(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051435
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 9/12 20060101AFI20240404BHJP
F16H 7/00 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
F16H9/12 B
F16H7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157606
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】滑川 秀一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 奨
(72)【発明者】
【氏名】兼田 健介
(72)【発明者】
【氏名】森 彩香
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
(72)【発明者】
【氏名】倉林 雅彦
【テーマコード(参考)】
3J049
3J050
【Fターム(参考)】
3J049AA08
3J049AB01
3J049BG02
3J049BH10
3J049BH15
3J049CA04
3J050AA08
3J050AB02
3J050BA03
3J050BA15
3J050BB12
3J050CE07
3J050DA02
(57)【要約】
【課題】動力伝達部材に異常が発生した場合であっても車両の走行機能を確保した無段変速機を提供する。
【解決手段】プライマリシャフト10に設けられたプライマリプーリP1と、セカンダリシャフト20に設けられたセカンダリプーリP2と、各プーリに巻き掛けられた環状の第1動力伝達部材30とを備える無段変速機を、プライマリシャフトに設けられたプライマリスプロケット41と、セカンダリシャフトに設けられたセカンダリスプロケット42と、各スプロケットに巻き掛けられた環状の第2動力伝達部材40と、第1動力伝達部材の正常時に第2動力伝達部材による動力伝達を無効化するとともに第1動力伝達部材の異常時に第2動力伝達部材による動力伝達を有効化する動力伝達切替部24,44とを備える構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配列されたプライマリシャフト及びセカンダリシャフトと、
前記プライマリシャフトに設けられたプライマリプーリと、
前記セカンダリシャフトに設けられたセカンダリプーリと、
前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとに巻き掛けられた環状の第1動力伝達部材と
を備える無段変速機であって、
前記プライマリシャフトに設けられたプライマリスプロケットと、
前記セカンダリシャフトに設けられたセカンダリスプロケットと、
前記プライマリスプロケットと前記セカンダリスプロケットに巻き掛けられた環状の第2動力伝達部材と、
前記第1動力伝達部材の正常時に前記第2動力伝達部材による動力伝達を無効化するとともに前記第1動力伝達部材の異常時に前記第2動力伝達部材による動力伝達を有効化する動力伝達切替部と
を備えることを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記第2動力伝達部材は、前記第1動力伝達部材の内周側に配置されること
を特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリは、軸方向に離接する一対のシーブを有して構成され、
前記動力伝達切替部は、前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリの少なくとも一方の前記シーブの間隔が、前記第1動力伝達部材の前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリからの脱落時にのみとり得る範囲となったことに応じて前記第2動力伝達部材による動力伝達を有効化すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記第2動力伝達部材は、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリに対して軸方向にオフセットされた位置に配置されること
を特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項5】
前記プライマリスプロケット及び前記セカンダリスプロケットは、前記第1動力伝達部材による動力伝達時の最大減速比以上の減速比を有し、
前記動力伝達切替部は、前記プライマリシャフト側から前記セカンダリシャフト側への動力伝達を行うとともに前記セカンダリシャフト側から前記プライマリシャフト側への動力伝達を遮断するワンウェイクラッチを有すること
