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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051396
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ショーツ
(51)【国際特許分類】
   A41B 9/04 20060101AFI20240404BHJP
   A41C 1/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
A41B9/04 E
A41B9/04 G
A41C1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157543
(22)【出願日】2022-09-30
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】岡島 信子
(72)【発明者】
【氏名】上原 千尋
(72)【発明者】
【氏名】柏原 佑美
(72)【発明者】
【氏名】足立 鮎美
【テーマコード(参考)】
3B128
3B131
【Fターム(参考)】
3B128EA02
3B128EB17
3B128EB19
3B128EB29
3B128EB31
3B128EC11
3B128EC12
3B128EC15
3B128FB06
3B131AA07
3B131AB14
3B131AB16
3B131BA12
3B131BA14
3B131BA33
3B131BA41
3B131BA47
3B131DA02
3B131DA03
(57)【要約】
【課題】身生地に解れ止め加工された編地を採用しながらも、ヒップ裾ラインのずり上がりを抑制するとともに、良好な着心地を得ながらも、ヘム部の輪郭が外衣から浮き出ることなく見映えのよいショーツ提供する。
【解決手段】解れ止め加工され交差する二方向で伸縮性が異なる編地を用いて前身頃2とマチ部4と後身頃3が構成され、前身頃の左右縁部と後身頃の左右縁部が其々腹部側で接合された脇部接合部を備え、前身頃と後身頃の下端縁部及びマチ部の側縁部により左右の脚刳り部が形成されているショーツであって、後身頃3は、後中心側で凸曲線状に裁断され、脚刳り部を構成する下端側縁部が伸縮性の小さな方向に沿った編地でなる左側後身頃と右側後身頃を備え、左側後身頃3Lと右側後身頃3Rを後中心で接合することにより臀部対応部位が膨出可能なダーツが形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
解れ止め加工され交差する二方向で伸縮性が異なる編地を用いて前身頃とマチ部と後身頃が構成され、前身頃の左右縁部と後身頃の左右縁部が其々腹部側で接合された脇部接合部と、凸円弧状に形成されたマチ部の後縁部と凹円弧状に形成された後身頃の下縁部が接合されたマチ部接合部とを備え、前身頃と後身頃の下端縁部及びマチ部の側縁部により左右の脚刳り部が形成されているショーツであって、
後身頃は、後中心側で凸曲線状に裁断され、脚刳り部を構成する下端側縁部が伸縮性の小さな方向に沿った編地でなる左側後身頃と右側後身頃を備え、左側後身頃と右側後身頃を後中心で接合することにより臀部対応部位が膨出可能なダーツが形成されているショーツ。
【請求項2】
胴部において、ショーツの全横幅Whに対する前身頃の横幅Wfの比Wf/Whが、0.48<Wf/Wh≦0.56の範囲に設定されている請求項1記載のショーツ。
【請求項3】
左右の脚繰りの間において、ショーツの最大横幅Whmaxに対する前身頃の最大横幅Wfmaxの比Wfmax/Whmaxが、0.52<Wfmax/Whmax≦0.60の範囲に設定されている請求項1記載のショーツ。
【請求項4】
解れ止め加工された編地は、編地を構成する地糸の交編部を熱溶融または熱変形した熱融着弾性糸を用いて絡めた編地であり、熱融着弾性糸の重量比率が20%以下の編地である請求項1から3の何れかに記載のショーツ。
【請求項5】
