(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051420
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20240404BHJP
H05H 1/30 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
H01J49/00 450
H05H1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157578
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 朋也
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084CC15
2G084DD04
2G084DD13
2G084DD22
2G084FF26
2G084FF28
2G084HH02
2G084HH34
2G084HH42
(57)【要約】
【課題】ECR-LICP型ラジカル生成部を備えた質量分析装置においてヘリカルアンテナと外側導体を電気的に接触させる位置を容易に微調整する。
【解決手段】誘電体管410と、前記管の外周に巻回された導電体のヘリカルアンテナ411と、磁石が埋設された外側導体412と、外側導体に固定され前記管を保持する枠部材44と、前記管の中心軸方向の位置が固定され該軸周りに回転自在に枠部材に取り付けられ内周面にネジ溝が形成された貫通孔を有する回転部材431と、ヘリカルアンテナと外側導体の間隙に挿通され両者を電気的に接続する部材であって枠部材に対して周方向の位置が固定された内筒体と該内筒体と同軸の外筒体とを有し、内筒体及び外筒体の先端部に板ばね部が設けられ、内筒体の基端部の外周にネジ溝に対応するネジ山が形成された接続部材42を備える質量分析装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体から成る管と、
導電体から成り、前記管の外周に巻回されたヘリカルアンテナと、
前記管の外側に該管と同軸に設けられた筒状の部材であって、磁石が埋設され内周面が導電性の材料で構成された外側導体と、
前記外側導体の一端に固定され、前記管を保持する枠部材と、
前記外側導体の一端と対向する位置に、前記管の中心軸方向の位置が固定され該中心軸周りに回転自在に前記枠部材に取り付けられた円柱状の部材であって、前記管が挿通され内周面にネジ溝が形成された貫通孔が形成された回転部材と、
前記ヘリカルアンテナと前記外側導体の間隙に挿通され前記ヘリカルアンテナと前記外側導体を電気的に接続する部材であって、前記管の外側に該管と同軸に設けられ前記枠部材に対して周方向の位置が固定された内筒体と、該内筒体の外側に該内筒体と同軸に設けられた外筒体とを有し、該内筒体及び外筒体の先端部に両者を押し当てることによってそれぞれが内方と外方に曲がる板ばね部が設けられ、前記内筒体の基端部の外周に前記ネジ溝に対応するネジ山が形成された接続部材と
を備える質量分析装置。
【請求項2】
さらに、
前記回転部材の、前記接続部材が位置する側に配置された部材であって、前記ネジ山に対応するネジ溝が形成された貫通孔が設けられた第1回り止め部材
を備える請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
さらに、
前記回転部材の、前記接続部材が位置する側に配置された部材であって、前記ネジ山に対応するネジ溝が形成され、前記外筒体の外径よりも径が小さい貫通孔が設けられた調整部材と、
前記調整部材の、前記接続部材が位置する側と反対側に配置された部材であって、前記ネジ山に対応するネジ溝が形成された貫通孔が設けられた第2回り止め部材と
を備える請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記内筒体の外周に、前記中心軸方向の目盛りが付されている、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記回転部材の側面に、該回転部材の外周長を2以上の整数で等分した位置に目盛りが付されている、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項6】
さらに、
前記管のうち、前記ヘリカルアンテナが巻回された部分の内部空間に光を照射する光源
を備え、
前記管のうち、前記内筒体に囲まれた部分よりも原料ガス供給部に近い側に位置する部分の周囲が前記光源から発せられる光を透過しない部材で覆われている、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記回転部材、前記内筒体、及び前記外筒体がそれぞれ独立した部材である、請求項1に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に関する。特に、原料ガスから生成したラジカルを用いてイオンを解離させる操作を行う質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料成分由来のイオンに、水素ラジカル、酸素ラジカル、窒素ラジカルなどのラジカルを付着させることで該イオンを解離させ、それにより生成されたプロダクトイオンを質量分析する質量分析装置が知られている(例えば特許文献1、2)。例えば、ペプチド由来のイオンに対してラジカルを用いた解離操作を行うと、ペプチドのアミノ酸配列等の構造を反映した様々な種類のプロダクトイオンが生成される。こうしたプロダクトイオンが観測されたマススペクトルを解析することにより、ペプチドの構造を推定することができる。
【0003】
こうした質量分析装置で用いられるラジカル生成部として、例えば非特許文献1、2に記載のものが知られている。これらのラジカル生成部は、石英等の誘電体から成るキャピラリ管の周囲に導電線を三次元螺旋状に巻回したヘリカルアンテナを備えた構成を有する。該ヘリカルアンテナにマイクロ波電力を供給し、その渦電流によってキャピラリ管を通過する原料ガス内にプラズマを生成し、原料ガスのラジカルを生成する。
【0004】
また、非特許文献1、2に記載のラジカル生成部では、キャピラリ管の外側に磁石を配置し、この磁石による磁場を利用した電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance: ECR)現象によって、プラズマの密度を高め、且つ安定化させる。こうしたラジカル生成部は、プラズマの生成と維持に、局所的な誘導型放電と電子サイクロトロン共鳴を利用することから、ECR-LICP(Electron Cyclotron Resonance-Localized Inductively Coupled Plasma)型と呼ばれている。