を特徴とする請求項1又は請求項4に記載の無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される無段変速機(CVT)に関する技術として、例えば、特許文献1には、動力伝達用チェーンの破断予知が可能なチェーン式V型プーリ無段変速機の異常検出装置であって、動力伝達用チェーンが掛け渡されるチェーン式V型プーリ無段変速機のプーリに、弾性波を検出するAEセンサと、その検出信号を電磁誘導により無線送信する送信部とを設けることが記載されている。また、車体側に送信部から無線送信された信号に基づいて弾性波が異常レベルに達しているか否かを判別する判別器を設けることが記載されている。
特許文献2には、軸心方向の寸法を大きくすることなしにトルク容量の増大化及び作動時の静粛化を図るため、ベルト式無段変速機を構成するプライマリプーリとセカンダリプーリとに掛け渡されるベルトとして、内周側及び外周側に複数本のベルトを備えることが記載されている。
特許文献3には、軸方向を短縮化することによって車載性を高めたコンパクトな無段変速装置を提供するため、背中合わせに並列配置した2つの巻き掛け式無段変速機構の一方から出力される出力成分を遊星歯車機構のプラネタリキャリアに入力し、他方から出力される出力成分を遊星歯車機構のリングギヤに入力し、遊星歯車機構から出力軸に伝達される出力成分をサンギヤから伝達するようにしたものが記載されている。
特許文献4には、ベルト式の無段変速機構に動力を伝達できない異常が発生しても車両の走行を可能にするため、動力分割式無段変速機構の無段変速機構にベルト切れなどの異常が発生した場合には、エンジンのスロットルバルブの開度が所定以下に抑制されるとともに、動力分割式無段変速機構の動力伝達モードがギヤモードに固定され、トランスミッションの入力軸に入力される動力が一定変速機構を経由して合成用歯車機構から出力されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-250236号公報
【特許文献2】特開2008-121801号公報
【特許文献3】特開2009-174553号公報
【特許文献4】特開2016-125570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な無段変速機においては、チェーン、ベルト等の動力伝達部材に破断等が生じた場合には、動力伝達が不可能となって車両が走行不能な状態に陥る。
これに対し、動力伝達部材に異常が生じた場合であっても、車両を所定の退避場所や、修理を行うことが可能なサービス拠点まで走行できるよう、車両のリンプホーム性を確保することが要望されている。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、動力伝達部材に異常が発生した場合であっても車両の走行機能を確保した無段変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る無段変速機は、平行に配列されたプライマリシャフト及びセカンダリシャフトと、前記プライマリシャフトに設けられたプライマリプーリと、前記セカンダリシャフトに設けられたセカンダリプーリと、前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとに巻き掛けられた環状の第1動力伝達部材とを備える無段変速機であって、前記プライマリシャフトに設けられたプライマリスプロケットと、前記セカンダリシャフトに設けられたセカンダリスプロケットと、前記プライマリスプロケットと前記セカンダリスプロケットに巻き掛けられた環状の第2動力伝達部材と、前記第1動力伝達部材の正常時に前記第2動力伝達部材による動力伝達を無効化するとともに前記第1動力伝達部材の異常時に前記第2動力伝達部材による動力伝達を有効化する動力伝達切替部とを備えることを特徴とする。
これによれば、第1動力伝達部材に異常が発生した場合であっても、第2動力伝達部材によってプライマリシャフトからセカンダリシャフトへ動力を伝達することが可能であり、車両の走行機能を確保することができる。
また、第1動力伝達部材の正常時には、第2動力伝達部材による動力伝達が無効化されることにより、通常走行時の変速機能等に影響を及ぼすことがない。
【0006】
本発明において、前記第2動力伝達部材は、前記第1動力伝達部材の内周側に配置される構成とすることができる。
これによれば、変速機の変速機構部の外形を拡大することなく第2動力伝達部材を設けることができる。
【0007】
本発明において、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリは、軸方向に離接する一対のシーブを有して構成され、前記動力伝達切替部は、前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリの少なくとも一方の前記シーブの間隔が、前記第1動力伝達部材の前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリからの脱落時にのみとり得る範囲となったことに応じて前記第2動力伝達部材による動力伝達を有効化する構成とすることができる。
これによれば、第1動力伝達部材が正常であるときに第2動力伝達部材による動力伝達が有効化されることを防止できる。
【0008】
本発明において、前記第2動力伝達部材は、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリに対して軸方向にオフセットされた位置に配置される構成とすることができる。
