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特開2024-51437たん白質含有レトルト食品用水中油型乳化油脂組成物及び該組成物を配合したたん白質含有レトルト食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051437
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】たん白質含有レトルト食品用水中油型乳化油脂組成物及び該組成物を配合したたん白質含有レトルト食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/01 20060101AFI20240404BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20240404BHJP
【FI】
A23D7/01
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157611
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大橋 悠文
(72)【発明者】
【氏名】木曾 雄三
(72)【発明者】
【氏名】布施谷 友紀
【テーマコード(参考)】
4B026
4B036
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DC02
4B026DG04
4B026DK01
4B026DK10
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DX04
4B036LC01
4B036LF03
4B036LH04
4B036LH08
4B036LH11
4B036LH12
4B036LH13
4B036LH39
4B036LH41
4B036LK01
4B036LK03
4B036LP01
4B036LP18
4B036LP19
(57)【要約】
【課題】(加圧)加熱殺菌(レトルト殺菌)後も風味に優れ、食感のざらつきが抑制され、かつ褐色変化が抑制された、たん白質含有レトルト食品を提供することである。
【解決手段】以下の成分(A)~(C)を含む水中油型乳化油脂組成物を含む、たん白質含有レトルト食品が、上記課題を解決できることを確認して、本発明を完成した。
(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステル
(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステル
(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステル
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)~(C)を含む、たん白質含有レトルト食品用水中油型乳化油脂組成物。
(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステル
(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステル
(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステル
【請求項2】
さらに、食用油脂を20.0~70.0質量%を含み、及び、
前記(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが0.1~3.0質量%であり、前記(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが0.05~1.0質量%であり、かつ(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが0.05~1.0質量%である、請求項1に記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水中油型乳化油脂組成物を含む、たん白質含有レトルト食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たん白質含有レトルト食品用水中油型乳化油脂組成物及び該組成物を配合したたん白質含有レトルト食品に関する。より詳しくは、本発明は、たん白質含有レトルト食品の風味を損なわず、食感のざらつき及び褐色変化を抑制することができる水中油型乳化油脂組成物を配合したたん白質含有レトルト食品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、様々な加工食品において、保存性の向上のために、食品を袋、ビン、缶などに密封し、レトルト殺菌機などを用いて(加圧)加熱殺菌処理されることは多々あり、これにより食品の保存性が良好となり、常温での流通が可能となる。
しかし、乳・小麦・卵・大豆のたん白質を含むホワイトソースやカルボナーラソース等の食品では、レトルト殺菌等の加熱処理によって、たん白質の変性が起こり、凝集物が生じる。このような凝集物はソースのざらつきの原因となり、滑らかさを低下させる。
また、凝集物により滑らかさが低下すると、食品中で局所的に加過熱される部分が生じことで、レトルト加熱時に不快な調理臭(いわゆるレトルト臭)を生成し、また、(加圧)加熱殺菌処理に伴い色調変化(褐色変化)を顕著に引き起こしてしまうため、レトルト袋を開封した際に不快な調理臭を感じるともに、たん白質含有レトルト食品の色合いが褐色になってしまうことで商品価値が低下してしまう。
【0003】