【0005】
ECR-LICP型のラジカル生成部では、キャピラリ管の外周に巻回したヘリカルアンテナの外側に、間隙を挟んで該ヘリカルアンテナと同軸に略円筒状の外側導体が設けられており、該外側導体は接地されている。ヘリカルアンテナと外側導体の間隙に導電性の接続部材を挿入し、該接続部材によってヘリカルアンテナの長手方向の適宜の部位と外側導体を電気的に接続する。これにより、ヘリカルアンテナのインピーダンスが決まり、該インピーダンスを含むECR共振回路が形成される。こうしたECR-LICP型のラジカル生成部では、ECR共振回路において適切な共振が起こるように、接続部材の位置、すなわち、外側導体と電気的に接続されるヘリカルアンテナの軸方向の位置、を装置毎に調整する必要がある。
【0006】
特許文献3には、ヘリカルアンテナと外側導体の間隙に挿入される接続部材が記載されている。この接続部材は、軸方向に延びるスリットによって周方向に分割されて成る複数の分割片がそれぞれの先端部分に形成された内筒体及び外筒体で構成される二重円筒管構造を有しており、内筒体の分割片の外側の先端には、外方に膨出するテーパ部が形成されている。
【0007】
この接続部材を用いて外側導体とヘリカルアンテナを電気的に接続する際、使用者は、外筒体の分割片の先端を内筒体のテーパ部に接触させた状態で、一方の手で内筒体の基端部を保持して接続部材をヘリカルアンテナと外側導体の間隙に差し込み、他方の手で外筒体を軸方向に先端側へと移動させ、ヘリカルアンテナを外側導体と電気的に接触させてプラズマが良好に生成される位置を決定する。プラズマが良好に生成される位置を決定すると、他方の手で外筒体を内筒体に対して軸方向に進出させる。これによって、内筒体のテーパ部が外筒体の分割片を外方に押圧し、その外筒体の分割片が外方に曲がって外側導体に押し当てられる。また、これと同時に外筒体の分割片が内筒体のテーパ部を内方に押圧し、内筒体の分割片が内方に曲がってヘリカルアンテナに押し当てられる。内筒体の分割片と外筒体の分割片は板ばねとして機能し、内筒体の分割片がヘリカルアンテナに密着し、外筒体の分割片が外側導体の内周面に密着して、ヘリカルアンテナと外側導体が電気的に接触した状態で固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-191081号公報
【特許文献2】国際公開第2019/155725号
【特許文献3】国際公開第2022/059247号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yuji Simabukuro、ほか4名、「タンデム・マス・スペクトロメトリー・オブ・ペプタイド・イオンズ・バイ・マイクロウェイブ・エキサイテッド・ハイドロジェン・アンド・ウォーター・プラズマズ(Tandem Mass Spectrometry of Peptide Ions by Microwave Excited Hydrogen and Water Plasmas)」、Analytical Chemistry、2018年、Vol.90、No.12、pp.7239-7245
【非特許文献2】島袋祐次(Yuji Simabukuro)、「コンプリヘンシブ・スタディ・オン・ザ・ロー-エナジー・アトミック・ハイドロゲン・ビーム:フロム・プロダクション・トゥー・ベロシティ・ディストリビューション・メジャーメント(Comprehensive Study on the Low-energy Atomic Hydrogen Beam: From Production to Velocity Distribution Measurement」(博士論文本文)、[online]、[2020年4月8日検索]、同志社大学学術リポジトリー、インターネット<URL: https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/27819/zk1079.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のECR共振回路では、ヘリカルアンテナと外側導体の接触位置が1~数mm程度異なると共振状態が大きく変化する。そのため、両者の接触位置を1mm単位、あるいはそれ以下のレベルで微調整する必要がある。しかし、上記の接続部材を使用する際には、一方の手で内筒体の基端部を保持しつつ、他方の手で外筒体を軸方向に進出させて内筒体の先端部に押し当てて固定するため、外筒体を内筒体の先端部に押し当てる際に内筒体も同時に進出させてしまうなどして位置ずれが生じやすく、ヘリカルアンテナと外側導体の接触位置を微調整することが難しいという問題があった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ECR-LICP型のラジカル生成部を備えた質量分析装置において、ヘリカルアンテナと外側導体を電気的に接触させる位置を容易に微調整することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、
誘電体から成る管と、
導電体から成り、前記管の外周に巻回されたヘリカルアンテナと、
前記管の外側に該管と同軸に設けられた筒状の部材であって、磁石が埋設され内周面が導電性の材料で構成された外側導体と、
前記外側導体の一端に固定され、前記管を保持する枠部材と、
前記外側導体の一端と対向する位置に、前記管の中心軸方向の位置が固定され該中心軸周りに回転自在に前記枠部材に取り付けられた円柱状の部材であって、前記管が挿通され内周面にネジ溝が形成された貫通孔が形成された回転部材と、
前記ヘリカルアンテナと前記外側導体の間隙に挿通され前記ヘリカルアンテナと前記外側導体を電気的に接続する部材であって、前記管の外側に該管と同軸に設けられ前記枠部材に対して周方向の位置が固定された内筒体と、該内筒体の外側に該内筒体と同軸に設けられた外筒体とを有し、該内筒体及び外筒体の先端部に両者を押し当てることによってそれぞれが内方と外方に曲がる板ばね部が設けられ、前記内筒体の基端部の外周に前記ネジ溝に対応するネジ山が形成された接続部材と
を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る質量分析装置は、誘電体から成る管(誘電体管)と、その外周に巻回された導電体から成るヘリカルアンテナとを備えている。この質量分析装置では、使用時に、誘電体管の内部に原料ガスを供給するとともに、ヘリカルアンテナに高周波電力を供給することにより原料ガスのプラズマを発生させてラジカルを生成する。本発明に係る質量分析装置は、また、誘電体管と同軸に設けられた筒状の部材であって、磁石が埋設され内周面が導電性の材料で構成された外側導体を備えたECR-LICP型の構成を有している。本発明に係る質量分析装置は、さらに、ヘリカルアンテナと外側導体を接触させて両者を電気的に接続する位置を調整するための接続部材を備えており、外側導体を接地し、この接続部材でヘリカルアンテナと外側導体が接触する位置を調整することによりECR共振回路の共振状態を調整する。
