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特開2024-51414潤滑油基油、グリース基油、およびグリース組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051414
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】潤滑油基油、グリース基油、およびグリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/36 20060101AFI20240404BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240404BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20240404BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20240404BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240404BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240404BHJP
【FI】
C10M105/36 ZAB
C10N50:10
C10N30:02
C10N30:08
C10N30:00 Z
C10N40:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157570
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000191250
【氏名又は名称】新日本理化株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植野 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】竹上 明伸
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB33A
4H104LA01
4H104LA04
4H104LA20
4H104PA01
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】
潤滑油基油、特にグリース基油として低温流動性、高粘度指数、高引火点、および耐熱性を付与することができ、かつ、バイオマス由来原料から得られるグリース基油を用いたグリース組成物にすることで、二酸化炭素排出量を抑制することができるグリース基油、およびグリース組成物を提供すること。
【解決手段】
一般式(1)
【化1】
[式中、kは7または8を表し、nは7~9の整数を表し、mは5~7の整数を表す。]
で表されるジエステル化合物のバイオマス度が80%以上であって、該化合物を含有することを特徴とする潤滑油基油とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
[式中、kは7または8を表し、nは7~9の整数を表し、mは5~7の整数を表す。]
で表されるジエステル化合物のバイオマス度が80%以上であって、該化合物を含有することを特徴とする潤滑油基油。
【請求項2】
潤滑油基油が、グリース基油である、請求項1に記載の潤滑油基油。
【請求項3】
一般式(1)で表されるジエステル化合物のkが7または8、nが7または9、およびmが5または7である、請求項2に記載のグリース基油。
【請求項4】
一般式(1)で表されるジエステル化合物の含有量が、80質量%以上である、請求項2または請求項3に記載のグリース基油。
【請求項5】
請求項2または請求項3のいずれかに記載のグリース基油および増ちょう剤を含有することを特徴とする、グリース組成物。
【請求項6】
請求項4に記載のグリース基油および増ちょう剤を含有することを特徴とする、グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油基油、グリース基油、およびグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油基油は、その用途、使用される装置や機械の違いにより、様々な粘度の潤滑油基油が用いられ、その使用温度も低温から高温に至るまで様々である。そのため、潤滑油基油として広範囲の温度領域で使用できるためには、低温流動性や耐熱性に優れていることが必要である。また、高温時の粘性低下による潤滑性不足、低温時の粘度増加による装置や機器の運転効率の低下を避けるため温度による粘度変化が少ないこと、即ち、高い粘度指数を有することが必要である。
【0003】