これによれば、既存のプライマリプーリ及びセカンダリプーリに大きな設計変更を行うことなく本発明を適用することができる。
【0009】
本発明において、前記プライマリスプロケット及び前記セカンダリスプロケットは、前記第1動力伝達部材による動力伝達時の最大減速比以上の減速比を有し、前記動力伝達切替部は、前記プライマリシャフト側から前記セカンダリシャフト側への動力伝達を行うとともに前記セカンダリシャフト側から前記プライマリシャフト側への動力伝達を遮断するワンウェイクラッチを有する構成とすることができる。
これによれば、動力伝達切替部の機能を簡単な構成により実現することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、動力伝達部材に異常が発生した場合であっても車両の走行機能を確保した無段変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した無段変速機の第1実施形態のバリエータの構成を示す図であって、メインチェーンが正常かつ最大減速比状態を示す図である。
【
図3】第1実施形態のバリエータを軸方向から見たときのメインチェーン及びサブチェーンの状態を示す図であって、最大減速比状態を示す図である。
【
図4】第1実施形態のバリエータを軸方向から見たときのメインチェーン及びサブチェーンの状態を示す図であって、最小減速比(増速)状態を示す図である。
【
図5】第1実施形態のバリエータの構成を示す図であって、メインチェーンが破断した状態を示す図である。
【
図6】第1実施形態のバリエータを軸方向から見たときのメインチェーン及びサブチェーンの状態を示す図であって、メインチェーンが破断した状態を示す図である。
【
図7】本発明を適用した無段変速機の第2実施形態のバリエータの構成を示す図であって、メインチェーンが正常かつ最大減速比状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した無段変速機の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の無段変速機は、例えば、内燃機関であるエンジンを走行用動力源とする乗用車等の自動車に搭載されるチェーン式無段変速機である。
【0013】
図1は、第1実施形態の無段変速機のバリエータ(変速機構部)の構成を示す図であって、メインチェーンが正常かつ最大減速比状態を示す図である。
バリエータ1は、プライマリシャフト10、セカンダリシャフト20、メインチェーン30等を有して構成されている。
プライマリシャフト10、セカンダリシャフト20は、回転中心軸が平行となるように隣接して配列された一対の回転軸である。
【0014】
プライマリシャフト10は、エンジン等の走行用動力源の出力が、図示しないトルクコンバータ、前後進切替部等を介して入力されるバリエータ1の入力軸である。
トルクコンバータは、車両の停止状態からの発進を可能とする発進デバイスである。
トルクコンバータには、図示しないトランスミッション制御ユニットの指令に応じて入力側と出力側との差回転を拘束するロックアップクラッチが設けられている。
前後進切替部は、リバースレンジの選択時に、トルクコンバータの出力部の回転を逆転させてプライマリシャフト10に伝達するプラネタリギヤセット等を有する。
【0015】
プライマリシャフト10には、固定シーブ11、可動シーブ12、筒状部13、ストッパ14等が設けられている。
固定シーブ11、可動シーブ12は、プライマリシャフト10の外径側につば状に張り出した円盤状の部分である。
固定シーブ11は、プライマリシャフト10に対して固定されている。
固定シーブ11は、例えば、プライマリシャフト10の軸部と一体に形成することができる。
可動シーブ12は、プライマリシャフト10に対して、回転中心軸方向に相対変位可能となっている。
可動シーブ12は、プライマリシャフト10に対して、回転中心軸回りに相対回動しないよう拘束されている。
【0016】
固定シーブ11と可動シーブ12は、プライマリプーリP1を構成する。
固定シーブ11と可動シーブ12が相互に対向する面部は、内径側から外径側にかけてプライマリプーリP1のプーリ溝幅が連続的に拡大するようテーパ状に形成されている。
このテーパ状の面部は、後述するメインチェーン30のピン31の端面と当接する。
【0017】
筒状部13は、可動シーブ12の中央部における固定シーブ11側とは反対側の面部から突出した円筒状の部分である。
筒状部13は、例えば、可動シーブ12と一体に形成することができる。
筒状部13の内径側には、プライマリシャフト10の一部が挿入されている。
筒状部13は、可動シーブ12とともに、プライマリシャフト10に対して回転中心軸方向に相対変位する。
【0018】
ストッパ14は、可動シーブ12が固定シーブ11から離間する方向(プライマリプーリP1の溝幅を拡大する方向)のストロークを規制するものである。
ストッパ14は、プライマリシャフト10の外周面から突出するとともに、可動シーブ12が固定シーブ11から所定量離間した際に、筒状部13の端面と当接し、可動シーブ12のさらなる移動を規制する。