【0014】
本発明に係る質量分析装置は、さらに、外側導体の一端に固定され誘電体管を保持する枠部材を有している。枠部材の、外側導体の一端と対向する位置には、誘電体管の中心軸方向の位置が固定され該中心軸周りに回転自在に、円柱状の回転部材が取り付けられている。回転部材には、誘電体管を挿通する貫通孔が形成されており、その内周面にはネジ溝が形成されている。
【0015】
本発明における接続部材は、外側導体の一端に固定された枠部材に対して周方向の位置が固定された内筒体と、該内筒体の外側に配置された外筒体とを有している。内筒体及び外筒体の先端部には、両者を押し当てることによってそれぞれが内方と外方に曲がる板ばね部が設けられている。また、内筒体の外周には回転部材の内周面のネジ溝に対応するネジ山が形成されている。
【0016】
ヘリカルアンテナと外側導体を接触させる位置を調整する際には、外筒体と内筒体の先端部を接触させた状態で、回転部材を回転させることにより内筒体を誘電体管の軸方向に進出させ、ヘリカルアンテナを外側導体と電気的に接触させてプラズマが良好に生成される位置を決定する。プラズマが良好に生成される位置を決定すると、外筒体を内筒体に対して軸方向に進出させて両者の先端に設けられた板ばね部をそれぞれ内方と外方に曲げて、内筒体をヘリカルアンテナに密着させ、外筒体を外側導体に密着させて固定する。本発明に係る質量分析装置では、外側導体に固定された枠部材に保持されることで誘電体管の中心軸方向に固定された回転部材によって内筒体の軸方向の位置が固定された状態で、外筒体を内筒体に対して軸方向に進出させるため、作業中に内筒体の位置ずれを生じさせることなく、ヘリカルアンテナと外側導体を電気的に接触させる位置を容易に微調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る質量分析装置の一実施形態の概略構成図。
【
図2】本実施形態におけるラジカル生成部の本体上部の概略構成を示す断面図。
【
図3】本実施形態におけるラジカル生成部の本体下部の概略構成を示す断面図。
【
図8】本実施形態におけるラジカル生成部の本体上部の側面図。
【
図9】本実施形態においてヘリカルアンテナと外側導体部を電気的に接触させた状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る質量分析装置の実施形態について、以下、図面を参照して説明する。
【0019】
<質量分析装置1の概略構成>
図1は、本発明の一実施形態である質量分析装置1の概略構成図である。本実施形態の質量分析装置1は、大気圧イオン源を備えた四重極-飛行時間型(Q-TOF型)質量分析装置である。この質量分析装置1は、その前段に液体クロマトグラフ(LC)を接続し、液体クロマトグラフ質量分析装置として使用することもできる。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の質量分析装置1は、イオン化室10と真空チャンバ100を有する。イオン化室10内は略大気圧雰囲気である。真空チャンバ100の内部は複数(本実施形態では4室)に区画されており、イオン化室10に近い側から順に、第1中間真空室11、第2中間真空室12、第1分析室13、及び第2分析室14となっている。これらの各室はそれぞれ図示しない真空ポンプ(ロータリーポンプ及び/又はターボ分子ポンプ)により真空排気されており、略大気圧雰囲気であるイオン化室10から高真空雰囲気である第2分析室14に向かって順に真空度が高まる、多段差動排気系の構成を有している。
【0021】
イオン化室10には、液体試料に電荷を付与して噴霧するエレクトロスプレーイオン化(ESI)プローブ101が設置されている。ESIプローブ101には、例えば図示しないLCのカラムで分離された試料成分を含む試料液が導入される。
【0022】
イオン化室10と第1中間真空室11は、細径の脱溶媒管102を通して連通している。第1中間真空室11には、イオンの飛行経路の中心軸であるイオン光軸Cを取り囲むように配置された複数のロッド電極で構成され、該イオン光軸Cの近傍にイオンを収束させるイオンガイド111が配置されている。
【0023】
第1中間真空室11と第2中間真空室12は、頂部に小孔を有するスキマー112で隔てられている。第2中間真空室12にも、イオン光軸Cを取り囲むように配置された複数のロッド電極で構成され、該イオン光軸Cの近傍にイオンを収束させるイオンガイド121が配置されている。
【0024】
第1分析室13には、イオン光軸Cに沿って、イオンを質量電荷比(m/z)に応じて分離する四重極マスフィルタ131、多重極イオンガイド133を内部に備えたコリジョンセル132、及びコリジョンセル132を通過したイオンを輸送するためのイオン輸送電極134、が配置されている。四重極マスフィルタ131及び多重極イオンガイド133はそれぞれ複数のロッド電極で構成されている。イオン輸送電極134は、複数のリング状の電極で構成されている。
【0025】
コリジョンセル132には、ラジカル生成部4が接続されている。コリジョンセル132では、ラジカル生成部4から供給される酸素ラジカル等のラジカルによってイオンを解離させる。ラジカル生成部4については後記する。コリジョンセル132には、ラジカル生成部4以外に、衝突誘起解離を生じさせるための衝突ガス(通常はアルゴンなどの不活性ガス)を供給するガス供給部も必要に応じて接続することができる。
【0026】
第2分析室14には、第1分析室13から入射したイオンを輸送するためのイオン輸送電極141、イオンの光軸Cを挟んで対向配置された1組の押出電極と引込電極を有する直交加速部142、該直交加速部142により飛行空間に送出されるイオンを加速する加速電極143、飛行空間においてイオンの折り返し軌道を形成するリフレクトロン電極144、イオン検出器145、及び飛行空間を内部に形成するフライトチューブ146を備えている。イオン検出器145は、例えば電子増倍管やマルチチャンネルプレートである。
【0027】
本実施径形態の質量分析装置1は、さらに、制御・処理部5、入力部6、及び表示部7を備えている。制御・処理部5は、上記各部の動作を制御するとともに、イオン検出器145による検出信号を受けて、所定のデータ処理を実施する機能を有する。制御・処理部5は、例えば汎用のパーソナルコンピュータ(PC)により構成され、該コンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウェアをプロセッサで実行することにより、各種の機能が具現化される。