従来、潤滑油基油としては安価で入手容易な鉱物油系基油が主に使用されてきたが、耐熱性に乏しく、引火点が低く、粘度指数が低いため、最近では基本要求特性が厳しい用途においては粘度指数が高く耐熱性に優れる合成炭化水素や有機酸エステル類等の合成潤滑油基油が主に用いられている。
【0004】
特に有機酸エステル系潤滑油基油は、長寿命(耐熱性に優れる)、使用温度範囲が広い(流動点が低い、粘度指数が高い)、潤滑性が高い、揮発性が低いなどの長所を有している。現在、有機酸エステル系潤滑油基油は、ジェットエンジン用潤滑油基油、ガスタービン用潤滑油基油、コンプレッサー用潤滑油基油、機械チェーン用潤滑油基油、油圧作動用潤滑油基油、ギヤ用潤滑油基油、軸受油用潤滑基油、グリース基油等の分野にも使用されるようになってきた。
【0005】
上記有機酸エステル系潤滑油基油としては、脂肪族二塩基酸と一価アルコールの反応から得られるジエステル(以下、ジエステル化合物という。)が開示されている(特許文献1~2)。
【0006】
しかしながら、潤滑油の使用条件および耐熱性、高引火点、低温流動性、高粘度指数などの基本要求特性は益々厳しくなっており、現状の有機酸エステル系潤滑油基油を高温条件で潤滑油基油として使用すると劣化により酸価の上昇やスラッジ分の生成など熱安定性の面で問題となるようになってきた。
【0007】
近年、自動車をはじめ、各産業で使用される電気機器や機械部品において、特に回転体を持つ機械部品には、潤滑油としてグリースが使用されており、グリースに対する要求として、特に、寒冷地においては、-40℃といった低温環境下となるため、低温環境下でも潤滑性を維持、向上することが求められている。
【0008】
グリース基油としては、鉱油、合成炭化水素系基油、エーテル系基油、シリコーン系基油、フッ素系基油、エステル系基油等の石油由来の基油が知られている。
【0009】
このためグリース基油として、引火点が高く、低温流動性、および耐熱性に優れ、かつ、粘度指数が高い有機酸エステル系潤滑油基油が求められている。
【0010】
近年、循環型社会の構築を求める声の高まりとともに、石油由来原料からの脱却が望まれており、バイオマスの利用が注目されている。バイオマスは、二酸化炭素と水から光合成された有機化合物であり、それを利用することにより、再度二酸化炭素と水になる、いわゆるカーボンニュートラルな原料である。昨今、これらバイオマスを原料としたバイオマス化学製品の実用化が急速に進んでおり、汎用化学品をこれらバイオマス原料から製造する試みも行われている(特許文献3~4)。
【0011】
従来、グリース基油としての要求性能を満たし、バイオマス原料の指標であるバイオマス度が高いグリース基油は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11-172267号公報
【特許文献2】特開2014-025081号公報
【特許文献3】国際公開第2016/046490号
【特許文献4】国際公開第2019/017490号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、潤滑油基油、特にグリース基油として低温流動性、高粘度指数、高引火点、および耐熱性を付与することができ、かつ、バイオマス由来原料から得られるグリース基油を用いたグリース組成物にすることで、二酸化炭素排出量を抑制することができるグリース基油、およびグリース組成物を提供することを目的にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、かかる現状に鑑み、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、バイオマス由来原料から得られる特定構造を有するジエステル化合物が、潤滑油基油として優れており、特にグリース基油として、低温流動性、高粘度指数、高引火点、および耐熱性を付与でき、かつ特定のバイオマス度を有するグリース基油であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、以下の項目を要旨とする、潤滑油基油、特にグリース基油、およびグリース組成物を提供するものである。
【0016】
[項1]
一般式(1)
【化1】
[式中、kは7または8を表し、nは7~9の整数を表し、mは5~7の整数を表す。]
で表されるジエステル化合物のバイオマス度が80%以上であって、該化合物を含有することを特徴とする潤滑油基油。
【0017】
[項2]
潤滑油基油が、グリース基油である、[項1]に記載の潤滑油基油。
【0018】
[項3]
一般式(1)で表されるジエステル化合物のkが7または8、nが7または9、およびmが5または7である、[項2]に記載のグリース基油。
【0019】
[項4]
一般式(1)で表されるジエステル化合物の含有量が、80質量%以上である、[項2]、または[項3]に記載のグリース基油。
【0020】
[項5]
一般式(1)で表されるジエステル化合物の含有量が、90質量%以上である、[項2]、または[項3]に記載のグリース基油。