特許文献1には、レトルト殺菌等過酷な条件下でも風味、性状に優れた食品を得る方法として、無脂乳固形分含有水中油型乳化物にマグネシウム塩およびカリウム塩を使用する方法が記載されている。
特許文献2には、風味に優れたレトルト食品を得る方法として、水相部に風味素材を添加した油中水型乳化油脂組成物を使用する方法が開示されている。
特許文献3には、レトルトホワイトソース製造時に、乳化破壊や、メイラード反応による褐変を防止する方法として、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセライドからなる群から選ばれる少なくとも1種の飽和系乳化剤と、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の不飽和系乳化剤とを含有する水中油型乳化油脂組成物を使用する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-170415号公報
【特許文献2】特開2002-300868号公報
【特許文献3】特開2003-24017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行文献に記載のいずれの方法は、乳化油脂組成物自体の風味、物性劣化を抑制するものであり、たん白質含有レトルト食品に含まれる乳・小麦・卵・大豆に由来するたん白質の凝集を抑制し、レトルト臭及び褐色変化を抑制することはできなかった。
本発明の目的は、(加圧)加熱殺菌(レトルト殺菌)後も風味に優れ、食感のざらつきが抑制され、かつ褐色変化が抑制された、たん白質含有レトルト食品を提供することであり、また、このようなたん白質含有レトルト食品を得るためのたん白質含有レトルト食品用水中油型乳化油脂組成物を提供することである。
すなわち、本発明のたん白質含有レトルト食品用水中油型乳化油脂組成物をたん白質含有レトルト食品に配合することで、(加圧)加熱殺菌(レトルト殺菌)後のたん白質含有レトルト食品の風味を損なわず、食感のざらつきの抑制及び褐色変化を抑制することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、所定の原料を配合した水中油型乳化油脂組成物をたん白質含有レトルト食品に配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は以下の[1]~[3]である。
[1]以下の成分(A)~(C)を含む、たん白質含有レトルト食品用水中油型乳化油脂組成物。
(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステル
(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステル
(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステル
[2]さらに、食用油脂を20.0~70.0質量%を含み、及び、
前記(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが0.1~3.0質量%であり、前記(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが0.05~1.0質量%であり、かつ(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが0.05~1.0質量%である、[1]に記載の水中油型乳化油脂組成物。
[3][1]または[2]に記載の水中油型乳化油脂組成物を含む、たん白質含有レトルト食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、(加圧)加熱殺菌(レトルト殺菌)後も風味を損なわず、食感のざらつきの抑制及び褐色変化が抑制された、たん白質含有レトルト食品を提供することができる。
また、このようなたん白質含有レトルト食品を得るためのたん白質含有レトルト食品用水中油型乳化油脂組成物を提供することができる。
【0008】
本発明では、乳化剤として(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステル、(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステル、(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルを含む水中油型乳化油脂組成物を、乳・小麦・卵・大豆のいずれか1以上の由来のたん白質を含むレトルト食品に配合することで、(加圧)加熱殺菌(レトルト殺菌)後の風味を損なわず、食感のざらつきの抑制及び褐色変化を抑制することができる。
一般に、乳・小麦・卵・大豆のいずれか1以上の由来のたん白質を含むホワイトソースやカルボナーラソース等の食品は、(加圧)加熱殺菌(レトルト殺菌)等の加熱処理により、乳・小麦・卵・大豆由来のたん白質が変性し、凝集物を生じる。たん白質は、加熱によって立体構造を失うと、内部の疎水性領域が露出し、分子間で会合しやすくなる。これにより、食品中に分散していたたん白質分子が多数集合し、凝集物を生じてしまう。このようなたん白質の凝集物は、しばしば食品の粘度を部分的にあるいは全体的に上昇させ、ざらつきやねとつきなど不快な食感を摂取者に与える。また、粘性が上昇すると、加熱処理中の食品の対流が起こりにくくなり、局所的に加過熱される部分が生じる。これに伴って、不快な調理臭(いわゆるレトルト臭)が発生するだけでなく、褐色変化が著しく起こり、商品価値が低下してしまう。
一方、微細に乳化された油脂が食品中に存在すると、加熱処理された際に、たん白質の分子間に油滴が入り込むことで、たん白質の分子同士の会合が抑制され、凝集を低減することができる。