【0028】
本実施形態の質量分析装置1における典型的なMS/MS分析の動作の一例を説明する。
【0029】
ESIプローブ101は、供給される液体試料に電荷を付与しつつ、該液体試料をイオン化室10内に噴霧する。噴霧された帯電液滴中の試料成分は、液滴が微細化されるとともに溶媒が気化する過程でイオン化される。生成された試料成分由来のイオンは、脱溶媒管102の両側に位置するイオン化室10と第1中間真空室11の圧力差によって形成されるガス流に乗って脱溶媒管102に吸い込まれ、第1中間真空室11へ送られる。第1中間真空室11に入射したイオンはイオン光軸Cに沿って飛行し、イオンガイド111、スキマー112の小孔、イオンガイド121を順に通過して第1分析室13に送られ、四重極マスフィルタ131に進入する。
【0030】
四重極マスフィルタ131を構成する複数のロッド電極には、図示しない電源から直流電圧と高周波電圧を重畳した電圧が印加される。この印加電圧に応じた特定の質量電荷比(m/z)値を有するイオン(プリカーサイオン)のみが選択的に四重極マスフィルタ131を通過し、コリジョンセル132に進入する。コリジョンセル132には、ラジカル生成部4からラジカルが供給され、コリジョンセル132に導入されたプリカーサイオンはラジカルと反応して解離する。解離により生成された各種のプロダクトイオンは、多重極イオンガイド133により形成される電場の作用によって収束されつつコリジョンセル132を通過し、イオン輸送電極134、イオン輸送電極141を順に通過して直交加速部142に進入する。
【0031】
直交加速部142の電極には、図示しない電源から所定のタイミングでパルス電圧が印加される。このパルス電圧の印加により押出電極と引込電極の間に形成される電場によって、直交加速部142に導入されたイオンはイオン光軸Cと略直交する方向に射出される。直交加速部142から射出されたイオンは加速電極143で加速され、フライトチューブ146内の飛行空間に導入される。その後、イオンは、リフレクトロン電極144により形成される反射電場により折り返し飛行し、イオン検出器145に到達する。イオン検出器145は、入射したイオンの量に応じた検出信号を制御・処理部5へと出力する。イオンが直交加速部142を出発した時点からイオン検出器145に到達する時点までの飛行時間は、イオンの速度に依存し、そのイオン速度は各イオンのm/z値に依存する。制御・処理部5では、イオン検出器145により得られた検出信号に基づいて飛行時間とイオン強度との関係を示す飛行時間スペクトルを作成し、飛行時間を質量電荷比に換算してマススペクトルを作成する。
【0032】
例えば、既知の試料成分の構造解析を行う場合には、四重極マスフィルタ131で選択するプリカーサイオンの質量電荷比を目的成分の代表的なイオンの質量電荷比の値に設定し、該値を有する特定のプリカーサイオンから生成されるプロダクトイオンを質量電荷比に応じて分離しつつ網羅的に検出する。そうして得られるマススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)には、目的の試料成分分子の様々な部分構造に対応するプロダクトイオンが観測される。制御・処理部5は、そうしたマススペクトルを解析することにより試料成分の構造推定を実施することができる。
【0033】
<ラジカル生成部4の構成>
次に、コリジョンセル132に供給するラジカルを生成する、ラジカル生成部4の構成を説明する。
【0034】
ラジカル生成部4はECR-LICP型のラジカル生成部であり、
図1に示すように、ラジカル生成室400を含む本体部40と、原料ガス供給部48と、マイクロ波電源46とを有している。原料ガス供給部48からラジカル生成室400に至る流路には、原料ガスの流量を調整するためのバルブ41が設けられている。
【0035】
<本体部40の構成>
次に、本体部40の構成を説明する。
図2は、本体部40の上流(原料ガス供給部48に近い)部分の構造を示す概略断面図である。
図3は、本体部40の下流(コリジョンセル132に近い)部分の構造を示す概略断面図である。
【0036】
本体部40は、原料ガス供給部48から供給される原料ガスを用いてプラズマを生成し、該プラズマ中で発生したラジカルをコリジョンセル132に供給する。マイクロ波電源46は、プラズマを生成するためのマイクロ波電力を供給するものである。原料ガスには、例えば、水蒸気、酸素ガス、乾燥空気、窒素ガス、水素ガスなどが用いられる。
【0037】
本体部40は、絶縁体且つ誘電体である石英やアルミナなどから成る中心円筒管410と、中心円筒管410の周囲に螺旋状に巻回された帯状の導電体(通常は金属)であるヘリカルアンテナ411と、中心円筒管410と同軸で、内径が中心円筒管410の外径よりも大きい円筒状の開口を有する導電体から成る外側導体部412と、磁石413、415と、外側導体部412を保持するケーシング414と、ケーシング414に取り付けられたマイクロ波供給コネクタ416とを有している。ヘリカルアンテナ411には、例えば、導電性と成形性が高い純銅に近い材料(無酸素銅、タフピッチ銅など)が用いられる。また、酸化防止のために、その表面に金メッキが施されることが好ましい。
【0038】
外側導体部412の上面には抑え板435が取り付けられている。抑え板435は、
図4に示すような円盤状の部材であり、中央に、中心円筒管410等が挿入される1つの開口4351が設けられており、その周囲にも後記する支柱部材441が挿入される4つの開口4352が設けられている。中央の開口4351には、後記するプランジャ421及びスリーブ424の、中心円筒管410の中心軸周りの回転を規制する突起4353が設けられている。
【0039】
外側導体部412の上面には、抑え板435を挟んで4本の支柱部材441が立設されており、各支柱部材441の上端部には円盤状の天板部材442が固定されている。天板部材442の内部には、中心円筒管410の上端が差し込まれており、原料ガス供給部48から延びる流路に接続されている。また、天板部材442の下面の3箇所には周方向に等間隔にスラストワッシャ443(
図2では1つのみ図示)が固定されている。本実施形態における支柱部材441、天板部材442、及びスラストワッシャ443は、枠部材44を構成する。なお、天板部材442には、後記する光源417から発せられる波長の光を透過しない材料から成るもの(アルミニウム合金やステンレス鋼など)が用いられる。
【0040】