【0021】
[項6]
[項2]、または[項3]のいずれかに記載のグリース基油および増ちょう剤を含有することを特徴とする、グリース組成物。
【0022】
[項7]
[項4]に記載のグリース基油および増ちょう剤を含有することを特徴とする、グリース組成物。
【0023】
[項8]
[項5]に記載のグリース基油および増ちょう剤を含有することを特徴とする、グリース組成物。
【0024】
[項9]
前記増ちょう剤が、金属石けん系化合物、複合金属石けん系化合物、およびウレア系化合物の少なくとも1種である、[項6]に記載のグリース組成物。
【0025】
[項10]
前記増ちょう剤が、金属石けん系化合物、複合金属石けん系化合物、およびウレア系化合物の少なくとも1種である、[項7]に記載のグリース組成物。
【0026】
[項11]
前記増ちょう剤が、金属石けん系化合物、複合金属石けん系化合物、およびウレア系化合物の少なくとも1種である、[項8]に記載のグリース組成物。
【0027】
[項12]
前記金属石けん系化合物が、脂肪酸のアルカリ金属塩、またはアルカリ土類金属塩である、[項9]に記載のグリース組成物。
【0028】
[項13]
前記金属石けん系化合物が、脂肪酸のアルカリ金属塩、またはアルカリ土類金属塩である、[項10]に記載のグリース組成物。
【0029】
[項14]
前記金属石けん系化合物が、脂肪酸のアルカリ金属塩、またはアルカリ土類金属塩である、[項11]に記載のグリース組成物。
【0030】
[項15]
前記アルカリ金属塩が、リチウム塩である、[項12]に記載のグリース組成物。
【0031】
[項16]
前記アルカリ金属塩が、リチウム塩である、[項13]に記載のグリース組成物。
【0032】
[項17]
前記アルカリ金属塩が、リチウム塩である、[項14]に記載のグリース組成物。
【0033】
[項18]
前記アルカリ土類金属塩が、カルシウム塩である、[項12]に記載のグリース組成物。
【0034】
[項19]
前記アルカリ土類金属塩が、カルシウム塩である、[項13]に記載のグリース組成物。
【0035】
[項20]
前記アルカリ土類金属塩が、カルシウム塩である、[項14]に記載のグリース組成物。
【0036】
[項21]
前記脂肪酸が、炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸、またはそれらの混合物を含む、[項12]に記載のグリース組成物。
【0037】
[項22]
前記脂肪酸が、炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸、またはそれらの混合物を含む、[項13]に記載のグリース組成物。
【0038】
[項23]
前記脂肪酸が、炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸、またはそれらの混合物を含む、[項14]に記載のグリース組成物。
【0039】
[項24]
前記脂肪酸が、ヒマシ油の誘導体、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、またはそれらの混合物を含む、[項12]に記載のグリース組成物。
【0040】
[項25]
前記脂肪酸が、ヒマシ油の誘導体、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、またはそれらの混合物を含む、[項13]に記載のグリース組成物。
【0041】
[項26]
前記脂肪酸が、ヒマシ油の誘導体、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、またはそれらの混合物を含む、[項14]に記載のグリース組成物。
【0042】
[項27]
[項9]に記載のグリース組成物が、1~30質量%の金属石けん系化合物を含有する、グリース組成物。
【0043】
[項28]
[項10]に記載のグリース組成物が、1~30質量%の金属石けん系化合物を含有する、グリース組成物。
【0044】
[項29]
[項11]に記載のグリース組成物が、1~30質量%の金属石けん系化合物を含有する、グリース組成物。
【発明の効果】
【0045】
本発明の潤滑油基油、およびグリース基油は、潤滑油基油、およびグリース基油としての低温流動性、高粘度指数、高引火点、および耐熱性に優れるため、グリース組成物に低温流動性、高粘度指数、高引火点、および耐熱性を付与でき、かつ特定のバイオマス度を有する潤滑油基油、特にグリース基油として好適に使用することができる。さらに、潤滑油基油の原料を石油由来からバイオマス由来に置き換えることで、石油資源の使用量を削減するとともに、潤滑油基油製造時の二酸化炭素排出量を抑制し、環境負荷を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の潤滑油基油は、
一般式(1)
【化2】