ストッパ14により規制される可動シーブ12のストローク端は、プライマリプーリP1の有効径の縮小によりメインチェーン30が後述するサブチェーン40と干渉しないよう設定される。
【0019】
セカンダリシャフト20は、プライマリシャフト10に入力されたエンジン等の出力が、メインチェーン30等により伝達されるバリエータ1の出力軸である。
セカンダリシャフト20の出力は、直接、あるいは、図示しないAWDトランスファを介して、図示しない前輪駆動機構、後輪駆動機構の一方又は両方に伝達される。
【0020】
セカンダリシャフト20には、固定シーブ21、可動シーブ22、筒状部23、係合部24等が設けられている。
固定シーブ21、可動シーブ22は、セカンダリシャフト20の外径側につば状に張り出した円盤状の部分である。
セカンダリシャフト20においては、固定シーブ21、可動シーブ22の配列方向は、プライマリシャフト10の固定シーブ11、可動シーブ12の配列方向とは逆となっている。
【0021】
固定シーブ21は、セカンダリシャフト20に対して固定されている。
固定シーブ21は、例えば、セカンダリシャフト20の軸部と一体に形成することができる。
可動シーブ22は、セカンダリシャフト20に対して、回転中心軸方向に相対変位可能となっている。
可動シーブ22は、セカンダリシャフト20に対して、回転中心軸回りに相対回動しないよう拘束されている。
【0022】
固定シーブ21と可動シーブ22は、セカンダリプーリP2を構成する。
固定シーブ21と可動シーブ22が相互に対向する面部は、内径側から外径側にかけてセカンダリプーリP2のプーリ溝幅が連続的に拡大するようテーパ状に形成されている。
このテーパ状の面部は、後述するメインチェーン30のピン31の端面と当接する。
【0023】
筒状部23は、可動シーブ22の中央部における固定シーブ21側とは反対側の面部から突出した円筒状の部分である。
筒状部23は、例えば、可動シーブ22と一体に形成することができる。
筒状部23の内径側には、セカンダリシャフト20の一部が挿入されている。
筒状部23は、可動シーブ22とともに、セカンダリシャフト20に対して回転中心軸方向に相対変位する。
【0024】
係合部24は、可動シーブ22の中央部における固定シーブ21側の面部から突出して形成された突起等を有する。
係合部24は、車両の通常使用時においては、セカンダリスプロケット42と離間して配置されるとともに、メインチェーン30の脱落時等においては、可動シーブ22とともに固定シーブ21側へ移動し、セカンダリスプロケット42と係合する。
【0025】
チェーン30は、プライマリプーリP1とセカンダリプーリP2との間に掛けわたされた環状の動力伝達部材(本発明の第1動力伝達部材)である。
チェーン30は、周方向に複数配列されたピン31と、各ピン31を連結するプレート32とを有する。
ピン31は、プライマリシャフト10、セカンダリシャフト20の回転中心軸方向と平行に配置された軸状の部材である。
ピン31は、その両端部を、プライマリプーリP1、セカンダリプーリP2の各シーブのテーパ面によって挟持される。
【0026】
プレート32は、ピン31の長手方向と直交する平面に沿って配置された平板状の部材である。
プレート32は、ピン31の軸方向、及び、チェーン30の周方向に、それぞれ複数配列されている。
個々のプレート32の両端部には、隣接して配置された一対のピン31がその軸回りに回動可能な状態で挿入される。
このような構成により、チェーン30は、各ピン31回りに屈曲可能とされ、各プーリの有効径に応じた曲率に沿って変形可能となっている。
【0027】
第1実施形態のバリエータ1は、さらに、サブチェーン40、プライマリスプロケット41、セカンダリスプロケット42を有する。
サブチェーン40は、例えばローラチェーン等からなる環状の動力伝達部材(本発明の第2動力伝達部材)である。
サブチェーン40は、メインチェーン30の内周側であって、軸方向における位置が正常時のメインチェーン30と重畳する位置に配置されている。
サブチェーン40は、プライマリスプロケット41、セカンダリスプロケット42に巻き掛けられている。
【0028】
プライマリスプロケット41は、プライマリシャフト10の外径側であって、固定シーブ11と可動シーブ12との間に設けられている。
プライマリスプロケット41は、例えばスプライン及びサークリップ等を用いて、プライマリシャフト10に固定されている。また、プライマリスプロケット41は、プライマリシャフト10と一体に形成してもよい。
【0029】
セカンダリスプロケット42は、セカンダリシャフト20の外径側であって、固定シーブ21と可動シーブ22との間に設けられている。
図2は、
図1のII部拡大模式図である。
セカンダリスプロケット42は、メインチェーン30が正常な状態においては、例えばプレーンベアリング43等の軸受を介して、セカンダリシャフト20に対して軸回りに回動(空転)可能となっている。
セカンダリスプロケット42のアライメントは、図示しないシム等を用いて調整される。
また、セカンダリスプロケット42には、メインチェーン30の異常時(破断時等)に、可動シーブ22の係合部24と係合する被係合部44が設けられている。