マチ部の後縁部の曲率が後身頃の下縁部の曲率より大に設定されている請求項1から3の何れかに記載のショーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショーツに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、持続的にヒップ裾ラインのずり上がりを防止することを目的としたショーツが提案されている。当該ショーツは、下方開放状の足口を左右対称に形成した伸縮性を有する前身頃と、伸縮性を有する後身頃と、前身頃の下端の内股前部と後身頃の下端の内股後部との間に配設されて股間部を覆うマチ部とを備え、前身頃の左右端縁と後身頃の左右端縁とが縫合され、マチ部の前端部が前身頃の下端の内股前部に縫合され、マチ部の凸円弧状に形成した後端部が後身頃の下端の凹円弧状に形成した内股後部に縫合され、足口まわりに伸縮性を有する帯状材料または紐状材料が設けられている。
【0003】
そして、マチ部の凸円弧状に形成した後端部の曲率を後身頃の下端の凹円弧状に形成した内股後部の曲率よりも大きくし、これら後端部と内股後部とを縫合してヒップ下部の膨らみ体形に合うよう立体化するダーツが形成されている。
【0004】
特許文献2には、端始末不要の生地からなる本体布とクロッチ布とからなり、前記クロッチ布は本体布より難伸縮性として、本体布の股部の内面に溶融接着させて裏打ちしており、前記クロッチ布の背面側の幅方向端縁に、前記本体布の背面側の脚ぐり端縁に沿って延在させる左右一対の突出部を設けている一方、正面側の幅方向端縁は前記左右両側端縁を円弧状あるいは直線状に連続させて前記突出部を設けていないショーツが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4416793号公報
【特許文献2】実用新案登録第3107714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載されたショーツは、ヒップ裾ラインのずり上がり防止効果は発揮されるが、ヘム部である足口まわりに帯状材料または紐状材料を配して解れ止め処理すると、厚肉となったヘム部の輪郭が外衣から浮き出て見映えが悪くなる。また、伸縮性材料が内股の柔らかい肌に接触して食い込みが発生しやすいという問題もあった。
【0007】
特許文献2には、解れ止め加工された編地を用いて前身頃とマチ部と後身頃とを一体に構成し、前身頃及び後ろ見頃の側縁部同士を接合することで、外衣からヘム部の輪郭が浮き出るような不都合を軽減或いは解消したショーツが提案されているが、平坦な身生地で脇部が接合されたショーツでは立体的な体型に良好にマッチさせることが困難で、ヒップ裾ラインのずり上がりを十分に防止するのは困難であり、足口部の保持力を強くする為に、解れ止め加工された生地として経編地のような伸長力の大きな生地を採用すると、裾ラインのずり上がり防止効果が得られても、着用感が悪くなるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、身生地に解れ止め加工された編地を採用しながらも、ヒップ裾ラインのずり上がりを抑制するとともに、良好な着心地を得ながらも、ヘム部の輪郭が外衣から浮き出ることなく見映えのよいショーツ提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明によるショーツの第一の特徴構成は、解れ止め加工され交差する二方向で伸縮性が異なる編地を用いて前身頃とマチ部と後身頃が構成され、前身頃の左右縁部と後身頃の左右縁部が其々腹部側で接合された脇部接合部と、凸円弧状に形成されたマチ部の後縁部と凹円弧状に形成された後身頃の下縁部が接合されたマチ部接合部とを備え、前身頃と後身頃の下端縁部及びマチ部の側縁部により左右の脚刳り部が形成されているショーツであって、後身頃は、後中心側で凸曲線状に裁断され、脚刳り部を構成する下端側縁部が伸縮性の小さな方向に沿った編地でなる左側後身頃と右側後身頃を備え、左側後身頃と右側後身頃を後中心で接合することにより臀部対応部位が膨出可能なダーツが形成されている点にある。