[式中、kは7または8を表し、nは7~9の整数を表し、mは5~7の整数を表す。]
で表されるジエステル化合物のバイオマス度が80%以上であって、該化合物を含有することを特徴とする。
【0047】
上記一般式(1)で表されるジエステル化合物の、kが6以下の場合は耐熱性が低下し好ましくなく、kが9以上の場合は低温流動性が悪化し好ましくない。
【0048】
上記一般式(1)で表されるジエステル化合物の、nが6以下の場合は耐熱性が低下し好ましくなく、nが10以上の場合は低温流動性が悪化し好ましくない。
【0049】
上記一般式(1)で表されるジエステル化合物の、mが4以下の場合は耐熱性が低下し好ましくなく、mが8以上の場合は低温流動性が悪化し好ましくない。
【0050】
一般式(1)で表されるジエステル化合物の具体例としては、アゼライン酸ビス(2-ヘキシルデシル)、アゼライン酸ビス(2-ヘプチルウンデシル)、アゼライン酸ビス(2-オクチルドデシル)、アゼライン酸ビス(2-オクチルデシル)、アゼライン酸ビス(2-ヘキシルドデシル)、アゼライン酸(2-ヘキシルドデシル)(2-オクチルデシル)、セバシン酸ビス(2-ヘキシルデシル)、セバシン酸ビス(2-ヘプチルウンデシル)、セバシン酸ビス(2-オクチルドデシル)、セバシン酸ビス(2-オクチルデシル)、セバシン酸ビス(2-ヘキシルドデシル)、セバシン酸(2-ヘキシルドデシル)(2-オクチルデシル)である。
【0051】
上記一般式(1)で表されるジエステル化合物を2種以上用いて、潤滑油基油、またはグリース基油として用いることもできる。
【0052】
一般式(1)で表されるジエステル化合物の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭素数9または炭素数10の二塩基酸、または二塩基酸誘導体(酸無水物、酸ハロゲン化物、または炭素数1から3のアルキルジエステル誘導体)と、2位に直鎖状アルキル基を有するバイオマス由来アルコールとのエステル化反応、またはエステル交換反応によって得ることができ、二塩基酸、または二塩基酸誘導体は、石油由来、またはバイオマス由来のものを用いることができ、好ましくはバイオマス由来二塩基酸、またはバイオマス由来二塩基酸誘導体である。簡便性等、実用性の観点から、炭素数9または炭素数10の二塩基酸を1種類以上と、上記2位に直鎖状アルキル基を有するバイオマス由来アルコールを1種類以上加えて、エステル化反応により得る方法が最も好ましい。
【0053】
上記二塩基酸の具体例としては、アゼライン酸、セバシン酸が挙げられる。
【0054】
バイオマス由来アゼライン酸、およびバイオマス由来セバシン酸は、動物または植物由来のオレイン酸、またはひまし油から製造されている市販のバイオマス由来のものを用いることができる。
【0055】
上記2位に直鎖状アルキル基を有するバイオマス由来アルコールは、ゲルベアルコールとも呼ばれ、ゲルベアルコールの製造方法として特に限定されるものではないが、特開2021-095405号には、バイオマス由来直鎖状アルコールを原料として副生エステルの生成を抑制し、不純物が少ない高品質のゲルベアルコールを製造する方法が開示されており、ゲルベアルコールの原料としてバイオマス由来直鎖状アルコールを1種類、または2種類以上用いることができる。
【0056】
上記2位に直鎖状アルキル基を有するバイオマス由来アルコール(ゲルベアルコール)の具体例としては、2-ヘキシルデカノール、2-ヘキシルウンデカノール、2-ヘキシルドデカノール、2-ヘプチルデカノール、2-ヘプチルウンデカノール、2-ヘプチルドデカノール、2-オクチルデカノール、2-オクチルウンデカノール、2-オクチルドデカノール、が挙げられ、好ましくは、2-ヘキシルデカノール、2-ヘキシルドデカノール、2-オクチルデカノール、2-オクチルドデカノールである。
【0057】
上記2位に直鎖状アルキル基を有するバイオマス由来アルコール(ゲルベアルコール)2種以上を、一般式(1)で表されるジエステル化合物の原料として用いることもできる。
【0058】
ジエステル化合物のバイオマス度の測定は、測定対象試料を燃焼して二酸化炭素を発生させ、真空ラインで精製した二酸化炭素を、鉄触媒下において水素で還元し、グラファイトを生成させる。そして、このグラファイトを、タンデム加速器をベースとした14C-AMS専用装置(NEC社製)に装着して、14Cの計数、13Cの濃度(13C/12C)、14Cの濃度(14C/12C)の測定を行い、この測定値から標準現代炭素に対する試料炭素の14C濃度の割合を算出する。この測定では、米国国立標準局(NIST)から提供されたシュウ酸(HOxII)を標準試料とした。
【0059】
