抗値と、サンプル寸法から導電率(S/m)を計算した。CFRPの厚み方向の導電率が10S/m以上の場合に合格とした。
(16)有孔板圧縮強度(OHC)の測定
(10)、(11)で作製した一方向プリプレグを[+45°/0°/-45°/90°]2s構成で、擬似等方的に16プライ積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブにて180℃の温度で2時間、内圧0.59MPa、昇温速度1.5℃/分の条件で成形してCFRPを作製した。得られたCFRPから、縦305mm×横38mmの矩形状サンプルを切り出し、中央部に直径6.35mmの孔を穿孔して有孔板に加工した。この有孔板について、SACMA SRM 3R-94に従い、室温における圧縮強度を求めた。OHCが270MPa以上で合格とした。
(17)ガラス転移温度の測定(耐熱性の指標)
(10)、(11)で作製した一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、一方向に12枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、180℃の温度で2時間、内圧0.59MPa、昇温速度1.5℃/分の条件で加熱加圧して硬化させ、一方向強化材(CFRP)を得た。この一方向強化材から、0°方向を試験片の長さ方向にして、長さ35.0mm、幅10.0mmの矩形状の試験片を切り出した。得られた試験片を、曲げDMA(Q800:TAインストルメント社製)を用いて、測定周波数1.0 Hz、昇温速度5℃/分、ひずみ0.1%の条件で、チャック間の距離を17.8mmとし、40℃から250℃までの貯蔵弾性率G’を測定した。縦軸logG’、横軸温度の貯蔵弾性率変化曲線に対して、2つの直線部を延長した交点をガラス転移温度とし、耐熱性の指標とした。2つの直線部とは、上記変化曲線において、急激に貯蔵弾性率が低下する前の直線部と、貯蔵弾性率が急激に低下する過程に現れる直線部のことである。ガラス転移温度が169℃以上の場合に合格とした。
(18)示差走査熱量分析(DSC)によるネマチック相-等方相相転移温度
構成要素[B]を含むエポキシ樹脂について8mgをサンプルパンに量り取り、示差走査熱量分析計(Q-2000:TAインスツルメント社製)を用い、窒素雰囲気下で昇温速度5℃/分として50℃から400℃まで昇温した。熱流量の変化を記録し、吸熱ピークが見られるか調べた。吸熱ピークが見られた際には、そのピークが上記相転移由来であるかどうかについて、偏光顕微鏡を用いて干渉模様が消失するか否かを確認することで判断した。DSCチャートの吸熱ピーク頂点の温度を上記相転移温度とした。
(19)CFRPの層間樹脂層厚みの測定
(10)、(11)で作製した一方向プリプレグを[+45°/0°/―45°/90°]3s構成で、擬似等方的に24プライ積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて180℃の温度で2時間、内圧0.59MPa、昇温速度1.5℃/分の条件で加熱加圧して硬化してCFRPを作製した。得られたCFRPにおいて、0°層のCF軸と垂直方向の断面が得られるよう、プリプレグを積層した方向へ切断し、その断面を研磨した後、光学顕微鏡で500倍に拡大して、+45°/0°層の境界領域が確認できる写真を、無作為に異なる3領域について撮影した。取得した3領域の写真のそれぞれについて、+45°/0°の隣接するCF層間に配置された層間樹脂層の厚み(各測定点における+45°層のCFと0°層のCFのCFRP厚み方向への距離)を、断面写真における層間の長手方向に5μm間隔でプリプレグ面内方向に50点読み取り、読み取った計150点の平均値を層間樹脂層の平均厚さとした。
(20)プリプレグの上表面および下表面に存在する不溶性の固形成分の量
(10)、(11)で作製した一方向プリプレグの任意の箇所を選んで10cm四方に100cm2切り取った後、それをサンプルとして、塩化メチレンを用いてCFから樹脂組成物を抽出し、その溶液について不溶成分を濾別し、濾別された不溶成分の質量を測定し、サンプル面積100cm2(0.01m2)で除して、不溶成分の量(g/m2)を求めた。
【0077】
なお、上記不溶成分は、本発明に係る実施例・比較例においては、上記プリプレグの上表面および下表面に存在することから、上記の手法により判断できるが、プリプレグ内部のCF層にも流入していることがあり、かかる内部の固形成分が無視できない量だけ測定対象に含まれ得ると、上記手法では正しく測定できない。その場合には、上記同様にプリプレグから任意の箇所を選んで10cm四方に100cm2切り取ったサンプルにおいて、その表面からスパチュラを用いて、CF層の上表面の樹脂層、下表面の樹脂層から樹脂組成物を採取し、採取された樹脂組成物を塩化メチレンに溶解後、ろ過し、不溶な成分を濾別することで、かかる不溶成分の質量を測定し、サンプル面積100cm2(0.01m2)で除すことで、不溶成分の量(g/m2)を求めることができる。本方法は、上記した樹脂組成物全体における不溶成分の量の測定に比べ、簡便さに劣るが、本発明の趣旨に鑑み、両方法で測定した場合は、本方法の測定値が優先的に採用されるものとする。
(実施例1~9、比較例1~14)