【0010】
後中心側で凸曲線状に裁断された編地でなる左側後身頃と右側後身頃とを後中心で接合することにより形成されるダーツによって、着用者の臀部の膨らみに応じて後身頃が膨出することで、良好な着用感を発揮しつつヒップ裾ラインのずり上がりや食い込みが効果的に抑制される。
【0011】
そして、脚刳り部を構成する下端縁が伸縮性の小さな方向に沿うように配された編地により左側後身頃と右側後身頃が構成されることで、着用者に立位と座位との間で姿勢変更が頻繁に生じても、伸び難い脚刳り部により裾部のずり上がりが回避され、伸び易い臀部対応部位で臀部の膨出が吸収される。
【0012】
さらに、前身頃の左右縁部と後身頃の左右縁部を接合する脇部接合部が腹部側に位置するので、脇部接合部が臀部側に位置する場合に生じる脇部接合部の形状が外衣から浮き出るような不都合な事態も生じない。
【0013】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、胴部において、ショーツの全横幅Whに対する前身頃の横幅Wfの比Wf/Whが、0.48<Wf/Wh≦0.56の範囲に設定されている点にある。
【0014】
前身頃の下端側縁部と後身頃の下端側縁部とマチ部の左右縁部によって左右の脚刳り部が形成される。そして、後身頃の下端側縁部が伸縮性の小さな方向に沿って配された編地であるため、少なくとも後身頃の下端側縁部での伸びは抑制される。前身頃の左右縁部と後身頃の左右縁部を接合する脇部接合部が腹部側に位置するので、脚刳り部のうち伸びが抑制される範囲が広くなり、それだけ裾部のずり上がり抑制効果が増す。ショーツの全横幅Whに対する前身頃の横幅Wfの比Wf/Whが、0.48<Wf/Wh≦0.56の範囲に設定されていると、裾部のずり上がり抑制効果を確保しつつ着用者の腿部への食い込みを抑制でき、良好な着用感が得られるようになる。
【0015】
同第三の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、左右の脚繰りの間において、ショーツの最大横幅Whmaxに対する前身頃の最大横幅Wfmaxの比Wfmax/Whmaxが、0.52<Wfmax/Whmax≦0.60の範囲に設定されている点にある。
【0016】
股上が長いショーツでは、着用時のずり下がりを回避するため、胴部を絞る必要が生じる。そのような胴部を絞った股上が長いショーツでは、上述の数値範囲に調整しても、裾部のずり上がり抑制効果を十分に確保できない虞もある。そのような場合でも、左右の脚繰りの間において、ショーツの最大横幅Whmaxに対する前身頃の最大横幅Wfmaxの比Wfmax/Whmaxが、0.52<Wfmax/Whmax≦0.60の範囲に設定されていると、裾部のずり上がり抑制効果を確保しつつ着用者の腿部への食い込みを抑制でき、良好な着用感が得られるようになる。
【0017】
同第四の特徴構成は、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、解れ止め加工された編地は、編地を構成する地糸の交編部を熱溶融または熱変形した熱融着弾性糸を用いて絡めた編地であり、熱融着弾性糸の重量比率が20%以下の編地である点にある。
【0018】
熱融着弾性糸の重量比率が高くなるほど裾部のずり上がり抑制効果が高くなるが、熱融着弾性糸以外の原糸の素材や編組織によっては、逆に腿部に対する締付力が大きくなり着心地の悪化を招くことがある。熱融着弾性糸の重量比率が20%以下であると、然程の締付力は生じることなく裾部のずり上がり抑制効果を発揮させることができる。さらには、商品設計の際、熱融着弾性糸以外の素材の選択、編組織の選択等の組み合わせの自由度が大きくなる。
【0019】
同第五の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、マチ部の後縁部の曲率が後身頃の下縁部の曲率より大に設定されている点にある。
【0020】