石油資源の使用量の削減、および環境負荷低減の観点から、一般式(1)で表されるジエステル化合物のバイオマス度は高ければ高いほど好ましく、潤滑油基油、またはグリース基油製造時の二酸化炭素排出量を抑制することで環境負荷を低減できる。簡便性等、実用性の観点から、一般式(1)で表されるジエステル化合物のバイオマス度は、好ましくは80~100%であり、さらに好ましくは90~100%であり、特に好ましくは99~100%である。一般式(1)で表されるジエステル化合物のバイオマス度が80%未満では、潤滑油基油、またはグリース基油製造時の二酸化炭素排出量抑制効果が小さく好ましくない。
【0060】
グリース基油中において、一般式(1)で表されるジエステル化合物の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0061】
<増ちょう剤>
本発明に使用可能な増ちょう剤は、特に限定されないが、金属石けん系化合物、複合金属石けん系化合物およびウレア系化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。増ちょう剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
金属石けん系化合物としては、例えば、リチウム石けん、カルシウム石けんが挙げられ、リチウム石けんが好ましい。ここで、リチウム石けんは、脂肪族カルボン酸またはエステルをリチウム水酸化物でけん化して得られる石けんである。リチウム石けんとしては、例えば、炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸のリチウム塩、少なくとも1個のヒドロキシ基を有する炭素数12~24の脂肪族モノカルボン酸のリチウム塩が挙げられ、ステアリン酸リチウム塩、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム塩が特に好ましい。
【0063】
複合金属石けん系化合物としては、例えば、リチウム複合石けん、カルシウム複合石けん、およびバリウム複合石けんが挙げられ、リチウム複合石けんおよびバリウム複合石けんが好ましい。ここで、リチウム複合石けんは、複数の脂肪族カルボン酸またはエステルをリチウム水酸化物でけん化して得られる石けんであり、バリウム複合石けんは、複数の脂肪族カルボン酸またはエステルを、バリウム水酸化物でけん化して得られる石けんである。リチウム複合石けんとしては、例えば、脂肪族モノカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とのリチウム塩、2種以上の脂肪族モノカルボン酸のリチウム塩が挙げられる。
【0064】
ウレア系化合物としては、特に限定されないが、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物等が挙げられ、ジウレア化合物が好ましい。ジウレア系化合物としては、例えば、下記一般式(2)で表されるジウレア化合物が挙げられる。
【化3】
【0065】
上記一般式(2)中、R1は炭素数6~15の芳香族炭化水素基を表し、RおよびRは、互いに独立して、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、シクロヘキシル基、炭素数7~12のアルキルシクロヘキシル基、炭素数8~22のアルキル基または炭素数8~22のアルケニル基を表す。
【0066】
上記一般式(2)で表されるジウレア化合物は、公知の方法によりアミンとジイソシアネート化合物とを反応させることにより得ることができる。アミンとしては、例えば、炭素数6~18の芳香族アミン、シクロヘキシルアミン、炭素数7~12のアルキルシクロヘキシルアミン、炭素数8~22のアルキルまたはアルキルアミン、およびそれらの混合物等が挙げられる。ジイソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、2,4’-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネートが挙げられる。
【0067】
グリース組成物中に含まれる増ちょう剤の配合量は、グリース組成物の全質量に対して1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。増ちょう剤の含有量がこのような範囲にあると、グリースが適度な硬さを有して漏洩することが少なく、流動性も良好であるため低温性にも優れる。
【0068】
また、本発明に係る潤滑油基油は、鉱油、ポリ-α-オレフィン、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の炭化水素油、本発明に係るジエステル化合物以外のエステル(以下「併用エステル」という。)、およびポリアルキレングリコール、フェニルエーテル、シリコーン油よりなる群から選ばれる1種若しくは2種以上の化合物を適宜併用して混合基油とすることができる。混合基油における本発明に係るジエステル化合物の割合は5質量%以上であり、併用する油種に応じて好適な混合比は異なる。
【0069】
鉱油としては、動粘度が3~30mm/s(100℃)程度のものが適当である。