中心円筒管410の内部は、原料ガスが導入される原料ガス導入管であり、またラジカル生成室として用いられる。具体的には、中心円筒管410の内部空間のうち、ヘリカルアンテナ411が巻回された部分とその近傍がラジカル生成室400となる。マイクロ波供給コネクタ416は同軸コネクタであり、図示しない同軸ケーブルを介してマイクロ波電源46に接続される。同軸コネクタの導電線は、ヘリカルアンテナ411の一端に接続されている。また、外側導体部412は接地されている。後記するように、ヘリカルアンテナ411の一部と外側導体部412は電気的に接続され、その接続位置がヘリカルアンテナ411の接地点となる。ヘリカルアンテナ411、外側導体部412、プランジャ421、スリーブ424(プランジャ421とスリーブ424については後記)などがECRの共振器を構成する。マイクロ波電源46は、同軸ケーブル及びマイクロ波供給コネクタ416を介して、この共振器に電力を供給する。
【0041】
ケーシング414内の、ラジカル生成室400を臨む位置には、中心円筒管410に所定の波長の光を照射する光源417と、光検出器418とが設けられている。光検出器418は、ラジカル生成室400におけるプラズマから発せられる光の波長を含む所定の波長帯域の光を検出する。光検出器418には、光源417から発せられる光に対して感度を持たないものを用いることが好ましい。光源417には、例えば深紫外光を発するLED光源を使用することができる。また、光検出器418には、例えば可視光領域に感度を有する(紫外光を検出しない)フォトダイオードを用いることができる。これにより、光検出器418は、光源417から発せられる光の影響を受けることなくプラズマの発光を検出する。
【0042】
本体部40の中心円筒管410の出口端には、ラジカル生成室400内で生成されたラジカルをコリジョンセル132に輸送するための輸送管47が接続されている。輸送管47は絶縁管であり、例えば石英ガラス管やホウケイ酸ガラス管を用いることができる。
【0043】
中心円筒管410の外周には、内側から順に、筒状の部材であるプランジャ421とスリーブ424が、該中心円筒管410と同軸に配置されている。
【0044】
図5は、プランジャ421の斜視図である。プランジャ421は径が異なる2つの筒状部を組み合わせたような形状を有している。上方に位置する、径が大きい筒状部の外周の一部は平坦面に成形されており、該平坦面には1mm単位の目盛り4213が刻まれている。また、平坦面以外の外周にはねじ山(
図5では図示略)が形成されている。下方に位置する、径が小さい筒状部のうちの上部の領域の側面には軸方向に延びる細長い開口4211が設けられている。この開口4211には、抑え板435に設けられた突起4353が挿入され、それによってプランジャ421が中心円筒管410の中心軸方向に移動可能であり、かつ該軸周りに回転しないようになっている。さらに、プランジャ421の下端部は、該軸に平行な複数(本実施形態では4つ)のスリットによって複数に分割されており、それぞれ分割片4212を形成している。各分割片4212の先端には、基部側から先端部に向かうに従って徐々に外方に膨出するテーパ部4213が形成されている。
【0045】
図6はスリーブ424の斜視図である。スリーブ424は、プランジャ421よりも径が大きい筒状の部材であり、その上部と下部のそれぞれに、中心円筒管410の中心軸方向に延びる細長いスリット4241、4242が形成されている。スリーブ424の上部に形成されたスリット4241には、抑え板435の突起4353が挿入され、それによってスリーブ424が中心円筒管410の中心軸周りに回転しないようになっている。また、スリーブ424の下部は、スリット4242によって複数(本実施形態では4つ)に分割されており、それぞれ分割片4243を形成している。
【0046】
プランジャ421とスリーブ424はいずれも弾性変形する導電性の材料(又は表面が導電性の材料でコーティングされたもの)で構成されており、プランジャ421の下端部の分割片4212とスリーブ424の下端部の分割片4243は、それぞれ板ばねとして機能する。そのような材料として、例えばばね用の銅合金(ベリリウム銅、リン青銅など)を用いることができる。また、接触抵抗を減らすために、プランジャ421及びスリーブ424の表面には金メッキを施すことが好ましい。
【0047】
また、中心円筒管410の外周には、天板部材442に近い側(上側)から順に、該中心円筒管410と同軸に、第1調整ノブ431、第1回り止めナット432、第2回り止めナット433、及び第2調整ノブ434が配置されている。本実施形態における第1調整ノブ431は、本発明における回転部材に相当する。また、第2調整ノブ434は後記の第3項の質量分析装置における調整部材に相当する。
【0048】
図7は、第1調整ノブ431を下方から見た斜視図である。第1調整ノブ431は、円筒状の本体部4311と、該本体部の上面に延設され断面がL字状である固定部4312とを有する。固定部4312の上端部(L字状の短辺に相当する断面を有する部分)は、天板部材442と3つのスラストワッシャ443の間に挿入されている。これによって、第1調整ノブ431は、中心円筒管410の中心軸方向の位置が固定され、該中心軸周りに回転自在となるように、枠部材44に取り付けられている。第1調整ノブ431には、中心円筒管410及びプランジャ421が内挿される貫通孔4313が設けられており、該貫通孔4313の内面にはプランジャ421の外周に形成されたネジ山と螺合するネジ溝が形成されている。
【0049】
第1回り止めナット432、第2回り止めナット433、及び第2調整ノブ434の内周面にもプランジャ421の外周に形成されたネジ山と螺合するネジ溝が形成されている。第1回り止めナット432、第2回り止めナット433、及び第2調整ノブ434はいずれも、中心円筒管410の中心軸方向への移動は規制されておらず、従って、これらを回転させると、プランジャ421に対して、中心円筒管410の中心軸方向に上下動する。
【0050】
このラジカル生成部4では、次のようにしてラジカルが生成される。
原料ガス供給部48は、原料ガスを中心円筒管410へ供給する。マイクロ波電源46は、例えば2.4GHz~2.5GHzの範囲に中心周波数を有するマイクロ波電流をヘリカルアンテナ411に供給する。続いて、ラジカル生成室400内の原料ガスに対し、マイクロ波電源46からマイクロ波電力が供給されている状態で、光源417から中心円筒管410に深紫外光を照射する。深紫外光を受けると石英やアルミナなどから成る中心円筒管410の壁面から電子が放出され、この電子によりラジカル生成室400におけるプラズマの発生が促進される。このとき、磁石413、415によって形成される磁場の周りを運動する電子の電子サイクロトロン周波数とマイクロ波の周波数とが一致するように共振器が調整されていると、ECRによってプラズマの密度が高まるとともに安定化する。中心円筒管410の内部で生成された酸素ラジカル等のラジカルは、該中心円筒管410の末端の開口端から放出され、輸送管47を通ってコリジョンセル132に供給される。