マチ部の後縁部に形成される凸円弧状と後身頃の下縁部に形成される凹円弧状とを接合するマチ部接合部で、双方の円弧状の曲率の違いにより形成されるダーツによって、マチ部から後身頃に連なる部位が脚部上方から臀部下方に連なる着用者の体形に沿うような立体形状となる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明した通り、本発明によれば、身生地に解れ止め加工された編地を採用しながらも、ヒップ裾ラインのずり上がりを抑制するとともに、良好な着心地を得ながらも、ヘム部の輪郭が外衣から浮き出ることなく見映えのよいショーツ提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は本発明によるショーツの正面視の説明図、(b)は背面視の説明図、(c)はマチ部接合部の説明図
図2】(a)は本発明によるショーツのパターン図、(b)は各身生地の編目方向の説明図
図3】(a)は胴部におけるショーツの全横幅Whに対する前身頃の横幅Wfの比Wf/Whの説明図、(b)は左右の脚繰りの間において、ショーツの最大横幅Whmaxに対する前身頃の最大横幅Wfmaxの比Wfmax/Whmaxの説明図、(c)は後身頃の裁断縁部の凸曲線状の裁断縁部の長さLLと直線状の裁断縁部LUの関係の説明図
図4】凸円弧状の後縁部を備えたマチ部と、凹円弧状の下縁部を備えた後身頃の其々の曲率C1,C2の説明図
図5】本発明によるショーツの着用状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明によるショーツを説明する。図1(a),(b)には本発明によるショーツ1の外観が示され、図2(a)には当該ショーツ1のパターン図が示されている。以下の説明で用いる「接合」との用語は、主に工業用ミシンを用いた「縫着」による接合を意図しているが、「接合」の態様は縫着以外に接着剤を用いた接着によるものも含まれる。
【0024】
ショーツ1は、前身頃2と、後身頃3と、マチ部4を備えて構成され、其々の身生地として、解れ止め加工され交差する二方向で伸縮性が異なる編地が用いられる。当該編地として、編地を構成する地糸の交編部を熱溶融または熱変形した熱融着弾性糸を用いて絡めたヨコ編地が好適に用いられる。
【0025】
具体的に、熱融着弾性糸とそれ以外の糸、例えば綿糸やポリエステル糸をプレーティング編みで編成した後にヒートセット加工を施すことにより熱溶融または熱変形した熱融着弾性糸を糸の交編部で絡めることで、裁断縁での糸の解れを防止したヨコ編地を用いることができる。熱融着弾性糸として低融点のポリウレタン糸を用いることができる。
【0026】
熱融着弾性糸の重量比率を調整することにより、編地の伸縮性を調整することができ、熱融着弾性糸の重量比率を上げると締め付け力が強くなり、熱融着弾性糸の重量比率を下げると締め付け力が弱くなる。後に詳しく説明するが、本実施形態では、熱融着弾性糸の重量比率が20%以下の編地を採用することにより、良好な着心地が得られ、適度な裾部のずり上がり抑制効果が発揮されるようになる。
【0027】
プレーティング編みは、複数本の糸をそれぞれ別の給糸口から、編み針に給糸する方法で、編成ループそれぞれの糸の配置が安定的に定まる。従って、熱融着弾性糸とそれ以外の糸とを別の給糸口から編み針に給糸して編み立てられたプレーティング編地は、各編成ループにおける熱融着弾性糸とそれ以外の糸との配置が安定しているため、全てのループに熱融着弾性糸を隣接させることができ、ヒートセット加工などにより熱融着弾性糸を溶融すれば、編地の全てのループで確実に解れ止め機能が実現できる。
【0028】
身生地を編成する原糸として綿などの天然繊維以外に、キュプラ、ビスコースレーヨンなどの再生セルロース繊維、ポリエステルなどの合成繊維などを用いることができる。身生地の編組織として天竺編、フライス編、スムース編などを採用することができ、何れも交差する二方向で伸縮性が異なる編地となる。特にウェール方向よりコース方向への伸縮性が大きくなるフライス編を採用することが好ましい。
【0029】
前身頃2の左右縁部2b,2cと後身頃3の左右縁部3b,3cが其々腹部側に位置する脇部接合部Aで接合されている。マチ部4の肌側面にはマチ部4の左右幅より幅狭に形成された当て布5が配されている。