【0070】
α-オレフィンオリゴマーとしては、炭素数8~12の直鎖状のα-オレフィィンの3~10量体が推奨される。
【0071】
アルキルベンゼン及びアルキルナフタレンとしてはアルキル基が直鎖型でも分岐型でもよく、平均分子量が200~1000のものが推奨される。
【0072】
炭化水素油を併用する場合には、混合基油全体に対して本発明に係るジエステル化合物の割合が5~40質量%、好ましくは10~30質量%が適当である。そのような混合基油を用いれば、潤滑油の添加剤溶解性、ゴム膨潤性、酸化安定性の良好なものが得られる。
【0073】
併用エステルとしては、本発明に係るジエステル化合物を除く脂肪族エステル、芳香族カルボン酸エステル及びポリオールエステルが例示され、本発明に係るジエステル化合物と併用エステルとを混合して用いる場合、本発明に係るジエステル化合物の割合としては20質量%以上、好ましくは50質量%以上が適当である。このように併用エステルを用いることにより混合基油の高温安定性を改良できる。
【0074】
ポリアルキレングリコールとしては、プロピレンオキサイドあるいはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合物が例示され、特に40℃の動粘度が10~4,000mm/sの範囲のものが推奨される。
【0075】
これらのポリアルキレングリコールに本発明に係るジエステル化合物を混合して用いる場合、混合基油全体に対する本発明に係るジエステル化合物の割合としては50~95質量%、好ましくは70~90質量%が適当である。このようにポリアルキレングリコールを混合することにより混合基油の高温安定性を改良できる。
【0076】
フェニルエーテルとしては、モノアルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、例えばビス(m-フェノキシフェニル)エーテルやm-ビス(m-フェノキシフェノキシ)ベンゼン等が例示され、本発明に係るジエステル化合物とフェニルエーテルを混合して用いる場合、混合基油全体に対する本発明に係るジエステル化合物の割合としては好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上が適当である。このようにフェニルエーテルを混合することにより混合基油の酸化安定性や潤滑性を向上させたり、コストダウンすることが可能となる。
【0077】
シリコーン油としてはジメチルシリコーンやフェニルシリコーン等が例示され、本発明に係るジエステル化合物とシリコーン油を混合して用いる場合、混合基油全体に対する本発明に係るジエステル化合物の割合としては好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上が適当である。このようにシリコーン油を混合することにより混合基油の潤滑性や添加剤の溶解性を向上させたり、コストダウンすることが可能となる。
【0078】
本発明に係る潤滑油基油には、その性能を向上させるために、酸化防止剤、耐摩耗剤、清浄分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不活性剤、金属腐食防止剤、防錆剤、消泡剤等の添加剤の1種又は2種以上を適宜配合することも可能である。所定の効果を奏する限り特に限定されるものではないが、その具体的処方例を以下に示す。
【0079】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、芳香族アミン系、硫黄系、フォスファイト系、ジチオリン酸亜鉛系の化合物が例示され、通常、基油に対して0.1~5質量%添加される。
【0080】
耐摩耗剤としては、有機硫黄系、有機リン系、ジチオリン酸亜鉛系、長鎖脂肪酸系の化合物が例示され、通常、基油に対して0.05~5質量%添加される。
【0081】
清浄分散剤としては、塩基性スルホネート、超塩基性スルホネート、塩基性フェネート、サリシネート、ホスホネート、コハク酸イミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、共重合系ポリマー等の化合物が例示され、通常、基油に対して2~10質量%添加される。
【0082】
粘度指数向上剤としては、ポリアルキルメタクリレート系、エチレン-プロピレンコポリマー系、スチレン-ブタジエンコポリマー系の化合物が例示され、通常、基油に対して1~20質量%添加される。
【0083】
流動点降下剤としては、ポリメタクリレート系、アルキル化ナフタレン系の化合物が例示され、通常、基油に対して0.1~2質量%添加される。
【0084】
金属不活性剤及び腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール系、チアジアゾール系の化合物が例示され、通常、基油に対して0.01~0.4質量%添加される。
【0085】