【0009】
本発明によれば、水中油型乳化油脂組成物を製造する際に(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステル、(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステル、(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが配合されていることで、これらの乳化剤が水中油型乳化油脂組成物の乳化界面に配向して強固な膜を形成する。これにより、(加圧)加熱殺菌(レトルト殺菌)中も油脂が微細に乳化された状態を保つことが可能となり、たん白質の分子間に効率よく作用すると考えられる。
更に、水中油型乳化油脂組成物に(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが配合されていることで、微細な乳化状態を保つだけでなく、油滴の表面に配向された(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルがたん白質に作用することによりたん白質の凝集抑制効果がより一層高まり、ざらつき、レトルト臭、褐色変化を抑制することが可能と考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、濃度の範囲など)を段階的に記載した場合、各下限値及び上限値は、それぞれ独立して組合せることができる。例えば、「好ましくは10以上、より好ましくは20以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは90以下」という記載において、「好ましい下限値:10」と「より好ましい上限値:90」とを組合せて、「10以上90以下」とする事ができる。さらに、「好ましくは10~100、より好ましくは20~90」という記載においても、同様に「10~90」とすることができる。
【0011】
<水中油型乳化油脂組成物の成分>
[(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステル]
本発明で使用するデカグリセリン飽和脂肪酸モノエステルは、特に制限されないが、好ましくは、炭素数12~24の飽和脂肪酸、さらに好ましくは、炭素数12~18の飽和脂肪酸とデカグリセリンのモノエステルを使用することができる。
本発明に使用するデカグリセリン飽和脂肪酸モノエステルは、HLB値11~16のデカグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが好ましい。
デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステルの市販品としては、リョートーポリグリエステルM-10D(三菱ケミカルフーズ(株)製:デカグリセリンミリスチン酸モノエステル)、サンソフトQ-18S(太陽化学(株)製:デカグリセリンステアリン酸モノエステル)、SYグリスターMSW-7S(阪本薬品工業(株)製:デカグリセリンステアリン酸モノエステル)、などが挙げられる。
【0012】
デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステルの含有量は、加熱処理時に乳化粒子を微細に保ちやすいという観点から、水中油型乳化油脂組成物中において、好ましくは0.1~3.0質量%であり、より好ましくは0.5~2.0質量%であり、より更に好ましくは0.7~1.5質量%である。
【0013】
[(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステル]
本発明で使用するモノグリセリン飽和脂肪酸モノエステルは、特に制限されないが、好ましくは、炭素数12~24の飽和脂肪酸、より好ましくは、炭素数12~18の飽和脂肪酸とモノグリセリンのモノエステルを使用することができる。
本発明に使用するモノグリセリン飽和脂肪酸モノエステルは、HLB値3~5のモノグリセリン飽和脂肪酸モノエステルであることが好ましい。
モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステルの市販品としては、エマルジーMS(理研ビタミン(株)製:モノグリセリンステアリン酸モノエステル)、エマルジーP-100(理研ビタミン(株)製:モノグリセリンステアリン酸モノエステル)、エキセルT-95(花王(株)製:モノグリセリンステアリン酸モノエステル)などが挙げられる。
【0014】
モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステルの含有量は、加熱処理時に乳化粒子を微細に保ちやすいという観点から、水中油型乳化油脂組成物中において、好ましくは0.05~1.0質量%であり、より好ましくは0.07~0.5質量%であり、より更に好ましくは0.1~0.3質量%である。
【0015】
[(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステル]
本発明で使用するジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルは、特に制限されないが、好ましくは、炭素数12~24の飽和脂肪酸、より好ましくは、炭素数12~18の飽和脂肪酸とジグリセリンのモノエステルを使用することができる。
本発明に使用するジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルは、HLB値6~8のジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルであることが好ましい。
ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルの市販品としては、ポエムDS-100A(理研ビタミン(株)製:ジグリセリンステアリン酸モノエステル)、ポエムDM-100(理研ビタミン(株)製:ジグリセリンミリスチン酸モノエステル)、ポエムDP-95RF(理研ビタミン(株)製:ジグリセリンパルミチン酸モノエステル)などが挙げられる。
【0016】
ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルの含有量は、加熱処理時に乳化粒子を微細に保ちやすく、また、たん白質含有レトルト食品に含まれるたん白質と相互作用しやすいという観点から、水中油型乳化油脂組成物中において、好ましくは0.05~1.0質量%であり、より好ましくは0.07~0.5質量%であり、より更に好ましくは0.1~0.3質量%である。
【0017】
[食用油脂]
本発明の水中油型乳化油脂組成物には食用油脂が含まれる。本発明で使用する食用油脂は、例えば、パーム油、ナタネ油(菜種油)、大豆油、綿実油、コーン油、ヤシ油、パーム核油、等の天然の植物油脂;牛脂、豚脂、魚油、乳脂、等の天然の動物油脂;またはこれら単独あるいは組み合わせの硬化油、極度硬化油、分別油、エステル交換油が挙げられる。水中油型乳化油脂組成物の乳化安定性の観点から、好ましくは、融点45℃以下、より好ましくは、融点40℃以下の食用油脂が望ましい。
これらの食用油脂は目的に応じて適宜選択され、1種類または2種類以上を任意に組み合わせても良い。
【0018】
本発明の水中油型乳化油脂組成物中の「食用油脂」の含有量は、好ましくは20.0~70.0質量%である。たん白質含有レトルト食品に含まれるたん白質に作用しやすいという観点から、より好ましくは25.0質量%以上であり、より更に好ましくは30.0質量%以上である。加熱処理時に乳化粒子を微細に保ちやすいという観点から、より好ましくは65.0質量%以下であり、より更に好ましくは60.0質量%以下である。
【0019】
[その他成分]
本発明の水中油型乳化油脂組成物には、上記成分のほかに調味料、保存料、日持ち向上剤、pH調整剤、色素、酸化防止剤など、本発明の効果を損なわない範囲において含むことができる。
【0020】
[水中油型乳化油脂組成物の組成]
本発明の水中油型乳化油脂組成物の組成は、以下を例示することができる。
食用油脂:たん白質含有レトルト食品に含まれるたん白質に作用しやすいという観点から、好ましくは20.0~70.0質量%、より好ましくは25.0~65.0質量%であり、より更に好ましくは30~60質量%である。
(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステル:加熱処理時に乳化粒子を微細に保ちやすいという観点から、好ましくは0.1~3.0質量%であり、より好ましくは0.5~2.0質量%であり、より更に好ましくは0.7~1.5質量%である。
(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステル:加熱処理時に乳化粒子を微細に保ちやすいという観点から、好ましくは0.05~1.0質量%であり、より好ましくは0.07~0.5質量%であり、より更に好ましくは0.1~0.3質量%である。
(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステル:加熱処理時に乳化粒子を微細に保ちやすく、また、たん白質含有レトルト食品に含まれるたん白質と相互作用しやすいという観点から、好ましくは0.05~1.0質量%であり、より好ましくは0.07~0.5質量%であり、より更に好ましくは0.1~0.3質量%である。
(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステル、(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステル、(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが水中油型乳化油脂組成物に配合されていることで、これらの乳化剤が水中油型乳化油脂組成物の乳化界面に配向して強固な膜を形成し、(加圧)加熱殺菌(レトルト殺菌)中も油脂が微細に乳化された状態を保つことが可能となりたん白質の分子間に効率よく作用することができる。
更に、(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルが水中油型乳化油脂組成物に配合されていることで、微細な乳化状態を保つだけでなく、油滴の表面に配向された該ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルがたん白質に作用することによりたん白質の凝集抑制効果が得られる。
【0021】
[水中油型乳化油脂組成物の製造]
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、一般的な水中油型乳化油脂組成物を製造する方法を採用することができる。
詳しくは、水相部の調製、油相部の調製、乳化、殺菌または滅菌、均質化、冷却といった製造工程である。殺菌方法は、バッチ殺菌またはUHT等による殺菌等が挙げられる。均質化する機械装置は、ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、カッターミキサー等が挙げられる。均質化後、冷却することにより本発明の水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。