【0051】
深紫外光は、人の眼を害することがある。本実施形態では、光源417から深紫外光が照射される空間がケーシング414で覆われている。また、中心円筒管410の上端部が天板部材442で覆われているため、光源417から照射される深紫外光が中心円筒管410の内面で反射を繰り返して該中心円筒管410の上端まで達しても、その反射光が本体部40の外部に漏れることがない。そのため、光源417から発せられる深紫外線に対して使用者の眼の安全性を担保することができる。
【0052】
本実施形態では、
図9に示すように、ヘリカルアンテナ411と外側導体部412の間に挿入される、プランジャ421及びスリーブ424を有する接続部材42によって、外側導体部412とヘリカルアンテナ411が電気的に接続される。ECR共振器における共振状態は、接地された外側導体部412に対して電気的に接続されるヘリカルアンテナ411の位置によって大きく変化する。そのため、ヘリカルアンテナ411の接続位置をmm単位、より好ましくはサブmm単位で調整することが要求される。
【0053】
以下、本実施形態において、ヘリカルアンテナ411と外側導体部412を電気的に接続する位置を調整する手順を説明する。
【0054】
本実施形態の質量分析装置1では、使用開始前に、目盛りシール4314を第1調整ノブ431(
図8参照)に貼り付けておく。これは、例えば質量分析装置の製造元で行ってもよく、あるいは質量分析装置1の使用者が質量分析装置1の使用を開始する前に行ってもよい。この目盛りシール4314は第1調整ノブ431の外周と同じ長さのシールであり、0~9までの数字が等間隔で記されている。例えば、質量分析装置の製造元において、プランジャ421が予め決められた基準位置(第1調整ノブ431の下端が目盛り4313に記された基準と合致する位置)となるように第1調整ノブ431を回転させた状態で、目盛りシール4314の「0」が天板部材442の正面に位置するように目盛りシール4314を貼り付ける。上記の通り、プランジャ421には1mm単位で目盛り4213が刻まれている。また、本実施形態では、第1調整ノブ431を1回転させることによりプランジャ421が1mm上下に移動するように設計されている。従って、第1調整ノブ431に貼り付けた目盛りシール4314の数字が1だけ変化するように第1調整ノブ431を回転させることによって、0.1mm単位でプランジャ421の、中心円筒管410の中心軸方向の位置を調整することができる。
【0055】
ヘリカルアンテナ411と外側導体部412を電気的に接続する位置を調整する際には、まず、第1調整ノブ431を回転させる。上記の通り、第1調整ノブ431は、中心円筒管410の中心軸周りに回転自在であり、該中心軸方向に移動しないように枠部材44に保持されている。また、第1調整ノブ431の貫通孔の内部には、プランジャ421の外周に形成されたネジ山と螺合するネジ溝が形成されている。さらに、プランジャ421に設けられた開口4211に抑え板435の突起4353が挿入されることで、プランジャ421は中心円筒管410の中心軸周りに回転しないようになっている。つまり、これらの各部は送りネジ機構になっており、第1調整ノブ431を所定の一方向に回転させることにより、プランジャ421を下方に移動させることができる。
【0056】
次に、第2調整ノブ434を回転させて下方に移動させる。スリーブ424の外形は、第2調整ノブ434の貫通孔の径よりも大きいため、第2調整ノブ434が下方に移動する際に、該第2調整ノブ434の下面によってスリーブ424も押し下げられる。このとき、スリーブ424の下端に設けられた分割片4243が、プランジャ421の下端に設けられた分割片4212の先端のテーパ部4213に接触する位置までスリーブ424を押し下げる。このとき、
図9に示すように、スリーブ424の分割片4243の下端をプランジャ421の分割片4212の下端に形成されているテーパ部4213に押し当てることにより、両者をそれぞれ外方と内方に弾性変形させ、スリーブ424の分割片4243を外側導体部412に接触させ、プランジャ421の分割片4212をヘリカルアンテナ411に接触させる。これにより、ヘリカルアンテナ411と外側導体部412が、プランジャ421及びスリーブ424を介して電気的に接触する。
【0057】
このとき、マッチングが適切であるか否かは、原料ガス及びマイクロ波電力がラジカル生成室400に供給された状態におけるプラズマの発光状態を光検出器418で検出することにより判定する。本実施形態の質量分析装置1では、第1調整ノブ431によるプランジャ421の位置の調整、及び第2調整ノブ434によるスリーブ424の移動によってヘリカルアンテナ411の各所で外側導体部412と電気的に接触させ、各位置でのプラズマの発光状態(光検出器147からの出力信号)に基づいて、ヘリカルアンテナ411の最適な接地位置(外側導体部412と電気的に接触させる位置)を決定する。
【0058】
ヘリカルアンテナ411の最適な接地位置を決定すると、さらに少しスリーブ424を下方に押し下げて、スリーブ424の分割片4243をさらに外方に弾性変形させて外側導体部412に密着させ、また、プランジャの分割片4212を内方にさらに弾性変形させてヘリカルアンテナ411に密着させる。これにより、プランジャ421及びスリーブ424を介してヘリカルアンテナ411と外側導体部412が電気的に接触して、ヘリカルアンテナ411が接地された状態で保持される。
【0059】
その後、第1回り止めナット432を上方に移動させて第1調整ノブ431の下面に当接させる。これにより、第1調整ノブ431が回転不能に固定され、それによってプランジャ421の位置が固定される。さらに、第2回り止めナット433を下方に移動させて第2調整ノブ434の上面に当接させる。これにより、第2調整ノブ434も回転不能に固定され、それによってスリーブ424の位置が固定される。
【0060】
特許文献3に記載の共振器調整機構を用いても、ヘリカルアンテナを外側導体部と電気的に接触させる位置を調整すること自体は可能である。しかし、特許文献3の構成では、一方の手で内筒体(本実施形態におけるプランジャ421に対応する構成要素)の基端部に設けられた固定ノブを保持しつつ、他方の手で外筒体(本実施形態におけるスリーブ424に対応する構成要素)の基端部に設けられた可動ノブを保持して該外筒体を軸方向に進出させて内筒体の先端部に押し当てて固定するため、外筒体を内筒体の先端部に押し当てる際に内筒体も同時に進出させてしまうなどして位置ずれが生じやすく、ヘリカルアンテナと外側導体の接触位置を微調整することが難しいという問題があった。