防錆剤としては、スルホン酸塩系、カルボン酸系、有機アミン石けん系、ソルビタン部分エステル系の化合物が例示され、通常、基油に対して0.05~3質量%添加される。
【0086】
消泡剤としては、ポリジメチルシリコーン等のシリコーン系化合物が例示され、通常、基油に対して1~20ppm添加される。
【実施例0087】
以下に実施例を掲げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、各例における潤滑油基油およびグリース組成物の物理特性および化学特性は以下の方法により評価した。特に言及していない化合物は試薬を使用した。
【0088】
<使用化合物>
・2-ヘキシルデカノール:「エヌジェコール160BR」(新日本理化株式会社製)
・2-オクチルドデカノール:「エヌジェコール200A」(新日本理化株式会社製)
・2-オクチルデカノール/2-ヘキシルドデカノール:「ファインオキソコール180T」(日産化学株式会社製)
・2-デシルテトラデカノール:「エヌジェコール240A」(新日本理化株式会社製)
・2-エチルヘキサノール:「2-エチルヘキサノール」(東京化成工業株式会社製)
・アゼライン酸:「アゼライン酸」(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・セバシン酸:「セバシン酸」(東京化成工業株式会社製)
・フタル酸:「フタル酸」(東京化成工業株式会社製)
・ポリ-α-オレフィン:「Synfluid PAO 6 cSt」(Chevron Phillips Chemical社製)
・鉱物油:「NEXBASE3043」(Neste社製)
<増ちょう剤>
・ステアリン酸リチウム:「ステアリン酸リチウム」(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0089】
<ジエステル化合物の物性評価>
(a)酸価
JIS-K-2501(2003)に準拠して測定した。なお検出限界は0.01KOHmg/gである。
【0090】
(b)動粘度
JIS-K-2283(2000)に準拠して、40℃、100℃における動粘度を測定した。
40℃での動粘度が25~50mm/sの範囲のときに潤滑性能や省エネルギーの点で良好と評価される。
【0091】
(c)粘度指数
JIS-K-2283(2000)に準拠して算出した。粘度指数が160以上のときに粘度-温度特性が優れていると評価される。
【0092】
(d)低温流動性試験(流動点)
JIS-K-2269(1987)に準拠して、自動流動点・曇り点測定装置(田中科学機器製作所株式会社製 装置名;MPC-6)により流動点を測定した。流動点が-40℃以下のときに低温流動性が優れていると評価される。
【0093】
(e)耐蒸発性
潤滑油基油約10mgを精秤し(小数点以下第3位まで)、TG-DTA装置(株式会社島津製作所製 装置名;DTG-60H)にセットし、下記の測定条件下で、初期の質量から5%の質量が減少した時の温度(5%質量減の温度)を耐蒸発性の指標とした。5%質量減の温度が320℃以上のときに耐蒸発性に優れていると評価される。
[測定条件]
昇温速度:10℃/分
流通窒素量:300ml/分
測定開始温度:50℃
【0094】
(f)引火点
JIS-K-2265-4(2007)に準拠して、自動引火点試験器(クリーンブランド開放式)(吉田科学器械株式会社製 装置名;aco-8)により引火点を測定した。引火点の温度が260℃以上のときに耐引火性に優れていると評価される。
【0095】
ジエステル化合物のバイオマス度の測定は、測定対象試料を燃焼して二酸化炭素を発生させ、真空ラインで精製した二酸化炭素を、鉄触媒下において水素で還元し、グラファイトを生成させる。そして、このグラファイトを、タンデム加速器をベースとした14C-AMS専用装置(NEC社製)に装着して、14Cの計数、13Cの濃度(13C/12C)、14Cの濃度(14C/12C)の測定を行い、この測定値から標準現代炭素に対する試料炭素の14C濃度の割合を算出する。この測定では、米国国立標準局(NIST)から提供されたシュウ酸(HOxII)を標準試料とした。
【0096】
(h)混和ちょう度
JIS-K-2220(2013)に準拠して、混和ちょう度の測定を行った。
【0097】
(i)滴点
JIS-K-2220(2013)に準拠して、滴点の測定を行った。滴点の温度が190℃以上のときに耐熱性に優れると評価される。
【0098】
(j)潤滑油基油の評価
潤滑油基油の評価としては、動粘度の評価、粘度指数の評価、耐蒸発性(5%質量減の温度)の評価、引火点の評価、および低温流動性の評価の結果において、40℃での動粘度が25~50mm/sの範囲、粘度指数が160以上、耐蒸発性(5%質量減の温度)が320℃以上、引火点の温度が260℃以上、および低温流動性試験(流動点)の流動点が-40℃以下であれば良好と評価される。
【0099】