例えば、水相部の調製として、(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステルを水に加え、原料が均一になるようにプロペラ攪拌機で混合しながら70℃まで昇温する。
次に、(B) モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステル、(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルを70℃に調温した食用油脂に加えて混合溶解し(油相部の調製)、前記水相部に加えて乳化する。乳化工程である70℃で攪拌を続けた後、均質化工程である70℃でホモジナイザーによって均質化圧200MPaで処理する。得られた乳化物を、UHT殺菌器を用いて148℃、2.4秒でインジェクション式直接滅菌した後、ホモジナイザーによって均質化圧100MPaで再び処理する。最後に、乳化物を10℃まで冷却することで、本発明の水中油型乳化油脂組成物が得られる。
【0022】
[たん白質含有レトルト食品]
本発明の水中油型乳化油脂組成物を含む(配合した)たん白質含有レトルト食品は、原材料に乳、小麦、卵、チーズ、大豆由来のたん白質を一種以上含む。また、水中油型乳化油脂組成物を含むたん白質含有レトルト食品は、該食品中から具材などの固形物を除いたソース部中の総たん白質含量として3.0質量%以上たん白質を含有することが好ましい。
なお、たん白質含量は、自体公知のケルダール法にて窒素量を測定し、窒素-蛋白質換算係数を6.38として算出することができる。
食品は、特に限定されないが、例えば、ソース(ホワイトソース、ベシャメルソース、カルボナーラソース、チーズクリームソース、クリームパスタソース)、カレー、クリームシチュー、クラムチャウダー等のソース部を有するレトルト処理等を施した加熱殺菌済み食品が挙げられる。
たん白質含有レトルト食品に配合する水中油型乳化油脂組成物は、たん白質含有レトルト食品に含まれるたん白質に作用しやすいという観点から、好ましくは、2.0~20.0質量%であり、より好ましくは3.0~15.0質量%であり、より更に好ましくは4.0~13.0質量%である。
また、水中油型乳化油脂組成物との混ざり易さの観点から、たん白質含有レトルト食品のソース部の物性は、液体状から流動状であることが望ましい。
【0023】
[たん白質含有レトルト食品の製造方法]
本発明のたん白質含有レトルト食品は、牛乳、小麦、卵、大豆等に水、本発明の水中油型乳化油脂組成物、そのほかの具材(野菜、肉等)を加えてミキサー等で混合して加熱する。加熱前にたん白質含有レトルト食品と水中油型乳化油脂組成物を混合することにより、たん白質含有レトルト食品中のソース部に含まれるたん白質の分子間に水中油型乳化油脂組成物由来の微細に乳化された油脂が入り込むことで、たん白質の分子同士の会合が抑制され、より凝集抑制効果が得られる。
得られた食品を袋、ビン、缶等の包材に充填し、密封した後、レトルト殺菌機を用いて例えば115~125℃で15~30分間レトルト殺菌を行い、本発明のたん白質含有レトルト食品を得ることができる。
【0024】
本発明のたん白質含有レトルト食品は、レトルト殺菌後、そのまま喫食するか、あるいは、包材に入れたまま湯煎して加熱する、または開封した後容器に充填し、電子レンジ等で加熱した後、喫食することができる。
【実施例0025】
以下、実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれらに限定
されるものではない。
【0026】
[水中油型乳化油脂組成物の製造]
(実施例1)
表2の配合組成(質量%)に従い、以下の方法により水中油型乳化油脂組成物を製造した。
水486gに乳化剤(A)デカグリセリンミリスチン酸モノエステル10gを加え、原料が均一になるようにプロペラ攪拌機で混合しながら70℃まで昇温した(水相部の調製)。次に、70℃に調温した菜種油(菜種油 日油(株)製)500gに乳化剤(B)モノグリセリンステアリン酸モノエステル2g、乳化剤(C)ジグリセリンステアリン酸モノエステル2gを加え、原料が均一になるようにプロペラ攪拌機で混合した後(油相部の調製)、該水相部に加えて攪拌を続け、70℃でホモジナイザーによって均質化圧200MPaで処理した。得られた乳化物を、UHT殺菌器を用いて148℃、2.4秒でインジェクション式直接滅菌した後、ホモジナイザーによって均質化圧100MPaで再び処理した。続いて、乳化物を10℃まで冷却することで、実施例1の水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0027】
[たん白質含有レトルト食品(カルボナーラソース)の製造]
表1に記載の配合に従い、水、牛乳、生クリーム、卵白、および水中油型乳化油脂組成物を混合した。パルメザンチーズパウダー、食塩、加工でん粉、黒コショウ、キサンタンガムを加えてさらに混合し、85℃まで穏やかに攪拌しながら15分間加熱したのち、レトルトパウチに充填した。レトルト殺菌機を用いて122℃、30分間レトルト殺菌を行い、たん白質含有レトルト食品を得た。
なお、たん白質含量(総たん白質含量)は、レトルト食品中の具材を除いたソース部(本製造例は具材がないのでカルボナーラソースがソース部に相当)についてケルダール法を用いて窒素量を測定し、窒素-蛋白質換算係数を6.38として算出した。
【0028】
乳化剤(A)デカグリセリンミリスチン酸モノエステルは「リョートーポリグリエステルM-10D」(三菱ケミカルフーズ(株)製)、菜種油は「菜種油」(日油(株)製)、乳化剤(B)モノグリセリンステアリン酸モノエステルは「エマルジーMS」(理研ビタミン(株)製)、乳化剤(C)ジグリセリンステアリン酸モノエステルは「ポエムDS-100A」(理研ビタミン(株)製)を使用した。