【0061】
これに対し、本実施形態では、スリーブ424を下方に移動させる際に、第1調整ノブ431によってプランジャ421が保持されており、スリーブ424をプランジャ421に押し当ててもプランジャ421が中心円筒管410の中心軸方向に移動することがない。そのため、第1調整ノブ431の目盛りに合わせてサブmm単位で調整した位置を維持することができる。
【0062】
また、特許文献3に記載の構成では、ヘリカルアンテナと内筒体の接触点、及び外側導体と外筒体の接触点における摩擦力のみでこれらの接触が維持された状態になっていたため、質量分析装置を輸送するなどして振動が起こると、両者の接触が容易に解消されてしまっていた。また、再度、ヘリカルアンテナの接地位置を調整する際に、その基準となるものがなかったため、都度、試行錯誤しながらヘリカルアンテナの接地位置を調整しなければならなかった。
【0063】
これに対し、本実施形態では、ヘリカルアンテナ411の最適な接地位置でプランジャ421とスリーブ424をそれぞれヘリカルアンテナ411と外側導体部412に密着させたあと、第1回り止めナット432と第2回り止めナット433をそれぞれ移動させて第1調整ノブ431と第2調整ノブ434に当接させ、第1調整ノブ431と第2調整ノブ434を回転不能に固定する。そのため、ヘリカルアンテナ411の最適な接地位置を決定したあとに質量分析装置を移動するなどして振動が生じた場合でも、ヘリカルアンテナ411と外側導体部412の接触状態を維持することができる。また、仮に、ヘリカルアンテナの接地位置を再調整する必要が生じた場合でも、プランジャ421の外周に刻まれたmm単位の目盛り4213と、第1調整ノブ431に貼付された目盛りシール4314に記載されたサブmm単位の数字に基づいて、簡便に再現性良くヘリカルアンテナの接地位置を調整することができる。
【0064】
さらに、特許文献3に記載の構成では、内筒体の位置を調整する際に保持するための固定ノブや雄ネジ部などを内筒体と一体的に製作する必要があり、それらの加工に大きなコストを要していた。
【0065】
これに対し、本実施形態では、プランジャ421とその調整に使用する第1調整ノブ431や第1回り止めナット432などをそれぞれ独立した部材としているため、低コストでこれらを製作することができる。
【0066】
上記実施形態は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施形態におけるプランジャ421、スリーブ424、第1調整ノブ431、第2調整ノブ434、第1回り止めナット432、第2回り止めナット433などの各部の形態は一例に過ぎず、上記実施形態で説明した機能を実現できる限りにおいて適宜の材料から成る適宜の形状のものを用いることができる。
【0067】
上記実施形態ではプランジャ421とスリーブ424の両方について、中心円筒管410の中心軸周りの回転を規制したが、少なくともプランジャ421の回転が規制されていればよく、スリーブ424の回転は規制しなくてもよい。ただし、上記実施形態のようにプランジャ421とスリーブ424の両方の回転を規制することにより、プランジャ421の分割片4212の位置とスリーブ424の分割片4243の位置を一致させて、ヘリカルアンテナ411と外側導体部412をより安定的に密着させることができる。
【0068】
上記実施形態では、Q-TOF型の質量分離部を備えた質量分析装置1としたが、任意の質量分離部を用いることができる。また、上記実施形態では、液体試料からイオンを生成するESIプローブ20を備えたイオン源としたが、他の大気圧イオン源を用いることもできる。あるいは、真空雰囲気でイオンを生成するイオン源を用いてもよい。さらに、気体や固体の試料からイオンを生成するイオン源を用いることもできる。さらに、上記実施形態では、プリカーサイオンとラジカルを反応させるためにコリジョンセル132を用いたが、三次元イオントラップ等の他の反応室を用いてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、石英や酸化アルミニウムからなる中心円筒管410に紫外光を照射する光源417を用いたが、光源417を使用せずにプラズマを発生させてもよい。
【0070】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0071】
(第1項)
本発明の一態様に係る質量分析装置は、
誘電体から成る管と、
導電体から成り、前記管の外周に巻回されたヘリカルアンテナと、
前記管の外側に該管と同軸に設けられた筒状の部材であって、磁石が埋設され内周面が導電性の材料で構成された外側導体と、
前記外側導体の一端に固定され、前記管を保持する枠部材と、
前記外側導体の一端と対向する位置に、前記管の中心軸方向の位置が固定され該中心軸周りに回転自在に前記枠部材に取り付けられた円柱状の部材であって、前記管が挿通され内周面にネジ溝が形成された貫通孔が形成された回転部材と、
前記ヘリカルアンテナと前記外側導体の間隙に挿通され前記ヘリカルアンテナと前記外側導体を電気的に接続する部材であって、前記管の外側に該管と同軸に設けられ前記枠部材に対して周方向の位置が固定された内筒体と、該内筒体の外側に該内筒体と同軸に設けられた外筒体とを有し、該内筒体及び外筒体の先端部に両者を押し当てることによってそれぞれが内方と外方に曲がる板ばね部が設けられ、前記内筒体の基端部の外周に前記ネジ溝に対応するネジ山が形成された接続部材と
を備える。
【0072】
第1項に係る質量分析装置は、誘電体から成る管(誘電体管)と、その外周に巻回された導電体から成るヘリカルアンテナとを備えている。このラジカル生成部では、使用時に、誘電体管の内部に原料ガスを供給するとともに、ヘリカルアンテナに高周波電力を供給することにより原料ガスのプラズマを発生させてラジカルを生成する。第1項に係る質量分析装置は、また、誘電体管と同軸に設けられた筒状の部材であって、磁石が埋設され内周面が導電性の材料で構成された外側導体を備えたECR-LICP型の構成を有している。第1項に係る質量分析装置は、さらに、ヘリカルアンテナと外側導体を接触させて両者を電気的に接続する位置を調整するための接続部材を備えており、外側導体を接地し、この接続部材でヘリカルアンテナと外側導体が接触する位置を調整することによりECR共振回路の共振状態を調整する。
【0073】