ここで、係合部24、被係合部44として、例えば、それぞれダボ(突起)と、ダボが挿入され嵌合するダボ穴(凹部)等を用いることができる。
なお、係合部、被係合部は、このような構成に限らず、適宜変更することが可能である。
【0030】
第1実施形態のバリエータ1においては、図示しないトランスミッション制御ユニットの指令に応じて、プライマリプーリP1、セカンダリプーリP2のシーブ間隔(プーリ溝幅)を例えば油圧制御で変化させることにより、メインチェーン30が巻き掛けられる有効径(巻き掛け径)を変化させ、変速を行う。
各プーリは、シーブ間隔を狭めることにより有効径が拡大し、シーブ間隔を広げることにより有効径が縮小するようになっている。
トランスミッション制御ユニットは、車両の走行状態などから目標変速比を設定し、バリエータ1の実際の変速比が目標変速比と一致するよう、各プーリのシーブ間隔を制御する。
【0031】
図3は、第1実施形態のバリエータを軸方向から見たときのメインチェーン及びサブチェーンの状態を示す図であって、最大減速比状態を示す図である。
図1、
図3に示す最大減速比状態においては、プライマリプーリP1の有効径が最小にされるとともに、セカンダリプーリP2の有効径は、車両の通常使用時(メインチェーン30の正常時)における最大の状態となっている。
このとき、サブチェーン40におけるプライマリスプロケット41に巻き掛けられた部分は、メインチェーン30の内周側に、メインチェーン30と径方向に間隔を隔てて配置されている。
【0032】
図4は、第1実施形態のバリエータを軸方向から見たときのメインチェーン及びサブチェーンの状態を示す図であって、最小減速比(増速)状態を示す図である。
図4に示す最小減速比状態においては、プライマリプーリP1の有効径が最大にされるとともに、セカンダリプーリP2の有効径は最小の状態となっている。
このとき、サブチェーン40におけるセカンダリスプロケット42に巻き掛けられた部分は、メインチェーン30の内周側に、メインチェーン30と径方向に間隔を隔てて配置されている。
【0033】
第1実施形態のバリエータ1では、メインチェーン30に例えば破断、脱落などの異常が発生した場合に、サブチェーン40によってプライマリシャフト10からセカンダリシャフト20へ動力を伝達する機能を備えている。
メインチェーン30は、破断した場合、遠心力によってプライマリプーリP1、セカンダリプーリP2から外れて図示しないトランスミッションケースの内面に衝突し、トランスミッションケースの下部に落下する。
【0034】
図5は、第1実施形態のバリエータの構成を示す図であって、メインチェーンが破断した状態を示す図である。
図6は、第1実施形態のバリエータを軸方向から見たときのメインチェーン及びサブチェーンの状態を示す図であって、メインチェーンが破断した状態を示す図である。
トランスミッション制御ユニットは、例えばプライマリシャフト10とセカンダリシャフト20の回転速度などから、メインチェーン30の異常(典型的には破断による脱落)を検出すると、セカンダリプーリP2のシーブ間隔を、車両の通常使用時にとり得る最小シーブ間隔よりもさらに縮小(オーバストローク)する。
【0035】
これにより、可動シーブ22に設けられた係合部24がセカンダリスプロケット42の被係合部44と係合し、セカンダリスプロケット42がセカンダリシャフト20に対して相対回動しないようロックされる。
セカンダリスプロケット42がロックされることにより、サブチェーン40を用いたセカンダリシャフト20の駆動が開始され、車両の走行機能を確保することが可能となる。
また、係合部24が被係合部44と係合していない状態(メインチェーン30の正常時)では、サブチェーン40による動力伝達は無効化される。
係合部24、被係合部44は、協働して本発明の動力伝達切替部として機能する。
【0036】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)メインチェーン30に異常が発生した場合であっても、サブチェーン40によってプライマリシャフト10からセカンダリシャフト20へ動力を伝達することが可能であり、車両の走行機能を確保することができる。
また、メインチェーン30の正常時には、サブチェーン40による動力伝達が無効化されることにより、通常走行時の変速機能等に影響を及ぼすことがない。
(2)サブチェーン40は、メインチェーン30の内周側に配置されるため、バリエータ1の外形を拡大することなくサブチェーン40を設けることができる。
(3)可動シーブ22のオーバストローク時にのみ被係合部44と係合される係合部24によってサブチェーン40による動力伝達を有効化することにより、メインチェーン30が正常であるときにサブチェーン40による動力伝達が有効化されることを防止できる。
【0037】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した無段変速機の第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、上述した第1実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図7は、第1実施形態の無段変速機のバリエータ(変速機構部)の構成を示す図であって、メインチェーンが正常かつ最大減速比状態を示す図である。