【0029】
(実施例2~10、比較例1~6)
実施例2~10および比較例1~6は、表2および表3に示した配合に従い、実施例1に準じて水中油型乳化油脂組成物及びたん白質含有レトルト食品を製造した。
【0030】
表中に略記した原料の詳細は以下の通りである。
「デカグリセリンミリスチン酸モノエステル」:「リョートーポリグリエステルM-10D」(三菱ケミカルフーズ(株)製)
「デカグリセリンステアリン酸モノエステル」:「サンソフトQ-18S」(太陽化学(株)製)
「デカグリセリンオレイン酸モノエステル」:「SYグリスターMO-7S」(阪本薬品工業(株)製)
「モノグリセリンステアリン酸モノエステル」:「エマルジーMS」(理研ビタミン(株)製)
「モグリセリンオレイン酸モノエステル」:「エマルジーOL-100H」(理研ビタミン(株)製)
「ジグリセリンステアリン酸モノエステル」:「ポエムDS-100A」(理研ビタミン(株)製)
「ジグリセリンオレイン酸モノエステル」:「ポエムDO-100V」(理研ビタミン(株)製)
「菜種油」:「菜種油」(日油(株)製) 融点10℃以下、基準油脂分析試験法2.2.4.2融点(上昇融点)
「パームオレイン油」:「パームオレイン油」(日油(株)製) 融点21℃、基準油脂分析試験法2.2.4.2融点(上昇融点)
【0031】
[たん白質含有レトルト食品(カルボナーラソース)の評価]
常温のたん白質含有レトルト食品をレトルト袋から開封して耐熱容器に150gを充填した後、500Wの電子レンジで1分30秒間加熱して、評価に用いた。
評価項目は、「風味(レトルト臭低減)の評価(官能評価)」、「食感(ざらつきの抑制)の評価(官能評価)」及び「褐変の評価(目視評価)」とし、評価結果は、表2~表3に示した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
<風味の評価(官能評価)>
得られたたん白質含有レトルト食品は、レトルト袋を開封して耐熱容器に150gを充填した後、500Wの電子レンジで1分30秒間加熱したカルボナーラソースを試食し、風味について、8名のパネラーで、以下の評価基準で官能評価した。
官能評価においては、レトルト殺菌前と比較して、不快な調理感(レトルト臭)が少ないものを3点、不快な調理感(レトルト臭)が感じられるものを2点、不快な調理感(レトルト臭)が強いものを1点として評価した。
パネラー8名の平均値が、2.5点以上を◎、2.0点以上2.5点未満を○、1.5点以上2.0点未満を△、1.5点未満を×と評価した。
【0036】
<食感の評価(官能評価)>
得られたたん白質含有レトルト食品は、レトルト袋を開封して耐熱容器に150gを充填した後、500Wの電子レンジで1分30秒間加熱したカルボナーラソースを試食し、食感について、8名のパネラーで、以下の評価基準で官能評価した。
官能評価においては、レトルト殺菌前と比較して、ざらつきが少ないものを3点、ざらつきが感じられるものを2点、ざらつきが強いものを1点として評価した。
パネラー8名の平均値が、2.5点以上を◎、2.0点以上2.5点未満を○、1.5点以上2.0点未満を△、1.5点未満を×と評価した。
【0037】
<褐変の評価(目視評価)>
得られたたん白質含有レトルト食品は、レトルト袋を開封して耐熱容器に150gを充填した後、500Wの電子レンジで1分30秒間加熱したカルボナーラソースの色調について、8名のパネラーで、以下の評価基準で目視評価した。
目視評価においては、レトルト殺菌前と比較して、レトルト殺菌前の色調を3点とし、それよりもやや褐変していれば2点、褐変が著しい場合を1点とした。
パネラー8名の平均値が、2.5点以上3.0点を◎、2.0点以上2.5点未満を○、1.5点以上2.0点未満を△、1.5点未満を×と評価した。
【0038】
表2に示すように、本発明の水中油型乳化油脂組成物をカルボナーラソースに含有すると、レトルト殺菌後でも風味を損ねず、ざらつきが抑えられ、かつ褐色変化の少ないカルボナーラソースを得ることができた。
加えて、実施例10の結果と他実施例の結果の比較により、水中油型乳化油脂組成物を含むたん白質含有レトルト食品は、該食品のソース部中の総たん白質含量として3.0質量%以上たん白質を含有することが好ましい。
【0039】
比較例1に関し、乳化剤(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステルを含有しない場合、油水分離が生じ、水中油型乳化油脂組成物を得ることができなかった。
比較例4に関し、乳化剤(A)デカグリセリン飽和脂肪酸モノエステルではない乳化剤を用いた場合、レトルト殺菌された際の乳化安定性が低く、十分な効果を得ることができなかった。
比較例2及び比較例5に関し、乳化剤(B)モノグリセリン飽和脂肪酸モノエステルを含有しない場合又は該エステルではない乳化剤を用いた場合、レトルト殺菌された際の乳化安定性が低く、十分な効果を得ることができなかった。
比較例3及び比較例6に関し、乳化剤(C)ジグリセリン飽和脂肪酸モノエステルを含有しない場合又は該エステルではない乳化剤を用いた場合、レトルト殺菌された際の乳化安定性が低く、なおかつ、カルボナーラソース中のたん白質との相互作用が弱いため、各効果を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、(加圧)加熱殺菌(レトルト殺菌)後も風味を損なわず、食感のざらつきの抑制及び褐色変化が抑制された、たん白質含有レトルト食品を提供することができる。