【0030】
前身頃2の下端側縁部2d,2eと、マチ部4の左右縁部4b,4cと、後身頃3の下端側縁部3d,3eにより脚刳り部となる左右の脚部開口6,7が形成されている。前身頃2の上縁部2a及び後身頃3の上縁部3aにより胴部開口8が形成され、胴部開口8の端部には、着用時のずれ下がり防止のための伸縮テープ9が接合されている。
【0031】
図2(a)のパターン図からも理解されるように、後身頃3は、後中心線BC側で左右に裁断された左側後身頃3Lと右側後身頃3Rの一対の編地片で構成されている。左側後身頃3Lの裁断縁部3gと右側後身頃3Rの裁断縁部3hは、上縁部3aから下縁部3fに向けて中ほどまでが直線状に裁断され、中ほどから下縁部3fに向けて凸曲線状に裁断されている。裁断縁部3g,3hを後中心で接合することにより着用者の臀部対応部位が膨出可能なダーツが形成される。
【0032】
前身頃2とマチ部4は一体となるように裁断され、凸円弧状に形成されたマチ部4の後縁部4dと凹円弧状に形成された後身頃3の下縁部3fとがマチ部接合部Bで接合される。図2では、マチ部4の上に当て布5が配置されているが、これは単に重ね合わせるように図示しているだけで、実際はマチ部4と当て布5とは個別の編地片で構成されている。
【0033】
図1(c)にはマチ部4と当て布5の接合状態及びマチ部接合部Bの要部が示されている。当て布5の前縁部5aが前身頃2に接合され、当て布5の後縁部5dがマチ部接合部Bでマチ部4の後縁部4dとともに後身頃3の下縁部3fに接合されている。
【0034】
詳述すると、マチ部接合部Bでは、当て布5の後縁部5d及びマチ部4の後縁部4dと、後身頃3の下縁部3fとが、三本針偏平縫い(両面飾り)を用いた重ね接ぎで接合され、縫い始めまたは縫い終わりに生じる空環10,11(図1(c)では破線で示されている。)をマチ部接合部Bに沿って身生地側に折返し、マチ部4の角部41から延出する側縁部4b,4cと後身頃3の下角部31から延出する下端側縁部(脚刳り部)3d,3eで連なり形成される直線状の縁部に沿って閂止め処理されている。なお、三本針偏平縫い以外の偏平縫いを採用することも可能である。
【0035】
即ち、マチ部4の左右縁部4b,4cと後身頃3の下端側縁部3d,3eとが略直線状で、且つ、マチ部接合部Bの接合線とが略直交する姿勢で連なるようになる。当該マチ部接合部Bに沿って折返された空環10,11が閂止め処理により身生地に接合固定される。その結果、略直線状に配されたマチ部4の左右縁部4b,4cと後身頃3の下端側縁部3d,3eの連接縁に沿うように閂止め縫いができるようになり、見映えのよい脚刳り部が形成されるようになる。
【0036】
図2(b)に示すように、前身頃2、マチ部4及び当て布5は、身幅方向が伸縮性の大きな方向つまりコース方向となるように編地が配されている。従って、股上に沿う方向より身幅方向への伸びが許容される。左側後身頃3Lと右側後身頃3Rは、脚刳り部を構成する下端側縁部3d,3eに沿う方向が伸縮性の小さな方向つまりウェール方向となるように編地が配置されている。
【0037】
従って、着用者に立位と座位との間で姿勢変更が頻繁に生じても、伸び難いウェール方向に沿う脚刳り部により裾部のずり上がりが回避され、伸び易いコース方向に沿う臀部対応部位で臀部の膨出が吸収される。編地を構成する熱融着弾性糸の重量比率が20%以下の編地を用いる場合でも、適度にフィットするようになる。なお、熱融着弾性糸の重量比率は、2~20%の範囲が好ましく、5~18%の範囲がさらに好ましい。熱融着弾性糸の重量比率が20%より大きな編地を用いることも可能であるが、肌触りや吸湿性などの観点で熱融着弾性糸の重量比率が20%以下の編地が優れている。
【0038】