第2実施形態のバリエータ1Aは、第1実施形態のサブチェーン40、プライマリスプロケット41、セカンダリスプロケット42、ストッパ14、係合部24、被係合部44に代えて、以下説明するサブチェーン50、プライマリスプロケット51、セカンダリスプロケット52、ワンウェイクラッチ53等を備えている。
【0038】
サブチェーン50は、プライマリスプロケット51、セカンダリスプロケット52に掛けわたされた例えばローラチェーン等の動力伝達部材(本発明の第2動力伝達部材)である。
プライマリスプロケット51は、プライマリシャフト10に固定されている。
セカンダリスプロケット52は、セカンダリシャフト20に、ワンウェイクラッチ53を介して取り付けられている。
プライマリスプロケット51、セカンダリスプロケット52は、プライマリプーリP1、セカンダリプーリP2とは軸方向にオフセットされた位置に、これらと隣接して配置されている。
例えば、
図6に示す例では、プライマリスプロケット51は、プライマリシャフト10における可動シーブ12側に設けられ、セカンダリスプロケット52は、セカンダリシャフト20における固定シーブ21側に設けられている。
【0039】
ワンウェイクラッチ53は、セカンダリスプロケット52の内周側と、セカンダリシャフト20の外周面との間に設けられている。
ワンウェイクラッチ53は、セカンダリスプロケット52がセカンダリシャフト20を駆動する方向のトルクに応じて締結される。
ワンウェイクラッチ53が締結されると、セカンダリスプロケット52は、セカンダリシャフト20と一体的に回転し、セカンダリシャフト20を駆動する。
ワンウェイクラッチ53が解放状態(非締結状態)である場合は、セカンダリスプロケット52は、セカンダリシャフト20に対して自由に回転(空転)する。
ワンウェイクラッチ53は、本発明の動力伝達切替部として機能する。
【0040】
プライマリスプロケット51、セカンダリスプロケット52の減速比(セカンダリスプロケット52の歯数/プライマリスプロケット51の歯数)を、例えば2.0に設定した場合、バリエータ1Aの変速比(減速比)に応じたワンウェイクラッチ53の状態推移は、表1のようになる。
なお、プライマリスプロケット51、セカンダリスプロケット52の減速比は、車両の通常走行時において、バリエータ1Aがとり得る最大減速比以上となるように設定する。
【表1】
【0041】
例えばプライマリシャフト10の回転数が、1000rpmで一定の場合には、セカンダリスプロケット52の回転数は500rpmで一定となる。
これに対し、セカンダリプーリP2の回転数(セカンダリシャフト20の回転数と等しい)は、プライマリプーリP1とセカンダリプーリP2の有効径比に応じた変速比に応じて変化する。
変速比が2.0未満であるときには、セカンダリプーリP2の回転数がセカンダリスプロケット52の回転数を上回っており、ワンウェイクラッチ53は空転する。
変速比が2.0になると、セカンダリプーリP2の回転数とセカンダリスプロケット52の回転数とが一致し、ワンウェイクラッチ53が締結され、セカンダリスプロケット52によるセカンダリシャフト20の駆動が開始される。
【0042】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果((2)項、(3)項に記載された効果を除く)に加えて、さらに、以下の効果を得ることができる。
(1)サブチェーン50は、プライマリプーリP1及びセカンダリプーリP2に対して軸方向にオフセットされた位置に配置されることにより、既存のプライマリプーリP1及びセカンダリプーリP2に大きな設計変更を行うことなく本発明を適用することができる。
(2)動力伝達切替部としてワンウェイクラッチ53を用いることにより、簡単な構成により必要な機能を実現することができる。
【0043】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)無段変速機を構成する各部材の形状、構造、材質、製法、個数、配置等は、各実施形態の構成に限らず、適宜変更することができる。
(2)各実施形態において、第1動力伝達部材は一例としてチェーンであるが、本発明はこれに限らず、ベルト式無段変速機にも適用することができる。
(3)第2実施形態におけるプライマリスプロケットとセカンダリスプロケットの減速比は一例であって、適宜変更することが可能である。
(4)各実施形態では、動力伝達切替部をセカンダリシャフトに設けているが、プライマリシャフトに設けてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1,1A バリエータ 10 プライマリシャフト
11 固定シーブ 12 可動シーブ
13 筒状部 14 ストッパ
20 セカンダリシャフト 21 固定シーブ
22 可動シーブ 23 筒状部
24 係合部 30 メインチェーン
31 ピン 32 プレート
40 サブチェーン 41 プライマリスプロケット
42 セカンダリスプロケット 43 プレーンベアリング
44 被係合部 50 サブチェーン
51 プライマリスプロケット 52 セカンダリスプロケット
53 ワンウェイクラッチ
P1 プライマリプーリ P2 セカンダリプーリ