第1項に係る質量分析装置は、さらに、外側導体の一端に固定され誘電体管を保持する枠部材を有している。枠部材の、外側導体の一端と対向する位置には、誘電体管の中心軸方向の位置が固定され該中心軸周りに回転自在に、円柱状の回転部材が取り付けられている。回転部材には、誘電体管を挿通する貫通孔が形成されており、その内周面にはネジ溝が形成されている。
【0074】
第1項に係る接続部材は、外側導体の一端に固定された枠部材に対して周方向の位置が固定された内筒体と、該内筒体の外側に配置された外筒体とを有している。内筒体及び外筒体の先端部には、両者を押し当てることによってそれぞれが内方と外方に曲がる板ばね部が設けられている。また、内筒体の外周には回転部材の内周面のネジ溝に対応するネジ山が形成されている。
【0075】
ヘリカルアンテナと外側導体を接触させる位置を調整する際には、予め内筒体の基端部を回転部材の貫通孔に取り付けておく。そして、外筒体と内筒体の先端部を接触させた状態で、回転部材を回転させることにより内筒体を誘電体管の軸方向に進出させ、ヘリカルアンテナを外側導体と電気的に接触させてプラズマが良好に生成される位置を決定する。プラズマが良好に生成される位置を決定すると、外筒体を内筒体に対して軸方向に進出させて両者の先端に設けられた板ばね部をそれぞれ内方と外方に曲げて、内筒体をヘリカルアンテナに密着させ、外筒体を外側導体に密着させて固定する。第1項に係る質量分析装置では、外側導体に固定された枠部材に保持されることで誘電体管の中心軸方向に固定された回転部材によって内筒体の軸方向の位置が固定された状態で、外筒体を内筒体に対して軸方向に進出させるため、作業中に内筒体の位置ずれを生じさせることなく、ヘリカルアンテナと外側導体を電気的に接触させる位置を容易に微調整することができる。
【0076】
(第2項)
第2項に係る質量分析装置は、第1項に係る質量分析装置において、さらに、
前記回転部材の、前記接続部材が位置する側に配置された部材であって、前記ネジ山に対応するネジ溝が形成された貫通孔が設けられた第1回り止め部材
を備える。
【0077】
第2項に係る質量分析装置では、回転部材によって内筒体の位置を決定したあとに、第1回り止め部材を内筒体に対して移動させ、回転部材と当接させることにより、該回転部材を回転不能に固定し、それによって該内筒体の位置を不動に固定することができる。
【0078】
(第3項)
第3項に係る質量分析装置は、第1項又は第2項に係る質量分析装置において、さらに、
前記回転部材の、前記接続部材が位置する側に配置された部材であって、前記ネジ山に対応するネジ溝が形成され、前記外筒体の外径よりも径が小さい貫通孔が設けられた調整部材と、
前記調整部材の、前記接続部材が位置する側と反対側に配置された部材であって、前記ネジ山に対応するネジ溝が形成された貫通孔が設けられた第2回り止め部材と
を備える。
【0079】
第3項に係る質量分析装置では、調整部材を移動させることにより外筒体を移動させてヘリカルアンテナを外側導体部と電気的に接触させる位置(接地位置)を固定し、さらに第2回り止め部材を内筒体に対して移動させ、調整部材と当接させることにより、該調整部材を回転不能に固定し、それによって外筒体の位置を不動に固定することができる。そのため、質量分析装置に輸送等による振動が生じてもヘリカルアンテナの接地位置を維持することができる。
【0080】
(第4項)
第4項に係る質量分析装置は、第1項から第3項のいずれかに係る質量分析装置において、前記内筒体の外周に、前記中心軸方向の目盛りが付されている。
【0081】
第4項に係る質量分析装置によれば、内筒体の外周に刻まれた目盛りに基づいて、再現性よく内筒体を中心円筒管の中心軸方向に移動させることができる。
【0082】
(第5項)
第5項に係る質量分析装置は、第1項から第4項のいずれかに係る質量分析装置において、前記回転部材の側面に、該回転部材の外周長を2以上の整数で等分した位置に目盛りが付されている。
【0083】
回転部材を1回転させることにより内筒体が中心円筒管の中心軸方向に移動する長さは一定である。第5項に係る質量分析装置では、回転部材の側面に付された目盛りに基づいて、該長さの整数分の1の単位で再現性よく内筒体を中心円筒管の中心軸方向に移動させることができる。
【0084】
(第6項)
第6項に係る質量分析装置は、第1項から第5項のいずれかに係る質量分析装置において、さらに、
前記管のうち、前記ヘリカルアンテナが巻回された部分の内部空間に所定波長の光を照射する光源
を備え、
前記管のうち、前記内筒体に囲まれた部分よりも原料ガス供給部に近い側に位置する部分の周囲が前記光源から発せられる光を透過しない部材で覆われている。
【0085】
第6項に係る質量分析装置では、管の内部に所定波長の光を照射し、該管から電子を発生させてプラズマの発生を促進することができる。また、この際に、光源から発せられる光が管の外部に漏れ出ないため、使用者の眼を害する心配がない。
【0086】
(第7項)
第7項に係る質量分析装置は、第1項から第6項のいずれかに係る質量分析装置において、前記回転部材、前記内筒体、及び前記外筒体がそれぞれ独立した部材である。
【0087】
第7項に係る質量分析装置では、回転部材、内筒体、及び外筒体をそれぞれ独立した部材としたため、複雑な構造に部品を加工する必要がなく、製造コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…質量分析装置
100…真空チャンバ
10…イオン化室
101…ESIプローブ
102…脱溶媒管
11…第1中間真空室
111…イオンガイド
112…スキマー
12…第2中間真空室
121…イオンガイド
13…第1分析室
131…四重極マスフィルタ
132…コリジョンセル
133…多重極イオンガイド
134…イオン輸送電極
14…第2分析室
141…イオン輸送電極
142…直交加速部
143…加速電極
144…リフレクトロン電極
145…イオン検出器
146…フライトチューブ
4…ラジカル生成部
40…本体部
400…ラジカル生成室
41…バルブ
410…中心円筒管
411…ヘリカルアンテナ
412…外側導体部
413、415…磁石
414…ケーシング
416…マイクロ波供給コネクタ
417…光源
418…光検出器
42…接続部材
421…プランジャ
4211…開口
4212…分割片
4213…テーパ部
424…スリーブ
4241、4242…スリット
4243…分割片
431…第1調整ノブ
4311…本体部
4312…固定部
4313…貫通孔
4314…シール
432…第1回り止めナット
433…第2回り止めナット
434…第2調整ノブ
435…抑え板
4351、4352…開口
4353…突起
44…枠部材
441…支柱部材
442…天板部材
443…スラストワッシャ
46…マイクロ波電源
47…輸送管
48…原料ガス供給部
5…制御・処理部
6…入力部
7…表示部
C…イオン光軸