上述したマチ部4の後縁部4dの曲率C1は、後身頃3の下縁部3fの曲率C2より大に設定され、マチ部4の左右縁部4b,4cと後縁部4dが交差する左右の角部41,41の角度が85~95°の範囲、好ましくは87~93°の範囲に設定され、後身頃3の下縁部3fと左右脚刳り部3d,3eが交差する左右の下角部31,31の角度が90~110°の範囲、好ましくは95~105°の範囲に設定されている。従って、マチ部4の左右縁部4b,4cと後身頃3の左右脚刳り部3d,3eとが略直線状で、且つ、マチ部縫着部Bの縫着線とが略直交する姿勢で連なるようになる。
【0039】
マチ部4の後縁部4dに形成される凸円弧状と後身頃3の下縁部3fに形成される凹円弧状とを接合するマチ部接合部Bで、双方の円弧状の曲率C1,C2の違いにより形成されるダーツによって、マチ部4から後身頃3に連なる部位が脚部上方から臀部下方に連なる着用者の体形に沿うような立体形状となるため、座位から立位に姿勢変更するような場合でもヒップ裾ラインのずり上がりや脚部への食い込みが効果的に抑制される。
【0040】
凸円弧状に形成されたマチ部4の後縁部4dの曲率C1、凹円弧状に形成された後身頃の下縁部の曲率C2とするときに、0.003≦C1≦0.0065の範囲に設定されるとともに、曲率比C1/C2が、1.3≦C1/C2≦2.1の範囲に設定されていることが好ましい。
【0041】
マチ部4の後縁部4dの曲率C1を後身頃3の下縁部3fの曲率C2より大に設定する際に、曲率C1を、0.003≦C1≦0.0065の範囲に設定し、曲率比C1/C2を、1.3≦C1/C2≦2.1の範囲、好ましくは1.4≦C1/C2≦1.7の範囲に設定することにより、ヒップ裾ラインのずり上がりや食い込みを効果的に抑制しつつ、良好な着用感を得ることができるようになる。
【0042】
図4に示すように、マチ部4の後縁部4dの頂点(左右幅方向中央部)と角部41を結ぶ線分l1と角部41で後縁部4dに接する接線t1とのなす角度をθ1、当該線分l1の長さをS1とすると、マチ部4の後縁部4dの曲率C1は、sinθ1/S1と表すことができる。
【0043】
また、後身頃3の下縁部3fの頂点(左右幅方向中央部)と下角部31を結ぶ線分l2と下角部31で下縁部3fに接する接線t2とのなす角度をθ2、当該線分l1の長さをS2とすると、後身頃3の下縁部3fの曲率C2は、sinθ2/S2と表すことができる。
【0044】
このとき、14°≦θ1≦23°、60mm≦S1≦75mmの範囲に設定され、5°≦θ2≦15°、60mm≦S2≦75mmの範囲に設定され、曲率比C1/C2が、1.3≦(sinθ1/S1)/(sinθ2/S2)≦2.1の範囲、好ましくは、1.4≦(sinθ1/S1)/(sinθ2/S2)≦1.7の範囲に設定されている。
なお、このときの曲率C1がとり得る範囲は、0.003≦C1≦0.0065、曲率C2がとり得る範囲は、0.016≦C2≦0.043となる。
【0045】
図3(a)に示すように、ショーツ1を構成する前身頃2と後身頃3の胴部における長さをWf,Wbとすると、ショーツ1の全横幅Wh=(Wf+Wb)/2と表わされる。このとき、胴部において、ショーツ1の全横幅Whに対する前身頃2の横幅Wfの比Wf/Whが、0.48<Wf/Wh≦0.56の範囲に設定されていることが好ましく、0.5<Wf/Wh≦0.54の範囲に設定されていることがより好ましい。表現を異ならせると、0.78≦(Wh-Wf)/Wf<1.08の範囲に設定されていることが好ましく、0.84≦(Wh-Wf)/Wf<1.0の範囲に設定されていることがより好ましい。
【0046】
前身頃2の下端側縁部2d,2eと後身頃3の下端側縁部3d,3eとマチ部4の左右縁部4b,4cによって左右の脚刳り部が形成される。そして、後身頃3の下端側縁部3d,3eが伸縮性の小さな方向に沿って配された編地であるため、少なくとも後身頃3の下端側縁部3d,3eでの伸びは抑制される。前身頃2の左右縁部と後身頃の左右縁部を接合する脇部接合部Aが腹部側に位置するので、脚刳り部のうち伸びが抑制される範囲が広くなり、足刳部の高い位置から伸びを抑制するため、それだけ裾部のずり上がり抑制効果が増す。ショーツ1の全横幅Whに対する前身頃の横幅Wfの比Wf/Whが、0.48<Wf/Wh≦0.56の範囲に設定されていると、裾部のずり上がり抑制効果を確保しつつ着用者の腿部への食い込みを抑制でき、良好な着用感が得られるようになる。