表1~3の配合比に従って上記(9)エポキシ樹脂組成物の調製に記載された手順でCFRP用エポキシ樹脂組成物を調製し、(10)、(11)プリプレグの作製に記載された手順でプリプレグを得た。得られたプリプレグを用いて、上記の(12)~(20)に記載の測定を行った。
【0078】
実施例の各種測定結果は表に示す通りである。実施例1~9のプリプレグについてはいずれも、構成要素[A]~[D]を含み、条件[a]から[d]を満たすものであり、優れた衝撃後圧縮強度、有孔板圧縮強度、厚み方向の導電率、ガラス転移温度が得られた。特に、実施例1に示すようにマトリックス樹脂中に約1.1質量%しか導電性の固形成分を含まない場合であっても、優れた耐衝撃性を維持しつつ、10S/m2を上回る優れた導電率を発現しており、従来の分厚い層間樹脂層を設けたプリプレグよりも圧倒的に少ない量の導電性の固形成分で、本発明の目標を達成できるものであった。プリプレグ積層体の硬化物であるCFRPについて(19)の手順で層間樹脂層の平均厚さを計測した結果、いずれも22μm以下であった。
【0079】
比較例1は、構成要素[B]を含んでいるが、条件[a]を満たす構成要素[A]を用いていない場合であり、CFRPの厚み方向への導電率が本発明の目標レベルに到底及んでいない。
【0080】
比較例2~4は、構成要素[B]を用いているが、条件[c]を満していないため、マトリックス樹脂の硬化物中にスメクチック構造を含んでいる場合である。スメクチック構造を含んでいる場合には、スメクチック構造形成領域と炭素繊維との接着性が悪く、耐衝撃性が低い値となることが分かる。また、有孔板圧縮強度についてはネマチック構造のみ形成している実施例と比較して低いことが分かる。
【0081】
比較例5に係るプリプレグは、構成要素[D]の導電性の固形成分を含んでいない。加えて、熱可塑性樹脂粒子も含んでいないことから、スペーサーとして機能する非導電性の固形成分が入っておらず、比較例6などと比較して絶縁層となる層間樹脂層が十分な厚みで形成されていない分、厚み方向の導電率は比較的高いが、導電性の固形成分が含まれていないことから、導電率は合格レベルに到達していない。反対に言えば、例えば実施例1や2のように導電性の固形成分が少量入ることで飛躍的に厚み方向の導電率が向上すると理解できる。
【0082】
比較例6に係るプリプレグは、比較例5のプリプレグに対して、熱可塑性樹脂粒子を含んでいる。かかる熱可塑性樹脂粒子がスペーサーとして機能するため樹脂層を形成し、耐衝撃性は向上する。その一方で、樹脂層は絶縁層であるため導電性は低下する。この結果からも、例えば、実施例3のように導電性の固形成分をスペーサーとして機能させることで導電性と耐衝撃性の両方を顕著に向上させる効果があることが分かる。
【0083】
比較例7~10は、高い耐衝撃性発現のために厚い層間樹脂層を形成している従来構成のプリプレグである。比較例7~10は構成要素[D]の導電性の固形成分を含んでおり、その増量により、厚み方向の導電率が向上する傾向にあることは理解されるが、合格レベルの導電率発現には樹脂組成物に対し4.5~5.5質量%程度の導電成分の配合が必要である。一方で、実施例1~4から、本発明の構成をとる場合には、1~2.5質量%といった非常に少量の導電性の固形成分の配合で合格レベルの導電率が発現することと、およびかかる少量の範囲内でも、わずかな量の追加による導電率の向上幅(絶対値)が大きいことが理解される。
【0084】
比較例11、12は、構成要素[B]を用いず、条件[b]、[c]を満たしていない場合(樹脂硬化物がネマチック構造を形成せず、一般的なエポキシ樹脂と同様に等方的な構造を形成している場合)である。条件[d]を満たしているため、絶縁層である層間樹脂層の厚さが比較例7~10と比較して薄い分、同じ導電性の固形成分の量で比較すると導電率は比較的高いが、樹脂硬化物中にネマチック構造を形成していない(構成要素[B]を用いず、条件[b]、[c]を満たしていない)ことで樹脂靭性が低く、耐衝撃性は合格レベルに到底及んでいない。また、比較例11、12および比較例5と実施例1、2の結果から、本発明のように樹脂硬化物中にネマチック構造を形成している場合、導電性の固形成分を添加することで、導電性向上に加えて、従来技術に係るCFRPには見られなかった、耐衝撃性向上の効果もあることが理解される。導電性の固形成分添加による約4~5μmのわずかな層間樹脂層の厚層化により耐衝撃性向上効果が得られたためと考えられる。
【0085】
比較例13は、条件[d]を満たしていない場合である。比較例13のプリプレグ表面にある不溶成分の量は、(20)記載の測定において、11.7g/m2であった。また、層間樹脂層の厚みは28μmであった。プリプレグ表面の不溶成分の量が多かったことにより、絶縁層である層間樹脂層が厚く形成され、それによりプリプレグ積層体におけるプリプレグ間でのCF同士の接触が妨げられ、導電率が低い値となったと理解できる。
【0086】
比較例14は、条件(b)を満たさず、マトリックス樹脂の硬化物中にネマチック構造を形成していない場合である。ネマチック構造を形成できず、等方状態の硬化物であるため、ネマチック構造が形成できる場合と比較して樹脂靭性が低く、耐衝撃性が低下していることが分かる。
【0087】
【0088】
【0089】