[実施例1]
撹拌機、温度計および冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに、アゼライン酸148g(0.78モル)、2-ヘキシルデカノール388g(1.59モル)、キシレン(原料の総量に対し10質量%)および触媒としてテトラ-n-ブトキシチタン(原料の総量に対し0.1質量%)を仕込み、窒素雰囲気下、徐々に200℃まで昇温し、常圧から徐々に減圧度を高めながら6時間、留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を行った。反応終了後、キシレンおよび過剰のアルコールを蒸留にて除去し、エステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物の酸価に対して2当量の苛性ソーダ水溶液で中和した後、水洗水が中性になるまで繰り返し水洗した。更に、得られたエステル化粗物を活性炭で吸着処理した後、濾過により活性炭を除去して、ジエステル化合物を得た。得られたジエステル化合物(1)の酸価は0.01KOHmg/g以下であった。ジエステル化合物(1)を潤滑油基油として評価をおこない、結果を表1に示した。
【0100】
[実施例2]
実施例1の2-ヘキシルデカノールに代えて、2-オクチルデカノール/2-ヘキシルドデカノール426g(1.58モル)を用いた他は、実施例1と同様の方法により、ジエステル化合物を得た。得られたジエステル化合物(2)の酸価は0.01KOHmg/g以下であった。ジエステル化合物(2)を潤滑油基油として評価をおこない、結果を表1に示した。
【0101】
[実施例3]
実施例1の2-ヘキシルデカノールに代えて、2-オクチルドデカノール470g(1.58モル)を用いた他は、実施例1と同様の方法により、ジエステル化合物を得た。得られたジエステル化合物(3)の酸価は0.01KOHmg/g以下であった。ジエステル化合物(3)を潤滑油基油として評価をおこない、結果を表1に示した。
【0102】
[実施例4]
実施例1のアゼライン酸に代えて、セバシン酸115g(0.77モル)を用いた他は、実施例1と同様の方法により、ジエステル化合物を得た。得られたジエステル化合物(4)の酸価は0.01KOHmg/g以下であった。ジエステル化合物(4)を潤滑油基油として評価をおこない、結果を表1に示した。
【0103】
[比較例1]
実施例1の2-ヘキシルデカノールに代えて、2-デシルテトラデカノール559g(1.58モル)を用いた他は、実施例1と同様の方法により、本発明外のジエステル化合物を得た。得られた本発明外のジエステル化合物(5)の酸価は0.01KOHmg/g以下であった。本発明外のジエステル化合物(5)を潤滑油基油として評価をおこない、結果を表2に示した。
【0104】
[比較例2]
実施例1のアゼライン酸に代えて、フタル酸130g(0.78モル)、2-ヘキシルデカノールに代えて、2-エチルヘキサノール204g(1.57モル)を用いた他は、実施例1と同様の方法により、本発明外のジエステル化合物を得た。得られた本発明外のジエステル化合物(6)の酸価は0.01KOHmg/g以下であった。本発明外のジエステル化合物(6)を潤滑油基油として評価をおこない、結果を表2に示した。
【0105】
[比較例3]
ポリ-α-オレフィンを本発明外の潤滑油基油として評価をおこない、結果を表2に示した。
【0106】
[比較例4]
鉱物油を本発明外の潤滑油基油として評価をおこない、結果を表2に示した。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
[実施例5~7]
実施例1~3の方法で得られたジエステル化合物(1)~(3)と増ちょう剤であるステアリン酸リチウムを、ジエステル化合物:ステアリン酸リチウム=85:15(質量%)で混合しグリース組成物とした。得られたグリース組成物の混和ちょう度および滴点を測定した。
500mLのセパラブルフラスコにジエステル化合物170gとステアリン酸リチウム30gを加え、200℃で3時間攪拌し、ジエステル化合物中にステアリン酸リチウムを溶解させ、室温まで冷却を行った。得られたグリース組成物の混和ちょう度および滴点を表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
表1から、本発明の潤滑油基油は、低温流動性、高粘度指数、および耐蒸発性に優れ、引火点が高く、かつ、バイオマス度が高く、潤滑油基油、特にグリース基油として優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の潤滑油基油は、低温流動性に優れ、高粘度指数、および引火点が高く、耐熱性が良好かつ、バイオマス度が高いことから、潤滑油基油、またはグリース基油として使用することにより二酸化炭素排出量を抑制することができ、自動車や各種精密機器類の軸受部、摺動部等に使用することができる。