【0047】
さらに、図3(b)に示すように、左右の脚繰り部の間において、ショーツ1を構成する前身頃2と後身頃3の最大長さをWfmax,Wbmaxとすると、ショーツ1の最大横幅Whmax=(Wfmax+Wbmax)/2と表わされる。このとき、左右の脚繰り部の間におけるショーツ1の最大横幅Whmaxに対する前身頃の最大横幅Wfmaxの比Wfmax/Whmaxが、0.52<Wfmax/Whmax≦0.60の範囲に設定されていることが好ましく、0.53<Wfmax/Whmax≦0.56の範囲に設定されていることがより好ましい。表現を異ならせると、0.66≦(Whmax-Wfmax)/Wfmax<0.92の範囲に設定されていることが好ましく、0.78≦(Whmax-Wfmax)/Wfmax<0.88の範囲に設定されていることがより好ましい。
【0048】
股上が長いショーツ1では、着用時のずり下がりを回避するため、胴部を絞る必要が生じる。そのような胴部を絞った股上が長いショーツ1では、Wf/Whを上述の数値範囲に調整しても、裾部のずり上がり抑制効果を十分に確保できない虞もある。そのような場合でも、左右の脚繰り部の間において、ショーツ1の最大横幅Whmaxに対する前身頃2の最大横幅Wfmaxの比Whmax/Wfmaxが、0.52<Wfmax/Whmax≦0.60の範囲に設定されていると、裾部のずり上がり抑制効果を確保しつつ着用者の腿部への食い込みを抑制でき、良好な着用感が得られるようになる。
【0049】
なお、上述したWf/Whの数値範囲とWfmax/Whmaxの数値範囲は、少なくとも一方を満たしていればよいが、双方を満たしているとより好ましい。
【0050】
図3(c)に示すように、左側後身頃3Lの裁断縁部3gは、上縁部3aから下縁部3fに向けた中間位置3mまでが直線状の裁断縁部3UPと、中間位置3mから下縁部3fに向けて凸曲線状の裁断縁部3LWに形成されている。凸曲線状の裁断縁部3LWの曲率は、0.060~0.070(cm-1)の範囲に設定されることが好ましく、0.063~0.67(cm-1)の範囲に設定されることがより好ましい。また、凸曲線状の裁断縁部3LWの長さLLはほぼ一定の14±2cmであることが好ましく、直線状の裁断縁部3UPの長さLUは、股上の深さに依存し、LU/(LU+LL)の値が0.3~0.55の範囲に入ることが望ましい。右側後身頃3Rも同様である。
【0051】
これらの数値範囲は、体形が異なる複数の被検者がサイズの異なるサンプルショーツを試着して得られた検査結果に基づく数値である。
【0052】
以上、説明したように、マチ部4の左右縁部4b,4cと後身頃3の左右脚刳り部3d,3eとで形成される脚刳り部が滑らかな見栄えの良い形状となり、着用時の肌当たりに違和感を与えることがない(図1(a)参照。)。
【0053】
また、図5に示すように、後身頃3の凸曲線状の裁断縁部3Lの接合により生じるダーツにより、着用者の臀部に沿って滑らかに膨出するとともに、脚刳り部を構成する後身頃3の下端側縁部3eが伸縮性の低いウェール方向となるように配されているので、着用者の腿部に適度にフィットして、後身頃3の身生地がずり上がるようなことが回避できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、身生地に解れ止め加工された編地を採用しながらも、ヒップ裾ラインのずり上がりを抑制するとともに、良好な着心地を得ながらも、ヘム部の輪郭が外衣から浮き出ることなく見映えのよいショーツが実現できる。
【符号の説明】
【0055】
1:ショーツ
2:前身頃
2a:上縁部
2b,2c:側縁部
2d,2e:下端側縁部(脚刳り部)
3:後身頃
3a:上縁部
3b,3c:側縁部
3d,3e:下端側縁部(脚刳り部)
3f:下縁部
3g,3h:裁断縁部
3L:左側後身頃
3R:右側後身頃
31:下角部
32:上角部
4:マチ部
4b,4c:側縁部
4d:後縁部
41:角部
5:当て布
6,7:脚部開口
A:脇部接合部
B:マチ部接合部
図1
図2
図3
図4
図5